ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い0 改訂版 『氷雨の夜』


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 5/13)

Caution!! 今回の話には少し暗い要素がありますので、それを踏まえた上でお読みください。




ある東京都内の高級ホテル。冷たい雨が降り始める中、その門の前に物々しい装甲車やパトカーが停車し、テロなどの大事件の前触れのような空気を作り出していく。



件のホテルの廊下。美神達と横島は向き合っていた。部屋から出て来た横島と出くわしたのだ。もっと正確に言えば、彼女達の気配を察した横島が先手を打って、出て来たのだが。
「さて・・・・・久振りね・・・横島君」
「先生!! お会いしたかったでござる」
「横島さん・・・・・・」
「横島・・・・・」
それぞれの口調で横島に声をかける美神除霊事務所の面々。
「もう二度と会うことは無いと思っていましたが・・・何の用ですか?」
それにも関らず、対する横島の声は何処までも冷ややかだった。


「ちょっと・・・何よ、その態度は!? 折角、会いに来てやったのに!!」
「元丁稚相手に随分ご苦労なごとです。おまけにGメンまで引っ張ってくるなんてね・・・・」
激昂する美神に応対しながら、後ろに控えるGメンの者達にも視線を向ける。
その場を微妙な沈黙が支配する。


「横島、この連中をどうする?」
「そうよ、早くチェックアウトしないと・・・」
そんな空気を破るかのように横島の後ろから女二人の声が発せられる。

「え・・・この声」
「ちょっと、まさか・・・・」
美神とおキヌは、特にその中の一方の声に驚きを隠せない。美智恵の表情も何処か強張る。タマモとシロは疑問符を浮かべていたが。

そうこうしている間にも近づいてきた彼女たちは横島の両隣に並ぶ。

「美神さん、おキヌちゃん、お久し振り」
彼女達の一方――――美神達を驚愕させた声の主――――ルシオラは朗らかに笑った。


(何で・・・・・ルシオラが此処に!?)
もうこの世に居ないはずの彼女。横島の心を自分達から永遠に奪った女。美神は心を掻き乱され、正常な思考が停止する。おキヌやGメン隊員を指揮していた美智恵も同様。

「おキヌ殿、あの女性は誰でござるか?」
「ねえ、おキヌちゃん!? 聞いてるの!?」
事情を知らないタマモやシロがおキヌに問いかけるが、当然無反応。


「驚いているみたいですね・・・・」
「当然よ、彼女は・・・ルシオラは死んだはずじゃ・・・・」
思考が停止している美神達に代わって、美智恵が問いかける。流石に冷静さを保ってはいるが、声は微かに震えている。

「この通り復活させてもらった訳ですよ、誰にとは言えませんけど・・・・・」
そんな美智恵を正面から見据えながら、横島は淡々と告げる。その声には如何なる感情もこもっていない。


確かに顔立ちと声はルシオラのものだ。だが、髪は腰まで伸びており、スタイルも全く違う。おまけにその身に纏った空気さえも何処か違う。


「それに・・・・もう一人の女は誰なのよ!?」
ようやく立ち直った―――とはいってもヒステリー気味の美神が言い放つ。

「ああ彼女はルシオラと同じ位大切な女性――『吟詠公爵』ゴモリーですよ」


「ゴモリー・・・・・まさか、ソロモンの七十二柱の女公爵!? そんな女とあんたにどんな縁があるって言うのよ!?」



「別に話す義理は無いと思いますが? 元雇い主に過ぎない美神さんには」
尚も食い下がる美神の言も煩わしいとばかりに切って捨てる。

そんな美神を完全に無視し、横島達はゴモリーとルシオラを伴い、ホテルの廊下を進んでいく。

そんな三人の様子を見て、美神は益々ヒートアップする。
「ちょっと!! 何処に行こうって言うのよ!?」
「チェックアウトするんですよ、大騒ぎにしちゃいましたから。それと・・・Gメンにもお引取り願ったほうがいいですよ?」
底冷えする口調の美神の問いかけにも全く動じることなく、世間話でもするかのような調子で応答する。

そんな二人―――美神と横島の動向をその場の全員が固唾を呑んで、見守っていた。


「・・・・・その女は・・・ルシオラは偽者よ!! 目を覚ましなさい!!」
そう言うのとほぼ同時に神通鞭を振り上げる。表向きは丁稚の目を覚まさせるため、真の理由は嫉妬のため、美神は素直になれなかった。



鞭は正確無比に横島に迫り-―――――



バチィッ!!

だが、横島に届くことは無かった。



横島の周りには多数のモノリスが浮かび、それらを媒介として、結界が展開されていた。その結界が美神の神通鞭を弾いたのだ。


「な・・・・・・・・・」
思わず呆然としてしまう美神。以前の彼にはこんな能力は無かったはずだ。
何よりもその結界が彼女と彼を遮るかのような錯覚を起こさせる。

「半自動型自律防御結界・・・・・・小難しい名前をつけるならそんな所ですね。自分では制御しにくいのが難点ですが」
横島は美神のことにはお構いなく、淡々と語る。そして、その後は結界を解除する。横島の周りに浮かんでいたモノリス群が消えうせる。
結界を展開したままではその場から動けないからだ。

「それと・・・・ルシオラが偽者だと言いましたね。訂正してください」
「五月蝿いわね!! 復活できるわけ無いのよ!! 偽者に決まってるわよ!! いい加減に目を覚ましなさい!!」


『復活できないからこそ、自分の子供に転生するという手段を考えたのではなかったのか・・・・』
そう理論武装しながら、美神は自らの激情を言葉に変えて、横島に叩きつける。




だが次の瞬間、空気が凍りつき―――――――――――わめき散らしていた美神の右手にあった神通鞭が真っ二つになった。



「え・・・・・・!?」
呆然とした面持ちで横島の顔と床に落ちた神通鞭の刃を見比べる美神。
「もう一度言います。訂正してください、ここに居るルシオラは偽者なんかじゃありません」
横島の声には怒りが混じり始めていた。静かだが有無を言わせぬ重圧を伴った怒り。彼の気持ちを代弁するかのように、右手に携えていた魔剣から黒い火の粉が立ち上り始めた。


「横島君、どうしても戻ってはくれないのね・・・・・」
「ええ、ルシオラの復活に全力を尽くさなかった貴方達の所に戻る気はありませんよ」
美智恵の問いにも横島は淡々と答える。だが、その裏にはハッキリとした敵意と嫌悪感が感じ取れた。


「全力を尽くさなかったって・・・・・どういうことですか?」
それまで黙っていたおキヌがおずおずと尋ねる。最早、彼女は半泣き状態だった。

「簡単なことさ・・・・・ルシオラの霊基片の探索期間・・・・どれくらいだったか、覚えてる? たったの二週間だよ。あの大戦の功労者なのに。当時は気が動転していて、気付かなかったけど」
そんなおキヌの涙にも全く構わずに吐き捨てるかのような口調で横島は言い放つ。


アシュタロス陣営に与していたとはいえ、大戦の後半では人類側について戦ってくれた心優しき女魔族。そんな彼女の命の期限がたったの二週間とは笑える話では無いか。
同じく元はアシュタロスに生み出された魔族だった美神はこうして生き残っているというのに・・・・・・・

『不公平にも程があると思わないかな?』
バエルの言葉がふと横島の記憶の中でフラッシュバックした。






「そ、それは神族上層部がその期間が限界だと・・・・」
「それでも二週間は短すぎるんじゃないですか? それとルシオラの霊基片の探索期間の延長を主張してくれていたハヌマン師匠が突然倒れたのは?」
やや戸惑い気味の美智恵に対し、横島はさらに畳み掛ける。底知れない負の感情を宿した視線と共に。

「ハヌマン様が倒れたって・・・・・どういうこと!?」
どうやら後のほうの話は美智恵も知らなかったらしい。そう察した横島は美智恵の後ろに控えていたヒャクメに視線を向けた。彼女ならば、神族の情報官という立場上真相を知っているはずだ。


「じ、実は・・・・ハヌマン様が倒れたのは竜神王陛下秘蔵の秘薬を飲まされたからなのね〜」
横島の視線に射すくめられたのか、ヒャクメはベラベラと喋り始めた。
神族上層部、特に竜神族はルシオラの復活を快く思っていなかったこと。
だから、ルシオラ復活を主張していたハヌマンに秘薬を飲ませ、眠らせたこと。その秘薬を愛弟子である小竜姫の料理に混ぜたこと。
その秘薬は無味無臭で愛弟子の手料理に混ぜられていては、流石のハヌマンも気付かなかったことなど。


「ルシオラの復活を妨害したのは、アシュタロス戦役で活躍できなかった腹いせと元々、竜神族はデタントに否定的で、アシュタロス陣営の魔族を快く思っていなかったからだな、ヒャクメ」
「そ、そうなのね〜〜でも私にはどうにも出来ないし、それに小竜姫は記憶操作された上で、ハヌマン様に薬を盛ったのね〜」



「ふん・・・・どの道、竜神族は最低だな。だが、お前らもルシオラの復活を快く思っていなかったのは事実だろう?」

「え・・・・ど、どういうことなのね〜?」


(あくまでもとぼける気か・・・・・・!!)
ヒャクメの様子に苛立つ横島。心の中をどす黒く、冷たい霧が覆っていく。

ルシオラの霊基片の捜索期間の短さやハヌマンが薬を盛られて倒れたのは事実。バエルはこの部分を幹とし、それに嘘と虚構を枝葉にして付け加え、横島が美神達に反感を抱くように仕向けたのだ。

美神達のどんな弁解も出鱈目にしか聞こえないように-―――――――――



「とぼけるのもいい加減にしろ。ルシオラの復活は無いほうがいいと、お前らが決めたんだろうが、アシュタロスの技術力を管理出来うる立場に居るからという理由でな」
「そ、それは・・・・・・」



横島の言葉に沈黙せざるを得ないヒャクメ。少なからず先の話からわかるように、そういった事を考えていたのは事実なのだから。例え上層部の意思であったとしても、自分達はそれに迎合した。同時に横島を想う者の一人として、ルシオラの復活を心の何処かで拒んでいた事も否定できなかった。

「とにかく・・・・・俺達はチェックアウトしますんで・・・・美神さん達も引き上げて下さい。二度と会いたくはありませんので・・・・」

美神達に全ての罪があるわけでは無いが、美神達との縁は断ち切ってしまう必要があった。
ルシオラの事で話がこじれる事は明らかなのだから―――――――――

そう言うと横島はゴモリーとルシオラを伴い、歩き出した。美神達のほうに背を向け、振り返る事も無く。
彼らを包囲していた西条を初めとするGメン達は気圧されたように道を空けた。


「ちょっと待ちなさいよ!! 私のほうは話が終わってないのよ!! 丁稚の分際で雇い主に歯向かう気!?」
(違う、こんな事を言いたいんじゃない!! 私は―――――――――)
『私は千年待ったのよ!! どうして・・・・・取られなきゃいけないの!?』

美神が大声を張り上げ、彼らを呼び止める。精一杯の虚勢を顔に張り付けながら。
また口から紡がれる声とは違う二つの心の声に戸惑いながら。

「元でしょう・・・・・丁稚、丁稚、丁稚・・・・・それしか言えないんですか?」
「何ですって!? あんたは私の色香に迷って、この仕事を始めたんでしょう!! 私の下に今まで居たくせに、今更離れていくなんてどういう了見よ!!」
「その意見は的外れですよ・・・・今と昔は別でしょう」

正直、この場に居る連中には色々な恩や縁があったので、手を出さずに立ち去るつもりだった。


だが、美神の先程の言葉―――――――――


『そのルシオラは偽者なのよ!!』
『復活出来るわけが無いのよ!!』

何よりも最も許せなかった言葉―――――――



「あの時・・・・・貴方はこう言いましたね」
「え・・・・・」
戸惑う美神に構わず、唐突に横島は言葉を紡いだ。

心の奥底に溜まった冷たい霧を吐き出すかのように・・・・・




『取りあえずこれでハッピーエンドって事にしない?』
それは―――あの戦いが終わった時に彼女が投げかけた言葉。



「あ、あれは・・・・それが最善の方法だと・・・・」
「最善の方法ですか・・・・確かにそうでしょう、犠牲者は一人で済んで世界は救われたのだから。でも、何故あの時の俺に向けて、その言葉を向けたんですか?」
「わ、私は・・・・・・」


あの時、自分は彼を慰めるつもりでその言葉を口にした。だが、お互いの置かれた立場を履き違えていたのではないか?
自分は前世からの因縁が片付き、危険なしがらみが無くなった。だが、彼はどうだったか?

最愛の存在を失った者に対して、自分はハッピーエンドなどという言葉を口にした。さらに生まれてくる子供に愛情を注いでやればいいなどと―――――-言うべきではなかった。

(私は彼と自分の状況を間違えていた。だから、あんな言葉を・・・・・)

「それについて、もうどうこう言う気はありません・・・・ですが今此処に居るルシオラが偽者だというのは訂正してもらいます」
横島達は歩みを止め、その視線を美神に向けていた。

その視線に美神は自分がこれから裁かれる罪人のような錯覚に陥った。妙に息苦しく、押しつぶされるような圧迫感を感じる。

「五月蝿いわね!! そのルシオラが偽者だって言うのには変わりないのよ!! いい加減に目を覚まし―--――――――-」
(違う!! こんな事が言いたいんじゃない!! 私は-―――――)

何故素直な言葉が出てこないのか。
横島達の重圧に動揺していたからか?
どんな言葉を言えばいいのか解らなかったからか?
それとも・・・・・・

ただ、一つだけ確かなのは-―――――――――彼女は『最後』まで素直になれなかったということ。

ある意味、そんなところが彼女の可愛いところだと言う者も居るだろう。
だが、この場では惨劇への引き金に過ぎなかった。

ルシオラの『否定』―――――『彼』に対して、最も言ってはいけない類の言葉だった。



ザシュン!! 

魔剣が鋭い音と共に空気を切り裂き、彼女の体を朱に染め上げた。





後書き 思ったよりも長くなってしまったので、今回はここまで。ルシオラの霊基片の捜索期間がどれ位だったかは原作には記されていませんでしたから、二週間ぐらいに設定(余りこの辺については追求されていないような気がします)
実はまだバエルは色々吹き込んでいるんですが・・・・・そこまで書くときりが無くなりそうなので。ちなみに横島達は、まだホテルの廊下に居ます。
美神は最後まで素直になれなさそうです。それが悲劇の引き金に・・・・・始めてのダーク物なので、描ききれていない部分があるかも・・・・・・西条もこの場に居るんですが、一言も喋っていません(周りの空気に圧倒されて)美神の生死については次回に。
次は竜神族襲撃でもさせましょうかね・・・・・・ついでに言うとバエルのBGMはスター○ォーズの帝国のテーマ「imperial march」です。

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