ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い 番外編 a sweet and long night with her(中編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 5/17)

キイイイイイ―――――ン!! ゴオオ・・・・・!!
飛行機が飛び交う成田空港。
「それで、お前の両親はどの便に乗ってくるんだ?」
「ああ、もうすぐ着くはずだが・・・・」
その空港の一画。横島と砂川はそこで、ナルニアからやって来る横島の両親を待っていた。
もうすぐ待ち合わせの時間なのだが、飛行機が遅れているのかもしれない。


そうこうしているうちに本来の到着時刻よりも三十分ほど遅れて、目当ての飛行機が滑り込んできた。

「じゃあ行くか。俺の両親色々な意味で普通じゃ無いから」
「お前の両親だからな、そう考えると不思議と違和感は無いな」
そんな会話を交わしながら、二人は横島の両親―――百合子と大樹を出迎えに向かった。






一方――――――こちらは闘竜寺の門前。
「ここがお前の実家か・・・・」
感慨深げに大きく立派な門を見上げる雪之丞。その顔には「私は緊張しています」とハッキリと書かれている。嘘の下手な男だ。おまけに滅多に着ないビシッとした黒いスーツ。違和感バリバリである。
「ええ、貴方がここに来るのは初めてでしたわよね?」
こちらも緊張した面持ちの弓。
これから自分の父親に自分の恋人を合わせるのだ。緊張するのも無理はない。
その上、弓は仏教系の霊能者の家系。対する何処の馬の骨とも知れぬ魔性の術『
魔装術』の使い手。ついでに事務所の同僚二人は魔神、錬金術師に自動人形まで居るのだ。これ程凄い面子の除霊事務所などまず居まい。

(完全に魔属性だな・・・・俺が居る事務所は・・・・果たして、受け入れてくれるか・・・・)

「それでは雪之丞、覚悟は決まりまして?」
「ああ、じゃあ行こうか」
雪之丞の若干緊張を含みながらも決然とした返事に頷いた弓は、彼と並んで寺の中に入っていった。




「いやー、家の馬鹿息子がお世話に」
「いや、そう言われるのには及ばない。こちらこそ、お世話になっている」
丁度昼食に近い時間帯だったので、腹ごしらえとばかりに空港近辺のレストランで食事ということになった。大樹も砂川も社交辞令の挨拶を交わす。

「それで・・・砂川さん、家の忠夫はどう? 上手くやっている? 話によると美神さんのところをやめたらしいけど・・・」
「それについては問題無い。頼りになる仲間達の助けもあって、仕事は順調だ」
砂川の答えに百合子は満足げに頷くと穏やかに笑った。息子がキチンと仕事をこなしているのが嬉しいのだろう。




その後、昼食が終わり、四人は外に出る。時刻は二時を回ったばかり、天気は雲一つ無い快晴だった。
「えーと、砂川さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・いいかしら?」
「ああ、構わないが・・・」
連れ立って歩く二人を眺めながら、横島としては「何を話すのか?」と思ったのだが、一先ずは母に任せることにした。



「さてと・・・・おい、忠夫。お前もせっかくだから俺に付き合え」
別の場所に移動する二人を見送る横島に大樹が声をかける。こちらはこちらで話すことがあるらしい。
この親父にしては珍しいことがあるものだと、内心思いながら大樹と共に近くの公園に入り、備え付けのベンチに座る。

そして、何かと胡散臭い過去を持つ父親―――大樹は話を切り出した。
「それで・・・・忠夫、彼女のこと・・・・どう思う?」





一方――――――
「は・・・初めまして、だ、伊達雪之丞です。む、娘さんとは健全なお付き合いを・・・・」
「ほう・・・・」
雪之丞のある意味、宣戦布告とも取れる言葉に弓の父親の眉が微かに動いた。『何故か』側に置いておる長刀に手を伸ばしかけるが、辛うじて手が止まる。


(雪之丞・・・そんなストレートに言うと・・・)
雪之丞の傍らで見守る弓としては気が気でない。元々この男に細かい言い回しというものを要求することが無理な相談というものなのだが。弓の母親は夫のそばに控え、穏やかに微笑むのみ。

何とも微妙な沈黙が暫く続いた後・・・・・・・・・

「小細工は抜きにして、拙僧と打ち合ってもらいたい」
弓の父親から物騒な言葉が放たれた。

「お父様!?」
「!?」
突然投げかけられた父の言葉に驚く弓。さらに雪之丞のほうは言葉も出ない。

「何を驚くことがある? お前と結婚する男の条件は「私より強い男」だ。それに実際、手合わせしてみれば相手の本質はすぐにわかる」
雪之丞の目を正面から見据えながら、ハッキリと告げる。その言葉と同時に弓の父親の霊圧が重みを増す。

「面白れじゃねえか・・・・・そのほうが単純でいい、弓止めるなよ」
自分に向けられた霊圧に身震いしながら、雪之丞は言い放つ。弓の父が放つ霊圧は凄まじいが、それはこの男にとって起爆剤にしかならない。最早最初の緊張など銀河の彼方だ。良くも悪くも単純な男である。

「では、闘技場のほうへ・・・・・」
ことの成り行きを見守っていた弓の母親が静かな笑みを添えて、雪之丞を案内する。

(ああ・・・・お父様、雪之丞・・・・)
闘技場のほうに向かう恋人と父の姿を見送りながら、弓は祈るように手を組んでいた。




こちらは横島父子。らしくもない親子の語らいとやらに興じていた。
「俺と砂川の関係だと?」
「そうだ、ただの同僚じゃないだろう」
持ち前の眼力で、その辺のことを見抜いたのは流石というべきか。さらに言えば横島と砂川に特別の繋がりが無ければ、口説いて、「その先」まで行くつもりだったらしい。百合子が居るので殆ど不可能だっただろうが。

「そうだな・・・・・大切な相棒ってところだな・・・・」

(相棒ねえ・・・・相棒以上のものがあると思うんだがな)
大樹が見たところ、この二人の関係はそれ以上の深いものがあるように感じていた。この息子のそばに居る女性は美神かおキヌだと思っていたが、どうやら違うらしい。場合によっては彼女達がそばに居た未来もあるのかもしれないが。


一体、何があったのかは詳しくは追求しないが、息子の成長は喜ばしいものだった。

(いい女性に巡り合えたんだな・・・・)


「まあ、何にしても・・・・側に居てくれる存在ってのは貴重だからな」
「親父にとっては、それがお袋だったってことか?」

息子の問いに父は「そうだ」とばかりに頷いた。例え浮気することがあっても、自分の側を占める者は決まっているのだというように。

「俺にとって・・・・側に居て一番しっくり来る女が百合子だったんだった、それだけのことだ・・・・」
太陽が輝く青空を見上げながら大樹は煙草を咥えながら呟く。その口調は何処か愉快気だった。

「まあ、何にしても・・・・潰されるなよ」
「わかってるさ」
恐らくは息子の歩む道の険しさと喪ったものを直感的に感じ取ったのか。父から子への端的だが力強い言葉。それに答える息子。


大樹の口から吐き出された紫煙は上空に舞い上がり、あっという間に消えていった。




ほぼ同時刻のあるビルの屋上。百合子と砂川はお互い向き合いながら、眼下の街を見下ろしていた。
「貴方は家の馬鹿息子を支えていてくれるのよね?」
百合子は相手を試すための重圧を発しながら、砂川を見据える。何気ない口調。
以前、同じ重圧をぶつけられた時の美神の対応は-――――――正面から食って掛かるだった。おキヌに至っては、尻込みして勝負にすらならなかった。


(さて・・・・どんな反応を見せてくれるかしら?)


「そうだが、支えてもらっているのはこちらも同じ・・・・・・一方が甘えるばかりでは相棒とは言えない。そうだろう?」
百合子の重圧を「柳に風」と受け流しながら、砂川は静かだが、決然とした声で答える。
その瞳に乱れは無かった。そればかりか、こちらに聞き返すだけの余裕さえもある。

(私の重圧をあっさりと受け流すなんて・・・・思ったとおり只者じゃないわね)

相手の対応に素直に感心する。今まで、百合子が対峙した相手は大抵、彼女自身が発する重圧に屈するか、真っ向から噛み付いてくるか。例外中の例外は現在の夫の大樹ぐらいのものだった。
おまけに自分と大樹の関係の本質さえも見抜くとは。


加えて――――――――
(ここまで忠夫の隣に居るのが自然な女性も居ないわね・・・・あの子も親の手を離れたのね・・・・)

寂しいものだと思うが、仕方ないことなのも確か。自分も母の手元を離れ、巣立ったのだから。今度は自分の番ということか。

この間の世界規模での大騒ぎに息子が関わっていることは何となく解っていたが、敢えて深くは追及しない。ただ母として見守るだけ。

ただ、これだけは言える。この女性が息子の側に居る限りは大丈夫だと。

「とにかく・・・・家の馬鹿息子のことお願いね」
「勿論」
多くの感情を込めた百合子の言葉をしっかりと心に留め、静かな笑みと共に砂川は頷いた。





成田空港。待合室。
「そういうわけで・・・・俺達は帰るわ。元気でな」
「慌しいな、相変わらず」
合流した後、買い物などで時間を潰していたが、もうナルニア行きの飛行機が出る時間が迫ってきていた。もっとゆっくりしたいのだろうが、ナルニアの仕事は山積みなのだ。横島の両親にとって、仕事場=戦場なのかもしれない。



「それと・・・・砂川さん、これナルニアの地酒です。中々いい酒ですよ。よければどうぞ」
大樹が砂川に飾り気の無い包装紙に包まれた箱を手渡した。大樹の言葉からして、中身は酒瓶なのだろう。



「ありがとう。早速今夜にでも、少し呑んでみよう」
砂川も素直に受け取り、大樹や百合子とやや名残惜しげに握手を交わす。





「やれやれ・・・・どうにか無事に終わったな」
「そうだな、では帰るか。小鳩の夕食が待っている」
両親が乗り込んだ飛行機が離陸していくのを眺めながら、横島が呟き、砂川が相槌を打った。そんなやり取りをしながら砂川と横島はバイクを止めてある駐輪場に向かって、歩を進めた。





こうして屋敷に帰り着いた頃にはもう日が暮れていた。
「あ、お帰りなさい。晩御飯はどうします?」
「じゃあ、お願いするよ」
「私もだ」
学校から帰宅した小鳩の夕食を食べた後、横島と砂川はそれぞれ自室に引き揚げた。

どうやら雪之丞は弓家に泊まるらしい。弓との交際が認められたか、破綻したかは明日にでも解るだろう。


ちなみにカオスは実験室にパソコンを持ち込み、何やらやっている。時折「行け、ディ○ーネ!!」「おのれ、○殺しめ!! ダンジョンの99階目で待ちうけ、わしの野望を阻むか!!」などといった意味不明の奇声が聞こえてくるが問題は無いだろう。

こういったことは日常茶飯事なのだから。
「カオスさん、またゲームやってるんですか?」
「イエス・お気に入りのエンドが見れず・もう十周目・です」
マリアと共に夕食の後片づけをする小鳩も最早慣れっこになっていた。慣れるのもどうかも思うが。





そうして夜も更けた頃―――――
コンコン
横島が砂川の部屋の扉をノックする。
「何だ?」
「いや、仕事の日程についてな・・・・・・まあ、この話は明日でもいいんだが・・・」
「大丈夫だ。ついでに酒にも付き合ってくれないか?」
「わかった」
承諾の声と共に横島はドアのノブを回し、部屋に入った。



「ああ、ここはこの時間にって・・・・聞いているのか?」
「聞いてはいるが・・・・眠くて・・・・」
お互い軽く酒を飲みながら、仕事の打ち合わせをしていると、その途中から砂川が船をこぎ始めた。彼女にしては珍しい。余程疲れていたのか?

「じゃあ、打ち合わせは明日にしておくか?」
横島にしても夜更かしで明日に響くのは不味いし、唯でさえ砂川は朝に弱い。


「ああ、そうして貰えるとありがたい」
「それじゃあ、俺は自分の部屋に戻「待て」・・・・・はい?」
自室に戻ろうとする横島の腕を砂川がしっかりと掴む。その顔は無表情だが、微かに頬が染まり、目も怪しい光を放っている。


「お前も一緒に寝るんだ」
「もしかして・・・・・・酔っているのか?」
「酔ってなどいない」


だが、普段の彼女はこんな恥ずかしいことは言わないはずだし、酔っ払いは皆そう言うのだ。間違いなく酔っぱらっている。止めとばかりに彼女は自分のベッドを指差した。

(こいつは酒には強かったはずだよな・・・・)

以前、彼女はワインをかなり飲んでも平静そのものだったし、その時の足取りもしっかりしていた。




だが、彼女が今回飲んだ酒は――――――――

(ナルニアの地酒か!?)
思い当たるものといったら、それしかない。それにしては同じ酒を飲んだはずの自分は何とも無いのは何故か?

ちなみに世の中にはワインは全然平気でも日本酒一杯で酔っ払ってしまう人種が居る。
どうやら彼女もその類だったらしい。ましてやこの場合はナルニアの得体の知れない地酒――――――――――魔神さえも酔わせる酒があるとは・・・・つくづく凄い国である。あの横島の両親が居る国だから、この程度大して驚くことでもないかもしれないが。

(どうしろっていうんだ・・・・・何にせよ、恨むぞ・・・・・親父)
もっとも感心している場合ではない横島にとっては迷惑なだけだ。
だが、思考に浸っていたのが不味かった。



「いつまでも突っ立っているつもりだ?」
「はっ!?」
いつの間にか横島は砂川に手を引かれて、ベッドの側まで来ていた。
そして彼女は自分のスーツを脱ぎ捨て、えいとばかりに横島をベッドに押し倒し、抱きついて来た。

(ちょっと待て――――――――!!?)


「フフ・・・・暖かい。お前は抱き枕に丁度いいな♪」
普段からは想像も出来ないような何処か甘えたような口調。普段とのギャップが激しいだけに破壊力は断末魔砲以上だった。




(う・・・・可愛い、流されるな!! 俺は・・・・)
だが、彼女にしっかりと抱きつかれ、まるで金縛りにあったかのように身動きがとれなくなる。いつの間にか横島のスーツを剥ぎ取った砂川は横島の胸に甘えるように頬擦りした。



何故そんなに手際がいいのだろう?





『ヨコシマ!! 駄目よ!! 酔っ払って、その勢いで一線を越えるなんて!! 私、そんな人の娘になるなんて嫌よ!!』
そんな横島の脳裡に何故かティンカー・ベルの格好をしたルシオラが飛び回る。


いつの間に魔族から妖精にクラスチェンジしたのだろうか? 

(これは幻か・・・・・・? じゃあ、尋ねるけど・・・どうしろっていうんだ?)



『うーん、理性を総動員して乗り切って!! 貴方なら出来るわ!!』
羽と触覚をパタパタと動かしながら、無責任なことをのたまう蛍の化身。全然参考にもなりゃしない。









その頃の弓の実家である闘竜寺。
寺の縁側に腰掛け、月を眺めていた雪之丞と弓。どうやら交際は認められたらしい。雪之丞の体の各所に傷が走り、顔にも青痣が出来ているが、勝利の勲章と思えば安いものだ。ちなみに弓の父親は雪之丞以上にボロボロとなり、別室で愛妻の膝枕のお世話になっていた。



「ん?」
「どうしたんですの、雪之丞?」

「いや、戦友が大きな試練に立たされているような気がしてな・・・・」





ある意味、横島にとっては試練と言えなくも無い。




こうして、それぞれの夜は更けていくのだった。




後書き ハードな話が続いたので、ここでほのぼの話を一つ。
ある意味、横島にとっては試練の時かもしれません。男として羨ましいという意見もあるでしょうが。
ルシオラにティンカー・ベルの格好が似合うと思うのは私だけ? 雪之丞の弓家訪問はあっさり済ませましたが、その辺の経緯については次回明らかにしますんで。横島はどう打って出るのか? 横島の両親らしさが出てますかね? 今一不安ですが。ちなみにカオスがやっているゲーム・・・・わかる方にはばればれです。私もカーリアンエンドが見れません。十周目に突入しているのに・・・・・

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