ザ・グレート・展開予測ショー

見えざる縁(3)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 8/14)


「私の邪魔をするなら、アンタも殺すわよ・・・」

 言葉尻に殺気を滲ませつつ身構える香南に、タマモは無言のまま右手に狐火を出現させた。どうやらそれが返答のようである。
 香南は上等、とばかりに鼻を鳴らすと、左手の拳に膨大な霊気を集中させた。それに共鳴するが如く刃のような風が巻き起こり、香南の足元に散らされた木の葉が幾枚か舞い落ちる。やがて、香南の左手に霊力を具現化した物体が現れた。

「あれは・・・」
「弓、みたいね」

 香南の左手には、狩猟などに用いられる弓が握られていた。同じ様に霊力を集中した右手には、こちらも具現化された矢が三本握られている。とはいえ実質的な具象性はなく、霊波刀に準ずる代物であることに変わりはない。

「我が霊波弓「鳴鈴」の威力・・・その身で味わってみろ!!」

ビシュッ!!

 香南は遅滞のない動作で弓を構えると、洗礼とばかりにタマモに向けて鳴鈴を撃ち放った。空間を裂く程の速度にタマモは驚愕したが、身を伏せて何とかそれをかわすと狐火を香南に向けて吹き撃った。

「こ・・・のっ!!」

 人差し指に螺旋状に宿っていた微炎が、その手を離れた瞬間肥大化し飲み込まんばかりの勢いで香南に襲い掛かる。横島がそれに合わせて、霊波刀を構えたまま香南目掛けて突進した。狐火を盾にしていれば、少なくともカウンターを喰らう恐れはない筈だ。
 だが、その認識は甘いと言わざるを得なかった。

「ふん」

 香南は悠然と弓を構えなおし、気のない様子で狐火目掛け鳴鈴を撃った。鳴鈴は猛り狂った猪のように狐火に正面から激突し・・・なんと、狐火を貫通し炎を四散させてしまった。その陰に隠れていた横島は防御壁が突然消滅したことと、そこから鳴鈴が牙を剥いて襲ってきたことに完全に虚をつかれた。

「なっ・・・!!」

 だが、幾多の経験が為せる技だろうか。常人なら間違いなく心臓を撃ち抜かれていただろう鳴鈴の矢は、ほぼ脊髄反射で前に出された右腕により辛うじてブロックされた。だが、鳴鈴の威力に押されて横島の体は宙に浮き上がり、そこに香南が最後の一本を狙い定めた。

「アンタとの因縁も、これで決着ね。そうでしょう?松島・・・」

 ぎり、と弓を引く音が重くきしんだ。香南の顔が、意味ありげに薄く笑う。詰み、だと。

「させるかっ!」

 だが、鳴鈴が放たれる寸前で香南の足元に異変が起こった。まるで底なし沼に陥ったかのように、体が地の底に沈んでいくのだ。香南が目を剥いて地面を見遣ると、淡い光を放つ落ち葉が結界を作り、呪力が拡散しないように香南だけをそこに押し込めていた。
 現状でこんな芸当が出来るのは一人だけである。香南が鳴弦の照準を合わせようとした人物−−−タマモは、何時の間にか横島の肩に手を貸していた。

「横島、ここは一旦退くわよ!変化っ!!」

 タマモが右手を翼に変え、横島を抱えたまま飛び去ろうとする。そのタマモに鳴弦の狙いが定められていることに気付いた横島は、美神の言い付けで胸ポケットに常備していた文殊を発動した。

[煙]

 澄んだ輝きを放つ文殊が辺り一帯に煙幕を焚き、さしもの香南も目測を失った。煙が晴れて視界が開けた頃には、既に二人の姿はなかった。匂いの距離とナイトの存在からいっても、追撃には多少骨が折れる。
 香南は胸元まで体を沈ませたまま右手を振り上げ、結界を構成する落ち葉の一つに鳴弦を突き立てた。途端に結界は色を失い、本来の生命が枯れた落ち葉へと舞い戻る。同時に香南の体も元に戻り、香南は心持ち体を払ってから空を見上げてくくと笑った。

「やってくれるじゃないの・・・でも、次は必ず仕留めるわよ」

 だが、依然として優位はこちらにある、香南がそう思い気を弛緩させた時、突然激しい頭痛が香南を襲った。それと同時に心臓が早鐘を打ち始め、喉元に嘔吐感がせり上がってくる。体全体が自分を拒絶しているかのような異変に思わず蹲る香南の脳裏に、強い意思を湛えた声が響き渡った。

(先生を・・・傷付けるな!!拙者の体から出て行くでござる!!)
「グ・・・アンタ、まだ意識が・・・」

 消滅寸前だったシロの意識は、香南が横島を攻撃したシーンに触発されるかのように本来の力を取り戻していた。シロにとっては、自我の喪失よりも横島の方が重要なのである。そして、先ほどの闘いで疲弊した香南には、その意識を封じ込めておくだけの余力はなかった。

「く・・・そ、しつこい奴ね」

 



 タマモは香南から逃げ切ったことを確認すると、一旦裏路地に下りて撃ち抜かれた横島の右手にヒーリングを施した。夥しい量の出血が、栓を閉めたように止まっていく。
 もしあの場で一時退却をしなかったら、横島の右手は使い物にならなくなっていただろう。そういった意味ではタマモの判断は的確であり、また鳴弦の威力がいかに大きいかを物語っていた。

「助かったぜ、タマモ・・・ありがとうな」
「ううん・・・けど、霊波刀を出してた右手を撃ち抜くとはね。舐めてかかったらまずいか」
「・・・香南、俺のことを松島って言ってたな」
「それが横島の前世の名前ってこと?」

 タマモの問いに、横島が自信なさげに多分、と頷く。タマモは暫く何か考えていたが、野良犬や烏が五月蝿いので上手くまとまらなかった。

「とにかく、事務所に戻りましょう。どうするか考えるのは、その後よ」

 

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