ある午前中の話
投稿者名:スイカ
投稿日時:(02/ 5/ 3)
横島は事務所へと急いでいた。
「遅刻!遅刻だ!やばいぞ!やばい!」
必死だった。
まさに鬼気せまる形相で走っていた。
はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・
「つ・・つらい」
そう言いながらもスピードを緩めることはできない。
「すいません! 寝坊しました!」
ようやく事務所へ辿り着き、なにより早く頭をさげた。
「・・・あれ?」
返ってくるはずの叱責がない。
頭を上げると、部屋にはだれもいなかった。
「今日は仕事・・・だよな」
『横島さん、みなさんはそれぞれお出かけになりました』
人工幽霊一号が教えてくれた。
「美神さんは? 仕事が急になったのか?」
『いえ、今日の午前の依頼はキャンセルされました』
「そっか・・・」
『ですので、マスターは午後の依頼の予定時刻まで出かけるとのことです』
「つまり、おれも今日は午後出勤ってこと?」
『そう伝言を頼まれました』
「そうか。ありがとう」
横島は全速力で来たことを少し悔やんだ。
『もう一つ、おキヌさんからの伝言があります』
「おキヌちゃんから?」
今日はおキヌも出かけると昨日言っていた。
『「横島さん、冷蔵庫にご飯が入っているのでお昼に食べて下さい」とのことです』
「・・・いいコだなぁ」
横島はなにか考え込むように呟いた。
冷蔵庫を開けてみると、確かにトンカツと煮物が入っていた。
「う〜ん、今食べたいなと思ってたモノがここにある・・・わかるのかな」
しばらくそれらを見ながら考えていた。
いつもはおキヌが入れてくれるお茶も今日は自分で入れた。
「ふぅ・・」
横島はソファーへ座った。
ズズーッ・・・ふはぁ〜
「うまい」
横島はお茶をすすって、深く息を吐いた。
「いきなりヒマになっちゃったな」
ズズーッ・・・ふはぁ〜
「・・・昼メシまでに腹減らしておくかな、いっぱい食べたいし」
そう言うと、横島は湯飲みを置いて立ち上がった。
そのままドアの方へ歩いて行くと、廊下から足音が聞こえてきた。
「ん?」
パタパタパタ・・・ガチャッ!
「ただいま〜でござる」
どこかへ出かけたハズのシロだった。
「あ!先生! 散歩に行くでござる!」
横島は肩を落とした。
「おいおい・・・あいさつも無しで、いきなりそれかい」
「ははは! 冗談でござるよ。先生、おはようでござる!」
シロはおじぎをした。
「・・・・」
横島はシロをじっと見つめた。
「先生?」
「・・・ん〜」
横島は首をかしげた。
「どうしたでござるか?」
「・・・いや、なんでもないよ。おはよう、シロ」
横島は笑顔であいさつをした。
「おはようでござる!」
シロも満面の笑顔だ。
「おれ、ヒマできちゃったから昼まで出かけてくるよ」
「え〜! どこへ行くでござるか? 拙者と散歩に行くでござる!」
シロは横島の腕にしがみついた。
「う〜ん、まあ・・・あ〜」
ふと横島は閃いた。
「行ってもいいけど、条件がある」
横島はシロを見つめながら言った。
「なんでござる?」
「『拙者』っていうのを、『私』に変える」
「私に変える・・でござるか?」
シロはイマイチ意味がわからない。
「そう、『ござる』もやめるんだぞ」
「はぁ・・」
横島の顔は真面目そのものだ。
「さあ、言ってみて」
「え? え、え〜っと・・・何を言えばいいんでござるか?」
「散歩に誘ってみて」
「せっ・・わたしと散歩に行こうでござ・・」
「だめ。やり直し」
「う〜・・わたしと散歩に行く・・行き・・ませんか?」
「堅い。もっと軽く軽く」
「わたしと散歩に行・・行こう・・・?」
「そう!」
シロの顔がパーッと明るくなった。
「散歩に行こ! 散歩に行こ! 散歩に行こ!」
シロは言葉を繰り返しながら横島の腕を上下させた。
「散歩に行こ?」
シロはねだるように横島を見上げた。
「よし! んじゃ、行くか」
「はい!」
シロのしっぽが思いっきり揺れていた。
「今日はどこへ行くでござ・・・行こう・・か?」
シロはあわてて言いなおした。
「普通でいいよ。ただ、一度だけ聞いてみたかっただけだから」
横島はシロの頭を撫でながら言った。
「そうなんでござるか?」
「そう」
「ふ〜ん」
「さ! 散歩に行くんだろ?」
「そ、そうでござる!」
「お昼までには帰ってくるかんな」
「はいでござる〜!」
シロは横島に抱きついた。
二人はそうして散歩へ出かけていった。
〜おわり〜
今までの
コメント:
- そんなある日の話です。
どうぞ、よろしく。 (スイカ)
- うん、ニヤけます〜。
いいですね、拙者とござる を言わないシロ! いいな〜
ていうか全然感想になってなくてすいません。
ほのぼのとしていいです。 (与作)
- 口癖って急に直せといわれても難しいものですからね。必死にいつもと違う口調で横島クンに散歩のお願いをするシロが可愛かったです♪ 今回登場はしませんでしたが、横島クンのために昼ごはんを用意して置いていったおキヌちゃんの心配りも「らしく」て良かったですよ(おキヌちゃんがいいことしてればそれだけで嬉しい人:私)。 (kitchensink)
- うぅわああああッッシロ可愛いぃいいいいーーーーーッッッ!!!!(爆発)
1回見てみたかった「シロ」がここに有りッッ!!!(謎爆)
ああああ〜ッッ感動ですねッッ青春ですねッッ!!!?(笑) (みっちー)
- 横島クンも結構好きですね〜(挨拶)
なんかこの話、多くの人がコメントで『コワレ』そうですごく楽しみ♪
また見に来よっと♪ (魚高)
- ま、時にはそんな時もあるって感じですか?
何となく某御犬様がコワレまくりそーですが……(汗) 取り敢えずシロの『わたし』はそれだけの破壊力があったことは確実です(笑) (ロックンロール)
- うおぉおぉおぉおおおぉぉぉぉーーーーーーーーっっ!!!
惚れ直したぁあぁあぁぁーーーーーーっ!!! シローーーーーーーっ!!!
横島ァッ!! お前は…いや、キミは偉い! 素晴らしい!! 今日からブラザーと呼ばせてくれ!!!
ぐっはぁああぁぁーーーっ!!!(鼻吐血横転痙攣激突萌死)
スイカさん! 貴方は偉大やーーーーーっ!!!! (黒犬@壊れどころか完全崩壊)
- コメントありがとうございます。
なにかイイ具合にハマったようなのでなによりです。
う〜ん、おれとしても感想を書きにくい種類のストーリーだと思ってます。
なにせオチもなにもないんですから・・・ (スイカ)
- 日常にしみじみと幸せを感じる。そんな毎日でありたいですね(瞑目&祈り)
上のほうで先に皆さんにコワれられてしまって、仕方がないので冷静に行きます。
日常の中で他人がしてくれるありがたい行為、いわゆる『おかげさま』というものは多くありますが、概して気づきにくいものです。
おキヌちゃんの心配りのありがたみを実感できるのも、横島くんの謙虚でやさしい性質の表れと言えるでしょう。
また、シロとのやり取りも、一見押し付けをしているようにも見受けられますが、ちょっとした日常からの乖離を楽しみ、それがまた日常としての歓びを強く印象づけるものとしているような気がします。
だって、シロが、上目遣いで、腕を抱えて、振り回して、サンポのおねだり………ッッッ!!!
(斑駒@結局は応力不足により内部崩壊)
- Gozaru?monky?? (T.I)
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