せめたりぃ
投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/17)
「ねぇ、美神さん。魔族のお墓って、どうしてるんスかね?」
「はぁ?」
事務所に来るなりいつになく、そしてガラにもなく陰のある表情で俯き、考えていた横島が唐突にそんな事を言った。
似合わない事してるんじゃない!とイラつき、なおかつ心配しながら……美神はその2つの感情のギャップと、好意を持っている人物の様子がおかしいことでの不安とそれを無意識で封印する自己欺瞞で、わけも解らずイライラしていた。
そこへ持ってきてこれである。
意表を付かれた事で多少はイラつきが軽減された物の、美神の怒りの噴出口はターゲット・ロックオン。まずはレーダーサイトで照準あわせ、とばかりに何を考えているのかを逆に聞き返す。
「魔族のお墓って…何考えてんのよ?そもそも、お墓ってのは神族の方の担当でしょ?」
各種宗教の様式に従って、葬式なり墓なりは作られる。そこから考えれば、美神の言は正論。
「ええ、そこは俺も考えたんスよ。だから、魔族はどーしてるのかなって思いまして」
「どーしてるかって…そりゃ…お墓なんかないんじゃない?弔う魔族とか墓参りする魔族なんて、いな……そーそーいないでしょうし」
自分の知り合いを思い出し、少し言い換える美神。怒りゲージもまた少しクールダウン。
「パピリオあたりなら、俺らの墓参りとかしてくれそーですよね。100年後とかに」
「私は自分が死んだ後のことなんてどーでもいいわよ。それより何で急にそんな事言い出したの?」
「ん……いや、ちょっと…」
「なによ」
私にも言えない事なのか?と美神のイラつきが少し復活する。
まだ精神的に子供の部分が所々残っている彼女は、自分のモノが思い通りにならないのは嫌いなのだ。
まー、好きな人に隠し事をされて拗ねる女の子、とゆー側面も無いではないが、そのあたりはやはり無意識下で封印されて、自分ですら気付けずに消えるのだが。
しかしそうして上がったイラつきも、横島の次の一言で一気に沈下する。
「…………ルシオラの…お墓って、そーいや無かったな、と思いまして…」
「…あ…」
横島、魔族の墓、というキーワードですぐ思いついてしかるべきだったというのに、気付けなかった自分に内心舌打ちする美神。
あの一件は美神が横島に珍しく作った借りだ。それも特大の。
横島や誰かが口に出してそう言ったわけでも態度で示したわけわけでもないし、今後もそうだろう。だが、美神自身はそう思っていた。
「俺にとっちゃ、東京タワーがそんな感じになってましたけど、やっぱりちゃんとした形であった方がいいかな〜っとか思いまして」
あえておちゃらけた態度でそう言う横島。
それを見て、美神は思った。
よし、殴ろう。
「丁稚の分際で、無理してんじゃないっ!!」
思いついたら即実行。見事な弧を描いて、右フックが横島のこめかみに炸裂する。
「な、なにするんスか!!」
だが横島もさる者。まともにくらって吹き飛ぶも、即座に復活して文句を言う。
それに返って来たのは、火が付いたような美神の叫び。
「ええい、黙れ!辛いなら辛いって言えばいーでしょーがっ!!あんたバカなんでしょ!?バカなのに、無理して、笑って……横島のクセに!横島のクセにそんな笑い方すんじゃないわよ!!!」
「じゃあ他にどーしろって言うんだよ!?どいつもこいつも、ルシオラの名前を出しただけで、悲しそうな顔をする!こっちに悪いみたいな顔をしやがる!……俺がふざけて話しを軽くしないで、どーやってアイツの話を続けろって言うんスかっ!!?」
「そのままでいいじゃない!!別に何も取り繕わないでいいの!辛いなら、悲しいなら!泣いたっていいの!!無理に笑うなって言ってるでしょうが、このバカッ!!」
売り言葉に買い言葉。キレた横島に同じくキレた美神は激しく言葉を交わす。そこには虚飾も嘘もなく、普段隠していた本音がさらけ出されてぶつかる。
「バカッ!!バカッ!!大バカっ!!」
「な、なんでそんなにバカバカ言われなきゃいけないんス、か…!?」
美神の目に光る物を見つけて、横島は驚き、いっぺんに我に帰った。
「な、泣いてるんスか?美神さん…な、なんで?」
「う、うるさいっ!あんたがあんまりバカだからよ!」
顔を横島から隠して涙をぬぐいながらそう言う美神に、横島は素直に謝った。こういう場合、事情がどうあろうと、男は弱い。
「あ、あ〜……その…スンマセン…」
「わ、解ればいいのよ……その…私が作ってあげるわよ」
「へ?何をですか?」
「決まってるでしょ!お墓よ!ルシオラのお墓、私が建てたげるって言ってんの!」
「い、いいんですか!?」
唐突に飛び出した思いがけない提案に驚く横島。まぁ、美神が金を出す、という点でも驚いているのだがそれはさて置き。
「考えてみれば、彼女は私にとっても命の恩人だしね。ま、それくらい大した事じゃないわよ」
「ありがとうございます美神さん!この感謝の気持ちを是非カラダでー!!」
「だから、それをやめいと言うとるんじゃー!!」
そしてシリアスな話はこれでおしまい、とばかりにいつものノリに戻る2人。
飛び掛かる横島と、迎撃して打ち落とす美神。
この2人の関係は、これが自然なのだろう。きっと。
めでたしめでたし。
なお。
この後しばらくして、東京タワーの近くに小さなピラミッドが建ったそうな。
アシュタロスが神だった頃の宗教に合わせて、そーなったらしい。
………………なお。ピラミッドだけに、とある女性の財産がこっそり内部に蓄えられていたりするのは………………
………………………………誰にも知られないほうが良い事なのだろう。きっと。
今までの
コメント:
- まったく、素直じゃないんだから(にやり)。
でも、他人のお墓を結局自分の財産の貯蔵庫にしてるとは――税務署に届けた方がいいか……なっ?!(霊体ボウガンによる狙撃)
スイマセン、マジいい気になってました……『好奇心は猫をも殺す』『口は災いの元』とはよく言ったもんだ(蘇生)。
ま、オチはアレだけど、これを切っ掛けに痛手を負った横島が立ち直る……的な未来が見えて、良かったです。 (すがたけ)
- 美神はあんま好きじゃないんですが、こういう展開も悪くないですねぇ...
オチがあるのがらしくて良いです^^b (Sig.)
- ピラミッドってねぇ(汗)
いくらなんでもこれはやり過ぎ・・・・
しかもルシオラの墓なのにアシュタロスが神だった頃の宗教
は意味ないんじゃ (ミネルヴァ)
- おお!まさに東京砂漠(違うって)。
隠された財宝とかファラオの呪いとかで六道家のお父さんを思い出したりして。
パピリオの墓参り云々では、この二人は死んだら神魔界から勧誘がきそうだな〜とか思ったりも。死ぬと神格化する素質ばつぐんですしねえ。 (九尾)
- 感極まって、ついつい本音トーク全開になってしまった美神と横島にグッときました。
でもやっぱり、2人はウジウジしたりしないでいつものよーにしてるのが一番ですよね。
で、実はこっそりとピラミッドにお宝を隠蔽する美神…さすがだと思いました(笑) (ちくわぶ)
- いいなあ これぞGS美神の王道ですね
最近の新人さんは美神嫌いが多いようですがこういう話を読むとほっとします
さすがMAGIふぁさんですね感服しました (虻汁)
- 最近の考古学ではピラミッドはお墓じゃなくて祭事というか再生の儀式のものだといわれているのだが・・・・・・ (BCG)
- >すがたけさん
娘として、半ば以上別人として扱うならルシオラのお墓を作るってのはいいと思うんですよね。娘の前世の『ルシオラ』は死んだというのを認めるって事ですから。実際娘として扱うんなら、そーしないといけないかなー。と思います。
>Sig,さん
オチは…私がつけずにいられなかったというかw
>ミネルヴァさん
作中でも触れましたが、お墓の形式は宗教の形式。キーやん方式ってのも魔族で、しかも喧嘩売ってた側にいたんでアレですし、悪魔風の不気味な墓とかは作ってどうする、とゆー感じ。
生みの親のアシュタロスが神だった頃、エジプト辺りで祭られてたんでピラミッド、としたんです。ま、こー考えた場合の回答の一つにはなりえるかと。
そして財宝を隠すとゆーオチに繋がりやすいと言う裏事情もw (MAGIふぁ)
- >九尾さん
かなりの情報公開されないと、美神はともかく横島はどーかな、と思わないでもないです。GSとしてかなりのキャリアで勲章で実績だと思うんですが、伏せられてかなりGSとしては損してますな、横島。
>ちくわぶさん
このくらいの本音はぶつけ合える仲だと思います。この2人、なんだかんだ言って付き合い長いですし。
>虻汁さん
美神、けっこー叩くポイント多いですからなー。
シリアスにすると叩きたくなるというか、横島主役にするのに邪魔と言うかw
原作の味わいには美神の味も必然だと思います。
>BCGさん
最新ですか?それ。死者の書という復活の方法の手引書やら、内臓入ったツボやら、ミイラという死体保存法やらからして、何十年も前からの定説だと思いますが。
エジプトの人々は死者の復活を信じていて、王は正式な極上の手順でその方法を実践できた、という事でしょう。ミイラ化するだけなら、庶民もやってたようですし。
ですが他の宗教の解釈からして、死体安置所=お墓となりますので、便宜上そう呼んでるだけです。一般的なイメージもそちら(お墓)でしょうしねー。
というわけで、ピラミッドを使用しました。財宝入れられるしw OK? (MAGIふぁ)
- とゆーか、最近の学説だったら、ピラミッドは雇用対策の公共事業って説があります。
あと諸外国に対する国力のハッタリ。あと、歴代の王様のミエ。偉大な王は偉大なピラミッド作るもんだ、とゆーことで、じゃあ俺はこんなんつくるぞー。と。 (MAGIふぁ)
- 金字塔よりジッグラトがお勧め(挨拶)。
でも、金字塔なんて「盗掘して」と言っているよーなもんだし、第一莫大な総工費用で肝心の中身(財産)が無くならない
程度、できれば節税対策の範囲に治まる程度の規模で……あ、いざとなれば「一連の騒動で傷ついた人たちの為の記念碑を」
とか言ってごっそり集めれば(ドクロ)。
ま、それはそうと『エピローグ・長いお別れ』で小竜姫は、
>『別の魂でおぎなえばそれは転生ではなくまったくの
> 別人よ。』
と言ってます。また忠夫も、
>「死に別れとゆーか……生き別れとゆーか……!」
と言ってますので、ここで言われている転生には単なる「うまれかわり」という他に「よみがえり」という意味合いをも含んでいるのでは、と想います。
となると、忠夫がルシオラの死を通常の感覚での「死」として受け止めていたかどうか、考える余地は在りますね。しかも転生先はすぐ自分の娘なのですから、なおさらです。
なお、その昔『デッド・ゾーン!!』でヒャクメが
>『ま、たしかに生まれ変わった以上、全くの別人には
> 違いないけどね――』
などと吐かしていたのは忘れよう。あくまで主観の問題で。
ちくわぶさんの『ふたつの幸せ』と併せて読むと、ルシオラの「死」に対する視座の違いがおもしろいですね。では。 (Iholi@長っ)
- ルシオラに「お墓」をと言う二人の死生観については、どうだったろうかな・・・それもありかなとか、改めて考えさせられる感じもあります。
死生観云々よりは、気持ちの整理のつけ方にも思えますし。
だけど、美神さんの横島君への感情の移り変わりが、いじらしさと言うか、やはり可愛らしいですね。気持ちを吐き出し合って通じ合う熱さが心地よくも思えて。
そして最後のオチ、ここが実に美神さんらしいと・・・あの辺の景色にピラミッドを加えると凄まじく頭悪そうな景観が浮かんで(「ど〜ん!」って擬音が付く様な)それだけで笑えます。
おまけにその中に財産・・・あれ? ルシオラが泣いてる様に見えるよ、何でだろう(笑) (フル・サークル)
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