ザ・グレート・展開予測ショー

くりみなる!


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 5/19)

 走る。走る。
 表通りを、路地裏を駆け抜け、塀を乗り越えて屋根に飛び乗り。
 走る。ただひたすらに突っ走る。

「くっ…」

 脇腹が痛い。
 呼吸が苦しい。
 あちこちぶつけた体が痛い。
 足だってパンパンに膨れていて今にも吊りそうだ。
 だが、止まるわけにはいかない。
 俺は、プロだ。
 プロの誇りに賭けて……

「未成年のガキなんぞに捕まってたまるかー!!」
「やかましい!いーかげんに諦めて捕まれこのスリがー!!」

 こっちはもうバテバテだってのに、追いかけてくる小僧はまだまだ余裕があるらしい。こっちの叫びに間髪いれずに返してきた。

「がふっ!ごっふっ!!」

 気力を振り立たせようと、無理に叫んだ反動でえずく。
 少し、距離が縮んだ。仕方が無い。こうなれば搦め手も使うか。

「た、助けてください!!バンダナを付けた、ヘンな少年に襲われているんです!!」
「なにっ!?本当か?」
「すぐ来ます!お願いします!!」
「お、おい君!!」

 街角にいたサラリーマン風の人間に適当に吹き込んで即座に逃げる。
 こう言っておけば、サラリーマンはあいつを捕まえて事情を聞こうとするだろう。その間に少しでも引き離す!駅まで逃げられればこっちのもんだ!

「待てぇぇぇ!!」
「なにぃ!?」

 くっ!もう来たのか!?っていうか空飛んでないか、あいつ!?

「超能力者かお前はー!!」
「霊能者だ!文句あっか!!」

 スリ人生4年目にして、もっとも厄介なヤツのサイフに手を出してしまったらしい。
 しかし、だからと言って諦めるわけにはいかない。
 諦めたらそこで試合終了……そうですよね、安西先生!バスケがしたいです!

「…そうだ!」

 駅に近付くにつれて増えてきた人ごみにまぎれ、一瞬で上着を脱いで裏返す。
 仕事柄、逃亡用にリバーシブルの服を普段から身につけているのを思い出したのだ。
 同時に歩調を周りに合わせて、目立たなくする。
 このまま人ごみに溶け込んで駅まで入れれば…

 ガシッ!!
「見つけたぜ」
「!?」

 肩を捕まれ、動けなくなった。
 どういうわけか、相手の腕を振り払うどころか、指一本動かせない。

「ったく…てこずらせやがって。思いっきり文珠使っちまったじゃねーか」

 手の平に“追”と“縛”の文字の入った光る珠を見せて、俺を捕まえたやつはそう言った。
 動けはしないがどうやら喋れるらしいので、俺は最後にどうしても知っておきたい事をヤツに聞いてみた。

「なぁ…これだけは聞かせてくれ。お前のサイフ…………いくら入ってたんだ」
「305円だよ」

 ………………は?
 聞き間違いか?
 必死の形相で、形振りかまわず逃げた俺を追っかけてきたとゆーのに、そのサイフの中身が…

「……305円?」
「305円だ。ちなみに、これで一週間過ごさねばならんのだが…持つと思うか?」
「いや、ムリだろ」
「だろーなぁ…」

 ズ〜ンという擬音を背負って落ち込むバンダナ少年。
 その姿があまりにも哀れだったのと、打算込みで俺は取り引きを持ちかけた。

「なぁ、ものは相談だが…見逃してくれんか?」
「あん?そんな事できるわけ…」
「見逃してくれるなら、俺の諭吉が一人君のものに…」
「どうぞご自由になさって下さい、お兄様」
「持ち掛けといてなんだが、中々ヨコシマなやつだな、お前…」




 そして、その日の夜。

「文珠を全部使い切ったですってぇぇぇぇ!!」
「か、カンニンやー!仕方なかったんや〜!!」

 某事務所で頭を抱えて逃げ回るバンダナ少年と、光る棒を持ってそれを追い掛け回すボディコン女性の姿があったという。

「しかもそうしてまで捕まえたスリを見逃したとは何事だぁぁ!!」
「な、なんでそれを!?」
「人の多い駅前で堂々と取り引きしてたら、誰か通報するに決まってんでしょーが!アンタが関わったと揉み消すのにいくらかかったと思ってるのよ!アンタとーぶんタダ働き!」
「そ、そんな殺生な〜!!」

 という具合に、バンダナ少年は中々自業自得な状態になっていたりするのだが。

「あいつ、どーしてっかなー?」

 その頃、スリのお兄様も結局捕まって、警察の留置所の窓から空を見上げつつそう呟いていたという。
 やはり、犯罪は割に合わないものらしい。

 <完>

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