ザ・グレート・展開予測ショー

歯車と鉄の謎―後編―


投稿者名:眠り猫
投稿日時:(02/ 8/13)

どうして貴方は笑えたの?

どうして私は笑えない?


疑問は何一つ解決しないまま公園を離れる時間になった。
これ以上あの人と離れるのは心配でもある。
いくら限りなく不老不死に近い体であろうとも必ず滅びはくる。
現に今ももうどんどん弱くなっている。
自分は年とることはないけれど。
そのいつか来るいわゆる「眠る」日まで看病し、共に過ごし、守るのが自分の存在理由。
夏という季節は人間にとってはとても暑いのだから、恐らく外には出てないとも思うがそれでも怪我をしていないか気になって仕方がない。
歩き慣れた道がやけに遠く感じられた。
おかしい、そんなことはありえないはずなのに。
距離を測ってみても全く普段と変わらないというのに。
理解不能、何故?
いっそのこと飛んでしまうか、とも考える。
しかし、下手に燃料を消費してあまり裕福ではないあの人の迷惑になるわけにはいかない。決してこのくらいの距離で疲れを感じたわけではないが。
歩きたくないと考えてしまう自分がいた。
自分が理解不能、これではまるで道化師のようではないか。


空を仰ぐ。天国は空にあると誰かが言っていたから。
妹は天国にいる、そう思ったから。

教えて下さいどうか妹よ。
何故貴方は笑ったの。笑えたの。何に痛みを感じたの。

答えはかえってこない。そんなこともわかっていたけれど。


痛みを知りたい。そうすれば笑えるのだろうに。


疑問はまとまることを知らない。
まとまらない。
まとまらないままあの人に会う。

いつも暮らしている古いアパート。
ドアを開けようとしたら、同時にドアが開いた。
・・・これは自動ドアではないはずなのに。答えは一つだけ。
「おお、マリア。帰ってきたか、うむ・・・しかしな、もう工事の時間なのだが。」
随分白くなって減った髪、若いころは凛々しく整った顔立ちも今は皺がいくつも刻まれている。人は年をとると丸くなるというが、確かに昔の活気はなくなったものの穏やかさは手にしている。創り主。
やはり怪我はなかった。
そして言葉はとぎれてしまっているが、自分を気遣う言葉。
恐らく続きの言葉は「疲れているのに悪いがバイトなので付き合ってくれ。」
・・・そんなこと、言われなくてもわかっているのに。
言われなくても貴方を守ることが役目なのに。
元々疲れを知らないし、激しい運動、戦い、破損もすることはある。
闘いは自分に任せるのに。
矛盾した言葉。しかし、それは不快を誘わない。
「ドクター・カオス。行きましょう。」
それだけでこの人は笑顔になる。笑える。ああ、何故。
自分は痛みを知ることはできないから?
破損しかできないから?
たとえ今この腕をナイフで切りつけても決して痛覚は感じないから。


工事の時間は嫌いではなかった。金は手に入るし、随分と知り合いも増えたから。
「お、マリアちゃん。今日も可愛いねぇ。」と笑ってくれる恐らく50代くらいの人間だろう男とか「力はあるし、どうだ?バイトじゃなくていっそやる気はねぇかい?」と誘いをかけてくるこちらは30代だろう男もいる。
男ばかりの職場に完璧な人間ではないとはいえ、自分を差別的に扱うどころか大変に重宝してくれる。
今日も同じような作業を繰り返す。もちろんあの人の分はいくらか自分が代わってやる。
その度に申し訳なさそうな顔をするが(恐らく本人も気付いていないだろうけれど)それが自分の役割、当然なのだ。
だから、笑って下さい。
フと、自分の作業がそろそろ終わりに近付いてきた頃。
そろそろ手伝いにいけそうだと創り主に眼を向けた。

ガシャ・・・人の慌てた声、悲鳴に近い。上方。
警報が頭に中になる。
上を見上げる。

ドクターカオスの上方14・2m、鉄筋コンクリート。
落ちてくる。

丁度、ドクターカオスともう1人の男の上に。
上からの悲鳴。下では動くことを忘れた男達。

落ちる。重いもの。ドクターカオス!

「ドクター・カオス!危ないっ!!」


グワッシャアアァアアァァアン!!!

大きい音。心地よくないBGM。

片腕は伸ばしてもう一人の男の方を、本体の方はドクターカオスを多少乱暴にだが突き飛ばすようにしてその場から離れさせた。
騒がしい声。
それより
「ドクター・カオス!怪我は・ありませんか!?」
怪我はないですか?無事ですか?危ない、死ぬところ。眠ってしまうところだった。
一瞬感じた、背中に水が伝ってくる感触。
頭がうたれたように動けなかった。
間に合ったものの、もう少し早く気づいていれば更に安全に助けられた。
ごめんなさい、ドクターカオス。
わからないこと考えていたからでしょうか?
「マリア、助かったぞ。有難うな。お前こそ怪我はしてないだろうな?」
・・・いいえ、私は。
「マリア・怪我しても平気。ドクターカオス・ご無事で・よかった。」
その言葉を言った瞬間、笑ってたドクターカオスの顔つきが変わった。
なんだろう、不愉快?怒り?悲しみ?
何故?

こつん

頭部に軽い震動。
ドクターカオス?
「バカなこといっちゃいかん。確かにわしを守るようにお前には埋め込まれているが、もうそれだけではないだろう。・・・む、その、な、わしは孫娘のようなおぬしに・・・あまり怪我をしてもらいたくはないのじゃよ。・・・わかったな?」


つまり、それは
マリアに怪我をするな、と?

ドクターカオス
「マリア・嬉しいです。」
口元が思わず緩む。眼が細まる。何故か幸せという気分。

またドクターカオスの表情はまた変わる。本当にころころ変わる人。
いつもの豪快な笑い方ではなく多少照れがはいったであろう穏やかな笑い方。
「マリア、こうわしが言うのもなんじゃが・・・やはり笑顔の方が綺麗だな。」

あ、思い出しました。マリア、このドクターカオスの表情知っている。
そして今笑えた理由、知ってる。
あの時だ、マリア姫のところまでタイムスリップしたとき。
帰ってきた後も、マリアは笑えた。心から微笑むことができた。ドクターカオスのこの表情を見ることができた。
あの時は、本心から言葉を伝えられて嬉しかったけれど。
・・・私がもう1人、私はあの人の代わりかと思うと

機能がショートしてしまうような錯覚に襲われた。

ねぇ、ドクターカオス。マリアは、マリア姫の代わりなのですか?
何度も聞こうと思って聞けなかった。聞いたらきっと困るから。
そのうちに、やはりマリアのことはマリアとして見てくれていることがわかり疑問は解決したけれど。それが、「痛み」だったのかな。あれが、「痛み」だったのかな。
もしかしたらテレサもそうだったのかもしれない。
生まれた時から既に同じマリアがいたから。
だから痛かったのかな、テレサも。だからテレサは生まれた時から笑えたのかな。

ドクターカオスがいなくなると思った瞬間、感じた嫌な感情。
あれが「痛み」だから笑えた?・・・体を傷付けなくても感じられた「痛み」
ドクターカオス、マリア笑えそうです。これから貴方の支えとして笑えそうです。
だからあの表情また見せてくれますか?

「・・・どうした?マリア。なんか・・・こう生き生きしてるような・・・。」
「ドクター・カオス。マリア・明日・海に行きたい。」
「・・・?む、まぁいいじゃろ。明日は用事もないはずだしな。マリアの行きたいところでいいぞ。」
「ドクター・カオス。」
「ん?」
「有難う・御座います。」
「わしが言う立場だろうに。しかし、さっきのは驚いたぞい。」




明日は海へ行きましょう、ドクターカオス。
テレサに花を捧げる為に。

歯車にまぎれた謎はようやく解けました。

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