ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(4)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/20)



ルシオラが転生センター職員J−2251Aのいる部屋に入る少し前―。

彼女達のいた部屋と同様、クリーム色の光の中に机や椅子が浮かんでいるだけの“部屋”。
でも、そこは彼女達からかなり離れた所にある部屋だった。
その部屋でファイルに目を通していたセンター職員J−0392Cは呆れたような口調で問いかける。

「前半の『霊力の復元』は分かるとして、後半のこれは何だよ?」

「・・・何か、文句でもあるのかい?」

J−0392Cの向かいに座っている少女は悪びれた風もなく、逆に彼をにらみつけた。
彼女は長くボリュームのある髪も、その下の肌も、透き通るほど色素が薄く、堀の深い顔立ちの中で爛爛と輝く目だけが色のついた光を放っている。客観的に見ればかなりの美少女なのかもしれないが、目の光に代表される彼女の全身から立ち上る気配・・「邪悪さ」「憎悪」とでも言うようなもの・・がそう評価することを、いや、そう感じることをすら拒絶していた。

「こんな所で“汝、殺す勿れ”とか言うんじゃないだろうね?商売繁盛じゃないか。」

「商売じゃねえよ、何の儲けにもならん。これ以上忙しくなりたくなんかないな・・いや、そうじゃなくてさ、あんたにゃもう、こいつを狙う理由なんかねえだろ?メドーサさんよ。」

J−0392Cの机はJ−2251Aのそれと比べてファイルや書類が整然と並べられている。彼の場合、それは几帳面さを表わすものではなく、単に「仕事をしないし、する気もない」だけであるが。
空いたスペースにはお盆が置かれ、その中に大福もちが大量に乗せられている。その一つを頬張って彼は言葉を続けた。

「ふぁんはほふぉひゅ、ふぁひゅはほひゅほふぁんふぁふぁ(あんたのボス、アシュタロスの旦那は)
ふぉうほっひふぃひへふふぃふぁ(もうこっちに来てるしな)。ふぁんはは(あんたが)・・・げふっ!!・・お茶・・
・・あんたが、その計画で駆り出されて動く事ももうないって訳だ。戦いはもう終わったんだよ。
今さら敵を見つけて殺したって何の良い事もないだろ?」

「・・ケッ!『戦いはもう終わった』だって?そんな考えだから、あんたらはチワワに負けて追い出されちまったのさ。」

「『どうする?』つったってどうもならんわ!」

意味の通るような通らないようなツッコミを返すJ−0392C。

「・・いいかい?あたしが横島のアホをブチ殺すのに敵だとか、味方だとか、もう関係ないのさ。
あの戦いもアシュ様も関係ない。
あたしは何だ?上級魔族だ。人間の文明が始まった頃から恐れられていた蛇だ。殺戮と破壊と罠のプロだ。
奴は何だ?ただの人間だ。それもアホでスケベで臆病で、何の知識も力もない役立たずの部類の人間だ。
・・・3度だ・・・あたしは奴に3度も倒されたんだよ!!そんな事があっていいと思うのかい?・・許される訳がないね。
奴はあたしに切り刻まれて血を噴き出して炎に包まれてミミズのようにのた打ち回って死ぬべきなのさ。
それ以外、あり得ない、あるべきでないんだよ・・!」

メドーサは言葉を切って再びJ−0392Cを睨む。J−0392Cは首をすくめた。

「まあ、要約すると『負けっ放しでは、プライドが許さない』と。・・・あんたには何度も説明した筈だけど、子供に化けて潜伏するのと子供に転生するのとでは訳が違うんだよ・・?あんたがさぁ、後で今そうやってこいつを殺そうと思っているのを覚えていられる可能性なんて殆どないんだ。・・・・案外、『パパ、大好きー』とか言ってたりしてな。」

0.05秒後、机が爆発した。J−0392Cが気付いた時には既にメドーサは彼の目の前に立ち、その常に浮かべている柔和な笑みの鼻先に二又槍を突き付けていた。

「・・・お前から先に殺されたいのかい?このあたしが自分の狩るべき獲物を忘れる事なんか絶対にないんだよ・・!」

「お、俺一人を殺したって・・俺を殺した事にはならんぞ・・センター内の全てのJナンバー職員で俺なんだからな・・・。あとな・・向こうでの殺人の善悪を問わないっていうのがここの考え方だってのは分かってるだろうけど、ここで他の転生者や職員を“殺し”たらあんたの転生は400年以上先に繰り越される羽目になる。その事も、知っておくべきだ・・。」

メドーサは槍を下ろした。。J−0392Cは散らばったファイルの一冊を念動力で拾い上げ、手元に引き寄せる。

「・・・っていうか、落ち着けよ。もう決定されてるんだ。何もあんたの邪魔したり、これ以上ケチ付けたりするつもりはない。
それにな、俺はこう見えても、あんたらの計画、応援してたんだぞ。」

「ふっ、やっぱり殺されるのが怖いんじゃないか。見え透いた取り入り方しやがって。」

「本当のことさ・・俺だけじゃない、センター内では結構多いんだよ。アシュタロスの宇宙改造に期待していた奴は。
まあ、その殆どはここでの部署再編や異動昇進目当てだけどな。やっぱり向こう側の事とはいえ、宇宙そのものが変わっちまうとなればこっちも色々あるだろう?
あんただって前の転生では、こっちの段取り無視してコスモプロセッサに引っ張られて飛んで行ったろ?
それ聞いたときなんかマジで『面白い事になった』と思ったし・・まあ、文字通り、『後の祭り』な話だけどな。」

「・・・それは初耳だねえ。少し面白い・・でも、死ななきゃ来れないような場所の内情なんて、あまり為になる話でもなさそうだね・・」

メドーサは再び椅子に座る。J−0392Cの眼前のファイルが数ページめくれて止まった。

「・・・とりあえず、毎度の通り、『お約束』の音読やらせてくれよな。これやらんと次進めないんだよ。」



+ + + + + +



「なんですって・・・・?」彼女は、もう一度問いかけた。
通路内は沸騰と呼べる程に激しく泡立っていた。
J−2251Aは壁に押し付けられたまま、返答する事も出来ないでいる。

「メドーサ・・?ヨコシマを殺す・・?・・・・・何でそんなのが審査に通るのよ!?」

「お・・・ヲ・・落ち・・ツいて下さ・・い・・ル・・シオラさ・・ん・・・」

「どうして、そんな理由で受理されるのよ?・・どうなってんの!?ここは?」

切れぎれの声で答えながらも、J−2251Aはルシオラに判断力が戻って来ている事をその問いかけ方から察した。

「説・・明します。・・・だから私を開放して・・下さい・・・当センター・・の審査では・・その希望への・・思いの強さ・・が・・審査の対象とな・・り・・、その内・・容は問われ・・ないもの・・と・・なっています。・・それ・・以外に霊的な・・適性が・・調べられます・・が・・メドーサさん・・の場合・・ヨコシマさんとの・・戦闘時に・・彼の霊力を媒介にして・・その場で復活・・した事があり・・彼は彼女の・・復活において・・最適な状態・・にあり・・ます。あなたと同じような・・」

「私と・・・同じ・・ですって・・?」

緩みかけた霊圧が再び力を増した。彼は、最後の一言を後悔した。
ルシオラは、かつて仲間だった事もあるその魔族の姿を思い浮かべてみた。

ルシオラとメドーサが直接対面したのは二度だけであった。
一度目はアシュタロス軍南米基地。月世界の膨大な霊力を狙って月面制圧部隊が編成され、その実戦メンバーにメドーサが、月面でアンテナとなるヒドラのカスタマイズ・地球での受信設備の開発担当としてルシオラがいた。

目の奥の残忍で狡猾な光。他のものの生命など何とも思っていないのが窺える邪悪な霊気。
味方であり同じ魔族であるにもにもかかわらず、彼女の放つ気配には時折背筋が寒くなった。
しかし、その時の自分が彼女と違っていたと、本当に言えるだろうか?
創造主であり、絶対者であるアシュ様のために生まれ、行き、戦い、死ぬ。それだけが全てであった自分と。

二度目に出会った時は敵同士だった。
東京上空での戦闘。ヨコシマに、誰よりもまずヨコシマに狙いをつけて突き出された二又槍を蹴り上げた。
相変わらず彼女は殺意の塊であり、その全てはヨコシマに向けられていた。
私は彼を愛していた。絶対に殺させないと思っていた。だから彼女の殺意など少しも怖くはなかった。
・・・やはり私は彼女と同じなんかじゃない。

彼女は自分が生き残るために彼の霊力を勝手に利用して奪い、その痕跡を残しただけ。
私は彼を生かすために、いや、共に生きるために彼の中に私自身を吹き込んだ。

「同じなんかじゃない・・・・!!成り立ちからして違うわよ!!」

センターにとって“死”がここへの移動でしかない以上、誰かを殺すつもりでいる者が認められるのも当然だと、彼らの考え方について頭では分かっていた。
だけど、ルシオラにとって“死”はセンターとの往復なんかではなかった。
「とても、悲しいこと」だった。

再び、先ほど以上に、通路内の霊圧が跳ね上がった。激しく沸騰する液体。

「ぐっ・・・・!!」

J−2251Aはくぐもった悲鳴を上げ、心の中で叫んだ。
“まずい!!このままでは・・・!!”
その不安は的中した。
ルシオラの前後5メートル程の通路の壁が、赤に、やがてオレンジ色に変色し、激しい破裂音とともに砕け散った。
衝撃で舞い上げられたJ−2251Aの視界の端に、発光体となってクリーム色の空間を飛び去っていくルシオラの姿が映っていた。



メドーサ・・
あの時も言ったわよね。

「あんたなんかに殺らせるもんですか!!」って。


(続く)

―――――――

(2)のタイトル「OXOX」が抜け落ちてました・・
ちなみに、この転生センターはコスモプロセッサで直接改竄できる範囲外であり、キーやんとサッちゃんの管轄外でもあるという設定です。どちらかと言えばブッちゃん寄りの。

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