ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(5)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/23)



「ひゃあー、すっげえな・・・。あんたも見てみなよ。本当に面白いから。」

J−0392Cは電話の画面をメドーサに見せた。
そこには、破壊されたセンター内通路の映像が写っていた。
同じ姿のJナンバー職員が大勢で消火や、通路から流出する液体への凝固剤(らしきもの)の投入を行っているのが見える。
彼らの他に、これも職員だろうか、甲冑と羽衣を着けた筋肉質の大男が数名、現場の整理を行っているのが見られた。
その男たちは常に憤怒の形相を浮かべていた・・・。

「何だい?これ。」

「センター内放送の臨時ニュースさ。ちょうど作業エリア向こうで転生者が一人、通路ぶっ壊して飛んで行っちまったんだと。
何でも、あんたと同じくらい力のあった魔族で、希望転生先をダブルブッキング喰らって怒ったらしいってよ。
だから、生前のパワーまでこっちで転写するのはマズいんじゃないかって言われてたのにな。
ここで暴れる奴なんかいないっつって危機管理怠った結果がこれさ。
『天国と地獄』主義の過激派はまだこのセンターを狙っているのにな。
奴らが希望先転生装った工作員大量に送り込んで来たら本当にヤバい事になるぞ。ヒャハハ・・」

あるべきでない事故や起こりうる危機の話をしているのに彼がとても楽しそうに見えるのはメドーサの錯覚ではないようだ。
それも単に「死人が増えればセンターの運営が活発になる」と言った理由ではない。
もっと根源的な所で彼は・・いや、彼らは、慢性的に「変化」を渇望している。
メドーサは、全体としての「彼」がある意味、自分のかつてのボスと同じような立場にいることに思い当たった。
死によって終わる事の無い、永遠に同じ事を繰り返す「役割」を背負う者。
自分を裏切り造反する者を讃えたアシュタロスと、身近なトラブルを楽しむ彼とは、どこか似ている。

「まだ見てねえ奴もいるだろうからな。画像、メールしてやるか・・・何だ?調整部からだ。」

J−0392Cは画面操作を中断して電話を耳に当てた。

「もしもし、おう、今日は1719Dか。え?大変な事?あれだろ、通路爆発。・・・ああ、まだ知らないか・・じゃあ何だよ?
え?ダブルブッキング?メドーサさんが?横島忠夫の子供への転生希望がもう一件?ふん・・・申請は、どっちが先よ?
だろ?こっちだ。・・ならうちらの勝ちだ。このまま行っていいな?ダブルブッキング・・・あれ?さっき聞いたな・・。」

彼はしばらく黙り込んだ。

「どこで聞いたかな・・ああ、そうだ。まだ、お前知らないっつったけど、何かよ、ダブルブッキングで怒った奴がここからちょうど作業エリア裏手の方で通路ふっ飛ばしちまったんだと。
今、ニュースで現場写してるから見てみ?結構、マジすげーって。
まあ、上のモンも審査会議も杜撰だよな。こんなあちこちでミスだのトラブルだのあってよ・・・」

「・・・・それ、こっちとじゃないのかい?」

「え?」

「その通路壊した奴、あたしと重なってたんじゃないのかいって?」

J−0392Cはあまり物事を深く考えるタイプではないようだ。脇で聞いていただけのメドーサのほうが、彼よりも状況を把握していた。

ダブルブッキング・・・怒りで暴れる・・・力の強い魔族・・・転生希望先が・・・同じ

「え、ああ、そう言われてみればそうかもな。・・・ちょっと待っててくれ、向こうのデータを・・」

「いや・・・・いらない。」

転生先・・・横島・・・同じ・・・魔族・・・ダブルブッキング・・・怒り・・・飛んで行く
・・・どこへ?

「調べてもらうまでも無いようだね・・・・・・来た。」

メドーサの中ですべての事柄が一本の線に結ばれた。
そいつはダブルブッキングに怒ったんじゃない。誰がどんな理由で希望したかを知って怒ったのさ。
メドーサは顔を上げ、中空を睨む。
その視線の先―青白く巨大な作業エリアに沿って遠くから猛スピードでこちらに近付いて来る光球があった。
球は次第に人の形をとり始める。

「な・・・何だ、ありゃあ・・」

「くくっ・・お前もこっちに来てたのかい・・あの一撃が効いてたかしらねえ・・・?」

メドーサは“それ”に関する記憶を手繰り寄せる。アシュタロスの直属幹部。
「造られた」下級魔族の分際で一年の寿命と引き換えに上級魔族並みの知識と力を与えられた出来合わせのエリートども。
自我の希薄な虫ケラ上がり。未熟で幼稚な、周囲をナメ切った態度・・・。
次に出会った時は人間ども側に寝返っていた。事もあろうに、驚くべき事に、あのアホと・・。

「メドーサァァァァーー!!」

その光―ルシオラは一直線にメドーサの立つ通路に突っ込んで来た。
メドーサは二又槍を構える。J−0392Cの叫び声ももう耳に入らない。

「こざかしいよ!小娘!!」

通路が発光し、本日二回目の爆発が起きた。



+ + + + + +



「だから、ねえちょっと聞いてよ。彼ったら『後で電話するから』とか言っといてそれっきりなのよー。ひどいと思わない?でもね、よく考えてみたら連絡先聞かずに行っちゃったんだから電話が来ないの当たり前よねえ?彼、そそっかしい所あるから忘れちゃったのかしらね。でもわざとだったら最悪よね・・ねえ、どう思う?」

「そうですねえ、再会を喜ぶ余り忘れちゃったんじゃないでしょうかね・・・それでですね勘九郎さん、あなたは復活を希望されていて、向こうで幾つかの条件が揃えば確かにそれも可能なんですよ。ただそちらのコースですと、その条件が揃うのが何十年後か何百年後か分からない。そこでですね!今、あなたにピッタリの転生先があるんですよ、人間で。こちらですとすぐ手配出来るんですよねぇ。」

「もうっ、いけず!うまいんだからぁ。私に姐御から教わった魔族のヨ・ロ・コ・ビ、を捨てろって言うのぉ?それに、転生しちゃったら彼に電話するの忘れちゃうでしょう?」

「いやいや、そこをひとつ決断されるとあなたの将来にもプラスであると私共は考えております。現にあなた、人間と戦って倒されたわけで、ここでやはり人間に戻られた方がですね。」

「んもうっ!」

「それに、メドーサさんも人間への転生を希望されたんですよ。」

「あら、まあ、姐御が?・・そうねえ・・・・ところで。」

「はい?」

「あれ・・・何かしら?」

「はあ・・・頭ですね。」

「頭だってのは分かるわよ。」

「私と同じ、Jナンバー職員の頭ですね。外からめり込んでますね。」

「どうしたのかしら・・・いいの?あのままで?」

「私はあれを何とかする業務ではありませんので。チワワにでも追いかけられて来たんじゃないですかね。」

「おやまあ、あわてんぼさんなのね。」


「・・・・・あんたらなあ・・・」

衝撃波で吹き飛ばされ“部屋”の一つにめり込んだJ−2251Aが救助されたのは、その20分以上後だった。


(続く)

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