ザ・グレート・展開予測ショー

結局


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/ 8)

 
 短編です。他のとは何の関連性もありません。

 ヒュ――――・・・
 どこからか強い風が吹いてくる。木々が乱立し、生命を育む森の中である。ざわめく枝葉は今は見えない。春になればそれも見られるだろうが、もう二度と、ここに来ることはないだろう。っていうか、来たくない。その幹を包むかのような葉もなく、寒々とした森の天井を見る。太陽がまだ完全には上りきってはいない。十時位だろうか?妙に寒いが、雲一つない晴れ渡った空だった。
 
 どうして、こんな所にいるんだろう?
 
 雪之丞を見捨てたから?(あの状況でどうしろというのだ、俺に)
 
 そして、どんな責め苦にあったのか、復讐(人はそれを八つ当たりという)の鬼と化した雪之丞に拉致られたから?(笑顔だったから、怒ってないと思ったんだが。まさか突然サイキックソーサーをぶつけてくるとは・・・)
 
 そして、その雪之丞を追ってきた弓さんに遭遇してしまったから?(俺には何故か彼女がいつもGSの仕事の現場で目にするものと似通ったものに見えたんだが、どうやらそれは錯覚ではなかったらしい。通り過ぎる人みんな恐怖に顔を引き攣らせてたし)
 
 条件反射か何かは知らないが雪之丞が逃げ出してしまったから?(せめて拘束具くらいははずして行けよ、おいっ)
 
 そして、そんな彼の居場所を吐かせるために、彼女が俺をさらっていったから?(全く、こいつらの行動原理は不可解だ。第三者巻き込んで夫婦喧嘩しやがって)

 命の危険を感じ、文珠を使って逃げたから?(俺に出来る唯一無二の行動だった)

 ・・・で、逃げ回っているうちにここに着いた、と。(何故かは知らんがなっ)

 はっはっはっ、そして、いつの間にか彼女はこの山に潜む俺に気付いた、と。(どうして、気付いたんだ?っていうか、俺じゃなくて雪之丞を見つけろよ!)
―――そして、再度捕まった、とそう言うわけで。何がと言うわけなのかは分からんが。

 寒い。

 「・・・あなた、本当に雪之丞の居場所知らないんですの?」

 「俺は雪山に拘束されて放置され、食事も与えられず、しかも、自作の詩集『雪と私(はぁと)』の全編を聞かされて、あいつの居場所を吐かないほどプライドも精神力も人並み以上に高い男じゃないぞ。」
 
 俺のプライドが欲しかったら二十円でくれてやる。いらないだろうがな。それを言う前に蹴られた。しかもシャイニングウィザード三発。どうやら、雪之丞のことまで安っぽく言われたように思ったらしい。あるいは、彼女の詩集のことかもしれないが。―――多分、後者だろう。

 「ふんっ・・・しかし、あなたが知らないとなると・・・」

 彼女の頬に手を当て考える彼女の顔が曇る。

 「まぁ、手がかりはないな。ひょっとすればもう海外に逃げてんじゃねえのか?」

 可能性としては高い。あの怖がりようからすれば。それも今になって見れば分かる。すまん、雪之丞、俺はお前がこんなに酷い目にあっていたとは知らなんだ。いや、多分、これ以上の目をこれ(そう思いつつ、目の前の『最早俺の知っている彼女ではないもの』を見る)に合わされてたんだろうなぁ・・・。同情はするぞ。でも、俺を巻き込むな。
 
 
 「お金もパスポートもないのに?」

 俺を見下ろしながら、鼻で笑うように言う彼女。その手には、彼のものであろう財布と、パスポートがあった。何か、こういうところ、似てるよなぁ・・・誰にとは言わんが。

 「あいつは無免ではあるがGSで、しかも腕がいい。裏の世界じゃそれなりに名もある。・・・金くらいなら誰でも用立ててくれるだろう?パスポートも再発行すればいいんじゃないのか?障害はそれだけだ」
 
 聞いているうちに、彼女の顔が強張っていく。が、まだ余裕の笑みは崩れない。

 「・・・ありますわよ。最大の障害」

 ・・・その目は俺から離れない。何かドキドキしてしまうぞ・・・。←(馬鹿)

 「あなたですわ・・・あなた・・・」

 彼女の目が、気のせいか潤んでいるような・・・。

 「は?」

 何を言ってるんだ?・・・俺が、俺が欲しいのか・・・(違う)?

 「あなたが・・・大切な人ですのよ・・・」

 違わんかったぁ!!
 
 「そうだったのかっ・・・気付かんかった」
 
 全く、そうならそうともっと分かりやすいサインを出してくれればいいものを・・・。ぐふふ・・・。
 
 「ふふふっ、今更気付きましたの?随分と自分を安っぽく見ていたんですのね・・・」
 
 当たり前だっ・・・この世に自分ほど信じられんものがあるかっ!
 
 「ああ、知らんかった・・・。こうなればこんなもん」
 
 ぶちっ、という音と共に、俺を拘束していたロープがちぎれる。

 「な・・・!?」
 
 驚愕の声を出す彼女―――その声とほぼ同時に、服を脱ぎ捨てていた俺は彼女に抱きついた。

 そして、それと同時に、俺は殴り飛ばされていた。

 しかも、カウンター気味だったので、痛かった。

 さらに裸だったから寒かった。

 「何のつもりですのっ!!」
 
 激昂。さっきよりも当社比の三倍くらいの迫力で怒る彼女。
 
 「あんたさっき大切な人やゆうたやん!!」
 
 服を着ながら俺。頬を押さえながら。「父さんにも・・・」のMSパイロットの気分が少しだけ分かった。俺は親父にも平気で殴られてるが。
 
 「それは雪之丞にとってあなたが『大切な』お友達という意味ですっ!!私はあなたの事を何とも思っていませんわっ!!」

 ガ――――ン・・・俺は頭に金ダライが落ちてきたような気分になった。その場に膝を突く。
 
 「・・・そうかい、期待した俺が馬鹿だったってことだな・・・」
 
 「そうですわね」

 あっさり。

 「・・・どちくしょーっ!!」

 俺は彼女に背を向け走り出していた。とめどなく溢れる涙を押さえることさえせずに。中を舞う涙の雫が、木々を濡らす。何か凄く迷惑そうな顔をしている気がした。









 「はっ・・・」

 気付けば、当然のことながら。そこに彼の姿はなかった。

 「・・・謀られた・・・!?やりますわね、流石、お姉さまの助手・・・、一筋縄ではいきませんわ・・・」

 



 そんな事を彼女が考えているとは露とも知らず、彼は同じ言葉を呪詛のように繰り返しながら走っていた。


 「チクショウ・・・チクショウ・・・女なんて・・・女なんて・・・」

 思いっきり本気だった。

 

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