ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(凶牙)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 5/ 4)




 ー終曲ー



 月の光を纏った刀身から、発せられる閃光。

 それを先に軌跡を読んでるかのような体捌きでかわすと、侍然とした男は軽く前に足を踏み出した。

『ーー行くぞ』

 地中に爆発物が仕込まれていたかのように、男の踏み出した地面が大きく弾けた。
 質量をもっての業ではない。その身を構成するエクトプラズムを完全に掌握し、操ってこそ可能となる斬撃への初動。
 音速の域に到達しようかという疾さを以って、男はただ一直線に、『狂狼』へと向かってゆく。その手にした刃は形を持たぬ幽体へと戻り、男の身と瞬く間に同化した瞬間、男の身体は一振りの太刀へと転じていた。

『すまぬ』

 ただ、一言。
 今この瞬間と同じように、過去に幾度となく『敵』の急所を貫いてきた必殺の刺突。
 その刺突の直前に、自分が相手にしてやれるのは、ただこうして言葉を送るという自己満足だけ。
 相手の全てを散らせ、永遠の闇へと、まさに突き落とす一撃を放ちながら、男は刃のままに苦悶の表情を浮かべた。
 狼牙。業深き霊刀。
 その業に翻弄された若者の命を自らの手で絶つ。
 これが初めてではない。
 しかし決して慣れるものでもない。

 男は決意した。

(これで、終わらせる! お主も、我も狼牙も!)

 狙うのは心臓ではない。首だ。

 月から供給される霊力をヒーリングに回せば、心臓部分の復元さえも可能とするのは既に経験から知っている。

『ーーーさらば!』

 狂狼と化した青年、伊達雪之丞が反応する暇もない刺突。
 それは一部の神にしか行えないとされる業・・・超加速にすら迫る神速の領域に到達している。
 雪之丞の首へと迫る切っ先。脳裏を掠めるのは、半瞬後に胴体と分かれ、何も映さない瞳と半開きになった口を見せる、見知った青年のーーー顔。
『く!』
 それでも男は、震えを抑え刃を、その身を突き出す。

 ・・・が、その瞬間。

 閃光が刃を撃った。

 ビキ!と刀身に亀裂が疾る!

『がああ・・・っっ!!!』

 苦痛と驚嘆に満ちた声。その声を上げた『刃』は、くるくると宙で弧を描く軌跡を残して、地へと突き立った。

 その光景を見届けてから、その『女』はふわり宙へと舞う。

 城の大穴の向こうにいる童顔の男は、もはや戦闘不能、そう言っていい。それを判断すると女、デナリウスはマスターから命じられた任務の優先を先にした。

 任務ーーー狼牙の奪取及び無傷のサンプル確保。

 ここで暴走させた事は計算外だが、狼牙を使わせる事には成功した。あとは『こいつ』をマスターの元へお届けするだけ。

 そう・・・任務の達成を確信したデナリウスに向けて、弱々しいながらも、霊波弾が放たれた。

『・・・・・・』

 右手で軽くはたく。それだけで霊波弾は軌道をそらされた。
 
 デナリウスが、幽体の男に目を向ける。

『狼牙に・・・手出しは・・・させ、ぐふぁ!』

 指先からの細い閃光。かつてセステルティウスがふるったのと同じ業が、男の体を射抜いた。

 ガクリと男が膝をつく。・・・それを冷ややかな眼で一瞥した後に、デナリウスは前方に注意を戻した。

『!?』

 いない。あの男が、狼牙が!

 予想もし得なかった眼前での光景。動いた気配など微塵もなく姿を消した、獣の姿を求めて、一瞬デナリウスは立ちつくしたまま、目を泳がす。

 それはーー誤りだった。

『ウオォオォゥッ!!!』

 突如として出現した白刃。狼牙。

 追い詰められた『獣』は、狼牙の業の一つ、月光を保護色とする業を本能的に使用していたのだ。

 振り下ろされる狼牙!回避が間に合わない!

『ーーーーぅぁっッ!!』

 肉を裂く音。切り落とされたデナリウスの両腕。


 血の色と、月の光に染められてーー・・・



 凶牙は妖しく煌いた。





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