ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(16)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/10/29)

 タマモに続いて玄関を出ると、家の前に大型のランドクルーザーが停まっていた。除霊に参加する人
数が増えたのと、不景気のせいで以前なら断っていた山奥の除霊まで受けざるを得なくなったため、美
神がしぶしぶ購入した車だ。最初はダサイゴツイと文句をいっていた美神だったが、乗ってみると以外
に快適で、事務所のメンバーの評判も良かったので今ではすっかりお気にいりになっていた。

 だが横島にはその車が三途の川の渡し舟に見え、思わず足が止まる。

 (なんとかして事務所に泊まることだけは避けなければ・・・)

 彼は先程からそのことだけを考えていた。

 「なにボケッと突っ立ってるの。さっさと乗りなさい!。」

 そんな横島の様子にいらだった美神が助手席の窓から顔を出して怒鳴った。横島は反射的に車に駆け
寄ると彼の指定席である助手席に乗り込む。ちなみに後部座席には運転席側から、おキヌとシロが脹れ
っ面で座っていて、タマモはシロの隣で居心地悪そうにしている。

 「あのー、美神さん、俺、明日も学校があるんでアパートまで送ってくれるとうれしいんスけど。」

 横島は生き残るための闘いを始めた。だが、

 「横島クン、丁稚の分際で私を足につかうつもり?」

 「とっ、とんでもない。そんなつもりは毛頭ありません。ハイ。」

 作戦第一弾はあっさり粉砕された。

 (まあ、あまりあてにはしてなかったしな。しかし、そうなると残る手立ては一つか。まあ切札はま
  だ手元にあるし大丈夫だろう。)

 動揺を表に出さぬよう自分に言い聞かせる。だが、

 「横島クン。」

 呼ばれて美神の方を見た瞬間、自分は釈迦の手の中のサルだということを思い知った。

 「ポケットの中のものを返しなさい。それ、私のお気に入りなの。」

 美神は左手を差し出すと、有無を言わせぬ調子で迫る。横島は最後の切札−黒いシルクのパンティ
(美神のもの)−を絶望と共に差し出した。これで、事務所についたら皆にさりげなく別れをつげて、
あとは『翔』の文殊をひねり出しアパートへ逃げ帰るという手は使えなくなった。

 「変なことに使ってないでしょうね。」

 美神は横島からそれをひったくると、そういいながらそれに異変がないか念入りに確認する。

 『変なことって、どんなことでござるか?』

 シロの無邪気な質問に、車内に一瞬の空白が生まれる。

 「そっ、それはね、えーっと、男の子ってのは年頃になるとその・・・」

 どう説明していいかわからずシドロモドロになった美神を助けるかの様に、それまで黙っていたおキ
ヌが口を開いた。

 「横島さん三日も徹夜の連続だったんでしょう、明日は無理せずに学校は休んだ方がいいですよ。」

 いつもどおりの優しい声だった。

 「私もそうするつもりですし。明日はみんなで『ゆっくり』、お話でもして過しましょうよ。」

 だが、車内の全員が室温が3度程下がったのを感じた。『ヒッ』という小さな声がしたのでそちらを
見ると、シロとタマモが自分の肩を抱いてブルブル震えている。その隣でおキヌが優しげな、でもなぜ
か鳥肌が立ってくるような微笑を浮かべていた。ここに至り横島は全ての希望を捨てた。

 美神が毒気を抜かれたような表情でランドクルーザーを発進させる。

 (あれ、今向こうの家の影に人がいたような・・・)

 助手席の窓から外を見ていた横島は、道路をへだてて反対側に立っている家の影に誰かいたような気
がしておもわず目を凝らした。だが、車のスピードが上がったためすぐにその家はみえなくなる。

 (気のせいか。それに誰かが隠れていればシロタマが気付かないはずないよな。) 

 彼はそう結論づけると、これから彼を襲うであろう試練にそなえ、煩悩を出来る限り高めることに専
念するため目をとじた。 

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