ふたり
投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/20)
「おめでとう!」「よく決心したな〜お前!」「おめでとうございます!」「…後悔しないね?」
数多くの知り合い、友人、親類縁者達にそう祝福されて、俺達は結婚した。
まー、そこに行き着くまでに大騒動があったんだが、それもいつもの事。
俺が入り婿の形になって、俺は横島忠夫から美神忠夫になった。
そして美神さんではなく、令子と呼ぶようになってから早5年。
俺達は、夫婦の危機ってヤツを迎えていた。
「はぁ………」
この頃、ため息をつく事が多くなった。
原因は令子の事だ。
本人は上手く誤魔化しているツモリなんだろうが、行動の端々に不自然さが目立つ。
除霊に行くと言いつつ、いつものような大量の荷物どころかハンドバック一つで出かけていったり、夜の除霊が不自然なまでの比率で増えていたり、またその夜の依頼が大体同じような時間だったりするわけだ。
ま、なんと言うか自分を省みて、そういう行動には死ぬほど心当たりがあるわけで。
「浮気、してるよな………これは……」
なんつーか、ショックだ。
体調の悪いときに酒を飲んだみたいに、朦朧として何も考えられない。
しかも泣きそうなくらいに弱気になっちまってる。
…これって…痛いよな…
「令子も……こんな気持ちだったのかな…」
そりゃ、愛想も付かされるわな。
だって5年だぜ?5年。その間、何回そういう事したよ、俺。
まぁ、そのつどきっちりバレて死ぬほどお仕置きはされたわけだが…
「怖くなかったのかなー?令子は」
俺は怖い。
本当に、令子が浮気してるのかどうか。誰か他の男と一緒にいるのかどうか。
確かめるのが凄く怖い。
それでこうやって、令子がなかなか帰ってこない家でじっとしている。そんな度胸無しで意気地無しな自分を、殺してしまいたくなった。
「…そう、しよっうかな…」
右手に霊波を込めて、小さな霊波刀を作り出す。そしてそのまま、左手首を切った。
ブシッ!!
物凄い勢いで血が噴き出した。腱は避けたはずだが、それでも鋭い痛みが襲ってくる。
そんな中、血で染まっていくカーペットを見て思った。
「はは……なるほど。ドラマとかで風呂で手首切るのは、汚さないためだったのか」
「何をしているんですか!?」
意識を失う少し前、そんな誰かの叫びを聞いたような気がした。
目が覚めてみれば、そこにいたのはおキヌちゃんで。
どうやら彼女がヒーリングしてくれて、俺は助かったらしい。
「どうしてあんな事をしたんですかっ!?」
涙を流しながら、そんな風に問い詰められちゃったわけで。
俺は無気力な気分のままに、素直に全部話した。
そうしたら、更に涙を溢れあせたおキヌちゃんに抱きしめられちゃったわけで。
で、まぁ。なんだ。
そのまま、雰囲気に流されて………………ねぇ?
「ふ〜〜〜ん……言い訳はそれで終わり?」
「い、いや、その……」
「ご、ごめんなさい美神さん……つ、つい…」
揃って正座して、冷や汗を流す俺とおキヌちゃん。
その俺達の前に髪を逆立てて仁王立ちしている、我が女房殿はこう叫んだ。
「つい、じゃあるかぁ!!このバカの浮気防止に浮気される気分を味わわせようって作戦だったでしょうが!?それが協力者のおキヌちゃんが率先して裏切るとはどーゆーことよぉぉぉ!!!」
あ、そういう事だったわけか。
あ〜あ〜。なるほどなるほど。こら効果的だわ。
でもな〜〜。こうなっちゃったら、逆効果だよな〜。こーなったら何言っても暴れるな、令子なら。
だが、このまま黙っているわけにもいかん。おキヌちゃんに矛先が向いたままにしとったら、男がすたる。
しゃーない、覚悟を決めて…
「なぁ、令子…」
「なによっ…!?う、ちょ、ちょっと待って…」
令子は突然、口元を押さえて洗面所へと走っていった。
「なんだろう?飲み過ぎたのか、アイツ?」
「…いえ、これは多分…」
なんだ?
おキヌちゃんは何か気付いたらしいが…
ん?
待てよ?
これはひょっとすると…
「令子、お前まさか…」
帰ってきた令子に問いただすと、彼女は顔を真っ赤にして答えた。
「そうよっ!言っとくけど、ちゃんとアンタの子だからね!!さっきも言ったけど、アンタと違って私は浮気なんかしてないんだから!」
「そうか…そうかぁ!!ありがとう!おめでとう令子!!」
妙なくらいに嬉しさが込み上げてきて、ついさっき自殺しようとした事なんか、もうどうでもいいくらいにハイだった。
そのノリのままに、令子を抱きしめてくるくると回る。
「あっはっはっは!!よくやってくれた令子!」
「ちょ、やめないさよ!おキヌちゃんの前でしょ!」
顔を赤くしたままの令子がそう言ったが、俺は気にしないし、おキヌちゃんもやはり気にせずこう言った。
「いえ、気にしないで下さい。私も多分、もうすぐ同じように横島さんを喜ばせて上げられると思いますから」
「「………………は?」」
おキヌちゃんの方を向いて、ピタリと動きを止めた俺と令子に、とどめの言葉が耳に撃ち込まれる。
「私、今日ちょうど危険日なんです♪」
「「はいぃーーー!!?」」
ハモったあと、大混乱を起こす俺たち夫婦に笑顔で挨拶して、おキヌちゃんは家へと帰っていった。
残された俺たちもどうしていいものか解らず、とりあえずその日は問題を先送りにして、何もかも忘れて眠った。現実逃避したとも言う。
…そしてそのまま月日は過ぎ。10ヵ月後、俺が2人の子供の父親になったのは…
触れないで下さい。お願いします。
<完>
今までの
コメント:
- おキヌちゃんが黒い((((;゚Д゚)))
でもそんなおキヌちゃんが大好きです(マテ
って事でおキヌちゃんに賛成一票(ドンナ事ヨ (十六夜)
- ぐはぁ(吐血)!
おキヌちゃんが……そんな力技を!?
歳月の流れってのは、人間を変えるものですね……そう、真っ白だった彼女を、黒く染めるかのように―――。
さて、公的には二人の父親になった横島君よ……ホントはあと何人よ? (すがたけ)
- うん、おキヌちゃんがすごいです。
人はここまで変れるのか…驚きました
う〜んこの後、横島はどうなっちゃうんだろうか? (おやじの戯言)
- キャー!!おキヌちゃんがえらいことを!?
「ふたり」どころか「ごにん」になっとるじゃないですか!!
でも、既成事実は最強のウェポンですよ。ダテに週刊誌や昼ドラを見てるわけじゃなかったんだねおキヌちゃん……そんな彼女も大好きです♪ (ちくわぶ)
- あぁ、おキヌちゃんがどんどんと本性を顕わに<マテ
浮気防止したりする美神さんが可愛かったのに、おキヌちゃんの黒さに意識が跳びましたw (朧霞)
- ・・・ああ、おキヌちゃんがこんなに黒く・・・。
ないすです。
でも、美神さんと結婚したら絶対こんな風になると思う。 (橋本心臓)
- 二人の子供の父親に・・・・・実は双子が生まれただけ!だったりして〜?
いやだってさ〜。危険日なら必ず『当たる』わけでもないでしょう?
それでできるなら世の子供がなかなかできない夫婦はとっくに解決してますよ。 (九尾)
- おキヌちゃん、お見事! それにしても忠夫君の純粋振りには思わずホロリとしてしまいそうです。 (kurage)
- 黒い、というよりは前向きで良いという解釈も可能ですね。
見ようによっては、結構可愛いかも。(笑) (キリュウ)
- …おキヌちゃんのまっ黒な素顔を垣間見た気がしましたw
>「ご、ごめんなさい美神さん……つ、つい…」
嘘だー!ちゃんと危険日だって解っててやった事なんだー!w
…怖いですな… (偽バルタン)
- これはこれで、黒いおキヌちゃんもいい具合にギャグになっていて非常に面白かったです(笑)。美神さんの作戦も見た瞬間「ほんとかな〜」などとさらに勘繰ったりもしましたが、まあ、彼女はそういう意味では一直線ですから、それで良かったという感じでしょうか。で、中立票を入れさせてもらうのですが、使用上の注意にもあります「少年誌の範疇を越える描写」として、ちょっとこの場としては嫌う要素を感じずに入られません。さすがに「危険日」はそっち用語になるような…(^^; ともかく、面白い作品でしたし、非難するつもりは全くありません。ちょっと危ないかと思うだけですので (マサ)
- 真っ先に思ったことは、
どちらにルシオラが転生したのだろう?
ってことでした。
異母双子だったりするのだろうか? (左肘が痛い)
- 親友だろうがなんだろうが、旦那に気のある女性をこういうことに使ってはいけません。危険日といい、確実に計画的犯行ですね(笑 (alc)
- な、何気に狙いましたね > おキヌちゃん・・・・
Good−Job! (LINUS)
- おキヌちゃん、怖ッ!彼女の笑顔が目に浮かぶ・・・。 (GAULOISES46)
- 忠夫が迂闊過ぎ……もありますけど、「何だか知らんがあの女はおれんやーっ」とゆーかつての覇気が無いのがアレなのと、令子がそこまで間近での浮気に寛容とも想えないので反対で(苦笑)。
いや、こうした場につけいるキヌも勿論、ね。というか、令子ならこーゆー役は彼女にやらせないでしょう……とくに彼女がこんなキャラなら。いやいや、そー信じさせてください(ドクロ)。 (Iholi)
- >Iholiさん
欲望だけで突っ走るならともかく、愛情とか罪悪感とか色々絡めると、横島もこんなもんじゃないかと。
そして美神が全開でキレてたら、そこで話が終わりますw おキヌちゃんについては…
………
あっはっは(汗) (MAGIふぁ)
- 横島君が妻の浮気(?)を前に手首切る程弱くなるのも、激情家っぽい部分あるからあり得ると言えばあり得るかなと思い。
また、美神さんがおキヌちゃんの「危険日大作戦」に怒る事も出来ずに思わず呑まれてしまうと言うのもあり得ると言えばあり得そうで。
しかし、それが立て続けに出て来るとこの二人っぽさを感じるのが少し難しいかなと思い、中立で。
本当はおキヌちゃんのこの大活躍だけで賛成にしたい気持ちもあるのですが(マテヤ (フル・サークル)
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