動き出した歯車〜第五話〜
投稿者名:アハト
投稿日時:(05/ 5/15)
動き出した歯車
第五話『ラグナロク〜神々の黄昏〜・2』
「立ちなさい、横島君。まだ、ノルマを達成していないわよ。」
「も、もう……堪忍してください。」
昨日の一件から始まった横島の修行。
それは、話があった日の翌日の早朝から行われている。
横島の現状は、心身ともにずたぼろであった。
かつて、美智恵に地獄のしごきを受けた美神よりも重症だ。
(もっともタフさ加減では、横島が圧倒的に上回っているので、五分五分といったところだろう)
「……仕方ないですね、30分の休憩を入れます。」
美智恵は、そういうと横島の視界から消えるように後ろに下がっていった。
横島は、それをみて一息つくと
「あ、ありがとうございます……」
美智恵の非情な宣告に感謝を述べた。
単に、反論してメニューがもっときつくなるのが嫌なだけなのだが。
「こ、このままじゃ戦う前に殺される!」
美知恵に声が届かないように気を使いながらそう漏らす。
その横島の感想は、決して誇張は含まれていないだろう。
現に、早朝(4時程度)から昼(1時程度)まで、修行という名のしごきを受けていたのだから。
もちろん、食事や休憩はあったが合計でせいぜい一時間である。
メニューの全容は、煩悩に頼らない霊力集中を行えるようになるための座禅。(連続一時間)
横島専用にカスタマイズされたプログラムデータとの戦闘(美神と同じ100鬼抜きを設定。現在最高32鬼抜き)
これらを反復してやっているのだ。
「これ以上は、霊力が持たん。煩悩が少ないとこうも違うもんなんか……」
うつぶせに倒れたまま横島が嘆いていると、いつの間にか定位置に戻っていた美智恵が声をかけてきた。
「休憩は終わりよ。精神集中を三十分やったら訓練は終わり。いいですね?」
そんな、美智恵の言葉に横島は安堵の息を漏らした。
あと、三十分くらいなら頑張ろうとまじめに取り組んだ。
そして、三十分後訓練終了が横島に告知された。
「お、終わった。」
「横島君、お疲れ様。」
横島が、大の字になって仰向けに倒れた。
しかし、安息の時もつかの間……
美智恵の口から非情な一言が出てきた。
「これで、訓練 は 終わり。次は、戦術戦略の勉強です。」
「………………」
横島は、顔を青くしたかと思うと狸寝入りを決め込んだ。
美知恵は、そんな横島の行動に自らシミュレーター内部に入っていった。
横島は、気づいていたが気絶した振りもとい狸寝入りを決行した。
「横島君。寝てる時間はないのよ。さぁ、早く立ちなさい。」
「…………」
美知恵にかけられた言葉それは、横島の耳に届いたが横島は聞こえない振りをした。
そして、少しの沈黙の後冷たい金属音が当たりに聞こえた。
そうそれは、拳銃のリロードのときに出る音と酷似していた。
横島もそれに気がついたのか慌てて起き上がった。
「りょ、了解しました!」
「よろしい、では部屋に案内します。着いてきなさい。」
横島は、立ち上がるとともに敬礼をする。
美知恵は、そんな横島を見て構えていたものを懐に戻した。
そして、美知恵は横島を後ろに従えて勉強部屋へと向かうのであった。
一方、美神たち(美神・おキヌ・シロ・タマモ・西条)はというと
「……なんだか、すごい量の低級霊ね。」
「同感……」
美神たちがいるのは、久しぶりに霊障が起こった雑居ビルである。
西条は、ロキ関連かもしれないということで美知恵の命令の元ここに来ている。
美神は、久しぶりの仕事と聞いて目を輝かせていたが、この光景には辟易したようだ。
見渡す限り、雑霊だらけ。
優に100体はいるだろう。
「まぁ、一体一体は強くないし。おキヌちゃん、頼める?」
「わかりました。」
美神は、一体一体わざわざ相手にするのが面倒だったのでおキヌの能力に任せた。
一気に大半の霊を無効化できるはずだからだ。
ちなみに、今後のロキ戦の戦力になりうるかというテストも兼ねている。(美神の考えだが)
「シロ、タマモはおキヌちゃんのバックアップ。二人でおキヌちゃんに霊力を供給してあげて。」
「わかったでござる。」
「わかったわ。」
美神と西条は簡易結界をはり、もしもの時に対応できるように身構えた。
おキヌは、タマモとシロから霊力供給を受けながら精神を集中させ笛を口につける。
そして、おキヌのレクンレイム(鎮魂歌)が場に響き渡る。
おキヌにとって、こんな量をサポートがあるとはいえ一人で除霊するなど初めてのことで、余計に力が入った。
「…………」
おキヌによる鎮魂歌の演奏が、場に響き始めたのをきっかけに、ばらばらに動き回っていた雑霊が動きをゆっくりにし始めた。
そして、どんどん成仏していく。
怨み、妬み、絶望、そんな負の感情から解き放たれて……
おキヌの演奏はおよそ二十分程で終わりを告げた。
休みなく吹き続けられた鎮魂歌によりすべての霊は、成仏していったのだ。
「はぁ〜。」
「頑張ったわね。おキヌちゃん。」
美神がおキヌちゃんの肩に手を乗せてほめ言葉をかけた。
おキヌちゃんは、その言葉に笑顔を浮かべると”ありがとうございます”と返した。
一方、西条はおキヌの演奏に驚いていた。
一人で除霊しきったのにも驚いたが、何よりおキヌが息継ぎをしていように見えたからだ。
「おキヌちゃん。息継ぎはしてないのかい?」
「いえ、口で息を吐きながら鼻で空気を吸ってるんですよ。」
おキヌは、西条に種明かしを行った。
あのクラス対抗戦で負けて以来、どうにかできないものか考えていたところ
美神と見ていたテレビ番組に偶然出てきたので、自分もやることにしたのだと。
「なるほど、そうすれば笛の連続使用も可能だということか」
西条は、なにやら感心したように頷いた。
美神は、おキヌの実力を見て顔をほころばせる。
シロとタマモは、おキヌに賛辞を述べていた。
おキヌは、そんな二人の言葉に照れ笑いをしていた。
「やはり、雑霊程度ではどうにもならぬか。」
「!!!!」
突然、聞こえた声。
それは、冷たく無機質なもので、生気をまったく感じられないものだった。
美神たちは、慌てて周りを見回すも誰もいない。
しかし、また声だけは聞こえてくる。
「人間とはいえ、これくらいは楽々凌げるの力を持っているということか。」
「……あんたは、誰!?さっさと姿を見せなさい!」
含み笑いを含んだその台詞を聞けば、美神があたりに響くような声で一喝した。
すると、その言葉に答えるかのように不意に人影が出現した。
そう、一瞬前まではそこにいなかったはずの人影が。
「な…まさか。」
「どうしたんでござるか?西条殿。」
声を上げたのは、西条だけだったが、美神もおキヌも驚いた顔をしている。
タマモとシロは、その理由がわからず西条に問いかけたわけだが。
「死神?……いや、そんなはずは」
自分の体を覆う黒いローブ、そして身丈よりも大きい大鎌。
これだけ、そろえば相手を死神だと思っても仕方がないだろう。
西条の呟きに黒ローブの人影は、首を横に振った。
「死神といえば、死神だが……私には、ヘルというれっきとした名前がある。」
そういうと、ヘルはフードを剥ぎ美神たちに顔をさらした。
そこには、灰色の長髪と冷たく光る同色の瞳、そして白く透き通った氷のような肌。
”絶世の美女”そういわれてもおかしくない整った顔と雰囲気があった。
「ロキの娘か……それなら納得がいく。」
西条は、ヘルを睨みつけてそう呟くように言った。
美神は、いきなり現れた相手に動揺し何か策はないか思考を始めていた。
シロとタマモは、自分よりも圧倒的に強い霊力を持つ者に会うのは初めてなのか、本能から来る体の振るえを抑えるのに必死だった。
おキヌは、この状況で自分は、役に立てるのかなどとそんなことを深刻に思い悩んだ。
「そう言えば、横島の姿がないようだが?どこにいる。」
「誰が、あんたなんかに教えるもんですか。」
「そ、そうでござる!お前なんかぱわーあっぷした先生が倒してくれるでござるよ!」
シロの言葉に、一同が絶句した。
シロは、自分が何を口走ったのかわかっておらず、皆の表情を見回すだけだった。
そこで、タマモは一言呟いた。
「馬鹿犬。」
「犬じゃない!それに、馬鹿じゃないもん!」
シロは、そう即座に反論(?)した。
だが、その直後へルが微笑を浮かべた。
「そうか、横島は本部にいるのか。」
「な、何でわかったでござるか!?」
「あんたのせいよ!あんたの!」
美神の冷たい視線とタマモの罵倒で、シロは覇気をなくししょんぼりとした。
西条は、ジャスティスを抜き放つと裂帛の気合とともに駆け出した。
美神は気がつくと、すぐ西条の援護に向かった。
「そう簡単に行かせはしない!」
「そう、死に急ぐな。」
ヘルは、微笑をまた浮かべると大鎌を西条に向け振りぬいた。
西条が避けた為、鎌は西条の身そのものを切り裂くことはなかった。
しかし、鎌から派生した霊波が西条と美神を巻き込んで後方に吹き飛ばした。
とっさにシロとタマモが二人を受け止めたので、たいしたダメージは負っていない。
「では、また会おう。生きて出られればの話だがな。」
そういうと、ヘルは一瞬にして眼前から消え去った。
「あのアマ〜手加減なんて、むかつくことしてくれるじゃない。」
「っく、まるで歯が立たないとはね。」
美神と西条がよろよろと立ち上がる。
そのとき、ヘル程ではないがある程度強い霊波が流れてきた。
「……どうやら、新しいのがいるみたいでござる。」
「ヘルと比べると見劣りするが……十分厄介な相手のようだ。」
「だいたい、メドーサと同レベルってところかしら。」
一同が、あたりに漏れて来る霊波を感じ取っていると、
一同の死角になるあたりのところから一匹の犬が現れた。
そう、大きさは大体、西条の二倍程度の大きさだろう。
「……美神さん。どうするんですか?」
「そりゃあ、迎え撃つしかないでしょう?」
慌てふためくおキヌを尻目に美神は、いたって冷静であった。
現れた犬には、四つの瞳がありそれは、美神たちを睨みつけている。
さながら、獲物を前にどれから食べようか悩んでいるようだ。
「令子ちゃん。一体どうやって……」
「番犬は番犬でも、所詮は飼い犬なのよ。」
地獄の番犬ガルムそれは、ヘルの飼い犬なのである。
ただ、飼い犬とはいっても凶悪だということには変わりはない。
美神は、精霊石をガルムに向けて投げつけた。
精霊石は、ガルムに命中し膨大な光を放ち部屋を包み込んだ。
「何をするつもりなんだ、令子ちゃん。こんなものでどうこうできる相手じゃ……」
「美神……なに?その格好……」
光が収まったとき、美神波どこかで見たような状態になっていた。
そう、横島がアシュタロスをコピーしたように、
美神は、ヘルをコピーしていた。
「ヘルをそのままコピーしたのよ。あいつには、自分のご主人様同然ってわけ。」
「こんなことで、誤魔化し切れるんでござるか?」
シロの感想は、もっともだった。
匂い・霊波の波長・格好は同じでも顔だけは違うのだから。
ガルムにも顔の判別ぐらいできるのであろうから。
「フードを被れば瓜二つだからね。しばらくは気がつかないはずよ。」
「しばらくは……でござるか。」
美神は、フードを被るとガルムに近寄っていった。
いつ襲い掛かって来ても対応できるようにできるだけ慎重に……
相手に悟られたら一貫の終わりなのだから。
「グルルルルル……」
「ガルム。いらっしゃい……」
声に霊波を織り交ぜてガルムへと叩きつける。
一種の暗示がけだ、ガルムは多少訝しそうな表情をしつつもゆっくりと美神の元へと歩き出した。
「………」
美神を除くほかの一同は、どうなるか息を呑んで美神の動向を見守った。
ガルムは、美神の近くまで行くと美神の匂いを嗅ごうと顔を下ろした。
すると美神は、ガルムの顔に両手をかけるといきなり最大出力で霊的急所へと攻撃を叩き込んだ。
「西条さん!シロ、タマモ!とどめを!!!!」
美神の号令に三人は、飛び出した。(美神は、なぜかガルムから飛び離れる)
美神の全力攻撃にひるんだガルムをまずタマモの狐火が包み込む。
そして次に、霊的急所へと西条とシロの二人の最大出力の攻撃が直撃する。
霊的急所に、攻撃を立て続けに喰らってしまったガルムは、
力なく横たわり、何もなかったかのように霧散した。
「ふぅ、何とかなったか。令子ちゃんのおかげだ。」
西条が、安堵の表情とともに美神に、声をかけた。
美神は、いつの間にやらコピーをといており脱力したように壁にもたれかかっていた。
「美神さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ、一応は。でも、ちょっと動くのは……ムリッ!?」
美神は、おキヌの問いかけに何とか堪えたが。
以前、小竜姫より貸してもらった竜神の装備を酷使したあとのような症状を出していた。
仕方なく、西条に背負われてビルを降りて車に乗り込んだ五人。
「横島君の時は、こんな症状が出なかったのに一体どうして。」
「た……多分、使った文珠の質が悪かったのかも…」
美神が、極度の筋肉痛(?)を堪えながら西条に返した。
それを聞いたおキヌは、さらに質問をした。
「文珠に質の違いなんてあるんですか?」
「文珠は、霊力の塊だから……放置しておくとどんどん劣化していくの。」
美神は、なおもおキヌの質問に、答える。
極力、体を動かさないように気をつけながら。
「ということは、美神殿は、先生の文珠を……」
「悪い!?アレのおかげで助かったでショッ!?」
語勢を荒げたため、美神は悶絶した。
シロは、苦笑いを浮かべて美神を気の毒そうに見た。
タマモは、あきれたような顔をして溜息をひとつ。
と、そんな時西条の携帯電話が鳴った。
「おキヌちゃん。出てくれるかい?」
「あ、わかりました。」
西条は、一瞬自分が出ようとしたが運転中ということでおキヌに携帯電話を渡した。
おキヌは、携帯電話を受け取ると早速、電話にでた。
すると、その電話から喋るのも一苦労といわんばかりの声が聞こえてきた。
『よ……横島君が、敵に攫われたわ。』
「え゛ッ!?」
突然の一言におキヌは、驚きの声を上げる。
それに気がついた西条は、どんな内容なのかおキヌに尋ねた。
「よ、横島さんが、敵に攫われたそーです。」
そのおキヌの言葉に、車は急ブレーキを踏んでとまった。
そして、他の四人はおキヌの顔を見て
「何でだって!?」
「何ですって!?」
「本当でござるか!?」
「ほんと?」
一同は、一斉に口をそろえて同じことをおキヌに聞いた。
すると、やはり力んでしまった美神がまた悶絶した。
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あとがき
どうも、ようやく第五話までこれました。
あと、何話続くのかまだわかりませんが最後までよろしくお願いします。
では、また!
今までの
コメント:
- 展開そのものは、表層しか知らない北欧神話が濃度を濃くしていくので、知識欲を満足させてくれるという期待込みで賛成です。
でも、文章の使い方にちょっと気になったことがあったのですが……裏の事情や心理描写を『()』で括っている部分が余計かな、という印象を持ってしまいました。
例えば、美神の号令に三人は、飛び出した。(美神は、なぜかガルムから飛び離れる)
>を、
美神の号令に三人は、飛び出した。『だが、』美神は、なぜかガルムから飛び離れる。
のように、一言付け加えるだけで描写面は格段に見やすくなると思いますよ。以上、参考までに……。 (すがたけ)
- すいません、賛成にチェック入れてませんでした。
こっちで入れておきます (すがたけ)
- ども、すがたけさんコメントありがとうございます。
文章云々に関しましては、次から善処したいと思います。
まだ、至らないところがあると思いますがよろしくお願いしますw
では、また次回にて。 (アハト)
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