ザ・グレート・展開予測ショー

音色(後編その五)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 2/18)

―音そして想い

それは、よく唄う、そして聞く音。
幼い頃からのただひとつある記憶―。
もしかしたら、一番底にあるものかもしれない

『この子可愛さ限りない
山では木の数萱の数、尾花かるかや萩桔梗
七草千草の数よりも、大事なこの子がねんねする
星の数よりまた可愛―』

顔もなにも、どんな話をしたのか、どんなひとだったのか何も覚えてないのかわからないのに、ただひとつ覚えている唄
覚えている声。
それは、ただひとつの記憶。
大切なもの。

おきぬの指が呼吸が音を旋律を、力を生み出す。
先程までの強い力ではない。
全てを、従わせるものではない。
ただ、慰めるちから
ただ悲しむ、鎮魂のちから。
強制のものではないのに、ひどく哀しいほどまでに労わるちから。
まるでおきぬその物のような―
それは、倒すというよりも、もしかしたら癒すというのもが近いかもしれない。

音を紡ぐ。
最も馴れしたしんだ曲を
最初この曲を唄を使うのは躊躇していた。
たとえ自分のなかで最もいとおしい『音』だとしても、それはただの子守唄。
他のものからみたら何の意味も無いものなのじゃなかろうか?と
他にもきっといろいろあるのじゃと
人の無念の想いを鎮める曲は存在するのじゃなかろうか?と。
だがそんな思いに―あの死霊使いの師匠はいった。
それで良いと
手紙で自分には到底読めない字でかいてくれた。
その旋律は―自分の想いがこめられるその唄でなければと。
どんなに曲が立派なものだろうが、気持ちを思いをこめられないと意味がないと。
だから想いをこめる
涙を溢れるほど強い思いを、笛に―こめる。
苦しまないで、泣かないで、幸せに―と

『…………』
曲がおわってもまだそこにその存在はいた。
だが、先程のような激しさはない。
浮幽霊のようにそこに浮かんでいる。
力がない。
もう、なにも動かないでいた。
その顔には流れるはずのない涙がはらはらと流れている。
『この唄』
かすれた、喉にひっかかったようなか細い声。
おかあさんが歌ってくれたのに似てるよという
ひどく頼りない、口調で。
「うん、これは子守唄だもの」
ふわりと笑いおきぬ。
おかあさんが眠る時に唄ってくれる唄。だと
眠りたくないという子供を寝かせるための唄。
『もう、寝なきゃなのかな?』
涙を拭おうともせず子供。
その瞳に強い感情はない。あるのはただ穏やかな光。
『まだおきていたいのに』
『でも、泣いてるんだよね…おとうさんとおかあさん』
『笑って欲しかったのに』
『まだ、ここにいたら泣いちゃうよね』
おきぬはそっとその子供に近づき触れる。
―相手が霊体だから触れることは出来ない。
わかってはいるが、そうしたかったのだ。
おきぬはこくりと頷く。
そこでここに居てもいいとは言えなかったのだ。
どうしてもいえなかったのだ。
つづく  

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