通り雨
投稿者名:Maria's Crisis
投稿日時:(02/10/11)
どうしてここにいるのだろう・・・?
いつからか、何かを見失っていた・・・?
人気のない街角。
彼女は買い物袋を片手にぶら下げ、家路を急いでいた。
どうしてここにいるのだろう・・・?
知識と教養はとっくに身につけた。
どうしてここにいるのだろう・・・?
本能は昔のまま、強くて優しい者を求めているはず・・・。
どうしてここにいるのだろう・・・?
焦っているのは・・・、なぜ・・・?
鼻先に冷たいものを感じ、ふと空を見上げてみる。
空は灰色がかり、無数の雨粒が彼女の小さな顔に降りかかって来た。
一分も待たずにその粒は大きくなり、一滴一滴に重みを感じさせるようになる。
さっきまであんなに晴れてたのに・・・。
「サイテー・・・」
左手の買い物袋が忌々しく思えてくる。
「なんで、私がお使いになんか・・・」
しかし、そのストレスはさっき発散してきたばかり。
大量に好物の「油揚げ」を詰め込んでおいたのだ。
「フンだ・・・」
ふてくされるのも程々に、さっさと歩を進める。
どうせ、ただの通り雨・・・。
すぐに止むはず・・・。
しかし、容赦ない強い雨が、自慢のナイン・テールをじっとりと濡らす。
それを首筋に感じ、少しうつむく・・・。
「ばっかみたい・・・」
ため息と一緒にその言葉を吐き出す・・・。
どうしてここにいるのだろう・・・?
その時、突然・・・。
「お嬢さん、ご一緒に傘はいかがですか?」
誰かが後ろから傘を差し出して来た。
振り返ると、そこに居たのは「サイテーのバカ男」だった・・・。
「・・・・・」
「な、なんだよ・・・?」
大きな目で黙って見つめる彼女に、思わず問い掛ける。
「ナンパなら別の人にしたら?」
冷たく返答する。
「ダメだったんや〜〜〜!!!失敗したんや〜〜〜!!!『誰があんたと相合傘なんかするか!』
って言って、みんなゴキブリでも見るかのように俺を見るんや〜〜〜!!!」
そう泣き叫びながら、彼は近くにあった電信柱に何度も頭をぶつける。
「ふ〜ん・・・」
興味なし、と言わんばかりに彼女はその場を離れる・・・。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ」
後ろから走って彼が追いついて来た。
「こんな雨ん中、傘もささないで歩いたら風邪ひいちまうぞ」
そう言うと、彼は彼女から買い物袋を引ったくり、彼女の右手に並んだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人とも無言のまま歩き続ける。
雨に濡れなくなったのはいいんだけど・・・。
彼女は道の左端に少し寄ってみる。
彼も同じ間隔を保ちながら、左へ・・・。
今度は右に寄ってみる。
彼はぶつからないように、右へと・・・。
「ばっかみたい・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
二人とも無言のまま歩き続ける。
彼が右手をごそごそ動かしてるのが気になった。
右手に持っている買い物袋が、動く度にカサカサと音を立てている。
彼女は彼の左側に居るので、そこからはよく見えない。
でも、おおよその見当はついていた・・・。
彼女はサッと彼の前に回り込む。
「おっと!!」
彼は驚いて足を止める。
彼の右半身はずぶ濡れだった・・・。
彼女に雨がかからないようにするため、右半身を傘からはみ出ださせていたようだ。
右の額からはバンダナで隠れているが、出血をしている。
おそらく、さっき電信柱で頭をぶつけていた時の傷だろう。
雨と一緒に流れる血が気になっていたのか、右腕の袖で仕方なしに拭いていたのだ。
そのせいで、白いシャツの右袖が赤く血に染まっている。
「ほら・・・」
彼女はポケットから真新しいハンカチを出すと、それを彼に手渡した。
「お、おお、サンキュー」
彼は、怪我しているのを気づかれたことに驚いているのか・・・。
それともハンカチを手渡されたことに驚いているのか・・・。
あるいはその両方なのか・・・。
さだかではないが、驚いた表情でそれを受け取り、右の額に当てた。
「このハンカチ・・・、あとでちゃんと洗って返すよ・・・」
「フンだ・・・」
彼女はそっぽを向いて答える・・・。
「いいわよ、もう・・・、そんなに汚くなっちゃったのなんて・・・」
「汚く・・・」
彼のその少し寂しげな声・・・。
そして、少し目線下ろすしぐさに・・・。
心がズキッと痛んだ・・・。
彼女が何か言おうとした時・・・。
「あはははは!!そうだよなー!いやいや、俺って乙女心を全然理解してないよなー!!
よし!今度きつねうどんをおごるからさ!それで勘弁な!!」
そう彼は明るく笑うと、彼女の頭を優しく撫でた・・・。
どうしてここにいるのだろう・・・?
ばか・・・、私のばか・・・。
彼女はそっと彼の左腕を取ると、自分の右腕を絡ませた。
「お、おい?どうした?」
戸惑ったような表情で彼が聞く。
「こうすれば、二人共、雨に濡れにくくなるでしょ?」
そう言うと、彼女は彼にピタリと身を寄せ、再び歩き出す。
どうしてここにいるのだろう・・・?
いつからか、何かを見失っていた・・・?
「お・・・、珍しいなあ、こりゃあ・・・」
突然の彼の言葉に、顔を上げる。
空にはいつのまにか灰色の雲が消え失せ、やや傾きかけた太陽と青空が広がっていた。
しかし、まだ雨は降り続けている・・・。
さっきと比べれば、だいぶ勢いは弱まり、傘も必要ないくらいではあるが。
「天気雨かあ・・・、何年ぶりだろう?すんげえ久しぶりに見たよ」
「・・・天気雨?」
「ああ」
彼は傘を閉じ、その光景を見上げた。
彼女もつられて空を見上げる。
「なんで・・・、なんで、雲がないのに雨が降るの?」 (これって・・・)
「え?ああ・・・、え〜と・・・、なんでだろう?」
「なんで、太陽が出てるのに雨が降るの?」 (今の私・・・?)
「うっ・・・、う〜ん・・・、あ、それより、知ってるかい?」
「え?」
彼女が彼を見上げた。
「天気雨の別の呼び方」
「知らない」
それを聞くと、彼はにやりともったいぶった笑顔を見せて、歩く速度を上げた。
「え?なになに?なんて言うの?」
彼女は小走りで彼の左腕にしがみつく。
「ほんとに知らないのか?」
更に彼がもったいぶる。
「うん、知らない、教えて」
彼はぴたりと足を止め、彼女に明らかに作り物だと分かる笑顔を向ける。
そして、ゆっくりとした口調で答えた・・・。
「き・つ・ね・の・嫁・入・り・♪」
自分の顔がカ〜ッと紅潮するのが分かった。
彼を捕まえていた両手も同時に熱くなる・・・。
それを見た彼は、腹を抱えて大笑いをしている・・・。
ドカッ!!!!!
「痛ってえ〜〜〜!!!!!」
彼女がつま先で、彼のすねを思いっきり蹴り上げたのだ・・・。
「コラ!待たんかい!この〜!」
涙目になった彼は、彼女を捕まえようとする。
その手をひらりとすり抜け、数メートル先で振り返ると、彼に向かってアカンベーをした。
彼女の屈託のない表情に、彼の顔も思わずほころぶ・・・。
「あ、そうそう、横島〜?」
彼女が笑顔で彼を呼ぶ。
「はいはい、なんでございましょう?」
彼も笑顔で答える。
「さっき言ってた、ナンパに失敗したっていう女の特徴を教えて」
「え・・・?なんで・・・?」
不思議な表情で彼が聞き返す。
「私が狐火で焼き殺しておいてあげる♪」
きまぐれな雨は、きまぐれな彼女に降りかかり、いつのまにかどこかへ行ってしまった。
奇麗な七色の虹を、眩しい太陽の足元に残して・・・。
「おいおい!!!冗談だろ!?」
青ざめた彼の問いかけに、彼女はウィンクで答え、走り出した。
自慢のナイン・テールをふわふわと弾ませ、虹のかかる太陽に向かって・・・。
その様子を眩しそうに見つめ、彼はにこりと微笑む。
そして、おどけた素振りで、傘を手のひらでクルリと一回転させた。
どうしてここにいるのだろう・・・?
いつからか、何かを見失っていた。
どうしてここにいるのだろう・・・?
知識と教養なんて、まだまだ身についていなかった。
どうしてここにいるのだろう・・・?
本能は昔のまま、強くて優しい者を求めている。
どうしてここにいるのだろう・・・?
焦っていたのは気持ちだけだった・・・
完
今までの
コメント:
- 五回目の投稿です。
「天気雨=きつねの嫁入り」と言うネタは、ありそうですが、なかなか見かけないので使ってみました。
実はデビュー作に使おうと思ってたものなのですが、発表がこんなに遅くなってしまいました・・・。 (マリクラ)
- むう、横島君に嫁入り・・・私の心中は複雑、もとい、横島君には他にもたくさんいるじゃないですか(泣)!!・・・ということですが、それはおいときまして(爆)。私は中学生のとき、今の自分がずっと後まで変わらないだろうと思ってました。でも今の私は当時の自分に対して「まだまだだね。」と言いたい。それでは最後に、百鬼夜行抄より赤間・・・と言うより妖怪鬼灯の言葉を。
「長い長い間生きてきて、俺にもまだ分からないものはある・・・」 (りおん)
- シロタマで言うとシロ派に属する私が、思わずタマモ派になってしまいました(爆)。前半と後半での、タマモの自分に対する、また横島クンに対する心情の変化が興味深かったですね。自分にはまだまだ、そしてずっと仲間や支えとなってくれる人の存在が必要だと自覚したあたりが良かったです。無意識のうちに格好いい行動を取りながら、結局は最後に自滅してしまう横島クンの行動の数々も「らしい」気がしました(笑)。投稿お疲れ様です♪ (kitchensink)
- どうしましょう?後半になってからにやけ顔の制御が利かなくなってしまったんですが(爆)。私はシロタマで言うとタマモ派なのでほぼ撃沈しましたね(笑)。最初の横島のらしくない台詞がある意味で『ナンパ慣れ』をしているのかなぁなどと思ったりしますし、雨が上がった後はチャップリンのマネ(多分違う←アレは雨の中です)をしているのが面白いです♪ご自慢のナイン・テールの可愛らしさに一票です♪ (マサ)
- らしい、横島。
らしい、たまも。
原作でのタマモは、美神事務所では、唯一横島にはニュートラルな存在でしたから、横島とくっつける課程がムズカシイ存在だと思います。
くっつける課程、実に楽しく読ませていただきました(^.^)
次回作を期待しています(^_^;) (黒川)
- 非常に面白いです。
『狐の嫁入り』というネタもさることながら、文頭と文末の対句が、タマモの微妙な『ヲトメゴコロ』を見事に表現していると思います。
うむ。やっぱタマモはいいなぁ(爆)。 (ロックンロール)
- 技術的なお話はチャットの方で致しましたので、こちらでは内容について。
お天気雨の気まぐれさと、お天気屋の気まぐれさ。その上『狐の嫁入り』までかけたお話は「巧い」としか言いようがありません。
その上、タマモの一人称的な視点とモノローグが、外から見るよりも鮮明に彼女の内面を象徴していたように思います。
字の文の一部で、視点が不安定になっていた(タマモと第三者が混在)観もありましたが、それで内容が伝わりにくかったという事はないと思います。
ともかく、いいお話でした。
……と、言うことで、オマージュ行かせていただきました(爆) (斑駒)
- 今回はいろいろと反省点の多い作品でしたが、たくさんのコメントありがとうございます♪
りおんさんへ:まあ、別に横島クンに嫁入りするって意味で書いてはおりませんので(笑)
後半の御言葉がなんか、かっこよくて素敵です♪
kitchensinkさんへ:いつもコメント頂きましてありがとうございます。
おっしゃられる通り、タマモの心情の変化。それもテーマの一つとして書かせて頂きました。
「仲間や支えになってくれる人」これが一番のテーマとして書きたかったことです♪ (マリクラ)
- マサさんへ:ナンパ慣れと言いますか、横島クンは年がら年中ナンパしてますから(笑)
チャップリンのそれは確かに参考にしました。ここでは、一応ピエロのイメージということで・・・。
「自慢のナイン・テール」気に入って頂けましたか(笑)タマモの気持ちを代弁させたく、書いてみました。
黒川さんへ:特に「くっつける」というつもりで書いた作品ではありません(笑)
まあ、どう見てもラブストーリーにしか見えないんですがね・・・(涙)
これも反省点の一つになっておりますので、次回以降に活かていきたいです。 (マリクラ)
- ロックンロールさんへ:コメントありがとうございます。すごく嬉しいです♪
文頭文末の対句は密かに私の得意技の一つなんです(笑)
これからもよろしくお願いします!
斑駒さんへ:チャットでは、数々のご指導ありがとうございました。
オマージュ作品、すごくよかったです♪ (マリクラ)
- シトシトシトシト。
カラっ。
そしてボー! (トンプソン)
- タマモが横島の奥さんに!?(見てみたい)
とても楽しめた話でした。タマモと横島はいい感じすね。 (3A)
- 面白かったです♪タマモちゃんかわいいし、横島君おもろいし(そうか?)
こーゆう書き方すきだなあ……うらやましいし♪ (hazuki)
- この作品で、ついに新記録の9票を得ることが出来ました。
みなさま、本当にありがとうございます・・・(感涙)
トンプソンさんへ:3行でダイジェストして頂き、ありがとうございます(笑)
3Aさんへ:別に「奥さん」に、というつもりでは書いてないんですよね(笑)
楽しんで頂けて、私もうれしいです♪
hazukiさんへ:尊敬するhazukiさんからコメント頂けるなんて、感無量です(涙)
こういう書き方は、まあ、hazukiさんに見習った点も多いので(笑) (マリクラ)
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