ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(17)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/11/ 3)

 結城の部屋を出て2時間後、ワルキューレはあるワンルームマンションの一室にいた。

 カチッ。

 部屋の明かりのスイッチを入れ、小さなソファーに座り込む。

 『フゥ・・・。』

 緊張が解け、思わず溜息をもらす。結城の部屋からここまで来る間、常に尾行の有無を気にして神経
が張り詰めていた。
 この部屋は、ワルキューレが緊急時のセイフハウスとして個人で借りているものだ。
 家具は必要最小限の物しかない。今座っているベット兼用のソファーと小さなテーブル、その上のノ
ート型パソコンと携帯用テレビ、電話に冷蔵庫に簡易クローゼット。一つだけ場違いに頑丈そうな金庫
。中には武器と現金がはいっている。彼女はここのほかにも都内に数箇所、この様な部屋を用意して、
必要な武器や現金などを保管して、万が一軍からはなれて孤立するような場合にそなえていた。
 この様なことはもちろん軍には報告していない。必要な費用は作戦行動の度に経費をいくらか水増し
して報告した分をあてている。上官は当然気付いているはずだが黙認してくれていた。
 彼女の属する世界では、常に最悪のケースを想定して行動していなければ命がいくつあっても足りは
しない。任務遂行中に政治的な理由で軍から切り捨てられる可能性だってありうるのだ。そのような時
、なにもかも軍に頼り切っていたのでは生き残れない。
 ワルキューレはソファーから立ち上がり、結城からもらった銃とマガジンをテーブルの上に置くと軍
装をといた。そのまま一糸纏わぬ姿になりシャワーを浴びる。10分後、タオルで頭を拭きながら出て
きたワルキューレはそのまま電話のそばまでいくと、足の指で点滅を繰返すメッセージ再生ボタンを押
した。無機的な合成音が2件のメッセージがあることを彼女に伝えた。相手は誰かわかっている。ここ
の番号を知っている者は一人しかいない。

(一件目)
 『もしもし、ジークです。姉さん今どこにいるんだ。もし無事でこのメッセージを聞いたらすぐに連
  絡してくれ。』

(二件目)
 『もしもし、ジークです。あれから何の連絡もないけど、姉さんのことだからきっとどこかに潜伏し
  てこのメッセージを聞いていると信じている。魔界の方はまずいことになってるよ。だれが言い出
  したのか、あの事件は姉さんが敵に情報を漏らしたのが原因だっていう噂が流れ出して、MP(軍
  警察)が動き始めた。僕のまわりにも監視がつきはじめたよ。今後、連絡がある場合は僕の携帯で
  はなく、この電話の留守電にいれておいてくれ。直接連絡をとりあうのは危険だから。じゃあ、ま
  た何か情報があったらいれておくよ。』

 一件目は事件のあった翌朝、二件目はその二日後にいれられたものだった。ジークもワルキューレと
同様に、現在は情報部員として人界に派遣されている。主に科学技術情報の収集にあたっているらしい
。この前久しぶりに会ったときには、詳しいことは言わなかったが、時にはかなり危ない橋もわったっ
ているようだった。そのせいか、今回は妙神山でダミアンたちと戦ったときと比べると大分落ち着いて
いる。
 弟の成長を感じられたのははうれしいが、情報の内容はあまりうれしいものではなかった。だが驚き
はない。軍の内部に敵の内通者がいる以上、遅かれ早かれこうなることは解っていた。
 ワルキューレはメッセージの内容を消去するとソファーのところに戻り、その上に身を投げ出した。
テーブルの上の銃を手に取ると、無意識にそれを玩びながら今後のことを考える。

 (魔界に帰るという選択肢はこれで消えた・・・)

 MPといえども人界であまりはでな行動はできないはずだ。となれば魔界に帰るより人界にいた方が
安全だといえる。GメンやGSを敵にまわす可能性はあるが、美神親子や唐巣神父といった主要メンバ
ーが出てこない限り、MPとやりあうのに比べれば物の数ではない。神族は魔界のゴタゴタにワザワザ
首を突っ込みはしないだろう。

 (あとはどこから攻めるかだな・・・)

 軍が敵にまわってしまった以上、ワルキューレが生き残るためには、真の敵の正体をあばきそれを滅
ぼす以外に道は無い。その突破口をさぐるため、彼女はこれまでのことを始めから思いだしていった。

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