終曲(赤煌)
投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 5/ 9)
ー終曲ー
舞い散る鮮血。 しかしその色は紅くはない。
刃を受け、瞬間凍りついたーー時間の流れが戻る。
『・・・・・・!』
デナリウスは、右手の傷口を反射的に押さえると、追撃してくる白刃が届かぬよう、すぐさま距離を取った。
『!』
離した間合いがしかし、一瞬にして詰められる。
再三ーー襲い来る『狂狼牙』は、空を裂いて今度は、後ろへと背を反らしたデナリウスの前髪を掠めた。
カーマイン色の髪がいくつか宙に舞い、それでもなお、『獣』と化した雪之丞の攻撃は続く。
嵐の如く止まない斬撃に、情けなどある筈もない。 そこから伝わるのは、ただ・・・野生の獣が獲物に牙を突き立てる瞬間に見せる、言わば喜悦と呼ぶべき感情、それだけでしかない。
『・・・・・・』
こうして、刃を避けて動き回ってる間にも、それでも表情は変わらぬままのデナリウスの両腕、特に深く斬り裂かれた右腕からはどんどん血が流れ出ていく。 次第に動きが鈍くなってゆくデナリウスは、逆に鋭さを増していく雪之丞の攻めに、防戦一方となるどころか、滅多やたらと斬りつけられるまでになった。
『ウゥゥウアァ・・・ッ!!』
今度は、『獲物』であるデナリウスよりも真上に跳んだ『獣』はそこで溜めを作り、垂直に刃を、体重を乗せて降り下ろす。
デナリウスは顔を上げ、その『獣』を見た。
その眼はもはや・・・完全に快楽と、そして禍禍しき喜悦により濁りきっている。 ピクリ、とデナリウスの躯が震えた。
『ぉ・・・』
そして、今獲物を完全に躯と変える慈悲無き刃が、デナリウスに向かって・・・
『愚かな獣風情がぁ・・・いつまでも・・・っ』
赤。
その瞬間、周囲の空間全てを。
カーマインの輝きが、埋めつくした。
『ーーつぅけあがるなぁっ!!!!』
爆発する感情。 その象徴たらんとする赤色光。
全身からカーマイン色の強い輝きを放つデナリウス。 放射状に広がる赤い髪が、輝きと相俟って神々しくさえ映る。
デナリウスはそのまま、血まみれの右手を振り上げた。
全身を包む輝きが一際増して、右腕から発光と共に今までとはまるで桁違いの『赤光』が放たれる。
放たれた『赤光刃』・・・目もくらまんばかりの、真っ直ぐ天に向かい伸びて行く赤い煌き。
そして、その延長線上には無論・・・
『困りものですね』
本来虚無の空間に、投影された光景から一部始終を盗み見ていた『漆黒』は、微かな微苦笑を浮かべる。
『アレはセステルと違い・・・根っこのところではとことん激情ですからね・・・さて・・・』
見つめている光景は、そこに在るのは、左半身を全て失って、しかしそれでも『狼牙』だけは握ったままでいる、一匹の獣。
そして出血を止めようともせずに、先刻までの無表情とは、うって変わって凄絶な笑みを浮かべるデナリウス。
『そろそろ幕も閉じる頃合。さてさて、クライマックスでは一体どんな演出がされるのか?・・・クククッ!』
その『漆黒』は、愉悦のままに、血の色をしたワインを注いだグラスを、静かに傾けたーー・・・
今までの
コメント:
- 「遅れましたが、続きです。いつもいつも同じ事ばかり書いて恐縮ですが、読んでもらえて感想頂けたら嬉しいです」 (AS)
- 雪之丞君がますます大変なコトにーッ!?
ゆっきーは、無事に日本(かおりちゃんの元)へ帰れるんでしょうか…。 (猫姫)
- いつものことながら、どうやら今回の黒幕の『漆黒』は仲間が危険な目に遭おうとも何とも思わないみたいですね(汗)。殆ど瀕死状態に逆に追い詰められてしまった雪の丞、それ対してイっちゃった表情を見せているデナリウス、今後二人の戦いにどう決着が着くのか楽しみです。 (kitchensink)
- ――ただ、戦いのために戦う。目的も、守るものも持たずに戦う。
これほど愚かで悲しい戦いはありません。雪之丞にも早く、自分自身を取り戻して欲しいですね。 (黒犬)
- 雪之丞って普段から狂犬みたいに誰にでも噛みつくヤツだっただけに
自分の意思も奪われて、痛みも恐怖もなくなって暴れ続けるさまが辛いですね。
ただ、敵にしてみれば明確な目的意思の元敵対されるのは自分が
否定されることになるでしょう。人が理解しあえないことを不幸とするなら
理性的な二人がいがみ合うのが一番不幸です。そういった意味では多少の救いはあった。
…あれ?雪之丞が狂ってるのはいいとしても心は案外残ってないとも限らない?
自由にならない自分の所業を目の当たりにさせられては精神的にくるものがあるなぁ
可能性ですが (ダテ・ザ・キラー)
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