ザ・グレート・展開予測ショー

上司と恋人の境界線 或いは結局


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/14)

 

 墓前に捧げた花が急に吹いた風に舞い散る。そんな光景を、俺はただ、見つめつづけていた。彼女は、寂しげに佇んでいる。俺は、声をかけることが出来ないでいた。
 
 「私の―――ママの墓よ」

 言葉が、出なかった。

 「どうして、ママが死んでしまったのかは知らない。今では、知る術もない。―――理由を―――あのクソ親父は知ってるかもしれないけど、とても会いに行く気にはなれないしね。聞く気になんてなれないわ。―――それに、あの人も忘れたいことだろうし。」

 そこで、言葉を切る。彼女は振り返ることはない。その背中は、いつも見ている彼女とは違う、弱々しげなもの。口を開く。何の励ましにもならないかもしれないけれど。

 「・・・美神さん」

 「言わないで」

 どんな言葉も、意味を為さない。そう、言外に言われているようで、言葉に詰まる。それでも、何か伝えないといけない、そんな気がして。

 「美神さんっ!俺っ!」

 振り返った彼女の目に浮かぶ涙、さっきまで言おうとしていた言葉が、急に力を失う。

 「・・・俺」

 「何よ?」

 「俺は・・・」

 「・・・何?」

 「・・・何でもないです」

 「そう・・・」

 「・・・」

 「馬鹿・・・」

 何故だろう、墓の方から、「意気地なし」という声が聞こえた気がした。




 「全くもう・・・どうしてあのタイミングで言わないのかしら・・・そう思わない?あなたも」

 「むぐむぐっ!!むぐむぐむぐむぐっ!!」

 「ふぐふぐ」

 「横島さん・・・でもっ・・・美神さんの幸せのためだしっ・・・でも・・・」


 むぅ・・・むぅ・・・、今朝から美神さんは、事務机に腰掛けて、うなっている。何か困ったことでもあったんだろうか?そんなことを考えたりするが、俺にはどうにもならないことだろう。税金うんぬんの問題なら、俺の知識なんて微々たる物どころか、皆無に等しいし。

 「ねえ、横島君、今日、暇?」

 彼女は突然顔を上げると、俺にそんなことを尋ねてくる。

 「あ・・・はい、暇っすけど?」

 「そう、じゃあ、今夜・・・付き合って欲しいのよ・・・?」

 彼女の言葉・・・今夜っ!?

 「・・・え?」

 「・・・来るの来ないのっ!?」

 気のせいか、顔が赤い。これは、ひょっとして・・・。

 「も・・・もちろん行かせて頂きますっ!!」


 「ふふふ・・・何気にチャンスよ、令子。これで彼をゲットするのっ!!」

 「むぐむぐむぐむぐっ!!!!」

 「ふぐふぐ」

 「ううっ、横島さん・・・」


 今夜、付き合って―――その彼女の言葉の意味は、どうやら、俺の考えていたこととはまるで違っていたらしい。何でも、大企業の御曹司と見合いさせられそうになってるから私の恋人としてパーティーに参加して欲しい、ということらしかった。
 それで、そのパーティー会場の中に俺はいるわけなんだが。

 「ほえー・・・金って集まる所には集まるもんなんすね」

 あまりの優雅さ、豪華さに、感嘆のため息を漏らしてしまう。いつも送っている生活では考えることすら出来ない彩り豊かな美味しそうな料理がテーブルの上に山盛りにされ、気品溢れる(つまりは高そうな)ドレスを纏う人々も、学校で見るようなぎゃーぎゃーうるさい連中と違う、深窓の令嬢、といったような穢れを知らぬお嬢様や、おそらく、そのまま育ったんだろうと見られる奥様方ばかりだった。貧乏な俺には別世界、そんな印象を受ける。(男は視界からシャットアウトされている)

 「馬鹿なこと言ってないで行くわよっ!横島君っ」

 そう、横から声をかけられ、意識を戻す。そして、その声の主を見る。
 深窓の令嬢、とは口が裂けてもいえないが、明るい太陽のような美しさがある。そのドレスは、普通のものよりも胸元が強調される形になっていて、色っぽい。そんなことをしなくても、充分すぎる程、魅力的だと思うが。

 「・・・気合はいってますね・・・美神さん」

 幾分、呆れが入ってしまうことは否めない。これから振りに行こうってのに、そんな姿を、とそんな感じだ。正直、相手が諦めるかどうか、疑問視せざるを得ない。それとも、気付いてないんだろうか?自分がどんな姿をしているか。

 「誰のためだと思ってるのよ・・・」

 彼女が何か呟いた気がした、けれど、聞こえなかった。

 「へ?なんか言いました」

 「な、何でもないわっ!さっさと振りにいくわよっ」

 「は・・・はぁ・・・」

 気のない返事を返す。振りに行くってのも、何か嫌な表現だよなぁ、とか思いつつ。


 「あら、令子ったら、あんな大胆なドレスを着て・・・。あれなら横島君もメロメロよね」

 「むぐむぐむがむがっ!!」

 「ふぐふぐ」

 「はう・・・横島さんのスーツ姿格好良いですぅ・・・」



 「ようこそいらっしゃいました、美神さん。・・・今宵もまた美しい・・・」

 いけ好かないタイプの野郎の言葉に、社交辞令だから、という意志は取れなかった。額面どおり、美しい、素直にそう思っているのだろう。

 「ご招待ありがとうございます・・・。あなたこそ、そのスーツ、なかなか高そうな」

 誉めてんだか何なんだかよく分からないことを言う美神さん。本人ではなく、その纏っているものを言うのがミソだ。

 「・・・ははは。このスーツはフランスの子会社からオーダーメイドで仕立ててもらったスーツなんですよ。・・・ところで、そちらの男性は?」

 今気付いたかのように言う野郎。俺が名を名乗ろうとすると、美神さんが先に紹介した。

 「彼は私の夫ですのよ、横島忠夫さん。・・・申し訳ないんですが、これからは私のことも美神と呼ぶのはおよしになって、横島、と呼んでいただけますでしょうか?」

 おっと?

 「ね?ダーリン♪」

 だーりん?

 「そ、そ、そ、そうだね・・・ハニー・・・」

 そう言いつつ肩を抱く。

 「もう、あなたったら(ぽっ)」

 嫌がる素振りナッシング。

 「・・・あの、美神さん?」

 茫然自失の様子で尋ねる御曹司、その声は乾き、震えている。美神さんは、答えない。ただ、うっとりと頬を染め、俺に身を任せている。

 「・・・よ、横島さん?」

 「はい♪」

 その途端、御曹司の顔に縦線が四本くらい出来ていた。マジかっ?という疑問符がが三つくらい頭の上にでる。

 「ははは、上方の方の漫才はあまりくわしくはないもので・・・」

 なんのこっちゃ。

 「あら・・・そうでしたの・・・ほほほ」

 漫才だったんですか?美神さん・・・(汗)そう言うと、美神さんは俺から離れていく。冗談だったのか・・・、少しだけ、ほんの少しだけ、傷つく。御曹司の顔に浮かんだ不安の色が全て拭われ、笑顔になる。俺を見、それを深める。かなり、腹が立つ。

 「でも、あなたも良く知っているものだと思いますわ」

 えいっ、と俺に抱きついてくる美神さん・・・さっきよりもずっと密着した姿勢・・・。目線の先には・・・彼女の、その、胸が。慌てて、目線を上に、鼻も上に向ける。

 「夫婦漫才・・・(ぽっ)」

 はっと、彼女の顔を見る。得意げな、それでいて、恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしたそれでも、笑み。幼子が甘えるような、屈託のない、笑み。
 御曹司の顔を見る。何て言うか、固体から液体に溶けたような、情けない顔。だが、それを見ても何にも感じない。

 「あの・・・美神さん?」

 「横島君・・・私・・・本気だからね」

 そして、俺は意識を手放した。鼻から熱いものを噴き出しながら。


 「令子っ!!よくやったわっ!!」

 「ママっ!!見てたの!?」

 テーブルクロスのかかった料理の載っている台の下から現れた母親に恥ずかしそうに、かつ、今まで彼女が母親に向けて浮かべた中で一番魅力的な笑顔を向ける彼女に、美智恵は慈愛に満ちた微笑みを送る。
 その手には、ロープでぐるぐる巻きにされ、猿轡までかけられた小竜姫様とヒャクメがいる。小竜姫は何やら泣きそうな顔で血溜まりの中に幸せそうな顔で眠る横島を見ている。ヒャクメはもうどうでも良いや、って感じで肩をすくめている。

 「ヒャクメ様を使って、精神、魂だけの時間移動、そして、横島君へのアプローチ大作戦、成功ねっ!!」

 美智恵が嬉しそうに彼女に言う。初めは散々反対していたくせに。そんなことを思いつつも、素直にその祝言に感激する令子。そう、いろいろ―――主に、ヒャクメを攫い、それを見ていた小竜姫もついでに攫う点―――苦労しただけに喜びも大きい。
 そんな二人が喜びを分かち合っていた時、ヒャクメが突然騒ぎ出す。

 「何?ヒャクメ、あんたも私を祝ってくれるの?」

 彼女の猿轡をはずすと、何かの違和感を覚える、それが何なのか、ヒャクメの言葉に気付く。

 「小竜姫、小竜姫がいないのっ!!それに、おキヌちゃんもっ!!」

 「「えっ?」」

 期せずして、二人の声が重なり合う。

 「・・・そう言えば、おキヌちゃんも連れてきてたんだわ・・・」

 もっと早くに気付け、という話だが。


 「横島さん、大丈夫ですか?」

 「え・・・君は?どうして、俺の名前を・・・?」

 「そんなことどうでも良いじゃないですか・・・それよりも、何か食べませんか?あんなに血を噴き出してたんですから、貧血になっちゃいますよ」

 「そ・・・それじゃあ、何か貰おうかな?」

 「はいっ♪それじゃあ取ってきますんで、ここで休んでいていてくださいね?」

 「え、っと、行っちまった。可愛い娘だったけど、一体何者なんだ?・・・それ
に、ここどこだっ!?」

 見慣れぬ部屋に一人ぽつんと座り込みながら、横島は、まぁ、いっかとか考えていた。血に濡れたスーツを見、あれが夢ではなかった事を神に感謝しつつ。そして、夢の中に沈んでいった。近くに感じる、人の気配に気付かぬままに


 「横島さん」

 「・・・え、っと、どなたですか?」

 「私は、小竜姫と言いますけど・・・シャオでも、ひめひめでも、どうか好きな名で呼んで下さい(ニコッ)」

 「えっと小竜姫さん?」

 「・・・(むすっ)」

 「あの・・・」

 「・・・(プンスカ)」

 「シャオさん?」

 「はいっ、でも、今度からはさん付けはなしでお願いしますね、横島さん!」


 

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