ザ・グレート・展開予測ショー

しりとり


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/24)


「あ〜あ、降ってきちゃったな〜」

 微妙な空模様だった曇り空から降ってくる、俺にとっては恵みの雨への隠し切れない感謝を滲ませた声でそう言った。
 それが相手にも伝わったんだろう。

「む〜〜……先生は拙者とサンポに行けなくなっても、残念ではないのでござるか?」

 横目で俺を睨みながら、そう言ってきた。どうやら拗ねさせてしまったらしい。
 出かける前や出かけてすぐ雨が降った時は、このまま事務所に行くまで部屋でゴロゴロするのがパターンなので、このままではちとまずい。

「ああ、それほど残念じゃないな。たまにはこうして、お前とのんびり過ごすってのもいいもんだからな」

 というわけで、からかい混じりのフォローを入れる。案の定、シロは顔を赤くして「な、何を言うのでござるかっ!」と素直な反応をしてくれた。
 横島忠夫25歳。さすがにこの位の小技は使えます。
 でも最近、おキヌちゃんとかにも通じなくなってきてるんで、そろそろ次の技を身に付けないとな〜…

「ちょ、あう。先生、もっとゆっくり撫でてくだされ!」
「おお、すまんすまん」

 あまりに素直な反応のシロが可愛かったので、つい撫でる手に力を込めすぎてしまったらしい。
 気を使って、ゆっくり丁寧に撫でる。こっちの手の動きに合わせるように、ゆっくり揺れるシッポが微笑ましい。

「さて、仕事の時間までゆっくりするか。2人でな」
「あ、あうぅ…」

 いつまでも玄関口にいるのもなんなので、再びからかいの言葉を口にして奥へと戻る。
 シロはやっぱり照れたが、それでもちゃんと俺の後ろに付いてきた。
 少し前だったら、元気一杯な返事をして、むしろ俺を引っ張って先に進んだもんだったが、体だけじゃなくてその辺も成長しているらしい。

「タツノオトシゴ」
「ゴマ豆腐」
「フライ」
「池」

 敷きっぱなしだった布団をたたんで、その上に並んで腰掛け、暇つぶしにとしりとりをしながら、半ばぼーっとして、ゆっくり時間が過ぎるのを楽しむ。
 触れるか触れないかの距離にあり、こちらにもたれかかろうかどうしようかと時折迷っていたシロの肩を掴んで、こちらへと抱き寄せた。

「せ、先生!?」
「なんだ?」

 慌てるシロに、落ち着いた声で聞き返す。さぁ、どう反応を返してくるかな?

「つ、次は先生の番でござるよ!」

 おお、しりとり続行と来たか。

「そうか。なんだっけ?」
「池。け、でござる」
「そうか、け、かぁ…」

 恥ずかしいのだろう。俺から離れようと体の間に手をはさみ、それでいて俺の服をぎゅっと握っている。
 そんなシロの肩から手を離し、頭を撫でてやる。

「け、ねぇ……け。け…」

 撫でていた手を止めて、軽く後頭部を掴む。そして俺の方を向かせて、と。

「結婚しよう」
「え…」

 目を大きく開いて、動きを止めたシロを胸に抱き寄せて一言。

「返事は?」
「……う……うん……」

 シロはコクリと頷いた。
 それにおどけた調子で、俺はこう言った。

「そっかぁ。なら『ん』が付いたから俺の勝ちだな」
「へ?」
「ほら『け』で俺が『結婚しよう』『うん』。ってなってるだろ?」
「………………………………」

 おお。俺の手の中でシロがフルフルと震えだした。
 このままだときっと俺が細切れにされてしまうか、泣きながらシロが雨の中、外へ飛び出していってしまうので急いでフォロー。

「俺の勝ちだ。だから、お前は俺のものにする」

 ぎゅっと抱きしめて、耳元でそう囁いた。
 しばらく、沈黙が流れる。
 俺が文珠“忘”を使用する覚悟を固めかけたその時、シロがようやく喋りだした。

「……先生」
「うん?」
「……先生は意地悪でござる」
「うん、そうだな」
「なんでそうなのでござるか?それでは拙者、先生を信じられないでござるよ」
「そうか?」
「そうでござる」
「そうか?」
「そうでござる」
「………………本当に?」
「………………」

 抱きしめたままだったシロが、無言ですがりついてきた。
 左手をシロの膝の下に差し込んで持ち上げ、俺の膝の上に座らせる。

「ごめん。俺が悪かった」

 ちょっと涙ぐんでいたシロに罪悪感を覚えつつ、俺はもう一度さっきのセリフを口にした。

「結婚しよう」
「………はい」

 シロは少し考えて、さっきと違う答えだが、同じ答えを返してくれた。

「ありがとう」

 もう一度シロを抱きしめる。
 ふと気付けば、雨はいつの間にか止んでいた。

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