もう一つの物語(1)
投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/25)
「こんの馬鹿横島ああああ!!!」
高層ビルの工事現場に、美神の怒声が響き渡った。
いつものセクハラに対するものではない。本気で怒っている。
一方の横島は愕然としている。
「み・・・美神さん。私は大丈夫ですから・・・あうっ!!」
おキヌちゃんが苦しそうな声を出す。おキヌちゃんの左腕が、ざっくりと裂けている。
重傷だ。
「なにボケッとしてんのよ!さっさと文殊出しなさい!」
横島は我に返ったように手のひらに意識を集中させる。
そして【治】の文殊をおキヌちゃんの傷にあてがう。
文殊の効果はすぐに現れ始め、おキヌちゃんの傷が見る見る癒されていくのがわかる。
「もういいわ、横島クン。あんたは帰れ。」
「・・・すんません。」
いつもの能天気な横島ではない。苦渋に満ちた表情をしている。
簡単な除霊の筈だった。事実、美神が一撃で仕留めるほど簡単だった。
おキヌちゃんと共に行動していた横島は、霊を追い込み、美神がとどめを刺す位置に
誘導する。あと一歩だった。
建設中の高層ビル鉄骨の隙間から、夕日と、そして東京タワーが横島の目に入った。
一瞬の判断の遅れ。それがおキヌちゃんの大怪我に繋がった。
「ああ、それと」
立ち去ろうとしている横島に、美神の声がかかる。
「あんた暫く来なくていいわ。」
「み・・・美神さん!あれは、その、私がボーっとしてたからで、横島さんのせいじゃないんです!」
おキヌちゃんが横島を庇おうとするが、美神は厳しい顔のまま聞く耳持たずの態度がありありと出ている。
「すんません。」
もう一度呟くと、横島は立ち去っていった。
「最近・・・というか、ここ暫くずっと、横島クンは酷すぎるのよ。」
コブラを運転しながら、美神は病院へ向かっている。
「除霊に失敗するのはいいとしても、仕事中に、ボーっとすることが多いし。
GSの仕事は命懸けなのに、あんなんじゃ命がいくつあっても足りやしない。」
『横島さん・・・。』
おキヌちゃんは何か言おうとしたが、言葉が思いつかず、黙ってしまった。
横島はアパートに戻っていた。
万年床に寝転がり、自分の手をじっと眺める。
「くそっ!」
横島忠夫19歳。無事高校をなんとか卒業し、美神の丁稚として
まだアルバイトをしていた。
横島は自覚していた。
最近、自分はおかしい。どこがおかしいかと問われると答えられないが、
何かがおかしい。あるいは、疲れたのか。
大切な大切な、あいつを失ってから、自分の何かが変わったような気がする。
相変わらず、覗きをしてぶちのめされたり、セクハラをして簀巻きにされたりしているが、
もう一人の自分が、それを冷静に眺めているような、そんな感じもしていた。
『俺は何してんだ・・・?』
横島は、そこで思考を中断させた。
扉の向こうに僅かな気配を感じる。と、気配が扉を無造作に開けて、ドカドカと入り込んできた。
「よう、邪魔するぜ。」
そういうと、部屋の主に断りもせず、おもむろにカップ麺をあさり、やかんに水を入れ始める。
「お前なー。ちったー遠慮って言葉を勉強してこんかい。」
横島は苦笑しつつ、自分のカップ麺の用意を始めた。
「そういうな。俺とお前の仲じゃねーか。」
「わけのわからんこと言っとらんと、俺の分の湯も計算しとけよ、雪之丞。」
「で、相変わらず美神の旦那にこき使われてるのか?」
カップ麺を美味そうにハフハフと食いながら、雪之丞は横島に訊ねた。
「ん?ああ、まあな。」
曖昧な返事を返す。雪之丞は気づいた様子もなく、カップ麺を食うのに没頭している。
「まあ、このご時世、バイトでもありがたいじゃねーか。俺は2日食ってねーんだ。」
「何でだ?お前ほどの腕なら、いくらでも雇ってくれるところあるだろ。」
横島は食い飽きたカップ麺を、不味そうにすすってる。
「前歴があるからな。美神の旦那ほど肝が据わった雇い主じゃねーと、俺なんか
雇ってくれねーよ。」
「ふーん・・・。」
横島はふと思案顔になる。
麺が伸びるのも構わず、じっと考えていた横島は、雪之丞に話し掛ける。
「なあ、雪之丞。」
「あん?」
「お前、美神さん所で働いてみる気はねーか?」
・・・続く。
今までの
コメント:
- これは意外な申し出。いいのか?丁稚風情がスカウトなんぞして? (トンプソン)
- どうも皆様初めまして。
このページを知ってから、随分と楽しませて頂いております。
そうすると、無謀なことに、自分でも書いてみたくなりました。
実は、こういうのを書くのは完全に初めてです。
一度書き始めると、止まらなくなり、2週間かけて一気に書き上げました。
下手くそな文章はお許し下さいませ。
また、展開予想ほか色々な文章に目を通しておりましたので、無意識に他の人のネタ
をぱくってる可能性もあります。平にご容赦ください。
あと、序盤はシリアスでのスタートですが、基本的にラブコメだったりします。
そういう展開が苦手な方は、大変恐縮ですが、読み飛ばして頂ければ幸いです。
長文投稿が続くと思いますが、よろしくお付き合いをお願いいたします。 (hoge太郎)
- おお、トンプソンさん。早速のお返事ありがとうございます。
導入で興味を持って頂き、ほっとしています。
どうにも暗すぎるかなーって思っておりましたので。 (hoge太郎)
- hoge太郎さん、初めまして。こちらはkitchensink(キッチンシンク)と申します。以後よろしくお願いします♪ この(1)を読ませていただきました印象ではhoge太郎さんが仰るほど「下手くそな文章」ではないと思いますよ。寧ろ非常によくまとまっている気がいたします。アシュ編以後、「自分」で居る事の出来ない横島クンでありますが、果たして彼が雪之丞を除霊事務所に紹介しようとした魂胆は何なのでしょうか? 次回に移ります♪ (kitchensink)
- hoge太郎 さま、どうもはじめまして。
“ギャグ歴ist【通称:ギャグレキスト】”の後藤と申します。
以後とも、コメント部では宜しくお願い致します。
大切な人を失ってからのお話ですか。
横島にとってはさぞ辛いでしょうね。
にしても、横島の周りには何で遠慮ない人が集まる(登場する)んでしょうか?
しかもタイミングよく……(苦笑) (ギャグレキスト後藤)
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