吟詠公爵と文珠使い49
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/24)
『また、もう一つの徴が天に現れた。見よ、大きな、赤い龍が居た。それに七つの頭と十の角とがあり、その頭に七つの冠をかぶっていた』
ヨハネの黙示録 第十二章より抜粋。
東京都庁地下心霊対策本部。その大型モニターには、この上なく衝撃的な映像が映し出されていた。七つの頭を持ち、血のように赤い体をした龍が太平洋の海の中から出て来たのだ。その龍は七つの頭それぞれに十本の角があり、さらに王冠のように突き出た部分さえも備えていた。その全長数百メートル。
あれこそキリスト教徒ならば、ほぼ誰でも知っている邪悪の象徴――魔王サタン-――堕天使ルシフェルの化身でもある怪物――――『赤き七頭龍』
「ま、まさかあれは最後の審判に現れるという赤い龍・・・・・」
唐巣が呆然とした面持ちで呟く。破門されたとはいえ、カトリックの神父である彼にとってはこの光景は余りにも衝撃が大きすぎたらしい。
上海やロンドンでばら撒かれていた麻薬-―『アポカリプス』(黙示録)とはこの事を示していたのか。
「ありえん、あれはサタン様の化身として現れる物だ・・・・だが、サタン様は魔界に居られるはず・・・・あれは紛い物だ・・・・」
「確かに・・・・似てはいるが、あれから放たれている波動は我が兄ルシフェル、いやサタンのものとは違う。ヒャクメ、あれの正体はわかるか?」
サタンの右腕という立場から、『龍』の出現に激昂するペイモンとは対照的にミカエルは静かな、だが力強い声でヒャクメに唐突に尋ねた。
「あ、はい・・・えーと、あれは確かに黙示録に出て来る赤い龍のオリジナルじゃ無いのね〜、正確にはそのコピー。材料にはあらゆる竜族の細胞が使われているのね〜」
同じ神族の中でも雲の上の存在であるミカエルの問いに戸惑いながらも、情報官の習性のためか、ヒャクメは反射的に声を出し、件の『龍』の詳細について報告していた。
彼女の言葉から確信が持つことが出来たミカエルは頷き、その『紛い物』へ鋭い視線を向けた。
「あらゆる竜族って、リヴァイアサンとかディアボロスとかも?」
疑問符を伴った美神の問いにヒャクメは頷き、さらに言葉を継いだ。
「さらに付け加えるならば・・・・・・竜神族の細胞もなのね〜」
そのヒャクメの言葉にハッとなった美智恵は、会議の時に注視していたディスプレイに映し出されていた項目に目をやった。サルガタナス関連の情報の一部-―――『千五百以上前に起こった竜神族大量失踪事件に関与の疑い』―――――――
美智恵がその情報に目を向けたのとほぼ同時に-――――――――
「「「「「「「グオオオオオオオオ-――――――!!!!」」」」」」」
『龍』のその七つの頭の口から、世にも恐ろしい咆哮が放たれた。
一方、横島達のところへ向かうおキヌ、シロやタマモの三人。
「ねえ、おキヌちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと息が切れちゃったけど・・・」
息を切らして、壁に寄りかかっているおキヌにタマモとシロが心配げに駆け寄る。そんな彼女達の優しさに感謝しながら、おキヌはしっかりと頷いた。実際、息遣いはほぼ普通に戻っている。
『龍』の咆哮が轟いたのは丁度、その時だった。
「でも・・・・何、この叫び声・・・・・? 頭にガンガン響いて来る・・・・」
「拙者も頭が割れそうでござる・・・・!!」
耳を塞いでも、響いてくる『龍』の咆哮によって、頭を抱え、その場に立ち止まるタマモとシロ。
「ちょっと、二人とも大丈夫!?」
自分自身、この声がもたらす苦しさはこの二人よりはずっと軽い。
ネビロスから課せられた特訓のおかげで、精神攻撃にはかなりの耐性が備わっているらしい。
(ネビロスさん、ありがとうございます・・・・・)
そんなことを考えながら、さっきまでとは逆に今度はおキヌが、やや足元がふらついている彼女達を支えながら横島達のもとへ急いだ。
「何だ・・・この咆哮は!?」
「どうやら、霊的に耐性の無い者、精神力の弱い者はこの声にやられてしまうらしいな・・・・・」
横島の疑問にモニターに映っている『龍』を鋭く見据えながらミカエルが答えた。
実際にこの咆哮にやられたGメンの職員の何人かは頭を抱え、苦しんでいたが他の職員の手で医務室へ運ばれていった。中には正気を失い暴れ回る者も居たが、その時は麻酔銃で沈静化させられた。
この騒ぎを止めるには『龍』を倒すことが絶対条件らしい。
やがて咆哮が止み・・・・・・『龍』の七つの頭が順々に言葉を紡ぎ始めた。
それは破滅と絶望を告げる裁きの言葉だった。
『我ガ名ハ終末の龍』
『コノ世ノ終ワリニ現レル者』
『驕リ高ブル人類ニ死ノ鉄槌ヲ加エル者』
『汝ラノ流ス血ハ償イデアル』
『恐レ慄キ震エ、我ガ裁キヲ謹ンデ受ケヨ』
『裁キカラ逃レル術ハ無イ』
『世界ノ終末ハ此処ニ来タレリ』
その言葉は言語、距離に一切の関係なく、世界中の人間達に届いた。例え耳を塞ぎ、目を閉じたとしても-―――――――その声は、否応無く入ってくる。
その声を聞いた者達の反応は様々-―――――
絶望し、悲嘆に暮れる者。
やけになって、暴動を起こす者。
混乱に乗じて、略奪や火事場泥棒をする者。
これは『終末の龍』の放つ咆哮と言葉のためか、それとも人々の心の弱さが招いたことか。
いずれにしても、そういったことが世界中で起こり始めた。
その様相は黙示録の如し・・・・・・・・
世界は今、一人の「少年」の掌の上に堕ちたのだ。
東京都庁地下心霊対策本部会議室。
「くそ、ふざけた事ほざきやがって・・・・」
「取りあえず、あの『終末の龍』とかいう化け物を止めるぞ!! 話はそれからだ」
ペイモンと横島の言葉を切っ掛けとして、モニターを見ていた一同は、それぞれ行動を開始した。
『終末の龍』の迎撃にペイモンやミカエルを初めとする上位神魔のメンバーが向かい、横島や砂川も彼らに続く。
最早、この状況下ではデタント云々を言っている場合ではない。
「じゃあ、我々は人々の暴動を抑えよう。横島君、死ぬなよ!!」
「ああ、お前もな、似非紳士」
「人々が暴動を起こし始めた」という部下からの報告に西条や美神などの人間側の面々も慌しく装備を引っつかみ、これからの行動に備える。
そ
んな中、西条は横島に声をかけ横島も皮肉交じりで言葉を返す。そういった遣り取りの後、彼らはそれぞれの戦場へ向かった。
横島は『終末の龍』の迎撃へ。西条は人々の暴動を止めに。
医務室に運ばれた職員達とほぼ入れ替わるように、会議室へ入ってきたおキヌ、タマモやシロもそれぞれの言葉と態度を示し、西条や美神と共に戦線に加わった。
「さてと・・・・これは長い一日になるわね・・・」
それぞれの戦いに赴く面々を見送り、自らも現場指揮官として、戦場に出る美智恵は何ともいえない感情のこもった呟きを漏らす。
こうして、後に『黙示録事件』と呼ばれる世界規模の動乱の幕が上がった。
同じ頃、魔界の何処かにある地下宮殿。
「それにしても・・・・『終末の龍』なんて随分、気取った名前ねえ」
「まあ、いいじゃないか。あれは本物のサタンの化身というわけじゃないんだから・・・・デタント派の連中に対する皮肉もあるけどね」
使い魔から送られた映像と音声の内容にリリスは感嘆すると同時に、呆れたように呟く。
言葉をかけられた当の「少年」は全く応えた様子もなく、言葉を返した。
彼らの目の前には大型スクリーンに映し出された『終末の龍』とそれに挑みかかる神魔族の者達が映し出されていた。
彼らが居る部屋は暗く、まるで映画館のようであり観客はリリスと「少年」の二人だけ。
「何とも贅沢な見世物だ。黙示録さながらの情景をじかに見られるのだから」
「全くね、それとサルガタナス達は何処に行ったの? さっきから気配が感じられないんだけど」
「ああ、すぐにわかるよ・・・・・」
リリスの問いに「少年」は曖昧に答え、すぐに目の前のスクリーンに視線を移した。
彼の視線の先――――スクリーンには六枚の翼を背負ったミカエルと魔龍に乗った横島がそれぞれの剣を『終末の龍』に叩き付ける瞬間が映し出されていた。
その頃の西条や美神を初めとするGS達。
彼らは『終末の龍』の咆哮などを通した精神干渉を退けられる程の精神力を備えたGメンの精鋭部隊や警察の機動隊の助けも借りながら、暴徒と化した人々の鎮圧に乗り出していた。
今また西条の右手の麻酔銃が暴徒の一人の腕を打ち抜く。打ち抜かれた方は、数秒の後、地面に崩れ落ち、寝息をたて始めた。
「さてと・・・・これで、三十人目か・・・・まだまだ、先は長いな」
「ええ、気が抜けないわね・・・・」
言葉を交わす西条と美神の視線の先には、暴動を起こしたり、悲嘆に暮れる多くの人々の姿が映った。賑やかだった繁華街はまるでゴーストタウンのような雰囲気を醸し出している。他の地域も気になるが、まずは身近な者を助けるのが先だ。
彼らの中の何人かは美神達の姿を視界に捉えると襲い掛かって来るが、大抵の連中は麻酔弾などで気絶させられ、事無きを得る。
それでも、その数はまだ多く、街を埋め尽くしていた。挙句の果てには空に向かって暴言を吐いたり、店などのガラスを叩き割る者まで居る。その様子は麻薬中毒者そのものだった。
かといって、一般人相手に実弾を叩き込むわけにも行かない。
もっとも、火事場泥棒などは機動隊の手で取り押さえられていたが。
幸いな事に彼ら一人一人の力はそれ程強くはない。ただ、何かに操られたような虚ろな目が得体の知れない恐怖を誘う。都庁の地下本部から出発してから約三時間。最早、見慣れた光景になりつつある。何とも嫌な光景ではあったが。
「これもあの『終末の龍』の影響なのか・・・・・」
「だが、全ての人々がこうなってしまったわけじゃない・・・・・我々に助けを求めて来た人も居る。まだ、救いはある筈だ」
「そうね・・・・どの道、私達はやれる事をするだけね・・・」
沈んだ声を出す西条を唐巣が励まし、美神が自分達がやるべきことをかみ締めるかのように告げる。その言葉通り、やるべき事は目の前に山程転がっている。
聖職者らしい唐巣の言葉通り、人々全てがおかしくなっているわけではない。中には正常な思考を保っている人も存在しているのだ。そういった人々は保護され、Gメンの救護班から手当てを受けている。幸いな事に未だ死人は出ていない。
「それを言うならば、僕達よりも横島君達のほうが心配です。あの『終末の龍』の全長は数百メートル、かつて令子ちゃん達が交戦した『究極の魔体』よりも遥かに巨大ですから」
横島達が交戦している方向―――遥か彼方の太平洋上を見据えながら、緊張した面持ちで西条は呟いた。
こうしている間にも凄まじい霊波の乱れが伝わってくる。間違いなく、あれは壮絶な戦いの気配だ。
魔神や熾天使などの神魔屈指の実力者達を含んだあのメンバーでも、ただで済むとは思えなかった。
「大丈夫ですよ、横島さん達なら・・・・・」
「そうでござる!! 先生はあんなデカ物に負けないでござる!!」
「そうよ、あいつが負けたら、油揚げ奢ってくれる奴が居なくなるじゃないの」
Gメンの救護班のサポートとして、混乱の中から助け出された者達にヒーリングを施しながらおキヌ、シロとタマモの美神除霊事務所の三人娘が、それぞれの口調で力強く言い切った。
シロやタマモも『終末の龍』の精神干渉に大分慣れたらしい。犬神族の彼女達の霊的なものに対する耐性は並の霊能者より遥かに高いと思われるので当然ともいえたが。
「ああ、そうだね。僕達もしっかりしなくては・・・・」
彼女達の言葉に頷き、脳裡に『戦友』の顔を思い浮かべた西条は、新たな決意と共にミカエルから渡された聖剣の柄をしっかりと握り締めた。
それから、さらに間も無くして-――――――その男は闇と共に現れた。唐突に、何の前触れもなく、彼らの前に。
「ほう・・・ここに居たか。久しぶりだな、西条」
先に進む彼ら――――正確には西条にかけられる声。それに伴う血みどろの狂気。
西条達の目の前には、しばらく前にロンドンで死闘を演じた相手――「斬撃狂」の異名を持つ「地獄の准将」が陰惨な笑みを顔に貼り付け、悠然と立ちはだかっていた。
「ああ、久しぶりだな。サルガタナス・・・」
負傷者を後ろに下げる美神や唐巣の気配を背中越しに感じながら、黒い片刃の剣を携えた「地獄の准将」を見据え、その敵に西条は鋭い視線を添えて聖剣を向けた。
その聖剣の名は-―――――
後書き 横島を初めとする神魔メンバー対『終末の龍』、西条と雪之丞(あとついでに美神)を初めとするGSメンバー対『地獄の准将』サルガタナス。二局の戦い。ですが、神魔の武器を持った西条達でもサルガタナスは強敵です。ごめんなさい、おキヌちゃんの活躍は次回になりました。
西条の剣の名は次回明らかに・・・・・名前はセフィロトの樹のカバラの一つから取りました。(マルクトやコクマーとかいう奴です)←実はまだ決めていません。どれがいいかなー。
あれ、西条ってこんなにかっこいいキャラだったけ?(オイ)
今までの
コメント:
- さすが突出激情サルガタナス……とっとと復讐戦に出ましたか。
対するのが似非紳士一人だけならまず間違いなく素直に実力差がものをいうだろうけど、チームでぶつかる以上、どう転ぶか……期待を込めての賛成票です。
でも、兵站を預かる者がこんな風に激情型じゃ……不祥事起こさなくても追放されますわな、こりゃ。 (すがたけ)
- 西条の剣の名前、セフィロトの樹のカバラですか?!あの拒絶のルキフグスとかのですよね。かっこいい〜!
終末の龍とやらですが、サタンは自分のまがい物出されて腹が立ったりして。その重い腰をちょっと上げてくれればもっと面白いことになりそうかな〜、なんて。
1500年前にこの終末の龍がらみで竜神族に何かあったみたいですが、時期的には高島やメフィストのころのさらに500年前ですか。何があったかキになるとこです。竜神といったら小竜姫やメドーサもからみそうですしね。 (九尾)
- 状況的には西条たちは南極でのパピリオ戦に被っています。サルガタナスとパピリオを比べるのが、間違いのような気もしますが・・・・
九尾さんの仰るとおり、竜神族には1500年前、重大事件が起こっています。サタンは動かしにくいです。ここぞという時に動きますが・・・・
サルガタナスは頭は切れるし、腕も立つんですが性格が・・・・この狂気がこいつの強さなのですが・・・・ (アース)
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