ザ・グレート・展開予測ショー

嵐の中で


投稿者名:ろろた
投稿日時:(05/ 6/ 8)


「先生、カキ氷でござるよ」

「おう、サンキュ」

横島はシロからカキ氷(メロン味)を受け取り、スプーンで掬い取り口内に放り込む。
瞬間、頭痛ににも似た痺れが走った。

「きっくー! やっぱ安っぽいカキ氷は海に似合う。これぞ日本の風物詩」

「そうでござるか?」

「おお、覚えとけ」

シロはチビチビとイチゴ味のカキ氷を食べながら、横島に聞いた。

今2人がいるのは某海水浴場で、シートを敷き少し休憩を取っているのだ。

太陽は燦々と輝いて、熱く、激しく照り付けている。気温もこの夏一番の暑さになるだろうと、横島は思った。
横島はこの暑さで鉄板にさらされている焼肉ではないかと錯覚を覚えたが、夏本番だと気分だけは高鳴った。
何たって女性が薄着になるから。

「あ〜あ、これで水着のねーちゃんが居ればなあ」

と横島が愚痴る。

暑いとは言っても、今はまだ七月で平日である。さすがに大胆な水着を着た綺麗なおねーさんは数少ない。

何故この様になったかというと、今朝シロが海に行きたいと駄々をこね、いつもの如く自転車で引き摺られる様にここまで来たのだ。
学校は試験休みな上に、仕事の方も今日明日はなしなので、(シロにとっては)都合が良かった。

彼女は綺麗な海がいいと、かなり遠くの海まで来てしまった訳である。
元は取らないと損という事で、横島は数少ないおねーさんにナンパを試みたが、シロが隣に居るので成功する訳もなく、横島は少し不貞腐れていた。

ちなみに横島はトランクス、シロは空色をしたスポーティなセパレートの水着で珍しく髪型をポニーテイルにしていた。

「何を言っているでござるか。ぷりちーな拙者が隣りにいるでござろう」

そんな横島に、シロは自分を指差して魅力をアピールする。
だけどカキ氷を食べながらなので、通じる訳はなかった。

「う〜ん」

横島はカキ氷を食べ終わり、唸る。
確かにシロは可愛いと思う。もし彼女を同じぐらいの年頃、女子中学生の集団に入れても個性が埋もれる事はないし、その集団の中でも一際輝いて見える筈だ。

鍛えているので中々に引き締まっている肢体に、すらりと長い手足。
頭頂部から前髪にかけて燃える様な赤で、他は神秘的に輝く長い銀髪。
顔も大きな瞳に小さく形のいい鼻、そして笑うと向日葵の様な笑顔と、ティーン雑誌のモデルぐらいは楽勝に出来る容姿だ。

性格だって子供っぽいが、純粋で真っ直ぐで真面目と特にケチをつけるところはない。
だけどやはり―

「色気がなあ」

「酷いでござる〜」

横島が望むのは色気だ。ただ立っているだけで悩殺されそうな、そういった雰囲気を持った女性が好きなのである。

「うう〜、一緒に泳ぐでござる」

「って、強く引っ張んな」

拗ねたシロに横島は手を引っ張られ、仕方なく一緒に海に入った。
彼女の泳ぐ速さは凄まじく、横島はついて行くだけで精一杯だった。
だけど、とても楽しかったのも事実で、我侭で子供な愛弟子だが、こうやって一緒に遊ぶのはとても心が満たされる。

シロはそういったふうに思わせる少女なのだろう。





「ホントに雨が降ってきたな」

「拙者が言っていた通りでござろう」

横島が感心した様に言うと、シロは胸を張った。

2人は小さな駅で、雨宿りをしていた。
夕方になり辺りを赤く染め上げてくると、シロがもうすぐ雨が降ると言ったので海水浴をやめたのだ。シロの超感覚は天気も予測できるらしい。

そして雨宿りをする為に、偶然見つけた駅内にに2人は居た。

「それにしても、凄くねえか」

「そうでござるな。これはもう嵐と言ってもいいでござる」

横島は大して雨は降らない思ったが、バケツを引っくり返したみたいに豪雨が降り、強風が木造の駅を揺らす。
シロの方もここまでとは、少し予想外だった。

彼は自転車に寄りかかる。

「しょうがないな。電車で帰るか」

「お金は大丈夫でござるか?」

「あのなあ、人にカキ氷を奢らせて置いて何を今更」

「だって食べたかったんでござるよ〜」

シロは横島の腕に絡み付き、くぅ〜んと鳴いて詫びる。
それを見て彼は溜息を吐くが、いつもの事だと思ってこれ以上口に出さなかった。

「金の方は大丈夫だ。海に行くっていうんで、多めに持ってきたからな」

と横島が言った瞬間、

「あんの〜、おめーさんがた」

初老の駅員が話しかけてきた。

「何ですか?」

「すんませんの〜。この雨で土砂崩れになってしまって、電車が通れなくなったんです」

「え!?」

横島が素っ頓狂な声を出した。

「本当にすんません。明日には復旧しますんで」

「明日までかかるんですか!?」

「まあ、この雨じゃ、それぐらいかかるかもしれんからのー」

断定しているのか、否定しているのか微妙な答えだった。

「どうする、シロ?」

「拙者はこれぐらいの雨は大丈夫でござるが、先生の方は……」

「そうだな……」

凄まじい豪雨の中を、自転車で突っ走るのは自殺行為に等しい。
それに東京までかなり離れているし、遊び倒したので横島の残り体力は少ない。
今日中に帰るとしたら、かなりスピードを出さないといけないので、危険は倍増どころか2乗になるだろう。

高速で走ると雨も凶器になる。びしびしと当たる雨の一粒一粒が、鋭いの針に刺されているみたいで痛くてしょうがない。
すでに雨の中をシロとサンポした事がある横島には、その痛みはもう体験したくない事の一つだ。

「あの〜、ここら辺に泊まれるところありませんか?」

横島は身震い一つして、駅員に聞いた。









横島は顔に手を当てて、天を仰いだ。
そこには黒雲ではなく、天井しか見えなかったが。

「せんせい、凄いでござる。とても立派なべっどでござるよ」

シロはずぶ濡れのまま、部屋を歩き回り珍しいものに手を付ける。
横島はずぶ濡れのまま、天を、天井だが、を仰ぎ続けている。

理由はここがラブホテルだからだ。

この近くで泊まれるところはここしかなく、それ以外だとかなり遠くまで行かないとないらしい。

横島とシロは朝に自転車で遠出、昼には力の限り水泳をしてしまったので、お腹が空腹だとシャウトしたのだ。
彼はまだ我慢できたが、当然彼女の方は何か食べたいと申し出てきた。
その様を見て売店に売っているガムと飴(食べ物はこれしかない)で、我慢しろとは言えなかく、仕方ないのでラブホテルまで行く事になった。

横島の思惑としては、見た目中学生のシロを連れているから、門前払いだとタカをくくっていた。
が、
意外や意外、店員はすんなりと通してくれた。

田舎恐るべし、と心に刻み込み。もう2度とこんな事にならない様に尽力すると決意を固めた。

溜息を1つ吐くと、気分は更に沈み込んだが、それではいかんと気持ちを奮い立たせる為に、横島は思ったよりも豪華な部屋を見回す。

そうしたら脳内で勝手にシミュレートが始まった。

若い男女が、とある理由でラブホテルに一泊。
男はやりたい盛りの男子高校生、多少幼いとはいえ目の前には美少女が一人。

最初は耐えていたが、碌にこういった事態を経験してないので、あっさりとタガ外れ、もー我慢できん、と襲い掛かる。

そして数ヵ月後には、

『出来ちゃったでござる♪』

という結果になる……かもしれない。



「あかん! ダメだ。人としてダメすぎる。もー街ん中歩けない上に、美神さんに殺されるーーーっ!!」

横島は自分のバカらしい妄想を真に受け、取り乱した。

「先生、大丈夫でござるか? どこか体の具合が悪いのでござるか!?」

「調子は悪くないんだ。そういう事じゃなくて……って、その不意打ちはダメじゃーーーっ!!」

雨で濡れてしまっているので、シロの服はうっすらと透けていた。
そのせいで女性を表す2つの頂きが、浮かんでしまったのだ。もちろんそれを見て、横島は絶叫する。

「うわーっ! 先生がご乱心をーーっ!!」

シロの叫びによって、横島ははっと気付き、壁に頭を何度も叩きつけてようやく冷静さを取り戻した。


「そ、そうだな、叫んでいても事態は解決しない。お前が先に風呂に入れ。このままだと風邪引くぞ」

「だったら一緒に入るでござる。拙者、先生の背中を流したいでござるよ」

シロの無邪気な提案に、横島は彼女の顔を覗いてみた。
彼女の笑顔から見て、そういった考えはないと思うが、万が一がある。

「ダメ」

横島はにべもなく断った。

「でもここのお風呂場は変わっていて、硝子張りでござるから、別でも意味がないと思うでござる」

「なにーーーっ!?」

横島はラブホテルに入ってから、何度目かの叫び。
見てみると、風呂場と部屋の敷居がガラス張りになっており、どうやっても透けて見えてしまう。


「ぐうっ、こうなったら狼になってくれ」

何とか妥協案をシロに示す。
ここでは誰かがツッコンでくれない。もし暴走でもしたら、目に当てられない結果になってしまうだろう。

「それでは先生のお背中を流せないでござる」

「頼む。俺を思っているなら、狼になってくれ」

横島は土下座をして、懇願した。
それを見てシロはふとある事に思い当たり、笑顔になる。

「もしかして先生、拙者の事をそういった目で見てくれているでござるか?」

「そそそそ、そんな事ないぞ。ほらお前はまだ、嫁入り前の女の子だろ? だったら無闇に肌をさらすもんじゃないと、俺は思うんだ」

横島は窮地に立たされると、普段の彼では考えられない程に頭の回転は早くなる。
どもりながらも、彼女の心を動かす言葉を何とか搾り出した。

「なるほど。さすが先生でござる。拙者も里ではそういうふうに教えられたでござるよ。でも先生なら拙者はおーけーでござるが」

「俺達の関係って師弟だろ!? まだ早すぎるよ」

焦りながらも横島は言葉を選びながら言った。
シロは『まだ早すぎる』を早合点してしまい、将来は夫婦になるものだと勝手に勘違いしてしまった。

「分かったでござる。では拙者は狼に戻るでござる」

ボンッと音を立てて、シロは狼に戻った。その尻尾はブンブンと、千切れんばかりに降っている。
横島は先にシロを風呂場に入れ、自分はまた海パン姿に着替えた。



風呂場は横島が想像していたよりも、割と普通だった。ガラス張りを除けばだが。
シャンプーやリンス以外にも、そういったプレイで使うローションだが何だが置いてあるの気にしなければ、何とかなる。

シロをお座りで待たせ、横島は真ん中が凹んでいる椅子に腰掛けた。

シャワーで彼女の体を流し、シャンプーでごしごしと洗い始めた。

「くすぐったくても、我慢してくれよ。それと目を瞑っていてくれ」

暴れられたら堪ったものでないから、横島は一言注意した。

背中、腰、尻尾、足、腹、頭を丁寧に洗っていく。
時たまシロが体を震わすが、それはくすぐったいのだと思い、横島はあまり気にも留めなかった。

それ以上にシロがどんどん泡塗れになっていくのが面白かったのだ。

隅々までシロを泡に包み込んでから、シャワーで流した。

「綺麗になったな」

横島がそう言うと、シロは彼に顔を寄せてきた。

「どうしたんだ? 俺も体を洗うから、待っててくれ」

何とかシロを離し、横島は髪と体を洗う。
そうして横島はシロと一緒に風呂に浸かった。

「やっぱ、風呂はいいよな」

目の前の彼女は狼なので恥ずかしさはなく、横島は気楽に話しかけると、シロは首を振って嬉しそうにしていた。
多少、風呂に毛が浮かんできたが、気にせずに横島はシロに何度も話しかけていた。

犬(狼でござる!)に話しかける少年、傍目から見るとそれは寂しい人にも見えなくもない。


その後、横島はシロの体を拭いてやり、置いてある2人はバスローブを羽織った。

彼女の為に肉が多いものを注文したが、

「シロ……」

「何でござるか?」

テーブルにはこれでもかと料理が置かれていた。大食らいの2人でも、これなら満腹になるぐらいの量だ(これで横島の財政はかなり苦しくなった)。
その料理を食べつつ、横島はシロに聞いた。

「どうして俺にくっついているんだ?」

横島が言った通り、シロは彼にしな垂れかかっていた。
いつもの様にガツガツと肉を胃の中に放り込まずに、よく噛んで味わっている。どうも雰囲気が変わり、横島はドキドキしてしまっているのだ。

「先生と拙者の中でござろう?」

「? まあ、それはそうだが……」

「ならいいでござるよね」

「ああ……」

横島は何と言っていいいのか分からず、取り合えず頷く事にした。
チラチラと横目でシロを見やる。
彼女は風呂場上がりのせいか、いつもと感じが違っていた。

(何つーか、色っぽい?)

思わず、胸中でそう呟いてしまった。
ほのかに香るシャンプーに、濡れた髪。
バスローブの前の隙間から見える育ちかけの胸。

見慣れているシロはそこに居らず、いくばくか年齢が上がった彼女がそこに居ると錯覚してしまう。
胸のドキドキが止まらない。

横島はそれを無視するかの様に、次々と料理を片付けて行った。
外では未だに雨が降り続いている。



深夜となりベッドに入る。
朝から騒いでいた為に、体力が人並みはずれている横島でも疲れていた。
けど眠れなかった。
何度も瞼を閉じるが、それでも眠りには至らない。

「……」

「……」

何故ならベッドの中には、横島とシロ、2人で寝ており、彼女はしっかりと彼の腕を抱きしめていた。
その柔らかな感触で、眠いはずなのに目が冴えてしまっている。

「なあ、シロ」

「先生も眠れないのでござるか?」

「まあな。もう1度聞くけど、何かあったのか? 風呂から出てからは、妙にしおらしいぞ」

「もしかして先生、分かっていないのでござるか?」

「何がだ?」

横島は問いの意味が分からず、シロの顔を覗き込む。

「酷いでござる。拙者の事を、とうとう女として見てくれたと思ったのに!!」

急にシロが泣き出してしまい、横島は戸惑った。

「え!? 何かよう分からんけど、悪かったんなら謝る。だから泣かないでくれ」

横島は飛び起き、土下座をして許しを請う。
シロはヒックヒックと泣きながら、事情を説明し始めた。

「胸と……か、お腹……とか、一杯触った……では……ござらんか」

「胸? お腹? ……ああーーーっ!!」

ようやく横島は思いついた。
風呂場でシロを洗った際に、色々と触ってしまった。

「すんませんすんませんすんませんすんません。この通りです。許して下さい。何でもしますから許して下さい」

シロにはこの事を黙って貰わないといけない。
もし美神あたりに知られてしまったら、どんなきついお仕置きをされるか分かったものではないからだ。

「何でも……でござるか?」

「おう。何でも聞くぞ」

「だったら結……」

「却下だ」

不穏な言葉を言いそうになったので、すかさず横島は断った。

「けち」

「ケチでも何でもいいから、それ以外で頼む」

ぶーと頬を膨らますシロを見て、言う事を聞くって言葉を取り消したくなった。

「ここで一緒に寝てくだされ」

「それでいいのか?」

「我慢できなくなったら、襲ってもいいでござるよ」

シロは悪戯っぽく笑った。それに見惚れている事に気付いた横島は、視線を逸らす。

「しねえ」

と横島は言ったものの、

ピッタリと横島にくっ付くシロに煩悩を感じ取ってしまった。
柔らかで弾力溢れる肢体に、男として反応してしまい、またもや眠れずにいた。

(撤回。シロにも“多少”は色気があった)

結局は寝不足のまま翌日出発した。そのせいで集中力が途切れてしまい、途中何度か事故に合いそうになってしまった。













「せんせー、サンポに行くでござる」

シロは横島の腕に抱き付き、散歩をねだる。

「言っとくが、遠くまで行かんぞ」

「分かってるでござる。東京都内に済ませるでござるよ」

「都内でも広すぎるわ」

美神除霊事務所ではいつものやり取りが行われていた。

「全く、シロは暑いっていうのに元気ね」

「シロちゃんに元気がないなんて、想像つきませんよ」

「それもそうね」

美神とおキヌは、それを見て微笑ましく笑っていた。

あれから一週間、取り敢えずは平凡な日々が過ぎてる。
さすがに一泊したので、横島は覚悟を決めていたが、それは杞憂に終わった。
その日は美神令子は美智恵、ひのめと家族で出かけており、おキヌは弓の家へ試験勉強をする為に泊まっていたのだ。

人工幽霊壱号には土下座をして黙って貰い、タマモは稲荷寿司ときつねうどんで買収した。
そのせいで更に横島財政が傾いたのは言うまでもない。

美神によく日焼けしたわね、と聞かれた時は、シロに引っ張り回されましたから、と背中に冷や汗を掻きながら答えた。

「シロ、ご機嫌ね」

タマモがそう聞くと、シロは元気一杯に返事をした。

「ご機嫌でござるよ。先生と拙者はあの夜以来、固い絆で結ばれているでござるから」

「ば……」

横島が止め様としたが、時すでに遅し。

「へ〜〜、あの夜って何?」

「私も知りたいです。いつどこで何があったんですか?」

美神とおキヌが笑顔で聞く。
それは、それは凄絶な笑みで、子供が見たらトラウマになる事は必至だ。

「シロ、逃げるぞ」

命の危険を感じた横島は、シロの手を取って走り出す。

「人工幽霊壱号、ドアを閉めなさい!」

『了解』

美神の命により、ドアが自動的に閉まって鍵が掛かったが、横島は手に霊力を集中させた。

「文珠ーっ!!」

『開』と込め、ドアを無理矢理開けて、横島とシロは疾風の速さで事務所から逃げ出した。

「シロ、力の限り逃げるぞ」

「はいでござる!!」

現実逃避の一言であったが、シロは嬉しく返事をした。
今日はよく晴れている。雲は1つもなく、太陽は燦々と輝いていた。
まるであの人の笑顔の様に。


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa