ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(10)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/23)

  遠い世界の近い未来(10)

 ロボットが構えていた銃を下ろす。
 ”むこう”から届くはずのものがこないのだ。
 確かに、一瞬、薄い影のように見えたものの、すぐに姿が消えてしまった。

「どうやら実体化前に再度テレポートしたようじゃ。実体化前にテレポートをやらかすとは、さすがに”むこう”でも最強クラスのエスパーは違うな。」
 このフロアの研究主任は、小指で鼻をほじくりながらつぶやく。

「なぜ、またテレポートできるんだ。まわりの準備は飾りか!?」
 立ち会にきた研究所の所長−カール・D・カトーは、男の不作法な態度もあり、いらだしげに配置された機器をにらむ。

機器は、霊能力封鎖結界発生装置。簡易タイプだが、かなりの霊力でも無効できるだけの数を用意したはずだ。
 これで、エスパーを無力化し、捕らえる手はずがいっさい無駄になった。

「機器に欠陥があるのか、”むこう”の超能力と”こちら”の霊力が異なるのか。あの連中を連れてきて生体解剖でもさせてもらえれば、理由がわかるかもしれんがの。」
主任は、唯一の助手が差し出した昆布茶をゆっくりとすする。

「とにかく実験は成功したんじゃから、文句はあるまい。」
 ”むこう”と”こちら”の間で情報だけでなく物体の転移ができることが確認されたのだ。実験の目的は達成されている。

「ただ、同じことは、しばらくはできんぞ。今回だけでも奴らの注意を引くのは十分じゃからな。」
 そもそも、彼はこの実験には反対であり、”むこう”から強要に近い要請がなければ決して行わなかったものだ。

「では、逃げ出した連中はどうする。連中から足がつくかもしれん。」 
 ここでのことが知られれば、自分の命を含めすべてが失われることを、カトーも理解している。

「このフロア外はあんたの責任であって、わしの責任ではないわ。」
 あっさりと言い放つ。彼は、そのすぐれた能力にも関わらず自分の研究以外の事にはいっさい係わろうとしない。

カトーは、ここでの研究が完成した後は、この男こそ生体解剖の材料にしてやると考えることで、気を取り直す。

「どこに消えたのかはわからんのか?」

「空間の歪みの痕跡はある程度トレースできる。おおよその位置ならすぐに割り出せるわい。」
研究主任は、お茶を下げる助手に必要なデーターを用意するように命じる。

 カトーは、この研究所が本来取り組んでいる研究の主任を呼び出す。彼女は、同時に施設全体の副所長の地位にある。

 時間的言えば、勤務している時間ではなく、呼び出しをかけたのも私室に対してである。

 ただ、カトーに取り、部下の生殺与奪権は手の中にあり、部下の事情を考慮する必要は認めていない。

「何でしょうか? 所長。」
 険しい表情をなくせば美人といっていい中年の女性がモニターに出る。
 呼び出しコードから、自分が誰に呼び出されたわかっているため口調だは丁寧だ。

「今から座標のデーターを送る。その場所を捜索させろ。」

「わかりました。」
 モニターに転送された座標を確認する。

「ちょうど、調整中の使い魔がパトロールを兼ねてその辺りにいます。それを使って探させます。」

「そこには逃亡した研究素材がいる。確保するための人員を派遣しろ。1個分隊をA級心霊戦闘装備でだ。」

「研究素材‥‥ A級心霊戦闘装備で‥‥ 素材は、妖怪? 人間? 」

「相手は、こちらのS級の霊力に相当する『力』を持っている複数の人間だ。報告は中央制御室で受けるから、時間があれば、君もそちらに行ってもらいたい。」

 内容は、要請だが、ここの職員にとっては命令以上の響きを持つ。

「そちらは? どこからの連絡です。」
「君には、関係ない。」
そう言うと、モニターが消える。

 女性は、暗くなったモニターから目を離し、必要な指令を中央制御室に送る。
 その後、大急ぎで身だしなみを整える。
 些細なことを気にしないと明言する上司であっても、上司より先に行くのは処世術の基本だろう。

 用意をしながら、明かされなかった場所について考えるが、すぐに答えは出る。この施設の最下層に設けられたフロアだ。そこで行われている研究については、副責任者の彼女も知らされてはいない。
 ただ、莫大な予算がそこに吸い込まれていることを、彼女に割り当てられる予算が減額されることで知っているだけだ。


 彼女が、中央制御室に着いたすぐ後にカトーが入ってくる。
一気に、部屋の空気が厳しくなる。

ここに配置されている人員は、厳しい能力・適性検査をパスいたエリートたちだ。それだけにカトーの持つは虫類的な冷たさと肉食獣の獰猛さを兼ね備えたカリスマに圧倒されてしまう。
 気の弱い職員などは、正対するだけでめまいを覚えるという。

 彼女も彼より早くつけたことに安堵のため息を漏らす。
 地位としては、彼女は、ナンバー2だが、雇われ幹部の彼女と本社のさらに上から派遣されている彼とでは実際の立場は天と地ほども違う。

 後ろには、施設の警備責任者も来ている。
 三十代の中性的な優男。ナンバー3だが、カトーのために数え切れないほど墓穴を掘った言われる人物だ。
 カトーの直属として研究活動以外のすべての分野で彼女の権限を上回っている。

「休んでいるところすまなかったな。」
そう思ってないことは、すぐにわかる口調だが、気にしていては、彼の下は勤まらない。

「場所は、ここから 3 q東。霊体の吹き溜まりになっている廃屋です。」
 すぐに、示されたデーターと付近の地図とを照会した結果を説明する。

「映像が入ります。」
 オペレーターが、メインモニターに映像を送る。
 コウモリに変化した下級霊に装備した高感度カメラからの映像である。
 デジタル処理により、暗闇からの映像とは思えない。

 映し出されたのは、大人三人、子ども三人の一行が光に包まれ消える瞬間だ。

副責任者にとって、大人のうち二人は、見た顔である。
 十一年前の体験を思い出し副責任者−須狩の顔がにがにがしげに歪んだ。

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