不思議の国の横島 ―17前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/11/ 1)
「…………ここか…」
GS試験の会場は、都内の大学が持ち回りで場所の提供をしていた。
今年の試験会場は東都大学。
敷地内の大講堂を借り切って、GS試験は行われる。
あとは、負傷した受験者を介抱するために保健管理センター、昼食が取れる食堂とかが今回使用される施設だ。
そしてここは、保健センターにある空き部屋の前。
冒頭で呟いたのは、真っ赤な長髪にサングラス、袈裟を身にまとい、深編み笠を脇に抱えた男。
―― キョロキョロ ――
男の名前は「島 陽光(しま ようこう)」という。
陽光は、空き部屋の前で左右を振り向きながら周囲を確認した。
―― ガチャ ――
そして人の姿がいないことを確認するとおもむろに扉に手をかけて開く。
そして…
―― バタン ――
そそくさと部屋の中に消えていった。
………………
「横島さん遅いな〜〜〜」
大講堂の入り口付近は、GS試験を受ける受験生で溢れかえっていた。
結構大きな芝生もあり、受験生達は皆思い思いの場所でコンセントレーションを高めていたり、試験に備えての最終チェックをしたり、知り合い同士で話をしていたり…
そんな中、壁にもたれかかってうつむいている少女が1人。
時々顔を上げてキョロキョロと周りを見回してみたり、所在なさげに足をプラプラさせてみりしている。
まあ、一目で人待ちなのだと分かる様子だった。
―― キョロキョロ ――
「横島さん遅いな〜〜〜」
何度も同じ台詞を呟くのは、あまりGS試験には相応しく無さそうなヒラヒラした薄紫のワンピースを着た愛らしい少女である。
ここが駅前だったなら、既に両手の指で余るほど男に声を掛けられている所だろう。
さすがにGS試験の会場で、女をナンパしようって輩はそうは居ないらしい。
―― キョロキョロ ――
「うぅ……横島さ〜ん〜〜」
少女の名前は六道冥子。そして冥子の待ち人は横島だった。
今回のGS試験……メドーサの陰謀が働いていると言う事は、この間の話に参加していた者以外では、GS協会のお偉方にしか伝わっていない。
そんな理由で、冥子も横島が変装してGS試験を受けるなどという話は知らなかった。
「……早く来てくれないと〜〜〜」
今朝、本当は横島と一緒に会場に来るはずだったが、冥子は実際には一人で来ている。
冥子は横島にこう言われていた。
―― 協会から試験会場のスタッフ頼まれちゃってさ〜 ――
だから、横島は冥子よりも早く六道家を出て会場入りしていた。
ちなみに何故この言い訳なのか?
これからの2日間、横島は頻繁に抜け出して捜査したり、もしくは変装して試験受けたりするので、流石に抜け出す理由が必要だろうと考えての事である。
会場スタッフという一見明確ながら、その実じゃあ何やってるの?という役職を割り振っておくことで、横島は割りと気楽に皆の前から姿を消す事が出来るだろう。
―― ま、ちゃんと試合とかは見て応援してるから ――
一緒に来ないと聞いた時、冥子は一気に泣きそうな顔になった。
横島は1回プッツンを喰らいつつも、どーにかこーにかなだめすかして冥子を納得させている。
「私〜私〜〜〜…」
でもって、仕事が暇なときは冥子と一緒にいると約束してて、今はまさにその約束した時間帯。
だが、横島は待ち合わせに少々遅れていた。
時間にして2分くらいの遅れ……冥子はだんだんと不安になっていく。
冥子の事を知るものならばここで取る行動は2つに1つ。
何としてもなだめるか…………何を置いても逃げるか。
だが、哀しい事にこの場には冥子を知るものはいなかった。
「ようよう、お嬢ちゃん。待ち人来たらずって風じゃん?良かったら俺っちと茶〜でも飲みにいかねー?」
「ひっ?!あ、ひゃっ…ぁぁ………」
そして間の悪い馬鹿が1名が登場。格好からして、GS試験とは無関係のと東都大生だと思われる。
勿論、今は彼が何者か?など微塵も関係があるはずも無く…
この後の出来事は推して知るべし。
合掌………
―― チ〜ン ――
………………
―― ドゴーン、ドガーン ――
「何?……なんだか随分と表の方が騒がしいじゃない?」
自販機コーナーで長椅子に腰を下ろし、カップのコーヒーを飲んでいた女性が、ふと聞こえてきた爆音に顔を上げる。
その女性は健康的な小麦色に焼けた肌を、切れ長の瞳が印象的な美人だ。ゆるいウェーブが掛かった長髪も良い色気をかもし出す。
一見してそれなりに上の年齢にも見えなくは無いが、少し見る眼が有る人ならば彼女がまだ若い少女だと言う事が分かるだろう。
その表情や所作が、見た目よりもずっと若いからだ。
「なんだか何かを破壊してるような音に聞こえるけど……」
彼女の名前は小笠原エミという。
横島に宣言したとおり、エミはGS試験を受けにやってきたようだ。先程受付を済ませて、今はやや高ぶる気持ちを抑えるために休憩所で瞑想のようなものをしている所……
「ふぅ……いけない。他の事なんか考えてないで、しっかりと集中するワケ。」
いくら大人びていても、彼女はまだ15歳の少女。会場を埋め尽くす1000人以上の霊能者を目の当たりにし、今更ながら緊張してきた。
「落ち着きなさい……大丈夫よ、アタシは強い。資格は持ってなくたって、ずっと裏の家業をしてきたじゃない。他の奴らなんか所詮アマチュア…精々セミプロ。心配無い、アタシは受かる……」
先程から何度も自分に言い聞かせるが、なかなか気持ちのコントロールというものは難しい。
「私は受かる……そうよ、受からなきゃ………受かったら、GS免許取ったら……」
―― もわもわもわ〜ん ――
『おめでとう、エミ。これからは2人で一緒にやっていこう!』
『横島さん……エミ、合格のご褒美が欲しいな…』
『ははは、何でも言ってごらん?』
『合格のお祝いに…キス………し・て♪』
『オイオイ良いのかい?キスだけじゃあ止まらないぜ?』
『あん……横島さんのエッチ☆』
『エミ………』
『横島さん………』
………………
「………うふ♪うふふふ…じゅるるる……おっと?いけない、よだれよだれ……」
―― ゴシゴシ ――
無意識に垂れて来たよだれを服の袖でふき取るエミは、何故だかすっかり緊張が解けていた。
意外に緊張なんてどうにでもなるもんですな。
ただこの時の彼女の表情の崩れっぷりは相当なもので、近くで同じように飲み物を飲んでいた人達が……
―― ズササッ! ――
一斉にエミの近くから退き去っていたりする。
ま、恐らくは2度と会うことも無い他人だからどう思われても良いのかな?
それとこれとは話が違うと思いつつ、本人が気にしてないのならそれで良いのだろう。多分。
―― ダダダダダダダダダダダダダダダダ ――
「ん?」
と、エミが良い具合(?)に緊張をほぐせた時、廊下を失踪する一陣の影が現れる。
「……早く止めないとヤバイーーーィィィッ!!うおおおぉぉぉっっ!!!」
ジージャンとジーパンというラフなスタイルの男がなにやら叫びながら外に向けて走っていく所だった。
「あ、横島さん!」
「このままだと失格になっちまうーーーーーぅうっ!!?」
エミはその男を見つけて嬉しそうな顔をする。男は横島だった。
横島は、なっちまう〜まう〜まう〜…とドップラー効果を残しつつも一気に駆け抜けていく。
エミの呼びかけには気が付かない。
「ちょっと!待ってよ!?」
自然、無視された格好になったエミは、長椅子から腰を上げると横島の後を追いかける。
―― ドゴーン、ドガーン、ドガガガーン ――
遠くから聞こえる破壊音は、ますますその激しさを増していた。
………………
「あれ、横島さん?横島さんじゃないですか!」
「ん?」
何か用事があったのだろうか?
何故か保健センターの建物から出てきた横島。丁度そこを通りかかった男が、横島に気付き声を掛ける。
―― タタタタタ ――
「お久しぶりです、ピートです!」
「ってオイ?!何もそんな勢い込んで駆け寄って来なくても良いだろうに?!」
なんだか、抱き付かれそうな程の勢いを感じて、横島は若干引きつつ身構えてそう言う。
「え?ああ、す、済みません。実は不安だったもので……」
横島に駆け寄ってきたのは、金髪碧眼の美青年ピエトロ=ド=ブラドーだ。
「こんにちは、横島さん。」
そして、少し遅れて挨拶するのはアン=ヘルシング。
「お?ヘルシングさんも……何?2人とも今日はやっぱりGS試験受けに来たの?」
―― あれ? ――
横島は尋ねつつ、もう1人の面子が足りない事に気が付く。
だが、別行動してるのかな?と思った程度で、その疑問はあっさりと流した。
「ええ、そうです。」
横島の質問をアンが肯定する。
GS候補生がGS試験の日に試験会場にいるのだから、ほぼ間違いなく受験しに来たのに間違いない。
例外で、知り合いの応援しにきたとかはあるかもしれないけど。
「ふ〜ん……2人なら変な事起きなけりゃ大丈夫だろ?」
「私もそう思っているんですけどね…」
この間の一件で、横島は2人の実力を大体把握している。
その時に、ピートは勿論だが、アンもそれなりにやれると言う事が分かった。
昔はメカばっかりに眼がいってたけど、流石にあのバンパイアハンター、ヴァン=ヘルシング教授の孫だけはある。
基本的な霊力はその辺のGSと比べてもなんら遜色が無い。
「しかし、14歳でGS試験たぁ……早ぇなあ…」
横島は、アンをジーっと観察してから苦笑する。
横島がGS免許を取得したのは17歳だが、これでも例年ならば最年少のレベルだ。
「僕と先生もそう言ったんですけどね。アンがどうしても受けるって言ってきかなくて。」
「だって、ピートおにいさまと一緒に受けたかったんですもの♪」
ピートの腕に抱きついて、にこやかに微笑むアン。逆にピートは苦笑いをしつつ何気に腕を外そうとしていたが、がっちりと組まれているので外せそうも無い。
<後半に続く>
今までの
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- 後半に続きます。
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