勇気の剣(8)
投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 2/25)
「おおおおぉぉぉっ!!!」
大地を揺るがす程の咆哮と同時に、柊の太刀が振り下ろされる。シロは霊波刀を横に構えて攻撃を受け止めたが、次の瞬間凄まじい重圧が襲い掛かり、思わず苦悶の表情を浮かべた。
「グッ・・・何てパワーでござる!!」
このまま鍔競り合っても勝敗は目に見えている。シロは柊の鳩尾に蹴りを入れると、隙をついて霊波刀で斬りかかった。だが、あろうことか柊はシロの霊波刀を左手一本で鷲掴みにすると、そのまま握りつぶし霊波を四散させてしまった。
「!?なっ・・・」
驚愕の表情を浮かべるシロ。柊はにいと笑うと、お返しとばかりシロの鳩尾にブローを撃ち放った。
ドゴォッ!!
拳のめり込む嫌な音が響いた瞬間、シロは五メートルほど吹き飛ばされた。骨が軋むほどの強烈な一撃に、シロはその場に蹲り胸を押さえたまま苦しげに息を吐き出した。
身動きの取れないシロに、柊がゆっくりと近づいていく。顔には、手負いの獲物をどう料理するか、とでもいわんばかりの恍惚とした表情が滲み出ていた。
「! シロ!!」
漸く到着した横島と長老が見たものは、今にも柊に止めを刺されそうなシロの姿だった。何故柊が?などという疑問が浮かぶよりも早く、横島は霊波刀を出し柊に突っ込んで行こうとする。だが、臨戦態勢の横島の前に、突如何者かが立ち塞がった。
「小僧・・・じっとしていてもらおう」
「紅蛇・・・!!」
シロは助けさせん、というより柊の邪魔はさせん、とでも言うように紫苑を構えたまま微動だにしない紅蛇。ふてぶてしささえも漂うその態度は、現状と相成って横島を切れさせるには充分すぎた。
「どけえーっ!!」
「いかん!!横島殿!!」
激昂して紅蛇に斬りかかる横島に、長老が横からしがみついた。丁度ショルダータックルの形になりうつ伏せに倒れる横島の頭を、夢幻の刃が掠めていく。名残を残すように、横島の前髪が二、三本はらりと落ちた。
「落ち着け!!迂闊に飛び込んでは危険じゃ!!」
「んなこと言ってられるか!!このままじゃシロが・・・!!」
冷静さを欠いた横島を、必死に宥める長老。紅蛇は、一歩も動かないままそんな二人を面白そうに眺めていた。
膝をついたまま蹲るシロの頭上に、何者かの暗い影が落ちた。焦点も疎らな瞳を上げると、そこには黒い太刀を構えた柊の姿があった。
柊は先刻のダメージで身動きが出来ないシロに向かって、冷然と太刀を振り上げた。柊が己が意思に従いそれを振り下ろした瞬間、シロの御霊はこの世から消滅する。
柊の双眸が一層赤味を増した。右手の太刀に、どす黒いオーラが集まってくる。
「シ、ネ・・・」
完全に悪鬼と化した柊が、勢いをつけて太刀を振り下ろした。
「柊・・・」
シロが諦めたようにその名を紡いだ。
「シロー!!!」
横島の絶叫が木霊する。紅蛇越しに彼が見た光景は、シロに引導を渡すべく太刀を振り下ろす柊の姿だった。絶望の入り混じった声と表情の横島を見て、紅蛇も何が起きたのか察したようだ。紅蛇が不気味に唇を歪めてくくと笑った。
だが−−−
横島が呆然とした顔をした。喪失感や現実逃避に顕れる様なそれでなく、何が起きたのか分からない、といった感じの顔だ。その顔につられて、紅蛇も思わず後ろを振り向いた。
そこに映っていたのは、太刀をあと数センチのところで止めている柊の姿だった。余程急激な停止だったのだろう、筋肉が目に見えて突っ張り太刀を持つ右手がぶるぶると震えていた。
「柊・・・?」
シロが呆然とその名を紡ぐ。柊は自分の名前に触発されたように、かちゃんと太刀を落とした。
「ウ・・・」
震える声で、柊が呟くように言った。低く静かで、それでいて強い強い感情が篭った声。
「グ・・・ガアァァァァァァッ!!」
柊は、叫んだ。深い慟哭も強い激情も全てが凝縮された、魂が悲鳴を上げる様な声で。両手で押さえた頭を激しく振りながら、両目からは血の涙を流していた。赤い、魔の瞳を洗い流すかのように。
柊の望んだこと。それは、力を手に入れること。もう二度と愛しい人を失わない為の、大切な人を守り抜く為の力を。
だが、現実に手に入れた力。それはシロを、大切な人を傷つけ、失わせしめる力だった。そう、柊が望んだものとは正反対の悲しい力を・・・
「・・・・・・」
誰も、何も言えなかった。シロも横島も長老も、ただ黙って柊が己が内に潜む鬼に打ち勝つことを願っていた。
柊の瞳から、徐々に魔の色が溶けていく。代わりに宿るのは、清い光を湛えた彼本来の黒色の瞳。それは柊の望んだことだ。本来の柊を取り戻すべく、シロが柊に駆け寄ろうとした。
ドス・・・
だが、伸ばしたシロの手が柊に届くかと思った瞬間、柊の腹部から剣が生えていた。紅蛇が柊を背中から貫いたのだ。紅蛇が紫苑を引き抜くと、柊は喀血し大地に倒れ臥した。
「ひ・・・柊ー!!」
シロが柊を抱き起こす。壁がなくなったことで、横島、長老がすぐに走ってきた。
「柊、しっかり!!」
シロの声に、柊が苦しげに瞳を開ける。血が溜まり無残にも赤く染まった口から、言葉が発せられた。
「グッ・・・シロ、ごめん・・・僕は、力が欲しかった。もう誰も失いたくないから、誰も悲しませたくないから・・・けど、こんなのじゃない・・・僕の欲しかったのは、こんな力じゃ・・・」
「柊、もういい、もう喋るな」
「シロ・・・僕は、霞の元に行くよ・・・お前は、僕のようには、な・・・る・・・な・・・」
今にも柊の瞳が力なく閉じられようとした時、横島が脇合いから文殊を発動した。だが、如何せん傷が深すぎる。助かるか否かは、五分五分と言ったところだ。
「まったく使えん小僧だ、折角我が最高峰といえる妖刀を与えてやったというのに」
冷然とした紅蛇の声に、三人はきっと顔を上げた。そこに映ったのは壊れた玩具に用は無いというような、呆れたような紅蛇の表情だった。
「貴様・・・!!」
「・・・じいさん、柊を頼む」
シロと横島が、ゆっくりと立ち上がった。見る者全てを射抜くほどの、殺気さえも思わす瞳の色を湛えて。
今までの
コメント:
- 完全ぶち切れマジモード発動ですねえ。これで感情に任せて突っ走ったりしなければ、このコンビって凄まじく強いでしょう。・・・その突っ走らない、ってのが一番難しいコンビでもありますけど(^^;そこはほら、師弟の絆パワーでなんとでも(笑) (けい)
- 実は霊波刀の弱点って、鍔競り合いにあるのではないか、と。だって、逆手を添えられないからどーしても片手の力だけしか込められないし。
ところで、どうして紅蛇は柊を斬ったのか? 妖刀によって引き出された柊の霊力を紫苑に吸わせたのか? ならば、その意味は?
彼の目的が気になります。 (黒犬)
- ↑そう言えば紅蛇は最初から柊を追いかけてたんですよね。もう用無しになったんでしょうか。うーん?
ところでシロの御霊は死してもなお横島の傍を離れるまいと思うのですが…ハッ、失礼しました。主人公が、それもシロが死ぬことなんてありえないから考える必要ないですね。 (斑駒@うぅ、縁起でもない)
- ←あぅ。 (斑駒@(汗))
- 自らの狂気を何とか理性で押さえ付けた柊の本当の心の強さは中々の物でしたが、横島たちの所からそっと離れて柊の落とした紫苑を拾う紅蛇に気付かなかったのは横島たちとしては不覚に過ぎます。それと皆さんが仰っている様にその後の紅蛇の行動にも謎が残るので、今回は賛否を保留させて頂きます……次回以降に期待しつつ。 (Iholi)
- 賛成ですけど、上の先輩達がいつに無く真面目な感想を述べているのでそっちにビックリ!
うぅーーーーー…(どーしよう?)
鍔迫り合い?『オラオラオラオラオラオラ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄!』ですかね? (魚高@結局言っちゃった。)
- 紅蛇がなぜ柊に妖刀を与えたのかこの時点で解明していなのはちょっと心残りですね。
とりあえず続きに期待します。 (JIANG)
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