動き出した歯車〜第六話〜
投稿者名:アハト
投稿日時:(05/ 5/17)
動き出した歯車
第六話『ラグナロク〜神々の黄昏〜・3』
美神たちが横島が攫われたという話を聞いてから一時間。
基地は、ほぼ壊滅状態であった。
機材などはまったくの無傷だが、人員のほとんどが病院送りとなっているからだ。
今、美神たちと話をしている美知恵も例外ではない。
包帯をいたるところに巻いていて、多少痛々しく見える。
「ママ、現状はどうなの?」
「ほぼこの基地は、死んだといってもいいわ。」
美知恵は、美神の質問にこめかみを押さえつつそう答えた。
十分に考えられる状況では在るが、こんなに早くやって来るとは予想しなかったのだ。
アシュタロス戦役での経験があるぶん、油断をしていたのかもしれないと美知恵は悔やんでいた。
「ところで、横島はどうなったの?」
「そうでござる!せめて所在くらいは……」
美知恵は、シロとタマモの質問に美知恵は顔を上げると不適な笑みを浮かべる。
「まぁ、最悪の状況を想定してとりあえず、横島君には発信機をつけてあるわ。」
「横島さんの了承は、取ったんですか?」
おキヌは、なんとなく気になり美知恵にそう尋ねた。
しかし、美知恵は答えず話をそのまま進める。
「横島君の反応は、ここから西に20kmほどのところで消えたわ。」
「消えたってことは、異次元にでも拠点を構えてるってこと?」
何事もなかったかのように話を進める美神親子を見て、おキヌ他三名は”この親子って一体”といった感想を持った。
それは、ともかくとして横島が消えた場所とその居所について話は進んでいく。
「異次元というと……厄介だな。」
「そうね。場所の特定、異次元へ続く門の突破。難題が多そうね。」
美知恵が、溜息をつく。
結局、横島の修行が中途半端なところで終わってしまったのを危惧しているのだ。
横島と美神の合体攻撃は、対魔神用最大の切り札なのだから。
もっとも、パートナーを現状の霊力に見合った人に代えれば合体はできる。
ただその場合だと、コンビネーションなどの問題がでてくる。
「そう言えば、横島今頃、何やってるのかしら。」
「それは、心細くておんおん泣いてるでござるよ。」
シロの言葉に、ありありとその光景が思い浮かんでくるが。
美神は、苦笑いを浮かべたまま
「横島君は、人外に好かれる体質だし。敵もそう簡単に殺したりはしないでしょ。」
「あの横島君のことだ……きっと馬鹿をやっているに違いないさ。」
二人の返答に他のメンバーは、苦笑いを浮かべるとともになぜか安堵の表情を浮かべてた。
一方、横島はというと
「こっからだせー!!!俺が何したいうんやーッ!!!」
「うるさい!そこで、じっとしてろ!」
牢屋……というよりは檻に入れられていた。
イメージとしては、ケージが近いだろう。
その前には、うんざりとした表情の男性型の魔族が、牢番として控えている。
心情は、猿の飼育員そのものだろう。
「大体、俺を利用するために連れてきたんだろうが!連れて来るなり此処に放り込むなんて、どんな了見やーッ!!!」
「黙れといっているのが聞こえないのか!」
牢番の忠告を聞かずに騒ぎっぱなしの横島。
牢番は、そろそろ我慢の限界に達してきたのか額に青筋を立てていた。
そろそろ、牢番の堪忍袋の緒切れるというところで、尋ね人が現れた。
「横島を引き取りにきた。」
「やっとか。さっさと連れてってくれ。」
訪ねて来たのは、他の下級兵であった。
横島は、牢から出されると手錠をつけられて廊下へと出た。
「どこに行くんだ?」
「司令室だ。」
横島の問いかけに下級兵は、そっけなく答える。
横島は、無愛想な兵士に対し少しむかついたようで
「もっと愛想よくできんのか?」
自分が上層部に必要とされている事がわかっているため強気に出れるのだ。
もっとも、相手にとってあまり関係のないことではあったが
「無駄口を叩くな。黙らんとつぶすぞ」
しかし、下級兵は、やけに冷たく目を血走らせてそんなことを言った。
そのやけに迫力のある言葉と気配に流石の横島も黙り込んだ。
しばらくすると、豪勢な扉が見えてきて
「横島忠男を護送してまいりました。」
「よろしい、では横島を通してくれたまえ。」
中からの返事に下級兵は、”了解”と返すと横島の襟首を掴むと扉を開け放り込んだ。
放り込まれた横島は、うつぶせの状態で倒れこみ、つぶれたカエルのような声を出して、舌をかんだ。
「ひててて……」
「ようこそ、横島君。」
横島は、反射的に声のした方向を見ると。
そこには、ビデオで見たロキの姿があった。
ロキは、玉座と思しきものに座っており、首からは蛇足元には狼を侍らせていた。
横島は、”趣味悪りー”と心の中でひそかに思うのだった。
それは、ともかくとして立ち上がるとロキを睨みつけて
「とりあえず。ルシオラを返してくれ……話はそれからだ。」
「ルシオラ?ああ、あの霊破片のことか。」
ロキは、横島の言葉を聞くと少し悩んで手を打った。
横島は、ちょっと頭に来たようだが、敵の棟梁の前なので、一応神妙にしている。
ロキは、ヘルを呼びつける
「ヘル。ルシオラを連れてきてやってくれ。」
「わかりました。」
横島は、いぶかしんだ。通常なら”持ってくる”というのが正しいだろうに、ロキは”連れてくる”といったのだから。
しばらく、ロキ相手に、にらめっこをしているとヘルがやってきた。
後ろに、ローブを着た奴を従えて。
「では、横島。彼女を紹介しよう。いや、する必要はないか」
「…………」
ロキの口元がゆがんだ。必死に笑いを堪えているように。
そう、それは悪魔の笑みだった。
ロキが紹介しようと言ったとき、ヘルがローブを取り払った。
そして、そこから出てきたのは……
「る……ルシオラ?そんな、まさか……」
「くくくく、愛しのルシオラに逢えた気分はどうだ?」
ローブの中身はルシオラそのものだった。
姿・形・容姿何から何までルシオラだった。
ただ、忘れてはいけない。ルシオラの魂は、あとわずか足りなかったのだ……
つまり、彼女はルシオラではありえないはずなのだ。
横島は、頭ではそうわかっている。
だが、目の前にいるルシオラが本物だと信じたくもあったのだ。
「……いや、そいつはルシオラなんかじゃない。」
「ほう、なぜだ?」
ロキは、少し以外な表情を浮かべると横島に聞き返した。
横島は、冷え切った視線でルシオラを一瞥するとロキを睨みつけて
「ただの直感だ。」
横島の返答を聞くとロキは、高笑いをあげた。
いきなり高笑いをあげたロキを見て横島は、瞬間的に退いた。
しかし、逃げるわけにも行かず理性で無理やり本能を押さえつけた。
「くくく、俺の予想をことごとく裏切ってくれるなんてな。
お前は、いい玩具になりそうだ。」
「が、玩具!?」
もののたとえであろうが、物扱いは少し嫌な横島だった。
美神だって、横島の人権はほぼ無視していたがとりあえずは人間としてみてくれていただろうし。
「お前が、言うとおりこいつはルシオラの姿をした別のものだよ。」
ロキが、そういうと先ほどまで無表情のままだったルシオラの顔に表情が現れた。
それは横島への憎悪とも取れるものだった。
同族嫌悪それに極めて近いものかも知れない……
「…………」
「こいつは、お前の思念体の一部と霊破片を使って作ったものだ。」
横島は、自分に向けられる憎悪に少なからずへこんだ。
しかし、ロキの台詞を聞けばそれは、驚きに変わった。
つまり、あの夜横島を攻撃したのは、ルシオラだったということだったのだから。
思念体というからには、自分と同じ姿を想像していたのだから、衝撃は大きい
「何で、ルシオラの姿にした……」
「そのほうが面白いから……ではいけないか?」
横島は、ロキの台詞を聞き、目に激情の炎をともした。
もっとも、ロキはそれを正面から受け極平然としている。
ロキは、横島の心情を見抜き嘲笑を浮かべた。
「それとも、ただの暇つぶしのほうがいいかな?」
「この糞野郎ッ!!!!」
横島は、ロキの付け加えた一言によりぶちきれた。
理性も何もなくしただ、燃え滾る激情をロキへとぶつけようと駆け出す。
文珠で『凍』と『壊』を精製し、ロキとの距離が残り数メートルのときに
『凍』を発動させたのだが
「下がれ!!ロキ様には、指一本触れさせない!」
「エッ!?」
ロキのそばに控えていたルシオラが、文珠で炎を出して冷気を遮断した。
横島は、それに驚き一瞬動きを固めてしまった。
ルシオラは、動きを固めた横島を地面に叩きつけるとそのまま腕を取り間接技を決めた。
「いでででッ!!!」
「壊れては、本末転倒だ。放してやれ。」
「わかりました。」
ルシオラは、多少不服そうにしながらもロキの言葉に従い横島の腕を放した。
横島は、関節技をとかれるとすぐに跳び下がって、背中を壁につけた。
そして、荒れた呼吸を整えていた。
「ヘル、そいつを連れて下がれ。」
「わかりました、ですがこの者の名前を決めないことには……」
ヘルは、ロキの言葉に跪いてそう返した。
ヘルの言葉にロキは、少し悩んだあと名前をつけることにした。
「ルシオラとつけるのは、面白くない……シギュンとでも名付けようか。」
「わかりました。シギュン、いくぞ。」
「失礼いたします。」
ルシオラ改めシギュンは、ロキに向けて恭しく礼をすると、横島を一睨みしてヘルと一緒に出て行った。
横島は、その二人を声も漏らさずに見送った。
「横島、今は強制するつもりはない。だが、いずれは洗脳してでも使わせてもらう。いいな?」
言い訳ない、そう返そうとしたが、歯の根が噛合わず声すら出なかった。
横島は、そのことに気がついたが腰まで抜けていてどうすることもできずにいた。
「まぁ、時が来るまではこの基地を自由に歩いてもいい。
他の奴には、命はとるなと命じてあるから命の心配はないんでな。」
ロキは、それだけ言うとまた笑いをこぼしながらその場をあとにしていった。
その場に残された横島は、すこしのあいだそのまま動かなかった。
「くそ……なんで、こんなことに……」
横島は、力なく床を叩いた。
床を叩いた音は、静寂が支配するこの場に緩やかに浸透していった。
--------------------------------------------------------------------------
あとがき
やっと、第六話……終わりはまだ見えない。
登場人物が増えてきて手に余るかもなんて思ったり。
とりあえず、完結を目標に頑張っていきます。
今までの
コメント:
- シギュン……ロキの妻ですね(ざっと調べた)。すると三角関係に(なりません……よね)?
まさか、こーゆー展開で来るとは、と引き込まれました。なので賛成。
でも、体言止めばかりというのも、句読点が少ないので文章が平板に見えるのも、ちょっと勿体無い気がします。
素材は面白いし、ストーリーも魅力的な流れを見せ始めたのに――これで敬遠されては勿体無いです。
他の作者の方の作品を覗いてみて、文章構成のノウハウを奪ってみてはいかがですか? (すがたけ)
- すがたけさん。コメントありがとうございますw
流石に、三角関係にする予定はないですね。
他の人の作品も結構読んでるんですが、結構難しいもんです……
他の人の文章構成を参考に頑張っていきます。 (アハト)
- 初めまして。Arihと申します。以後よろしくおねがいしますね。
さて。以下コメントです。
展開そのものについてはその後が気になる面白いものだとは思いますが、文を書く上での約束ごとのようなものについては少々改善したほうが良いのではないか、と思います。
まず、?や!の直後について。一文字分の空白を入れると読みやすくなります。
次に、句読点の使用場所。必要と思われるところに無かったり、不要なところにあったりしてます。
そして最後に誤字。これは私もやるので言えた義理ではないのですが、そこそこ見受けられます。
これらは書き上げた後に時間をおいてから一度見直すと発見しやすいので、よろしければお試しください。
ちなみに、似たようなことを第四話にも書いたのでよろしければご覧下さい。
あ、後の方にならないと解消されないであろう疑問点があるので、今回は中立票と致します。ご了承下さい。 (Arih)
- Arihさん、コメントありがとうございました。
誤字脱字は、一応見直しているつもりなんですが、やはりちょくちょくあるようで……今後は、少し時間を空けて見直しをすることにします。
文章の書き方を改善していくので、これからもよろしくお願いします。 (アハト)
- 文章について、他に気になったのは、
>他の奴には、命をとるなと命じているから命の心配はないんでな。」
命3連発です。「まあ他の奴らには、遊んでもいいが殺すなよ、とは言っておいたよ。」などのように重複を避けた方が無難です。
あーあー、ルシオラになんて事を。もーちょい後かと想ってたのになー(予想が外れてちょい悔しいらしい)……ってなロキさんのトリックスタぶりがちょいと楽しみになってきました。 (Iholi)
- Iholiさん。コメント&アドバイスありがとうございます。
今後は、なるべく重複がないように心がけます。
ロキの味をどこまで引き出せるかは、わかりませんが精一杯やっていきますんでよろしく。 (アハト)
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa