ザ・グレート・展開予測ショー

第一話予想 『彼方からの来訪者』


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 4/18)

SCENE1 東京近郊 田園

夜明け前の空に輝点が一つ浮かび上がる。
その点は輝きを増しながらグングンと大きくなり、やがて地面と垂直な光の帯を纏い、そして――――

ドオオォオ―――ンン。

大音響と共に、地面に衝突した。
しかしそこは住宅地も商店も無い、田んぼに囲まれた稲荷神社の境内。
それで怪我をする人間も、それを騒ぎ立てる人間もいない。

空から落ちてきた物体は、カレーパンのような形で銀びかりしており、一番長い直径で2メートルくらいあった。
その上部(?)に音も無く穴が開き、小さな人影が姿をあらわす。
 「ふー、着陸艇は狭いなぁ。エアコンも効いてないから、汗だくだよ」
 「そうねぇ。私も汗かいちゃったわ。どっかに温泉ないかしら?」
続いて声からして女性らしき人影が姿を表し、相槌を打つ。
 「贅沢を言いなさるな。私どもは亡命の身ですぞ。命があっただけでもめっけもの。この上温泉などと……」
カレーパン――着陸艇らしい――の中から、何者かが苦言を呈する。
 「でも、ありそうだよね? 温泉」
 「見た感じは私達の星と大して変わらないから、きっとあるんじゃない? 管理国に頼んで、ちょっと入れさせてもらえないかしら?」
しかし2人は艇内からの言葉が聞こえなかったかのように温泉を探し始める。
 「姫様ッ! 我々の国とは違うのですぞッ! 来訪者に好意的に温泉を貸してもらえるとは限らな……って、ちょっと! じいを置いて行かれるおつもりかッ!?」
着陸艇の中では『じい』と名乗る人物が、一人喚いていた。



SCENE2 東京下町 銭湯

 「っせーな! 何度言えば分かるんだッ!? 家業は継がねーっつってんだろッ!?」
学ラン姿の少年――チョビ髭を生やしているところを見ると高校生ぐらいだろう――が銭湯の番台に座る男に怒鳴りつける。
 「あんだと!? それが今まで男手一つで育ててきてやった父親に言うセリフか!?」
男の角刈りにされた白髪頭は相応の歳を感じさせるが、息子を怒鳴りつける姿は全く歳を感じさせない。
しかし、息子もそれに怯むことは無い。
 「いまどき銭湯なんてはやらねーんだよッ! 4畳一間のアパートでも風呂はついてる時代だぜ? ドコに銭湯の利用客がいるってんだ? 今にも潰れるような仕事の後が継げっかよッ!」
捨て台詞を吐き、入口ののれんを押し分けて外に出る。
鞄を持っているところを見ると、これから学校なのだろう。
 「ちっ、あいつめ。分かってねーな。銭湯には家の風呂には無いモンがあるって事を。そいつを求めて来るお客さんがいるって事を……それに応える為にも、俺の代でここをたたむ訳にはいかね―ってのに……」
父親はしばらく渋い顔で宙を見つめていたが、やがて立ち上がり、浴室の清掃に向かった。



SCENE3 東京下町 路地

 「だいぶ人通りが多くなってきたみたい。国の名前は分からないけど、この人口を見る限り、かなり大規模な温泉保有国なのかしら?」
 「いいなぁ。広い温泉」
 「しかし先程からその温泉の気配が微塵も感じられませんぞ……?」
未だにレトロな町並みを残す下町の路地を、金属光沢のある宇宙服のようなものを着て歩く少年と、若い女性。……と、ついでに女性の頭上に載せられたタコのような生物。
かなり浮いた光景である。
道行く人々が狭いながらも一生懸命離れて歩こうとしたり、すれ違った後に指差して何事か囁き合ったりしている。
尤も下町以外でも人々のこの反応に大差はないだろうが。
 「誰かに聞いてみようよ」
少年がぐるっと見渡すと、周囲の人間は明らかに意図的に視線を逸らす。
 「なんか……私たち……嫌われてる……?」
女性が少年と顔を見合わせて、呟く。
 「だから申しましたでしょう。ここの住人が好意的とは限らないとッ!」
タコが女性の頭の上でしたり顔(?)でわめく。
それによって3人(?)を中心とした人の輪の半径が、さらに大きくなる。
中には目をこすって女性の頭を凝視する者もいる。帽子がしゃべったように見えたのだろう。

 「あっ、ねえ、アレ、ウチの温泉のマークじゃない?」
少年は唐突に前方を指差した。
指の先、路地の突き当りは大通りに面するT字路になっており、そこに温泉マークの描かれたのれんがはためいていた。
 「あらっ? ホント。ウチの王家と同じマークね。ウチでは温泉には必ずつけてたけど……」
 「しかしここは違う星ですぞッ!? マークが同じでも表す内容は違う可能性が高のでは!?」
どうも彼らの星では王家が温泉を管理していたらしい。
 「それに温泉の気配も全くありませんし、第一あの珍妙な柱が……」
 「でも、なんか関係あるかもしれないよねぇ」
 「そうよね。取り敢えず行ってみましょ」
煙突を見上げて、なおもいぶかるタコを無視し、二人はのれんを押し分けて中に入った。

建物の中は板敷きで、両側に棚が並んでいた。
 「やっぱり温泉だよ。ここに服を置いて入るんだ」
少年が嬉しそうに女性を見上げると
 「そうみたいね。じゃ、あっちが湯船かしら?」
女性は奥のガラス戸に目を向ける。
 「しかし温泉ならばこの中も多少は温かいはず、それなのにここは冷え切っておりますぞッ?」
タコはまだグダグダ言っている。
 「見れば分かるよ。んっと、こうかな?」
少年が引き戸に少々手間取りながら、ガラス戸を開ける。
 「………あれ?」
しかし少年の目に飛び込んできた光景は、湯気が立ち、硫黄の香る見慣れた温泉の風景ではなく、
乾いて冷え切った石造りの部屋と浴槽だけだった。
いや、もう一つ。
 「……誰か倒れてるわね?」
そう、床に白髪頭の男がうつぶせに倒れていた。
 「どうしようか」
少年が再び女性を見上げる。おそらく温泉の話ではなく、男の処遇についてだと思われる。
 「王家の人間たるもの、困っている者あらば喩え赤の他人であろうと、他星人であろうと、救いの手を差し伸べねばなりません」
 「「そう(だよ)ね」」
タコの講釈に二人がそろって頷いた。



SCENE4 東京下町 銭湯

 「あ〜あ、帰ったらまたオヤジがうるせーだろーな。朝の話をムシ返されるのもめんどくせーし。しゃーねー、裏から入るか」
朝に父親と怒鳴り合いを繰り広げた息子だ。どうやら下校時間らしい。
のれんを掻き分けて入口に入りかけたが、思い直して隣の建物との間の狭い路地に回る。
そこから家の2階の窓に取り付き、中に入る。
しかし、そんな彼に予想外の声がかかる。
 「どっから入って来んだ、てめーはっ!」
 「オヤジ!? 何故ここに? 店は!? ってゆーか、そのアタマどーしたッ!?」
なんと、下(居住区の部屋は銭湯の上にある)にいるものとばかり思っていた父親が、部屋に居たのだ。
しかも、アタマには包帯がグルグル巻きになっている。
息子に思いやりがあろうと無かろうと、さすがにこれは気になって聞いてしまうところである。
 「ちょいと浴室清掃中に足を滑らせちまって、このザマよ。トシは取りたくねーな」
父親はそっぽを向いて答える。
 「……ンなこと言っても、俺ァ店は継がね―からな」
息子はそんな父親をまっすぐに見据えて、答える。
おそらく今までもこのような話の回され方をしたことがあるのだろう。
しかし、父親の反応は息子が予想したものとは異なっていた。
 「ああ、後継ぎのことはもういい。おまえなんぞより遥かに風呂を愛しているヤツが見つかった。っつーか、浴室で倒れてる俺を助けてくれたヤツなんだがな。今もケガした俺の代わりに営業の準備をしてくれてるところよッ」
 「ぁあっ!?」
息子は耳を疑った。こんなご時世、ドコにそんな物好きがいるというのだろう?
 「……ちょっと見てくる」
息子は父親の返事も聞かずに階下に向かった。

 「ふーん。ココの温泉は火で温めるのか」
 「しかも建物の中なのね」
 「しかし張られているのはただのH2O(水)のようだが?」
浴室から3人分の話し声が聞こえる。
しかし、内容がいまいちトンチンカンだ。第一ここは温泉ではない。
 「なんだ? コイツら? 銭湯を知らねーのか? オヤジのやつ、後継ぎだなんて……吹きやがった(嘘を吐く事)な!?」
息子は安堵とも落胆ともつかぬが、なんだか気分が沈静された。
そしてハタとある事に気がついた。
 「そーいや、バカ親父を助けてもらった礼はしなきゃな。それとこのバカらしい作業も代わってやるか。何も知らん他人にやらせるワケにもいかねーしな」
そう呟いて息子はガラス戸を引き開けた。が………
 「………ナニ? おまえら、何やってんの?」
息子は『礼を言う』という当初の予定を瞬時に忘れ去り、中の人物達につっこみを入れていた。
……無理もない。
中の2人はまるで放射能汚染物を洗浄するかのような服を着てモップや雑巾を持ち、浴槽を覗き込んでいたのだから。
 「あれ? 誰? ここの家の人?」
 「あ、ホラ。息子さんじゃないの? 家を継ぎたがらないってゆう……」
 「こんな立派な温泉を持つ家に生まれながら、その管理の責を拒むとは、全くもって不届きな男ですな」
振り向いたのは、年端も行かぬ少年と、二十歳前後と思われる女性……と、その頭の上に載るタコ…らしきもの。
 「ぁあ……!?」
息子はあまりのことに二の句が継げなかった。
いきなりコスプレ2人組…とタコが浴室にいるかと思えば、それが自分についての内輪ネタを話し始めたのだ。
そして、少年の次のセリフが息子にトドメの一撃を入れた。
 「僕の名前はカナタ。ここから遠く離れた星では王家の後継ぎだったんだけど、事情があってこの星に来た。でも、今度ここで君の代わりに王家の証、温泉を継ぐことになったんだ。ヨロシク」
 「…………」


息子には少年の言っている内容が半分も理解できなかった。
分かったことは、この少年が地球外から来たらしき事。
そして、父親が本気で自分よりこの少年を後継ぎにしようと考えているらしき事。
たったそれだけだったが、息子にはそれで十分だった。


                     ………第2話『後継ぎの資格』に続く(嘘)

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