ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い46


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/14)

ゴガンッ!!

凄まじい音を響かせて、砕破の左掌底が雪之丞の顎を打ち抜いた。
いくら魔装術で体を覆い、身体能力等を向上させても脳を揺らされてはたまらない。
たちまちのうちに脳震盪を起こし、体がふらつく。

そんな彼を追撃に出た砕破の左回し蹴りが襲った。

バギイ!!
「カハ・・・・・・」
十字受けでガードするが、体を支えきれず、地面に叩きつけられる。


「く・・・・」と思わず歯噛みし、それでも目を閉じずに前を見据える雪之丞の視界に飛び込んでくる影。それは―――――――
「陰念・・・・お前・・・・・」
驚きと懐かしさが入り混じった声が思わず上がる。
他ならぬ雪之丞の元同門であり、今は魔獣に再び変えられてしまった男。陰念であった。

「貴様・・・・・・・」
従順だった筈の手下の造反に対して苦々しげに呟く砕破。

「ギュイイイイ・・・・・」
未だ脳震盪の影響で、足元が定まらぬ雪之丞を心配げに見やる魔獣、いや陰念。その目には僅かにだが、理性の光が戻っているように見えるのは気のせいか。


「陰念!! 裏切る気か!?」
砕破が声を荒げて、恫喝する。だが、陰念は首を縦に振り、砕破の命令をハッキリと拒絶した。

「ふむ・・・・昔の仲間がやられたことで、理性を取り戻しつつあるようじゃのう・・・・」
顎に手をやり、考え込むポーズでいつの間にか彼らの近くに来ていたカオスが、己の推論を口にする。

「カオス!?」
「何をやっとるんじゃ。お前さんの元お仲間も頑張っとんじゃるんじゃぞ、根性見せんかい!!」

カオスの言葉にハッとなる雪之丞。
(そうだ・・・・これは俺の喧嘩、俺の戦いだった・・・・・こんな体たらくじゃ弓やあの世のママに合わせる顔がねえ!!)

まして、自分が戦っているのは同じ人間。かつて、初対面の某パピヨンに殺されかけたことに比べたら、ずっと楽な相手のはず。戦って勝てないことは無いのだ。


「すまねえ・・・・気が抜けていたぜ。覚悟しやがれ、てめえ!!」
必死で抗う陰念の姿、さらにカオスの激励などに後押しされ、雪之丞は砕破を鋭く見据えながら立ち上がると、雄雄しく吼えた。




一方――――――
「く・・・・・このままでは負けるか・・・・」
「ちょっと、ジリ貧になって来たよ・・・・!!」
アンドラスの奇襲攻撃にネビロス&メドーサは守勢を余儀なくされていた。
未だにクリーンヒットは許していないものの、暗闇から迫る無音の刃は鋭く、徐々に傷を増やしていく。このままいけば、出血と疲労によって意識が朦朧とした所で直撃を貰うだろう。


(闇から引きずり出せば、こちらに勝機が見えて来るんだが・・・・・)
無論、生半可な手段で、アンドラスはそんな隙を見せはすまい。
かといって、戦いを放棄して、原始風水盤を探すほうを優先するにしても、この男に背中を見せるのは危険すぎる。

「ネビロス・さん・大丈夫ですか?」
「まあ、今の所は大丈夫だが・・・・・」

(魔族の自分達を助けに来たのが聖母の名を冠した自動人形とは・・・・・)
側に駆け寄るマリアの顔を診ながら、ネビロスは自らの考えに思わず苦笑した。

(うん待てよ・・・・・確か、アンドラスは自分の周辺の音を消すことが出来るんだったな・・・・・)

『相手の位置を音に頼って、探る必要は無いのでは?
もし、奴を闇から引きずり出すか、または奴の隠れる場所を無くせるとしたら・・・・・
今、頭に浮かんだ言葉の中に対抗手段のヒントがある?』

考え込むネビロスにマリアが声をかける。
「ネビロス・さん・ドクター・カオスから・伝言です」
そう言って、援護に駆けつけたマリアが手渡した一枚の紙。
その紙に隠されていたのは今、自分が考えていた対抗策を実現させてくれる方法。

「流石は腐ってもヨーロッパの魔王といったところか・・・・・」
カオスの頭脳の鋭さとその発想の奇抜さ、ついでにその無茶苦茶ぶりに感心してばかりも居られない。ネビロスは小声でメドーサとマリアにカオスの作戦について指示する。
彼女達が頷いたのを確認し、彼はアンドラスが潜んでいるであろう暗闇を見据えた。



『何を考えているのかは知らんが、どんなことをしても無駄だぞ』
闇の中から『不和侯爵』アンドラスの声が響く。感情の薄い声だが、その調子から言って、自らの優位を確信しているのは明らかだった。


そして、アンドラスの徒でさえ薄い気配が完全に無になる。

それとほぼ同時に・・・・・・・

「マリア!! 全重火器類及び兵装類のリミッター解除!!」
「イエス・コマンダー・ネビロス!!」
次の瞬間、マリアの体の各部から銃口が現れると、それら全てが前方の闇−敵が潜んでいるであろう場所に向けられ、一斉に火を噴いた。加えて、火炎放射器やエルボー・バズーカ。止めとばかりに小型対空ミサイルバルカンが続く。


ドガ――――――ン!!!  バリバリバリ!!!
バキ―――――――!!! ゴオオオオ――――!!!
ボガ―――――――ン!!! ドカンドカン!!!
ドガガガガガガ・・・・・!!! 

『な、何だ? これは!?』
流石に驚愕の声を上げるアンドラス。闇の中に潜んでいようと、その闇の全体を範囲とする無差別攻撃では意味は無い。
そんな彼の様子にお構いなく、さらに銃撃や爆撃は激しさを増していく。


おまけに、マリアのサーチライトや火炎放射器の炎などによって、影は掻き消され、隠れる場所さえも見つからない。山の木々に燃え移らないのが不思議なくらいだ。

過去、メドーサもそうだったが、彼ら魔族は大体ロボットや重火器類の攻撃には不慣れなのだ。たとえ、受けるダメージは少なくとも未知の攻撃に驚くのは彼らとて同じ。

おまけにマリアはボケが直ったカオスに重火器類の面で強化改造されていた。
カオス曰く「米軍一個大隊とも渡り合える」とのことだったが・・・・・・
今の攻撃を見る限り、それもあながち嘘では無いかもしれない。

もっとも、そのおかげで出入国する際、一悶着あったが此処では些細なことなので省くことにする。

とにかく、こんな物凄い燻りだしにかけられた相手はたまったモノではない。こちらの命の保証が無くなったり、とんでもなく音が五月蝿いのが困り物だが。

この時点で、薬の中毒者数十名はネビロスの配下『死霊大隊』の死霊達によって、離れた場所に運ばれていた。ちなみに彼らは余りの銃撃の轟音の前にノックダウンしており、移動は実にスムーズだった。(ネビロス達はカオス特製耳栓使用)

隠れる場所が無くなり、銃弾の雨や火炎をチクチクと浴びせられるなどして、アンドラスはついに暗闇から引きずり出された。

そして、メドーサやネビロスの目はその姿をはっきりと捉えていた。

「メドーサ!!」
「わかってるよ!!」
ネビロスに言われるまでも無く、メドーサは刺叉を前に突き出した状態で超加速に入り、アンドラスに向けて突進した。

ドズゥ!!
「ぐ・・・・・!!」

刺叉はアンドラスの右手に深々と突き刺さり、一瞬の後、刺叉を引っつかんだメドーサは超加速を維持したまま素早く離脱した。

「喰らえ!!」
さらにメドーサに続いて、斬りかかったネビロスの大鎌が、アンドラスの右肩を鋭く薙ぐ。

ザスッ!!
「グゥッ!!・・・・・」
二度の鋭い攻撃に、アンドラスの体がぐらついた。



「手応えあったぜ、どうだ。アンドラス」
愛用の武器片手にネビロスは手負いの敵に向かって、鋭く声を投げかけた。


「くくく・・・・いや、見事だ。そちらの力を甘く見過ぎたな・・・・・」
アンドラスは不可解な笑みを顔に貼り付けながら、自らの失態を認めた。

見れば、彼の右手や右肩からは今なお、かなりの血が傷口から染み出して来ている。

「取り合えず一矢報いたわけだが、どの道、それじゃあ当分、刀は握れないだろう。戦力半減だな」

「は・・・・ほざけ。私は確かに傷を負ったが、お前達にとって、本当の悪夢はこれからだ」

「原始風水盤か?」

「その通りだ。ククク・・・・原始風水盤の上に置かれた火角結界の作動まで、あと300秒ほどかな。アジア経済は終わりだな・・・・」

敵対する者達の焦燥の表情を楽しむかのように、手負いの侯爵は嘲りの声を上げた。




火角結界の起爆まで、あと300秒。

つまり、アジアの命運が決まるまであと五分――――――

余りにも無情なカウントダウンが始まった。



後書き マリア大活躍。 一矢報いたわけですが、まだピンチは終わりません。
火角結界の起爆を止められるか!? また長くなってしまいましたが、次回で上海編決着です。

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