ザ・グレート・展開予測ショー

チルドレンとの1年-03_前 (絶対可憐チルドレン)


投稿者名:進
投稿日時:(05/ 5/28)

バベル ザ・チルドレン用待機室 −秋−

 夏以来訓練時間も減り、チルドレンにも暇な時間というものが増えてきた。そんなとき彼女達が何をしているかというと、待機室でダベっているか、皆本にちょっかいだしにいくかなのだが、今日は珍しく、真剣に何かを話し合っていた。
「いいか諸君、今我々が解決すべき問題としてだ、皆本のクソうざったい格好について、どうにかしなくてはならない!」
 薫がテーブルを叩きながら、そこまでを言った。そして周りを見回す。そこに居るのは葵と紫穂だ。
「・・・と思うんだけどどーよ?」
「まーたしかに、ちょっとうっとーしいと思わんでもないわなあ」
 皆本の格好は、いまだにグルグルメガネにボサボサ頭、だぶついたスーツのままであり、一緒に居ることが多い彼女達としては、何とかして欲しいと思っていた。服装など、最近涼しくなってきたのでスーツを着替えるだろう思っていたところ、確かに衣替えしてきたのだが、その新しく着てきたスーツもまたダブついているのである。葵が「それはワザと着とるんかい!」と突っ込んでしまったぐらいだ。
「そこでだ諸君!・・・まあ、服とかメガネは金もかかるし、すぐには無理だけどさ、あのカミノケ切っちまわないか?」
「そんなん、どうやって?」
「簡単さ、あたしが押さえつけとくから、紫穂に切ってもらえばいい。紫穂、散髪うまいもんな」
 彼女達の間では、紫穂が二人の散髪をすることがあった。希望する髪形のイメージが間違いなく伝わるので、安心して任せらられるのだ。ちなみに紫穂自身の散髪はBABELから派遣されてくる専任のヘアスタイリストが行うのである。まあ、スタイリストといっても普通の散髪屋であり、だから薫や葵としては紫穂にやってもらうほうを好んだ。
「どうや?紫穂」
 それまで黙っていた紫穂に、葵が返事を促した。
「どうって言われても・・・男の人の髪型って良く分からないし」「適当に切っちまえば良いんだよ」
「薫ちゃんが押さえてても、動いたら危ないし」「大丈夫、指一本動かせないようにしてやる」
「失敗して変な髪形になったら・・・」「そんときゃ坊主にでもすりゃいいさ」
「・・・」
 紫穂は、やや呆れた感じでため息をつくと、もう一言付け足した。
「それに皆本サン、散髪嫌いみたいよ」

 紫穂は、今まで機会があるごとに紫穂は皆本の心を読もうとしてきた。これは薫や葵の希望である。つまり、自分たちの担当官になる皆本という男が、どんなことを考えているのか知っておく必要がある、というわけだ。担当官が代わるたびにやっていたので、皆本の場合も同じようにやっていたのだが、今回は問題があった。それは前任の担当官達と違い、皆本は超能力の検出や調査・分析に関するプロだということだ。そのとき考えている事項−表層心理なら問題なく読めるのだが、それ以上まで読もうとすると皆本は気付くのである。
 皆本が言うには、心を読むには対象人物の思考を制御して、知りたい事項のことを考えさせる必要がある。つまり、Aに対しての考えを知ろうと思えば、Aについて考えさせなければならない。強力なサイコメトラーであり、マインドリーダーである紫穂はそれを言葉で問いかけるのではなく、直接心に「Aについて思考せよ」という命令を出せるのだ。これは命令を出すほうも出されるほうも無意識下で行われるので、普通気付かれないのだが、皆本は大学でそのあたりの実験も―自らを被験者として―行っており、自己の心の変調に反応した。
 そこまで説明した後に、皆本に「聞きたいことがあるなら直接聞いて欲しい」と言われている。紫穂としては何度かしつこく―彼女にしては珍しく意地になったのかもしれない―時間と場所を変えてチャレンジしてみたのだが、今のところ成功していない。まあ心を読もうとしているのがバレてもそのまま読んでしまえば良いのだが―皆本は飛び退いたりはしないし―それはとても気まずい。
 そんなわけで、紫穂が掴んだ情報は少なかったが、そのひとつが、「散髪が嫌い」だということだった。

「散髪がキラいぃー?ガキじゃあるまいし」
 そう言う薫も、葵や紫穂ですら、実は散髪は好きではなかった。というより他人に触られるのがイヤだった。だから薫や葵は紫穂に髪を切ってもらうという理由もあった。紫穂は仕方ないので我慢しているのだ。
「でも・・・」
 紫穂はそういった別の理由を、皆本からも感じ取っていた。読みきれなかったが、何か理由を。
「・・・ワケありみたい・・・」



 場所が変わってBABEL内の局長室。ここでは桐壺が皆本からザ・チルドレンについて報告を受けていた。スケジュールの進捗状況、能力の変動、問題点などが報告・・・されているのではなく―それらは別の正規な会議で報告済みである―もっぱらチルドレンの近況、どこへ行った、何で悩んでいるようだ、何が好きだ、という内容であり、夏に臨海学習を行った後から、業務の一環として加わっている。皆本はなぜこのような調査報告が要るのか疑問に思っており、一度それとなくこの報告の趣旨について桐壺に聞いてみたのだが、目をそらして、「君の報告から、その裏に潜む問題点を浮かび上がらせているのだヨ」という返事だった。ウソくせー、と彼らしくもない感想を持ったものだ。
 皆本は桐壺にそういった報告を終え、自分の研究室って来た。最近はチルドレンのスケジュールが軽減されているため、それに付き合う皆本の仕事も―少しだけ―楽になっていた。スケジュールの見直しについては彼女達のことを考えてのことだったが、自分も良い目を見ると、少し気が引ける。しかし元々彼は―最近、自分でも忘れるときがあるが―超能力者の研究のためにBABELに来たのであり、論文を読んだり、自分の研究についての時間を取れるようになってきた現状に満足もしていた。それでも大学に居たときに比べると、かなり時間が少ないのだが。
−さてと。
 皆本は先ほど使った報告書をシュレッダーに放り込み―確実に消去するよう桐壺より言いつけられている―自分のデスクにしまっていた、ある機器を取り出した。15cm×10cm×3cmのその飾りっけのないプラスチックの立方体は、外見上スイッチがひとつ付いているだけという簡素なものだったが、皆本のこれまでの研究の集大成とも言える装置だった。組立も彼自身で行ったのだ。何度もBABEL所属の超能力者に協力してもらい、失敗と改良を重ねようやく満足できるものができた。あとは最終実験だけだ。
「皆本ぉ―!!」
 ドアを跳ね飛ばしかねない勢いで、薫が研究室に入って来た。夏の骨折―正確にはヒビ―事件以来、すっかり呼び捨てにされている。何度か直させようと思ったが、「自分は年上なのだから“さん”付けしろ」と言うのも大人気ないし、薫としては皆本をバカにしているわけではなく、友達感覚で言っているようなので言い出せない。そうこうしているうちに定着してしまっていた。
「失礼しまーす」
「入るでー、皆本サン」
 むしろ葵や紫穂のほうが“さん”付けで呼んではいるものの、そのイントネーションからちょっとした疎外感−なにやら部外者扱いされているような感じを受けていた。
「・・・ノックぐらいしなさい」
 皆本はそう言いながら、こうした注意癖が―自分にそんなものがあるとは、BABELに来るまで気が付かなかったが―彼女達に溶け込めない原因だろうか、などと考える。
「で、どうしたんだ?」
 椅子を回し、チルドレンのほうを向いた皆本は、薫の体から超能力が発せられるのを―より正確には、超能力が使用されるときに発現する電気のような輝きを―見た。
−マズい!
 とっさに手に持っていた例の装置のスイッチに手を伸ばそうとするが、その時にはもう薫の言葉通り、指一本動かせなかった。しゃべれるようにアゴなどが動かせるのは、薫がそう調節しているからだ。
「な、何のまねだ、明石君!?」
 にやにや笑いながら薫は答える。
「いやさー、皆本も忙しそうで、散髪へ行く暇もなさそうだからさ、あたしらが切ってやろうと思ってさ」
「断る!」
「まあそう言うなよ、皆本も暑苦しいだろ?」「もう秋だし涼しいぞ」
「うちらと一緒に居る人がだらしないと、こっちまでだらしなく見られるしなあ」「分かった、明日からセットしてくる」
「私はどうでもいいんだけど・・・」「・・・」
「それにさ」
 ずい、と薫が顔を突き出してくる。
「若いオンナノコに散髪してもらえるなんてメッタにないぜー、嬉しいだろ?」
 皆本をひじでつつきながら、薫はウシシシ、と笑った。とてもオンナノコの笑い方ではない・・・ような気がした。
「明石君・・・最近、オッサンくさいぞ・・・」
「ああ、それちゃう皆本サン、薫がオッサンくさいのは前からや。まあ今までは猫かぶっとったって感じやな」
「へへーん、なんとでも言いな。さて、早速・・・」
「待て!、話せば分かる!」
 皆本はそう言ったきり、もう喋れなくなった。薫がその超能力で口まで押さえたのだ。そして後ろ手に持っていたハサミを取り出して皆本の背中に回る・・・机があったので少し皆本のほうを椅子ごと押してずらした。そのとき、皆本の束縛が少し緩む。
 チャンス、と例の装置のスイッチに指を伸ばす−何とか届いた。カチン、とスイッチが入ると同時に、一瞬、不思議な感触が―気圧が変わった時に受けるような感じの―チルドレンの3人を包み、直ぐに消えた。
「皆本・・・何を?」
 サイコキネシスで押さえつけられているはずの皆本は、普通に椅子から立ち上がる。そして、やや得意そうにチルドレンに手にした装置を見せた。
「ESPリミッター・・・超能力制御装置だ。どうやら成功のようだな」

 超能力とはどのような力か?それは能力者によってまちまちなのだが、一つ共通していることがある。それは能力者本人から発する波動、その様なものによって超常現象が引き起こされるという点だ。彼女達が超能力を使う際に発現する電気のような光も、その波動が空気に反応して光っているのだ、という仮説が、とある学者により提唱されていた。実際には学問的な超能力はまだまだ研究の余地があり、誰にも本当のところは分かってないのだが、皆本はその仮説を元に、あるシステムを作り上げた。それがこの“ESPリミッター”だった。
 例えば薫の力は乗用車ぐらい平気で持ち上げる。その力を制御するには、それと同等の力が必要であり、莫大なエネルギーが必要になるため非常に巨大な装置が必要になる。しかし、その力が発現する前に止めることができれば?超能力が“波動”によって発現するというなら、波動を打ち消せば超能力は発現できない。
 皆本は、ある固有の振動数を持つ電波でそれが可能であることを突き止め、この装置を作り上げたのだった。エネルギーもその電波を発生させる分だけで済み、小型化が可能だ。

 しばらく解説した後―皆本はウンチクをたれるのが好きなようだ―装置の小箱をデスクの上に置いた。
「ただし、まだ試作品でね、どうだ?気分が悪いとかあるかい?」
「・・・いや、ないけど」
 薫は装置を手に取り、スイッチを押してみた。と、また一瞬の不思議な感触が消え、力が戻ったのを感じた。
「これ・・・」
 薫や葵は「ふーん」という感じで特に感銘も何も感じた様子はない。しかし紫穂は装置を手にすると、少し震える声を出した。
「・・・私たちに付けるの?」
 そう長く付き合ったわけではないが、紫穂は、皆本のことが嫌いではなかった。むしろ桐壺やその他少数の大人と同じように、信用できる大人であり、ノーマルであると思っていた。薫や葵もそう感じているのを、紫穂は知っている。
 しかし、このような―超能力者を害するような―装置を作って、それを自分たちに着けさせようと言うなら・・・超能力者を支配下に置こうというなら・・・
「そうするつもりだ。」
 彼は、自分たちとは相容れない、大人だったのか?
「そ・・・」
「聞いて欲しい!」
 皆本は、紫穂の言葉を遮るように自分の言葉をかぶせた。皆本が感じるところ、紫穂は心配性な−悲観的な部分がある。歳に似合わないクールさも、その側面ではないかと思っていた。だから、彼女にこの装置を見せたら、恐らくある種の危惧を抱くのではないか−そう皆本は予想していた。
皆本は紫穂に手を伸ばして、装置を受取った。
「僕がこの装置を開発したのには2つの理由がある。1つ目は、超能力犯罪に対抗するためだ。これは分かってもらえると思う。」
 3人が、特に紫穂がうなずくのを確認してから、皆本は話を続けた。
「2つ目は、自分の超能力を制限したい人、できない人のためだ」
 超能力者の大半は、ザ・チルドレンのような年端の行かない子供だ。BABELではそういった子供たちを登録し、超能力の正しい使い方を練習させることを重要視していたが、それでも全国では子供の超能力者が暴走するケースが多くあった。大きすぎる力を抑えるには、心の発達が追いついていないのだ。自分の力を自分で操れるようになるまで、その力を制御できれば、そういった事故は減るはずだ。
「君たちのためにもなると思う。でもイヤなら無理やり付けたりはしない。」
 説明を聞いたチルドレンは、とりあえず納得したようだった。紫穂もいつものすまし顔になっている・・・表面上は。
「よく考えて、着ける着けないは君たちで決めて欲しい」
 そう言われてチルドレンは皆本の研究室から出た。そして待機室に戻るため、人の流れに沿って歩く。
「まあ、いつでも外せるんなら、着けてもいいんじゃね?」
「そやなあ・・・考えようによっちゃ、便利かもなあ」
 二人とも、人とぶつかりそうになるとか、転びそうになるとか、そういったとっさの際に、反射的に超能力を使ってしまうことがあるのだが、そういった場合は大概、良い結果にならなかった。テレポートで人を避けた先で物にぶつかったり、転ばないために出した超能力のつっかえ棒で地面に大穴を開けたりとか。超能力を使うイメージを固めずに、あわてて使うからだと皆本は言っている。
「・・・」
「ん?どうしたんや、紫穂?」
「う、ううん、何でもないわ」
「ああっ!?」
 急に薫が大声を上げる。
「ど、どうしたんや、薫?」
「皆本の散髪すんの、忘れた。」
「「あ」」
 チルドレンは皆本の研究室に急いで引き返したが、彼はすでに逃げた後だった。



* ****
第3話を投稿します。
書き込み・助言頂いた方、また読んで頂いた方へ、更に感謝いたします。
恥ずかしながら書きたいことをまとめられず、なかなか先が進まなくなったので第3話は前後編にしました。

ところで皆本さんについてですが、自分的には次のようなイメージを持っています。
@頭が非常に良く、回転も速い。記憶力や読解力はもちろん、思考力―工夫する力―も抜群に優れている。
Aしかし全てを完璧にこなせるわけではなく、人並みにうっかりやミスはする。(ESPリミッターを着けていない薫にうっかり「ガキ」と言ってしまう−そして仕置きされる。)書類などのミスもやるんじゃないかな・・・
Bファッションなど一般常識において、非常に疎い部分がある。(これは自分の勝手な想像です)
C運動は人並みかそれ以下。(同じく想像です)
D人としての道を誤らない。
E意外と熱い男。
私が、皆本さんの魅力として感じるのがDEです。
・ サンデー本編でも事あるごとに正論でチルドレンを叱る。しかしそれは単に自分の言うことを聞かせるためではなく、彼女たちのために怒っている。
・ 自分の思考を読まれると分かっているのに、紫穂を傷つけないためその手を握る。(そして実際読まれています)
・ 自分の身を盾にして―チルドレンを守るためにも―イルカのイ号中尉を救う。
数多ある漫画では、斜に構えるキャラクターが多い昨今、皆本さんのスタンスは古き良き王道であると言えます。また単なる真正面バカではなく、思考力を持った大人であり、私にはとても魅力的に写ります。
Aについても、皆本さんを完璧超人にしてしまわないための重要なファクターです。
そういったことから、私のストーリーでは皆本さんがカッコヨクなってしまっています。見苦しいと感じる人もいるかもしれませんが、ご勘弁ください。
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