BOY MEETS A GIRL その十四 〜 中・過去との決別 〜
投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 5/ 3)
誰かが、彼の名前を呼んでいた。何度も、何度も、何度も優しく繰り返しながら。
誰かの呻き声も聞こえる。それが自分が発しているものだと気づいたとき、初めて竜太は、立ち上がろうとした。それでも、目は開いてか開かざるか、闇ばかりが彼の視界を覆っていた。
「無理をなされずとも……。じきに回復しますからご安心なさい」
優しく、気分を落ち着かせ、不思議な魅力を持った声は、どこか力強い。
そう、これは男の声だ。
……誰だっけ?……
竜太は、記憶の綱を必死に手繰り寄せた。確かに、聞き覚えのある声だが、それがなかなか思い出せない。
そんな彼の努力も虚しく、彼の目は自然と外の景色を映し出していた。
―――そこには、全く新しい世界が広がっていた――――
「張良【ちょうりょう】……さま?」
むくりと、上半身のみ起こした竜太は、あたかも幽霊でも見るような目つきで治療してくれていた男を見上げた。この世界で幽霊はあまり珍しくも無いのだが……とにかく、信じられないといった表情である。
「お久しぶりです。闘劉殿」
黄色と白のシルクの服で、四角い帽子を被った服装は、それだけで威厳があり、やや垂れ目の童顔は、服装とは対称的に人懐っこさを醸し出している。しかし、竜神である筈なのに、その象徴ともいえる角は、そこだけ覆うように布が巻かれており隠されており、髪も染めてあるのか――いや、染めてあるとは思えぬほど綺麗な黒髪だった。
竜太は、起き上がると、立てひざをつき、右手で握りこぶしを作り、それを胸の前で左の手のひらに合わせる――中国式の敬礼――をとった。
「この人が、あたし達をここまで――」
「張良さま、この度は、かたじけのうござる。まこと御礼申し上げまする」
自分の言葉も遮られ、一人、横に突っ立て居るタマモは、いつに無く真剣な竜太と張良の顔を見比べてみた。
張良は、背も低く痩せていて、背中まで伸びる長髪はキチンと手入れされているようで不潔な感じは微塵もださない。ボサボサな髪の竜太とは、全く対称的な好青年だ。だが、年齢は24,5歳ほどでいかにも優男という感じ。それがどうして竜太をここまで緊張させるのだろう?
確かに張良は、タマモを抱えて飛んですら、竜太に追いつくほどのスピードを持っていたし、落下する自分達をとっさに救ってくれるほどの状況判断ができる男だが、果たしてそれが竜太の眼から見て尊敬に値するのだろうか?
「タマモ……弟子の妖狐ですが……まで、世話になったそうで……かたじけのうござる」
タマモは、ぺこんと頭を下げたが、その瞳は真剣そのもので、じっくり、冷静に張良を観察していた。
張良は、礼を言われるほど良いことはしていない。と言った顔で黙って肯いた。
――謙虚そうな男であるが、まだ何か有る。
タマモは、じっくり、慎重に観察を続ける。
「張良さま、叔父上も寂しがっております。どうか顔を出してやって下さい」
「いや、私は所詮、隠居の身……闘劉殿こそ、ご家族には、お会いしているのかな」
「……拙者は、小竜紀さまと猿神さま……それに弟子たちが家族でございます。…それに、闘劉は、反対を押し切り俗界に降りた親不孝者……よほどの昔に親子の縁を切られてしまっています。今は、専ら幼名の小竜太を名乗っています」
竜太が寂しそうに笑ったのを見てタマモは、訳を尋ねたくなったが今は込み入っているので後回しにした。
「……それでは、小竜太殿。貴方をここにお連れしてから二時間ほどし経っておりませぬ。今なら、まだ……」
竜太は、起きて初めて景色を見渡した。
あたり一面が芝生に覆われていて、竜太の頭上には木が生い茂っており、ちょうど陰になっている。病院の三階より高い位置にあるのに街が見渡せないことから、どうやらここは病院の裏山のようだ。遠くのビルが紅く染まっていることから今は夕暮れ時だろうが、病院が遮ってしまい夕日は見えない。。
「迷惑ついでに手伝ってくださいますか? タマモも……」
張良は黙って肯いたが、タマモは面倒くさそうに息をついた。
一時だけ、竜太にとって心地の良い沈黙が訪れたが、その安息の時間もタマモの次の言葉によって乱され、やがて壊された。
「なんで、私が?」
竜太は、間の抜けた顔をしている。先程も助けてくれたのだから今度も手を貸してくれると思ったのだろう。
「さっきは、私の直感を頼ってみただけ。今は、別にどうってことないわ。それより今は、事務所に一度帰りたいの」
「事務所には送ってってやる! 手伝ってくれる時間を差し引いてもそのほうが早い!頼む、タマモ!油揚げでも何でも毎日食わせてやる。事務所のやつらにだっていつでも合わせてやる! とにかく、お前が居なきゃダメなんだ!」
竜太は、自分にできる最高の報酬を与えてやったつもりだが別段喜ぶ様子も無いタマモを見て余計に不安になった。
しかし、最初から。タマモの返事は決まっていたのだ。慌てふためいて自分に泣き縋る竜太が見れただけで十分だ。元々、手伝ってやるつもりだったのだが……とにかく、これで当分からかってやれる。
「…一つ、条件があるわ。実は、私が生きていることが人間達に知られるとまずいの……
別に今のまま暮らしてても、それほど危険があるって訳じゃいないけど……とにかく、うっとうしいのよ。こそこそ隠れまわるようなマネを続けるのは!」
「ああ、それは知ってる……だが……」
「まだ、何かあるの!?」
「いや、ありが…と……ぅ………」
彼女の話からその意図を感じ取った竜太は、目頭が熱くなるのを御さえられなかった。
張良は、自分とタマモに背を向けて涙を悟られまいとする竜太の姿にかつての主君、劉邦【りゅうほう】を思い出さずにいられなかった。
何を隠そう、竜太の叔父こそが、今や八大龍王として天界にその名を轟かせる赤龍王 劉邦である。
ここで、八大龍王について説明せねばなるまい。……が! 字数の関係でまた後で。
竜太は、しばしの間、芝生にあぐらをかいていたタマモの周りを回っていたが、それにも飽きたとみえて今度は張良の周りを……
「アンタ、さっきから何ヤッてんの?」
「いや……なんて言えば良いかわからなくて……」
「ハ?」
そもそも、タマモは、竜太が何をしようとしているのかすら知らなかった。
(話す? 昏睡状態のさゆりと? いまさら? 何故? どうやって?)
後から後から疑問が湧いてくるが、タマモは、それを一つも答えに結びつけることは出来ない。
今回の竜太の行動や言動は、不可解なものばかりで、今までタマモが知っていた竜太とは、全くの別人のようであった。
「じゃあ、質問を変えるわ。私は着いて行って何をすればいいの?」
自問しても始まらないので、タマモは尋ねてみる。
タマモが喋ろうが喋るまいが、どうせ竜太が名案を思いつくなんてことはありゃしないのだから……
「ああ……とりあえず、幻術だな、やっぱり」
「それは、わかってるわよ。そうじゃなくて、どんな?」
「うん……そうだな……」
竜太は、なにやら不安げな表情でまた考え込んでしまう。
その顔は、さっきまでの……いや、いつもの威勢の良いものではなかった。
それは、公彦と和解する前に会うのを嫌がっていた美神の表情と良く似ていた。
ただ違うのは……
「何、気の無い返事してんのよ!! アンタは、とにかく大声で挨拶して、適当なこと言って……それで失敗したならそれで良いでしょ! とにかく、元気の良い所見せて、アンタの気持ちを伝えられればそれで良いのよ、わかった!?」
竜太は、先ほどから何をすればいいのか迷っているのではなく、実行してもいいのかを迷っているように見えた。
竜太は、それまでじっとタマモを見つめていたが、何か思い立ったように、ふいに病院を見定めた。
日を背に白く聳え立つそれからは、まるで、匠であった時の思い出全てが詰まっているような気がした。
三人を、それぞれに撫でる春の風は、厳しいものだったが、決して冷たいものではなかった。
――― 横島クンとシロちゃん♪ Part3 ―――
カラン
横島は、氷の入ったグラス(中身は水)を揺らし――特に意味は無いが――その音を楽しんだ。
下手に大きく振ると中身(水)がこぼれてしまう。かと言って、慎重になりすぎると氷がグラスの側面を辿る事になってしまい、上手く音がでない。
動作が単調で、簡単そうに見える作業ほど難しいものは無い。そう、簡単そうなことほど難しいのだ。
それは、動作では無くとも共通するものがあって、例えば物を思い出すときなども――
『なんで、俺は、ここに居るんだ?』
横島は、ひたすら考える。いや、大体の理由はわかっているのだ。
しかし、横島は、頭を整理する意味も込めて今日の出来事を順を追って振り返った。
…
どのくらい思案していたのかわからないが、相当長い時間だったのだろう。手に持っていたグラス(中身は水)の氷は、溶けてなくなり、かわりにずっとそのままだった手が痛い……。横島は、一時、グラス(中は水だってば!)をテーブルに置き、シロのほうへ目をやった。
シロも何やら考え込んでいるらしく、難しい顔をしていた。
二人きりで、しかもプライベートの時間なのに、いつに無く真剣なので邪魔をするのはなんとなく気が咎めた。
話し掛けるかどうか、迷っているうちにシロのほうが横島に気づき目が合ってしまった。
それなのに、シロの視線は厳しいもので、ジロっと横島を睨んでいるかのようだった。
照れるやら、戸惑うやらで、横島は、思わずグラス(水って言ってんだろ! かわいそうだから訊くなよ、もう)に手をかけてしまった。これを飲み干してしまい、お代わりを頼んだときのマスターの目が怖い……
なにしろ、横島たちは、二人でクリームソーダ二杯しか注文していないのだ。いつからここにいるのか、横島にはわからないが……
≪そう言えば、こうゆーのってデートって言うよな、普通≫
折角手に取ったのを飲みもせず置くのは不自然な感じがしたので、横島は、しかたなくグラス(もういいや)を飲み干した。
長時間、体温によって温められた水は、なんとも味気なく、生温く、不味かった。
今までの
コメント:
- くそ長い文を読んで頂き、それだけでもこの魚高、まことに感謝の気持ちでいっぱいです。
……が、もし! もしですよ。賛成票を入れてくれるという心の広いお方がいれば、どうか前回に私の犯したあやまちを慰める意味で、中率票、もしくは反対票をいただきたい。
こんなことで、魚高生涯の恥じを拭えるとは思っておりませぬが、どうかこの下郎の気持ちを察していただけるならば、お願い申し上げたし候。 (魚高@何故か、変な日本語)
- 『クン ちゃん』連載化決定!!(←一部では勝手に決定が下されていたらしい)
しかし、なんか俺、斑駒さんをはじめ多くの『彼女』(←誰だかわかりますよね)ファンを裏切ってしまった気がする。
みんなごめんっス! (魚高)
- 反対票ですが、内心は反対の気持ちです。(賛成票いれたい)
魚高さんの希望により・・・うおーーん!(パ二クッています)
さけんでるひまあるんならさっさとふろやれ!!(嗚呼、死の女神?)
またまたなぐられ死亡 きゅうり享年13歳 (きゅうりだれか、ゾンビパウダーを…)
- なるほど、反対票が入っていたのにはそういう理由が……
劉邦と聞くと……やっぱり『あの』劉邦を思い出してしまいますね……中国史には疎いので、あの劉邦と同一人物であるかの確信が持てないのが悔しいですが(爆)。
横シロ、大人気ですね。つーか普通の女の子はそんな貧しいデートに付き合ってはくれないぞ? 恵まれてるな、横島! (ロックンロール)
- きゅうり様
フォローありがとうございます♪
「うおーーん!」? どこかで聞いたような叫びかたですね(笑)
「ふろやれ!!」? 風呂の支度をしろ、ってこと? カナタを読めってこと?
ああ! 数多くの謎ワードがッ!!(←気にしないで下さい。勝手に苦悩してるフリをしてるだけですから)
ロックンロール様
ええ、あの劉邦にあの張良です。つーか、少しはひねれよ、自分!!
スンマセン。好きなんで、今後の展開にも絡ませていこうと思ってます。
しかし、横シロが大人気? まあ、メットマンよりは好評だとは思いますが(遠い眼) (魚高)
- 何なんですかああッッ!!?その「中率票、もしくは反対票をいただきたい」って!!!(泣)
ちゅーか賛成票入れたい私の気持ちはああああーーーッッッ!!!??(誤爆笑)
本編もさることながら、相変わらず「クン チャン」は面白いし…ッッ!!!(泣き笑い)
うあああああ…ッッこんなことがあっていいのかあああッッッ!!!??(泣) (みっちー(賛成なのに〜!!))
- ということで、ご要望がありましたので(賛成票のところを)中立票にさせていただきます(笑)。玉藻は何だかんだ言っても優しいんですね、けどそれでもまず小竜太様を一つからかってから頼みを聞いてやるところに彼女「らしさ」が感じられました。前回の自分の身の引き方にやはり不満があったのであろう小竜太様、今回は上手くいくのでしょうか? 次回が楽しみです♪ (kitchensink)
- 連載決定おめでとー!!♪♪(ぱふぱふどんどんどん)
いやー、悩む竜太をよそに、すっかり良い雰囲気の横島とシロ!(←そうか?)
これはひょっとすれば、ひょっとするかも!?
さぁ、抜け駆けるんだ、シロ!!! (黒犬)
- みっちー様
すんません! み〜んな僕の不覚の所為です。み〜んな僕が悪いんです、エッヘン!(←わけがわからん)
面白いって言ってもらえると次回への励みになります。ありがとうございます♪
kitchensink様
小竜太様……?(←首の角度、斜め45°) ああ!(←やっと気づいたらしい)タマモらしさがありますか? いや、自分はキャラクターの特性を掴んだり動かしたりするのが特に苦手ですので、それが上手く行ってるなら大満足です!! (魚高)
- 黒犬様
連載が決定するにはかなり悩みましたが(←ホントにかなり悩みました!)
黒犬さんに斑駒さん、それに師匠の視線がとてつもなく怖かったのでがんばってみました。
しかし、次回の出来がメチャクチャ悪いので、すっごい心配です♪ (魚高)
- ↑×8 きゅうりさ〜ん! 今はつらいでしょうけどガマンしてくださいッ! ゾンビパウダーは猫姫さんの自作品で、最近は品薄なんです。
でも、大丈夫。一度、それによって復活した人は、脅威の自己治癒力で死の淵からでも再生できるんですよ。
詳しくは『scandal9』のコメント欄、黒犬さんを御参照ください。ホラ、散弾銃で打ち抜かれても大丈夫!
コレであなたも不老不死♪ (斑駒)
- さて、上で中立票を入れて責任は果たしましたし、おもむろに賛成票を入れましょうか(爆)
魚高さんのミスも、さすがにもう時効でしょうし、それ以上に、ここで賛成票を入れなければ今度は私が自身に負い目を感じるようになってしまいます。
だって、シロが、スネて、一生懸命、むつかしい顔して、横島くんに、訴えて……
横島くんッ! 気付いてッ! あなたは知らないでしょうし、キーとなる部分で寝ちゃってたけど。大丈夫! あなたなら、分かる! 全ては、ホネなんですッッ!!
本編の方では少竜太さまが精神的に窮しているところに、普段の仕返しとばかりに付け入る、したたかなタマモが良かったです。
根が深そうな新キャラも登場して、ますます先が楽しみですね。連載が決定した『クン ちゃん』もッ!! (斑駒)
- 斑駒様
そうですか……パウダー(消耗品)は品薄ですか……ニヤ(冷笑)
きゅうりさん? もし、よろしければ『石の仮面』な〜んて物もありますよ。
これは、筋力まで大幅に増強できて、自己再生能力だってもちろんついてきます♪
ただ、日光に当たると溶けますが……
スンマセンす! なんか、せめてもの償いとしてやったことが、あまりに優しすぎる皆様を悩ませてしまったりと、逆効果になってしまったようで……もうこんなことは、無いように気をつけます。 (魚高)
- (続き)
本編に新登場の張良クンは、と〜っても頭が良く、高臣として称えられた実在の人物がモデルです!!
字数があれば今回は、やりたいことがたくさん在ったのですが、配分がどうしても上手くいかず不完全な物となってしまいました。
まあ、いつものことなんスけどね……(涙)
次回の、『クン ちゃん』は、大きく暴れますので(謎)今のうちに僕に投げる石を用意しておいて下さい(涙) (魚高)
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