ザ・グレート・展開予測ショー

#FILE.夏祭り NO.0 〜七福神の誘い〜


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 8/ 2)

 ある夏の日の夕方。

「ま〜ったく。めんどうったらないのねー」
「そうですか? 私は下界の夏祭りを見に行くなんて久しぶりで楽しみですけど」

 西の空、まだ十分な高度を保つ真夏の太陽を背に、たたずむ人影が二つ。

「あなたは下界に行けるだけでも楽しいかもしれないけど。私はもう人間のする夏祭りなんて、見飽きちゃったのねー」
「そんなことを言うものでもありませんよ。せっかく七福神のみなさんが、自分達が祀られている神社での夏祭りに招待してくださったのですから」

 二つの人影は話しながら、次第にその高度を下げつつ、近づいて来る。

「それが一番イヤなのよねー。他の神様からのお呼ばれほど、退屈で代り映えのしないものってないでしょ」
「……でも、今回は招待状に『面白い趣向を用意している』と書いてありましたよ」

 片方はライトグリーンと朱色で染め分けられた浴衣を着て、大きなカバンを面倒くさげに後ろ手に提げた女の子。
 もう一方はライトブルーと藍色で染め分けられた浴衣を着て、腰の後ろに回した両手を組んだ、ウキウキした様子の女の子。

「それもどうだかね。………あっ!?」

 突然、片方の女の子がその場に止まり、カバンから片手を離して額にかざす。
 目の上にではなく、額にある目のような形をしたものの上に。

「?……どうしたの? ヒャクメ?」

 自然と少し先に進むことになったもう一方の女の子が、不審げに自分の連れを振り返る。

「どういうことかしら。“みんな”この祭にきてるのねー」




    あんてな夏休み企画!
    #FILE.夏祭り NO.0
  〜七福神の誘い(いざない)〜




「おお。ヒャクメに小竜姫か。よく来てくれた」
 糸目で福耳、小柄で小太り。そして何故か賽銭箱に載った米俵の上に腰掛けている男が二人に話し掛ける。

 ここは、夏祭りが行われている神社の御堂。
 祭りの喧騒からは少し離れた位置にあるのだが、それでも耳に届く音からは派手な賑わいの様子が想起される。
 それもそのはずで………

「それでさー、そのアベック達の顔ったらなかったのよ」
「がっはっはっは、そやつらも災難であったな」
「まったく、わしの立場もあったものではない」
「はっはっは、布袋どの、それは弁天にしてやられましたな?」
「お〜い。大黒! おまえも早ぅこっちゃ来て飲まんかい!」
「おうおう、小竜姫もヒャクメも飲め飲め!」

 御堂の中では6人の男女(といっても女性は1人だけだが)が宴会をして、大いに盛り上がっていた。
 もちろん言わずと知れた宝船の面々、七福神達である。
 一般的に祭りがある日は、縁日といえども、神社などそっちのけで屋台や盆踊りのやぐらなどが盛り上がるものなのだが、
 オキラクでゴキゲンな福の神様たちは、それらを上回るかの如き大騒ぎを繰り広げていた。

「………スマンのう。久々に集まったもので、はしゃいでしまっておるのだ」
「それは全然かまいませんが………」
「神様が集まったらいつものことなのねー。それよりも大黒さま、『集まる』と言えば、どうしてこの祭りにGSのみんなが集まってるのかしらねー」

 小竜姫とヒャクメは賽銭箱の手前から御堂の中を一瞥し、目の前の大黒に対して各自の思うところを口にした。
 もっとも、小竜姫の話の続きは、ヒャクメが一緒に受け持った形になったが……。

「うむ、さすがヒャクメ。気が付いたか」
 大黒は元々細い目をますます細くしてニンマリと笑う。
「察しの通り、彼らが集まったのはわしらの差し金での」
 そしてそのまま表情を変えずに、後方でバカ騒ぎをしている連中の方を斜めに振り返る。

「例えば、美神どのとその事務所の連中には宝船復帰のキッカケを作ってくれた礼として、おぬしらと同じように招待状を出した。まあ、文面は恵比寿に頼んだのだが……」
「……なるほど。それは美神さんには効果的なのねー」
 後頭部に玉のような汗を浮かべて苦笑するヒャクメ。
 因みに、恵比寿は商売繁盛の神である。

「でも、他の方たちは……?」
 小竜姫が興味津々の面持ちで、問う。

「はっはっは、それが以外にもカンタンでな。『七福神が一人につき一つ、この祭りに来た者に福を与える』というウワサをGS業界の方にそれとなく流しただけじゃ。予想外にみなが集まったところをみると、わしらの人気もまだまだ捨てたものではないのぅ」
「「……………」」
 嬉しそうに笑う大黒をよそに、二人はただ苦笑するだけだった。

 確かに世の女の子達にとって「縁」を司り、恋仲を取り持ったりする布袋の福は堪えられない魅力を持つものだろう。
 毘沙門の授ける武運は、強さを求めるものには喉から手が出るほど欲しいものであろうし、
 智の道を極めんとするものにとって弁財天の祝福は何物にも代え難い宝となるだろう。
 中には台所を司るところの大黒に、腹いっぱい飯が食べられることを願う、控えめな者もいるかもしれない。
 長寿を願うものは……いないような気もするが。

 しかし彼らは単に、こういうイベントを機に、みなで集まって騒ぐのを楽しんでいるようにも思える。
 もし今回のイベントが七福神がらみでなかったとしても、何かあれば彼らはきっと集まったろう。

「でも、ワルキューレとか、机の愛子ちゃんとか………ぁ!? パピリオも来てるのねー」
「えっ!? パピリオが!? あれほどきつく留守番を言いつけて来たのに……。ヒャクメ! 今どこにいるのか分かりますか!?」
 GS関係以外の人達もいることを指摘しようとするヒャクメと、
 その意図とはよそに、もの凄い剣幕でヒャクメに詰寄る小竜姫。
「え?………ぁ、そうか。しまった」
 ペロッと舌を出してみせるヒャクメ。
「『しまった』じゃ、ありません! 知ったからには、連れ戻しますっ! まったく、あの子は。言うこと聞かないんだから……」
 さながら幼子の世話をする母親か姉のような小竜姫。

「まあまあ、小竜姫。せっかくの祭りなのだ。今回くらい大目に見てやるがよい」
「でも、大黒さま……」
 見兼ねて大黒がフォローを入れるが、それでもその責任感の強さから、渋る小竜姫。
「いやな、実はパピリオがこの祭りに来たのも、わしらの責任かもしれぬものでな」
「…………は?」
 大黒の意外な発言に、戸惑う小竜姫。

「さっきもヒャクメが指摘したとおり、この祭りには人外の者も集まってきておる。それもここに集まった人間達に縁(ゆかり)のある――」
「そうか! 『縁』! これって布袋さまの力だったのねー!」
 大黒の言葉を途中でさえぎり、疑問が解けたことに目を輝かせながら叫ぶヒャクメ。

「……そうなのだ。布袋はもともと笑門来福の神でもあってな。祭りなど、人の笑いの集まる所とは神通力の相性が良い。それゆえ今日、この場では普段以上の縁を結び付ける能力を発揮し、縁あるものたちを引き合わせているのだ」

「…あ、ああ。なるほど。大黒さまたちのせいとは、そういうことでしたか……」
 小竜姫が納得した様子で大きく肯いてみせる。
 しかしその割には妙にソワソワしているようでもある。

「と、いうことは。今この祭りではカップルができやすい状態になってるってことかしら?」
 ヒャクメが小竜姫を横目で見ながら、ぽろっとこぼす。

「……あ、あの、大黒さま。やっぱり私にはあの子の監督義務がありますし。ち、ちょっと祭りの方に行ってみます」
 最前のヒャクメの言葉を聞いてか聞かずか、なぜか焦った様子で訴える小竜姫。
「ああ、かまわん。だが、あまりキツくあたらんようにな」
「はい。では、ちょっと失礼します」
 言うが早いか、小竜姫は駆け出した。
 人前では目立つので飛ぶことはできないが、それこそ飛ぶような速さで祭りの喧騒の中へと走り去った。




「「……………」」
 残された二人は、顔を見合わせて、お互いのニヤけ顔を確認する。
 小竜姫の性格上、パピリオ探しはするのだろうが、
 態度からして目的がそれだけでないことも明らかだった。

「ヤレヤレ。お姉さんは大変なのねー。………後で覗いちゃおっと」
 目を輝かせ、会心の笑顔で、ヒャクメ。
「……ところで、なんでわざわざみんなを集めたりしたの?」
 ふっと思い出したように、大黒に問う。

「なんじゃ? 気づいておらんかったのか? それが今回わしらが用意した趣向じゃぞ。招待状に書いてあったやつだ」
 心底意外そうに、大黒。
「ああ、そういえば……。じゃあ『祭りはみんなが集まった方が楽しい』ってゆー趣向だったの?」

「ある意味その通りだが、少し違う……」
 大黒は頭の上で頭巾をもてあそび、考えるような仕草をしてみせる。
「……? どう違うの?」


「おーい! サカナが足りんぞぉっ!」
 折しも。後ろの宴会連中から声がかかる。


「まあ待て。いま連れて行く!」
 大黒は、ヒャクメの方を向いたまま、返事をする。
「……というわけなのだ。なかなか面白い趣向だと思うのだが、協力してもらえぬか?」

「……なるほど。始めからそのつもりで私を呼んだわけねー。この場合、小竜姫もサカナの一つってことか」
 大黒は、ヒャクメの質問に、ただ黙ってニヤけている。
「……しょうがない。ここまでお膳立てされてたんじゃ、私の独り占めってわけにもいかないか。楽しみはみんなで山分けするのねー」
 しょうがないと言いつつ、特に何かをあきらめた感じでもないヒャクメ。
「かたじけない。その代わりと言ってはなんだが、神通力が足りなければわしらが工面しよう」



 ヒャクメは大黒に案内されて宴会場……もとい、御堂に入った。
「みな聞け! 交渉成立じゃ! ヒャクメが酒のサカナを提供してくれるそうだぞ!」

「おお〜!」「はよ映せ!」「アベックは!? アベックは出るの!?」「やんややんや」「がっはっは!」「いいぞー! やれー!」
 宴会連中の反応は、まるっきり酔っ払いである。

「…………」
 ヒャクメはその様子に、ひとまず軽く溜息をつく。
 が、すぐに気を取り直して目をつぶり、集中し始めた。


「それじゃ、映すのねー。う〜ん、誰からにしようかしら………。あ! あの人がいいかも………」


 御堂の中空、ヒャクメの目の前に、映像のようなものが映し出される。
 それは次第に鮮明さを増してゆき、何者かの姿があらわになって来る。

 ……そこにいたのは……!!

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