横島君的復讐―3日目 後半
投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 6/ 1)
午前9時少し前、大樹は彼の私室へと入っていった。
ナルニア支社で勤務しているはずの彼が
何故私室などを持っているかというと、
彼の懐刀が用意していたからに他ならない。
部屋の名前として彼の懐刀が申請したのは
『非常事態対策室』。
警察やオカルトGメンじゃあるまいし、
普通の商社で『非常事態』など起こるはずもなく
普段は使われる事はない。
にもかかわらず、何故かしっかりと
申請が通っているあたり、
彼の懐刀の能力の高さが窺い知れる。
人の目を引かないようにするためか、
部屋の広さはそこまで広くはない。
せいぜい12畳といったところか。
無駄にデスクやソファーが豪華なのは
永遠の謎である。
――余談だが、大樹が本社に来る事自体が『非常事態』と言えるため
意外とこのネーミングは正しかったのかもしれない――
「おはようございます。
大樹さん。」
既に上司の私室にて待機していた
懐刀が挨拶する。
「おはようクロサキ君。」
懐刀の部下に挨拶しながら、
背広を脱ぎ、ソファーに放り投げる。
デスクに向かうとそこには既に
本日の資料が既に用意されていた。
「ふむ・・・・・。
Aランクのホテルが2件に
Bランクのホテルが3件か・・・。
ここを選んだ理由は?」
答えはわかっていたが、
あえて尋ねてみる。
「ランクよりも情報の機密性を重視しました。
ここならば、例え百合子さんの情報網でも
捕らえる事は出来ないでしょう。」
「はは、相変わらず完璧だね、クロサキ君。
君がいてくれて助かるよ。」
予想通りの答えに満足し、
上司は微笑む。
「・・・・大樹さん。
いまさら言うまでも無いとは思いますが―――」
「わかってるよ。」
何かを言いかけた部下の言葉を遮る。
「君の全面協力の条件は
『決して百合子にバレ無い事』、だろう?」
「・・・はい。
私もできる限りの手は打ちましたが、
あの人が何かを仕掛けている可能性は否定できません。」
「ああ、そうだな・・・・」
浮気がバレた後のお仕置き(臨死体験)を
思い出したのか、大樹の表情が曇る。
自分の妻の能力の凄まじさは骨身に染みているので、
万全の体制で浮気に臨んでいるとはいえ
やはりどこか不安は感じているようだ。
「常に尾行には気を配っているし
浮気相手の人選にも細心の注意を払っている。
写真で撮られる事も警戒している。
しかし、どう思う・・・・?
何か他にできることはあるだろうか・・・・?」
上手くやり通す自信はある。
しかし、相手を甘く見るほど馬鹿ではない。
部下の意見を求めてみる。
「・・・・いえ。
これ以上の手は考えつきません。」
懐刀の男―クロサキにとって、横島夫婦は
ともに己が仕えるべき存在。
――彼にとって二人は別格であった。
にも関わらず、あえて彼が浮気に協力的なのは理由があった。
もしも浮気が出来なければ大樹にとって面白くない。
しかし、百合子は満足する。
浮気が出来れば、大樹は満足し、百合子が激怒する。
あちらを立てればこちらが立たず。
それでは駄目だ。
二人ともが満足出来なければ意味がない。
ならば、もし浮気がバレなければ?
大樹は満足し、何も知らない百合子が激怒する事もない。
むしろ、自分の息子の成長を聞けた百合子は喜ぶはずだ。
となれば、自分がするべき事は・・・・・――
そこまで考えた時には、もう答えは出ていた。
決して足がつかない浮気のプランを立て、
そして、上司の息子の成長を確かめるための準備をする。
クロサキはこれが納まるべきところに納める事ができる
ただ一つのプランだと考えていた。
そして、それは上手く進んでいる・・・・・。
「・・・・では、仕事に取り掛かるとするか。」
そこで話は打ち切り、二人はやるべき事をやる事にした。
午前10時。
予定時間ちょうどに二人はそれぞれの仕事を終えていた。
「さてと、始めるか!」
上司がニッと笑い席を立つ。
「はっ。」
部下もそれに続く。
「ではクロサキ君。
予定通りサポートは任せるよ?」
「はい。
打ち合わせした道から外れないように
注意してください。」
部屋を出た二人は別々の方向に向かっていった。
クロサキのサポート、それは事前の打ち合わせで
通る道筋をあらかじめ決めておき、
その道筋の周辺の、張り込めそうな場所を
クロサキが先回りしてチェックするのである。
大樹本人が尾行を警戒し、
クロサキが張り込みを阻止する。
はっきり言って浮気のためにやる事にしては
あまりにも大げさだった。
しかし、大樹にとっては文字通り『命がけ』なのだ
これでもまだ完全には安心できなかった。
なんせ相手はあの『村枝の紅ユリ』なのだから・・・・・。
(いま午後3時か。予定通りに進んでいるな。
このポイントを押さえれば張り込める場所はなくなる。
サエコさんを連れて本社に戻っても危険はないな。
・・・・む、これは・・・・?)
張り込みのポイントを潰して回っていたクロサキだが、
最後のポイントで違和感を感じた。
今は使われていないビルの一室に踏み込んだのだが、
直前まで誰かがここに居たようなのだ。
室内の空気が動いているので間違いない。
(誰かが居たのか・・・・?
そう言えばさっきもこういう場所があったな・・・・。
・・・・何かあるのか?)
一度なら偶然で済ませられるが、二度目となるとそうはいかない。
彼は二度も偶然が続くなどという、都合の良い物は信じない。
念入りに室内を捜索するが、何も発見できない。
わずかに床に積もった埃が乱れているようにも見えるが、
それ以外は真新しい繊維や毛髪など一本も落ちていない。
(どういうことだ?
わからない・・・・。
誰かが居たのは確かなはずだが痕跡が全く残っていない。
しかし、この違和感・・・・。
何かあるはずだ・・・・・。
とりあえず大樹さんに伝えておこう
あの人にも警戒を強めてもらわなければ・・・・。)
携帯からメールを送る。
しばらくすると返信が返って来た。
『確かに妙な違和感がする。
こっちでも感じていた。
だが、尾行者の存在は無し。
君の接近に気付き、入れ違いに逃げたのではないか?
何かありそうだが現場さえ押さえられなければ良い。
引き続き警戒を続けてくれ。』
クロサキは計画の中止を勧めようかと考えたが、
『浮気は障害があるほど燃える』という上司の持論を思い出し諦めた。
(たしかに現場さえ押さえられなければ証拠を撮られる事も無い。
そして証拠の無い話など『あの』百合子さんが持ち出すはずない。
あの人は状況証拠だけで勝負するような甘い女性ではない。
ならば、今はより警戒を強めるしかなさそうだな・・・。
・・・もしネズミがいれば始末するまでだ。)
物騒な事を考えながら懐から銃を取り出し、弾倉の確認をする。
使わないに越した事は無いと考えながら、廃ビルを後にした。
深夜一時。
大樹のスケジュールは全て予定通りに進んだようだ。
今日二人が感じた違和感について話し合っている。
「結局ネズミはみつかりませんでした。」
「そうか、こっちも尾行者は見つからなかったよ。」
どうやら二人とも違和感の原因を突き止めることは出来なかったようだ。
「考えてみたのですが・・・・」
珍しく自信の無さそうな部下に続けさせる。
「なにかわかったのか?」
「いえ、何もわかりませんでした。
しかし、それが証拠のような気がします。
我々にはわからないもの・・・つまり超常的なものではないかと。」
「なるほど、そういう考えもできるか。」
超常的なもの、つまりは霊能力。
大樹の浮気を邪魔しそうな霊能力者・・・・。
身近な所に一人心当たりがあった。
「(忠夫が尾けていた・・・・?)
だが、霊能力者とはいえ人間だ。
我々に気付かれずに尾行するなど不可能だろう?。」
特殊な訓練を積んだ者の尾行を見破る事のできる二人が、
霊能力が使えるというだけの相手に気付かないわけが無い。
そもそも一番動機のありそうな息子だが
今朝の金を渡した時の反応から考えても、
浮気の予定を勘繰っていた様には見えなかった。
仮に尾行していたのが息子だったとしても
昨日の戦い方を見る限りでは気配を消すといった
隠業の技術を持っているとは思えなかった。
「たしかに・・・そうですね。」
クロサキも納得したようだ。
「しかし、大事を取って明日から浮気は――――」
「いつも言っているだろうクロサキ君。
『浮気は障害があるほど燃える』ってな!。」
止めようとした部下を遮り、いつもの豪快な笑い声を上げる。
予想通りとはいえ、複雑な心境なクロサキだった。
―安アパート―
一人の少年がほくそ笑んでいる。
「聞ぃーたぞォォォーーー、あんのクソ親父め・・・・
俺が全部の能力を見せたと思ったのが運の尽きじゃァァァァーーー!!!
世界唯一の『文珠』使いをなめんなよォォォォーーーーー!!!!」
まだ父親が寝ている隙に、背広に『文珠』『耳』を発動させていたのだ。
早朝、昨晩の父親の行動を探る良い方法を考えていた時に閃いた方法である。
もしも、先に金を渡されていたならこの行動はとっていなかったはずだが、
この『文珠』を発動させたのは金を受け取る前である。
早起きしたお陰で色々考える時間があった少年の勝利であった。
『耳』の効果は絶大で、背広に少年の耳がついているかのように、
父親の周りの音を聞く事が出来た。
「証拠なんぞどうでもいいわァァァ!!!
てめぇーなんぞ状況証拠だけで死刑確定じゃーーー!!!!
いや、死ですら生温い!!
この『文珠』で生き地獄を味あわせてやるぜ!!!!」
彼の手には何かの文字が浮かび上がった『文珠』が握られていた。
―後書き―
3日目終了です。
横島君の出番は殆どありませんね(笑)
しかし!ついに横島君が復讐に向けて動き出します!!
長かった・・・・横島君負けてばっかだし(汗)
ようやくタイトルに追いつけそうです。
今までの
コメント:
- ……反撃、開始ですね。
直接的な戦闘能力で劣る以上、正面切ってでは間違いなく敗北、ならば絡め手から攻める。情報戦を制し、勝利を掴む――はっ!これって、南極編への伏線か?
だがしかし、一日中“耳”発動してたということは……あのときの音も(子供に刺激が強すぎるので、詮索はしないで下さい)耳にしなくちゃいけないということ……いろいろ大変だっただろーな(笑)。ま、背広は別のところに置いていたという逃げ道もあるけど。
でも、今回で判ったクロサキ君の置かれた立場……アレですか?クロサキ君も制裁対象になってしまうんでスか(動転)?
クロサキ君『だけ』は助けてやって下さい(嘆願書)! (すがたけ)
- いけーーーー、忠夫!!!!
奴を生きてこの日本から出すなーーーーー!!!!(国籍は日本だから出て行かないか)
私も、クロサキ君は助けてやってください、彼はいい奴です(少々腹黒ですが・・・・・)!! (太った将軍)
- >すがたけさん
>あのときの音も(子供に刺激が強すぎるので、詮索はしないで下さい)耳にしなくちゃいけないということ
そのとおりです(汗)
その時の横島君のことが次話で少し触れてます。
とはいっても、父親の・・・だから痛いだけかもしれませんが(笑)
>太った将軍さん
>私も、クロサキ君は助けてやってください、彼はいい奴です(少々腹黒ですが・・・・・)!!
いやぁ、クロサキ君て人気あるんですね。もちろん私も好きですが(^^
彼はあの夫婦と付き合い長いですからね、制裁に巻き込まれるようなヘマはしないはず・・・(笑) (丸々)
- この連作を通じ、ぼくの中でだんだん大樹の超人ぶりへの憧れが強くなってきました……って、いやその別にアッチ方面がどうとかいうんぢゃなくつてっ(←慌てるのが更にアヤシイ)ああ、そんな汚物を見るような目で見ちゃイヤもう誰か信じてお願いっ!
……コホン。失礼しました。
いや、この仕事と私生活の双方で充実した男の背中には同性でも惚れますって……競争相手や虐げられた息子さんでもない限りは(苦笑)。クロサキの気持ちが少々解ってきたと想える自分がちょっぴり可愛い今日この頃です。
ところで、本日の大樹のお相手のうち一人は、前回帰国した時に終了宣言を出された女性社員の一人と名前の読みがカブっていますが……やっぱりユリ子と百合子(笑)みたく全くの別人なのでしょーか? いえね、ちょい気になっちゃいまして。 (Iholi)
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