ザ・グレート・展開予測ショー

水使い(〜暗殺戦序曲〜)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 6/ 9)




 ー水使いー




 ため息がこぼれるほど、悪趣味な屋敷だ。

 しみじみと、彼は、そう吐露した。

(ウゼえ、ウゼすぎる・・・ここ酸素ちゃんとあんのか?)

 表面にはおくびも出さずに、内面で毒を吐きまくる。
 ジロリと、横にたたずむイタリア出身の捜査官が厳しい眼差しを向けてくるが、彼は知らんふりをして露骨に目をそむけた。

 某政治家及びその無実を証明出来る(させる)証人の護衛。

 本来の立場なら、一介の捜査官が関与するには苦しい仕事の筈だが、彼が思うに、この腐れ捜査官はそういった金になる裏の仕事に関してかなりのパイプを持っているようだ。
(殺し屋と悪徳警官か・・・全く日陰者の組み合わせだな)
 今、彼らは自らが護衛する対象の屋敷の中にいた。
 その屋敷の主、つまり件の政治家は、あからさまに尊大な態度で捜査官にあれこれ言いつけている。
 油ぎった顔に、淀んだ眼。その眼の奥にあるのは人を見下し侮蔑しきってる感情がハッキリ見てとれる。
 ますます不快感の増してきた彼は、気分が優れないとか理由をでっちあげ、この場は退散する事に決めた。が・・・
「困るんだよな、呪いだか何だか非科学的なもんから護衛するとかぬかす詐欺師に、はした金とはいえ金くれてやるなんて!」
 ーー出やがった。
 その言葉を聞きつけ、彼は心底うんざりした。
 下手に出てる相手と話してる内に、どんどん考えなしに本性を露にしていくという小悪党タイプ・・・こういった輩は、実にあしらい易くもあるのだが、彼にとってはとことん敬遠したい相手でもあった。しかも前例があったからこそ雇われたというのに、当の本人はかけらも危機意識を持ってないらしい。
「わしもほとほとついとらん・・・そう思わんかね?」
(思わねぇよ!)
 直前ーーとっさにそこで口を掌のひらで覆う。
 今のは危なかった。彼は思う。少し前ならば、こんな事くらいで苛立ちを覚えて、依頼人の機嫌を損ねるような言葉を口走りかける事など、絶対になかっただろう。
 しかし今の自分は、何故だかそこまで仮面を深くかぶる事ができないでいるのだ。
 一体いつからこんな直情的になってしまったのだろうか?
「ぉぃ・・・」
 どんな危地においてだろうと、感情まかせなどという愚挙には出なかった筈だ。
「ぉい・・・!」
 それがこんな小悪党風情のたわごとに・・・
「おいっ!聞いとるのか若造!」

「聞いとるよ小悪党」

 はた、と気がつく。視界に映ってきたのは、珍しく渋い顔してる捜査官と、顔中真っ赤にした『依頼人様』であらせられた。


 拷問にも等しい心理的な責め苦が、長きに渡って彼らを飲み込んだーー・・・


「馬鹿者」
「るせぇ・・・」

 憔悴も露にし、二人は長い渡り廊下をただ歩いていた。

『わしはスケジュールがおしとるのだ! 遅れずにしっかりわしを守れよ! かすり傷一つでもついたら許さんぞ!?!』

 先ほどまで、二人の耳にというか、地球圏にて用いられる言語を操る全ての人種の耳には、到底理解不可能な『??語』をわめき散らした依頼人は今、ドスドスと二人の前を歩きながらそう怒鳴り声をあげた。
(一体あいつ何語を習ってきたんだろうな・・・もしかしてどっかの銭湯に落ちてきた宇宙人とか言わないだろうな?)
 怒鳴り声を耳を塞いでやり過ごした彼は、ふとそんな事を考えていた。どこからか『一緒にしないでほしいカナ〜』とかいう声が聴こえたような気もするが、それはまぁ幻聴だろう。
 そうこうしてる内に屋敷の外に出た。依頼人はふんぞりかえりながら、立派な車の後部座席に乗り込む。
『・・・・・・』
 二人も無言のまま、ポンコツ車に乗り後を追いかけたーー



「あの車なワケね、ナンバーは・・・」
 屋敷の正門を抜けた、二台の車の内その一つに『ターゲット』の姿を認めて、褐色の肌をした小女はそう洩らした。
『キキッ! 今ヤッちまえばいいのによー!』
 小女の肩にいる、漆黒の色の小悪魔がそうわめいてくるが、少女は黙って幽かに首を振った。
「後ろの車には護衛が乗ってる。前のターゲットとの関わりから、身の危険を感じて雇ったんだろうけど・・・」
 そう言い少女は、ふわりと小柄で華奢な体を浮かせて、大型のバイクに飛び乗った。
「それならこっちも少し本腰入れないとね! 先回りして、車や人通りも少なくなる峠の辺りで勝負なワケ!」

 ヘルメットに収まりきらない長い黒髪をなびかせて、少女は、いや超一流の呪術師は獲物を追いかけたーー・・・




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