ザ・グレート・展開予測ショー

Coming her to HONG KONG(Y)――結束――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/23)

(……間に合わない……)
 尖沙咀市街。ひたすらに街中を走りながら、雪之丞は胸中で叫んだ。
(間に合わない…………!)
 時間が時間であるため、最早彼女は空港を発っているだろう。……そう思って油麻地に戻ってきたのだが、何故か愛車が駅前になかった。……ロックをし忘れたらしい。
 まだチャンスはある。彼女が事務所に着く前に事務所に戻り、歓迎の用意でもして待っていれば、彼女の機嫌も直るだろう。……間に合わなかったときの事は考えてはいけない。
 セントラルを突っ切って行くが、流石にこの時間になると人通りも比較的少ない。止まらずに突っ走って行ける。
 ただ、問題なのは……
(明飛の奴……! 何で事務所に居ねぇんだよ!!)
 事務所の電話をコールしても、留守番電話の自分に応対されるだけでは空しすぎる。……明飛のアパートにも掛けてみたが、結果は留守電の相手が明飛に変わっただけだった。……携帯も、電源を切っているらしい。
 明飛に事前に歓迎の用意をさせておこうという考えは、これで完全に無為になった。……兎にも角にも、ここで走らなければ間に合うものも間に合わない。……さりとて、人通りがないわけではないので、身体に霊力を上乗せし、身体能力を飛躍的に高める魔装術は使えない。……人前でこの姿で走ったら、今度こそ本気でテロリストにさせられてしまいかねないし……
(クッ……!)
 雪之丞は走った。事務所はもうすぐだ。


 無音の衝撃が、霊団を霊体の欠片として粉々に吹き飛ばす。
 それを成した女性――半透明の鎧で身を鎧った女性は、ただ淡々と、地面に落としたハンドバッグを拾い上げた。息をつき、鎧が消え去る。
「あなた……ゴーストスイーパー?」
 そして……訊いて来る。……明飛は、その声に漸く我に返った。
「……今の……伊達サンの、魔装術……?」
「……?」
 呟く。……が、眼前の女性は疑問符を返してきた。……我知らず、広東語で呟いていたらしい。とりあえず日本語で訊き直す。
「あの……今の技って……魔装術ですか……? あ、危ないとこ助けて頂いてありがとうございます」
「ハァ……ええと、今のは魔装術ではなくて我が弓式除霊術の奥義、『水晶観音』……って、何を勝手に他人の門派の奥義を喋らせているんですかあなたは! あなた、ゴーストスイーパーなの? ゴーストスイーパーならもうちょっと周囲に気を配って除霊なさい! 小規模な霊団だったから良かったけど、これ以上大きかったら死者が出てましたよ!!」
「は……はい……ええとその……スミマセン」
 反射的に体が萎縮してしまう。……何故か、この女性には逆らえない。……いや、一般の女性にならば逆らえるというモノでもないのだが。
「今のって操られてる霊団? 親玉はあの中に居たんですの?」
「……!」
 思い出す。……自分は親玉を……教師の悪霊を退治しては居ない。……霊団の中にも、それらしい霊は居なかった。だからこそ攻めあぐねていたのだが。
 仕事はまだ終わっては居ない。……あの悪霊が居る限り、雑霊は幾らでも集まってくるし、本日の依頼はもう二度と学校に霊が現れない保証が欲しいというものだ。
「あの、助けてくれてありがとうございます。でも、統率者をまだ倒していないんです……仕事は終わっていないから……」
 再度走り出す。……霊団の中に親玉が居なかったということは、親玉は未だあの学校から動いていないという事だ。事務所に武器を取りに行ったら、また走って戻らなければならない。乗ってくる暇がなかった為、自転車も学校に置きっ放しになっている。
「待ちなさい!」
「え?」
 反射的に立ち止まる。明飛は後ろを振り向いた。先程の女性が、先程そのままの姿でそこに立っている。
「行ってもいいですけど、あなた一人じゃ危なすぎるわ……あなた本当にゴーストスイーパーなの……? 全く除霊に慣れていないし、新米?」
「ボクはGSじゃなくって助手です!!」
「……助手一人に仕事を任せてるんですの? あなたの雇い主は……」
「いつもはそんなことないんですけど……何か今日は昼間っから様子がおかしくて…… んで電話し忘れたからボクがやってるんです……」
「何か……あなたも大変ですね……」
「はい……」
 しみじみともののあはれを噛み締めている暇はないのだが、思い出すとかなり泣きたくなって来る。……いや、走らなければ。
「あの、着いて来てくれるんですか?」
「私もさっき彼氏に出迎えスッポかされた所なんですの。少しストレス発散しないと会った途端に横っ面引っ叩いちゃいそうですし」
「……はい……あの、ありがとうございます!」
「いいえ。で、何処へ行くんですの?」
「ええと……まずは事務所に戻って武器とか道具とかを補充します!」
「……その背中に背負っている巨大な荷物は何なんですの……?」
「いえ、癖で詰め込んじゃったんですけど、ボク除霊道具殆ど使えないのを忘れてて……」
 とりあえず走り出す。走りながら会話をする事には普段の仕事で慣れている為、特に無理もなく声は出る。……女性も、特に遅れることもなく平然と着いて来る。その霊力同様、やはり足腰も鍛えているようだ。
「あの……あなたはGSなんですか?」
 先程霊団を吹き飛ばした霊力や、魔装術(のような物)を使いこなす程の技術を見れば、問うまでもない事ではあったが。……案の定、女性は即答してきた。
「ええ。今年からですけど。今年度の日本資格試験を次席で合格しました」
 日本資格試験次席合格。……つまりは、その女性が日本、新人(ルーキー)第二位の実力の持ち主であるという事だ。
(っと……いけないいけない)
 走りながら考える事は、余り得意な方ではない。……脳に余計な酸素を使う分、呼吸が苦しくなって来る。
「で、事務所というのはどこですの?」
「ええと…………」
 ずっと暗い裏路地を通ってきた為気付かなかったが、もう大分走ったようだ。……番地は……
「もう少しです!」


(クソッ……! 明飛の奴やっぱり帰ってねえか……)
 事務所にはやはり誰も居なかった。……普段の姿からは想像も出来ないほど整頓された室内には、誰の気配もない。……とにかく、明飛の事に構っている暇はない。居ないのならば一人でやるしかない。
(……まずは…………歓迎……歓迎……歓迎……?)
 ふと思えば、今までの人生、他人を歓迎した事も歓迎された事もなかったような気がする。いや、……悲しくなるので振り払う。一昨年やったクリスマスパーティーのような事をすれば良いのだろうか。ならば必要なものは……
(ケーキと……クラッカー!)
 雪之丞は再び事務所を飛び出した。この時間に開いている食料品店があるかどうかは疑問だが、やらねばならない事は、やらねばならないだろう……


 現在時刻、23時50分
                            ――To be continued――

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