結局 ―後編―
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/ 8)
失恋の痛手は癒えない、変に期待を持たされてしまったからそれも仕方がない、と思う。冷静に考えれば、冷静に考えなくとも分かることなのだ。あの女が俺を好きなはずがないことくらい。
っていうか、好きであって欲しくないタイプの女なのだ。まぁ、そう思わなけりゃやってられない、って感じだが。
あれから、自分でも信じられない程のスピードで下山し、麓の町に下りてきた。それ程大きい町ではないが、電車を使えばどこにでも行ける。雪之丞にも、弓さんにも所持金は奪われなかった。ひょっとすれば、薄給で苦しむ俺の財布を取らないまでの理性はあったのかもしれない。
―――それなら、拉致るなよ、って話だが。
通り過ぎる車の姿もまばらで、人の気配はあまりない。こんな所にいたら簡単に捕まってしまうかもしれない、が走っても、捕まるもんは捕まるのだ。開き直って、思いっきり走った。何かいろいろ間違っている気がするが気にしない。山のすぐ傍を流れる川の上にかかる橋を通り過ぎるときに見た市街地の地図に載っていた駅の場所を目指す。そこまで離れていなかったので、すぐにそこにたどり着いた。そして、古びた駅の中に駆け込む。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
流石に疲れたので、息を整える。寒さと乾いた空気の成果、口の中が乾いて仕方ない。そんな俺に頬に温かい感覚が当たる。それは誰かの手にぶら下げられた缶コーヒーだった。それは、俺の目の前に置かれる。
「・・・どうもっ」
プルタブを起こすと、一息で飲み干す。そんな俺に、コーヒーをくれた人が声をかけてくる。
「よぉ、横島」
おぃ・・・。聞き覚えのある声。服装、目鼻立ち、容姿、低い背。
「・・・雪之丞、てめぇ何でここにいる?」
缶を握りつぶしつつ、聞く。
「何か、電車を乗り継いでたら・・・な」
どこか照れくさそうに、はっきり言っておくが、まるで格好良くない。いや、むしろ格好悪い。
「何が・・・な、っだ!こっちはあの後、弓さんに雪山で・・・」
弓さんの名が出た途端、彼の顔が変わる。口元に浮かべていた笑みは消え去り、顔色はこれでもかってくらいに悪くなる。―――こいつ、分かっててここまで来たんじゃないらしい。
「・・・弓の奴がいるってのか・・・?どこだっ!?どこにいるっ!?」
俺の胸元を掴んで聞く雪之丞。聞き方ってもんがあるだろうがっ、と思いつつ(思うだけ)俺は咳き込みながら答える。
「ごほごほっ・・・雪山。っていうか、こっちに向かってんじゃねえのか?」
「・・・横島ぁ・・・、俺は覚悟を決めたぜ」
ぱっ、と話される手。彼の顔を見ると、そこには覚悟を決めた『漢と書く方のおとこ』の顔があった。
「・・・!そうかっ!!」
「ああっ、あいつと決着をつけてやる!!今回のでよーく分かった。誰が誰の夫になるか、いわば『ご主人様ぁ』なのか、教えてやらなければならねえ!!」
「俺はフェミニストだからお前の言っている意味は分からんな」
俺は作業を終えると、時刻表を見る。あと、三分で電車が来るらしい。運が良かった、ここには一日五本も通らないらしい。そのうちの一本に間に合ったのだから。
「・・・横島?これはどういうことだ?」
後ろから友の声が聞こえる。無視したい気分だったが、一応答えることにする。答えよりも分かりやすい質問で。
「雪之丞、一つ聞きたいんだが。お前らの結婚前の夫婦喧嘩に、俺が巻き込まれるのは何故だ?」
無言―――。そして、この駅に向かってくる何かの音が聞こえる。―――電車の音が。彼の答えはなかった。俺は、待合室とホームを分ける仕切りの前に立った。そして、友の姿を見る。霊気を封じるロープでぐるぐると縛り上げられ、床に転がされている友の姿を。彼も、俺の顔を見返す。そして、口を開き―――閉じる。言うのを躊躇っているのか、そして、首を横に振った後、意を決したように、その口を開く。
「横島、逆に聞きたい、結婚後ならいいのか?」
―――――――ズドォォォォォン
俺はやって来た電車に無言で乗り込むと、(駅員が妙に顔を強張らせていたが気にしないで)そのまま半壊し、まだ燻っている駅を後にした。電車内に客の姿は殆ど見えなかった。二両編成の車両の、前の車両の中にいるのは俺を含め三人。居眠りをしているおばちゃんと、黒髪をストレートに伸ばした年頃の女性―――弓さん、ではなかった、が、知り合いの女性ではあった。
「・・・おキヌちゃん?」
彼女がこっちを向いた。笑顔だった。そう、俺の少し病み始めていた心をあっさりと癒してくれるような、素朴な美しいタンポポのような笑顔―――俺は胸が高鳴るのを感じた。
「弓さんが・・・、教えてくれたんです。横島さんが、ここにいるって」
そして、その胸の高鳴りは違った意味でのものに変わった。何か、ゴトッて音がした気がした。
知ってますか?横島さん・・・。危機的状況の中で過ごした男女は恋愛感情とその状況で感じた思いを勘違いするそうです。今、あなたの感じている恐怖が、私への愛に―――安心してください・・・。私はあなたのことが大好きです。愛してるんです・・・、犬娘や狐娘、竜女、軍服女、清貧少女、プッツン娘、強欲女とその妹なんかには渡しません・・・後はあなたが私に・・・(ぽっ)
がったんごっとんがったんごっとん
電車は一定のリズムで音を刻みながら進んでゆく。その中には、暖房が効きすぎているわけでもないのに汗をだらだらと流している青年と、その横に幸せそうな顔をして腰掛ける女性の姿があった。
今までの
コメント:
- 以上、正式タイトル『結局おキヌちゃん』でした。がったんごっとん・・・の前の段落のものは読み飛ばしても可です。っていうか、読み飛ばしてください。読んでしまった人・・・スイマセンでした(土下座) (veld)
- 読んでしまいました(笑)。雪之丞は予定通り(?)に弓のおかげでヒドイ目に遭ってめでたしめでたし、横島クンもおキヌちゃんと一緒に居ることが出来てめでたしめでたしですね♪(爆) 何気な〜くおキヌちゃんが考えていることがカナリ危険なものに感じるのは私だけでしょうか? チョットお茶目なおキヌちゃんに賛成票1票です(笑)。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- 笑えました!弓さんにあんな一面があるとは(笑)
そして、おキヌちゃんにも・・・(笑) (ユタ)
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ]
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa