悪意
投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:(03/10/28)
「先生!散歩!散歩に行くでござるよ!」
「だぁー!いかねえつったら、いかねーんだよ!」
美神令子除霊事務所のいつもの朝の光景。良く晴れた秋の空に、シロのおねだりと横島の叫びが響き渡る。
「横島さん、行ってあげたらどうですか?」
あまりのシロの懇願ぶりに、その様子を見かねたおキヌがシロに助け舟を出した。
「アカン、おキヌちゃん!コイツを甘やかしちゃ!うっかりOKしてみろよ、下手すりゃ『いろは坂』でヒルクライム&ダウンヒルさせられる事になりかねん!」
俺は藤○とうふ店か!と自分で突っ込みを入れつつおキヌの意見を否定する。
ア、アハハ・・・、おキヌは苦笑いを浮かべ口をつぐむ。
「先生ぇ、先生は拙者のこと・・・嫌いでござるかぁ・・・ひっく。」
ポロポロと真珠のごとき涙を零して、シロは横島を見つめてそう言った。かつてこの涙で幾度となく横島を落として来たのだ。シロは内心してやったりと、横島の心を捉えたことを確信していた。しかし、
「甘い。お前の涙はすでに見切った!」
予想を見事に裏切った横島の言葉にシロは耳を疑う。
あ、あれ?いつもと違うでござるよ。動揺を隠しきれずに思わず顔を上げた。涙は完全に止まっている。
「やっぱりな。俺がどんだけ女の涙でひどい目に会ったと思ってんだ?ましてやお前みたいなガキの嘘泣きに、何度も引っかかるワケネーだろ。」
完敗。シロはフラフラとタマモが座っているソファーへ歩き出し、タマモの横に腰掛ける。良いヘコミっぷりだ。
散歩に行けなかったことよりも、嘘泣きを見破られたことがショックだった。
(女を否定された気がするでござるよ・・・。)
「あんた、嘘泣き下手ねー。大体、使いすぎなのよ。普段泣かない女が泣くから、男はコロっと騙されるのよ。」
落ち込むシロにタマモからの痛恨の一撃。もはや反論する気力すらない。好きにしてくれ、といわんばかりにソファーの上に体育座りで、俯いたまま動かない。
さすがに哀れと思ったか、おキヌは再び横島に声を掛けた。
「ちょっと可哀相ですよ、横島さん。」
「いーんだって!これ位言わなきゃワカンネーんだから。これでちったー懲りただろ。それともおキヌちゃんが散歩に連れてくか?」
え!?あ、そ、そーだ!あたしお洗濯途中でした!
薄っぺらーい笑顔を浮かべ、そそくさと部屋から出で行くおキヌ。はい、逃げました。
「ねぇ、シロ。あんたそういえばさっき、何か秘策が有るとかって言ってたけど・・・、使わないの?」
タマモはゾンビのような顔でうずくまるシロに耳打ちした。
「あれは美神殿とおキヌ殿が一緒にいるときでないと、ダメなんでござるよ。」
「ふーん。」
―― 暫くして ――
「おはよー。」
ドアを開けて美神が入ってきた。まだ眠そうだ。中を見回し人数を確認。よし、全員いるわね。
何時の間にか、“したかどうだかわからない洗濯”を終えたおキヌも戻ってきている。
ふと、足元を見るとすがり付くように涙目で訴えるシロを見つけた。
「美神殿!!酷いんでござるよ、先生は!!散歩にも連れてって下さらぬし、しかも拙者には女の魅力が無いとか言うんでござるよ〜!!!」
「有る事無い事言うんじゃねぇ!誤解を招くだろうが!!」
ハァ、まったく朝から・・・。どーせいつものことでしょ、と美神は呆れ顔でシロを振り払い、机の上に腰掛けた。そしておもむろに言い放つ。
「横島クン。とっとと散歩に行ってきなさいよ。」
「無茶言わんで下さいよ!コイツと毎日散歩行ってたら、それこそ『マイヨ・ジョンヌ』着れるほど走りこむはめになりますよ!!」
「大袈裟ねー。」
そんなやり取りをしている二人の後ろで、シロは俯いて肩を震わす。
おいおい、また泣真似か?と横島が言おうとするのを遮ってシロは叫んだ。
「あんまりでござるよ!!拙者は先生と散歩に行くのが好きなだけでござるのに!先生拙者に言ったではござらぬか!『俺がお前のご主人様だ』って!」
!?ちょ、ちょっと待て、いつそんな・・・
「あんなことや、そんなことも・・・拙者、すごく恥ずかしかったのに・・・先生が喜ぶと思って我慢したでござるのにー!!!!先生のケダモノー!!!」
!!!!な、なにをいっとるんじゃぁー!!!おまえはー!!・・・はぅ!
必死にその場を収拾しようとパニックに陥った横島の背後から、アシュタロスをも凌ぐかと思われるほどの殺気が二つ。
一人目の名は美神令子、世界最高のGS。右手にはあまりの霊波で二股に分かれた神通鞭。その顔は明王の如く。
二人目の名は氷室キヌ、世界に数名しかいないマスタークラスのネクロマンサー。その手にはネクロマンサーの笛。その顔は菩薩の如し。
「シロちゃん。(ニッコリ)危ないから下がっててくれる。」
氷の微笑。おキヌの口調はあくまで柔らかい。
キャウン! あまりの恐怖に変化が解けたシロは、慌ててソファーの裏側へ避難する。すでにタマモも同じ状態だ。
あらゆる言い訳を出し尽くし、もはや言の葉を失った横島の断末魔の叫びをここに記す。
『もー好きにせーや―――――!!!!シロー!!!テメエ覚えてヤガレ―――――――――!!!!!!!』
「ねぇ、シロ。結局あの言葉って、どういう意味だったの?」
枯葉が舞う小道を歩きながら、タマモが尋ねる。
「さあ・・・、拙者『こー言えば横島クンが散歩に連れてってくれるよ』って西条殿に教わっただけでござるからなぁ・・・。散歩どころか、先生病院送りになってしまったでござるよ・・・。病院では一言も口を利いて貰えなかったでござる・・・。」
尻尾を丸め肩を落とすシロ。二人は病院からの帰り道の途中だ。
「今度、西条に教えてもらおーっと。」
舞い散る枯葉をヒョイと掴みタマモはそれを日にかざした。
「美神隊長、コーヒーどうぞ。」
「ありがと。」
オカルトGメン本部の執務室で事務処理をしていた美智恵は、女性職員からコーヒーを受け取った。香りを楽しんで一口すする。
一息ついて、さっきから気になっていた事を質問した。
「ねえ、彼、いったいどうしたの?」
すらっとした美知恵の細い指が指し示す。
「クックック、ハーハッハッハッハッハ!!!い、今頃、アーーーーハッハッハッハッハ!!!!わ、笑いが止まらん!!!」
ガラス戸の向こうで大笑いする西条がいた。
「さあ・・・?でも、今朝来た時からああでしたよ。」
「・・・そう。」
木の芽時でもないのに・・・、美智恵は呟きながらブラインドに指を掛け、少し下に下ろす。隙間から見える空は高く澄んでいた。
今日も日本は平和です。(一部地域を除いて。)
〜FIN〜
今までの
コメント:
- まーた短篇書いちゃいました。ホントに思いつきです。タイトルはダークなのに中身はお馬鹿な話を書くのが好きなヨコシマンです。 (ヨコシマン)
- ども、BOMです。
策士シロ、ここにあり。ですな・・・と思いきや、
西条の知恵だったんですかぃ!いやいや、最後の返しに笑わせて頂きました。
投稿お疲れさまです。ではっ! (BOM)
- やりますな西条^^A
ついにはシロの涙を見切り,散歩への誘いを断ることに成功した横島君ですが・・・それによって更なる災厄が降りかかるとは・・・哀れな(笑)←あまり同情していない?!
純粋なシロを利用して横島君を討ち取ることに成功した西条の策士ぶりは見事かと^^;
横島君が真相を知ったとき,どんな復讐を開始するのでしょうか?血で血を洗う仁義無き抗争が始まるのかッッッ!!!!!
まぁ,今回は西条の作戦勝ちってヤツですね(笑) (ROM男)
- な・・・なんなんでしょう・・・悪意・・・天使な子悪魔なんちって。
どうも〜ヒロでございます〜
西条・・・今日のMVPはお前だ!!いつもながらヨコシマンさんのセンスには舌を巻く思いです。ちなみに西条のネタは過去イロイロございますが、中にはヅラという伝説的なネタもありますんで、イロイロ西条さんをいぢめてもいいかもしれません。(西条ファンの方々、すいません!!僕は思想形態が歪んでるんです!!)
ではでは、これからも頑張ってくださいませ〜 (ヒロ)
- 早い!まだ1時間ぐらいですよ?BOMさん、ROM男さん、ヒロさん、コニチハ。
投票ありがとーゴザイマス。自分が思うに西条という男は、目的のために手段を選ばない男です。
でも・・・、美神が横島に嫉妬する事を分かってしまっている男でもあります。
かなしいね。 (ヨコシマン)
- 例の如く酷い目に遭う横島くんが面白かったです。嘘泣きするシロや物知り顔で物を知らないタマモが可愛かったです。明王さまと菩薩さまが怖かったです。
しかし西条。くだらない姦計を謀って一人悦に入るくらいなら、まあいつも通りなのですが。上司である美智恵さんや同僚からも無言のまま生暖かい目で見守られるあたり、彼はもうダメかもしれませんね。
西条の得難いキャラクターに一票。 (斑駒)
- わー、斑駒さんだー。こんにちわ。あっりっがとーゴザイマス。
ちなみにタイトルの『悪意』はもちろん西条の悪意です。
でも書いちゃうとバレちゃって面白くないっすよね。だから省きました。 (ヨコシマン)
- シロなら何かの拍子に西条のことを横島クンに喋っちゃいそうですよね。
西条が地獄を見る日も近い? (U. Woodfield)
- シロが策略的で笑えて・・・腹イタイ・・・(爆笑)
その策略を授けたのが西条・・・納得ですw (ユタ)
- ヨコシマンさん、こんにちは。(^^)
いや、面白いです!
西条がこんなに高笑いしているSSは、GTYでは非常に珍しいのではないでしょうか。
私の方は連載ばかりでなかなか短編を書く余裕がありませんが、頑張ってください。 (湖畔のスナフキン)
- 日本は平和です。そう、みんなが笑っていられたら幸せだね☆ そんなことを思ったりするお話でした。つまるところ、素敵だと(ゑ?)
普段は幸薄そうな男前が爆笑している事に若干言い知れぬ怒りを覚えつつ(笑)、面白かったです!
とかく・・・『好きなだけ』『ご主人様』『マイヨ・ジョンヌ』『あんなことこんなこと』『恥ずかしかった』『喜ぶかと思って我慢』『けだもの』『明王』『やっぱりマイヨ・ジョンヌ』。アレ。もう、何というか素敵だと思います。
―――何か、何故だか、読んだ後に西条がとっても悲しい人に思えてきました。そう、悪意。それは単純なものなんでしょうけども、嫉妬、と言う名の悪意ほど悲しいものはないな、とか。思ったり。無傷だけど合掌。 (veld)
- こんにちわ。KAZ23です。
意味も分からずレベルEの超兵器をぶっ放すシロ。
面白かったです。
冷静に事の成り行きを見定めつつ、結局なんだったのか分かってないタマモ。
素敵です。
いつも通りの横島くん。
ま、こんなもんでしょ?w(マテ)
西条がキ印ですなぁ〜♪
いやはや、こんな西条は大好きです。何気にオチてくれる西条も好きですけどね。w (KAZ23)
- おわ!一晩寝たらさらに増えてる!信じられんな・・・。皆さんホントに有難う!
U. Woodfieldさん、何かの拍子もなにも、シロは退院後には話しちゃってますよ。きっと。ご機嫌取る為に。
ユタさん、笑っていただけて何よりです。
湖畔のスナフキンさん、GTYでは珍しいですか・・・。でも原作の西条ってこんな男だったですよね?出前100人前とか・・・。
veldさん、『マイヨ・ジョンヌ』お気に召しましたか。わからない方のために一応説明しておくと、自転車レース最高峰『ツール・ド・フランス』の総合優勝者に送られる、栄光のジャケットの事です。色は黄色。
KAZ23さん、いつもどーもです。ああ・・・、そうなんです。実は今回、自分的にはタマモがかなり良く出来てると思ってます。彼女は常に傍観者ですよね。
(ヨコシマン)
- 西条は横島の悪意(笑)に対しカウンターを返しますが、能動的に罠を仕掛ける事は滅多にありません。
歩く先に元からあった落とし穴の存在を教えてやる程、親切でもありませんけどね。(^^;
まあ、不当な扱いを受ける西条を哀れと思いつつも、これはこれで面白いので全然OKだったりします(笑)。
投稿お疲れ様でした。 (dry)
- dryさん、有難うございます。おかげさまで2桁いきましたよー!
なるほど・・・そう言われると確かに、出前100人前のときも先にやったのは横島でしたよね。まぁ、たまにはこんなのもアリって事で。
ちなみにシロに台詞を教えてるときの西条の顔は、小鳩登場のときに横島に罠を仕掛けた時の顔だと思って下さい。
『しまった!この構図は、罠だ!』ってやつ(笑)。 (ヨコシマン)
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