ザ・グレート・展開予測ショー

レット・イット・ビー!! 〜四〜


投稿者名:我乱堂
投稿日時:(02/ 8/21)

 世界は暮色の支配下にあるようだった。


 おキヌはその時のことを思い出す。
 赤いような、橙色のような。
 そんな色だ。
 自分の隣りには横島が歩いていて、その腕にしがみついていて尻尾を振っているシロがいて、その後ろを鼻歌を歌いながら歩くタマモがいる。
 走る車の音も遠く。
 流れる人の雑踏はより遠かった。
 静かだった。
 時折、こんな瞬間がある。
 どうしてか、世界にいるのは自分たちだけのようでいて、とても寂しくなって、それでいて何処か暖かくなれるようなこんな時間が。
「いいですよね」
 ふっと、そんなことを口にしていた。
「――何、おキヌちゃん?」
 多分、横島が不思議そうに聞いてきた。
「多分」なのは世界の色は淡い光の中に包まれ、誰が誰なのかの見分けがつかなかったから。
 けど、その声は横島だった。
 だからおキヌは答えた。
「なんだか夕日の色が大気に溶けていて……とても素敵な感じがします」
「…………………………………」
 横島は何処かを見上げたようだった。
 何処を見ていたのかはよく解らない。
 構わずおキヌは言い添えた。
「――けど、こんな時間っていつも短いんですよね。昼と夜の狭間の一瞬だけ――」
「――え?」
 声と共に、立ち止まった。
「何で? ルシ――」

 そして、倒れた。


「……ふーん。それであんなこと言った訳……」
 令子は何処か不機嫌そうだった。
「あの時、横島さんはルシオラさんのこと言おうとしていたと思うんですけど」
 そう言って、おキヌは横島の被っていた毛布を掛け直す。寝返りしたときに少し乱れていたが、それは少しだ。わざわざ直すほどでもない。しかし、おキヌはそれをしたかった。
「多分、そうね」
 その背中に、令子の声がかかる。
「その時の何かがきっかけで、横島くん、ルシオラのことを思い出したのね……」
「――え?」
 何か納得のいかない言葉を聞いたような気がして、おキヌは振り返った。
「まるでその言い方じゃ……」
「――おキヌちゃん、こいつのここ半年の態度を見て『変だなぁ』とか思わなかった?」
「えーと……」
 言われて思い返すが、特におかしなところはない。ずっと前から横島は「あんな感じ」で、これからもずっと「こんな感じ」なのだと思っていた。
「確かに横島クンはバカでスケベのセクハラ男だけど、“あれだけのこと”があって、なんにも成長していないのって、不自然に思わなかったの?」
「それは――……」
 思わなかった。
 何故か思わなかった。
「――横島クン、バカだから」
 ぽつり、と令子はいきなり言葉のトーンを落とした。
「え?」
「横島クン、バカだから、いつだって正しい答えを出せていたのよね」
「それは、一体……」
 令子は微かに笑った。
「ねぇ、おキヌちゃん、私たちGSは霊魂の存在を知っているわ。それが輪廻することも。世の中にはそれを一切信じない人たちがいるけど、ね」
「……………………」
 おキヌは無言で頷いたが、令子の言葉は回りくどく感じた。一体何を言わんとしているのかよく解らないでいた。
「――人間にとって、死は絶対の別れじゃないのよ」
 言った。
「人は人生の内に何度も出会いと別れ、再会を経験するわ。別れはとても辛いけど、でも互いに生きている限りは再会する機会がある。それが死によるものであっても、輪廻は巡り、いつかまた――
 だからね。
 人間にとって“二度と逢えない”なんてことはないの」
「…………それは、解ります」
 彼女もまた、令子や横島との別れと再会を経験した者だから。
「でも――」
「それだから、人は別れの悲しみに囚われたりせず、出会いの楽しさのために、再会の喜びのために生きていくことこそが大事で正しいことなのよ」
「それは――」
「だから、コイツ……」
 令子はそっと横島の頭へと手を伸ばした。そのまま撫で上げるのかとおキヌは思ったが、それは触れるまでもなく途中で止まった。
「ルシオラとまた出会うときまで涙なんか流したくなんかないから――」
「美神さん……」
 その声は、その眼差しには、おキヌがかつて見たことのないほどの優しさが感じられた。
「思い出さないように、思い出さないようにって……それで……」
 ふっと、彼女はおキヌの方を見た。

「すっかり忘れてたんじゃないかしら」
『だあぁぁ』

 コケた。

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