ザ・グレート・展開予測ショー

勇気の剣(9)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/ 1)

血の池に沈む黒色の太刀。紅蛇はそれを拾い上げ、満足げに笑った。
「くくく・・・」
まるで何かを達成したかのようなその笑みに、長老は眉をひそめた。一体、何が可笑しいと言うのか。そもそも、太刀を与えておきながら何故柊を刺した?・・・
「紅蛇ーっ!!」
長老の思考は、爆発したシロの叫びに掻き消された。止める暇も有らばこそ、シロは雷光のような霊波刀を右腕に宿し紅蛇に突っ込んだ。
だが、何故か紅蛇は紫苑を構えるどころか指一本動かさない。シロの霊波刀が、紅蛇の脳天目掛けて勢いよく振り下ろされた。
しかし、次の瞬間。シロは、突然見えない壁にぶつかったように大きく後ろに吹き飛ばされた。幸いダメージはなかったので、地面にリバウンドした瞬間空中で受身を取り地面に着地した。
「!?今のは?」
「シロ・・・気をつけろ!!」
一層険しい長老の声。それを背中に受けながら、紅蛇の方に向き直ったシロは目を見張った。
紅蛇の全身は、この世の全ての闇を吸い込んだブラックホールのようだった。禍々しきカオスが虚空に渦巻き、瘴気にも似たオーラが溢れ出さんばかりに周りに漂っている。その様相は、明らかに先刻とは違っていた。
目を凝らすと、紅蛇の腕にはいつの間にか先程の血塗られた黒刀が握られていた。どうやら、妖気の源泉はあれらしい。蛇の様な螺旋状の妖気が、絡みつくように紅蛇の身体に絶え間なく与えられていた。
「あれは・・・」
「どうやら、あの刀は帯刀者の力を吸い取る類の妖刀のようじゃな。とすると、奴が柊を狙ったのは・・・」
「いかにも。この小僧のポテンシャルに目をつけたからだ」
今や人外の響きを伴う声のトーンを以て、紅蛇が言葉を挟んだ。
「死んだらそれまで、という心持ちで襲ったんだがな。霞、だったか?妙な邪魔が入ったが、お陰でこの小僧の力を引き出せた。そして、その力は我が血となり肉と成った。全ては我の目論見どおり。お前らは、実に愉快に踊ってくれたよ。我の掌の上でな」
可笑しくてたまらないといった感じに、紅蛇は声を上げて笑った。
紅蛇の独白により、シロ達は全ての流れが理解できた。奴が柊を狙った理由も、何もかもが。だが、どうしても一つ解せないことがある。
「理由は何でござる?そこまでして力を求める理由は?」
「理由だと?何を戯けたことを。我が望みは圧倒的な力。そしてそれを以て人間界を滅ぼす。ただそれだけだ」
愚問だな、とばかりに鼻を鳴らす紅蛇。長老は、そんな紅蛇にかつてのあの男が重なって見えた。そう、紅蛇と同じ様に人間の滅亡を企て、妖刀八房を携えた犬飼のことを・・・
「愚かな・・・かの狼王フェンリルでさえ、時の流れには逆らえずその身を光の彼方に消した。今更過去の亡霊がでしゃばってどうするつもりじゃ」
「そんなことは関係ない。我は我が魂の赴くままに刀を振るだけだ。冥土の土産はこの辺でいいだろう?我が打ちし最高の妖刀「紅雫」の錆となれること、誇りに思え」
紅蛇が黒き刀−−−紅雫を正眼に構えた。柊の血が、紅き雫となって刃を滴り落ちる。普通の人が見たらそれだけで失神してしまうほど、紅蛇は存在そのものが恐怖を具現していた。
周囲の木々が悲鳴を上げるように激しくざわめく。修羅の如き紅蛇の様子に、さしものシロも慄然とした。だが、そんな無言の剣圧を軽い空気のように歩を踏み出した者がいた。横島である。
「先生・・・!!」
「心配すんな、シロ。奴に本当の「力」ってのを教えてやろうぜ」
その一言で、シロの身体から嘘のように気圧されていた気持ちが消えた。代わりに湧き上がってきたのは、迸るほどの闘志と霊力。横島と共に闘える。シロには、それだけで充分なカンフル剤となるのである。
横島とシロの掌に霊力が収束していく。やがてそれは一本の束となり、眩いばかりの剣の形を形成した。
「行くぜ、シロ」
「承知!!」
最終ラウンドの鐘が鳴った。

淡い夕日が大地を染め上げる。黄昏を覚えるその情景に不似合いなほどに、人狼の里に激しい剣撃が繰り広げられていた。
「おおおおぉぉっっ!!」
気合一閃、紅蛇が青々とした地面を薙ぎ払う。小型台風ほどの風圧と同時に、凄まじい衝撃波がシロに襲い掛かった。霊波刀で辛うじてそれを防ぐシロ。だが、勢いに押されてそのまま吹き飛ばされてしまう。追撃をするべく紅蛇が地を蹴った。
「シロ!!」
だが、吹き飛ばされているシロに向けて横島が文殊を投げて発動させた。「壁」の文殊に紅蛇の紅雫が弾かれた瞬間、シロが空中でカウンターの一撃を紅蛇の脇腹に見舞った。
「グッ・・・」
空中でくるりと一回転し、無事着地するシロ。対照的に紅蛇はシロの一撃に押されるように、背中から地面に落下した。
先程からの戦況は、今の攻防が端的に示していた。要するにシロが紅蛇と刃を交わし、横島が後ろからそれをフォローする、といった感じである。役割的には横島の方が楽そうだが、支援する分霊的・精神的負担はシロよりも大きかった。
「シロ、大丈夫か?」
「大丈夫でござる、先生の文殊のお蔭でござるよ」
駆け寄ってきた横島に笑顔で答えるシロ。だが、地面に転がった文殊が見事に真っ二つにされているのを見る限り、能天気に構えられる相手ではなさそうだ。まともに喰らえばまず一刀両断にされる。物言わぬ文殊がそのことを如実に示していた。
横島とシロは紅蛇の方を向いた。紅蛇は顔中に血管を浮き上がらせ、紅雫を持つ手がわなわなと震えていた。傍目から一目でわかるほど、紅蛇の怒りは噴火寸前だった。
長老は柊を背負って遠間に避難したので、巻き添えを被る心配はなさそうだ。だが、見境の無くなった相手ほどやりにくいものはない。どんな攻撃に転じるか分からないからだ。
「貴様ら・・・いい加減死ねぇー!!」
咆えるような声を上げ、紅蛇は紅雫を力の限り地面に突き立てた。次の瞬間、凄まじい地響きと共に蜘蛛の巣状の亀裂が大地に走り、岩盤の底が大きく凹んだ。
「な!?」
「しまっ・・・」
完全に虚をつかれた横島とシロは、重心を支えきれずその場に尻餅をついた。正に蜘蛛の巣に捕われた昆虫である。紅蛇はぺろりと紅雫を舐めると、網に掛かった獲物を料理するため杜撰に崩れた大地を一気に駆けた。
爛々と輝く紅蛇の目に映るのは、急いで立とうともがくシロの姿だった。シロは懸命に身体を起こそうとするが、それよりも紅蛇の俊敏さが勝っていた。
「まず一人・・・」
紅蛇が紅雫を高々と振り上げた。

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