ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い 番外編  a sweet and long night with her(後編の一)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 6/ 1)

横島は現在、窮地に立たされていた。男にとってはある意味、天国だと言えるかもしれないが。今の彼にとっては現在の状況は試練であり、窮地でもあった。自分の隣で安らかに寝息を立てている彼女―――砂川の存在がその原因であった。

以下、横島の心境。
(や・・・柔らかい感触が・・・・温もりが、吐息が・・・・)


何故、こんなことになったのだろう?
確か自分達は仕事の打ち合わせをしていて、相方の彼女が酒も入っていることもあり、今日は休もうということになった。ここまではいい。問題は「彼女がお前も一緒に寝ろ」とかいって、ベッドに自分を引きずりこみ、ついには抱き枕にしてしまった。



(こいつがこうなった原因があるとすれば、ナルニアの地酒か・・・こんなもの土産にするなんて、やはり親父は只者じゃないな・・・・)
酒にかなり強い筈の彼女を酔わせるほどの酒があるというのも驚きである。いや、むしろ彼の両親のそんざいそのものが凄いのか。
横島自身飲んだはずだが、彼は何ともない。恐らくは飲んだ量か、それぞれの酒との相性の問題なのだろう。


とまあ、一見冷静に思考、分析しているように見える横島だが、傍らの柔らかな感触やら、温もりやらから現実逃避しているだけである。

『朝まで耐えるのよ!! 横島!! 私は信じてるわ!!』
頭の中をティんカー・ベルの格好をしたルシオラが飛び回る。それと連動して触覚がピコピコと揺れて、中々面白い。

(ああ、耐えてみせるさ・・・・酒の勢いで一線越えるっていうのもな・・・・後で気まずいし)
『そうよ  頑張って!! ヨコシマ!!』


「ううん・・・・・」
そんな彼らの決心を打ち砕くかのように、悩ましげな吐息と共に砂川が横島に体を摺り寄せ、横島の耳を甘噛みする。
「く!?」
『ああ、羨ましい!! 私もやってみたかったのに。でも誘惑に耐えるヨコシマの表情もかっこいいわ・・・』(ポッ)

(く・・・・・何ともいい気なもんだ・・・・・こっちは必死だってのに)
頭の中で百面相を展開するルシオラに苦笑しながら、横島はこの試練を乗り越える術を必死に模索し始めた。









ほぼ同じ頃。高級ホテルのバー。
「さてと・・・・次はこのお酒、クリュグがいいかしらね」
上機嫌な様子で亜麻色の髪の女―美神は高級酒を惜しげもなく、飲み干し、さらに追加注文する。彼女の周りには既に飲み終わった酒瓶が山程転がっており、注文を受ける側の者達の顔も引きつっているというのに、である。とはいっても支払いについての心配はない。彼女はこの店の常連の辣腕GSであり、長者番付に乗るほどの大金持ちであることは彼らも承知の上だからだ。



問題は―――
「れ・・・令子ちゃん・・・も、もうその辺で止めといたほうが」
側で今にも酔いつぶれそうな相方――西条が居るということである。心なしか顔色が悪い。

「何言っているの西条さん、まだまだこれからでしょ? このお酒美味しいわよ。横島君のお父さんに教えてもらったの、クリュグって言うお酒なんだけどね」

西条自身その酒の銘柄は知っているし、酒に強いという自信もある。だが、美神についていける程ではない。高級バーで酒を飲みたいという美神のお目付け役として、同行したはいいが、このままでは自分が先に酔いつぶれてしまう。



(く・・・・間違いなく、僕が酔いつぶれてしまう・・・先生、すいません。確か前にもこんなことがあったような・・・・・)
美神の自棄酒に付き合わされたのはこれで三度目。美智恵から課せられた猛特訓に美神が追い詰められた時と横島の独立に彼女が落ち込んだ時だった。

いずれの時も重度の二日酔いという余計なおまけがついてきたが、美神のストレスの一助になったのだから無駄ではなかったのだが、何度もこういう肝臓に優しくない事態につき合わされるのはごめんだった。



(それにしても横島君・・・・毎日、今まで君はこの令子ちゃんに付いてきたのか・・・・今、心から君を尊敬するよ)
西条は横島ほど美神と共有する時間が多くなかった。だが、横島が独立して以来、美神と最も縁の深い男性は西条なのだ。彼女との接点が増えたのは喜ばしいが、美神の「酒猟」にこれからも頻繁に付き合わされることを思うと、本当に頭が痛かった。公務員として明日の仕事に響いたら一大事だからだ。

(そういえば・・・・よく考えたら、唐巣神父の髪の毛も令子ちゃんの破天荒振りが原因の一つなのか)

何故か西条の頭の中に、満面の笑顔を浮かべた神父が自分を手招きしている光景が広がる。おまけにその手には「頭の砂漠化 友の会」といった不気味なプラカード。会員の顔ぶれが気になるところである。 恐らくは神父の念が西条の意識に侵入したのであろうと思われる。




ちなみに巷ではカツラ疑惑が流れている西条の長髪であるが、正真正銘の地毛である。
神父自身、横島から渡された『魔界育毛法』に記された方法を様々な葛藤の末に実践したところ、ようやく効果が出始めたらしい。弟子のピート曰く、神父の頭は現在、植林活動に勤しんでいるという。そのうち、上記の不気味な神父の念も浄化されるだろう、多分。

「西条さ―ん、まだいけるでしょー?」
「令子ちゃん、もう酔っ払っているからその辺に・・・・」
なおも酒の追加を頼もうとする美神を西条は必死で諌める。足取りはしっかりしているが、最早彼女の口調は怪しくなり始めている。万一、帰り道に事故でも起こされたら一大事だ。



「私は酔ってなんかいないわよー、いつまでも子ども扱いして。何よ西条さんこそ、うっとおしい髪・・・・えい、こうしてやるわ♪」
「うわ、やめてくれ!! 令子ちゃん、痛いから・・・・ちょっと!!」
酔っ払いの常套句を吐きながら、何を思ったか西条の長髪を掴み、力の限り引っ張り始めた。「酔っ払いの思考及び行動は理解不能」 古よりの格言の通りである。偉い人は言うことが違う。そのまま引っこ抜いてしまえと思うのは筆者だけであろうか。


(い、痛い・・・ああ、何故僕はこんな目に・・・・・そういえば魔鈴君の店に最近行ってないなあ・・・)
美神に髪を引っ張れられる痛みと確実に訪れる二日酔いから、必死になって目を逸らそうとする西条。はっきり言って、無駄な努力である。

現実逃避するな、諦めろ西条。美神の周りの男はみんな苦労する。横島だって、通った道だ。それに出番があるだけいいじゃないか。
影の薄さが代名詞と化している某寅に比べれば・・・・(酷いですじゃー)←電波?


(そ、そんなオブジェク・・ブチィ!!「痛い・・・・」(滝涙)






一方、こちらは西条とは違う意味で窮地に立たされている横島。
「く・・・どうすればいいんだ。解決策が思い浮かばない、このままじゃ負けてしまう」
傍らからは柔らかい感触が感じられ、横島の理性を崩し、動揺を誘う。如何に性格が変わったといっても、横島の中には従来の高校生としての部分も残っているし、この状況下で押さえ込まれていた煩悩も勢いを取り戻しそうだった。
耳を噛むに続き、先程の首筋を舐めるなどの砂川の猛攻?に晒され、横島の精神防壁は決壊寸前に陥っていた。相手は無意識なのだから余計に性質が悪い。




「あうあう・・・・」)
『横島、頑張って!! 耐えるのよ!!』
必死で叫んで、横島の精神の堤防決壊を防ごうとする蛍の化身。触覚が彼女の必死さを示すかのようにブンブン揺れている。


「こ・・・こうなったら最後の手段、文珠を使うしか・・・・」
そう言いながら、横島は文珠を数個生成し、それらに文字を込めていく。
『鎮』で自分を鎮め、さらに『眠』と『縛』を同時に発動させ、自分を動けなくし、さらに意識を容赦なく眠りの世界に強制退去させる。

そんなことで、文珠を使うのはどうかと思うが、今の彼は相当切羽詰っていた。主に理性が。


(よし、これで・・・・でもよく考えたら・・・もっと上手い方法があったような・・・・)

このせいで朝になって一悶着あるのだが、既に意識が睡魔に導かれた横島には知る由も無かった。










さて、やって来た翌朝。
「う・・・・む、朝か・・・・まだ眠い、もうちょっと・・・」
寝惚けながらも、差し込んでくる光を知覚して、砂川は朝が来たのだと察知する。だが朝に弱い彼女にとっては、まだ眠気がとれない時間帯。必然的にまだ寝ていようとシーツを被って、側にあった枕を抱き寄せる。

(ん・・・? 何だ。この枕はおかしい・・・・)
抱きついた枕は妙に暖かく、安心できる匂いがしてくる。
怪訝に思って、目を開いた彼女は目の前に横島の顔があることに絶句する。見たところ、横島はまだ寝ているらしい。取り合えず横島のことは置いておくとして、昨夜のことを思い出してみることにした。

(確か仕事の打ち合わせをしていて、その前に飲んでいた酒の酔いが回ってきて・・・・そして・・・)
後のことは大体見当がついた。微かにだが、自分が何をしたのかも覚えている。

(抱きついたり、耳を噛んだり、首筋を舐めたり・・・・・・残念だが、一線は越えていないらしいって、私は何を!?)


いつもの彼女からは想像も出来ないほど動揺し、頬だけでなく顔全体が赤く染まる。ちらりと本音が見え隠れしている。





「おーい、砂川、朝飯が出来た・・・て・・よ」
朝食が出来たことを告げに、雪之丞がドアを無遠慮に開けて、これまた無遠慮に声をかけるが、彼は目の前の光景に言葉を失った。


いつもなら女性の部屋に入る前にはノックぐらいはするのだが弓の父親との対面が無事(彼主観)に終わり、そのために一夜明けて、なおハイテンションな彼にはその辺の機微がスッポリと抜け落ちていた。

その結果、再び「ベッドの上で横島に抱きつく砂川」の図の目撃者となったのだった。


「お、お前ら・・・そこまで・・・あれ、こういう場面、前にもあったような・・・」


どうやら目の前の光景の強烈さに消去されていた筈の過去の記憶が甦ったらしい。おまけに今回は以前よりも、服装の乱れが激しい。何かあったと勘違いするには十分な状況であった(実際は何も無かったのだが)




「じゃ、じゃあ・・・お、俺はこれで・・・ああ、弓の膝枕はよかったなあ・・・」
一人身の男達を敵に回す発言をしながら、何も見なかったかのように出て行こうとする。

「ま、待て!!」



「む!? 今度は回し蹴りは喰わねえぞ!!」
「ち、違う!!」


以前、回し蹴りを喰らってノックアウト。その際に余計なものも見えたような気もするがその辺の記憶は曖昧だった。何にせよ、油断して勝てる相手ではないので、雪之丞も臨戦態勢に入ろうとするが、真っ赤になった砂川の言葉に闘気が霧散した。


「事情を話して、それに口止め料を払うから・・・・その、黙っておいてくれ・・・それとお前は致命的な誤解をしている」
「事情、誤解、それに口止め料・・・・・?」



目のやり場に困る格好をした砂川(シャツや下着のみ)を視界に収めないように懸命に目を逸らしながら、雪之丞は問いかける。彼女にしてみれば「酒に酔った上で一線を越えました」などと誤解されたままだと居心地が悪いらしい。



「分かった、話は聞くぜ。それと口止め料として、金の代わりに昼飯おごってくれ。店は何処でもいいからよ」
「分かった。そうしよう」




こうして砂川が頬を染めたまま雪之丞に前後の事情を説明している間、横島はというと
「Zzz・・・」
文珠の効力か未だに夢の中だった。







小鳩が腕を振るった朝食の席。
「うーむ、やはり何か腹に詰めんと、いいアイデアは浮かばんわい・・・・ん、どうしたんじゃ、砂川よ?」
「あ、いや何でもない」
カオスの問いかけにも表面上は平静を保って答えた彼女だったが、その頬は僅かに赤かった。



(ほう・・・・小僧と何かあったようじゃ、微笑ましいのう)
この屋敷において、彼女が動揺することは横島絡みのことぐらいである。
「ヨーロッパの魔王」の洞察力を発揮して、鋭く読み取るカオスだったが内心の呟きは表に出さず、小鳩から差し出された緑茶を啜る。うむ、美味い。









それから数時間後。
「それじゃあ、昼飯を食いに行くか」
「ああ、それで何処に行くんだ?」
鍛錬場で汗を流してきた雪之丞に対し、ようやく文珠の効力が切れたのか、朝飯抜きの状態で、やっと起きて来た横島が尋ねる。砂川から説明を受けた横島は自分も当事者なので、敢えて深く追求せずに昼飯代を半分出すことにした。




「それについては魔鈴の店がいいだろう・・・・先程、電話したら席が空いているそうだから予約しておいた」
「何!? あの美味い店か? すぐに行こうぜ!!」
精神的な落ち着きを取り戻した砂川が告げる。一方の雪之丞も以前、ニューヨークに行く横島の送別会に参加した時に魔鈴の料理の腕前は知っているので、異論は無かった(原作29巻参照)







「さてと・・・・骨休めと次の研究へのステップも兼ねて、今日は読書でもしようかのう・・・・・」
魔鈴の店に出かけていく横島達を見送ったカオスは居間のソファーに腰掛け、「セフィロト―カバラの秘儀」というカビ臭い表紙の本を開いた。ちなみにマリアは充電中である。

さらに居間のテーブルの上には、「闇の秘術――大魔術師ブレアードの遺産」や「簡単な魔法兵鬼の造り方」などと題された本がうず高く積み上げられている。
横島が魔界にある自分の(アスモデウス)屋敷の書庫から持ち帰ったものである。
書かれている言語は魔族のものだったりしたのだが、カオスにとってはそれすらも興味をそそる調味料にしかならず、解読しながら夢中で読み進んでいく。

かくしてカオスは実に有意義な一日を過ごすことになった。屋敷の者達の中で最も充実した日々を送っているのは彼かもしれない。









一方、こちらは魔鈴が経営する魔法料理店。
「あら、皆さん・・・・いらっしゃいませ♪」
「ああ魔鈴、予約しておいた席に頼む」
魔鈴の挨拶に頷くと砂川は席に案内してもらうように頼んだ。



「はい、じゃあ私の使い魔の黒猫について行ってください。席まで案内してくれますから」

「それではご案内しますにゃん」
魔鈴の言葉に答えるかのように黒猫が横島達の前に躍り出て、リボンのついた尻尾を一振りさせペコリと挨拶の言葉と共に一礼する。









こうして六人掛けのテーブルに案内された横島達は、運ばれてきたそれぞれの料理を食べ終えると満足げに息を漏らした。おまけに口直しのデザートが残っており、それも楽しみといえる。
いうまでも無く、横島達の中で一番多く食べたのは雪之丞、それに次いで横島と砂川、そして最後に小鳩といった順番である。
ちなみに横島の両側に砂川と小鳩が座り、店内の男達の注目を悪い意味で集めていたが、些細な事なのでここでは割愛する。




「あの皆さん、相席よろしいですか? お一人様なんですけど」

「え、相席ですか? 別に構いませんけど・・・・」
「ああ俺も別にいいぜ」
「私もだ」
「私もです」
そんな中、デザートを運んできた魔鈴の問いに横島、雪之丞、砂川、小鳩の順番で答える。周りを見渡せば、成る程―他の席は埋まり、空きはほぼ無くなっている。


「よかった。あ、横島さんはご存知の方だと思いますよ? もしかしたら雪之丞さんも」
「俺の知り合いですか?」
「はい」
怪訝な顔の横島に満面の笑顔で答える魔鈴。見れば雪之丞も疑問符を浮かべている。



(誰だ? そもそも性別すらわからんからな・・・・・・見当がつかん)
(もしかして弓の奴か? いや、この店に来るなんてことは言ってなかったしな)

疑問符を浮かべ、頭を捻る横島と雪之丞の両名。そして、彼らの疑問の『答え』は程なくしてやって来た。



黒猫の案内で横島達のテーブルまでやって来た若い男が嫌味の無い京都弁で尋ねた。
「すいません、ここの席でよろしいやろか?」

(ん? この声は・・・・)




「あ、お前は・・・・」
「ありゃ、横島はん・・・・お久しぶりやなあ」
疑問の『答え』でもある若い男――式神使いの鬼道政樹は懐かしげな声を漏らしたのだった。








後書き ここで鬼道登場。長くなってしまったので続きは次回に。自分の文章の書き方を見直したんですが、一旦身についてしまった書き方は一朝一夕に変えられる代物じゃないらしいです。皆さんの意見を取り入れて、キャラの動きなどを試行錯誤して、書きました。原作キャラもオリジナルキャラもバランスよく使っていきたいんですが、難しいものがあります。これからの展開としては、敵陣営の中で魔神級の連中は当分表に出てきません(裏で動きますけど) 本編での「ザンス・六道死闘編」(勝手に命名)では鬼道がキーパーソンの一人になります。鬼道が自分の○○と、横島は洗脳された○イとそれぞれ戦うことに・・・・(伏字の部分が分かった方はいます?)

番外編や外伝が多すぎるとの指摘を受けたので、これからは本編、番外編、ダークルートの三本で行きます(後の二つはもうすぐ完結しますので、実質的には本編一本)
敵陣営の特徴を一つ言うならば、
一、魔神級の連中で固めた少数精鋭主義の恐怖統制(言い換えればべスパ、パピリオ級の中堅どころがまったくいない。イーム、ヤーム級の下級の連中はいくらかいる)

さてと西条の髪が何気にピンチですけど、彼には耐えてもらいましょう。













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