ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(11.4)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/ 2)

遠い世界の近い未来(11.4)

ようやく、本題である、元の世界に戻る話にはいる。

「その装置の力で普通じゃないテレポートが生じたことになるな。転移自体は、葵ちゃんのテレポートだと思う‥‥ 」
 それまでの話を横島が総括しようとするが、美神から、‘人のセリフを取るんじゃない’という一にらみで、そこまでで沈黙する。

「要は、その装置に相当するものがこちらにあるかどうかね。」

「その辺は、どうなんでしょう。」おキヌが代表するように言う。

「少し、気になることがあってね。」
美神は考えながら、言葉を続ける。
「あんたたちの世界で超能力の研究が始まって十年ほどなんでしょ。」

 水元が首肯する。それ以前の「超能力」は、トンデモ学者の趣味か怪しげな連中の金儲けの種でしかなかった。

「そんな世界で、異世界からの転移を可能にする装置がつくられた。少し(装置の出現が)いきなり過ぎる話ね。異世界同士を結びつけるとなれば、元始風水盤級のアイテムがいってくるけど、そんなだいそれたものが、一から始めて十年で作れるとは考えられないわ。」

横島が、元始風水盤について説明する。

「この世界には、すごいもんがあるんですね。僕たちの世界ではとてもじゃないが考えられません。」

「それで、あくまでも可能性の一つとしてだけど、その装置の本体か設計図みたいなものの出所が、こっちの世界ということも考えられるんじゃないかしら。」
言ってはみたものの美神にも確信がある話ではない。ただ、そうであれば、意外に早く戻れる方法が見つかるかもしれない。

「その点は後で考えるとして、取りあえずは文殊を試してみましょうか。」

「元・世・界・帰・還で五個かな、多けりゃいいってわけじゃなし。ヤドロク、出しなさい。」

横島が、バツの悪そうな顔で首を横に振る。
「こっちに転移するのやらで、昨日、六、あれ、七だったけ? とにかく全部、使っちまったんだ。」

「六、七個って、あんた! 中級魔族と一戦できる数じゃない。」
あきれたようすの美神。
「どっちみち、自慢したくて大盤振る舞い、したんでしょ。(そ)んなんだから、あなたに仕事をまかすと‥‥ あれ、昨日の仕事に用意したのは四個じゃなかった?」
視線が冷たくなる。
「ふ〜ん、三つも昨日一日で創ったってわけ。最近、一日一個もあやしかったんじゃない。」

「だってぇー、最近、お前が体調を崩しているから‥‥」

「私の責任とでもゆぅーーの!!」
今朝から何度目かの美神の一撃が炸裂し、黙る横島。

「氷室さん、文殊を出すのに美神さんの協力がいるんですか?」
「ええ、まぁ、その‥‥ そういうことなんですが‥‥」
 赤くなり口をにごすおキヌ。
 自分の質問のどこで赤くなったかわからない水元。

「そう言えば、資料を持ってきた観光事務所の娘(こ)、かわいかったわねぇ〜、ま〜さ〜かぁ〜、浮気‥‥ 」
 さきほど葵たちに見せた以上の殺気が立ち昇る。

「水元くんたちがこっちに来た時、敵かもしれないって思ったら‥‥ あの子たちの霊力はS級だろ‥‥こっちは、俺一人だし‥‥ おキヌちゃんが危ない目に、と思ったら‥‥ けっこうテンションがあがって。」
しどろもどろながらも、何とか説明する横島。

「じゃぁ、ヘソクリを出しなさい。五〜六個はどこかにあるんでしょ。」

しぶしぶと言った表情で、本棚から鍵付きの分厚い本を取り出す。鍵を開けると、本の内部がくり抜かれ、そこに文殊が入れられている。

ちょうど、五個あり、水元に渡す。

「横島さんじゃなくても使えるんですか。」
もらった水元がとまどうように尋ねる。

「持っている人が、念を込めても使えるわよ、力はかなり目減りするけど。ヤドロクにとっての”元世界”はここだから、あんたたちが入れないと効果はないと思うわ。」

念の入れ方の説明を受け、主役であるテレポーターの葵がすべてに文字を入れる。

「さすがに、鮮明な文字が入るわね。」
 『力』が、S級GS並というのは嘘ではないと、美神も思う。

「失敗するとどうなるんでしょう。」
おキヌが美神に尋ねる。

「他の時空に跳んじゃうとか、時空の狭間をさまようことになるとか。」
美神が、さっらと恐ろしいことを言う。

「それってすごくまずいんじゃないですか。」
おキヌの顔から血の気が引く。

「冗談よ、冗談!」
 心配そうなおキヌに明るい声で保障する。
「失敗するとしたら、文殊の霊力自体が”こちら”のものという点だから。最悪でもこっちの世界に戻ってこれるわよ。ただし、前例がある話じゃないから、やめるのも賢明な判断よ。」
 美神は、水元の力量を計るようなようすで見つめる。

「やります。これ以上、子どもたち家族に心配させるわけにはいけませんから。そこにチャンスがあるのなら挑戦してみます。」
水元は、自分に言い聞かすように言い、子どもたちも反対はしない。

「危なくなったらすぐにもどってきてね。後は何とかするから。」
おキヌは、なおも不安そうである。

「心配するなって。どこに行ったって、あたしらがいる限り、必ず、帰ってやるさ。」
薫が、‘まかせとけ!’と胸を叩く。

「葵ちゃん、テレポートのタイミングはこちらで指示するから、有りったけの力でやんなさい。」

「わかっとる、超度 7 が伊達やないこと見せたるわ。」

「おキヌちゃん、自分たちの世界に帰ったら桐壺のおじさんや家の人にちゃんと断って、また、遊びに来るからね〜。」
「そういや、これで帰れるんやったら、あの野郎から装置ふんだくったら、こっちに遊びに来られるな。」

「その時は、ごちそう用意して待ってますから。それから、預かった洗濯物もちゃんとしておきますからね。」
おキヌも心配するより、気持ちよく送り出す方に心を切り替える。

「ヤドロク、『力』の解放のタイミング、間違えんじゃないわよ。」

「大丈夫、最近はこの倍の数だって、十分いける。」
横島が、目を閉じ心を落ち着かせると静かな緊張感が走る。

「!」 横島から『力』放たれ、五個の文殊が、少しずつ時間をずらし輝き始める。

「今よ!」 光が最高潮にたっしようとした時、美神の鋭い声が飛ぶ。

全員の姿が、かき消える。 1秒  2秒  文殊の光が収まる。
3秒‥‥ 水元たちの姿が現れ、すぐ、消える。
 そして、短い間隔でそれが繰り返される。

「横島さん!!」 おキヌがパニックの声を上げる。
「おう!!」 瞬時に文殊が生成される、が、文字がとっさに浮かばない。

「あわてんじゃない。」美神が一喝。
 明滅の間隔が長くなっていることを認め、余計な手出しを押さえる。

点滅が5秒ほど続いた後、姿はもう消えない。同時に、全員がしりもちをつく。
「文殊といっしょのテレポートは、ウチは、二度とぉー ぜぇーーたい、せえへんからな!!」
「賛成!」「同じぃ〜」
 水元も無言で手を挙げて賛意をあらわす。

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