ザ・グレート・展開予測ショー

GEKKOH〜紅の巻・ラストシーン「ラスティ・プロローグ」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 5/ 6)

「正直、アイツの親父が逝ったというのには驚かされた。別に死ぬと思わなかった
わけじゃない。単細胞なオツムだったし、真っ向から殺しあった時も二の太刀があったら
私の勝ちだったと思う。それも含めて強いといえばそこまでだが――。私が言いたいのは
あの甘さだな。あの親が逝った時シロが生きていられるとは到底考えられなかった」
そう言われても、横島達には解らない。犬塚父に会った事はないし
父が健在だった頃のシロも知らない。ただ、確かに重い存在だったのだろうと思う。
「その点で、シロは私の想像以上に不幸だったが、生きていられたのは私の想像以上に
幸福だったからだろう。この場合はお前達の存在が、な」
「その……それで、それを聞いて、それだけなんですか?」
横島がおずおずと口を開く。気を抜くと会話が途絶えてしまう。妙に話しづらい相手だ。
「それだけじゃ不服か?例えば、私がアイツを引き取れば満足かな?」
「え…!?」
「本気にしない。どうせ冗談よ」
うろたえる横島を見やり、タマモは人狼に向き合った鏡のように無表情で、言った。
「心外だな。そちらが希望するなら別段、断る理由もなかったんだが」
「つまんないジョークだ、そう言われたら素直に諦めたら?」
「なるほど。確かにつまらなかったな。もっと狼狽してくれればからかい甲斐もあったが」
「本気の時はあたしが無理矢理ジョークにするから平気なのよ」
タマモの方だけがそこで、ニッコリと笑った。
「お嬢さんがた……もの凄く貫禄あるのは何故?」
横島はなんだか場違いな雰囲気をひしひし感じていた。二人のやりとりについていけない。
「気づかないの、横島?こいつの言ってること、嘘ばっかりよ」
「………はぁ!?」
聞いた言葉の意味の理解に手間取ったのか、遅れて聞き返す。
「ポーカーフェイスって時点で、一番最初に気づくべきだったのよね。
表情が柔らかく豊かな人なら、ウソをつく時緊張で顔が引き締まってしまう。
鉄面皮ってのは人を騙す事を生業にした奴なら、必要な特徴ってことよ」
「お前がいい例だな」
「ま、ね」
紅い髪の人狼が呟くように付け足すのを、軽く認める。
「だが、ウソばかりというのは語弊があるな。私の言ってることは確かにお前らに
事実とは異なった事情を想像させているだろうが、私がしたのはせいぜい意図的に
一部あえて語らなかった程度だ。ここまで言えば充分だろう」
「別に本当の事情とやらに興味ないしね」
充分ではないのだが、それを承知で彼女は言った。
プライドの高いタマモに言及させない最も効果的な一言だからだ。
そしてタマモは、それと承知で従った。事情を知っていないことをわざと示して。
つまり「罠はってんのバレバレよ。そちらの顔立てて引っかかってやるけど」。
こうした水面下のやりとりを行っているのである。横島についてこれる筈もない。
「やれやれ。短時間でとんだ難敵に育ってしまったものだな」
「若いから、飲み込み早いのよ」
言い合ったところで、人狼が席を立った。
「もう行こう。アイツは保護者と……頼もしい仲間に恵まれているようだ。
いや、正直アイツよりもお前に会えた事の方が有意義だった」
タマモを正面から見据えて、言った。そのまま無駄のない挙動で立ち去る。
「いいの?次はいつ会えるかわからないでしょ?数少ない同郷なんじゃ……」
「こちらの事情に興味ないんだろう?助かったよ」
肩越しに手を振ってそれだけ言い、店を出て行った。
「結局なんだったのかしら……?」
「そりゃこっちの台詞だ」
横島が隣でぐったりと呟くと、タマモはそちらを見やって一言感想を漏らす。
「あら、そういえばいたわよねアンタ」

映画館に目の醒めるような深紅の人影があった。通路沿いの一席。
「隣が空いてる。それとも、内緒話ではないとでも言い張るのか?」
周囲に人影は無し――が。突如空中から降り来る人物はいつぞやの金髪だった。
「姐サンとそんなに距離詰めるのはぞっとしマセンや。もう調べはついてんデショ?」
「言い逃れが無駄だと思うなら、自分の口で事実を報告してみろ」
「ついこの間――一年も経ってマセンね。
犬飼って人狼から依頼受けて、経理部が手の空いてる若いモン手配しまシタ」
「お前だな。確かにその程度は、調べる手間さえ惜しまなければすぐに解る」
まるで、その手間を惜しんだと今にも付け足しそうで決して付け足さない。
「現地で敵の長老ってのに取り入って、犬飼の始末の依頼受けました。
犬飼はお宝さえ持ってけば依頼は終了だし、そのカネはほとんど本部のジジィどもが
吸い上げちマウ。任務行動中に別口の依頼はルール違反だったけど、だからこそ
報告がいらないから丸儲ケ。実は少なくともオレだけは、しょっちゅう使ってるテなんス」
「少なくともお前と、私だけはな。誰だって思いつくんだ。あとは実行に移せるかどうか」
「マ、なんにしろそれが犬飼サンにバレて、全部言い当てられたんでスケド
そいつを聞かれちゃった相手が一人いて」
助けられたが助けるわけにもいかず、死亡を確認した。
「裏社会にも非合法なりに法がある。お前の行為はそれすら違反していたわけだ。
だが先に言った通り、その点に関しては私も同じ穴のムジナだ」
「オレが殺したのは人狼――姐さんの家族だ。仇討ちとか考えないんデスか?」
どちらが仇討ちされる側なのか、これではわかったものではない。
「仇討ちならお前を襲うのは筋違いだ」
「え?」
「仇討ちなら、別に私は死んだ男の無念など知りはしない。殺したお前を殺すのは
ナンセンスだ。私がお前に思い知らせたいと考えるなら家族を失った自分の気持ち――。
話は変るがお前には恋人がいただろう?」
相変わらずのポーカーフェイスが、スクリーンで跳ね回る光に照らしだされる。
「………」
「……冗談さ。どうやらお前は狐より察しが悪いらしい。プロは得の無い殺しはしない」
「一週間前から連絡つきまセンヨ…」
「振られたな」
即座に答える。
「本当でしょウネ?」
「アリバイはないな」
「なるほド」
納得する。アリバイという言葉は、彼らの業界では無意味なものだった。
叩けば埃の彼らのアリバイなど真っ先に疑われるし
そもそもそれ以前に標的とは関係を持たなければ済む話だ。
私怨がある相手こそ、むしろ彼らは手にかけない。
かけられない理由を、思い出させる言葉だった。
「私にとって必要な家族なら、こうして旅などせんよ。
ただ私の領域に入る事を私が許可した。家族と言っても、その程度の繋がりだ」
「女ってのは薄情でスネェ」
「男がロマンチスト過ぎるだけさ。だが、四六時中見張ってなくて済むのは信頼ゆえだ」
「……」
「考えを当ててやる。ありがちな台詞だと思ったろ?生憎と口は下手でな」
「リアリストってペテン師のことだったんデスね」
肩を落として苦い口調で男が言う。
「そう言うな。困っているんだ。どんな冗談も理解されないからな」
「んじゃ昼間オレを斬ったのはなんだったんスか?」
そこで、赤い髪は珍しく逡巡した。答えに窮した様子であったがやがて向き直り。
「成り行きだ」
「斬られ損デスか……」
「いや、私の剣はもはやアートの域だ。自慢話のタネになるぞ」
「姐さん、励まし方だけ下手デスね」
「言うな。私も言いながら巧くないなと思っていたところだ」
男は大仰に「あちゃー」というジェスチャーをした。スクリーンに影が映る。
「これからどうするんデス?」
「これからも今までもない。あるのはただ、剣と私と月が綺麗な夜だけさ」
「ポエムなんか読むんですか?」
「自作だ」
「……また言い当ててもらえマス?」
「そうだな………そんなキャラじゃなかっただろ、かな」
「ご明察」
「経験の蓄積は偉大ということだよ」
自分で言って独り満足そうに頷くと、紅い髪はそのまま映画に集中し始めていた。

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