ザ・グレート・展開予測ショー

GEKKOH〜スバルの巻(サムライドライヴ・takeセカンド)・壱刃「次代のはじまり」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 6/19)

男は待った。ただひたすらに待っていた――もういい加減持て余した時間が恋しくなる。
「イヤァ、お待たせしマシタ。ヨロシクお願いしますよ、お客サン」
やけに人懐っこいバカ陽気な声が、ファミレスの最奥部の座席であがった。
「――遅い」
ぽつりと、しかしハッキリ言う。
「エェ。ダカラちゃんとお待たせ――」
「それを聞いてどうなる、俺は!?」
陽気な男の言葉を遮り、待ち続けた男が叫んだ。
「マァマァ。こっちも個人経営じゃありませんカラネ。聞いてくだサイヨ。
受付嬢のマリエラ――お客サンの依頼を受諾した娘なんですガネ
オレが非番なの忘れてたんデスよ。普通、執行部に問い合わせるし、そうすれば
こんなミスはなかっタ。ましてや彼女、オレが食事に誘ったのに、それでも勤務日だと
思ってたんデスよ。なんなんでしょうね、この仕打チ?オレのことまるっきり無関心?
結局、オレの都合より信用第一デスよ。勤務時間外は労働しないのも労働者の権利デショ?」
というよりも、勘繰ってしまえば断りづらかったのでわざとやったという見方もある。
それはさておいて、よく喋る男である。こんな軽そうな男が名うての暗殺者とは信じ難い。
「その彼女、派遣する社員は一族きっての天才肌で任務完遂率およそ98%と言ってたが?」
遠回しに、疑念を口にする。言ってみてから、率直に言ったも同然だと自嘲する。
「あぁ、もう50個も依頼片付けてたノカ……どれもヒヤヒヤさせられたモンですよ」
「特技は潜入だそうだけど、真っ向から闘う事は出来るか?」
「あんまり巧くねぇ」
簡潔に、それまでの男と同一人物とは思えないほど簡潔に答えた。
「正直だな。しかし勝てませんじゃ困る」
「そいつは相手次第。オレはオレのままより強くはなれネェ。
始末できるのは弱い相手か、さもなきゃ強さを発揮できないようにしてから、サ」
にこやかに、恐ろしい事を言う。その軽薄な残酷さこそが本物の証だと、相手は納得した。
「いいだろう。君を信用する。ただし、戦闘時の行動はすべて俺が決定する」
「変わった依頼デスね。結果より過程が大事なんデスか?」
「少々事情が複雑なんでね」

オカルトGメンが、二度目の出向を要求してきた。
こう記すと聞こえは悪いが、我々は彼らの仲が決して悪くない事を知っている。
「助かるよ。カッコ悪い話だが、僕らにはまるきり勝手がわからなくってね」
「任せるでござるよ」
「あたしも任せたいわよ……」
タマモは大欠伸をしてうろんげな、それでいて不快を滲み出すような目つきをした。
「じゃー帰って寝ててもいいでござる、グータラ」
顔を傾ける事で、大差ない身長の相手を無理に見下ろす姿勢を作って
シロは「ふんッ」と鼻を鳴らした。
「アンタとあたしが同頻度で頼りにされるからには、勤勉で無能と怠惰で有能、なのよね」
「ッんだと、このキツネ!誰が無能かッ!?」
「しっらなーい。グータラじゃないほうのことなんじゃあないの?」
視線を適当なほうへ投げつつ、タマモが軽い口調で呟く。
ぶちむ
シロは迷う事無く右手を振るう。在らざる刃を抜刀して。
その動きに、タマモは反応する。だが、二人の臨戦体制は完成しえなかった。
バンッ
「フリーズだッ!双方警戒を解けッ!!」
薄っぺらい仕切りの内側から、プラチナブロンドの男が飛び出してきた。
彼女達の挙動の後から飛び出したとするなら、タマモは反応速度で彼に負けた事になる。
刀の間合いを外す必要最低限の動きと同等のスピードで、拳銃の照準を絞っていたのだ。
「いいんだヴェル、これは彼女らの慣習みたいなものなんだ。その…まずは、しまえ」
西条は目で、そのヴェルというらしい男が握り締めていた拳銃を指して、言った。
「…いえ、もとより発砲の意志はありません。それは、自分の権限を越えています」
ヴェルは銃口を下に向けてハンマーを支えながら引き金を引き、セーフティをかけて
上着の内側のホルスターに収めた。
教本のお手本を見たまま真似したような、色気のない動作であった。
「だろうと思ったよ。だが、どんな射撃の名手にも誤射の可能性はある」
「……それは、閣下でも例外ではないのですか?」
「ナンセンスな懸念だったかな。結局のところ、道具は必要だからこそ生まれたんだしね」
西条ははぐらかした。それが、単純に肯定するよりどれほど説得力をもつことか。
事実、続くヴェルの返答はこうだった。
「いえ、心得ておきます。後方支援を受ける時など、特に」
タマモはつい最近、こういうタチの悪いジョークを言う奴と関わって
散々振り回されたことがあったので、眩暈がした。
多分この目の前の男は、大真面目にこんなあほな台詞を吐いているのだろう。
彼女に迷惑かけどおしだったあの女とは、この男は『匂い』が違う。
「……どうも最近、あたしの周りに犬が大挙して寄ってきてるみたいね」
「どうにも他人事臭い言い方でござるな、それ」
うって変わって平然とやりとりする二人。
「…………そんなに簡単に気づかれてしまうのか。不覚だ」
「外見の特徴は綺麗に消せたんだが、相手が悪かったということさ。
そういう人材にしか頼めないからこそ、わざわざ来てもらったんだしね」
「チャッチャと本題入ってよ。こういうのがいるのに、わざわざ別にあたしら呼ぶ理由」
「いるからだよ」
西条は気安い口振りで言った。
「え?どういうことでござる?」
「彼はイギリス時代の親友で、日本語流の発音は微妙だな。ヴェルトール?ヴェルトロ?
ま、どっちにせよ犬神なんだ。個体名称は持たないらしいからヴェルと呼ぶのさ。
前回、君達善意の協力者が結果を出してくれたから、上が便宜を図ってくれて
このたび妖怪初の公務員としてウチに仮配属になった。現在研修期間中ってね」
「ふむふむ…」
「あんた、よく解ってないでしょ?」
神妙な顔をするシロに、タマモがズバリと言う。
「解ってそうな台詞だね。頼もしいよ」
「最初の『勝手が判らない』と併せて考えて、妖怪流新人研修をしてくれってことでしょ」
日々を脊椎反射で生きてるような愚鈍な犬でもあるまいし、わからいでか。タマモは思う。
「そのとおり。早速で悪いが、今から頼むよ」
言われてタマモはついっと顔をそらす。
「いつもいつもタダ働きはしないわよ。あたしの場合はグータラらしいから特に」
前回はシロの売り言葉に買い言葉で答えたばっかりに無償奉仕させられた。その雪辱だ。
「妖怪と人間の共存共栄が実現すれば、君達にだって利益はある」
「解ってるから、なおのこと妥当な報酬を要求してるのよ。共生ってそういうモンでしょ」
「参ったな…令子ちゃんとこの仕事の手伝いはしてるんだろ?その代わりじゃないか」
実のところ、西条はタマモの要求を呑むのは造作もないことだった。
問題は部下へのメンツである。経費では落とせないし、自腹を切るのも部下に見せたくない。
「でもね、研修ってなにすんの?あぁ、答えなくったっていい。ここで一つ一つ挙げるのも
バカらしい程煩雑な段取りがあるでしょ。除霊はただ、行って張っ倒すだけなの」
「僕が悪かった。それで、君の言う妥当な報酬とはいかほどだい?」
「ごん兵衛10ケース。びた一文まからないわ」
西条は安堵の溜息を、決して表面には出さなかった。
しかしこの後、不公平があってはいけないとシロの要求も聞いて
生肉を牛十頭分も買いに行った時には、流石にグロッキーになっていた。

「さて、それじゃ早速この事件から捜査するでござる」
幾つかもらった、比較的簡単な事件のファイルから一つを適当につまみ出す。
「……コイツは本気かしら…?」
タマモはげっそりと呟く。
「なにが?」
「あたしらが頑張るとこじゃないでしょ。頭ってのは生きてるうちしか使えないのよ」
言われてシロは考え込む。
それを見て「これはダメだ」と肩をすくませたタマモは、ヴェルに向き直り
「あんたはコイツより頭回る?」
「は。僭越ながら先輩の言いたいことには、一つの予測が立ちます」
最敬礼の姿勢でヴェルが答えた。
「良し。そしたらこのバカが理解できるように説明してみ」
「これは自分の研修であり、先輩がたの任務はあくまで自分の監督であります。
ですから事件解決は自分の職務であり、先輩がたの助力は極力ないのが望ましいかと」
「よろしい。そういうことよ。お解り、先輩?」
「……それじゃあ拙者達は見てるだけでござるか?」
シロが、ことさら不服そうに呟いた。それを受けてヴェルが口を開く。
「は。あくまで理想ですが。自分がミスをしでかした、あるいはミスをしでかすことが
考えられうる場合はこの限りではありません」
「それは違うわ」
何故か今度はタマモが口をはさんだ。
「違う…?自分は間違っていましたか?」
「えぇ。重要なことよ。あんたがミスっても、ミスりそうでも、あたしは見てるだけ」
『………は?』
「あたしはなにが起ころうと誰がどうなろうと手助けなんかしない、と言ったのよ」
「ちょっと待て!お前、西条殿からカップ麺もらってるくせになにを今更…」
くってかかるシロを煙たげに見やって、タマモが語る。
「いいこと?一人前の警官に、こんなお守りはつかないわ。ましてや同僚はみんな人間。
あんたの失敗をフォローできる仲間はどこにもいないの。こっちだって毎度毎度
呼び出されたくないしね。そういう時にきちんと仕事が出来なきゃ話になんないよ?
つまりは、実践形式で研修してやるからフォローは出来ない、ってこと」
『なるほど…』
二人は声を揃えて納得した。
――バカ犬どもめ……
屁理屈こねてこねてこねつくしてサボろうと思っていたタマモは
その楽勝ぶりに肩透かしを食った気がした。
「しかしこの場合、拙者達の仕事は……」
「ないわよ、ンなモン」
「すると、拙者らがいる意味は…」
「ないわよ?ンなモン。そんなわけで、ここは帰って早速報酬をいただくのが吉よ」
「じゅる…肉……ってまずいでござるよ、流石にそれは!」
「チッ、惜しい……」
悪びれもせず、舌打ちする。
「お前、やる気あるでござるか?」
「言わす気?」
「ないでござるな、ンなモン」

つづく

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