ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第1話〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 8/15)

生きとし生けるもの全てが脱水症状を起こして倒れそうな、猛烈な暑さの昼下がり。
油をひいたフライパンのように熱された歩道を、リュックサックを背負って歩く一人の少年がいた。
中肉中背で、これといって目立つところがない。強いて言えば、右眼だけ瞳の色が薄い茶色だということだろうか。
彼の名前は大野 聡。高校生である。
(とほほ・・・参ったなあ)
リュックサックの中に入っている、買ったばかりの履歴書とアルバイト情報誌が聡の悩みの種だった。
(苦手なんだよな・・・)
人一倍人見知りの激しい聡にとって、アルバイトの面接に行って担当の人に自分をアピールするということは、鉄棒の大車輪よりもインベーダーゲームの名古屋打ちよりも難しい芸当なのである。もちろん、これまでにアルバイト経験はない。
だったら始めからアルバイトなどしなければいいのだが、そういうわけにもいかなかった。

『なあ聡、アルバイトはええぞ!』
一人の友人の声が脳裏に蘇る。
『自由になる金がめっちゃ増えるし、何より女の子との出会いが沢山あるんやで!』

前者のメリットももちろんだが、後者のメリットが聡の心を激しく揺さぶった。
彼女いない歴16年という悲惨な記録。
女の子に興味があるくせに、話しかける勇気がないという矛盾した性格。
しかし、環境を変えればそんな状況も自分自身も変えられるかもしれない。
そんな一縷の希望を込めて情報誌と履歴書を買ったわけだが、
情報誌に掲載されていた『初心者のための面接講座』に目を通した途端に腰が引けはじめたのだった。

『履歴書は丁寧に!必要事項を書き漏らしなく!』

『面接での最低限のマナーベスト10!』

『担当者の方に自分をアピールするには』

本来初心者に情報を与え安心させるのが趣旨の企画なのだろうが、聡に限っては未知なる物への恐怖をひたすら煽られただけである。

履歴書に一つでも書き漏らしがあったら、即座に不採用なのだろうか?
面接では、敬語を見事に使いこなさないといけないのだろうか?
面接には前もって想像しうるすべての質問に対する答えを準備し、明朗活発に澱みなく回答しないといけないのだろうか?

(やっぱりやめようかなあ・・・)
土壇場で急に怖気づくのが聡の悪い癖である。ふと、六道女学院に通う少女への途中で諦めた恋心が胸をよぎった。
(きっとうまくいかないんだろうな・・・アルバイトも)
肩を落として歩いていると、行く手に一軒のレストランが見えてきた。
店先は綺麗に掃除されていて、観葉植物やベンチがセンスよく配置されたおしゃれな外装が目を引く。
(えっと・・・この店は確か・・・)
アルバイトの話を聡にした友人が、この店について語っていた記憶がある。
「ああ、やっぱりそうだ・・・『魔法料理 魔鈴』」
その友人によると、この店は美人の魔女が魔法を駆使して切り盛りしているらしい。味も抜群だそうだ。
昼下がりという時間だからだろうか、「準備中」と書かれた立て札が立っている。
(う〜ん、こんな店で働けたらな〜)
束の間、聡は美人魔女との甘い恋を思い描いた。
そして、自分の行動の空しさに気づいて余計に落ち込んだ。
(あ〜、何やってんだろ俺・・・)
ありえないことを空想して、それで自分を慰める。なんと空しい行為だろう。
以前よりもさらに肩を落として、家に帰ろうとしたその時。
聡は、店の扉に張られている貼り紙を発見した。

『アルバイト募集。高校生可。委細は面談で♪  魔法料理 魔鈴
電話番号○○○―××××』

これは巡り合わせだろうか。
アルバイトを探しているときに、偶然美女がやっている店が募集している。
しかも高校生でもOKとは。
湧き上がる興奮を抑えながら、聡は電話番号を素早く携帯電話に打ち込んだ。

「あら、あなたアルバイト希望?」
ふいにレストランの扉が開き、中から一人の女性が出てきた。

おさげというともすれば地味になりがちな髪形なのに、そこはかとない華やかさが滲み出ている。
出で立ちは最近の「ゴス」という流行に近い・・・というか、言ってしまえば魔女そのもの。そして、大変似合っている。
どこか悪戯っぽい笑顔。左目の下の泣きぼくろがチャーミングである。

結論:美人。それも一級品。

「は、はいそうです!」
「ふふっ、面白い人ね」
上ずる余りひっくり返ってしまった聡の返事に、彼女は吹き出した。
「とにかく、アルバイト希望なのね?だったら中でお話しましょ」
「で、でも、履歴書とかまだ書いてない、ですし・・・」
「別に構いませんよ。直接話せばわかることですから。さ、いらっしゃい!」
「は、はあ・・・」
いきなりの展開に混乱したり何かを期待したりしながら、聡は店へと入っていった。



どこかのバーといっても通りそうな店の中は、クーラーがよく効いているのか涼しくて心地いい。
準備中ということで、客は誰もいない。
彼女は店内を見渡すと、空いているテーブルの一つを指差した。
「そこで話しましょうか。えっと、名前まだ聞いてなかったわね?」
「あ、大野 聡っていいます」
「聡君、っていうのね。私はこの店をやってる魔鈴めぐみっていいます。よろしくね!」
「よ、よろしく!」
リュックサックを下ろし向かい合わせに座ると、魔鈴のいい香りが聡の鼻をくすぐった。
「それじゃ聡くん、少しあなたについて教えてもらおうかしら?」
「え〜っと、ん〜っと、・・・何を話そうかな?」
これほど間近に美女がいると、緊張してしまって元から出てこない言葉が余計に出てこない。
「何でもいいわよ?あなたの特技とか、長所とか」
「え、えっと、特技は将棋です!
長所は・・・う〜んと、物を探すのが得意なことです!
あとは、あとは、そのお・・・」
「ふふふ、もういいわ」
「ええっ!?」
聡の夢が、野望が、一瞬にして崩れ落ちた。即座に不採用とは。
(やっぱり・・・やっぱり駄目なんだな、俺・・・)

「これから、よろしくお願いするわね」

「・・・へっ?」
「あなたを採用します。期待してるわよ!」
一瞬にして崩れ落ちた聡の夢が、野望が、一瞬にして復活した。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
(うわあ〜!まじかよ!?)
「それでね、聞きたいんだけど、土・日もでてこられるかしら?」
「はいっ!勿論です!」
部活をやっていない聡にとって、土・日というのは昼まで寝るためのものでしかない。
「良かった〜。最近週末が特に忙しくって大変だったのよね。
じゃあ、とりあえず今週の土曜日に一度来てもらえるかしら?時間は今日と同じぐらいでいいわ」
ほっとした表情を見せる魔鈴。これまではよっぽど大変だったらしい。
「もう一人新しいバイトの子が来るから、その子との顔合わせもその日になるわね」
「そ、そうですか」
美人魔女と二人で働く光景を妄想していた聡は、少しがっかりした。
「シフトもその時決めましょうか。後、確かその日には『もう一つの仕事』も入ってるから、
それについても話すわね」
(もう一つの仕事・・・?配達かなんかかな?)
「それじゃ、土曜日よろしくね。待ってるわ♪」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」



聡が店を出ると、そのタイミングを見計らったかのように、店の奥から黒い毛をした猫が一匹姿を見せた。
「あら、もう休憩いいの?」
魔鈴がその猫に話しかけると、
「そんなことより、今の奴採用するのニャ?」
なんと猫が返事をした。
「ええそうよ。何か不満?」
しかし、魔鈴は猫が口を利くという異常事態にもかかわらず平然としている。
「なんかひ弱そうで頼りないのニャー」
「そうかしら?」
「ご主人はあんなのが好みニャ?」
「そういうのじゃないの!」
「じゃあ何なのニャ?」
「そうねえ・・・」
魔鈴は頬杖をついて少し考えた。
「何か・・・面白いことが起きそうなの。彼を雇っていると」
「・・・漠然とした理由だニャー。心配だニャー」
やれやれといった感じで猫が首を振る。
「大丈夫よっ!私の勘は良く当たるんだから」
「本当かニャー?」
「私を信じなさい!・・・さて、もう二人もアルバイトが入ったからあの貼り紙は要らないわね。
はがしといて頂戴」
「・・・まったく、ネコ使いが荒いニャ〜」
ぶつぶついいながら、猫は扉まで行くと内側から貼ってある貼り紙をはがした。
「さっきの奴、ちゃんとこの貼り紙読んだのかニャ〜?」
貼り紙にはこう書いてある。

『アルバイト募集。高校生可。委細は面談で♪  魔法料理 魔鈴
電話番号○○○―××××

仕事内容   ホールスタッフ及び除霊補助』



この日から、これといって目立つところのなかった聡の人生が、大きく変わることになる。





今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa