ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−33


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 2/20)





時は、横島の魔神戴冠宣言より少し遡る。



リリスの指令で、ワルキューレとジークは横島の傍に付き添っていた。
彼らは横島を恐れていた。
横島の力をではない。
横島の心の在り様をだ。
彼らの知る横島とは、決して人を――――同族を殺すような存在ではない。
しかし六道邸の一件でも分かるように、横島はどこかおかしくなっていた。


「横島君、悪い知らせだ。
 昨日、ナルニアのご両親が拘束されたよ。
 ・・・・・・・丸2週間の逃走劇の末だったそうだが。
 他にも魔鈴めぐみのレストランはも抜けの空。
 身の危険を察知して姿を眩ましたようだ。
 最後に・・・・・・唐巣神父の教会が焼き討ちにあったそうだ」

ジークが沈痛な面持ちで知らせる。

「・・・・・・犠牲者は?」

横島は虚空を見つめて問い掛ける。

「特にいない。
 消火に当たった近所の人が、軽い火傷を負った程度だ」

「あいつ等・・・・・・今の俺に喧嘩を売って、無事で済むとでも思ってるのか?」

横島が怒りよりも呆れたといった感じに呟く。
あいつ等とはGS協会のこと。
この状況では、焼き討ちを行った、あるいは煽ったのが協会の連中だろうことは疑う余地はない。

「彼らは分かってないんだよ。
 誰が協会に伝えるっていうんだい?
 『横島忠夫は魔神級の魔族になりました』って。
 結界によって、研究所から遮断されていたのは彼らも同じこと。
 つまり、情報も遮断されてたんだ。
 少なくとも、研究所の最後辺りで協会へ事態を知らせる者は一人もいなかったからね。
 あの場にいた者は誰一人として。
 ヤマサキくらいかな?だが、彼も死んだ。
 彼らは知らないんだよ。
 自分達が火薬庫の中で火遊びをしていることをね」

ジークとワルキューレは、伝えたくても伝えられない事実があった。
リリスと協会のホットラインの存在である。
もしリリスが横島のことを詳細に伝えれば、彼らも行動を自重するに違いない。
しかし現実には、リリスは情報を伝えることは無く、GS協会の暴走を微笑みながら鑑賞していた。

彼女は“何”もしていない。

わざわざ協会が暴走するように干渉しているわけではない。
同時に、協会の暴走を牽制する情報を与えもしていなかった。
彼女はただ眺めているだけ。
嘲笑うだけ。


「ジーク?ワルキューレ?」


自分の名を呼ばれてビクッとするワルキューレ。
彼女は横島に再会してから、一言も口を利こうとせず、全てジークに任せていた。
そんな彼女に、横島も積極的に声を掛けようとはしなかった。
再会してから1週間。
初めて横島がワルキューレに声をかけた。





「俺の我儘に・・・・・・・付き合ってくれないか?」







―――― エピソード33: his secret plan T ――――







新たな魔神戴冠。その名は横島忠夫。

その一報がリリスを通じてGS協会に齎されたのは、幹部達の会合の席であった。


「魔族化したことは報告が来ていた。
 しかし、魔神だと?!」

誰かが唸った。

「偽情報なのではないのか?!」

別の誰かが、自分達の所業を思い出しつつ言った。

「だとしたら、どうして魔神リリス自らが我々に知らせる?」

別の誰かが、焦りを覚えつつ言った。

「まずいぞ・・・・・・。
 我々は明らかに恨まれている。
 だから私は止めろと言ったんだ!!!」

別の誰かが、責任逃れを始めた。

「ほざけ!
 貴様の管轄していた研究所を提供していたではないか!!」

文珠の利権争いに敗れていた誰かが、揶揄した。

「過ぎたことは仕方ない。
 問題はこれからどうするかだ」

最後の一人が自分達の業を理解せず、過去の物と断じた。



「捕えている奴らはどうする?」



そこにいる全員が頭を抱え始めた。
これといった明暗も浮かばず、無駄に時を過ごすこととなる。









そして月日は流れる。






――――横島の独白――――


魔神に就任して1ヶ月。
目まぐるしい日々が続いた。
リリスを始めとする先輩魔神への挨拶周り。
神魔最高指導者達との会談。
そこで魔界最高指導者のサっちゃんが、俺を気に入ったようだ。
実はアシュタロス関連の辺りから、俺はウォッチングされていたそうだ。
そんなわけで、俺はサっちゃんから直々に色々世話をしてもらった。
一つは領地と城。
魔神ともなれば、それなりにハッタリを利かすためにも必要なんだそうだ。
本来、俺がそのまま受け継ぎそうな旧アシュタロス領は、美味しいところは他の魔神達が分割して手に入れていたために、不毛な土地しか残っておらず、サっちゃんの個人的な領地を分けてもらった。
それほど大きくはないが、魔界でも有名な避暑地らしい。
そう、魔界というのは俺の想像と違って、意外にも花咲き乱れる場所もゴロゴロしていた。
もちろん、荒野もあれば、人間が想像するような地獄の風景もあるのだそうだが。

俺が貰った城の名はユーチャリス。
花の名前で、花言葉は『清らかな心』。
サっちゃんが堕天した時に、最初に降り立った場所に立てたのだそうだ。
その花言葉を聞いた瞬間に、サっちゃんは俺の計画を察知していることを悟らされた。
というより、俺の魔人化を容認していた辺り。
俺がアノ計画を立てることも、予想の範囲内――――というよりは、予定通りなんだろうな。

さて、魔神に戴冠したということで、俺にも部下が付いた。
どちらかと言えば、お目付け役という感が否めないが。
俺に従うことになった直接の部下は6名。
他にも、顔を見たこともないような有象無象もいたが。
それはともかく、その6名のメンツは、

ワルキューレ。
ジーク。
メドーサ。
デミアン。
ドグラ・マグラ。

そして、意外だったことにベスパまでも俺の部下になった。
しかもメドーサ達と違って、ワルキューレやジークと同じく自ら志願してのこと。
彼女が俺に何を願っているのか。
それは容易に見当が付いたが、それを叶える決心が付かないでいた。



「驚いたよ・・・・・・。
 ポチが魔神になるなんてね」

再会して、開口一番にベスパはそう言った。

「ま、色々あってな」

気まずい相手だった。
互いに、互いの好きな存在を殺しあった仲。
理性では仕方無かったと諦めることも出来る。
だが、感情面ではどうしようもないことがある。

「事情は聞いたよ。
 逢わせてくれないか?」

誰に?なんて無粋な質問はしなかった。
同時に、隠し事もしなかった。
俺はルシオラクローン16人を同時に出現させた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それを見ても、ベスパは無言。
何を言って良いのか分からないんだろうな。

「ルシオラクローンだ。
 どうやら、これが覚醒した俺の力らしい」

何の反応も無いが、ベスパが聞いていることを疑いもせずに、俺は続けた。

「俺が彼女達の存在を認識したのは、魔族化してから数日後のことだ。
 その日、いつもは内側から感じていたルシオラが、外側から感じられたんだ。
 どういうことかと色々調べた結果、それがルシオラクローンの魂だと気付いた。
 お笑いだよな。
 GSたる………それどころか魔族になった俺が霊に憑依されるなんてさ。
 でもまぁ、俺もそれなりに経験あったからな。
 おキヌちゃんほど・・・・・・ああ、ネクロマンサーの彼女だ。
 その彼女ほどじゃないが、霊と語り合うことも出来る。
 色々と話しかけてみたんだけど、知性みたいなものは無いようだ。
 ただただ、俺を慕う気持ちだけ。
 だから俺はこう言ったんだ。

 『だったら、俺が死ぬまで付き合ってくれるか?』

 ってな」

「そして、彼女達を手に入れたわけだ」

「ああ・・・・・・。
 不満か?」

見ると、ルシオラクローン達は俺達の周りを、俺とベスパを守るように慈しむように漂っていた。

「別に………。
 失われたと思ってたモノが、一部とは言え戻って来たんだ」

そう呟きながら、ベスパはルシオラクローン達を涙に潤んだ瞳で見つめる。

「だけど・・・・・・そのせいでルシオラは・・・・・・」

「確かに可能性はさらに低くなった。
 かなりの確率で、ルシオラの姿をした別人になるかも知れない。
 ルシオラクローン達として外に出ちゃったからね。アンタの中の姉さんは。
 でも諦めるのか?
 何もせずに諦められるのか?
 アタシはそんなの真っ平だよ?」

ベスパの強い決心の篭った眼差しが俺を見つめる。

「・・・・・・そうだな。
 パピリオを呼び戻し次第、ルシオラを復活させる。
 俺に・・・・・・付いてきてくれるか?」

「ああ・・・・・。
 姉さんだけでも取り戻したいからね。
 アタシに出来ることなら何でもするさ。
 となると・・・・・・もうポチなんて呼べないな」

自嘲するように、苦笑するベスパ。

「好きなようにすれば良いさ。
 公式の場でそれなりに敬ってくれさえすれば、プライベートでどう呼ぼうが問題ない」

「ヨコシマ。
 そう呼ぶことにするよ」





こうして俺は一時とはいえ、最高の同盟者を手に入れることとなった。





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