ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム4:「アーティフィカルエンジェル」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/12)

「再生するんです彼らは!言ったでしょう?霊力の源は地精です!」
通常スケルトンは、壊れても甦る。粉微塵に消し飛ばして浄化しなければ。
だが逆に、雪之丞の現在の破壊力と、スピードをもってすれば、
相手はたかがカルシウム。軽く撫でたような攻撃ででも消え去るだろう。
ましてや浄化もなにも、霊気同士の接触で、弱い霊気は飲み込まれて消滅する。
スケルトンごときでは再生しようがないのである。
しかし彼らの本質は、どちらかといえばカルシウムゴーレムのようなもの。
雪之丞は知らないことだが、チョコレートのゴーレムは凄まじい再生力を有していた。
かてて加えて、地精とは大地。ひいては地球の意思力そのもの。
地球の霊力を、人間のそれが超えることなどできるだろうか?
万物の霊長を自称するからにはできてもらいたいが、現実的には不可能。
あるいは人骨数体程度の質量なら、絶えず拳打を繰り返せば、
ボディが急激に劣化してやがて朽ちるなり、
ベースになっている人間霊がストレスで自滅の道を選ぶなりするだろうが。
それすらも並の霊能者には大変な労力だろう。
それが、今いるゴーレムスケルトンの数は百に届こうかと云うほど。
しかも、単純なボリュームだけで云えば、
雪之丞の霊圧も並の枠をはるか見下ろす域にいるのだが、
このように数十体に分割して配置されていると、
一匹潰す間に他の十匹が再生してしまう。物理的に除霊が追いつかない。
ましてや雪之丞の戦闘の基本は格闘メイン。このことが示す二つの弱点。
一、ザコと言えど、背後に立たれたら殴りようが無い以上、撃破不能。
二、『近寄って』『殴る』の二動作。複数の敵には倍の時間がかかる。
『質より量』を旗印に包囲されるのは少々面白くないのである。
カカカカカカカカカ…………
スケルトン達が歯を打ち鳴らす。嘲笑しているのだ。孤立した獲物を。
<カカカ…。あんたは強いよ。パワー、スピード、一対一で戦ったら敵わない>
スケルトンの群れそのものから、嗄れ声がこだまする。
<だが、“強さ”にも色々あってな。“あんたら”は俺達より弱いな!>
「……それで?」
雪之丞は鬱陶しげにパタパタあおぎながら言う。
<それで……だと?状況が飲み込めていないのか>
「だからどうしたっつってんだよ!シャキシャキ答えろ、ボケッ!!」
ばぐしゃ
言うや否や、手近なスケルトンを蹴り上げて壊し、再び苛烈に攻めはじめる。
「あんたらだと?勘違いしてんじゃねェ!俺達を仲良しチームだと思ったか!?」
ゴズッ、ボキャッ
右手に裏拳。そのまま自分の向きを右側に流して、
それまで背後だった位置に右のミドルキック。二体破砕。
「俺が強いのなんかいちいち聞かされるまでもねェんだよ!!
御託を並べる暇があったら、ちったぁやり返してきてみやがれッ!!!」
<ク…聞き分けがよければちょっと脅かされて終わるものを……
莫迦に生きる意味など無い。死ね!!>
その言葉と同時、骨達が、文字通り雪崩となって雪之丞に圧し掛かる。
「っおぉぉぉおぉぉ!ざけんじゃねぇええぇぇ!!」
迫る白骨を果敢に打ち砕き、圧し返そうとする。足を止めて。
あるいは、一点突破を臨めば、もっと負担は減っただろうが、嫌だった。
相手は、このばかげた攻撃に相当の自信を持っている。
そして事実、こんな攻撃が成功してしまえばまず間違いなく必殺技だろう。
正面から破って、数的優位などというくだらない優越感を奪いたい。
群れれば強くなれるなどというおためごかし、認めてやれるわけがない。
「やっっっってや…」
メシャ
雪之丞の除霊には、二つの弱点がある。背後を取られたら、拳が届かない。
ゴシャグシャドシャゴシャゴ
背中をしたたか打ちつけられ、ひるんだほんの刹那の間に、完成した。
敵の必殺攻撃が。
雪之丞が最も得意とする格闘の間合い、その内側まで骨で埋まり、
前腕一本満足に振るえなくなる。緋色の鎧にも亀裂が走る。
「がぁぁぁぁぁぁ!?」
鎧は彼の露出した霊体である。それが壊される痛みは、肉体の比ではない。
集中が解ける寸前、鬼神など比較にならぬほどの精神力で
一旦は放棄しかけた鎧の構築を再び持ち直す。
これができない術者なら、彼と同じ術を学ぶのは全くの無価値である。
だが、生身ほどではないにせよ、この圧倒的質量の只中に、
あまりにも頼りない強度しか持ちえない、彼自身同然の鎧。
この光景、外から見たら、蠢く白い蟠りである。
そのおぞましさに、キヌは愕然と立ち尽くした。
まさに、この世の悪夢。だが、救いの神がいないわけではなかった。
感傷などもち得ない、鋼鉄の戦乙女。
「耐魔フィールド・最大出力で・前方へ・偏展開。
フライトシステム・緊急起動。アフターバーナー・併用」
ォウッ
実際には、とんでもない爆音が轟かなければ説明がつかない。
だが、その場にいた者達に聞き取れたのは、それが精一杯だった。
白い欠片が盛大に飛び散ったその場から再生をはじめている。
その中心に雪之丞。攻撃される前と同じ。ただ、彼女が傍らに。
「生命・健康に・なにか・重大な・問題は?」
一瞥もせずに問い掛ける。雪之丞はしばしあっけにとられていたが
「腹減った」
ポツリと答える。
「不備でした。マリア・戦闘食は・携行していません」
「だろうな。今度ジーさんに強請っておいてくれ。おっとそれと、
礼は言わねェぜ。俺が集めた敵を、楽してかっさらいやがったんだし」
「イエス。現状・トップです」
「それともう一つ。根本的な解決になにもなってねェ」
「イエス。さしあたって・次善策は・相互カバー」
「却下。俺が背中預けていい女は一人きりなんだよ」
「ノー・プロブレム。
オートマトンを・あえて・擬人化しようというなら・話は・別ですが」
「そーいやそうだ。にしても、やっぱダメ。
大量リードされちまってるのに固まって身を守ってなんかいられるか」
「イエス。仕方・ありません。勝手に・護衛させてもらいます」
「敵に塩送る気かよ?」
「人間・守る・マリア・使命です」
すると雪之丞は露骨に渋面をつくり、言う。
「あいにくお前なんかに守ってもらうつもりはねェ」
「現世は・なにも・信念で・成り立っているわけではありません」
大真面目に「つもりがあるもないも関係ない」と言っているようだ。
「じゃあ現実的な話をするなら」
雪之丞は思いっきりマリアを睨みつけて続ける。
「俺はお前を守らねェ。他人のことにかまけてっと、お前がオシャカだぜ?」
「構いません。マリア・守るために・います。機体の・維持は・優先・されません」
「ストレートに言わなきゃダメか。俺より弱い奴に俺を守れるわけねェよ!」
「その仮定は・矛盾が・あります。現に・今…」
「ウルセーッ!とにかく守られたくねーっつわれたら黙って従えよ!!」
「…………………」
マリアが黙ったのを承諾と悟ったか、雪之丞は敵に向き直った。
「だいたい、なんだよ…守る、って。解ってんのかよ……
他人守ったって、損しかしねーんだぞ…親切安売りしてんじゃねーよ」
独りごちながら、またも敵陣に向かって跳躍する。
――方便じゃねーんだよ…
ゴシャ
急降下キックでまず一体。
――守るなんてガラじゃねー、ってのは。
グシュッ、ベリッ
拳をあえて握らず、指の分だけ間合いを伸ばし、左右にそれぞれ一撃づつ。
――…一度っきりの人生、自分のために使いきらねーでどーすんだ?
ザドンッ
その鉤型の指使いのまま、手近な巨木の幹をこそぎとる。
バキバキバキバキバキ…
下敷きになって潰れていく骸骨。
「なのに……なんで…なんでだッ…………!」
死んだのだ。自分が尊敬するヒトは。あんなに強いヒトだったのに。
どうして?死ぬのは弱い奴のはずじゃないのか?
自分は、唯一あのヒトには到底敵わない。あまつさえ、かつては幼かった。
なんで自分が生きててあのヒトが今生きていないんだろう。
いつもいつも胸の内にくすぶる疑問。答えは認めたくないもの。
――きっと俺を守ったりしたからだ………。
別に、特に明確な根拠があるわけじゃない。いうなれば直感、という奴だ。
ただ、彼女が彼を守り続けていたのは事実で、その時の怪我だとか、
あるいは疲労が、あとになってタチの悪い病気を呼び込んだとか、
そういうことはあったかもしれない。
勿論、もっと直接的に彼の命を狙う悪者に殺されたかもしれない。
以来、大嫌いになった。守るだとか、守られるだとか、そういったことは。
それは、他人は強引な飛躍だと笑うだろうけれど、
死ぬだとか、死なれるだとか、拒絶して当たり前なものと同じだから。
――失いたくないものがあるなら、守る以外の方法で護る。
導かれる答えはシンプルだ。倒せばいい。攻めればいい。奪う者を。
雪之丞はそのまま倒れた巨木を抱え上げ、振り回して敵を薙ぎ散らす。
守る、と言われたことに、自尊心を傷つけられぬではなかったが、
相手のその言葉が、善意からであることもまた、解らぬではない。
遣り残した事、ゴマンとある。ママが命を賭して守った生命だ。
それ相応にデカいことやらなきゃ、採算ってやつが合わないだろう?
だから守れない。死ねない。
だけど、大切な友達はきっと護る。
「ビビッてんのか?十派一からげどもッ!俺が相手になってやらぁ!!」
彼は望んだ。その言葉どおり、自分が狙われることを。
負ける気はない。護りたいものがたくさんできた。障害はすべて倒す。
ベリンッ
彼が抱えた巨木の幹。その中を掘り進んでの奇襲。完全に虚を突かれた。
「………ッナメんな!!」
慌てはしたが、彼は冷静だった。
拳の間合いの内側に入り込んだその敵と間合いを離せば、
背後の敵に近づくことになる。ならば――
ゴバッ
肉弾を喰らわしてぶっ飛ばす。が。やはり少々、熱くなりすぎていた。
頭上から単独で急襲してくる骸骨。気づくのが遅すぎた。
全力で突進した勢いが、殺しきれない。戦慄する。
一匹の攻撃力はまったくないが、組みつかれて一瞬でも動きが
止まれば次が来る。どんどん来る。対応しきれなくなるほどに。
雪之丞が圧死するほどの大量の骸骨が。
ザッ
影が、割って入った。
「フィールド・全開………システムエラー」
ゴドンッ
雪之丞に圧し掛かってきたのは、たった200kgぽっち。
まぁ、重量計でもない雪之丞にそんなことは解らなかったが、
骨ではないのは見るまでもなく明らかだった。
「ロボット!てめー俺が言ったこと聞こえてなかったとは…なに?」
雪之丞が押しのけたマリアは、脱力したまま地に伏した。

つづく

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