ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十七 シンデレラの苦悩


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 6/17)

チチチ……
と、珍しく鳥の囀りさえ聞こえる静かな日だった。
遠くの空の雲が見えるほど空気は澄んでいて、日差しは優しくそこはちょっとしたリゾート気分を漂わせていた。
そんな爽やかな風に背中を押されおキヌは美神を精一杯の愛情を持って送り出した。
「美神さん……わたし…待ってますから――」
これは門出なのだ。
美神にとって人生をやり直すチャンス。
泣けば思い留まってくれるかもしれないなんて卑怯な考えが多少なりとも有ったことは否定できない。
でも、本当に寂しかった。
一人になることが―――
みんなが自分を置いて大人になってしまうことが。


――― シンデレラの苦悩 〜 義姉と継母 〜 ―――


タマモの創り出した仮想世界では、二人の男がジッと睨み合ったままの状態が暫く続いていた。
耳鳴りがするほど静かな空間を掻き消すように清水が口を開いた。
「君が最後に行ったのはカンボジアだったな……そうか……」
「結局、紛争自体は止められなかったし…それどころか今でも多くの人が苦しんでいる」
「……」
申し訳無さそうな顔で黙って俯く清水に少し後ろめたさを感じた竜太はわざとそっけなく振舞った。
手のひらを真上に向けるように両手をわき腹に沿って胸の高さまで上げる――よく外人のやってみせる(あるいは魚高の偏見かもしれないが)「知〜らない=I don’t know」の仕草だ。
「ま、別に良いんだけどね」
「おい!良いってことは無いだろ!」
「おっと……ごめん、ごめん」
「まったく……君は、すぐにそうやって大小を混合させて――」
真面目な清水を嫌っているわけではないのだが説教は、竜太にとって唯一の苦手なものである。
彼は、直感でそれが始まるのを察知し話を捲し立てるように話を摩り替えた。
「そんでね……!孤児院に働くことになったんだけど、そこに居た先客がさゆり……さんってわけ」
「先客……ねぇ(ゴゴゴ……)」
「ア、アハハ……(汗)。そんで、俺の豊富……とは言えないけど人生経験っつーか武勇伝を聞かせてやったわけよ。
テルさんの話もしたよ? まあ、本当は子供に話してたんだけど――さゆりも聞いていた筈で――」
「子供ォ!?」
清水は、さっと竜太に近づき胸倉を掴んだ。今にも、殴りかからんばかりの勢いである。
竜太の要点を得ない説明は、実に誤解とトラブルを招き、過去なんどもこれによって不幸になっている。
――不幸になるのが竜太であるとは限らないが――
しかし、今回は『孤児院』という単語が先に出ているため清水の単に早とちりとも言える。
「違う!! カンボジアのガキ!! 俺も、さゆりも血縁関係は無いヤツラのこと!!」
「ムゥ……。そ、そうか……」
安心と同時に、恥ずかしさを少なからず覚えた清水は、なんとも言えない表情で手を離した。
しかし、清水がこれほど取り乱したのを見るのは初めてで――竜太は、チョッと複雑な心境だった。
「とにかく、さゆりから話を聞いていないってのは、本当らしいっスね」
「うむ……すまん、聞かせてくれないか? 時間は、あるのだろう?」
申し訳なさそうで、恥ずかしそうで……本当にこんな曖昧な表情の清水を見るのは初めてである。
タマモのことも、もちろん心配なのだが、竜太は未だ難しそうな顔をしている。
「そうですか……しかし、奥さんが話そうとしないことを私が勝手に話していいものか…」
「そうだな……では、君が話せる範囲ということでお願いしよう」
「話しましょう。カンボジアで出会い、別れた男と女の話……美しい自然も、華やかな祭りも……
血生臭い紛争さえも、彼らの人生を色取る背景にすぎなかった……脇役にすぎない筈だった……」




舞台は転じて―――

ふいに切り出されたおキヌの言葉は美神にとって予測されていたものであった。
それでもおキヌの涙は何より辛いものだった。

彼女は、人生で恐らく二度目であろう不思議な感覚にとらわれた。
単なる良心の呵責とはまた違ったものである。

安心させるには思いとどまるのが一番だ
しかし、それはできない。
美神は、おキヌを安心させるために二番目に良い方法をとった。
「いやねぇ〜……おキヌちゃんが泣くことないのよ。……すぐ戻ってくるから心配しないで待ってて、ネ?」

彼女は精一杯明るく振舞った。言動から眼の配り方まで――

おキヌは思う。
少しでも――いや、思いきりこの人のことを疑ってしまった自分が情けない。
霊力の有無に関わらず道具も使ったし
人にも頼んだ。
―しかし、この人は――美神令子は、本気だった。

横島たちの居ない事務所。
時間の流れが幽霊だったときより遅く感じた。
事務所に響き渡る二人の会話は尽きることがなかったが今ひとつ何かが欠けていて―――
このことには美神も納得していたようだ――
今、考えると二人とも沈黙を恐れていたような気がする。
しかし、それが帰って彼女たちに思案する時間を与え




































ある日、美神は自首することを決意した





                    つづく

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