壊れた笛 終
投稿者名:居辺
投稿日時:(02/ 8/23)
14.
そのメロディが流れ出した時、明日香の全身を深い悲しみが包んだ。
涙が止まらない。訳も無く泣声を上げてしまう。
「やめてっ、やめてっ、やめてやめてやめてやめて、ヤメローッ!!!!」
叫んだ瞬間、フッと何かが明日香の霊体から離れ、空中に浮かび上がった。
嘘のように軽くなった気持ちで、浮かび上がったそれ、小さな霊体を見る。
おキヌがそっとそれを手に取った。
「見えますか? 岸田さんに憑いてたんですよ」
「私に、憑いてた…?」
ほら、と差し出すおキヌ。小さな霊体に老人の顔が浮かび上がった。
その顔に明日香は見覚えがあった。
「……私のお爺ちゃん、だわ。でもお爺ちゃんはまだ生きてるわよ」
「ええ、これは一人分の霊体じゃありませんね。おそらく、執念が霊体化したものじゃないでしょうか」
「シューネン?」
「お爺さん、若い時に苦労されたとか、聞いてませんか?」
「……、死ぬほど修行したって、しょっちゅう自慢してるわ」
「執念が強すぎると、こういうことがあるそうですよ」
「それじゃ、この執念さんには成仏してもらいますね」
おキヌが手の中の霊体に話しかける。
その声は小さくて明日香には聞こえないが、霊体はおキヌに答えるように、穏やかに明滅している。
明日香がその様子に見とれていると、霊体はやがておキヌの手を離れ、上空に消えていった。
「どうします? まだつづけますか?」
おキヌの問いに、明日香は黙ったまま首を横に振った。
自分が祖父の執念に操られていた。それを自分で気付けなかった。それだけで充分だった。
15.
歓声が二人を包み込む。立ち上がった二人は、互いの手を取る。
観客達が駆け寄ってくる。
「良くやったなおキヌちゃん」
魔理が背中からおキヌを抱きしめる。
「本当に、お見事でしたわ」
かおりが明日香からおキヌの手を奪って、両手で握り締めた。
「もうそろそろ、白状なさったらどうですの?」
かおりの詰問に明日香が不審の目を向ける。
「この期に及んで、まだしらばくれるつもりですの? 氷室さんの笛、壊してしまったのはあなたでしょう?」
あぁ、そのことかと、明日香がフッと笑みを浮かべる。
「悪いけど、私じゃないわ」
「違うって? じゃなんであの時笑ってたんだよ」
「これ以上は言えないわ」
問い詰める魔理に、明日香はそれ以上答えようとはしなかった。
「そのことについて、この子が話が有るそうよ」
振り返ると、美神が一人の女生徒を伴って、近づいてくる所だった。その後から事務所の一同がぞろぞろと付いてきている。
その女生徒は、ずっと泣き続けていたらしく、顔をくしゃくしゃにしている。
「あなた、水尾さん? あなた、でしたの?」
「びぶろはん、ごべんなざい!!」
水尾佳奈子は、わっと泣き出した。
後ろの方で、横島が「氷室さん、ごめんなさい」とタマモに教えている。
「つまり、水尾が笛を手に取って見てたら、岸田が偶然目撃して」
「見られたことに驚いた水尾さんが、うしろに隠そうとして転んで」
「下敷きになった笛が壊れたんですね」
「そう言うこと」
魔理とかおりとおキヌが、水尾の話からまとめたのを、明日香が引き取って言った。
「そうならそうと何で言わねえんだよ」
「水尾さんが自分で言うと思ってたのよ」
魔理が呆れたように言うのに、明日香がすまして答えた。
「じゃ、笑ってたというのは?」
「壊しちゃった時の水尾さんのこと、思い出したら可笑しくって」
かおりが不思議そうに聞くが、明日香は悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。
佳奈子がますます泣声を上げる。手にしたハンカチは絞れそうなほどシットリとしている。
明日香が自分のハンカチを出して佳奈子に差し出す。
「いい加減に泣きやみなさい。嫌なことはもう終わったから」
それじゃ、と言い残して、明日香は佳奈子の肩を抱いて立ち去っていった。
終.
「万事解決。メデタシメデタシと言うことね。あのバカを除けば」
美神は、この時とばかりにナンパにはげむ、横島を見ながら言った。
横島はナンパに夢中で、その場の全ての女性が、眼を三角に釣り上げているのに気付いてなかった。
「やっておしまい!!」
美神が号令をかけた。
おしまい
今までの
コメント:
- 最終回です。
犯人は今まで出ていない人だと言う、ミステリなら石を投げられそうな展開。
明日香って嫌なヤツだけど、わざと笛を壊すほど陰湿じゃないなぁ、と書いてて思いました。
それで、急きょオリキャラをもう一人作っちゃいました。
この結末、気に入ってもらえると良いのですが。 (居辺)
- こーして横島はマゾの道へと開花していくという。(まさか)
まぁ女の友情話、これにて!! (トンプソン)
- なんとまぁ、アン・ヘルシングちゃんと同じ症状とは…(汗)。これで怒ると口調が変わる理由が分かりました♪全体的に悪い子じゃなくなった明日香が良いですね。なんか、可愛い…(爆)。 (マサ)
- 私もマサさん同様に明日香が取り付かれているという展開が意外ではありましたが、この方が何となくすっきりしますね(笑)。笛を壊したのも違う人だったという点に関しても、この方が「明日香が元々は悪い人ではない」という点を強調してることからしても、納得できます。霊能力バトルといい、おキヌちゃんの落ち着いた口調や懲りずにしばかれる横島クンといい、終始「らしい」雰囲気の作品でした♪ 連載お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- 最後まで読んでくれて、ありがとうございます。居辺です。
トンプソンさん。
女性を書くのは難しいです。話し言葉だけは何とか、それらしく書けたと思いますが、どうにも男の子っぽい感じになってしまいます。
マサさん。
明日香は成長後のシロとして再利用できそうな気がしてきました。
今すぐじゃないですが、アイディアが浮かべばそのうちにでも、書いて見たいです。
kitchensinkさん。
好意的に受け取ってもらえて安心しました。嬉しいです。
霊能力バトルについては、おキヌちゃんのバトル部分を、もっと盛り上げるべきでした。
でも、同じ話の中で3回のバトルを書き分けるのは、難しいです。
最後に、無言で賛成票をくれた方に。
ありがとうございました。 (居辺)
- 実はいい子だったんですね!
上のほうでマサさんがおっしゃっているように、アンちゃんと同じ症状とは一本とられた感じです。
連載お疲れ様でした♪ (ヨハン・リーヴァ)
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ]
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa