黒き翼(13−1)
投稿者名:K&K
投稿日時:(02/10/15)
タクシーを降りた場所から暫く走ると、今回除霊対象になっている家が見えてきた。玄関の所に人
影が見える。
「美神さん。」
横島が名前を呼ぶと、人影が此方を振り向いた。
「遅いわよ、横島君!。アパートからここまで来るのに何で一時間半もかかるの!。」
(だってしょうがないでしょ、交通手段が列車とタクシーしかないんスから)
口から出掛った反論の言葉は、美神の不機嫌そうなふくれっ面をみたとたん引っ込んでしまった。
こういう時の美神に下手に口答えすると、酷い目にあうということを既に身体が覚えている。
「すんませんっス。」
横島はこれ以上美神を刺激しないよう、反射的に頭をさげた。
「横島さん、お休みのところすみません。私達の力が足りなかったばっかりに・・・」
美神の代りにおキヌがねぎらいの言葉をかけてくれた。だが相当憔悴しているのかその表情は冴えな
い。本当は立っているのもつらいといったところだろう。タマモは既におキヌの隣で座り込んでいる。
「おキヌちゃんが気にすることないんだよ。どうせ美神さんがお札をけちったからこうなったに決ま
って・・・ギャンッ!」
まるでシッポを踏まれたシロのような悲鳴をあげて横島が吹っ飛ぶ。思わず漏れた本音を聞き逃さな
かった美神の右ストレートが顔面にヒットしたのだ。
(センセー、それをいったらおしまいでござる。)
(横島ってぜんっぜん成長しないのね。)
(あうううう・・・)
顔面血まみれで横たわる横島に美神を除く三人は三様の感想をいだいたが、それを敢えて口にする
者はいなかった。
「勝手なこといってるんじゃないわよ!。たかが5千万の仕事に1億も2億も装備をつぎ込めるわけ
ないでしょう!。それにこんなに手強い相手だなんて下見のときには全く感じられなかったわ。」
あとの方のセリフは呟きとなり、だれの耳にも届かなかった。
「さあいつまで寝ているつもり?、さっさと仕事にとりかかるわよ!」
美神は横島の足首を掴むとズルズルと引きずりながら家のなかへ入っていく。シロ、おキヌ、タマモ
も後につづいた。
「こりゃまた、ずいぶんと派手にやりましたねー。」
家の中に入った横島はあたりを見回してつぶやいた。顔面の傷はいつのまにか消えている。
そこは、まるで台風でも通った後であるかのような様相を示していた。床には破壊された家具の破片
が散乱し、壁には所々引っ掻いたような傷がついている。いくつか焼け焦げた跡もある。だが美神はそ
れらにかまう様子もなく、どんどん奥へ向かって歩いていった。
「正直、こんなことになるなんて思いもしなかったわ。依頼主の話や下見をしたときの印象からして
も、せいぜい家具を壊すことができる程度のちゃちな悪霊にしかみえなかったもの。それでも一応
は7千万分の装備はもってきたのよ。」
いつも強気な美神にしてはめずらしく、言い訳じみたことをいっている。よく見ると美神の服もあち
こち破れて肌が露出していた。
「今回の除霊対象は、自殺者の霊で名前は木村誠、この家のもとの持ち主で死亡時の年齢は34歳、
東京芙蓉銀行のエリート銀行員よ。」
「東京芙蓉銀行ってこの前破綻した・・・」
「そう。彼は融資部のエースで、将来の頭取候補の一人だったみたいね。来月には取引先の重役の娘
との結婚も決まっていたらしいわ。ところが、ここにきて銀行は破綻、当然婚約も解消、頭取候補
もなにもかもパアになっちゃった。おまけに融資部だったものだから破綻の原因を作ったっていわ
れて再就職もきまらなかったらしいわ。」
「天国から地獄へまっ逆さまってわけですか。」
『かわいそうな話でござるなぁ。』
シロがぽつりと呟く。おキヌも目を伏せていた。美神はシロの方をちらりと見て話を続ける。
「当然この家も売りにだされて新しい持ち主が決まったんだけど、2週間ほど前突然彼が刃物をも
って乗り込んできて、住人を追い出した後、自分の手首を切って家中に血を振りまいて失血死した
わ。」
「じゃあこの黒い染みは・・・」
横島は気味悪そうに足元の床や壁を見回す。
「彼の流した血のあとよ。」
横島は踏んでいた染みの上から慌てて足をどけた。そんな横島を鼻で笑い美神はさらに話を続ける。
「っとまあここまでは、今時それほどめずらしくも無い話よ。普通ならこの後、彼は私たちに簡単に
除霊されてこの仕事は一件落着するはずだった。」
「でも実際は、相手も結構手強かったってわけっスか。」
「そう。異常なくらいにね。あんた、ジェームズ伝次郎が人前で歌えるようになるのに散々苦労した
の覚えてるでしょ?。死んだばっかりの霊なんて通常はあんなもんよ。霊団を支配するなんて絶対
に不可能だわ。それに・・・、タマモ、あんた気がついてるでしょう。」
『うん。あいつ、力はどんどん強くなっているのに、霊気というか存在感みたいなものは時間がたつ
につれて、逆に弱くなってる。』
「私もそれは感じていました。それで、どうしてなんだろって思ってたんですけど・・・。」
『へっ、拙者そんなことぜんぜん気が付かなかったでござるよ。』
『だから美神さんはあんたにはきかなかったのよ。』
いつものように口喧嘩を始めたシロとタマモを無視して横島が口を開く。
「三人ともおかしいと感じてるんなら、ここはいったん引いて、装備を整えて出直したほうがいいん
じゃないっスか?」
「それがダメなんです。」
おキヌが申訳なさそうに事情を説明する。
「期日が今日の24時までなんです。」
「えーっ、なんでそんなギリギリになるまでほっておいたの!?」
「それが、美神さんが・・・」
口篭もるおキヌにかわり、美神が前を向いたまま答えた。
「決まってるじゃない。依頼額が低かったからよ。仕事は額の高いものから片付ける。常識よ。」
「それって(「美神さん」の常識でしょ。)」
思わず口からでかかった言葉をあわてて飲み込む。さすがに先程の経験がいきていた。
『へェー、横島でもすこしは学習するんだ。』
『そうでござる。センセーは賢い方なんでござる。』
うしろでタマモのツッコミにシロがフォローにならないフォローをいれていた。
やがてこの家の一番奥の部屋の前に到着した。質のよさそうな木で出来たドアが侵入を拒むかのよう
に閉じられている。そこには数枚の札がはられていた。ここが敵を封じ込めた部屋なのだろう。外に出
ようとする力とそれを阻止しようとする力が拮抗しているのが感じられる。いずれ外に出ようとする力
がまさるであろうということも。
今までの
コメント:
- 今回は時間がかかってしまいました。忘れられてたらどうしよう・・・。 (K&K)
- ↑覚えてますよ〜♪ 逆に自分の存在が忘れられていないか心配です(笑)。いらぬツッコミを入れてしまうのは最早横島クンの中では条件反射に近いものなのでしょうね(爆)。傍目で冷静に分析をするタマモの様子が「らしい」感じでした。話を聞く分には全然フツーの除霊対象でしかなかった悪霊ですが、何が原因で今回ほどに強大になってしまったのでしょうか? 次回に移ります♪ (kitchensink)
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