ザ・グレート・展開予測ショー

げんじょーいじ ぱーとつぅ


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/23)


「あう〜…もう限界や〜…」
「はいはい、ダレてないでもうちょっと頑張って!そもそも横島君からお願いしてきたんでしょう?」
「そんな事ゆうたかて、こんな長時間ってのは男にはキツいんや〜…」
「男も女も関係ないの!いいから、シャキっとして!もう一回よ!」

 なにやらどこぞの赤毛の女上司が聞いていたら、問答無用で飛び込んできてシバきの一つでも入れそうな会話だが、幸いな事に彼女はここにはいなかった。
 なんと言っても、ここは放課後の学校の教室。学校関係者以外は足を踏み入れる事は稀。

「あ〜…も〜赤点でもいいかな〜…俺…」
「ダメよっ!ここで諦めるなんて、そんなの青春じゃないわっ!」
「そんな理由でダメなのかよ」

 机の上につっぷして、顔だけを上げてダレる横島にはっぱをかけているのは、机妖怪の愛子。

「補習と追試に時間をとられるのはイヤだから、勉強を教えてくれって泣きついてきたのは横島君でしょう?」
「そらそーだけど、こうも頭に入らんとやる気が…せめて愛子がエッチなご褒美とか…イエ、ナンデモアリマセン」

 セクハラ発言をかまそうとするも、愛子の睨みで即座に引っ込める横島。
 放課後に気になる男の子に2人っきりで勉強を教える、という青春に燃える愛子のツボなシチュエーションだというのに、肝心の相手がやる気をイマイチ見せないわ、爽やかとは程遠い発言をするわで、愛子は結構怒っていた。

「あははは!よ〜し、休憩終わり!俺、頑張っちゃうぞー!」

 それを察知して、急に不自然なまでのやる気をアピールする横島。今までの人生経験が怒った女性には逆らうな、と彼の本能に刷り込んでいるがゆえの行動である。

「まったく、調子いいんだから……それじゃA尾鉱毒事件のとこ、教科書を開いて」
「う〜い」

 苦笑して、こんどこそ。と思い描くシチュエーションに向けて気合を入れて教える愛子。
 頭の片隅で、試験後「これも愛子のおかげだよ」「ううん、横島君が頑張ったからよ」「いや、愛子のおかげさ。何かお礼をしなくちゃ」と言う会話の後に、爽やかにデートに出かける2人の姿までを思い描いていたりするのだが、態度には少しも出していない。女はみんな女優よ。

「当時は12〜14時間労働が当たり前。しかも薄給の上に残業っていう概念もなかったのよ」
「なんか身につまされる話やなぁ」
「その人たちを使ってる側の資本家は財閥って言うの。ここテストに出るわよ。それで財閥は政府に色々と優遇されて、ますます力を付けていったわ」
「くぅっ!労働者の血と汗の上でヌクヌクしやがって!」

 なにやら古いタイプの社会主義者や左翼っぽい発言をカマす横島。
 まぁ富の再分配をこの頃からマジメにやってたら、日本はどーなっていたのか、また微妙だが。
 そんな横島の――違った方向ではあるが――熱心さを良しとして、授業を続ける愛子。

「当然、労働者もいつまでも黙っているわけじゃなくって、色々と運動を起こしたわ」
「ふんふん、それで?」

 すっかり感情移入してしまった横島の合いの手に、ますます気分を良くして愛子は続ける。

「一人一人で訴えても仕方が無いから、まず彼らは寄り集まったわ。これが組合ね」
「そっかぁ、組合かぁ…」

 自分の同僚たちを思い浮かべる横島。
 おキヌ。自分に次ぐ古株だが、どうやら生き返った後は自分よりかなりまともな給料をもらっているようだ。幽霊時代の日給30円ならともかく、現在ではそういう意味での仲間にはなれそうもない。
 人工幽霊壱号。給料の存在自体が無いようだが、代わりに美神さんから霊力をもらっているらしい。本人もそれで満足のようなので、やはり仲間にはなれない。
 シロタマ。奴らの給料は肉と油揚げだ。仲間になれるかもしれないが、何か違う気がするので保留。
 あとタイガー。事務所は違うが、ヤツは間違いなくそういう意味では仲間だ。
 ピートは…唐巣神父のところは、そっとしとこう…
 そうすると、組合を一緒に作れそうなのはシロタマとタイガーとか…

「アカン。絶対勝てん…」
「どうしたの?横島君」
「いや、なんでもない。続けてくれ」

 どうやら組合という手段は美神相手では取りえない、と悟ってヘコむ横島。
 何とか気を持ち直して、他の手段は無いかと愛子を促し望みをつなぐ。

「各地で労働争議が起きたわ。でも、政府がそれに対して取った手段は弾圧」
「う」

 美神に文字通り叩き潰される自分とシロタマタイガーをリアルに連想してしまい、血の気が引く横島。

「江戸時代の一揆を幕府や藩にことごとく潰したみたいに、政府は治安維持法って法律を作ってまで、組合運動そのものを潰していったわ」
「あ…あ、あぁ…」

 美神に闇から闇へと始末され、カケラも残さずにいなくなってしまう自分達を想像して怯える横島。

「T県のA尾銅山の鉱毒事件みたいに、実際に被害が出てる公害問題でも、政府は問題を解決するのに会社を指導するどころか、運動の方を押さえようとしたわ…ってどうしたの?横島君?横島君っ!?」

 椅子から落っこちて床にしりもちをつき、頭を抱えてガタガタと震える横島。
 今の彼には肩をゆすり、一生懸命に声をかける愛子の言葉は聞こえていなかった。

 ………………

 30分後。ようやく落ち着いた横島が愛子に発した言葉は…

「愛子。俺、当分美神さんの事務所にいるよ…」

 だったという。

 めでたしめでたし。


 <完>

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