ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ転生


投稿者名:コピーキャット
投稿日時:(05/ 6/ 4)


俺はたぶん、取り返しの付かない事をするのだろう……
目の前にいる女性を見ながら、そう思った。
妖怪の女性を見ながら。
彼女は俺に対して、優しく微笑みかけてくる。
俺のやる罪の深さをすべて知り、
なおかつ、
俺のすべての罪を許すように。

それは俺にとっての最大の罰。






「ふぅ……やっぱ、久しぶりの学校はいいよな」
「そんなこと言ってていいの?単位やばいんでしょ?」
「大丈夫。ノートは試験前にピートのやつを見せてもらうから」
「まったく、そんなことしてたの?」

横島は愛子と軽く漫才をしながら、久しぶりに教室の朝の光景を堪能する。

校庭を見ると、男どもが集まっている。
輪の中心にいるのは、女の子らしい。

「お、転校生か?」
「結構可愛いらしいジャノー」
「そんなことより、今からでも、勉強しなさいよ」
「う、今は学校を堪能してだな……」
「学校は勉強する場所よ」

端から見ると愛子は世話を焼いている押しかけ女房である。


そんな、何気ない学園生活にひとつの事件が起きた――


「紹介する、今日からみんなと勉強することになった、安達ヶ原蛍だ。みんな、よろしく頼む」

担任教師の隣にいる女性を見て、横島は思わずつぶやいた。

「ルシオラ……」



放課後、蛍と横島は屋上に来ていた。

教室で男子生徒を中心に、『君は洗脳されている』とか『恥ずかしい写真をネタに脅されているのなら相談に乗る』とか言った雑音が聞こえてきたが。

蛍は屋上から、横島と街を眺める。

「夜と昼の間の一瞬にしか見えない。だからよけいに美しいの……」
彼女はフェンスに手をかけて、つぶやいた。
「……もしかして……」
「そうよ。あたし思い出したの」

鞄の中を探る
取り出したのは古ぼけた手紙だった。

「未来の横島忠夫が過去から、あなたに宛てて書いたものよ」

『拝啓 横島忠夫様

俺は美神令子と短い結婚生活を終わらせる事にした。
彼女に、ルシオラを産ませることは耐え難かったからだ。
もちろん、彼女は激怒し、最期には哀願して、泣きついたが。

そして、俺にチャンスはやってきた。
とある神族から時間移動能力を持つ魔族を封印するという仕事が舞い込んだんだ。
そして、過去に飛んだ先で、一人の妖怪の女性と知り合った。
この手紙を読んでいるということは、何が起きたかをすでに知ってしまった後だろう。

すまない。

謝罪の言葉もない。

しかし、俺はこのことに対して後悔はしていない。

真実の愛は君とともにある。
迷わず進んでくれ

横島忠夫より』

「つまり、君は……」
「横島忠夫を愛した魔族の転生体。同時に横島忠夫の娘……よ」
「その、なんか……」
「無理しなくてもいいわ。普通のお友達としてつきあえば。ね」
蛍はそっと横島の手を握る。
「本当に……本当に俺でいいのか?」
「ヨコシマじゃなければ駄目なの。それともあたしじゃ嫌?」
「そんなわけないだろう!」
横島は蛍をぎゅっと抱きしめる。
「本当に、本当に帰ってきたんだな……」
「うん……ただいま。ヨコシマ」


夜。
とある企業の研究所……
不動産業者からの依頼で、美神事務所のメンバーは除霊作業にやってきた。
横島と一緒にいたいということで、蛍も同行したのだ。
蛍の妖怪としての本質と、彼女の魂からなる霊力は、令子も充分に納得させるものであったため、特に、断る事も出来なかったのだ。

「廃ビルの徐霊作業よ。今日の仕事は軽いから、あたしは一人で南棟をやるわ。後は横島君と、おきぬちゃん、それに……ルシ……」
「安達ヶ原 蛍です」
「……蛍さんに任せるわ」

令子が建物の中に入っていく。
横島は、バックの中からの道具を取り出し、準備をする。
おキヌと蛍が残される。
「なんか、言い方が堅いような気がします。やはり、あのときの事、気にしてるのかな」
「……」
おキヌにはまだ、返す言葉は見つからない。

蛍は美神が行った方角をじっと見つめる。

美神さん、あなたはいまでも、横島さんの事を……
なら、あたしは……

「……さん、蛍さん」
「え、あ、はい!」
「危ないですから、気をつけてくださいよ」
「はじめてだから、少し緊張してるだけさ」

……そんなものじゃないわ。

……それに、なにか、邪悪なものが、この建物のどこかから発している。

ルシオラの魂を持つ蛍にははっきりとわかった。
なにか、とてつもない嫌なものが存在することを。


令子は一人研究所の中を歩いていく。
ルシオラを見てから、様々な想いがわき上がる。
自分の不手際で、彼女を死なせた。
横島の心を奪ってしまったルシオラ。

 横島からは離れたくない。だけど、ルシオラがいる限りそうはいかない。
 かならず離れる事を選ぶ。
 
 いつか事務所を辞めるだろう。
 彼女と一緒に。

 ルシオラが魔族のままであれば、勝ち目はあったかも知れない。
 魔族では行動に制限が付く。
 でも、そんな風に卑劣な考えを持つ自分が嫌になる。
 
雑念に惑わされて、すぐ後ろに妖魔の気配がする事を感知できなかったようだ。 


「妖魔を召還した!?」
西条からの緊急連絡に、思わず携帯電話に叫び返す横島。
『ああ、その建物は最近まで、妖魔の研究を極秘にしていたらしい。しかも、生きた妖魔がまだいると言うことだ』
横島は、直ちに携帯をしまうと、二人に言った。
「早く美神さんと合流しないと!危ない」

研究所の一室。
ガキッ、ガッ……
火花を散らして、二つの影が格闘していた。
美神は苦戦している。

「く、なんで、こんなものが、こんなところにいるのよ!」

その妖魔は大きさの割に、動きは敏捷で、爪をふるってくる。美神が神通棍で捌くのが精一杯だ。

「こんな事なら、横島君と一緒にいた方が良かったかも」
そう思った瞬間、脳裏にルシオラの顔が思い浮かんだ。
「くっ……、あんなのがいても、どうせ足手まといよ」
自分を奮い立たせるように言い放つと、神通棍に霊力を送り、鞭のようにしならせ、さらに攻撃をかけていく。


「こっちだ」
『捜』の文殊が発した光線に導かれた三人は息を切らせながら、すでに廃墟となった研究室にたどり着いた。

「美神さんっ!」
「横島君っ!」

美神の口から思わず安堵の声がもれる。
そのため、一瞬の油断を誘ったようだ。

「がっ!」
美神の右腕が掴まれ、神通棍がはねとばされる。
首と右腕を捕まれて、人質となった美神。

「くそ、美神さんを離せ、化け物っ!」

「くっくっくっ」

妖魔はあざけるような笑い声を漏らすと、体中から触手を出し、横島に向けて、槍のように放つ。
令子を人質に取られているので、攻撃が出来ない。
槍のような攻撃を避けるだけで精一杯である。

「ぐっ!」

それでも、何本かの攻撃を受けてしまう。致命傷にはならずとも、動きを鈍らせるには充分である。
なぶり殺しにするように、少しずつ傷が増えていく。

バリンッ!!

妖魔が背にした窓が割れる。
突入したのは蛍だ。
『剣』の文殊で作られた刀を、妖魔の腕に振り下ろす。
不意をつかれた攻撃は防御されることなく、令子をつかんでいた腕を肩から切り離す。
解放された令子を抱きかかえると、そのまま離れる蛍。

「これで終わりだ!!」

『爆』の文殊を妖魔の腹にぶつける横島。
至近距離での爆風は妖魔を壁にたたきつける。

「美神さん!」

蛍に抱きかかえられて、気絶している令子に駆け寄る横島とおキヌ。

「命に別状は無いわ。でも……」

蛍は言葉を続ける。

「もし、あたしの思いが美神さんを追いつめるのなら、あたしは身を引く。ごめんなさい。横島。
あたしは誰かを犠牲にしてまで、自分の思いを貫きたくないの」
「蛍……」

しばしの沈黙があたりを被う。
おキヌは絶えきれなくなって、目をそらす。

「……!横島さん!!」

おキヌの指さした方を見ると、倒したはずの妖魔がゆっくりと起きあがってくる。


さっき斬られたはずの腕も再生し始めている。

「とにかく逃げるぞ!」

横島は令子を背負うと、おキヌと蛍の手を引っ張り、建物から逃げ出す。


令子は横島の背中を通じて、彼の鼓動を感じていた。

 またも自分の力のなさが悔やまれる。
 
 もし……あたしがいなくなったら……
 あたしは横島君の心の中に残り、横島君の心を……
 独り占めすることが出来るだろうか……
 
 心の中に降った一粒の雨は、頬を伝っていった。
 
一行は建物の外に出る。
満月が令子の心をスポットライトのように照らしている。 
 
 「降ろして」
 
 「美神さん、気が付いたんですか?」
 
 少なくとも敵が目の前にいるのに、弱音を吐くことは出来ない。今は。
 
 ……もう誰の負担にもなりたくない。
 
 
 
    あたしは……

令子は足を地に付ける。

    いつも……

スッと立ち上がる。

    一人で歩いてきた……
    
    


「気を付けて。どこから来るかわからないわ」

たとえ、相手がルシオラであっても、私は美神令子。どんな手段をつかっても、必ず、横島君の心をつかんでみせる。

「しばらく時間を稼げば、オカGが来ます」
「わかったわ」

令子は胸元の精霊石を取り外す。
雑魚相手の掃除だと思ったら、とんだ出費だわ。依頼主から違約金をたんまりせしめないと。
いつの間にか心の暗雲は消えたようだ。 

建物に目をやると、外壁に細かくひびが入るのが見えた。

「ま、まさかな……」

建物が砂山のように崩れ、中から、巨大化した妖魔が現れる。

「んな、戦隊ヒーローものじゃねーんだぞ!」
「とにかく、ここは逃げないと」

巨大化した妖魔は四人を簡単に見つけ出し、拳を振り上げる。
轟音とともに、クレーターが現れる。
あと少し逃げ遅れたら、たぶん、あの中でイチゴジャムのようになっただろう。
巨大さに似合わず、敏捷な動きで攻撃を加えてくる。

「ああ、これなら死ぬ前に、ハーレムで遊びたかった!」
「馬鹿なこと言ってないで、とりあえず逃げることを考えるのよ」

令子は飛んできた拳をとっさにかわしたが、風圧で転んでしまう。

「美神さん!」
「美神!」

横島と、おキヌ、蛍がそろって、令子の方に駆け寄る。

「馬鹿、早く逃げなさいよ!」
「そんなこと出来るわけ無いスよ」
「あたしは美神さんと一緒にいたいの!」
蛍の言葉に、おキヌもうなずく。
「みんな……」

そんな言葉には関係なく、妖魔は次の攻撃を加えるべく、拳を振り上げる。

横島はサイキックソーサと文殊の『盾』を令子に被さるように展開する。
目をつぶって待つが、衝撃はこない。

「横島さん、あれ……」

妖魔の振り上げた拳が破裂したのだ。
攻撃が次々と妖魔の体に着弾する。
体中が爆発。
やがて、地響きとともに、崩壊する。

幾人かの足音が、横島達の方へ向かってくる。
オカGではなさそうだ。

「無事みたいね」
「き、君たちは……」

横島、令子とおキヌちゃんが驚愕のまなざしで目の前の彼女たちを見る。





























暗がりから現れたのは、十二人のルシオラ。













彼女たちは、人狼、妖狐、天狗、風神、雷神、龍神、化け猫、土蜘蛛、濡れ女、轆轤(ろくろ)首、狸、吸血鬼とそれぞれがそれぞれの妖怪の特徴を持っていた。

「あんたはモノノケに好かれやすいから」
「あらゆる妖怪に手を出したわけですよね……」

令子とおキヌちゃんがあきれたように言う。
彼女たちにも、一目で事情がわかったのだ。




「そんな生ゴミを見る目で見つめないでくれー。これは俺がやったんやないんやー……いや、俺がこれからやることなのか――!?」






『拝啓 横島忠夫様

この手紙を受け取ったと言うことは、すでに状況を把握していると思う。

すまない。

許してもらおうとは思わない。

一人だけ、と思いつつ、ほとばしる熱きパトスが臨界事故を起こし、炉心融解と理性融解がそのまま下半身の暴走を招いてしまった。

結果として、十三人ものルシオラの転生体を作ってしまった事には、やや後悔が入っている。


真実はいつも一つ、と限らないように、真実の愛もいつも一つとは限らないが、君と共にある、と思う。迷わず突っ走ってくれ。

横島忠夫より』





















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