ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル 8


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/10/21)

16.闇の中の横島
「ごめんな、ことこ」
「思い出してくれた?」
 ことこの顔から、喜びがあふれる。
「だけど、お前がことこのはず無いじゃないか」
「ことこは死んじまったんだから」
 あどけない顔に不似合いな、薄い笑いを浮かべることこ。
「だったら、ここに居るあたしはなんだって言うの?」
「幽霊じゃないのは分かるでしょ?」
 そうなのだ。ことこの身体から、体温が伝わってきている。熱いくらいに。

「……今までのパターンからすると、夢だな」
「え?」
 ことこが不思議そうな顔で聞き返す。
「さっき俺は、夜の森の中を走っていて、穴に落ちた」
「その時、頭を打つかなんかして、気絶したに違いない」
「その証拠に、ほら痛くない!!」
 横島が自分の頬を、思いきりつねり上げる。

「な? ゆめだろ?」
 目じりに涙を浮かべて、ことこに言う横島。頬に残った爪の跡が真っ赤だ。
「そんな訳ないでしょ?」
 ことこがわき腹をつねる。
「……だってよ、そうとでも思わなきゃ」
 脂汗を流して痛みに耐える横島。思いのほか強くつねられたようだ。
「思わなきゃ?」
 横島はことこを抱きしめ、耳元に口を寄せる。
「妖怪だとしか思えないじゃないか」
「ことこのふりをした妖怪を、俺は許せねえよ」

「お兄ちゃんだったらいいよ」
 ことこがささやく。
「お兄ちゃんにだったら、あたし殺されてもいいよ」
 言葉の意味を理解するのに、時間がかかる横島。
 ことこはそっと離れ、横島の前に立った。
 横島は思い出した。ことこの服装は、あの頃来ていたパジャマにそっくりだ。

 横島の手が強い光を放ち始め、そして消えていった。
「できねーよ!!」
 横島は苦しげに叫ぶ。
「たとえ妖怪でも、ことこを傷つけるなんて、できる訳ねーよ!!」

「すまん、ことこ。俺行かなきゃならないんだ」
「そのうち、俺も死ぬから。そしたらお前といくらでも、遊んでやれるから」
 いつの間にか、横島の目から涙があふれている。
「だから……。だから……」
 言葉に詰まる横島の首に、ことこが両腕を回す。
「約束して」
「もうあたしみたいな、寂しい子を作らないって」
 横島の唇に、ことこの唇が重なる。
「えへへ。セカンドキスもお兄ちゃんとしちゃった」

 ことこが一歩下がって、横島に微笑みかける。
「会えて嬉しかった」
 ことこの身体が闇に包まれて行く。
「またね」
 その言葉を残し、ことこは消えてしまった。
 横島の唇に確かな感触を残して。

 横島はことこの消えた、暗やみをじっと見つめた。
「美神さん達には、聞かせらんない話だな」
 ポリポリと頭を掻く。
「それはそうと、ここはどこだ?」
 どっちを向いても真っ暗だ。

 やがて頭上から、蛍が舞い降りてきた。
 導くかのように、光を放ちながら飛んで行く。
 涙を袖で拭うと、横島は蛍を追って、闇の中を歩き出した。

17.ポチ兄ちゃん
「どうしても、やらねばならんのでゴザルか? ポチ兄ちゃん。……いや、ポチ殿」
 シロの顔が苦悩に歪む。
「村の掟を破り、女の身で剣術を学んだお主」
「それに、いかな意味があったのか、拙者に見せてみよ」
 犬塚ポチは、腰から大刀を抜き放った。
「来ぬのか? ならば拙者から、参る!!」
 大刀を担いだポチが、地面を蹴った。

 シロの霊波刀が、真っ向から受け止める。
 金属がぶつかり合う音と、火花が散る。
 腕力は、やはりポチの方が上だ。
 鍔迫合い(つばぜりあい)に持ち込まれると、シロは次第に押し込まれて行く。
「ポチ殿は天に召されたはずでゴザル。何故(なにゆえ)このような所に……」
「立ち会いの最中に、何をほざいておるのだ。拙者を愚弄(ぐろう)するな」
 ポチが力を込めて、シロの霊波刀を払いのける。
 同時に足を払われて、シロは堪らず転倒してしまった。

 ポチが嘲笑う。
「その程度か? お主、何の為に剣術を学んだのだ」
 唇を噛んでシロは立ち上がる。
「大切なものを守る為でゴザル」
 シロの答えを聞いたポチは、一瞬キョトンとすると、大笑いした。
「拙者と同じではないか?」
「それでは、何故拙者は死に、お主は生き残ったのだ?」
「同じ理由で剣を取り、同じように修行して、実力はお主にはるかに勝る拙者が、何故死ななければならなかったのだ?」

「答えよ、シロ!!」
 ポチが一喝する。
「ポチ殿が奪ったからでゴザル」
 シロは霊波刀を構え直す。
 身体を半身にして、腰を低くした姿勢を取る。
 ひじを軽く曲げ、霊波刀を肩より少し下の位置に持ち上げる。
 テレビで観た、フェンシングと言う西洋の剣術を、ヒントにした構えだ。
「己の欲望の為に、命を無駄に奪ったからでゴザル」
 ポチの顔が憤怒に歪む。

「シロよ、世の生き物は皆、戦って勝つことを宿命づけられているのだ」
 ポチが大刀を正眼(せいがん)に構えた。
「負けは死を意味する。お主がこれまで、どれだけの命を奪ってきたか考えてみよ」
 ジリジリと、ポチがシロの周りを、右に回って行く。
「考えるまでも無いでゴザル」
 ポチに合わせて、すり足で向きを変えながらシロは答える。
「拙者が言っているのは、ポチ殿が奪う必要のない命を、奪ったと言うことでゴザル」
「それに、訂正させて頂くが、拙者の実力は、すでにポチ殿より上でゴザル」

「ほざけ!!」
 ポチが突っ込んでくる。
 シロの狙いは必殺の突きだ。
 それはポチも承知の上。
 霊波刀の切っ先をすり上げるように捌いて(さばいて)、シロの手首を狙う。
 シロはポチの大刀の切っ先を、手首を返してかわすと、そのまま地面を蹴って、ポチの懐に飛び込んで行く。
 霊波刀がポチの着物を貫く(つらぬく)。

「なるほど、強くなったようだな」
 ポチの着物の袖が破れて、血にまみれた肩が覗いている。
 シロもまた、わき腹から血を流していた。
 二人は再び構える。
「次で終わりにしよう」
「承知でゴザル」
 シロは先手を取って、突っ込んで行った。

18.再び森へ
「で、なんでみんな居るのよ?」
 時刻は午前三時半。
 美神令子除霊事務所の3人が、モノレール線路の下に到着した。
 待っていたのは自衛隊と、西条輝彦と……、
「令子ちゃん〜〜〜〜〜〜〜」
「令子、あんたのしょぼくれた顔、見に来てやったワケ」
 声を聞いただけで、誰だかすぐ分かる。
 うしろの方では、雪之丞とタイガーとピートが談笑している。
「呼んでもないのに来んな!!」
 美神の叫びは、悲鳴のように響いた。
「話が盛り上がったら、オールスターキャストと言うのがお約束なワケ」
 小笠原エミが嘲笑うように言った。

「ほれ、頼まれ物じゃ」
 ドクターカオスが懐から、携帯電話を3機取り出す。
「依頼通り、お互いの位置を示す、機能を付けといたぞ」
「それと、こっちが時空振探知装置じゃが」
 マリアが担いでいる箱を手で示す。大型冷蔵庫ぐらいの大きさだ。
「重力波アンテナをこれ以上、小さくできなくてな。携帯は不可能じゃ」
「すでにアンテナを2箇所に設置しておるでな、ここと合わせて3箇所」
「検知した結果は、こちらから携帯電話に、知らせることになっておる」
「操作はワシに任せておけ」

 美神に携帯電話を渡すと、カオスは振り向いて声を張り上げた。
「携帯は皆の分もあるから、取りに来い」
「お前か、バラシたのは!!」
 カオスの頭を、美神のアイアンクローが締め上げた。

「バラシたのは、君のお母さんだよ」
 西条がささやいた。
「伝言だよ『皆が居れば、あんたもそうそう、汚いことできないでしょ』だそうだ」
「もしかして、西条さんも?」
「もちろん。僕も同行させてもらうよ」
 西条がさわやかな笑顔で言った。そういえば迷彩の野戦服を着ている。

 制服を着た自衛官が歩み寄って、声を掛けてきた。
「我々と同行する、と言うのはお前達か?」
 見ると、いかにも精鋭部隊からの選り抜きらしい数人だ。
「はぁ!?」
「民間人など、邪魔なだけだが仕方がない」
「我々の指示に従って、勝手な行動はしないように」
「ちょっと、話が反対よ。あたし達に同行するならまだしも、なんであんた等に同行しなきゃなんないのよ」
「民間人が公人に従うのは当然だ」
 美神の抗議は、危険な論理で却下された。

 美神は必死に食い下がる。
「あんたら、対妖怪の訓練は、済んでるんでしょうね」
「太陽界? 太陽がどうかしたのか?」
 頭痛がしてきた。美神はこめかみを揉みほぐしながら、隊長に尋ねなおす。
「中ではどんな超常現象が、起こるか分からないんだけど、あんた等にその覚悟はあるのかって聞いたのよ」
 自衛官達がざわつきだす。
 聞いてないッスよぉ、とか、おうち帰るぅ、とか聞こえてくる。
「何だかなぁ」タマモがつぶやいてる。おキヌがシッと人さし指を唇に当てた。

「未熟者はいらない。Gメンの西条がそう言ってたって、上官に言いなさい」
 立ち尽くす自衛官たちに、背を向ける美神。
「止めてくれよ。角が立つじゃないか」
 西条が渋い顔で言うが、聞こえないふり。

「さて、行くわよ。気を引き締めなさい」
「空間転位に巻き込まれても、いちいち助けないからね」
 時刻は午前4時。東京タワー上空に、にわかに黒雲が集まってきていた。

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