ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラの命日中編『花』


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 8/19)

ばたんっ
ききききいいいいっ
べこっ
ばたばたっ

シロの横島の住むアパートまでを音にするとこんな感じだろうか?
とにもかくにも、おおよそ普通では考えられない短時間でシロはアパートにたどり着いた。
ちなみに、シロがぼろぼろでまるで台風に直撃でもしたかのようである事は、いうまでもない。
すーはーっと深呼吸をし、ぱんぱんと服についた埃(?)を軽く落としドアを叩く。
─こんこん。
返事はない。
「あれ?で、ござる」
きょとっと首を傾げシロ。
─とんとんとんとんとん。
もう一回、リズム良く、叩く。
だが、返事はない。
間違いなく、横島の部屋の灯りは点いている。
もしかして、無視されているのだろうか?
などとシロが思うわけもない、もう一回、しかも嬉しげに
とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんっ♪
と叩く。
迷惑この上ない。
─と、べじっとシロの頭が紙袋かなにかのよーなもので吹っ飛ばされた。
がんっとそのまま、ドアへと頭をぶつける。
「な、なにすんでござるっ」
涙目になりつつ振りかえると、そこのは両手一杯にカップラーメンの入った紙袋をもった横島がいたのだ。
「何すんだっていうのはこっちの台詞だろーが」
むすっとしたまま横島。
その通りである。
「って…?あれ?せんせー??どこぞにいってたでござるか?」
痛みに顔をしかめながらシロ。
「ん?あ今日は、ラーメンの大安売りの日やから、買いに行ってたんだ」
かちゃかちゃと扉を開けながら横島。
「んで、何の用だ?また伝言頼まれたんだろ?」
どさどざっと大量のカップラーメンを部屋の中に置きながら言う。
よくよく見てみるとこの部屋には、大量のごみと呼ぶに相応しいものの中にスーパーのチラシが混ざっていた。
……しかもチェックし較べた形跡がある。
どうやら、横島は少ない給料で生活していくのに涙ぐましい(主婦のような)努力をしているらしい。
「あ、そうでござる」
あやうく、『伝言を伝える事』ではなく、『合うこと』が目的にないりそうになっていたシロは明日はお休みという伝言を伝えた。
「………そーか」
どこか苦い響きがある。
気遣いをされている自分を不甲斐なく思う気持ちと、ただ純粋に感謝する気持ちが入り混じっている。
ぽりぽりと頭を掻き、言う。
「有難うって伝えといてくれな」
と。
「はいでござるっ」


シロは、そう言うとにっこしと笑い、また突風のような速さで走っていった。
どうにも落ち着きがない。その姿を微笑ましく思い、横島は苦笑する。
そうして、誰もいなくなった部屋で呟かれる言葉

「そういえば、アイツの記念日って知ってるの命日だけだな…」

呟きは、誰の耳にも届かない。


次の日。

その日は、快晴だった。
突き抜けるような蒼い空に、眩しい太陽。
この分ならきっと綺麗な夕焼けが見れるであろう。
珍しく学校にきっちり出た横島は、学生服のまま「そこ」へと向かった。
途中花やを見つけ、買おうかとも思うが、あいにく持ち合わせの無いことに気付く。
第一自分は、どんな花がいいのかわからない。
いかがですか?という店員の言葉にも、曖昧に頷きそして去る。
─そんな横島を見つめる四つの目があった。
タマモとシロである。
ここで断っておくが、これはまったくの偶然である。
ただ単に、東京タワーの近くにあるクレープ屋さんが、美味しいという噂を聞いたので向かっていただけなのだ。
(ちなみに今日は、依頼もないので、お仕事はお休みらしい)
「は、へんへーでごある」
はぐはぐとクレープをほおばりながらシロ。
「ほんほだ」
同じくほおばりながらタマモ。
この状況で、この二人に付いて行くなという方が、無茶である。

そうして、ちょうど夕暮れ時に横島は、其処へとたどりついた。
何時も、毎日見ている夕暮れなのに、毎日綺麗だと思える。
「もう、一年か…」
風にさらされて、見るその景色は、確かに彼女と見た光景と同じで
だけど、彼女は、もうここにはいなくて
そうして、当たり前のように、彼女がいないまま、季節はひとまわりする。
彼女とは、ひとつの季節すら共有できなかったのに。
心臓を、捕まれるかのような、痛みが襲う。
なぜだろう?
こんなに、こんなに、こんなに、こんなに、大切なのに、自分はここにいる。
彼女がいないのに、自分は、ここにて、何時もどうり生活をおくっている。
後を追いたいなどとは、間違っても思えないし、思わない。
けれども、悲しいのだ。そして苦しいのだ。
いっしょに居たかったんだ。ずっと─
それでも、生きて行かなくていかなくて、生活も仕事もしなくてはいけない。
そうして、この薄れていく感情を、痛みを、薄れていくものと反対に大きくなる罪悪感を、楽になろうとしている、時に癒され様としているこころを恥じる感情とともに。
それでも、少しでも、遭えて良かったと思うこころをもって─
気がつくと、頬がぬれていた。
堪えきれぬように、嗚咽が漏れる。
顔を両手で覆う。

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