ザ・グレート・展開予測ショー

勇気の剣(10)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/ 3)

「させる・・・かよぉっ!!」
紅蛇が紅雫を振り上げた瞬間、横島は瞬時に左手に収束させたサイキック・ソーサーを紅蛇目掛けて勢いよく投げ放った。
「!!」
今度は紅蛇が虚をつかれる番だった。窪みの影響で横島はシロよりも一段深い場所にいたので、丁度下方向から奇襲を喰らったようなものだ。
ドゴオォォッ!!
当然よけきれるものでもなく、紅蛇は凄まじい爆発と同時に派手に後方に吹き飛ばされた。その間にシロと横島は、砂埃を払いつつ悠々と起き上がった。
サイキック・ソーサーが直撃したにも関わらず、紅蛇は何事も無かったようにむくりと起き上がった。どうやら、全てに於いて強化されているらしい。第二ラウンド開始でござるな、シロは心中舌打ちした。
だが、よく見ると紅蛇の様子がおかしい。先刻までは笑うにせよ怒るにせよ、どことなく余裕のある雰囲気が漂っていた。だが、今の紅蛇にはそんな余裕は微塵も感じられなかった。
在るのは混乱、焦り、憔悴。本来狩る立場のはずの自分が、いつの間にか狩られる側に回っている。狩りはお家芸の筈の、狼の自分が。
おかしい・・・何故だ?こんなはずでは・・・
理不尽なパラドックスは、遂に紅蛇の精神を崩壊させた。
「ガアアァァァッ!!」
紅蛇は何かがぷちりと切れたように、髪を振り乱し血走った目をしてシロに突っ込んできた。だが、そんな直線的な攻撃を喰らうシロではない。闘牛士のように紅雫を難なくかわすと、すれ違いざま水月に掌底を打ち込んだ。
「グハッ・・・」
間合いの関係上霊波刀で一気に、とはいかなかったが、急所にまともに喰らえばいかな紅蛇とてダメージは残る。紅蛇がよろめいた一瞬の隙を見逃さず、シロは一気に地を蹴った。
「紅蛇ぁ!!霞と柊の痛み、その身を以て味わえーっ!!」
シロの右腕に宿る霊波刀が、光の軌道を描きつつ紅蛇の胸を一直線に斬り裂いた。紅蛇の目が驚愕に見開かれる。次の瞬間、紅蛇の胸部から大量の血が噴水の様に吹き出した。
紅蛇の身体がぐらりと揺れた。それを立て直すこともなく、紅蛇はつっかえ棒を失った人形の様に大地に倒れ臥した。紅雫の刀身を、皮肉にも自らの血で紅く染め上げながら・・・

紅蛇が動かなくなったのを確認し、シロは身に纏う霊力を体内に戻した。霊波刀もその姿が揺らめき、やがて完全に消滅した。
「霞・・・仇は討ったでござるよ・・・」
ぴくりともしない紅蛇を一瞥し、シロはたった一言だけそう言った。どんな美辞麗句を並べるよりも、思いのたけを詰めた一言の方を発する所がシロらしかった。
「やったな、シロ」
そう言って横島は、シロの頭をゆっくりと撫でた。横島の温もりが、優しさが掌越しに伝わってくる。途端にシロの表情が凛とした狼から野性味ゼロの手飼い動物へと崩れ去った。集中力はあっても緊張感が足りない所もまことにシロらしかった。
だが、何事につけ油断するほど危険なことはない。特に、GSという職業に於いては。
ぬるま湯につかっているようなムードの横島とシロだったが、突然背筋を這い回るような寒気を覚え反射的にその場を飛びのいた。だが、一瞬反応が遅れたシロは右足に鋭い痛みを感じた。
「痛っ!」
見ると、右の太ももにカマイタチのような傷ができていた。肉を抉り取るような深い傷ではないが、通常通り動けるほど浅い傷でもない。
「馬鹿な!?紅蛇は、確かに拙者が・・・」
今この場において、こんな攻撃を仕掛けられるのは一人しかいない。だが、件の人物は先程シロが引導を渡したはずだ。シロと横島は、紅蛇が倒れている場所を見た。
そこには、地に二本の足をつけ、右手に自分の血でしとどに濡れた紅雫を持った紅蛇が立っていた。有り得ない事実を目の当たりにした二人は息を飲んだ。
オォォォ・・・
紅蛇の周りで、何かが共鳴するかのように風が吹き荒れた。その風の音は、黄泉の呼び声のように怨念のように、魂にのしかかるような重いうねりを上げ続けた。

ワレ・・・サイキョウナリ・・・

絶え間ない風の最中、シロと横島は確かにその声を聞いた。
やがて風が止み、紅蛇が無機的に顔を上げた。だが、そこからは血色どころか一切の生気が失われており、鋭利に切り裂かれた胸部からは一部骨が露出していた。どう考えても生きているとは思えない有様だ。
「先生、こいつ・・・」
「ああ・・・どうやら、紅雫とシンクロしたみたいだな」
確かに紅蛇の妖気は感じられた。だが、それは紅蛇自身からでなく、彼の手に収まっている紅雫からだった。
つまり魂となった紅蛇は紅雫に乗り移り、自身の身体を操り人形としているのである。元々紅雫は宿主の身体を媒介として力を発揮する妖刀な上、紅蛇自身が製作したため共鳴率は非常に高かった。
横島がシロを庇うようにして前に出た。足を負傷したシロを前衛に据え置くわけにはいかなかった。
紅蛇が徐々に間合いを詰めてくる。普通なら相手の動向を探りそれなりに対応できるものだが、なにぶん相手は死んでいるので表情が読めない。その上牽制も様子見もなしにずかずかと向かってくるのだから、横島が感じるプレッシャーは相当なものだった。
「ちっ・・・!」
忍耐が限界に達した横島は、苦い表情をして紅蛇に切りかかった。だが−−−霊波刀が首筋に当たろうかという直前、横島の目の前から紅蛇の姿が消えた。
「!?」
狐につままれたような表情の横島。だが、その疑問はすぐに身をもって解消した。背中から切りつけられたことで、視界から消えるほどのスピードで背後に回りこんだのだと分かったからだ。
とはいえ、相槌を打っているわけにはいかない。横島は背後からの一撃を、殆ど勘だったがしゃがみこんで回避した。だが、それを読んでいたかのように紅蛇は横島の背中を蹴り飛ばすと、宙に浮いたところに素振り一閃で真空波を叩き込んだ。
「ぐああぁぁっ!!」
「先生ー!!」
横島は、受身もとれないまま錐もみ状態で地面に叩きつけられた。潰れたトマトになってもおかしくはなかったが、彼のタフネスぶりは周知の事実である。
しかし、ダメージは大きいらしくうつ伏せのまま起き上がってこない。紅蛇が紅雫を手に、ゆっくりと横島に近づいていく。
紅蛇は完全にシロに背を向けていた。怪我人ならば問題ない、とでも思っているのだろうか。
(チャンス!!)
シロは左足一本で、一足飛びに紅蛇の背中を取った。背後に近づく者の気配を感じた紅蛇は、振り向くかわりに紅雫を地面に突き立てた。
まるで地雷を踏んだかのように、シロに向かって無数の岩石が地面から弾け飛んできた。
「!!」
右足を負傷して回避力もダウンしていたシロは、その内の幾つかを顔や腹に受けて地面に吹き飛ばされた。紅蛇は、怪我人だから無視したのではない。いつでも叩き潰せる、取るに足りない存在だから無視したのだ。
「くそっ・・・」
背後からの攻撃が通じない以上、真正面からやりあっても何をかいわんやである。だが、このままでは横島がやられてしまう。それは、シロにとっては自分の死よりも辛いことだった。
徐々に紅蛇と横島の距離が縮まっていく。横島は気絶しているらしく、完全な無防備だ。シロには、紅蛇の持つ紅雫が死神の鎌のように見えた。
(かくなるうえは・・・!!)
シロが一足飛びを繰り返し一気に紅蛇に接近する。紅蛇が先程と同じく紅雫をすうと振り上げ、そのまま地面に突き立てた。
自然の散弾銃がシロに襲い掛かる瞬間、シロは紅蛇の頭を飛び越すようにして岩石を回避し、横島と紅蛇の間に割って入るように着地した。

(ってー・・・)
朧げながら意識を取り戻した横島は、試しに指を動かしてみようとした。だが、第一間接を動かしただけで全身に稲妻のような痛みと痺れが走る。とてもではないが、文殊など出せそうもなかった。
地面を舐めるような形で突っ伏しているので、視点が異様に低くなってしまっている。だが、自分に近づいてくる草鞋を履いた足があるのは見て取れた。
(やばい!!早くなんとか・・・)
焦る気持ちに反比例するように、身体の方は一向に動かない。その時、何者かの足が視界を防いだ。見覚えのある履き古されたスニーカーだった。
「先生は、拙者がお守りするでござる・・・例えこの身にかえてでも!!」
(シロ!?よせ!お前じゃこいつは無理だ!!)

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