ブラック・ボックス!(前編)
投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/ 7)
*警告
「勇気の剣」をお読みになった方、あの時のカッコいい横島を引きずらない方が身の為です。今回は本当にぶっ壊れてますので。
後、これはアフターでもなんでもない別モノのストーリーです。
午後三時三十分。六道女学院の校舎に、授業終了のチャイムが高らかに鳴り響いた。
水中から顔を上げた時のように、教室に緩やかな雰囲気が漂い始める。ついさっきまで現国教師のお経のような朗読に辟易していたので、悪いとは思いつつおキヌは身が軽くなる思いだった。
学習鞄に丁寧に筆記用具・教科書・ノートを入れながら、今日の夕飯は何にしようなどと考えるおキヌ。ところが、教室を出て行こうとした時誰かにむんずと肩を掴まれた。
後ろを振り返らずとも分かる。こんなにも親密に、かつ馴れ馴れしく相手を呼び止める者は、おキヌの記憶には一人しかいなかった。
「なあ、おキヌちゃん。ちょっといいかい?」
振り向くと、そこにはおキヌの友人の一文字魔里が立っていた。魔理は口元に妙な笑みを浮かべ、まるで新しい玩具を手にした子供のようだった。
どうにも嫌な予感がする。魔理がこの顔をする時は、決まってロクでもないことを考えているからだ。いつもはこの辺で弓が割り込んでくるのだが、生憎今日は級長会議だった。
「どうしたんですか?一文字さん」
まあロクでもないとはあくまでも弓サイドでの話、実際はゲームセンターに連れて行ったりマニキュアを貸したりしているだけだ。だが、そのことが後々ほぼ百パーセントの確率で喧嘩の原因になるのが、おキヌとしては頭の痛いところではあったが。
素直な返事を返すおキヌ。自分が既に半分餌に食いついていることにまるで気付いていない。
魔理は意味ありげに笑うと、自分の鞄の中をごそごそと探し始めた。とはいえ学習用具が皆無の平べったい鞄のこと、探しものはすぐに見つかった。
魔理がおキヌに何かを手渡した。おキヌが見ると、それは黒い色をしたビデオテープだった。だが、表にも正面にもこれといったラベルは無い。それが逆に不思議だった。
「貸したげるよ、そのビデオ。中身は、ま、見てのお楽しみだね。すごいよーそれ。なにしろ私が見た中でも一、二を争う激しさだから」
それだけ言うと、魔理はもう一度おキヌの肩を叩いてじゃあね、と教室を出て行った。ぽつんと後に残されたおキヌ。その手に残るビデオテープが、何故か不吉な塊に見えて仕方なかった。
「うーん・・・どうしよう、このテープ」
右手に持ったビデオテープと睨めっこしながら、おキヌは事務所の扉を開けた。気がそぞろになっていても、勝手知ったる美神の事務所。実にスムーズに階段を上っていく。
おキヌは、正直迷っていた。テープを見るべきか、見ざるべきか。見ないのなら話は簡単だ。明日何食わぬ顔でテープを返し、内容は適当に魔理に合わせて頷けばいい。
とはいえ、折角友人が貸してくれたテープ。デッキにも入れずに返すのも気が引ける。だが、魔理のあの意味深な顔。アニメやバラエティー番組のような浅い内容とは到底思えない。
ひょっとして、越えざるハードルをまたいじゃうかも・・・
またぐというより破壊すると言った方が適切かもしれないが、要するに怖いのだ。これを見たのがきっかけで、良きに付け悪きにつけ自分の中の何かが殻を割ってしまう事も十分考えられるのである。
無論、魔理が自分に有害な代物を渡すとは思えない。だが、車の無い交差点で信号を無視するかしないか、その位おキヌと魔理の価値観が鏡のように対照的なのも又事実である。
どうしよう・・・どうしようかな・・・
「あれ?おキヌちゃん、どうしたの?」
忘我の境地に行きかけていたおキヌの耳に、不意に聞こえてきた横島の声。おキヌは、夢から突然覚めたように慌てて我に返った。暫し目を瞬かせると、横島が心配そうに自分を覗き込んでいた。
「おキヌちゃん大丈夫?何かふらふらしてるみたいだけど」
どうやら傍目から見たら自分はかなり変だったらしい。確かに、夢遊病者の様だったと自分でも思う。大丈夫ですと返そうとしたその時、おキヌの脳裏に天啓が閃いた。
(そうだ!横島さんに相談してみよう)
一筋の光明に頼ることを、溺れる者は藁をも縋ると言う。だが、思考力の低下していたおキヌは、この時自分が縋ったのが漬物石だったなどとは夢にも思っていなかった。
「・・・というわけなんですけど、どう思います?このビデオテープ」
意見を求めて横島に話を振るおキヌ。だが、最早横島の脳におキヌの言葉なぞ一ミクロンも届いてなかった。全身を怒涛の勢いで駆け巡るのは、「ビデオテープ」「凄い」「激しい」の三フレーズのみ。
年頃の男性なら、この三段論法から導き出される結論は唯一つだ。横島は涎が出そうになる顔を何とか正すと、急に真面目な顔をしておキヌに言った。
「うーん、それだけじゃよくわからないな。だ・か・ら、まずは俺が見てあげるよ」
不気味なほどきりりとした表情で、テープを渡せとばかりに右手を差し出す横島。が、そのあまりに凛とした顔は却っておキヌの警戒心を刺激してしまったようだ。人間、慣れない事はするもんではないといういい例である。
おキヌが嫌ですと言ってテープを両手で後ろに隠すも、横島は執拗に食い下がってくる。その目と口が徐々に飢えた野獣の相を成してくるにつけ、おキヌの警鐘は増々大きく鳴り続けた。悪循環である。
暫く通路で押し問答をやっていると、すぐ近くの扉がいきなりバン!!と開かれた。開いた扉に激突して鼻を押さえる横島を尻目に、中から美神が額に血管を浮き立たせながら現れた。
「アンタ達、さっきからうっさいのよ!!特に横島!今日はもう上がりなんだから、さっさと帰りなさい!!」
おキヌは、ぽんと手を打ちたい気分になった。そうだ、最初から美神に相談すればよかったのだ。横島に相談したせいで、蝶結びからアワビ返しになったように状況がややこしくなったが、今ならまだ間に合う。
おキヌは、般若の如き形相の美神を刺激しないように、なるだけ穏便に話を切り出そうとした。
「あの、美神さん。実は・・・」
「!しっ!!」
だが、横島が神速を越える程のスピードでおキヌの口を塞いだ。おキヌが美神にテープのことを話せば、まず間違いなく美神がテープを預かるだろう。そうなっては、奪取はまず不可能だ。
結論から行動まで、約0,3秒。驚くべき早業である。おキヌの口を封じた横島は、おキヌの耳元でそっと囁いた。
「いいか、おキヌちゃん。もしも、そのテープが美神さんの大嫌いな人情モノとかだったらどうするんだ?不当に魔理ちゃんの心証を悪くしちまうぞ」
「う・・・」
おキヌは、二の句が継げなかった。確かに、内容が分からないテープを美神に預けるなど、目隠しで地雷原を歩くも同然である。水戸黄門あたりなら偽善者が、と不機嫌なだけで終わるが、マルサの女などだったら目も当てられない。
横島の言が正論である以上、おキヌとしても沈黙せざるを得なかった。いつもは極論か暴論しか吐かないくせに、こういう時だけ妙に頭が回る。
「そうですね・・・このテープは私が持っています」
「分かってくれた?それじゃ、お疲れ様でーす!!」
美神への頼みの綱を言葉でちょん切った横島は、鼻歌を歌いつつスキップしながら階段を下りていった。左右への腰の振りも忘れていない。
(よっしゃ!おキヌちゃんの部屋なら、「探」の文殊で容易く見つけられるぜ!あぁ、魅惑のテープちゃん、今夜いただきに来るからね!)
それは俗に「夜這い」というのだが、捕捉目標がテープというのが何だか情けない。だったらおキヌならいいのかとなりそうだが、そもそも夜這い自体が犯罪である。
「何なの?アイツは・・・ま、いつものことか」
四六時中発動する横島の暴走にいちいちツッコんでやる気も無い。美神が部屋に戻ろうとしたが、間の悪いことにおキヌの持っていたテープが美神の目に留まってしまった。
「ん?おキヌちゃん、何そのテープ」
「え・・・えっと、これは、その・・・」
やけに歯切れの悪いおキヌの返事に、美神の目が怪しく光った。どうやら好奇心を刺激されたようである。
「教えて、くれるわよねぇ」
おキヌは、袋小路に追い詰められた鼠になった心境だった。窮鼠猫を噛むとは言うが、猫が美神で鼠がおキヌではどうにもならない。
おキヌはがっくりと項垂れると、観念して事の経緯を説明した。
今までの
コメント:
- ホントは一話でまとめるつもりだったんですが、予想外に長くなっちゃいました(涙)
どうもギャグ系は書きにくいです。読む分にはそっちの方が好きですけど。 (tea)
- 随所に諺の引用が見られるのは現国教師のお経の影響でしょうか(挨拶)
女子学生としてのおキヌちゃんはみょ〜に横島くんに冷たいような気がするのは私だけ?
仕事中はそうでもないんですけどね? …理由はまあ、分かるような気もしますが。
で、そんなおキヌちゃんがよく顕れていると思います。 (斑駒)
- 人は生きている限り、いつまでも無垢なままではいられないのですね(涙)
それにつけても、よこっち! 女性の部屋に忍び込む目的がAVだなんて、チミは人として、男として、最低だ!(笑) (黒犬)
- おキヌちゃんがなんか横島につめたいですね。
それはそうとビデオの中身ってなんだろう? (3A)
- あ!?賛成いれるのをわすれてました。
(3A)
- 人情ものより、仁侠モノを推すな。私の勘が。相手が一文字だけに。
良いとか悪いとか以前に、横島にはおキヌちゃんが異姓だという感覚がないのか? (ダテ)
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