La Follia_3
投稿者名:アシル
投稿日時:(03/ 1/ 7)
夕焼けを見ていると変な気分になる。
少なくとも彼女はそうだった。
昼が死んで夜が生まれる時間だからだろうか。
酷く心がざわつく。
自分が一人だと言うことを強く認識させられる。
その家柄と己の特殊な体質故に、六道冥子には人間の友人が極めて少ない。
式神たちは確かにとても仲の良い友達だが、ちょっとそう言うのとは違うと思った。
冥子が彼を見つけたのは、もちろん偶然だった。
夕陽に翳した霊力を帯びた掌を、グッと握りしめる青年。
彼女の数少ない友人である美神令子の事務所で働く横島忠夫という男だった。
冥子にとっては、極めて稀少な異性の知人である。
「なにやってるの〜〜?」
冥子が歩み寄ると、横島も彼女に気がついたようだった。
振り返り、目を細める。
「冥子さん?」
「お久しぶり〜〜」
「どうも」
そう言えば最近、見ていなかった気がする。
横島は何故だか嬉しそうに近寄ってくる冥子に、不思議がりながらも手を挙げて挨拶した。
血が足りない為か元からなのか、あんまり深くモノを考えられない。
いつもなら飛びかかってくるところを、味気ない反応しかしない横島に冥子も首を傾げた。
「気分悪いの〜〜? 大丈夫〜?」
「ははっ、最近貧血気味で」
慌てて左の手首を隠す横島。
「どうかした〜?」
「い、いや。なんでもないっすよ」
あからさまな横島の動揺の仕方に、他の者なら明らかに何かあると勘ぐったに違いない。
しかし、六道冥子はとっても素直だった。
「そーなの〜? わたしも良く血の気が足りないって言われるわ〜〜」
「はははは」
足りないのは血の気じゃないだろう。
そう思いはしたが、横島は口にはしなかった。
乾いた笑いを浮かべて誤魔化す。
「こんな時間にこんなところで何やってるんですか?」
「えっとね〜。除霊の仕事があったんだけど〜、また失敗しちゃって〜〜お母様に怒られちゃったの〜〜」
「……またですか」
それは、冥子の母親がどんな人物であろうとも怒るだろう。
彼女の除霊成功率は、限りなく低い。
おまけにここ数ヶ月、彼女が仕事に成功したという話はまるで聞いた覚えがなかった。
才能があるだけに周りは期待してしまうのだが、横島はハッキリって彼女はこの家業に向いていないと思った。
「お母様ったら〜、依頼に成功するまでお家に帰ってくるなって言うのよ〜〜」
「そりゃまた、随分と嫌われたもんですね」
「わたし〜、これからどーしよーかしら〜〜?」
「いや。俺に聞かれても」
「取りあえず今日は〜、令子ちゃん家に泊めて貰おうと思ってるの〜〜」
見た目に関しては限りなく冥子そっくりの母親だが、やることは過激である。
もっとも、簡単にブチ切れる柔な精神構造は親子どころか先祖代々受け継がれたモノであった。
そしてまた、その精神を鍛えない限り冥子の仕事が成功する確率は極めて零に近いままだろう。
「横島くんは〜、どーしてこんな時間にこんな場所にいるの〜〜?」
「お、俺っすか?」
令子たちから逃げ出してきたとは流石に言えない。
だいたい逃げ出してきた理由が『自殺に失敗して、恥ずかしいから逃げて来た』からである。
「ちょっと考え事をしてまして……」
「横島くんも〜、令子ちゃんに〜追い出されちゃったの〜〜?」
「えーっと、まあ。追い出されたというか、逃げてきたというか」
「お互い大変ね〜〜」
「いや、冥子さんとはだいぶ事情が違うかと」
「でも〜、きっといつかは良いことあると思うの〜〜。だから〜」
「あー、俺の話聞こえてます?」
「頑張りましょーね〜〜?」
勝手に妙な親近感を抱かれてしまい、横島はげっそりした。
どうして自分の周りには、己の都合の良いように拡大解釈する能力に長けた人物が多いのだろう。
他の人に言わせれば、要するに類は友を呼ぶのだが本人にはまるで自覚がなかった。
「だって〜、横島くんに考え事なんて似合わないんだもの〜〜」
「聞こえとったんかい」
どうもこの人と喋っていると調子が狂う。
ガシガシと頭を掻きながら、横島は溜息を吐いた。
「美神さんのところに行くなら、そろそろ行った方が良いんじゃないですか。あんまり遅いとあの人怒りますよ」
「えー。でも〜、横島くんのこと気になるし〜〜」
「そんなに気になるなら手取り足取り教えて差し上げますが」
ガバッといつもの調子で冥子の手を取る。
ちろりっと、彼女の影の中から何かが出てきた気がした。しかし――
「ホント〜? じゃあ〜、教えて〜〜」
純粋に喜ぶ冥子に、横島は思わず顔を引きつらせる。
どうやら相当興味が有るらしい。
目を爛々と輝かせる冥子に、横島はもはや誤魔化すことは不可能だと悟った。
今までの
コメント:
- 1話、2話とダークっぽい展開が続いたところでまさか冥子が登場するとは思いませんでした(笑)。悩んでいる人に対しては冥子みたいな純粋に天然ボケなキャラのほうが対処しやすいのかもしれませんね。横島クンにはお構いなしに自分のペースで話を進めている冥子が「らしい」感じでした。そんな冥子に対して横島クンは今後どう出るのでしょうか? 次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
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