ザ・グレート・展開予測ショー

たった一行で〜 帰国 −前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/ 6)


 これは、たった一行で〜 硝子 の続きです。

 雪之丞からの電話から一週間、連絡はなかった。
 街に張られたポスターを見て電話をしたんだとしたら、住所もわかるはずなのだが、彼は一向に来る様子はなかった。その間にすべきこと―――シロや夢乃の美神の事務所への一時的な移籍の手続きをするのにその時間は短すぎるくらいだった。何しろ、ファックスで伝えただけなのだからそれも当然だが。それと、一応作っておいたシロの口座に三ヶ月分の給料を振り込んだことも付け加えておいた。まさか無視されるとも思えないから、彼女らはあそこでやっていけるだろう。シロと夢乃とは、あのパーティーの後から顔を合わせづらく、会っていない。会ってどうすることもない。それに、彼女らから会おうとする様子もなかった。
 業務停止を食らっているのだから、本来なら、この事務所の中にいてはいけないのかもしれないが、雪之丞が知っているであろう場所はここ以外になかった。だから、仕方ない、仕方ないのだが・・・。
 
 「遅い・・・いくら何でも・・・一週間は待たせすぎなんじゃねえのか・・・?」
 
 待ちきれず、彼の彼女の弓さんに電話をかけようとしたことは何度となくあった。しかし、もし彼が弓さんと会っていなかったとしたら・・・―――考えるまでもない。何年も逢っていない思い人の居場所を根掘り葉掘り聞かれることになるだろう。こちらが聞きたいくらいなのに、だ。それに彼女は苦手だった。
 彼女と連絡をとるのは、雪之丞と会った後、その後であいつがどうなろうと知ったことじゃない。かなりひどい話ではあるが、彼はそう考えていた。―――まぁ、女の子をほったらかしにするような男が悪いということで。

 通常業務なんかは流石に無理ではあるが、それでも書類整理などの雑務などまで止められたりはしない。というか、止める人―――見張り番のような役割の人も姿を見せない。どこかに隠れているのかとも思ったが、どうやら本気でいないらしい。これなら依頼を受けても分からないような気がするが、それを試すのは愚策だった。どこに目や耳があるか知れたものじゃない。それにGS業界は広いようで狭い。業界の多くの情報がGS協会に集まる。その中でわざわざ罰を与える口実を作ることは躊躇われた。
 と、いうよりも、そんなことをしようという気もなかった。この三ヶ月は、とりあえずはトラブルメイカーのために空けて置こうと決めたから。まあ、その当人がいないのだが。

 「・・・っていうか、ほとんど終わってんじゃん・・・」
 
 頭を掻きながら、ため息を一つ―――本来なら憂鬱な事務も、暇つぶしにはもってこいだった、がいろいろ慌しかった師走の内に面倒なことはたいてい終わらせていたのだ。
 
 「ついてないのか・・・要領が悪いのかどっちなんだろうな・・・?」

 多分、後者。

 
 久しぶりに帰ってきた日本は雪化粧に彩られて美しかった。そう、いつもは気だるさしか与えないド派手な広告塔すら霞んで見えるほど、自然の風景の中に街中がその姿を変化させていた。この辺りでは雪が降ることは珍しい。たいした降りではないのだが、皆がいつもとは違った慌しさの中にいた。
 人の流れの中で、立ち止まり、壁に貼られていたポスターを見る。―――横島忠夫除霊事務所、初めて見たときは大笑いしたものだが、流石にそれも三桁を超えると発作すら起きることはなくなった。そこには、事務所あての電話番号と所在地が書かれていた。この地図自体は分かりやすいものであるとは言えないが、場所的には分かりやすい位置にあったので迷うことはない。が、だ。彼は何となく迷っていた。

 「・・・どうすっかな・・・。とりあえず弓にでも逢っておくか・・・?」
 
 頭の中で警鐘が鳴り響く、自分の親友であるYが、悪徳守銭奴(あくまで彼の認識では)Mにどつきまわされている姿を思い浮かべる。・・・そして、Yを自分、Mを彼女―――弓に当てはめてみると・・・。
 ―――有り得ないことじゃない。そういう結論に達した。が、彼はまた思う。ここで逢っておかなければ、彼女に捨てられるのではないか、と。
 二者択一、いや、よく考えればもっと上手い方法はいくらでもあると思うんだが、残念ながらそこまで考える余裕が彼にはなかった。
 前者は絶えがたい苦痛を伴うだろう。精神的よりもむしろ肉体的に―――ただ、後者はまずい。何がまずいと言われても困るが。
 
 「・・・これじゃあ何のために修行してきたのか分からなくなっちまうからな・・」
 
 弓の実家の親父さんに認められるため・・・。当初の旅の目的は純粋にただそれだけのことだったのだが、それを彼女に明かす気にはならなかった。言えば喜んでくれるだろうか、そんなことすら考えられない―――正直、途中から強くなる自分を実感できるこの旅は純粋に彼女のためだけのものではなくなってしまっていた。楽しんでいたことも否めない。彼女へのばつの悪さがあった。
 言い訳する気にもなれないわ、してもどうにもならないわ、本当にどうしようもない。彼女に殴られることは覚悟しなければならないだろう。ぼろきれのようになるだろう我が身にけっして冬であるからだけではない寒気が背筋を通り抜ける。
 
 「・・・殺されは・・・しないだろ、うん」
 
 その背中は、とても世界の中でも一流と呼ばれるに何ら問題のない、実力のあるGSの姿には見えない。まるで処刑台に向かう囚人のようだった。

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