ザ・グレート・展開予測ショー

見えざる縁(5)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 8/23)


 人狼の里に降り立った横島とおキヌは、長老の下へと赴くことにした。里一番の古株であり、彼ならば様々な民話や伝承に造詣が深いと踏んだからである。
 横島は、道中一言も口を聞かなかった。自分の弟子が背中に死の影を背負っていると知ったのだから無理はないのだが、おキヌとしては少々息苦しいものがあった。澄んだ空気を胸一杯に吸い込むこともなく、草を掻き分け二人は寡黙に歩を進めた。



「香南、じゃと?」

 横島の話を聞き終えた長老は、難しそうな顔で眉をひそめた。

「はい、その事について教えて頂きたいんですが」

 丁寧な口調でおキヌが言う。その口ぶりは長老が香南を知っている、という前提に立っているのでカマ掛けともとれるが、なにしろ今回は時間がないのだ。何らかのいわくがあれば、恐らく長老は言葉を濁すだろう。それでは困るのである。

「長老、知ってることを話してくれ。シロの命が掛かってるんだ」

 横島が身を乗り出して長老に詰め寄る。その顔には話さないのなら力ずくでも、という決然とした闘志が漲っていた。長老は暫く顔を伏せて考えていたが、シロの命と香南の情報とでは秤にかけるまでもない。長老は静かに顔を上げると、苦い薬を噛み締めるかのような沈痛な面持ちで言った。

「今から話す事は、人狼の里に土着している昔語りじゃ。半分御伽噺と思っていたが、真実だったとはの・・・」

 

「いい加減に、拙者の体から出て行くでござる!!」
「うざったいわね・・・さっさと消滅してくんない?」

 香南は二日酔いのように気だるい体を大儀そうに起こすと、頭を振りながらシロに言った。一つの体に二つの魂が偏在しているので、容量オーバーの肉体は過剰な負担を被っていた。このままでは、本来の力の半分も発揮できない。

「大体、「見つけた」とは何の事でござる!!何ゆえ拙者の体に取り憑いたのでござるか!?そもそもお前は先生に何の恨みが・・・!!」

 矢継ぎ早に繰り出されるシロの口撃に、香南は頭が痛くなった。松明のように血気盛んな魂である。このまま自然消滅を待っていたのでは、自分の精神が先に摩滅してしまう。香南は仕方がない、という具合に溜息をつき、ついでにシロの望みも叶えてやることにした。

「そんなに言うなら教えてあげるわ。私と松島に、かつて何があったのかを」

 目を閉じて、という香南の言葉に素直に従うシロ。シロの眼前には先程から香南越しにシロ(の肉体)が見ている映像が映っていたが、目を閉じた瞬間、突然鮮明な風景が瞼の裏に現れた。どうやら、香南がシロの精神にコンタクトしているようである。
 見覚えのある樹齢数百年の大ケヤキ。全身で生命を震わせている草木や動物たち。今とは多少隔世の観があるものの、そこは紛れもなく人狼の里だった。そして、ケヤキの根元に腰を下ろしている人影も見える。まだ若いと思われる男女で、二人は寄り添うようにして背中を巨木に、体をお互いのそれに預けていた。

(あれは、かつての私と・・・その恋人よ)
 香南の声がどこからか響いてくる。シロは香南がコブつきだったことに驚いたが、更に驚いたのは在りし日の香南の姿にだった。
 本当の香南は温和で朗らかで、ただ側にいるだけで元気付けられる。無意識に慈愛を振り撒く、そんな女性のように見受けられた。シロの体を乗っ取っている、丑の刻参りが似合いそうな邪悪さは微塵も感じられない。
(あれが・・・香南でござるか。ということは、向こうの御仁が松島殿でござるな)
(違うわ)
 シロの類推解釈をにべもなく否定する香南。シロは肩透かしを食ったような気分だったが、元々松島が香南の恋人だったなら香南が時を経てまで恨みを晴らそうとする筈がない。痴情の縺れ程度では、そこまでの怨恨は残らないだろう。
(私の恋人の名は、一条。そして・・・人間の男だったわ。私は、人間との恋に落ちたのよ)
 うら寂しい香南の独白に、シロは言葉を失った。

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