ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(15)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/10/26)

 「美神さん!。」

 横島は彼女のもとに駆け寄ると、その身体を抱き起こした。

 「な・・・に情けない声・・・だしてるの。」

 美神が苦しそうに呟く。

 「美神さん大丈夫っスか!ケガは?・・・。」

 「大丈夫よ・・・。倒れた時に・・・脇腹を強く打って、暫く息ができなかっただけ。」

 苦しそうに顔をしかめているが、話し方はしだいに元にもどってきた。特に傷が無いところを見ると
、間一髪で相手の攻撃をよけたらしい。

 「よかった。てっきりやられたのかと思ったっスよ。」

 「私がそんなヘマするわけ無いでしょ。それより、あいつの様子はどうなの?」

 安心したせいか、いきなり目が潤んできたので、慌てて敵の様子を窺うふりをして美神から顔をそら
す。

 「文殊が効いてるみたいっス。ピクリともうごきません。」

 空中に浮いている霊体の真下で文殊が淡い光を発している。

 「そう。作戦成功ってところね。」

 そう言うと美神は立ち上がった。

 「・・・してくれて、ありがと。」

 美神がポツッとなにか言ったようだが聞き取れなかった。

 「えっ、何かいいましたか?」

 「なんでもない。それよりあんた、さっさと顔をふきなさい。敵はまだ目の前にいるのよ。」

 あわてて目のまわりを手でふく。だが、そう言う美神の顔も心持赤い。

 『美神殿、大丈夫でござるか!』

 そこへシロが飛び込んできた。

 「シロ!、なんでここへ来るの!。アンタの仕事はおキヌちゃんとタマモの護衛だって言ったでしょ
  !!。」

 たちまち美神のカミナリがおちる。シロは『キャン』と子犬のように一声鳴くと横島の背後に隠れ、
その肩越しに顔をのぞかせた。

 『だって、部屋の外には敵はいないでござるし、中からセンセーの声が聞こえてきて心配だったでご
  ざるし、おキヌ殿にもこっちは大丈夫だから美神さんを助けてあげて、って言われたでござる。』

 「まったく、いっつも自分のことは後回しなんだから、あの子は・・・。いい、シロ、こっちは最初の
  作戦どおり敵を文殊でしばってあとは止めを刺すだけだから、横島クンと二人で充分よ。あんたは
  すぐに持ち場にもどりなさい。」

 『でも・・・』

 「私に逆らうってことは、あんたこれから一ヶ月間ご飯と魚の骨だけですごしたいって訳ね?」

 『うっ、わ、わかったでござる。言うこときくからそれだけは勘弁してくださいでござる。』

 「シロ、いそいでおキヌちゃんたちの所へ戻ってくれ、なんか様子が変だ。」

 それまで美神のかわりに敵を監視していた横島が緊張した声をだした。まわりをみるとまた浮遊霊達
が集まりはじめている。シロは無言できびすを返すと部屋を飛び出していった。

 「う・・・そっ。こんなことあるはずが・・・。」 

 相手に向き直った美神が驚愕の声をあげる。文殊の力が破られはじめていた。横島の文殊は、一時的
とはいえメドーサさえ縛ったことがある。ただの人間の霊体にそれをうち破るのは不可能だ。だが実際
に相手の真下に転がっている文殊には、次々とひびがはいっていく。そして、そのかわりとでもいうよ
うに、相手の霊体も腹の部分が消失し、胸から上だけの姿になっていた。

 (こいつ、自分の霊基構造を消費しながら力をだしているの?)

 『ガァァァァァァ!。』

 相手の咆哮と共に文殊が砕け散った。同時に先程美神を襲った武器、血槍が全身から噴出する。

 「美神さん!!」

 横島はとっさに美神の前にでると、サイキックソーサーで楯を作り身体を覆った。それに相手の血槍
がマシンガンのように叩きつけられる。敵の攻撃は見た目は血が噴出しているだけのようにみえるが、
実態はレーザービームのように収束された霊気である。一方、サイキックソーサーの方は防御面積を広
げたため強度が低下していた。縁の方はすでに何発か貫通している。

 「美神さん、早くなんとかしてください!。この楯はそんなにもたないッスよ!!」

 「わかってるわよ!。男の子なんだからいちいち情けない声ださないの!」

 美神は横島を一喝すると相手を睨みつけた。

 「さっきから散々悪足掻きしてくれたけど、これが最後よ。この美神令子が極楽へ送ってあげる!」

 そう宣言すると同時にネックレスに付いている最後の精霊石をひきちぎり、相手に叩きつける。閃光
が剥き出しの霊体を焼き、相手がひるんだすきに美神は渾身の力で神通棍を振った。

 パァーーーーーン!!

 光の鞭と化した神通棍の先端は音速を超え、衝撃波を発生させながら標的を縦断する。

 『ギャーーーー!』

 断末魔(?)の悲鳴と共に相手は消滅した。

 「やっと終わった。」

 横島はおもわず床の上に座り込んだ。同時にサイキックソーサーが砕け散るように消失する。

 「そうね。やっと終わったわ。でも今回はざっと見積もっても10億以上の赤字よ。こりゃ今晩は一
  杯飲まなきゃとても眠れそうにないわね。」

 そう言いながら、美神は横島の襟首を掴むと女性とは思えない力で引きずり上げた。

 「ほら、さっさと帰るわよ。私はこんな所に長居する気ないんだから。ぐずぐずしてると置いてく
  わよ。」

 それだけ言い捨てると、彼女は横島に背を向けてさっさと部屋からでていった。

 美神を追いかけて部屋を出ると、タマモが一人で待っていた。

 「あれ、タマモ、他のみんなは?」

 『先にいっちゃったわよ。』

 「そっ、そう。それでおまえが待っててくれた訳か。ありがとな。」

 『礼を言う暇があったらいそいでよ。あたし、あんたとここで置いてきぼりなんてまっぴらなんだか
  ら。』

 「わかったよ。」

 横島はタマモと並んで歩き出した。

 「なあタマモ。」

 『なによ。』

 「おキヌちゃんたち、なにか怒ってるのかな。」

 『なんでそう思うの。』

 「いや、今まで仕事が終わったあと声もかけずにいっちゃうなんてことなかったから。」

 タマモの瞳が面白そうに輝きだす。

 『あんたなにも覚えてないの?。』

 「なにを?。」

 だんだん不安が募ってくる。タマモは逆に笑いを堪えるような顔をしている。

 『さっき文殊だしたときのこと。』

 不安は的中した。一瞬目の前が暗くなる。

 「俺、美神さんにシバカれててあのときのこと良く覚えてないんだけど、なにか変なこといったのか
  な?」

 タマモは足を止めると、とうとう笑い出した。

 『すごかったわよ。聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなっちゃった。』

 ひとしきり笑った後、タマモは横島がトリップ中に口走ったことを忠実に再現した。どうやらアパー
トで考えていたことをそのまましゃべりまくったらしい。

 『いつまでも美神さんのお尻を追い掛け回しているだけかと思ったら、横島もなかなかやるじゃない
  、すこし見直したわよ。あーあ、康則君はやく大きくならないかな。そしたらあたしも・・・。』

 タマモが清楚な美貌に似合わぬきわどい発言をしていたが、横島は聞いていなかった。彼にはこの後
己を待つ運命がはっきりと見えていた。

 『タマモー、早くくるでござるー。ぐずぐずしてるとおいてかれるでござるよー。』

 玄関の方からシロの声がきこえてくる。タマモはそれに応えると無邪気な顔でさらに横島にとどめを
さした。

 『そうそう、これはあんたには言うなって口止めされたんだけど、あの三人、事務所に帰ったらどん
  な手を使ってでも相手の女のことを聞き出してやる、っていきまいてたから、もしいっしょに帰る
  つもりなら覚悟決めといたほうがいいわよ。』

 終電の時刻も過ぎ他に手段が無い以上、事実上の死刑宣告だった。

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa