ザ・グレート・展開予測ショー

tunaidate


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/10)


 “つないだ手を離さない、離せない―――きっと君は”


 東京タワーの最上階、その上、最もよく景色が見える場所。俺は彼女に手を差し伸べる。彼女は驚いた様子で、その手を見ていた、が微笑むと、その手を掴んだ。すっと、引き上げる。

 「ありがと、横島」

 彼女は微笑んだ。頬をかすかに赤らめながら。


“この手離してしまったら、もう二度と、出逢えない、そんな気がするから”


手は離さなかった。何故、と聞かれれば、惑う。離すことさえ考えなかった、ただ、二人並んで、沈む夕日を見ている。沈むゆく夕日は、どこか儚げで、見ているものの気持ちを切なくさせる。

 「綺麗ね・・・」

 いつか彼女が言った言葉・・・一瞬しか見えないからこその美しさ。

 「・・・ああ」

 そして、俺は彼女の言葉に頷く。熱を帯びた頬に、冷えた風が心地良い。


“何も変わりはしないと、そんなこと分かっているのに”
 

彼女の顔を見る、どこか、愁いに満ちた瞳、何がそんなに不安なのか、聞きたいと思う、でも、聞けない。聞いても、彼女は何も答えてはくれない気がしたから。
 彼女は俺の視線に気付いたのか、笑みを浮かべながら俺を見返す。

 「何?」


“訳もなく不安になるのは、どうしてなのかな?”
 

おどけた笑みを浮かべながら、俺に聞く。その顔に、さっきまでの哀愁漂う雰囲気はない。
 
「何でもないよ」

 頬を掻いて誤魔化す。彼女の目が細まる。内緒にしているとでも思ったんだろうか?

 「何?」


“答えはそう分かってる、でも、認めようとはしない、精一杯のやせ我慢、それでも、君を―――”


 少し、ほんの少しだけきつい口調、彼女は引き下がることを知らない。口元に浮かんだ不敵な笑み。何が何でも聞き出すつもり。

「・・・ただ、綺麗だな、と思っただけだよ」


“好きだから、言葉に出すこと少し躊躇うけど”


ぽっ、と擬音がつくくらい、面白いほど顔を赤らめた彼女に、俺も恥ずかしくなる。何を口走っているのか、と自己嫌悪に陥る、それでも、恥ずかしそうな彼女の顔を見ると、それでも言って良かったかな?と思うあたり、俺って単純だ。夕日がなっ、といって誤魔化すことさえ、考えられなくなる。

「な・・・何を言うのよ!いきなりっ・・・」


 “つないだ手を離さない、離さない―――きっと僕は”


 彼女の赤らめた顔に、その瞳に愁いはない。困惑の色さえない。ただ、羞恥と僅かな喜びの色が見えるだけ―――俺の言葉で一時でも不安を消すことが出来たのなら、嬉しい、そう思う。この瞬間を、彼女と生きたい、ずっと幸せなままで。

 「ルシオラ・・・」

 自分が出したものとは思えないくらい真剣な声。


“触れ合う気持ちを確かめたいから”


 「・・・何?横島?」

 その声音につられたのか、ルシオラもまたいつものおちゃらけたものとは違う声。
 好きあっているのに、向き合うことに躊躇いを覚えない関係になって、どれくらい経ったろう?随分、待たせてしまったんだな、と、思う。

 「俺は・・・」 


“つないだ手を離さない、離せない―――離したくないよ”


 「・・・?」

 彼女の顔が強張る。心に不安の影がよぎる。それでも言わなければならない。その表情が明るいものになると信じて。

 「俺は・・・」

 彼女の手を強く握る。すると、彼女の握り返していない手が、そっと添えられる。微笑みを浮かべた彼女は決して先を促そうとはしない。ゆっくりと、俺の言葉を待っている。
 こんな時まで、俺は彼女に頼っているなんて・・・。苦笑いを浮かべながら、俺は彼女のもう一方の手も包みこむように、手を添えた。強張っていた顔が緩み、自然、笑顔が浮かぶ。
 不安がることはないのかもしれない。少しくらいは自身を持って良いのかもしれない。
 つないだ手から伝わる温かい気持ち、お互いの体温だけじゃない―――優しい気持ち。

 「俺は・・・、いや、俺と―――」


“きっと僕は”


 後日談、というか。

 「ママぁ・・・パパからそんな風にプロポーズされたんだぁ・・・」

 蛍子ももうそんなことを聞くような歳になったのか・・・、むぅ。そんなことを思いながら、食卓を囲む我が家の視線は俺の下に集まる。みんながみんな、嫌な笑みを浮かべながら。俺は頭を掻きながら、ご飯をかきこむ。できるだけ早く、この場から逃げ出したい。

 「えへへ・・・いいでしょっ!!東京タワーのてっぺんで、夕日を見ながら、二人愛を語り合ったのよ。
 「ルシオラっ!!君なしでは僕はもう生きられないよっ!!」
 「忠雄さんっ、私もよっ!!」
 「あぁ、何て美しいんだ・・・その口、その鼻、その目・・・」
 「ありがと、・・・でも、こんな外見の美しさなんておばさんになってしまったら・・・おばあちゃんになったら消えてしまうわ・・・」
 「ルシオラに限ってそんなことないっ(キッパリ)・・・それに、何より、俺が愛しているのは・・・純粋で、優しく、美しい、君の内面―――心さ!!」
 「あぁ・・・忠雄さん・・・がばっ」
 「ルシオラぁ〜!!がばっ」
 ああ・・・思い出しただけで・・・ぽっ」

 妻―――ルシオラが意味ありげな視線で俺を見る。夫婦の中でこの視線が交わされるってことは、つまりは、『あれ』だ。(何かは秘密)


 「うわぁ・・・お父さん、そんなこと言ったんだぁ・・・」

 三女の蛍輝は顔を赤く染めながら呟く。できれば否定したいんだが―――似たようなことを今まで何度となく言いあってきたんで、否定するのも躊躇われる。俺の気持ちとしてみれば、『嘘』、じゃないしな。まぁ、プロポーズでそんなこと言った覚えはないが。

 「がばっ、ってなぁに?ぱぱぁ」

 四女の蛍夢、その顔はわからない時に浮かべる彼女独特の顔。間抜けな猫のような・・・、愛らしい表情(?)だ。すまん、蛍夢・・・、説明することは出来そうにない・・・、大人になったら・・・って、大人になってからの方が不味い気はするが・・・(泣)

 「・・・嘘?」

 次女の蛍美。いつも無表情で口数少ない彼女はいつものとおりだ。何故だか微妙に顔が悲しげに歪んでいる気がするが・・・、娘達にとって見れば夫婦仲が良いに越したことはないと思うんだが、どうして、そんな顔をするんだ?気のせいかもしれない。

 「東京タワーで・・・そんなことを!?―――これ以上のシチュエーションを探すのは難しいかも・・・でも、諦めちゃ駄目よ、蛍子。まだ、幾らでもチャンスはあるんだから・・・娘と父親の禁断の愛って言う線も残ってるわ・・・、ってどうして逃げるの?パパぁ!!」

 聞くなっ!!

 「そう、私を押し倒した忠雄さんは(中略)。あれ(中略)で、そ(中略)」

 トリップすんなぁ!!我が妻よっ!!

 「そう・・・考えてみれば・・・私とお母さんはそんなに歳は離れてない・・・」

 だから何だっ!?蛍美っ!?

 「何より、俺が愛しているのは・・・純粋で、優しく、美しい、君の内面―――心さ!!」

 だぁぁぁ、言ってないこととは言え、かなり恥ずかしいから繰り返して言うなっ!!蛍輝っ!!

 「ねぇねぇ、お姉ちゃん?がばって何?に「だぁぁぁぁぁっ!!」ふにゃっ?」

 聞くなぁぁぁぁぁっ!!

 「えっとね、がばっっていうのはお父さんが押し「どえぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 答えるなぁぁぁぁっ!!

 「あぁ・・・忠雄さん、駄目(何が?)・・・あ(中略)、そ(省略)、お(削除)」

 妄想で悶えるなぁぁぁぁぁぁ!!しかも娘の前でぇぇぇぇ!!

 いつものように、夜は更けてゆく・・・。こんなのがいつもの光景だってんだから・・・まぁ、笑いは絶えないから良いとは思うけど・・・。


 「嬉しい・・・横島、私、ずっと待ってたんだよ?いつも、不安だった、あなたが私を好きではなくなったんじゃないかって・・・」
 
 彼女の左手の薬指には、煌く指輪がある。あまり飾り気はない。そんな、指輪が彼女には似合っている気がした。飾らない、素顔の彼女の美しさ、そんなものに派手な装飾はいらない―――金がなかったってのも、まぁ、理由としてはあるんだが―――三ヶ月、必死で働いて貯めた金で買った指輪、それくらいの価値はある。彼女の笑顔には。

 「悪ぃな・・・遅くなっちまって。でも、これで、ようやく結婚できる」

 「うん・・・そのことだけど・・・」

 「?」

 「私、まだ一歳なのよね・・・」

 「・・・っ!?」

 「・・・十五年、待ってね♪」




















 “君の事が本気で好きだから”

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