FROM THIS DAY 〜第2話〜
投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 8/23)
昼休み。
それまで同じことを同じようにするよう強制されていた生徒たちが、自分の個性を発揮し思い通りに行動する時間。
「それでな、俺のバイト先の社員さんにこれまた別嬪さんが二人もおってな〜」
「ほう、よかったな」
「まあ個人経営の店やから二人とも社長の娘やねんけど・・・って、何でお前そんな余裕かましとんねん?」
「ふっふっふ。知りたいかい?」
不敵な笑みを浮かべる聡を見て、彼の親友である筑紫啓介は不安にかられた。
「ま、まさか聡、彼女が出来たんとちゃうやろな!?」
「う〜ん、それはまだだな」
「じゃあなんやねん!?」
いきりたって肩まである長髪をかきむしる筑紫に、禿げるぞと嫌味をいいながらニヤニヤ笑う聡。
ごく親しい友人の間では見せる彼の素顔が、これである。
実はそれなりに造りのいい顔をしている(あくまでも『それなりに』だが)ので、
女の子の前でもこの調子ならモテるに違いないというのが友人の間でも一致した見解なのだが、
教えるのが癪だという友人たちのこれまた一致した見解により、本人はそのことを知らないままでいたりする。
「いやあ、昨日とあるバイトの面接に行ってきたんだけどさ〜。
そこが美人の人が一人でやってる店で、しかも一発で採用になっちゃったんだよね〜」
禿げへん、とかなり不安そうに反論した啓介の顔色が見る見るうちに変わる。
「なんやと!?そんな羨ましい話があるかっ!!」
「それがあるんだよね〜」
「ど、どこの店なんや!?」
「それは・・・」
聡は少し間をおいた。溜めてから言ってやったほうがショックも大きいことだろう。
今まで散々バイト生活を自慢してきた仕返しである。
「それは、『魔法料理 魔鈴』だよっ!」
聡は得意げに言い放ってから、筑紫の反応を待った。
しかし、その反応は聡が期待したいかなるものとも違っていた。
「・・・ほんまに、ほんまか?」
筑紫の表情は聡を羨むでもなくショックで落ち込むでもなく、むしろ聡の無事を気遣う風にすら感じられるのだ。
「ほ、本当だぜ?」
ひるむ聡に、筑紫は黙ってかばんから一冊の雑誌を取り出した。
「『月刊GS 関東版』?お前がいつも読んでる奴じゃねーか」
『全国を30の地域に分け、各地域のGSを詳しく紹介したGSファン必携の月刊誌!!』と表紙に書いてあるこの雑誌は、GSマニアの筑紫にとって貴重な情報源である。
彼は毎月この本を買い、穴が開くほど読み込んでいるのだ。
「この表紙誰だ?美人だな〜。ええと、『六道冥子―――稀代の式神使いの素顔に迫る!!』・・・ふむふむ」
「まあ、そんなことはええからここ読んでみいな」
筑紫が開いたページには、写真で見るだけでさえ悪寒がするようなおどろおどろしい幽霊屋敷がカラーで載っていた。そして、
「あれっ?この人は・・・」
その幽霊屋敷をバックにして、箒を片手に微笑んでいるのはなんと『魔鈴』の支配人兼店長の女性だったのだ。
「『今回の除霊は大変でした。一人で除霊することの大変さを実感しました。やはり右腕として働いてくれる助手が必要ですね』
・・・って書いてある。
・・・右腕として働く助手?」
聡は混乱する頭を何とか整理し、やがてある恐るべき結論に達した。
「・・・なあ、筑紫。俺って、もしかしてGS助手として雇われたの?」
筑紫の頭が、ゆっくり縦に動いた。
(とほほ・・・冗談じゃないよ〜)
『魔鈴』に向かう聡の足取りは、限りなく重かった。
GSといえば、常に危険と背中合わせであり命を落とすことも少なくない。
もちろん、その助手も同じことである。
『GS助手の高校生、除霊中の事故で死亡』
余りにリアルすぎる新聞の見出しが、聡の脳裏に浮かんだ。
(やっぱり、断るべきなのかな〜)
命は惜しい。
というか、それ以前に除霊現場というものがどんなものか想像もつかなくて恐ろしい。
しかし『美女と同じ職場』というのも捨てがたいし、ここで逃げて腰抜けと思われるのも困ってしまう。
(あなた、そんな人だったの?あ〜あ、雇うんじゃなかったわ)
きっと、魔鈴は軽蔑と失望に満ちた視線を送ってくるに違いない。
それはそれで、かなり辛い。
そしてくよくよ悩んでいるうちに『魔鈴』の前まで来てしまった聡は、
(とりあえず様子を見よう、もしかしたら除霊手伝いはしなくていいかも知れないし)
と、極めて甘く現実逃避に近い推測に基づいて扉を開けたのだった。
言われた時間にはまだ早い。
店の中は、前回聡が来たときと同じく客がいなかった。
しかし、前とは異なり一人の少女がちょうど店の真ん中辺りにいる。
腰まで伸びたきれいな黒髪が目を引く。
少し型の古いセーラー服がマニア心をくすぐりそうである。
なぜか学校机に座っていることを除けば、その純粋そうな瞳といい発散している雰囲気といい、大変爽やかな魅力を感じる。
結論:美人。それも一級品。
「あら、あなたここの新しいバイト?
私、机妖怪の愛子っていうの。
ここで雇ってもらうことになったから、よろしくね」
机に乗った少女が聡に気軽に話しかけてきた。
「机妖怪!?」
「ええ、長年使われてきた机に魂が宿ったのがわたしなの」
(俺、机にときめいてたの?)
少なからずショックを受けている聡を見て、愛子は何がおかしいのかクスクス笑った。
「ふふ、あなたお名前は?」
「僕、大野 聡っていいます。そ、その、よろしくお願いします」
こうもあけすけに話しかけられると誰でもひるんでしまう。
ましてそれが聡のようなおくて少年ならなおさらだ。
「あははっ、敬語なんて使わなくっていいわよ!
それにしても、アルバイトっていいわね〜。青春だわ〜!!
ねっ、そう思わない!?」
「へっ?」
「青春よ〜!やっぱり高校生はアルバイトしないとねっ!!
学校とアルバイトの両立・・・これぞ青春って感じ〜!?」
「そ、そう・・・だよね」
とりあえず普通に答えてみた聡だが、本当のところこの愛子という女の子妖怪が何を言っているのか、よくわからない。
(な、なんだこの子?いや、この机?あ、でもやっぱり見た目は可愛いし・・・)
「あら、君も来てたのね」
聡が混乱していると奥から声がして、魔鈴が出てきた。
胸に『魔法料理 魔鈴』とプリントされているエプロンをしている。
「もう少し待っててくれる?
実はね、聡君が帰った後に入れ違いで女の子が一人どうしても雇って欲しいって言ってきたの。
もう二人いるからいいって断ったんだけど、どうしてもっていうから雇ったのよね〜」
(えらく強引な奴だな・・・ちょっと合わないかも)
聡は無理矢理自分の意見を押し通す人が余り好きではない。
どうもわがままに見えて仕方ないからだ。
「ま、言ってた時間までまだあるから、詳しい話はそのときするわね」
「はあ、そうですか」
「それも青春よね〜」
それぞれ違った反応を見せる二人。いや、愛子がズレているというべきか。
「でも、その子が来るまでぼ〜っとしてるのもなんだから、今日の仕事について説明だけしておきましょうか」
「はい、お願いします!」
「ついに初バイトね!?燃えるっ・・・!!青春だわ〜!!」
どうやら彼女はどこまでもズレているようである。
「今日のところは、聡君にはウェイターをお願いするわね。
どっちも初めのうちは勝手がわからなくて大変だと思うけど、慣れれば大丈夫だから。
愛子ちゃんにはレジをやってもらおうと思うの。
レジならその机もいちいち持ち運びしなくていいしね」
「その机、いつも持ち歩いてるの?」
「ええ、そうよ。この机はいわば私の本体ですもの」
(レジはともかく、ウェイターやるときはどうするんだろう?)
くだらない疑問が聡の頭に浮かんだが、次の魔鈴の一言でその疑問はおろか脳の活動状況までが一瞬吹っ飛んでしまった。
「あと、今日店を閉めた後で依頼の入っている除霊に行くから、そのつもりでいてね」
その時の聡の表情を言葉で表すなら、『幽霊を見たような表情』という表現が最も的確に違いない。
今までの
コメント:
- 忙しかったり、大幅な手直しが必要になったりして、続編が遅れてしまいました。
前回を読んでくださった方、申し訳ないです。
第3話も大体できているので、明日辺りに投稿したいと思います。
ちなみにコメント返しは前回のレスのほうでやっているので、コメントを下さった方は目を通していただければこれ幸いです。 (ヨハン・リーヴァ)
- 冥子ちゃんを取材にしに行った記者がイタイ目に遭ってないことを切に願っております(挨拶)。あ、魔鈴の取材をしに行った記者も似たようなものですね(汗)。ようやくオカルト通の筑紫から自分の始めたバイトがかなりヤバイものだと分かった聡くんでありますが、これから本当にどうなるのでしょうか? 結局危険&命よりも、色香を優先してしまった彼なのですが、さすがに「青春少女」愛子に関してはフォローがしにくかったようです(笑)。次回、聡くんが生まれて初めての除霊現場でどんな活躍(?)を見せてくれるのか、そして愛子の「吸引机」の出番はあるのか(爆)、楽しみにしております♪ (kitchensink)
- そうか、愛子ちゃんだったのかバイトっ娘は、もう一人は誰だろう。
六道女学院の誰かかな。
除霊専用ののバイトの方なんでしょうか(^_^;)
聡君が横島君の強力なライバルになるのか、期待がもてます(^_^;) (黒川)
- 除霊のアシスタントしていておキヌちゃんと再会しませんように(可哀相だし←爆)。 (マサ)
- ↑それはホントにショックですね(^^; とくに、横島君と一緒だったりしたら…。
それにしても、聡くん。机差別はいけませんよー。横島君を見習いましょーねー(笑) (猫姫)
- 愛子とは思わなかった…(嬉しい)
これから聡君…大変な目にあうだろうな〜 (3A)
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