ザ・グレート・展開予測ショー

Laughing dogs in a lamb’s skin えぴろーぐ


投稿者名:Alice
投稿日時:(05/ 6/12)




 Laughing dogs in a lamb’s skin
 あん・えぴろーぐ



「最近学校の方はどう?」

 役所に提出する書類のチェックをする手をとめて、美神はテレビを見ながらくつろいでいるタマモに声をかけた。
 普段は寮生活を送っているシロとタマモだが、週末は美神と共に過ごしている。
 もともと、寮生活を進めたのは美神だ。これにはきちんと理由はあって、ありていに言えば子供のおもりはもうごめん、といったところである。
 ひのめほど手はかからないとはいえ、逆に体が大きい分、面倒くさいこともあるのだ。シロもタマモもおキヌとは違う。

「ん? 別に…普通よ」

 美神に答えるタマモは、興味もなさそうにバリバリと煎餅をかじりながらテレビを眺めている。

「そう? 本当に?」

 昨日の一件、ボロボロになったタマモを、同じくボロボロの横島がかついでやってきたときはなにごとかと思った。
 除霊で不手際でもあったのだろうか、とも考えたがそれならば連絡があり、自分自身も現場に借り出されているだろうから、なにかしら一悶着があったのだろうと察した。
 横島は横島で、宅急便の荷物受け渡しのように美神にタマモを渡してさっさと帰っていった。なぜタマモが、横島の二人がこうまでみすぼらしくなっていたのか、その理由は一切告げずに。
 タマモから聞き出しても良いかとも思ったが、目を覚ます気配も見せず、後日にでもと、後回しにしてみれば聞けず終い。タマモは一切口を割ろうとしなかった。

「なによ、いやらしいわね。これといって特別なことなんて本当にないんだから」
「あらそう」

 含みをもった言い回しで美神。テレビから振り返って美神を睨むタマモ。あからさまに気に障った様子でジト目だ。
 実際、あれから学校での嫌がらせにはそれなりに対処できるようになってきた。
 様々な対応を取ればいいのだ。目には目を、歯には歯を。同様に、飴と鞭でも良い。
 人間の生徒と妖(あやかし)のタマモ。その性能の差を妬まれるのであれば利用させてやれば良いのだ。利害の一致を上手く使い分ければ、それ相応の距離、付き合い方というものが浮かび上がってくる。

「ま……アンタがなにを思おうと別にいいけどさ」

 とはいえ、流石はキツネの化身。切り替えしの速さは流石のもので「可愛くないわね」と、逆に美神が小馬鹿にされた風に気を損ねる。
 お互いに変な意識をしあってか、テレビの音声がやたらと響く。
 所在なく、テレビへと向き直ってタマモは茶をすすり、煎餅を再びかじる。美神も同様に書類へと視線を落とするが、タマモが声をかけた。

「ところでさ、横島ってどんな奴なの?」

 テレビへの意識をなおざりに、唐突にタマモが呟いた。それは美神に充てたものではなく、どちらかといえば自問に近い呟き。
 なにかあるな、と感ずいて美神は自分なりに思い描く横島像をタマモに伝える。

「どんなって、まぁ、馬鹿でスケベでお人よしで大馬鹿野郎…ってところかしら?」
「ふーん」

 まぁ、そんなもんよね、とタマモも頷く。

「なによ、突然改まって」
「別に…」
「変な娘ねぇ」

 質問の意味は結局わからず、美神があきれたように肩をすくめて冷めかかったマグカップを手にとった。

「あのさ」
「今度はなによ?」
「美神はさ、アイツのどこが好きなの?」

 タマモの問題的発言に、思いもよらずコーヒーを噴出しかける。

「なっ、アンタ突然なにいってんのよ」
「え、違った? 偶に美神からヨコシマの匂いがするんだけどさ、あれって気のせい?」

 ニヤリと、あからさまな悪意を込めた微笑。

「(こ、このマセガキ)気のせいじゃないかしら?」
「そう? なら私の勘違いってことか…ふーん、そう」

 血がのぼってくるのを隠し、美神はなんとかして平静を勤めるがタマモは終わらせない。

「べっ、別に良いんじゃないの? 勘違いもなにもなんで私とアイツが…ひょっとしてアイツに興味があるとか?」

 美神、カマをかけたつもりだがむしろ墓穴へ繋がる。
 この年代の子供たちならば照れるだろうと判断したが、完全に目算は外れている。
 子供とはいえ相手はかつて絶世を誇った血統、近いうちに体現するのは、かの玉藻御前なのだ。

「だったらどうする?」
「!!」

 ぷつぷつと音を切れる血管を心地よさそうに聞きながら、タマモはふふん、と鼻で美神をあしらう。

「な〜んてね。嘘よ。冗談」

 流石にこれ以上は可哀相か、と攻撃の手を緩めれば、憤慨するのは美神。この手の話題では結局のところタマモ程度にあしらわれてしまうぐらいの精神年齢は相変わらずだった。

「あんたねっ! 人をからかうのも大概にしなさいよ」

 はいはいごちそうさま、と手をひらひらとさせてタマモ。奥手で、なおかつ恋愛ごとにはめっぽう手のかかる姉と小生意気な妹の構図がそこにはあった。

「ま、そこらへんはおいといてさ、アタシなんかよりシロにこそ注意した方が良いわよ。足元、すくわれないようにね」

 さっき以上に性質の悪そうな笑みだが、どこか本気が混じっている。

「シロ? あの娘が? まだまだ子供じゃない」

 美神はタマモには隠せないと、半ば開き直って返す。

「美神も意外にわかってないわね。あーゆー天然系っぽいやつが本物の魔性になっちゃうんだから。とりあえずアタシの経験上だけどね」

 最近のシロは富に成長している、とタマモは思った。微妙に色っぽいのだ。
 二、三年前、ジーパンとTシャツで走り回っていた風な健康美とは違った、女性の色香をシロに覚えたのだ。
 流石に周りが年頃の女の子たちで溢れているわけではない。言葉遣いしかり、服装しかり。
 気がつけば、子供じみていた象徴だった前髪にちんまりとした赤味がかった部分も、本来の色に戻った。今ではプラチナブロンドのワンレンを手入れすることを覚えたくらいだ。
 装飾品が苦手なのは相変わらずだが、人の形を取るため下げている胸に光る精霊石だけで十分に、シロの素朴な美しさを引き立たせているくらいだ。
 穿きなれないスカートに戸惑うシロを見て、同性ながらぐっときてしまったこともあった。
 子供と大人の、女の子と女性の、その中間点にシロはいるのだ。
 対して自分はどうだろうか? 一足飛びで大人になってしまったきらいがあるような気がする。多分それは前世に因果があるのだろうが、性格的な問題も然り。
 シロとタマモ。その差のようなもの。視点の違いで改めて確信した。シロもまた、自分に負けず劣らずの美女になるのだろう、と。
 ただ、それには条件がある。彼女の隣に立ち得る伴侶があってこそなのだ。
 並の男では隣に立つことこそままならないだろう。タマモが思いついたのはただ唯一、世界でたった独り、自分たちを理解してくれる男性。けれど、その彼は今目の前にいる保護者の所有物であることを認めている。
 もちろん、これから先のことは分からないが、シロほど一途な女が入れ込むような男性はそうそう現れないに違いない。だとすれば、もしも、彼が浮き続けるのであれば近い将来、形振り構わぬシロの姿が思い浮かぶ。
 今はまだ高をくくっているが、美神は環境が与える影響の大きさを多分侮っているのだ。あるいは信じている。環境が与えてくれるものが、これからに繋がることを。
 その答えは如何様にして転がるかは分からずとも、自信家の美神のこと。自分の都合が良いように賽の目引っ張り出すのだろうが、果たしてそう上手く行くものだろうかとタマモは考える。

「シロは突っ込んだら止まらないわよ? ヨコシマだって満更じゃないと思うんだけどね。一応、妹分からの忠告」
「そりゃ、どうも…」

 美神はタマモの言葉が、絶妙なツボをついていて、かつ説得力があったことに若干の寒気を覚える。

「それからね、アンタみたいな面倒臭い女から男とるほどアタシ馬鹿じゃないから安心していいわよ」

 美神の本音を知ってか知らずかタマモは、保障を伝える。少なくとも、美神令子は嫌いではないのだから。

「売られた喧嘩は買っても良いんだけどさ。ま、その様子じゃ敵じゃないわね」

 そんな様子のタマモが美神少し寂しそうに映った。色恋沙汰に疎いことは承知だが、それでも強がりだと悟って美神令子は告げる。

「それ、どういう意味よ?」

 美神の言葉に、タマモのプライドがくすぐられる。
 タマモからしてみれば、わかったようなことを、という風に映るのだ。美神令子こそ、つい先日までは女の子だったくせに、とも。
 過去の経験も徐々に掴みつつある。その程度のアドバンテージなどは簡単に覆してみせる。

「どうもこうもないわ。アンタじゃ相手になんないってコトね」

 素直にならないとアイツは気がつかないわよ、とこれは流石に言葉にはしないが。
 そう、それは美神本人が培った経験。自分にとっては数少ない手札でもあり、唯一絶対のアドバンテージなのだ。
 とりあえず敵に塩を送るほど酔狂ではないし、負け戦だなんてもっての他である。

「……金毛百面九尾に喧嘩をふっかけるなんてアンタだけよ。きっと」

 刹那女の火花が散る。

「良いわ。本気で堕としてやろうじゃないの。ヨコシマなんてアタシの手にかかれば「馬鹿なことを言うな! 先生は拙者のものととっくに決まっておる!」

 いつのまにやら帰ってきたシロが美神とタマモの間に乱入してくる。そこから先はかしましい姉妹の些細なコミュニケーション。

「貴様のようなメギツネに先生が誑かされるわけはないでござる」

 本来の口調に戻ったシロの全身を眺め見てタマモが唇を吊り上げる。視線は胸の辺りで止まっている。
 勝った。
 もっか急成長を遂げているタマモ。シロも負けず劣らずと言いたいところだが、差は意外に大きい。

「そう? 大きい方が好きだと思うんだけど…どうかしらね?」
「き…き…きさまぁ! 許さん! 絶対に許さないでござるっ!」
「あんたみたいなお子様じゃ相手もされないから安心なさい。というか身の程知らずもほどほどにね?」

 足蹴にされてシロは一気に臨界点を突破。
 シロとタマモのじゃれあいが始まって美神はひとり取り残される。
 喧騒を後ろに、気を取り直してコーヒーを淹れ直す。せっかくとりよせた豆であっても、温くなってしまっては味も落ちるというもの。淹れ直し、渋さを増した苦味を飲み込んでタマモの言葉を思い出す。
 美神本人としては、かなり痛いところを突かれたような気もするが、それはそれ。

「ま、良いか」

 自分の胸をちらと見る。二人ともまだまだ甘いわよ、とそこには圧倒的な勝者の笑み。

「横島忠夫、ねぇ…。私も物の怪の類なのかしらね」

 そう考える美神の疑問はあながち間違ってはいない。











 どうも、アリソたそでつ。
 これできつね談義は終わりです。本当はシロをからませたかったんですが、面倒臭くなってパスしました。
 というか、シロって書き出すとおキヌ以上に危険なキャラであると自分、思います。
 物語の流れ次第ではもっともヒロインに近いというか、うん。突撃系だし、天然っぽいし。
 将来性は抜群としか思えないわけですよ…思えませんか? あれ? そうかなぁ…(反語)
 つーか、このキツネ談義は短編のつもりだったんですけど、最終的に80kb越えてる始末。
 物語をまとめるのって大変です。がっくり。
 とりあえず、今後はGS美神200x(仮)という形でまた書きたいと思います。
 場所はここではなく、別の場所になりそうな感じですけども…。

 ターンタラーンターン♪ こんばんは、ピートです。
 梅雨時の最近は雨が降りそうで降らない、そんな天気で憂鬱になっちゃいますね。この間も雪之丞なんてパンがかびてヒモジイってぼやいてました。みなさんも食あたりには注意して下さい。
 さ〜て、来週のGS美神200xは…
 「どじっ娘 ☆ 美神地獄極楽大作戦」「GS隊・南へ!」「逃げろ! 雪之丞」の3本です。
 んがぐっぐ…

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