音色完結(そのいち)
投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/ 8)
―そして、いま、此処にいる―自分。
十一時三十分。
空は、新月のせいだろうか?月は見えない。
ただかわりに、無数の星が空で輝いている。
おキヌは、なんとか銀行の口座を聞き出しとぼとぼと歩いていた。
外灯に照らされたその姿はひどく頼りない。
先程までの強く優しい姿とは、かけ離れている。
それもそうであろう。
おキヌは、『まだ』16なのだ。
プロであるとしても、他のひとより奇妙な体験をしているとしても―。
―かりそめだとしても300年いたとしても。
―それは、『生きて、経験した』ということではない。
幽霊であったときのほとんどは『山』に繋がれていた。
それから、美神のもとへといったのも、一年にも満たない。
―そこにはなかったのだ。
生々しい―感情が。
やりきれない無力感に胸をいためることも、世の中には叶わない事が山のようにあってそのなかで折り合いをつけなければいけないと言う事も。
―いつでもやれることがあった。
―人身御供になるときも、自分が犠牲になれば、他のみんなは助かるという保証があった
それは、ひどく恐ろしいものではあったが。
こんな風に無力感に苛まれる事はなかった。
こんなふうに、じわじわと浸透する痛みはなかった。
まるで半紙が水につけられてどんどんふやけていくように、じわじわと膨張し、そして―ほんの少しの衝撃で破れてしまう。
―そんな痛み。
ぽたり―涙が一粒落ちた。
ごしごしと裾で涙をぬぐう。
こんなことで泣いてはいけないと思う。
―こんなことはどこにでも、ころがっている事だ。
それにいちいちつきあっていたら神経がもたない―美神がよく言う言葉だ。
わかっている―それが正しい事は。
同調していたら、その度その度にこころを傷めていたら―いつか壊れる。
―それこそこなごなに。
(―強く、なりたい)
おキヌは、胸の痛みに耐えながら―切実に、そう思った。
(強さが―ほしい)
とも。
こころの強さも―死霊使いとしての能力も、体の強さも全て。
辛い事を受け止めてそれでも毅然としていられるこころの強さが。
―もしかしたら自分以外が除霊したらもっといい結果が出たのではないかなんて逃げれないくらいに―強い能力が。
それらに耐えれる知識や、体が。
おキヌは、きっと顔をあげ、そして溢れ来る涙を何度も、何度も袖でこすった。
十一時四十五分。
―そうしてやっとのこと事務所におキヌはたどりついた。
まだ窓には灯りがともっており、誰か起きているのだろうか?と思う。
―なんとなく
なんとなくである。
おキヌは、足音を忍ばせて、気配を消してドアまで近寄って除いてみると―
「だああああっなんで俺がこんなことっ!!明日は追試やちゅうねんっ!!」
とボールを持ち涙ながらに、叫ぶ横島がいた。
「なに?なんか文句あるの?」
とはなにやらガスコンロで、フライパンを動かしている美神。
視線はガスコンロにいっているがその底冷えのするような声は誰に向けられているか考えるまでも無いであろう。
途端―ぴしっと直立不動になる横島。
「―そーでござるよっ!!おきぬ殿が帰ってくるまでのお夜食というものを拙者らが創るでござる!!」
そんな横島に、ぐっと拳をにぎりしめシロ。
やるきまんまんである。
だが、そんあシロの姿にひとつため息をつき
「……いや、あんたかえっていないほーがいいんじゃない」
ご、タマモはのたまわった
つづく
今までの
コメント:
- ―くう眠い…すいませんみなさまのコメント返し書こうと思ったのですけど、先に本編終わらせたほーがいいかなあ?と思いましたので終わらせ解きます(涙
ほんっとうにいつもいつもありがとうです(感謝
つーか…眠い… (hazuki)
- 『声』が聞こえると云う事は、生の感情や欲求が見えてしまうこと。
聞こえてしまう人は、それに悲しみ、怒り、傷つき、時に喜びを覚えるでしょう。
それに蓋をしてしまえば、傷つく事も少ないかもしれません。
知っていても、聞こえていても、理解りさえしなければ、他人の感情の波紋を
向こう岸でかぶる事も無いですから。
でも、ほっておけない人もいます。 確かにそこに誰かいるのですから。
愚かな人なのかもしれません。
だけど、賢い人よりも愚かな人に、他人は手を差し伸べるものです。
今夜のお食事はおいしいぞぅ、おキヌちゃん!
(みみかき@シンミリきますよ、hazukiセンセ〜)
- むぅ!まだ盛り上がるパートまで来ていませんね。
しかしそうくることも可能性の一つとして考慮してましたw
今日のところはhazukiさんの次回作を待つ者の存在(オレのことですよ、無論)を
アッピールすることで励ましのお便りというカタチでコメントに代えさせていただきます
みんなもhazukiさんに応援や励ましのお便りを出そう!
(そうするとオレが続き読めて助かるからw) (ダテ・ザ・キラー)
- 「自分を嫌いにならないで欲しい」と今のおキヌちゃんに言ってあげたいです。
本編を読みながら、辛いことがあっても平然としているヤツなんかまっぴらごめんだね!
とか場違いのツッコミを心の中でしてしまった自分はまだしも……
「おいおい(汗)ムキムキマッチョのおキヌちゃんなんか、おキヌちゃんじゃねーよ」
とか考えてしまった自分が、たまらなく嫌いです。
もう一度、言うよ。おキヌちゃん。
「自分を嫌いにならないで」 (魚高@良い精神病院を紹介してくれる人いませんか?)
- 今の自分に満足できない自分がいても、明日の自分に期待できる自分がいれば大丈夫!
明日は今日よりも、もっと良く。その次は、さらに良く。自分に求める分には、限界も迷惑もありませんから。
だから今日は今日の自分で、無力さに苛まれ、誰かに励まされ、そんな自分を明日の自分への糧とするのです。
明日は、もっと強くなれますように。明日は、もっとストレートな感想が思いつきますように………。 (斑駒)
- おキヌちゃんの、強い所と弱い所を、いっぺんに見せてもらったような気がします。
おキヌちゃん、まだ16歳なんですね。(いつのまにか、私よりもいっこ下に…)色々上手く出来なくて、落ち込んじゃう気持ちはわかるけど、おキヌちゃんはまだまだこれからなんですから、がんばって前だけを見てほしいです。 (猫姫@私なんて17なのに、周りに迷惑掛け捲り…(涙))
- 17歳……ちょうど自分の無力さを認識し、自己の価値について悩む年頃ですね。しかし同時に、自分を過小評価しがちな年頃でもあります。たとえ万能にはほど遠い自分であっても、その自分にこそできる事がある事、そんな自分を見とめてくれる人達が居る事に、早く気づいて欲しいものです。 (黒犬)
- ちゃん仕事したあとでも、反省するのがおキヌちゃんらしいですよね。
そして落ち込みかけたおキヌちゃんの心を暖かくさせてくれる仲間たち。
いい話や(感涙) (JIANG)
- おキヌちゃんの気持ちが伝わってきますね。それはそうと最後のタマモの言葉が笑えました。 (3A)
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