ザ・グレート・展開予測ショー

UNOPENED 〜第1話〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 7/ 4)

『渋鯖公園前、渋鯖公園前。美神令子除霊事務所へは次が便利です』
このアナウンスを聞くたびに、聡の胸は高鳴る。
(今日もくるかな、あの女の子・・・)
聡はある女の子に恋をしていた。六道女学院の制服を着たその女の子は、いつも渋鯖公園前から乗ってきて、右側の後ろから二番目の席に座る。それを三席分前で吊り革に掴まりながら、聡は気づかれないように見つめていた。何度となく繰り返されてきた、切ない営み。
バスが減速し、聡の心拍数がさらに増える。
『扉が開きます』
緊張が最高潮に達する。
自動ドアが開き、その女の子は今日も乗ってきた。腰まであるきれいな黒髪。優しそうで、それでいて芯の強そうな瞳。彼女を見るたびに聡の胸は一杯になる。
女の子はいつも通りに右側の後ろから二番目の席に座り、それから本を開いて読み始めた。いつもは英単語をチェックしたりうたた寝したりしているのだが、今日は少し様子が違う。
(何の本だろう)
聡は気づかれないように女の子の手元に目を凝らした。
「やさしい水晶占い」
それだけが読み取れた。霊能課があることで有名な六道女学院に通っているのだから、こんな本を読んでいても別に不思議ではないのだが、何故か聡にはひどく神秘的に思えた。
ふと女の子が顔を上げ、聡は慌てて瞳を逸らした。あの瞳に見つめられたいのに、あの瞳に反射する自分の姿を見るたびに、体が熱くなり逃げ出したくなる。
小松原通り西口、白井総合病院前、西野紅梅町。聡の気持ちとは関係なくバスは走り続ける。
「あ、席代わりましょうか?」
聡が振り返ると、彼女が腰の曲がった老婆に席を譲ろうと立ち上がっていた。
「すまないねえ、お嬢ちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
彼女は聡の二つ後ろの吊り革に掴まった。シャンプーのいい香りが聡の鼻を心地よくくすぐる。
(ああ、なんていい子なんだろう・・・それにいい匂い・・・)
『次は六道女学院前、六道女学院前』
アナウンスが聡の夢見心地を吹き飛ばし、彼女は回数券を出そうと胸ポケットを探り始めた。
(とほほ・・・もう終わりかよ)
「あっ・・・」
バスががたんと揺れて、女の子が生徒手帳を落とした。生徒手帳は床をすべり、なんと聡の足元で止まった。
「は、はいどうぞ!」
聡は慌てて生徒手帳を拾い、必要以上に埃をはらって彼女に渡した。
「あ・・・ありがとうございます」
生徒手帳を受け取ると、彼女は聡に微笑んだ。
「ど、どどどどういたしまして!?」
(しゃ、しゃべっちゃったよおおおお!)
「あ、それじゃ失礼します。ありがとうございました」
彼女はそう言うと回数券を機械に入れバスを降りた。しかし聡の胸の高鳴りはおさまらない。聡は生徒手帳に入っていた学生証の名前を胸に焼き付けた。
(1年B組・・・氷室おキヌ、ちゃんか・・・)




授業は全く手に付かない。おキヌちゃんというあの女の子のことが聡の頭の中に浮かんで全く集中できないのだ。食事も喉を通らず、聡は日に日に痩せていった。そんな聡の様子を見るに見かねて、一人の友人が声をかけてきた。
「おい聡、元気ないやないか。いったいどないしたんや?」
「ん・・・?なんだ、筑紫かよ」
声をかけたのは、聡と同じクラスで関西からの転校生である筑紫啓介だった。背は中肉中背の聡より大分低く、痩せ気味で眼鏡をかけている。オカルトマニアで、何とかというオカルトGメンに憧れて髪を伸ばしているが、全然似合っていないのはご愛嬌である。
「なんか悩みでもあるんか?ワシに話してみーな」
「いいよ、別に」
女の子に片思いなんて恥ずかしくて言えたものではない。
「愛想悪いなあ・・・。ほら『じゃがりこん』くうか?」
「いらないよ」
「ったくなんやっちゅうねん?・・・ああ、そうや!」
筑紫がパンと手を叩いた。
「学園祭行かへん?女子高の!」
嬉しい誘いのはずだが、今の聡には『あの子』以外に興味が持てなかった。
「いいよ、別に」
「そうか、六道女学院なんてこんな時にしかいかれへんのに」
「なにい!?」
聡がいきなり筑紫につかみかかった。
「今どこに行くって!?」
「ろ・・・ろくどうじょがくいん・・・」
「いつだ!?」
「げほ、こんしゅうの、どよう・・・」
「行く、いくいく連れてってくれえ!!!」
「わかった、わかったからはなしてえな・・・」

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