ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い 幕間その1 ―舞台裏で蠢く者達―


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 5/27)

南米某所。ソロモン七十二柱の最上位の実力者の一人―――『恐怖公』アシュタロスの基地があった場所。そこは現在は焼け野原と化し、鬱蒼としたジャングルに覆われていた基地の面影は最早微塵も無かった。
神魔人全ての支配という野望を掲げたアシュタロス逮捕に向かった神魔混成部隊は、アシュタロス一味の秘密兵鬼「逆天号」によって、壊滅していた。おまけに妨害霊波によって、神魔族は冥界とのチャンネルを塞がれてしまった。これで、神魔族は増援も送れず、帰還も不可能となってしまった。

焼け野原となったそこに現れた人影が一つ。というよりも残っていたジャングルの中から出て来た、と言ったほうが適切か。

「ち、秘密兵鬼があると情報をリークしてやったのに、この様か・・・・・愚図め」
最早空に浮かぶ点にしか見えない「逆天号」を見送りながら、人影―――「地獄の准将」サルガタナスは忌々しげに吐き捨て、周りを見渡した。

「それにしても・・・・あちこちに転がっているな・・・死にぞこない共が・・・・」

神魔族は死ねば、その体は消えうせるからだ。姿を留めているということは息がある証拠。

「た・・・・助けて・・・」
彼の近くに居た者---―恐らくは魔族—が這いずってくる。下半身が消失し、眼も見えていないのだろう。気配のみを頼りに助けを求めているのだ。だが、最重要指名手配犯の彼に助けを求めるとは実に愚かな選択だった。


「目障りだ、消えろ」
サルガタナスは慈悲の欠片も無く、黒い片刃の剣を助けを求めた者の顔に深々と突きたて、引き抜いた。

悲鳴も無く、消滅する魔族。そんな事は全く意に介さず、サルガタナスは懐から取り出した妙な通信鬼を開いた。アシュタロスの妨害霊波のせいで、改良型のこれならば雑音が酷いものの何とか通信は出来る。
暫くの時間の後、得体の知れぬ生き物の形をした通信機器は、彼と彼の主の間を繋いでくれた。
『サルガタナス・・・・・報告を頼むよ。大体その様子だと予想はつくけれど』
通信鬼の向こうから「少年」の声が響いてきた。サルガタナスの声よりも冷たく、相手を底冷えさせる声だった。

「繋がったか・・・・ああ、あんたの予想通りだったぜ。神魔混成チームは全滅・・・・・・アシュタロス一味は逃亡、おまけにこの通り神魔界の門も開けない。こうなることを予期して、事前に俺を人界に送りこんだあんたの判断は正しかったわけだ」
「少年」の声に微かに身震いしながら、淡々と報告する。
通信鬼越しでも伝わってくる「少年」の底知れない闇の力。それがサルガタナスに恐怖と充足感、さらに緊張感をもたらす。


『彼の逮捕に向かったチームが貧弱だったこと、敵の秘密兵鬼の存在を軽視していたことが今回の失敗だった。ペイモンやネビロスが出向いて、アシュタロスを止めると主張していたけど却下されたよ。デタント崩壊を恐れる万魔殿の愚か者共によってね』

「そうやって、ぐずぐずしているうちに先手を取られたな・・・・こうして俺とあんたは通信は取れるがそれだけ・・・・しかも24時間いつでも可能といったわけじゃない」

「少年」の手による改良型の通信鬼といっても、万能ではない。妨害霊波がこれ以上強くなれば、使用不能になるはずだ。そのためにも「少年」から今後の行動について、指示を聞いておかなければならない。

『これからの君の行動だが・・・・・極力表に出ないことだ。我々が表舞台に出るのはまだ早い。なるべく人間達にアシュタロスと戦ってもらう』
「少年」の声に焦りの色は見られない。はっきり言って、感情制御が完璧なうえに冷徹非情な氷の心に立ち入る隙は微塵も無いのだ。

「人間如きがアシュタロスと渡り合えるのか? 戦闘型じゃないにしても、魔王級の魔神だぜ、あれは。あんたには及ばないにしても」

サルガタナスもかつての主だったあの魔神の実力は知っている。精神的な甘さには愛想が尽きたが、その実力は熟知している。

魔界でも最上位の魔神アシュタロス。本来ならば人間が太刀打ち出来るような存在では無いはずだ。まして今の人界にあの古きイスラエル王ソロモンのように魔神を使役できる力を持った人間も居ない。



『人間を甘く見ないことだ・・・・サルガタナス。彼らは思った以上にしぶとい。私の予想ではアシュタロスの妨害霊波が有効なのは一年前後、少なくとも二年はもたないはずだ。それくらいならば、人間達も持ちこたえるだろう・・・妨害霊波が切れれば、我々神魔族が総出で彼を袋叩きに出来る』

「もし、妨害霊波が切れる前に人間側が敗北した場合は・・・・」
『そう、君の出番だ。サルガタナス、君がアシュタロスを仕留めるんだ。仮に[究極の魔体]と戦うことになっても色々持たせているだろう? その必要は無いだろうけど』

「どういうことだ?」
サルガタナスは懐に仕舞い込んだ「隠し玉」に手をやりながら、「少年」に尋ねる。

『アシュタロスは負けるだろうということさ。何となく、そんな予感がする。彼の敗北は予定調和だと、ね。それと念の為の手段として、世界GS協会に「あの話」はしておいたね?』

「ああ、美神令子の暗殺だろ? 幹部の一人に極秘で接触したら乗ってきたぜ。女一人殺しただけで、世界が救えるわけだからな。美味い話だとばかりに飛びついてきたな」

あくまで、それは最終手段ではあるが、アシュタロスを敗北に追い込むには効果的な手段。
「少年」達が手を下す必要は無い。人間達自身にやらせればいい。
同胞を守るためならば、人間というものは手段を選ばない生き物だ。勝手に自らの手で周到な準備をしてくれるだろう。美神の母である美智恵の交渉で一年という猶予がついたにしても。

あくまでサルガタナスが接触したのは幹部の一人。しかも、その幹部でさえも記憶操作され、「美神令子の暗殺」を自分で考えた案だと思い込んでいる。もし、暗殺が成功すれば彼女の魂はアシュタロスが欲するエネルギー結晶と共に転生して、行方不明。アシュタロスの野望は潰えるというわけだ。

ちなみにその幹部はアシュタロス大戦が終わった後、その事に関する責任を人道的な面から追及され、自らの地位を追われることになるが、些細な問題であるためにここでは割愛する。


『ギリギリまで、君は表に出ないことだ・・・・我々の動きを悟られるのはまだ早い』

即ち選択肢は三つある。
ベストなのは人間達のみの手でアシュタロスを倒してもらう。

ベターなのは人間達に妨害霊波が切れるまで、持ちこたえてもらい、その後に神魔族総出でアシュタロスを袋叩きにする。

最終手段としては、サルガタナスがアシュタロスを倒す。神魔族の牽制、人間達との戦いなどで心身共に疲弊したアシュタロス相手ならば、勝率は大幅に跳ね上がる。



『さて、もうすぐ通信が不可能になる。くれぐれも慎重に動いてくれ、地獄の准将。君の働きに期待している。アシュタロスはまだ何か隠しているはずだ・・・・・』
そういった選択肢を頭の中で思い浮かべたサルガタナスは「少年」―――魔界第二の君主との通信を終えた。


「やれやれ骨の折れる仕事だぜ。それにしても・・・・・アシュタロスが負ける? 時々ありえんような話をするな、うちの大将は・・・・」
虚空を見上げ、サルガタナスは呟く。
もっとも流石の「少年」でさえも宇宙処理装置などという代物をアシュタロスが造っていることまでは読めなかったのだが。

だが、ここまでにおいて「少年」の読みが外れたことは殆ど無かった。宇宙処理装置のことを除けば、読みが外れた事といえば自らの計画の隠れ蓑として、利用していたアシュタロスの叛乱を起こす時期を間違えたことだろう。だが、その次の「少年」の行動は迅速だった。

アシュタロス討伐のために「魔神級戦力の人界投入」が却下されることさえも予期し「少年」は情報収集も兼ねて、地獄の准将サルガタナスを人界に送り込んでいた。彼ならばアシュタロスを倒せると確信した上で、サルガタナスという狂犬を野に放った。


吹雪や雷を自在に操り、さらには流星雨さえも降らせる力を持つ魔神。堕天前は豊穣神、主神に雷神など多くの神格を持っていたという古き神。
魔界で唯一、サタンと互角の実力を持つ男。

謀略に長けた魔界東方を治める強大な魔王。



通信を切る直前に「少年」は言った。
『私は堕天する際に優しさ、温かみなどといった「甘さ」を捨ててきた。アシュタロスはそれらを捨て切れなかった。その甘さが敗北の一因になるかもしれない・・・・』

それは妙に確信めいた口調だった。




「何にせよ、見せてもらうか。脆弱な人間共の足掻きをな・・・その分だけ、俺の負担が減るわけだしな・・・・・」
サルガタナスは陰惨に笑い、彼以外動く者の無い基地だった場所をあとにした。



そして、時は流れ-―――――――――――――――


理性を失った『究極の魔体』との最終決戦―――――
人間達が命を賭け、無謀ともいえる特攻を仕掛ける中―――――



『ウオオオ-――――――――――!!!』
美神との同期合体によって、力を増した横島の渾身の一撃が―――――


バキャアアアアア-――――――――――――ン!!!

『究極の魔体』を打ち砕き、夜の海に沈めていく。



(馬鹿な・・・・・・あのデカ物が崩れ落ちた・・・・しかも人間の手で、だと・・・・・!?)
千里眼でその死闘を見ていた地獄の准将は驚愕する。


いざとなれば自分が『究極の魔体』の超至近距離――――あらゆる攻撃が無効化できない距離まで、瞬間移動して「隠し玉」である超強力爆弾――「カイン」を叩き込み、即離脱するという作戦を実行する予定であったというのに-―――――




「やりやがったか、どの道、俺が命を削る作業をする手間が省けたな・・・・」

正直「脆弱な人間も少しはやる」・・・・・その程度の認識に過ぎなかった。


人間の諺に強いて例えるならば-――――そう・・・「窮鼠猫を噛む」



断じて「奇跡」などではない・・――――悪魔である自分がそんなふざけた言葉を使うなど・・・・・あれは「偶然的確立の集積」というのだ。



さらに時が経ち-――――――





そして、今――――叩き潰すつもりで投げかけた自らの言葉で、精神的にどん底に落ちていた虫けら・・・・GS達が立ち直りつつある。

その切っ掛けを作ったのは二人の虫けら・・・・巫女服の少女と黒衣の神父。
この二人の言葉と行動で、残りの虫けらに生気が戻ったのだ。


どうして、人間というのは・・・・こうもしぶといのだ? 
だが、どうということはない。単に潰すのが少々面倒になっただけだ。



『うっとおしい連中だ。そんなに苦しんで死にたければ、望み通りにしてやるよ・・・・・!!!』

双頭のハイエナという本性を露にした地獄の准将は、突如沸き起こった苛立ちを吐き出すかのように再び鋭い牙を剥いた。


そんな彼の脳裡によぎる言葉――――



『人間を甘く見ないことだ……サルガタナス、それが君の-―――』





こうして・・・・・・再び己の生き様と価値観を賭けた死闘が始まる。







後書き 「少年」陣営の視点から見たアシュタロス戦役。そして、サルガタナスの動きと人間に対する見方。「少年」がアシュタロスに対して、打った対抗策。美神の暗殺さえも「少年」の企みのうちだった・・・・・設定に違和感ないでしょうか? この辺が不安です。
さらにアシュタロスの敗北さえも見通していた「少年」、こいつの切れ者ぶりが表現できてるかなー。
そして、最後の部分は『吟詠〜』本編の52話と53話に挟まるエピソードです。

ちなみにサルガタナスの持っていた爆弾のモチーフは「黒の結晶」です。

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