ザ・グレート・展開予測ショー

壊れた笛 4


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/ 8/22)

10.
「美神さん、何であんな事言ったんスか?」
 明日香が帰った後、事務所の中は大騒ぎとなった。
「おキヌちゃん、ネクロマンサーの笛無しで、あいつと戦わなきゃならないんスよ」
 おキヌはドウシヨウドウシヨウとつぶやいている。その目には何も映ってはいない。

「そうでゴザル。拙者に任せてくれれば良かったんでゴザル」
 シロが無念そうに言うが、タマモが冷静にツッコミを入れる。
「シロ、気を付けなさい。あんたバトルマニアの気(け)があるわよ」
「ばっ馬鹿言うなでゴザル。拙者をあんな嫌なヤツと一緒にしないで欲しいでゴザル」

「どうスンですか美神さん? 相手は学年1位ッスよ」
「心配いらないわ。あいつ、勝ったら雇えとしか条件つけなかったじゃない?」
「俺が言ってるのはソーユー事じゃなくって…」
「あんた、おキヌちゃんがあいつに勝てないと思ってるの?」
「へ? いや、だけど……」
「あたしは勝算があるからOKしたのよ」

 美神が受話器を取った。相手は厄珍だ。
「厄珍? ネクロマンサーの笛の代わりになりそうな物を掻き集めてちょうだい。できたら笛タイプがいいわ。至急必要なのよ」
 受話器を置くとおキヌに声を掛ける。
「いつまで座り込んでるの? あいつにプロの凄さを思い知らすには、おキヌちゃんに勝ってもらわなきゃならないんだからね」
 美神はおキヌを伴って奥の部屋に消えた。もちろん今日の仕事は全てキャンセルとなった。
 やがて部屋の中からおキヌの悲鳴と、美神の叱咤激励する声が聞こえてきた。

11.
 明日香との約束の日がきた。
 どう言うわけか、氷室きぬと岸田明日香が決闘すると言う噂が、学校中に広まってしまっていた。
 入場料をとる代わりに観戦自由とか言う話で、裏で美神が糸を引いてるらしい。
 
 法円を前にして、おキヌは美神の言ったことを思い出していた。
「相手に合わせたら負けよ。逆に、相手を自分の土俵に引きずり込むのよ。そうすれば、負けるはずが無いわ」
 向かい側には明日香が、あの笑みを浮かべて立っている。
 おキヌは手にした杖を握り締めた。

 この杖は長さ1メートルを越える笛でもあった。名をギルの笛と言う。
 厄珍が持ち込んだ物で、頭の部分にコウモリの羽の形を模した飾りが付いているのがワンポイントだ。
 ネクロマンサーの笛ほどの効率は無いものの、同様の効果が期待できる。
 ロボットや、生き人形には効果抜群と言うのだが、確かめる時間は無かった。

「ちぇっ、ちょっと小遣い稼ぎするくらい、いいじゃない」
 美神がブツブツとつぶやく。
 意気揚々と入り口に立って、チケットを売ろうとした途端に、理事長がやって来たのだ。
「ところであんた、何でここに居ンのよ。学校は?」
 横島はシロ、タマモと、ポテトチップスを争うように食べていた。

「え?」
「学校はどうしたと聞いている」
 胸ぐらを掴み上げる美神。
「そ、創立記念日で…」
「分かりやすい嘘つくじゃない? 横島クン」
 ビビビビビッとびんたする。
「ここは女子高だと何度言わせる?」
「だって気になるじゃないッスか?」
 横島が涙やら鼻血やらで、汚れた顔で訴える。
「あ、始まるみたい」
 タマモが指さす。

 法円の中で、おキヌと明日香は向かい合って立っていた。
 思い詰めた表情のおキヌと、相手を嘲笑うかのような明日香。
「あんたもバカね。私の力があんたよりずっと上だって分かってるでしょうに」
「あんたには霊と戯れるだけの力しかないでしょう? それとも他に何かあるのかしら?」
「あとは、勇気だけです!!」きっぱりとおキヌが答える。
 始まりの合図と同時に、おキヌはギルの笛を構えた。

12.
 笛から流れ出すのは、長い形状からは似付かわしくない高い音で、不吉な印象を与えるメロディだった。
 霊気が黒い霧のようにおキヌを包んでいく。
 その様子を見て、明日香は長い時間笛を吹かせるのは、危険と判断した。
 接近し、扇を振りかざす。
 おキヌは自分から笛を吹くのを止め、振りかぶった。
 そのまま明日香の肩口めがけて振り降ろす。
 明日香が余裕たっぷりに受け流した時、おキヌの姿は黒い霧の陰に隠れて見えなくなっていた。

 視界の利かない黒い霧の中で、明日香はおキヌの気配を探っていた。
 この霧は霊気を放ち、おキヌの霊気を探ることを阻害している。
 身体にまとわり付いて、いくら払っても身体を這い登ってくる。

 眼の端を人型の姿がかすめる。
「そこか?」明日香の扇が黒い塊を捕らえる。
 黒い霧は分断され、また一つになっていく。
 舌打ちすると明日香は、再びおキヌの気配を探ろうとする。

 背後からの気配に振り返ると、驚いた表情のおキヌがいた。
 笛を振りかざして殴る寸前だったようだ。
 振り向きざまに、扇を叩き付ける。
 かろうじて受け止めたおキヌだったが、バランスを崩して後に倒れていく。
 勝利を確信した明日香は、とどめを刺す為に踏み込んでいく。
 おキヌは倒れた時に頭でも打ったのだろう。目を閉じて動かない。

13.
 ギルの笛はラッキーだった。無くても何とかなっただろうが、お陰でダメージを避けるめどがついたから。
 とは言え、おキヌは笛でどうにかできる、とは思っていなかった。
 明日香をこれで操れるなどとは、最初から思っていない。
 浮遊霊達を楯に使うわけも無い。黒い霧はおキヌの霊気が笛によって変換されて発生したものだ。
 全ては明日香をおキヌの土俵に、引きずり込む為の伏線に過ぎない。

 おキヌの様子を確認しようとかがみ込んだ時、首筋に冷たい感触がしたと思った瞬間に、明日香は空中に漂い出ていた。
 フワフワと頼りない身体の周りに、おキヌの霊気が感じられる。
 目の前の黒い霧がゆっくりと晴れて、おキヌが漂い出てきた。

「大丈夫ですか?」
 場違いな質問に、明日香は苛立つ。
「勝負に最中に、何を言っている?」
 明日香は身を捩って、おキヌに攻撃しようとするが届かない。
 それどころか、力が入らない。
「私に何をした?」
「幽体離脱、してもらいました」
 おキヌがにっこり笑って言う。

「幽体離脱!? そんな、強制的に幽体離脱させるなんて……」
「聞いたことないですよね。知り合いの浮遊霊のお爺さんに教えてもらったんです」
 唖然とする明日香に、おキヌは続けて言う。
「このやり方は、自分も幽体じゃなきゃいけないんですけど、その辺は自分でできるんですよ」
「金属バットも、幽体離脱バーガーも要らないなんて、そんな」

「どうします? 負けを認めてもらえませんか?」
「ふざけないで。 自分も幽体のくせに、条件は同じでしょう?」
「同じじゃありません。ほらこんなこともできますよ」
 おキヌはギルの笛を持ち上げて見せる。
「三百年間も幽霊やってたんです。もちろん吹けますよ」
 明日香はそれを驚愕の表情で見た。
 駄目だ。このままでは負ける。

 明日香は戻るべき自分の身体を探す。
 自分の下1メートルほどの所に、倒れてるのが見えた。
 戻りたい。戻ろうと念じれば戻れるはずだ。明日香はジタバタとあがいた。
「無駄ですよ。ちゃんと捕まえてますから」
 おキヌがギルの笛を口元に運ぶのを、明日香は絶望的な気分で見つめるしかなかった。

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