見えざる縁(4)
投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 8/17)
事務所に戻ったタマモと横島は、事の経緯の一切を美神とおキヌに話した。シロが香南という霊に乗っ取られている事、それが横島の前世に恨みを抱いていること。そして、過去を清算するために横島を殺そうとしている事−−−
全てを聞き終えた後、美神は渋い表情になりおキヌは心配げな顔をした。形こそ違えど、双方ともシロの安否を気遣っていることがよくわかる。
重い沈黙の帳が下りる中、状況を分析した美神が口を開いた。
「他人の体を奪うってのは容易じゃないけど、シロの体に乗り移るくらいだから余程強力な術を使ったようね。察するに、それは「転生の外法」だわ」
「天性の・・・ゲホウ?」
美神が赤点組の生徒を見る教師のような目で横島を一瞥し、軽く咳払いをして言葉を続ける。
「転生の外法は、魂を「呪」によって現世に縛り付けて、自分に最適な寄り代を見つけた時に対象者の体に乗り移る法よ。今回の場合、シロと香南との間に何かしらのシンパシィがあったとみるのが妥当ね」
「あの、それでもしこのままだとシロちゃんは−−−」
「・・・いずれは香南の魂に取り込まれて−−−消滅するわ」
不安げに尋ねるおキヌに対し、美神は単刀直入に言い切った。どんな言葉のオブラートで包もうと、それが紛れもない事実である以上は婉曲化は無用である。
ガン宣告を受けた患者のように、おキヌとタマモの顔から一切の表情が消え失せた。空気が凍りつくとは、こういうことを言うのだろう。瞬きも忘れるほどの痛々しい自失に、美神が空寒い感懐を抱く。
だが、簡潔な言葉は単純な脳味噌の奴にほど深く浸透する。美神の言葉を聞き終えた横島が、椅子を蹴倒して荒々しく部屋を出て行こうとした。タマモが慌ててそれを羽交い絞めにするが、単純な力比べでは男の横島に敵うべくもない。
「ちょ、ちょっと横島!!落ち着いてよ!!」
「うるせえ!!このままだとシロがいなくなっちまうのに、ここでお茶でも飲んでろってのかよ!!」
仲間の危機にのみ発動する横島の雄々しい気迫に押され、タマモは言葉を発することができなかった。横島はダッコちゃん人形のようにタマモを引き摺ったままドアを開けようとするが、ノブに掛けた手は横から伸びてきた美神の腕にがっちりと掴まれた。
「美神さん、邪魔しないでください!!早くシロを助けな・・・」
パアンッ!!
横島の頬に、美神の鋭敏な平手打ちがヒットする。相手の闘気を弾き飛ばす一撃に横島が硬直していると、険しい顔をした美神が横島を睨みつけた。
「香南の狙いがアンタだって分かってるのに、沸騰した頭でのこのこと出て行くバカがどこにいるのよ!!相手を知り、敵を知る。それが基本戦術であり、GSの正しい在り方でしょ!?」
「な、なに悠長なこと言ってるんですか!!こうしてる間にもシロは・・・!!」
「今のままじゃ殺されに行くようなものだって言ってるのよ!!それとも、アンタそんなにシロが信用できないの?」
美神の言葉に、横島は反論に詰まりその場に滞った。美神の言っていることは正論である。仮に今香南と相対したところで、盲目した精神状態では狩る者と狩られる者とに二分化するのは目に見えている。対策を講じ、それなりの準備をしてから除霊に臨むのがGSである。
だが、はたしてそれまでシロの魂が保つのだろうか?横島は、シロの爛漫な笑顔を思い出していた。太陽に向けて真っ直ぐに伸びている、向日葵の様な笑顔。そして、過去という呪縛に囚われた者には決して届かない、力強い生命力を内包する心も。
「・・・わかりました」
横島は、シロを信じることにした。師匠として、GSとして。横島の興奮が引いたのを確認すると、美神はよし、と満足げに頷き次の指示に移った。
「じゃあ、二チームに分けて行動するわ。私とタマモは香南と横島君の前世、つまり松島について調べる組。横島君とおキヌちゃんは、人狼の里に行って香南のことを尋ねてきて。アイツがわざわざシロに取り憑いたのは、恐らく偶然じゃないだろうから」
横島と離れ離れになる班分けにタマモは不満げだったが、人狼の里に妖狐がずかずかと侵入するのはまずいという美神の心積もりなのだろう。周囲と軋轢を残したくないという打算もあるのだろうが、そちらの方が寧ろ納得できる。だが、一つ納得できないことがあった。
「ねえ、美神さん。何で一文の得にもならないのに、シロを助けようとしてるわけ?」
普段の美神は人命よりも諭吉様を優先する性格なのに、今回の除霊は利益を生まないいわばボランティア活動のようなものだ。美神がシロの身を案じているのは確かにあるだろうが、どうもそれだけではないような気がする。
タマモの疑問に、美神は意外にも言葉を詰まらせた。隠し事を指摘されたかのように、眼が忙しなく宙を泳いでいる。
「そ、それは、その・・・ほら、シロの身に何かあったら長老からの支援がストップしちゃうじゃない。それに、横島君もヤバイしね」
最後の方は早口に言って誤魔化し笑いをしていたが、要するにシロが香南に取り憑いたことでなく、香南が横島の命を狙っていることが動力源というわけである。横島はよくわからないといった表情をしていたが、同類項であるおキヌとタマモは一秒で理解し苦笑した。
「美神さん、素直じゃないですねぇ」
「何か言った?おキヌちゃん」
親愛を込めてのコメントだったが、美神は凄まじい目付きをおキヌに向けた。素顔を垣間見られたジェイソンはこんな顔をするのではないだろうかという程の迫力に、おキヌは二の句が継げなかった。
「・・・で、ここに来たと」
資料室で過去の文献を漁る美神とタマモを尻目に、西条はやれやれといった様子で頭を掻いた。
美神・タマモが向かった先は、オカルトGメンの資料室だった。ここには古今東西のあらゆる資料が置いてある上、当時の社会の裏側を綴ったベルツの日記のような代物まで保管されている。香南も何らかのしがらみがあって現世に留まったのだから、正に適所であるといえた。
備え付けのパソコンにキーワードを打ち込み、検索に引っ掛かった資料を美術館のようなガラス張りの保管庫から取り出して貰う。本来この作業には資料室の事務員が必要だが、西条がいるのでその必要はなかった。
「香南」「松島」「人狼」と打ち込んだパソコンは、意外にも該当アリを表示した。通常、多数のキーワードの一斉検索はいずれかが欠けて該当しない場合が多いが、やはり何らかの事例が文献に残っていたようである。予断なく隅々まで目を走らせていたタマモが、次ページを捲った時我が意を得たりといった顔をした。
「美神さん!あったわよ、当時の資料」
変色し、炭化したように脆くなった資料を慎重に美神に渡すタマモ。美神はそれを受け取り、タマモを横に据えて読解を始めようとした−−−が、その手は資料のタイトルを見た瞬間ぴたりと止まった。
「ちょっと・・・この資料は」
今までの
コメント:
- 話が枝分かれ(香南、美神組、横島組)しましたが、上手くまとまるかな。無理だったら、シロが勝手に香南を始末して戻ってくると・・・(爆) (tea)
- 加速度的に展開が面白くなってまいりましたね♪ 仲間(シロ)を助けようとすぐに行動に移ってしまう横島クン、対してプロとして冷静に状況判断をし、その時点で最適と思われる行動の指針が立てられる令子がそれぞれに「らしい」気がします。おキヌちゃんとタマモに横島クンのことについて指摘された時の令子の反応が最も「らしい」感じでしたが(笑)。さて、Gメン資料室へと向かったタマモ&令子が見つけたものとは? そして人狼の里に向かった横島クン&おキヌちゃんペアを何が待ち受けているのでしょうか? 次回を楽しみにしております♪ (kitchensink)
- うふふ、素直じゃないな〜令子(滅爆)
どきどきする展開が続きますね。
わくわくしながら続きをお待ちしてます♪ (ヨハン・リーヴァ)
- さすが美神さん、素直じゃないですね〜
さてこれから香南の正体が明らかになっていくわけですね。
それとシロは果たして大丈夫なのか、とても心配です。 (3A)
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ]
[ 戻る ]
管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa