ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 8/15)

 声から想像したとおり、まだ若い青年だった。顔付きからすると年齢は横島
より1〜2歳上、どこにでもいる学生かフリーターといったところだが、身に
纏う奇妙に落ち着いた雰囲気と平凡な外見の落差に、ワルキューレは微かな
違和感を感じていた。
 青年はワルキューレの姿に驚いたのか、目を大きく見開き彼女の顔を凝視
している。このままでは埒があきそうにないのでこちらから声をかけた。

 『いつまでそうしているつもりだ。もう十分だろう。さっさと部屋に案内
  しろ。』

 青年は一度大きく深呼吸をした後、口を開いた。

 「部屋に案内するのはいいけど、その目立つ耳と翼はどうにかできないか?。
  ここの玄関には監視カメラがあって警備会社に繋がっているから、その姿
  で入ったら10分も経たないうちにGSやオカルトGメン達が押しかけて
  くるぞ。」

 『そんなことは解っている!!』

 実際は、焦るあまりその可能性を全く失念していたのでプライドを傷つけ
られ、思わず怒鳴り返した。
 青年は、ああそうですか、とでも言うように一度肩を竦めると、ワルキュー
レをうながすように見詰かえしてきた。
 そんな視線に苛立ちを感じながらも、相手の言い分はもっともだったので
人間に変身すべく精神を集中する。ここにたどり着いたばかりの時に、同じ
ことをやろうとして失神しかけたため大分不安ではあるが、傷をカバーして
いる分の魔力をつかえば短時間なら大丈夫なはずだと自分にいいきかせた。

 ブン

 なにかが振動するような音と共に、ワルキューレの輪郭が一瞬ぼやけ、次
の瞬間翼が消え、耳の形も人間のそれと同じになっていた。だが、成功した
と思ったとたん、胸の中から口に向かって血液が逆流してきた。グッと歯を
かみ締めそれを押し戻す。傷口からも新たな出血がはじまっていた。目の前
が暗くなるのを意志の力で持ち直す。
 青年はワルキューレの様子には構わずに、着ていたジャケットを脱ぐと
彼女に渡した。

 「これを羽織って傷を隠せ。それと、玄関を入るときは俺の後ろからなる
  べく離れるな。自分の足元を見るように自然な感じでカメラを避けろ。」

 ワルキューレは黙ってジャケットを受け取り、言われたとおりに羽織ると
傷を隠すように全てのボタンを留めた。袖が長かったので肘の所まで捲くり
あげる。銃はベルトに挟んだ。
 ワルキューレの準備が完了すると、青年が建物の方に歩き出したので、
彼女も後を追ったが、途中で足が縺れ、思わず青年に縋りつき、そのまま
彼の腕を抱え込んだ。

 「何のつもりだ?」

 『誤解するな。足が縺れただけだ。それにこのまま訳ありの恋人達のふり
  をしていれば、私がカメラを避けていても怪しまれないだろ。』

 「なるほどな。」

 そのまま入口をとおり奥にあるエレベーターに乗る。青年が3階のボタン
を押すとすぐに扉が閉まり、10秒ほどで再び開いた。エレベーターを降りて
直ぐの部屋のドアの前に立つと、青年はカギを開けて部屋のなかにはいった。
 ドアの脇の表札には「結城 健一」とだけ書かれていた。

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