ザ・グレート・展開予測ショー

チルドレンとの1年-01 (絶対可憐チルドレン)


投稿者名:進
投稿日時:(05/ 5/20)


カタカタカタ・・・カタカタ・・・カタカタカタ
キーボードを叩きながら、BABEL所属、ザ・チルドレン担当官の皆本光一(20)はディスプレイに表示されている時間を見た・・・23:05だ。
「フー・・・」
ため息をついて、皆本はキーボードから手を離した。ついでに背伸びをひとつ。ごきごき、といやな音がした。
今日も大変な一日だった、皆本は考える。訓練中に彼の部下の一人である明石薫が検査用機器を一部破壊してしまったのだ。しかし貴重な超度7の超能力者であり、なにより10歳の少女である彼女に責任は問えず、したがってその担当官である皆本が今まで各部署を謝ってまわり、上司に説明し、始末書を書いていた、というわけだ。
ところで始末書というものは、言ってみれば反省文のようなものであるが、子供が書くような、「ナニソレを壊しました、ごめんなさい」では済まない。その被害額はいくらで、復旧には何日かかり、総合的な損害は・・・などなど、容易く書けるものではない。
当然事故の際の状況なども詳しく書く必要があり、そのあたりは事故を起こした薫に直接聞く必要がある。
その際の聞き方が悪かったのか、薫は自分が責められていると感じとり、その超能力で皆本を壁にめり込ませた後に怒って部屋を出て行った。皆本の背骨が鳴るのはこのせいでもある。
「泣いていた、かなあ・・・」
目元に涙を見た気がした。責めるつもりは無かった。

彼女としては言われたとおりにやっただけだ。自衛隊から譲り受けた廃棄処分待ちの戦車を彼女の超能力「サイコキネシス」で破壊するといった実験であり、彼女は張り切ってやったものだ・・・張り切りすぎて、吹き飛んだ戦車の破片が検査用機器まで飛んできた。それだけだった。
明日会ったら謝ろう・・・いやそれも変な話だ。薫は悪くないが、だから自分が悪いのかと言われればそれも腹立たしい。だいたい今日の実験は自分の考案ではないプロジェクトだった。実験内容や検査機器の設置場所を決めたのもそのプロジェクトチームだ。自分はこんなデモンストレーションのような実験はやりたくなかった。チルドレンの他の二人・・・野上葵と三宮紫穂に関しても、今更な見世物っぽい実験が行われていた。エライ人が見に来ていたから、良いところを見せたい調査チームが起案したのだろう。こっちはいい迷惑だ。
取り留めのない思考を遮るように、皆本はカップに残っていたコーヒーを飲む−ぬるいを通り越して冷えていた。そういえばこれをもってきてくれたのは紫穂だった。葵もお菓子をくれた−そっちはもう全部食べてしまった。彼女たちが帰ったのが5時ごろだったから、コーヒーも冷えていて当然だ。帰るときには皆本に顔を見せに来る、それはいつものことだった。だが、今日は薫が来ていなかった。後で聞いたら、3人で帰ったと言うことだったので、とりあえず安心はしていたが。

意味なく謝る必要はない、彼女もそんなことは望んでいないと思う。要は、自分は怒っていないのだということが伝われば良いのだ。明日、顔を合わせて話をすればわかってくれるだろう。
皆本はキーボードに向かって始末書を仕上げることにした。何をやるにしてもこれが終わらないと自分は帰れないのだ。
キーボードを叩きながら、皆本は初めて始末書を書いたとき・・・ひいては、チルドレンの担当官になったときのことをふと思い出した。



一年前 バベル ミーティングルーム −初夏−

「やあ諸君、ご苦労様。」
訓練中だったチルドレン、明石薫、野上葵、三宮紫穂は、ミーティングルームに呼び出されていた。桐壺局長ともう一人、見知らぬ男がそこでは待っており、3人が部屋に入るなり局長が声をかけた。
「以前からの話のとおり、今日から彼が諸君らの担当官となる、よろしく頼むヨ。」
局長から紹介を受けた男は、本当にまだ若い青年だった。
3人娘達は、初めて顔を合わせたときの印象を次のように受けている。
−やわそうなお人やね
−神経細そう・・・
−まあ、長持ちしそうにねーなー
要するに、学校出たばかりのボッチャンが来たな、という感じだ。
勿論チルドレンの方が若い−幼いのだが、そのあたりは「人生経験が違う!」という自負が彼女たちにはある。

その後続いた桐壺局長の説明を聞くにつれ、その感想がさらに膨らんでいく。
16で東大を卒業した、開校以来の天才であるということ。卒業後は学内の研究室で超能力の研究をしていたこと。複数の博士号を持ち・・・云々。
そして局長は、今後チルドレンは彼の研究に協力すること、という言葉で紹介を締めくくった。
そういったことには彼女たちチルドレンは慣れていた。今までだって研究機関での超能力テストは行ってきたし、担当官が頻繁に変わるのも「よくあること」だった。

−そういえば、前のおっちゃんは入院したんだっけ・・・?
イカイヨウとか言ってたかな。薫はそんなことを考えながら、改めて「新入り」の担当官を観察した。
「皆本光一です。これからよろしく」
そう言って頭を下げた青年−皆本は、言ってしまえばアカ抜けない男だった。
分厚いレンズのぐるぐるメガネに、ボサっと伸びた髪の毛。着ているのはスーツであるが、若者が着るにはデザインも古いしサイズも合ってないようで、痩せ気味の皆本にはやや大きく、両肩が垂れてしまっていて、どうにも頼りなく見える。
「こりゃあ、ダメだな。」
うっかり、なかばわざと薫は呟いた。
「えっ?」
皆本は挨拶らしきものをまだ続けていたが、薫の言葉に目を丸くして−といってもメガネのせいで目は見えないが−言葉を止めた。葵がプッと噴出し、紫もすまし顔のままだが口の端がやや上がっている。
「いやいや、なんでもねーよ。ま、これからよろしくな、皆本サン!」
あんまりボッチャンを虐めても悪い−そう思ったのか、薫は手を差し出した。
「あ、う、うん。」
握手をしようと、こちらも手を出した皆本に、薫はニマっと笑った。
「あたしの特技を見せてやるよ。」
薫は握手をスッと避け、そのまま皆本の胸の前辺りでグッとコブシを握った。
「サイコチョーーーック!」
「ぐぐぐぐぐっ?!」
急に皆本は、喉を絞められたかのように息が苦しくなった。しかし誰も触れてすら居ない。これがサイコキネシスか!と思ったとたん、喉が絞まるのが止まった。
「これからは君が提督だ」
コーホー、などといいながら薫は皆本の手を取り、握手した。後ろでは葵と紫穂がきゃははと笑っている。
「んじゃまた今度な、皆本サン」
「よろしくー、皆本サン」
「皆本サン、またねー」
薫以外の二人も握手をして休憩室から去っていった。たぶん訓練の続きに行ったのだろう。
「面白い子達だろう?皆本クン」
まだ呆然としていた皆本は、桐壺局長から声をかけられてようやく我に返った。
−面白いだって!あれが?!
しかし、実際サイコキネシスで首を絞められたのは一瞬だし、それほど強く締められたわけでもなかった。驚きのあまり呼吸ができなかった、というのが本当のところだろう。そう考えると歓迎してくれているのかもしれない。

今までずっと学校にいて勉強と研究だけをやってきた皆本には、どうにもBABELという場所は場違いなような気がしてしかたがなかった。
日本の誇る最強超度の超能力者を研究できる−そういわれて大学から出向してきたが、いつの間にやら三尉とかいう階級をつけられて、BABELの正職員になっていた。
仕事の引継ぎは病院で行われた。前任者が入院していたためだったが、引継ぎ内容が超能力者チーム「チルドレン」の趣味・思考に関することが大半を占めていたこと、研究について前任者が何も関与していないこと・・・そしてなぜか前任者が−とても−嬉しそうだったのが気になった。
BABELのトップである桐壺局長が一介の研究者である自分にアレコレ会いにきたり、その秘書・柏木女史の哀れむような、申し訳ないようななんともいえない目で見られたりするのも気になった。
そして一番気になるのが「担当官」という自分の位置づけである。自分は研究者としてここに来たはずだ。そう思って桐壺局長に聞いても、「似たようなものだヨ」とはぐらかされてしまっている。
それだけのことが2週間ほどで行われ、今日は初めてBABEL所属の超能力者−それも最強といわれるザ・チルドレン−との対面することになっていた。9歳の子供たちだと言うことは事前に―病院で―聞いていたし、もともと超能力者は子供のほうが多い、特に驚くことは無かったが、初対面で首を絞められるとは思ってなかった。なんだよサイコチョークって、フォースか?ベー○―卿かよ、僕は帝国軍に入った覚えは無いぞ・・・

ブツブツ言い始めた皆本に対し、ちょっと引いた感じで桐壺局長が肩を叩いた。
「ま・・・まあ、これから大変だと思うが、よろしく頼むヨ」
桐壺局長としても彼の前途に不安があったが―先ほどの薫の呟きも、彼はちゃんと聞いていた―、とりあえず任してみようと肩を叩いた。
彼は成績優秀であることは間違いないし、年代が近いことは彼女らとの関係にプラスになるだろう。もちろんそれ以外の性格・人格などに関しても事前に調査機関の手により調べられており、それらを総合した上で桐壺自身が候補者の中から選択した人材だった。まあ、それは前任者に関してもそうだったのだが・・・
「はあ」
返事をした皆本は、なんとも気の抜けた返事だと自分ながら思ったが、ほかに言いようがなかった。


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初めて投稿します。進といいます。
こちらのHPを前から見させてもらっており、特に展開予測ショーに書き込まれるストーリーを楽しみに読ませてもらっていたのですが、どうにも絶対可憐チルドレンの話題が少ない。GSも好きなのですが、絶チルも読みたい、と思っていました。
しかし本編のほうがなかなか連載開始されない現状では誰も書かない・・・それなら自分で書いてしまおう。自分の文章はダメでも、これを読んだ人が「絶チルも書いてみるか」と思ってくれれば、自分の読みたいストーリーが書き込まれるんじゃないか、そう思った次第です。

なお、細部が本編と食い違う部分があるかもしれませんが、これは特別な設定を考え付いたわけではなく、手元に集中連載されていた当時のサンデーが無く、記憶に依って書いているためです。

自分の文章については、我ながら読みにくい駄文であるとは思うのですが、自分なりに校正して書いてみましたので、我慢して読んでもらえれば幸いです。いろいろ欠点など教えてもらえれば、次の投稿の際には気をつけたいと思います。
4−5話まで続けるつもりですが、こういうことになれていないので不定期になるかもです。
よろしくお願いします。

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