livelymotion【プログラム:3「コールU」】
投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/11)
墓地――今更説明するのもたいがいくだらないが、
墓――すなわち死人を埋葬したもの――を密集させた場所である。
ならば当然、墓地の本質を求めるには墓の本質を求めねばならない。
本質とはなんだろうか?死人を慰めているのか。死人を隔離しているのか。
生者を慰めているのか。生者の、死人を畏怖している証なのか。
あるいは――『死』そのものを忘れないためなのか。
人間が感じうる最大の恐怖とは、未知への恐怖だろう。
恐らく、死の恐怖の根源はそこだ。
墓所とは、死を具現化することで、その未知性を誤魔化し、人間が抱く恐怖を誤魔化し、
恐怖に立ち向かう勇気――人間の最大の美徳を奪い、堕落させる、魂の墓場ではないか。
それが本質ならば、墓場という言葉の本質を求める行為のなんと不毛なことか。
永遠の輪廻に囚われてしまう。
それを、理屈で知っているとは言い難いが、本能で悟っているのだろうと思われる。
自分達が踏み入れた場所の本質など、特に興味も示さない一行。
「この時季、こういう場所は涼しくっていいですね」
「幽霊ん時の感覚が抜けきってねーだけじゃねェのか?」
「いえ、えっと、あれは寒すぎましたけど……」
やはりと言うかなんと言うか、呑気な声があがる。
「こっちもパンピーじゃねェから、ビビるのは論外としてもよ、
お世辞にもムーディな場所とは言えねェな。さくっと報酬もらって帰るのがベストだ」
「そうですか?私、こういうとこピクニックに来て百物語とかやりたいです」
「頼むからやめろそれだけは」
「でも、旧墓地ってことは…誰かがお手入れしないとすぐに荒れちゃいますよね…」
「やめろっちっとろーがッ!?」
「あ、そうだ!弓さん家もお寺でした。それなら雪之丞さん来ますよね?」
「一ミリたりとも行きたいとは思わねー」
言って、プイッと顔を背ける雪之丞。かすかに汗が頬を伝っているが。
雪之丞はそのまま隣りを歩くマリアに、声を潜めて語りかける。
「おいロボット、わかってんだろーな?
あいつを野放しにしとくと、お互いおもしれーことにゃなんねーぞ」
言って親指でキヌを指し示す。
面白くないこと、とは無論、報酬争奪レースの敗北である。
「マリア、です。“雪之丞”サン」
一方のマリアはマイペースな返事をする。雪之丞は少しこめかみをひくつかせ
「なんだと?テメーは誰の許可もらって俺のこと、
雪之丞さん、なんぞと馴れ馴れしく呼んでやがんだ?」
やはり声量は落としたまま、凄む。
「個体を・区別する・呼称です。使用・許可は・不要と・判断」
雪之丞はそこまで聞いて緩やかに息を吐く。
「だな。話は変わるが、今ここに、マリア、なんつー名前の奴が
イキナリ飛び込んでくる可能性と、あんたの他に言葉でやり取りできる
ロボットが、同じく突然やってくる可能性比べてどっちが高い?
まぁ、どっちもほとんどゼロみてーな確率だろーし、こいつは屁理屈だ。
だがな、俺は他人の指図を聞くのが大嫌いだ。
どーしても俺に、あんたのこと、マリアって呼ばせるってんなら、
俺はあんたに俺のこと、「スペシャルグレートかっこいい伊達雪之丞先輩」
って呼ばせることにするぜ?」
マリアは、しばし沈思黙考――というのだろうか、彼女の場合?――してから答える。
「ロボット、で・お願いします。雪之丞サン」
「あぁ。俺も、雪之丞、が性に合ってるよ」
雪之丞が、ニヤッ、と心底楽しそうに笑った。
彼が好んでマリアに使う「ロボット」という呼称は、特別蔑んではいない。
彼はロボットという言葉の意味なぞ深く考えて使っているわけではないのだから。
単純に人っぽい機械だったら全てロボットなのだ。
小学生が、背の高い友達に、「馬場」とかのあだ名をつけるくらいのいい加減さだ。
それどころか、彼自身がそう言ったように、相手に自分を好きなように呼ばせ、
自分も相手を好き勝手に呼ぶのは、対等な立場である証明だと言っていい。
対等な立場だからこそ、上下関係がないのだから、条件は同等でなくては。
まぁ、「ロボット」といったら普通は命令に服従する、自我未確立存在ということ、
などと知ってて使っていたら、彼はマリアをここまで受け入れはしないはずだろう。
多分、「そういうロボット」は彼とは理解し合えないに違いない。
雪之丞に悪意があったなら、マリアも、チビ、などと言い返すことができただろうか?
そしてさらに歩くことしばし――
「かなり興奮してるみたいです…霊たち」
キヌに言われ、雪之丞も意識を向ける。
「…こいつぁ……ホンット雑魚みたいだな。ちっとも気配探れねーぞ」
「雪之丞さんは霊圧も高いみたいですし同調とか不得意そうですもんね」
「悪かったな。不器用でよ。足並み合わせるとか、ガラじゃねーんだよな」
それが自分より弱ければなおさら。
かといって自分より強い奴の存在など信じてない。そういう男なのである。
「だいたい見つけらんなくたって、
ナワバリに飛び込んじまえば向こうから来るんだ。たいして困らねーよ」
チ…チキチキチキチキチキ……
沈黙を保っていたマリアが排熱処理をし始める。
「距離三、速度二十、方角………真下」
「なに?」
ドバッ
土が吹き上がり、白い影が踊り出る。雪之丞の帽子のつばを掠め、裂いて過ぎる。
「ボ……ケがッ!」
バシュゥゥゥゥッ
紅い、霧とも光ともつかない何かが立ち上り、やがて集って形になっていく。
その赤い人型は白い影から飛び退いたことで崩れた姿勢を力任せに引き戻す。
過ぎ去ろうとする白に、追いすがる紅。相対速度は――ゼロ。
「ッらぁ!!」
ぼりん
左の拳が烈風とともに影を貫く。やたら乾いた音を立てて霧散する影。
そしてマリアの方にも、同型の襲撃者が迫る。が。マリアは身じろぎもしない。
ぐしゃり
マリアの胸部に突き立てた渾身の手刀を起点として、襲撃者は自壊してゆく。
「ふ、二人とも無事ですか?」
キヌが二人に声をかける。そんな彼女とは裏腹に、二人は呑気に
「耐魔フィールド正常動作・確認。各部損傷、ならびにエラー確認……なし」
「ち…スケルトンごときに帽子台無しにされたぜ、くそったれ」
「今回・同行者の・傾向を・考えて、報告を・簡略化してみました。いかがでしょう?」
「あーあー簡略な。結構融通利くじゃねーか。戸惑っちまったぜ」
「無事なんですね?よかった……」
「なにが無事なもんか。帽子がダメになったって言ったろ。それに――」
ザゥッ、ザザッ
――お前がちっとも無事じゃねーよ。
頭上を覆う大木の枝に、二体の骸骨が潜み、踊りかかってくる。
すっ、と右手をかざし、雪之丞はめんどくさそうに霊破砲をチャージする。
が。彼の脳裏に何かがよぎった。
隣りではマリアが、内蔵のマシンガンを、やはり発射姿勢で準備していた。
「待て!」
言われて、マリアがそちらを振り向く隙に、骸骨達はキヌに肉弾をかける。
――骨だけの体で肉弾というのもおかしな話だが――
「キャア!?」
懐から笛が落ち、転がる。それを見やって、雪之丞は呟く。
「忘れるとこだったぜ…こんな重要なことを。
今回俺達は味方なんかじゃなく、競争相手だったってことを、よ」
「マリア・記憶しています。しかし・危険は…」
「フンッ!人間様をナメんなって。あんなスリムな連中の攻撃なんぞじゃ
死にゃあしねーよ。最悪、おキヌは胴と首さえつながってりゃイイのさ」
語る雪之丞の目は、なにやら渦が回ってヤバイ電波を放っている。
「……雪之丞サン・深刻ですか・餓え」
問われて、雪之丞がくるりと向き直る。そして、ぽつり、と一言。
「いちがつだ」
「いちがつ?…ひとつき、の間違い?」
「一月から今日まで食費らしい食費なんて払ったことねーよ。
試食コーナーに群がるガキどもとの苦闘の日々を聞くか?」
「ノー。だいたい・どこも・状況は・同じです」
「そ…そぉか?俺は流石に「こんなことしてちゃいよいよ
俺もやばいなー」と思わねーでもなかったぞ」
「ともかく・そろそろ・助けて・良いのでは」
「そだな」
ばりん
あっさり承諾し、無造作に骸骨の一体を蹴り砕く。
べしゃっ
マリアのほうも、やはり一体掴みあげて、墓石に叩きつけて割る。
「あったたたたたた…うぅ、競争社会って怖い」
キヌが涙声で呟く。
「まったくだな。ところでよ、普通、火葬したらしゃれこうべは
骨壷にしまって家におかねーか?なんでこいつら頭ついてんだ?」
「最近は遺族の希望次第ですけど、頭だけじゃないです。
現代のスケルトンは悪霊というより地精の暴走なんです。
土中のカルシウムを成型して人骨を模すんだとか。
人間霊とおかしなふうに反応した結果、特殊なゴーレムを造るんです」
「さっすがエリート六女霊能コース。
てなわけで、次回からは自分に降りかかる火の粉は自分で払えよ」
「こーかいしますよ、そのせりふ」
「なんだ?ずいぶん強気だな」
「一言一句たがわず記憶しておきます。明日登校して第一に……」
「全面的に俺が悪かったから忘れろ。
ったく美神の大将んとこじゃ最後の砦だったのにとうとう毒されやがって」
「いえ、きっと降参してくれるだろうと思ったので。ほんとにそんなことしませんよ」
「余計タチ悪いわ。ま、大方の予想を裏切って出遅れてるから、お情けで助けてやるよ」
言った瞬間、
ドザザザザザンッ
周囲を取り囲むスケルトンの群れ。その数ざっと見でおよそ五十。
もっとも、先程のように、土中や、頭上の葉を隠れ蓑にして潜む者もいる。
ならばその総勢は軽く百を超えている可能性さえある。
「訂正。二匹差じゃたいしたことねーから、やっぱ助けらんね」
「それに・弱いといえど、これだけの数が・相手となると」
「なんだ?自分もヤバイってか?そんじゃあ一人……脱落だな!!」
吼えて飛び出す、血色の魔獣と化した雪之丞。
その身のこなしも、常識的な速さではない。
そしてなにより、その動きはしなやかで、そして――シャープだ。
やはりそれは、獣、としか形容しようがない。
無理に喩えるなら、嵐、であろうか。緋色の暴風。
ばきぼきぐしゃばりごきりがきょ
次から次へとスケルトンを粉砕しながら、敵陣深く傾れ込む。
「うらうらうらうらうらぁッ!死ね、ザコどもォッ!!」
「ダメ!雪之丞さん!!」
「なにが……ぁ?」
振り向いた雪之丞の視界は、ほとんど薄汚い白に閉ざされていた。
つづく
今までの
コメント:
- どっちが失敗ってわけではありません。失敗したのはパソコンです。
そういうわけでどちらでも内容変わりません (ダテ・ザ・キラー)
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