悲劇に血塗られし魔王 20-A
投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 7)
「何ですって!!おキヌちゃんが攫われた!?」
横島が夜に大慌てで駆け込んできて焦燥に駆られた様子で頷き、事の次第を詳細に語った。
それは夕方頃の帰り道の事だ。
横島とおキヌは雨の降る中、仲良く雑談しながら歩いていると突然、空から一人の仮面の男が現れたと言う。
魔族のようでただ一言、
「彼女を渡せ」
そう言って攻撃を仕掛けてきた。
横島は必死に応戦したのだが、その強大な力の前に空しく破れてしまい、連れ去られたとのことだった。
「追いかけたんですが、結局見失ってしまって・・・・・・・面目ないっす」
「そんな、先生は頑張ったではござらんか。そんなに気落ちしないで下され・・・・・」
横島が悔しげに唇を噛んで俯くのをシロは憐憫の情を込めてはげます。
「タマモは今の話、どう思った?」
「・・・・変ね」
美神とタマモは今の横島の話に大きな疑問を感じていた。
それぞれの疑問は違ったが・・・・・
美神の疑問は、
〜〜〜彼の特殊能力『文殊』は使わなかったのか〜〜〜
ということである。
文殊を使えば敵がどれ程強かろうと、あのアシュタロスだって出し抜けたのだから、出し抜いて逃げ切ることができたのではないか?
タマモの疑問は次の通り。
〜〜〜戦闘をした割には、横島の格好が変であること〜〜〜
彼の顔が蒼白で、しかもずぶ濡れになった様は大いに人に悲愴感を与えるが、でもそれだけで戦闘をしたというようには見えない。
あざも怪我も何も無いし、何より霊力の消耗が見られない。
本当にそんな戦闘があったのだろうか?
二人はそれぞれそう思った。
だが、その事より今はおキヌの事の方が先である。
そう判断すると、皆はすぐに捜索へと出かけた。
戦闘があったという大通りをはじめ、公園、商店街、果ては誰も寄り付かない裏路地まで、シロ・タマモの二人の鼻を十二分に使って、おキヌを探すが、なかなか見つからない。
そして探して数時間が経過し、もはや、時刻は真夜中を指していた。
「どこにもいないじゃない!!」
美神のヒステリー気味な声が響く。
シロもタマモも一生懸命匂いを嗅ごうとしているが、どうも無理らしい。
監禁されたか、もうこの町にはいないのか・・・・・・
皆の焦燥感がどんどん高まっていく。
〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜♪〜
美神の携帯のEメール着信音がそんな時に鳴り始めた。
慌てて美神がそれを開いた。
捜索を頼んでいた頼もしい仲間の一人にして大切な肉親、美智恵からであった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
ここは町の中で最も大きな総合病院。
そこのある病棟の一室の扉前に美神たちが集まっていた。
といっても、面子は美神・横島・シロ・タマモ・美智恵・唐巣神父だけで、捜索を頼んだ人たちはまだ着いていないようだが・・・・
「お願いだから何があったか説明して!!」
もう何度目になるだろうか。
ここに着くと、美智恵と唐巣神父は既に到着していた。
早速、問いただそうとしたが二人は皆が到着するまで話せないといって譲らなかった。
それからかれこれ二十分。
まだ誰も来ない。
美神はもう我慢できないといっておキヌがいるという部屋の扉を開けようとした。
しかし、美智恵はそれを許すはずも無かった。
パーン!!
小気味良い音が響く。
美神は呆然と平手打ちをした母を見る。
しかし美智恵は語らない。
唐巣神父もまた慰めの言葉を掛けはしなかった。
その時、やっと美神は気づいた。
この二人の異様な雰囲気に・・・・・
あれから更に十五分が経ち、人がポツポツと現れ始めた。
まず西条が、次に雪之丞・ピート・タイガーの三人組が現れて最後にエミである。
集まったのを確認すると、その時初めて美知恵が口を開いた。
「皆、集まったわね・・・・」
「冥子が来ていないわ」
美神が冥子の不在を告げると、その事を隣にいた唐巣神父が説明する。
「冥子君は呼んでいない。」
「?」
「彼女が暴走するのはここでは好ましくないという事だよ」
暗に彼女が暴走するような事がおキヌの身に起きている事を告げる。
それを敏感に察知した皆は表情を固くした。
「説明を始めるわ・・・」
美智恵は退職しても仕事癖が抜けないのか、口調も態度も何も変わっていなかった。
「令子から連絡を受けて捜索を開始したのは今から四時間前。私たちは情報を駆使しておキヌちゃんの居所を掴もうと考えたの」
そう言って唐巣神父を見る。
唐巣神父は黙したまま頷く。
「昔にとった杵柄で警察、病院を徹底的に洗ってみたの・・・・」
「そして、おキヌちゃんを見つけたんだな・・・・」
雪之丞の声にだが美智恵は力無く首を振るう。
皆は「えっ?」と首を捻った。
でも、現におキヌがここで入院しているのでしょう?
そういった面持ちが誰からも色濃く現れていた。
「・・・・おキヌちゃんをここに連れてきたのは我々でね。彼女は意外な所から現れてきたのだ」
「意外な所・・・・・ですか?」
どこからだろう、とピートは色々想像する。
「・・・・とある魔族の胸に抱かれていたのだ」
動揺が皆の顔に走る。
特に美神・シロ・タマモの反応は凄かった。
目を剥いて横島を見ている。
「仮面をした男性の魔族だった。彼はおキヌちゃんを抱いて我々の前に現れたのだ。」
「私たちはとっさに戦おうとしたのだけど、彼は何も言わずそのままおキヌちゃんをおいて姿を消したわ」
皆は美神からおキヌ捜索依頼時に攫われた経緯を詳しく説明されていたものの、それでもやはり驚きは隠せない。
なぜ、攫っておいて戻ってきたのか?
なぜ、美智恵達のもとに現れたのか?
疑問はこの二点に尽きたが、どれも不可思議である。
しかし、考えてた所で解りもしない疑問よりも重大な事があった。
美智恵はそれに応える様におキヌの部屋の扉を開ける。
「最後に一つ。今のおキヌちゃんの姿を見て、どんなにショックを受けるか図りかねるけど、できるだけ大声は出さないで頂戴ね」
そう忠告しつつ、胸中では。
(でも、これは無理な注文というものね)
これは予感と言うより確信であった・・・・・
今までの
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