ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い50


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 5/ 4)

黒い片刃の剣を携えた男と神々しい輝きを放つ剣を正眼に構えた長髪の男。
彼らの間には殺気と緊張感をはらんだ空気が満ちていた。

「その剣・・・・成程、ミカエルの剣か」
「そうだ。剣の名前はケセド、セフィロトのカバラの一つで意味は慈悲・・・だが、お前には慈悲は必要無さそうだな・・・」
どこか鼻で笑う調子の黒い片刃の剣の男-――サルガタナスに対し慈悲の名を持つ聖剣を構えた男-――西条の声は静かだった。


「貴様なんぞに慈悲をかけて貰おうとは思わんさ。そのよく囀る首を飛ばしてやる。いくら強力な武器でも貴様には使いこなせまい」
そう言いながら、サルガタナスは悠然とした足取りで間合いを詰めていく。

そして、西条とサルガタナスの間の距離が一メートルを切った。西条だけではなく、美神達も臨戦態勢に入った。

間合いに入ったとのとほぼ同時に黒刃が閃く。
「く!!」
だが、西条は冷静に聖剣をずらして、受ける。

ビギイイン!!

お互いの剣がぶつかり、火花と金属音を奏でた。

「往生際が悪いじゃないか、たかが人間如きが」
「群れで行動する人間の『強さ』、味わってもらうよ」
嘲る敵に対し、西条も決然とした言葉を投げかける。まさにそれは宣戦布告。


こうして都市の一角で、戦いの狼煙は上がった。




「始まったわね、サルガタナスの殺戮ショー」
「そう、簡単に行くとは限らないさ。彼は群で行動する人間の強かさを見縊っている・・・」
「あら、そう?」
人界に放っている多くの使い魔達から送られてくる光景を映したスクリーンの一つを眺めながら、『夜魔の女王』リリスは怪訝な様子で尋ねた。

まあね、彼を行かせたのは、あくまでもついで・・・・・出来ればアシュタロス戦役の功労者の一人か二人を殺すか、重傷を負わせてくれれば、もうけものかな」

「少年」は目の前の映像から、視線を逸らさずに答えた。万一の話だが、サルガタナスが敗れても「少年」の計画に支障は無いらしい。
計画Aが頓挫しても、その穴を計画Bが埋める。または複数の計画が折り重なって、真の狙いを覆い隠すようになっている。
現に『不和侯爵』アンドラスと『一角公』アムドシアスの気配が微塵も感じられない。次の一手の下準備にでも出向いているのだろう。


といっても、シナリオ全てを知っているのは当の「少年」だけなのだが・・・・・・



(何にしても、私達が先手を打っていることに変わりは無いんだけど・・・・)
内心の呟きを口には出さず、リリスは改めて視線を別のスクリーン-――『終末の龍』関連の映像のほうに目をやった。




「グオオオオオオ-――――!!!」
『終末の龍』の七つの首の一つが咆哮を上げ、その口から強烈なエネルギー砲を放つ。

「ちい!!」
かわし切れないと見て、防御結界を展開し、さらに『防』と『壁』の文珠を発動。三重の壁が迫り来るエネルギーの奔流をギリギリではあるが完全に遮った。

「横島、大丈夫か!?」
「ああ、だが凄い出力だ。この怪物はちょっとやそっとじゃビクともしないぞ」
側に居たゴモリーの声に、召喚魔術で呼び出した馴染みの魔龍の背に乗った横島は、苦々しい口調で言った。

「確かに・・・・まるで『究極の魔体』・・・いえ、ある意味、それ以上ですね」
ガブリエルも緊張感を伴った声で横島の意見に同意した。彼女の側で、剣を構えたミカエルも無言で頷く。


はっきり言って、この怪物-―――『終末の龍』の七本の首から放たれるエネルギーの総量は『究極の魔体』の主砲のそれに匹敵しうる。無論、それに見合った威力も兼ね備えており、先程も海を引き裂き、島を数個程、吹き飛ばした。無人島だったのがせめてもの救いだが、このままでは大都市のほうへ上陸されてしまう。
さらに、数百メートルに及ぶ巨体と表面を覆う対神魔用と思われる硬い鱗によって、生半可な攻撃は通用せず、跳ね返されてしまう。
それでなくても、『終末の龍』の精神干渉によって、世界中で暴動や略奪が誘発されているというのに・・・・・・・既に数ヶ国では暴動を起こした市民同士が殺し合いを演じ、幼い子供や老人を含め、多数の死者を出していた。このままでは、時間とともに被害は拡大していくだろう。



「そうはいっても、こんな物を放っておいたら、益々えらい事になるわい。上陸する前に叩かねば・・・・・のう!!」
その言葉と同時に斉天大聖ハヌマンの如意金剛がブオンと唸り、『龍』の首の一つの眉間を直撃する。攻撃を受けた眉間から血が吹き出し、紫色の噴水を作り出した。

だが、そのハヌマンに別の頭から咆哮と共に言葉が紡ぎだされる。それは神々を穢す呪われた言葉であり、言霊と黒い光の奔流となってハヌマンに襲い掛かる。

『bahkggkkgbn,khgfhjuiopp・・・・・!!!』

「むう!?」
斉天大聖も間一髪で反射的に神気を張り巡らして、その攻撃を防ぐ。悪しき言霊の波は大量の神気と相殺され、空気中に霧散した。

この『終末の龍』は神族に対しては神を冒涜する言霊の攻撃を繰り出し、魔族に対しては物質化した神気の刃の雨を向けてくる。
即ち神と魔両方の竜族の属性を併せ持っているからこそ出来る芸当。
止めに神魔双方への有効な武器としては、純粋なエネルギー砲がある。しかも、その数は七つで威力も途轍もない。



「不味いな、このままじゃ埒が明かん。」
『終末の龍』の巨体を睨みながら、『西の王』ペイモンは考え込む。正直言って、自分達の攻撃が何処まで効いているのか。全く解らない、何しろあの巨体だ。こちらの攻撃など、蚊に刺された程度にしか感じていないかもしれない。渾身の、かつ正確に急所を捉えた攻撃でなければ・・・・・

(『究極の魔体』でもあれば・・・・いや、別の意味で不味い。決着云々の前に世界が滅ぶ)
確かに『究極の魔体』対『終末の龍』、絶対に見たく無いカードではある。

ペイモンは頭に浮かんだ恐ろしい想像を追い出し、べスパやワルキューレに命令を下し、自らも斬り込んでいく。




「ヒャクメ!! あの『龍』のエネルギー源とか弱点はわからない!?」
「えーと、エネルギー源はアシュタロスのエネルギー結晶の劣化版みたいなのが三つと『終末の龍』の内部に溜め込まれている竜族のエネルギーで動いているのね〜。弱点は・・・・・御免なさい、見当たらないのね〜」

小竜姫の声に申し訳無さそうに答えるヒャクメ。千五百年前に起こった竜神族大量失踪事件・・・・・行方不明となったのは大部分が幼い王族達だった。彼らは恐らく・・・・・・

(あの『龍』の材料にされたのね・・・・・惨いことを)
敵の非道さに歯噛みすると同時に恐怖も覚えた。下手をすれば自分もその犠牲者リストに載っていたかもしれないからだ。
彼女自身は既に妙神山の管理人に就任していたから、その惨劇の現場に居合わせなかったから免れたのだが・・・・・・・


「ヒャクメ様って、もしかして役立たずでちゅか?」
そんな小竜姫の暗い気分を振り払ったのはパピリオの無邪気な一言だった。言われたヒャクメの心情はまあ置いといて・・・・・・

「ひ、酷いのね〜、私は戦闘タイプじゃないし、索敵や探索が専門だからしょうがないのね〜」
相変わらず軽い口調はともかくとして、結構気にしていたらしい。



「ヒャクメの役立たずぶりは今に始まったことじゃなかろう。取りあえず、お主は下がっておれ」
「ハヌマン様まで酷いのね〜」
そう言いながらもヒャクメは後方に下がる。少々、彼女は涙目だった。どこまで本気かはわからないが。


「さてとパピリオ、わしが先程攻撃した頭に、お主の眷属たちの毒燐粉をお見舞いしてやれ。眼晦まし程度にはなるじゃろう」
「はいでち!!」
魔猿の狙いを読み取ったパピリオの号令と共に無数の蝶が『龍』の首−正確には目の部分に殺到する。たちまち、標的である『龍』の首は苦しげに唸り声を上げ、眼を瞬かせた。

べギイ!! ゴゴン!!

その一瞬の隙を逃さずに、燐粉の射程外から魔猿の如意金剛――如意棒がその名前の通りに伸び、眉間を二連撃で正確に打ち抜き、肉を深々と抉った。同じ部分−――しかも急所に直撃を受けるのは三回目。
流石にこれには参ったらしく、攻撃を受けた『終末の龍』の首の一つが下がり、激しい水飛沫を起こしながら海に沈んでいった。

「ふう・・・・こりゃ、骨が折れるわい・・・」
言葉とは裏腹に魔猿は愉快気に笑い、今度は別の首に如意金剛を叩きつけた。



残りの『龍』の首はあと六本。




「ふむ・・・・・あの戦法は使えるな、べスパ少尉!! お前も眷属を使って、撹乱しろ」
「は、はい!!」
彼らの戦いぶりを見ていたペイモンは呟き、鋭い声でべスパに命令を下した。
たちまちの内に無数の妖蜂が『龍』の周りを飛び交い、文字通り撹乱行動に出た。

「ワルキューレ大尉!! 精霊石銃で牽制しろ!! 俺がその隙に回りこむ」
「了解」
戦乙女が放つ銃声をバックミュージックにしながら、ペイモンは『終末の龍』の首の一つの上に舞い降りた。
「さて・・・・これでも喰らえ!! 忌々しい紛い物め」
『西の王』の魔力を超圧縮した左拳が鋭く眉間を抉り、頭蓋骨の砕ける確かな手応えが感じ取れた。

「ギャオン!?」
だが、相当ぐらつきはしたものの、一撃だけでは、まだ倒れない。
「流石にしぶといか・・・もう一度、叩き「将軍閣下、避けてください!!」 何!?」

べスパの切羽詰った声と迫る殺気に反応して、拳を引っ込めたペイモンは、その場から急いで飛びのいた。
次の瞬間、彼が居た場所に別の首が角を向けて、体当たりしてきた。

「こいつら・・・・思考パターンは単純らしいな。今の所、俺達を倒すことしか考えて無いのか・・・・・」
ペイモンの呟きを代弁するかのように、体当たりされた首のほうは先に喰らった攻撃のダメージと角を突き刺されたことで深手を負い、そのせいで海中に没していく。今の攻防を見る限り、七つの首同士の連携が取れていないのは明らかだ。

それでも、倒すのは非常に困難な事に変わりは無いのだが。


残りの首はあと五本。

「どうした、べスパ?」
「いえ、向こうにどす黒い気配が・・・・・」
ペイモンの声に答える彼女の視線は遥か彼方を鋭く見据えていた。その、どす黒い気配が膨れ上がる方向へと・・・・・・・






一方――――――これより、少し前、荒れ果てた街の一角。
「ちい!!」
サルガタナスは鋭く向けられた西条の聖剣を自らの黒い片刃の剣―――クリムゾンで受ける。その結果、鍔迫り合いになり、お互いの刃から火花が飛び散った。

「粘るじゃないか、ええ? フラフラのくせに・・・・・」
「ふ・・・・・英国紳士たる者、弱音は吐かないのさ」
サルガタナスの嘲る声にも動じず、西条は正面から言い返す。だが、聖剣ケセドを使う反動からか、精神力と体力をごっそりと持っていかれ、足元はふらつきかけ、斬撃を受け、あちこち切り裂かれている。

「だが・・・・悪あがきもここまでだ。死ね!!」
サルガタナスは西条に前蹴りを食らわし、後ろに跳ね飛ばす。

「ぐっ!?」
咄嗟に蹴りを剣の柄で受けたらしいが、衝撃を殺しきれずに数メートル後ろに吹き飛ばされる。
咄嗟に西条は剣を地面に突き立てて、跳ね飛ばされた勢いを殺す。おかげで、後ろにあったビルの壁に叩きつけられずに済んだが、その為に西条の動きが硬直し、剣も地面に刺さったままだ。

その隙を見逃さず、一瞬で間合いを詰めたサルガタナスが斬りかかる。
「もらった!!」


「私が居ることを忘れんじゃないわよ!!」
だが美神が右手に持っていたニーベルンゲンの指輪を盾に変えて、彼らの間に割り込む。

ガギイ!!

耳障りな金属音が響いた。つまり、サルガタナスの剣は盾に阻まれ、西条に届かない。
今度はそれによって、サルガタナスのほうに隙が生まれる。
そこに美智恵の持った竜の牙が伸びて、彼を串刺しにしようと迫る。だが、サルガタナスはそれも飛び下がって、かわす。それでも人間側の追撃の手は緩まない。
着地した所で、待ち構えていたかのように、雪之丞が特殊なペイモンから譲られた赤い手甲を装着した右拳で殴りかかる。
それをサルガタナスは体を捻って、かわし、コンマの差で回転斬りを繰り出した。だが、雪之丞はその斬撃を赤い手甲で受け止め、その反動で斜めに飛び、砂埃を巻き上げながら着地する。


「今ので、仕留められるかと思ったが・・・・見くびっていたな。アシュタロスが手こずる訳だ。群れになった人間がこれ程、厄介とはな・・・・」

「ふん、今頃になって気付いたの。あんたの目腐ってるんじゃないの?」
「くくく、口の減らん女だ。だが、そろそろ、地力の差が出て来る頃だな。西条を初めとして、息が切れ始めているぞ。あと、何分持つかな?」

強がる美神だが、彼女自身を始め、戦い始めて三時間にもなり、とうとう息が上がり始めていた。元々、体力は向こうが遥かに上、おまけにこちらは慣れない神魔の武器を使っているのだ。どう考えても不利に追い込まれている。
極めつけは敵の地獄の准将は手の内の全てを見せていないのだ。


(そう言えば、前に小竜姫の道具使った時もこんな感じになったけ・・・・)
美神の脳裡に昔の記憶が蘇る。確か、メドーサとの始めての激突の時だった。あの時と今ではどちらがマシだろうか。


「それじゃあ、死んでもらうか。今度は防ぎきれるかな?」
無情な言葉と共に、サルガタナスが再度切り込んでくる。最初の標的は未だダメージが抜け切らない西条。今度は雪之丞や美智恵も間に合わない。
だが、そのサルガタナスの行く手を数多の魔族の死霊が阻む。
「また貴様らか!!」
戦いが始まった時から、ここぞという所で、邪魔してくる。こいつらはネビロスの『死霊大隊』の一部の連中だ。数にして、数十名。魔族とはいっても死霊の身であるために攻撃力は低いので、今まで放っておいたが、今度の攻撃は今までの中で最も目障りだ。

そんな死霊の群れに気をとられているサルガタナスの後ろから、唐巣が地面から引き抜いた聖剣ケセドで鋭い突きを繰り出すが、紙一重でかわされる。
「はっ!! いい性格しているじゃないか。後ろから、斬りつけるなんてな・・・・流石はベリアルを倒しただけはあるぜ」
「ふふふ・・・・美神君達の色に染まったのかな? 私も・・・それにしても、この剣があれば、べりアルの奴を倒すのはいくらか楽だったかもしれないね・・・」

苦笑とも冷笑とも取れる笑みを浮かべる神父。

「ほう・・・言うじゃないか。まあ、あんたみたいに腹に一物ありそうな奴は嫌いじゃないぜ。神父さん」

適度な間合いを取りながら、聖剣片手の唐巣と言葉の応酬を繰り返しながら、サルガタナスは周りの気配を探った。
死霊を用いての攻撃回数は数回と少なく、その操作もぎこちない所を見ると、操っているのはネビロス本人ではない。恐らくは別の人物―――――――――――


(まずは死霊を操っている奴から片付けるか・・・・・確か、このメンバーの中に死霊使いの小娘が居た筈・・・・・)

死霊使いは前衛向きではない為にネビロスのような例外を除いて、殆どの場合は後衛に配置される。恐らくは前衛に回った美神達の後ろなどに、その姿を隠して、攻撃してきているのだろう。

(だがな・・・・いくら巧妙に隠れても、死霊どもを操る霊波を辿れば、解るんだよ・・・・)

霊波を辿っていくと・・・・・思ったとおりだ。美神達の霊波に紛れて、巧妙に隠れてはいるが・・・・・・・美神達から数メートル離れた瓦礫の影に隠れて、ネクロマンサーの笛の音で見つからないように霊波で死霊達をコントロールしている。音を出さずに死霊を操れるようになったのは猛特訓の成果だろうが、今回は裏目に出てしまった。


「そこに居たか、小娘!!」

(そんな、見つかった!?)
思わず硬直してしまうおキヌ。

「おキヌちゃん!? 逃げて!!」
美神が切羽詰った叫びを上げる。



その瞬間、サルガタナスは巫女服の少女――――おキヌの眼前に瞬間移動し、そして何らかの行動を起こそうとしている心とは裏腹に、体が硬直している彼女に対し、無情にも剣を振り下ろした。




後書き おキヌちゃん、活躍したと思った瞬間、大ピンチに。彼女の命運は? 一方、『終末の龍』は攻撃力と防御力、精神干渉は非常に脅威ですが、個々の首の連携は取れていません。(それでも十分手強いですが) さらにこいつのせいで、世界中は大騒ぎになっています。それにしても、西条は相変わらず気障です。何気に神父が黒いです。

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