ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十二 〜 アジアの純心 〜


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 4/24)

匠は、空を仰ぎ、額から流れてくる汗を拭った。
太陽は真上に昇り、日陰の無い庭はかなりの暑さだ。
しかし、二人はその場から動こうとしなかった。
「人の言葉は、音によって意思を伝える働きがある。――でも、俺の舌は特別制でね。
意識しなくても、不思議な力で相手に自分の言いたいことを伝えてくれるのさ」
匠は、相手を安心させるように明るく振舞った。
「不思議な力……?」
「その通り! 人は無意識の内に、なんらかのイメージを湧かせて、それを言葉や動作にして表すんだ。
でも、俺は、イメージを言葉に変えるんじゃなくて、言葉にイメージを乗せることができるんだ」
匠は、自慢げに胸を張って見せた。
「じゃあ、自分の『考えていること』を全て相手に『伝える』のではなく、
『言いたいこと』を『伝えることができる』ってこと?」
匠は、大きく肯いた。
匠は、人にこのことを教えるのは初めてではなかったが、未だに上手く説明できない。
それなのに、さゆりは匠の『伝えたいこと』を受け止めてくれた。
それは、匠にとって初めての経験で、少し嬉しかった。
「じゃあ、何故、相手の言ってることまでわかるの?」
匠は、「やられた!!」という顔で、少し後ろにのけぞった。
「グッ……(す、するどい…)。本当は、誰にでもその力はあるんだ。でも、気づかないほど小さくて……
だけど、俺は、『口』だけじゃなくて、『耳』の方も良くてね……」
「便利で良いわね。何年も必死にこっちの言葉を覚えた私がバカみたい……」
さゆりは、肩を落として見せたが、本当はすっかり気分も晴れ、何時の間にか匠と打ち解けていた。
最初は、不審な人物だと思ったが、同じ日本人だし、なにより匠の人柄に惹かれていた。
「そんなことはないさ。言葉はともかく、文字なんかは、からきしダメなんだ……。
だから、手紙なんか来たら完全にお手上げだよ」
「あら、『眼』は悪いのね」
「そうなんだ…。でも――」
――君が見えれば十分だ。
そう言おうとした刹那、後ろから子供から体当たりを喰らい、口の中で噛み殺してしまった。
『サユリ、今だ! 早く逃げろ!』
匠の腰の辺りに抱きついて……いや、しがみ付いたままの状態で、その子供が言った…もちろん、クメール語で。
その顔は、必死そのもので真っ赤になりながら匠を放そうとしない。
「コラ! 違うの、この人は、悪い人じゃないの。――すみません、元気な子ばっかりで……」
さゆりは、その子供を宥めると、その頭に手を置き、やがて、頭を下げさせた。
日本式のこともいろいろと教えているのだろう。
「いえ、子供は好きですから」
と、言葉では言ったものの、匠のその顔が、
(でも、今、初めて子供が憎いと思いました)
と、物語っていた。
あまりに、無邪気に振舞う匠に思わずさゆりは吹き出してしまった。
「あなたって本当に子供みたいね。――よし! 英語は、私が教えてあげる。どうせ、長く居るんでしょ?」
「ホントかい!? どれくらい、こっちに居られるかはわからないけど、ヨロシク頼みますよ、先生」
『サユリ、こいつヘラヘラしてて気持ち悪いよ、やっぱり気をつけたほうがイイよ』
少年は、さゆりの服のすそをひっぱり耳打ちした。
「おい……聞こえてるぞ……それに、俺は、今日からお前らの先生だ!」
匠がそう言うと、しばし少年は戸惑っていたが、やがて中に入っていった。
「嫌われちゃったかな……?」
匠が不安そうにうなだれると同時に子供たちが中から飛び出してきた。
『男の人だ、新しい先生だ!』
口々にそう叫びながら二人の周りに走り寄ってくる。
「みんな、嬉しがってますよ、田代先生」
「……匠って呼んで貰えますか? どうも、先生ってのは……」
匠がはずかしそうに頭を掻くと、さゆりは、微笑みながら肯いた。
二人は、大歓声に包まれながら中に入り、日本のことや、お互いのことを喋った。
その最中に、元気の良い子供たちから襲撃を受けたこともあったが、匠の顔から笑顔が絶えることはなかった。


竜太は、ほんの一息ついて窓の外を眺めようと目を向けたが、それもほんの一瞬で再び治療に専念した。
出力は低いが、それを持続させなければならないヒーリング系の能力は、他にすることもないので、つい思いに耽ってしまう。
こんな状況では、尚更のことだ。
来る時に使った霊力を大幅に越えるほどの竜気を送っているのだが、不思議に限界は感じない。
あと少ししたら、さゆりも全快するだろう。

なのに―――

竜太は、今、運命というモノを感ぜずにはいられない。
自分は、さゆりの運命を変えてしまったのかもしれないが、これが修正してやるチャンスかもしれない。
今、窓の外でチラッと見えたのは間違いなく、かつての上司で、今はさゆりの夫である男だ。
もちろん、真っ直ぐここに来るはずだ。
ここは確か三階の筈だから来るまでに少しは時間がかかる。
治療を止め、直ぐに飛び出していくことだって可能だろう。
――だが、これは、運命なのだ。

(来たら最初に何て声をかけよう? どう、説明しよう? なんて、謝れば良いんだろう?)

竜太は、この場を離れるつもりは無かった。
全てを成り行きに任せるつもりだし、何より、久しぶりに彼と会えるのは嬉しい。

コン コン

ベートーベンの第五のように、決して印象的にではなかったが――
確実に『運命の扉』は、ノックされ―――
……やがて開かれた……


――― 横島クンとシロちゃん♪ Part1 ―――
「在った!? 在ったでござる!!」
人間一人を抱えながら何十キロ走ったことだろう?
しかし、そんな疲れは微塵も見せずにシロは、ハシャいだ。
「先生、本当に在った! 夢と同じ場所でござるよ!」
白目をむき、泡を吹いている横島だが、奇跡的に肩を揺さぶられただけで意識を取り戻した……が―――
「……あ? 先生……? 俺がやるんですか? え〜と…わ、わかりません……」
……哀れ
「なに言ってるでござるか!? ホラ、先生、入るでござるよ!!」
シロは、自然と叫んでいるように大声を張り上げていた。
希望を胸に膨らませながら――

シロの指差すほうには、いつの日かタマモの創り出した世界と同じ様な雰囲気のカフェが在った。
こんな山奥に建っていて商売ができるのだろうか?
……少なくとも、夢と現実を行ったり来たりしている者にとっては絶好のデートスポットなのだろうが……

         次回、カンボジア編クライマックス!?
             乞う、ご期待

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