ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の四 エピローグ


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(05/ 4/23)


「はあ・・はぁはあ・・・はあぁ・・・・畜生・・しつこ過ぎんぞあのポリス」
息も絶え絶えに、ほうほうの体でチャリ警官を巻いて汰壱は自宅の前でへたり込んでいた。
筋骨隆々の男がトランクス一丁で玄関に座り込んでいる。
誰がなんと言おうと変質者ルックである。
最初はチンピラ次はヤクザそして今回は変質者、堕ちるとこまで堕ちた感じである。

(おれは一体何処に向かうのだろう?)
汰壱は将来に漠然とした不安を感じた。

目的の場所があったのだが、そこに行くにはトランクス一丁では行けない(いける場所があるのか?)
一晩中考えてようやく自分に何が出来るかを考え付いたが、思いつくなり行動に起こしたのは若干まずかった。
思いついたらスグ行動というのも悪くは無いだろうが何事にも限度というものがある。

っていうか服ぐらい着てくればよかった。

早朝だし誰にも会わんだろうと、高を括ったのがまずかった。
氷室医院を抜け出して数分も経たないうちに巡回中の警官に遭遇、弁解の余地も無くこうして逃げ回る羽目になった。

この体で逃げ切れたのは幸運であった。
捕まってしまえば御意見無用の変態姿、犯罪者予備軍どころか正規軍になってしまうのだ。
そりゃ必死にもなる。

重い腰をあげ玄関のドアノブに手を掛けるが開かない、早朝なので鍵が掛かっている。
やれやれと汰壱は人工幽霊壱号に呼びかけた。
「おーい壱ちゃん開けてくれ」
ちなみにこの呼び方は汰壱が考えたのだ。理由は簡単、人工幽霊壱号では味も素っ気も無いからである。

「!!・・・・家の家人には半尻で外をうろつく人はいませんが」
若干間があいて返事が返ってきた。
さしもの人工幽霊も目の前にいる変態に態度が冷たい。
「いやなんでもいいんで早く開けて」
返事をするのも億劫だった目的地に行くためにも、さっさとこの格好なんとかしたかった。
いろんな意味で早くしたかった。
「残念ながら犯罪者予備軍は家に入れられませんので・・・・・」
目の前のドアはいまだに硬く閉ざされている。

「開けて」
「ダメです」
「お願い」
「無理です」
「俺の帰る家はここなんですけど」
「せめて服着てから帰ってきてください」
「その服が欲しいから家に入りたいんですけど」
「最も気もしますがそれでもだめです。」

頑として聞き入れない人工幽霊壱号
ちょっとやそっとでは開ける気は無いようだ。
力ずくでは無理である。
人工幽霊の結界は下手な魔族なら入る事が出来ないほど強力な結界が張っている。
汰壱の力では逆立ちしても無理であった。

十分後
宥めてもお願いしても切れても開けてくれない・・・・・・・

プチ
何かが切れた


「・・・・ああそうですか、開けないの・・・・・」

汰壱は沈んだ声で下を向き、そして徐にトランクスのゴムに両手を掛けた

「うああああ何やってんですか!!」
途端に人工幽霊壱号は絶叫した。

「・・・・別にぃ・・犯罪者予備軍が正規軍になろうとする最後のボーダーラインを超えようとしてるだけさ」
汰壱は挑発的な笑み浮かべた。
「あんた自分が何やろうとしてるのか解ってんですか?!」

「さあねぇ、だがそれを決めるのあんた次第だ・・・・壱ちゃん」

「くっしかし・・・」

「開けろ、開けるんだ。さもなきゃ・・・・・・・・・最後の良心、脱ぎ捨てるぞ!!」
威嚇するかのように汰壱はトランクスに指をかける。
既に(黒い何か)が見え始めている。これはマズイ・・・・

「そんな脅しに屈するわけには・・・」
しかし人工幽霊も最後の抵抗を試みる。
だが
「脅しだと?そうか―――――――最終安全装置解除!!」
「すいません今すぐ開けますからそればっかりは勘弁して下さい」
「・・・チッ・・・・・・・仕方ない」

汰壱の意味深な舌打ちには触れずに、観念した人工幽霊壱号は心底つかれ切った様にドアの鍵あけた。

(まさかこの人は本当は・・・いや考えないでおきましょう私の精神衛生上良くありませんから)

肉体と言う概念が無い人工幽霊ではあるが、この日初めて彼(彼女)は疲労と言うものを認識した。







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オカルトGメン日本支部


「また君たちに借りが出来てしまったね」
朝の陽光が射すオフィスに三人の男女がテーブルを挟んで向かい合って座っている。

シロとタマモは留美を自宅に送り届けた次の日、事情徴集にオカルトGメンのビルに来ていた。


「物のついでよ」
少々眠たそうにタマモは口を開いた。

「そう言って貰えると、こちらも気が楽でいいよ。やはり君たちの超感覚は素晴らしいな正直今回の事件は、かなり厄介だったからね」
そういって西条はコーヒーに口をつけた。

初動捜査の段階でかなりの難事件になることは長年の勘で直ぐにわかった。オカルトGメンの捜査員も無論、霊能力者
ではあるが如何せん、今回ばかりは向こうの力量が凄まじいものがあったのは認めざる得ない。
捜査の肝となる、霊気の残骸の一切が自分達の捜査の段階で殆ど消えていたのだ。
こうなってしまうと通常のダウジングやサイコメトリー(それすら稀有な能力であるが)では遅々として捜査は進まなかった。

「オカGの捜査能力も大したこと無いのね」

冗談めかしてタマモが言った。
彼女にしてもオカGが無能だとは思っていない、
何故ならば通常の霊障や霊能力者の犯罪ならば直ぐにでも霊気という後が付く、
特に殺人などが起こればその被害者が最後に放った霊気が犯人こびり付いているのだ。
その霊気はいわば怨念のような物で並大抵の術では消す事は出来ない。

「耳が痛い限りだよ」
現場の物的遺留品も霊的残骸も綺麗に片付けられてしまってはいかに優秀なオカGと言えども
捜査は困難を極める。

その点で考えれば白蛇の力凄まじいと言わざる得ない、
己に繋がる証拠の一切を残さず立ち去る、完全にプロの暗殺者であった。


「・・・でも正直言って今回は汰壱に助けられたわ」
「そうでござるな」
シロが相槌をうつ

「また彼か・・・前回といい、どうもトラブルのあるところには彼が要るね。で彼はどうだった?」
西条は事後報告書に目を通しながら聞いた。


前回の獅子猿討伐の任務に引き続き、今回も汰壱が関わっていた。どうやら彼の義父の横島と同じように
トラブル巻き込まれやすい性質らしい。
血縁に関係なくあの男の周りにいる人間は良くも悪くも、いろんなことが起こる。
加えて横島だけではなく、彼女の妻令子も彼と同じようにトラブルメーカであるのだ。
そんな二人の息子である汰壱もやはり自ずと彼らと同じ様にトラブルが絶えないようだった。

一つ違うのは、汰壱の場合は自らが望んで事件に首を突っ込んでいる節があることだ・・・・・
二度も大きな事件にかかわれば、知り合いの義理の息子といういうより汰壱本人のことが西条は気になったようだ。

「そうね一言で言うならタフよ、正直あの年齢であそこまで頑丈なのは私の知る限りじゃ、昔のヨコシマぐらいよ」
若干の驚きも交えてタマモ答えた。

「今もでござるよタマモ・・・」
さりげないツッコミを忘れずにシロが続けた。

「汰壱ヒーリングを掛けて気付いたんじゃが、汰壱の体には明らかに何箇所か急所に傷を負っていたでござるが
そのどれもが致命傷には、なっていなかったでござるよ」

「どういうことだい?」
西条が聞き返した。

「そもそも、おかしくはないでござるか?白蛇が拙者達が封印されていた状態で汰壱を嬲るのは、あの性格からして
おかしくはないが、拙者らがあそこに駆けつけるまで五分ほど掛かった、その間にいくらでも止めを刺す時間はあったと思うでござる」

「なるほど、確かにそうだね白蛇はプロだ。君達の封印が解けるというアクシデントが起こったにも関わらず。
汰壱君に止めを刺さなかったのは確かにおかしい話だ。」

西条は成る程と、うなずいた。

「私の思うところ、あの馬鹿、その攻撃全部を受け止めて耐え切っていたのよ。
それも傷のつけられ方から、見て防御もできなかったみたいよ」

「そりゃ凄いな」
前回の獅子猿の時もあの巨体と正面から殴り合ったらしい、
一撃で人間をゴミ屑の様に四散させる相手とやりあって生き残っているのだから
なかなか仕留め切れなかったのも分からない話ではない。



「でも流石に私達が駆けつけた時はもう限界だったけど」
と一言付け加えた。

「霊能力、戦闘技術、身体能力、特殊技術、知識、思考力、状況判断その他たくさん・・・・話にならないのは多いけど
あの耐久力だけは常人の遥か上いってるわよ」


「でどうするんだい?これからも彼を助手で使うのかい?」

何とはなしに気になったので聞いてみた。
基本的にこの二人はアシスタントを雇うことはしない。
というより雇う必要がないのだ。
生まれ持った素質、実力、ポテンシャルどれも一級のものを持っており
なおかつ、互いの不足する点を補い合っている。
おおよそタッグ組むには最も理想的な二人である。下手なGSを雇っても彼女らには足手纏いにしかならないだろう。

「ヨコシマから一回だけでもいいって頼みこまれたし、実際私も一回だけしか使わないつもりだったけど・・・・・
汰壱が希望するんだったらしばらく使ってやってもいいかなーって」
ちょっと、鼻先を赤らめてタマモが答えた。

「素直に借りがあるからといえばよかろうて」
くくっとシロが笑った。

「うるさいわね、借りがあんのはあんたも同じでしょうが」

「言われずとも、判ってるでござるよ」

「じゃあ、あんたはどうすんのよ?」

「いっぱい散歩してあげるでござる」

「あんた、汰壱を挽肉にする気?」





・・・・・・二人とも変わったな・・・・・

西条は二人のやり取りを聞きながら静かに思った。

タマモは昔よりずっと性格のカドが取れ丸くなった。
昔は特に出会ったばかりのころは、氷のような冷たさと、孤高さがあったのものだ。
もっともそのような性格になっていたのは、自分たち人間の責任でもあったが・・・・・

長い時間が掛かったが彼女に、決して人間全部が自分の敵でないことを理解してもらえたのは、本当にうれしいことだった。
すこし、つんどっけんなところはあるが、こうして他者を気遣う優しさを持ち合わせている。
というより、彼女が持つ本来の優しさが、こうして目に見えるようになったというべきか。

シロは昔からの仲間思いの心はそのままに、ずいぶんと落ち着きを持った性格になった。
すぐに頭に血が上り猪のごとく突撃したのは過去のこと、熱き武士の精神と、水の様な澄んだ思考能力を身に着けた。
昔の彼女を知る人は、さぞかし驚くだろう。




十五年という月日は多くを変えてきた。
右も左もわからなかった彼女たちは一人前となり、もはや腐れ縁となった男は今や世界最強と呼ばれるGSとなった。
自分も結婚し、子供ができた。
まわりは出世街道突き進むように言うが、もう年齢的にも第一線は辛くなり始めた。


机の上でふんずり返るのは性に合わない、自分の師匠である(美神 美知恵)の後を継ぎ
オカルトGメンの日本支部の長官にはなり、ICPOからはさらに上のポストからの誘いもあるが、
やはり自分は現場にいることが性にあっている。


彼女たちのような、優秀な隊員を一人でも増やし
助けを求める人・妖の力となるために。



まだまだ『理想の旗』は掲げれそうだ。









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同日    昼過ぎ



豪華な内装、

素晴らしい香りの紅茶

どこかの王室御用達のティーセット

掛けられている自分には解らない芸術的絵画、

目の前にあるガラスの様なガラスでない、途轍もなく硬い灰皿&葉巻。

自分が腰掛けてるソファーの柔らかさと座りやすさ。

おお世界は輝いてる。


(これぞ豪邸ってか)
僻みとも取れる苦笑いを浮かべた。
自分のすぐ後ろにある壷などは一ついくら位するのだろうか?


今回の仕事の依頼主、天上 高志(てんじょう たかし)邸・・・・汰壱はそこにいた。


朝の変質者とは打って変わり、ちゃんとした格好をしている。
紺色のスーツ姿に身を包み、留美の護衛の時にはつけていなかったネクタイをしっかりと締めている。
だが鼻の所には大きなガーゼが張ってあったり、額には包帯が巻かれているのが妙に目立っていた。

実際体のあちこちの傷は、完治とは程遠く訓練や戦闘は不可能だが、実生活には支障はなかった。
痛みを我慢すれば走る事も可能だ。


(氷室先生の心霊医術ってすげぇな)

毎度のことながら怪我をすると、おキヌの世話になって入る汰壱だがいつも其の技には驚く。

軽く拳を握ったり開いたりを繰り返してみる。
(それも前より身体丈夫になってる気がするんだよなー)

人体という物は通常傷を受け負傷すると自然と治癒されていく。
所謂、自己治癒力であるが、そのとき人体は負傷した箇所を寄り頑丈に作りかえる働きがあるのだ。
特に筋肉などには其の兆候が見られやすい。

だが今回の汰壱のような大怪我ではそんなことは起こりえない。
普通に自己治癒させたのでは、寧ろ重大な後遺症が残る可能性のほうが大きかったのだ。

おキヌは自らが調合した霊法薬・十数年で学んだ現代医術・世界でも五指に入るヒーリングを使い。
汰壱の身体をただ【治す】のではなく、自らのヒーリング技術で汰壱の肉体の本来持つ
自己治癒力を最大限に高め、霊法薬により身体に負担をかけずに治療し前よりも確実に
汰壱のからだをより頑健にしていた。

それらを恐るべきことに一日で行動可能にまで回復させる医療霊術
こと回復・治療に関して言えば、おキヌは間違いなく世界最高のレベルに到達している。




(こうやっていっつも、助けてもらってんだよなー俺って)
そう思いながら頭を掻いた。

出来ない事ばかりでいやになるが、だからといって何もしないはさらにいやだ。

一晩かけて考えて考えた答えを実行するために此処に来たのだ。
その結果がどうなるかなんて判らない。

ただ少しでも前に・・・・・

この心情は忘れてはいけない。


応接室の扉が開き天上夫婦が入ってきた。


・・・・さてやるだけやってみっか。
挨拶をしながら、汰壱は思った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「おっさん!!」

幼い甲高い声に呼び止められた。
声の主は言うまでもなく夫妻の娘、留美だった。

小一時間ほど夫婦と会話し自分の目的である【お願い】をして
屋敷を後にする時後ろから声を掛けられた。

栗色のツインテールを揺らしながらこちらに走ってきた。
その表情は少し固い。

汰壱の少し前で立ち止まる

「あの・・・・その・・・・えーっと」
何かを言おうとしてモジモジしてる。
「・・・怪我大丈夫?」
声が小さかった
「ああ」
軽く答えた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

それ以上の言葉が続かなかった。
しばらく二人とも押し黙ってしまう。
(やっぱり俺は駄目だな・・・・またこんな顔させちまってる)

横島ならばこんな時、優しく笑いかけてやるのだが・・・・
生憎、汰壱にはそんな気の聞いたことはできなかった。

「そのすまんかったな、俺のせいでいろいろ怖い思いさせちまって」

「ちがうもん!!私が・・・・・我侭いったから」
余計に俯いて声が小さくなる。

「おっさんが最初に帰ろうって、言った時に私が言うこと聞いてたら・・・おっさんが怪我するのも」

「気にすんな」
気の聞かない言葉だ。
だがなんと言えばいいのだろう?

元より自分はこういう場面苦手だった

「私があんなこと言わなかったら・・・」

「違ぇよ、これは仕事だ。だから仕事で怪我しようが何しようが
全部俺の責任で、怪我したのも俺がヘボだからだ」

我ながらぶっきらぼうな言い方だ。

「でも・・・・ごめんなさい」

また項垂れたいる。

「おいっ覚えてるか?」
「えっ?」
何を言われるのかと不安そうに顔をあげた。

「もう一回頼んでみろ言っただろう。一緒にデジャブーランドに家族で行こうって」


その言葉を聞いた途端留美は、顔を引き攣らせるよな笑みを浮かべた。


「うん・・・でももういいや、もう諦めたから
それにまた私が我侭いったら、パパとママに迷惑がかかっちゃう」


眼に光の無い
力の無い笑み

汰壱の一番嫌いな表情だった。
はっきり言おう。この表情を見たとたんに腹が立った。

足掻くことを辞めた、薄ら笑い。

「それにこれ以上お願いしたら、きっとパパとママ私のこと嫌いに・・・・(ゴチン!!)・・・痛い!」


気が付いた留美の頭に拳骨を落としていた。
横島辺りが見たら【滅】と【殺】の文珠を鼻の穴に辺りにぶち込まれる事、請け合いである。

「なにすんのよ!!」


拳骨の痛みと急にシバかれた理不尽さに留美は怒ったが。


「やかましい!このいじけチビ!!、人が散々苦労してロリコン野郎から助けて
やったのに・・・な〜ん〜だ〜そりゃ〜」

「だからごめんなさいって言ったのに!」
怒鳴る様に留美が反論した。

「アホか!何でお前が謝るんだよ!いいか!?ガキがそんなちっこい事に遠慮してどうすんだよ。
お前の親父さんとお袋さんだろうが。「我侭いって迷惑がかかる」だと?「嫌いになる」だと?
ふざんけんな!!子供の必死の【お願い】を聞いてやれねぇ親がどこにいるんだよ。
そんなことで、子供のことが嫌いな親がいるわけないだろ!!。」
一気にまくし立てる。

「嘘だ!!わたしのっ・・・・私の話なんて聞いてくれないもんっ」
ほとんど泣き声の様な声。

年に数回しか逢えない。
たまに逢えても、一緒にどこかに行くことなんて無い。
いつも自分は一人で、寂しくて、悲しくて

それが辛かった。
かまって欲しかった。

どんなに言っても届かない声を叫び続けるのは、幼い心には途轍もなく苦痛だった。

一瞬自分とダブって見える。
過去に全部を無くした自分と。
だが留美の両親は生きていて彼女のすぐ近くにいる。
だったらまだチャンスはある。諦めるには早すぎる。

「そんなことねぇ!」
ありったけの心で否定した。

「そんなことねぇよ」

少し息を整える。
「なぁ・・・嬢ちゃんは親父さんとお袋さんが嫌いか?」

「・・・ううん」
小さく首を振る
「・・・一緒にいたくないか?」

「ううん」
小さく首を振る

「・・・行きたくないのか?デジャブーランドに?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行きたい」
蚊の鳴くようなか細い声で答えた。


「よっしゃ、じゃあ嬢ちゃんにいいもんやる。」
「なぁに?」

まあ見てろと、にやりと笑うと
懐から何かを取り出した。

中からで取り出したのは、鮮やかな色の、親指の大きさ程の霊水晶だった。

「きれい」
日の光を浴びてサンライトイエローの光を放つ。
「こりゃな、人の願いを力にして、そいつの願いをなえてくれる。
霊験あらたかな、魔法の石だ。嬢ちゃんの助けになるように俺が念を篭めといた。」
そっと留美に握らせた。




無論嘘である。効果も気休めほどのものであるし、第一汰壱には霊水晶のような魔法アイテムに念を篭めることは出来ない。
だが用はきっかけが必要なのだ。
最初の一歩を踏み出す。きっかけが。

「いいの、これ?」
「ああ持ってけ、石はな一生懸命何かをしようとする人間の力に成りたがるんだよ。」
この言葉は嘘ではない。

「もう一回勇気出してみな、そんでよ親父さんとお袋さんの事、信じてあげな。
この世でたった二人しかいない嬢ちゃんの親なんだからな・・・・」

「・・・・・・うん」

小さく頷き、屋敷に向かって留美は歩き始めた。
留美を迎えるために、屋敷の大きな扉の前に、天井夫妻が待っていた。
汰壱と目が合い、夫妻は深く頭を下げ感謝の意を表した。

汰壱も頭を下げた。


自分に出来ることをする。

それは頭を下げて頼むことだった。
一緒に家族の時間を作ってやって欲しいと。

差し出がましいのは判っていた。
自分が口を挟む問題でないのも。

だが知ってしまった。
聞いてしまった。

そして何よりそれは自分も知っていたから。
放っておけなかった。



(うまくいってくれよ)
柄にもなく神様に祈りたくなった。



身を翻し、足早に屋敷を後にした。














数日後

汰壱宛てに、一通の手紙が送られてきた。
手紙の内容は、天井夫妻の感謝の手紙であった。


そして

一枚の写真が同封されていた。







その写真は、



満面の笑みで



心から嬉しそうに

心から楽しそうに



本当に幸せそうな家族の写真だった。




そして写真の裏側には、
女の子らしい丸文字でこうかかれていた。



【ありがとう!】と



「どういたしまして」

十分すぎる報酬だ。


なんせやっと笑顔にできたのだから。


































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