ザ・グレート・展開予測ショー

奴の笑い顔


投稿者名:777
投稿日時:(03/ 1/11)

彼は疲れていた。

さる大戦の後、英雄とまで呼ばれた彼は…その後も悪霊達と戦い続け、心身共に疲れ切っていた。

心も体もぼろぼろになり、彼は少しばかりの休息を求めた。

一体誰が彼を責められるのだろう? 一体誰が彼を裁けるのだろう?

ただ、彼にとって不幸だったのは…そこが神聖な場所だったこと。

休息を求め、少しばかり寝息を立てていた彼に…非情な攻撃が落とされた。

その攻撃が彼を目覚めさせる…。




さぁ、物語をはじめよう。




アシュタロス殺しの英雄と呼ばれる、横島忠夫の視点で――――



――――――――――――――――――――――――




「ぐぁぁぁぁっっっっ!!!」

こめかみに鋭い痛みを感じ、俺は飛び起きた。

「やっと起きたかっ!横島!」

怒声を発したのは勤続25年にしてチョーク投げの名手、俺の担任名称unknownだ。(←忘れた)

「大丈夫? すごい寝方してたわよ?」

気遣わしげに声をかけてくる、机娘の愛子嬢。

ところで大丈夫なのは俺の頭か? 俺の寝方か?

「無理矢理丸くなるようにして寝てたけど・・・おかげでこめかみにチョーク貰ったじゃない。青春だわ〜」

なにげにトリップしだすトキメキ青春妖怪。お前の言う青春はこめかみにチョーク貰うことなのか? 今度ぐりぐりと押しつけてやる。

「何も分かっていないな…。あれは『狐寝入り』という画期的な寝方だ。おキヌちゃんに大好評なんだぞ?」

タマモ(狐バージョン)がやった場合だけな!

俺が披露したら美神さんにおキヌちゃん、あろうことかシロの奴にまで非難された。

ちなみにタマモは二度と狐バージョンで寝なくなった。無言の抗議かもしれない。

「おキヌちゃんって趣味が悪いのね〜」

どうやらここでも不評のようだ。人間に人狼に妖狐に妖怪にまで不評となると…あとは神様くらいか。よし、次は妙神山でやろう。

「横島!何をくっちゃべっておるかっ!さっさと前に出てこの数式を解かんかっ!!」

のんびりした俺に腹を立てたか、担任の野郎が怒声を上げる。

あんたはバカか? 俺にそんな問題解けるはずが…

解けるはずが…

……あれ?

「前に出るまでもないな。N=−12だ」

「…!?せ、正解だ…」

俺の答えに、担任が驚愕の声をあげる。

そう、俺はその問題が解けてしまったのだ。

教室中がざわめく。意味のある声を発する者など誰もいない。ただ、ざわめくだけ。

いつになく頭が澄み渡っている。これは…これは何だ?

「当たり所がよかったのかしらね…?」

それだ。謎は全て解けた。

俺は紳士的に愛子に礼を言い、颯爽と教室を後にした。

やらねばならないことが…できたから。



「はい、美神令子除霊事務所です」

「君か。俺だ。あいつに代わってくれ」

颯爽と教室を出た俺は、すぐに事務所に電話した。

電話に出たのはおキヌちゃん。

俺の言葉に、彼女は戸惑った口調で応える。

「は…? あの、横島さんですよね? あいつって、誰ですか?」

一人称と二人称と三人称だけの会話は、どうやら成立しないらしい。

いや、これは恐らく俺とおキヌちゃんの間に絆がないからだ。

ならばやはり、協力者はあいつに頼むしかないだろう。

「…俺の弟子だ。早く代わってくれ」

「シロちゃんですね? ちょっと待っててください」

おキヌちゃんの声が消え、代わりに『ジョーズのテーマ』が流れる。

ふむ、悪戯でこの曲にした記憶があるが…まだそのままだったんだな。

あるいは美神さんが気に入ってるのかも知れないが。

「せんせー。シロでござるよー」

ジョーズのテーマが良いところで終わり、脳天気な声が聞こえてくる。

俺の愛弟子の狼少女の声だ。

「シロか。緊急事態だ。15分以内に一人で俺の学校へ来い。誰にも告げるな」

「わかったでござる!」

阿吽の呼吸、とでも言うのだろう。シロは何も聞かずに了承した。

さて、冷えたハンバーガーでも食いながら待つか。(←弁当)



「せんせー!来たでござるよー!」

事務所からここまで、常人なら30分はかかる距離をシロは10分足らずでやって来た。

俺はいつもこんな奴の散歩に付き合っているのか。我ながらすごい。

「緊急事態でござるか? エマージェンシーでござるか? すごいでござるなぁ」

目を輝かせ、ちぎれんばかりにしっぽを振って、シロが飛び跳ねる。

ああ、シロはなんて可愛いな奴なんだろう。そして俺は、これからなんてひどいことをするのだろう。

自分の復讐に、彼女を引き込むなんて。

俺は無言でシロのこめかみに狙いを定め、右45度の角度で力一杯衝撃を与えた。

「キャイン!!」

シロは可愛らしい悲鳴を上げ、こめかみを押さえて地面にうずくまる。

「シロ…!シロ…!」

俺はシロを抱きしめ、ゆっくりと背中を撫でる。

俺の言葉に、シロは涙に濡れた目を上げ…

「先生! 拙者、開眼したでござるよっ!!」

そうか!よくやった、よくやったな、シロ! これでお前も同志だ!

俺達は力一杯抱き合った。




「で? 何なのよ、一体」

なんとなく底冷えした声で、美神さんが言った。

原因は恐らく、俺とシロの身体にかけられたたすきだろう。

俺のには「給料上げろ!」シロのには「肉を喰わせろ!」と書いてある。

「お分かりにならないとおっしゃいますか? ミス美神」

俺の紳士的な態度にも美神さんは屈さない。それどころか目に殺気がこもり始めた。

「俺はもう、ドナルドのにやけ面に我慢がならないんですよ…」

「はぁ?」

「あなたに分かりますか? 金が無くてハンバーガー3個と水を買う屈辱が? そしてそんな俺を笑うドナルドのにやけ面が?」

脇で話を聞いていたおキヌちゃんが、涙目になって『ひどい…』と呟いた。

勢いに乗り、俺は更に訴える。

「俺はもう我慢できない! ドナルドのにやけ面も! 奮発して買うのがチーズバーガーという屈辱も! あなたには理解できないんですかっ!?」

涙まで流れた。俗に言う男泣きという奴だ。

おキヌちゃんがハンカチで涙を拭いてくれた。そして、俺にだけ聞こえるように『頑張って…』と囁く。

ああ、頑張るとも! 俺は一世一代の大勝負に出てやるっ!!

「………それで?」

美神さんの声から、少し険しさが消えた。俺の訴えに耳を傾けてくれる気になったのだろうか?

俺は、運命の言葉を吐き出した…。

「給料10倍」

「あんたクビ」

くっ…!!一秒だとっ!?一秒で返しやがったこのアマ!!

だが俺には奥の手がある。そう、美神さんを倒せるだけの奥の手が。

「よろしいのですか?ミス美神…」

俺のその言葉に、美神さんが今日初めてうろたえを見せた。

「な、なにがよっ!」

「俺をクビにしてよろしいのか、と聞いたのですよ。 俺は、この世でただ一人の文殊使いであり、アシュタロス殺しの英雄。そして…」

一呼吸置き、俺は言った。

「ポチとまで呼ばれた男なんですよ」

「自慢にならないわ」

なんてこった!この奥の手まで通用しないとは…!

表面上は笑顔を保ったまま、俺は心の中でむせび泣く。誰かが、泣きながら奥へ走っていく音が聞こえた。…おキヌちゃんか…。

ごめんよ…。俺は、もうダメかも知れない…。

「先生!次はシロが行くでござる!!」

傷心した俺を押しのけ、さっきまで直立不動していたシロが出た。

同時に、「バカ犬が何かやってるー」とばかりに奥からやってくるタマモ。

「で?シロは何よ?」

「拙者、肉が食べたいでござる!」

「食べれば?」

美神さんの容赦ない言葉。そう、今までのシロならここで引いていたはずだ。

だが…今のシロはそんなことくらいじゃ引かない! なぜならシロは俺の同志なのだから!!

「拙者、お金がないでござる! せんせーもお金が無くて奢ってくれないでござる! 拙者もはんばーがーが食べてみたいのに…」

そう言って『くーんくーん』と鳴くシロ。うん、ぷりちーだ。

シロのぷりちーさに負けたか、美神さんは一つため息をついてこう言った。

「いくつよ?」

「え?」

「いくつ食べたいのかって聞いてるの!」

「え、あ…30個…かな?」

俺の方をちらっと見て、戸惑ったように答えるシロ。まさか…お前は勝利を収めるのか…?

「じゃあ、はい」

シロは1858G手に入れた!!(59×30×1,05)

「…あ、ありがとうございまする…」

思いの外簡単に勝利したため、動揺を隠せないシロ。タマモは「なーんだ。もうおわりかー」とばかりにすごすごと引っ込んでいった。

「ず、ずるい!シロだけずるいッスよ!俺には? 俺には何もないんスか?」

あまりの出来事に、俺は思わず紳士の仮面を取り外してしまった。そんな俺を美神さんは一瞥し

「じゃあ、横島クンは今日だけ給料10倍で良いわよ」

「今…何とおっしゃったんです? ミス美神?」

慌てて紳士の仮面をかぶり直す。美神さんはなんて言ったんだ? まさか…まさか…

「今日だけ10倍で良いなら認めるわ。どうするの?」

俺の澄んだ頭脳は正確に答えをはじき出した。シロのハンバーガーは今日だけ。俺の給料も今日だけと言うことか。

「もちろんです、ミス美神。良い商談が出来て、満足ですよ」

「男に…いえ、紳士に二言はないわね?」

「ええ。神に誓って」

俺の言葉を聞き、美神さんはまるで悪魔のような笑顔を浮かべた。

「そう。でも残念ねぇ。横島クン、今日は学校に行く日でバイトは休みの日なのよね」

なんてこった………

俺は力無く、その場に崩れ落ちた…。



その後某ファーストフードショップで、白い髪の少女がバンダナを巻いた青年を慰めている姿が目撃された。

少女はハンバーガー30個と水L、青年はハンバーガー3個と水Lを頼んでいた。

そんな二人を、ドナルドのポスターはいつも通りの表情で見つめていた…。



――――――――――――――――――――――――

どうも、受験勉強中とは名ばかりの777です。

朝食が冷えたハンバーガー3個だったのが原因でこんな話が出来ました。

シリアスでもギャグでもラブコメでもない、ダラダラッとした話です。

どうしようもない話のような気がしますが、感想くださると嬉しいです…。

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