ザ・グレート・展開予測ショー

聞こえてくる声


投稿者名:竹
投稿日時:(05/ 5/20)

 私は鈴女。
 本名は別にあるんだけど、人間の言葉じゃ表記できないからね。でも、私はこの名前も気に入ってるからノープロブレム。
 こう見えても、産業革命以来絶滅したとされる、妖精種の最後の一匹かも知れない女。最貴重種特別保護妖獣よ。
 一分だけ大きくなったり、物質に宿る精霊を呼び出したり、姿を消せたり、ご飯を30粒食べたり出来るわ。凄いでしょ。
 そんな私は、今、美神除霊事務所と言うところの軒先に居を構えています。ここは、とってもいいところ。かっこいい男の人もいっぱい居るし。みんな、何故か「私は女だ」って言うんだけどね。え? 横島? ああ……、そんな人も居たわね。ん、まあ、悪い人じゃないんじゃない? 鈴女、嫌いじゃないよ。巣を作らせてもらってる、人工幽霊一号とも仲良しよ。




 ある日、鈴女は一人でお散歩していたの。
 いちおー私は美神さんのところで保護を受けてる身なんだけど、けっこう自由はあったりするのよ。と言うか、もうちょい構って欲しいわ、旦那様。おキヌちゃん達もっ。
 そんな事に思いを馳せながら呑気にその辺を飛んでいたら、誰も居ない道のど真ん中で泣き崩れている人が居るのを見付けたの。
 それが凄いかっこいい人だったから、私はちょっと興味を持って話し掛けてみたわ。どうしたの、って。
 そしたらその人は、泣きながら応えたわ。
「うう……、アキハバラでオタク狩りに遭って、一文無しにナッテしまいマシタ……。矢張り、キカイ文明に毒された国は恐ろシイ……。日本、怖いトコロです……」
「へー……」
 オタク狩りって何だろう?
「おお、ソウダ。一つ道を尋ねても宜しいデスカ? コノ辺りに、美神卿のお屋敷がアル筈なのデスガ……」
「ああ、それなら……」
「――て、アナタは!」
「へ?」
 その人は、私の顔を見て急に驚いた表情を見せたわ。その顔には、先程までとは打って変わって喜色が浮かんでた。
「な、何、どうしたの?」
「あ、アナタはまさか、妖精デスカ……!?」
「え? ええ、まあ、そうだけど……」
「おお、妖精! 自然界の気が纏マッテ出来たとイウ、伝説の妖獣! 精霊石の上にアルと言われる我ガ国でさえ今や目撃例スラない希少種を、マサカ日本で見られるトハ!」
 そう一頻り叫ぶと、その人は「ありがたや〜」と私を拝み始めたわ。まあ、悪い気はしないけど、誰も居ないとは言え往来のど真ん中でちょっと恥ずかしいわね。え? 何お前、いまさら普通っぽいこと言ってるんだって? 放っといてよ。
「しかし、ナゼに妖精が日本ナンカに。コンナ事を言いたくはアリマセンが、キカイ文明に毒され切った日本ナドよりも、例エバ我がザンス王国の方が棲み易いのデハ? ……まあ、とは言え程度問題ダッタようですが。今時、機械に触レルナと言う王家ノ戒律を守ルノハ不可能だそうで」
「? よく分からないけど……、単純にキリスト教とかの文化圏より棲み易かっただけだよ。この国の気風は、私の存在を肯定するものだからね」
 私は思った。
 この人、何か物凄い勘違いをしているんじゃなかろうか、と。
「……ねえ、おにーさん」
「私は女デスガ、何でショウ?」
「て言うかさ、私、別に機械文明に囲まれてても棲み辛いなんて事は全然ないよ?」
 私のその言葉は、何やら余程の衝撃を与えたらしい。その人の表情が、目に見えて変化した。
「ど、どう言う事デスカ、それは。妖精のようなデリケートな生き物は、キカイ文明最盛の現代では絶滅シテしまったのだと――」
「あー、そんな話もあったね。でもさ、どうもこうもちょっと見ててよ」
 そう言って、私は近くに留めてあった車に手を翳す。
 呪文を唱えて、妖力を注ぎ込む。その存在の奥に潜んだ思念と心を合わせると、精霊は私の求めに応じて目を覚ましてくれた。
「フンガー」
「ほら、ね?」
 エンジンも掛かっていないのに、目を開いて動き回る乗用車に、その人は目を丸くする。
 そう、つまりは――こう言う事なのだ。
「こう言う機械にも、ちゃんと精霊は棲んでる。その証拠に、今、私の呼び掛けに応じて目覚めてくれたでしょ」
「な、ナント……」
「人が造った道具だって、自然界の一部である事に変わりは無いんだよ。この世に存在する物質の一つである事に何の例外も無いんだから、別に忌避したり危険視したりする必要は無いと思うけど」
 そうなのだ。
 この人の言葉の端々から感じられる、“自然を破壊する”工業社会への怖れと諦め。投げ遣りな、開き直りの賛同。
 全く、人間と言う奴は不可思議だ。どうして、こんな事で悩む必要があるのだろう。大体、そもそもが自分達の所業ではないか。
人間が他の生き物と隔絶した勢力を持つに至った理由の一つ、「道具」を創造する能力。けれど、それとてあくまで自然界の一要素に過ぎない。機械も、道具。どんな道具だって材料が無いと作れない、天からの恵みありきではないか。それを自然とは相反するものと定義するなど、思い上がりも甚だしい。
 ――と、大自然の精霊を操る私の目から見ればそんな感想を持つのだけれど。どうなのだろう、そんな簡単な話ではないのだろうか。
「……ナルホド。確かに、そうかも知れません。私は、ついこの間マデ鎖国状態にあった国の王宮の中ダケで暮らしてイマシタ。そんな無知な私の狭い見識ダケでものを見ヨウとするナド、愚かな事ダッタのですね」
「い、いや、そこまで言うつもりはないケド……」
「イエ、全くこの間ソレで皆さんに迷惑を掛けたと言ウのに、反省がなされていなかったヨウです。ソレを気付かせてくれたアナタに、感謝します」
「あ、うん……」
 鈴女、ちょっと退いちゃう。
 何て言うか、アツい人だなあと思った。自分の間違えを素直に認められる潔い人だけど、この人はちょっと思い込みの激しいタイプかも知れない。一つの解答を提示されたら、他の選択肢には目もくれず、それのみを一直線に信奉してしまうような人だ。
 悪い人じゃないみたいだけど。それにまあ、私的にはそれが正解でいいと思うんだけどね。
「と、ところでおにーさん、美神さんのお家を探してたんじゃなかったの?」
「あ、はい、そうデス。私は女デスが」
 これ以上言ってやれる事も無いので、深入りせずに話題を変える。ちょっと逆ナンするだけのつもりが、とんだ事になっちゃったなぁ。
「私、美神さんのお家知ってるよ。案内してあげよっか」
「本当デスか? ありがとうございマス! ええと、お名前ハ……」
「鈴女だよ、宜しくね。貴方は?」
「キャラットです。宜しくお願いシマス、鈴女サン」



「え、金貸して欲しい? いいわよ、精霊石で十倍返しね。お姫様なら、そのくらい払えるでしょ?」
「は、ハイ……」

 美神さんにお金を融通してもらうのは、鈴女あんまりお勧め出来ないな……。
「仕方ないのデス、美神卿以外に日本に知り合いが居ないのデスから……」
 あ、そう。

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