#当選者3人SS!〜そして、こんなに温かい夜〜
投稿者名:Maria's Crisis
投稿日時:(02/11/18)
その日が暮れた頃、横島の部屋で二人の女の子が、にぎやかに騒いでいた。
「あ!待つでござるよ、タマモ!先に野菜を入れるでござる!」
「へえ、順番なんてあるんだ〜」
「拙者もあまり自信はないでござるが・・・、たしか、そうだったような・・・」
「まあ、でも簡単よね。野菜を適当に切り刻んで、市販のおつゆの素を入れて火にかければ完成なんて」
北風が冬の到来を告げる今日このごろ、二人は「すきやき作り」に挑んでいた。
料理方法等は詳しく知らないが、見よう見まねで試みる。
横島の部屋にはガスコンロがなかったので、コタツの上に狐火を直に点火させる。
もちろん、鍋以外には熱が伝わらぬよう、タマモがコントロールする。
「すきやき」を選んだ理由は、「作るのが簡単そうだから」とか「冬の定番だから」などなど極ありふれた理由である。
が、それにもう一つ、シロには他に大きな動機があった。
それは、鍋に投入まじかとされている「肉」にある。
これは、よくシロがお使いに行っているお肉屋のおじさんから、特別に頂戴した超高級和牛の肉なのだ。
「これを是非とも、先生に食べて頂きたい!」
この温かい師弟愛が、「すきやき作り」という行為を生み出したのである。
その「超高級和牛肉」を鍋に投入すると、シロは真剣な表情で言う。
「タマモ、もう少し火を弱めるでござる」
「え?なんで?」と、タマモが訝しげに聞き返す。
「先生がお帰りになる前に、煮詰まってしまっては、だめでござろう?」
「私・・・、おなかすいちゃったぁ・・・。あいつなんかほっといて、先に食べようよ〜?」
「だめでござる!絶対にだめでござる!!」
シロがすごい剣幕で反対する。
「なんでよ?」
「武士の一家の食事は、まずその家長が一番先に箸をつけるのがしきたりでござる!」
鍋の中をいじりながらシロが語る・・・。
「妻は黙って、主人の帰りを待つものなのでござるよ!」
「別に私・・・、武士でもその子でもないんだけど・・・?」
ぼそりとつぶやく・・・。
「なんか言ったでござるか?」
「え・・・?いいえ・・・。それにしても、あんたって変に古風な所があるわね?」
「拙者は武士でござるからなあ♪」
へへ〜んだ、とシロが答える。
「ええと・・・、だからね・・・」
・・・と、タマモが続けようとした時、二人の嗅覚が何かの気配を嗅ぎとめた。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は押し黙り、辺りの気配をうかがう・・・。
これは、間違いなく・・・、「侵入者」の気配・・・。
「そこ〜〜〜!!!」
先に動いたのはシロ。
すばやく霊波刀を構えると、玄関への仕切りとなっている障子を切り捨てる。
「ふっ・・・、さすが横島の弟子だな・・・」
その暗がりから現れたのは、全身黒衣装に身を包んだ雪之丞であった。
「やはり師匠の教えがいいのか、少しはできるみてえだなあ、狼の姉ちゃん?」
「雪之丞殿でござったか・・・」
「あんた、もっと普通に入ってこれないの・・・?」
と、つまらなそうな表情のシロと、呆れ顔のタマモ。
「ちと、横島に用があってな・・・。横島は居ねえのか?」
雪之丞は、邪魔するぜえ、と部屋に上がりこむ。
「先生はまだお仕事でござるよ。もうまもなく、お帰りになられるでござる」
「ふうん、そうか・・・」
と言う雪之丞・・・。だが、視線は嫌がおうにもすきやきの方向へ・・・。
「って、こりゃあ、すきやきじゃねえか!?」
「食料ならそこにカップ麺がござるので、好きなのを食べてくだされ」
「おいおい、そんなかてえこと言うなって。俺にも食わせろよ」
「だめでござる!絶対にだめでござる!!」
シロのその言葉を完全に無視し、雪之丞は悠々と両足をコタツに突き刺す。
「おう、狐の姉ちゃん、もうちょい火力アップだ」
「これくらい?」
タマモが言われた通りに狐火を調整する。
「タ、タマモ!?」と、シロが怒鳴る。
「だって・・・、おなかすいたんだもん・・・」
「この薄情者〜!!裏切り者〜!!!」
泣き叫ぶシロをよそに、タマモの絶妙な火加減の調整によって、冬の定番メニュー「すきやき」が出来上がった。
「おお!こりゃ美味い!!こりゃ美味い!!!」
横島並に、がつがつと箸を進める雪之丞・・・。
「うん、美味しい♪」
ふうふうしながら、美味しそうに超高級和牛肉を頬張るタマモ・・・。
「せんせえ・・・、せんせえ・・・」
部屋の隅でひざを抱え、涙するシロ・・・。
「お〜い!狼の姉ちゃんは食わねえのか〜?」
「いいでござる・・・、ほっといてくだされ!」
そう言って、ぐすぐすと涙をこぼす・・・。
30分も待たずに、豪勢だったすきやき鍋は、ただのつゆの入った容器になってしまった・・・。
「さあてと・・・」
雪之丞はつまようじをくわえ、立ち上がる。
「雑炊にでも、するか?」
「だめでござる!絶対にだめでござる!!」
流した涙も乾き始めていたシロであったが、再びその表情が険しくなる・・・。
「うどんならあるけど?」
タマモがうどんの入った袋を取り出す。
「お、うどんとは気が利くじゃねえか〜!」
「ま、狐だから・・・」
「だめでござる!本当に先生の分がなくなってしまうでござる!!」
シロが激しく抵抗する・・・。
「ああ、横島のことなら気にすんなって!大丈夫だからさあ!」
まったくお構いなく、雪之丞がうどんを鍋に放り込む・・・。
「うわぁあああああああ〜〜〜〜〜んっっっ!!!」
ついに、シロが部屋を飛び出して行ってしまった・・・。
「なんなんだ、狼の姉ちゃんはさっきから・・・」
その後ろ姿を呆然と見送る雪之丞・・・。
「そんな言い方ないでしょ、あんた・・・」
自分のことは棚に上げて、雪之丞をにらみつけるタマモ・・・。
「おいおい、そんな目で見るなって!いや、言い忘れてたんだけどさ・・・」
そう言うと、雪之丞が大きな木箱を取り出す。
「珍しいもんが手に入ったんで、こいつを横島と食おうと思ってたんだよ」
まだ食べるつもりだったのか、と思いながらも、タマモはその木箱を開ける。
中には、一本一万円はしそうな「松茸」がぎっしりと詰まっていた・・・。
「せんせえ・・・」
夜の駅前商店街・・・。
一人うつむいて歩くシロ・・・。
空腹のため、時折ぐう〜と鳴るお腹を押さえる。
「先生、拙者・・・、大事なものを守れなかったでござるよ・・・」
自分の情けなさを責め、再び涙を流す・・・。
何か買って帰ろうかと、ポケットの中のお金をあるだけ出してみるが・・・。
入っていたのは、たった48円・・・。
すきやきの食材を買い込んだ際、ほとんどおこづかいを使ってしまったのだ・・・。
もう一度、お肉屋さんにお願いしようかとも考えた・・・。
でも、やはり武士として、そういったマネはできない。
季節はもう本格的に冬。
「こんな所で何をしてるのでござろう・・・。拙者はただ・・・、先生に喜んで頂こうと・・・」
普段はめったに感じない寒さが、彼女を包み込む・・・。
彼女は、はあ〜と、手のひらに息をふきかけ、じっと身を縮める。
いつもの格好で飛び出してしまった自分を後悔していた。
そんな彼女に誰かが、コートをかけてくれた。
驚いて振り向くと、そこに呆れ顔のタマモが立っていた・・・。
枯れ葉色のコート・・・、きっと枯れ葉を変化させたものなのだろう。
「あんた・・・、そんな格好で寒くない?」
表情を変えずにタマモが言う。
「さ・・・、寒いでござるよ・・・」
シロはぼそりと返す。
「いくらバカでも、本当に風邪ひいちゃうわよ?」
「バカとはなんでござるか!?おまえはいつも一言多いんでござる!」
真っ赤な顔をして怒るシロ・・・。
それを見て、くすりと微笑む。
「やっと、らしくなってきたじゃない?」
「え・・・?」
「さっきから泣いてばかりでさ・・・」
「・・・・・」
「まあ、私達が悪かったんだけどね・・・」
「別に・・・、気にしていないでござるよ・・・」
「バカね・・・、思いっきり気にしてたじゃない・・・」
そう言って、タマモがシロの手をとる。
シロの手は、思っていた以上に暖かくなっていた。
「実はさ、雪之丞が松茸をいっぱい持ってきてくれてたのよ」
「ほ、本当でござるか!?」
シロの顔に久しぶりの笑顔が見れる。
「ええ、横島と食べたいから、なんか作れって・・・。でも、あいつ、男は台所に立つもんじゃない、
とかなんとかって、手伝ってくれないの」
少し困ったような笑顔を見せながら、タマモが続ける。
「だから・・・、シロ、あんたにも手伝ってもらおうかなぁってね・・・」
「お安い御用でござるよ!名誉挽回の絶好の機会でござる!!」
握られていたタマモの手をぐっと握りかえし、シロが走り出す。
「タマモ!早くしないと、先生がお帰りになるでござるよ!急ぐでござる!」
横島の部屋に戻ると、コタツの中にいる雪之丞の背中が出迎えた。
「雪之丞殿・・・」
「おう?」
彼の背中が答える。
「かたじけないでござる・・・」
ふっと鼻で笑う雪之丞・・・。
「まあ、せっかくの料理食っちまった俺が悪いだろうからよ。その松茸で勘弁してくれや」
「わかったでござる!」
「それよりよぉ、腹減ってんだ、さっさと作ってくれよ。横島も、もうそろそろじゃねえのか?」
少し安心したような顔をした雪之丞であったが、それを誤魔化すかのように、シロをせかす。
もうしばらくで、横島がクタクタになって帰ってくることであろう。
でも今日は、彼を想うかわいい弟子が、素敵なものを用意して待っていてくれている。
おかえりなさい、のお出迎え。
おつかれさま、という気持ち。
とびっきり美味しいごはん・・・。
そして―――――。
コタツの中でテレビを見ながら、あくびをする雪之丞。
松茸の香を、くんくんと嗅いでいるタマモ。
そして、こんなに温かい夜。
完
今までの
コメント:
- 八回目の投稿です。
このような投稿企画には、初めて参加させて頂きます。
こういった場を設けて頂き、更に私のようなものを迎えてくださった斑駒さんに、
心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。 (マリクラ)
- 「お家へ帰ろう〜♪松茸良い香り〜♪」(謎)。というわけで、りおんです(笑)。雑炊……うどん………いいですね〜。冬はやっぱり鍋でしょう!何て言うか温かくなりますよね、心も身体も。うん。でも、やさしいですよね、タマモは。シロを気遣ってて。でも、鍋が待ちきれないタマモも私は好きです。両方、いやタマモは、すべてが最高です!主役はシロだということですが私にはタマモしか見えませんでした!(爆)とにかく、横島君はいいですね、自分の家で温かい仲間が待っていてくれるのですから。良かったです、最高でした。では^^。 (りおん)
- どうも、生涯松茸を食べたことのないkitchensinkでございます(挨拶)。もう、シロ&タマモの可愛らしさ爆発、と言った感じの作品でした。勝手に他人の家に上がりこんでしかもすきやきを丸ごと食べてしまう雪之丞も「らしい」ですが(笑)。最初シロがヒドイ目に遭う話かと思いきや、ラストの温かみが何とも冬には打ってつけなエンディングだったと思います。投稿お疲れ様でした♪ (追伸:シロでも寒いんですね、アノ格好は←笑) (kitchensink)
- 凄い面白かったです♪
シロを中心としたほのぼのした雰囲気がツボにはまりました(笑)
にしても、いくら腹減ったからって、松茸持参だからって二人で全部食うなよ、雪之丞、タマモ(笑)
次回作期待してます♪ (ユタ)
- なんとゆーか。お礼を言わなければならないのはむしろ私の方でして。
選挙企画のために厳しい条件の中、賞品を書いていただきましてありがとうございましたm(_ _)m
今回の作品は、タマモの素直じゃない優しさや、シロの一途な想い(@料理)はもちろんの事、ゆっきーにしては甘めの『姉ちゃん』呼ばわりや、超高級和牛をみんなで囲んで食べられる鍋に仕立てたことまで、全てが『温かさ』に軸を据えて互いにかみ合っていて。
読んでいるこちらもすごく温かい気持にならせていただきました。やっぱり冬は温かい料理が幸せですね(謎)
ところで・・・
ちゃっかり新妻きどりのシロがかわいいっっ!!(爆) (斑駒)
- シロを泣かせたゆっきー、半殺し決定(■д■メ)
コロ「でも、松茸持って来てるでござるよ〜?」
持って来ていなかったら全殺しです( ̄ー ̄メ)
シロを泣かせた罪はそれだけ重いのだよ。
コロ「でもでも、どーやってやっつけるでござるー? ゆっきーどのは強いでござるよー」
うむ。その点にぬかりは無い(スチャッ)
――ピッ♪ ポポッ♪ ピッ♪ ピッ♪ ……プルルルルルル
あ、もしもし。弓さんですか?ワタクシ黒犬と申しますが…。えぇ、そうです。実は、雪之丞君の事なんですが……女の子二人の部屋に強引に押し入った挙句、不埒な振る舞いに及びまして……女の子の一人なんて、泣きながら逃げ出すような按配で……あ、そーですか?それならコースは“爽快”でお願いします……もう、思いっきり……
コロ「なんかセコいでござるー」 (黒犬)
- この度も、たくさんのコメントありがとうございます♪
りおんさんへ:ちょっとずれたご感想ありがとうございます(笑)主役はシロなので、くれぐれもお間違いのないように(笑)
キッチンシンクさんへ:かわいさ爆発でしたか〜(笑)ええと、服装については、すみません・・・、ちゃんと考えてませんでした・・・(汗)貴重なご指摘ありがとうございました♪
ユタさんへ:「期待の新星」様にコメント頂けるなんて、恐縮です(^^これからもよろしくお願い致します♪「温かい想い」はあとでまとめて一気に読まさせてください♪ (マリクラ)
- 斑駒さんへ:微力ながら斑駒さんのお力になれただけでも、すごく嬉しいです♪コメントありがとうございました〜(^^
黒犬さんへ:こ、これが、あの伝説の「パラサイトSS」ですね!!ついに私のところにも・・・(感涙)・・・と言いますか、かなり笑えます、これ(笑)「爽快」以外のコースも気になるところです(笑) (マリクラ)
- 冬と言えば、石狩鍋、鱈ちり、寄せ鍋ですよ♪(私が道産子なだけです)
ふっ、甘い。シロ、タマモ、ゆっきー。すき焼きは初めに肉を動物性油で炒めてから酒・味醂・醤油・砂糖を入れて行き、野菜などを入れて蓋をして煮込むのだよ(我が家は←爆)。野菜(特に葉もの)は熱を入れすぎると味が落ちるよ?(壊れ)
まあ、そんな一般常識の通じない三人が良かったですね(笑)。まあ、これが北の地域だとシロでもコートを羽織ったくらいじゃ絶対に風邪を引きますが(苦笑)。いや、東京の防寒具とやらは大した事…(以下自主規制)。 (マサ)
- 途中でシロが泣いちゃいましたが・・・そこのところは黒犬さんが手配なさっているので、お任せして・・・
最後の家庭的な雰囲気がいいな〜♪
シロはいい奥さんになりますっ!間違いないですっ!
最後の光景を「夫が帰ってくるまで、訪問者である自分の友人と夫の友人をもてなす場面」と受け取ったのは私だけでしょうか・・・・
三人が話の中で等しく動いていて、それでも主役がはっきりしていて・・・
「さすがです!」の一言に尽きます! (志狗)
- うわあっ!こっちでも賛成票を入れ忘れてしまった! (志狗)
- マサさんへ:コメントありがとうございます♪う〜ん、お料理がお得意のようで、すごいですねえ。一応、お肉が使えて、パッと頭に浮かんだのが「すきやき」だったんです(^^料理の細かい所は、字数制限にかかってたんで書けませんでした(涙)
志狗さんへ:そうですね、私もシロはいい奥さんになると思いますよ♪最後の光景は志狗さんのおっしゃる通りです。あの三人の動きのバランスを取るのは確かに大変でして、何度か書き直しもしました(涙)ご感想ありがとうございました♪ (マリクラ)
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