フォールン ― 23 ― [GS]
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 3/12)
「私だって・・・もう子供じゃないのよ」
車窓の外に目を向けたまま――建物を出る時に再び着けさせられたアイマスクを外してから、彼女はずっとそうしていた――美神が唐突にそう呟いた。
それが独り言ではなく自分に向けられたものだと気付いた神内が、彼女の後ろ髪に視線を走らせる。
「子供じゃないから、いつまでもああいう事する意味が一つだと思い込んでたりしない。子供じゃないから、誤解したままいつまでも一人で怒ってたりしない」
ガラスに薄っすらと映った彼女の顔は目を閉じている。その瞼が上がり、彼女の視線が同じく映る神内の顔を見据えた。
「―――子供じゃないから今は分かる。貴方が本当は、私に“あれ”を見せようとしてたって」
神内は何も言わない。無言のままで、彼女の視線を受け止めている。
車窓を介して交差し続ける視線。美神が先にそこから目を離すと、シートに肩を預けながら今度は直接神内を見た。
更に彼へと顔を近付け、覗き込む様な表情を作った後に呟く。
「・・・・・・探ってる眼」
呟いてから何か困ったものを見た時の様な微笑を浮かべた。
「貴方っていつもそうだったよね。お喋りしてる時も、そうやって黙りこくってる時も――強引にキスした時さえも」
「どう表面を取り繕おうと、貴女には迷いがあった」
神内がようやく口を開いた。
「その迷いは、“彼を知らない”が故の迷いだと僕は考えました。何年も当り前の様に顔を合わせていたって、いや、だからこそ、決定的な何かに気付けないなんて事もあるんです」
実際、気付かなかったからこそ、今の様な事態になっている。そして、横島の行動とその目的を知ってからも――今夜、あの瞬間まで、“私は彼を知らなかった”と言うのだろうか。
美神の疑問が顔に浮かんだのか、それに答えるかの様に神内は頷いて言葉を続けた。
「決定的な何かと言うのは、決定的な局面でしか見るのが叶わぬ事もありますよ・・・かつて彼が結晶を手にした時みたいにね」
「なるほど・・・それは随分と分かり易い例えね。それで・・・貴方から見て今の私に迷いはもうないと言う事かしら?」
「さて、そこまでは僕にも・・・だが、見てないが故の迷いはもうない筈だ。そして貴女は考える事が出来る――あの彼に正体のないこだわりを持つ事がどれ程の無駄か。今の貴女は知っているのですから」
神内が断言して言葉を切ると、美神の表情は微かに曇った。そんな彼女をしばらく穏やかに見つめ、やがて彼は切り出した。
「・・・・・・あのホテルの辺りをですね、一望できる展望台があるんですよ。向こう側にある山だから、別ルートで行く事になるのですがね」
「え・・・?」
「彼らが召喚分離装置を発動した時には、きっととても綺麗な光のパレードとして、それを眼下に収める事が出来るでしょう」
伏せられていた美神の目が、神内へと向けられた。
「彼らは、きっとGメン当局の妨害を克服する―――色鮮やかなその絶景の渦中には、とある恋人達の始まりがあるんです。きっと素敵な一夜となるでしょう・・・彼らに、そして僕らにとって」
「彼ら・・・と言う事は、私も、なのね・・・私にもそこで見ろと言う事?」
「ええ勿論ですとも。僕らも祝福してあげましょう・・・ロマンティックな、とてもロマンティックな彼らを」
ロマンティック、二度目に神内がそう口にした時、どこか蔑む様な冷たい響きを感じたのは、多分気のせいなんかじゃないのだろう。
「そして・・・その時が僕と貴女の始まりでもあったなら、なお素敵に思えます」
言葉の後、神内は美神を見据えながら少しだけ顔を近付ける。美神が表情を固く強張らせた。
だが、神内はその姿勢のまま動かずしばらく美神を見つめ続け、ふいにニッコリと笑って言った。
「・・・何も、しませんよ?」
「・・・・・・それが・・・信じられるとでも?」
低い声で反論する彼女へ、彼は笑顔のままで答える。
「警戒されるのは仕方ありませんが――分かってらっしゃるのでしょう? 次に確かめるのは僕の番です・・・だから、僕からは、もうしないんです」
美神は二度、三度と瞬きをして相変わらず表情は固いまま。彼の言いたい事がはっきりと掴めないでいる。
そんな彼女へ続けて彼は言った。
「次は、貴女からしてもらうのですよ―――そして、今夜はまだ、その時ではない」
そーゆーのも・・・アリなのかしらね。そう思い浮かべた美神にはどこか投げやりな・・・諦観にも似た気分があった。
どっちみち、あんな単純で頼りない男をそういう目で見るなんて出来なかったじゃない。だから見合いの話を受けてみたし、この男ともここまで付き合って来てみた。
たとえ神内がいなくとも、この一連の騒ぎがなくとも、自分にとって横島はただのアシスタント――仕事上でのパートナーでしかあり得なかったし、これからもそうあり続けただろう。美神はそんな風に思い返す。
私が結婚を考えるとしたら――しなくても良い訳だけど――それ相応の男でなくちゃ話にならない。だとしたら、これほど理想的な奴もそうはいない――少なくとも、“考えてみても良い”レベルだとは言えるんじゃないの?
神内は、「今夜は」の部分をやや強めに言っていた。その意味する所は明らかだった。美神は微かな諦めを顔に浮かべながら彼へと訊ねる。
「つまり・・・明日の夜に、その場所でって事? 本当に、私がそうするとでも思ってるのかしら・・・?」
「僕は予知能力者じゃないし、そこまで自信過剰でもなければ、貴女の事を知り尽くしてる訳でもない」
自信に満ちた声で神内がそう答えた。
「・・・嘘つき」
「そう思うのも貴女次第―――僕はただ、それを確かめるだけなんです」
ここでいいわ。美神が指定した場所で車は停まった。
大通りを事務所前の道に入る手前、ここからでも歩いて数分足らずだ。
「では明日・・・もう今日ですが、夕方過ぎ頃お迎えに上がります」
「――まだ、行くなんて言ってないわ」
「おっと、そうでしたね・・・では、明日の夜も是非お時間の方空けておいて頂きたいのですが」
「急過ぎるわね。私に仕事が入ってるとは考えてないのかしら、神内コーポレーションの社長さんともあろう方が?」
「仰る通りです。申し訳ありません」
「第一、私達が見る事になるのは光のパレードなんかじゃなく、どっかのバカの逮捕劇かもよ? まあそれはそれで見物でしょうけど」
「全くもって、その通りですね」
「私がアイツの事で、これ以上時間を割く必要なんてあるのかしら?」
「・・・・・・」
車を降りかけの美神とシートに残る神内は、そのまま無言で見合っている。互いに――特に美神にとって、その沈黙は長く感じられた。
彼女からの反発を全く否定しないでみせる神内。時間を割く価値があるかないか、一緒に来るのか来ないのか、それはお前が見極める事なんだ。
神内は言外に、そう言っていた。
「少し・・・考えさせて」
美神は振り切る様に神内に背を向けると、車から降り立ちすたすたと歩き出す。
「―――良いお返事、期待してますよ」
彼女の背中に一言、神内が不自然なまでに朗らかに呼びかけた。
夜道に遠ざかる後ろ姿をしばらく眺めていた彼だったが、やがて扉を閉めると運転手に車を走らせる様合図する。
黒い車はエンジンの音も静かに、夜闇へと走り去って行った。
― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―
玄関を入ると、ロビーも廊下も暗く静まり返っていた。
美神は中断していた装備の整理と収支記録の続きをしようかと一瞬考えるが、明日にしようと思い直す。
夜道に慣れた目だから、照明を点けなくとも十分歩けた。そのまま階段を上り二階へと出る。
下同様に暗い二階の廊下を自分の寝室へと彼女は進む。その扉の前まで来るが、立ち止まり何事か思うと踵を返して元来た廊下を少しだけ戻り、別の部屋の前に立った。
コンコン・・・
控えめなノックの音。扉の向こうからは返事も物音もない。
やっぱり寝てるのかしら、美神がそう呟きながらノブの辺りを見ると鍵が開いている様子。押してみると、キィッと掠れた音だけで扉は開いた。
室内に冷房ではない涼しい風を感じた。外からの光に薄っすら照らされたカーテンが微かに揺れている。
美神は部屋に入りベッドへと足を進める。ベッドの上、タオルケットに包まれ横向きに眠っているおキヌは、すやすやと寝息を立てるばかりで身動き一つしない。
「鍵も掛けず、窓も開けっ放しで危ないわねえ・・・」
『申し訳ありませんオーナー。私からも注意はしたのですが、結局そのままお休みになられて・・・非常時には私の方で操作する事も可能なので取りあえずこのままで良いかと判断を・・・オーナーのご帰宅をお待ちしていた風でもありましたので』
美神の呟きに人工幽霊が念話で答えた。美神は机の上に視線を走らせる。おキヌの持ち込んだボトルとグラスはそのまま置かれていた。
「お酒も出しっ放しじゃない・・・・・・しょうがない子・・・」
何となくそうしたくなって、眠る彼女の真っ直ぐな黒髪に美神は手を伸ばすと、軽くゆっくりと撫でる―――その時、おキヌの両目がぱちっと開いた。
横向きのままで美神の顔を見ている。
「あら・・・起こしちゃった? ・・・ダメよ、ちゃんと戸締まりしなくちゃ」
「美神さん・・・」
「なーに?」
「おかえりなさい」
「ただいま」
答えながらくしゃくしゃと少し乱暴に頭を撫でてやると、おキヌは嬉しそうにはにかんだ。美神はベッドから離れ窓際へと行く。
「窓、閉めとくわね。暑い様だったら空調使いなさい・・・アメリカでこんな事してたらシャレになんないわよ?」
窓を施錠しカーテンを閉め直した時、再び後ろから呼び掛けられる。
「ねえ、美神さん・・・」
振り返るとおキヌがじっと見ていた。ここ最近のいつもの事だったかもしれないが、何となく今までのとは空気が違っていた。
「・・・横島さんもね、ちゃんと眠れないんだって。いつも見ちゃうんですって・・・ルシオラさんと―――ルシオラさんが、いる夢を」
美神はベッドの方に戻ると、近くにあった椅子を寄せて座る。
彼女が腰を下ろすのを見て、おキヌは言葉を続けた。
「夢の中では・・・ルシオラさんがいた上での毎日がここと同じ様に続いてるんだって。それ以外殆ど同じで、そこだけが違うんだって―――そして、目が覚めちゃうんですって。目が覚めると、こっちが現実で・・・それってどんな気分なんでしょうね? 私にも良く分かりませんでした」
「・・・・・・」
「そーゆーのって、本人にしか分からないんでしょーね。外から見て、起きた時唸って転げ回りたくなる位辛いんだってのは分かるんですけど・・・結局、それだけなんです」
おキヌの話を美神は黙って聞いている。
横島がそんな夢を毎晩見ていたなんて話は彼女にとって全く初耳だったが、それを聞く表情に変化はない。彼女は静かにおキヌを見ていた。
「でもね――でも――そういうのって、どうにかなったんじゃないかなあって・・・どうにかなるもんじゃないかなあって、思ったんです。ああやって、横島さんが一人で無理するばっかりが答えじゃないんじゃないかって」
そう言っておキヌは視線を落とし俯く。少し間を置いて、もどかしげに、言葉を探すみたいにしながら口を開いた。
「横島さんに距離なんか作らせないで・・・作らないで、一緒に隙だらけになってもみくちゃしてれば・・・そんな事に追い詰められたりなんかしないって・・・何かもう中毒になりそうなくらいベタベタくっついて、振り回したり振り回されたりしてれば――それでもルシオラさんの事を思わない、生きかえらす可能性を考えないってはならないでしょうけど――それでも、もっと余裕を持ってそういうものにだって向き合える様になった筈じゃないですか」
「で―――それをやろうとしたのね?」
ここで美神が始めておキヌの話に口を挟む。おキヌは俯いたままで彼女の問いに答えた。
「だけど・・・出来ませんでしたよ、私。気付いちゃってるんです・・・横島さんを振り回せない、横島さんに振り回されない自分に。ああ、やっぱり私、ここまでだったし、ここまでなんだなあって」
「・・・それが普通よ。何で普通に問題ない人間関係にわざわざ色恋持ち込んでメチャクチャにしなきゃなんないのよ。そんなの、馬鹿げてるわ」
「・・・それが、普通なんですか?」
「そうよ」
顔を上げて再び美神を見つめるおキヌ。
美神の彼女への柔らかな口調にいつもの高飛車さはなかったが、それでも冷静にきっぱりと告げていた。
「美神さんも・・・普通なんですか?」
「そうよ」
「じゃあ、普通じゃないのは、ルシオラさんだけなんですね」
美神は瞬きの後、おキヌを凝視する。
「私も美神さんもみんなも横島さんに普通でしかなくて・・・横島さんもみんなに普通でしかなかったなら・・・あの人だけなんです。横島さんに普通じゃなくて――横島さんが普通じゃなくなるのは。だから横島さんは、そんなあの人がいないという所から始まっちゃったものを、あの人がいるという所で終らせるしかなくなってっちゃったんです。あるいは―――」
おキヌは言葉を続ける事なく黙り込む。美神にも今彼女が何を言い掛けたのか、そして何故黙ったのかは容易に窺い知れた。
横島のもう一つのゴール―――自分自身もいなくなるという所――それは現在、ロジカルな言葉遊びでも何でもない、現実においてより高い可能性の一つに過ぎなかった。
「だから・・・横島さんのその思いには、もう誰も交われないんです」
最悪の可能性を省略した上で再び口を開いたおキヌは、同時にそっと上半身を起こした。
美神を見つめながら片膝を引きつけ、ベッドの上で横座りになる。
一度、深く息を吸い込んでから彼女は言った。
「後は―――――美神さんだけなんです」
「え・・・?」
ふいに名指しされ少し狼狽する美神。おキヌは横になっていた時同様、どこかぼんやりした様子で美神を見ていたが、その目には先程までとも違う強く訴える眼光がある。
「な・・・何、が・・・?」
「美神さんだけなんです。今、あの横島さんにぶつかって行けるかもしれないのは・・・振り回して振り回される事が、思い切り突っ走って、全力で試す事が出来るかもしれないのは・・・もう、美神さんしかいないんです」
「ちょ・・・ちょっと、待ってよ・・・何でそこで私なのよ?」
「だって、美神さんだけだもん。まだ何もしていない――自分の気持ちに向き合ってさえいないのは。うまく片付けばそれで良いなんてのは、考えであって気持ちじゃありません」
「子供みたいな事、言わないでちょうだい」
即座の返事。強めに返すと美神は椅子を立ち、おキヌに背を向けた。
「正しい答えがあるのに、それを無視して気持ちだけで動くなんて・・・子供の我侭でしかないわ。アンタくらいならともかく、いい年した大人がする事じゃないの」
「じゃあ、そういう事はしない美神さんは、どんな大人だって言うんですか? 大人でも――色々見えてる大人だからこそ、そうするのが必要な時があるって話をしてるんですよ・・・」
一歩踏み出そうとした足が止まる。
美神が振り向くと、ずっと彼女を見据えていたおキヌが言った。
「私から見れば・・・・・・そんな事も分からないで意固地になってばかりいる美神さんの方が、よっぽど子供です」
「――――――ッ!!」
子供呼ばわりされて、美神は反射的におキヌへ右手を振り上げていた。
頭に一挙に血が上り顔中が熱くなるのを感じる。
平手打ちを予感したおキヌは一瞬だけ両目を瞑り肩を竦めるが、すぐに彼女をまっすぐ、射抜く様に見つめ返す。
視線を受けた美神の手は宙で止まり、ゆっくりと降ろされた。
無意識の内に踏み込んでいた足を後退させる。
「美神さん・・・・・・」
おキヌはもう一度、美神へ呼び掛ける。呼び掛けながらベッドから降り、その手前にすっと立った。
「私、こうしてみんなといられるのも、あと僅かなんですね・・・」
そう言って少し寂しげに微笑う。
「本当は離れたくない・・・でもやっぱり、私が決めた事だから」
「・・・・・・」
「だから・・・もう、少ししかないから・・・いなくなっちゃうから・・・・・・美神さんと横島さんをこのままにしては行けません」
「おキヌちゃん・・・」
「私の気持ち、きちんと届けないと・・・私の知ってる、私の大好きな美神さんと横島さんが、気持ちをぶつけ合って出す答えを見届けないで・・・・・・・・・私の心は、ここから一歩も旅立つ事が出来ません」
そこで一旦言葉を切り、おキヌは窓から指す微かな光にちらっと目を向けた。そして美神へと向き直り、その視線を捉え、一回小さく頷いてから言った。
「だから美神さん・・・一度だけ、走って下さい。まっすぐに・・・なりふり構わず」
「そんな事言っても・・・そんなんじゃないのよ・・・私も、アイツも・・・アイツだって、もう・・・」
どこか眩しそうにおキヌを見ながら、困惑した表情で美神が答えた。
その脳裏に浮かぶのはさっきの情景――あの横島の顔、これっぽっちも彼女を映す事のなかった目。
そして彼女自身の判断。神内を選ぶべきだという正解。
しかし、その返事を聞いたおキヌは首を横に振り、少しずつ美神へと近付いていた。
「今、一番大事なのは、美神さんにとっての横島さんなんです。例え横島さんが美神さんを見ていなくても、美神さんが横島さんを見ているなら・・・今更、違うなんて言ったってだめです。そんなの私には通用しないんですから――私、ずっと一緒にいたんですよ? ずっとみんなと一緒で、ずっと見て来たんですから」
おキヌは美神の一歩前まで来ると、両手を広げ上半身を傾いで、がばっとその胸元に抱き付いた。
「きゃっ・・・ちょっと!?」
えへへ、やっと言えました・・・これで、眠れるようになりそうです。
美神の胸に顔を埋めながらおキヌが小さく呟く。
分かってたんですよ。美神さんが、他の誰よりも横島さんの近くにいるんだって・・・
美神さんが誰よりも強く繋がってるんだって。
だから、美神さんだけが・・・
困った顔のままで美神は、胸元にあるおキヌの頭をポンポン軽く手の平で叩く。
「みんな大好きです・・・美神さんも、横島さんも、シロちゃんも、タマモちゃんも、みんなみんな大好きなんです。今まで――そして、これからも。大好きなみんなに、らしくいてほしいし・・・幸せでいてほしいから・・・」
「・・・私もあのバカに負けず劣らず、おキヌちゃんには心配かけてた、か・・・・・・ゴメン・・・ほんとにね・・・」
「ふふっ、ホントですよぅ。美神さん達といるといつも心配ばっかりなんですから・・・だから、いつもの事だから、良いんです。放っとけなくなっちゃうのが私なんですから」
「おキヌちゃんは・・・きっと・・・誰にもマネの出来ない様なGSになるわ」
「それ、横島さんにも言われたんですよ」
「そう・・・」
おキヌは美神の胸の中で、随分久し振りな顔いっぱいの笑顔を浮かべている。
擽ったそうに、嬉しそうに。
横島達が遂に動く、“運命の日”。その前夜はこうして慌ただしくも静かに更け、そして確実に時を進めていた―――
―――呼ぶ声が、する
私を呼んでいる
私は呼ばれている――望まれている――求められている
―――どこから?
誰から? どこへと? どうして?
そして呼ばれてる私は誰?
私は――それは――どこにいる? いつから・・・・・・・・・・・・いつまで?
時折微かに浮かんで消える欠片
知識? 記憶? こころ・・・
約束―――約束?
お前なの?
そう・・・私を呼んでいたのはお前なのね・・・・・・・・・
「夕方過ぎには解除に移れるわね」
「はいっ、外周包囲率91%、内部浸透率88%・・・午前0時前には跡形もなくなってるでしょう。人数分の仮眠テントは必要ありませんでしたな」
晴れ晴れとした顔で部下の捜査員が答える。美智恵は霊波遮断シートで覆われ始めた廃墟の外観に目を向けた。
現在、午前11時過ぎ。オカルトGメンは倒壊した対策本部のプレハブをそのままにして、急ピッチで結界の総仕上げを進めていた。無線や会議スペースは急遽取り寄せた大きめのテントに放り込んである。
6割のメンバーが結界の作業に取り掛かり、残る4割が横島達の侵入に備えホテル周辺の警備に当たっている。昼過ぎにはその人数比は逆転する事だろう。
美智恵は視線を戻し、今度は隅の方で携帯を耳に当てたままずっと押し黙っている西条を見る。彼女は彼に近寄って問い掛けた。
「どうしたの?」
「・・・・・・ピートが、電話に出ないんですよ」
「買い物か何かじゃないの? 現在、彼に行動制限は掛けていないわ。携帯の方はどうなの?」
「電源が切られているか、圏外です」
「で、今、彼に何か急ぎの用事でも?」
「まあ・・・」
西条は曖昧に答える。美智恵はそんな彼を少し眉を顰めて見るが、少し考え込んでからこう言った。
「じゃあ、少し都内に戻ってマンションとか唐巣先生の教会とか・・・目立たない様に確かめて来たら?ちょうど私も誰かに頼みたい事があったの」
「大丈夫、でしょうか・・・それで、頼みとは何を?」
「令子を呼んで来てちょうだい。仕事が入ってるなら、何とか夜過ぎには来れる様、調整させて」
「令子ちゃんを?何故、急に・・・」
「神内氏の消息が掴めない。神内グループの代表会議に出席したとの情報もあるけど未確認だわ・・・令子と接触している、あるいはこれから接触するとも考えられる―――それにね、やっぱり、今夜はあの子を立ち合わせたいの」
納得して西条は頷く。確かに、今日の作業――全ての終わりとなる――を彼女を置き去りで行うのには彼としても違和感があった。
「間に合わない様でなければ一日かけても良いわ。但し、30分おきで提示報告を」
「了解しました、先生」
― ・ ― 次回に続く ― ・ ―
今までの
コメント:
- いよいよ大詰め。それぞれの想い、思惑がどう帰結して行くのか、読んでいて気が昂りますね。毎度ながら惹き込まれる文章、お見事です。 (kurage)
- おお……! 遂に動きましたか。
ストーリーも佳境に入って、大きな動きを見せたようで。今まで感想付け辛かったのですが、この機に投票を。
神内さんがいつへたれるかドキドキしながら読んでいるのですが、案外……? 物語の終わりはどこに向かうのか、全く先が読めません。クライマックス、期待しております。 (竹)
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