南極物語(2)
投稿者名:志狗
投稿日時:(02/10/25)
「先生っ!あれっ!あれ何でござるかっ!」
「・・・ありゃ、コウテイペンギンだよ・・・。」
「先生!先生!あれは?」
「・・・あっちのはロスアザラシで、そっちにいるのはカニクイアザラシだよ・・・・。」
「先生!先生!あっちにも何かいるでござるよっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「?・・・先生?」
急に黙ってしまった横島の顔を横からシロが覗き込んだ。
「だぁ〜〜〜〜〜〜!!こんな事してる場合じゃないんだ〜〜!}
「わっ!どーしたんでござるか、先生?」
「どーしたもこーしたもあるかっ!急がないと報酬が半分になっちまうって言うのに、なんで俺達はこんな観光やってんだ!」
「え〜、いいでござろう?拙者は別に報酬なんかいらないでござるし・・・。」
「・・・お前、今の俺の経済状況がどれだけやばいか知らないだろう・・・。第一、お前も何か金を掛けたい事とか無いのか?」
「えーーーっと・・・・・・・。普通はどんな事に掛けるのでござるか?」
「う〜ん、俺の場合は生活費だが・・・・・・。まあ、一般的には趣味とか好きな事だろうな。」
「好きな事・・・・・・・・・、散歩とご飯?」
「・・・あのな、散歩に金を掛けたらそれはもう散歩じゃない、どっちかって言うとそりゃデートだ。」
この言葉にシロの尻尾がピクンと跳ね上がったが横島は気付かずに続ける。
「でもほら、報酬もらえればうまいもんが沢山食えるぞ。お前の好きな高い肉だって食い放題だぞ。」
さすがにシロの協力なくして一日に500キロ走破するのは不可能なので、何とか説得しようとする横島。
だが、すでにシロは後半の横島のせりふは聞いていなかった。
「先生・・・・拙者、急にやる気が出て来たでござるよ。」
「そーか!よかった!うんうん、お前ならきっとそー言ってくれると思ってたぞ!」
お互いに白々しいせりふを言う二人。心の中では別のことを考えているであろうことが見え見えである。
(先生とデート!散歩とは別なんだから、いつもの2倍、先生と一緒にいられるでござる!
しかもデートでござるから、きっとあんな事もそんな事も・・・・・きゃ〜〜〜〜!心の準備をしておかないといけないでござるよ〜!)
などと頬に手を当てて悶える(?)シロ。
しかし一方の横島は、
(こいつやっぱり食い意地張ってるな〜、今から想像して喜んでるし・・・)
と、自分の食べ物での説得がうまくいったと信じて疑わないのであった。
「よしっ!シロ行くぞ!今日ばかりは許す!全力で行け!」
「了解でござるっ!」
そう答えるや否や、横島の手をつかみ駆け出すシロ。
甘く見ていた。
横島は何度も途切れる意識の中でそう思い続けていた。
いつもの散歩はシロにとって、本当にただの『散歩』にすぎなかったのだ。
何時に無く気合の入ったシロの”全力”は、想像を絶するものだった。
加速の間は捕まれた手を支点に体は宙に浮き、最高速に達すると体は地面にぶつかりバウンドを繰り返す。
横島は再び意識を失った。
ゆさゆさと誰かが体をゆする。
横島がゆっくりと目を開けると、そこにはシロの顔があった。
「先生、着いたでござるよ。」
その言葉に跳ね起き辺りを見回すと、目の前には巨大な氷山がそびえ立っていた。
来た方向を見ると、急ブレーキのあとだろうか、氷の地面が盛大にえぐられている。
冷や汗を流しながら、シロの全力の走りの封印を心に決める横島だった。
「それにしても・・・・。体中がズキズキするぞ。」
「ちょ、ちょっと頑張り過ぎちゃったてござるよ。」
ところどころ擦り切れている防寒服越しに、体をさする横島にうろたえながら答えるシロ。
シロは戦闘時さながらの集中力を発揮して、横島を引きずっている事に気付かずに爆走してしまったようだ。
「なんかもー、褒めたらいいのか怒ったらいいのか・・・」
「えー、褒めてくだされよ〜。」
「分かった分かった。」
指を咥えて「く〜ん」と鳴くシロの頭に手を乗せ、優しく撫でてやる。
恍惚の表情をするシロを撫で続けながら、横島は通信鬼を取り出す。
「美神さ〜ん、着きましたよ〜。」
「横島か、ご苦労だったな。」
「あれっ?ワルキューレ?美神さんや他のみんなは?」
「美神令子を含む事務所の者はもう寝た。小竜姫は仮眠を取っている。ヒャクメはお前達が衛星から観測されないようにジャミング中だ。」
「寝たぁ?まだこんな明るいうちから?美神さんだけならともかく・・・・。」
そう言いながら空を見上げる。確かにまだ日は出ているのだが・・・。
「馬鹿者、そこは南極圏だ。今の時期だと一日中太陽が出続けている。こっちはもう夜遅いぞ。」
「げっ!そーなのか?・・・・あっ!美神さんに報酬半額にしないように言っといてくれ!」
「ああ、分かった。明日も早いぞ、今日はもう休め。明日の朝また連絡を入れる。」
「りょーかい。」
通信が終わると、横島とシロはテントを建てにかかった。今日はさほど天候も悪くないので、飛ばされたりする心配はなさそうだ。
簡易保存食を食べると、特にすることもないためテントの中に寝袋を敷きそれぞれその中にもぐりこむ。
だが、外が普段と違い明るいせいだろうか、なかなか眠くならず暇を持て余していた。
そんな時、シロがアシュタロス事件の事を聞きたいと言い出した。
シロは、今回の依頼の発端となった事件に横島達がどう関わっていたのか全く知らなかったのだから、当然の事と言えるだろう。
横島は事件の顛末を話した。
ただし、ルシオラの事を除いて。
横島が話し終えると、シロは自分の師が世界を救った事を知り、横島を慕う気持ちから感激し喜んだ。
しかしそんなシロの喜ぶ声も横島には聞こえていなかった。
アシュタロス事件の事を横島が誰かに話すのは初めてだった。
事件のことを知っている者は、横島を気遣い話を出す事は無かったし、知らない者は聞く事自体無かった。
シロがルシオラの話を聞けば、きっと自分の事の様に悲しむだろう。
シロを悲しませたくは無かったし、同情される話をわざわざ自分からする気も無かった。
だから、ルシオラの事は話さなかった。
だが、話し終えた後に心に生まれたのは言いようのない喪失感だった。
あの事件。
忘れる事のできない出来事。
一番大切な人ができて、
その人を守ろうと今までで一番努力し、
一番の幸せがあって、
一番の悲しみがあった。
間違いなく人生で最大の出来事だった。
だが、今自分の口が語ったそれはまるで別物だった。
喜びも、怒りも、悲しみ、何も無い、ただの”事件の経過”だった。
ルシオラの存在なしにあの事件を語れてしまう事がひどく悲しかった。
「――――い・・・――先生・・・・・横島先生?」
はっと気付くとシロが不思議そうな顔をして横島を見ていた。
「あっ、えーと、なんだ?」
「もうっ!聞いてなかったんでござるか?」
「わ、悪ぃ。いやぁ、ちょっと疲れてんのかな。」
そう言って乾いた笑みを浮かべる。
シロはちょっとむすっとした表情をしたが、すぐにまた喜びでいっぱいの顔に戻る。
「それにしても、やっぱり先生は強いんでござるなっ!さすが先生でござるよっ!」
シロのその何気ない純粋な言葉に、横島の心が再び波打つ。
強い?・・・・・・・誰が強いと言うんだ。
大切な人も守れず、その命をもらって生きて、挙句にその人の生きる可能性すら壊した。
これのどこが強いと言うんだ。
「-----ない。」
絞り出すような声で言う。
「先生?」
シロも横島の様子が違うのに気付く。
「・・・強くなんかないんだ。」
「先生・・・・・・」
「もう寝よう。」
僅かの沈黙の後、横島はそう言うと寝袋を頭までかぶり、シロに背を向けてそれ以上何も喋らなかった。
シロは話しかけようとしたが、横島の雰囲気に言葉が出で来ず、仕方なく寝袋に収まる。
しばらく寝袋越しに横島の背中を見つめていたが、ここまで全力で走った疲れがしだいに睡魔を呼び起こしてきた。
しだいに薄らいでいく意識の中で、シロは横島の中に言いようも無い『悲しみ』があるのがなんとなく分かった。
それは人狼としての直感だったのか、大切な人を失った事のある者としての直感だったのか
それとも横島を慕う「犬塚シロ」としての直感だったのか・・・・・・・
シロは眠りへと落ちていった。
今は自分が何もできない事への無力感と共に・・・・・・・・・・・・・・
今までの
コメント:
- 暗くなってしまいました。
しかも文章からどうも違和感が消えません。もっとうまく書けるように精進したいです。
横島との関係が深まる上では、ルシオラの事は避けては通れない事だと思います。
そんな考えからこの話を書こうと思ったのですが・・・。
ちゃんとまとまった話になるようにしたいです。
う〜、『仔犬(狼)物語』が恋しい・・・・・・ (志狗)
- 恐るべし、シロのお散歩「全力」バージョン...(汗)。恐らく横島クンだからこそ引っ張られても平気だったんでしょうね;フツーの人なら間違いなくあの世行きのような気がします(笑)。文字通りの「暴走」キャラなシロが「らしい」ですね。アシュ編の顛末を話す際に、敢えてルシオラのことを伏せて置いた横島クンの心遣いからも「らしさ」が感じられます。この2人のことですから、この夜の会話を引きずることは無いとは思うのですが、果たしてどうなるのでしょうか? 今後の展開も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 少しだけど横島の心の傷を垣間見たシロ。この後物語はどう進んでいくのか?
続きが楽しみです。 (辻斬)
- >指を咥えて「く〜ん」と鳴くシロ
>きっとあんな事もそんな事も・・・・・きゃ〜〜〜〜!
…
……
………
げふげふげふげふっ!!(←大喀血)
ゴロゴロゴロゴロッ!!(←萌横転)
ゴスッ!!!(←柱に頭部激突)
「正気に戻りなさーい!」ズバシュウゥゥゥゥッッ!!(←猫姫スペシャル)
…………ぐふっ、思わずはしゃいじまったゼ。
これはアレだな。俺を萌え死にさせようとする、志狗さんの謀略だな。
ちくしょう、負けるもんかっ。
反撃の『大氷原の小さな家〜シロ〜』を喰らって下さりやがりませ!! (黒犬@寄生SS書き)
- 愛しい人と肩を並べて、白夜を眺めた。
果ての無い静けさにブルッと身を震わせたら、貴方はそっと肩を抱き寄せてくれた。
それは、シロが愛した優しさで。シロが愛した温もりで。
「今日も救助は来なかったな」
何でもない事のように、ぽつりと。
「でも…」
「うん?」
「拙者、ずーっとこのままでも……いいでござる…」
それもいいか。貴方はそう言って、優しく髪を撫ぜてくれて。
「いいよな、ルシオラ…」
その名前に不安を感じる事も、今はもう無い。
悲しい過去を未来への想い出に変えた、貴方の強さを知っているから。信じているから。
指と指が、絡まりあう。二度と離れないように固く、固く。
ここは楽園。そう思う。
だって、ほら。
「ちちうえー」「ははうえー」「ただいまー」「でござるー」
――幸せの種達が、駆けて来るよ。 (黒犬)
- kitchensinkさん
>シロのお散歩「全力」バージョン
人の体が浮くほどの加速度については、実際に計算するととんでもない事になってしまいます。
そこはまあ深くは考えないと言う事で・・・(汗)
辻斬さん
まだ、二人の心理描写が拙いところもありますが、御期待にこたえられるよう頑張りたいと思います。
コメントありがとうございました。 (志狗)
- 黒犬さん
黒犬さんの攻撃! 『大氷原の小さな家〜シロ〜』!
志狗に∞のダメージ!
志狗は昇天した。
はっ!こっ、ここは?・・・・お花畑?
あ、何か川の向こうで死んだじいちゃんが手を振っている。なつかしいな〜、行ってみよ〜。
なに?川渡しに六文?・・・あれっ?財布が無いや。仕方がない、じいちゃ〜ん!今度は財布を持ってまた来るね〜。
思わず臨死体験などしてしまいました・・・・・。
ううっ、誘惑に耐えるのは辛いけど、一方で感動の涙が溢れ出てくる・・・・
もうどーすりゃいいのか・・・・ (志狗)
- 本編もかなり気になりますが、志狗さんと黒犬さんのやり取りもオモロすぎです(笑)1つの投稿で2度オイシイ♪
暗めになったとのことですが、ルシオラがらみでノーテンキに明るく、はできないと思うので、それでいいのではないでしょうか^^続き、楽しみにしてます。 (けい)
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