遠い世界の近い未来(12.2)
投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/ 8)
遠い世界の近い未来(12.2)
愛用の椅子に腰を下ろしているうちに軽い寝息をたて始めた美神。その耳に人工幽霊一号の声が届く。
「オーナー、玄関前に空間の歪みを検出、超空間ゲート開きます。」
超空間ゲートとなると、神族か魔族の訪問となるのだが‥‥
‘ちょうどいい’との表情を浮かべるおキヌを美神は無言で制する。
「ちょっと、タイミングが良すぎるわね。」
何かが、直感にひっかかる美神。
「お客様は、ヒャクメさまです。」訪問者が明らかになる。
「水元くん、おキヌちゃんと子どもたちの所に行って。下に降りてこないようにお願い。」
美神は、自分の直感を第一に信用することにしている。
「人工幽霊一号、各部屋に妨害障壁展開。」
おなじみスタイルで所長室に入ってくるヒャクメ。
「あら、各部屋に妨害障壁が張られているようだけど。」
さすがに全身が高性能センサーとでも言うべき能力を備えた神である。所長室まで来る間に、障壁の存在に気づいたようだ。
「一瞬で、家中をスキャンしてしまうお客さんだから仕方ないでしょう。こっちにだってプライバシーはあるわ。」
どうでもいいがという態度で、
「まぁ、特に、隠すわけじゃないんだけど、わけありの品物を出していたところなの。見られて、ママにでもチクられてもヤダからね。」
「いやねー、私が美神さんの秘密をチクるとでも思うの。」
「思うわ。それがどうしたの。」
軽く、ずっこける。が、さほど気にはしていない様子でソファーに腰を下ろす。
「旦那さんや娘さんがいるのに危ない橋を渡ちゃ駄目なのね。」
「それ、どういう意味よ。」
神族の連中が、自分をどう思っているかを知っているだけに不快である。
「小竜姫様も、横島さんが誰かさんの強欲で危ない仕事を引き受けていないかとか、妹さんや娘さんが誰かさんの性格に似てしまわないかとか、いろいろ心配してるのねー。」
「あんた、”誰か”って誰なのよ。」
猛獣のような顔つきで威嚇する。ただ、朝から上がりっぱなしのテンションと自分の体調を考え、実力行使は控える。
ヒャクメの額に冷や汗を流しながらも、
「でも、こんなこと言って、最大出力の神通鞭も45口径精霊石弾も飛んでこないって‥‥ お母様が言ってたけど、体調が悪いというのはホントなのね。」
「余計なお世話よ。」手の内を見透かされたようで不快な美神。
そこへ、ようやく復活を果たした横島が、所長室に入ってくる。
「これから‥‥ あれ、ヒャクメじゃないか‥‥ 」
おキヌと水元がおらず、美神からの無言の合図もあり、とりあえず口を閉ざす。
「で、何でここに来たの?」美神は、強引に話を引き取る。
「政府に神・魔族を代表して伝えることがあったから来たのね。関係者を召集するのに少し時間がかかるって話なので、ご挨拶に来させてもらったのね。」
「挨拶ねぇ〜」
疑りのまなざしで見る美神。ヒャクメがソファーに座る時、さりげなく置いた紙袋を見逃していなかった。
「ところで、脇に置いた紙袋は? ○×書店のもののようだけど。」
「へっ、何なのかしらねー。」
一応、神と呼ばれる存在とは思えないほどあたふたする。
紙袋を自分の後ろに隠そうとするが、持てあまし、床に落としてしまう。中からタウン誌、情報誌がすべり出る。
「ははぁん、あんた出張にかこつけて、仕事を終えた後、どこかに遊びに行くつもりなんでしょ。」
不自然に辺りをきょろきょろ見る姿で、図星を指されたことがわかる。
「でも、久しぶりなんで、ウチから案内役を調達しようというわけね。」
「大当たりぃ〜 」
少し考え、 開き直ることにしたらしい。
「あのころみたいにちょくちょくこっちにお邪魔できなくなったので退屈なのね〜 おキヌちゃんか、知り合いで最近のお奨めスポットを案内してくれそうな人を紹介してもらえたらうれしいのね。」
「せっかく来たんだから、ウチのバカ亭主を貸したげる。」
ヒャクメが驚いた顔で美神を見る。隣の横島に至っては、‘熱でうわごとを言ってるんでは?’という表情である。
‘このバカ、後で覚えときなさい!’という表情で横島を睨みつけた後、
「このバカ亭主なら、女性クアイアントとの情報交換用にいくつも良い店を知っているはずよ。そこに案内してもらうといいわ。」
‘冗談じゃなさそうだし。ということは‥‥ まず、六本木のあそこを案内して‥‥ ディナーはあそこがいいかな。最後は、あのホテルのバーで、酒を酌み交わすだろ。夜景は最高だし、そのままスィート‥‥ あそこならツケが利くし、令子は、知らないし‥‥ 」
「もし、も〜し、横島さ〜ん、声にででるのね〜 」
「病身の妻に、余計な体力を消耗させんじゃない!!」
美神のかかとが、正確に横島の足の甲の急所を踏みつける。
痛みで背中を丸めようとするところを首筋に手を入れ、そのままテーブルに顔面を打ち付けさせる。相手の動きを利用した省エネスタイルの一撃である。
テーブルに伏せたまま動かない横島。
「懐かしいわね〜 これを見ないと人界に来た気にならないのね〜 」
少し遠い目をして感動しているヒャクメ。
「で、取引よ。人界に何で来たか教えてちょうだい。」
「それは、少しまずいのねー 一応は、国家機密クラスの情報なのね。」
「そう、挨拶、ありがと! 戻って、オカG本部で冷めたお茶でもすすってなさい。」
妥協の余地ナシという感じで言い放つ。
ヒャクメは自分の責任感と楽しみを秤にかけ、半秒で結論を出す。
「仕方ないのねぇ〜、」
意味もなく辺りを見回し、声を落とす。
「コスモ・プロセッサに関する警報が発令されたのね。」
「まだ、警戒が続いていたの!」
美神は、何年かぶりに聞く話に驚きを隠せない。
最後の警報があってから5年はたっているはずだ。もっとも、この警報ついては、民間GSレベルの問題でないので詳しいことは知らないが。
アシュタロト事件の余波は様々なものがあったが、コスモ・プロセッサの残骸の扱いも重要事項の一つであった。
コスモ・プロセッサに使われた理論や技術はアシュタロトの一党が独自に生み出したものだが、全容を把握していたのはアシュタロトただ一人であった。
技術/運用面の幹部ですら、自分の担当分野についての知識に限定するように配慮し、全貌を知らせないようにしていた。
その点、アシュタロトも自ら創りあげたものの危険性を十分認識していたといえる。
彼が”無”に帰った今、その全体像を(わずかでも)示唆するものはコスモプロセッサの残骸しか存在しない。
当初、それをめぐり、神・魔・人が入り乱た争奪戦が発生した。その闘争もさることながらデタントまで進めて守ろうとするこの世界を書き換える技術は危険すぎるということで、コスモ・プロセッサに関わる全ては完全処分されることになった。
その後、双方の手で回収と廃棄が進められたものの、未だに回収されないパーツが存在し、神・魔は、パーツの所在を発見するための監視結界を地球−月圏に設けた。
「昨日、22時33分、監視結界に反応がキャッチされたの。ただ、反応が一瞬で、日本の関東南西部のどこかまでしたわからないのね。そこで、政府に捜索の協力を要請しにきたわけなのね。この辺りまでは、捜査協力でGSにも伝わるかもしれないから話したけど、これ以上は、勘弁して欲しいのねー 」
「まぁ、いいでしょ。」
この意外な展開について考える時間が欲しく、取りあえず、話を収めることにする。
「あと、これは旦那さんの借り賃というわけじゃないけど、もう一つ情報をサービスするのね。」
もったいをつけるように、さらに一呼吸置いて、
「この事務所は、監視されているのね。」
今までの
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