ザ・グレート・展開予測ショー

Coming her to HONG KONG(Z)――捕縛――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/28)

(帰ってきてないか……)
 明飛は嘆息した。……事務所には師の姿はない。何処をうろつき回っているのかは知らないが、逆にこれで腹も決まった。
「何をキョロキョロしているんですの?」
 入り口で待っていてもらっていた女性が、声を投げてくる。顔は向けずに手を挙げて応えながら、明飛は倉庫の中へと入っていった。……流石に、ここに部外者を立ち入らせるわけにはいかないだろう。あとで師に何を言われるか……
 神通棍、破魔札、精霊石…… ここにあるのは基本的な道具ばかりだ。師がそういったものをあまり必要としない為、必要最小限の物しかここには置いていない。……だが。
(あった……)
 拳銃。そして、銀の弾丸。
 霊力を込めた銃弾を、自らの霊力とレバーを引くという動作のみで発射する事が出来、その上高威力で値段もお手ごろ。まさに新人GSにとっては願ってもないアイテムだ。当然、今の自分にとっても。
「見つかりました! 行きましょう!!」
 辺りに散らかした高価な道具類もそのままに、明飛は事務所を駆け出した。……後ろから女性も付いて来る。
 出来るだけ時間を掛けたくはなかった。……時間を掛ければ、その間に例の教師の霊は再び霊団を引き寄せるだろう。あのタイプは自分の行動の為に手段を選ばないから厄介なのだ。
(くそ……自転車は置いてきちゃったし、車もないし……)
「乗り物はないんですの?」
 思考に割り込んで、女性が自問と同じ質問を投げてくる。……そちらを見やって、答える。
「乗り物はないですね…………走っていくしか」
 現場の学校までは5キロはある。それを考えれば気が遠くなる話ではあるが、現状ではそれ以外に方法はない。
「……それなら、仕方がないですね」
 不意に、少し後ろを付いて来ていた気配が消える。……慌てて振り向くと、女性は立ち止まって、懐中電灯(自分のリュックから勝手に取り出したらしい)を点け、車道脇で親指を上に向けた手を、道路に突き出していた。
「……え?」
 車が通る。……そして……
「……えーと Excuse me……Please stop!」
 彼女はあろうことか車道に飛び出して車を止めた。ドライバーと英語で何かを言い合っているようだ……
 3分ほど後、
「乗せてくれるそうですわ」
「…………」
 無論言いたい事はあるし、言わなければならない事もある。……自分は常識をわきまえた人間として生きて行きたいし、そうしなければならない。……しかし…………今は場合が場合だ。明飛は自分を無理矢理にそう納得させて、何故か怯えた目をしているドライバーに会釈しつつ、その日本車に乗り込んだ。


 5キロの距離も、自動車の速度ならば数分で駆け抜けることが出来る距離に過ぎない。
 最後まで怯えた表情を崩さなかったドライバーに哀悼の意を表しつつ別れを告げ、明飛と女性は仕事場の学校の前に戻ってきていた。……霊気は感じるが、所詮それはそれだけのものでしかない。感じられても姿が見えなければ何もすることは出来ない。
「さーて……どうやって攻めましょうか……」
「敵はどんな霊ですの?」
 何やら手帳のような物を広げつつ、彼女。それに答える。
「ええと……敵は教師の霊で、主な能力は集霊能力と黒板に変な文字を書く能力。単体では目立った能力はなさそうですね」
「……その黒板の文字、確認した?」
「? いえ?」
「恐らくそれは文字ではなく『記号』。その霊は冥界の門を作り出す能力を持っているみたいですわね……あなた、GS助手ならそれ位確認してから行動なさい」
 ……どうやら、自分は物凄い人と一緒に居るらしい。
 そもそも、師のやり方を真似てやってみたのだが、それすらも基本からは外れているらしい。ここに師が居れば、『倒しゃいいんだ』とでも言うだろうか…… ともあれ、ここは彼女の意見が正しいのだろう。
「……すみません」
 故に謝って置く。理由はないが、生まれ持った感覚というか、そういうものだ。……ちなみに師はこの行動を毛嫌いしていて、迂闊に腰を低くしようものなら掌底が飛んでくるのだが。
「……まあいいわ。行きますよ」
「ハイ」
 内心複雑な思いを抱きながらも、明飛は彼女を追った。


 雑貨屋の戸をぶち破り、店主を締め上げて購入した(何故か異様に安かった)クラッカーと、食料品店の戸をぶち破り、店主を締め上げて購入した(これまた、何故か殆ど無料に近い値段で購入する事が出来た)デコレーションケーキを持って、雪之丞は事務所へと急いだ。
(これで……あとは部屋の飾りつけ位か……)
 先程は気付かなかったのだが、民家の屋根の上を飛び移って走る分には、殆ど誰にもみとがめられる事はない。……故に、魔装を纏って可能な限り急ぐ。
 事務所はもう目と鼻の先だ。大丈夫だ……間に合った。
 その時。
(――!?)
 咄嗟に思いっきり横に飛ぶ。……あのまま走っていたら今自分が居るはずの場所を、霊体ボウガンの矢の軌跡が通り過ぎてゆく。
「誰だっ!? 俺に恨みがあるんなら、後で相手してやるから今は帰れ!!」
 ボウガンが飛んできた方向(向かいの家の窓だった)に向けて叫ぶ。……が、
「!……なっ!?」
 気がついたら眼下の通りを埋め尽くす赤色灯。
 向かいの家の窓のみならず、ほぼ全ての家(今屋根に立っている家含む)の窓から身を乗り出し屋根に登ってくる、どう考えても普通の公安官ではない、防弾チョッキやら暗視ゴーグルやらを装備した特殊部隊。
 それらが、全て自分に銃口を向けてくる。
『伊達雪之丞!! 貴様は完全に包囲されているっ!! 大人しくお縄につけば警部の額に『肉』と書きやがった件だけは不問にしてやるぞ!!』
 拡声器により拡大された声が叫ぶ。声から察するに、どうやら自分の尋問に立ち会っていた公安官らしい。いや、少なくとも冷静ではない。かなり逝ってしまっている瞳を爛々と燃え滾らせ、肉眼で見えかねないほどのオーラを纏って叫んでくる。……あれで降伏勧告をしているつもりなのだろうか……こちらも息を吸う。
「うるせぇっ!! こらクソ官憲! 深夜にこんな所に大挙して現れやがって……少しは付近の住民の皆さんの迷惑を考えやがれっ!!」
『貴様が言えた義理かっ!!』
「何度でも言ったるわヴォケェェッ!!」
 ぱす。
「いいか!? テメェらは……らは…………」
 何か力が抜けて行く。……これは……薬物だ。弾頭ではなく、周囲に気化麻酔弾を撒き散らす薬物……こ……れは……
「0時15分……確保ォォッ!!」
 その声は、完全に破壊された意識の中でも、ぼんやりと聞こえてはいた。


 現在時刻、0時15分

                            ――To be continued――

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