ザ・グレート・展開予測ショー

たった一行で〜 帰国 −後編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/ 6)

 

 それは唐突だった。街の郊外にある彼女の家に向かう道中・・・。
 突然、下腹部を襲った強烈な衝撃、そしてこみ上げてくる酸っぱい胃液と、鉄の味、何者からの攻撃の可能性ではないか(間違いなくそうだろうが)と辺りを見回した―――針葉樹の並木道、隠れる場所などそうはない、大地は一面、雪色の絨毯が敷かれたかのように平坦と広がっていた。木陰にいるのかも思ったが、気配はない。―――とはいえ、そんなにわかるものでもないが。地面に落ちた衝撃の原因を見る。金槌・・・?
 口中に溜まった血混じりの唾を吐き捨てる。浅く積もった白い雪を少しだけ赤色が染める。それを見ることもなく、乾いた唇を僅かに湿らせて、敵のいそうな辺りを見据える。何が起こっているのか分からない。状況判断するにしろ、あまりにも情報が少なすぎた。
 とりあえず、声をかけてみることにした。

 「おい、出てこいよ」

 そう言って出てくるわけがない。何となく、試しに言ってみただけだったんだが、
 
 「出てきたよ・・・おいっ・・・」
 
 そう、出てきた。木の上から舞い降りつつ、錐揉み上にドロップキックをかましつつ。雪之丞はなすすべなく吹っ飛びつつ、雪が浅く積もった地面を転がってゆく。残念ながら、雪だるまにはなれなかったらしい。すぐさま飛び起き、蹴りを放ってきた―――恐らく敵の姿を見る。そして、言葉をなくす。呆然とした顔で、目の前の彼女を見る。
 鬼神のようなオーラを纏った、もう少女と呼ぶにはいささかそぐなわない美しい女性が彼の目の前にいた。殺気を隠そうともしない。彼は戦慄を覚えると共に、どこか懐かしい、彼女に覚えていた思いとはまた別のものを感じていた。
 
 「・・・あなた、どうして「綺麗だ・・・」・・・へっ?」
 
 彼女は溜まりに溜まった不平不満をぶちまけようと、恐ろしく低いトーンではじめた呪詛を止めた彼の言葉に唖然としてしまった。
 
 「あ、あなたね?そんなことでごまかされると思ってんじゃないありませんわ!!」
 
 「久しぶりだな、弓。しばらく見ないうちに綺麗になったなぁ」
 
 「あ、うん、久しぶり・・・って違いますわ!!」
 
 彼女はその身を水晶の鎧で包み込む。そして、構える。今にも襲い掛かってきそうな野獣のような剥き出しの殺意。どうやら、先ほどの会話は彼女の心の中にあるものを僅かに留めることすら出来なかったらしい。
 
 (今まで連絡もなしで・・・突然帰ってきて・・・突然帰ってきて・・・)
 
 そこから先の思考はしなかった。できないわけではなかったが。すれば何かが萎えてしまう気がした。それは、けっして面白くない。
 
 「とりあえずっ・・・死んでもらいます!!」
 
 「何がとりあえずっ、かは知らんが、死ぬのは嫌だぞっ!!」
 
 雪之丞の体もまた、霊気の鎧に包み込まれる。魔装術、しかし、それは以前彼女の見たものとは形状を異としていた。
 全身をくまなく覆っていた鎧は僅かに隙間があり、明らかに出来そこないに見える。各部のパーツもどこかちぐはぐで、バランスがいいようには見えない。舐められているのか、それとも、手加減しようとでも言うのか・・・、少なくとも、まともに戦おうという気は見えない。それはひどく見下されている行為だと言うのに、不思議と嬉しい自分に苛立ちを感じる。中途半端に舌打ち、一つ。
 
 「・・・何のつもり?」
 
 「さあな」

 「・・・!!」

 激昂したわけではなく、冷静に溜め込んでいた力を吐き出すだけ。その動きは―――速い。
 疾風のごとく、あまりにも自然な動きで繰り出された拳は、ガードの為されていないように見える魔装術の隙間を縫うように、すり抜けてゆく。が、手応えはなかった。いや、そこに、彼の姿はなかった。魔装術が、そのままで、動く。彼の体は僅かにずれていた。いや、魔装術で作りだした鎧が、彼からずれている。打ち放った拳は何もない空間を裂いた。
 
 「マリオネット―――操り人形。魔装術の一人歩きが出来れば面白いと思ってな。いや、今回はスケープ・ドール―――身代わり人形―――ってやつかな」
 
 そして、その手は驚愕の表情を浮かべる彼女の首筋へ。手刀の形で、霊気を帯びている。
 トンッ
 彼女の体から力が抜ける。水晶の鎧に覆われた彼女を相手にするのはいささか厳しい。本当は隙をさらけ出して攻撃を誘ってみるつもりそれだけだったのだが、思いのほか彼女は強くなっていた。舐めていたつもりではない。大抵の連中はこの手に引っかかる。
―――いや、舐めていたのかもしれない。
 彼女を背負い、考える。彼女がこれだけの成長をしている。―――その成長の度合いは恐ろしく早い。よっぽど良い師がいたのか―――彼女の父よりも彼女は既に強いのではないかと思う。純粋な力だけなら。ただ、彼のような上手さはないが。旧知の仲である、この国の他の連中とも戦ってみたくなった。正直、旅先で出会った連中の中に当たり外れはあった上に、それほど強いといえるような奴はいなかった。もちろん、例外は何人もいたが、足元にも及ばない強さという奴はいなかった。
 そう、例えば神族のハヌマンのように。まあ、あたり前のことではあるが。所詮、人間と上級と呼ばれる神族、魔族の力のレベルは根本的に違う。成長という意味でポテンシャルの比率で言えば人間は優れているかもしれないが、成長は限界までゆけばやはり止まる。何か変化のきっかけがない限りは。だから、大抵の人間は、その力を自分たちほど伸ばすことは出来ない。望む望まぬに関わらず、自分たちは多くの神魔に関わる事件に携わってきた。そこらの連中に比べれば、成長するチャンスが多くあったのだから。

 
 「・・・チャンス、か」
 
 背負っていた弓の顔を見る。寝顔はあどけない少女のようだった。さっきまでの彼女とは似ても似つかない。じっと魅入っていた自分に苦笑する、そして、噛み殺す。泣き出しそうになりそうな心を。友を思う。今、孤独の中にいるかもしれない友を。
 
 「くだらねえ・・・。あいつが、そんな事を望むはずはないってのに」

 弓は目を覚ましていた。が、あえてそのまま彼に背負われていた。最初は攻撃するチャンスを見計らっていたのだが、彼の顔が暗く沈んでいるのを見ると、とてもそんな事をする気にはなれなかった。


 −おまけみたいなもの−

 


 「・・・んで、どうして、俺は縄でぐるぐる巻きにされてるんだ?」
 
 「あら、今日はお父様もお母様も居られませんのよ・・・女性一人しかいない家に殿方をそのままにしておくのはあまりに無防備でしょう?」
 
 「(誰が襲うかっ!!)・・・じゃ、じゃあ、聞きたいんだが、どうしてコンクリートで固めてあるんだ?わざわざ、こんなことをしなくてもいいだろうが・・・」
 
 「あら、縄だけだとすぐに抜け出してしまうかもしれませんわ」
 
 「・・・どうして重りがあるんだ?しかも、百kgとか明記してあんだが・・・」
 
 「・・・・・・・・・・・」
 
 「・・・・・・・・・何とか言えぇぇ!!!」



 

 とるるるるる・・・とるるるるる・・・がちゃっ

 「はい、横島除霊事務所ですが・・・、ただいま通常業務を休ませて頂いておりますので、ご依頼のほうでしたらGS「横島ぁぁ!!助け ぷつっ」・・・」

 つー・・・つー・・・つー・・・

 
 「・・・」
 
 何となく、どうゆう状況なのか分かった気がした。何故かは分からない。自分でも不思議だった。それでも、分かってしまったのだ。
 
 横島はとりあえず無言で受話器を定位置に戻すと、事務所机の上に置かれた書類の束を見る。経理関係の書類は全て処理し終えたものだったが、どこにミスがあるかはしれない。そして、今までの仕事内容について振り返ってみれば、復帰した時に役立つかもしれない。幾ら美神の事務所で実戦経験があったとしても、ここでは一人、或いはシロと二人という、僅かな戦力しかいない。神魔族に関わる依頼についても、いつまでも断りつづけるわけにはいかない。戦略は、必要だろう。考え付くとは思えないが、しないよりはましだ。
 集中は、できなかった。
 
 「雪之丞・・・迷わず成仏してくれ」
 
 窓を叩く風は冷たく凍えた冬の風、北国でなくとも、寒いものは寒い。恐らく、冬の海は寒々しいことだろう。海、今年も行きたいなぁ・・・夏に。そんな事を考えつつ、目の前の書類を見直し始める。彼のもとに弓からの電話があったのは、雪之丞から脱走の報を聞いた後のことだった。

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