ザ・グレート・展開予測ショー

勇気の剣(エピローグ)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/ 4)

霞を見送ったのと同じく、吹き抜けるような快晴の空。横島は、シロが身支度を終えて来るのを里の出口で待っていた。
里を一望できる、切り立った崖の上。横島がぼんやりと小屋の点在する風景を眺めていると背後から声を掛けられた。横島が振り返ると、そこには・・・柊が立っていた。
「柊!!お前まだ怪我が完治していないのに・・・」
「大丈夫だよ、このくらい」
横島の半分非難の混じった声に平然と応える柊。柊は最初こそ生死の境を彷徨ったが、一旦峠を越えると見る見るうちに快方へと向かった。驚くべきは人狼の超回復力、といったところか。
おそらくは見送りに来たのだろうが、シロがいない分多少居心地が悪かった。やりにくそうに横島が頭を掻いていると、柊の目線がこっちを向いているのに気が付いた。
何だろう、と思っていると柊はこちらに近づいてきた。予期しなかった行動に眉をひそめる横島。柊は横島の前まで来ると、ちょっといいかと訊いてきた。
別に断る理由はない。少々面倒だが、ああと短く答えると柊がやにわに口を開いた。
「横島、お前の「力」って何だ?」
「は?」
いきなりの訳の分からない質問に横島の目が点になった。数学のテストを前にした文系人間のような表情になる。だが、柊は構わずに先を続けた。
「シロから聞いたんだけど、お前紅蛇を屠った時記憶が飛んでたんだろ。けど、それでいていつもより遥か上の力を出してたって・・・横島、教えてくれ。何がお前を強くさせている?お前の「力」の源は何だ?」
柊の顔は真剣だ。横島は少し考え、一旦は「煩悩かな」と答えたが柊に「ふざけるな」と一蹴されてしまった。確かに冗談にしか聞こえない。
「んー、そうだなあ・・・」
もう一度考え、横島はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「先生!お待たせしたせござる」
ナップザックを担いだシロが元気に駆けてくる。両足の傷は横島の文殊によって既に完治していた。
柊は姿を消していた。見送りにきたのでなく横島に聞きたい事があっただけだと柊は言っていたが、見送ろうにもばつが悪いというのが本音だろう。
「おし、じゃあ帰るか」
「はい!」
シロが通行手形を掲げると、何も無い空間に渦のような扉が現れた。これを潜り抜けると、人間界へとワープできる。
最初に横島が入り、続いてシロが入る。二人を飲み込んだ扉は、外界を遮断するように音もなく消えていった。

「柊!お主、そんな身体で何処に行っとったんじゃ?」
自分の小屋へと帰る途中、長老の驚いたような声が鼓膜に届いた。実のところ、柊の傷は出歩けるほど浅いものではなかった。
長老は呆れつつもそれ以上は追求せず、黙って柊に肩を貸してやった。柊はすいません、と言い好意に甘えることにする。
柊は、先刻の横島の言葉を思い返した。かなわないな、という思いが湧いてきて柊は思わず苦笑した。

「上手くは言えないが、やっぱり守ろうという思いだろうな」
「守ろうという・・・思い?」
「ああ。実はさ・・・俺、昔自分の未熟で恋人を死なせちまったんだ」
「!!」
「しばらくはすげーショックだった。自分の弱さを呪ったし、メシだって食えなかった。けどさ・・・アイツは、俺の中のアイツはいつだって笑顔でいてくれた。だから、思ったんだ。こんなんじゃダメだ、って。」
「・・・・・・」
「だから俺は、守りたいと思った。もう二度と、大切な人たちを失わない為に、強くなりたいって思ったんだ。その気持ちは・・・今も変わらない」

そう言って横島は、見る者を包み込むような笑顔を浮かべた。僕が女だったら、ひょっとして惚れてたかも、ってほどの綺麗な笑顔だった。
分かった様な気がした。自分になくて、横島にあるもの。僕は力が欲しかった。横島と同じ様に、大切な人を守りきることができる力を。
でも、僕は前を見るのが怖かった。冷たくなった霞。それをただ腕に抱くことしか出来なかった自分。涙の味が塩辛くて、辛い現実を振り返りたくなかった。
妖刀を抜いたのは、力が欲しかったから。でもそれは、本当の力じゃなかった。自分の心の弱さが露出しただけの、上辺の力だった。
本当の力。それは辛い現実を受け止め、身も心も傷付いても、尚も変わらない強い思い。いつだって前を見据える、勇気の力なんだ。だからこそ横島はあれだけ強くなれた。亡くなった恋人に誓ったから・・・

あの時の、霞の最後の笑顔。輪郭のぼやけていたその笑顔を、柊ははっきりと思い出していた。明日にでも、霞の墓前を弔おう。柊は、そう思った。

東京への帰り道。シロは、渓谷沿いの沿道を散歩宜しくに嬉しそうに走っていた。
その腹部には縄が巻かれ、縄の先は横島の乗るマウンテンバイクに繋がっていた。早い話が人力車である。とはいえ、何時もの散歩スタイルに変わりはないが。
「ところで、先生」
「ん?」
自転車の時速を遥かに超えるスピードのままシロが尋ねる。普通の人間なら対応どころではないのだが、横島はいつも通りだ。慣れというヤツであろう。
「紅蛇を倒したときに叫んだ言葉・・・覚えているでござるか?」
「いや、全然。だから言ったろ?あの時は記憶が飛んでて、気が付いたら紅蛇を倒してたんだって」
何となく予想できていた答えだったが、やはり落胆は隠せないシロ。横島があの時の台詞を覚えていれば、それを契機に一気に進展を・・・などという不埒な考えは、第一段階で脆くも崩れ去った。
「けど・・・ま、心配すんな。記憶が飛んでようが何だろーが、お前は必ず俺が守ってやるさ」
それでいいよな、ルシオラ・・・
亡き恋人のことを想い、横島は心の中で一言付け足した。
だが、横島は殺し文句とも取れる台詞を吐いている相手が、只今爆走中のシロだということを大いに忘れていた。
キキイイィィィッ!!!
車ならタイヤ跡が残りそうなほどの勢いで急ブレーキをかけるシロ。彼女の頭の中には、たった今の横島の台詞が幾度となくエコーしていた。
先生が・・・拙者を・・・
「せ、先生!」
歓喜の涙を浮かべて後ろを振り返るシロ。だが、そこに横島の姿はなかった。
「どわああぁぁっ!!」
横島の悲鳴が、何故かシロの背後から聞こえてきた。
壊れたギアのようなスピードで突っ走っていたものがいきなり止まったのだから、当然その反動はかなり大きい。そして、悲しいかな横島はこうした間の悪さにかけては天下一品だった。
シロが慌てて悲鳴の方向を振り向くと、丁度横島は美しいアーチを描きつつ、ガードレールを越えて谷底に落ちていくところだった。
「わああああ、先生ー!!」
シロはマウンテンバイクの綱を切ると、慌てて横島を追いかけていった。まあ間に合わなくてもあの横島のこと、ミイラ男のようになっても生還はするだろう。


大切な、愛しい人を守る力。
それは、自分自身の心の中に眠っている・・・

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