ザ・グレート・展開予測ショー

GEKKOH〜虹の巻・白熱の終章「其は侍の誇り、父の志、魔の狂熱」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 4/18)

ビュオッ
八房が舞う。ガルムはこの一撃を、頭上に跳ねて避けた。
いかな八房といえど、それが刀剣である以上は目前の敵を斬る道具である。
まして振り切った刃を引き戻すタイムラグもあって、彼の身に危険は全くない、ハズだった。
ゾブッ
瑞々しい巨木の幹に、八房が深く突き立った。
犬飼は八房をあっさり捨て、脇差にもちかえて迎撃していた。
「ウォォォォォッ!」
犬飼は気合を吐くも、脇差はガルムの炎の飛礫を正確に撃ち落せずに空を斬る。
やがてガルムが犬飼の首根っこに四肢を絡めて引き倒す。
「ハッハァ!ガルム族は火傷をしない肉体デネ。これからどうするかわかるダロウ?」
組みついた状態で火にかける。それは、犬飼には防ぎようもない。
――拙者は死ぬのか。友をも犠牲にした野望も潰え、友の仇と同じ男の手で。
が。
ずるり
妙な音に、ふと視線を送る。そこにあったのは刀の柄。犬飼はごく当然として、それを掴む。
ゅ……
音がしたとして、そのぐらいだった。全くなんの抵抗も感じさせない、名刀の手ごたえ。
ザドンッ
にわかには、それをなしたのが自分だとは判らないほどの一瞬で
文字通り八つ裂きにされた、ガルムだったモノが地を叩いた。
一瞬遅れて紅い雨が降り注ぎ、八房の美しい刀身が紅く七色に瞬いた。
犬飼はもう一度、刀を引き抜いた場所を見た。
犬飼の肩の高さから根元までをばっさりと断ち割られている朽ちた木があるだけだった。
一人きりになった彼は終始無言で、適当な止血をしてからさっさとその場を立ち去った。
友の亡骸には一瞥もくれぬ。それが戦場の掟であり、敵対した侍の作法だったからだ。
血に染まった月虹は誰の目にとまることもなく、失せた。


次代へのプロローグ:
「フーッ!まさかあの骨董品、斬ったもんの霊力吸って復活するとはナァ……
オレも半分ばかしもってかレタ?」
一人やかましく止血とともに、懐の中の蛇の死骸も含め自分の痕跡を掃除するガルム。
八房の能力は事前にリサーチし、もしもの時に防ぐために手懐けておいた蛇だ。
蛇の動作は緩慢だし小型だから、仕込んでおいてもバレはしない。
この大量の蛇どもが代りに霊気を吸われてくれる。多少、貫通したようだが。
「ま…待て……助けてほしい」
弱々しい声に、ガルムは見向きもせずに
「信用第一のこの稼業であんな裏技使ってるの、見られた人なんか少ない方がイイナー」
「今夜のことは忘れる!頼む……俺は帰らなきゃならないんだ…」
「自分で斬った敵助けるバカって笑えるナ。そいつ絶対復讐さレルヨ」
「復讐もしない。絶対だ……」
「生きられて迷惑こそあれ、メリットは何一つない」
「金も出そう……頼む…」
そこでガルムははじめて向き直る。
「それだけじゃダメだな。犬塚サン?アンタ、お子さんいるよね。
なにしろオレの秘密も、オレへの恨みも抱えた方だ。助けるからには保険――
人質がないとハナシんなんねぇ。ガキをいただく。そいつぁオレが絶対に譲れねぇ条件ダ」
商談の時は、ガルムが裏稼業らしい表情を見せる唯一の状況だった。
それを聞いた犬塚の表情に、厳しいものが走る。それを見てガルムは一人満足し、言う。
「ハハッ!ビビらなくってもガキのお守なんか頼まれたってしないヨ。即OKなら
助けてやろうとも思ったが、今の顔みりゃさっきの「絶対」の信憑性はたかが知れテル」
「……お前…まさかわざと!?」
わざと犬塚を怒らせて、その変化を愉しんだのだ。死に逝く者を謀って。
「ンー、これでも半分はマジの交渉でしたヨ。臆病じゃなきゃ生きてけない世界ダし」
「ぐ…くそぉ……」
感覚が次第に霞んでゆく。その遅々とした時間の流れが、シロを残し逝く自分を呪わせた。
「お子さんにゃ、カワイソーなことしたと思ってまスヨ。もし機会があったら無料で
助っ人ぐらいしてやる、その程度の良心はオレも持ち合わせてマスよ…聞いてますか?」
「…………」
既に相手が事切れていたのを知るや、ガルムは一陣の風にとけて消えた。

終幕

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