ザ・グレート・展開予測ショー

狐少女の将来設計  〜第2話〜


投稿者名:とらいある
投稿日時:(06/ 1/ 4)

目覚ましが寝静まった部屋の中に鳴り響く。
だが、その目覚ましが指し示している時刻は草木も眠る丑三つ時である。
やがて布団の中から伸びた手が煩く鳴っている目覚ましを止めた。


布団から這い出し闇の中をごそごそと蠢く者こそ、この部屋の主である横島忠夫だった。
別にこれから除霊があるわけでもない。
不肖の馬鹿弟子が、まだ街が覚め遣らぬ早朝の散歩を強請りに来るにしても早すぎる。


ノロノロと立ち上がり部屋の照明を灯す。
暗闇に蛍光灯の乳白色の光が降り注ぎ、その眩しさに顔をしかめながら台所に向かいお湯を沸かす準備をする。
これから来る人物は特に熱湯を好む為だ。
水を満たしたヤカンをコンロの火に掛けて、ふと部屋を見渡した。
目の前には混沌という言葉に相応しい亜空間が広がっていた。
とにかく溢れんばかりのもの・物・モノ。


カップ麺の空だったり、如何わしい雑誌だったり、ラベルの貼っていない謎なビデオテープだったり、湿り気を帯びたティッシュ(!!)だったりと様々。
たまにTVとかで報道されているゴミ屋敷さながらだった。
毎回思うのだが、少なくとも人をもてなすような環境では絶対ありえないと力強く言い切れる事ができる。


少し片付けるか、と思ったそのとき・・・


コンコン


不意に、小さいノックの音が部屋に鳴り響く。だが玄関からではない。
乱雑とした部屋を横切り、窓に向かいそしてカーテンを少しだけ開き窓を開ける。
そこには・・・



「こんばんわヨコシマ。入っていい?」



そこには最近頓に顔を合わせる機会が増えたようにも思える狐な少女が横島を待っていた。





          〜第2話〜  ―狐版わらしべ長者―





タマモは横島の返事を待たずに部屋に入ってきた。



「つーか良いとも言ってないのに入ってるし」
「寒いんだから良いじゃない、それとも私に凍えろとでも言うの?」
「誰もそこまで言ってねえよ。寒いんならもっと厚着にしたら良いだろうに」



タマモの服装は桜色の薄手のパジャマだけという非常に簡素なものだった。
木枯らしの吹きすさぶこの季節にその格好は見ているだけで寒々しい。



「しかしあいかわらず汚い部屋ねぇ。とても人をもてなすような場所とは思えないわよ」



部屋を見渡しながら溜息混じりに呟く。



「ここは人をもてなす為の部屋ではないという事を、この際ハッキリ言っておく。つーか気になるなら片付けてくれてもいいじゃん」
「嫌よ、面倒臭いもの」



悪びれずしれっとこたえるタマモ。
最近漸くタマモの性格に慣れたとはいえ、その傍若無人ぶりに横島は顔を引き攣らせていた。
ふと、タマモは窓枠の上に立ったままそれ以上部屋に入っていないことに気づく。



「そんなところに突っ立ってないで、まぁ中に入って座れや」
「そんな場所、何処に有るっての?」
「・・・・・」



言われていることは事実だ。実際に足の踏み場も無いのだから。
だから荒ぶりそうな気を落ち着かせつつ安住エリアを確保する。
局地的に非武装中立地域が出来ると、タマモは漸く部屋に入りその狭い場所に座り込んだ。



「お湯は・・・まだみたいね」



台所に視線を向け、まだ沸かしている最中である事を確認して呟く。
その時ぐぎゅるるる〜という情けない音を耳にした。
音の発生源に目を向けると、横島が恥ずかしそうにお腹を押さえていた。



「昨日の夜から今日の夕方までずっと仕事だったろ?疲れてたから帰ってすぐに寝たんだよ」



いたずらを見つかって、言い訳をしている子供のように見える。
タマモの目にはそんな横島がちょっと可愛く映った。



「夕食摂ってないんだ」
「あぁ。家に何も無いって分かっていたんだが、食い物買って帰るのも億劫だったからな」



ぼやくように横島は答えた。腹の音を抑える為か、しきりにお腹を摩っている。



「そんなことだろうと思って・・・じゃ〜ん」
「おおぅ!それは」



さっきまで手ぶらだった筈なのに何処から取り出したのか、なんて無粋な事は聞かない。



「今日は○ん兵衛のキツネうどんと、キツネ蕎麦の2個セットよ。でも油揚げは両方とも私のだからね」
「いつもサンキューなタマモ。でも偶にはこってりしたラーメンも食べたいなぁ、なんて思ったり」
「油揚げの入ったラーメンがあれば考えても良いわよ。あら沸いたみたいね」



タマモがお湯を取りに行っている間に、横島はカップ麺の包装を剥がし、粉末スープとかやくをあける。
程無くしてヤカンを携えたタマモが戻ってきてカップ麺にお湯を注ぎ、手近にあった物を蓋に乗せて暫し待つ事5分間。
その間二人は最近の話題や、横島が居ない時の事務所での遣り取りの内容を語り合う。


やがて話の内容はタマモがなぜ毎日こんな時間に来るのか、という話題に移った。



「仕方ないじゃない、もともと私は夜行性なんだから」
「来られるほうの身にもなってみろよ」
「じゃあ来ないほうが良かった?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」



強気のタマモとは対照的に、途端に口ごもる横島。
その理由はタマモが今日のみならず、毎夜カップ麺を持参してやってくるからあまり無下にできないのだった。


日参もとい、夜参し続ける切っ掛けにもなったあの夜。
夜眠れなくて散歩のついでにコンビニで買ったカップ麺を手に周辺を散歩して、気付いたら横島の家の近くだったそうだ。
興味本位で横島の家に行った所、部屋の電気が点いていたから冷やかすつもりで来たらしい。
その時も横島の盛大な腹の音の出迎えがあった。
そしてお腹を空かせた横島に手に持っていたカップ麺の『麺だけ』寄越したことが発端だった。
以来、毎夜欠かさず訪れている。


油揚げはタマモ・麺は横島という役割分担も変わりない。
タマモ曰く『欲望と美容の間を摂った適切な配分』らしい。
夜食に油揚げは食べたい。だけど麺も食べるとカロリー過多。
かといって麺を捨てるのは勿体無い。


横島にとっては大いに助かっていたが、タマモの真意がよく分かっていなかったから、正直不気味でもあった。
だがタマモは事務所でも普段通りのそっけない態度のままだったし、横島もあまり皆に知られてはいけないような気がしていたので普段通りに接していた。
だが、ここでは違う。圧倒的に立場が上なのは間違いなくタマモの方だった。



「そもそもなんであの時は起きていたのよ。明かりがついていたから来たのよ?」
「うっ、たっ偶には起きている事だってあるわい。純粋な青少年にありがちな悩みとか、葛藤とかで眠れなかったりするもんだろう?」



言い訳する横島を無言で見つめるタマモ。
その無言がなんだか怖い。
やがてタマモがボソッと呟く



「(ぼそっ)水着巨乳美女」   『びくっ』



タマモの言葉に激しく反応する横島。期待どうりの反応ににやけるタマモ。



「水着巨乳美女だらけの、もみくちゃプール大運動会IN沖縄」   『ダラダラ(脂汗の流れる音)』



タマモはにたぁと邪笑を浮かべつつ、最後に横島の耳元で囁き止めを刺す。



「ポ・ロ・リ・も・あ・る・よ」   『///(赤面)』
「前番組が時間延長のせいでずれ込んだんだもの、しょうがないよ」
「生暖かい目で見んといて」



傍から見ていて滑稽な位に取り乱す横島。
サディスティックな笑みを浮かべながら、更に追い討ちをかける。



「まっ純粋な『性少年』だからしょうがないよね」
「慰めの言葉なんて嫌やぁ」



年端の行かぬ少女の言葉責めという羞恥に耐え切れず、わっと泣き伏す横島。
予想以上の反応に額に大きな汗を浮かべるタマモ。



「ホラ、泣かないの」



泣き伏す横島の頭の上に手をそっと載せて優しく撫で回す。



「お腹が空いてるから情緒不安定になっているのよ。だから一緒にご飯食べて落ち着こうよ。ね?」
「うぐっ、えぐっ・・・うん」



愚図る横島をよしよしとあやすタマモ。
第三者から見れば漫才じみたやり取りの中、5分間などあっという間に過ぎ去っていった。






「ずぞぞぞ。タマモ、麺は俺のだからな。食すなよ」
「はむはむ。ケチ臭いこと言ってんじゃないわよ、誰の差し入れと思っているのよ」



一応二人の間にある『横島は麺』『タマモは油揚げ』という境界線。
それは、お互いに不変にして侵されざる権利であった。



「ああっ!私の油揚げ齧られてるっ。人に食べるなって言っておいて!」
「す、少しくらい良いじゃないか、今日は二枚もあるんだし。って!だからって俺の麺を食べるな!!」



・・・しばしば破られたりもするが



「ふぃ〜喰った喰った。ごちそーさん」
「お粗末様。でも、やっぱりチヱさんの所のお揚げとは違うわね」
「即席麺になにを求めているんだか」



大体毎日同じ味に何で飽きが来ないのか?と思わず言いそうになるが、こちらは半ばヒモに近い状態なのであまり大きなことは言える立場ではない。
ヒモはヒモなりに自らの立場を弁えているつもりだ。これぞ超ヒモ理論←チガウ



「でもまぁチヱさんの所の油揚げは確かに美味しいよ。それに、あそこのオカラは良い物だ」
「へぇ〜。で、オカラってなに?」
「はぁ?ってそうか、生まれて一年たってないんだったっけ」



そこから横島のオカラ談義が頼みもしないのに始まった。



オカラとは言うまでも無く日本特有の食品の一種。豆腐を製造する過程で、大豆から豆乳を絞った後に残ったものであるということ。

繊維質を多く含み、火を通して食べることが多いということ。

本来が廃物であるところから、値段はごく安価で庶民的な食品であるということ。

場合によっては豆腐屋が無料で分け与えたり、捨てたりすることが江戸時代から古くあるということ。

現在では食品としての需要が供給に追いつかず、また日持ちがしないため家畜の飼料として一部を活用される他はほとんどが廃棄されているのが現状だということ。



以上、いかにシトワイヤンの為の食材と言っても過言で無いという事を、延々と話していた。

(フリー百科事典・ウィキペディアより引用)




「へ〜そうなんだ、知らなかった」



途中からどうでも良くなり棒読みで答える。
適当に相槌を打ちつつ『今度チヱさんから貰ってきて、おキヌちゃんにどう調理してもらおうか』と考えていた。
参考程度に、横島の調理方法を知りたくなった。



「で、ヨコシマはその『オカラ』を使ってどんな料理を作るの?見たところ・・・」



チラっと台所に視線をあわせるタマモに、横島もつられて台所に視線を向ける。
なんというかそこは、混沌の世界だった。



「とても料理できるような感じじゃないしね」



どんなに素晴らしい材料でも、あんなところで作られるんじゃ材料が泣くというものだろう。



「まぁ料理って程じゃないんだがな。米と一緒に炊くんだわ」
「炊き込み御飯なんだ。で、味付けは?美味しいの?」



チョットだけ興味が湧いてきた。



「美味い不味いの話じゃなくて、いかに安く腹を満たしてカロリーを摂るかが問題だからな。一緒に炊けばご飯が要らない分、米代が浮くし嵩もふえる。なんつったってオカラは只で手に入るし」
「・・・悲しいわよ、それ。一応給料貰っているんでしょ?」
「食費に金を掛けれるほどブルジョワじゃないんだよ」



聞かなきゃ良かったかも、そうタマモは思い始めた。



「大体お前、美神さんからお小遣いを貰っているんだってな。いくらかは分からんがあの人の事だ。そんなくれるのか?」
「・・・・・」
「それ考えたら、あの美神さんが俺に給料を弾むわけないだろう?」



タマモは横島の貰っている給料の額を知らない。
だが自分のお小遣いから鑑みるにそう貰っているとは思えない。
どんよりとした空気が二人の間を満たす。



「「 ハァ〜 」」



二人して盛大な溜息をつく

幸せが3ポイント減った―――――ような気がした



「ま、まぁそれは置いておいて」



考え出したらキリがないほど深みに嵌りそうな気がしたので話題を変える。
異存がないのか、タマモの強張っていた表情も少し和らぐ。
人、それを現実逃避という。



「いつも持参してくれているこのカップ麺。タマモが買ってくれているんだろう?」



量販店の安売りの日に箱で買っても、毎日となると馬鹿にならない。
タマモの少ない(であろう)小遣いから捻出されているのかと思うと申し訳なく思う。



「まぁそんなところね」
「なんだかたかっている様で済まないな」



タマモは無言で手をヒラヒラと振る。
あんまり気にするな、ということらしい。



「今度埋め合わせするよ。といっても給料が出た後の話だがね」



予想外の申し出にタマモは素直に驚いた。
そして考える素振りを見せた後、納得したのかしきりに頷いている。



「なるほど、ヒモにもヒモなりのプライドがあるって訳ね」
「誰がヒモか! 失礼な!」
「似たようなもんじゃない。そうねぇ・・・それだったら今度デジャヴーランドに連れて行って欲しいなぁ」



しなを作り、ちょっと甘えた声で催促する。
横島は一寸だけ、ほんのチョットだけその仕草にドキッとさせられた。



「なんか割りに合ってないと思うぞ」
「埋め合わせするって自分から言い出したんじゃない」
「今迄の累計したって入場券が買えるかどうかじゃないか」
「もう、この甲斐性なし」
「何とでも言え」



無いものは無い、と言わんばかりにフンッと鼻を鳴らしながら居直る横島。
だがタマモにはまだ妙案が残っていた。



「半年に一度メンテがあるでしょ?その時フリーパスが貰えるじゃない」



タマモが言っているのはデジャブーランドの定期検査の事だ。
あの事件以降、デジャブーランドは霊を使ったアトラクションを前面に押し立てて急速に業績を伸ばしていた。
当初は、また暴走するのではないか?という意見が出て計画は一時頓挫するかのように見えた。
だが、ここまで資金を投入して全く成果が上がらなかったとなると、責任者の何人かは確実に首が飛ぶ。
結局、試験的にという意味合いで厳重に厳重を重ね期間限定で公開した。


結果は大好評だった。寧ろ期間限定だった所が批判された。
肌ではなく魂越しで感じる恐怖を感じるアトラクションなど他に無く、そして束の間ではあるがヒーロー・ヒロインを味わえるのだ。
デジャヴーランドの上層部も効果的と見たのか


ただし夢を売る仕事上、夢を自ら壊すわけにはいかない。
そのため高価ではあるが専門家であるGSの監修と調整の元、運営され続ける事となった。
で、誰が一番得をしているのかというと、間違いなく美神の一人勝ちであろう。


調整などといっても、実際はお札の貼り替えだけである。オカルトアイテムに知識の浅い横島でも問題ない。
そのお札も、以前ほど酷くはないが相変わらず安価なお札で済ませ、高い報酬を受け取っている。
しかも、喧騒な場所があまり好きでない美神は、専らその作業を横島に行わせていた。
勿論報酬はビタ一文残さず彼女の懐に収まっていたのは言うまでも無い。


フリーパスはその時の調整時にデジャブーランドの方から支給される。
高い報酬を支払っているにも拘らずフリーパスを提供している所、サービス精神は一級品なのだろう。



「ん?じゃあ作業後に貰ったやつをタマモに渡せば良い訳だな」



調整作業の後、入れ違いになれば自分の懐から出費が無いことに気づきホッとする横島。
だがタマモの意図はそうではなかった。



「そうじゃなくて、私の分のフリーパスもヨコシマが買うの」
「なんでだ?」
「そうすれば二人共アトラクションを楽しむ事が出来るでしょ」
「?俺は別に遊ぶつもりはないぞ」



実は横島はフリーパスを受理するものの、アトラクションは全く利用していなかった。
何が悲しゅうて男一人で遊ばなきゃならんのか、という事である。
ナンパしようにも周囲はカップルばかりなので切っ掛けすらない。
そのせいで居心地も悪いわ、腹が立つだけだったのでいつもすぐに帰っていた。



「楽しむのは一人でもできるだろ?お前だけ行ってこいよ」
「馬鹿ね。一人で面白い筈ないじゃない」
「そんなもんかね」
「そういうものなの、とにかく約束だからね。とりあえず今日はもう帰るわ」



再度確認しつつ窓を開ける。
ヒュウと冷たい風が室内に入り込み、横島は思わず小さく身震いする。
だが薄手の寝巻きしか着ていないタマモは辛そうだった。



「ちょっと待ってろ」



その様を見ていた横島は押入れを開け、中をゴソゴソとあれでもないこれでもないと引っ掻き回している。
やがて一着のくたびれてはいるものの純白のセーターを引っ張り出した



「やるよ。本当は羽織る物があれば良かったんだが、こんなのしか無かった」



埃を払いタマモに手渡す。
タマモは受け取ったセーターを暫し眺めていたが、やがてイソイソと着はじめた。
タマモにはちょっと大き過ぎたようで、だぶつき袖もはみ出てはいるが、よく似合っていた。



「・・・暖かい」
「だろ?安売りで買ったんだが中々良い物だろ」
「ううん。そうじゃなくて、心が暖かいの。ヨコシマの気遣いがね」



大きくかぶりを振りながら満面の笑みを浮かべるタマモに照れているのか、横島は視線を微妙にずらし、頭を掻いていた。



「でさ、そのぅ。これでデジャヴーランドの件はなんとかなりませんかねえ?」



あくまで低姿勢に尋ねる。
だがタマモは笑顔を保ったまま頭を横に振って拒絶の意を示した。



「フフフッ、駄〜目♪それとこれとは別よ?」



タマモの目が本気である事を告げている、諦めるしかない。



「ちぇ、しっかりしてら」
「義務と好意は別物よ。でも本当にありがとう。」



わざとらしくいぢけてみせる横島に釘を刺しつつ、お礼を述べた。
横島もしょうがないといった表情を浮かべている。まんざらでもないようだ



「じゃあ、帰るね」
「おう、気をつけろよ」



タマモが窓から外へと出ていった後の開け放たれたままの窓を暫し見つめていたが、冷たい風が入ってきたので閉じる。
窓を閉じた時の乾いた音が不自然なほど室内に響く。



「しっかし何でまた毎夜の如く来るのかねぇ」



独り言を呟きながら窓の鍵を閉めカーテンを閉じようと手を伸ばす。



「まさかこの俺の魅力に参っちゃったってか?忠ちゃん困っちゃ〜う」



虚しい風が室内を通り過ぎ、室温が更に低下した・・・様な気がした。
再度、窓の鍵を確認するがちゃんと施錠されている。
うん、多分気のせい。



「・・・寝るか」



タマモのお蔭で腹も膨れた。
端に寄せていた布団を敷き直して照明を落とす。
瞼を閉じると今日一日のタマモとのやり取りが思い起こされる。


最近になって事務所でタマモとの会話も増え、一緒にいる時間が増えたような気がする。
というより、事務所ではタマモと一緒の時間のほうが他の皆よりも長いようにも思える。
その上家に帰ってもタマモと一緒になっている。
近くに居るのがあたりまえのように思えるのも気のせいでは無いだろう。実際そうなのだから。


でも何故だろう?なんで急に身近に感じるようになってきたのだろうか?
タマモが仲間に加わった後もあまり自分とは接点がなかった為、会話らしい会話など無かった。


タマモは自分の益になること以外は一切手を出さない。
逆に不利益を蒙りそうな時に陥った時には、全力で対処・回避する。
何かしら理由があるからこそ、自分にくっついているのだろう。だがそれが分からない。


分から・・・ない・・・・・。


そのまま睡魔に襲われた横島は、それに抗う事無く深い眠りの底へと沈んでいった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




フッと明かりが消えるのを見届けて、タマモは満足気味にその場を後にした
計画は順調に進行しつつあることを確信した。
少なくとも自分のしている事は徒労には終わっていない。


たまたま立ち寄ったらヨコシマの部屋の明かりが点いていたから寄ったと言うのはウソだ。
カップ麺を片手にヨコシマが起きていないか毎晩、家周辺を徘徊していたのだ。
当然おくびにも出さなかったが。


デジャヴーランドの件は実は以前から計画はしていたものだった。
ただ、どうやって持ち掛けるかが悩みどころだった。
一人で出来る除霊作業の所に、美神が二人も派遣しようとするわけが無い。


だから今回の事は、まさに渡りに船であった。
ヨコシマの申し出をそれに活用させてもらった。
咄嗟の話に、すぐ思いついたところは我ながら天晴れだったと称賛を贈りたい。


自分からヨコシマに擦り寄るのではなく、ヨコシマから自分の方に擦り寄ってくるような構図を築きたい。
そのために自分という存在が常にヨコシマの日常の一部に溶け込むように、自分が居ない事が非日常となるようにする為に接触を続けているのだ。


そして今回それとは別の収穫が非常に大きかった。


まず仕事絡みとはいえ、実質横島とデジャヴーランドにデート行く約束を取り付ける事が出来た事。
そしてもう一つは―――


「ヨコシマの匂いがする」


横島からセーターを貰えた事だった。
横島に包まれたような心地よく、幸せな気分のまま家路につく。


狐の狩りは頭脳戦。即効性はなくとも後に確実に効果が発揮されるのだ。
誰にもこの思いを気づかれずに、既成事実を築きあげる。
気づいたときにはもう手遅れ。ヨコシマも含め、その周囲の人間も二進も三進も行かない筈なのだ。
美神やおキヌちゃんや馬鹿犬の悔しがる顔が眼に浮かぶ。


「クックックッ」


薔薇色であろう将来の事を妄想し、タマモはほくそえんでいた。


だが今日のこの日の出来事が、これから起こる全ての引き金になった事を後に述懐するのであった。







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