遠い世界の近い未来(12.1)
投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/ 8)
遠い世界の近い未来(12.1)
テレポートの失敗を受け、子どもたちは(早朝からおキヌが準備した)屋根裏部屋に移り休養。美神ら四人は所長室で別な方策を検討することにする。
「さて、次の手なんだけど、異世界にかかわるアイテムや魔法、コンタクト情報を洗ってみるという線かしら。」
美神は、直接的な解決策が見つからない自分に腹を立てながらも言葉を続ける。
「今は、雲を掴むような話だけど、とりあえずは手当たり次第でやるしかないわね。」
水元の方に視線を移し、
「水元くん、コンピュータの方はいける。」
「”こちら”のコンピュータについては何とも言えませんが、”むこう”では一通り使えましたから大丈夫と思います。」
”バベル”自体は、かなり規模の組織なのだが、局長直属の特務エスパーチームの大人は、彼一人しかいない。日常の報告書に予算の申請、さらに、事件の始末書など書類事務の一切を処理してきたため、コンピュータについては人並み以上に扱う自信はある。
「おキヌちゃん、手伝ってあげて。GS協会のデーターベースから始めて、次にオカG、その後は、何でもいいから。」
おキヌが、水元をコンピュータの端末に招く。幸い、操作はほとんど同じらしく、すぐに、水元が打ち出すテンポの良いキーやクリックの音がしはじめる。
「私は、ここいらの魔導書を当たるとして‥‥ 」
少し思案をするが、あと、何かが得られそうなところは限られている。
「借りはつくりたくないんだけど、神族にも当たりましょうか。」
横島の方を向き、
「あんたは、妙神山に行く準備をして。」
少し、横島は考えた後、真剣な表情になり美神の腕を取り、夫婦の私室方へ連れ出す。
「何よ、いきなり! 痛いじゃない!」
部屋に入ってところで腕をふりほどく。普通なら腕を取られたところでシバき倒すのだが、その真剣な表情に気圧され、ついここまで来たのだ。
横島は、美神の両肩を押さえ、言い聞かすように、
「令子、頼みたいことがあるんだ。」
「な、何によ。」
間近に見る夫の真摯な表情に、とまどい視線を逸らす。
「妙神山の往復に”転移”を使うとすると、さっき出した文殊に加えてあと三つの文殊がいるだろう。」
「そ、そうね‥‥ って、それがどうしたの!」
自分でも声のトーンが上がったことがわかる。
「けれど、最近の俺って不調だろ。そこで、令子の協力が必要なんだ。」
柔らかいテレたような口調。そして、一転、真剣な口調で
「いくらなんでもおキヌちゃんには、このことで協力は頼めない。」
「当たり前じゃない!!」
あまりの発言に、顔が火が出るほど真っ赤になる。
横っ面を張り飛ばそうと手を動かすが、力の入らないそれを夫は、やさしくそれを押さえる。
「怒るのは判る。俺も、こんなこと頼むのは心苦しいんだ。でも、おキヌちゃんも頑張ってるし、俺もできることは、何でもしたいんだ。わかるだろう。」
「む、むこうにそのおキヌちゃんが‥‥ 水元くんもいるのよ。」
視線を所長室の方に向けるが、まったく動じる様子はない。
「だから、こっちに来てもらったんだ。ここなら、少しぐらい騒いでも、外に音が漏れることはないし。」
「でも、朝からなんて‥‥ 」
‘いくら何でも非常識過ぎる。’と言葉を続けよう思うが、言葉にならない。
「あの子たちのことを思えば、少しでも早いほうがいいじゃないか。」
「いやなのか!? 俺とお前は夫婦だろ!」
決定的な一言。美神の体から力が抜ける。
「令子、お前の‥‥ お・ま・え・の」
抱きしめる横島、無意識に目を閉じる美神。
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「文珠のヘソクリを貸してくれ。」
「はっ??」
「いや、手持ちが完全にないんだ。おキヌちゃんにも何個か渡してるんだけど、お前に(ヘソクリ)あることがわかっていて、それを貰うわけにはいかないし‥‥ 」
頭に”ド”がつくケチ、もとへ、節約家の妻から気持ちよくヘソクリを出してもらうために、自分では、精いっぱい気配りと演技力を使ったつもりの横島。
「こんな頼み方をしているところを見られるのも、結構、恥ずかし‥‥ 」
ぶちっ!! 血管が切れる音を聞いたような気がする。
「ねぇ〜、あなたぁ〜 」
たぶん、地獄の最下層に吹く風があるとすれば、こんな感じかという声で語る美神。
「蛍子は、私が責任を持って育てます。それに、お父様とお母様には、あなたの保険金が入るから、老後の心配はしなくてもすみます。」
「え‥‥えぇっと、何を言ってるんだ、令子‥‥ 」
殺気という言葉すら生やさしいオーラを背負っている美神。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜 とっとと、往生しやがれーーー!!」
「何かすごい音がしているんですけど。」
水元がおそるおそる尋ねる。音は、横島が美神を連れ出した方向からだ。天井からほこりも落ちてくる。
「このくらいじゃ、この建物は壊れはしません。もし、危なくなれば、人工幽霊一号が教えてくれますから、大丈夫ですよ。」
「そう言う問題じゃないんですが。」
あくまでも平静なおキヌに自分の不安感をどう伝えて良いかわからない。
「そうですか?」他に何を心配することがあるのか、という感じのおキヌ。
水元は、自分の感性というか常識に自信を失いつつあるような気がした。
数分後、 美神が、上気させた顔で所長室に戻ってきた。
「ヤドロクの妙神山行きは、少し遅れることになったからそのつもりでね。それと、少し疲れたから、休ませてもらうわ。」
所長席に深々と腰を下ろし、
「‥‥ったく‥‥ ぶつ、ブツ 何で、天下の美神令子が‥‥ ぶつ、ブツ 期待‥‥ ぶつ、ブツ 」
おキヌは、その独り言に軽く微笑みを浮かべながら、所長室を出る。
十分ほどして戻ってくるおキヌ。
「おキヌちゃん、あんなのにヒーリングなんてもったいないことする必要はないわよ。」
美神の言葉に直接答えず、
「横島さんは、もう少し休んでから、妙神山に行くそうです。」
そう言い、水元の横に座り、手伝いを再開する。
今までの
コメント:
- いや、もう2人は大人なんだしストレートな展開に―――っていっても、ここでは落とすしかないんですよね。
そんな横島の精いっぱい気配りと演技力が、“地獄の最下層に吹く風”を吹かせることに‥‥(汗)
それだけ美神は横島に対して、なにかを裏切られたような気持ちになったのでしょうね。
最後にブツブツ言ってる美神が、なんだか微笑ましく思えました。 (ヴァージニア)
- ヴァージニアさま、こちらではやっぱり突っ走る訳にはいきませんので落とさせてもらいました。その分、微笑ましい美神さんが出せたのではないかと思っています。 (よりみち)
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