ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(3) 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/11/ 1)

翌日

朝の底冷えするような寒さの中、沈黙が保たれていたテントの中に動きがあった。

『横島さん。起きてください。朝ですよ。』
「起きてますよ。」
通信鬼から聞こえてくる小竜姫の声に横島は静かに答えた。

『あら?起きていたんですか?横島さんの事だからなかなか起きないのを想像していたんですけど。』
「いやあ、いつもはそうなんですけどね。ちょっと目が覚めちゃって・・・。」

嘘だ。
実は昨夜はほとんど寝ていない。
寝る事が昨夜の会話をないがしろにする行為のように思えてしまい結局寝れなかった。

『早起きするに越した事はありませんよ。それでは今日の予定なのですが。今日は昨日に比べれば楽ですよ。
山越えをして一気に目標地点まで行って貰うのですが、文珠を使って貰いますから。』
「飛んでいくんですか?でも、そんなに効力は長続きしませんよ?」
『ええ、だから竜神の装備をつけた上で使ってもらいます。竜気が文珠の効果を長続きさせてくれますから。』
「それなら昨日もそうすればよかったんじゃ・・・」
『始めの内にあんまり無駄遣いして、いざという時に竜気切れになると困りますからね。それでは、目的地に着くか、何かあったら連絡してください。』
「わかりました。」

通信を切ると、シロが起きてこちらを見ているのに気付く。
「おはようでござる・・・・・。」
「あ、ああ。おはよう。聞いてたのか。今日は山越えだってな。そうと決まれば早速飯にしよーぜ。」
昨夜、シロを突き放すような態度を取ってしまった手前、どうもぎこちなくなる横島。

朝食の間、シロはいつもと変わらぬように見えた。
横島もいつもと変わらぬように振舞った。
お互いに昨夜の会話には触れようとせず、取り留めのない会話が続いた。

朝食が終り身支度を整えると、二人とも竜神のヘアバンドと篭手を身に付ける。
すると、身に付けると同時に今まで厚い防寒具の上からでも感じていた身を切るような寒さがふっと消える。
考えてみれば、宇宙でも活動できたのだ。
寒さや暑さなど、人間の耐えられない環境の中でも大丈夫なのだろう。
そうなると、防寒具はただの動きにくいだけの服と言う事になり、二人はそれを脱ぎ荷物の中にしまう。

必要最低限の物しか持って来なかったので、普段の除霊の時に背負わされる物よりはかなり少なめの荷物を背負うと、横島は二つ文珠を生み出す。
そして、それに『飛』『翔』の文字を込めると、同じように荷物を背負ったシロに手を差し伸べる。
「シロ、行くぞ。掴まれ。」
何気ない言葉だが、その言葉もどこかぎこちない。
本人も意識はしていないのだろうが、相手に心配を掛けまいとするあまりお互いの間に距離をとってしまう、そんな言葉だった。

シロは俯いていたが、やがて顔を上げると横島の方へと近づいていく。
だが差し出された手、それをすっとかわして横島の正面に回りこみ、そのまま横島の体に抱きつく。
「お、おい。」
横島が抵抗し体を引こうとするがシロはそれを許さず、横島の胸に顔をうずめたままきつく抱きすがる。


シロは悔しかった。
昨夜横島が見せた一面。深い悲しみを持つ顔。
それに今まで気付かなかった事も悔しかったが、なによりも自分が今何もしてあげられないのが悔しかった。
 
今まで横島は本当の意味での心の弱さ、悲しみを見せる事はなかった。
シロは横島を心から信頼していたし、横島の強さも知っていた。だから横島には甘え、頼った。

だが今、シロは初めて横島の心を支えたいと思った。

悲しみと弱さを垣間見てしまったから・・・


シロが抱きついた事に初めは慌てていた横島だが、何時までたっても動こうとしないシロに嘆息する。
「シロ、このまま行くぞ?」
シロは横島の胸に顔をうずめたままコクンと頷いた。
横島はシロの背中にそっと手を添えると文珠を発動させる。
二人の体がそっと浮き上がった。



強風が体を打つ。
普通なら耐えられないような冷たい風なのだろうが、竜神の装備のおかげで寒さは感じない。
だが、横島は寒さを感じないことがかえってもどかしいように感じられた。
シロはまだ顔をうずめたままだ。
分厚い防寒具を脱いだため、シロの体温が直接伝わってくる。

(・・・こいつ・・・俺の事心配してるんだよな・・・)
シロの細い、しなやかな肢体を支えながら横島は考える。

(俺、何やってんだ・・・シロに心配させたくなくてルシオラのこと話さなかったのに、かえって心配させちまってる・・・)

好奇心旺盛なシロが昨夜の事で横島を問い詰めないのも、本当に心配してこそだ。
横島にとって悲しい事があったのだと気付いているからこそ自分からは聞かない。いや、聞けない。

(話すべきかな・・・でも何て言えばいいんだ・・・)

全て話して、気にするな、などと言った所でシロの気持ちが晴れるわけがない。
かといって話さなければ、シロは何も分からぬまま心配し続ける事になるだろう。

横島が悩み続けている間に行程はどんどん進み、ついには目的地に着いてしまった。
標高4000メートルを超える氷の大地に、二人の体がふわっと舞い降りる。

はっきり覚えているわけではないが、それでもなんとなくは見覚えのある景色に、横島はふと懐かしさを感じる。
少し楽になった気持ちが、悩んでいた心を解き放ってくれるような。そんな空気に横島は身を任せる。
「シロ・・・・・。後で全部話してやるから・・・・。」
未だに横島にしがみついて離そうとしないシロに、囁くように告げる。

(そうだ・・・全部話してやろう・・・。あんまり考え込むのは柄じゃないしな・・・ルシオラのためにも俺は俺らしくしてないとな・・・)
楽天的な考えなのだろうが、「話してやる。」と告げた事が心地よい。
いつの間にか、いつもの横島に戻れていた。

シロは横島の言葉に一瞬体を震わせると顔を上げる、がその瞳が潤む。
「あ、あの・・・先生・・・・。無理に話さなくてもいいんでござるよ・・・・。」
「いいんだ・・・。俺が話したいと思ったんだしな。お前に隠し事するのは・・・なんつーか、気が引けるからな。」
話してくれるのは嬉しい。それでもやはり、無理には話させたくない。
そんなシロの悩みも横島の笑顔に氷解する。
ポロポロと玉の様な涙を流すシロの頭を、横島はくしゃっと撫でる。
「ほらほら、泣くな。そうと決まればさっさと仕事終わらせて帰ろーぜ。」
「はいっ!」
ごしごしと顔をこすると、シロは満面の笑みを浮かべる。
何時までもうじうじとしないのが、この師弟そろってのいい所なのだろう。


「もしもし、こちら横島ですけど。着きました。」
『横島か、ご苦労だったな。』
通信鬼から聞こえてきたのはワルキューレの声だった。
話を聞くと、今現在は学校に行っているおキヌを除いた全員が揃っているらしい。
「それでこの看板、何処に立てたらいーんだ?」
『そこに直接立てる訳にもいかんからな。アシュタロスが使った異界空間に立てて貰う。あそこは地脈に直結しているから、こちらとしても都合がよい。』
「でもどうやって入るんだ?」
『ヒャクメにチャンネルを開かせる。それから竜神の装備は着けたままにしておけ。
その中は大量の核兵器が使用された場所だからな、人間が生きられる環境じゃない。
あとお前たちが入ったらすぐにまたチャンネルを閉じる。放射能漏れは最小に留めて置きたいからな。
注意事項はこんなところだが、何か質問はあるか?』
「いや、無いよ。」
『そうか。ヒャクメ、やってくれ。』

ウ゛ュゥゥン!!

ワルキューレの声から少しの間の後、奇妙な振動音と共に横島とシロの目の前の空間にぽっかりと穴が開いていた。
人一人が通れるくらいのその穴を通り二人が中に入ると、すぐさま後ろで空間が閉じる。


「ひでえな・・・。」
異界空間に入った横島の第一声がそれだ。
実際に酷い有様だった。
地面は抉られ、大小様々な大きさのクレーターがそこいら中にでき、全く原形をとどめていない。
その悲惨な光景は、数十発もの核ミサイルの恐ろしさを見せ付けているかのようだ。
以前は暖かかったが今は気温も下がっているようで、むき出しになった地面の所々に雪が積もったりしている。
世界の終わりの風景とはこんな物かもしれない。

しばらく立ち尽くす二人だが、シロの感覚には何か引っかかっていた。

(何だろう・・・いやなニオイ・・・)
目の前の光景も十分に嫌悪に値する物だったが、何か別の物があるような気がする。
動悸がし、肌が粟立つ。
具体的な何かではなく、”空間そのもの”に対して嫌悪感を感じる。

(嫌だ・・・ここに居たくない・・・・)
自分でも理由の分からない嫌悪感がどんどん高まっていく。

「先生っ!!」

シロの中で嫌悪感が爆発する。
気が付いたときには横島に飛びついていた。

ひゅおん!!

その瞬間、甲高い風きり音、何かが高速で動く音が鳴り響く。


荒れ果てた大地の純白の残雪が紅く染まった。

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