ザ・グレート・展開予測ショー

ぎもん


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/31)


「…ん?」

 横島がいつものようにボロボロになりながらも、手の平に残る感触と瞼に焼き付けた光景を思い起こして、後悔無し!と叫びながらたどり着いた我が家の窓。
 そこには、何故か灯りが点いていた。
 盗られるようなものは特に無いが、新聞の勧誘やらがタマに来るんで鍵はかけてあったはず。
 泥棒か?それともアイツか?
 包丁とか持った強盗さんだったらどうしよう?
 そんな事を思いながら、少しビクビクして扉を開ける横島。

「だ、ダレだっ!?」
「おう、邪魔してるぜ」

 そこにいたのは、勝手知ったる何とやら。我が物顔でカップ麺をすする雪之丞。と…

「うむ。馳走になっとるぞ」
「なんでカオスまでいるんだよ!」

 同じく、堂々とカップうどんをすするドクター・カオスがいた。

「申し訳・ありま・せん」

 彼らと違って所有する知識に常識が入っているせいか、部屋の隅で肩身が狭そうにしているマリアもいて、ほんとうに申し訳なさそうに謝る。

「い、いやマリアはいいんだよ。いつ来てくれても!勝手にメシとか食わねーし!」

 慌ててフォローする横島だったが、それを横から雪之丞が台無しにする。

「ん?いや、その嬢ちゃんもさっきまでそこで充電してたぞ?」
「って何やってんだカオスー!!」

 どうやらマリアが部屋の隅にいたのはそんな理由だったらしい。カオスがここに来たのも、近くでマリアが電力不足になったせいなのだろう。
 今月の電気代大幅アップ確定、という事実に衝撃を受け、横島はカオスに猛抗議する。

「気にするな。些細なことじゃ」
「………………ホントーにそう思うか?なぁ?俺の時給、知ってんだろ?」
「…す、すまん!ワシが悪かった。もうせんから……許してくれ!」

 まるで悪気も罪悪感もありません、という平然とした態度のカオスだったが、横島が涙目の抗議がすると、途端に素直に謝った。横で雪之丞も、次のカップ麺にお湯を注ぎながらうんうん、と頷いている。

 貧乏。

 この2文字が彼らの間に共感と仲間意識を感じさせ、優しさのパラメータを一時的に上昇させる。

「頭を上げてくれ、カオス……」
「ゆ、許してくれるのか?坊主…」
「ああ………カップうどん、もう一杯食うか?」
「いただこう…」

 やはりうんうん、と頷きつつ、カオスの分のカップうどんのお湯を沸かす雪之丞。
 マリアは、彼らにどうツッコんでいいのか、解らなかった。



 そしてしばしインスタント食品をすすりつつ(横島はカップ焼きそば)歓談する3人。
 横島はこの際、前々から気になっていた事を2人に聞いてみる事にした。

「なぁ、雪之丞」
「なんだ?」
「お前、各地を修行して回ってるって言うけどさぁ…具体的にはどこで何やってんだ?」

 妙神山へ一緒に行った時、香港の時よりもあまり強くなっている気はしなかった。
 しかし、その後のアシュタロスの時には魔装術の装甲が更に変化していたし、勘九郎を無傷でボコにできるほど強くなっていた。
 妙神山以外で、いったいどこで何をして強くなったというのだろうか?

「手当たり次第だ。修行方法ってのは、結構色々あるもんでな?四国でお遍路さんの真似事をしたり、恐山でイタコ風に冷水をぶちまけられたり、殴られたり。山伏風に登山装備なんぞ無しで高山に挑んだり、カッパドギアの修道士風に岩を掘り進んだりな。さすがにナイアガラで滝に打たれるのは無理だったが」
「まさか全部やったというのか?」

 カオスが呆れた様子でそう聞き、雪之丞は平然と返す。

「当たり前だろ?何が俺に合ってて、何が合ってないかなんぞ、やってみなきゃ解かんねぇんだからよ」
「世界各地の荒行を制覇する気か、貴様は…」
「おっ、それも悪くねぇな。今後はそれで行ってみるか」

 雪之丞はそう言うと、カップ麺のスープを飲み干しにかかった。
 さすがに付いていけないものを感じて、横島はカオスに話を振る。

「俺はお手軽にパワーアップってのが好みだな〜。カオスもそうだろ?」
「まぁ、効率的であるほうが良いのは否定せんよ。やむをえんのならば、非効率的であろうが実行するがな。そもそも錬金術というのは、非効率的なものが多いんじゃ」
「ふ〜ん」
「ま、そういう意味ではそっちの小さい坊主は、非効率の果てにある、在りえざる存在になれるかも知れんの」
「小さい言うな!」「どういう事だ?」

 カオスはあまり人名などを覚えない。何かを覚えれば何かを忘れるトコロテン方式の記憶なので、出来るだけ覚えないでいいものは覚えないようにしているのだろう。
 それにしても小さい坊主、は無かったようで抗議する雪之丞。だがそれを無視して横島もカオスも話を続ける。

「錬金術じゃよ。あらゆるものを溶かし込んで、そこからあらゆるものを創り出す。数多くの荒行により、様々なエッセンスを吸収し、それを一つのものに纏められたなら、それはもはや錬金術と言って良かろう」
「よく解らんが……成功したら雪之丞はスゲー奴になれるって事か?」
「そうなのか?」

 とにかく強くなりたくて修行していただけで、そこまで考えていなかった雪之丞がマジメな顔になった。

「うむ。あるいは、の話だがな」
「そうか……へへ、やっぱ何でもやっとくもんだな…」

 握った拳を見つめてそう呟く雪之丞をよそに、カオスにこそこそと話し掛ける横島。

「なぁ…そーなる成功率ってどのくらいあると思う?」
「さぁのう…やってみた事のある人間なんぞ今までおらんだろうし…ただ…」
「ただ?」
「錬金術というのはの?普通は成功率がかなり低いものなんじゃよ」
「かなりか」
「かなりじゃ」

 そこまで話して、2人が雪之丞を見ると…

「ふふふふふふ……俺はもっと強く、カッコ良く、美しくなってやる!!ママーー!!」
 は〜〜ん!

 彼はアッチの世界に気持ち良くトリップ中のようだった。

「カオス…」
「うむ」

 しばらくそっとしておこう。
 アイコンタクトでお互いの意思を確認し、横島とカオスは目の前のカップ焼きそばとカップうどんを片付けにかかった。

 ちなみに部屋の隅っこではマリアが、横島の帰宅を察知してコンセントから抜いたプラグを再び差し込み、充電を再開していたりするのだが――
 カオスも含めて、誰も気付いていなかった。
 今月の電気代を見て、横島がカオスのところへ飛び出していくのは、まだもう少し先の事である。



「で、カオスにも聞きたい事があるんだが」
「なんじゃ?」

 雪之丞がコッチに帰ってこないので、今度はカオスへの疑問を聞いてみる横島。

「カオスって日本語ふつーに話してるよな?いつ覚えたんだよ」
「ふむ?そういえばそうじゃの。日本に来た時には、既に話せておったが……言われてみればいつ覚えたんじゃったかの?」

 どうやら日本語自体は覚えていたが、いつ覚えたかの記憶は失われていたらしい。
 記憶が既に一杯になっているので、何かを覚えれば何かをランダムで忘れてしまう、ところてん方式のカオス脳の本領発揮である。
 が、それを補うために彼女はいた。

「ドクター・カオスが・日本語を習得・したのは・1892年・でした」
「ふむ?」

 マリアのフォローを頼りに、記憶を探るカオス。だがまだ思い出せないようだ。
 マリアは、重ねて補足を入れる。

「当時・ヨーロッパで・浮世絵や漆器など・日本の工芸品や美術品・が・大流行しました」
「ジャポニズム、じゃな……うむむ、思い出してきたぞ。そうじゃ!ワシは確か一冊の日本の呪術書を手に入れて、それを解読するために日本語を覚えたんじゃった!」

 当時ヨーロッパでは陶器をチャイナと呼び、漆器をジャパンと呼んだほどそれらは愛され、当初漆器の包み紙として使われた形で輸出された浮世絵は、芸術家たちに大きな影響を与えたのは結構有名。
 葛飾北斎の『富岳三十六景・神奈川沖浪裏』を見てドビュッシーは交響曲『海』を作曲し、ゴッホやモネにも――と、話がずれた。
 そんな日本ブームの中、日本の書物もヨーロッパに持ち込まれており、その中の一冊の呪術書を、カオスは偶然手に入れる事が出来たのだ。

「当時、頭脳が衰え出しておったワシは、それを補おうと今までとは違った様々なアプローチを試みておった。今にして思えば、その分脳に入る無駄な情報が増えるので、衰えを加速するようなものじゃったがな」
「そんな昔からボケとったんかアンタ…」
「やかましいわい。それで、その……本の名前はなんじゃったかな、マリア?」
「占事略決です・その後・原典の六任を入手・占事略決はドクター・カオスにより・保管を命じられました」

 所々、虫食いのように抜けている記憶を、マリアを頼りに思い出すカオス。
 そーじゃったそーじゃった。と何度も繰り返し頷き、懐かしげに記憶を確認する。
 そして、ぽろっと重大な発言をカマす。

「いや〜、あの頃は気が若かったの〜。わざわざ日本まで来て、拠点を作って実験までしたからの」
「へ?爺さん日本に来てたのか?」

 いつの間にかコッチに帰って来たらしい雪之丞がツッコむ。

「うむ。特定の地域で発達した術は、その土地でなければ上手く働かんことがあるからの」
「んで、その拠点はどーした?」
「うむ。また来ることもあるかも知れんと、封印をしてそのままに………………」

「「「………………」」」

 沈黙があたりを支配する。
 そして、全員が一斉に叫びだす。

「しまったぁ!?忘れとった!!」
「アホかお前は!?危険は?危険なもんはそこには無いんだろーな!?」
「いや、それよりお宝だ!昔の爺さんの事だから、何かいいもんそこにあるんだろ!?な!?」
「ああっ!?思い出せん!何も思い出せんのは何故じゃ〜!!」

「落ち着いて・ください!!」
 ドガゴッゴッゴキッ!!!

 それをとめたのは、鋼鉄の拳。

「ろ、ロケットアームでツッコむとは……成長したな、マリア……」

 カオスは力尽きる前にそう言って微笑み、娘の成長を喜んだ。



 その後。マリアに残された記憶を頼りに一行は横浜へと飛んだ。
 占事略決や六任を始めとする、宝捜しのためである。
 ちなみに横島は、下手に事務所に休みの連絡を入れると美神に勘付かれる危険がある、とカオスと雪之丞に止められたため、無断欠勤。すでに背水の陣に追い込まれていたりする。

「くっ……思わずやってもうたが、これでいいのか!?いつものパターンだと、散々苦労した後やっぱり碌なもんが見つからんで、結局美神さんにシバかれて終わる…!!今回もそーやないんか?いや、そーなる!きっとそーなる気がするぞぉぉぉ!!!」
「やかましい!テンション下がるよーな事言ってんじゃねぇよ!!」

 大勢の人が行き来する横浜駅の前で、ネガティブかつ危険なことを叫ぶ横島と、それを強制的に黙らせる雪之丞。
 無論、ドクター・カオスは平然と他人のふりをしつつ、マリアと移動先を確認中だ。

「目的地には・みなとみらいで・馬車道駅下車・徒歩5分が理想です」
「じゃがワシらは金がないからのー。横浜へ来るだけでも、結構いっぱいいっぱいじゃったし」
「では歩きましょう・ドクター・カオス」
「やむをえんの」

 そして彼らは歩き出す。まずは横浜駅から見える、ランドマークタワーを目指して、それを過ぎたら汽車道へ。
 東京に比べたらそれほど多くもないけれど、高層ビルの立ち並ぶ街を横目に万国橋まで歩いて、そこで終点。

「ここかの?マリア」
「イエス・ドクター・カオス。この河の中・です」

 どうやら河底に穴を穿って、実験室を作ったらしい。
 普通に部屋でも借りられればよかったのだろうが……ドクター・カオス。今も昔もカネはあんまり持っていない。その代わり、当時はまだ結構ふんだんに持っていた技術を使ったようだ。
 そして、雪之丞が禁断の言葉を口にする。

「で、どうやって入る?」
「「………………」」

 しばしの沈黙の後、カオスが己の頼りとする娘に声をかける。

「ま、マリア?」
「ソーリー・ドクター・カオス……マリア・わかりません」
「……い、イヤや〜〜!!どの道、帰ったら美神さんにシバかれんのに、何もナシなのはイヤや〜〜!!」

 背水の陣横島が、プレッシャーに負けたかテンパった様子で叫ぶと、急速に霊力を手のひらに収束しだした。

「文珠〜!!研究室への道を“開”いてくれー!!」

 緑色の光が凝縮し、珠となって、彼の願いどおりの効果を発揮する。
 おそらくこの世に存在するありとあらゆる術を行使できる特殊能力、文珠。横島忠夫の霊能力の真骨頂。それは見事に研究室への道を開いた。
 川底に積もった土砂を押しのけ、100年以上隠されていた扉が開いたのだ。

「「おお〜〜」」

 感心するカオスと雪之丞。だが、その感嘆の声はすぐさま疑問の声に調子を変えた。

「「おお〜〜!?」」

 そう。扉は見事に開いた。河底の、扉は。
 では、河は?
 本来ならば、それも何らかの手段で道を開けたのだろうが……文珠で強引に“開”けたせいか、それとも横島がそこまでイメージしていなかったせいか。
 開いた扉に、河の水は容赦なく流れ込んでいっていた。

「どーすんだ、おい!?早く止めろバカ!」
「どどど、どやって!?」
「文珠じゃ!文珠を使うんじゃ!」
「文字はなんだーー!!?」

 そして。
 研究室は、それほど広いものではなかったらしく。彼らの混乱する間に、すっかり研究室全体は水没してしまった。
 その後、“息”の文珠を咥えた横島らの捜索も空しく、年経た貴重な古書は河の水に犯され、かなり痛んでしまって価値を落とし、それ以外に残っていたものでめぼしいものは無かったという。
 それを厄珍堂に売却し、わずかながら金銭を得たものの…

 やはり翌日、横島はこう叫んだ。

「やっぱりか〜!?やっぱりこんなオチなんかー!!」
「やかましい!丁稚の分際で勝手に休むなんて、10年早いのよ!!叩きなおしてあげるから、そこに直れー!!」
「結局は……結局は、お約束かぁぁ〜〜!!」

 きっと、それが運命。


 <完>

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