ザ・グレート・展開予測ショー

動き出した歯車〜第四話〜


投稿者名:アハト
投稿日時:(05/ 5/11)

動き出した歯車
第四話『ラグナロク〜神々の黄昏・1』

美神たちが、ロキのことを聞いた翌日。
小竜姫が、美神たちの事務所を訪れていた。

「小竜姫様。今日は、一体何のようなの?」
「……皆さんはもう知ってると思いますが、狡猾神ロキの件です。」

大体予想していたことなので一同は、驚くことは無かったが。
美神と小竜姫以外は、場の重い(シリアスな)雰囲気に息苦しさを感じていた(主に横島)

「今回、ロキが復活し、神魔界の上層部はラグナレクを警戒しています。
 よって、地上に下っている神魔族に急遽帰還命令が出ました。」
「……だから、地上で何が起こっても。神魔界は関与できない。そういいたいのね?」

小竜姫は、美神の返答に肯定の意を示し頷いた。
ただ、この言葉に横島他三名が驚いたのは言うまでも無い。

「ちょっと待ってください!もしも、アシュタロスみたいな奴が攻めてきたらどうなるんすか!?」
「私たち人間だけで対処しないといけなくなるわ。」

美神のそれがどうしたというような感じの答えに、横島は騒ぎ出した。
神様相手に、人間がどうこうできるなど思えなかったからだ。

「そんなの絶対無理ですって!」
「じゃ、逆に聞くけど。アシュタロスを相手に戦ったのは誰?」
「え?」

突然の美神の問いに、横島は呆けた。
おキヌは、美神の問いに対して”あっ”っと何か気づいた感じで声を上げた。
横島は、おキヌちゃんの声の後に続いて自分を指差して。

「俺たち、人間……ですか?」
「そ、神様がしてくれたのは、霊的アイテムを授けてくれたってだけだからね。」
「…………」

美神の言いように、小竜姫は苦笑いを浮かべた。
美神が言っていることは紛れも無い事実であり反論の仕様が無いからだ。
唯一協力できていたヒャクメも結局は、役に立ててなかったのだから

「でも、ラグナレクって神魔界での話しでしょ?何で、ここに攻め込んでくるのよ。」
「そう言えば、そうでござるな。何ででござるか?」

小竜姫が来る直前に、美神からラグナレクに対する講釈を受けていたタマモとシロが疑問をあげる。

「それは、ラグナレクが起こる周期が早いからです。」

タマモとシロは、顔を見合わせ首を捻った。(横島とおキヌも同じ)
美神は、そんな光景を見ると苦笑いを浮かべて簡単に補足説明を入れた。

「つまり、神話のとおりに進まない可能性があるってことよ。」
「つまり、戦場が人間界になる可能性も無くはないということっすか?」
「ええ、そのとおりです。横島さん。」

疑問が解決したところで、今後のことについて話を進めていった。
とはいっても、相手の動向がわからなければ対策の立てようもないのだが……

「とりあえず。アシュタロス戦役の関係者には、私から伝えておきます。」
「わかったわ。皆によろしく伝えておいて。」

小竜姫は、用件を伝え終えると椅子から立ち上がった。
そして、帰り際に美神を振り返り。

「美神さん。これを………」
「ニーベルンゲンの指輪と竜の牙……」
「ないよりはあったほうがいいでしょうから。では、失礼いたします。」

小竜姫は、それだけ言うと事務所を出て行った。
美神たちは、そんな小竜姫の後姿を見送った。

「それにしても、大変なことになっちゃいましたね。」
「ええ、まったくだわ。」

溜息混じりに美神はおキヌの言葉に同意した。
横島は、緊張が切れたようにソファーにどかっと座り込んだ。
タマモとシロはそれに倣いソファーに腰を下ろした。

「はぁ〜。それにしてもラグナレクとか言われてもイメージわかないっすね。」
「それが、普通でしょうね。何の脈絡もなく言われてもイメージが沸くはずないもの。」

少しばかり重苦しい雰囲気が漂っていたが、各々少しずつリラックスしていき結局は、いつもどおりの事務所の雰囲気に戻っていった。
仕事こそ無いもののシロとタマモがいがみ合ったり、横島が美神にセクハラをしてしばかれたり、おキヌが入れたお茶やコーヒーで和んだりと極々平凡に今日もまた一日が終わりを告げた。

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小竜姫が美神の事務所を訪れてから二日後
小竜姫を筆頭とする神々が、地上より去ってしばらくしたとき事態は急変を遂げた。

「ママ!状況を説明して!」
「とりあえず、席に座りなさい。話は、それからよ。」

美神たちは、アシュタロス戦役でもお馴染みの都庁地下にある基地にやってきていた。
(ここの使用許可は、美知恵がロキ復活のことを聞いてすぐにとってある)
美神たちは、各自円卓に用意してあった席に座り美知恵の話を待った。
(集まっているメンバーは、元ICPO付きのメンバー+シロとタマモである
 他のメンバーは、装備集めなどに走っている。)

「皆集合したようなので話を始めるわね。」

美智恵の言葉に、一同は無言で頷いた。
美智恵は、咳きを一回すると話を切り出した。

「今朝早く、世界各地で霊的拠点の破壊が確認されました。」
「……アシュタロスと同じ手口ね。」

美智恵の話によれば、尋常でないスピードで霊的拠点が破壊されているらしい。
あるところは、狼につぶされ。
あるところは蛇につぶされ。
あるところは死霊の大群につぶされ。
あるところは炎で焼き尽くされたのだ。

「まず、ここまでは、予測できた範囲内ね。」
「敵の最終目的は、おそらくラグナレクを引き起こすための下準備だと思われます。」
「神々との対決に備えて戦力を増やそうというんですね。」

重々しく堅苦しい話が進んでいく中、突然、美智恵宛に通信が入ってきた。
その通信の内容は、つい先ほど変なビデオが横島宛に、この基地へ届いたというものだった。
美智恵は、横島にそのことをとりあえず告げた。

「……横島くん。心当たりはある?」
「あるわけないじゃないっすか。大体、ビデオを買う余裕なんてないですよ。」

何はともあれ、ビデオの中身の確認をするためテレビデオ(16型)をどこからか調達してきて、ビデオをいれ再生し始めた。
ビデオを入れて、しばらくは画面が真っ暗にだった。
すると、突然。

『もう撮り始めてるのか?』
『はい。撮ってますよ〜。』

そんな、声がしたのだがいまだ画面は暗いままである。

『早く言えこの馬鹿!さっさと照明をつけろ!!』
『馬鹿は、あんまりですよ〜。』

ようやくビデオの画面が普通になりひとりの男が映った。(黒ローブを目深に被っているため、顔の判別は不可)

『こほん。とりあえず、これを見ているであろうGSの諸君。私の名前は、ロキだ。』
「こ、こいつがロキ……」

一同は、ロキの出現に明らかに戸惑っていた。(もちろん、他の意味でも戸惑いを感じている)
ただ、相手はビデオであるため場の雰囲気など気にせずどんどん話は進んでいく。

『今回こいつを送った目的は、こちらの要求を明確にしておくだ。
 もちろん、横島から聞いているだろうが。
 我々が求めているのは横島が持つ文珠の精製能力だ。』

ここにいる面々は、そのことは知っていたので、それほど驚くことはなかったが。
横島にとっては、まだ、あきらめないのかとうんざりとした表情を浮かべた。

『横島の思念を手に入れ文珠を精製することに成功はしたのだがな。
 如何せん、出力が脆弱なのでな。いずれご足労願うことにするよ。』

横島の思念(煩悩ともいう)云々のことを聞いた面々は、驚いて横島の方を向いたが。
当の横島は、今まで忘れていたらしく、罰が悪そうに顔を背けた。
美神が、少量の怒りに拳を震わしていると

『そうそう、言い忘れるところだった。横島忠男、君の大切なものは俺が預かっている。次にまみえるときにみしてやることにするよ。』

ビデオは、それだけ言うとプツリと切れて辺りには、静寂が残った。
その静寂を破ったのは、美知恵だった。
美智恵は、とりあえず順番に横島への質問をすることにした。

「横島君。ロキ……が言っていた思念とは、一体何のことですか?」
「結構前に、俺の住んでたアパートが襲撃されたじゃないですか。
 そのときに、襲ってきたのが俺の思念体だったらしいんっすよ。」

一同は、唖然とした。
横島が、自分の襲われたときの真相をあっけらかんと切り出したのだから。
美智恵は、こめかみをおさえつつ横島に質問を重ねた。

「じゃあ次に、大事なものを預かっているといっていましたが。アレは?」
「俺にも見当がつかないっすよ。そんなたいそうなもん持ってるわけじゃないですし。」

横島の答えを聞いて、皆うなって考え始めた。
横島が大切にしていそうなものを考えていくが……
横島には、これといって趣味があるわけではなく。
集めているものも魔族が持っていくようなものではないはずだ。
そんなわけで、解答にいきずまっていたのだが、美神が顔色を変えて横島に詰め寄った。

「あんた、ルシオラの霊破片はちゃんと持ってるんでしょうね!?」
「当たり前じゃないですか。肌身離さず持ってますよ。」

横島の返答を受けて、少し安心したものの横島が、現物を取り出して少ししたとき。
今度は、美神だけでなく西条と美智恵も顔色を変えた。
今度は、流石に横島もあわてた。いきなり三人が詰め寄ってきたのだから当たり前だろう。

「横島君。それは、本物じゃないわ。」
「なに言ってるんですか。どうみたって……」

反論しようとした横島だが、言葉につまり、手に持った霊破片を凝視し始めた。
自分が持っているものに違和感を感じたのだ。
確かに、表面上は装っているがじっくり見てみれば、内面から滲み出ている違和感に気づくはずだ。
今まで、気づかなかったのはじっくりと凝視するようなことはなかったからだ。

「…………」
「どうしたの横島?」
「横島先生どうしたんでござるか?」

霊破片が偽物だとわかったとき、がらっと横島の気配が変わった。
それにいち早く気がついたタマモとシロが横島に尋ねた。
横島は、そんな問いかけに振り返りもせずにただ無言で出口へと踵を向けた。

「横島君。どこに行くつもり?」
「決まってるじゃないですか。あいつらのところっすよ。」
「場所もわからないのに?」

美神の問いに横島は、振り向いた。
爛々と光るその瞳には、狂おしいほどの激情が溢れているのがとって見れる。

「だからって、じっとなんてしてられないですよ!あいつらのところにルシオラが……」
「少しは、冷静になりなさい。こんなものは、挑発に決まってるわ。」

美神に引き続いて今度は美智恵が横島をたしなめた。
横島の憤怒はわかるが、横島を闇雲に動かしてはいけないと理性が判断していたからだ。
もちろん、美智恵にたしなめられたからといって横島の激情は、収まりを見せなかった。

「挑発だなんて、わかってますよ!だけど……」

横島が、なおも怒りの感情を吹き散らしていると乾いた音が、あたりに響いた。
美神が、横島の頬を引っ叩いたのだ。
突然のことに横島が、呆然としていると美神は、横島の襟首をつかみ

「冷静になりなさい!激情に駆られたままじゃ、ルシオラを取り戻すこともできなくなるわよ。」
「…………すんません。美神さん。」

横島は、手のひらを返したように意気消沈とした。
その姿は、痛々しく覇気の無いものだった。

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「でも、悔しいんっすよ……
 さっきまで気がつかなかった自分が許せないんです……
 ルシオラが、いなくなったのに気がついてやれなかった自分が!」

横島の台詞を聞いたおキヌが近づいてきて、横島に語りかけた。
優しく横島に言い聞かせるように。

「横島さん。そんなに自分を責めないでください。
 ルシオラさんだって、今の横島さんを見たら悲しくなると思います。だから」

横島は、その一言を聞いていつの間にか流れていた涙をぬぐった。
そして、横島は美神をまっすぐに見返し。

「美神さん。すいませんでした。」
「わかればいいのよ。わかれば」

美神はつかんでいた横島の襟を放すとそっぽを向いてそういった。
それを見た美智恵は、自分の娘の行動をかわいく思ったが。
それを見た西条は、多少面白くなさそうな顔をしていた。

「ところでさ。結局私たちはこれから何をすればいいの?」

話が終わった頃合を見計らってタマモが、一同に尋ねた。
皆もどう答えて良いのやらわからず答えに詰まったが、美智恵がその疑問に答えた。

「敵の拠点・襲撃する場所がわからない以上行動することはできません。
 ですが、敵の最初の目的は横島くんの身柄を押さえることよ。」
「つまり、敵が行動を起こすのを待つということですね?先生」

西条の答えに美智恵が頷いた。
結局のところ、相手のことがまったくといっていいほどわかっていないから打つ手がないのだ。
幸い敵の最初の目的がわかったので、その対象を守り抜いていけば何とかなる。
美智恵の考えは、そうだった。
今回の相手も、横島を殺すような真似をすればどのような行動に移るのかわからない。
わからない以上、危ない橋を渡るわけにはいけないのだから。

「じゃあ、今日のところは解散でござるか?」

話の広がりを見出せなかったためシロがそんなことを言った。
美智恵も、特にやるようなことはなかったので解散を了承した。

「ただ、横島君にはこの基地で私たちの保護のもと監視下に置かれることになるわ。」
「……ちょ、ちょっと待ってくださいよ!そんないきなり言われても。」

突然の美智恵の言葉に横島が驚いた。
もちろん、美神と西条そして、タマモはその理由を理解していたが他の面々はいきなりのことで困惑しているようだ。

「これは、横島君。貴方のためなの。」
「……敵の目的が横島さんだからですか?」

美智恵は、おキヌの問いかけに肯定の意を示した。
それによって、横島もシロも状況を理解した。
しかし、横島にとっては息苦しいように感じた。

「保護はともかく監視だなんて嫌っすよ。」
「馬鹿なこと言わないでちょうだい。貴方が置かれている状況がわかってるの?」

横島は、美智恵の言葉に白旗を上げる以外なかった。
横島だって馬鹿ではない、一応は自分の置かれている状況を理解できている。
しかし、普通の感覚では、終わりの見えない監視など耐えられたものではない。
結局横島は、苦渋の選択をすることになった。

「横島君。いい機会だから、ママに鍛えてもらったら?」
「じょ、冗談じゃないっすよ!」

美神の冗談交じりの提案に横島が必死になって拒否したのだが。
美智恵は、美神の提案を聞いてあることを思い出した。
横島の思念(煩悩)の一部が奪われたことだ。

「いい提案ね、令子。」
「ちょ、ママ!本気なの!?」

流石の美神もまじめに答えが返ってくるとは、思ってなかったので狼狽した。
もちろん、横島も然りだ。
そんな二人に対して冷たい視線を伴って答えを返した。

「ええ、本気よ。アシュタロス戦役では二人の力が近かったからシンクロができたのよ。」
「……そうか、横島君は力の源である煩悩の一部をとられているからシンクロができるとは限らない……」

西条が美智恵の言葉を聴いて答えを導き出した。
この答えは、シンクロのことを知っている面々(シロ・タマモ以外のこと)にとって重大なことだった。
最大の切り札であるシンクロが使用できない可能性が出てきたのだから。

「おキヌ殿。しんくろとは何でござるか?」
「それは〜……」
「霊力の完全同期連係のことよ。二人の霊波の波長をシンクロさせ共鳴を引き起こすことによって数十〜数千倍のパワーが得られるの。」

おキヌがシロの問いかけに困っているところに美神が助け舟を出した。
結果、シロは納得しおキヌも安堵の息をついた。

「……隊長、わかりました。やればいいんすね。」
「ええ、そのとおりよ。他に道はないわ。」

横島が、腹を据えて決意を美智恵に伝えた。
美智恵も、横島の決意を感じ取り表情をほころばせた。
しかし、横からタマモが……

「横島。足が震えてるわよ。」
「う、うるせぇ、武者震いだ!武者震い。」

タマモは、横島の言い分を聞くと、”そういうことにしておいてあげるわ”と引き下がった。
横島は、いきなり気をそがれたような感じがしたがいまさら引き下がるわけにはいかないと思い直した。
こうして、神魔族がいないまま戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

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あとがき
どうも、お久しぶりです。今回は、やけに長々とした文になってしまいました。
次回の投稿は、いつになることやら……では、また次のお話で。

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