ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十三 〜 前・過去との決別 〜


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 4/27)

コン コン
返事が無い。看護士は居ないのだろう。
「入るぞ……」
都会の雑音から解放された純白の空間。
その中には、彼の妻が……妻だけが居る筈だった。
「なッ……!?」
驚きの余り、声も出ない。
それはそうだ、病室である筈のそこは、見知らぬ学校だったのだ。
ドアを開けた途端に雑音ともとれる生徒の喋り声が耳に入ってきた。
外国人らしき少年もいるし、バンダナ、メガネ、大男……
ともかく、彼にとってその状況は、既に理解の範囲を超えていた。



竜太には、訳がわからなかった。
『彼』がドアを開けたかと思ったら、何やら声も出ない様子で驚き――
大方、竜太の予想通りの反応だったが、どうも様子が違うようだ。
いつまで経っても動こうとしない――
いや、実際には二、三秒だったのだろうが、それにしても長すぎた。
とにかく、感動の再会とはいかないようだ。
耐え切れず、こちらから声をかけようと思った矢先に、在らぬ方向から声が飛んできた。
『声を出さないで!!』
竜太は、この声に悪意が感じられないので、この声に自分の運命を托すつもりだった。
最も、自分でも、彼に会いたいのか、会いたくないのかよくわからないが……
それにしても、いったい誰が?
竜太は、訳がわからなかった。

『そう、そのままじっとしてて!』

知っている!
自分は、この声は知っている!

竜太の顔がパーっと明るくなった。
(タマモ!)
名前を叫びたくなる衝動に駆られたが、流石に踏みとどまった。
何故かはわからないが、タマモは、彼に幻術をかけてくれているのだろう。
姿は見えないが、あのチョッと険のある、高い聞き覚えのある声は忘れようも無かった。
竜太は、ついに腹を決め、ドカッとベッドの傍らの椅子に腰掛けた。
後はタマモを信じて待つのみである。


暫くして、私は、メガネを拭こうとポケットに手を突っ込んだ。
そこに在るべき筈のハンカチの感触は無く。出掛けに忘れたのだと確信した。
結婚してから、四年経つが忘れ物をしたことなど一度も無かった。
彼女は、良く気の利く女性で、朝、玄関先でそっとハンカチとティッシュとその唇を届けてくれる。
だが、今日は、彼女は居ないのだ。そう、改めて実感した。
独身の時から連れ添った相棒(牛乳ビンの底メガネ)は、流石に忘れなかったが……
そう、忘れると言えばコンタクトレンズ! いったいぜんたい、あれは、何なのだ!?
彼女に進められ試してみると眼は相当痛かったし、同僚にすら私だと気づかれなかったぞ!
私は、同僚にからかわれているのかと思ったが、違うらしいし、忘れられてしまったのかと思い、トイレで泣いたものだった。
おまけに、外そうとした拍子に飛び出てしまい一日とその寿命は持たなかった!!
どうしてくれるんだ!? え!?
……と、雑談は置いといて、今は現実と立ち向かわなければなるまい。
現状把握、現状把握……と。
とにかく両の眼は、相棒が健在でないと二メートル先のものすら霞んでしまうほどだが、
今度は、霞むどころの話では無い。幻覚が見え始めたのだ。
私は疲れたのだと確信し、とりあえず顔を洗いに行くことを理由にこの場を離れることを決意した。

バタンッ!……

ドアが完全に閉まるのを確認した途端、竜太は向き直ると窓の方を見つめた。
「タ……マモ」
余りのできごとで、感極まったのだろう。語尾は濁り、その眼には薄っすらと涙すら見えた。
タマモが窓(の外)から、ヒョコっと顔を出した途端に竜太は両手を大きく広げ、タマモに飛びついた。
「バカね。何、ヤッてんのよ!?」
危機が去った途端に、ここが病院だということも忘れて、抱きつこうとしてくるバカな師匠を撃墜して、タマモは、まじまじとさゆりの顔を眺めた。
そんなことは気にも止めず、竜太は、今の攻撃で少し焦げた髪をどうしようか悩んでいる。
「――でも、どうしてここに?」
「あら? 今日は自由にしてて良いんでしょ?」
と、タマモは嫌味っぽく言った。
「そうじゃなくて――」
先ほどとは裏腹に、竜太はムスっとしている。コロコロ気分が変わるのは、いつもの竜太に戻ったという証拠だ。
「冗談よ。どうして、ここがわかったか知りたいんでしょ? 偶然、アンタの霊気を見つけちゃってね。
 どうも、嫌な感じがしたからつけてきたってワケよ」
「『見つけちゃってね』……って……。しかし、良く間に合ったな……」
最初の方は、ハイテンションで只喜んでいただけなのだが、安心と共に冷静になったせいか、様々な疑問が湧いてきた。
竜太は、超加速すら使い、ここに到着したのだ。しかも、到着してから、それほど時間が経っている筈も無い。
タマモは走るのはそうとう早いが、それにしても不自然だ。
「実は、この人に連れてきてもらったのよ」
と、タマモは言い、窓の外に手を向けてみる……………が。
誰も居ない。鳥すらも見えない。
「ほう……澄み切った青い空、高層ビルにも遮られずに顔を出す太陽、うむ、自然の力とは偉大だ」
「何、勘違いしてんのよ!!」
タマモも、ついここが病院だと言うことも忘れツッコむ。
――途端

コン コン

「「!?」」
二人は、一斉に振り向いた。そして、その瞬間にもう霊力を開放していた。
別に、タマモが大声出そうが出すまいが、時間稼ぎもここらが限界だったのだろう。
これも、運命なのだろうが竜太は、もう成り行きに身を任せるつもりはなかった。
「俺に掴まれ、早く!」
「わかってるわよ!!」
竜太は、そう叫ぶと超加速の状態に突入する。
ドアが目を凝らさなければ動いているかどうかすらわからないほどの速度でゆっくりと開いていく。
竜太は、焦らずに、一時でも長くその場に留まれるように、窓に手をかけた。
「さよなら、先生……いや……さゆりさん……」
竜太は、フッ切れたように窓をピシャっと閉めた。

さゆりのことなら心配ない。
竜気による治療は中途半端なものだったが、『彼』も来た事だし大丈夫だろう。

しかし、やはり、竜太も限界だったのだろう。
病院を出た直後に超加速が切れてしまい、竜太は同時に意識を失った。
――しかし、さゆりの夢を見ることはなかった。二度と――
竜太の頭の中では只々、「さよなら」と言う先ほど自分の唱えた言葉が繰り返されていた。
――瞬間、竜太だけの時間は終わった。タマモの絶叫と共に。

「は、入るぞ……」
『彼』の言葉はぎこちなく、顔もこわばっていたが、そ〜っと中を覗くと普通の病室だったので心底安心した。
「さゆ……り……?」
見間違う筈は無かった。まだ短い年月だったが、一つ屋根の下で暮らした中だ。
しかし、気のせいか、さゆりは昏睡状態というよりも、眠っているようだったからだ。
こんな安らかな寝顔は、彼も久しぶりに見た。
最近は、生徒のことやら、父兄のことやらで悩みっぱなしだったからだろう。
彼女の相談に乗ってやれなかった自分を何度呪ったことか……。
彼もゆっくり腰をおろすと、安堵の溜息をついた。
何故かわからないが――ものすごく非常識かもしれないが――心からホッとしたのだ。
その時、初めて周囲の様子に気を配れるようになったのかもしれない。

彼は、花を見つけた。

花瓶に挿されてこちらに顔をむけた、名前もわからない花だった。
もしかしたら、名前などないのかもしれない。

ヒトは、自分たちが使いやすいからモノに名前をつける。
呼びやすいから、区別しやすいから――

そうだ、これは、きっと名前などない、『自由の花』なのだ。

彼は、あれこれ考えていたが、ついにはベッドの傍らで深い眠りについた。

     ――― シロちゃんと横島クン♪ Part2 ―――
シロは、横島の向かいの席に座り、頬杖をつき、横島に話し掛ける。
その顔は慈愛に満ちていて、じっと横島のほうを見つめている。
「……先生、そう言えば、初めて先生たちと会った頃にこの道通った気がするでござるよ」
……横島は、テーブルにうつ伏せになり、ピクリとも動かない。
シロは、起こる様子も無くゆっくりと、二人で居る時間を精一杯大切にしようと思い出を語っていた。
その時のシロの様子は、決して血気にはやって悪霊に食い掛かる人狼の戦士ではなく。
最愛の人を思う女性そのものであり、男であれば誰が見ても同じ感想しか持てない!
と、断言できるほどに愛らしいものであったのだが、生憎、横島は取り込み中である。……アッチの世界で……
「先生と出会って、もうずいぶん経つんでござるなァ……」
シロは、その後もずいぶん雑談を持ちかけたが横島が反応を示すことは無かった。
「もう、先生はちゃんと聞いているでござるか!?」
「……ん……」
横島が寝返りをうち、今度は、腕を枕にするような格好になった。
シロには、それが懐に手を突っ込んでいるように見えたのだろう。
少なくとも、そう思い込んだことは確かだ。
「せ、先生!? あの、拙者は……そんなものよりも、先生の言葉のほうが……」
シロが、一人で赤くなっているが、横島は再び寝返りをうった。

―――プツ!!……

「せんすぅえええェーーっ!!」
シロは、横島のむなぐらを掴みむりやり立たせた。
「焦らすのもいい加減にして、早くだすでござるよォォォォォっっっ!!」
「オキョ!?……か、金なら無いんです……ヒィ!? ゆ、許して下さいいいぃいぃぃぃ!!」
ようやく目が覚めたのか、横島は、シロを『何か』と勘違いして訳もわからないままに弁解した。
「何をいっているでござるか!? 拙者が言ってるのは、ホネのことでござるよ!」
横島は、激しく揺さぶられ再び意識は闇の中へ……
    ――せめて生きて帰れますように――

        次回、カンボジアの思い出編(←こじつけ)クライマックス!?
           乞う、同情!!(←作品にでも私にでも構いません)

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