悲劇に血塗られし魔王 14-A
投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 2)
ズルベニアスは確かに強い。
現に俺はやられそうになったし、油断させての不意の一撃も止められた。
それに彼は・・・・・・まだ切れていない。
ズルベニアスが切れればどうなるか。
それは分からない。
なにしろ「情報」にある「コレイル」の飛躍的パワーアップとはどれくらいを指すのか分からないのだ。
・・・・・
・・・・・
・・・・・少し不安だ。
でも、それでも・・・・・
俺が本気を出したなら・・・・・
・・・・・・必ず、俺が勝つ。
「さあ、第二ラウンドだ!!」
槍を構え、ズルベニアスを見定める。
ズルベニアスもまた、下ろしていた戦斧を構える。
「実力を隠していた・・・・という事か」
「・・・・・・」
「よかろう」
そう呟くと同時に俺に向かって疾駆する。
そして振り下ろされる戦斧を柄で受け、弾く。
ズルベニアスは弾かれるままに、素早く回転し遠心力の入った横薙ぎを見舞う。
それを跳躍してかわし、そのまま顔に向けて一突きを放つ。
しかしその突きは空を切る。
俺は着地と同時に下払いをする。
・・・・当たらない。
「魔王よ。本気で来い」
・・・・・・・・やっぱりか。
・・・・・・ったく、適当にやられてくれたら良かったのに。
・・・・できれば、やりたくなかったのにな〜。
・・仕方ないのかな・・
槍を地面に突き立てる。
「我は・・・・・」
魔力が槍全体を覆う。
「我は悲劇を求めし者。」
槍が震える。
「かのものに絶望を与えんが為、更なる悲劇を紡がん。」
俺の意識が霞んでいく。
「憎しみよ、我を讃えよ。悲しみよ、我に呼応せよ。」
霞む意識の中、誰かの声が俺に響いてくる。
俺は、その言葉をそのまま口に出す。
「我こそ、悲劇を統治せし者。」
「我こそ、『悲劇に血塗られし魔王』」
そして、俺の意識は闇の中に沈んでいった。
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その頃、村に小竜姫が到着していた。
「良かった〜、ここは変わってなかったみたいですね。」
村に入り適当に見て回っているとおかしなことに気がついた。
人がいないのだ。
この村は結構広い。
その広い土地の中に家々がズラーッと並んでたっていて、その家その家の前には敷物が敷いてあり野菜やら果物等が所狭しと陳列している。
だが、肝心の人がいない。
どう考えてもおかしかった。
何かあったのだろうか。
小竜姫は本格的に探し歩く事にした。
そして数分がたち、ある一際でかい家の前に大勢の人がたむろって中を覗こうとしているのを見つけた。
村の人間が全員集まってきたのだろう。
かなりの数で溢れに溢れかえっている。
小竜姫はその中で一番外れにいるお婆さんに聞く事にした。
「旅のものですが、何かあったのですか?」
お婆さんは訝しげな顔をするが、それでも小竜姫の丁寧な物腰に弱冠の警戒心を解く。
「ええ、何でも魔王が突然頭領の館を襲撃したとかで・・・・」
(魔王!!)
小竜姫は魔界で初めて足を踏み入れた村でいきなり魔王という超大物に出会ってしまったことに驚きを隠せない。
(これは偶然?・・・・にしては、できすぎですよね)
「どの魔王ですか?」
とにかく魔王の素性を知らなくては話にならない。
小竜姫の頭に全ての魔王のデータが駆け巡る。
「それがどうやら、新しく誕生した魔王だとか・・・・・・」
それを聞いて小竜姫はしばし考えてから「ああっ」と思い当たった。
(そういえば、一年ほど前に魔王誕生の話をちらっと聞きましたね)
それからというもの、全く話題にはのぼらなかったのですっかりと忘れていた。
「では、その魔王は部下なり領地なりを欲しいと話し合いをしに?」
新しく誕生した魔王は何も無い状態からスタートする。
その事は天界でも良く知られていた。
だからきっとこれは、魔王の収集活動だろう。
そう、小竜姫は結論づけた。
しかし、
「いえ、それならばこんな騒ぎになりませんよ」
お婆さんは否定する。
小竜姫はてっきりそうだと思ったので少々戸惑う。
「では?」
「それが・・・・・・・・この村を滅ぼすと言うのです」
「・・・・!!それは本当ですか!?」
「ええっ、ですからこうして皆集まっているのです」
(魔王がこの村を滅ぼす?それが本当なら、はやくこの村を出なくては・・・・)
そう思い至ると同時に疑問も湧き上がる。
「なぜ、皆さんは逃げないのですか?」
(相手は魔王ですよ)
「私たちは頭領の強さを知っていますからね・・・・・」
「強いといっても、相手は・・・・」
お婆さんは何も知らないのですね、と少々訝しげな目で小竜姫を見る。
「私たちの頭領、ズルベニアス様は過去幾度と無い魔王たちの催促をその力を持って蹴散らしてきたの
です。私たちの中にはズルベニアス様は魔王を超えたと言っている人さえ居るほどで・・・・」
(・・・・そんな馬鹿な!!)
魔王はその名のとおり、魔の頂点に君臨する王。
上級魔族とは一味も二味も違うのだ。
それが、たかが一部族の頭領ごときに負けた?
魔王を超えた?
・・・・有り得ない。
なにか理由があるはずだ。
小竜姫は確信に近い予感を感じる。
(今回の魔王襲撃、少しきな臭いですね)
その時である。
前方がなにやらざわめき始めた。
その中には悲鳴も混じっていたのを小竜姫は聞き逃さなかった。
お婆さんに礼を言うと、家を囲む塀によじ登って様子を伺う。
すぐに理由が分かった。
玄関のドアが全開し、そこから二人の男がただならぬ様子で現れたのである。
一人はかなりでかい身体を持ち筋肉が盛り上がっていて、その太くて逞しい腕は大の男を軽くへし折ることが可能なことが容易に察する事
ができそうだ。
(きっと、この人がズルベニアスという頭領なんだろうな)
本来は「勇猛果敢な部族の頭」をそのままに表現したような男なのだろう。
しかし今は相対する敵に対して恐怖の顔が全面に表していた。
(・・・・・)
(・・・・あれが、新しく誕生した魔王・・・・なんでしょうね)
長槍を持つ仮面の優男。
一見、脆弱な印象を人に思わせるが内に潜む魔力がそれをあっさり裏切る。
それに、
(なんて無邪気な目をしてるの・・・・)
仮面から覗く彼の目は笑っていた。
がむしゃらに、真剣にケラケラと笑っていた。
その様はまるで子供。
なにか面白いおもちゃを見つけてはしゃぐ子供のそれであった。
それだけを見ていたなら、小竜姫は今も暴れているかもしれない自分に懐いてくれた竜王の嫡男を思い出したかもしれない。
でも状況が状況だった。
知らず知らずのうちにいつのまにか小竜姫は神剣に手を掛けていた。
彼はこの世に存在してはいけない!!
長年培ってきた勘が全力で訴えてくる。
汗が流れる。
敵対しているズルベニアスがどれだけ強かろうとまず勝てはしないだろう。
(不意をついて切ることができるか?)
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今までの
コメント:
- ワルキューレ編に続きます。
あれからのワルキューレは一体どうしたか・・・・・・お楽しみくだされば本望です。 (DIVINITY)
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