ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪!その1


投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/ 6)

「東京地方検察庁特別捜査部の者です。地方裁判所の捜査令状が出ておりますので立ち入り捜査をさせていただきます。」
 その日の朝、登校前のおキヌが事務所のドアを開けたとたん、背広の不似合いないかつい男を先頭に、妙な野球帽をかぶった鋭い目つきの一団が押し入ってきた。おキヌは混乱して10秒間ほども棒立ちになったあと、それが以前映画で見た強制捜査、いわゆる「ガサ入れ」である事をやっと理解した。
「ま・さ・か・無いとは思うけど、もしケーサツ・ケンサツ・ゼームショの人間が令状持ってきた時は、すぐに二階の事務室へいって本棚の横の一番下の照明スイッチを押すのよ!」
 おキヌがあわてて階段を駆け上がると、そこではもうすでに捜査官がダンボールを組み立て始めていた。事務室でも書類棚が片っ端から開けられている。おキヌは出来る限り自然な動きで照明スイッチを押しに行ったつもりだったが、演技が下手だったのか、始めからばれていたのか、しっかり中年の女性捜査官に腕を掴まれてしまった。
「この部屋は明るいから照明は点けてもらわなくても良いわ。ここはこれから少し散らかすから、外へ出ておいて頂戴ね。電話もしばらくはかけないで。ところで社長さんは今日何時ごろ出社なさるの?」
「え、いえ、もうすぐ…。」
 おキヌはしどろもどろになって思わず本当の事を言ってしまった。
「そう、ありがとう。」
 捜査官は慇懃無礼に事務室からおキヌを押し出しておいて、仲間の捜査官と何かはなしている。どうも美神が事務所に居るものと思って来たらしかった。
「曲者ッ!名を名乗れっ!!」
 屋根裏で声がした。おキヌはまたあわてて階段を駆け登る。
「だから東京地方検察庁特別捜査部…」
「ふざけるな!そんな長ったらしい名前の人間が今時この国にいるものか!!」
 シロが怒気をあらわに牙をむき、霊波刀を振りかざしてベッドの上で仁王立ちになっている。タマモはその後に座って何でも無い風を装いながら、横目で捜査官を観察していた。
「乱暴しちゃダメっ!!捕まっちゃうわよ!」
「でもこやつら余りにも無礼…」
「ダメっ!おすわりっ!!」
 おキヌはなんとかその場だけシロをなだめると、タマモとともに下へ連れて降りた。
「ケンサツというのは確か悪い奴を捕まえる所でござろう!?どうしてここに…」
「何故かは分からないけど、美神さんが悪い事をしたんじゃないかって疑われてるのよ…」
「なにっ!?美神殿を疑うとはゆるせん!!」
「お願いだからおとなしくしてて!あの人たちにちょっとでも乱暴したらそれだけで捕まっちゃうのよ!」
「うぬ…それじゃタマモ、あいつらを幻術で誑かして追い出すでござる!!」      「ダメよ。連中がみんな同じ帽子かぶってるのをみたでしょ?あの中に神鉄を仕込んであってテレパシーとか幻術にだまされない様にしてるのよ。それより美神さんに早く知らせた方がいいんじゃない?」
「そうなんだけど、電話は使えないし…そうだわ、人工幽霊壱号とテレパシー増幅機で…!」
 しかし、3人が道具部屋へ行こうと一階へ降りた時、すでに美神のコブラは事務所の前に到着してしまっていた。
 美神は車から降りた瞬間、何かまずい事が起こっていることを直感したが、時すでに遅く数人の捜査官に取り囲まれてしまった。
「美神令子さんですね?」
 お決まりの質問だが、そこは往生際のわるい美神である。
「ち、違うわ…私は吾妻よ!」
「吾妻と言うのは美神令子の父方の姓ですね。そちらの縁者に20代の女性はいないはずですが?」
「わ、私10代なのよ…。」
「吾妻家で10代の女性といえば12歳の小学生だけですが、あなた小学生で車運転してるんですか?」
「う…!」
「無駄な時間稼ぎはやめるんですな。東京地検の者です。」
 捜査官は目の前にしっかり広げた令状を突きつけて言った。
「美神令子さん、あなたを国家背任・公文書偽造・贈賄・脱税の容疑で逮捕します。」

 夕方になって横島が事務所に出てきた時にはもうすでに捜査は終了し、捜査官は帰っていた。片っ端からひっくり返して徹底的に資料を押収されたせいで、事務所内は惨憺たる状況である。
「うっわー…やっぱり凄まじい事になってるな…。」
 荒れ果てた事務室では、おキヌ、シロ、タマモが三者三様で座り込んでいた。シロは未だ怒りが収まらず、繰り返し狼藉者をののしっている。タマモは一見落ち着いた様子で腕をを組んでいたが、表情は思いのほか深刻だった。そしておキヌは、ショックと心労で放心状態になっている。
「三人ともここに居たのか…。」
 横島が入ってくると同時に、シロが大声でわめきたてた。
「横島先生っ、遅いではござらぬかっ!拙者悔しくてならん!!あのソーサカン共、いつか必ず成敗してくれるっ!」
「成敗とかそういう問題じゃねーだろ!!物騒な事叫ぶんじゃない!それより…おキヌちゃん、大丈夫?」
「横島さん…み、美神さんが…捕まっちゃった…。」
 おキヌは顔面蒼白で声も震えている。
「知ってる、ニュースで見てとんできたんだけど…とうとうなるよーになっちゃったなあ…」
「な、何でござるその言い方はっ!それじゃまるで美神殿が捕まるのが当然の様ではござらんかっ!!」
「背任やら偽造やらはわかんないけど、少なくとも贈賄と脱税は間違いなくやってるからな、あの人は…。お前はしらんだろうけど、美神さんはそれほど善人ってわけでもないんだよ。」
「…どうして?どうして横島さんはそんなに落ち着いてるんですかっ…?美神さん捕まっちゃったんですよっ…!?この事務所も無期限営業停止だって…。私、私…」
 おキヌは泣きそうになりながら横島にくってかかった。
「だ、大丈夫だよ、おキヌちゃん、そんなに心配しなくても。美神さんの事だから、保釈金かなんか払ってすぐにでてくるよ。事務所だって、あの人結構いろんなとこにコネあるからそのうち…。」
「いや、今回はそうも行かないんだ。」
 ドアの方からの声に振り向くと、そこにはいつになく深刻な表情の唐巣神父が立っていた。
「今回ばかりは美神君のお金やコネでも解決できないかもしれないんだよ…」

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