ザ・グレート・展開予測ショー

誇りを賭けた戦い


投稿者名:Arih
投稿日時:(05/ 5/17)

 とあるスキー場から少し離れた林の中。そこで俺はその瞳の輝きに意思の光を持たない番犬達と対峙している。

 敵の数は多い。そのまま進めば一斉に攻撃を仕掛けてくるだろう。そうなればいくら文珠といえど持たない。
 だから力にあかせての強行突破は既に諦めるしかなくなっている。
 ことここに至っては力だけでは駄目だ。自らの持つ武器に加え、更に幾多の危機を乗り越えた末に培われた知性と直感をプラスさせる必要がある。

(……迂回するか……?)

 本来ならそれがベストな判断だろう。
 だが時間がない。今この時を逃せば目的は達成できないかも知れないのだ。
 故にこの案は不可。やはりこのままここを突破しよう、そう思い直して相手を見据える。

 お前ではこいつらに勝てない、自分の中のどこか醒めた部分がそう告げる。

 それでも。

 俺はもう二度と諦めない。これは遠い過去になされた神聖なる誓いなのだ。故に俺は引き下がれないし、そのつもりもさらさらない。もうこれは決定事項なのだ。
 そう思い出して自らを鼓舞する。

 だがどれだけ俺の意思が固かろうと状況は変わらない。
 たとえ一体であっても強大なのに、それが複数いるわけで。
 少しでも気を抜けば絶望に塗りつぶされてしまいそうになる。

(……やはり迂回するべきか……? 今すぐにそうすれば間に合うかもしれない)

 弱音を吐く自分がいる。
 やめろ、それは考えるな。冷静になれ。落ち着いて考えれば、そんな時間はないことはわかるだろう?
 そう、時間は無い。夕方にはここを発つのだから。
 脳裏に浮かぶ、自らの夢半ばにして朽ち果てるさまを打ち消し、確定した未来を語るかのように宣言する。

「絶対に……突破してやるっ!!」

 そう、絶対に。





誇りを賭けた戦い






 そもそものことの起こりは、全く関係のない出来事からであり、別に語る必要のない事でもある。


 それは冬もとうに過ぎて本来は春と言うべき時期のこと。

 俺達は某県のとあるホテルを舞台にした除霊の依頼を受けてそこへ赴いた。

 依頼自体は何でもなかった。ただ単に殲滅するだけで解決するし、対象の数もさほど多くなかった。俺一人でもこなせるようなものだ。その話を受けた当初は「俺一人で行け」と言われていたし。
 だが場所が場所なためか、期限の差し迫ったモノが他にないのをいいことに皆が行きたがったので「なら皆で行こう」となったわけだ(旅費は全額依頼者持ち。あこぎである)。

 そして予想通りなんのトラブルも起きなかったので、到着したその日の晩に依頼を達成。その明くる日の午後のことだ。

 高地にある為か時折吹雪くほどの寒さのあまり、金の絡まないことには面倒くさがりな性格を発揮して帰ろうとする美神さんを何とかなだめすかしつつ、さあこれから遊ぼうか、となった際に偶然にも、業界では有名な薬品の材料―――それの持つ希少性故に高いレートで取引されており、一キログラムあれば向こう数年間は遊んで暮らせるという。あの吸ったり注射したりするだけで、この悲しみに満ち溢れた世界で生きていくことに疲れた僕たちを(精神限定で)あたかも翼が生えたかのようにあの空の向こうへと羽ばたかせてくれる摩訶不思議薬物に勝るとも劣らない金銭的価値を持つ代物だ―――が群生しているのを発見した。

 そんなものを見つけてしまったのが運の尽き。金に目の眩んだ美神さんの(いつもの通りの強引な)指示によって、所員総がかり−1(タマモは面倒くさがってさっさと引き上げていった)でそれの探索をする破目になってしまった。

 そしてあらかた採り終えて、もうここらで引き上げようか、となったその時に俺はあるものを発見した。それがきっかけとなる。

(この先にこんなものがあるなんて……なんで今まで気が付かなかったんだ!)

 自分の浅はかさに愕然とする。
 周りの地形を把握しておけばすぐにわかったはずのことなのに……やはりGSとして必要な知識の収集に力を入れてこなかったツケが回ってきたということか。

 いや、今は過ぎ去った過去を悔いている時ではない。これからのことを考えるべきだ。

 先ずは周囲の状況を確認しよう。闇雲に進んでも上手くはいかない。

 手始めに皆の様子を探る。……よし、俺がアレを見つけたことに気付いた者はいないようだ。
 っ! 美神さんがこっちを意味ありげに見ている!?
 マズい、気付かれたか!
 ……いや、気のせいだったようだ。すぐに興味を失ったように視線を逸らされた。
 危なかったぜ……

 次にさりげなく皆から離れる。……シロがじゃれ付いてくる。くっ、どうやってコイツを引き離せばいいんだ!?
 だがそう悩んでいたのが結果的に功を奏した。リアクションの乏しいのに拗ねたのか俺から離れて、既に会話を始めていた美神さんとおキヌちゃんの方に寄っていく。
 …今がチャンス!!
 三人の目を引いてしまわないよう、さりげなく、かつ少しずつ離れる。
 そして頃合を見計らって一気に離脱する!

 …ここまでくれば大丈夫だろう。あとは実行に移すのみ。
 黙っていなくなるのは皆に悪いが、これで良いのだ。これは自分一人で成し遂げなければ意味が無いのだから。
 固い決意を胸に進み始める。


 そうして進んだ先に、『奴ら』がいた。例の番犬どもが。

 敵の戦力を確認しよう。奴らは構造上の問題でほとんど動けない。そして攻撃手段はその目から出す光線のみ。その射程はよく分からないが、少なくとも攻撃を始めるラインは奴を中心にして半径十メートル前後のところにある、と言ったところか。

 半径十メートル、というのが曲者だ。前にも述べたが、ヤツラは複数いる。ルートの選択を誤れば、さっきと同じように集中砲火を喰らってしまうだろう。慎重に選択しなければ。
 けれども時間が無い。だから大胆さも要求される。いちいち破壊する手間も惜しいし……難しい状況だ。

 ……仕方が無い。多少強引だが、なるべく手薄のルートをたどりつつ、文珠での結界を使って強引にいくか。こうして悩む時間も惜しい。


 俺を焼き尽くさんとする光が幾条も迫りくるのを、文珠によって作り出した防護膜で防ぎながら進み続ける。
 行程は順調だ。文珠の消費が激しいのが計算外と言えば計算外だが、このままならギリギリだがなんとかなるだろう。


 ……ようやく見えてきた。あそこを越えれば、ヤツラは攻撃してはこまい。

 もうすぐ。もうすぐだ。あと少しで、約束の地(エデン)が……!

 ッ!? ここに来て伏兵か! 誰だ、この布陣を敷いたやつは!? 出て来い責任者ッ!! ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ、文珠を……ってもう無ぇ!!
 くっ、どうするどうするどうするどうするどうする!? ここまで来て失敗なんて納得いかねぇぞ!! ……アレだ!!

 どこか金属同士がぶつかり合う時のそれにも似た、けたたましい音が辺りに鳴り響く。

「あ、危なかったー!!」

 思わず呟いてしまう。だがそれほど危なかったということだ。とっさにサイキックソーサーで弾くことを思いつかなければどうなっていたことか。……想像するだに恐ろしい。

 いや、もう過ぎたことだ。すでに障害は突破したのだ。もう俺を阻むものは無く、後は目標に向かって突き進むだけで良い。


 ようやく、ようやく辿り着いた……この壁の向こうに、今世紀最後の、夢にまで見てその後で夢だと気付いた時には思わず枕を濡らしてしまうほどに渇望した、夢の新世界が……!!

 げ、誰も居ないのか? ……いや、俺の持つ高性能美女レーダーに引っかかる人影発見! いざ行かん、愛と(男限定の)希望に満ち溢れた、真の桃源郷へとっ!!

「ずっと前から……愛してましたぁぁぁぁぁぁっ!!」

「この変質者がっ!!」

「みぎゃっ!? な、なんでここに美神さんが!?」

 絶対に気付いてないと思ったのに……こんなはずは!! 説明を要求するっ!

「アンタの挙動不審ッぷりに何かある、と思ってたのよ! その上であの『この先××旅館(露天風呂有ります)』って看板見れば、イヤでも分かるわっ! っていうかこの旅館自慢の覗き撃退システムを突破するくらいなら、その根性をもっと有意義に使えっ!!」

 や、やっぱりバレてたんかっ! その後の展開が絵に描いたように想像できるわっ!!

「さて、覚悟は良いわね……?」

「か、堪忍や〜! 浪漫が俺を狂わせたんや〜〜!!」

 俺が最期に見たのは、血に飢えた獣の瞳のように妖しく輝く神通棍と、それを振りかぶる美神さんのなぜか修羅を彷彿とさせる笑顔だった……

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





 後日、件の旅館が警備システムを増強した、という噂を聞いた。これは俺に対する挑戦なのだろうか? ならば受けてたたねばなるまい!

「やめんかっ!!」






―後書けばあなたがいた(←?)―
 これは、コミックス13巻の『スキー天国!』でのラスト近くの横島君の行動を連載終了時の状態に合わせるように修正した(実際は書き直しに近かった)上で投稿したものです。
 そのことを冒頭の辺りの「もう二度と」で表現したのですが、これで件のエピソードとの関係に気付いた方はいらっしゃるでしょうか。なるべく目立たないようにという意図だったので、いらっしゃるようなら、もう一回勉強しなおしてきます(汗

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