ザ・グレート・展開予測ショー

とつきとうか おもてとうら


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/25)


 イギリスはロンドン。とあるホテルのバーのカウンターで、一人の男が飲んでいた。

 この上なく冷えたジン。銘柄は英国人の代名詞、ビーフィーター。それをヴェルモットで割らず生のままで。

 腰より下、膝のあたりまで届こうかという長髪の男は、じっくりと味わって、しかし休まず杯を重ねていく。


「―――今度、子供が生まれるんだ」


 ポツリと、男が口にした。

 それまで黙ってグラスを磨いていたバーテンダーが、短く祝福を口にする。

 男はそれに礼を言って、また黙り込んだ。

 何かを心に抱えているのだろうか。

 何か言いたげに、もどかしそうにしながら――それを口にする代わりに、杯をまた一つ重ねる。


「おかわりを――」


 その前にこちらを。とばかりに、バーテンは新しくジンをグラスに注ぎつつも、水を男の前に無言で突き出した。

 ビーフィーターは47度。あまり続けて飲むのには適さない。


「――子供が――生まれ、るんだ」


 水の代わりに、男はさっきのセリフをもう一度口にした。

 そして、その続きも。


「この国には単身赴任でね――もう2年にもなるよ…そして――」





「そして――僕が妻の所にこの間帰ったのは、『13ヶ月前』だ」







 ………………………………………………






 バーの空気が、瞬時に固まった。

 控えめに流れていたBGMは掻き消え。客も従業員も動きを止め。

 氷さえ、しばらくの間は酒に溶けようとはしなかった。





 それを動かしたのは、やはり長髪の男の声。


「――僕の、子だ」


 再び動き出した周りのざわめきを無視して、男は続ける。


「僕の、子だよ。その子は妻の産む、僕の子なんだ――それで、いいのさ。それで、いいんだよ――」


 そのバーに居合わせた人々は、その日、等しく涙を流したと言う――











 ※注意!※この先は、なんというか色々と台無しです※それを覚悟の上お進みください※










 日本の首都、東京。とある居酒屋のカウンターの隅で、一人の男がお猪口を手にして酒を飲んでいた。

 淡々と、東京の地酒『多摩自慢』を冷やで、刺身をツマミに飲み干していく。

 スーツ姿にバンダナという、どこかちぐはぐな印象の格好を、何故か自然に着こなしている男の前には、すでに空になったお銚子が何本も立っていた。


「―――今度な?子供が生まれるんだ」


 心配げに見守っていた店主に、男がポツリと口にした。

 普段は騒がしいほどに明るく話す男の、いつにない様子を気にかけつつも、店主は祝福を口にする。

 男はそれに礼を言うと、また黙り込んでお猪口に酒を注いで飲み始めた。

 何かを言いたそうな、しかし口にしづらそうな。

 そんな雰囲気のまま飲んでいた。


「お?空いちまったか――おかわり」


 店主はその注文に答えて、酒の入ったお銚子を一本、目の前に出す。

 人には飲みたい時もある。それを知っているのだろう。店主は何も言わなかったし、何も聞かなかった。


「――子供がな、生まれるんだわ」


 その情に感謝したのか、少し雰囲気を柔らかくした男が、もう一度ぽつりとさっきの言葉を口にする。

 そして、その続きも。


「女房との間に一人、それと――」















「それと――他所にもデキちゃったんだよな、コレが――」



 ………………………………………………………………



 居酒屋の空気が一瞬にして固まった。

 そして男の一言がそれを解凍し、今度は逆に沸騰させる。


「――しかも一人じゃないんだよな――なぁ、俺はどーしたらいい、ってへぶぅぅぅぅ!?」


 たまたま居酒屋に居合わせた面々が、皆イイ笑顔で男をボコっていく。

 1時間後、店主は彼のサイフから今日のお客全員の飲み代を回収すると、ボロボロになっている彼を裏のゴミ箱に放り込んだという――

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