ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い47


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/17)

「あと・・・・五分だと?」
「そう、あと五分だ」
余りの言葉にネビロスも流石に焦りを隠せない。彼のそんな顔を楽しむかのように、アンドラスは冷たく笑う。
五分。それは原始風水盤の上に置かれた火角結界が作動するまでの時間。同時に全アジアの運命が決まる時間でもある。
「く、貴様・・・・・」
「おっと、私に構う暇があったら、結界のほうを何とかしたほうがいいんじゃ無いかね? もし、原始風水盤が破壊されて、困るのは私じゃないぞ」
アンドラスの言うとおりだ。もし、そうなって、困るのは自分達だ。ハルマゲドンとまでは行かなくとも、神魔のデタントにヒビが入ることは確かだった。ネビロスは大鎌を敵に向けたまま、忌々しげに舌打ちする。

「あたしよりも、数段性質が悪いよ、あんたは・・・・・」
「くくく、最高の褒め言葉だ、メドーサ。我が娘よ」
アンドラスはメドーサの言葉に笑った。心底、愉快気に。


「それでは、諸君。御機嫌よう、縁があったらまた会おう!!」
その言葉と同時に、一瞬のうちにアンドラスの姿が宙に溶けていく。



「さて、この勝負は一先ず、預けておこう。伊達雪之丞、次は貴様の命は無いぞ!!」
一方、雪之丞やカオスと膠着状態に陥っていた砕破も、転移の霊具を用いて、主に続いて戦場から離脱した。
「ぐ・・・・てめえ・・・・!!」
悔しげに雪之丞が歯軋りする物の、その相手は既に居ないのだ。
今回の勝負は最後は睨み合いになったとはいえ、自分の負けだ。むしろ、自分の命があったことを感謝すべきか。
「次にあったら、覚悟しておけよ」
雪之丞は虚空に向けて、鋭く呟いた。

「取りあえず、今は火角結界を何とかしなけりゃならんわい・・・・」
カオスが溜息混じりに奥の洞窟――火角結界が配置されている場所―を指差した。既にネビロスやメドーサはそこに向かっている。
「ああ、わかった。俺もそっちに行く」
雪之丞も一先ずは怒りを収め、カオスやマリアと共にそこに足を向けた。

火角結界作動まで、あと三分―――――――




上海から遠く離れた某所。
不意に空間が歪み、異界の門から一人の初老の男が出て来た。

「ふう、取りあえず、時間稼ぎは出来たわけか・・・・お前もご苦労だったな、砕破」
その初老の男―――七十二柱の一人『不和侯爵』アンドラスは後ろのほうに声をかけた。
「いえ・・・・それにしても陰念が裏切ったのは意外でした」
アンドラスと同じく、空間転移してきた男―砕破は自らの主君に応じた。その声に在るのは大きな怒りと小さな困惑だった。

「まあ、陰念のことについては気にするな。所詮『居れば役に立つ』程度の駒だった。邪魔になるなら消せばいい」
アンドラスの言葉どおり、陰念は大した障害にはなるまい。それに納得したのか、砕破は、「わかりました」という言葉と同時に一礼した。

忠実な配下の態度に満足したアンドラスは、唐突に眉を顰め、そして口を開いた。
「いい加減、出て来たらどうだ? 『夜魔の女王』」
「!?」
「あら、ばれちゃったのね。流石は『不和侯爵』といったところかしら」
聞き慣れない声がしたことに身構える砕破をよそに、二人の前の空間が歪み、一人の女が姿を現した。

虚空から突然、現れたその女は美しかった。腰まで靡く黒髪に豊かな胸。雪のように白い肌に切れ長の瞳、そして鮮血を引いたかのように紅い唇。夜を切り取ったかのような漆黒のドレスに身を包み、白い肌とのコントラストが見事でさえある。
このままの格好であれば、人界の舞踏会に出ても全く違和感は無いであろう。背中に生えた蝙蝠のような翼さえ無ければの話だったが。
「上手くいったみたいね、そっちの坊やは貴方の部下かしら?」
「ああ、砕破という」
「そう、よろしく、砕破君♪」
『夜魔の女王』と呼ばれた女は親しげに、それでいて妖艶に砕破に微笑んだ。
砕破も目の前の女が主人の知り合いであると察して、動揺を隠し失礼が無いように挨拶を返した。
その後、砕破はアンドラスの命を受け、街のほうへ降りていき、その場にはアンドラスと『夜魔の女王』だけが残った。


「それで、今まで見ていたわけか。私達の様子を」
「ええ、最初から最後までね。どうやら、私の愚妹はこちらには居なかったところを見ると、ロンドンへ行ったみたいね」
呆れたようなアンドラスの問いに、悪びれる様子も無く『夜魔の女王』は笑った。

「ふん、趣味の悪いことだ」
「まあ、そう言わないでよ。貴方達が本当に危なくなったら、助太刀するつもりだったのよ?」口調が取り繕った様子で無いことから、本当に助太刀する気ではあったらしい。何処まで信用出来たか解ったものではないが。


「まあ、それはそれとして・・・・・この前のGS試験会場であんたの妹に会ったぞ、リリス」
「あら、そう? 実の姉であるこの私を流砂の中に埋めてくれた親愛なる愚妹ゴモリーにかしら?」今まで微笑を浮かべていた『夜魔の女王』―――リリスの顔に初めて、僅かにだが怒りの色が混じる。それでも微笑みを崩していないのは流石というべきか。確かに姉妹だけあって、顔立ちは似ているかもしれない。但し、身に纏う空気は全く違うものだった。

「まあ、そうだが・・・・・それはそうとして、何しに来たのかな?」
「ああ、私達のボスが用があるそうよ。ロンドンに出かけていた連中も戻って来たらしいわよ」

「ロンドンの・・・ああ、向こうにはサルガタナスとアムドシアスが行っていたな・・・・」
「ええ、そうよ。実は私とサルガタナスだけはボスの正体を知っているわ。もっとも、サルガタナスは私も『こっち側』に居ることは知らないけどね・・・・」そこで言葉を切ったリリスは妖艶に微笑む。その様子は獲物を貪り食らう毒蛇のようだ。
本当の意味で「魔女」という言葉がこれ程似合う女もそうは居まい。

「それにしても、私達がこんなに派手に動き回って、神魔界の連中がよく大人しくしているな・・・・・」
「ああ、それなら「神魔のデタント」が崩れるのを恐れて、後手に回っているからでしょ。それにボスが裏で万魔殿にそれとなく圧力をかけて、裏工作しているのもあるだろうし・・・」
雲に覆われ始めた夜空を見上げながら、リリスは事も無げに言い放った。

だが、アンドラスにとっては、これは驚愕すべきことだ。やはり、あの「少年」は只者では無いらしい。万魔殿にそれとなく圧力をかけるなど・・・・・・どうやら、あの「少年」は相当な大物らしい。少なくとも、七十二柱の最上位の魔神であった『恐怖公』アシュタロスと同等か、それ以上の・・・・・・・そんな人物は数名程度しか思い浮かばない。アンドラス自身、七十二柱に名を連ねてはいるが、霊波の出力から言うとアシュタロスよりは格下だ。霊波の出力のみで、勝負が決まるわけでは無いが、重要な要素ではあるのだ。


「ふふ、その顔からして驚いているみたいね?」リリスは妖艶に悪戯っぽく笑いながら、形のいい紅唇を歪めた。
「ああ、我々のボスは何者なのかね?」
「まあ、そう焦らないで・・・近いうちに解るわよ・・・・私達は『同志』なんだから・・・・」
含みのある言葉で、答えをはぐらかすリリス。その視線は言葉の内容を示すように曇天の夜空に向いたままだ。
「そうかね・・・・」
アンドラスとしては、そう答えるほかは無い。リリスの言葉を信じるならば、その内、自分達のボスの正体もわかる時が来るだろう。その時が来るのを待つのみだ。

そして、彼は自分が先程まで戦闘を展開していた遥か彼方の霊山の方向へ視線を向けた。
その方向からは凄まじい波動が感じ取れる。どうやら、自分が仕掛けた「嫌がらせ」に辟易しているようだ。

(くくく・・・せいぜい、梃子摺ってくれなければな、この右腕や肩の傷の分までな・・・)
深傷を負った右腕や肩を撫でながら、アンドラスは笑った。

『不和侯爵』の暗く、冷たい笑い声を聞いたのは側に居た『夜魔の女王』だけであった。





一方、こちらは霊山の洞窟の最奥部。
「ちくしょう!! これも違う。次はどれだ!?」
ネビロスが「もういい加減にしろ」といった感じで、声を張り上げる。
「これです・ミスター・ネビロス!!」
マリアの声に件の結界柱の一番近くに居た雪之丞が、急いで駆け寄る。
「ええい、これも違う!! 中身はダミーだ。ちきしょう、何処までおちょくりゃ気が済むんだ!! あの連中は!!」雪之丞の声も疲労が滲み出てきていた。

彼らの置かれた状況を説明すると、原始風水盤の上に置かれた火角結界のところ-――つまり、霊山の洞窟の最奥部に辿り着いたまでは良かった。
そもそも、堂々と置かれていたのだから探し回る必要は無かった。問題はその先だった。
第一に結界柱の数が多い。数にして、約数十本。しかも、殆どがダミーで、おまけに本物に酷似した霊波を発しているので、わかり難いことこの上無い。見た目は同じで、カウントダウンの文字も同じなので、なおさらだ。

第二に結界の強度。本物を見つけたはいいが、メドーサはおろか魔神であるネビロスの霊波を受けても、中々、止まらない。かなり、力を込めて造られているのだ。

第三に残り時間の問題である。数十本ある中で、本物はその中のほんの僅かだけ。今の所、ネビロスに解除され、苦労しながらも洞窟の外に放り出して、除去できたのは三本のみ。少なくともあと残りニ、三本はあるだろう。

こうして、梃子摺っている間にも、残り時間は刻々と過ぎていく。ただでさえ、少ない残り時間が。

残り時間はとうとう十秒を切った。
結界に刻まれた文字がけたたましく点滅し始めた。だが、その中で赤く点滅しているのは二本だけだ。どうやらあれが本物らしい。
土壇場になって、どれが本物かわかるとは何とも嫌な造りだ。

「お、おい!? 不味いぞ!?」
雪之丞が、切羽詰った声を上げる。彼の言葉を裏付けるかのように、結界が自らに刻まれた数を無情にも減らしていく。
「解っている!! 全員、本物の結界に霊波を送って、爆発を止める!!あの二本の奴にありったけの霊波を!!」
ネビロスの言葉と同時に全員の霊波が本物の二本に送り込まれていく。
二本の結界柱の一方にはネビロスとカオス。もう一方にはメドーサと雪之丞が。そして、マリアはそんな彼らの前に立ち、爆発に備えて彼らを守る防御シールドを多重展開する体制に入る。

そうしている内にも結界の文字が一になる。二本の結界柱の中で、前者はギリギリで止まったが、後者は霊波の出力が足りなかったのか止まらなかった。

「だ、駄目だ!!爆発する!!」
雪之丞の言葉が終わるのとほぼ同時に、結界が赤く輝き、そして-―――――

ドガ-――――――ン!!! バリバリバリ!!! ビシビシ・・・・・!!

ザワザワ・・・・バサバサ・・・・ウウウウ・・・・
凄まじい音が響き渡り、空気を引き裂き、洞窟の床や壁にさえ、ビシビシと亀裂を入れていく。その音は洞窟の外にまで響き、その影響で木々がざわめき、山に住む動物達が騒ぎ立てる。

静寂が収まり、山の動物達も落ち着きを取り戻した後・・・・・・

爆心地となった洞窟内。
「あたた・・・どうにか、生きてんのか?」瓦礫の下から、雪之丞が足をふらつかせながら立ち上がった。爆発の瞬間、咄嗟に魔装術を纏って防御したのだが、それでもこの有様だ。一度、座り込んだら、もう立てないだろう。

「わしもどうにか生きとるが・・・・・マントの下に着込んでおいた防護服がいくらか役にたったようじゃのう・・・・」同じく瓦礫の下からカオスが立ち上がった。それでもマントは勿論のこと、その下の防護服までボロボロの布切れと化している。よく見たらカオスも足元が怪しい。

爆発の規模を考えたら、この程度で済んだのは幸運というべきか。

「くそ、派手にやられたな。これは・・・・・」
ネビロスも何処か疲れた様子で呟く。流石に彼は魔神だけあり、殆ど無傷に近い。だが、相当消耗していることは明らかだった。


「それはそうと・・・・その自動人形、どうするのさ?」
「なんじゃと、ってマ、マリア!?」
ネビロスよりはいくらか手傷を負ったメドーサの指差した先には服が焼け焦げ、両腕と右足が吹き飛び、さらに腹と胸に大きな風穴が空いたマリアの姿であった。
恐らく、防御シールドを多重展開した状態で爆発の直撃を一番近距離で受けたのだろう。

この壊れ具合ではカオスが仰天するのも当たり前だ。

「ドクター・カオス・ノー・・・・・プロブレム・・・・レストアを・・・ガガ・・・ガ・・・」
慌てて駆け寄るカオスに弱々しく、消え入るような声で告げた後、自らのデーターをバックアップしたディスクを射出した。その後はピクリとも動かない。

「さてと、原始風水盤がどうなったかだが・・・・ドクター・カオス、疲れているところを、すまんが一緒に見てくれないか?」
「わかったわい・・・・やれやれ、こんなに疲れたのは久し振りじゃわい・・・」
マリアのデーターディスクを懐にしまい込みながら、いかにも億劫そうにカオスはネビロスについていく。



火角結界群と原始風水盤があった場所。
「それで、どう見る? この状態を」
「うーむ、これはかなり破壊されとるわい・・・・」
カオスの言葉どおり、風水盤は半壊状態だった。この様子では原始風水盤を通して、直接この場所の地脈のほうもズタズタになったはずだ。もし、本物の火角結界六本が全て作動していたら-―――――その先は考えたくも無いことだった。

ネビロスやカオスが止めたほうの結界柱にまで誘爆しなかったのが不幸中の幸いといったところだ。
「じゃが、この位ならば、時間をかければ地脈の修復は出来そうじゃ」
カオスはそう言ったが地脈が修復するまでの時間、アジア経済は大打撃を受け、不調に陥るのは間違いない。その時間はどのくらいの期間になるだろう? 

数年、数十年か、下手をすれば数百年ということもあり得るのだ。

(どちらにしても・・・・神魔のデタントに響くことは間違いないか、この様子じゃロンドンに行ったあいつらのほうも無事じゃ無いだろうな・・・・・)
ネビロスは重い気分を感じ、それを吐き出すかのように溜息をついた。

最悪の結果を阻止したとはいっても、全体から見れば、これは敗北だった。
完全に後手に回ってしまっている。おまけに敵陣営の顔ぶれもよくわからないままだ。ロンドンに行った連中から、何か情報は得られるのを期待するほか無いだろう。


(ちきしょう・・・・!! 砕破の野郎、次はこんなもんじゃすまさねえ!! 俺はもっと強くならな、きゃ・・・・な・・・・だが、疲れた、眠い・・・)
一方、ネビロスとは別に決意を新たにする雪之丞だったが、流石に体にたまった疲労には勝てず、瞼が下がりそうになる。とにかく眠いのだ。



「何だか、私は凄く疲れたよ。ボーナスは弾んでくれるんだろうね?」
皮肉と本音を交えたメドーサの声にも元気が無い。

この場の全員に共通しているのは凄まじい疲労感だった。


だが、この騒ぎもほんの序章に過ぎない。

この事件から間も無くして起こった世界規模での異変-――『黙示録事件』―――
この世界規模での事件は人界だけでなく、神魔界、特に神界に深刻な影響を与えることになる。




一人の「少年」の野心によって、神魔人界の秩序と安定は徐々に崩壊を始め、その影響下に置かれていく。


刻一刻と破滅への秒読みは既に始まっていた。





後書き 上海編終了。次は神魔人首脳会談。忘れ去られていたおキヌちゃんが再登場。いよいよ、世界規模での大騒ぎが起こります。横島&ゴモリーとある神族の超大物二人と某ゲーム猿が組んで、五人(?)で超巨大な敵と大バトルを繰り広げます。勿論、他のメンバーも活躍します。今回、ようやくリリスも登場しました、それにしても妹と全然、性格違います。リリスのモデルは某月姫のアルト○ージュに蝙蝠の翼をつけた感じですかね。またはモ○ガンか。

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