ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(13−2)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/10/15)

 美神令子はドアから少しはなれた場所に立つとこちらをふりむいた。

 「みんなも感じていると思うけど、ここの結界はもうそれほどもたないわ。そして、今私達に有る武
  器は神通棍をのぞいて、わたしのイヤリングとネックレスについている3個の精霊石と、この1個
  の文殊だけ。」

 美神はポケットからまだ念のこめられていない文殊をとりだす。

 「このまま結界が破れて霊団が再び外にでたら、除霊はおろか、私達が生きて帰れる保証もないわ。
  だから、そうなる前に一気に速攻をかける。」

 『でも、あたしとおキヌちゃんはもうなにもできないわよ。』

 床の上に坐りこんでいたタマモが疲れきった表情で美神を見上げた。

 「あんた達の力は強襲には向いてないから、今回は自分の身を守ってくれればいいわ。敵をここに誘
  導してくれただけで上出来よ。」

 『拙者はなにをすればいいでござるか?』

 タマモとは対象的にシロはやる気充分という表情でこちらをみている。白いシッポがブンブンと元気
良く振れていた。それがとなりに座っているタマモの頭を叩くのか、タマモは時折煩そうに手で払うよ
うな仕草をしている。

 「シロ、あんたにはタマモとおキヌちゃんの護衛と、万一作戦が失敗した場合退路を切り開いてもら
  うわ。」

 『わかったでござる。』

 「ということは、俺の役目は・・・」

 「決まってるじゃない。斬込隊長。」

 「やっぱり・・・。」

 「なにか文句ある?それともあんた、傷ついてボロボロの女の影に隠れるほど情けない男なの?」

 「・・・わかりましたよ。やりますよ。で、どうすりゃいいんですか。」

 「まずは文殊を出してちょうだい。」

 「えっ、文殊ですか?(ヤバイ。昼間2個使ってるからいまのコンディションじゃもうつくれねェぞ
  。)」

 「そうよ。手持ちの武器だけじゃ力不足だってことぐらいあんたにだってわかるでしょう。」

 「そりゃそうですが、俺、徹夜の連続で疲れたまってるんスけど。」

 「なにいってるの。ちゃーんと知ってるのよ。横島クンが学校で始業から終業までズーッと居眠りし
  てること。」

 (あいつら、告口しやがったな)

 横島の脳裏にピートとタイガーの顔が浮かんだ。

 「それともなにか文殊が作れないわけでもあるのかな。」

 美神の大きな目がすっと細められる。現在文殊の生成、使用はとっさの場合を除きほぼ完璧に美神に
管理されていて、横島が少しでもそれを逸脱した場合恐ろしい折檻がまっていた。

 「そっ、そんなことありません。すぐに作ります。」

 身の危険を感じ、反射的に答えてしまった。だが、いくら右手に霊力を集中しても文殊は現れてこな
い。かわりに美神の表情がいっそう険しくなる。おキヌ&シロタマも心配そうにこちらをみている。

 (やっぱムリだよなぁ。でもやらないと美神さんに折檻されるし、かといって煩悩を刺激するような
  物はないし・・・。)

 目の前の女性陣はみな傷つき、疲労困憊していたので、さすがにそれを見て妄想することはできなか
った。思わず左手をポケットにいれ、中のものを握り締める。

 (いや、これは最後の切札だ。こんなことでは使えない。ほかの方法を探すんだ・・・)

 横島は集中するふりをしながらさらに考える。ふと脳裏に昼間のワルキューレのシャツをはおっただ
けの色っぽい姿が浮かんだ。

 (あれはよかったなー。普段は全くスキのない女がああいうかっこをするとあんなに色っぽいとは思
  わんかった。)

 煩悩のボルテージがだんだん上がっていく。先程かわしたキスの感触が逐一蘇ってくる。

 (まてよ、もしあのとき結城ヤローがいなかったらどうなっていたんだ?。もしかしたら、ふたりと
  も情熱の命ずるまま熱い抱擁を交わしあい、そのまま最終ステップへ突入なんてことに・・・)

 煩悩のボルテージは一気にMAXまで跳ね上がり、同時に急激に霊力が右手に集中しはじめた。だが
横島はすでにそれを意識していない。彼の魂は現し世を離れ、常世をさまよっていた。

 『横島。』

 名前を呼ばれて振り向くとワルキューレが立っている。

 『横島、早くきて。』

 潤んだ瞳で此方を見詰、誘うように両腕を差し出す。

 「(ブチッ)うぉー、まっててやー、いまいくでー。」

 「(((ブチッ)))こんでいい!!」

 雄たけびと共に一歩踏み出した瞬間、やけに耳慣れた声と共に顔面に強烈な衝撃を感じ、全てが暗転
した。

 『あ、出た。』

 どこかでタマモの声がする。必死の思いで目を開ける。どうやらタマモの足元に倒れているらしい。
顔の右側に見える足にそって視線を移動していくと・・・。

 「イチゴ・・・。」

 『なに見てるのよ、スケベ!。』

 「イテッ!。」

 タマモがスカートを抑えながら頭を蹴飛ばした。かなり痛かったがおかげで意識がはっきりして、自
分のおかれた状況が理解できた。どうやら妄想のままに美神に襲い掛かり折檻をくらったらしい。

 「文殊は!、」

 あわてて上体を起こし、あたりを見回す。

 「ここにあるわよ。」

 美神が先程よりさらに不機嫌そうな顔で、拾い上げた文殊をみせる。とりあず文殊をだせたことにほ
っとして立ち上がるとおキヌと目があった。いつもなら心配してすぐ側にきてくれるのに、今日はふっ
と目をそらされてしまった。

 (あれ?)

 なにか引っかかるものがあったが、これ以上ヘマをするとマジで殺されかねないので仕事に集中する
ことにした。

 「この後はどうするんスか。」

 「作戦自体は単純よ。まず横島クンがこの文殊でじゃまな霊体どもをふっとばす。」

 美神が「浄」の文字が浮き出した文殊をコロコロと掌の上で転がす。

 「そのスキに私が「縛」の文殊で敵を縛り、動けなくなったところで神通棍でとどめをさすわ。」

 「中にどのくらいの霊体がいるんスか?。」

 「だいたい150から200ってとこね。」

 「えーッ!、文殊一個でそんな数相手にできるわけないっすよ。」

 「そんなこと解ってるわ。だからこうするの。」

 美神は両耳のイヤリングについている精霊石をはずすと文殊といっしょにハンカチにきつく包んだ。

 「たかが5千万の仕事に6億の出費、今月は大赤字だわ。でも、世界屈指の評価を維持するためには
  この程度の除霊に失敗するわけにはいかないのよ。」

 ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、それを横島にわたす。

 「こうすれば、精霊石のパワーが文殊の力を増幅してくれるはずよ。ただ、おそらくこれでも全ての
  霊体を浄化することはできない。それにもうこの結界も文殊の力に耐えられないわ。残った霊体が
  どんな動きをするかも解らない。だから、横島クンは文殊を発動させたあとは自分を守ることに集
  中しなさい。」

 「わかったっス。」

 「シロも、残った霊体が襲ってくるかもしれないから充分気を付けるのよ。」

 『ハイでござる。』

 「じゃ、3秒後にドアをあけるわ。横島クン、用意はいい?。」

 美神がドアノブに手をかける。ゴクリと横島の喉がなった。

 「いくわよ。ワン、ツー、スリー!」

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