ザ・グレート・展開予測ショー

まあ、こういう日もあるわ 前編


投稿者名:我乱堂
投稿日時:(03/ 1/ 6)

「大凶……」

 美神令子は己の引き当てた御神籤を広げ、頬をひきつらせた。

「お姉ちゃん……大凶なんて入ってたの?」
「入ってるとは聞いてたけど……私も初めて見た……」
 実は血のつながらないのに双子のようにそっくりな氷室姉妹は、ぼそぼそと東京での妹の――おキヌの保護者である令子の様子を横目に見ながら、そんな言葉を交える。
「初めて見たって……」
「うーん……本当に記憶残ってねぇべ」
「ああああああああああああ」
 おキヌと違って早苗はこの神社にて生まれ育った。当然、物心ついてからはこの神社の巫女を勤め、正月に御神籤を売ったりお札を売ってたりの仕事も当然ながら彼女の仕事だ。その早苗をして知らない――。
「ああ、でも美神さん、大凶なんてめったにでてこない分、大吉を引くよりもずっと価値があるっていいますよ!?」
 フォローのためとはいいつつも、自分でも無理なことを言っているとおキヌは思った。
「わたし、初めて引いた……」
 令子の声は、どこか虚ろだ。
「で、でしょ!?」
「――大吉以外」
「「う゛っ」」
 姉妹揃って絶句する。
 確かにこの人なら、そんなこともあるかも知れない。
 美神令子といえば、GSの中でも強力極まりない悪運の持ち主として有名だ。悪霊だの悪魔だの超自然を相手に戦うこの業界では、まさに“運も実力のうち”。誰もがそのことによって彼女を業界第一人者として目していたのだが――。
「『努力実らず』、『収入は大なれど支出もまた多し』、『待ち人きたらず』――か。ははっ……言ってくれるじゃない! ここまで虚仮にされたのは初めてよ!!」
 御神籤を握り締めて炎のごときオーラを吹き上げ、日本最高のGSは力説する。
「………たかが御神籤に、ああまで熱くならなくても……」
 とかおキヌは思うのだが、「うーむ」と早苗は腕を組んでなにやら考えていた。


 ――そもそも、なんで令子がこの神社にいるかと言うと、年末年始の休みを利用して里帰りをしていたおキヌを迎えにくるためである。
 去年は結局令子の元で正月を過ごしたおキヌだが、「今年はむこうで」ということによる帰郷だった。そうして明日は学校の三学期が始まるということで令子が自ら迎えにきていたのだが……。
『すいません、義父さんに美神さんがくるって言うの忘れていて』
 長距離バスの予約だのなんだのと、そういうのを先にやってしまっていたのだった。
『――まあ、仕方ないわね』
 無駄足になったが、令子は別にそのことで腹を立てたりはしなかった。
 令子は家族への縁が薄い。
 義理とは言え娘に対して世話を焼く両親などというのは、見ていてどこか胸を暖める。それにまあ、ドライブのついでにここにきたと思えばいいのだ。
『じゃあ、まあ、少し休んでから東京に帰るわ』
 そういって、彼女はなんとはなしに御神籤を引いたのだが。


「……じゃあ、もう帰るわ」
「気を――気をつけてくださいね美神さん!」
 なにやらテンバってる顔をしている令子を見て、思わずおキヌは声をかける。
「大丈夫よ。御神籤なんて気にしてるの? あたしはGS美神なんだから――」
 それがどういう種類の保証にもなっていないというのはおキヌにもわかっていたのだが。
「それじゃあ」
「あ」
「今晩事務所でね――」

 令子の運転するコブラは走り出す。

「……大丈夫かな、本当に……」
「本当に」
 早苗はぽつりとつぶやいた。
「――あんなに気にするなんて、思わなかった……」
「へ?」
 
 なにやら聞き捨てならないようなことを聞いたような気がしたおキヌであった。


【現在、関東北部から中部、北陸にかけて、急な前線の降下による豪雪に見舞われ……】

 事務所のテレビを見ていたシロとタマモは、心配そうな顔をしてぼんやりとソファーに座っている横島を見た。
「先生、この辺りは……」
「おキヌちゃんの実家のある辺りじゃない?」
 横島はアクビした。
「問題ないって。おキヌちゃんはああ見えてもしっかりしてるし、それにあの美神さだぞ?」
 万が一のこともあるものか――そう言ってから、彼は眠りについた。


「――ちょっとミスったわね」
 令子は呟き、それから深いため息わ吐いたのだった。



 つづく!
 

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa