ザ・グレート・展開予測ショー

GSホームズ極楽大作戦!! 〜バスカヴィル家の狼〜 1


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(05/ 5/29)

いつもきまって朝寝坊なホームズが、どうしたことかその日に限っては早起きして椅子に座っていた。
昨日から置いてある年季の入った黒褐色のステッキを、さも興味深そうに眺めていた。
朝の挨拶を交わすと、彼はそれを私に差し出して言った。

「ワトソン君、これをどう思う?」

「昨日の客が忘れていったというやつだね?」

「そうさ。生憎と二人とも留守だったから、昨日の客がどんな人物かを知るてがかりは、このステッキしかないわけさ」

そうだね、と私はホームズのいつものやり方を真似ながら、そのステッキを手に取って調べてみた。
かなり使い込んだに違いないそれはよく手入れされ、深みを増した表面が鈍い光沢を放っていた。
硬い棕櫚の木に似た感じだが驚くほどに軽く、やや小ぶりの球形の握りがついており、そこに大きな犬と二人の子供を描いた見事な彫刻が施されていた。
手に吸い付くような握りのすぐ下には、およそ1インチほどの太い帯が巻かれ、古風な書体で「CWWW GTY」とだけ刻まれていた。

「この人物は相当の年配の、なかなかに裕福な暮らしをしている人だと思う。この細工を見てもかなりの金がかかっているのがわかるし、十年やそこら経った様な物でもなさそうだからね」

「ほう」

ホームズは桜のパイプを取り出し、例のペルシャ・スリッパからタバコを詰めて火をつけた。
推理ではなく軽い会話を好むときは、たいていこのパイプを選ぶのが彼の常だった。
シップスの強い煙に鼻腔をくすぐられ、私は先を続けた。

「それに、住んでいるところは田舎で、健康のために毎日かなりの距離を歩いている男だということも言えるだろうね」

「何故かね?」

「この石突の減り具合を見ればわかるさ。ロンドンの街中じゃあ、いくら歩いたってこうはなるまいよ」

「そうだろうね」

「次にこの文字だけれども、「CWWW」というのはおそらくコーンウォールとウェールズ地方(CornWall and Wales)のことだろう。最後のWはわからないが、たぶん水道(Water)か森林(Woods)あたりだと思う。いずれにせよ、広大な土地を持った地主に間違いあるまい」

「GTYは?」

「これは今ひとつよくわからないんだが、たぶんこのステッキを作った店の名前じゃないかな。たとえば、グレートなんとか、とか言うような」

「すばらしいよ、ワトソン」

安楽椅子に深々と身を預けたホームズは、パイプを玩びながら言った。

「君が僕の些細な仕事を本にしてくれるのはありがたいけれど、そうした中で自分をあまり謙遜し過ぎるのはどうかと思うよ」

彼がこんなことを言い出すのは初めてなので、私は些か面食らってしまった。

「めずらしいこともあるもんだね。君が僕を誉めるなんて」

「いやいや、本当さ。普通なら僕も同じような推理をしたと思うよ。もっとも、もう少し詳しくは説明できると思うがね」

「普通なら?」

「こいつはちょっとばかり特殊な知識が必要だからね。君が気がつかなくても無理はないよ」

そう言いながらホームズは椅子から立ち上がり、私からステッキを受け取って床をこつこつと叩いてみたり、ときおり軽く振り下ろしてみたりしていた。
私には彼のいう特殊な知識とやらが何なのか見当もつかなかったが、あまつさえフェンシングのように構えてみたりするのを見て、ますますわからなくなってしまった。

「おいおい、何の真似だい?」

「ふむ、面白いな」

なおも部屋の中を歩き回りながら、どこか満足そうにホームズは頷いた。

「たしかに元々の持ち主は年配の人物で、かれこれ三十年近くは使っていただろう。また、彼の身長は5フィート半(約168センチ)ぐらいだね。これは僕の身長だと短すぎるからさ。だが、今の持ち主はもう少し背が高いみたいだ。ほら、石突のところの傷が少し違ってきているのがわかるだろう?」

「元の持ち主?」

「たぶん、相続か何かで譲り受けたんだろう。だが、その人物はこれの本当の価値を知らないみたいだ」

不意に彼は歩き回るのを止め、引っ込んだ窓から外を覗き込むように眺めていた。
穏やかな朝の日差しがホームズの精悍な顔を照らし出していた。

「その人物は三十ぐらいのがっしりとした体格の紳士で、つい最近までアメリカにいた、赤っぽいスコッチの服を来た男だね」

「おいおい、やけに自信たっぷりだね。いくらなんでも着ている服まではわからないだろう」

「なに、当の本人が下に来ているからさ。さあ、ワトソン君、あとは当人から聞いてみることにしようじゃないか。これは久々におもしろい事件になりそうだよ」

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