横島忠夫奮闘記 77〜女王の真意〜
投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 4/11)
朝目が覚めた時、咄嗟に自分がどこにいるのか解らなかった。どうやら天蓋付きの豪奢な
寝台らしい。昨晩の途中から記憶がハッキリとしない。途中から全員入り乱れての酒宴となり、
ルシオラの事が話題に出た事までは覚えている。それに関してリリスが異論を挿み…
そして彼女の漆黒の瞳が金色に妖しく輝いた辺りから記憶が無い。
寝台の上で半身を起こすと何も身に付けていなかった。念の為下半身に手をやると、やはり
何も着ていない。所謂一糸纏わぬ全裸というヤツである。因みに普段全裸で寝る習慣など無い。
どれ程記憶を遡っても服を脱いだ記憶など浮かび上がって来ない。
となると誰か自分以外の者の手で脱がされたという事になる。
昨夜の酒が残っているのか、微かに痛む頭を左右に振りながら考え込んでいると
視界の片隅に黒い物が入って来た。誰かの頭のようだ。
恐る恐る毛布を持ち上げてみると、そこに横たわっていたのは、
横島忠夫だった。そして彼も、彼女、ワルキューレ同様一糸纏わぬ姿である。
昨晩、横島が突然意識を失ったのを見て、慌ててリリスの方に向き直った瞬間に金色に輝く
“魅了眼”を直視してしまったのだ。淫魔や夢魔が持つ魅了の力、その眷属達の長たるリリスの
持つ邪眼の一つ、魅了眼。不意打ちで直視してしまったのであれば、如何なワルキューレといえど
ひとたまりも無い。だがそれぞれリリスに堕とされた二人だけが寝台で寝ていた理由が解らない。
その時、毛布を剥がされた事による体感温度の変化を感じ取りでもしたのか横島が身じろぎをした。
彼女は慌ててもう一度毛布を被せたが、どうやら既に眠りの園からの帰還を果たしたようで
ゆっくりと起き出した。寝惚け眼をこすりながら周囲の状況を確認するかのように視線を彷徨わせている。
と、その眼がワルキューレのものとハタと合った。段々と眼の焦点が合ってくると彼女の現状、
上半身のみ起こしており裸、を認識したらしく面白いくらいの勢いで顔色が変わって行く。
「♂※♀〓!?#$@〆仝∞±≦≠⇔!!!???」
「落ち着けぃっ!」
ズビシッ!
ワルキューレの渾身の手刀が錯乱しきった横島の脳天を直撃する。
いったいどこの言語やら解らない言葉で叫び出している。どうやらこの反応を見る限り
横島にとってもこの現状は予想外のものらしい事が彼女にも見て取れる。
となると、ここにいない三人目が仕掛け人という事になる。
「おお、二人共目が覚めたかや?」
そう声を掛けながら現れたのは、どうやらシャワーの後らしくバスタオル一枚だけを
巻き付けて上気した姿のリリス。ほんのりと桜色に染まった肌が悩ましい事この上無い。
殴られた頭を抱えながら混乱の極みにあった横島でさえ、その艶姿には見惚れている。
「まあ落ち着くが良い、何か飲むか?」
そう言って指をパチリと鳴らすと飲み物を満載したワゴンがどこからともなく現れた。
リリス自身はアイスペールに突っ込んであったボトルを取り出すとシャンパングラスについで
その美しい黄金色の液体を気泡ごと一息に飲み干している。
「水くれ」
「私も同じ物をお願いします」
二日酔いも手伝い、取り敢えずは頭を冷やすのが優先とばかりに冷たい水を所望する二人。
だが手渡された水を飲んだところで現状が変化する訳でも無く、相変わらずパニック状態だった。
片方は軽度の、もう片方は重度の。
「リリス様、この現状のご説明をお願いします」
未だ混迷の極みにある横島の復活を待つのももどかしく、ワルキューレが性急に問い掛ける。
昨夜から現在に至るまでの情勢が全く把握出来ていない以上、情報の収集が最優先事項だ。
冷静に、取り乱す事無く、常に落ち着きをもって。それこそが戦士の心得。
「説明と言われてものう、要するにそこの青二才の言動が鼻についただけじゃ」
「は?」
いきなりそんな事を言われても到底納得出来るようなものではないが、リリスの説明はまだ続く。
ようするに“一生分の恋愛をした”などとホザく横島が、いったいどれ程“女”の事を解っているのか試したとの事。
その結果“行為”に関しては完全な未経験、それでは半分も知っているとは言えない。
「それとも精神のみの結びつきが高尚だとでも言うつもりかや?」
「悪いのか?」
不貞腐れたような横島の問いに対しての答は、悪い、の一言のみ。
確かにそういう例も無いでは無いが、それは極めて稀有の事。例えばどちらか、あるいは双方の
身体的な理由によって性行為が営めない場合。それ以外で健康な肉体を有した男女の場合は絶対に避けては通れぬ道。
肉体と精神は切っても切れぬ間柄、その双方での深い結びつきこそが男女間の理想の境地。
「そんな事も知らぬ馬鹿者が、“最高の女”じゃと? 笑わせてくれるわ」
「おい、ルシオラを侮辱するつもりなら…」
許さない、とでも続けるつもりなのだろうがリリスにそのような意図など無い。
「勘違いするな未熟者が、妾はお主の馬鹿さ加減を指摘しておるのじゃ。
お主自身がルシオラの価値を下げておるとな!」
「っ!!」
横島にとっては一番の衝撃、今迄ルシオラに再び巡り会えた時に胸を張って会えるように、と
その事を念頭において頑張って来たつもりだった処へのこの言葉は深甚なショックを与えた。
「“横島忠夫”を射止めた女は唯ルシオラのみ、と言われる程の男にお主はならねばならぬ。
それがアシュの娘への手向けにもなろう」
「アシュタロスとは親しかったんか?」
リリスの発言が誰よりもルシオラの事を気遣っているような印象を受けて思わず横島が問い掛ける。
直接の面識は無いはずなので、可能性としてはアシュタロスとの縁があった事ぐらいしか考えつかない。
「まあそれなりにな。ヤツはあれで本望であろうよ、滅びをこそ望んだのじゃからな。
じゃがその為だけに生み出された娘達はそうもいかぬであろう?」
「何でそこまで肩入れしてくれるんだ?」
アシュタロスの生み出した眷属にリリスが肩入れする理由に見当もつかない以上は直接聞くのが手っ取り早い。
「妾が“女”じゃからに決まっておろう」
返って来たのは実にシンプルな答。もしもアシュタロスの生み出した眷属が男だったら全く
同情などしなかっただろうと思う横島には今ひとつ解らない感覚だった。男女の違いというやつだろうか。
「そもそもお互いの命を躊躇い無く投げ出せ合えるような二人が“何故”最後まで行っておらんのじゃ?」
リリスにとっては素朴な疑問で、その程度の“浅い”繋がりで命を投げ出すというのはあまり無い。
ルシオラに関しては生まれ出てからの時間が短い未成熟さ故、と考える事も出来るが横島に関しては
それは無い。聞き集めた限りでは高潔とは言い難い性格の持ち主だった彼が何故そこまで出来たのか。
脆弱な存在たる者はその弱さ故に、自己の延命を第一に考えるというのがリリスの知る“人間”だ。
極稀に我が身を省みず他者の為に尽くす高徳の士もいるが、少なくとも横島はそうではない。
「いや、だって…出会ってから別れる迄が短かったし…」
「本気で言うておるのか? そのようなもの一晩あれば充分であろう?」
苦し紛れの韜晦をしようとする横島の言い訳をリリスの言葉が一蹴する。
その程度の言い逃れで夜魔の女王を誤魔化すなど出来る訳も無い。
「いや、その、『空気を読め』って言われてなかなかそこまでは…」
結局正直に話すしかなかった。
「大方“相手との結び付きを深める”為でなく“己の欲望の為だけ”というのを見透かされたのであろうよ」
グウの音も出ない言われようだった。ヤルのヤラないのといった己の欲望を優先させて
彼女の気持ちをキチンと思い遣ってやれなかった自分をどれだけ責めたか解らない彼なのだ。
「お主が相手の気持ちを思い遣れずにガッついたのは“何故”じゃ? 経験不足故であろう?」
言われてみれば全くその通りで反論のしようも無い。彼がもっとゆとりを持って
ルシオラに接する事が出来ていれば自ずと違う経過を辿ったはずなのだ。
思えば初めて“彼女”が出来た事に喜び浮かれてそこまで思い至らなかった彼だった。
「今のお主は“ルシオラ”を理由に他の女を遠ざけようとしているに過ぎぬ。
誰か、お主の事を心から想う女と結ばれるお主を厭うような女なのか? ルシオラは?」
「そんな事無えよ…」
弱々しい呟きが横島の口から洩れ出る。躊躇わせるのは彼自身の子供として転生するはずの“彼女”の事。
最愛の女性を生まれ変わらせる為に他の女性を利用する、その事に激しい抵抗を感じた為
一生子供は作らずに一人で生きて行くつもりだった。別に恋愛などしなくてもそれなりに幸せに
生きて行く事は出来る、気の合う仲間や大切な“家族”がいれば、その想いの下に。
今の状態で死ねば別々の魂として輪廻の輪に入る。互いの転生先での再会を期すつもりだった。
「別に恋愛が総てって訳でも無いだろ?」
「今のお主にそれを言う資格は無い、この初心者が! これから先お主の事を慕い寄って来る
女が現れた時に自分勝手な思い込みで素気無く扱うのか? 気付かないフリをして?」
苦し紛れの逃げ口上などが通じる相手でもなく、アッサリと更に追い込まれて行く。
「俺に惚れてくれる女なんているワケ無いだろ?」
「まだ逃げるつもりか? お主の異性に対する練熟はルシオラと別れてから少しでも進歩したのかえ?
未熟なままで将来第二の“ルシオラ”を作る気か?」
痛烈な一言だった。強さのみを求め続けた挙句、女性に対する態度が成長したとはお世辞にも言えない。
仕事絡みの時であればソツ無くこなせるのであるが、プライベートの時はどうも上手く出来ない。
以前の態度が到底褒められたものではない、という自覚はあるだけに何を指針にすれば良いのか解らない。
彼の周囲の友人達もお世辞にも女性慣れしているとは言い難い為助言の求めようも無い。
唯一の例外の幼馴染からは“超鈍感”のお墨付きを貰っており、その後そういった方面の話題は出ていない。
他の知人(友人ではない)で一人だけやたらと女性のあしらいが巧そうな男がいるが
その道楽公務員に相談するのは徹底的に気が進まない。
「じゃあ俺はどうすりゃ“成長”出来るんだ?」
「それを妾が教えてやろうというのじゃ、今日より妾を師として敬い崇め奉るが良い」
途方に暮れたような声での問い掛けに対し、返って来た答は高慢で傲慢で傲岸不遜な言い様。
だが相手の立場を考えれば腹が立つ事も無い、それに内容自体は意外な事に親切極まり無い。
「リリスってもしかして凄ぇ良いヤツ?」
「ハニーと呼べと言うたであろう…うむ、そう思うのはお主の自由じゃ。人界にて思う存分広めるが良い」
「あの…リリス様、お話に関しては肯けるものでしたし我々では横島に近過ぎて言えなかった事迄
言っていただいたのは有難いのですが昨夜の事の詳しい説明もお願いしたいのです」
横島が何か在り得ない事をホザき出したので軌道を修正すべくワルキューレが口を挿む。
リリスの言った内容に関しては尤もな事も多いしワルキューレや小竜姫では言い難い事にまで
言及してくれたのはいっそ有難いのだが、肝心の現状に関する説明、即ち“何故”彼女と
横島が全裸で同じ寝台に寝ていたのかについては一切触れられてはいない。
罪悪感の持ち合わせなど一切無いであろう夜魔の女王が今更惚ける事も無いと思うのだが
他にも気になる事がある為少々気が急いていた。無論焦りは禁物というのは重々解ってはいるのだが。
「昨夜の詳しい事と言うてもな…横島の意識を抜いて“性能”を確認しただけじゃが?」
この部屋の一部を直下型地震が襲ったようだった。特に最大の激震に見舞われた男が恐る恐る口を開く。
「あの…て事はまさか…俺…ヤッちゃった?」
途切れ途切れにか細い声で投掛けられた問いに対する答は実にアッサリとしたものだった。
「うむ、正に“獣の如く”とはあの事じゃな。しかし勢いのみで技巧は皆無じゃったな」
要するに下手糞と一言の下に切って捨てられた訳だ。男にとってこれ程の衝撃があるだろうか。
行為自体に関する記憶は抜け落ちているので信憑性はリリス頼りになるのだが元より自信がある訳では無い。
だからと言ってショックを受けないという訳でも無く、奈落の底迄落ち込んで行った。
例えば男性諸氏が最もしたくない経験とは何だろうか。行為の終わった直後に退屈そうな
溜息をつかれる事だろうか。それとも総ての興味を失ったかのように隣で煙草を吸われる事だろうか。
ヒトによっては行為の真っ最中に面と向かって“下手糞”と言い放つ女性もいるだろう。
今の横島はそれら総ての複合直撃を受けたような状態でもはや生ける屍と言って良い。
「…あの…それはともかく、今のお話の中には私が此処にいる理由が無いのですが?」
抜け殻のような状態の横島を敢えて見ないようにして発した問いに対する答も又、アッサリしたものだった。
「理由とは又…愚問よな? 妾がお主を抱きたかったからに決まっておろう」
ストレートど真ん中、反論のしようや文句のつけようの無い答である。
今横島が正気を保っていればさっきまでの“良いヒトッぷり”は何処へ行った、と文句を言いそうな
返事だがリリス自身にとっては何の矛盾も無い。欲しい物があれば奪う、知りたい事があれば
調べる、その際障害があれば排除する。実に解り易いシンプルな考え方である。
強き者は欲する総ての事を為し、弱き者はその総てを甘受するしかない。魔界ではそれが常識であり
ワルキューレもそれはイヤと言う程承知している。
「普段は凛とした士官姿のお主がヨガり狂う姿をたっぷりと堪能させてもらったぞえ?」
「では私がここにいる訳はリリス様の慰み者になっただけなのですね?」
自身の力がリリスに及ぶべくも無い以上は逆らうだけ無駄な事。それに関しては流す事にして
彼女にはもう一つ気懸かりな事があった。だがどのような手法で確認すべきか妙案が浮かばない。
「お主が何を気に懸けているかは解るがの、ふむ、言葉より映像で見せた方が早いのう」
そう言うや否や両の掌を横島とワルキューレの両目に押し当てる。すると昨夜から今朝にかけて
寝台の上で繰り広げられた狂える饗宴の様子が怒涛の如く脳裏に流れ込んで来る。
ワルキューレを組み伏せたリリスの背後から横島が圧し掛かっている映像が始まりだった。
正しく“獣の如く”という言葉通り、理性など雲散霧消している。だが様々に位置を変えながら
ではあるが常に二人でリリスをサンドイッチしている。ビデオの早回しのようなものが終わると
どちらからともなくホッとしたような溜息が聞こえて来た。
「良かった…ワルキューレとはヤッてなかったんや…良かったぁ〜」
初対面だったリリスと違い、以前からの友人である彼女と正気を失った状態での行為に及んだ場合、
その翌朝の気まずさは比較にならない。それは彼女も同様で、最も気懸かりだった点がそれなのだ。
その点に関しては心底ホッとしたのだが、そうなると今度は自らの狂態を見られた気恥ずかしさが沸き起こる。
結果、照れ隠しの為に彼女の言葉の銃弾がスナイパーが放ったかの如く横島の急所に炸裂する。
「しかし横島よ…いくらなんでもアレでは早過ぎないか?」
「グハァッ!」
クリティカルヒット! 横島は9999pのダメージを受けてその場に倒れ伏した。
「それは妾でさえも遠慮した一言じゃぞ? お主何気に酷いのう…」
しみじみとしたリリスの述懐と予想以上のダメージを受けた男の姿を見て、多少の動揺はするものの
覆水は盆に返らず一度口から出た言葉を戻す術など無い。横島の回復力は良く知っているので
次へと歩を進める事にする。常に前向きな姿勢こそが彼女の信条だ。
「ではリリス様、私がここにいたのはリリス様自身の要望のみだったのですね?」
そうならばこれ以上ここにいる理由は無い。さっさとこの部屋を出て仕事に戻るつもりだった。
「まあ後は保険の意味合いもあったがの」
意外な答に目線で問い掛けるとリリスも普通に答えてくれた。
つまり人間の男が夜魔の女王の相手を務めた場合、大概の場合命ごと精を搾り尽くされて死ぬ。
流石に初の魔界訪問で三界の有名人を死なせるのはマズイのでペース配分の相方にワルキューレが選ばれた。
横島をヤリ殺さないようにワルキューレにも箸を伸ばしつつ双方を堪能したという訳だ。
酒を飲む時はツマミを食べながらの方が程好いペースを保ち易いのと同じだろう、か?
「じゃが横島の“性能”と限界領域は把握した。あと魂レベルでの現状もな」
そう言うと倒れ伏して何やらブツブツと、どうせ俺は、などと呟いている横島の傍らに座ると彼に話し掛けた。
「還って来い横島、真面目な話じゃ、“ルシオラ”に関してのな」
ルシオラの名が出た瞬間に横島の目に生色が戻り、たちまち身を起こすと真剣な表情で耳を傾ける。
それはワルキューレも同様で至って真面目にその場に対している。
「結論から言うとルシオラがお主の子供として転生する可能性は無い」
「どういう事です? 以前の調査ではその可能性は極めて高いと出たはずでは?」
無造作に放たれた一言に過敏に反応したのはワルキューレ、その件は横島一人に負債を押し付けてしまった
神魔が何とか捻り出した贖罪案。あの戦役の犠牲になった“彼女”を復活させられない現実に対する
苦し紛れの妥協案。あれで少しでも彼にカリを返せたようなつもりになれた神魔の上層部もいたのだ。
だが今、よりによって魔王の一柱の口からその可能性が完全に否定された。到底聞き流せるものではない。
横島の方を見ると、彼女にとっては意外な事に全く動じた様子も無い。
何故そこまで平然としていられるのか不思議だったが今はリリスの話の続きを聞くのが優先である。
「当時と今では状況が違い過ぎる、こやつの中では10年が経っておるのじゃ、変化もあろうよ」
「どのような変化が?」
横島はこのやり取りに参加するつもりは全く無いらしく、ひたすら無言を通している。
自然とワルキューレが疑問点を質す役目を担い会話を進めていく。
「要するに二人の魂の親和性が当初の予測より高過ぎたようじゃの。ルシオラの魂が全身全霊で
横島の魂を抱きすくめているような状態じゃ、あれでは投胎させる事も叶うまい」
投胎とは魂の無い嬰児の身体に魂を入れて転生させる方法だが、入れるべき魂が今いる場所から
離れようとしない以上はどうにもならない。“ルシオラ”に自我があればどうにでもなるのだが
魂魄の状態ではそれも叶わない。意思無き状態だからこそ最も根源的な望みに忠実なのだろう。
即ち“共に在る”事。
「それでは…二人が再会出来るのは転生後しか無いという事ですか?」
「現状ではそれも無理じゃ。今のような状態で死んでも同時代に転生する事は叶わぬ」
「どういう事だ?」
それまで無言を通していた横島が初めて口を開く。血相変えて詰め寄っていると言っても良い。
転生先で再び巡り会う事こそを支えとして生きてきたのだ。その為ならどんな事でもする覚悟はある。
「お主本来の魂が弱過ぎる、足りぬと言っても良い」
「どうすれば良い? 何か方法は無いのか? 教えてくれ、何でもするから」
先程迄の落ち込みようなど何処へやら、必死の形相で食いついている。
だがそれも当然、彼にとっては何よりも優先されるべき事なのだ、“彼女”との再会は。
「弱ければ強めれば良い、足りぬ分は増やせば良い。じゃがそれには時間が掛かる」
「…長生きしろって事か? どれくらい?」
リリスの言葉は問いに対する答ではあるが、具体的な方法ではない。
「ただ無為に生きるだけでは100年懸けても及ぶまいよ。お主はこれから数多の経験を己の血肉に変え、
魂の糧とせねばならぬ。それと不得手な部分を強化する必要があるのう、その為には性魔術を極めるが良い」
「性魔術って真言立川流みたいなやつか?」
カタカナには弱いが漢字には強い横島が自らの記憶を掘り起こす。立川流とは密教の一派であり
房中術の奥義を駆使して霊力を高める邪法である。既に滅んだとされているが、その極意は接して漏らさず、
先程ワルキューレをして“早過ぎる”と言わしめた横島とは、ある意味対極にあると言えるだろう。
「他にカバラの秘術等あるがの、概ねそのような物と思って良い。それにこれを極めれば副次的な効果もある、
お主が人間の女相手に冷静さを保てない事などまず無くなるであろうよ。少なくともガッつく事など無いからの」
女の“躯”を深く知り、女を悦ばせる事を極め尽くした上で己を律する事が出来れば不用意に
相手を傷つける事も無くなる。態度に余裕が出るというやつだ。
二度と経験不足から女性を悲しませる事も防げるだろう。
だがそれ以前にどうやって極めるかが問題なのだが。
「お主に覚悟があるのなら妾が師として高みへと導いてやろう。どうする?」
「聞くまでも無いだろう? 頼む俺を導いてくれ」
間髪を入れずの答、そこには迷いなど微塵も無い。
「ちょっと待て横島、結論を急ぐな。リリス様、その診断結果は確かなのですか?」
慌てたようにワルキューレが疑問を差し挟んでくるがリリスは一向に動じない。
「粘膜接触による体液の収集、サイコダイブまで行ったのじゃ、間違えようが無いわ」
そう言い捨てると改めて横島に向き直り最後の覚悟を問うてくる。
徐に酒瓶から中身をグラスに注ぎ、何やら丸薬のような物を入れている。
その酒こそが魔界最高の銘酒“神殺し”、文字通り神族が飲めば即死する。
「予め言うておくがこの酒は人の身にはそうでも無いが神族にとっては猛毒じゃ。一旦飲めばその後
神族の仲間入りをする事は出来ぬ。更に今は封印しておるようじゃが一度解くとその時に完全に魔族化する」
だがリリスが完全に話し終える前に横島は既にグラスを飲み干していた。
「立ち止まるつもりも後戻りするつもりも無い。俺は前へ進む、まさかこんな方向になるとは思わなかったけどな」
キッパリとそう言いきる顔には一片の惑いも無い。
進もうとしている方向が正しいかどうかはともかく、それは紛れも無く彼にとっては“前”である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
書いてて思いっきり迷走しまくりました。
こんな話は“アリ”でしょうか?
今までの
コメント:
- 初の投票です。ぽんたさんの作品はマジでおもしろいです。横島君の活躍が大好きなので感激です。性魔術ですか。これから横島がどんな経験していくかとても楽しみです。次の投稿がまちどうしいです。 (ヒロ)
- まさか本当にリリスとヤってしまうとは…。
この事を他のメンバーが知ってしまったら一体どうなることやら、修羅場が発生することは確実ですが、周りへの被害が天文学的な被害額になりそう。
あと酒と一緒に飲ませた丸薬が気になりますね!
それとアスモデウスとバアルいったい何処へ? (ドラグ)
- >「お主本来の魂が弱過ぎる、足りぬと言っても良い」
これがすごくよかったです。今の横島を最も正しく表してると思いました。
これは単に損傷してて量が少ないとか全体の割合の数値とかじゃなく、もっと根源的な意味で『魂が弱い』。
要するに横島は『安っぽい』男なわけですね。『底が浅い』と言ってもいいかと。
リリスがばっちり横島を導いてくれそうで嬉しいです。 (九尾)
- この展開は大賛成。性魔術と神殺しというキーワードで、某ゲームを連想したのは私だけ? 「ルシオラ」という言葉で自縄自縛に陥っていた横島の成長に期待です。
追伸:ぽんたさん、拙作のほうにもリリスを登場させたいと思います。黒幕の「少年」の相棒キャラってことで。 (アース)
- 食っちゃったか、リリス!
実際のところ、『サイコダイブしてルシオラの幻影被った状態で……で、正体見せて』てなのは予想してたけど、ワルキューレをツマミにしてとは思いませんでした。
10代時のあまりのシミュレーションの所為か(笑)、経験無しで悟り切った顔してた横島は兎に角、巻き添えで食われたワルキューレに合掌(なむ)。
いや、展開そのものは大ありです。 (すがたけ)
- 迷走されたとあるがこの展開大いにあり!です。すっかり忘れてた横島魔族化の話が進み始めたと私は解釈してます。
これまで横島は魔族化の進行を遅らせるために陰陽術などを使ってたわけですし、リリスとの修行?が周囲にどんな
影響を与えてくれるのか?非常に楽しみにしてます。 (レイジ)
- ぽんたさんの作品はたいがい楽しく読んでいますが、今回は特に楽しませていただきました。リリスの「そんな事も知らぬ馬鹿者が」云々は全く同意見です。往々に二次創作の横島は「ルシオラこそ最高の女」とのたまうんですが、それを見事に論破して見せたリリスとぽんたさんに拍手。あと、ワルキューレの「早過ぎ」発言にもバカ受けしました。さて魔王に師事することになった横島が今後どうなるか、期待しています。「たらし」の横島はヤダなぁ、とは思いますが、それは個人的希望という事で。 (ジン)
- おもしろかったです。ひとつ疑問なんですが、横島とルシオラがやらなかったのってやったら死ぬからじゃなかったんですか? (メスロン)
- 横島君、ルシオラ復活への第一歩と言うことですかね。
でも、完全に魔族化してもとにもどれない?
神族の老師や心を寄せている小竜姫やヒャクメははどうするんでしょうかね。
ここら辺にまた波乱がありそうな予感が・・・。
アスモデウスがかけた後でもありますし、話を持ちかけたのがリリスというのも気になります。
今後の展開が楽しみです。 (zendaman)
- 横島がついに男になった〜〜〜!!!(しかも俺より先に・・・
いや、本当にこうなるとはかけらも思ってませんでしたよ。
横島は魔族になったらどうするんだろう? (おやじの戯言)
- 初めてコメントさせていただきます。毎回の事ですが、先の展開が読めなくて楽しいです。
今回もどうなるのかと思っていたら、いきなりリリスに弟子入りするとは。
やっとこれで魔族化するんですね〜。進行を抑えたままダラダラと100年も封印状態のまま生きていくのかと思いましたが、これでスッキリしそうですね。
それに女性の扱いが上手くなりそうですね。殆どのSSでは「鈍感」「唐変木」がデフォルトになっていて飽き飽きしてましたので、先が楽しみです。期待してます。 (ハート)
- 今まであれだけこの手の路線を避けて「清純横島君」だったのは何のためだったんでしょう?今回の話だけを読むなら面白いしアリだと思いますが、70話以上かけて到達したのがエロゲ路線というのは何だかなぁ、と。
ただ、最強、ニブチン、ルシオラ神聖化と、最近のGS2次創作にありがちな3連コンボの横島像に対するアンチテーゼとしては悪くないので、中立で。 (g)
- なぁーんか違う気が・・・・・
私的には暴走横島っ感じで昔の横島そのものではありますが。
完全に身内の事忘れてるだろ!!
タマモ、小竜姫、猿神、冥子、キヌ・・・・・ (LINUS)
- コメントありがとうございます。
ヒロ様、18禁は書けないので今後少々温い展開になるかと思います。
ドラグ様、本来ならリリスとの絡みの後にアスモとバアルを書くつもりだったんですが
リリス関連で書き込み過ぎて容量が増え過ぎてしまいました。スンマセン。
九尾様、横島には今後清濁併せ呑んでもらおうかなぁ〜と思ってます。成長…するかな?
アース様、“性魔術と神殺し”って何かゲームにあるんですか? 酒に関しては実在の
鬼殺しのもじりだし、性魔術はネットで偶々見つけた単語だったんですが…
すがたけ様、横島がセクハラ被害者というのもワルキューレが横島以外の被害にあうのも
珍しいかなと思いまして…
レイジ様、周囲への影響か〜あんまり考えて無かったな〜 (ぽんた)
- 続きです。
ジン様、横島は「たらし」にはなりません、ってかなれませんのでご安心を。
メスロン様、コスモプロセッサ発動以前に10コマンドって解除されてませんでした?
zendaman様、この後横島の属性は魔に傾きます。それに対する態度で神族師匠の器量が解ります。
おやじの戯言様、横島にはセックスの達人になってもらおうかな〜、え? 駄目?
ハート様、女心に通じた横島ってのはどうでしょう? 変ですかね? (ぽんた)
- 更に続きです。
g様、エロゲ路線には移行しません。と言うか無理です。色事の達人というのも
単なるスペックの一つです。
LINUS様、今は身内の事は忘れてもらってます。ルシオラ関連以外の比重の違いという事で。
後になってさんざん悩んでもらいましょうかね? (ぽんた)
- すいません。
上のレスですが、アスモデウス>アシュタロスの間違いでした。
本当に申し訳ないっす。 (zendamasn)
- 展開に対しては保留、このあとの展開で決めたいと思います。
・・・人間界に戻ったとき、横島が魔族化した事実を神界サイドが知ったとき、魔界に対してどう動くか、神界の強硬派路線の追い風、最悪ハルマゲドンの引き金になりかねない横島の愚行を作中でどう弁護(フォロー)し、神界の魔界の対する過激な動きを収めるのか楽しみです。 (おいっさ)
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