ザ・グレート・展開予測ショー

ゆっきー いんたーもっしょん


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/27)

「どこだっ!?どこに逃げたー!?」
「探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」
「あんな犯罪史上まれに見る、大胆な連続のぞき魔を逃がしたとあっちゃー、桜田門の名折れだ!絶対逃がすな!!」
「「「おう!!」」」

 やれやれだぜ…
 目の前で繰り広げられる、それなりに熱いお巡りさん達のやり取りをガラスごしに盗み見ながら、それとどっこいの熱さのコーヒーをすする。
 奴らが探しているのは、パンツ一丁で逃げ出したマヌケ野郎であって、きっちりスーツを着こんだ人間じゃない。こうしてゆっくりとこの喫茶店で時間を潰していれば、そのうち諦めるだろう。
 まぁ、魔族との共謀容疑の方でGS協会から手配がかかるかもしれねーが、そっちは今メドーサと勘九郎で手一杯なはず。時間の余裕はある。

 カランカラン♪
「いらっしゃいませー」
「おう、来たか。ここだ」

 そう。たった今、店に入ってきたあの爺さんと待ち合わせて、国外逃亡の手助けを依頼する時間くらいは。
 俺の名は伊達雪之丞。俺を生んで育ててくれた、そして俺が大きくなる前に遠くへ逝ってしまったママをこよなく愛する………GS崩れだ。

 この辺、詳しい事はワイド版の5巻あたりか、コミックスの10巻前後でな。
 それだけってのも何なんで、まー、それに補足するとだ。
 俺は医務室からまんまと逃亡に成功した。それはいいんだが、当然着の身着のまま逃げ出したわけでな?
 それで、何故か外には警官が群れをなして連続のぞき魔とやらを探しててな?
 んでもって、俺の格好は医務室で治療後の…まーなんつーか、パンツ一丁だったわけだ。

 ………………言い訳は不可能だった。

 かと言って、大人しく捕まるのもゴメンだ。やってもいない、しかものぞきなんてので捕まったらママに顔向けできなくなっちまう。捕まった後に濡れ衣だとわかっても、GS協会からの手配でそのまま御用ってのもゾッとしない話だしな。
 その場を何とか振り切って、それからこっそり試験会場の控え室まで取って返した。さっきも言ったが、なんせパンツ一丁だ。それでどこへ逃げろって言うんだ?
 魔装術を使えば一応その状態からは脱せられるが、別の意味で通報されるし、まだ今の俺の実力じゃ長時間は持たない。第一、今は横島との試合で霊力がすっからかんだ。
 というわけで、私服と何よりサイフを取りに控え室まで戻ったわけだ。
 余談だがこの控え室、かなり大き目のコインロッカーやら着替え室やらがあったりする。
 というのも、GSってやつらはその格好が独特な奴らが多い。山伏やら巫女やら、僧服のオーソドックスな宗教系はまだいいが、新興宗教の何考えてんだかわかんねーようなケバいシロモノとか、それで街を歩くのはどうかっていう、あのミカ・レイのチャイナドレスみたいな際どいヤツ。それを通り越して、上半身裸とか、腰ミノ一丁とかゆー野郎ども。

 ……そんな奴らをそのままの格好で試験会場まで表を歩かせた場合、GSの社会的地位とか信用はどーなると思う?

 そういうわけで、この控え室にはそーゆーもんがあるわけだ。
 って話がずれたな。戻すとしよう。

 こっそり舞い戻った控え室に、幸い人影はなかった。試験会場のほうが騒がしかったんで、まだあっちで揉めているんだろう。
 荷物をまとめて入れておいたコインロッカーを、キーが無いんで手早く霊波砲でぶっ壊して開けた。ナンバーまで正確に覚えてたわけじゃないんで、いくつかぶっ壊したが、まぁ些細な犠牲は人生にはつきもんだ。
 急いでシャツとズボンを身に付け、ネクタイを締めてジャケットを羽織る。
 さて、あとは適当な場所で、ちょいとした貸しのある華僑に繋ぎを入れるだけ。
 そうして俺は、日本を飛び出した。



 まずは横浜港から香港へ。横浜へは爺さんの車で、そこから先は船に乗って。
 飛行機の方が早いが、空港をきちんと通るには高度な偽造ビザやらちょっとした変装やらが必要になる。こんな短時間で準備するのは、ムリ。必然的に船しか無いわけだ。
 船員に話が通っていて、出航、入港時のチェックさえ掻い潜れれば、密航は意外と簡単らしい。
 やってみれば大した事は無いもんだ。
 夜の闇にまぎれて、魔装術で上げた身体能力に物を言わせて船の側壁から飛び降り、指定された宿へと走りながらそんな事を思った。

 翌朝。そんな感慨が僅かにあった不安を消してくれたのか、グッスリと寝こけていた俺を叩き起こしたのは女の声。
 と言っても、別に色っぽさとかそんなもんはカケラもない。可愛げのないクソガキの声だ。

「起きろ!ユキノジョー!」
「あいよ…」

 こっちの人間はとにかくエネルギッシュだ。日本じゃ大人しいヤツも、こっちに戻れば水を得た魚のように生き生きと、キビキビと動き出す。
 子供もその例外じゃない。まだほんのガキのうちから自発的に商売するなんざ、珍しくないどころか当たり前。それも小遣い稼ぎじゃなく、家計を助けるためだったり、自分や家族の学費のためだったりする。
 日本人からすれば頭が下がる思いなんだろうが、中国人、特に香港人にとっちゃそれが当たり前。俺も同感だ。真剣に生きるってのは、そういう事だろ?
 その方針に従って、朝早くに起こされた事に文句を言わずに素直に起きる。

「こっちだこっち!早く来い!」

 妙にエラそーな言葉遣いにイラッときながらも、無言で従う。仕方が無い。こいつが当面、俺の世話役兼広東語の教師なんで拗ねられでもしたら困るのだ。
 ここは一つ、大人の余裕というヤツでガマンしてやろう。

「早く来いって言ってる!グズですかお前!?」

 ………………ママ。俺、頑張ってるよ。これでいいんだよね?



「イ尓好(れぃほぅ)。はい、言って」
「ニーハオじゃねーのか?」

 俺が世話になっている部屋は、とある飯店の2階の一角。住み込みの従業員用の部屋の一つ。
 働かざる者食うべからず、というわけで小娘に付いて回って皿洗いやら買い出し、料理の下ごしらえなんぞを横で一緒にしながら言葉のお勉強。

「香港では広東語しゃべります。それ本州人(中国本土の人間)の発音」
「げ……1から覚えなおしかよ」

 少しは話せるつもりだったんだが、これには参った。
 まー、考えてみれば日本語も関西弁とか色々あるしな……そーいやアイツも関西弁を少し使ってたっけ。

「唔該(んこぃ)と多謝(とぉちぇ)この2つ、お礼の言葉。話せない。なら店ではこれ使う、いいよ」

 話せない間は、とりあえずありがとうございますと言っといて誤魔化せ、ってわけか。確かにそれもアリだな。

「サンキュー」
「イングリッシュ解るか。それいいね。香港人半分、話せるよ」
「いや、ロクに話せん。単語をいくつか知ってるくらいだ」
「感心、損した」

 学校なんざ、中学校すらちゃんと通ってなかったからな……
 力さえありゃいいんだ、と思ってたが、やっぱマズいか?
 うん、そーだな!ママの子がバカじゃダメだよな!俺、頑張るよママ!!

「はっ!?いつの間にか皿洗いが終わっている!?」
「うわー、早いねユノジョー」

 気付けば山のようにあった汚れた皿が、全部ピカピカになっていた。俺って、ひょっとしたら凄いのかもしれん。



 一ヶ月が過ぎ、一人でウェイターの真似事が出来るようになった頃。もう言葉も何とかなるだろうってんで、モグリのGSの仕事を始めた。
 俺はメドーサから離反した。あの女はいつまでもそんな俺をそっとしといてくれるようなタマじゃねぇし、何より強さを求めるのは俺の目的そのものだ。メドーサを返り討ちに出来るくらいに強くなる。とりあえずそれが目標だ。
 という理由で飯店のオーナーから紹介を受けて、初仕事に取り掛かったわけだが…

「いきなり大幅な遅刻かよ…」

 久しぶりに着こんだスーツの感触に軽い違和感もあいまって、俺の腕を確認するのと道案内をかねた同行者の遅刻は俺をイライラさせていた。
 そんな状態の俺の出す結論は、唯一つ。放っといて先に行く、だ。ゆっくり待つほど、気が長い方じゃない。

 話は変わるが、大陸の人間は鬼を尊ぶと言う。この場合、鬼は先祖の事だ。大事な判断の時、先祖にお伺いを立てる道具や儀式なんぞも結構充実している。
 死者も結構まともに弔われてるんで、悪霊化するのは少ない――かと言うとそうでもない。
 色々なケースはあるが、ここ香港では墓場事情が関係してくる。
 風水的には日当たりがよく、水の多い場所が墓地として最高だ。というわけで香港の山や海の見える所には大規模な墓地がある。
 だが、それでも土地が足りない。日本と違って土葬なぶん、スペースを取る。先祖代々の墓、とかひとまとめに出来ないからな。
 そんで香港は経済的に発展してて、貧富の差が激しいと来れば――あとは大体想像できるだろ?
 そんなわけで、団体さんで仲良く悪霊化した粗末なお墓の人々を、あの世へご招待するツアコンのお仕事が回ってきたわけだ。
 なんせGSや道師に頼めば金がかかる。モグリに頼んで上手くいったら儲けもの――ま、そんなところだろう。

「さて、かかって来な…!!」

 魔装術を使おうとして、ふと思いついてアイツの使っていた霊気の盾を作り出して構え、悪霊どもと対峙した。
 この盾は威力だけなら、たいしたもんだ。一点以外の防御力が下がる、リスクがある所も気に入った。勘九郎やメドーサとやりあう時の、隠しダマに鍛えておくのもいいだろう。
 せっかく本場にいるのだから、と見よう見まねで覚えたカンフーの足裁きで、突っ込んでくる悪霊をかわす。相手に必ず当てるようにコントロールして、霊気の盾を投げる。
 ザコ相手ではあるが、中々の実戦訓練だ。体調も良い。体がイメージ通りに動く!

「ふふふふふふ、今の俺は確実に強くなっていっている……見てるかいママー!!」

 絶好調だ!今の俺に敵はいないっ!!



 悪霊を全部片付けても、案内人はやってこなかった。帰ってオーナーに文句をつけてやろうと、飯店の裏口から帰った俺を出迎えたのは、小娘の必死の声。

「パパをどうしたっ!?」
「は?いや知らんぞ。というか会った事も無い」

 何があったか知らないが、そうとう慌てているらしい。俺がそう言ったのを聞くや、どこかへ飛び出していった。

「なんなんだ?ありゃ」

 そう言えば、あいつの親父も霊能者だとか、聞いた事があったような気がする。
 んでもって、俺にパパをどうした?と聞いて…
 今日、来るはずの案内人が来なかった、と…

「あ〜〜…なんかヤな予感がする…」

 頭をガシガシとかき回し、さっきまでのカッカした気分とは逆に、重い足取りで階段を上ってオーナーの部屋へと向かう。
 とにかく、答え合わせくらいはしないとな…



 結果から言えば、小娘の親父は二度と帰ってこなかった。
 華僑のネットワークに引っ掛かったキーワードを並べると、デカイヤマが入った、大金が手に入るかもしれないと言っていた事。それと………………メドーサ。
 それっきり、ふっつりとそいつの姿は見なくなったそうだ。
 そしてその後のことは解らず、消息は不明。
 裏社会でもそうなのかもしれないが、GSの最後なんざぁ、多分そんなもんなんだろう。

 俺は、小娘に仇を取ってやると約束した。
 他に何かしてやれる事が見当たらなかったからだ。
 その後、事件とメドーサを追う俺に小竜姫が接触してきて、あいつの親父の血も染み込んだ針を巡る戦いに挑む事になるのだが――

 それは、別の話だ。

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