推定無罪!その 4
投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/10)
「美神令子、面会人だ。」
看守が面倒臭そうに格子扉を開ける。美神は背筋を伸ばし、「フン」と鼻をならして居丈高な態度で外へ出た。
東京地検本部にある霊能者専用の拘留房は極端に厳重である。テレパシーを防ぐための神鉄板入り隔壁、一定以上に霊力をあげられない様にするための霊減圧結界、危険な霊体を感知するスキャン装置、心霊装備をした専任看守。とかく検察に連れてこられる霊能者にはハイレベルで悪質な者が多いからだ。しかし、普段ならその「ハイレベルで悪質」の典型である美神も、今回ばかりは大人しくしている。
GS協会から派遣されてきた弁護士が言ったのは、とにかく黙って一言もしゃべるなという事だった。人の言う事をきくのが大嫌いな美神もこれには今のところ従わざるをえない。しかしいくら厚顔な性格の美神でも、検事の執拗な尋問中、腹に一物持ちながらだんまりを通すのは強烈なストレスであった。今も房を出て歩きながら額には青筋が浮かんでいる。ああ、悪霊しばき倒したい…悪霊出ないかな…でもこんな霊減圧されたところじゃ出てもしばきがいがないか…誰かにわめき散らしたい…面会って誰かしら…誰でもいいから当り散らそう…でも弁護士だと無理か…。そんな思考が頭の中をぐるぐる回る。そう言う意味で確かに検事は美神を追い詰めることに成功していた。
美神が面会室に入ってみると、来ていたのは母の美智恵だった。オカルトGメンとして、彼女は西条以上に苦しい立場にある。肉親である容疑者の面会に来たりすれば、検察からも監査官からもマークされるのは免れない。しかし娘の置かれている状況がわかっている以上、美智恵はGメンである以前に母親であった。
「大丈夫?令子…」
「うん、ま、なんとかね。ママのほうこそ…」
看守が出ていくまで、二人は普通のなんと言う事も無い会話を交わす。、しかし面会室のドアが閉められるやいなや、美神は顔を思いきり引きつらせ、拳でバンバン机をたたきまくりながら憤懣をぶちまけた。
「ベッドが臭いのよ!検事がいやみったらしいのよ!看守がクソ生意気なのよ!私をスケープゴートにしてただですむと思うな!みてろ検察!みてろ国自党―!!」
美智恵はやれやれという表情をしつつも、娘が少し過激すぎる愚痴を一通りわめき終わるまで黙って聞いてやる。実際、このために来たと言っても良かった。
「…だから連中に必ず絶対思い知らせてやるのよ!私が美神令子だって事をね…一泡ふかせて…。―そうだ、ところでママ、事務所とおキヌちゃんたちは今どうなってる?」
なんとかストレスを発散して、やっと自分以外の事に注意を向けられる様になった美神が訊ねる。
「事務所はかなりひどい状態になってるみたい。どっちにしろ営業停止処分が出てるし、今は閉めとくしかないわね…。おキヌちゃんたち4人には唐巣神父が説明しに行ってくれて、全員この件からできるだけ離れる様に言ったらしいんだけど、4人とも自分で勝手に住むところや働き口決めちゃって、全然言う事きいてくれないみたいよ…。」
「まったくあいつら…どうして人のいう事が素直に聞けないのよ…。」
「あなたの教育のせいなんじゃない?」
痛いところを突かれて一瞬詰まってしまった美神に苦笑いしながら、美智恵は声を落として言った。
「彼らが下手なことをすると話が余計にややこしくなるから、選挙まで離れててほしかったんだけど…みんなもう子供じゃないからね。まさか捕まえてどこかへ押しこめとくってわけにもいかないし…。正直、もうややこしい事になりはじめてるのよ。」
「ややこしいって、どんな…?」
「おキヌちゃんは六道さんのとこに下宿、横島君は厄珍堂でアルバイト、シロちゃんは横島君のアパートに居候、タマモちゃんは行方不明…」
「げ、なに、それって最悪のパターンじゃないの?!」
「そうなのよ…。せめてタマモちゃんだけでも探し出そうとはしてるんだけど、ウチはいま監査で身動きがとれないの。西条君なんか監査官にいいように引っ張りまわされてひどい目にあってるわ。しかたないから非公式で民間のGSにかけあってるんだけど、いまは協会も動くのをしぶってるしね…。個人的に頼んで小笠原さん、カオスさん、唐巣さん、魔鈴さんが探してくれてるけど、変化の巧みな妖狐をこの東京で見つけるのにその人数じゃとても期待できないわ。正直お手上げよ…」
「ここも大変だけど、外も結構大変なことになってんのね…。あーあ…まったくどいつもこいつも…。」
美神は乱れた長い髪に手櫛をかけながら、めずらしく長いため息をついた。
こちらは、別の意味で大変な思いをしている勤労少年である。
大きさの割に無闇やたらと重い木箱を抱えて、横島が厄珍堂の地下倉庫からよろよろと店内へ上がってきた。カウンターでは厄珍がパソコンをみながらタバコをふかしている。
「これはどこにおいとくんだー?」
厄珍は画面から目をそらさずに手だけマウスから離して指をさす。
「そこの棚の横に置くよろし。気をつけるあるぞ、その中身はもう200万で買い手がついてるあるからな。」
よっこらしょと箱を下ろした横島は腰に手を当てて体を大きく反らした。
「もう40回は往復したぞ…。ちょっと休ませてくれよ。」
「何言ってるある、ちゃんと給料分働くよろし!」
「給料たって時給255円じゃねえか…」
「文句があるならやめてもいいあるぞ!」
「わかったよ…次はなにすんだ?」
「裏の実験室から魔法陣用インクの1斗缶を…ん?」
厄珍がパイプを口から離してサングラスを少し下げ、顔を画面に近づけた。
「あ、やっぱりいいある。ちょっと休ませてやるからここで店番してるよろし。」
そういうと厄珍は椅子から飛び降り、短い足でぱたぱた店の奥へ駆け込んで行く。
「あーあ。させられてる労働の量は美神さんとことあんまり変わらんけど、女っ気ない分疲労感が倍増するんだよなあ…。厄珍の奴、前頃はテレビ見てたもんだけど、最近はパソコンか。どうせスケベな画像でも見てんだろう…。」
横島はさっきまで厄珍の座っていた回転椅子に腰を下ろし、マウスを動かしてスクリーンセーバーを消してみたが、残念ながら彼の期待したような画像は出てこなかった。
「メール…?なんだつまらん…。しかしなんだこりゃあ? …#‘’―?<%>+_*@%!!&」「」=¥+;… 全部記号…?絵文字でもないし…なんかの暗号かな?あのおっさんも妙な事ばっかしてるからなあ…。ま、どうでもいーけど。」
基本的に能天気な横島は、その「妙な事」のおかげで、後に自分がとんでもない目にあうなどとはつゆしらず、いかにも横島らしい独り言をつぶやくのだった。
「あーあ、せめて美人のねーちゃんでも客に来うへんかなあ…。」
今までの
コメント:
- 普段悪霊をしばいている時のような刺激がなく、逆にイヤな刺激ばかり受けている令子は限界という感じですね(汗)。美智恵ママに自分の中で溜まっていた愚痴を全てこぼしているところなどがいかにも令子らしかったです。一方で横島クンもまた大変そうですね;彼が女っ気の皆無な環境下でどこまで生き延びられるかが見物です(笑)。次回横島クンの身に何が起きるのか、そして玉藻は無事に保護されるのか、気になります♪ (kitchensink)
- その光景が目に浮かぶ拘留房の描写はさすがA.SEさんといった感じです。
続きが猛烈に楽しみです! (ヨハン・リーヴァ)
- . (T.I)
- はじめまして、A.SEさん
読みごたえがあります。面白いです。政治ネタがどう転がるか興味津々です。
それと、厄珍が怪しい。横島に危機が迫ってる?
本当に彼は不幸が似合うなぁ。 (居辺)
- 恐いな…美神さん…(でも美神さんならこのまま引き下がらない…かな?)
今はおとなしくしている美神さんですが後が恐いです… (3A)
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