ザ・グレート・展開予測ショー

リービング・デイライツ -The Leaving Daylights-


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(05/ 5/ 4)

「ああ・・・なんだかもう思い残すこともないわ」

そう言い残し、美神は晴れ晴れとした表情を浮かべて昇天しようとしていた。
今まで散々暴れた挙句、自分が成仏しても誰も儲からない、とピートから聞かされたらこれである。

「結局あんたの心残りはそれだけかいっ!?」

横島ならずとも、そう突っ込んでしまいたくなるのも仕方がない。
たとえ本人とは関係のないコピーと言えども、二百年ぶりに合う彼女たちは、ピートにとって懐かしい記憶そのままの姿であった。

「やれやれ・・・ 積もる話もしたかったんですけどね」

光に包まれていく三人を見つめ、誰にも聞こえないほどに、ぽつりと言った。
再会して間もないうちに慌しく去ろうとする旧友は、迷いのない笑顔を浮かべて昇っていった。
もっとも、彼の最後のクラスメートは往生際の悪い表情を浮かべていたが、それはやんわりと無視して書き換えることにした。
なるべくなら、思い出は美しいほうがいい。

天高く昇っていった三人の姿が見えなくなると、ピートは残された廃墟を見つめ、ふう、とため息をついた。

「せっかく買ったのになぁ・・・ どうしようかな」

何気なくそう呟いた途端、ピートは背後に強い気配を感じ、慌てて振り向いて驚きの声を上げた。

「うわっ! み、美神さんっ!?」

そこには、先程成仏したはずの美神令子、正確には、美神令子の残留思念が立っていた。
人魂を従えて、まるで単行本の裏表紙のような色の悪い肌に、鋭く伸ばされた爪を鎌首のようにもたげて佇むその姿は、悪鬼羅刹もかくや、と言わんばかりの姿だった。

「何よ、幽霊でも見たような顔しちゃって」

「す、すみません・・・って、あなた幽霊でしょうが!?」

「そんなことより!」

青白く細長い指をビシッ、とピートに向け、詰問するように美神は言った。
返答次第ではタダじゃおかない、と指先が物語っているようだった。

「あんた、いくらもうかっているの!?」

何にも増してそれが一番大事、というように美神はきっぱりと言い切った。
よくよく見れば、その後ろで呆れたような表情を浮かべて横島とおキヌが浮かんでいる。

「え、えっと、それは・・・」

残留思念とはわかっていても気押される威圧感に、ピートは思わずたじろぎながら言いよどむ。
それは、出来ることなら知られずに穏便に過ごしたかった事柄だからである。

いかに中心部は移動したとはいっても、現在もなお東京は日本の首都であり、世界の主要都市のひとつであった。
周りの建物は皆、天を突くほどに高層化し、二百年も前のビルなど一つも残ってはいない。
幽霊すらも住まわせておく余裕もないほどに土地が不足している日本において、この旧市街の地所が安かろうはずがない。
それを、いくら輝かしい過去であるとはいえ、個人的な感傷のためだけに荒廃した廃墟をポン、と買うなど、並大抵の資産家に出来ることではなかった。

「・・・あんた、相当もうかっているわね?」

語尾を丸めてはいても、それは疑問の差し挟む余地のない断定だった。
テクノロジーに頼る現代のGSと比べて、控えめに見てもピートの霊力は比類のないものに違いない。
いかにICPOに所属するGメンとは言っても、その能力と地位に相応しい報酬は貰ってしかるべきだった。
西暦もわからないほどに情報から途絶されてはいても、美神は観察と推論でそう結論付けた。
このあたり、さすが伝説のGSであると言えた。

「あんたがもらうギャラにふさわしいかどうか、私がテストしてあげるわっ!」

どうにも話に加わるタイミングが見つからず、影が薄かった横島とおキヌだったが、ようやくに突っ込むチャンスを得た。

「だから、それじゃただの実力行使でしょうがっ!」

「やっぱり悪霊の素質充分ですよ」

「なんと言われようと、イヤなものはイヤ!!」

ついさっき、インガ・リョウコを相手にしていたのと同じようなやり取りを繰り広げる美神たち。
やはり幽霊の性と言うべきか、どうしても堂々巡りの思考パターンに陥る傾向があった。
もっとも、彼女たちの場合は本人のごく一時期の一部分のコピーなのだから、しかたがないと言うものではあったが。

「と、とにかく、この美神令子を除霊できるもんならしてごらん!」

「僕は別に成仏しなくてもいいと言ってるんですけど・・・」

「うるさいっ!!」

ピートは昔と変わらない美神とのやり取りを懐かしく聞きながらも、ほとんど本末転倒で支離滅裂な様相を呈してきた事態に頭を抱えた。
手遅れであるとはいえ、あのとき不用意に漏らした自分の呟きが悔やまれてならなかった。
不意に今は亡き師のことが頭に浮かび、思わず胸の前で十字を切った。

それを合図に美神は神通根を構え、嬉々として大見得を切って叫んだ。

「このGS美神が極楽に行かせてあげるわっ!!」































「―――――という夢を見たんスよ、昨日」

幾分片付いたとはいえ、まだ散らかっている事務所の中で横島が言った。
昨夜は除霊の仕事があったとはいえ、普段はそれほど疲れた顔などしない。

「・・・私も見たわ」

美神はマホガニーの机の上で手を組み合わせ、なんとも面白くなさそうな顔で相槌を打つ。
おキヌが帰って来るときに見た夢の続きを、それもまた二人同時に見るなど、どうも腑に落ちなかった。

「・・・やっぱり、予知夢かなんかじゃないですか?」

「そんなことわかるわけないじゃない、って言ってるでしょう?」

少しイラついた感じで美神が声を上げた。
仮に予知夢だとしても調べようもないし、手の打ちようもない。なにせ、起きるとしても二百年後の話なのだ。
だが、それでもなんとなくおもしろくない感じが残るのが不愉快だった。

「まあまあ、そんなに気にしなくてもいいじゃないですか」

浮かぬ表情を浮かべる二人を気遣い、キッチンから出てきたおキヌが声を掛けた。
久方ぶりの里帰りでゆっくり休んだせいか、帰って早々に仕事をしたにもかかわらず、おキヌには疲れた様子はなかった。

「ありがと」

一息入れるために持ってきた冷たい飲み物を受け取り、一口飲んだ。
もやもやとした不快感に包まれた喉が潤された。

「でも、なんだかおもしろいですよね」

横島が勢い良く飲み干し、ストローをズズッと鳴らすのを見て、笑いながらおキヌが言った。

「残留思念の夢だなんて」

何気ないおキヌの呟きを耳にした瞬間、名残惜しそうに鳴らしていたストローの音が止んだ。
ふと見れば、氷をかき回す美神の手も止まっている。

「どうしたんです? 二人とも?」

おキヌが不思議そうに首をかしげて二人の顔を見渡すが、二人は顔を強張らせているだけで返事はなかった。

「―――――み、美神さん、ま、まさか・・・」

「・・・な、何をバカなこと言ってるのよ。そ、そんなことあるわけないじゃない」

「で、ですよね。いくらなんでも俺たちが・・・」

「そ、そうよ、そんなバカなことが・・・」

「???」

自分たちが驚いている理由がわからずにいるおキヌをよそに、美神はあることを必死になって思い出そうとしていた。
今が、西暦で一体何年だったのだろうかということを。

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