ザ・グレート・展開予測ショー

La Follia_4


投稿者名:アシル
投稿日時:(03/ 1/ 7)


 気がつけば辺りは真っ暗だった。
 人通りの少ない道に、美しい女性と二人きり。
 いつもなら願ってもない状況では会ったが、現状に関しては非常に気が重い。
 横島忠夫は、溜息を一つ吐いて覚悟を決めた。

「俺、この仕事辞めようと思ってるんですよ」

「え〜っ! そうだったの〜〜っ!?」

「……」

 利き手の大袈裟な反応に、早くも覚悟が薄れる。

「……始めはただ、美神さんの体につられてやることになったバイトだし、GS免許だって成り行きで手に入れたんですよ」

 それが、気がつけばこんなところにまで来てしまっていた。
 ほんの少し前までは、彼はただの高校生だったのだ。
 霊とか神様とか、そんな世界とは最も縁遠い場所に居たのだ。
 そして多分、自分はまだその時の気分が抜けきっていない。
 彼はそう思っていた。
 だからあのとき、彼女を助けることが出来なかった。

「俺みたいに覚悟の無い奴が、やって良い仕事じゃないんですよ。ゴースト・スイーパーってのは」

「横島くんは〜、才能があると思うわ〜〜」

「どんなに才能があったって、そう言う問題じゃないんですよ。俺が出しゃばりさえしなければ、アイツは死ななかったんだ……」

 自分の手に付けられた傷を見て彼は思いを馳せた。
 この体はルシオラのモノだ。
 自分如きが傷つけて良いモノではなかった。

「……デタントって知ってますか?」

「聞いたことはあるけど〜〜」

 アシュタロス事件のとき、神界と魔界の上層部が話し合って決めた神界、魔界、人間界の平和を保つための計画だ。
 小竜姫やワルキューレを始め、彼等の周りにいる神族、魔族はみんなこれの推進派だ。
 もちろん、事件の当事者であり人間の中でもそちらの方面に近いゴースト・スイーパーである二人が知らないはずはない。

「あれって、神界と魔界の戦力を拮抗させることで最終戦争級の争いをさせない計画って話でしたよね?」

「そうだったかしら〜?」

 冥子は既に着いていけないらしい。
 横島は無視して続けた。

「それって、状況的には人間界で言う冷戦と同じじゃないですか。小竜姫さまたちが考えているよりずっと危うい状況だと思うんですよ」

「う〜〜?」

「戦争が起きるときっとまた、誰かが哀しい思いをするんだ。嫌なんですよ。大切な誰かが死ぬのを見るのは、もう……」

 死んだところでルシオラに会えるわけではない。
 生きていれば、いつか自分の子供として彼女に会えるとヒャクメは言っていた。
 だが、それは既にルシオラではないと彼は思う。
 横島には微かにだが前世の記憶というモノがある。
 前世の彼は、平安の世で令子の前世であるメフィスト・フェレスと恋に落ち、その生みの親であるアシュタロスに殺された。
 そのアシュタロスを自分の手で殺したのだから、奇妙な縁であるとは思う。
 だが、前世で高島と呼ばれた自分と、今の横島忠夫とは別人物だ。
 自分は高島ではないし、この人生は横島忠夫だけのものだと考えている。
 つまりルシオラの生まれ変わりは、ルシオラではないのだ。
 メフィストの生まれ変わりである令子は、だからこそアシュタロスの命令を無視することが出来たのだ。

 第一、恋人の生まれ変わりだからといって自分の娘を愛せるだろうか。
 彼の中では、ルシオラは既に死んでしまったのだ。
 そして自分は彼女を見殺しにしたのだ。

「だったら〜、横島くんがもっと良い計画を立てれば〜〜?」

「え……」

 てっきり聞いていないと思っていた冥子からの言葉に、横島は驚いて顔を上げた。

「横島くんは〜、戦争が嫌いなんでしょ〜〜? だったら〜、戦争が起きない世界を作っちゃえばいいと思うの〜〜」

「誰がですか?」

「みんなよ〜〜」

「……」

 横島は絶句した。
 それができないから、今まで人間の歴史は戦争の歴史だと言われ続けたのではないのか。

「わたしも〜、戦争は嫌いよ〜〜。みんなが戦争が嫌いなら〜、きっと戦争はなくなると思うの〜〜」

「それは、そうかも知れないっすけど……」

「そうすれば〜〜、妖怪さんやマコラちゃんたちと〜、もっと仲良くできると思わない〜〜?」

 おそらく冥子は、自分なりに精一杯横島の話を聞いていたのだろう。
 如何にもいっぱいいっぱいな感じがひしひしと伝わってきた。

 冥子の語ったのは、所詮理想だ。
 そうできれば良いと思いながら、誰もが夢だと諦めたモノだ。

「そうっすね。そんな世界なら、素敵だと思う……」

 もしも世界がそんな綺麗なモノならば、ルシオラも許してくれるだろうか。
 ルシオラよりも世界を選んだ自分を。

「横島くんも〜、もう少しだけGSをやってみてから〜〜辞めるかどうか考えても良いんじゃない〜〜?」

「……冥子さんは、なんでゴースト・スイーパーになろうと思ったんですか?」

「えー、わたし〜〜?」

 冥子は聞き返されて、少しだけ悩んだ。
 代々受け継がれる式神の為もあるだろう。
 こんな体質で、他の仕事が出来るとも思えない。
 或いは、母も祖母もその前も、ずっとずっと続いた名家としての誇りか。

 冥子は笑った。
 そんなもので続けられるはずがない。
 自分が、令子が、横島が、自分を認めてくれる人々が居る。
 こんな自分と笑ってくれる友達が居る。
 そんな仕事は一つしかない。

「だって〜、こんなに楽しい仕事だもの〜〜」



 ――その笑顔の美しさに、シリアスを続けすぎて限界の来た横島が飛びついて、式神にボコボコにされたのは言うまでもない。

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa