ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(1) 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/10/21)


マイナス20度

太陽が輝くよい天気なのだが、気温は想像を絶するほど低い。

横島は重さ5キロ以上ある防寒具を身につけ、その氷の大地に立っていた。
いや、正確には大地ではない。
そこは海にせり出した氷床であり、棚氷と言われるものだ。ここではごく薄い部類に入るが、それでも二百メートル以上の厚さがある。

振り返り後ろを見る。
雪目を防ぐためのサングラス越しに見えるのは、地平線まで続く海。

何も見つかるわけも無く、また振り返る。
前に見えるのは氷の大地、その果てにはそびえ立つ氷山が見える。

隣にはこの氷の大地を珍しがり騒ぎ立てる弟子、シロがいる。
必死に現実逃避しようとするが、周りの寒さとシロの声に嫌でも現実に引き戻される。 

横島は深くため息をつくと、逃避を諦め現実を認めるべく空を仰ぐ。
そして叫ぶ。

「チクショ〜〜〜!!はめられた〜〜〜!!」

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ことの起こりは数日前
事務所に小竜姫、ヒャクメ、ワルキューレがやってきた事から始まった。

「今回は何の依頼?お金にならない厄介事はごめんよ。」
「今日は神魔界両方からの正式な依頼という事で来ました。報酬は金塊で二億です。依頼内容は・・・」
「受けるわっ!!何でも言ってちょうだいっ!!」
小竜姫の言葉も終わらぬうちに、身を乗り出し目を輝かせる美神。
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
「美神さんは相変わらずですねー。」
「まったくだ。」
美神の様子に、当然の反応だと分かってはいるのだが、やはり呆れてしまう三人だった。


「実は今回の依頼は、アシュタロスの事件の事後処理と今後の対策を兼ねているんです。」
「あの事件の?何で今頃になって・・・」
「それが・・・計画は早くからあったのですが、決定までに時間がかかってしまって・・・」
美神の問いにしどろもどろに答える小竜姫。

ちなみにこの時横島は、三人が訪ねて来るなりとびかかった為全員にしばき倒されて床に転がっている。
おキヌはその看病、シロとタマモは何の事だか分からず、ぼーっとしている。

「あの時アシュタロスがアジトにした南極なんですが、あそこは今まで神魔界において中立地帯とされていたんです。」
「なにせ、地球のチャクラですからね〜。どちらかの管理に任せるには重要すぎたのね〜。」
「だが例の事件では、あの場所がテロの基地とするには最適だと言う事現実を見せ付けるはめになったからな。これを機に、何らかの対処をする事が決定した。」
「ふ〜ん。確かに地球の事考えないんだったら、地脈のエネルギー使い放題だもんね。それで?どーする事になったの?」
「地脈の集積点である『到達不能極』、そこを神魔最高指導者の観測下に置き、御二方の許可によってのみ使える専用通路を作ります。」

「それで、俺達はどーすりゃいいんですか?」
しばき倒されたダメージからやっと回復した横島が口を挟む。

「これをそこに立ててきて欲しいのね〜。見た目は平凡だけど絶大な力を持つアイテムだから安心して欲しいのね〜。」
そう言ってヒャクメが取り出したのは、一枚の立て札だった。
板には、『神魔最高指導 キーやん サッちゃん 承認』と書かれている。どうも直筆らしい。
外見と中身のあまりのギャップに、一同思わず固まる。
「こ、これが一番偉い人達の・・・・」
「ありがたみゼロでござるな・・・・」
思わずシロとタマモがつっこむと、その場にいる小竜姫達を含む全員がつられて頷いた。

「あ、あの・・・。これを立ててくるだけだったら、小竜姫様達が直接行かれたほうが早いんじゃないですか?」
比較的早く立ち直ったおキヌが疑問を投げかけると、小竜姫は少し困った顔をして申し訳なさそうに答えた。
「実は、真に恥ずかしい話なのですが・・・神魔族を送る事について、御偉方がたいそう揉めまして・・・」
「まあそれが、この計画が遅れる事になった最大の理由なのだがな。」
「そうなのね〜。トップの御二人に計画の実行を神魔界に委任された後、誰を送るかで、やれパワーバランスがどーだの、能力がどーだの、 
最後には自分達に有利なように何かを細工するんじゃないか、なんて話まで出て来て・・・
しょうがないから完全な第三者である人間にやってもらおうって事になったのね〜。」
「はぁ〜、どこの世界でも権力者達は似たような事やってるのね。」
美神はため息をつくと横島のほうに顔を向ける。
「南極か〜、寒いの嫌いなのよね〜。横島君行って来てくれない?」
「え〜、いやっすよ。どーせ頑張ったって儲かるのは美神さんだけじゃないっすか。それなら本人が行くのが筋ってもんで・・・」
「成功報酬500万でどお?」
「ほらそうやって安い金で人をこき使おうと・・・・・え?」
今聞こえた言葉を脳が受け入れる事ができず思わず聞き返す。
「だーかーら、成功したら500万円あげるって言ってるのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
しばしの沈黙の後、横島は深刻な顔をして小竜姫向き直る。
「小竜姫様、今美神さんは精神が酷く錯乱しているようなので、今回の依頼は無かった事に・・・・・。」
「そ、そーですねっ!具合の悪い人に無理に仕事を頼んじゃいけませんよねっ!」
「ささっ、これから病院を手配しなくてはいけないんで・・・。お帰りはこちらです。」
そう言って、横島は小竜姫達を玄関に連れて行こうとする。

「だぁーーーー!!なによっ!私が横島君に報酬を払うのがそんなにおかしいのっ!
曲がりなりにも神魔界からの正式な依頼なんだから、代理の報酬ぐらいちゃんと払うわよっ!
そこの三人もっ!それをすぐに止めなさいっ!!」
美神の怒鳴り声で、病院へ電話をしようとしていたおキヌは慌てて受話器を置き、
思わずカーテンで担架を作り出していたシロとタマモも手を止める。

「そ、そーですよね。美神さんもそこまで悪どくないっすよね。いやぁ〜、心配して損したっすよ〜。」
「・・・あんた、報酬減らして欲しいの?」
「いえっ!滅相も無い!不詳横島、喜んで受けさせてもらいます!」

「でだ、今回も一応装備の支給はある。」
ワルキューレはそう言うと、かばんを取り出して開ける。
中には竜神装備一式と魔族のライフルが二組ずつ入っている。
「もっと量を増やしたかったが、あいにくこれ以上は許可が下りなくてな。我慢してくれ。」
「あ、あの。やっぱり、危険はあるんですか?」
月に行った時と似たような状況で心配になったらしく、おキヌが恐る恐る尋ねる。
「心配いらないのね〜。南極に妖怪はいないし、反デタント派も今の所動きは無いから、基本的に行って帰ってくるだけになるのね〜。」  
「ああ、力のある魔族が動けばすぐ分かるからな、この装備も万が一に備えてのものだ。」
二人の言葉にほっと息をつくおキヌ。
「でも装備が二組あるから、横島君ともう一人行けるわね。」
「はいはいはい!拙者が行きたいでござるよ!」
「じゃあシロ、行ってきなさい。あんたも報酬は500万ね。」

「それでは、我々は事が終わるまでこの事務所に滞在して、作戦の指揮を行う。」
「私達はこの任務が終わるまで、神魔界の監視下に置かれます。余計な事をしないようにと言う事なので・・・・。」
「なんだとー!小竜姫様を監視だと〜!それじゃあ、風呂も着替えも!なんてうらやましいんだ〜!」

ドカバキグシャ!

あっという間にボコボコにされる横島。
「居場所だけですっ!」
顔を真っ赤に染めて否定する小竜姫。
「全くこのバカは・・・。」
「・・・さっき作った担架、役に立ったわね。」
「そーでござるな。(先生・・・今回は自業自得でござるよ・・・。)」

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そんな訳で、南極に来た横島とシロ。

冒頭の横島の絶叫の後、横島の懐から通信鬼が飛び出し、美神の声が響く。
『誰がはめたって!?』
「だってそうじゃないすか〜、何で前みたいにヘリで行かないんすか〜。楽な仕事だと思ったのに〜。」
『あの時は世界の危機っていう名目があったから国のヘリが出せたのよ。今回は人間界は関わり無いんだから。
第一南極では「平和目的の科学活動」でしか自由に行動できないのよ。
それに、今から引き返すんだったら自分で帰ってきなさいよ。』
「うう・・・・。話がうますぎると思った。」
「まーまー、先生。ちょっと長めの散歩だと思えば平気でござるよ。いい景色でござるし。」
そう横島をなだめるシロ。
確かに景色はこちらを圧倒するものがある。広大な棚氷の景色は、普通はまずお目にかかれないものだ。
「景色はすごいが、お前の言う長めの散歩ってのは少し不安を感じるな・・・。」
それでも覚悟は決まったらしく、少し元気が戻る横島。

「それじゃあ、まずどこへ向かえばいいんすか?」
『一時の方向に氷山が見えるでしょ?今日のノルマはそこまでよ。』
確かにはるか彼方に氷山が見える。横島は言い様の無い不安に襲われた。
「あ、あの。聴きたくない様な気もするんですけど・・・・・何キロぐらいあるんですか?」
『大丈夫♪地図上ではほんの500キロだから♪あっ、ノルマ達成できなかったら報酬半額ね♪』
「ふざけんなーーーーーーー!!!」


前途多難な南極行程であった。

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