ザ・グレート・展開予測ショー

心は共に・4


投稿者名:マサ
投稿日時:(02/10/19)

「おキヌちゃん…!おキヌちゃーん!今日さあ、少し遅くなるんだけど――――」
少女は背後からの声に気付き手振り返る。
 〔おキヌ〕
以前と同じ……彼女が辛うじて覚えていた数少ない記憶の中の、自分の名前―――。
呼んだ声で誰かは分かっている。
「早苗おねえちゃん!また山田先輩とデートなの?」
内心、少々呆れたが、表情には出さずにおキヌは問う。
その問いに、早苗は恥ずかしげに答える。
「いや…まあ、そーなんだけどさ」
あははっ、と照れ隠しに笑って見せる早苗。
元から高めの声のトーンが更に高くなっているのが分かった。
それが面白くて、おキヌはついくすくすと笑ってしまう。
「いいわ!義父さんと義母さんにはうまく言っとく!≪何でかな?おねえちゃんを見ていると、私の方も楽しくなってくる…何故なの?≫」



「うーさぶさぶっ」
自然と口をつく呟き。
一応、防寒のために冬用のストッキングをしてはいるのだ。
勿論、さり気無く地肌に近い色のものをチョイスしている。
しかし、自転車に乗っていて、風をしっかり受けるのだから堪らない。寒いものは寒いのである。

何時もの帰り道を走っていくと、この景色の中でもしっかり主張する青いオープンタイプのスポーツカーが一台目に止まる。
寒そう、遠目から見ての彼女の感想は唯単にそんなものだった。
よく見ると、誰かがその車に寄り掛かっている。サングラスをした栗色の長髪の女性だ。
そして、故障したのか、ボンネットの中に頭を入れている高校生くらいの少年がいる。

 キィッ
―『栗色の長髪の女性』と『高校生くらいの少年』―
その言葉が頭を掠めたとき、おキヌは急停止して後ろを振り向くと、大分離れてしまった先程のスポーツカーが走り去る所だった。
途端に涙が溢れる。
「あれ?どうしたのかな、涙が…止まらない……
――…嬉しいっ…――
「…え?嬉しい…?」
何処からか頭に浮かんだ言葉を疑問に思いつつ、復唱した。
確かに何故か分からないが、無性に嬉しさを感じる。
本当に分からないのだ、それ位しか。

 現在の彼女には…。

「…また…会えるかな、あの人たちに。何となく、知っている人のような…そんな気がする…。何処で会ったのか、思い出せないけど」




家に帰ると丁度義母、つまり早苗の母が居間で何やらぶつぶつ呟いていた。
「う〜ん、今夜の夕飯は何にしようかしら…?」
主婦の日常的な悩みだ。
左腕を腹の辺りに据え、右手の人差し指を下顎に当てる。『女性風考えるポーズ』とでも言うべきだろうか。
「……肉じゃがとかどうかしら」
少々考えた後、おキヌが言った。
「あら、帰ってきてたの?……そうねぇ、肉じゃがが良いかもね」
「…ところで、義母さん」
「何かあったの?」
おキヌが微妙に顔を顰めた事を心配したらしい。
「さっきそこでオレンジ色っぽい髪の女の人と赤いバンダナをした私より一つくらい年上の男の子を見かけたんだけど…」
「え!?」
義母は一瞬驚いたようだったが、一つ間を置いた所で、そう、と一言漏らした。
「話はしたのかい?」
「別に……」
ずずず、とお茶を啜り、義母が更に続ける。
「でも、…気になったのよね?」
「…うん」
何処と無く義母が何かを知っているのは分かったが、おキヌは追求するのも気の毒のような気がした。


「さあ、換気でもしようかしら。ちょっと寒いけどね」
空気を振り切るように悪戯っぽい笑顔で言いながら義母が立ち上がる。

















 ―――あなたは何時でもウチの子…よね?―――

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