ザ・グレート・展開予測ショー

横島君的復讐―1 後半


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 5/28)

―月曜日 午後―

「あのクソ親父・・・!!。
わかっちゃいたがここまで節操無しとは・・・!!」


「節操無し」とは、少年―横島忠夫にこそふさわしい言葉のような気がするが、自分の事は棚に上げ、あっさりと美女をゲットした父親に悪態をついていた。
目の前で実の父親の浮気を目撃(お持ち帰り)してしまったためか、自分との実力(?)の差を見せ付けられたからか、血の涙を流している。
ほんの少し前まで雇い主から嵐のような折檻をうけていたはずだが、そちらの肉体的損傷はすでに消えていた。


「く・・・でもとりあえず今は美神さんに機嫌を直してもらわないとな。
流石に空港からタクシーで帰るような余裕なんか無いし。
ただでさえ昼飯食い損ねてるのに、これ以上の出費は命に関わるよな。」


頭を切り替えると雇い主を探しに関係者用通路から飲食スペースに移動した。
少年の雇い主は、感情面での浮き沈みが激しいタイプだが熱しやすく冷めやすいといった感じで、少年への折檻の後はたいてい機嫌が良い。
少年も経験上それは理解しているので、何事も無かったかのように雇い主を探している。

「あ、いたいた、美神さーーん」

空港内のレストランスペースで雇い主と同僚の少女を見つけると、駆け寄っていった。
予想通り機嫌の直っていた雇い主だが、少年が無理と思いつつも食事をねだると、やはり機嫌が傾きかけた。


「あんたねえ、今日はなんにもしてないでしょうが。
やった事と言えば通路で妄想垂れ流したくらいじゃない。」


少年の雇い主は普通では考えられないくらい金銭に厳しい。少年の時給にしても何と三百円以下である。
一時間働いて牛丼が食えるか食えないかくらいの、あまりに低い給料である。

少年も、駄目もとやったしなあ、と諦めかけていたが、事務所の良心こと同僚の少女―オキヌが助け舟を出してくれた。


「まあまあ、美神さん、横島さんはいつも頑張ってくれてるじゃないですか。
お食事くらい食べさせてあげてもらえませんか?
それに今日だって、重い荷物を運んでくれてたじゃないですか」


オキヌは、少年―横島忠夫に好意を抱いているため、いつも彼をかばうような言い方をする。


「ま、今日の一番の功労者はオキヌちゃんだからね。
わかったわよ、ご飯くらい食べさせてあげるわ。
ほらアンタ!オキヌちゃんに感謝するのよ!?」


オキヌちゃんは甘いとか、こんなやつのどこが良いのかとか、従業員の食事代は税金の控除対象になるはずよねとか、ぶつぶつ言いながらも少年の食事を注文してやる。
金に厳しい彼女も、この無垢な少女のお願いには弱い。


「やっぱりオキヌちゃんはえーコやなぁー」


少年はタダ飯にありつけたので、素直に喜んでいる。
この前の大仕事の時に少女と二人きりになり、良い雰囲気になったのだが、結局怒らせてしまったため、あまり気にしていないようだ。
少年にしてみればキスの一つもできなかったので、あの雰囲気にたいした意味があるとは考えていなかった。
煩悩あふれる彼にとって肉体的なつながり以外に重きを置く事ができないのだろう。皮肉な事に大抵の女性は精神的なつながりにこそ重きを置くものなのだが。
この辺りの価値観の違いが彼が異性と上手くやっていけない原因のようだ。

最も、あの父親のようなとっかえひっかえ女性を交換するような付き合い方を目指している以上、仕方がないのかもしれない。
当然あの父親は女性の心理にも精通しているために、ごく短時間で女性をおとせるのだが、少年がそれを実践するには彼は若すぎた。


「そういや、あんた明日から3日間仕事無いけど、ちゃんと学校行きなさいよ?」


珍しく雇い主からまともな言葉が出る。彼女にしても薄給でこき使える従業員が学生という事を少しは気にしているようだ。
気にするだけで、時給を上げて休みを多くしてやるというような具体的な行動には移してはくれない。


「あ、横島さん。
ご飯作りに行ってあげましょうか?」


本音としては「作りに行ってあげたい」といったとこなのだが、奥手な少女としては押しの強い言い方が苦手であった。
最も少年が断るとも思えないのだが。


「いいの!?
ありがとう、お願いす―――――」


「お願いするよ」、と言いかけて気付く。
今日から1週間『あの』親父がアパートに泊まるのだ。
浮気用に何件かすでにホテルはおさえているのだろうが、普段の寝泊りは少年のアパートを利用するはずなのだ。
母親へ、浮気をしていないという証明のために。

彼の脳裏に映像が浮かび上がる。


純真無垢な少女と女殺しの父親・・・。

生き返ったばかりの少女なぞ『あの』父親にとって相手にならないだろう・・・。

食事を作りに来てくれた少女と父子3人で食事をとる・・・。

食事の中に父親に何かを仕込まれ早々と眠りにつく少年・・・。

それを確認した父親が少女を口説き始める・・・。

そして夜の街へと消えていく父親と少女・・・。

次に少年が少女と顔を合わせたとき『少女』は『女』へと成長していた・・・。



「・・・い、いや、やっぱり遠慮しとくよ。
むしろ1週間はうちのアパートには近付かない方がいいと思うな。
はははは・・・・。」


乾いた笑いを浮かべる少年だが、リアルな未来予想図に全身が細かく震え、瞳からは本日2度目の血の涙を流していた。


「え!?
どうしたんですか横島さん!?
なにかあったんですか!?」


少年の考えなど知らぬ少女はいきなり血の涙を流しはじめた少年に驚いている。
彼が血を流す事は珍しくないが、血の涙はなかなかお目にかかれない。
雇い主の女性もいきなりの血涙に驚いている。

それはそうだ、話の流れからして喜びこそすれ、泣くのはおかしい。

(まずい・・!!
思わず血の涙が・・・・!!
さっきから涙腺が緩んでるような気が・・・
仕方ない、下手な突っ込みを入れられる前に言える範囲の事だけは言っておこう。)

普通の人間は涙腺が緩んでも血の涙は流れない。

しかし下手に突っ込まれて『文珠』を使った復讐計画がばれるのだけは避けたかった。
そんな事になれば、せっかく貯めた『文珠』をすべて巻き上げられるのは目に見えている。

「実は今日親父が帰って来るんです。
んで向こうが『父子水入らずで腹を割って話そうや』って言ってるんで・・・。」

そこまで話した時、意外な言葉が飛び出してきた。


「あら、大樹さんが帰って来てるの?
そういえば、この前食事をご一緒した時『近い内にナルニアから日本に帰ってくる』って言ってたわねえ」


何故か彼女が喜んでいるように見えるのは少年の気のせいだろうか。心なしか口調も柔らかい気がする。


「一週間だけです!!
本社に報告するためらしいッスよ」


話が危険な方向に流れそうな予感がした少年は全力で打ち切る。


「ずっと仕事らしいッスからせめて話し相手にくらいはなってやろうと思いまして。
そういうわけだから、ありがたいんだけどオキヌちゃん。
ご飯は来週からお願いしてもいいかな?」


前回の父親の帰国時、捨て身の妨害工作に打って出たのは正しい行いだったと確信しつつ、さりげなく話を元の流れに戻そうとする。


「はい、そういうことでしたら。
お父さんと喧嘩しちゃ駄目ですよ?」

前回の妨害工作に主犯ではないが参加してしまった少女としても、少年が父親と和解したのが嬉しかったようだ。
真実は全くの逆なのだが。



結局その後はオフの後の予定を確認し、空港を出発するために駐車場に向かった。
その途中、少女が小声で少年に問い掛けた。

「あの、横島さん。
私がさっきレストランで二人を待っていたとき、エミさんが擦れ違ったような気がしたんですけど・・・。
横島さんは見かけませんでした?」

エミさん―小笠原エミ。美神と並ぶ一流GSの一人、呪術のエキスパートの褐色の肌をしたキツイ感じだが美しい女性だ。

少女が雇い主に聞こえないように少年に尋ねたのには理由がある。
彼女の雇い主と小笠原エミは非常に仲が悪い。
何度も仕事で敵味方に分かれてやり合っている。
同じくらい味方同士として仕事をこなす事もあるのだが。

本人達は否定するだろうが彼女達は性格や考え方が似通っている。
そのため、彼女達が仲が悪いのは同族嫌悪のようなものなのだろう。

「それでですね・・・。
エミさんが知らない男の人と一緒だったんで、また美神さんと喧嘩するのかなって思ったんですけど・・・。」

前回エミが連れてきた大男、タイガー・寅吉のおかげで美神が敗北しているため、彼女と一緒にいた男が助っ人なら警戒する必要があると、少女は考えているようだ。

少年―横島忠夫は『エミ(美女)と一緒にいた男』=『あの外道親父』が、脳裏をよぎっていた。
しかし考えてみるとオキヌちゃんなら父親と面識がある上、ついさっき父親の帰国について話したばかりなので、恐らく全く無関係(横島忠夫にとっては)だと考えてよさそうだ。

そもそもエミの術の相性として、幻覚を操るタイガー以上の相棒はそうそう見つからないだろう。
なにより少年は雇い主の実力を信じていた。仮に助っ人でも彼女が遅れをとるとは思えなかった。
なんだかんだ言っても、あの二人は本当のとこは仲が良いのだし、そんなにひどい事態になるとも思えない。

「大丈夫だって。
あの美神さんなら相手が鬼だろうと悪魔だろうと負けっこないって!!」

これは比喩や例え話ではなく事実である。

少女も納得してくれたのか、それ以上はこの話題に触れなかった。
彼女もエミと美神が実は仲が良いことはわかっていたからだろう。

その後は何事もなく事務所に向かい。荷物を降ろし、少年は家路についた。



(よし、今は午後5時か、結構早く帰れたな。
くっくっく、見とれよクソ親父。
帰ってきたら地獄を見せてやるぜ・・・!!)

早速準備に取り掛かる。

(いきなり楽にしてやったのでは生温い・・・!!
まずは普段俺が一番味わっている苦痛を味あわせてやるぜ・・・!!)

少年が普段味わっている苦痛。
すなわち空腹である。
飽食大国の日本においては想像もつかないことだが、彼にとっては実に切実な苦痛である。

以前あまりの空腹さに耐えかねて『文珠』で『飯』を創造したことがあった。
結果は、確かに成功した。自分が思い描いた料理が現れたのだ。その時ほど妙神山で修行してよかった思った事は無い。

『文珠』の効果が切れるまでは。

『文珠』の効果が切れた瞬間、今まで満腹だった胃の中が突然空白になった。おかげで襲い来る飢餓感に加え、胃液の逆流、そして放出と、まさに天国から地獄といった感じだった。

それ以降、彼が『文珠』で食事をまかなうことはなかった。

(まずは手はじめに、あの苦痛を味わってもらうぜクソ親父!!)

自分が自爆しては意味が無いので事前にカップ麺をすすっておいてから、準備に取り掛かる。

(何皿必要かな?
うーん…三皿くらいかな)

『文珠』を3個取り出しイメージを高める。
世界で最も貴重な霊具と言っても良い『文珠』を惜しげもなく3個も使った料理。
原価が億単位になりそうな料理が完成した。

以前仕事で香港に行ったときに食べた料理をイメージしたため、まさに一流と言える中華が皿に盛り付けられていた。

(う、ちょっと豪華すぎたか?。
親父に怪しまれるかもな・・・。
いや、もし何か言われたらオキヌちゃんが用意してくれたと言おう!!。
うん、それで大丈夫だろう!!。
『文珠』で作った料理だから冷める心配も無いしな!!。
前の計算から行くとだいたい4時間くらいは持つはずやから、今6時で・・・だいたい10時くらいか。
ふふふ、寝る前にいい物が見れそうだぜ!!。)



夜8時。
(あれ、遅いな・・・?。
仕事はとっくに終わってるはずだし・・・。
流石に初日くらいは家に帰ってくるよな・・・?。
浮気はすでに朝に済ませてやがったし・・・。)

少年が首を傾げていると、電話機が鳴りだした。
事務所からか、と思いながら電話にでる。


「はい横島ッスけど」

聞きなれた声が返ってくる。

「おー、忠夫かー?。
悪いが仕事が長引いてしまってなあ。
先に飯食っておいてくれ。
俺の分も食ってくれてかまわんからな。
なあに、今日中には帰るからよ」

「・・・ッんな!!
ちょっと待て!!仕事がそんなに長引くわけねェーだろうが!!
そもそもあんた報告して終わりじゃねぇーのか!?

・・・ってまさか!?」

問いただす少年の耳に電話機から耳慣れない声が飛び込んできた。

『ねぇ・・・大樹さ・・・・はや・・・・・こっち・・・・来・・・て・・・。』

女性の甘い囁きのような言葉。どう聞いても仕事中に使う言葉とは思えない。

「はっはっは・・・・忠夫。

父さんは仕事なんだ。

・・・・・・・・お前は何も聞かなかった。

・・・・・・いいな?。


・・・・・プツッ・・・・ツー、ツー、ツー、ツー」

後半はどう聞いても脅しにしか聞こえなかった。

電話越しとはいえ、過去あの父親にナイフを突きつけられた恐怖を思い出し、思わず床にへたりこむ少年。

「あ・・・・あの、畜生親父・・・・!!
初日から二人も落としたのか!?
俺の親父のくせに底が知れん・・・・・・!!」

仕込みが無駄になった怒りと、電話越しに感じた殺気に対する恐怖と、『文珠』を三つも無駄にしてしまった絶望感が混ざり合う。
本日3度目の血の涙が流れているが少年は気付いてない。

精神的なショックで呆然としていると、食卓の上の料理が目に映る。

(うまそうだなぁ・・・・っていかんいかん!!
あれを食って前はヒドイ目にあったんだろーが!!

・・・・香港で食った時のあのアワビにフカヒレ、エビチリ、チャーハン・・・・うまかったなあ・・・・

って駄目だ!!あれを食ったら胃液がえらい事になるのを思い出せ、俺!!
後2時間もすれば効果が切れて消えて無くなるんだから、それまで頑張るんや!!

・・・・で、も、ちょっとくらいなら・・・



・・・・だ、駄目だって!!






・・・・ちょっ、ちょっ、ちょっとくらいならいいよな・・・・)



やはり目先のご馳走を無視できず少し箸をつけてしまう少年。
勿論少し食べた瞬間、歯止めが利かなくなり、全皿平らげてしまった。

大量の食べ物を消化するために分泌された彼の胃液が、大放出されるまで
後2時間。




夜10時少し過ぎた頃。

「よー、忠夫ー!。元気にしてたかァ!!」

よほど楽しんできたのだろう。かなりの上機嫌だ。顔が妙に血色がいいのは飲んだ酒以外にも理由がありそうだ。

「ん?
忠夫ー?いねーのかー?」

声をかけながら狭い部屋を見回すと便所で痙攣しながら胃液や腸液を撒き散らして突っ伏している息子を発見した。

「おいおい、酒でも飲んだのかぁ?
そんなになるまで飲むとは、ガキだなぁー」

はっはっは、と豪快に笑いながら「酒は呑むもんで呑まれるようじゃまだまだ」とか「霊能力に目覚めても相変わらずだな」とか「俺の子どもじゃねーな」とか笑いながら好き勝手言っている。

すきなだけ嬲って満足したのか。

「んじゃ、俺は明日早えーから先に寝るぞ。
ま、動けるようになったら水でも飲むんだな。
それも勉強だぜ、ダメ息子!」

あっさり就寝してしまった。

(ぐはっ・・・!!
胃が、腸が、肝臓が・・・・!!)

今回は『文珠』三個分の料理だったためか、ダメージも三倍だったようだ。


(こ・・・・この、クソ親父!!
人が下手に出てやったら好き勝手ぬかしやがって・・・!!
何としてでも一泡吹かせたらァァ・・・・!!)

最早手段を選ばない事を心に誓う少年であった。










―後書き―
とりあえずキリのいいところまで頑張ろうと思い横島君の1日目終了です。
はい、完全に横島君の一人相撲です。
2日目は横島君から仕掛けていく予定です。

もし固有名詞の間違いがあったら気付かれた方はご指摘お願いします。
気をつけてるんですが、間違って覚えてるのがありそうなので(泣)。

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