ザ・グレート・展開予測ショー

休日


投稿者名:AS
投稿日時:(03/ 1/18)

 


 この朝は、僕がまた一つ昏い夜を越えたことへの、贈り物なのだ。

 日差しが透けるカーテンを開くと、そこに拡がったのはまるで僕の洋々たる前途を祝福するかのような、目映い光景だった。

 若干の名残惜しさも覚えたが、僕は静かにカーテンを閉じる。

「これ以上、僕の寝起きしたままの姿を衆目にさらすわけには……ふっ、いかないからな」

 僕が、これは少しばかり自己陶酔気味かな? と思いつつそう独りごちると、電話のベルが鳴り響いた。

「やれやれ……やはり僕は安穏とした休日は過ごせないらしい」

 電話のベルは電子音ではない。ということは、署から僕のところにダイレクトに送られてきた『依頼』ということなのだ……。

 手早く身支度を整えると、僕は既存のブランドではなく、僕の目にかなった『ブランド』のコートを羽織って宿り木を後にした。

(おかしい…な……)

 署からの依頼、それはGメンの初期メンバーの一人が、あろうことか職務中に悪霊に取り憑かれたため、それを極秘裏の内に『抹消』してほしいとのことだった。

(だが……どういうことだ? 僕のオリジナルチューニングを施された見鬼くんが反応さえしない……?)

 僕は一瞬、取り憑かれたメンバーの潜伏している筈の場所……つまり僕の今張っている場所が全くの見当違いなのでは? そう疑ったが、すぐにその考えを打ち消した。

(まさか、だな。あの見栄だけは一人前のGメンのお偉いさんがたが、不祥事抹消に手を抜くとも思えんし、な……?)

 そしてそんな輩にいつまで使われるのかな? と自嘲気味に微苦笑を浮かべた僕は、喧噪に満ち、禁止されてる筈の露店売りなどが横行する街をしばらく彷徨う。

 そうしてる内……そこで僕は、馴染みのある、しかし厄介でもある『気配』を感じて立ち止まった。

(いる……な……)

 相手は僕の霊力を敏感に嗅ぎ取って、警戒するかのように、そして己の存在を決して気取られないように……僕が今立ってる場所から死角となる場所で息を潜めているようだ。

(なかなか賢明。だな。しかし満点はやれないね)

 何しろ先ず気配が完全に消せていない。さらにこの僕の霊力を嗅ぎ取ったというのに、今だ後退りもしようとせず、じっとこちらの隙をうかがっているのだから。

(さて、僕はとっくに気が付いてるんだが……ここはやはり、誘うがベターかな?)

「おっとと!」

 目的などもなく、ただ街を徘徊するだけの、そんな若者に肩から強くぶつけられ、よろめく。

 そこで僕は見鬼くんを、路上に落としてしまい、慌てて拾おうとかがみこんでしまった。

 ビシィッ!!!

 その瞬間に、一つの意識がまっすぐに、僕の背後へと突き刺さった!

 僕は見鬼くんから目線だけは離していない。しかし既にその他の感覚、意識は、急速に接近してくる『気配』に向けてのみ集中されている。

 隙だらけである筈の、かがみこんだ姿勢は、瞬く間に相手の霊的な急所へ決定的な一撃を撃ち込むための、バネの形状となる。

 そうして僕が今まさに視線も動かした瞬間、僕の視界を埋め尽くしたのは、先程ぶつけられた? 若者の怒気に満ちた顔だった。

「ぶつかといて、あぁ!? んなガラクタ拾うより先にすんことあんだろぉ!?」

 なんてことだ! これではこの若者が攻撃を受けてしまう! そのうえ僕からもこれじゃ手が出せないじゃないか!!

 この状況、まさに一瞬にしてガラリと悪転した状況に、無力な僕はただ舌打ちを……。

(なんて、ね! そんなのは二流、三流のすることさ!)

 どう見ても全く気付もしていない若者に、急加速で肉薄した『気配』は、そこでその僕ら『二人』にふるった拳を止める。

 やがて、Gメンの老捜査官の姿をしたその『気配』は、薄まり縮められていくように掻き消えていった。

(ひゅ〜、間一髪ってとこかな?)

 かがみこんだ時、僕はもう一つ手を打っておいたのだ。

 落とした見鬼くんの瞳は、路上に落とす直前に取り憑かれていた老捜査官の姿をまともに見据えるよう、配置していた。

「そこで僕は、見鬼くんに僕の霊体を手早く滑りこませ、金縛りと破魔の法を仕掛けたというわけだよ、ワトソン君」

 そう言い口元に笑みを浮かべながら……僕は腰を抜かしてる様子の若者に、手を差し伸べた。

 その夜。

「この夜もまた……僕が明日に僕のままであるため、そう…用意された試練、というのかな?」

 片手にしたグラスに、酒気を残さぬ程度の量で注がれたワイン。

 それを、ゆっくり味わって飲み干すと、僕は心地よいまどろみに包まれてゆく。

 そして……僕は……。

「メルシー」

 短く、端的に、しかしこの瞬間の全てに、等しく『感謝』する言葉を呟くのだった。






































「ねぇ格好いいでしょう〜〜〜!? これがぁヒック! 僕の真実の姿! なんて華麗な休日! 貴方達が見てきたのって僕のまぁったく偽りの姿でね〜〜〜〜!!!」
「ああわかりましたよお客さん。でもね、お客さん。すいませんがもううちは閉店する時間なんですよ……。ああ、お客さんの頭こっちに向けないで。眩しいから……」

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