ザ・グレート・展開予測ショー

ブラック・ボックス!(後編)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/ 7)

「で、これがそのテープか・・・」
 一日の仕事を終えてリビングで寛ぐ美神の右手には、しっかりと魔理のテープが乗っかっていた。
 おキヌの説明を聞き終えた美神。無論、美神とてウブな子供ではないので、まことに不本意だが横島と同じ事を考えた。このテープを魔理への色眼鏡としない条件付きで、どうにかおキヌの手から引き離すことが出来たのである。
「うーん・・・」
 暫くはテープを玩んでいた美神だったが、膨れ上がる好奇心を抑えることはどうしても不可能だった。
「ストレスは体に悪いしね」
 適当な詭弁で自分を正当化した美神は、ビデオデッキにテープを押し込んだ。暫く砂流のようなノイズ画面が続き、やがて50インチのテレビに映像が映し出された。
「!?こ・・・これは・・・」





午前二時。所謂草木も眠る時間帯であり、大抵の人間も明日(正確には今日)に向けて寝床の中で英気を養っている。
 だが、眠らない男が一人いた。ソイツは美神除霊事務所の屋上に上り、登山用の留め具で自分の身体とロープを固定し、そのロープを屋上の突起に命綱として固く固定していた。
 右目に闘志、左目に煩悩を宿した横島が、屋上からゆっくりと事務所の壁を下っていく。焦りは禁物である。静かに、確実に目標へと近づいていく。
 やがて、足元にレンガとは違う何か硬いものがぶつかった。おキヌの部屋の窓枠に辿り着いたのだ。横島は獲物を狙う禿鷹のように、ロープを調節し冷静にその窓と向き合った。
(よし、まずは「開」の文殊で窓を開けて・・・)
 横島は懐を探り、予めストックしておいた文殊を取り出した。念のため霊力を抑え、解凍時の発光は控え目になっている。そして、いざと思ったその瞬間。

ガラッ

 横島が文殊を使う前に、突然内側から窓が開かれた。唖然とする横島の目に映ったのは、雪女も一瞬で凍結するほどの冷たい目をしたおキヌの姿だった。
「こんな時間に、こんなところで何をしてるんですか。横島さん」
「え・・・あ、その・・・」
 横島の頭の中で、サイレンと警報とアラームが一斉にけたたましい音を立てた。必死で言い訳を考えるが、空中に宙吊りになっている現状では何を言っても説得力ゼロである。
「こ、これは・・・練習、そう練習なんだよ!今度学際でサーカスやることになってさ。あははは、は・・・」
 笑って誤魔化そうとするも、おキヌのブリザード指数は上昇の一途である。おキヌは何も言わずに、窓枠に隠れて見えなかった両手を静かに持ち上げた。その両手には・・・どこから持ってきたのか、鋭利なクワガタ鋏が凶悪な光を放っていた。
 横島の顔から一気に血の気が引いた。慌てておキヌを説得しようとするが、最早おキヌは聞く耳を持たない。
「言いたいことは・・・それだけですか?」
 おキヌは、ゴーゴンが笑ったらこんな感じだろうと思われる薄笑いをしながらロープに鋏をかけ、実に躊躇いなく両手に力を込めた。

ちょっきん

「うぎゃああぁぁぁぁぁぁ・・・」
 刃の擦れ合う音と同時に、無常にもロープは横島よりも上側で切られた。ドップラー効果を利かせて悲鳴を上げながら、暗い闇夜へと落下していく横島。後には、中途で途切れたロープが蜘蛛の糸のように揺れているだけだった。
 おキヌは窓をぴしゃりと閉めると、クワガタ鋏を投げ出すように床に放った。良心がちくりと胸を刺したが、横島にはあの位が丁度いいだろう。
「まったくもう、窓の外で変な音がすると思ったら・・・でも、何で横島さんが?」
 感情に任せて横島を奈落の底に叩き落したことで、おキヌは多少は冷静さを取り戻した。
 そうなると、今度は何故横島が自分の元に来たのかが疑問になる。スパイダーマンのように外部侵入を謀っていたのでとりあえず制裁を加えたが、何か理由があったのではないだろうか。
 で、実に短絡で確実性のある答えに辿り着いたおキヌは、リトマス試験紙のように一気に顔を赤くした。
「ま、まさか横島さん、私にモーションをかけに来たんじゃあ。・・・ちょっと勿体無かったかも。けど、やっぱりいきなりは・・・ああ、でも・・・」
 自分の部屋で一人煩悶とするおキヌ。彼女の眠れぬ夜はまだ続きそうである。



 事務所の一角にあるテレビ付きのリビング。深夜の只中だというのに、シロとタマモはソファに座り、食い入るように画面に見入っていた。
 これでもう何度巻き戻して見たか分からない。見る度に新たな興奮を覚え、身体が熱くなっていくのが肌で感じられた。そして、デッキに再生されているのは、魔理のテープだった。
「凄いでござるなあ。あそこまでやって大丈夫でござろうか?」
「さーね。あ、今度は二人がかりで一人をやってるわよ。あれは少しきついわね」
「あ、何か道具を使うみたいでござるよ。しかし・・・」
 シロの実況が一時中断した。どうやら最高潮を迎えているようだ。だが、絶妙のタイミングでCMに切り替わってしまう。営業スマイルのタレントが大写しになり、タマモはうざったげに早送りのボタンを押した。
 一息つくように、シロが言葉尻を繋いだ。
「しかし、あんな角材で殴るとは、多少卑怯な気が・・・」
「何言ってんのよ。プロレスに卑怯も何もないって、美神が言ってたじゃない」
 タマモがクールに返した時、丁度CMが終了した。かわりに映し出されたのは、眩いばかりのスポットライトと声を枯らさんばかりの大歓声。そして、リング中央で乱闘する四人のマッスルレディー達だった。
 アホらしいと呆れていた、美神から視聴許可の太鼓判が押された魔理のテープ。それは、つい先日行われた女子プロレスのタッグ・マッチ戦を撮ったものだった。その試合に深い感動を覚えた魔理は、この感動をおキヌにもと思ってテープを貸したのである。
 だが、元々流血沙汰は苦手なおキヌのこと。シロとタマモに付き合ってついさっきまで一緒に見ていたのだが、やがてお先にと自分の部屋に戻ってしまった。そこで横島と鉢合わせたわけである。
 勿論、横島は例のテープがプロレス観戦のものだとは塵ほども思っていない。おキヌも横島がそんなものを盗みに自分の部屋に侵入しようとしたなどとは、露ほども思わなかった。誤解と勘違いが生んだ結末である。
 レフェリーのカウントが3を数え、試合終了のゴングが重々しく鳴った。熊のような体格の覆面レスラーが勝利の雄叫びを上げた瞬間、隕石が落ちたような凄まじい音と共に、事務所内を激震が襲った。
「!?今のは一体?」
「演出じゃないの?凝ってるわね、最近のテレビって」
 なるほどそうか、と簡単に納得するシロ。激震の最中横島の断末魔の悲鳴が聞こえた気がしたが、こんな時間に事務所にいる筈がない。おそらくは気のせいだろう。
 タマモが、何度目になろうかというリモコンの巻き戻しボタンを軽やかに押した。彼女達の眠れぬ夜も、もうしばらく続きそうである。

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa