ザ・グレート・展開予測ショー

両手。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 6/13)

じっと、手のひらを見つめる。
ただの、なんの変哲も無い両手だ。
指は5本、特に目立った傷跡があるわけでもない。

時間にして深夜。
―草木も眠る丑三つ時というやつである。
ここはもう使われなくなった廃ビルのある一室。
雪之丞は、古びたパイプベットに上半身を起こしじっと両手をみていた。
満月で空は、明るい。
月のやわらかな光が窓から入ってくる。
月明かりに照らされるその姿は、ひどく危うい。
いまにも消えてしまいそうな儚いのに、その眼光だけは―恐ろしく鋭い。
全身は汗をびっしょりとかいているのに、まるで寒いとでもいいたいかのような、表情

夢を見た。
血まみれの夢を。
今よりいくぶん小さい自分は、霊力をたずさえ人を殺した。
両手は、血でまみれ地には、ぐったりと力ない
それまで人であったものが倒れている。
そしてそこで笑っている自分。
力をえた―と。
そしてそこで笑いながら泣いていた自分。
何故、この力をもっと早く得られなかった―と。
これは、本当のこと。
遠くない昔―ほんとうにあった出来事。

「、見ることもなくなった―と思ったのに…なあ」
両手を見ながら紡がれる言葉は―ひどく頼りない。
目の前にある手は―綺麗なものだ。
だが、この手は確かに汚れていたのだ。
あの時確かに人の血で―。
そのこと事態には後悔は―ない。
そうしなければ生きられなかったのだから。
―あの時のことを後悔するということは、今、生きることを後悔するということだ。
そんなことはできるはずもない。
だが、この手で惚れた女に触れていいのだろうか?と想う。
こんな汚れた―手で。
血は洗えば落ちる。
だけど、それでも―………もう自分は汚れている。
だから、触れれない。
手を伸ばす事はできるが―触れることができない。
すこしばかり生意気で、高飛車な―だけど脆い女。
たとえば、おきぬのようなやわらかい空気や、優しさはない。
どちらかというと、硬質な冷たいイメージを与える美貌。
だけど花が綻ぶようにあたたかに笑う。
綺麗な、綺麗な―ひと。
―そんな女を汚したくない。
こんな自分が。
きっと彼女は、そんなことにはこだわらない
全部いったとしても―
『それがどうしたんですの』とでも言う事だろう。
―わかってるそんなことは…
…………………それでも、恐くて―恐ろしくて触れれないのだ

「くだらねえ事にこだわってるってことはわかってるんだろうけどな」

しんとした静寂のなか
雪之丞はひとりつぶやき―そして、ぐっと両手を握り締めた。

おわり

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa