ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦9 『LAST MISSION 聖夜の黄昏 2』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/12/26)

「小僧、おるかぁ!?」

「うおっ!?」


突然ノックも無しに上がり込んで来た白髪の老人に、驚きのあまり少年の手元から昼飯のカップ麺が滑り落ちた。
畳に広がっていくスープを悲しそうに見届けると、じっとりとした視線を訪問者に向ける。


「おお、昼飯時じゃったか。それにしても相変わらず貧乏臭い生活を送っとるようじゃのう。」


少年は雑巾で畳を拭き取りながら深く溜め息をつく。


「うちのお袋が裏から手を回したらしくてな。
俺の給料、手取りで20万しかないんだよ。
お袋いわく『若いうちから金持っててもロクな使い方をしないから』だとさ。
チクショーーッ!!せっかく正式に社員になったのに、使える金はたいして変わってねーじゃねーか!!」

(いや、それだけあれば充分普通の生活は送れると思うがのう……)


結局全ては彼の無駄遣いが原因なのだ。
彼の母親の判断は正しかったのだろう。


『ドクター・カオス、横島さんは・いましたか?』


白髪の老人が呆れたような視線を送る中、黒いレザーコートに身を包んだ少女も部屋に入って来た。
顔付きや容姿は可憐な少女のそれだったが、両手に重そうなスーツケースを涼しい顔で抱えているのが何とも言えないアンバランスさを醸し出していた。


「よ、久しぶりだな。マリア。」


手を振って少女に挨拶すると、その表情が真剣なものに一変する。


「カオス、あんたらが帰って来たって事は――――」

「うむ。準備は整った、という事じゃ。」


少年の真剣な眼差しに老人が不敵な笑みを浮かべた。


「帰って来る前に一報いれようとは思っておったんじゃが……
わしらは正規のルートでは入国出来んのでな。連絡を取れるタイミングが無かったんじゃ。
どうやら驚かせてしまったようじゃが、まあ許せ。」

「おいおい、何で正規のルートが使えないんだよ。」


少年の問いに老人が瓢々と答える。


「わしの研究成果が税関を通るとでも思っとるのか。」

「そうか――っておい、一体何を持ち込んだんだ。」

「ほう、知りたいか?」

「……いや、やっぱやめとく。」


カオスの表情は持ち込んだ物が非合法な代物だと物語っていた。
ろくでも無い物とわかった以上、横島も詮索する気はなかった。


「出発の前にも断った通り、失敗すれば取り返しがつかん。
それに正直なところ、まだ分が悪い賭けじゃとわしは思う。
今なら考えを改める事も可能じゃが、さてどうする。」

「……前にも言ったよな。俺はルシオラにもう一度逢いたいんだ。」


横島の表情から揺るがぬ覚悟を読み取り、カオスも無言で頷く。


「それに……力になってくれるやつもいるんだ。」

「お主、まさかこの事を誰かに話したのか!?」


思わずカオスが声を荒げる。
失敗してしまった時の結果を考えると、誰かに話すとは思っていなかったのだ。


「あいつらなら、きっと俺達の足りない部分を補なってくれるさ。」


そして横島は語りはじめた。
二年ぶりに再会した、あの二人の心強い協力者の事を。




























「横島、本当に良いのだな。」


教会の長椅子に横島が寝転んでいた。黄昏の教会には夕日の柔らかな光が差し込んでいる。
遠い目をした少年に腕を組んだ女性が話し掛けた。


「覚悟は二年も前にすませたよ。」


そう呟くと起きあがり、辺りを見渡した。
起きあがった少年に夕日が差し込みその顔を赤く染める。


「あれ、カオスはどこ行った。」

「む、そういえば姿が見えんな。ジーク、もうカオスは出発したのか。」


呼ばれた銀髪の青年が玄関から戻って来た。


「ドクターならもう妙神山に向かいましたよ。
老師の加速空間でドグラと打ち合わせを行うそうです。」


本来の利用目的とは違っているが、場合が場合だけに老師も了承していた。
通常なら数年はかかるであろう義体の設計も、これなら数ヶ月で完成するだろう。
残された彼らに出来る事と言えば、静かに待つ事ぐらいだった。

ドグラがアシュタロスの遺した膨大な知識を活用して義体を作成する。
そして完成した義体にルシオラの魂を定着させるのがカオスの役目だった。
横島は平静を装っていたが、その身体が微かに震えているのをワルキューレは見逃さなかった。


「……焦る気持ちはわからんでもないが、落ち着け。
今からそんな様子では最後まで身体がもたんぞ。」

「君には普段通りの生活を送ってもらわないと困るんだ。
君の身近な人間は皆一流の霊能者だからな。
君がそんな様子だと誰かが不審に思うかもしれない。」

「あ、ああ、わかってる……ここまで来ちまったんだ……最後まで隠し通してみせるさ。」


少年は無理矢理心を落ち着かせるため、きつく拳を握り締める。
静かに息を吐き出し心を落ち着かせ、教会を後にした。

その後ろ姿は普段の少年のものとまるで変わらなかった。


「……たいした精神力だ。」


動揺を無理矢理抑え込んでいる少年の後ろ姿に、ワルキューレがぽつりと声を漏らしていた。


「さて、我らも動くとするか。」

「そうですね。」


最高指導者への報告や、ルシオラが人間界で活動するための根回し。
他にも、この件がデタントに与える影響の調査、リスクになりそうな要因の排除、やるべき事は山積みだった。


「よし、お前の担当は最高指導者への報告だ。
くれぐれも失礼の無いようにな。」

「え!また僕が報告するんですか!?
今回は姉上が行って下さいよ!!」

「わ、私は軍部に根回しにまわらねばならんのでな。
それにあーいう疲れる仕事は男の役目だ。とにかくお前に任せたぞ、良いな!」


ワルキューレは魔族の姿を解放すると大空の彼方に飛び去って行ってしまった。
ジークの呼び止める声が背後から届いていたのだが、彼女は聞こえないふりを決め込む事にしたようだ。

空の彼方に消えた姉を見送るとジークはがっくりと肩を落とした。
















その夜神父が教会に戻るとジークが自分達の荷物を整理していた。
神父の帰宅に気付き声をかける。


「あ、おかえりなさい神父。」

「おや、荷物を片付けてるみたいだけど、どうかしたのかい。」

「はい、しばらく妙神山に行動拠点を移すことになったので。
色々と神父にはお世話になりました。
本当にありがとうございました。」


礼を言う青年に、神父が慌てて遮る。


「いや、そんな、礼を言うのはこちらの方だよ。
君達のおかげでなんとか教会の運営も持ち直せた訳だし……」


最近はようやく神父も報酬を受け取るようになっていた。
相変わらず貧しい相手からは受け取ろうとはしなかったが、その代わりに企業からの依頼も引き受けるようになっていた。

初めは少し気が進まなかったが、ワルキューレの無言の圧力(時には実力行使)に屈して引き受けているうちに、
何時の間にか週に一度程度の割合だが企業からの依頼もこなすようになっていた。


――裕福であろうとなかろうと、霊障に悩まされているという点については皆平等だろう。
それを見過ごすのが聖職者のあるべき姿なのか?――


魔族が正論を説くというのも妙な話しだが、こう言われてしまっては神父も断ることは出来なかった。
理由はどうあれ、今の神父の生活サイクルならあの再会した時のように栄養失調で倒れる事もないだろう。

別れ際、互いに万感の思いを込めて握手を交わし、ジークも教会を後にした。







































「――――以上により、最優先事項であったルシオラの復活は現実的なものであると考えられます。」

「そうやな。ほんまにご苦労さん。ようやくここまで漕ぎつけられたなあ。」

「ええ、ここまで来たからには私達も全力でサポートしなくては。」


ここは魔界でも神界でも無い空間。
両界の最高指導者の霊力で創られた特殊な結界の中、一人の魔族の青年が直立不動の態勢のまま報告書を読み上げていた。

正負に分かれた最高指導者二人の霊圧は互いに打ち消し合うため、対峙しているジークに負担は殆どかかっていなかった。
しかし物理的な負荷はなくても、彼らに謁見するという精神的な重圧は正常な感性を持つ者には凄まじい消耗を強いるものであった。
月の事件の際、小竜姫やワルキューレがジークに役目を押し付けていたが、無理もない事だった。

今日も今日とて貧乏くじを押し付けられたジークは内心涙しながらも健気に役目を果たしていた。


「で、どうやろう。こっちで何か手伝える事ってあるやろか?」


光り輝く12枚の翼を持つ魔界の最高指導者が、隣に座る、神々しい修道服を見に纏った男に問い掛ける。
問い掛けられた男――神界の最高指導者は顎に手を当ててしばらく考えを巡らせる。
ふと何かを思いついたのか、顔を上げるとジークの報告書を読み返し始めた。

ふむふむと何度か頷くとある箇所を開き、隣の男に指し示す。

そこには今回の任務における問題点が記されていた。
義体に魂を定着させるのはカオスの役目だったが、すでにマリア、テレサという成功例が存在する以上、恐らく心配ないだろう。
義体に関しても、逆天号という現在の三界の技術レベルで考えてもトップクラスの兵鬼を造り上げたアシュタロスの知識がついているのだ。
こちらも問題無いだろう。

残る問題は義体への拒絶反応と、気温や気圧などの環境が与える影響だった。

魂というものはとてつもなくデリケートなため、ほんのささいな温度変化ですらどのような影響を与えるかわからないのだ。
現にカオスも以前にテレサを造り上げた際に、魂を定着させる事には成功したが、その内面は当初の予定とは大きく違っていた。
これは環境などの外部要因が原因だと考えられた。

拒絶反応はルシオラ自身の問題のため手の施しようがないが、環境についてはどうか。


「ふーむ、なるほどなぁ。確かに魂はデリケートやからな、ちょっとした事でも悪影響がでかねんわ。」

「それを我々が解決してあげようじゃないですか。
我々の霊力なら霊的に最適な無菌空間を造り出す事も可能ですし。」

「おお流石キーやん、グッドアイデアやな。
よっしゃ!ほんならそれで決定やな。ほな待ち合わせは何時にしよか。」


話が妙な方向に流れつつあるのを感じ、ジークの顔色が悪くなる。

最高指導者がそんな軽々しく人間界に降臨するなど、冗談でも口にしてもらっては困る。
なのにこの人はどう見ても本気で言っているようにしか見えない。

もしもこれがきっかけでデタントが崩壊でもしようものなら……
悪夢のような最悪の展開が脳裏に浮かび、ジークの顔色は蒼白になっていた。


「待ちなさい、サっちゃん。」


神界の最高指導者がたしなめるのを聞き、ジークの顔色に僅かだが血の気がもどる。


「気が早いですよ、時間の前に日を決めないと。」

「おっと、そりゃそうやな。
しっかしお互い仕事なんぞ皆無やけど口うるさいのに見張られとるからなぁ。」

「確かに……いや、待って下さい。
聖夜なら皆お祭り騒ぎですからね。こっそり抜け出すくらいは出来そうですよ。」

「よっしゃ!ほな、その日に決定や。」


止めるどころか、一緒に降臨する気満々の神界の最高指導者の言葉に、ジークは顔面蒼白を通り越し眩暈すらおぼえていた。


「お、お待ち下さい!
まさか移植に立ち会われるおつもりなのですか!?」


ジークが思わず声を上げる。このまま会話のノリで世界の均衡を崩されてはたまらない。
多少無礼かもしれないが、なりふり構っていられる余裕などジークには欠片もなかった。
普段自分は流されてしまいがちなのは自覚していたが、いくらなんでもここは流される訳にはいかなかった。

デタント崩壊の危惧はもとより、これを黙って見過ごせば後でワルキューレの苛烈な説教が待ち受けているのは確実だった。
それだけは何としてでも避けたい。


「もしも両界の同意を得ずに降臨されるつもりだというなら、どうか御自重下さい。
そんな事をすればデタントに反対している神魔族を刺激するのは間違いありません。」


勘弁して下さいよ、と内心泣き出しそうになりながらも何とか説得を試みる。


「おいおいジーク、頭の堅い連中がそんなもん了承する訳ないやろうが。
大丈夫やって、バレんように気ィつけるし。」

「数時間くらいなら姿を消しても何とかなりますよ。
とは言え、匿ってもらう相手も必要な事ですし、妙神山の斉天大聖には話を通しておきましょうか。」


チャンス!とばかりにジークが話に喰いついた。


「では斉天大聖殿が反対したならば諦めて頂く、というのはどうでしょうか。」


神界でも最高峰の実力を持つ老師の言葉なら聞き入れてくれるだろう。
ジークの読み通り、二人の最高指導者も斉天大聖が言うなら、と頷いてくれた。

魔界の最高指導者が指を鳴らし空間にスクリーンを出現させる。


――ぷるるるる――ぷるるるる――ぷるるるる――


呼びだし音が鳴り響き、しばらくするとスクリーンに映像が浮かび上がった。


「はい、こちら妙神山でちゅ。」


スクリーンいっぱいにふわふわした帽子をかぶった幼女の顔が浮かび上がった。


「こらパピリオ、画面に近付き過ぎですよ。」


背後からの声とともにパピリオが画面から引き剥がされ、背後にいたショートカットの凛々しい少女の姿が画面に映し出される。
少女は画面の向こうの相手に気付くと慌てて膝をつき頭を下げた。

生まれて間もない上にアシュタロスが教えていなかったため、パピリオには相手が何者かわからない。
小竜姫の慌てように首を捻ると、画面を指差しながら隣で膝をついている小竜姫に尋ねた。


「小竜姫、この無駄に偉そうな奴らは何者なんでちゅか?」




――ああ、時間が止まるというのはこういう事か。
後にジークはこの時の心境をこう語った。












「なにぶん、まだ生まれて間もない故、どうか、どうか御容赦を。」


小竜姫が床に額を押し付けんばかりに頭を下げる。
平伏する小竜姫の背後には気絶したパピリオが転がっていた。

あの超問題発言が飛び出した直後、人生最速の超加速を発動させた小竜姫の手刀がパピリオの首筋に叩き込まれたのだ。


「いえいえ、無邪気で可愛いではないですか。さ、気にしませんから顔を上げてください。
今日は斉天大聖に話があるので彼につないでもらえますか。」

「ハ、ハイ、すぐに!」


慌てて立ち上がると画面の外にフェードアウトしていった。
もちろんその際に気絶したパピリオを引っ張って行くのも忘れていない。
去り際に、どうやらあなたには再教育が必要なようですね、という何とも凄みのある呟きが聞こえたような気もするが、まあ多分気のせいだろう。

誰もいなくなった画面の奥から小竜姫の慌ただしい声が漏れ聞こえてくる。





――大変です老師!最高指導者から直接呼びだしがかかっています!

――なんじゃ騒々しい。落ち着かんか小竜姫、修業が足りんぞ

――これが落ち着いていられますか!今度はいったい何をしでかしたんですか!
山ですか!?谷ですか!?どこを吹き飛ばしたんですか!?最近はようやく大人しくなってくれたと思ってたのに!!

――こ、声がでかいぞ小竜姫!

――普段は修業もせずにゴロゴロダラダラしてるくせに!
今日という今日はもう耐えられません!実家に帰らせていただきます!!

――ひ、人聞きの悪い事を言うでない!

――本当の事では無いですか!最近はゲームしているかパピリオの稽古をつけているかのどちらかではないですか!
もしかして幼女趣味でもおありなんですか!?

――まさか貴様、この機会に最高指導者に密告したいだけなのではなかろうな!?
そもそも貴様とて幼児体型の分際で人を幼女趣味呼ばわりしおるか!
それほど稽古をつけてほしいならいくらでも相手をしてやるわ!かかってこんかこの未熟者がァァ!!

――ひ、人が気にしている事を!いくら老師といえど、もう許せません!!




ああ、二人とも、お願いですから、
誰を待たせているか良く考えて下さい。

神父、これが胃に穴が空くというやつですか。
僕も倒れてしまいそうですよ。









































「……すまぬ、待たせたのう。」


ねえ、老師、お願いですから愛想よくして下さい。
あなたと違って僕はお二人と直接向き合ってるんですよ。
もしもあなたが怒らせでもしたらその矛先は僕に向くんですから。

マジで勘弁して下さい。


「あなたに傷を負わせるとは、彼女はなかなか腕が立つようですね」

「フン、剣の腕はまあまあじゃが、頭が堅すぎるのが欠点じゃな。まだまだ半人前よ。」


老師、小竜姫の頭が堅いのは事実ですが、あなたが修業をさぼって遊び倒してるのも事実ですよ。
ゲームをイメージトレーニングと言い張るのは少々無理があります。


「で、隠居中のわしに何か用かの。」

「ええ、実はですね――――」







良かった。ようやく本題に入ってくれるのか。
さあ老師、はっきり言っちゃって下さい。


「ふむ、なるほどのう。」


だいたいお二人には御自身の立場というものをもう少し考えて頂きたい。
そりゃあ僕だって偉そうにされるより今みたいに気さくに接してくれた方が嬉しいですよ。
でも何かを決断する時はもう少し良く考えてくれるとありがたいです。


「よかろう。わしもその話に乗ろうではないか。」


さすがは老師!言うべき時は言ってくれますね――――って、今何て言いました!?
話に乗るとか言っちゃいましたか!?

こんのゲーム猿は……ついにボケてしまったのか……


「む、なんじゃジーク。何か言いたい事でもあるのか。
こめかみに青筋が浮かんでおるぞ。」


いかんいかん。思わず表情に出ていたようだ。
落ち着け、落ち着くんだジーク。

こうなったら老師を説得して考えを変えてもらうしかない。


「老師、あなたほどの方なら、お二人が了承も得ずに人界に降臨すればどうなるかくらいおわかりでしょう。
それなのにお二人を諌めるどころか御自身も話に乗るなどと、何を考えているのですか。」


冷静に、冷静に話を進めなければ。


「そ、そう睨んでくれるな。わしとてそのリスクは重々理解しておるよ。
じゃが、そのリスクを補って余りある提案でもある。」


それくらい僕にもわかっています。
ですが、万が一、これが原因でデタントが崩壊するような事にでもなれば、今度こそ横島君は潰れてしまう。
あなた達は彼にまた重荷を背負わせようと言うのですか。


「私も提案の内容は素晴らしいと思います。
ですが、お二人が直接人界に降臨せずとも誰か代わりの者に任せれば良いではないですか。」


神話クラスの力を持つ者は他にも大勢いるではないですか。
何もわざわざ一番目立つ二人が降臨する必要は無いでしょう。


「お主の言っとる事は正論じゃよ。わしとて、代わりの者で務まるのならその者に任せるじゃろう。
じゃがな、なかなかそうもいかんのじゃよ。」

「実はなぁ、移植に最適な環境のまま空間を固定するんは、口で言うほど楽やないんや。
正味な話、時間の流れに干渉するようなもんでな。」

「霊的に『凪』の状態を造り出すには、相反する属性で、なおかつ均等な力で綱引きをし続けなければならないのです。
長い付き合いの私とサっちゃんならともかく、普段敵対しているような者達に急に出来る話ではありませんよ。」


ぐぅ、そうなのですか。
確かにそういう事なら仕方ない気も。

いや、しかし……


「まあ、うちらでも空間を固定できるのは三時間程度が限界やしな。
それくらいならごまかしが効くやろ。」

「わしとて二人の気配を隠せるのはせいぜいその程度じゃよ。
どうじゃ、ジーク。これでもまだ反対するか?」


僕だってルシオラと横島君をもう一度逢わせてやりたいんです。
わかりました。こうなったら僕も覚悟を決めますよ。


「ふむ、その顔を見ると覚悟を決めたようじゃのう。」


ええ、もう迷いはありません。


「よし、では段取りはお主にまかせるぞ。
責任重大じゃが、なぁにお主なら大丈夫じゃろう。」


え!?ちょっと、何言ってんですか!?


「ちっとばかり責任重大やけどな。
期待しとるで、ジーク。」


いやいやいや、ちょっと待って。
すっごく嫌な話の流れになってきてるんですが。


「それではまた、聖なる夜に会いましょう。あ、そうそう、下準備はあなたに一任するので頑張って下さいね。」




丸投げキターーーーーー!!!!

いや、もう、本気で勘弁して下さい。
どう考えても僕には荷が重過ぎるでしょ。
そんなに僕の胃に穴を空けたいんですか。そうですか。

僕が失敗したら最終戦争に一直線ですよ。
僕だって終いには怒りますよ。泣きますよ。

あ、ちょっと、二人とも素でこのまま帰るつもりですか。
もしかしてフォローは一切無しですか。


「お、お待ち下さ――――!」

「ほな、任せたで。」

「しっかり頼みますよ。」




――キィィィィン――




うわ、あっさり結界から放り出されたよ。

ふぅ、唐巣神父。いきなりですが教会に戻っても良いですか。
たとえ貧乏でも無茶な事を命じる上司がいない方が良いです。


あああ、それにしても一体どうしたら良いんだ。
そうか、義体の設計が間に合わなければ良いのか。
って、それでは本末転倒だ。
間に合ってもらわないと全てが台無しじゃないか。

こうなったら出来るだけ保険をかけておくしかないよな。
でも、話が重大過ぎて誰にも話せないよ。

事情を話せるのは信頼でき、なおかつ強大な力を持つ存在でなければ。
となると――――








出来るなら巻き込みたくない、と思いつつもジークの脳裏には彼の上司の姿が浮かんでいた。






















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