ザ・グレート・展開予測ショー

終曲〜第二幕〜(其の一)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/11/ 9)

 



 中世の建造と思わしきその城は、夜闇の昏さを集約したかのように。

 何処であろうと変わらぬ夜空は、月を浮かべ魔城にさえも光を注ぐ。



 絶え間なく城の内外を巡る禍々しき『澱み』は、その城に在るモノ達が尋常ならざる『何か』ということを知らしめるには、充分だ。
 静寂が包み、その静寂を破る呻き声を、また静寂が包む。
 その城が忽然と出現して以来、延々繰り返されてきた常に、今は新たなる変化が加えられていた。



 剣閃が、走る。
 先急ぐ通路を埋め尽くすような巨体の『魔』達。
 それらを一息に両断するや、塵芥と化すそれらには一瞥さえせずに、黒影が飛び出す。
 その黒影は人の形をとってはいるが、硬く鋭角的な何かを纏ったその姿は人間(ひと)ではない。
 利き腕とおぼしき右の掌には、空から注がれる月の光にも似た、真白い輝きを放つ刃が握られている。
『ウウウ……!』
 城の深部へとひた走り、角を曲がった黒影を、またも無数の『魔』が阻む。
「はぁっ!!」
 黒影はただ、手にした刃を水平に薙ぐ。すると。
 シャアン!
 空間を飛翔する剣閃。距離を、間合いを一切無視し、真白い閃が『魔群』を切り裂いていく。
 またも塵と化し、消え去る『魔群』を踏み越えて。
「むかつくんだよ、人の過去ほじくりやがって!」
 黒影が、吼える。
「もう成り行きの報酬目当てなんかじゃねぇ…親玉は俺が斬る!!!」



 黒影の叫びが魔城の奥底に座する強大な『魔』の関心をひく。
 闇の更に闇。深淵を思わせる笑みを『仮面』はそっと浮かべた。

『さぁ……第二幕の始まりですね』

 愉しげにそう呟いてから、『仮面』はその下に見え隠れする眼を、自ら投影した『映像』の一つへと向ける。
 ゴウッ!
 そこに拡がったのは、猛る炎。
 興味深げに『仮面』が見据える光景は全て、その炎によって埋め尽くされていた。
「たああぁぁっ!!」
 視認できたのは、煉獄たる火焔。その火が消えぬ内に、『仮面』は裂帛の気合いを伴う人狼の咆哮を耳にした。
 投影した映像からさえ伝わる、迷いのない澄み切った氣を全身より放ちながら、一人の少女が炎を破ってしなやかに跳躍した。
『いやいや……この場合は、一匹、とでも言いますか?』
 その自身の例えが愉快だったのか、僅かばかり口元を歪めた『仮面』の眼前で、少女の掌に在る容なき刃が閃く。
 少女の氣と共に、迷いのない軌跡を描いたその斬撃はしかし、少女にとり納得のいかない結果をもたらした。
 

「ま、またでござるかっっ!!?」


 少女は憤慨とやるせなさの籠もった叫びを上げる。
 その少女の視線の先にあるものは、サラサラと光の粒子となって崩れていく女性魔族の姿だった。
「シロ! 横っ!!」
 その声より先、シロはその場から着地時に隙を作らぬ程度に跳躍していた。
 シロの眼下には、それまで自分の立っていた位置よりもやや右に離れた壁に、亀裂さえなく穿たれた穴があった。
 ギリ…と、シロは歯噛みしながら、吼える。
「この卑怯でござるっ! 武士たるものの決闘というものは誇りをもって正面から……」
「私は武士でも騎士でもない」
 ーー割り込む声。
 それを耳にしたシロは、すかさず声のした方向、右上に向かって跳ぶ。
 考える先、全ての感覚が常人どころか並の魔族の遙か先へ到達している人狼族の聴覚をもって、瞬時にシロは相手の位置を捕捉した。
 跳ぶ方向に向かい、垂直に刃を構えている。それは刺突というよりは、ヤクザの斬り込みに近いものといえた。
 ーー直撃。
 霊波刀が女性魔族の右脇腹を大きく抉りぬいた。
 己の刃が相手の女性魔族の体を貫いたことに、戦慄するシロ。
 刃で刺し貫くのであれば、まともに決まれば相手に深手を負わせずにはいれない。しかしシロが握るのは霊波刀であり、相手に差し迫った瞬間、シロはその霊波刀の切っ先を僅かながら丸みを帯びたものへと変化させていたのだった。
「な、なんでっ!? 拙者は……!?」
「甘い」
 嘲り混じりの声と共に、またも女性魔族の肉体は、サラサラと崩れてゆく。その幻影が消え去ると、そこには無傷の女性魔族ーー名をセステルティウスが冷ややかな眼でシロを見つめていた。
「くっ!」
 焦りを隠せぬ声音で、妖狐のタマモがシロとセステルティウスを分かつように狐火を放つ。
(無駄なこと……炎で眩まそうと、この至近距離なら)
 セステルティウスがそう判断した瞬間、サッと炎の左側から、かすかにシロの尻尾が見えた。
「もらった」
 感情の熱さや温もりを微塵も感じさせない声音で、セステルティウスはすかさずその方向へと光弾を飛ばした。
 尻尾の見えた辺りから、シロの急所をおおまかに予測しての攻撃。しかし予測とはいえこの至近距離でなら、仮に致命にならずとも、かなりの深手を負わせられるーーセステルティウスはそう確信していた。しかし。
(何……?)
 光弾を放った直後の刹那、セステルティウスは違和感を感じた。光弾が生身の肉を焼き貫く時に生じる僅かな焦げる匂い、着弾した時に感じる手応えを一切感じなかったのだ。
(これは、まさかあの尾は?)
 足下から、怒声が聞こえてきた。
「バカ犬バカ犬お〜バカ犬! 相手が幻術使うのにどうして正面からしか行かないのよ!?」
「侍としての誇りが燃えてるからでござるっ!!」
 ギャンギャン言い合いを続ける犬科コンビを、傷の痛みに顔色の冴えないベスパの表情が殊更に暗いものとなる。
(こいつらは……とっさに人狼の方を助けた手並みといい、呼吸がかみ合ってるのだか、かみ合ってないのだか……?)
 ベスパのそんな疑問に答えが出る筈もなく、やがてセステルティウスが犬科の二人の前に、静かに降り立った。
 無論、シロとの致命の間合いは外した位置から、例により、抑揚なく語りかける。

「そちらの戦力はほぼ把握した」

 そう言うや否や、セステルティウスの姿が揺らめきだした。



『ふふ……あれもいよいよ本気ですか……さて』
 愉しげにワインの注がれたグラスを傾けつつ、玉座から戦況を静かに見ていた『仮面』は、ふいに視線を通路の側へと向ける。
 それと同時。閃光。
 通路の左の壁、そこに無数の亀裂が疾り、次いで真白い輝きがあふれ出す。
 壁が砕け散り、立ちこめる噴煙の中より、鎧をまとった一人の青年が姿を現した。
 静かにグラスを置くと、頬杖をついた姿勢のまま『仮面』が青年の名を呼ぶ。
 その声音は、まるで子供が新しい、自分の好き放題にできるオモチャを見つけたかのように心底愉しげに響いた。
 


『ようこそ……クックッ、一番乗りおめでとう、伊達雪之丞君……』


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