ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(18)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/11/ 5)

 時は一月程さかのぼる。魔界第三軍指令本部。(第三軍は人界での戦闘を想定して新設された部隊)
 ワルキューレは総司令官執務室の前にいた。訓練中に上官に呼び出され、ここに来るよう命令された
のだ。彼女は制服の乱れを正すとドアをノックした。

 『ワルキューレ大尉出頭いたしました。』

 『入りたまえ。』

 ワルキューレはドアを開けると部屋の中へ入り、総司令に対し敬礼した。部屋の中にはもう一人、彼
女が所属する第三師団の師団長もいる。
 総司令は軽く敬礼を返すと、

 『あまり堅くならず、そこのソファーに座ってリラックスしたまえ。』

といって、自分のデスクの前のソファーを示した。その前のテーブルの上にはレポートらしきものが一
部置かれている。

 『失礼いたします。』

 そういってワルキューレが席につくと、秘書が飲み物の入ったカップをレポートの脇においた。そこ
から湯気と共に、彼女が人界での任務のたびに買い込んでくる、お気に入りの珈琲の香りが漂ってくる


 『これは・・・。』

 まさか珈琲が出てくるとは想像もしなかったので、思わず総司令の顔をみる。

 『訓練中にいきなり呼び出してしまったからね。喉も渇いているだろう。それで潤したまえ。』

 そういうと、彼は自分のカップを口に運んだ。

 『お心遣い感謝いたします。』

 ワルキューレも自分のカップを口に運ぶ。芳香が口の中に広がった。いつも彼女が飲んでいるものよ
りずっと上質のものらしい。

 『一息ついたところで、そのレポートに目を通してくれ、内容について、人界での作戦経験が豊富な
  君の意見が聞きたい。』

 彼女がカップをソーサーに戻したところで師団長が口を開いた。促されるようにレポートを手に取る
。表紙には機密文書であることを示すマークが入っている。
 内容は最近魔界の二つの地方都市で発生した、首長暗殺事件に関する調査報告書だった。暗殺された
のは均衡派(現在の魔界の主流派)の知事。やったのは武闘派の小さな過激派組織。

 『ワルキューレ大尉、君はこの事件についてどう思うかね。』

 総司令が厳しい表情で口を開く。ワルキューレには彼が何を危惧しているのかすぐにわかった。

 『このレポートだけでははっきりしたことは申し上げられません。が、確かに主目的である首長暗殺
  と、複数のダミーの作戦行動を同時に行うという手法は、人界でいう同時多発テロと類似性が感じ
  られます。』

 『それに、個々の作戦を実行したグループどうしにまったく接点や共通性がなく、お互いの存在すら
  知らなかったという状況は、作戦全体がセル(細胞)型の組織を中心に実行され、全容を把握して
  いるのはごく一部の上層部だけだったことを意味しています。これは人界のテロ組織やそれを取り
  締まる諜報機関の連中が、大規模な作戦行動を行う際に一般的に取られる組織形態です。』

 『ということは、やはり今回の事件の首謀者は人間だということかね。』

 『いえ、そうは申しておりません。一度でも人界にいったことのある魔族でしたらこれらの手法や組
  織について模倣するのは簡単なこととおもわれます。』

 『ではこれについてはどう説明する。』

 総司令が師団長に目配せする。師団長は一丁の精霊石銃(魔界軍制式拳銃)をワルキューレに手渡し
た。

 『これは・・・!』

 『暗殺に使われた精霊石銃だ。非常に精巧に作られてはいるが、魔界で作製されたものではない。』

 『この比重からすると、人界で作られたもののようです。』

 重苦しい沈黙が流れ、やがて総司令が口をひらいた。

 『ワルキューレ君、君は美神親子やハヌマン老師といった人界、神界の実力者と個人的な友好関係を
  結んでいると聞いている。その君から見て、人界は魔界と完全に敵対する、あるいはその為の準備
  をしているようにみえるかね。個人的な意見を聞かせてもらいたい。』 

 ワルキューレは少し考えたあとはっきりと答えた。

 『総司令閣下が申された者達、あるいは人界の政府関係者がそのようなことを考えている可能性は皆
  無に近いと考えます。なぜなら、彼らにはそのようなことをしても何の得にもならないからです。
  ただ任意の団体や企業、個人といった部分まで含めますと、その可能性はないとは言い切れません
  。』

 『個人や一つの団体でそのようなことが出来る者がいるというのかね』

 『先の大戦を終結させたのは、恋人を失った一人の男と、その男を守ろうとした一人の女です。』

 『わかった・・・。ワルキューレ大尉、君に新たな任務を与える。君は現在遂行中のすべての任務を一
  時中断し、首長暗殺事件の首謀者とその動機の特定を行い私に報告すること。』

 『私、ワルキューレ大尉は現在遂行中のすべての任務を一時中断し、首長暗殺事件の首謀者とその動
  機の特定を行い総司令閣下に報告いたします。』

 ワルキューレはソファーから立ち上がると直立不動の姿勢をとり、命令を復唱した。

 『ワルキューレ大尉、わかっていると思うが、現在魔界軍は表向き人界では一切軍事行動を行わない
  ことになっている。だから君もくれぐれも目立つ行動は控えてくれよ。』

 『わかりました。』

 ワルキューレはそう答えて敬礼すると、総司令執務室を後にした。

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