ザ・グレート・展開予測ショー

音色後編その七


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/ 5)

―いつかは還る―その処へと

おきぬは、その身体を、もう実体がない―ほんとうの体ではない―ただの幻影でしかない体を抱きしめる。
強く。
その子供はおきぬの腕のなかにすっぽりと収まる。
ほんとうに小さい―子供なのに。
こんな事ではなくて―もっと楽しい事や、哀しい事や、そんなことをたくさん体験してそして―まんぞくして逝ってほしかった。
なのに、もう逝かなければならない。
それを覆す事はもうできないし―してはいけない。
おきぬは子供と視線を合わせ、言う。
「伝えておくよ…大丈夫なんだって」
―と。
きっと何よりも、言いたかったであろう言葉を。
そしてもう言うことができないであろう言葉を。
―するとその子供は―始めて笑った。
ほんとうに嬉しそうに―子供なのに、大人びた諦めたような表情―そしてうつろな表情しかしなかった子供が。
初めて嬉しそうに、子供らしく―笑ったのだ。
そうして、笑いながら頷き―
『うん』
頷きながら涙を流す。
おきぬは、ゆっくりと札をかまえる。
本来ならそのまま成仏させたいのだがそれはできない。
なぜならば、この子供の心残りが―この世界に対する執着が消えたわけではないのだから
ただ、わかっただけなのだ。
―いなくならなければならないという事が。
そうしなければ、自分の大切だと思う人に迷惑をかけると自覚しただけなのだ。
そう自覚したからといって消えるわけではない。
ただ、抑える事が―その執着を抑える事ができるだけだ。
心残りが消えて成仏というわけにはいかない。
手が震える。
したくないと叫ぶ声を無視しておきぬは―札をつかった
そして最期の瞬間に聞こえた―言葉
『おかあさんも、おとおさんも、、ありがとう。大好きだよ―おねえちゃんも―』
言葉が終わる前に―ぱしんっと音をたてて、ひとつの魂がこの世界からいなくなった。
おきぬは札を両手で持ち、額押し付け、目を閉じ、しばらくその場に佇んだ。
それがなんの言葉なのか―どんな意味を持つのか誰も知る者はいない。


午後十一時二十分。
「―というわけで終わりました。」
静かな微笑みをうかべおきぬ。
「そう、ですか…」
どこか寂しげに父親。
「―もう、この世界のどこにも、いないんですね…」
葬式も四十九日も過ぎたのにそんなことを考えるなんて変ですね。
といって母親は笑う。
「―大丈夫だって―いってましたよ」
とおきぬ。
「大丈夫だって―有難うっていってました」
つうっと母親の頬に涙が一筋流れた
「大好きだよって」
後から後から涙が筋となって流れる。
「―そう…ですか…あのこ…が……………」
「はい。すごくいいお子さんでした―きっとご両親が―素敵だから」
笑顔のままおきぬ。
その言葉に母親は―胸をつかれたような表情になり―そして笑った。
それこそ満面の笑みで
どことなく子供に似たその笑みで
「もちろん…ですよ私と主人の子供ですもの」
という。
「他の誰でもないあの子ですもの」
―と。
涙を流したままで。
そして、おきぬはそのまま辞去しようとしたが、はたと何かに気付いたかのように、ぽんと両手を打ちふたりに向きあった。
「あ、すいませんあの、料金の件なんですけど」
くりっと首を傾げおきぬ。
「え?―はいちゃんと指定してもらった口座のほうに振り込んでましたが?」
父親がとつとつと話す。
「いえ。そうじゃなくて今美神令子事務所では、『きゃっしゅばっくきゃんぺーん』というものがあって―その、料金の30パーセントが還ってくるんです」
んなワケがない。
―第一そんなことをあの美神がするわけがない。
ちなみにおきぬの今回のギャラの取り分は30パーセントである。
「―そんなこと初めて聞きますが?」
とすこしばかり眉を潜め父親。
「きょ、きょうからなんです。」
ぶんぶんと手をふりおきぬ。
「―だから、すいませんが銀行のこうざ教えてもらっていいですか?」

つづく

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