ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(狂狼)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 4/21)




 ー終曲ー



 月明かりの下、雄叫びが響く。

『ーーーるああああああ!!!!』

 それは精神に異常をきたし、もはや全ての存在を、ただ引き裂く事しか出来ない狂狼。

 我を忘れ、心を失い、魂を狂わせた狼は、右手に在りし『牙』を無造作にふるった。

 ザキン!

 城の外壁に、狂狼の爪の痕が大きく刻まれる。
 闇の結界をたやすく両断し、ふるった爪は魔城に大きなダメージを与えていた。

『フゥー・・・フウウウウ・・・!」

 息荒く、血走った眼。
 そこには、理性など一片も残されてはいない。

 そのまま狂狼は、獲物を求め城の中へとーー・・・

『待て』

 その声が先か、振り下ろされ、空を斬り裂きし刃が先か。

 予想を上回る獣の疾さに、敵戦力の修正を行いつつ、男はその切っ先を空から見下ろす『獣』に向けた。

『行かすわけにはゆかん・・・ここで散れぃ!』

 月明かりの下、狼と刃が交錯する。



 光撃は止む事なく。

「どうやら・・・ジリ貧ってやつですね・・・」

 男は軽口を叩いた。 その間にも迫る光撃を、水を束ね合わせた盾、彼いわく『水鏡』により散らす。

(向こうも・・・完全に呑まれましたか)

 水鏡を維持する事による、莫大な霊力の消費。 それに加えての心中の迷いと焦燥によって、くせものと呼ぶにこれ以上相応しい者もいない、そう周囲に言われ続けたGS協会副会長の心身も、足元からぐらつきかねない程の疲れに蝕まれつつあった。

「水鏡もあと四、五回・・・この針も・・・」

 目前の女性、確かデナリウスと呼ばれていた、光撃兵器の如きその女性の体は常に、薄い光の膜に覆われている。

(隙をつこうと、この霊障水針は打ち込む事も不可能・・・)

 思考が巡る。 
 前方に進むのは、ほぼ不可能。
 穿たれた穴より彼の元に行くにも、後ろへ退くにも・・・背を向ければそこでアウト、背中から腹に大穴を開けられる。

(どうする・・・どうする・・・!?)

 頬を伝う焦りの滴。
 ここまで自分が、切り抜けるに難い状況というのも久しい。
 そうして最後の水鏡を顕現させようとした瞬間。

『オ、オおオおゥウあア!!!!』

 デナリウスの赤光とは違う、三日月の形の白色光が、彼とデナリウスとを分けた。

「ーーーく!」

 副会長の面に更なる焦りの色が浮かぶ。

 斬り裂かれた壁から覗く、その外の光景。

 そこに居るのはやはりーー・・・


『待て』


 曇り無き刃のように、淀み無き清流のように。


 現れたその男は、『狂狼』に切っ先を向けた。

『行かすわけにはゆかん・・・ここで散れぃ!』

 狂狼と刃が交錯したーー・・・



「ここですね」

「私が、美智恵さんに頼まれた事、私にしか出来ない事」

「雪之丞さんの心を戻す事・・・!」

「その為に、この場の過去思念を呼び覚ます!」

 
 高らかにそう叫ぶと、彼女、陸奥季綾は瞳を閉じた。





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