ザ・グレート・展開予測ショー

横島借金返済日記 8


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 5/ 9)

食事というのは基本として快楽であるべきだろう。
なんと言っても食欲は人間の三大欲求の一つだ。食生活が豊かだとゆとりも生まれやすい。貧しいと人間の心が荒みやすいものだ。
しかし、それは高価で栄養のある物を食べればよいという訳ではない。食事と言う行為を楽しめるかどうかが重要だ。だから食卓風景が賑やかであることそれ自体に異を唱えるつもりは無い。一人寂しく黙々とご飯を食べるよりはずっと良い。

だが……

「何が悲しくて男に奢らにゃいかんのじゃ!」

ドンッ! とテーブルを叩いて主張してもどうにもならい。
そこには男しか居なかった。食欲以上に性欲を持て余す横島にとっては考えられないことだ。

「そう固い事いうなって。今のところ一番金持ってるのはお前なんだからよ」

ツリ目の、ちょっとばかり平均身長を下回る黒尽くめの男が肉に箸を伸ばしながら答える。
確かに今日はちょっとサイフに大目の金を持っていた。
しかし、奇跡的にGS資格試験を突破してタイガーの所得も上がった。ピートもオカルトGメンに所属して定期的にごく普通の公務員より遥かに高い給料を受け取るようになった。雪乃丞もフリーのGSとして第一線で活躍している。4人の間に所得や資産の差はほとんど無いと言ってよい。

だが「魔理シャンに指輪を贈ったので今月はちょっと……」と顔を赤らめて報告されたり、「ブラドー島に仕送りしたばかりで……」と申し訳なさそうな表情で言われたり、「山篭りが終わった直後なんでな、ここ最近仕事してねぇ」などとと悪びれる様子も無くあっさり告げられてしまった。
自分が呼び出した手前追い返す訳にも行かず、男に奢るという横島の人生史上稀に見る光景が誕生したわけだ。


他人の奢りと言う事ですこし遠慮が見られるピートとは違い、次々に皿の中身を空けていくタイガーと雪乃丞。

「オマエの分は絶対に出してやらねーからな……」

「そ、そんな 横島サン? ワッシらは友達ですジャー!」

「ウルセー!! 彼女のいる奴なんか友達じゃないわいっ!!」



賑やかな食卓が一通りの落ち着きを取り戻したのは、それから二時間後だった。



「それで、横島さん。僕らに頼みごとって何ですか?」

食後のコーヒーをすすっていたピートが、場が落ち着いたことを確認してから切り出す。

「オマエ一人じゃ手に終えない仕事か……どんなヤバイヤマなんだ?」

強敵と戦えることに喜びを感じるバトルジャンキーは何処か嬉しそうだった。

「なぁお前達、娑婆鬼っておぼえてっか?」

コーヒーにおとした砂糖をかき混ぜながら三人に視線を配る。

「ああ、覚えてるぜ。オレのプテラノドンXと勝負した子鬼だろ」

「僕も覚えてますよ……」

「ワッシも覚えておりますケン」

三人の反応に安堵の表情を浮かべた横島は、コーヒーで喉を潤して三人を呼び寄せた理由を話し出す。

「俺たちにリベンジマッチをしたいって言ってきてな。鬼族ってのは勝負事になると目の色がかわるのは知ってるだろ?」

「え? でもそれなら美神さんとの勝負が引き分けって事で決着がついたんじゃないですか?」

正確にはおキヌと引き分けたのだが。この際、細かい事はどうでもいい。

「まぁ一応はな。でも引き分けじゃ納得出来ないって言うんで毎年事務所に鬼のねーちゃんが来てたんだ。
 これまで適当にあしらってたんだけど、あまりにしつこいからって、美神さんがな……」

横島がそこで言葉を切ると、目じりに光る筋が走る。
そんな横島を見て男たちは全てを理解した。

(((きっと『リベンジするなら横島君たちでしょう? 良く考えてみたらアタシは関係ないわ』みたいな事言われたんだろうなぁ)))

まさにその通りだった。

「つー訳で、週末に鬼のねーちゃんが来るから、予定空けといてくれよ」







そして週末。

「おめぇと勝負したのはこいつらで間違いねぇんだな?」

「う、うん……なんか知らねぇ奴が一人いっけど……」

娑婆鬼、夜叉鬼の鬼姉弟の前には5人の男がいた。

「オレも何でテメェがここに居るのか不思議でしょうがないんだが……」

横島が睨みつけた視線の先には、ロン毛の道楽公務員ことオカルトGメン所属の西条輝彦の姿があった。

「何故? といわれても、それが『義務』だから……としか答えようが無いねぇ」

「僕はまだ新人なので一人で仕事が出来ないんですよ」

イイ笑顔の西条とはうって変わって、申し訳なさそうなピート。

「ノーブラだかノースリーブだか知らないが、足引っ張るのだけはヤメロよ……」

「ノーブレスオブリージだよ。意図的に下品な間違い方をしないでほしいね。
 それに、この僕が足を引っ張るなんて事は万に一つも無いから安心したまえ」

いちいちキザな言い回しに横島の額に血管が浮かび上がる。タイガーと雪乃丞は大して気にしていないようだ。
ピートはというと、上司の性格をある程度割り切る事にしているようだ。実年齢でいえば自分のほうが大先輩ともいえるのに、あくまで腰が低かった。

「ま、今更一人増えた所で関係ねーべ。オラの実力なら人間の5人や6人敵じゃねぇ! さぁ何で勝負する?」

「何って……もう決まってるようなもんじゃねーか……」

辺りを見回せば威勢のいい声が飛び交い、浴衣姿の群集が大きな流れを作っていた。しっかり夜叉鬼も浴衣姿だったりする。
勝負は祭りの出店で決めるようだ。
鬼とのド突き合いを期待していた約一名はあからさまに不満を態度に出していたが、周囲の説得と仕事と割り切ることで納得していた。
別の一名は「汗で肌に張り付く薄い生地と、ちょっとした動きで翻る裾が浴衣の醍醐味……」と、説得に参加せずに浴衣姿のお姉ちゃん探しに夢中だった。



「ほう、最初の勝負は射撃か……ここは僕に任せたまえ。ライフルは得意中の得意だからね」

夜叉鬼が足を止めたのは射的の屋台。
ねじり鉢巻にハッピ姿のおっちゃんが、何も言わずに二挺の銃と5発ずつ弾を用意する。

「最初の相手はおめぇか……勝負は5発、全弾撃ち終わって取れた景品で決着をつける!」

見れば、ゲームセンターに置いてあるプライズ景品から一昔前に流行ったぬいぐるみ、果ては最近話題のゲーム機まで一通り揃っている。
二人がコルク弾を詰め、銃を構える。
キッチリと、見る人が見れば惚れ惚れするライフルの構え方をする西条と、片手で銃を持って身を乗り出して狙いを定める夜叉鬼。

ポン!
  ポン!

間の抜けた音が二発鳴り響く。

「なっ? コレはどういうことなんだ!?」

「へへへへ……」

撃ち落したぬいぐるみを受け取りながら夜叉鬼が不適に笑う。
対する西条は、呆然とした表情で手にした銃とコルク弾の届かなかった的を見る。

二発目も同じ結果に終わる。

「何故この距離でライフルが外れるんだ!?」

少しばかりヒステリックに叫び声をあげる。

「射的の銃はホンモノの銃じゃねぇ……そんな事もわかんねぇのか?」

二つ目のぬいぐるみを受け取る夜叉鬼の言葉に西条は己の過ちに気が付いた。

「そ、そうか! 先端にコルク弾を詰めるから、ロングバレルによる弾道の安定はない。
 それにバネの力による発射なら、発射時の反動は無視できる。きちんと構えて固定する必要は無い。
 そして、本物と同じように構えてしまえば的との距離が大きくなるだけ。
 照準だって適当なこの銃では、正しい撃ち方ほど命中率は悪くなる。そういうことか……」

構えを変えて狙いをつけるが、三発目も当らなかった。

「これでオラは景品三つ、おめぇはゼロだ。オラの勝ちは決定だべ!」

「クソッ!」

思わず乱暴な言葉もでてしまう。

「本物も撃った事ない癖に生意気な!」

「ハッハッハ 文句があるならいつでも鬼が島さ来るがええだ! もっとも尻子玉抜かれたおめぇが来れるとは思わなんがな」

豪快に笑う夜叉鬼。その手は敗者の尻子玉を手にしようとしている。
西条の尾てい骨あたりが鈍く光り始め、いよいよ尻子玉を抜かれるという段階になって、西条は突然ひらめいた。

「ま、まてっ! 『全弾撃ち終わって取れた景品で決着をつける』そういう取り決めなら僕にはまだ二回チャンスが残っているはずだ!
 最後まできちんと勝負しようじゃないか!」

見苦しい悪あがきとも取れなくも無いが、この言い分が通った。

「ん……それもそーだな」

夜叉鬼が手を引っ込めると西条の尻も輝きを無くす。

「でも大丈夫なんですか? 数では絶対に上回る事が出来ませんよ?」

「なぁに、数の差は質で補えばいいんだよ。景品の数がそのまま勝敗になるとは言っていないからね。
 もう感覚は掴んだ、絶対に外さないから安心して見ているがいい」

ピートの心配を余所に、西条は無闇に強気だった。
狙いをつけたのは今話題の携帯用ゲーム機の一つ。値段で換算すれば、ぬいぐるみなんか10個獲っていたとしても叶わないだろう。

だが、話題のゲーム機の壁は高かった。

「なぜだ? 当ったのに揺れもしないなんて!?」

「素人はこれだから……あんなもん客引き用の見せ景品だ。台に固定されてて落ちないに決まってるべ!」

「な、なんだってー? どういうことだソレは!?」

さっきから驚きっぱなしの西条。きっと良いミステリー調査室の一員になれるだろう。

「ま、高額商品全部が固定されてる訳じゃねぇ、でもその見分けが『素人』のおめぇにつくべかなぁ?」

西条を挑発しながらも着実に景品を撃ち落し、5個のぬいぐるみを手にしている。ニヤニヤと楽しそうに崖っぷちに立たされた西条を見て笑う夜叉鬼。こうなる事を予想して西条にチャンスを与えたのだとしたらかなりの悪(ワル)だといえよう。

「ほーれほれ……弾はあと一発だぞ〜♪ 落とせる高額商品はみつかったかなぁ?」

「黙っていてくれ横島クン! 百歩譲って味方の君に、なぜプレッシャーをかけられなければいけないんだ!」

「いやだって……暇だったし」

見れば、ハラハラと見守っているのはピートだけ。残りの三人は出店のチープな食べ物に舌鼓をうっていた。

「ひ、人がまじめにやっていると言うのに君たちは……」

窮鼠猫を咬むということわざにも代表されるように、人間は追い詰められた時にとんでもない力を発揮する事は良くある事だ。

「くそっ! 本物の銃なら絶対に負けないんだ!!」

西条がスーツの懐に手を突っ込む。
取り出したものは……あろう事か本物の銃だった。

「Hasta la vista Baby(アスタ ラ ヴィスタ ベイベェ)」

そしてトリガーを引いてしまった。

「こんなモノ! 僕の手に掛かればこんなモノォォォ!!」

既に目が逝っている西条。窮鼠猫を咬むというより、プライドをへし折られてヤケになったいうべきだろう。
後になって冷静に振り返るときっとこう言うに違いない。
「ムシャクシャして撃った、撃ち落せれば何でも良かった、今は反省している」と……

祭りの最中に拳銃を乱射なんぞした日には、辺りは一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

「皆さん、避難する時は『慌てず騒がず落ち着いて』ください!」

周囲の人々の安全を確保して、誘導しているのはピート一人だけ。

「ったく……これだからエリートって奴は……」

「まったくですジャー」

「もろすぎるぜ、西条の旦那……」

逃げ惑う人々の悲鳴を聞きながらも三人とも食べるのを止めない。横島は一応文珠で結界を張って、跳弾や流れ弾が一般人に当らないようにしているが、それにしても他人事のような態度だ。

「おめぇーらっ! オラたちを助けよーって気はねーんかー?」

涙目になって伏せていた夜叉鬼にはそんな彼らの態度が癪にさわる。

「そんなこと言ったって、流石の俺も銃で撃たれたら死んじまうしなぁ……」

(((嘘だ! 絶対に死なない!)))

視線の先にはいまだに「はははははは!! 落ちろカトンボォ!!」と訳のわからないことを叫びながら銃弾をばら撒いている道楽公務員の姿がある。一体幾つ弾丸を持っているのか、銃声は一向にやむ気配が無い。

「はぁ……しゃーねぇ、止めてやるよ」

新しく文珠を造りながら、頭を抱えて伏せている鬼の姉弟にそれだけ言うと錯乱ハイな西条に近づく。

「ひざまづけ! 命乞いをしろ! 君は──「バル……サイキック・猫騙し!!」──目が、目がぁあ〜」

『閃』の文珠を併用して格段に威力の上がったサイキック猫騙しを西条に叩き込む。

拳銃を取り落とした西条を文珠で『縛』る。ついでに日ごろの恨みを込めて『禿』も使おうかと思ったが、これから尻子玉を取られるのかと思うと流石に哀れすぎるので止めにした。

「……と、とりあえず、最初の勝負はオラたちの勝ちってことで……」

「そうだな……さっさと次の種目でも決めよう」

娑婆鬼に尻子玉を抜かれて白目をむいた西条を、事後処理のためにピートが呼び寄せたGメンが手際よく梱包していくのには全くのノータッチだった。



次に一行が足を止めたのは低く駆動するモーター音と小さな水泡が断続的にはじける音が印象的な店だった。

「金魚すくい、か……」

「三分間で何匹すくえるかで勝負、ポイ(すくい網)は一枚限り。ま、ルールはこんな所だべ」

「どうしましょう横島さん、僕は金魚すくいなんて始めてで……」

西条の敵討ちとばかりに、次の種目は自分がやると言って聞かなかったピートが急に情けない声を出す。

「コツ教えてやるから、心配するなって」

ここで負けたらもう後が無いと言うのに、横島はいたって気楽な様子だ。

「ありがとうございます、横島さん!」

横島の励ましに、何故か頬を赤らめるピート。雪乃丞はかつての同僚を思い出し、ピートに背後を取らせないように心がける事を決めた。

「いいか、まずポイは一度水に浸して全部濡らせ。きちんと濡れてないと濡らしてない部分から破れる。
 すくう時は縁の部分から斜めに入れる、水の中では水面と平行に横に動かす。引き上げる時も斜めにな。
 そして、金魚は頭から迎え入れるようにすくう。尾でポイが破れるから尻尾を乗せないのがコツだな
 まぁ、言葉だけじゃ解りづらいかもしれないな……一回デモンストレーションやってもいいか?」

「楽勝じゃつまんねーからな、別にかまわねーぞ」

「よし……じゃ良く見てろよピート。この極意を理解した時──!!──金魚は鉢のなかにる」

それはまさに一瞬だった。横島がポイを水の中に入れたと思った瞬間、鉢の中に金魚が二匹いた。

「す、すごい……これが横島さんの実力……」

「さっすがですジャー」

「それでこそ俺のライバルだぜ!」

「ね、姉ちゃん。あいつすげぇな」

「……ま、まぁまぁだな」

遊びの達人覚醒。幼少の頃のミニ四駆にはじまり、クレーンゲームのぬいぐるみを取り尽した遊びの才能には、いまだに衰えは見られなかった。その後もポイが破れるまで金魚をすくい続け、獲った金魚の数は60匹。

「まぁ、こんなもんかな? 久しぶりだから調子が出なかったけど……」

さらっととんでもない事を言ってのける横島。
鬼姉弟の背に冷や汗がながれる。だが、同時に幸運だとも思った。横島はあくまでデモンストレーションで、勝負をするのは金魚すくいをするのが初めてなピートなのだ。横島だったら勝てない勝負に挑む事になったが、ピートなら話は別だ。

「よし、それじゃぁ準備はいいか? よーい……はじめ!!!」

だが勝負が始まって夜叉鬼はとんでもない光景を目にすることになる。

「んなっ!?」

「フッ……僕にも『金魚すくいの極意』理解できましたよ!」

横島程ではないが、鮮やかな手つきで次々と金魚をすくっていくピート。

「へ、へへへ……勝負はこうでなくっちゃだべ!!」

あっけにとられたものの、すぐに『勝負魂』に火がつく。ピートに迫る勢いで豪快に金魚をすくいあげる夜叉鬼。
一進一退の名勝負。あっという間に三分の試合時間が過ぎる。


「……37匹対39匹でピートの勝ち……か」

「初心者と思って油断しただ……」

ピートが鮮やかに金魚をすくうさまを見てあっけにとられていた時間が勝敗を分けたようだ。

「しゃーねぇ、さっきとった尻子玉は返すだよ……」

悔しそうな表情で尻子玉を手放す。

「これで一勝一敗、イーブンだ。さぁ次の勝負にいくだ!」

たぶん西条が覚醒しているだろうが、やっぱりそんなことは誰も気にしない。



「次の勝負は『かたぬき』の一発勝負だっ!」

かたぬきとは……『かた』に彫られたイロイロな形を画鋲や針で綺麗に成形し、出来具合によって店のから相当の金額がもらえると言う一種のギャンブルだ。親から貰った小遣いを少しでも増やしたい時に挑戦するものだ。

「次はだれが相手になるんだ?」

「ワ、ワッシが行きますケン!」

名乗りを上げたのは、巨漢のいかにも細かい事が苦手そうな奴だった。

「さっきの事もあるかんな……今回はぜってぇ油断しねぇーぞ! そんじゃスタートだ!」

針を片手に小さな『かた』と格闘する夜叉鬼、対象的に『かた』を貰ってからも微動だにしないタイガー。

「おい、横島……なんでタイガーなんだ?」

雪乃丞の疑問ももっともだろう。実際にタイガーは細かい仕事は得意ではないし、横島ならば確実な勝負ができるはずだ。
だが『かたぬき』勝負にタイガーを推したのは横島だった。

「まー見てろって、心配するな」

横島の様子だとこの勝負を捨てたわけでは無さそうだ。少しばかり釈然としない様子の雪乃丞だが、勝負が『かたぬき』に決まった途端に横島がタイガーに耳打ちをしていたのを思い出した。

(何か秘策があるってのか?)

自信満々の横島に目をやった途端「フン!!」とやけに気合の入った声が響いた。

(そーいうことかよ!)

タイガーは虎になっていた。
彼の特殊能力「精神感応」なら、そこらの板切れでも綺麗に仕上がったように「見せる」ことが出来る。
よって、

「こ、こんな綺麗なのは、はじめて見ただ……」

夜叉鬼の敗北宣言を勝ち取る事に成功した。

「反則じゃねーのか?」

「霊能力使っちゃいけないって決まりも無いだろう?」






「つ、次の勝負はキックターゲットだ!」

筋○番付で有名になったアレのお手軽版だ。

「コレは俺の出番だな。文句は言わせねーぞ」

黒尽くめのコートと背広を脱ぎ捨てシャツの袖をまくり、やる気満々の雪乃丞。
10回蹴って8枚のパネルを何枚抜けるかという勝負になるようだ。

「よっしゃ! 俺から行くぜ!!」

少し小さめのボールを蹴り飛ばす。次々に的を打ち抜き、ボール1個残してパーフェクトとなった。

「ち、一発外したか」

悔しそうに手を打ち合わせると、脱ぎ散らかしたコートと背広を拾いに行く。

「チャンスだぞ、姉ちゃん! 一発も外さねぇでパーフェクトならオラたちの勝ちだ!」

「言われねぇでもわがっでる! もう負けらんねーからな!」

ボールをセットして助走をとって、豪快にボールを蹴る。狙いは過たずに的に命中していた。

「どうだ!? オラが本気になればこんなもんだべ!!」

得意になって宣言するも、GSの4人は何かヒソヒソとなにか違う事を話してるようだった。しかも全員の顔がなんだか赤い。

「タイガーおまえは見えたか?」
「ワ、ワッシの位置からだとふとももしか見えませんでしたノー」
「フッ……甘いな二人とも、俺はしっかりとみたぞ! この目に焼き付けた!」
「「流石横島(サン)!!」」
「な、なにやってるんですか! 失礼ですよ!」
「「「何言ってやがる、オメーだって見たくせに!!!」」」
「い、いや、それは……不可抗力って奴ですよ!!」

浴衣姿の夜叉鬼がボールを思いっきり蹴ったらどうなるか。

「なぁっ!? 見るな見るな見るな見るな見るな見るな! 見るなーーっ!!!」

今見えて無くても手で覆って隠してしまうのは、つつしみのある女性なら当然のこと。
しかし、「そんな姿もまた……」と思っている男には、余計に意識させるだけの行為だった。

視線が気になり一発目と同じようにボールを蹴れない夜叉鬼に勝ち目は無かった。

「フッ……虚しい勝利だぜ……」

「おめぇが言うな!」





「どーする? 三勝一敗でこっちの勝ちは確定したんだけど……」

「それでも! おめぇとの決着はつけねばなんねぇ!」

あくまで勝負に拘る夜叉鬼に、ため息をついてみせる横島。

「勝負さえできれば何だっていいだ! おめぇの言う事も聞く!」

土下座せんばかりの勢いで頭を下げる夜叉鬼に対し、横島はなにかイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべる。

「よし……じゃぁ勝負はしてやるよ。でも、俺の言う事には従えよ」

イタズラ小僧のような笑顔が、スケベ中年も真っ青な笑いに変化するのをみて何かを感じ取った夜叉鬼。

「……野球拳はやんねーかんな」

「ズリーぞ! なんでも言う事聞くっていったやないかーっ!」

「『なんでも』とは言ってねー! こん位拒否する権利があるのが当たり前ってもんだべー!」

「チクショー! 詐欺や! クーリングオフはないのかー!?」

「む? 訳解んねーこといって田舎者バカにしてるだな!?」


放っておいたらいつまでも口論が続きそうなので全員から「まぁまぁ」といさめられる。


「じゃぁ、おめぇがオラとの勝負に勝ったらなんでも言うこと聞いてやる。そんなら文句ねぇべ!」

「よし!! その言葉忘れんなよー!!」

目から炎を出さんばかりに燃えている横島。手も何か柔らかいものを揉むようになんだか怪しく閉じたり開いたり。

(((横島さん(横島のヤロー)の勝ちは確定だな……)))

勿論、煩悩全開状態ではなくても横島有利の状況は今までの勝負をかえりみれば、簡単に判断のつくことだ。が、スイッチの入った横島は無敵なのだ。

だから勝負のスマートボールも完璧にクリアしてしまう。

「こんなモン、美神さんの風呂を覗いてバレない様にするのよりも簡単じゃい!」

例えが人間の常識から外れているが、それでこそ横島なのかもしれない。

「負けたからには……覚悟は出きてるだ……」

夜叉鬼はこれから受けるだろう辱めを想像して無言で俯いている。

「いい覚悟だ。よーし……じゃぁ俺の命令は一つだ!」

「よ、横島さん……あ、あんまり無茶な事は言わない方が……」

横島の性格を知っている者ならば、彼の次の言葉が容易に想像できるに違いない。


だが、意外にも横島の口から出た言葉は誰もが想像していない言葉だった。

「俺は今後お前ら一族からの勝負は一切受け付けない。リベンジは無し、勝負はここでおしまいだ!」

横島が何を言っているのか理解できない者たちは止まった。




「「「「…………………………」」」」




そして時は動き出す。

「おまえ、なんか悪いものでも喰ったのか!?」
「に、にせものジャー! 暮井先生の描いた絵がまた現れたんジャー!!」
「よ、横島さん……ついに貴方にも主の御心が理解できたのですね……主よ……私は貴方に感謝します」

「そったら事でいいんだか? オラ、てっきり『浴衣脱げ』とか『乳揉ませろ』とか言うもんだとばっかり……」

あっけにとられる夜叉鬼に、下心を感じさせない爽やかな笑顔を向ける横島。

「いやホラ、嫌がる相手をムリヤリって言うのはやっぱりダメじゃん? 愛がないと駄目なんだよ、愛が」

なんとも横島に似合わない言葉ばかりが口から出てくる。
本気で横島の言動についていけない者は現実逃避にはしりだす始末だ。

「まぁ、楽しかったけどな俺とお前らの勝負はここで終わり。どうしてもリベンジするならそこの三人に申し込んでくれよ」

神に祈るバンパイア・ハーフや、恐怖に駆られて幼児退行気味なマザコンバトルジャンキーに、自分自身に幻覚を見せている巨漢のエセ広島弁男らを指差す。そして自分はさっさと帰り支度おわらせて、一人で帰ってしまう。

「変わった男だな、姉ちゃん……」

「……そうだべな」

「惚れただか?」

「んなわけねーべっ!!」

喧嘩をする鬼姉弟。夜叉鬼の顔に赤みが差しているのに気が付くものは誰も居なかった。

「主よ……貴方の御心は確実に人々に届いています」
「ま、ママ、助けて……俺怖いんだ。抱きしめてくれ」
「あぁ魔理シャン、こんな所でいけませんジャー。人がみてますケン……」













帰宅して部屋に転がり込んだ途端に電話がけたたましい音を立てる。
思うように動かない身体を引きずるようにして受話器をとると、相手は名乗りも上げずにまくし立て始めた。

「何ダラダラしてんのよ。だらしないわね〜」

「あ、美神さん。どもお久しぶりッス」

「で、首尾はどうだったの?」

「あ、大丈夫ですよ。きちんと勝ちましたから」

「ふーん、やるじゃない……(少しは頼れるようになったのかしら?)」

「ん? なんか言いましたか、美神さん?」

「べ、別に何も! それより幾ら稼いだの? そろそろ10億たまったんじゃないの?」

「財宝は受け取ってませんよ。なんか受け取ったらまた鬼のヤツラ来そうじゃないですか」

「なっ!? タダ働きしたって言うの? 折角稼げる仕事回してやったのに!? 
 なんでさっさと10億もって帰ってこないのよ!!」

「あれって厄介払いでしょう!? 俺だって後々の事考えて面倒が無いようにってしたんですから!」

「アンタはそんなこと考えなくてもいーの!! 10億稼ぐ事だけ考えなさい!」

夜も遅いというのに電話でギャーギャーと口論する。



「「……なんか二人が既に共働きの夫婦みたいに思えるのは気のせいかしら?」」

電話の内容に聞き耳を立てていたアパートの隣人と、事務所に下宿している人物が人知れずシンクロしていた。

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