ザ・グレート・展開予測ショー

GEKKOH〜紅の巻・シーン3「ルーラー・ザ・マッドファーマー:戦場の支配者」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 5/ 5)

時間はある。彼女はそう言った。ならば、なんの問題も無い。
ちょくちょく寄り道しながら、ゆっくり進むのもいいだろう。
ことに、娯楽に興がそそられるのは理に適っている。その点については非の打ち所も無い。
なによりタマモには、その気持ちが十二分に理解できる。
釈然としないものを感じるのは、ひとえに人狼に関する固定観念との相違ゆえだろう。
そう、たったそれだけ。つまらない理由からの筈なのだ。怒る理由は何一つ…
「いつまでやってんのよ、もう!」
ギュキュンピキュンドォンドーン
「……五月蝿い。もう少し待て」
TCGで遊んでいたのははるか過去。
ある程度遊んでコツを掴むなり、子供達に賭け勝負を持ちかけだして荒稼ぎ。
みんな逃げ帰ってしまったので今度はゲーセンでまた賭け対戦をやりだしたのだ。
遊びながら手持ちの金が増えるなど、タマモにしてみれば驚く事だらけである。
それはそれとしても、タマモの方は彼女のようなのと二人連れなどさっさと終わらせたい。
理想をいえば負けっぱなしは癪なのだが、彼女を言い負かす見通しが立たないのだ。
退き際というか、彼我の戦力差を見極められる眼。それが独力で生きる最低条件である。
その本能から、タマモにとって彼女が傍にいる事は少なからぬ不快感だった。
だからさっさとシロに引き合わせ(押し付け)て帰りたいわけだ。
今の内に一人で帰ってしまえれば最善なのだが、シロを自分の代役に立てた後ろめたさ
そしてそれ以上に、彼女がまた事務所に来てしまう可能性を考えるとそれはできない。
タマモはゲームが始まってからずっと、対戦者の操作を見ているよう頼まれていた。
人狼の眼力によって彼女の瞳を鏡代わりにして、相手の動きが先読みできる、そのためだ。
だが、読めてもそこから追いつけるだけの反射神経と直感的な戦術眼がなければ徒労。
それらの能力を、彼女は備えていた。一方で、ポーカーなどでいえば鏡の使用はイカサマ。
そういったマナーを逸脱した行為に気が咎める良心というものが欠けていた。
今更疑問に思うタマモではなかったが。イカサマどころか、躊躇なく人を殺せるタイプだ。
シロとは違うなどという次元ではない。
初見から、殺気とも殺意とも死臭とも違う、もっと稀薄な死の気配を彼女ははらんでいた。
――あたし達とは違う。
別に人を殺す事ぐらい、さほど特別な事ではない。
普段祓ってる妖怪のほうが、タマモにとっては余程同族に近いからである。
近いだけだ。彼女に同族はいない。
だから人間が牛や豚や鳥を殺すようにして、彼女には世界中の全ての命を殺す事も出来た。
しかし、それができてしまうから、彼女は必要最低限度までしか殺さない。
大切なのは種族ではなく自分とのつながりである。情があれば雑草の命だって守る。
赤の他人なら妖怪も人間も純利がある場合に限って殺す。
それにおいては、この人狼も同じ意見だろう。彼女のこれまでの言動が物語っている。
違うのは、彼女が情に絆される性格ではないという事が一つ。(殺せない相手はいない。)
彼女が冷徹な強さを秘めている事が二つ。(報復を恐れる事も無い。簡単に殺せる。)
最後に、死の気配が稀薄。(殺害を実際にしたわけでもなく、天性でプロの雰囲気を持つ。)
どれも大きな違いである。
そこいらの弱虫なヤンキーが軽くぶっ殺すと言う程度の感覚で、彼女は実際に行動する。
それも相手が恨めないほど、何が起こったのか気づかせないレベルの速さで、である。
すべて憶測に過ぎないが、その憶測のみで確信させるだけのインパクトが彼女にはあった。
タマモは、それはそれという納得をして相変わらず眠たげな眼差しでそこにいた。

ところでデパートには商品搬入用エレベーターや業務用階段などがある。
これらは客が迷い込まないように防災扉やカウンターの奥などに隠され
開店時、閉店時を除けば接客で忙しい従業員が使う事も少ない。その、業務用階段踊り場。
「ナァ、オッサン?オレの都合で申し訳ねぇスけど、急いでるんスよ」
弱い照明の下で、エプロン姿の(つまりは、従業員なのだろう)金髪青年が喋っていた。
「早く戻らねぇと先輩にどやされ――マァ、そっちは別にいいや。ケド…」
すぃ、と、青年が上半身を傾けて耳打ちするように相手に近づいた。異様な光景。
「お仕事の都合でもぐりこんだ矢先に霊媒師にこられチャ、オレとしては面白くネェヤ」
相手は脂っぽい顔面全体に冷汗をびっしり浮かべて黙していた。青年は続ける。
「なんだってくだらない騒動を起シタ?おかげでまたメンドクセー仕事が増えちマッタ」
異様な光景――青年の相手はいなかった。厳密には出たり消えたり、青い炎がちらつく。
「喋るほどの自我も残ってねぇんスか?だがまぁ、どっちにせよ霊媒師が今日来ル」
居ると同時に居ない相手は、縮み上がったようだった。気配が揺れる。
「オレの仕事場は美術展のフロアー。霊媒師に追われたあんたがどこに逃げようと
勝手だが、ここへ来られるとオレまで霊媒師に目ェつけられチマウ」
青年の碧眼が人魂の炎を薄らと照り返しながら細くなってゆく。
「オレとしては、あんたをここで始末しちまうのが一番安全ナンダ。
ケド、もしアンタが美術展とは逆の方向で逃げ回ってくれりゃオレの仕事は楽にナル。
客が野次馬でそっちへ行くかラダ。約束できるなら見逃すし、後で助けてもやレル」
これはウソだった。霊媒師が到着した時に、悪霊が始末されていても普通は気づかない。
つまり、始末してしまえば霊媒師は必ずデパートをくまなく調査する。
すでに見つけようが無い、成仏した魂を求めて。そうなってしまうのは厄介だった。
青年は見ず知らずの他人の約束を信じるほどお人好しではなかったが、選択の余地が無い。
「いいカ?どんなに追い詰められても美術展に逃げ込んじゃダメだ。来たら始末スル」
これもウソだった。青年は実は妖怪なのだが、彼には実体を持たない者への攻撃手段はない。
なにより、そんな苦し紛れの真似をしても状況はなにも好転しないだろう。
青年はプロである。私怨では動かない。
ギィ
青年は音がした方を振り向く事も無く、無音で天井に跳びついた。
天井、壁、壁、と三面ある場所に四肢を突っ張る。音がした方向側。つまりは真上にあたる。
そして取り残された悪霊と、業務用階段と表とを繋ぐ重い扉を開けた誰かが眼を合わせた。
『ギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
両者が揃って悲鳴を上げる。すると表から若い男女が、多少うろたえながら入ってくる。
「まさか悪霊がビビるとは思わんかったなぁ…」
「まぁ小者という事で、サクサク退治して散歩いくでござる」
青年は気を抜きそうになった。慌てて気配を消し直す。
――若いジャン。ルーキーかよ、脅かしやがっテ。
彼とて、人間に直せばハイティーンにあたる年齢ではある。
だが実時間180年、彼の人生は裏社会の取引の道具そのものだった。
そんな人生を送った彼が、外見で相手の力量を判断したのは矛盾ではあった。
若さがそうさせたともいえるが、彼に限っては不自然な事だった。
それでもこれまでは生き延びてこれたのだから――。
が、彼の視界の隅で軽く跳ね上がる何か――尻尾が見えた。同時に女と目が合う。
同類、宿敵、無関係――彼の一族がその女性の種族を見る目は様々だった。
彼自身には興味は無かった。立場など、種族で決まるものではない。状況が決めるものだ。
そして状況が判決を下していた。この人狼は、トラブルそのものだ。
彼女でなければ見つかりようが無かった。
「クソッ!」
吠えて女に飛び掛る――そんな親切な真似はしない。
先に男の隣に着地し、デニムのジャケットを纏った腕を手繰り寄せてそいつを突き飛ばす。
「うわッ!?」
突き飛ばされた男はなにが起こったかも解っていないようすのまま連れの女と激突した。
人狼に接近戦を仕掛けるなどきわめて非効率的行動である。まずはこうして動きを封じる。
「GO!」
金髪が叫ぶと、赤い光弾が虚空に現れ無軌道に飛び散る。
バシュゥゥゥゥゥゥゥッ
スプリンクラーがけたたましい音と水流を放射する中、金髪は仕事場方向へと駆け出す。
今回の任務は霊媒師との喧嘩ではない。展示品の奪取である。
「いちちち……ちっきしょ、シロ追え!こっちのは俺が片付けるから」
突き飛ばされた男――横島は、気弱そうな悪霊を目で指して告げた。
「承知!」
活きのいい返事を返すシロは、一瞬後にはもう水流のベールの向こうに消えていた。

スプリンクラーの目的は、人間達を混乱させることである。
強攻策を余儀なくされた今、彼らの視界を封じ
よくすれば全員を退避させられる装置は金髪にとってありがたかった。

「……火事か…」
「どっちかっていうとシロの連れの仕業のほうかな」
後先考えずに文珠で火を起こしてパニックになったというセンのほうが
偶然彼らがいる場所で別口のトラブルによる火災、というのよりも可能性が高い。
その中間の可能性を見落としていたわけだが。
「放火か」
律儀にも言い直す。
「ちょっとニュアンス違う気もするけど、まいっか」
ちっともよくない事をさらりと流す。
「犯罪の片棒か…危機管理能力が充分ある証拠だな」
相変わらず無表情だが、タマモはここまで一緒にいてなんとなく満足げなんだと感じる。
「あんたホントに知り合いか?」
「適切な表現ではないように思う。というか、そんな風に名乗った覚えはない」
「…そうだったっけ?」
「うむ。そもそも名乗っていないから、すべてそちらの憶測だ」
「あぁ、そうだったわね」
タマモはがっくしと肩を落とす。
「そもそもあいつが私を憶えている可能性は…ん、待て。気をつけたほうがいい」
「うん?」
言われてタマモが相手の顔を覗き込んだ瞬間、前方から影が飛び出してきた。


つづく

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