ザ・グレート・展開予測ショー

「独り――。」第一章夢の墓標編・第一話二人――


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 3/ 5)

兵鬼開発局消失事件の報告がもたらされた。敵が接近した形跡もなく、しかも消失。
実験中の事故であろうとたかをくくっていたうえでそのとおり報告されたので、
彼は別に驚かなくてもいいはずだった。だが――
(なんてことしてくれたんだ…開発局の連中…へたをすると、俺の命は今日限りだ)
どうしてもこの事故の詳細を、知らなければならない者がいた。だから自分が伝える。
それは、彼が生涯経験し得る、最も危険なミッションだった。
ふと、事務的な口調で伝達する自分を思い浮かべ、暗い未来を予測する。
――ベレー帽、外しとかなきゃ。
ジークフリードはのろのろと自分のベレーを頭から摘み上げた。
そこは通路に点在するいくつかの休憩スポットの一角だった。
「あ゛」
幸運なことに、これから会うべき者が、はちみつレモン片手に座っていた。
「んー?」
向こうがこちらのただならぬ様子に気づいたらしい。幸運なことだ。
こんな幸運は願い下げだなどと吐き捨てられれば、そちらのほうが幸せだったろうが。
「ちょっと、かなり深刻な報せがあるんだ……その…」
ヴィーッ、ヴィーッ
間の悪い警報にとりあえず救われる。このままうやむやにできればこの上ないのだが。
ところでこの警報は「あの事故」に端を発してると見るべきだろう。
タイミングがうますぎる。
「最悪のシナリオだ…十二分に予測できた事態だけに、なおのこと…」

場所は変わって、こちらは横島が出勤したところである。
「こんちゃー…す……」
まるで途中でガス欠したかのように、勢いがなくなってゆく。
「なーんて不景気なツラしてんのよ、あんたは?」
露骨にいやな顔を見せる美神。
「美神さーん……ちょっと質問が…あの、夢なんですけど…繰り返し同じ夢見るって
やっぱ霊感ですかね?殺される夢見たら死んじゃいますかね?」
横島が縋るような目つきで美神に尋ねる。
「なーに、そんなこと思い悩んでたの?ったくしょーがないわね」
「いっつも真夜中に目ぇ覚まさせられたらこうもなりますよぉ…で、平気なんでしょか?」
すると美神は豪快に高笑い。
「かなり予知夢っぽいけど気にしちゃダメよ。人間死ぬときゃ死ぬんだもん!」
3…
  2…
    1…
「わああああああああああああ!?俺はもうお終いやーーーーー!!」
きっかり三秒の静寂が、完膚なきまでに破砕された。

ジークらは司令室に召集されていた。
本来は司令室に来るのは司令室が持ち場である者――つまりこの基地の戦隊長や通信士、
その他この司令室で部隊の頭脳、目、口の役割を担う者に限られる。
ジーク達には別の持ち場があるはずであった。しかし、事情はいささか特殊だった。
「最初にこの飛来物を確認できたのは相対距離20のポイント……か」
この基地の設備なら、本来は6000までのどんな些細な異常にも気づけるはずだ。
きわめて高度な、特に光学レーダーに対する隠密性とこちらの予測を上回る加速。
その二つがなければ、これほどの接近を許しはしない。
そしてその事実は、ジークの気分をいっそう重くした。
間違いない。あの報告の被験体だろう。
救命という一点においては歴史に残る偉業だったにせよその試みは大局的には破綻した。
なにせ結果として、開発局の数百名にも及ぶエリート達は全滅の憂き目にあった。
彼がそんなことを考えあぐねていると、隣では本作戦の相棒が言葉を失っていた。
正面の、ひときわ大きなモニタースクリーンに映る光景に愕然として。
「その、彼女について知ってることを話すよ…」
ジークはげっそりと呟いて司令室を出た。そろそろ出撃の準備が必要な頃合いだった。
「私は、あいつが使ってる化粧の銘柄全部言えるよ。よく知ってる。ずっと一緒にいた。
知ってるんだ…ルシオラの、ことは……」
それだけを前置きに、今回限りのジークの相棒・ベスパは彼の後に続いた。

ジークが知ってることとは、下士官には分不相応なほど詳細な情報だった。
魔族にとって霊基による個人情報の回収と再展開というかたちでの蘇生は珍しくない。
(アシュタロスが部下にそれを教えなかったのは、
再生に時間がかかりすぎて彼の展開する作戦の性質上、意味がないからだと思われる。)
だから回収した霊基の不足を補完する研究は数千年来続けられていた。
それゆえに、それは不可能なことなのだと誰もが認識していた。
だが――
「専門分野の連中は諦めてなかったんだ。そのこと自体は、問題ないだろう?」
「…知ったこっちゃないよ…先に進めてくれ」
「美神令子の提案では、彼に宿ってるほうが本体として認識される――」
残ったほうは、戦闘で失った腕や足と同じ扱いだ。回収した前例がない。
いや、「霊基を一ヶ所に集結できない事に前例がない」が正しい。
実際、転生可能な分の霊基というのは半数以上だろう。もう一方は残りカスだ。
ワルキューレが成り行きで持ち帰り持て余したそれを上層部に提出・開発局流れとなる。
そしてそれが、あの生前の姿そのままで復活している。
「不可能なんじゃなかったのか?」
軽く息を吐き出し、ベスパは言った。自制心が劣勢を強いられてる証拠だった。
「解らない……実際に見せられてしまっては、ハッキリ否定できゃしないよ」
それに、彼の手元の書類でもその信じ難い事実は確認されている。
バイテクやその類を使用した痕跡はないことが、都合四度調査されていた。
「意味は?」
「彼女の霊基には劣化したものや情報を書き換えられたものは一切存在してないんだ。
前者は複製した霊基が、後者はメタ・ソウルが用いられてない証拠になる」
まして、別人の霊基だったら書き換え自体不可能だからルシオラ本人にはなれない。
「100%まがいもの抜きのルシオラってことか」
「いや――」
ジークは苦い顔をする。
「なんだよ?」
「この書類の――S計画という呼称…こいつがどうもクサい」
この計画の前身、ライフ・サルベージ研究室というのは計画を三度頓挫させていた。
L・S計画、L・S2計画、S3計画…何号目の計画かを呼称にあらわしている。
計画の目的に対するアプローチの仕方を変えたために計画名を改めたのか?
それとも目的自体がすりかわっているのか?この「S」は「サルベージ」ではなさそうだ。
ただどちらにせよ、尋問する相手はいない。端的な問題も差し迫っていた。
相手は優秀な幻術使いで高速戦闘の手だれであり、すでに友軍を攻撃している。
この基地に配備された戦力ではひっかき回されてしまうだろう。
なんとかなりそうなのは、斉天大聖に「ケンポー」の手解きを受けたジークと
ルシオラとの交戦経験が豊富なべスパぐらいのものなのだ。残りの者は後方より援護。
しかし、二人はルシオラと戦うつもりは微塵もなかった。説得し、投降させる。
相対距離は7まで達し、ジークとベスパが作戦ポイントに着いた。そして彼らは思い知る。
迫っている彼女――シルエはルシオラ「だった」モノ…彼女の残光にすぎぬことを。
死んだ心は…目覚めさせてはならないことを。

次なる夢までは、せめてあなたは安らかに……

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