ザ・グレート・展開予測ショー

血塗られた2月14日(二)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 3/ 5)

 


 吸血鬼。

 ドラキュラやバンパイアとして知られる闇の世界の住人。
 容姿は人に近く、いやそもそも元は人間であった彼らは、人知れずひっそりと・・・しかし気まぐれに美しい獲物の生き血を、そして心までもを狩りながら、人の世の闇を生きている。
 
「ハ〜ッハ〜ッ・・・フゥ、逃げきった・・・かな?」

 ここにも一人、吸血鬼と人との間に生まれた青年が居る。
 路地裏の陰にて、息を殺して身を潜めている。

『居た!あそこに居るぞぉぉお!!!』
「ーーーーーーっッ!!!」

 青年はたまらず飛び出す。
 路地裏の人目につかない空間から、追っ手が自分のところへと殺到する前に、次は大通りの人波に身を隠そうとーー・・・
「・・・あら?」
 一人の女性と視線が交わる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 ーーー沈黙。
 青年の方は来る『爆発』を予感し固まっている。
 女性の方は心のざわめきに戸惑いつつも、『起爆スイッチ』にその指先を伸ばそうとしている。
 そしてーーー時は満ちた。
『キャァ!誰か来て!ここにものすっごくムカつく奴・・・』
 またもーーー沈黙。
 叫び声の間、女性の叫びに周囲の好奇の眼が向けられるより先に、青年は霧のように姿を消していたーー・・・

 ドシャガランッッ!!!

 無我夢中の逃走から実体化した青年は、前方にある残飯の詰まった箱に顔から突っ込んでしまった。
『フギーーーフギャギャギャ!!!』
「わああああ!!!?」
 泣き面に猫の群れ。
 飯店の残飯をあさっていた野良猫達が、青年の顔やら腕やらを引っかきまくる。
 特に雌?の猫は飢えた獣も逃げ出す勢いだ。
「あああああ!!!」
 無論、青年も逃げ出した。というかそうせねば生命が危険にさらされていたところだ。
 ドシャドシャと、足元に散らばる何かにつまづき倒れそうになるが、必死に体勢を立てなおして逃げる。
 もはや青年、ピートには何故こんな事になったのかを考える余裕も無く、ただ救いを求める事しか頭には無かったーー・・・


「な、何するんですか!?」


 起き上がるや否や、ピートは女性に詰めよろうとして・・・
「近づかないでって・・・言ったのよ!」
 再びビンタをお見舞いされそうになった。
「わ・・・っ!」
 流石というべきか・・・不意うちでも今度はまともにもらわなかった。女性の細い手首を右手で捕まえて、キッと見つめる。
「確かに・・・よそ見してぶつかるのに気がつかなかった事については弁護のしようもありません。ですが・・・え?」
 そこでピートは気づいた。
 女性が何やら自分の足先を見つめるように顔を伏せ、小刻みに体を震わせている事に。
 力無くうなだれ、まるで捕まえられた小鳥のようにはかなげなその女性の仕草は、保護せねばと思わせるに充分だった。
 ザワザワ・・・ザワザワ・・・
 周囲のざわめきが耳に届く。
 チクチクと視線が痛い。敵意の眼差しが無数に全身に突き刺さってくる。
(・・・!ま、まさかこの状況は!?)
 手首を掴んでるのは自分。そしてそうされた女性は嗚咽の声までも出している。
 ここは天下の往来。辺りには無数の人家も在る。
 それらこの状況の全てに考えが及んだ時、ピートのとった行動といえば・・・
「すみませんっ!」
 謝罪だった。
 ピートはまだこの現状に、いや自分の顔というか、自分のキャラクターに甘えを持っていたのだ。
 仮に友人の横島がこの状況なら、情け容赦無くしょっぴかれるだろう。彼はそういうキャラなのだ。
 しかし。
 自分は違う。
 生まれもったこの美形キャラとしての役割、いや役得。
 同じ状況に放り込まれても、ピートには救いの手が・・・横島には断罪の手が。そういう似た経験を数多くしてきたピートは、それを無意識の内に己が心中に刻み込んでいた。
「女性に膝を着かせるなんて・・・僕はなんて罪深い・・・」
 まるで自分に酔うかのように目を伏せると、絵になる苦渋の表情を見せる。
 何度も言うがーーー無意識。彼は自覚していない。
 しかしこうした行動により、自分なら窮地から脱せる事を彼は・・・ピエトロ・ド・ブラドーは本能で知っているのだ。
 だが!
「は・な・し・て!って言ってんでしょ!!?」
 ドガァッ!
 ーーー拳。
 ビンタではない。今度は拳。
 流石に不意を突いてのみぞおちに一撃というのは、ピートにとっても効果抜群だった。
「ぜ〜っぜ〜〜〜・・・・・・ふんっ!」
 女性は最後の最後まで、一切変わらぬ侮蔑の眼差しをこちらに送って去ってゆく。
 何に困惑すれば良いのか・・・女性の変わり身の早さに?自分の(無意識の)オトシ文句が効かなかった事に?
 ゲホゲホと咳こみながらそんな事を考えるピートの肩を、誰かが叩いた。


『あの〜〜・・・暑までご同行願えませんかね?』




 真なる血塗られた日。


 その幕が上がろうとしていたーー・・・






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