ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 永遠編 序の一


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/23)

西暦2172年 東京旧市街地区

 「ドクター・カオス! お客様です!」
凡そこの時代には似つかわしくないボロアパート。ドアを開けた女性が自分の姿を認めて奥の人物に呼びかける。
女性に暫く見惚れたあと、軽く会釈して奥を覗き込む。
 「なんじゃ。またおぬしか」
自分の顔を認めた奥の人物が声をかけてくる。
 「またぞろわしの話を聞くという名目でマリアに会いに来たのじゃろう?」
真実ではないが、否定もできない。黙っていると目の前の人物―ドクター・カオスと呼ばれた老人―は溜息をひとつついた。
 「マリアがわしの造った人造人間であることは話したはずじゃがな」
その事実は確かに知っている。しかし―
 「目の保養――か。ククッ。昔にもおぬしのような煩悩小僧がおったわい」
ドクターはここではないどこか遠くを見る目になった。今日もドクターの話が聞けそうだ。
 「そうじゃな。たまには錬金術以外の話をするのもまた一興。マリアに関係する話でもあるしな」




もう200年近く前になるのかのう。わしはある秘術の実験のためにこの日本に渡ってきた。
そう言えば、わしはあれ以来ずっと日本に住み続けていることになるか。200年近くも同じところに居続けたのは初めてかもしれんな。
…理由? うーむ理由か。居続ける理由というよりかは離れる理由が無かったからな。
その頃からわしは今みたいなスラム(貧民街)に住んでおったが、都市問題は時代や国を問わずどこにでも存在しておったからな。わしはそんな事にはお構いナシじゃ。
それにその頃の日本は経済大国と呼ばれておってな。大量生産と大量消費が美徳とされておったのじゃ。
結果、まだ使えるゴミが大量に出てな。日本に居れば材料には困らなんだ。
そういえば、あの当時は「このままでは日本はゴミで埋まってしまう」などと謳う者もおって、どうなるのか楽しみにしておったのじゃが、何のことは無い。せいぜいゴミの山が湾を一つ埋めた程度にすぎなかったな。どうせなら陸に積み上げてくれれば再利用し易くて良かったのじゃがなぁ。

…お? おお。話が逸れたか。
わしは実験の被験者に近づくために、その助手を利用する事を考えた。
そこでマリアを派遣したんじゃがな。その助手の小僧っ子がな。ククッ。マリアが何もする前にマリアを口説いてきおった。
…ククク。そうバツの悪そうな顔をするな。初対面でマリアを口説いたのはおぬしだけではないと言う事じゃよ。
この事はわしの自慢でもある。自信作のアンドロイドが人間と間違われるのじゃ。こんなに嬉しい事はあるまい。

諸事情でその実験は失敗に終わったのだがな。
…被験者の名前? う〜ん。やたら金に汚い女だったのは覚えとるんじゃが…
まあ、よい。その守銭奴女が実はGSでな。わしもオカルトには顔が利くから、そやつの助手である小僧ともちょくちょく顔を合せるようになった。まあ『縁ができた』と言うヤツじゃ。

例えばわしはオカルトアイテムを扱う店によく発明品を売り込みに行っておったのじゃがな。小僧も同じ店にお使いに出される事が多かった。
…店の名前? フフ。厄珍堂じゃよ。今ではオカルトアイテムの製造を手がけておるじゃろう。『厄』印の魔法具と言えばちょっとしたモンじゃ。あれはわしが売り込んだ発明品がもとになっておるのじゃがな。あの頃は金に困ってたとは言え惜しい事をしたもんじゃ。

そう言えばその店がらみで面白い事件があったな。
その日もわしはマリアを連れて発明品の売り込みに来ていたのだがな。そこにちょうど小僧もやってきた。
そのとき小僧が偶然棚においてあったホレ薬を見つけてな。
…おぬしならこんなときどうする? …クク。そうじゃ。あやつもそれをやろうとしたのじゃよ。
ところがあやつは焦って薬のビンを取り落としてしまってな。ホレ薬はマリアに思いっきりぶっかかった。
その瞬間マリアは小僧にぞっこん惚れ込んでな。抱きついてキスしようと小僧を追いまわし始めたんじゃ。
…なんじゃ? うらやましいか? おぬしもやってみたいか?
そのホレ薬、実は不良品でな。一度ホレたら背骨が折れるまで抱きついて窒息するまでキスするという―――
…複雑そうな顔じゃな。マリアの怪力はおぬしも知っておるじゃろう。胴体ちぎられて頭をフッ飛ばされたいのか?
ま、結局その騒動はマリアの内臓ブレーカーが過負荷によって落ちてお開きとなった。小僧も命拾いしたわけじゃ。
…マリアは? そのあと再起動したら普通に戻っておったぞ? その時の事は記録されておらんかったのではないか?
ま、今考えてもあのときのブレーカー作動は腑に落ちん点もあるのだがな…
例えば――例えばの話じゃが、マリアの意志が小僧を守ろうとしたとか…な…。

…ありえない? ありえないか。だが、そうでもないんじゃよ。
その後も色々大きな事件があったんじゃがな。マリアは生みの親であるわしが妬けるほど小僧を一生懸命守りおった。
そのために2度ほどボディが大破したこともあるんじゃよ。

1度目は因業女の付き添いで月に行ったときじゃ。
トラブルがあってマリアと小僧が宇宙船外に放り出されたまま大気圏突入したのじゃが、マリアが小僧を庇って冷却してやってのう。
結局、小僧は無傷で生還。その代わりにマリアはボロボロじゃ。
…ああっ! そんな顔をするな! ホントのことじゃ。ウソだと思うんなら後でマリアに聞いてみぃ。
あんときゃ修理に大金がかかって余計に生活が苦しく…あ〜〜まあ、関係ないがの。

2度目はな。世界の存続をかけて、ある魔神と戦ったときじゃ。
…ホントじゃって! イキナリそんな目で見るな!
その頃には小僧もいっぱしのGSになっておってな、仲間と共に魔神と対峙していたんじゃ。
じゃが力の差は歴然でな。なすすべもない小僧たちを庇ってマリアは魔神の霊波砲を一身に受けた。
そのときは完全にボディがダメになってしまってな。魂と記憶を別ボディに移し変えるしかなかったのじゃよ。
そのあと復活したマリアの活躍も有って、めでたく世界は救われたわけじゃ。
…ん? ああ、それが今のボディじゃよ。前のボディ? 今と大して変わらんじゃろ。頭のアンテナが少し目立ってたぐらいかの。

まあ他にも色々あったのじゃが。とりあえずどう思う? マリアは小僧に惚れておったと思うか?
…ふむ、まあそれも、もっともじゃな。あれの性格からして身近な人間が傷つくのは放って置けないからのう。
もし危機に陥っておるのが、おぬしだろうと、わしだろうとマリアは命がけで守る。それは間違いないじゃろう。

しかしな。その小僧、どー言えば良いのか…ふむ…人外のものに好かれやすいタチでな。
女の幽霊には好かれておったし、妖怪の弟子にも慕われておったし、魔物……魔族の娘と恋に落ちた事もあった。
なんというか。あけっぴろげというかの。温かいというか。わしには良く分からんが不思議な魅力のあるやつじゃったよ。
まあ実際、あやつは女とあれば種族の差別なくやさしかったからな。恋愛ヌキにしてもみんなから慕われておった。
おまけに仕事の面で仲間たちからの信頼も厚かったらしいのう。

それがハッキリ分かったのはあやつが死んだ時じゃな。
あやつは色々あってあの時代の人間のわりには、あまり長生きできんでな。
せめて見送ってやろうと、親しい者達があやつの死の直前に集まった。
あやつの家族―妻・子供・両親に加えて、人間・妖怪・神族・魔族・他に幽霊とかも居たかのう。
とにかく多種族に渡り大人数が押しかけてな。あやつの寝室には収まりきれずに庭に浮かんでいるヤツもおったわ。
わしとマリアは壁際で様子を見ておった。

死に際だというのにあやつは楽しそうでな。久々に大勢集まったのを素直に喜んでおったわ。
それだけの人数がいたのに不思議と泣き出すやつは一人もおらんでの。
最後の瞬間までみんな―あやつも含めてな―笑っておったわ。それはそれは穏やかな時間じゃった。

最期に一言「みんな。楽しかった。ありがとう」と言うたきり、あやつは永遠の眠りについた。
それまで和やかだった部屋が一転して啜り泣きや号泣、怒号に包まれての。
まあ、わしは長く生きて来た分そういうのには慣れていたのじゃが、さすがにいたたまれなくなってな。その場を辞そうと振り返ってマリアを見たのじゃが…。

マリアは、涙を流して泣いておったのじゃ。

後にも先にもマリアが泣いているのを見たのはあの時だけじゃ。
後で調べてみても、どうしてあんな現象が起こったのかは判らんかった。
わしは何だか自分だけが取り残されたような気分になったよ。いつのまにかマリアが――娘がわしの手の届かない領域に行ってしまった気がしてな――
…ん? 小僧。どうした? …おぬしも泣いておるのか?




 「ドクター・カオス! 食事の準備・完了しました。お客さまも・御一緒に」
 「!! マリア!? いつからそこにおったのじゃ!?」
部屋の入口にマリアが立っていた。彼女は今の話を聞いていたのだろうか。
 「…まあ良いか。小僧、おぬしにも食わしてやろう。マリアの手料理じゃぞ」
ドクターは意地悪そうにニヤけてキッチンに向かった。

自分もそれに続こうとして、ふとマリアが気になり目を遣る。
マリアはさっきの位置で棒立ちになっている。顔はややうつむき加減。それになんか振動している…。
好奇心に駆られて顔を覗き込もうと回り込むと、マリアは突然顔を上げた。
マリアは何を言うでもなくじぃっと自分の顔を見つめてくる。
涙…は無い。
でも見つめてくる瞳は切なげで…なんかこードキドキさせるものがある。

どのくらいそうしていたのだろうか。
 「どうぞ! こちらです!」
やがてマリアはニッコリ微笑んで、先に立ってキッチンに歩きだした。

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa