ザ・グレート・展開予測ショー

!縁者の贈り物 幕


投稿者名:フチコマ
投稿日時:(02/ 2/22)

 「…………」
目が覚めた俺は見慣れた天井を眺めていた。
……って、え? 見慣れた!?
それは紛れも無くボロアパートの俺の部屋の天井だった。
俺、どうしたんだっけ? 何でこんなトコで寝てんだ? 除霊の仕事は全部終わらせて……
 「お兄ちゃん!!」
 「蛍!?」
俺の思考はいきなり抱きついてきた…というか寝ている俺に覆い被さってきた妹によって中断された。
 「バカッ。お兄ちゃん。ムチャして…心配してたんだから!」
首だけ起こして妹の表情を窺がおうとするが、妹の顔は布団に伏せられていて見えない。でも肩は小刻みに震えて…
ひょっとして、泣いてる…?
俺は慌てた。
 「ゴメン……俺が悪かった」
こういうときは謝ってしまうに限る。しかし俺、何したんだっけ?
 「何が悪かったかわかってんの!?」
う……妹は真っ赤な顔をして、涙ぐみながらも据わった目でまっすぐに俺を見つめてくる。何がって…
 「えーと…」
妹の追及を避けるように上半身をずり上げながらあとずさる。
たぶんこの1週間に自分がやった事だ。しかしその間、俺と妹の接点は少ない。となると…
 「説明せずに家を飛び出したこと…」
 「なにそれ? そんなことじゃないわよッ!」
違ったらしい。でもたぶん1週間前のあの日にあったことだ。なんか怒ってたみたいだし…
 「おまえの作った飯を目の前で食わなかったこと…」
 「………」
妹は無言だが、追求するような目つきは変わらない。どうやらこれも違うらしい。
あとなんかあったっけ? あの日……
あっ!
俺は自分の思いつきに真っ青になる
 「もしかして、俺、おまえのこと…「違うわよッ!!」…で呼んで……ないのか」
なんかそんな記憶もあったのだが、夢の中でのことだったらしい。良かった。
しかし妹の剣幕はすさまじく、俺はまた少しあとずさる。妹もその分、間を詰めてくるのであまり意味は無いのだが。
 「ひょっとして朝帰り…」
 「バカッ!」
妹の拳が眉間にクリーンヒットする。おい、グーはないだろグーは。

直後に上半身を抱きすくめられる感触。
 「寂しかったんだからッ! この部屋に一人で。お兄ちゃんに会えなくてッ!」
妹は俺の胸に顔をうずめて…今度は本当に泣いているらしい。
 「お兄ちゃん、急がしそうで、顔も見られなくて、ご飯だって…話もできないし…」
蛍の切れぎれの声が俺を切なくさせる。

そうだった。忘れてた。俺がコイツにしてしまったこと。
 「せっかくいっしょにいられるのにッ!!」
俺がコイツにしてやれること。

 「……悪かった」
俺は蛍の頭に手を置いて、くしゃくしゃっと撫でた。
 「いっしょにいてやれなくて悪かった。これからはなるべく傍にいてやるから…な?」
蛍はゆっくりと顔を上げて、しばらく少し不満そうな顔をしていたが、やがてニッコリ笑った。
 「分かればよろしいッ! それでね……?」

 ジリリリリリン

電話が鳴った。
俺と妹はしばらく顔を見合わせていたが、妹はでる気が無さそうだったので、俺がでた。
 「ハイ。よこしま……」
 「横島クン!? あんたよくもやってくれたわね!」
 「美神さん……??」
俺は何をしでかしたのだろう? あの理不尽な依頼書の山もキレイさっぱり片付けて褒められこそすれ、怒鳴られる筋合いは無い。
いや、むしろこっちが文句を言いたい位だ。
 「美神さん。俺、依頼は全部片付けたでしょう!? 大変だったんスよ!? バイクの免許まで取ったりして。だいたい全員で出張ってドコいってたんスか!?」
 「それよ! あんた事務所にあったバイク勝手に持ち出したでしょう!」
 「え!? ええ。除霊に必要だったんで」
そういえば、あのバイクはどうしたんだっけ?
 「あれはママから譲り受けた年代モノで今じゃ500万は下らないのよ!?」
 「へえ〜そんないいバイクだったんですか」
 「とぼけてんじゃないわよッ! 救援信号を送ってきた人口幽霊1号から全て聞いたわ! 他人のバイクを勝手に崖から落としてバラバラにしといて、自分は『浮』の文殊で無傷!? そんなことするヒマがあったらバイクを救いなさいよね!」
そうか、俺は崖から落ちたんだった。無傷だったもんだから忘れてた。アパートまでは美神さんが運んでくれたのかな?
 「……スイマセン」
『俺の命よりバイク』と言うのはどうかと思うが、母親から譲り受けたと言う事は何か思い出の品だったのだろう。
それを壊してしまったのは悪かった、と思う。
 「……!? あ――、とにかく! 弁償分あんたの手取りからさっ引いとくからね!!」
 「えっ!? ちょッ! それはカンベン…」
 ガチャン
切れた。
500万って…俺がこの一週間いくら稼げたか知らんけど、そんなに引かれたら蛍の学費に足りなくなるんじゃあ…?


傍らを見ると、蛍と目が合った。俺の様子を窺がっていたらしい。
 「どうしたの? お兄ちゃん。今の電話、美神さんからでしょ? 何を怒られてたの?」
…妹には美神さんの声は聞こえていなかったらしい。金の話だと知られなかったのは不幸中の幸いと言えるだろうか。
 「なんでもない。それより、おまえさっき何か言おうとしてなかったか?」
 「あ! あのね。ホントは1週間前に分かってて言おうと思ってたんだけど。私、成績優秀で奨学金が貰える事になったの」
 「は? おまえが? 成績優秀…?」
それを聞いて妹は脹れっ面をしてみせる。さっきまで泣いてたクセに。表情がコロコロと変わるヤツだ。
 「あ、ひっどーい! こう見えても私、優秀なのよ。編入試験のときも今までに無い成績だって言われたし、中間試験だってねぇ…」
 「あ――。分かった分かった。で、その奨学金って何だ?」
妹は一週間分を全部取り戻そうとするかのようにしゃべりだす。適当に遮らないと話が進みそうもない。
 「お兄ちゃん、知らないの!? 色々あるんだけど――私のは授業料、入学金、全額免除になるやつなの。霊能科では将来を担う人材を育てるためにその辺のサポートはしっかりしてるらしいわ。ウチみたいに高い学費を払えない人だっているし…」 
 「ナニ? おまえ、学費の事、知ってたの?」
学費免除にも驚いたが、こっちはもっと意外だった。
 「知らないわけ無いじゃない。お兄ちゃんったら隠そうとする仕草がミエミエなんだから」
 「あ………」
忘れてた。俺は嘘がヘタだったし、そうでなくてもコイツが自分の学費のことに頭が回らないわけが無い。
 「だから…ね、あんまり私のことでムリしないで!」
ナニ? ひょっとしてこの1週間のことまでお見通し!? さっき言ってた『心配してた』ってこの事!?

 「……ゴメン」
変な話だが、これは俺の会心の『ゴメン』だったと思う。
やっと得心がいったというか…何もかもがハッキリとした上での、蛍への心からの詫びの言葉だった。

蛍はニッコリ笑って俺の左腕に抱きつき、心からの赦しの言葉を言った。

 「ウン! 罰として、今度バイクでデートにつれてって♪」
免許の事までバレとるんかい!
もちろん俺に『断る』という選択肢は無い。

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