ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦7−1 『Let's Go To The Sea!』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 9/ 4)

蝉の鳴き声が鳴り止まぬ、暑い夏の昼下がり。

空調の効いた室内で、身の丈二メートルを軽く越える大男が、せっせと事務作業に勤しんでいる。

「エミさん、昨日の依頼の書類整理、終わったんじゃガー?」

「早いわね、ならオタクはもうあがっていいわ。」

小笠原エミの事務所。所長のエミとタイガーが話をしている。

「まだ昼過ぎですが、良いんですかノー?」

「今夜はデートなんでしょ?
早めに帰って準備するのね。」

大男がギクリと身構える。

「昨日の魔理ちゃんの様子を見てたら誰でもわかるワケ。
今日残ってる依頼はもう無いんだから、オタクが残ってても意味ないのよ。」

「それもそうですノー、ならお先に失礼させてもらいますジャー。」

日付は八月一日。
そろそろGSの稼ぎ時に突入する頃である。

ちなみに事務所の残りのメンバー、伊達雪之丞と弓かおりは除霊に行っている。
この大男の彼女である、もう一人のメンバーの一文字魔理は休みをとっていた。

所長としてはこの忙しい時期だからこそ、休める時に休ませてやりたかった。
彼らはチチシリフトモモに釣られて過酷な生活に耐えられる、どこかの煩悩超人ではないのだから。

珍しく人が居なくなった事務所で、エミがゆったりと伸びをする。

考えてみれば最近は忙し過ぎて、こうしてくつろぐ暇さえ無かった。
気を利かせてタイガーを早めに帰らせてやったのだが、自分にとっても都合が良かったかもしれない。
自分でコーヒーを淹れて味わっていると、来客を知らせるチャイムが室内に鳴り響いた。


呪術を扱う職業上、突然の来訪者は好ましくない。
インターフォンをとらずに無言で防犯カメラのモニターに目をやる。

(知らない顔ね……若い男と女か……男の銀髪は地毛かしら?
良く見えないけど、結構タイプかも……ま、おかしな気配は感じないし話くらいは聞いてみるか……)

「依頼人」という可能性は最初から考えてもいなかった。
そもそもアポ無しで訪ねてくる依頼人など、信用出来る訳がない。

エミがインターフォンを取ると向こうの声が聞こえてきた。

『返事が無いですね。寝てるのでは?』

『人の気配はするのだが……借金取りとでも勘違いされたのかもな。』

普通の人間は室内にいる人間の気配など感じ取れない。
エミの警戒心がざわめき始めた。

『あれ、エミさんって借金があるんですか?』

『さあな。
美神令子に負け続けて経営は上手くいっていないらしいが……』


―――ブチッ!―――


「オタクらいつの話をしてるワケ!?今は私の方が勝ち越してるわよ!!」

ライバルの名前に反応して思わず怒鳴ってしまった。
インターフォンの受話器を持っていたので、当然向こうには筒抜けだ。

『何だ、やはり居るではないか。』

『こんにちは、エミさん。お久しぶりです。』

内心、しまった!と冷汗を流すエミを余所に、向こうは呑気に話している。

男は今「久しぶり」と言った。
気を取り直して二人の顔を良く見てみる。

「オタクら、もしかして!!」

『久しぶりだな、小笠原エミ。取り敢えず中に入れてくれないか?』


























「と、まあこういう訳でな。今日は挨拶がてらに顔を出したのだ。」

ワルキューレが今回の出向の説明を簡単に済ませていた。
手元にはエミに差し出されたアイスコーヒーが置かれている

「なるほどね。
最近神父の教会の景気が良いって聞いてたけど、オタクらが一枚噛んでたってワケね。」



「……景気が良いだと?」



ピクリとワルキューレが反応する。
こめかみにはハッキリと青筋が浮かんでいる。

「あ、あれ?
結構高額の依頼を解決してるって聞いたんだけど?」

いきなりワルキューレの空気が変化したので、ちょっと引いてしまった。
なにか不味い事でも言ってしまったのだろうか?。
隣のジークの方に目をやると、ハラハラしながら見守っていた。

「ああ、そうだな……確かに高額の依頼を解決したのは事実だ。
私がやりくりして、神父の老後のために纏まった財産を確保してやったのも事実だ……。」


―――ピシッ!―――


ワルキューレの持つガラスのコップに亀裂が入る。


「それを、あの馬鹿は……!」


ワルキューレはうつむいて怒りに身を震わせている。

――ワルキューレ、どうしちゃったの?
神父が何かしたワケ?――

エミがジークに小声で聞いている。
ジークも同じように声を潜めて答えた。

――それが……神父はせっかく貯めた資金をほとんど慈善団体に寄付してしまったのです。
清々しい表情で『神に仕える者として当然のことをしたまでだよ』と微笑んでいたのが印象的でした。
他にも何か言いたそうでしたが、喋る前に姉上の渾身の右ストレートが鼻筋を打ち抜いていましたからね
……いったい何を言おうとしてたのか……
気絶しながらも、満足そうに微笑み鼻血を流す神父の姿を、僕は決して忘れないでしょう――

ふう、とジークが遠い目をしながら溜め息をつく。

「そうそう、その怪我で神父が入院中なんですよ。
エミさん、困ってることは無いですか?
どうせ神父は当分動けませんし、僕たちに出来ることなら力になりますよ。」

ニコニコしながらエミに話し掛けている。
言われたエミは考えをめぐらせた。

「……なんでも良いワケ?」

「もちろんです。」

「なら、私とピートの仲を――――――
「色恋沙汰以外でお願いします。」

ピシャリと撥ね付けられた。

「なんでよー、なんでも良いって言ったじゃない。」

「ハハハ、他人の色恋に首を突っ込んだらロクな目に逢いませんからね。」

口元は笑っているが目は全く笑っていない。
それどころか噴火前の火山のようにじわじわと霊圧が高まりつつあった。
恐らく以前他人の色恋に首を突っ込んでよほど嫌な思いをしたのだろう。

「わ、わかったわよ!何か別のにするから、落ち着くワケ!」

慌てて取り下げ、別の願いを考える。

「………………うーん……無いわね。」

しばらく考えていたが、やがてぽつりと呟いた。

「人手は充分だし、今は令子にも勝ち越してるワケ。
だから別にオタクらの手を借りる事は―――」

と、その時エミの言葉を遮るように電話が鳴り出した。

「はい、こちら小笠原事務所です。
ええ、はい―――それは……珍しいですね―――
はい、お気持ちはわかりますが―――
初めて聞くケースなので、検討してから答えさせて頂いてかまいませんか?
ええ―――では一時間後に折り返して連絡させていただきます。」

相手の連絡先を書き留め受話器を置く。

「依頼ですか?」

「そうなんだけど、ちょっと珍しい除霊なのよ。」

「というと?」

「漁業組合からの依頼なんだけど、鮫の悪霊が出るらしいのよ。
漁や養殖の邪魔だからなんとかして欲しいらしいんだけど、魚の悪霊なんて初めて聞いたわ。」

「引き受けるのか?」

ようやく怒りがおさまったのか、ワルキューレが会話に参加する。

エミは腕を組むと、どうするか考え始めた。

「……止めとくわ。海の知識が無い私たちじゃ、いくらなんでも海の上での除霊はリスクが大きすぎるワケ。
漁師の知り合いでもいれば別だけどね。」

「む、それなら丁度いい。ジークなら漁師の経験があるぞ。
ここは我らが一肌脱ごうではないか。」

次の任務を見つけ、ワルキューレは嬉しそうだ。

「……ホントなの?」

流石にエミは疑わしそうにジークを見ている。
普通の魔族は漁などしないのだから、信じられなくても無理はない。

「ふふふ、今では銛一本あれば鯨でも調達できますよ。」

自慢げに胸を張るが、どう考えてもそれはすでに漁とかいうレベルではないと思う。

(……上級魔族が二人も協力してくれるんだから何とかなるわよね。)

どことなく不安だったが、引き受ける事を決めたようだ。

「じゃ、明日の朝出発するけど、遅れないでよ。」

「うむ、任せておけ。ところで目的地はどこなのだ?」




「……沖縄よ。」


























次の朝、空港でジークとワルキューレが同行することを聞いた四人は驚いていたが、特に反対する事はなかった。
以前雪之丞に売られたジークも、仕返しは済ませていたのでもう気にしていないようだ。

和やかな雰囲気のまま、一同は沖縄へ飛び立って行った。




沖縄に到着した一行を、雲一つない、抜けるような青空が出迎えてくれた。
都会にいると苛つくだけの暑さも、場所が変わると途端に好ましく感じるのだから不思議なものだ。

「これからどうするんだ?エミの旦那。」

空港から出た雪之丞は既に臨戦態勢だった。
珍しい悪霊が相手なので戦いたくてうずうずしているようだ。

「依頼人と打ち合わせしなきゃいけないから、除霊するのは明日になるわね。
それまでは自由に過ごしてて良いワケ。」

「マジか!?」
「良いんですかノー!?」
「いいんですの!?」
「さすがエミさん!」

思いがけない幸運に若者達が顔を輝かせていた。
持って来た水着が無駄にならずにすんだからだろうか。

「僕はここの海の事を聞いておきたいので、エミさんについて行きますね。」

「私も同行しよう。」

「なら、荷物をホテルに運んだらあんた達は好きにして良いわ。
でも仕事前に問題おこすんじゃないわよ?」

若者達は素直に頷くとレンタカーに荷物を積み込み走り去って行った。



「随分優しい上司だな。」

走り去る車を見送りながらワルキューレが珍しくからかうように声をかける。

「ぞ、ぞろぞろ人を連れ歩くのは好きじゃないのよ。
もともと一人で行動する方が楽だから、一石二鳥なワケ。」

髪をかきあげながら告げるとさっさと歩き始めていた。
耳まで赤くなっていたので、素っ気無い態度は照れ隠しのつもりなのだろう。


























何の変哲も無い民家でエミ達はこの家の持ち主でもある依頼人と対面していた。

「おお!まさかこれほど早く来て頂けるとは思いませんでした。
私は組合の長をしている水島と申します。
組合を代表してお礼を言わせてください。」

依頼人の初老の男が頭を下げながらエミの手を握る。
よく日に焼けた肌といい、引き締まった頑強な体つきといい、これぞまさに漁師といった風貌だった。

「別に、ただタイミングが良かっただけよ。
それより、鮫の悪霊らしいけど詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」

「は、はい。先週あたりから急に出没し始めたのですが、奴らは群れで行動し、船は襲うわ
養殖場は荒らすわでやりたい放題なのです。」

「ちょっと待って、複数いるワケ?」

「ええ、このままでは安心して漁に出る事など出来ませんし、
もしこの事がニュースにでも流れたら、今年の観光事業はおしまいです!
私たちは漁業組合ですが、同じ島民として皆で力を合わせてこの件を解決したいのです。」

と、その時軽快な電子音が部屋に響いた

「おお、観光の人間も来る予定になっていたのでした。
是非彼らの話を聞いてやってはもらえませんか?」

「どんな小さな事でも情報はありがたいワケ。こっちからお願いしたいくらいだわ。」

「それは良かった!おい、遠慮せず入ってくれ。」

水島が呼びかけると玄関の扉が開く音がした。


























白い砂浜、透き通るような海!そして雲一つない青空と輝く太陽!!

まさに地上の楽園といった様子の砂浜だったが、とある一角だけ異彩を放っていた。

泳ぎや日光浴に興じる二人の美女がいるにも関わらず、誰も声をかけようとしないのだ。
軽そうな見た目の男達が遠巻きに眺めていたが、誰もそれ以上近づこうとしなかった。
その理由は彼女達と一緒にいる二人の男が原因だった。

例え連れがいようと、声をかけようとする馬鹿な男はどこにでもいるものだ。
だがそんな彼らもあの二人が只者ではない事を肌で感じていた。

一人は岩のような大男でそこらのレスラーや相撲取りよりも明らかに巨大な体躯をしていた。
しかしどことなく愛嬌のある雰囲気をしている。
多分野生のパンダを見たときに皆こういうイメージを抱くのではないだろうか。

ここにいるのが大男だけなら声をかけるような者もいたかもしれないが
男達は、もう一人の小柄な男が恐ろしくて誰も近付けないでいた。

身長こそ成人男性の平均身長に届くかどうかといったところだが、
その肉体は遠目でもわかるほど鍛え上げられていた。
筋力トレーニングで身に付くような不自然な筋肉ではなく、無駄な部分を削り落とし
闘いのためだけに特化された、まるで野生の肉食獣のような肉体だった。





無意識のうちに湧き上がる恐怖のため、近付く事さえできない地元のワルガキ達が遠巻きに囁きあっている。

「もったいねーな、あれだけレベル高いのは滅多にいねーのに……誰か声かけろよ」

「馬鹿言うなよ……俺さっきあの小さい方とすれ違ったんだけど、とんでもねーカラダしてたぜ?
全身傷跡だらけで、どう見てもカタギじゃねーよ……なんか銃創みたいなのもあったし……マジおっかねぇ……」

「マジかよ……あの娘達、やっぱヤクザの娘さんかなぁ……」

「ああ、絶対間違いねーよ……あいつらがボディーガードなんじゃねーか?」

「ところでさ、なんか隣のプライベートビーチにすっげーイイ女がいるらしいんだけど、誰か見た奴いねー?」

「マジか!?見てーけど流石に勝手に私有地に入ったら捕まっちまうしなあ……」


「あ、おい!金髪の方がどっか行こうとしてるぜ!?」

「あー?行きたきゃ一人で行けよ。俺はまだ死にたくねーし。」

「……だよなぁ。俺ももう諦めるわ。」


ワルガキ達は肩を落としながらとぼとぼと退散していった。




ハイエナ達が退散していくのを横目で見ながら、雪之丞は辺りに注意を払っていた。
余計なちょっかいをかけてくる奴がいれば、即座に見つけるためだろう。

雪之丞が番犬の役をしてくれている事を知っているので、二人とも安心してビーチでくつろいでいる。

「あ、そうだ、何か飲み物買ってくるけど何が良い?」

金髪の少女、一文字魔理が起き上がり、タオルを首にかける。
色鮮やかな花柄のビキニを身につけ、腰にはパレオを巻いている。
明るい配色の水着は、彼女の金髪と相まって非常に良く似合っていた。

除霊のときは気合を入れるために逆立てている髪も、海で泳いだので自然に下りてきていた。
雰囲気がかなり変わるので、いつも顔を合わせていなければ、本人だとは気付かないかもしれない。

「飲み物ならワシが―――」

「いいから、いいから。せっかく虫除けしてくれてるんだから、これくらいさせろよ。」





飲み物を買って戻ってきた魔理にいつの間にか現れていた男が声をかける。


「ねえオネーサン!僕と一緒に一夏の思い出を――――――」


「おいコラ、人の連れに手ぇ出すとは良い度胸してるじゃねーか……」


気配を消して背後に立った雪之丞が殺気を込めながら万力のような握力で男の肩を掴む。


「ひぃぃぃぃ!これが有名なツツモタセってやつですか!?
勘弁してください!まだ何にもしてないんやァァァァァァァァァァァ!!!!」


振り返ったかと思うと見事な土下座を披露する男に、雪之丞が目を見開く。



「お前!!」



土下座しながら上目遣いに見上げる男も同様に目を見開いた。






「横島!!」
「雪之丞!!」

























「先生ぇ!どうしてわざわざ人のいるところに行くんでござるか。」
「どーせアンタのナンパは成功した事無いんだから諦めなさいよ。ってそんな格好で何してるの?」

プライベートビーチの方から二人の少女が横島に近付いてきた。

一人は透けるような銀髪に、片側だけ紅い前髪の活発そうな少女だった。
片側だけ短く切り揃えられたズボンから獣の尻尾のような物が生えている。

もう一人は黄金のように輝く金髪を頭の後ろで九房に分けた、どこか落ち着いた雰囲気の少女だった。
腰まで伸びた鮮やかな九房の金髪が太陽の光を受け輝いていた。

砂浜だというのに男を含め、三人とも水着を着ていなかった。

「そんな事言うな!美神さんもおキヌちゃんも依頼人とこ行っちゃったし、
お前らみたいな子供相手じゃつまらんのじゃーー!!」

膝に付いた砂を払いながら起き上がり、横島がつまらなさそうに人の多い砂浜を見渡している。
見渡す、といってもその焦点は全て若いネーチャンにロックオンされているが。

「ごめんなさいね、この馬鹿が迷惑かけちゃったみたいで――――――」

二人のうち金髪の少女が魔理と雪之丞に謝ろうとして、はっと身構えた。
落ち着いた雰囲気の少女―――タマモの変化に気づいた、活発そうな少女―――シロも半歩下がって身構える。




「吊り目!!」
「吊り目!!」




雪之丞の姿に気付いた二人が声を上げ、歯をむき出して唸り声を上げる。


「おいおい、落ち着けよシロタマ。」


不穏な空気に気付いた横島が間に入ろうとするが、タマモに蹴飛ばされてしまった。


「略すな!!」


普段なら師匠が足蹴にされればシロが黙っていないのだが、今は目の前の雪之丞に集中して、気付いていない。


「吊り目!ここで何をしているのでござるか!!」


今にも飛び掛かりそうなシロに、雪之丞が腕を組み不敵に鼻で笑う。


「ハッ!仕事に決まってんだろ?ワンコ娘。」



―――ブチィィッ!!!!―――


「……殺す!」

「今日こそ叩き斬ってやるでござる!!」


犬という言葉はシロの禁句の筈だが、雪之丞の言葉は明らかに二人に向けられていた。

キレたタマモの周囲には狐火が浮遊し、同じくキレたシロは既に霊波刀を抜いている。
いきなりの一触即発の修羅場にも関わらず、周囲の一般人達は気が付いていないのか誰も見向きもしない。





「ちょ、ちょっと、雪さん!仕事でもないのに喧嘩売ってどうするんですか!!」

慌てて魔理が三人の仲裁に入る。

雪之丞は呼び捨てで良いといつも言っているのだが、族時代の名残で
魔理は年上の人間を呼び捨てにするのは苦手だったし、これまた名残で言葉も軽い敬語で接していた。

「知らねぇなぁ?こいつらが突っ掛かって来てるだけだぜ。」

拳をゴキゴキと鳴らしながら、雪之丞も構える。
闘いを最高の愉しみとするこの男の表情は、既にやる気だった。

魔理は雪之丞を止めるのは無理と判断し、シロとタマモを宥めにかかる。

「おい、シロとタマモも落ち着けって!
プライベートまで喧嘩腰になるなよ!!」

おキヌと一緒に勉強していた時よくこの二人とも接していたので、魔理とかおりはシロタマと仲が良かった。
だが仕事でやりあった時に直接闘った、前衛の雪之丞はこの二人とは犬猿の仲だった。
それこそ、普段は意地を張って喧嘩ばかりしているシロとタマモが、一致団結して雪之丞と戦うほどに。

仲の良い魔理に窘められ、シロとタマモの勢いが弱まった。
今が絶好の好機と見た横島が仕上げに掛かる。

「おーい、あんまり騒ぐと美神さんに怒られるぞー?
水中大脱出はまだお前らには荷が重いんだから、大人しくした方が良いと思うぞー。」

雇い主の名前と『水中大脱出』が耳に入った瞬間、目に見えて二人の身体が震える。

「……わかったわよ。」

「……今は引き下がるでござる。」

渋々といった感じだが、素直に狐火と霊波刀を収める。
横島が二人を宥めながらプライベートビーチの方へ歩いて行った。
シロとタマモが去り際に雪之丞を親の仇を見るような目で睨みつけていたが、雪之丞はどこ吹く風だった。





「相変わらず仲が悪いみたいですノー。」

「おお、タイガー。ジャミングありがとうよ。」

危機が去った事を確認し、タイガーが雪之丞に話し掛ける。
一般人たちが何も気付いていなかったのは、タイガーの精神感応で注意を逸らしていたからだった。

「まさかこんな所でバッタリでくわすとは思いませんでしたノー。」

「お姉さま達も仕事かしら?
でもプライベートビーチに行ったみたいだから、きっと観光ですわね。」

弓かおりも話に加わる。

「いや、横島の奴は美神の旦那が『依頼人に会ってる』って言ってやがった。
こいつはもしかすると……面白い事になりそうだぜ。」

雪之丞はニヤリと笑うと、期待に胸を躍らせていた。

























「エミ!!」
「令子!!」

漁業組合の長、水島の家で『元祖犬猿の仲』の二人が顔を合わせていた。

「水島さんばかりに負担をかけるわけにはいかないので、
私どもの方でもGSの方を雇っておいたのです。」

観光業の取り締まりの男が美神を水島に紹介している。

「園田さん……ありがとうございます!」

自分達のためにわざわざGSを雇ってくれたと聞き、水島が男泣きをしている。
同じ島民の仲間じゃないですか、と和む二人を他所に、美神とエミが火花を散らしていた。

「しかも、二年前の大事件で活躍した超一流のお二人に来て頂けるとは……これほど心強いものはありません!」

素直に喜びを表現する水島と園田に、美神とエミが営業スマイルを交わしている。

「任せてください水島さん。必ず悪霊は私どもが解決して見せますわ。」
「園田さん、依頼を引き受けた以上万全を尽くさせていただきますので、どうか安心してくださいな。」

二人の仲が壊滅的に悪い事を知らない二人は心強い言葉に素直に頷いている。
後はプロ同士打ち合わせをする、と告げると二人とジークとワルキューレは水島の家を後にした。



人気の無い場所まで移動すると、美神とエミが向かい合い、再び激しい火花が散り始めた。

「久しぶりね、令子。連敗記録を更新したいワケ?」

「ハッ!まだ14勝15敗24引分けじゃない。
シロとタマモが使えるようになった今、勝てるとでも思ってんの?」

シロとタマモがまだ経験不足だったので、新しく小笠原事務所に加入した
雪之丞という突出した攻撃力を抑える事が出来なかったのが今までの敗因だった。

だが、シロとタマモが経験を積んでレベルアップした今なら条件は五分五分の筈だった。


しかし、その頃には本島のGS業界ではある噂が流れていた。

―――呪い屋に祟られても、美神は頼るべからず―――

理由は簡単、トップクラスの霊能力者が集まった両事務所が激突すると、辺りに洒落にならない被害が巻き起こるからだ。
その被害は、時には依頼人をも巻き添えにし、呪い屋は撃退できても結局被害は甚大になる事が殆どだった。
そのため、呪い屋に祟られても美神除例事務所は頼らない方が良いという暗黙の了解がいつしか広まっていた。


この噂のお陰で、シロとタマモが一人前になったというのに、両事務所がやりあう事はこれが初めてだった。
本島から遠く離れたこの沖縄までは、流石に悪い噂も届いていなかったのだろう。

頭に血が昇っていたのでこれまで気付いていなかったが、やっと美神がワルキューレとジークに気が付いた。

「あんたら、何でこんなとこにいるのよ?
…………ってまさか!あんたらエミの側についたんじゃないでしょうね!?」

噛み付く美神に申し訳無さそうにジークが答える。

「これも任務なので……すみません。」

「たまにはこういう事もある。」

申し訳無さそうにしているジークとは対照的に、ワルキューレは澄ました顔で答えていた。

「良い度胸してるじゃないのよ、あんたら……!
勝負よエミ!どっちが多く鮫の霊をしとめる事が出来るか、これで白黒つけようじゃない!!」

「望む所なワケ!!せいぜい3連敗に泣かないようにする事ね!!」

























―その夜―

食事を終えた美神一行は各自の部屋に戻っていった。
すでに明日エミの事務所と一戦やらかす事は発表していたので、明日に備え早く休もうとしていた。
昼間の一件の事も有り、シロとタマモは明らかに闘志を燃やしていた。
そしてここは横島の部屋。

――コンコン――

「はい、なんスかー?」

「私だけど、入っても良い?」

思いがけない美神の訪問に、ベッドの上でゴロゴロしていた横島が飛び起きる。

(これは……!まさか夜這いか!?ついにあの肉体が俺の物に!?)

いい加減、それは有り得ない事に気付いてもよさそうだが、素直(?)な彼はその事に気付かない。


慌てて、散らかっている部屋を簡単に片付け、緊張しながら扉を開ける。


そこには大きなダンボール箱を抱えた美神が立っていた。


「はい、これ差し入れ。」

と横島にダンボールを手渡す。

「なんです?コレ。」


首をかしげながらダンボールのガムテープを破り取り、中を開く。


「………………え、コレは何なんデスカ?」


かしげていた首をさらにかしげ、美神を見上げる。


ダンボールの中にはビデオやDVDが大量に入れられていた。
どれも封がしてあるので、全て新品のようだ。


『女子高生の放課後』
『狙われたOL!!』
『GS危機一髪!』
『淫乱人妻天国』
  ・
  ・
  ・
  ・
etc.etc......


明らかに18歳以下の男の子は見ちゃ駄目ですよ、的な内容のモノばかりだった。
ちなみに現在横島忠夫19歳。年齢的にはクリアーしていた。

「あんたの霊力の源は煩悩なんだから、これを使って限界まで高めなさい!」

いたって真面目な顔で美神がダンボールを指差す。






「あんたなァァァ!!いくらなんでもこれはセクハラやァァァァ!!
俺をどこまでヨゴレにすりゃ気が済むんですかァァァァ!!!!」


『使え』と言われて使えるほどプライドは捨ててない。
全力で抵抗する横島の襟首を締め上げながら、美神が強引に説き伏せる。

「あんたねー!同じ相手に3連敗なんかしたらこの業界じゃやってけないのよ!!
わざわざこの私が恥を忍んで買ってきてやったんだから、文句言ってんじゃない!!」

「煩悩高めるんだったら、いっそ美神さんの身体で――――――」

「そんな暇は無いのよ!!」

飛び掛かる横島を膝蹴りで撃墜すると、さらに背中をヒールで踏みつける。

「路頭に迷いたくなかったら、死ぬ気で『文珠』造りなさい!
私も自分の霊力を高めるために時間がいるんだから、あんたに付き合ってる時間は無いの!!」

踏み付けられていた横島がふと浮かんだ疑問を口にした。

「……それは時間があればOKという事ですか?」

「う、うるさい!!馬鹿言ってないで霊力高めなさい!!」

踵を返すと、さっさと部屋から出て行った。




「うーん、意外と脈あり?
言ってみるもんだなー。」

むくりと起き上がると鼻血を拭く。

「美神さんも珍しく本気で追い込まれてるみたいだし、俺も頑張らないとなぁ。」

溜め息をつきながら、ダンボールに手を伸ばしビデオのパッケージを吟味する。

「しっかし、こんなんでパワーアップする主人公なんていたら嫌だよなー。
エロビデオ見て特訓て、どんな奴だよ。少なくても少年誌じゃ無理だな。うん。」

はははー、と乾いた笑いを浮かべながら気に入ったビデオの封を破っていた。

























―後書き―

ええ、ギャグですとも。

それ以上に言う事はございません。

では。

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