livelymotion【プログラム:13「悠久の風“死霊の王者・覚醒編”」】
投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 8/13)
正確には、独力で勝てればそれで良し。
やってみてダメだったなら、後始末を仲間に任せるというだけのこと。少々勝手だが。
それでも自分は客観的にみれば、囮という一番割に合わない仕事を受け持って味方に貢献している。
因みに思いついたのは、彼女が出てきてからだ。
「小さい勝負にこだわりすぎたのが、テメーの敗因だよ。ま、今回はどの道相手が悪過ぎたがな。
俺の仲間はな、困ってるヤツかたっぱしっから助けようとするんだよ。無茶苦茶なヤツらだぜ。
そんな無茶苦茶押し通しながら生きてんだよ。何度でも言うぜ。弱いよテメーは。
テメーは自分一人守れなかったんだ。救った人間数知れねェ、そんなあいつらにゃ勝てっこねェ」
<それが貴方の言う科白?自分を否定してるわよ!>
「してねーよ。俺は確かに何も守らない。だけど生きてる。それは強さだ」
ただ、友人達の強さは、ほんの少しばかり自分よりスケールが大きい。だからって劣ってるつもりはないが。
<それにしても…この光る風はいったい……>
「…もしかして、と思うんだが、風ってのはなんだ?」
<何、って…?>
「確か、空気の流れ、であってたはずだよな。それと音ってのはさ…」
<空気の、振動…つまり、これは『視覚化された音』…?>
「圧縮された霊力が…音――『笛の音色』という存在形式から飽和して気流になったとするなら…」
<霊気流…だから発光してるんだわ……でも、触っただけで憑依が外されるなんて…>
「不思議じゃねーよ。心霊治療は、自分の霊力を注ぎ込んで他人の分を補充してるんだ。
つまり、自分の霊の一部分を切り離して相手の霊波に同調できる――ジャミング――軽い応用だ」
もっとも、全霊体を同調できないわけだから防御としてのジャミングはできない。
「ネクロマンシーの射程範囲でヒーリングをやる――シカケはこんなとこだろ。
タネは、やっぱこの霊気流か。霊力が本来の姿で具現してやがるから、波長を調節しやすい」
つまり根本の原因は、霊力の放出量上昇。
彼女の霊力の総量が増したのか、放出させる技術が上達して効率的に放出してるのか。
だいたい可能性はこの辺。両方と考えるほうが妥当だろうか。
霊力がバカスカ成長するタイプ、というのは世の中いる。
しかし彼女はこれらの人間と共通項では結べない気がする。なんと云うか、直感であるが。
こと霊能に関しては、理屈では定義できないからというわけではないが、
あてずっぽうのほうが的中しやすい、というのはある。彼女の霊力は十中八九低いだろう。
一方、たとえ霊力の制御を最適化したところで、限度というものはある。やはり両方か。
しかし、経過はどうでもいい。重要なのは、彼女がこうして爆発的にレベルアップしたことだ。
「こりゃあもう、成長というより進化だな。ボケてると思って侮ってたら、やってくれらぁ」
<く…あたしは、こんな力に負けたくない…ッ!>
言って、雪之丞に突進する。雪之丞も、彼女の考えを悟り、霊波砲を放つ。
最後の最後の勝負。成仏させられる前に決着を。
彼女は、雪之丞の霊波砲を避けようとはしない。
周囲は光る風に包まれて迂闊には動けないのだ。
それよりは、この弱々しい霊波を甘んじて受けるのが得策。
ドンッ
霊波砲が光る風に着弾して炸裂した。彼女には予想外の出来事。
ズギャッ
続けざまの霊波砲で、隙だらけの彼女を吹き飛ばし、光る風のほうへ突っ込ませた。
<こんな……こんなのって...>
「テメーは、つまらねーよ。俺が戦う価値はねェ。テメーみてーな、はじめから強かった奴は」
<形見でも、もらってくれない?>
「意味がねーな」
雪之丞は、冷淡に答えた。
「俺とお前が同類だとするなら、俺らしさを生き残らすほうが供養になるんじゃねーか?
俺は、過去に囚われる生き方は嫌いだ。それにやっぱり、俺はお前じゃ熱くなれねェ」
<そっか。うん。そーだ。ありがとう。短い付き合いだったけど、ほんと大好きだよ>
彼女が完全に消え去ったのを確かめてから、雪之丞は静かに呟いた。
「いい加減うんざりだぜ。救えないバカを看取るのは、よ」
――力が強さじゃない。
どんなに凄い力があっても、我が身を盾にする強さは、彼女にしかありません。
どんなに無力だったとしても、彼女は同じ事をするでしょう。不変の強さなのです。
力が強さじゃない。
どんなに凄い力があっても、一人ぼっちで立って進む強さは、彼にしかありません。
どんなに無力だったとしても、彼は同じ事をするでしょう。不変の強さなのです。
私には、どちらの強さもありません。私だけの強さは、はたしてどこかにあるのでしょうか?
私はこの戦いで、一歩先へ進みます。けれど、どこへ向かえば強くなれるのですか?
私は強くないけれど、仲間たちに応えたいのです。だから今は、チカラも要るんです――。
およそ、進化の理由としては、それだけであったといっても過言ではない。
王とは、真に王たる器の王とは、命じることはしない。
そのような王には、命じる必要がない。民のほうから差し出すものだ。
それが死霊の王者――ネクロマスター――。
そしてそのチカラ、エターナルウィンド。
全てのスケルトンが光る風の中に消えていくのに、五分はかからなかった。
マリアの腹部の損傷には、ジェルコートで応急処置され、雪之丞はマリアに担がれていた。
「雪之丞サン」
ふいに、マリアが口を開くので、雪之丞は、あん?、と軽く反応する。
「負傷・痛みますか?」
「なんでぇ、やぶからぼうに」
「知的好奇心・です。それに・先程・同じ・質問・マリア・答えてます」
「…………ケッ、こんなの痛い内に入るかよ。どてっぱらに穴開いてるヤツもいんのに」
「マリア・腹部・痛いです。しかし――」
「しかし?」
今度は少し先を歩くキヌが反応した。
「『痛い』…それが・どんな・感覚か・マリアは・知らないのです」
「気にするほどのもんかよ。知らなくたってウン百年も生きてこれたんじゃんか」
「危機察知という・意味での・痛覚は・機能していますから。
しかし・痛みを・つらいと・感じた・あの霊の・気持ち・理解できませんでした」
「つらいことなんて――」
キヌが言いかける。そこに割り込むのは雪之丞
「ないにこしたことはねーさ。持つ者の余裕と思うか?
だが、そいつを言ってしまえば、結局持って生まれたヤツは痛みから逃げようがないし
持たずに生まれたヤツが味わうこともきっとねーよ。つまり話すだけ無駄、ってな」
「おどかしてくれるぜ。あんなにパワーアップしてやがるなんてな」
「あ……あぁ、あれですね?まぐれですよ。いつもとどう違うのか自分でも解らないし」
「おいおい、まさかもう再現」
「できません」
「もったいねー。なにやってんだこのオトボケ女」
「そうですけど、とりあえず、私でも頑張ればあーゆーことができるって解っただけで
私は満足です。頑張って修行すれば、いつかつかいこなせるんですから」
屈託ない、などという言葉がこれ以上ピッタリはまる笑顔もないだろう。
少なくとも雪之丞は、これ以上毒気ない微笑みは知らない。
「いつか、じゃねーだろ。今すぐマスターしろよ。全く欲のねーヤツ…」
「やっぱり、私はそうなのかなぁ……」
「ま、お前にはそれを補って余りある才能があるよ」
「なんですか、それ?」
「お――俺と勝負して勝ったら教えてやるよ」
言いかけた言葉を飲み込んで、いたずらっぽく笑う。
「そんなぁ…無理に決まってますよぉぉ…雪之丞さんがいじめる……」
「あのな。言っとくが、こればっかりは弓のヤツに脅迫されたって言わねーぞ」
――人を動かす…いや、自発的に動かさせる才能。人の心を惹きつける、王の資質ってヤツだよ。
惜しむらくは人の上に立つには向いてない性格。雪之丞は一人苦笑した。
「結局、お前が正しかったみたいだな」
雪之丞が静かに告げると、キヌはそちらに首を捻る。
「え?」
「それぞれが、できることを、みんなのために――俺は暴れ、ロボットがお前を護り…お前は
あの悪霊どもを救った。全てが円満に解決した。お前は強かった。俺は…勝てなかった」
「私が霊の皆さんに伝えた気持ちは、雪之丞さんとマリアのことです」
「俺?」
こくん、と緩やかに頷いて、キヌは続ける。
「二人は本当の意味で強いから、私の尊敬できる友達だから、だからきっと
その強さが伝わったら、霊達、理解してくれると思いました。
でも、ちょっと胸が一杯になっちゃって、他の事は忘れちゃったから再現できません。
雪之丞さんとマリアが、私達を勝利に導いたんです。雪之丞さん、強かったですよ」
「横島よりもか?」
「はい。ははははは……」
引きつった笑いを浮かべる。さすがにこの質問は精神的に辛いものがある。
「美神の大将よりも?」
「えっと……いたッ!?」
うめくキヌ。ふいに、雪之丞がデコピンをしたからだ。
「気づけって。からかってたんだよ。俺はこれからもポリシー曲げないぜ。
守りに入るってのは負けそうになってるってことなんだ。強い俺はそんなことしねェ。
勝つためには、自分から攻めてかなきゃはじまらねーんだ。護る時だって攻める」
「そう…そうですよね。もう!意地悪もいい加減にしてください」
「ありがとな」
「え?」
「なんでもねーよ」
「一つ・疑問が・あるのですが」
それまで沈黙を保っていたマリアが口を開く。二人はマリアを注視して次の言葉を待つ。
「とても・重大な・問題です。解決しなければ・除霊終了とは・言えません」
マリアの表情からは、当然のことながら、なにも読み取れない。
そしてエピローグへ
今までの
コメント:
- 前回コメントで「話が一段落ついた」と言ったのですが全然一段落してませんでした(汗)←すいませんすいません マリアに最初に憑依した「彼女」を除霊する仕事が残ってましたね。その際のネクロマンサーの笛、およびネクロマンシー全般に関するダテさんの考えが興味深かったです。ここらへんの考察力&洞察力はさすがという感じです。おキヌちゃんたちが「チーム」として機能できたもう一つの理由は彼女たちが性質は違うもののそれぞれが色々な「強さ」を併せ持っていたからなんですね。軽口を言い合う場面からも仲の良さが伝わってきます(ゆっきーが聞いたら真っ先に否定しそうですが←笑)。次回エピローグも楽しみにしております♪ (kitchensink)
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ]
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa