ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-11- 恋する乙女と少年の成長


投稿者名:いすか
投稿日時:(05/ 6/ 4)

 タイガーに続き、ピートも無事二回戦を突破し、理想的な展開となっているGS試験。
とある一部を除けば……。

「そーいえば幽一さんの方はどーなってるのかしら?」

 ビシッ!

 熾恵の何気ない呟きに過剰に反応するエミを除く3人(エミは例の瞬間を見ていないの
で)。小竜姫の周りの空気が急に剣呑なものとなり、おキヌが泣きそうな顔を引きつらせ
ている。

「誰、ユウイチって? 熾恵関係の人?」
「えっとー、その……あちらのもにたーの男性なんですけど……」
「んーどれどれ……」

 居た堪れない空気の中、何気ない質問に律儀に応対するおキヌが指差すモニターに、目
をやるエミ。その瞬間、狭い室内に響くエミの悲鳴。

「きゃーー! イイ男じゃないの〜〜。ピートと違って大人って感じだわ〜。ねぇ、おキ
ヌちゃん、紹介して〜〜〜♪」
「あ、あの〜、その〜〜……」
「何ー? おキヌちゃんも狙っちゃってるワケ〜?」
「い、いえ! 私は……」
「じゃあ、いいじゃなーい♪ 早速アプローチして、私の魅力でメロメロに……」
「だめです……」
「な、何がだめなワケ?」

 割り込んできた声に、ただごとではない負のオーラを感じ、たじたじと聞き返すエミ。
言わずもがな、発生源は恋する乙女初心者であらせられる竜神様。

「……小笠原さんはあぷろーちしちゃだめです!」
「だ、だから、どうしてだめなワケ?」
「だめって言ったら、だめなんです!!」
「な、なに? なんかアブナイのあいつ?」
「幽一さんが危険なわけないでしょう!」
「ものすっごい女たらしとか?」
「幽一さんは紳士です! 今日日の不誠実な輩と一緒にしないでください!!」
「じゃあ、何が……」
「ハイハイ、小竜姫様落ち着いて。エミもいい加減さっしなさい。だからいつまでたって
も男ができないのよ、アンタは」
「アンタにだけは言われたくないワケ!!」
「事実でしょうが! 小竜姫様の態度で気付きなさい!」
「「ギャーギャー!!」」
「「ギャーギャー!!」」
「ああ、また始まっちゃった……」

 恒例の罵り合い合戦が始まり、こうなったらどうしようもないと解っていながらもオロ
オロと仲裁に入るおキヌ。そんな3人を尻目に、熾恵は興奮冷めやらぬ様子で憤慨してい
る小竜姫にそっと耳打ちする。

「もー、姉さまったら〜。あんな言い方じゃ、小笠原さんだって何がなんだかわからない
わ〜」
「で、ですが私は……」
「近づくな〜近づくな〜って言ってるだけじゃ、誰も納得してくれないわ〜。正直に言っ
ちゃえばいいのに〜〜」
「……でも」
「恥ずかしがってて幽一さんがとられちゃってもいいの〜?」
「いやです!!」
「じゃあ、ちゃんと言わないと。ね♪」
「あ、う……はい///」

 熾恵にそう言われ、顔を真っ赤に茹で上げていた小竜姫だったが、やがて気持ちが決ま
ったのか、顔は赤いままだがしっかりと顔を上げてエミに向けて口を開いた。

「お、小笠原さん!///」
「! は、はい!?」

 小竜姫の大声に反応して、エミはもちろん、令子とおキヌも動きを止めて小竜姫へ向き
直る。一同が注目する中、小竜姫はこれ以上ないほど顔を真っ赤にして声高らかに宣言し
た。

「ゆ、幽一さんは私のです! 小笠原さんにも誰にもあげません!!/////」

 間。

「「「……おおー!!」」」
「な、なんですかっ!?///」

 しーん、と沈黙があたりを支配したのも、一瞬後には前以上の姦しさが戻ってきた。令
子、エミ、おキヌは感嘆すると共に困惑する小竜姫にパチパチと拍手を送り、熾恵も満足
げに微笑みながら手をたたいている。

「いやー、まいった! 聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ」
「そこまですぱっと恋人宣言できるってのは、呆れるのを通り越して羨ましいワケ」
「小竜姫様、カッコ良かったですよ〜」
「えっ? えぇ??///」

 三者三様に好ましく評価されたことで落ち着きを取り戻したのか、自分の言ったセリフ
を鑑みてあまりの気恥ずかしさに臨界点寸前の小竜姫。そんな茹蛸状態の小竜姫の肩をち
ょんちょんと叩くのは熾恵。何故かとっても楽しそうだ。

「ふふふ〜、姉様〜〜♪」
「な、なんですか///」
「モニターみてみて〜〜」
「は?」

 言われたとおりにモニターに目を向けた小竜姫と、それに釣られるようにそちらを向い
た令子たちが見たのは、口元を押さえるようにして、手で顔を覆って俯いている幽一の姿。
心なしか顔が赤いように見える。

「? 幽一さん、どうしたんでしょう? 気分でも悪いのでしょうか?」
「ふふ。ね〜、おキヌちゃん。幽一さんって幽霊よね〜〜?」
「あ、はい」
「幽一さん、何にくくられてるんでしたっけ〜? 美神さ〜ん?」
「そりゃもちろん……ああ! なるほど!!」
「何? どういうことなワケ?」
「幽一さんは〜、私にくくられてる幽霊なのよ〜〜。だから常に私の霊力で繋がってるの
よね〜〜」
「は? え? それが何か??」

 幽一の変化と、熾恵の言わんとしていることに合点がいった令子と理解できない3人。
ニコニコと微笑む熾恵は、それはそれは嬉しそうにこういったのだ。

「小竜姫姉様のさっきのセリフ。全部、念話で幽一さんに送ちゃった〜〜♪」
「……あ」
「……ああ」
「……やっぱり」

「……ああああああああああああぁぁ!!!//////」



   ◇◆◇



「なんだい? 意外に初心なんだねぇ」
「いえ、まあ、嬉しいというか困るというか……///」

 所変わって、観客席のメドーサと幽一。幽一は熾恵より送られた想い人の言葉に赤面し
ているのだが、それを知らぬメドーサには、接吻ひとつでこうも容易く表情の崩れる幽一
は、見た目不相応に初心な青年にしか見えないのだろう。

「青いねぇ。あんなの遊びじゃないか。それとも大人の遊びがお望みかい?」
「い、いえ! 丁重にお断りします!」

 小竜姫の言葉を聞いたあとで、そんなことは不可抗力でもすることはできない。恋人の
想いにしっかりと応えたい幽一としては、これ以上小竜姫の気持ちを傷つけるようなこと
は万にひとつもするわけにはいかないのだ。

「ちょ、ちょっと飲み物を買ってきます。メドーサさんは何か?」
「あはは、冗談だよ。オレンジ頼む」

 メドーサとしてもそんな幽一の反応で溜飲が下がったのだろう。特に絡むことも無く、
幽一を開放する。

(幽霊のくせに面白いやつだねぇ。男除けにもなるし、暇つぶしにはちょうどいいか…
…ん?)

 なんとなしにメドーサが目を向けたコートには、あの幽霊の知り合いというバンダナの
小僧―――横島が2回戦の真っ最中だった。防戦一方だが霊刀をもつくの一となんとか斬
り結んでいる。

(ふーん、まだまだだけどスジはいいじゃないか。あの鳩は……式神だね。あいつがチャ
クラの流れを整えてるのか)

 少し興味がわいてきたのか、メドーサは横島の試合を見物する気になったらしい。



   ◇◆◇



「こなくそーーー!!」
「なかっ、なか……しぶといですわねっ!」
「タイガーとピートが合格で、俺だけ落ちたらシャレにならんのじゃー! 間違いなく、
美神さんに殺されるぅ!!」

 どうやら史実と違いタイガーが合格ラインを突破したことで、彼の生命の危機レベルは
ぐっと跳ね上がったらしい。主に試合後に。窮鼠猫を噛むではないが、思いつめた人はお
そろしい力を発揮するものである。

「うがーーー!!」
「くぅっ! す、すごい気迫ですわね……」

 氷雅との実力差を気迫と根性で埋めていた横島であったが、常に一杯一杯であるのは明
らか。試合時間が経つにつれ、徐々に体が言うことを聞かなくなってくる。

(あ、あかん。霊力のコントロールは円がやってくれてるからどーってこと無いが、俺の
体力が限界じゃ。氷雅さんはまだまだ余裕っぽいし、どないしょー!!)

 余談だが、女性に対しての接し方を考え始めた横島にとって、氷雅との対戦が決まった
時には、

『美人のねーちゃんとくんずほぐれつ!』

 ではなく、

『試合だからっつっても、女の子と斬り合い……顔に傷なんてつけちまったら……』

 という煩悩からは程遠い、むしろ同年代の一般男子高校生よりもよっぽど紳士的な思考
を展開していた。だが、氷雅は横島とは違い熟練した霊能者であり武術家。“女だから”
と手を抜かれたり、気をきかされることは何より耐え難い侮辱であろうことは、横島にも
簡単に想像がついた。

『てか、俺みたいなずぶずぶの素人がそんなこと考えること自体失礼じゃ! ハナッから
全力でぶつかっちゃる!! でも、念のため霊波刀の集束は斬れない程度にしておこう。
展開もラクだし……』

 という自分会議の結論の元『自分ひとりでなんとか展開できる程度(原作での覚えたて
くらいのハンズ・オブ・グローリー)の霊波刀を、円のサポートで長持ち! あとは野と
なれ、山となれ作戦!!』を実行した横島であったが、前述の通り霊力よりも体力不足と
いう事態に陥り、膠着状態が崩れ始めているのである。

「ぜーぜーぜー……」
(やっぱ、このままだとジリ貧じゃ。いつか直撃食らう……)
「ふぅ、思った以上に頑張りますが、戦いなれてませんわ。後先考えずに力を振り絞った
せいで、ずいぶん辛そうですわね」
(全くもってその通り! くそー、こーなったら一か八かじゃ! 円、霊波“棒”最大集
束!!)
『おーっと、横島選手、霊波刀を細く集束し始めました!』
『小僧はこれ以上の長期戦では勝ち目が無いと判断したんアルな。一発勝負アル』
「ばらすな、そこー! ただでさえ少ない勝ち目がゼロになるだろうがーー!!」
「最高に集束して硬くした霊波刀で、文字通り最後の一撃に全てを賭けるのですか……確
かにそれ以上の方法は無いですね。受けてたちましょう」
「ぐぬぬ、ばればれな時点で負けっぽい……でも、これしかないんじゃー!」

 意を決した横島は、鉄パイプのように細くなった霊波刀を大上段に構え、居合い抜きの
構えで待ち構える氷雅に突進。横島の霊波刀の強度が霊力を込めたヒトキリマルの切れ味
を上回れば、ヒトキリマルは木っ端微塵。逆ならば霊波刀が真っ二つ。

「南無三!」
「ハァッ!」

 横島の全力を持った振り下ろしと、氷雅の渾身の居合い抜きが、

 スカっ。

「……え、キャア!?」
「関西人は先の読まれたネタは使わんのじゃー!」

 交差しなかった。

 それもそのはず、横島は確かに霊波刀を大上段に振り下ろしたが、交差すると思われた
瞬間わざと霊波刀を消し、氷雅の居合いをヘッドスライディングして避けたのだ。
 最初から得物同士の激突を考えておらず、攻撃を避けることだけを考えていた横島と、
霊波刀ごと横島を斬り抜くつもりだった氷雅とでは、その体勢に歴然とした差ができる。
 ヘッドスライディングの体勢のままの横島は、氷雅の足首を引っ張って仰向けに倒し、
すかさずヒトキリマルを持つ右手首を左手で床に抑えつけ、右手からは小さな霊波刀を出
し、氷雅の眼前へと突きつける。

「……こ、降参ひてくだひゃい、氷雅さん」
「……鼻血出しながらだとカッコつきませんわよ」
「こっちだって必死だったんやー! 顔面スライディングなんて想定外だったんやー!!
あああああ! カッコ悪すぎるーーー!!」
「ふふ、最後まで締まらない方ですこと。まあ、確かに私の負けです。審判、ギブアップ
ですわ」
『九能市選手、ギブアップ! 横島選手、紙一重の逆転でGS資格取得です!!』



(後書き)
 横島作戦勝ちにより、なんとかGS免許取得。ちょっとずつでも男の子として成長して
くれてるかなーと、我ながら思っております。横島は基本的に好意を持つ女性(ほとんど
全ての女性)に対して優しいのですが、その表現手段が幼稚でバラエティーに乏しいだけ
だと私は考えているので、真剣に接し方を考え、勉強すれば良い男に成長するものと思っ
ております。そんな横島成長記も書いていきたいなーというのも私の目的のひとつだった
りしますので、のんびり付き合っていただけるとありがたいです。

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