ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(20)[遠き山にも日は昇り(終編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(02/ 7/11)

 ……そこには。

「よ、横島さんっ! 実は小鳩、この3年の間もずっと横島さんの事っ……!」
『おっと嬢ちゃん、ダーリンに先に「唾付けた」のはあたいなんだから、そう簡単にゃ渡しゃあしないよ!』
『えっ、それを言うんだったら私も立候補しちゃおうかな? ね、神無?』
『ここここらこら何を言う朧、いや、だがしかしそのあのえっと……。』
「皆さんいいなー。よーし、じゃあわたしもわたしももう一度、口説いて下さい♪」
「あーっ、オリキャラの分際でそうくる? うむむ、私だって絶対負けないんだからね、横島お兄ちゃん!」
『あの……・マリアも・入って・宜しい・ですか?』
『浦島どの……もとい、横島どの。……もしもそなたが側室が望みならほら、この妾(わらわ)こそが……』
『横島さん……うちのケイも貴方の事を大変気に入ってますから、その、ケイの父親に……。』
『うぬぬ、深海魚や野良猫の分際で! ここはやはり誇り高きう人狼族にして先生の一番弟子である、この拙者こそが!』
 てろれろれろれろれろれろれろ……どっかーーーん!!
『みんな、お久しぶりでちゃーっ! わーい、わたちも横島とツガイになるでちゅ! ねえ可いでちょ、小竜姫?』
『……今を思えば9年前、サウナで「可愛い」と言われて以来、私は……』
 でろれろれろれろれろれろれろ……どっかーーーーーーん!!!
『やいやい小竜姫、お前までそんな事を言うんだったら、あっさり引き下がった私がまるで馬鹿みたいじゃないかい!』
 ………………

 今迄に登場した女子数名+ α 名等が走り寄ってきたり瞬間移動してきたりと、とにかくこぞって忠夫を取り囲まんとしていた。
 実に鬼気孕む光景に、忠夫は思わず後退(あとず)さる、ものの早ぐに背中を打付(ぶつ)ける。
 振り返る迄も無い。幾つもの畳針が如き極上の霊圧が、今まさに自分の背中を貫いているからだ。
「……だあーっ、全員、とにかく黙れ!」
 忠夫は両手をバタバタと上下させて、場の喧騒を治めようとする。手にした純白のベールが、手を振る度に陽の光の中で不規則に煌(きらめ)く。
 再び、朝の寒風が一陣、吹き抜けた。
 皆、一堂に黙り込む。しかし、その顔の一つ一つは喧騒の余韻に輝いて見える。
 背後の2人も、穏やかな笑みを湛えている。
 誰もみんな、解っている。だれもがこの祭りを終わらせたくないのだ。新しい事が始まるには、旧い事を終わらせなくてはならないのだから。でもそれは終わってしまう事が怖いのではなく、そうしなければ先に進めない、その因果が悲しいのだ。
 だからこそ自分が、この手で全てに決着を着けなくてはならない。みんなが先に進む為に、みんながそれを望んでいるのだから。
 忠夫は、新鮮な朝の空気を吸い込もうとする。吸ってから、火山灰混じりであった事を思い出して、軽く咽(むせ)た。
 そして忠夫は、彼女の方を振り向いた。彼女は自然な姿のまま、そこに立っていた。
 手にした薄布を軽く叩(はた)きながら、彼は囁く。
 ベールを差し出しながら、月並みだけど、大切な言葉を。
「君を絶対に、幸せにしてみせる。」
 人の輪を包み込むのは果たして祝福の歓声か、はたまた羨望の呪詛か。
 ともかくもそれは、この騒がし過ぎる山の朝にはひどく相応しい物であった。

 人の輪から暫く離れ、唐巣神父は遠巻きに事の成り行きを見守っている。
「これぞ正(まさ)しくジューン・ブライド、ですね……主よ、この良き日をお恵み下さった貴方の寛容な計らいに心から感謝致します。」
 そして中年の神父はすっかり明け果てた朝空の下、若い太陽を前に十字を切る。そして両手を組んで祈る……のを止める。
『どうしましたか、先生……いえ、会長?』
「いや、先生で構わないよ。寧ろ先生と呼ばれた方が私は嬉しいんだ。」
 神父兼日本GS協会々長は、上目遣いで恐縮してみせるピートに優しい笑顔を送る。それがまたこの青年を赤面させていると思うと、微かな苦味を伴った笑いが込み上げてきた。
『……それで、どうしたんです?』
「ああ、そうだったね。いやね何と言うか、……こういう展開の時にはこう、もっと気の利いた〆の出来る者が居たような気がしてね。」
 師弟は遠巻きに人の輪を眺める。
『うーん、確かにここには神魔の名立たるお歴々がいらっしゃいますけど、……この場合やっぱり師匠の師匠である先生が適任だと、僕は思います。』
「ありがとう、ピートくん。……まあ正直言うと、今迄中々出番がなかったからちょっと落ち着かないんだけど、その所為で少々弱気になっていたのかも知れないね。」
 師匠と弟子は見詰めあい……互いに笑い合った。
「……ともあれ、アーメン。」
 2人は並んで、天に向かって十字を切る。
 それなりに天に近い場所で再び見上げた空では一羽の鳶(とんび)が、押し迫る夏の気配を祝福する歌を高らかに歌い上げていた。

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