サムライ◇ドライヴ〜lastラスト「長めのカーテンコール」
投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 2/23)
シロの里帰りにくっついてきたタマモは、妖刀鍛冶のテツと戦い、これを倒した。
血臭をたよりにまっすぐ進むと、壊れてもがく刃凝の横でシロが倒れていた。
「………」
タマモは引きずってきたテツをあっさり手放して穴を掘り、シロの手を引いた。
「…一応きいとくが、なんの真似でござる?」
「あ、生きてたの。墓穴掘る前に教えなさいよね」
まるで、作った料理が無駄になったかのような無念そうな声を出すタマモ。
「こいつは…いや、そんなことより拙者、毒を受けてしまったでござる」
「解った。なんとかする。おやすみ」
毒と聞けば理解するには充分だ。偽死で毒のまわりを遅らせていたのだろう。
自分が頼りにされている、ということか。
タマモはテツに歩み寄り、強引に揺り起こした。
「う…く!」
「あのがらくたに仕込んだ毒、あんたにならなんとかできるわよね?」
どこか遠い口調で、タマモが真っ黒こげになった人狼に尋ねる。
「…さぁな」
「反抗的ね。まぁ、気持ちも解るけど、そっちにも理解を示してほしいわ」
「なんのことだ?立場をわきまえろ、とでも言いたいのか」
「重要なのは、あたしがこうみえて焦ってるってことよ」
ごきり
酷く醜い音をたてた。タマモがテツの右脚を踏みつけ、あらぬ方へ曲げたのだ。
「ぎうあああああぁぁぁぁ!?」
「次はワタほじくりだして焙ってやろうか?いいえ、もっと面白いのもあるわね」
そういった彼女が目をつけたのは、テツの右腕である。
「あああうう…やめてくれ…この腕だけは」
「右手の神経つまみ出してあげようか?もっと面白い言葉が聞きたいんだけど」
「さ…里に帰らなけりゃ薬は無い。本当だ」
「ったくこんだけ言うのに時間潰して…いくわよ!ナビお願い」
それからは早かった。今は朝方である。
八房を取り上げ、そこにシロの精霊石をひっかけて吊るし紐をくわえる。
普通の狼同然となったシロとテツを小脇に抱えて森を駆け抜けた。
「侍どもは…妖刀を恐れ、忌み嫌った。自分達に力が無いのを棚にあげて…」
テツが、ぽつりぽつりと語り出した。
「らしいわね。神様の力が宿る妖刀は自分達の手にあまる…
だけど崇める相手が欲しい。だから危険で恐い妖刀を再生させた」
「妖刀は生きものだ。良い主、良い戦に恵まれねば死んでしまう。
俺のような職人や、里の腰抜けどもとは違う、戦乙女のような主だ」
タマモはそれを聞いて、ようやくこの男の真意を悟った。
――シロと八房を巡り合わせたかったんだわ。
友であるタマモを斬り殺したテツに、満身創痍で仇討ちするシロ。
毒もうけているであろうし、まともに戦う余裕は無いはずだ。
彼女は、あるいは八房の力を求めるかも知れなかった。
最大の誤算は八房の能力そのものの欠陥だった。
さりとて、八房はもとより、シロにここまで執着するとは――
「あんた、シロに惚れてる?」
途端に、
「ば、ばばばばば、バカなことを!?
そいつは今でこそそんな図体してるがな、元々は俺とは十も歳が離れてたんだぞ」
「元々は、って…」
年令そのものが変化してるわけないではないか。
つまり、テツの心の中での距離がそれだけ縮まっているのだ。
これはどうやら本気のようである。
「だいたい、お前の方こそなんなのだ?しし、シロの奴と一夜を共に過ごしおって」
「はぁ?」
「俺は、コイツの精神に心酔してるのだ。それが貴様のような男に誑かされて…」
「ちょっと待て!あんたにゃあたしが、男に見えるんかい!!」
するとテツは、なぜかしたり顔になって
「女の独り住まいに転がり込むなど、ヒモしか考えられん!」
「あああああああ…致命的勘違い男…」
フツー、シロが女で自分を男と間違うだろうか?
タマモは今までにない屈辱と挫折感にへたり込みそうになる。
「女であるとはますますお耽美な!?この毒婦めが」
「その思考から離れろ!この真性お下劣野郎!!」
まかり間違ってシロなんぞとそーゆー事態に陥ったら自分に火つけて死んでやる。
「あたしとこいつは…ただのルームメイトよ。ひょっとしたらそれ以下かも…
ま、あたしの交友関係がいかに閑散としてるか、推してしるべしってとこ?」
――そんな程度の仲なのに、命預けあえるもんなぁ。
タマモはちょっとした高台にいた。シロとテツを医者に押しつけたあとだ。
「やっぱコレ返すわ」
やたら無造作に、タマモは八房を放り捨てた。
足下に落ちたそれを一瞥して、長老が口を開いた。
「理由を伺っても、よろしいですかな?」
「あたしは飼い犬が大嫌いなの。
神様に媚び売って、そのために仲間を裏切るのが…なんかムカついて」
だから壊したかった。自分が生きたいように生きるのが当然だ。
誰かの言いなりになるなんて不条理で不健全きわまりない。
じゃあ、仲間を裏切るのは自分の意思か?仲間は…失いたくない者であるべきだ。
さもなければ、自分は仲間とは呼ばないだろう。どんな嘘より、残酷だから。
「でも…それであたしが命じるままにフェンリル崇拝がなくなるのじゃ変らない」
それは、従う対象がフェンリルからタマモに変っただけのこと。飼い犬は飼い犬。
「どうしてこんな単純な道理を見落としてたんだろう…」
それほど、彼女は冷徹ではなかった。他者からクールだと思われるのが楽なだけ。
感情の波が穏やかだと思われた方が、わりとまわりから嘘が減る。
しかし、感情の奥底ではいつも激流が逆巻いている。激昂したら視野が狭まる。
「だから、八房のことは任す」
穏やかに微笑んだタマモが立ち去ろうとした。
「もう一つだけ…どうやってあやつをみつけました?」
「んー?真直ぐ下山しただけよ。長老、あなた用心深いというか、慎重派でしょ?
妖刀を持って逃げるテツとあたしのかくれんぼに里の未来は預けらんない…
なら、逃げろと指示するしかない。この里から抜けるには一本道よ」
「一旦外に出て、再び里に舞い戻らせていたら?
おいかけっこよりは分のいい賭けだと思うのですが」
「勝つつもりならね。里であたしらがはち合わせた場合、みんなであたしと戦う。
ひょっとしたらシロがあたしに加勢して、里に大きな被害をもたらしかねない。
外なら、賭けに負けても失う人狼は一名よ。どちらの方が強かろうと…」
里のために、シロとテツ、二人のいずれかが死ぬことを許容したのだ。
里長としての責務を果たすために、辛い決断をしいられたが、裏目に出たようだ。
「あなたなりに、計算したんでしょうし、見方によっちゃあなたの一人勝ちね。
けど、あたしだったら勝つつもりで戦うわ」
「…………」
きっぱりと長老を否定し、タマモは今度こそ立ち去った。
なので、長老が八房をどうする道を選んだのか、タマモは知らない。
別にどうなろうと、それは彼女にとってもう終わっているのだ。
とんとんと…
「ッッたぁ〜〜〜…」
「えーい、何度目でござる!?包丁が血生臭くなるからやめい!!」
「うっさいわね!文句言う元気があんだったら、あんたがやってよ。得意でしょ?」
「あっちこっち刀傷だらけで、動くと痛いんでござる!」
「あたしだって!いまので左手の指が全滅だわ!もーいや!ごんべえ出して!!」
本人の言う通り、昼間は無傷だった彼女は今や負傷だらけだった。
「あるかンなもん!一食抜いたぐらいなら平気でござる」
「変化を保ってらんないのよあたしは。そしたら誰があんたの包帯とっかえんの?」
どんどんどん
戸がけたたましく鳴り響いて、招かれざる来客が顔を出す。
「やい毒婦!今日こそテメーを叩き出してやる!!」
テツである。
「あ、悪いけどコレ持ってて」
タマモが包丁を投げ渡した。
「うわバカ!粗末に扱うんじゃねぇ!包丁だって俺ら職人の…」
ガスッ
包丁を両手で抱え込んだテツに、タマモの情け容赦ないドロップキックが炸裂。
「おととい来い、ボケヤロー!」
ばんっ
戸を閉める。しかししばらくして
すぅ
開く。
「あ、それ研いで返しにきてね」
ぱんっ
また閉まる。
また今度、たまった休みがもらえたら、おちつきたいものだ。
おしまい
今までの
コメント:
- ストーリーとしては面白いのですが、タマモの設定を始め、少々矛盾が多かったように思えます。
特に人狼は、フェンリルの力を潜在的に持っており、八房はそれを蘇らせるために必要な道具と見られる説明が原作にありますので、人狼が妖刀そのものを崇拝対象として必要とするのは少しおかしいかと。
それに、タマモの「忠告」を受けて人狼が考え方を変えるのでしたら、それは別にタマモを従う対象にした、とはならないと思います。
その意味でも、狡知に長けているはずのタマモが、「むかつく」というだけの独善的な理由で人狼の里全体を敵に回しかねない、しかも、力尽くの行動に出る部分にも矛盾を感じました。
ただ単に「タマモが強すぎる」という所はどうでもいいんですけどね。
よって、反対ではありませんが、賛成もできません。 (ぱっとん)
- まあ、確かに「気に食わない」だけで暴れるタマモというのはアレですが。この際関係ナシ。
シロタマのテンポがヒジョーに良いです。タマモのかなりワザとで余裕な態度がグーです。
個人的にテッちゃんがツボです。超職人根性と歪んだ発想の持ち主。それに起因する言動の数々。『最期』の包丁を受け止めて説教するシーンには涙が出ました。暴走キャラ大歓迎! (斑駒@類は友を呼ぶの法則)
- さて、と…このシリーズはタイトル通り、hitomiのあの曲にノリながら書いて…
いえ、正直ケツに火がついたような状態で書き上げて無理に投稿するという愚策の末路です
曲聴きながらテキトーかましつつ書いてたのもホントなんですがね(死んで詫びろ)
そんじゃぼちぼちシリーズ全体のコメント返しをば。楽屋裏の話を交えて…
>ロックンロールさん
全編通して暴力的です。もー、しっちゃかめっちゃかですね。根暗な俺が何故こんな作風? (ダテ・ザ・キラー)
- >ihoriさん
照れ隠しだったかもですね。俺には明確な答えが出せません。答えは読んだ方にお任せです。
そして、そーです。テツは運動音痴なんです。八房過信しすぎです。兵鬼…忘れてました…
そしてそして、実は木霊を用いたのは、「たまたま木彫りってことにしてあるし」という
あまりになげやりな動機でした。しかし精霊なので、メタ・ソウルよりは融通利くでしょう。
せっかくだからまたいつか使ってやるかも… (ダテ・ザ・キラー)
- >黒犬さん
謝っておかねばなりますまい。シロに貧乏くじ引かせたこと、申し訳ありません。
シロの名誉のために告白しますが、タマモとシロは総合能力では全く互角のつもりです。
単に「八房の能力と真っ向勝負してない」「テツは身体動かすことがからっきし」で
「シロの相手は全身が妖刀。ロロノア・ゾロとかじゃなきゃ勝てっこない」と、
ハンデだらけなんですよ。ご了承ください。(逆の立場だったら俺はするだろうか?)
>トンプソンさん
頑張りました。冷静ぶってますが、もの凄くキツかった筈です。そしてこの長老…
俺がとんだ破戒野郎だったばっかりに(別に聖職についちゃいないので、造語)
悪役っぽい扱いでしたね。ま、長老が前置きしたとおり、理解がなかったのでしょう。 (ダテ・ザ・キラー)
- >hazukiさん
気に入ってくださいましたか!なによりです♪あ〜幸せ。
だって今回はhazukiさんとこに書き込んだから踏ん切りついたというのか…ま、そんなんで
現在、チョコの話で悪戦苦闘しております
>猫姫さん
俺は毎回毎回、シロになんか恨みでもあるんでしょうかね?(イヤ、答える側だろ、おまい
いや〜、説得力ないんだろうとは思ってましたがここまでかすりもしないとは(自棄
それでも見捨てないでいただいて、なによりです。 (ダテ・ザ・キラー)
- >G-A-JUNさん
運動不足のタマモちゃんも、人間なんかとじゃくらぶるべくもない脚力なのでしょう。
シロは言うに及ばず…と、いうことかもしれませんし、あるいは
「へ〜い!ノーマネーオッケー?」
と、テンプテーション・ヒッチハイクしたのかも知れません。もち、変化で大人になって。
シロの精霊石外して、あえて人に言葉を通じなくしてタマモに助け舟出すんです。
タマモは人間の常識に疎いのでフォローを…ドライバーには「わんわん」聞こえる声で。
…ここ書いた方が数倍面白かったかも…そしてJUNさんにも、シロをいじめてすみません。 (ダテ・ザ・キラー)
- >ねずみの尻尾さん
そうですか、それは光栄です。そうゆう盛り上げ方しか知らないものでして。
なんとかこの照れ屋な性根を鍛えなおして、いつかは書くぞ!ラブコメを!!
………無理だっつの。言ってみただけだっつの(何故か口が四角くなる)
>ぱっとんさん
まったくもって仰るとおり(しれっと)。ん〜、なんと申しましょうか…矛盾はダメですね
俺も嫌いです。(おい?)真面目な話、全面的にこちらのミスです。単行本チェック疎かだし
八房の存在意味とか、完全に思い込みです。なんとなく、フェンリル拝む⇒なんか像造る?
⇒めんどくせぇよ、八房があんじゃん。これが御神体でよくね?という会話が脳内で…
多分、若き日の長老とその友人。ただ、必要だからこそあったわけですし、再生だけは
当然あるかと。信仰云々は抜きに…(続きます (ダテ・ザ・キラー)
- 勿論忠告はセーフです。だから「返した」わけでして…タマモの独断でへし折るのが
アウトで、説教がセーフだからこそこの話はこの終わり方なんです。
んで、この「ムカつく」が独「善」かどうかはさておき……そのぉ…なんといいましょか
未熟者が書くキャラクターって…自分が出ちゃいますよね……ほんっっとごめんなさい
このタマモはむしろ俺です。皆さんに不快な思いをさせてしまいましたがこのタマモは
いわゆる「なんちゃってクール」でして、元々短気な性分の本性を無理矢理抑え込んで
冷静な素振りをしているわけです。(つまり俺が)えーと、だいぶ長くなります (ダテ・ザ・キラー)
- リアクションでけー奴ってナメられる・いじめの対象になる⇒鉄面皮になるのが
一番確実な自衛手段だ!⇒それでいこう⇒しかし頭にくるものはくる。だってホントの
俺はクールなんかじゃねーんだから。んー、つまりちょっとした手違いでこのタマモは
の落ち着き払った態度は表面的なものでして本質的には初登場時と変わってないんです。
もっとも、俺はタマモがそーゆー熱い心根の持ち主なんじゃないかという淡い期待を
まだ捨てちゃいませんが。 (ダテ・ザ・キラー)
- >斑駒さん
ぶっちゃけてテツがおかしくなったのは書きながらです。最初はストイックにするつもりで
その名残もちょっと残ってますが、それももはや奇行に拍車をかけるだけ(w
シロに惚れていたというのも後から決まりました(既に「決める」って言わないぐらい)
ノリで書いてたら「あぁ、なんだコイツあの娘にホの字か?」って自然に出てました。
やっぱこのタマモ俺そのものだよ…(いつ決めたかバレる…!)
っつーか所詮彼も、俺から生まれた分身なので、俺が変態なのか (ダテ・ザ・キラー)
- ↑×4 妖刀信仰……物語としての八房の位置付けは確かにぱっとんさんの仰る通りですが、作中の人狼族としてはどうでしょうか? 彼らが時代劇的サムライ式ライフ・スタイルを受け継いでいる関係上、妖刀村正の例を引く迄もなく刀剣に対する特別な思い入れと、畏怖すべき祖先「狼王」の血に対する畏敬の念が昇華して「妖刀信仰」が成立する可能性も……でも彼ら、八房でも斬れない霊波刀が使えるし、フェンリルは長老に厄介払いされていたしなあ(ドクロ)。
ま、それはともかく、遣り方はともかくもテツの刀に対する思いには共感を覚えますね……いや、やっぱり彼はへっぽこなんですが(笑)。ダテさん、お疲れ様でした! (Iholi)
- 凄まじいまでの戦闘描写に、意外に可愛いテツの純♪な恋心(笑)。タマモ主体の視点も見事です。こういうシロの書き方もあるのか…… (ロックンロール)
- 友人としてフォローを。
ぱっとん君が辛口な批評をする時は、大概その物語やキャラクターを気に入っている時です。気に入ったからこそ隅から隅まで熱心に読み、その結果として矛盾点が気になってしまうのだそうです。根が真面目な性格なんですね。
言ってみれば、『気に入った連載が未完で終わる時ほどムカツク』というのと同じファン心理だと思うので、あまり不快に思わないであげて頂けるとありがたいです。
後、妖刀信仰についてですが、人間に生活圏を追われた人狼達が、人類への鬱積を押さえ込むために、「俺達は、いざとなったらフェンリルになれるんだ」という心理でそのための道具である八房を精神的な支えにしていたしいうのはアリではないかと思います。 (黒犬)
- ところで、ふと思ったのですが……。
タマモは妖刀が許せない。⇒妖刀を破壊するわ!⇒行って見たら、オリジナルの妖刀を作れるテツが居た。⇒妖刀の根絶には、その製作者が生きていては不都合。
この考えで行くと、もし最後にタマモが考えを変えなかったら、テツの命は……(汗)
…………テッつぁん、さりげなく危機一髪?(汗汗) (黒犬)
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