推定無罪! その6
投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/12)
白井総合病院。
美神たちがよく利用する、比較的大きな私立の総合病院である。
その一階中央受付の前に、一人のの少女が立っていた。歳は10歳くらい。少女は子供に似つかわしくない鋭い目つきであたりを観察し、何かを探している。しばらくすると、お目当てのものを見つけたらしく、おもむろに歩き出した。
少女は、若い看護婦のあとを少し距離をとりながらついてゆく。そして誰も居ない廊下にさしかかると、小走りになって追いつき、看護婦の前にまわりこんだ。
「…なあに、お嬢ちゃん、何かご用?」
看護婦は笑顔を作って訊ねたが、少女は何も言わず、ただ右手を上げて手のひらを見せた。
「え…?」
看護婦は目の前に突然現れた虹のようなものに幻惑され、それと共に意識が朦朧となって思考能力を失った。少女はとろんとした目つきの看護婦の手を引いて近くのトイレへ連れて行くと、便座に座らせ、さらに目の前で人差し指を上下させる。たちまち前後不覚に眠ってしまった看護婦を見て少女はクスリと笑い、個室の扉を閉めて鍵をかけ、自分は身軽に壁をよじ登って外へ出た。
そのあと、少女は大きく息を吸い込むと両目を閉じ、体にグッと力を入れる。少女の周りに幾筋かの電光が走り、それとともに体が膨れ上がって変化してゆく。再び目を開いた時、彼女はさっき眠らせた看護婦とそっくりに変身していた。
この少女―看護婦は、しばらく体中を手でさわって変身に不備がないか確かめた後、トイレを出て、近くの診察外来へ向かった。
彼女はまず外の椅子に並んで座っている診察待ち患者たちの前を、手をかざしながら足早に通った。次に外来の中へ入ると、いきなり大声をあげる。
「あっ!!」
そこに居た全員が自分の方を注目した瞬間、彼女は両手をさっと動かす。すると数秒間全員が硬直した様になり、その後何事もなかったようにもとの行動に戻った。
今度は診察室である。わざと足音を大きく立てて彼女が入ると、患者と医師が振り向く。しかし彼女がすっと手をかざすと、何も見なかったように元どおり診察が始まる。
こうして彼女は病院中の各外来へ行き、一々この奇妙な行動をとった。ようやく全部まわり終えるとさすがにすこし疲れたらしく、目に付いた長椅子に座りこむ。
「このうえ入院病棟にまでこれやってまわるのはちょっときついわね…。リスクは増すけど仕方ないか…。」
そうつぶやくと、彼女は自分の髪を何本か抜いて口に含み、歯で細かく噛み切ってからぺっと吐き出した。すると髪の破片ひとつひとつが小さな金色の蝶になり、ひらひらと病院中へ散らばって飛んでいった。
約1時間、彼女はそのまま長椅子に座ってウトウトしていたが、不思議と看護婦が居眠りしているのに誰も見咎めない。やがて飛んでいった金色の蝶たちが三々五々帰ってき始めた。
「せめて最初に数を数えとくべきだったかしらね…」
結局、大方全部だろうと思う数が帰ってきたところで彼女は全てを右手の上にとまらせ、その上に左手をかざした。すると蝶たちはスッと溶ける様にして皮膚の中へ吸い込まれてしまった。
彼女はゆっくり立ちあがると今度は階段を使って地下の食堂へ向かった。この食堂は小さい割に品数は多かったが、彼女は迷うことなくきつねうどんを注文し、空腹だったのか一気にかきこんでだしまで飲み干した。
「あーっ、久しぶりに1日二食たべたわ!」
彼女は立ちあがってカウンターまでいき、調理している中年女性に言った。
「うどんに入れる油揚げちょうだい。」
いきなりこんな事を言われた場合、普通なら断るか、意味がわからずに聞き返しそうなものだが、調理係りの女性はさも当たり前のように揚げのいっぱい入ったタッパーウェアを冷蔵庫から取り出して持ってきた。それを受け取ると、彼女はレジへ行って財布を取り出しながら言う。
「ほんとは術でただ食いなんて趣味じゃないんだけど、持ち出せたお金が少なくてね。それにこのあと大騒ぎになるから多少売上が合ってなくても分かりゃしないわ。これだけでまけといて。」
彼女は100円玉を一枚置くと、何も言わないどころかその100円さえ手に取ろうとしないレジ係の前から立ち去り、食堂の近くにあるエレベーターが空なのを見てとび乗った。
一階に到着したそのエレベータからは、10歳位の少女が一人元気よく走り出てきた。少女はそのまま小走りで正面玄関の自動ドアから外へ出ると、少し離れてから病院に向き直る。
「私は自分の巣を荒らした奴よりも、荒らす様に命令した奴を憎むし、その命令を出す原因をつくった奴を憎む。木の葉が憎ければ根を絶つのが私のやりかたよ。ま、ここには多少世話になってるし、一発目でもあるから、術は緩めのにしといてやるけど、この次からは徹底的にやるからね。わたしが毎日立ち食い一杯で生活するからには、あんたたちも気楽な生活が出来るとは思わない事よ。」
少女は子供らしからぬ不敵な笑いを浮かべ、右手を一度真上に上げた後口元につけた。
ピーッ
鋭く口笛を吹いた後、少女は油揚げのつまったタッパーを片手に病院の前から走り去った。
その翌日の新聞には、こんな見出し記事が載った。
「ガス?霊障?病院が騒乱状態に 昨日午後、都内の私立白井総合病院で、一時的に患者、医師、看護婦、その他院内にいた殆どの人々が酩酊状態に陥り、歌う、踊るなどして騒ぎ、病院の機能が完全に停止した。騒ぎは3時間ほどでおさまったが、特に医師の酩酊状態がひどく、意味のわからないことを口走って動物のものまねを繰り返す者もいた。これにより器物の破損等の被害がでたが、患者が死亡したり重篤な状態に陥るような事はなかった。警察では何らかのガスによる中毒か、霊障の疑いが濃いと見て捜査を進めている。」
『どうかね、うまくいっとるかね?』
『今のところは順調ある。現場の設定計算と設置場所の確保はほぼ完了したある。』
『モノの持ち出しの方は?』
『いい使いっぱしりを拾ったあるから、うまく使えば監視の少ない時安全に持ち出せるある。』
『Gメンは今公安と対立しとるから、物の分かる人間は出てこんはずだが…気をつけてくれ。』
『そんな事より問題は眼の確保ある。やっぱり千里眼を使うのは危険過ぎるあるぞ。』
『そうだ、その事なんだが、この前若い女がどうとか言ってたろう。』
『斎女占いあるか?』
『そうそう、それをやるとしたら何人ぐらい必要なんだ?』
『卜占や普通の遠視なら強いのが一人いれば十分あるが…あそこを透視するとなると…』
『3人では足らんか?』
『まあ強いのが3人いればなんとか…しかしそんなには確保できないある。』
『いや、それはこっちで何とかなりそうなんだ。』
『ほんとあるか?10代中ごろで霊力の強い女性あるぞ?』
『歳は16、霊力は保証つきだ。』
『しかし金で釣ってやらせても上手く行くかどうか分からないあるぞ?強いの責任意識がないと…』
『その点も大丈夫だ。しかも一人は美神令子の身内だそうだぞ。』
『令子ちゃんの…?なるほど…大体分かったある。くれぐれも話が洩れないように頼むあるぞ?』
『それは心得とる。女の件は任せてくれ。あんまり長く話すと枝がつく。これで切るからな。』
『それじゃまた連絡するある』
今までの
コメント:
- 玉藻もどうにか無事に(?)生活しているみたいなので、とりあえずホッとしております(笑)。幻術をはじめとした様々な術を駆使して人間たちを惑わしているシーンは九尾の狐「らしい」動きだったと思います。問題は厄珍&横島クンコンビです(汗)。一体何を企んでいるのでしょうか? しかも何故か(笑)美神所霊事務所のメンバーがもう一人噛んでいるようですし、次回以降の展開から目が離せなくなってきました♪ (kitchensink)
- 最初からここまで、一気に読みました。
非常に現実感を感じさせる設定、なのに極楽らしさが随所に滲み出ていて、まさしく「二次創作」のお手本のようです。
ストーリーも丁寧で、しかも面白い!!
文句無しに一票です。 (ぱっとん)
- タマモちゃん、本気になるとすごいですね(^^;
むむ。厄珍さんが、アヤしい動きを!
続きが楽しみですね〜(^^) (猫姫)
- 厄珍と鴨ノ池さんですね、最後に出てきた会話は。なんとも利用されている感のあるおキヌちゃんたちですが、これからどうなるのか…(汗)。そして、果たしてタマモは捕まらずにすむのか。完全に道具にされている横島はどうなってるのか(笑)。謎が謎を呼びますね。此れからが楽しみです♪ (マサ)
- さすが…たくましいですねタマモ。
とても楽しめました。 (3A)
- タマモ恐るべし。厄珍があやしいですね〜(笑)
さて、これからどうなるのか?楽しみだなあ〜 (ヨハン・りーヴァ)
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