壊れた笛 2
投稿者名:居辺
投稿日時:(02/ 8/20)
4.
「ふ〜ん、そんなことがあったの?」
その日の夕方、おキヌは事務所に戻ってきていた。
美神は壊れた笛を前に、腕を組んでいる。
「その、岸田明日香って娘、気を付けた方がいいわ。この先どんな嫌がらせしてくるか分からないわよ」
「そんな危ないことないですよ。私たちまだ学生ですし…」
「学生だから危ないのよ。その子、目的の為なら後先考えないタイプみたいだわ」
まるで美神さんみたいですね。と言いそうなのを堪えつつ、おキヌは聞いた。
「この笛どうしましょう?」
「どうしておキヌちゃんに目をつけたのか分からないけど……。ん? ああ、笛のことだったわね」
「学校から電話貰った後で、厄珍に聞いてみたんだけど、新しいのをすぐに手に入れるのはかなり難しいわね」
「そうなんですか」
おキヌはやっぱりと目を伏せた。
「元々あの笛はかなりのレアアイテムで、厄珍がサンプルとして、やっと取り寄せたものなんだって」
美神は、電話越しに説明する厄珍を思い出して、クスリと笑った。
「作者は西インド諸島の、小島に住むネクロマンサーマスターで、ひとつひとつ手作りしているそうよ」
「厄珍は作るときの儀式がどうとか言ってたけど、そんなことはどうでもいいわ」
美神が顔の前で手をヒラヒラと振る。
「問題は買うにしろ修理するにしろ、時間がかかるって事よ」
「しばらくはネクロマンサーの笛無しで、過ごさなければならないんですね」
「頭痛いわね、仕事だってあるのに」
二人は同時にため息をついた。
「チィーッス」
横島がいつものように、能天気な挨拶をしながら入ってきた。
彼が見たものは机を挟んで、腕組みしたまま不機嫌そうに腰掛けた美神と、ションボリと立ち尽くすおキヌだ。
机の上には、おキヌが大切にしているネクロマンサーの笛が、バラバラになって乗っている。
「おキヌちゃん? どうした、美神さんにイジメられたのか?」
「ちくしょーー!! シホンカイキュウは我々をハクガイするのかーー!!」
「キョーサントーかキサマーッ、話を聞けーーーーっ!!」
ドガガガガガガッガガッガガガンッッッ!!!!
「あんたをイジメるならともかく、おキヌちゃんをイジメるわけないでしょうが」
5.
「しっかし、ものの見事にバラバラやな」
横島は割れた欠片を二つを合わせて、すき間を確認している。
「美神さん、接着剤でくっつけてみたらどうっスか?」
「そんなうまく行くわけ……」
美神は呆れたように言い返したが「ものは試しか」と言い直した。
早速各種の糊が用意された。
まずは木工ボンド。
「普通だったらこれッスけど、固まったときに硬度が必要だと思うんで、止めといたほうが良いッス」
セメダイン。
「あんまり化学系のものは良くないんじゃ……」
ご飯粒。
「これは駄目ね。カビが生えちゃいそう」
「どうすりゃ良いってのよ」
ものは試しと言ったものの、取り返しの付かない事態を怖れて、踏ん切りが付かなくなってしまった。
横島は「膠(にかわ)は手元に無いしな」と思案中だ。
「どうしたでゴザル?」
横島の肩越しにシロとタマモがのぞき込んできた。
「あ、ひどーい、ヨコシマが壊したの?」
「ちゃうわ! そう言えばどうして壊れたの? おキヌちゃん」
「学校で、無くしちゃって。見つかったときには壊れてたんです」
ふ〜ん、と横島。
「もしかして、イジメられてんじゃないのかな?」
絶句するおキヌに全員の視線が集まる。
「そんなことありませんよ。みんな良い人達ですし」
そんなこと信じられないとばかりにおキヌが否定する。
「じゃあさ、聞くけど、ヨコシマって良い人?」
タマモが悪戯っぽい眼で聞く。
「え? もちろんじゃないですか」
「それじゃ、美神さんは?」
「良い人、だと、思います」
おキヌは質問の意図を警戒しながらも答えた。
「おキヌちゃんにとって、悪い人ってどんな人?」
タマモの最後の質問に、おキヌは答えられなかった。
「おキヌちゃんは全て、善意に考えちゃうからなぁ」
横島の感想に美神達がうなずいている。
「え? でも……、だって……」
「おキヌちゃんはそれでいいのよ」
美神がおキヌの肩に手を乗せた。
6.
「任せておいて下さいな、氷室さん」
自信たっぷりに弓かおりが言った。
「必ず勝って、岸田さんに白状させて見せます」
再び霊的格闘の実習の授業がやって来た。
弓と一文字はさりげなくそばに居て、気を付けてくれているが、あれ以来、特に嫌がらせは無い。
「弓さん、まだ岸田さんと決まったわけじゃないんですから、そんなふうに決めつけちゃ…」
「無駄だよ。弓のヤツ、イっちまってる」
一文字魔理がおキヌにささやいた。
「人を危ない人のように言わないでいただけます?」
かおりはしっかり聞いていた。
「ともかく、証拠が無い以上、敗北感に打ちのめされた時につけ込んで、白状させるしかありませんわ」
そんな安易な方法で良いのか? 魔理は思ったが、学生の身ではできる方法は限られている。
法円の中で向かい合った二人は対照的な態度を見せた。
激しい敵意をむき出しにするかおりと、涼しげな顔の明日香。
合図と共に、かおりは水晶観音の術を使う。
普段、授業では使わないはずの水晶観音の術に、クラスのみんながざわめき出す。
対する明日香は扇を広げて、間に壁を立てるかのように突き出した。
相手の出方が分からないかおりは、うかつに出ることができない。
じっと明日香の出方を待っていると、扇がだんだん大きく見えてきて、その陰に明日香の身体が隠れて行く。
ちょっと戸惑ったがすぐに分かった。大きくなっているのではなくて近づいているのだ。
踏み込んで扇を払いのけようと、手を伸ばす。
だが、その手は空を切った。
掻き消すように扇が消えたのだ。
気がついた時には、かおりは足を払われて宙を飛んでいた。
天地が回って、地面に叩き付けられる前に、かおりの4本の腕が彼女を支える。
何事も無かったように、かおりは元の姿勢に戻った。
明日香はうっすらと笑うと、両腕を垂らした。
今度はそっちが仕掛ける番、と言うつもりなのだろう。
「甘いですわ」
かおりは胸の中でつぶやくと明日香に向かって駆け出した。
右の二つの拳を繰り出す。時間差で、一つを受けても二つ目が当たると言う寸法だ。
当然、明日香はバックステップでかわす。
かおりは踏み込んで左手を伸ばし、明日香の衣装を掴んだ。
衣装を引っ張って相手を引き寄せる。
明日香の身体が傾いてハイキックが首筋に飛んできた。
右の二本の腕で難なく受けられるはずの明日香の左足は、かおりの頭上を越えて、首を刈り取るかのように帰ってきた。
ガードが間に合わないと判断したかおりは甘んじて蹴りを頭で受けた。
頭がクラクラするが大したことは無い。
今や明日香の身体を4本の腕が捕らえているのだから。
明日香を叩き付けようと頭上に振り上げるかおり。
だが途中から4本の腕は急に軽くなる。
勢い良く振り上げられた腕は、頭上高く掲げられた。
後から抱えられたことに気付いた時は遅かった。
かおりは弧を描くように後に、頭から叩き付けられた。
通常ならそのまま病院送りに成りかねない衝撃を、かおりは水晶観音の力もあって耐えることができた。
ヨロヨロと立ち上がる。
明日香は下着姿でただ立っていた。息も切れてない、その顔には冷たい笑みが浮かんでいる。
かおりは自分の負けを悟った。
今までの
コメント:
- カオスのおっさんあたりなら直せる気もするが・・。
それでも、なおそうとする横島の職人根性がGood!!! (トンプソン)
- 第2回です。
書いてて気がついたんですが、弓と一文字って肉弾戦しかできない(原作に書いてない)んですね。
そのあたりを違ったふうに書きたかったせいか、最後にはバックドロップを書いてしまいました。
次回は明日の予定です。 (居辺)
- いっそのこと、過去に戻って笛を壊した犯人を八つ裂きにした方が簡単かも…美神さんならやりますよね(汗)。 (マサ)
- 文珠を使ってくっつけるとか...。ただ霊能アイテムがくっつけただけでまた元と同じように使えるようになるかは疑問が残りますが(笑)。オカルト絡み(らしい)ことになると冷静に対処する令子や、物事&人間関係を全ていい方向に考えるおキヌちゃん、ボケ的ギャグをいかんなくかます横島クンなどなど、キャラが軒並み怖いくらいに「らしい」動きをしてますね。弓の水晶観音でも結局明日香に勝つことは出来なかったみたいです(汗)。そしてそんな中果たしておキヌちゃん自身は明日香に対してどんな行動に出るのでしょうか? 次回を楽しみにしております♪ (kitchensink)
- トンプソンさん。
忘れてました。カオスなら直せそうですね。でも、直し方をうまく思い出せるかどうか。
マサさん。
過去に戻るのは、アシュ編の最後で、むやみにしてはならないと釘を刺されてますのでできません。
また、書いてる立場から言わせてもらうと、その展開は面白くないと思っています。
kitchensinkさん。
文珠で直したら変な効能がと言うのも面白いかも。 (居辺)
- 弓でも負けてしまいましたね…
この明日香という子はとても強いですね。 (3A)
- 3Aさん。はじめまして。
ここまでの話は明日香の強さを分かってもらう為にあります。
この後どうなっちゃうの? と思ってもらうのが目的なんです。 (居辺)
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ]
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa