ザ・グレート・展開予測ショー

まあ、こういう日もあるわ 後編


投稿者名:我乱堂
投稿日時:(03/ 1/ 8)

「ちょっとミスったわね……」
 ようやく――ガスの残りもほど少なく、視界はすでにホワイト・アウト、タイヤが動けないぬかるみにハマり二時間を経て――令子は自分が危機的状況に陥ったことを認めた。認めたくはなかったが。
「――まあ、豪雪地帯とは言え、ヒマラヤの山の中ってわけじゃないし、衛星からも監視してるから、救助隊がこれないなんてこたぁないでしょうけど」
 自分の気分を落ち着かせるように状況を口にする。あえて楽観的に。
 しかし。

『待ち人来たらず』

 脳裏にてその文字が踊りだす。『努力実らず』の文字と腕を組んでソシュアルダンスをはじめだした。ワン・ツー・スリー・フォー。そこでジャンプ。
 令子は「むー」と唸り、それから。
「馬鹿馬鹿しい……!」
 叫んだ。


「――イタズラ?」
「いや、あんな気にするとは思ってなかったし……」
 炬燵の反対側に座っていた早苗は、「ごめん、謝るから」と板に額をぶつけるように頭を下げた。
「それは……美神さんに直接いってください……!」
 さすがに怒ったのか、ぷいとおキヌは顔を逸らせた。
「ああ〜……」
「まあ、おキヌ、そこらにしてあげなさい」
「義父さん……」
 居間に入ってきた神主姿の父を見て、しかしおキヌは「でも……」という。
「美神さん、すごい気にしていたんですよ!」
「……そこいら辺は、早苗の認識不足ではあるがな。GSがどれだけ運不運を気にしているのか、ということを知らなかったようだ……」
 ――そのとおり。
 令子が引いた大凶は、早苗が仕込んだものだった。
 もともとからして、この神社の御神籤に大凶などというものはない。今は、の話で昔はあったのだが。最近は不景気であるということもあって、そんな籤はいれなくなったのだ。少しでも気分よく新年を過ごそうとするための配慮である。しかし、早苗は令子の繁盛振りをおキヌに聞いていた。
『この不景気に――』
“不況? 何それ”な感じで稼いでいる令子の言動は、聞くにつけ無神経というか、不愉快だった。そのことによって別に早苗自身にどうこうというわけではないが、この田舎では就職先も限られていて、卒業生がどうすることもできずに家の手伝いをしているなどということも珍しくない、というか、それが普通だ。
 それで――。
「……あんな気にするなんて、思わなかったし」
 早苗は、呟く。
 すぐにバラすつもりだった。
 できなかったのは、その衝撃の受け具合が想像以上だったため、言ったら殺されると思ったためである。
「しかし謝るにしても、な」
 神主は繭をひそめた。
「ちゃんと美神さんが無事に帰れるかが問題だ……」


「…………? あたし」
 眠りかけていた。
 令子はそのことに気づき、「しっかりしなさい」と両頬を手で挟む。
「アタシはGS美神令子よ! この程度の危機は何度もくぐりぬけたじゃないの!」
 そうだ。
 美神除霊事務所の所長たるものが、こんなところで死んでたまるものか。
 首から避下げた精霊石を握り締め、令子は自分に言い聞かせた。

 でも――
 いつもあいつが、傍にいたでしょ?

 心の内側から聞こえてくる声を、令子は瞼を閉じて肯定した。
(そうね……いつもあいつが……)


『待ち人来たらず』


「――――!」
 御神籤の文字が浮かび、令子は目を開けた。
 握り締めた拳に力が入る。
「ははっ……寒さで、わたしも脳が上手く回らなくなってるみたいね……」
 無理に、笑う。
 
 いつだってあいつがそばにいてくれた。
 いつも最後にあいつがいてくれた。
 いつかきっとあいつと……。

「脳みそ、凍り付いてきてるのかしら?」
《――まだ、暖房は効いてるわ》
「――――あんた」
《お久しぶり、かしら》
 令子は助手席に座るその気配を見て、しばし絶句した。
 そして。
「……あんたがお迎え?」
 彼女は――死んだはずのルシオラは、「さあ」と謎めいた微笑みを浮かべた。


 まだ続く(苦笑)

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