ザ・グレート・展開予測ショー

ヒマ潰し黙示録〜少尉殿で遊ぼう!


投稿者名:APE_X
投稿日時:(05/ 4/30)



 『ヒマでちゅ』
 『ヒマですね〜』


 パピリオとヒャクメが、示し合わせたように同時に呟いた。

 初夏の陽射しもうららかな妙神山。
 その居住舎の裏手にある縁側に、二人はだら〜っ、と座り込んでいた。

 ジークお手製の、蜂蜜をたっぷり使ったレモネードを飲みつつ、だべっている。


 『ヨコシマに会いたいでちゅ』
 『ムリ。学校とかお仕事とか、人間は忙しいのねー』


 ぽろり、とこぼしたパピリオに、そう答えるヒャクメ。
 忙しいのは、彼女だって同じな筈なのだが。

 情報担当官がこんな所で油を売ってて良いのか、龍神王に問い合わせてみたい。


 『じゃ、わたしが会いに行くでちゅ』
 『もっとムリですねー。アナタが勝手に人界へ降りたら、お仕置きされるのねー』

 『・・・誰が?』
 『わたし。――・・・あ、もう無くなっちゃったのねー』


 ずこここー、っとヒャクメのくわえたストローが音を立てる。
 パピリオの掌の中のグラスも、もうほとんど氷しか入っていない。


 『ジョン!、ジュースおかわりでちゅ!』
 『わたしもー!』
 『―――誰がジョンかっ?!』


 カランカラン、と氷を鳴らしながら、庭で洗濯物を干していたジークに声をかける。


 『見ての通り、僕は今忙しい。そのくらい自分でやってくれ』
 『むっ』


 忙しいと言いつつ手伝えとは言わないあたりが、日頃の苦労を偲ばせる。
 実際、パピリオに手伝わせたら余計に手間がかかるだけなのは学習済みだ。


 『ジョン、ペットの分際でご主人サマに逆らうでちゅか?!』
 『・・・。』


 黙殺。
 子供の駄々に付き合っていたら日が暮れる。


 『・・・ペス〜、ジョンが冷たくするでちゅ〜』
 『ん〜、ホントに忙しそうだし、ガマンするのねー』

 『・・・って、いつの間にかわたしペスに逆戻り?!』
 『?、なに言ってるでちゅか。逆戻りも何も、ペスはずっとわたしのペスでちゅよ?』


 何を今更、とでも言いたげなパピリオ。
 ヒャクメ、大ショック。


 『横島さんはヨコシマで、わたしはペスっ?!』
 『当たり前でちゅ。ヨコシマはヨコシマで、ペスはペスに決まってまちゅ』


 納得行かない〜ッ、と悲鳴をあげるヒャクメ。
 それに対して、パピリオはどこからともなく取り出した首輪をちらつかせる。


 『もっぺん、しつけ直した方が良いでちゅかね・・・?』
 『―――ペスで結構です』


 さくさくっと土下座。


 『ヒクツだなー・・・きみ、それで本当に神族なのか?』
 『放っといてほしいのねっ。世の中プライドだけじゃ生きて行けないのねー!』


 だからと言ってそうホイホイ投げ出して良いモノでもないんじゃなかろうか。


 『ううっ、わたしの人権〜』
 『いや、人権って。・・・つくづく、本っ当に神族なのか?!』
 『そんな事より、ジュースおかわり〜!!』


 泣き崩れるヒャクメとツッコむジークの間に、痺れを切らしたパピリオが割って入る。
 無視するなー、っとお子様のワガママ全開。


 『だからいま忙しいと言うとろーが』
 『・・・ジョンはいたいけな乙女のお願いを無視するって言うんでちゅね?』
 『痛いけ・・・?』


 ぽかっ。
 余計なダジャレを口走るヒャクメに、鉄拳制裁が入る。


 『神様をぽんぽんぶっちゃダメなのねー』


 神様じゃなくてもダメに決まっている。


 『ああ、乙女の純情可憐なハートがズキズキ痛みまちゅ。再起不能でちゅ。
  ペス・・・ヨコシマとベスパちゃんには、ジョンの心ない仕打ちに倒れた、と伝えてほしいでちゅ』
 『パピリオっ、パピリオー?!、しっかりしてー!!』


 胸の前で手を組み合わせ、弱々しげにのたまう。
 その体を仰向けに抱き留めながら、ヒャクメはだーっ、と落涙。


 『あーもー!取ってくれば良いんだろう、わかったから!』


 果てしなくワザとらしい演技をするパピリオと、思いっ切り悪ノリしまくるヒャクメ。
 こうなったらもう手がつけられない。

 耐え切れなくなったジークは、うっとおしいマネはやめんかっ、と叫ぶ。


 『ジョンもよーやく自分の立場がわかったみたいでちゅね?』
 『やかましい!・・・まったく、何故この僕がこんな真似を・・・』
 『あ、氷も足して来て欲しいのねー』
 『・・・・・・』


 ジークが折れた途端、少女達はけろり、っと立ち直る。
 最初っから演技だとわかっていても、なんだか無性に腹立たしい。

 うぐぐぐっ、と怒りをこらえつつ、どすどすと足音も荒く台所へ向かうジーク。
 もはやヒャクメにツッコミをいれる余裕すらないらしい。

 その額には美形にあるまじきごっつい血管が。


 『初めからそーやって素直に言うことを聞いてれば良いんでちゅ』
 『・・・もう何でも良いから、邪魔だけはしないでくれ』


 レモネードのおかわりと氷を入れたグラスを手渡し、中断していた物干しを再開。

 どんよりと縦線を背負った背中に、人生に疲れたサラリーマンの如き哀愁が漂っている。
 がんばれジーク、負けるなジーク。

 まあ、初めから勝ち目などないわけだが。


 『――・・・そんなにヒマなら、老師のところでゲームでもしてくれば良いだろう?』
 『ジジイなら、今ごろになって《えふえふX》やってまちゅ。しかももう三回目でちゅ』


 どうやら、通常版を普通にクリアした後、アイテムコンプ目指してやり直したらしい。
 で、今度は限定版のエンディング目指して再挑戦中。

 寝食を忘れてTVに向かうその姿は、まさにサル。


 『だいたい、いっつも修行修行ってうるちゃい小竜姫がいきなりお休みなんて、おかしいでちゅ』


 ぷーっ、とふくれたパピリオの台詞に、ぎくぅっ、と固まる残り二名。

 ジークがやけに忙しいのも、パピリオがやたらとヒマなのも、結局は管理人の不在が原因だ。
 実は、ヒャクメが呼ばれたのも小竜姫が不在の間、パピリオを監視するためだったりする。
 お子ちゃまを放っておいたら何をしでかすか、わかったものではない。

 まだ子供なのだから、それが当たり前と言ってしまえばそれまでなのだが。
 立場や能力から言って、パピリオの場合それだけでは済まされない。
 ヘタをすればデタント崩壊の危機だ。

 とかいう事情はさておき。


 『――・・・二人とも、小竜姫がドコに行ったか、知ってるでちゅか?』


 ぎくぎくぅっ。


 『さ、さあー、ドコ行ったのかしらねー』
 『ぼ、僕も姉上から何も聞かされてないからなっ!』
 『・・・ふーん』


 ほほほ、ははは、っと引きつった笑顔でごまかそうとする二人。
 当然、それくらいでパピリオが引っ込むはずもなく。

 半眼でストローをくわえたまま、ぽつり、と呟く。


 『ウソをつく悪い子にはお仕置きが必要だって、小竜姫が言ってまちた。―――わたしも賛成でちゅ』
 『おおお、お仕置きっ?!』
 『なな、何の事かなっ!!』


 なりは子供でも、パワーは一級品。
 この場で間違いなく最強であるパピリオの、不穏かつ不吉な言い草に、思いっきり慌てる神魔二名。

 さりとて、ジークは敬愛する姉兼上官と身元引受人から、直に固く口止めされている。

 『『・・・わかっているな(いますよね)?』』と凄む彼女たちの幻影に、ひいいっ、と頭を抱えて。
 必死で頭を捻り、なんとか話をはぐらかそうと試みる。


 『・・・それより、また下着を新調したのか?、これはいくら何でも・・・』
 『レディーの下着を人前で広げて見せるんじゃないでちゅ!!』
 『あうっ?!』


 容赦も手加減もない霊波砲によるツッコミ炸裂。
 景気良く吹き飛んだジークの顔に、広げられていたパピリオのかぼちゃパンツがひらひらと舞い落ちた。
 とりあえず話題をそらすには有効かもしれないが・・・なんと無謀な手に出たものか。

 ひくひくとヤバげな痙攣を繰り返すジークに、顔を真っ赤にしたパピリオが追撃を加えようとする。


 『ま、まあまあ。』


 危うく輪廻の輪に還らされかけるジークを救いに、今度はヒャクメが割って入った。
 シバかれ慣れた横島ではないのだ、このままでは本当にお陀仏してしまいかねない。


 『でもホント、ついこの間まで『せくしーな下着でヨコシマをのーさつ』とか言ってたのはどーしたのね?』
 『う・・・、あれはもうちょっと時間がかかりまちゅ。だから、こっちは短期決戦用でちゅ』

 『短期決戦って・・・、別にそんなに急がなくても良いと思うのねー?』
 『甘いでちゅ。放っといたらいつヨコシマに悪い虫がつくかわかりまちぇん』


 虫はあなたです、とか言ったらまちがいなく殺られるだろう。
 一般的に見て、悪い虫、というのは横島の方じゃないのか、とかいう指摘もマズそうだ。


 『・・・それで、どーしてかぼちゃパンツ・・・?』
 『あと十年くらい経てば、わたしもベスパちゃんくらいぼーん、きゅっ、ぼーんな《ないすばでぃ》になりまちゅ。
  せくしー路線はそれから狙うとして、しょーがないからとりあえずそれまではぷちロリ路線で押すでちゅ』


 至って真剣な表情のパピリオに、半笑いになるしかないヒャクメ。
 どうでも良いが、もう一人の姉のようなスレンダー体型になる可能性は考慮しなくて良いのか?


 『ぷ、ぷち・・・』
 『ゴシック調なドレスも鋭意制作中でちゅ』
 『・・・そーゆーロクでもない知識、一体ドコから・・・?』


 いまさらゴスロリというのもいかがなものか。

 かけるべき言葉が見つからず、絶句するヒャクメの背後では、ジークがようやく復活したらしい。
 ほどよく焼き目のまわった身体で、よたよたと作業に戻って行く。

 先に手当てをした方が良いように見えるのだが。


 『レディーとか言うなら少しは小竜姫さまを見習って、自分の下着くらい自分で洗濯して欲しい・・・』
 『ジョン、文句が多いでちゅよ』
 『誰のせいだと思ってるんだ・・・』


 律儀に受け答えながらも手を休めないあたり、彼の苦労性は先天的なものなのかも知れない。


 『って、話をそらそーとしてまちゅね?!』
 『ドドド、ドッキーン!!』


 ジーク、吹き飛ばされ損。
 あわわ、っとひきつるヒャクメに、パピリオがにじり寄る。


 『さあ、観念して白状するでちゅ!』
 『イヤーッ、迫らないでーッ!』


 ずごごごごっ、と圧力をかけるパピリオに、あっさりと追いつめられるヒャクメ。


 『ダメなのねー!言ったらわたしが小竜姫とワルキューレに折檻されるのねー!!』
 『・・・後であの二人にイジメられるのと、今ここでわたしにお仕置きされるのと、どっちが良いでちゅか?』
 『はううっ!どっちにしても絶対絶命?!』


 きゅぴーんきゅぴーんと目を光らせるパピリオに怯え倒しつつ、ヒャクメはあうあうと逃げ道を探す。
 が、すでに縁側の隅っこに追いつめられた状態で、前は当然、横にも後ろにも逃げ場などない。

 先ほど、文字通り身を呈して秘密保持に挑んだジークは戦線離脱、というかもう全面降伏寸前。
 事ここに至り、ヒャクメも腹を括るしかなかった。

 ―――バレなきゃ良いのよねー、っという余りにも空しく儚い希望的観測に逃げ込んだ、とも言う。


 『二人とも、美神さんの事務所に行ってるのねー・・・』
 『ヨコシマの所にでちゅかっ?!』

 『・・・イヤだから、美神の所だと――』
 『同じでちゅ!、ズルイでちゅ!パピも行きたいのにー!!』


 ぼそり、とツッコんだジークに一喝。
 どうやらパピリオにとって、美神は横島のオマケ扱いらしい。


 『そうなのねー、ズルイのねー!今頃きっと二人して仏罰がどーとかっ』
 『覚悟はできているのだろーな、とかっ』
 『おカタそーな事言いながら、スキンシップしまくりなのねー!』
 『ズルイでちゅー!わたしだってガマンしてるのにーッ!!』


 きいい〜っ、とヒャクメはハンカチを噛み。
 パピリオはじたばたと手足を振り回して暴れている。

 どうやらヒャクメも一緒に行きたかったらしい。
 一度しゃべってしまえばもう、遠慮する気はないのだろう。
 ああっ、羨ましい妬ましいっ!っとパピリオと二人して騒いでいる。

 そのノリに逆立ちしてもついて行けないジークは、引きつりながら笑うしかなかった。

 二人の少女がひとしきり鬱憤を発散させるのを待ってから。


 『――しかし、きみもあの男を狙ってたのか?』
 『とーぜんですねー。・・・何ですか、その意外そうな顔は?』

 『いやだって、当然とか言われてもな。・・・あの横島君だろう?
  神族でも魔族でも、もっとイイ男はいるだろうに・・・』

 『あー、とりあえず神族の男なんて論外』


 眉をしかめてぱたぱた、っと手を振る。
 これにはパピリオも興味を引かれたらしい。


 『・・・そうなんでちゅか?』
 『そーなんです!、霊力と見映えばっかりで、頼り甲斐のないのしか見たことないですねー』


 そんな事を言われても、ジークには訳がわからない。
 霊力が強ければその分地位も戦闘力もあるわけで、それだけ頼りにできるはずだ。


 『ブッブー、力が強いかどうかより、本当に結果を出してくれるか、そう感じられるかが重要なのねー。
  その点、横島さんなら何が何でも護ってくれそーな安心感があるのねっ!』
 『そーでちゅ!ペスもたまには良いこと言うでちゅ!』
 『たまにはじゃないのね!いっつもと言って!』


 ふふーん、っと胸を張るヒャクメを余所に、ジークは首を傾げている。

 確かに横島は強い、だが所詮は人間だ。
 仮にジークが闘うとしても、文珠さえ使い切らせてしまえば、どうということはない。


 『――まあ、たしかにあのエゲツない戦い方はちょっとやっかいかも知れんが・・・』

 『・・・魔族も似たよーな感じみたいでちゅね』
 『そーみたいねー』


 顎を摘むようなポーズで考えていたジークが、ふと気付いて顔を上げると。
 ヒャクメとパピリオが、胡乱げな半眼でジークを眺めていた。

 その妙に冷たい視線に居心地の悪さを覚えつつ、言われた事を頭の中で反芻する。


 『って、ちょっとまてっ!』


 ゴリッ。


 『僕のどこがあの男に劣ってるとゆーんだああっ!!』


 ジークフリードと言えば、堕天したとはいえ、かつては神話にその名を刻まれた身だ。
 たかが人間と同列に比べられ、あまつさえ引けを取るなど、認められない。

 さすがに許容しかねる暴言に、ジークは思わず絶叫した。

 が、暴走する乙女たち相手に、この放言はあまりに無謀。
 幕ノ内○歩もまっつぁおの挑戦者魂、まさにバンザイアタック。


 『ほー・・・やっぱりねー・・・』
 『はっ』


 正気付いたときには手遅れ。
 逃げる間もなく、パピリオに取り押さえられる。


 『イイ男ぶってんじゃないのねー!!』
 『ああああっ!』


 ねちねちねちちっ。

 イヤな笑顔を浮かべたヒャクメに、《私は少しいい気になってます。》と胸に大書きされる。
 ―――油性ペンで。


 『チョーシに乗りすぎたボンボン魔族のお仕置きはこれでよし、と』
 『これから少しは身の程を弁えるんでちゅよ、ジョン?』

 『ううっ、落ちないっ・・・!!』


 魔界軍制式、つまり支給品のボディアーマーに落書きされて、ジークだだ泣き。


 『―――まあ、冗談はともかく』
 『冗談にしちゃタチが悪すぎないか?!』

 『神族でも魔族でも、大抵の男はわたしの霊能を知ると途端に慎重になりますね』
 『・・・!』


 そう言って悪戯っぽく笑うヒャクメに、ジークは気まずく口を噤んだ。
 彼自身、身に覚えがある。


 『・・・?、なんででちゅか?』
 『わたしに、隠し事ができないからですねー。何を考えてても、筒抜けですから』

 『えっと、たとえば、えっちなこととか・・・?』
 『それに、浮気とかもですねー』


 けらけらと笑う、だがそれは深刻な悩みだろう。

 彼女がその力を使うとは限らないし、そう約束させることもできる。
 だいたい、四六時中他人の思考を読み続けてなどいたら、当人が耐えられまい。

 しかしそれでも疑いは残る、もし心を覗かれたら?


 『だからみんな、距離を置くか、心を閉ざすかしますね・・・ジークさんみたいに』


 そう、ジークはヒャクメに対して心を開いていない。
 一般的に言うそれよりももっと現実的に、心理プロテクトを自ら施しているのだ。
 だが、その事も《見えて》しまう彼女にとって、それは酷く心をえぐる行為なのではないか?


 『そーいう意味でも、横島さんは特別ですねー。・・・ちょっとストレート過ぎますけど』


 横島の場合、覗く覗かない以前の問題である。
 なにしろ自らべらべらと妄想を垂れ流しては、美神にドツかれているのだから。


 『・・・つまり、ヨコシマにはペスを受け容れられる甲斐性があって、ジョンにはない、って事でちゅね?』
 『そーですねー、一言にまとめたらそーなりますね』
 『あー・・・ちょっとまってくれ、それは・・・』


 じわぁ、っと迫るイヤな予感に、ジークはボディアーマーを拭く手を止めて口を挟もうとする。

 それは甲斐性云々以前に、横島の方が特殊なのだ。
 しかも、あまり美点とは言い難い方向を向いた特性だろう。


 『ジョンが甲斐性無しなのはとーぜんでちゅ。デフォルトってやつでちゅ』
 『ぬぁッ?!』


 さらり、っとパピリオが口にした台詞に、呻く。
 そりゃなんぼなんでもあんまりだ。


 『そうですねー。そーいう仕様なのに、いまさらでしたねー』
 『ちょっ、まっ・・・!!』
 『気にしなくて良いんでちゅよ、そう生まれついちゃったのはジョンのせいじゃないでちゅ』


 ぱくぱくと口を開閉するジークの肩に、ぽむっ、と手をおくパピリオ。

 惜しいかな、その台詞はフォローにもなっていない。
 というか追い打ちっぽい。


 『本人にはどうにもならない事を言っちゃいました。ごめんなさいねー?』
 『だいじょーぶ、甲斐性なんかなくても顔だけ良ければいい、って女性も世の中には大勢いまちゅよ』
 『そーそー、世の中見る目のある女性ばっかりじゃないですねー。だからそんなに悲観しないで・・・』

 『・・・ッ!、そこまで言うかあー!!』


 ぐおおっ、と燃え盛る怒りの炎を背景に、ジークが吠える。
 が。


 『『うるさい(ちゃい)、甲斐性無し。』』


 二人がかりで放たれたカウンターの前に、ジーク轟沈。
 血の涙を頬に伝わらせつつ、がっくりと両手両膝を突いて沈み込む。


 『か、甲斐性無し・・・?、この、僕が、甲斐性無し・・・ちっ、違う、僕は・・・』


 安心しろ。世間一般的に見て、横島よりはおまえの方が甲斐性あると思うぞ。

 などと慰めてくれる常識人がいないこの場所で、地面に向かってぶつぶつと葛藤するジーク。
 どうもかなりヤバげなレベルのダメージを負ったようだ。
 甲斐性云々にまつわるトラウマでも抱えていたのだろうか?

 一方、加害者達の方は、自分たちがへし折った繊細な男心の破片になぞ目もくれない。
 今にも入寂してしまいそうな雰囲気のジークに構わず、自分たちの気になる話題で盛り上がっている。


 『それにしても・・・小竜姫、ナマイキでちゅ!小乳姫のくちぇに!!』
 『ワルキューレだって、昔は横島さんの事、無能だの腰抜けだの散々言っといて、ふざけてますねー!』

 『パピリオ、その胸でそーいう事を言うのか?・・・ヒャクメならともかく』


 懲りるということを知らないのか、はたまたヤケになったのか。
 いつの間にか現世に復帰していたジークが、パピリオに陰々鬱々とツッコむ。

 まだちょっと涙目な目つきが座っているあたり、頭の回線がどこかで焼け切れたらしい。


 『でも、否定はしないのねー・・・?』
 『無いモノは無い。現実を否定してどーなる?!』


 ・・・見事なまでにブチ壊れています。
 どうやら自分に甲斐性がない、と言われたことがかなりのストレスになっている模様。


 『パピの胸には未来があるでちゅ!小隆起の終わっちゃった胸と一緒にされたくないでちゅ!!』


 パピリオも、小乳姫だの小隆起だのとそんな事言って良いのだろうか。
 後で知れたら超級デンジャラス&ハード修行コース確定ものだが。


 『それにッ、横島は・・・そりゃ少しはやるようになったが、所詮は人間だ!しかもバカでスケベ!
  そんな男に・・・、僕が、この僕がァっ?!・・・――うわあああん!!』

 『あ、ハー○ーダッシュ。』


 ついにストレスがジークの心の防波堤を決壊させたらしい。

 散水機のように、ちょっとしょっぱい青春の汗を撒き散らしつつ、どこかへ突っ走って行ってしまった。
 後に残されたのは、中途半端に中身の減った洗濯カゴと、神魔それぞれの少女達だけ。


 『ちょっとイジメすぎたでちゅか・・・?』
 『良いんじゃない?、仮にも文学作品にまで顔だしてる英雄があの程度でへこたれちゃ、名が廃るでしょ』
 『・・・それもそーでちゅね』


 遠ざかる土煙を見送って、少女達はごろん、っと仰向けに寝転がった。

 青空に小さな雲がひとつ、ふたつ。
 どこかから小鳥のさえずる声が遠く聞こえる。

 のどかでうららかな山の静けさを取り戻した妙神山に、どちらからともなくあくびがこぼれた。


 『ヒマでちゅ』
 『ヒマですね〜』


 世はなべて事もなし。
 神は・・・下界で男といちゃついたり、魔族と一緒に寝転がったりしているが。

 まあそれだけ平和だという事で、実に結構なことだろう。



 その後、帰ってきた小竜姫に、洗濯物を放り出してイジケていたジークが事の次第を洗いざらい白状し。
 三人仲良く正座させられて、ワルキューレと小竜姫のお説教を拝聴するハメになったのは言うまでもない。



# こんにちは、まだ懲りないAPE_Xです。
# なんか『あまり顔を出せない』とか言っといて、結構なハイペースで投稿しまくってますね、私。
# って、そんなヨタ話は置いといて・・・と。

# 前回、前々回と、コメント頂いた皆様、ありがとうございました。
# 今回から記号の使い方などをちょっと我流で変更してみましたので、よろしければそのあたりも含めて忌憚のないご意見をお願いします。

# それでは、また。

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