いっしょがいいね
投稿者名:ろろた
投稿日時:(05/ 6/ 4)
横島忠夫は混乱の真っ只中にあった。
「俺、何もしていないよな!? していない筈だよな!?」
部屋の中で叫び、確認し様とするが、この場には誰か答えてくれるものは居ない。
「せんせ……」
約1名、居る事は居るが、彼女は今現在夢の中であって、彼の問いに答えてくれない。
しばらくして、ようやく横島は落ち着いて来た。
見てみれば2人とも、衣服を着込んでおり、間違いを犯していない……筈だ。
「何でシロが居るんだよ」
寝巻き代わりのジャージ姿で、横島はうめいた。
ここは横島が住む安アパート。
ゴミが散乱している部屋に敷いてある煎餅布団の中には、犬塚シロが寝ていたのである。
それはもう驚いた。
朝、気持ちよく目覚めたら隣に少女が寝ているし、あまつさえ横島に抱き付いていた。
自分と彼女の関係は、師と弟子であり、そういった関係になってはいけない間柄だと横島は思っている。
シロが起きない様に抜け出し、布団から飛び出て冒頭の状況になった訳である。
ここで一息吐いて、時間を確認した。
目覚ましは7時半を示していた。少し前ならまだしも、今は遅いと言っていい。
毎朝、毎朝、シロに叩き起こされ、日が昇る頃には彼女に引き摺り回されていたので、こんな時間に起きるのは本当に珍しかった。
シロを見やる。
彼女はスヤスヤと寝ている。こっちの気も知らないでと横島は思ったが、起こすのも何だし、このまま寝かせて置く事にした。
そうすればサンポに行かなくて済むから。
その後、横島は顔を洗い、朝食代わりの食パンの耳で胃を満たし、歯を磨いて制服に着替えた。
高校に行くのだ。
さすがに休み過ぎている為に、そろそろ真面目に行かないと、本気で留年しかねない。
担任がそれはもう凄絶な笑みで、脅してくれた。
横島は鞄を持って、静かに部屋から出て念の為に鍵を閉めた。
通学路で歩いていると、犬をサンポに連れて行っている女性を見て、横島はふと思った。
シロをあのままにして、放って置いてよかったのかと。
彼女が横島を起こさずに、そのまま寝る事なんて1度たりともなかったのだ。
もしかしたら何かの病気かもしれない。何とか横島の部屋に辿り着くのが精一杯で、倒れこんだとも考えられる。
前にタマモが病気の為に高熱を出した(本当は毛変わりが上手くいかなかったら、体の熱が溜まってしまった)。
その時に横島はシロに「何で気付かなかった」と、呆れた様子でシロに聞いた事がある。
そうだ。自分はまがりなりにも彼女の師である。
師が弟子の事をよく見てないのは、いけない事ではないか。
だったら今すぐにでも、様子を見に帰るべきだ。何かあってからでは遅いのだ。
横島の胸中に、不安が波紋の様に広がる。
あの時、俺は見捨ててしまった。2度も同じ過ちを繰り返すのか?
大切な女を助けなくてどうする。
その考えに至り、横島は踵を返す。
(これで補習漬けだな)
でも彼は止まらずに、猛スピードで駆け出した。
が、よくよく考えればその線が薄い事に気付くだろう。
もし病気だったら聡いタマモが分かる筈だし、もしタマモが寝ていたりしても、部屋に着いた時点で横島に助けを求めるだろう。
そういった事に、今の横島は気付いていない。取り乱す程、シロが大事な女性だからかもしれない。
あっという間に安アパートまで戻る。
荷物持ちで鍛えた足腰は伊達じゃない。
ポケットから鍵を取り出し、差し込もうとするが上手くいかなかった。
ここは元々古く、差し込むのにちょっとしたコツがいるのだが、横島は焦っている為にそれすら失念していた。
ガチッ、ガチッと鍵穴に入らず、金属同士がぶつかる音が横島を更にイラつかせる。
「ああ、ったく!!」
遂に鍵を放り出して、霊波刀を出した。
これでドアを破壊するのだ。
修理代は頭の片隅に追いやり、霊波刀を振り上げる。
「せんせい……」
破壊する前に、ドアが開きシロが出て来た。
それにちょっとだけ横島は戸惑い、万歳の形で固まってしまった。シロと横島の視線が絡み合う。
横島は別の意味で、また驚いた。シロの目に涙が浮かんでいたのだ。
「助けて欲しいでござる」
横島が何か言う前に、シロは助けを請い、抱きついて来た。
その温もりに横島は一安心したが、まだ解決した訳ではない。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
「……負けてしまうんでござる」
「何だって?」
消え入りそうな声でシロが呟くので、横島は聞き返した。
「拙者の使うきゃらが、負けてしまうんでござる!!」
「先生、凄いでござるな。この短時間で、もう拙者より強いでござる」
「ふふ、遊びで俺に敵う奴などそうはいない」
ビシッと横島が断言する。
2人はテレビの前で、3Dの格闘ゲームをしていた。
つまりシロが寝ていたり、泣きそうだったのはゲームのせいであった。
昨夜、タマモと対戦していたが、1度も勝てなかったのだ。
悔しくて夜も眠れず、早朝になり、ならば先生に勝つコツを聞きに行く事にした。
1度事務所を出たが、確か横島の家にゲームがない事に気付き、取りに返ったのはシロだけの秘密である。
それで部屋に入ったのはいいが(鍵はかかってなかった)、横島の顔を見て安心してしまい、なおかつ寝不足だったので、布団に入り熟睡してしまったのだ。
それを聞いて横島はいろんなとこにツッコミを入れたかったが、シロの悲しそうな顔に何も言えず、ゲームに付き合う事にした。
もちろん始めてやるゲームだったので、最初はシロにこてんぱんにされたが、すぐにコツを掴み、今では九分九厘彼女に勝てる。
「さて対戦をしていて気付いたが、お前には弱点が多い」
「そんな……」
横島はコントローラーを置いて、シロに語り始めた。
「一番いけないのはただ技を出している事だ。そんな事をしていたら、勝てる訳がない」
そう横島に言われ、シロは頭を垂れる。それを見てちょっといたたまれなくなり、横島は話を始めた。
「聞くが、シロ。霊波刀はただ振り回していたら、意味がないよな?」
「もちろんでござる。敵が態々斬られに来ないでござる。……先生!?」
「その通りだ。どんな技も使いどころを考えないといけない。除霊だって何も考えずに突っ込むのはバカのする事だ」
「何も考えず……」
じっと横島を見詰めるシロ。
数秒程、見詰められていた横島はいてもたってもいられず、叫び出した。
「何を言っているんだ。俺はいつも考えているぞ。美神さんのチチシリフトモモを追い掛けてばかりいる訳じゃない!」
「先生、拙者は何も言ってないでござる」
「そうか?」
「そうでござる」
シロに諭され、横島は落ち着きを何とか取り戻した。どうやら強迫観念に捕らわれていたらしい。
コホンと、咳払いを一つ。
「話を戻すぞ。考える事は大事だ。力で力に対抗するばかりが、戦いじゃない。時には搦め手を用いたりするのも必要なんだ」
「さすが先生。奥が深いでござる」
「当たり前だろ。俺はお前の先生なんだぞ」
「先生!!」
「シロ!!」
2人は立ち上がり、熱く抱擁しあう。
横島とシロ、何だかんだで気が合うのは底にあるものが、たぶん同じなんだろう。
ノリの良さというか、ツッコミがいがあるというか、そんなところが。
(シロって、こんなに柔らかかったっけ? しかもいい匂いが……)
(先生の胸板って暖かくて、いい匂いがするでござる……)
似た者同士とは正にこの事。
考えている事も、ほとんど一緒だ。
「よし!! まずはデータ収集だ」
横島は脳裏に危ない考えが走ったので、無理矢理シロから離れた。
シロはもっと抱きしめて欲しかったが、ここでねだる訳にもいかない。我侭を言って、ゲームを教えて貰っている立場だから。
「昔の偉い人が言った『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』と、これからお前が使っているキャラと、タマモが使うキャラを徹底的に調べるぞ」
「はいでござる!」
横島は使用していないノートをちゃぶ台の上に置き、キャラの技表と性能をゲームをしながら必死に取り始めた。
昔、ミニ四駆でも同じ事をしていた。どのタイヤにどのモーターが相性がいいのか、どのギアを使えば効率がいいのか、と自分なりに調べ上げだものだ。
だからこういった作業は、苦にはならない。
横島とシロ、2人で行った。
それはもう早朝まで。
朝、美神令子は不機嫌だった。
魔族も裸足で逃げ出す程の、怒りのオーラを全身に漲らせている程に。
そんな美神をおキヌは止めようと……しなかった。こちらも普段見せない怒りの表情を浮かべている。
それを見てタマモは、いつでも逃げれる様に後方に控え、様子を伺っていた。
美神達が居るのは、横島が住む安アパートの部屋の前である。
シロが帰って来なかった。
もしかしたら、もしかして横島が帰らせなかったんではないかと、思ったのだ。
そういった訳で、美神とおキヌは般若と化していた。タマモは無理矢理、連れて来られた。
「よこしまーーーーーっ!!」
勢いよくドアを開け、美神とおキヌ、それにタマモは乗り込んだ。
鍵がかかっていなかったが、タマモ以外気にも留めていない。
「横島さ……!!」
それは衝撃的な光景だった。
信じたくない、だが、それは目の前にある現実だった。
横島とシロは抱き合いながら、寝ているのだ。
それに加え、横島はシロの胸に顔を埋め、シロは愛おしそうに横島の顔を抱いている。
まさしく情事の後。少なくても美神とおキヌにはそう見えた。
だけどタマモだけは、付けっぱなしのテレビとゲームを見て、何となくだが状況を理解した。
ほんの一瞬だが、美神とおキヌの怒りはピークを超える。
しかし、そのお陰で横島とシロは救われた。
ある程度の怒りで人は前後不覚に陥るが、とてつもなく深い怒りは人を冷静にする。
冷静に見れば横島とシロは衣服をちゃんと着ており、それらしい痕跡もない。
あるとすればノートが散乱しているぐらいだ。
ただ何かをして、疲れて寝たのだろうと推測できる。
「……帰るわよ。おキヌちゃん、タマモ」
「そうですね」
心地良さそうな顔で寝ている2人を起こすのは、さすがに気が引ける。
そう思い、美神はこの場を後にした。
でも、
「後でお仕置きするわよ」
「そうですね」
後に煩悩少年は、ちょっぴり痛い目に合ったそうだ。
『俺が何したって、いうんやーー!!』
という言葉を残したそうだ。
でも今は―
「せんせ……」
「シロ……」
と、とても幸せそうだった。
追記
「あたしにもゲーム、教えなさいよ!!」
後日、タマモも教えを請いに来ていた。
今度はシロに手も足も出ずに、それはそれは悔しかったそうだ。
そのせいでまたもや一波乱が起きるが、それはまた別のお話。
〜完〜
今までの
コメント:
- 原作の展開としてあり得そうな話ですね。
そして、ろろたさんの書かれるシロは無邪気でいいですね
シロがかわいいのはいいのですが、おキヌちゃん。
あなたまで、お仕置きとかいいますか。
付き合ってもいないのに、それは理不尽ですよ(笑)
美神ならともかく。 (輝剣)
- あちらこちらでのろろたさんの作品は、いつも安心して読んでいられます。愉快な中にもほのぼのとした雰囲気があり、落ち着いた気持ちで読めるのが嬉しいですね。
そうですね…良い意味でのお約束、と言うべきでしょうか。「サ○エさん」「水○黄門」など…一寸違うかな?無理に必要以上に意表を突かない、意表を突く必要が無いというのはこのような作品では良いことで且つ嬉しい事だと思います。 (WEED)
- 横島クンとシロ、何時もどおりのドタバタナやり取りのなか、何処かほのぼの暖かな雰囲気があって…よかったです。 (偽バルタン)
- いつものシロと横島のやり取りの中に二人の想いらしきものが見えたりしてとってもよかったです。
こういう話には実は目がないから、もちろん賛成を一票入れます。
それにしても、この後でタマモで同じことがおきると思ったらこれまたおいしいことになりそうですね(笑) (まぐまっぐ)
- どうも感想、ありがとうございます。
>輝剣様
どれだけシロを可愛く表現できるかをいつも考えています。
いつかはシロ単独で、話が書けたらなと思っています。
>WEED様
捻りすぎると、よく分からない話になる事が多いので、ストレートに表現しようとしています。
>偽バルタン様
この2人に一番似合うのは、ほのぼのとした話かなと。
基本的にはこの路線でいこうと思っています。
>まぐまっぐ様
変にきどらずに真っ直ぐなお話にしようとしてます。
次のももう考えていて、こんなふうにほのぼのとした感じになります。 (ろろた)
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