ザ・グレート・展開予測ショー

彷徨う二つの心(8、朝日影・後編・終結)


投稿者名:マサ
投稿日時:(02/ 6/19)

自分の目の前に置かれたティーカップを見て横島は慌てて一言。
「ああっ、ありがと!」
とりあえず紅茶を口に運ぶ。
「今日の横島さん、なんか変ですよ」
「そ、そうかな?」
怪訝な面持ちで問うおキヌに苦笑しつつ横島が返す。
おキヌは彼の顔を見て、微笑む。
「でも、嬉しそうなんですよね。何かいいことでもありましたか?」
「えっと…その…いい…雰囲気だな〜…なんて…」
言葉を紡ぎだすたびに横島の顔がだんだんと赤く染まっていった。
これでもかなり勇気のいる台詞には違いない。
それを知ってか知らないでか、おきぬが返した台詞は――
「そうですよね!朝早くって清清(すがすが)しくて、元気が出るとゆ〜か」
無邪気に笑ってそんな事を言ったりする。
彼女も横島並に空気を読むことは苦手らしい。
しかし、彼女の一言が彼の張り詰めた精神をほぐしたのは確かだった。
そこが彼女の美点の一つであり、彼も認識している。
やはり本人は気付いていないのだろうが。

「何かあったんですか?横島さん、最近妙に落ち着いていると言うか何と言うか……」
目を細め、しみじみとした風でおキヌは口を開く。
「そうか?俺はおキヌちゃんの霊力がかなり上がった事の方に驚いてるけど」
『何かあったんですか?』って核心をつかれると困るな――と思いつつ、横島はつい話題を逸らそうとしてしまう。
「そっか、私も力つけたんですよね」
ゆっくりと、何かを確信するような口調だ。
「前からずっとお持っていたんです。私はあまり役に立ててないなって。だけど、今ならきっと…。私は攻撃とかは向いてないけど、きっと何かできることがあるはずなんです!」
そう言って両手で小さくガッツポーズをする。
この辺りが彼女らしいと言えばらしい。
「そんなに焦らなくても大丈夫だって。だから…その、無理…するなよ」
後半部分でぎこちなく言葉を紡ぎだす。
照れ隠しをしているようでいて、どこか強い思いの篭った――そんな表情だ。
おキヌが、はい、と答えたのは少しの間を開けた後の事である。

その後、暫しの沈黙が続く。
たった一言、それを言う絶好のチャンスなのだと言う事は彼にだって分かっている。
徒、取っ掛かりがつかめないでいるのだ。
―よし!―
意を決したのか、横島は一つ深呼吸をすると紅茶を一気に飲み干し、 がちゃんっ と半ば荒っぽく音を立ててティーカップをソーサーに戻す。
これで少々気合が入った。
「おキヌちゃん、一つ言いたかった事があるんだ」
「え?な、何でしょうか」
真剣な横島の表情を見て、流石におキヌもどきっとする。
おキヌの両肩に手をおき、横島が口を開きかけたその時―――

 カチャッ  びくううぅっ!×2

突然入り口のドアが開き、横島は反射的に元の姿勢に戻った。
入ってきたのは、事務所に住むもう一人の早起きな居候・シロである。
「おはようでござ……る!?(汗)…………先生、散歩に行くでござる」
朝の爽やかな表情から一変して、背後にゴゴゴゴゴ…と凄まじいオーラを漂わせながら険しさを含んだ声音でシロが言う。
「ま、待てシロ!別に今じゃなくてもだな…」
「いいから行くでござる!!≪抜け駆けなど許すまじ!後でしっかり問い詰めねばっ!≫」
「分かった。分かったから。何処まででも言ってやるから手を離せ〜!!千切れる〜!!」
シロの超人的な腕力で引っ張られ、色々な意味で半泣き状態の横島。

取り残されたおキヌは唖然としてそれを見送る。
「まだどきどきしてる……」
胸に手を当て、彼女は言った。



「と、止まれ〜〜!!シロ〜〜〜!!」

 キキーーッ ドンッ ガシャーンッ 

今日のシロは普段にも増して危ない走り方だ。
現在の所、横島の頭部にはガラスの破片が刺さった上に、既に自動車に三度衝突している。
これが彼で無ければ、とっくの昔に三途の川を渡っていることだろう。
「今日はもっと遠くまで行くでござる〜!」
「いいから、もう少しゆっくり走ってくれ〜!!」
自転車の上で必死に叫ぶ横島。
「加速ぅ〜!!」
「そんなのイヤ―――ッ!!」



その後、栃木県と福島県の県境までシロは暴走を続け、帰った頃には昼間であった。
「思い切り走って気持ちよかったでござる♪」
「そりゃ〜良かったな…≪これでいいんだよな。これで…≫……ドクドク……(流血中)」
「お腹がすいたでござるぅ〜。ごはんっごはん〜っ♪」

 ドガァァァーーッ ビシビシッ

シロが事務所の入り口のドアを物凄い音を立てて閉めると、その付近の壁に亀裂が入る。
『…横島さん、余り派手にシロさんに暴れられると私の修復能力でも不可能なまでにこの屋敷が破壊されそうなんですが…』
「それは言えてるな(汗)」
屋敷全体から聞こえてくる声にさらりと返答する。
しかし、管理者としては重大な問題なのだ。
『どうにかしてください!』
すがるような思いで一言。
「俺に言うな!」
『……………』
ならば誰に聞けと言うのだ――と言いたい所だが、あえてその声の主・人工幽霊一号は口をつぐむ。(口など無いが)
これ以上論議しても仕方が無い。



横島が屋敷の中に入ろうとドアの取っ手に手を掛ける寸前に、中から誰かがドアを開けた。
「どうしたんですか?シロちゃんが物凄い勢いで上がっていきましたけど」
「あ、おキヌちゃん。気にしない気にしない。唯腹すかしてるだけだから」
「朝食抜きでしたもんね(汗)」
「そういえばそうだったっけ」
「……………」
「……………」
そこで会話が途切れる。
「え〜と、とりあえず水飲ませて。叫びすぎてのどが渇いちゃってさ」
「あ、そ、そうですよね≪どうしちゃったのかな?なんか、頭の中が真っ白で言葉が出せなくなっちゃう…≫」
おキヌは駆け足で階段を上り始める。
出来るだけ、後ろを見ないようにしていた。自分の真っ赤になった顔を診られるのが恥ずかしかったから。
横島もそれに続く。
「≪俺はいつか言ってみせる!『好きだ』って≫」



二人の奇妙な出逢いから月日は過ぎて行き、何時しか互いの存在が大切になる。
以前の彼は彼女の優しさを快く思う反面、それは拒絶される事への恐れも内包していた。
だが、現在は違う。
彼は唯純粋に嬉しいと、そう思い、受け止められるようになっている。
何故だろうか。
それはきっと、二人が自分たちの手で幸せを掴む事が出来るようになったから。
二人の心が純粋だから。


     ―――終―――


【あとがき】
はい、これでこのシリーズも幕を閉じる事になりました。沢山の賛成意見をいただき、鋭いコメントに自分の未熟さを感じながら書いてきました。
当初の目的は『横島とおキヌちゃんが同時に記憶を無くしたらどうなるのだろうか』と私なりに想像し、小説にしたいと言う欲望からでした。それが、今となると、それに付随してきたもので次々と続きが出来てしまっているのです。
続編は果たして書けるのでしょうか。皆様、期待せずにいてくださいね。
  
                      桂木 柾矢(これでもHN)

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