GSホームズ極楽大作戦!! 〜バスカヴィル家の狼〜 2
投稿者名:赤蛇
投稿日時:(05/ 6/ 5)
ハドソン夫人がこの忘れ物の主、ヘンリー・バスカヴィル氏の来訪を告げた。
玄関より十七段の階段を軽快に登ってくる様子からは、とても何かの事件の依頼者とは思われなかった。
やがてドアの前で足音は止まり、丁寧ではあるが物怖じのないノックが響いた。
「どうぞ」
ホームズの呼びかけを聞くか聞かずのうちにドアを開けて入ってきたのは、小柄だがしっかりとした体つきの、三十くらいの紳士だった。
赤っぽいスコッチの服を着た男の顔は健康そうに日に焼けて、太い眉毛が意思の強さを表しているようであったが、どこかしら愛嬌のある気配を漂わせていた。
入ってくるなりホームズの手にしているステッキを目に止めて、うれしそうな声をあげて歩み寄ってきた。
「ああ、ここに忘れたのか。いや、どこでなくしたのかと思って、途方に暮れていたところだったのですよ。それこそ、ホームズさんに依頼しようかと思っていたぐらいでして」
さすがのホームズもこれには苦笑いを浮かべ、ともかくも椅子を勧めた。
「ありがとうございます―――――おっと」
見知らぬ客は椅子に足を引っ掛けてよろめいたが、驚きはしないが照れくさそうに非礼をわびて腰を掛けた。
このせっかちでそそっかしいが憎めない青年に、私は旧知の人物のような親しみを覚えた。
「さて、ご相談とはどのようなものでしょうか? 私にはあなたがつい最近、爵位を継ぐためにアメリカから帰ってきたばかりだ、ということしかわからないのですが」
若いヘンリー氏は、今掛けた椅子から飛び上がらんばかりに驚いて言った。
「これは驚いた。あなたは私のことをご存知なのですね?」
「いいえ。あなたにお会いするのは今日がはじめてですよ、ヘンリー卿」
「ならば、どうして私のことを知っているんです? 私が亡くなった叔父からバスカヴィルの家を継いだことは、紳士録にもまだ出ていないというのに」
「別にたいしたことではありませんよ」
ホームズはヘンリー卿に葉巻を勧め、自分のにも手際よく火をつけながら言った。
「昨日お忘れになったそのステッキ、それはかなり手の込んで年季の入った希少なものですが、失礼ながらまだお若いあなたには似つかわしくありません」
ヘンリー卿は思わずホームズが指差したステッキに目を向けた。
だが、一体何処からそんな推理が成り立つのか、よくわからない様子だった。
「また、あなたの物腰は貴族的で身なりも良く、おしゃれにも気を配っていますが、どことなくまだ自分に合っていないような感じがします。それで、小さい頃から身に付けたものではなく、つい最近になって相続することになったのだろうと思ったわけです」
「アメリカから帰ってきたというのは?」
「初めてアメリカから来た人というのは、たいてい四輪馬車の乗り降りに戸惑うものです。ねえ、ワトソン君、たかだか大西洋を挟んだぐらいで、どうしてああも習慣が違うんだろうね」
「なんだ、聞くとずいぶん簡単なことなんですね」
あっさりと手品の種を明かされた観客のような声を出して、拍子抜けした様子でヘンリー卿は呟いた。
まだ全て納得したわけではなさそうだが、細かいところにはこだわらない鷹揚とした性格の一片が見受けられた。
「そうです、実に簡単なことなのです。ですが、皆は眼で見るだけで観察をしないのですよ。真実はいつだって目の前に転がっているというのにねえ」
少し調子の良くなったホームズは、また新たな推理を付け加えて述べた。
「他にも、そのステッキに付いた歯型から、あなたが犬を、それも相当に大きな犬を飼っていることもわかりますが、そんなことを聞きに来られたわけじゃないでしょう?」
それまで子供のように話を聞いていたヘンリー卿は、急にぎくり、とした表情を浮かべ、声をひそめるようにして言った。
「いえ、私がご相談したいのは、その犬の話なのです」
今までの
コメント:
- 出来るだけ週一回は投稿しようと思いますので、今回は短いですが御容赦下さい。
今回出てきたヘンリー・バスカヴィル准男爵のキャラクターは、原典での依頼者、ジェイムズ・モーティマー博士と足して2で割ったようなイメージで作っています。
よって、博士のファンがいれば申し訳ありませんが、彼の出番はありません。
あんまり登場人物が多くなりすぎても私が困りますしね(笑)
ホームズがヘンリー卿を推理するくだりは悩みましたが、なんとなくらしくはなったんじゃないかと思います。
四輪馬車の習慣の違いについては、前にどこかで読んだ記憶があるのですが、ちょっと思い出せません。
思い違いでしたら申し訳ありませんです。 (赤蛇)
- 「バスカヴィルの魔犬」は映画で見たことがあるのですが、
今のところまだGSの世界の要素が入って無いと感じたので今回は中立で・・・・。
もちろん原作(シャーロック・ホームズの方)とは違う内容にこれから入っていくと思うので、
これからの展開に期待しております。 (丸々)
- 石畳の街並みに霧がたゆたい、フロックコートの紳士と粗野な労務者達が行き交う大都会ロンドン。
まさに、ホームズの世界ですね。シャーロキアンくずれとしては、否応なく期待が盛り上がります。…刮目して待つ!
( ̄▽ ̄) Hope your next! (鴨)
- 原典は未だ読んでおりません。(怠慢挨拶)
よーく考えてみれば、彼女をキャストで登場させると云う事は、それはもはや『GSホームズ』では非くなるよーな?……まあいいか(好い加減)。
個人的にはゆっくりでいいから、もー少し分量が有った方が読み応えも有りますし、感想を入れ易いんですけどね。今回も『Holmes』らしい雰囲気を豊かにする描写がふんだんに用いられた分、話そのものは余り進行していませんのでね……というワケで今回保留にしつつ、次回を楽しみにしています。ではでは。 (Iholi)
- >丸々さん
まだまだ原作と違う内容に入っていきませんでした(苦笑)
GS世界の要素というものも漠然とはイメージしているのですが、それがどれだけ表現できるかが問題です。
>鴨さん
本当はロンドンを舞台にした話のほうが合うのでしょうけれど、あいにくと19世紀の街路地図が手に入らなかったので断念しました。
そのへんの資料が手に入ったら、いつか書いてみたいと思います。
>Iholiさん
今回、ホームズらしい雰囲気を出そうと気を配っていますが、その反面として椎名作品らしさ、というものがあまり・・・というか、それを再現することはあきらめました。
あのへんの崩しを入れるというのは、なかなかに大変な作業でしたので。 (赤蛇)
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