ザ・グレート・展開予測ショー

夏色の空


投稿者名:猫姫
投稿日時:(02/ 5/10)



 長い、長い坂道。
 くるくると回る、銀輪が四つ。

「あっつ〜い!つっかれた〜!」
「文句言うなや。行きたい言うたんは、夏子やろが」

 男の子と女の子。
 額にバンダナを巻いた、Yシャツ姿の男の子。
 真っ直ぐな長い髪の、セーラー服を着た女の子。

 男の子と女の子を乗せた、二台の自転車。

「せやかて、こんな山の上なんて、思わへんかってん〜〜」
「体力無いな〜」

 真夏の日差し。重いペダル。滴り落ちる、汗。

「横島が体力ありすぎなんやん。この、体力バカ〜〜」
「えぇー、そっかー?」

 先を行っていた自転車。ブレーキ音。止まって。振り向いて。待って。

「ちょい前までは、夏子もオレらと一緒に駆けずり回ってたやんか」
「………ソレ、小学校の時の話やないの。あの頃は、背ェかて同じくらいやったからね」

 追いついた。でも、もう動けない。ちょっと休憩。

「そー言うたら、夏子は縮んだなぁ?」
「アンタがでっかくなったんやぁ!」

 トボケ顔。睨みつける。見上げて、やっと交差する視線。

「そーか、オレが伸びたんかー」
「白々しい……」

 溜息。馬鹿馬鹿しい会話。でも、いつもの事。
 そう、いつもの事で。

「ホレ、行くで」
「あ………」

 女の子の自転車から消えた荷物。
 男の子の自転車には増えた荷物。

「もうちょいや。がんばれ」
「…………うん」

 また回り始める銀輪。くるくる。くるくる。
 吹き抜ける、夏の風。















 −−−『夏色の空』−−−















「ここや、ここや。着いたで、夏子」
「……………」

 絶句。呆然。

「帰る」
「コラ」

 舗装道路から、山の上へと伸びる、石の階段。
 長い、長い階段。長すぎる。

「ここまで来たからにゃ、付き合ってもらうで」

 先に、階段に足をかける。

「ホレ」

 差し出された、手。ちょっとした不意打ち。
 躊躇い。戸惑い。でも、握る。

「おー、えらいセミの声やのー」
「…………うん」

 手。握られた手。引かれる手。少し汗ばんだ、大きな手。

「やっぱ、木に囲まれとる分、涼しいなぁ」
「…………やね」

 背中。前を歩く背中。視界を塞ぐ大きさ。
 視界いっぱいの、背中。

「なんや、どーかしたんか、夏子?」
「………うん……」
「………………」
「…………」

 気づいた。
 男の子の視線が、繋いだ手と手に。
 少しだけ、迷って。少しだけ、躊躇って。

 ぎゅっ、と――男の子の手が、女の子の手を強く握り直した。

「………ぁ…………横島……?」
「行くで、夏子」

 歩き出す、男の子。
 着いて行く、女の子。

 蝉時雨。木漏れ日。土と木の匂い。
 足の裏に感じる、石段の感触。

「……もーちょいやからな」
「……………うん」

 昇る、石段。繋がれたままの、手と手。
 男の子と女の子の、汗の匂い。















「おー、着いた着いたぁ!」
「や…やっと着いた……」

 頂上の神社に到達。

 まだ元気な男の子。
 息も絶え絶えな女の子。

 それでも、吹き抜ける風は涼しくて心地いい。

「ホレ、水分補給」
「サンキュ」

 渡される、清涼飲料のペットボトル。
 手に取ってから気づく。キャップが開いてる。中身は半分。

「…………」

 ちらりと男の子を見る。
 こっちを向いてはいない。

「…………」

 どきどきしながら口をつけた。















「おーい、こっちや、こっちー!!」

 男の子の声に導かれて。
 辿り付いた、その場所。

「うわぁ……」

 壮観。そうとしか言えない。

 空。雲。山。町。人。
 全てが全く同時に、先を争って瞳の中に飛び込んでくる。
 世界の広さが、自分のちっぽけさが、四方八方から押し寄せて感じられるような感覚。眩暈がしそうな光景。

「ええ景色やねー」
「そーやろ、そーやろ」

 得意げな顔。子供のようにあどけなく。
 いつもの、イタズラが大成功した時と同じ笑顔。

「………………」
「………………」

 しばしの沈黙。
 二人して口を閉ざし、しばらく風景を楽しむ。

「……ねえ、横島」

 やがて、女の子の口から、ぽつり。

「ここって、横島の『とっておき』やろ? なんで急に、連れて来てくれる気になったん?」

 小さな疑問。視線は前を向いたまま。

「……夢を見たんや」
「夢?」
「そ、夢」

 語り出す、男の子。ぼんやりしたような。真剣なような。

「夢ン中でオレ、東京におってな。えらい美人たちに囲まれてた。銀ちゃんも出て来たで。銀ちゃん、芸能人になっとった」

 紡がれる、夢の中の出来事。
 GS。霊能力。戦い。魔族。神族。敵。味方。

 ――口には出さない所もあったけれど。

「都会に出て美女に囲まれるって所が、いかにも横島らしいね。なんや、えぇ夢やないの」
「うーん。えぇ夢かっちゅーと、そうでもないな」
「なんでや?」










「夏子がおらんかった」










「……ん、そっか」
「そうや」

 沈黙。ゆりかごのような、優しい沈黙。

 二人同時に、ゆっくりと振り向いた。
 視線が、絡まりあう。

「横島は……私がおらんと、寂しい?」
「………かもな」
「しゃーないね。ほなら横島の隣には、ずっと夏子さんが居てあげよー」
「そうしてくれ」
「じゃ、そーする」

 ふわり、と女の子が微笑った。
 男の子が、照れくさそうにそっぽを向いた。















「ここ、ちょっとだけ海が見えるんやね」
「おう。ギリギリでちらりとやけどな。――今から行って見るか?」
「うん、行こ!」

 駆け出していく、男の子と女の子。
 笑いながら。もつれ合うように。仔犬と仔猫のように。

 ――伸ばした手の、その先に。















 ――夏色の空が、輝いていた。





 〜Fin〜

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa