ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い52


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 5/24)

「あんたには聞きたいことが山程あってね、サルガタナス」
自らの眷属である妖蜂の群を従えながら、べスパは双頭の巨大なハイエナとなった地獄の准将に鋭い視線を向けた。


『ほう、聞きたいことだと?』
それに対するサルガタナスの声は静かだが、何処か嘲りを含んだものだった。べスパの動きを見極める一方で、眼下の西条や美神達の動向にも油断なく、気を巡らせる。

[付け込む隙が無い]
西条達の正直な心情。だからこそ、一先ずべスパにこの場を任せる。




「私はワルキューレ達に同行して、南米基地の後始末に行かされた・・・・・その時、巧妙に隠されていたけど、いくつかの情報が盗み出されていたことに気がついた。私達の組織人員や物資調達ルートなど・・・・・・」

『それを盗み出したのが、俺だといいたいわけか?』
「ああ勘だけどね、違うかい? あんたなら如何にもやりそうなことじゃないか」

そう言いながらも、既にべスパの中で答えは出ていた。直感がそう告げていた。『終末の龍』との戦いを放り出して、ここに来たのも直感に引きずられてのことだった。ここに居るのは敬愛し、慕っていた主君を陥しいれた男だと。




『ご名答、その通りさ。もっと言えば、あの基地の正確な位置を二界の正規軍に漏らしたのも俺だ。流石に「究極の魔体」や「宇宙処理装置」の情報を引き出すのは無理だったがな』



月での一件で、神魔族はアシュタロスの基地が南米にあることまではわかっていたはいたが、その正確な位置までは特定できていなかった。
そこで、サルガタナスはかつての主であるアシュタロスの僅かな霊波を執念深く辿り、ついに基地を探り当てた。そうやって基地に潜入し、多くの機密を盗み出したのだ。

その所業と執念深さは本性の姿が現わすとおり正にハイエナの如しである。


実際のところ「少年」はアシュタロスを自らの計画の隠れ蓑に利用していた。
彼らの双方に繋がりがあったわけではない。だが「少年」にとって、アシュタロスはデタント派の神魔の目を誤魔化すのに都合がよかった。
それでも彼の派手すぎる動きは予測が難しくなり、アシュタロスは「少年」にとって、邪魔者になり始めた。そこで魔界の大公の動きを封じる為に、事前に人界に差し向けていたサルガタナスに指令を送り、アシュタロスを陥れる準備をさせたのだ。



「あの時は正直、焦ったよ。基地の座標があんなに正確に特定されるなんてね。だが、私達は生き残り、反撃に移れた」

『ふん・・・逮捕に向かった神魔混成チームの貧弱さも貴様ら一味を生き延びさせた一因だろうがな・・・・・』
べスパの言葉にサルガタナスが忌々しげに吐き捨てた。彼にしてみれば、折角情報をリークしてやったのにアシュタロスを逮捕に失敗した連中の不甲斐無さが腹立たしいのだろう。



あそこで同等の魔神級の奴――--―例えばペイモンを向かわせていれば、様々な面において戦局は変わっていたかもしれない。

「少年」の唯一の誤算はアシュタロスが叛乱を起こす時期を見誤ったことだった。その為に霊波のジャミングに会い動きが取れなくなったのだ。



『神魔族はデタント崩壊を恐れて、対アシュタロス逮捕の人員を限定し、後手に回った。その辺の雑魚じゃ当然魔神に歯が立つわけがない。挙句、「逆天号」という魔法兵鬼に返り討ちにあって、全滅。俺はその辺の情報もリークしといたんだが、連中は信じなかったらしいな』

何がおかしいのか地獄の准将は、巨大なハイエナの姿のまま、嘲笑を漏らした。情報を与えてやったのに失敗した神魔族か、それとも結局は敗北した悲しき魔神に対してか。あるいはその両方を意味してなのか。


「あんたの話を聞いていると・・・・・・反吐が出てくるわ。かつての主を平気で陥れるなんてね・・・・・」

『陥れられる奴が悪いのさ。まあ、あの腰抜けの大公様には似合いの最後だったな』


神通鞭を油断なく構えた美神の言葉をサルガタナスが鼻で笑って、一蹴した瞬間――――――――




「お前が・・・・・・・アシュ様のことを語るな!!!」
とうとうリミッターを振り切ったべスパの掌から霊波砲が放たれ、眷属達も主の号令の下にミサイルの如く突っ込んでいく。目標は双頭のハイエナの本性を現した地獄の准将。的は大きい。外すわけが無い。

だが――――――

『おいおい、俺を舐めているのか?』
標的であるはずの地獄の准将が、冷たくせせら笑う。

『貴様の拙い攻撃なんぞ、俺には通じないのさ!!』
そして放たれた鋭い咆哮。原理的にはGS犬マーロウの退魔の咆哮と同じ。だが、こちらは純粋に破壊衝動が「力」を持って、迫ってくる。それによって、霊波砲も眷属の妖蜂も一瞬で消し飛ばされてしまった。



「そ、そんな・・・・・・」
『怒りで乱れた攻撃なんぞ、怖くも何とも無いんだよ。蜂の小娘!!』
歴然とした実力差を承知で放った攻撃もあっさりと無効化され、加えて攻撃を放った直後で動きが硬直していたべスパに鋭い牙が迫った。









ほぼ同時刻―――――――――
「べスパちゃん!?」
「パピリオ!! 後ろ!!」
小竜姫の切羽詰った声にハッと我に返ったパピリオは慌てて、その場を離脱する。
コンマの差で『龍』の首から放たれたエネルギー砲がパピリオの居た空間を通り過ぎていった。



「どうしたんじゃ、パピリオ?」
「べ、べスパちゃんが・・・・・」
ハヌマンの声に対し姉の危機を感じ取ったパピリオが不安げな声を出した。
先程、あの短気な姉は「あたしが探している奴かもしれない」といって、飛び出していったのだ。

(私もついていけばよかったかもしれないでちゅ・・・・・・・・・・)



「べスパちゃんって、向こう見ずだから心配でちゅ」
「何にせよ、べスパが向かった方向に居る奴は只者じゃない。かといって、このデカ物を放ってもおけん」
ペイモンが件のデカ物--―『終末の龍』を見据えながら、忌々しげに呟いた。彼自身、あの気配の主に心当たりはあった。
アシュタロスの右腕だったが彼とその旅団を見限り、多くの魔族の同胞を殺害して逃げた男。

「斬撃狂」の異名を持つ地獄の准将―――サルガタナス。

(行かせたのは不味かったか・・・・・あいつを死なせたらアシュの奴、化けて出てこないだろうな)
今は亡き気障な親友の顔を思い浮かべながら、ペイモンは心の中で愚痴をこぼした。

何にしても今までの攻防で『終末の龍』の首は残り二本――――かなり追い詰めたことになる。こちらを片付けたら、べスパ達の加勢に向かうことが出来るだろう。



だが-----―――――それは叶わぬことだった。
突然、海面が泡立ち始め、そして・・・・・・・・・

海中から新たな首が二本飛び出し、咆哮を上げた。



自分達が葬った首は海中に没しており、現に今もそれらは海中うに確認できる。よって、新しく出現した首は今までとは明らかに違う。

これから考えられることは一つ。


「生え変わった、ということですね・・・・・・」
ガブリエルが確認の意味も込めて、自らの推論を口にする。


あらゆる竜族の特性を併せ持つということから、考えておくべきだった。
ギリシア神話に出て来る多頭竜ヒドラ――――例え首を切り落とされても、新しく生え変わる。ある意味、不死身の怪物。

首の生え変わるのに、若干のタイムラグがあるらしいが・・・・・・

「こんなのって・・・・・ありでちゅか?」
呆然とした面持ちでパピリオが呟く。正直、べスパの加勢に行きたい。だが『終末の龍』を放ってもおけない。

「加勢に行くか? 姉の下に・・・・・・」
ペイモンの問いかけ。その声に責める響きは無かった。純粋にパピリオの意思を聞いている。

「べスパちゃんを信じて・・・・私はここで戦うでちゅ!!」
パピリオは首を横に振り、決然と答える。
(でも・・・・・このデカ物を倒したら、すぐに行きまちゅよ、生きててくだちゃいね!! べスパちゃん)

「そうか・・・・お前はいい女になるよ」
「当然でちゅよ!!」
ペイモンの問いに無い胸を張って、本気で答える蝶の化身。


「ヒャクメ、竜神王陛下秘蔵の秘薬の手配を頼む。相当骨の折れるとこになりそうじゃ」
「ワルキューレ大尉。万魔殿から救護班を要請しろ。大至急にな」
そんなパピリオの気持ちを汲み取ったハヌマンとペイモンがそれぞれヒャクメとワルキューレに指示を下す。



「お互い考えることは同じようじゃのう・・・・」
「・・・・・親友の忘れ形見だ。アイツに化けて出られるのは御免だからな」

『西の王』と魔猿の両者はそんな言葉を交わすと再び敵に向き直り、意識を戦いに切り替えた。





「さてと・・・・厄介な代物だ。生憎、我々はヘラクレスではないんだがな・・・・」
一方、ミカエルも溜息交じりに愛用の剣を握りなおし、その剣を『龍』に向け、神経を研ぎ澄ます。





こうして『終末の龍』対神魔上位メンバーの第二ラウンド開始。






「かなり疲弊しているわね。あの連中」
「まあね、流石にあれだけ戦えば、疲弊するのも当然。でも『終末の龍』は勝てないのさ」
使い魔から送られてくる映像を写したスクリーンを眺めながらリリスに「少年」は事も無げに相槌を打った。

「そうなの?」
「そう、『終末の龍』絶対に勝てない。その理由は見ていればわかる」

今、この場にはリリスと「少年」しか居ない。
『不和侯爵』アンドラスと『一角公』アムドシアスは次なる一手の為に使う手駒達を独房に放り込みに行ったからだ。


「私があんな代物を人界に送った理由の最後を教えておこうか」
リリスは無言で先を促す。

「それはね・・・・神界の内部分裂の切っ掛けをつくることさ」
「少年」の言葉を聞いても『夜魔の女王』は怪訝な顔。それも見越してかのように「少年」は言葉を継いだ。


「考えてもみたまえ。今回、『終末の龍』と戦っているメンバーの中に誰が居る? キリスト教系天使軍トップのミカエルとガブリエルが居るじゃないか。このことで、竜神族はいい顔をしないだろうね」
その為にこの日を選んだのだから。天使軍トップの二人が人界に降りてくるこの日を。



元々、キリスト教において竜=悪の化身=滅ぼすべきものと位置づけられ、一方の竜神族にとって、キリスト教系天使軍は余所者の癖に自分達に指図するいけ好かない連中である。

一見デタントの名の下に協調しているように見えるが、その結束は脆い。様々な憶測が飛び交い、もっともな噂を吹き込んでもいい。付け込む隙はいくらでもある。


「まして『終末の龍』には竜神族の因子が使われている。これに関しても一悶着あるだろうね。視野狭窄に陥り、足並みの揃わない神族など・・・・・私の敵ではない」
魔界第二の君主は左手に持った「赤い本」で布を何重にも巻き付けた自分の両肩をトントンと叩きながら、この上なく愉快げに冷笑を浮かべた。



千五百年前の竜神族大量失踪事件・・・・・実際には「失踪」ではなく、「拉致」だった。この問題についても蒸し返されるだろう。その事も見越して、千五百の事件を起こさせたのだから。


「浅ましいわね、神族も・・・・・人間達は蚊帳の外ね」
「仕方ないさ。『人間を救う』ことや『人間を守る』のが神族の使命とはいっても、彼らは『自分達に従う』人間しか救わないし、守らないのさ。十字軍がいい例だ。あれはキリスト教系神族とイスラム教系神族による内輪もめから起こった代理戦争じゃないか」

リリスの呟きに「少年」は愉快気に答える。はっきり言って『終末の龍』と戦っている神魔族こそ、人間と対等の目線で話せる数少ない者達である。その彼らが更なる危機を招くことに一役買っているとは皮肉な話だった。



「今回の一件でのスケープ・ゴートも見つけている・・・・・・今のところ事は全て私が思い描いたとおりに進んでいる。さてと、サルガタナスのほうはどうなったかな」

「少年」が視線を向けたスクリーンに映っていたのは-―――――――サルガタナスの爪と牙によってボロ雑巾のようにされたべスパの姿だった。





『ははは・・・・・さっきまでの威勢のよさはどうした?』
つまらなそうに声を漏らした双頭のハイエナは、西条達に破壊の咆哮を放つ。



「ぐ!!」
西条や美神達は聖剣の力も借りて、必死に結界を張るがそれすらも全く意味を為さす、「力」を伴った圧倒的な咆哮の前に消し飛んでしまう。おまけに相手はわざと出力を抑えて、遊んでいる。



それにも関わらず、付け入る隙が無いとは・・・・・・





「離してくれ!!  あいつだけは許せな・・・・ゴフッ!!?」
「動いちゃ駄目です!! 傷がふさがってないのに・・・・・・」
べスパは体のあちこちから血を流しながら、おキヌの制止を振り切って、必死に立ち上がろうとしているがそれすらも無理だった。
喉に血が溜まり、咳き込んでしまう。その溜まった血を地面に吐き出され、水溜りが出来る。おキヌ、シロタマのヒーリングでも追いつかないほど傷が深いのだ。






『ふん、無様だな・・・・・・ああ、そうそう・・・・・話は変わるがね。色々あんた達について調べたんだが、アシュタロス戦役以降、ルシオラのことを一言も言わなかったそうじゃないか? 当事者たる横島の心を守る為だったか? ご立派なことだな』

瀕死のべスパに完全に興味を無くしたのか、美神に視線を向けながらサルガタナスは唐突に言い放った。




「何の・・・・・・つもりよ?」
今、この場で何故そんなことを言うのか。「ルシオラ」という言葉に心が波立つのを抑えながら、美神が鋭く応答する。

『ふん・・・・貴様らが守りたかったのは本当は自分達自身の心だろう? 横島に全てを押し付けてな。ククク・・・・・滑稽でたまらんぜ』

その場の全員の動きが止まる。前後の事情を知らないシロやタマモは疑問符を浮かべていたが、場の重苦しい空気に押し黙った。




「敵のあんたに何で・・・・そんなことを追及されなくちゃならないのよ!!」
答える、否、絶叫する美神の顔は半ば青ざめているようにも見えた。





『まあ聞けよ・・・・・面白い仮定に基づいた話をしてやるよ。最愛の女を「居なかった」ように扱われた横島の心はどうだろうなあ・・・・・ゴモリーに出会わなかったら、どうなっていたかわからんぜ。あいつは・・・・・』

サルガタナスの二つの頭にあるそれぞれ備わっている九対十八個の目が、その言葉と共に細められた。




『もしかしたら、俺達に引き入れられて、貴様らの敵になっていた、ていうのもあり得るかもな・・・・貴様らの偽善者ぶりに嫌気が指してな・・・・』


「そ・・・・そんなこと・・・・」
思わず言葉に詰まる美神。


『あくまでも仮定の話だぜ、だが無いと言い切れるか? 人間の心なんぞ、容易に変わるもんだぜ。そして、俺達のような悪魔はそこに付け込むんだ。なあ、そうだろ? 神父さんよ・・・・』

地獄の准将は後方に下がっていた唐巣に言葉を投げかける。



「ああ、その通りだ。そして、君はベリアル以上のどす黒さを抱えた悪魔だ・・・」

神父が言う「べりアル以上」という評価。それは彼にとって、目の前の悪魔が今まで出会った中で「最悪」の敵だという事を意味する。



『お褒めに預かり光悦至極・・・・・じゃあ、聞くが破門されたとはいえ、あんたは神父だ、聖職者だ。横島の心を「救って」やることは出来なかったのか? ああ、横島は魔族因子を宿した人間・・・・・魔を宿した人間は救えません、てか? もっとも実は、俺以上の大悪魔アスモデウスだったあいつが神に救いを求めるのもおかしな話だな・・・・・』






『何にせよ、貴様ら全員、度し難い偽善者の集まりに違いないってことだ・・・・・』









地獄の准将の嘲りの言葉のナイフが-―――――美神達の心に-―――深々と――――突き刺さり-―――鋭く-――――抉った。







後書き ど・・・どす黒いぞ、サルガタナス。もっとも、こいつでさえも黒幕の「少年」には歯向かえません。アシュtロスを陥れるのに加担し、べスパをボロボロにし、挙句の果てには邪悪な言葉を吐いて、美神達を追い詰める。正に悪魔です。それにしても今回は横島が出てこない。シロタマがルシオラのことを知りました。どんな反応をするのか・・・・・・

神界の内部分裂、横島達の最新の戦闘データに人界の混乱。

さらにGS達にとって、切り札である精霊石の流通に大打撃を与えるため、ザンスを潰しにかかる一方で、六道家を狙う理由は何でしょう?(式神使いとしての実力を恐れてはいません)

「少年」の戦闘スタイルをどうしようかと迷っています。完全魔術系か、格闘や魔術もこなせる万能型か、少なくともアシュタロスよりも数段強いことは確かですが。現在の横島じゃこいつに「絶対」勝てないしなー(わざわざ強調してみる)
「少年」の正体についてのヒントがちょっと出て来ました。

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