Ghost(W)――再生――
投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(03/ 1/11)
「――! そろそろ終わるわよ」
わたしに告げたのであろう。タマモの言葉。
見れば悪霊は、もう殆ど霊の形すら生していなかった。所々形が崩れ、今にも消え去りそうな様子を呈している。なにやら術でも掛けられているのか――動けないらしい。
「――あんたにもいろいろと理由があったのかも知れないし、それは私にとって知った事じゃないけれど……」
美神GSが言葉を吟じ始める。だが、それには先程の呪とは違い、悪霊に語りかけるような真摯さがあった。悪霊の声なき咆哮が、辺りに響き渡る。
「ちょっと……悪さが過ぎたみたいね……」
神通棍が正眼に構えられる。普通の剣の構えとは違い、両手をピタリとくっ付けて持つ独特の正眼の構えで、美神GSは静かに宣告した。
「この、ゴーストスイーパー美神令子が……」
神通棍を振りかぶり――――
「極楽へ――行かせてあげるわ!」
振り下ろした。
わたしは、既に自室となった病室のベッドに戻ってきていた。
あの夜から既に一週間。わたしにとっては手も足も出ない、まさに黄泉からの恐怖の権化といえた悪霊も、美神GS達の手によって呆気なく消えた。その後の事はわたしには分からないのだが、どうやらあの霊は、生きている人間が仕組んだ呪いではなかったらしい。
わたしは今再び、生ける屍となってここに在る。あの夜――
「旦那様、夕食の準備が整っておりますが……」
「ああ、ここに持ってきてくれ」
わたしはベッドの上に起き上がり、赤川が押してきたカートを見やった。丸いお盆に乗せられた――今日のメニューは匂いからするとカレーらしい。独特のスパイスの芳香が鼻につく。
ふと――思い出した。あの日も、確かメニューはカレーだった。コックも兼ねていた赤川の作るカレーは絶品であり、二人の娘が赤川にねだる夕食の献立は常にカレーだった。
出ると思った涙は、出なかった。
わたしは黙ってスプーンを手にし、赤川は黙ってカレーをサイドテーブルに移す。
忘れる事はないだろう。忘れさせてはくれないだろう。
だが、もうわたしは死ねなくなった。『生』の力をあそこまで見せ付けられた今、簡単には死ねなくなった。
「赤川」
「――? どうなさいました? 旦那様」
心配そうな顔で、『お口に合いませんでしたか?』と続ける彼を、わたしは掌で黙らせた。側らに置いておいた社報を手に取る。
「来週の例会は定例通り開くと、広報課に伝えておいてくれ」
「――旦那様!」
赤川が、涙を見せた。
「蘇ったのですね……旦那様は……」
言葉に笑顔を返し、わたしは窓の外の空を見上げた。
あの日と同じ夜空は、今日も何処かで、あの『生きる者たち』が『生きている』事を、自然に連想させてくれた。
今までの
コメント:
- 何故『W』だけここまで短いのかというと、偏に私が配分を間違えたからだけだったりします。非常にダークな話ですが、この中に一筋の光明を見出してくれれば幸いです。 (ロックンロール)
- 4投稿分の賛成票を4つとも入れて差し上げたい気分です(爆)。令子たちGSではない一般人の視点からのストーリー、と言う異色の設定もさることながら、その中で令子達が実に生き生きと動いていたと思います。相変わらず金に目が無い令子、そして依頼人の身の安全を第一に考えようとするおキヌちゃん、無邪気なシロ、クールなタマモがそれぞれに「らしい」雰囲気だった上に、全員が「プロ」らしく落ち着いて除霊に当たっている点に共感を持てました。彼女たちは意識していないのでしょうが、依頼人を精神的にも復活させられた点も良かったです。面白かったです♪ 投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- すばらしいを通り越して、すごいですね・・・。
私の中では、今年初ヒットです♪
目を覆いたくなるような残酷なシーンや、生き生きと駆け回る美神さんたち、
文章力と言いますか、表現力と言いますか、どれをとっても本当お上手ですよね・・・。
最初の2〜3行を読んだだけで、完全に物語に入り込んでしまいました。
kitchensinkさんと同様、4票入れたい気持ちです(^^ (マリクラ)
- 依頼者の視点から見た美神事務所のメンバーの除霊の光景の描写、依頼者の依頼へと至る事件、令子のお金・報酬関係の言動の危険性(というか依頼者に与える不安など)など見所が多くて凄かったです。
ロックさん、投稿お疲れさまでした。 (NGK)
- あんまり上手すぎて言葉も無いのですが。まさに原作でアシが評したように「GSというのはみんなあんなふうに舞うように美しく悪霊を退治するんですか?」ついでに「こんなに金が好きなんですか?」のイメージにピッタリで……(笑)
なんと言ってもシロの戦う姿が素敵でした、いや他のキャラも良いのですが(笑) それに全員がプロとしての自覚を動いているところにも感じ入りました。
そして痛覚や悲嘆などのリアルな描写が、強力なスパイスとなって物語の印象を強くしていたと思います。
ともかく、お見事でした。 (斑駒)
- この被害者視点というのは非常に新鮮でした。
やはりGSという職業は他人の理解を受け難いんだなぁと思いました。
今回の依頼者も、結局は生き様に感銘を受けただけで、仕事の内容はあまり理解してるようではありませんでしたし。
きちんと理解出来ないまま終ってしまった事件。
キングの小説見てるみたいでしょうね。
依頼人にとってはw (NAVA)
- 皆様、丁寧なコメントありがとうございます。この話、実は起筆したのが5月なんですよね……(爆) そこからちびちびと書き溜めていって、よーやく完成した……と。途中で半年ほどのブランクがあるところがあるのですが、何処だかわかるでしょうか?
では、コメント返し参ります。
キッチンさん江
毎度ありがとうございます。実は、一人称でここまで長い話を書いたのって初めてなんですよね。読み返して、物凄ぉ〜く『落ちて堕ちて真逆さまにっ!』(BY魚高さん)な感じになっていると気付いてちょいとブルーになってみたり(笑)。結局これか? これが私なのか!?(爆) (ロックンロール)
- マリクラさん江
私のような者には過分に過ぎるお言葉、ありがとうございます。個人的には、GSメンバーは書き込もうと思えばもう少し書き込めたのではないかと自省しているのですが…… 特にシロ。彼女、結局台詞そのものが少なくなってしまいました。精進せねば。
NGKさん江
被害者というものは基本的に除霊に関しては『一般人』である訳で。それは地獄組組長だろーが、度粉園女学院校長だろーが一緒です。しかし、幽霊の存在がある程度容認されているこの世界ならば…… などと考え、このよーなキャラクターになってしまいましたが。……つーか、令子たちが登場する前のプロローグが長すぎますね、この話(笑)。精進せねば。 (ロックンロール)
- フチさん江
実はシロの戦闘描写、適当な表現が見つからなくて迷っていたんです。令子やおキヌと被っちゃまずいな。と。……ンで、『若い体躯』なんつーNGギリギリワードと『ジャンヌ・ダルク』なんつー具体的な人物像を出さざるを得なかった訳ですが。そう言ってもらえるとホッとします。過分にお褒めいただきありがとうございます。
NAVAさん江
この話、『原因』を纏めるかどうか凄く迷いました。結局纏めずにサラリと流しただけで終わってしまいましたが、そのように仰ってくれると、これでよかったのだと思えます。やっぱり小説書く事って難しいですね。
さて、最近実験作ばかり書いてるよーな気もしますが、多分次も多少実験的になると思います。お付き合いいただければ幸いです。 (ロックンロール)
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