ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 3-B


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/10/24)



ドサ・・・・

音と共に地面に倒れる美神親子。

いつのまにか美神の背後に立っていた小竜姫がワルキューレに目線で合図を送る。

ワルキューレは頷き、その二人を掲げると道路のほうで待っている救護車へと運んだ。

ワルキューレが戻ってくるのを見計らい、小竜姫がここではじめて話し始めた。

「では、行きましょうか」

「ああ・・・汚れ役は私達で十分だ」

ワルキューレは横島のいる部屋のノブに手をかける。

「彼女達、怒るでしょうね」

「・・・・・」

「私、彼女達から浴びせられる罵詈雑言に耐えられるか心配です」

ドアを開け、中へと入る二人。

中は変わらず瘴気が充満していた。

それを肌で感じ、二人の表情が歪む。

「もはや、魔族化は最終段階か・・・・」

奥へとゆっくり進みつつ、辺りを見回す二人。

「ですね。すごい瘴気。」

それだけ話すと後は無言で、歩き続ける。

奥に辿り着くとそこでは、横島が蒼い燐光に包まれながら眠っていた。

蒼い光を無視すればその寝姿は余りにも普通で、今にも起きてきて、

「お美しいお二人方ーーーー。僕と一緒に熱くも幸せな家庭を築きませんかーーーーーー!!!」

と飛び起きてきそうだった。

それを思うとこれからする自分達の行為が余りにも残酷過ぎて、圧倒的な罪悪感に思わず二人とも溜息がでた。

「・・・初めてです」

小竜姫がポツリとこぼした。

「私は、今までに何人もの神族・魔族を殺してきました。命乞いをするのも関係なく、殺してきました。でも、私に罪悪感等、生まれはしなかった。むしろ、達成感を覚えていました。だって、その方々は、全てが全て咎人だったから。その方々を殺すのが私の使命であり、存在意義でもあったから・・・・」

ワルキューレは無言で話を促しながら、自分の持つ銃の調整に入った。

その姿をやや蔑みの目で見ながら話を続ける。

「別に罪の有る無しが殺人の基準となるとは言いませんが、それでも今回のこれは変でしょう。なんで横島さんを殺さなくてはならないんです。過去に人が魔族化したことなどいくつかありますが、そのどれもがこんな大罪扱いの刑に処せられていません。というか、放置されていたではありませんか」

そこまで一気に言い終えて、小竜姫は初めて気づいた。

自分の頬が濡れているということ・・・・

自分が泣いていたことに・・・・

「言ったはずだぞ。この任に就いたときに、気持ちの整理はしっかりしてこいとな・・・・」

ワルキューレは作業を続けている。

その姿は、任務に忠実な軍仕官の姿そのものだったが、必死に作業に没頭することで何も考えないようにしようとしているようにも見えた。

「気持ちの整理なんてできるはずありません。どうやれというのです。罪のない、むしろ神族・魔族、両方にとっての恩人ですよ。特赦だって下りていいと思うんです」

「特赦は下りただろう。本来なら、こいつが魔族化すると分かった時点で殺すことになってたんだからな。アシュタロス戦役の功績を称え、魔族化し終えるその日まで待つ、これは特赦だろう」

「いいえ、いいえ・・・・」

首を振り必死に否定する小竜姫の姿は儚く見る人を悲しくさせた。

小竜姫が横島に持つ感情が深いことは容易に知れるというものである。

「とにかくだ。横島を殺すことはもう決定されたことだ。私達が殺さなくても、誰かが必ず殺しに来る。ならせめて我々の手で、とそう思って志願したことを忘れたか、小竜姫」

あくまで表情を崩さないワルキューレは、やがて作業も終わり、眠る横島に照準をつける。

「・・・・始めるぞ。小竜姫」

返事は返さなかったが、それでも神剣を構え身体に霊気を帯び始める。

・・・目にはまだ涙が流れていた。

「霊魂撃滅始動粒子砲『ヴァフオマッハーン』、発射!!」

大型の銃の割りに口径が異様に小さいその銃から一直線に横島へと黒い線が伸び、横島の胸部を貫く。

貫いた部分がバチバチと弾け始め、その部分が腐臭を放ちながら溶解していく。

それは、この世とも思えぬ醜悪な光景。

しかし二人は目をそらさない。

この光景は自分が背負う大罪なのだから・・・

やがて胸部に穴が開き、そこから丸い光り輝く何かが浮かんできた。

「はああっ、あああああああああああ!!」

小竜姫の掛声と共に、その何かに対して一閃。

そして、そこから目にも止まらぬ剣閃が襲う。

そして何かは散り散りになり、見えなくなった。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

時間にすれば、1分とたってない。

しかし、小竜姫の顔には少なからず汗が流れていた。

小竜姫は息を整え、横島の死に顔を見る。

その顔は先程と変わらず普通だったが、蒼い燐光は止んでいた。

それは二人に図らずも「死」を実感させた。

「あはは、ワルキューレ。横島さんの顔、さっきと変わってないですよ」

「そうか」

「ええ、いつ起きてきても不思議じゃないくらい」

「そうか」

「起きてきたら、私達に襲いかかってきますね。「二人とも、俺と付き合ってくださーーーい」って。そしたら、どうしましょうか。やっぱりいつもどうりのお仕置きをしましょうか。」

「そうか」

「うーん。でも、少しくらいなら付き合ってあげてもいいかな。それで、そのままお付き合いってこともないでしょうし・・・」

「そうか」

小竜姫はふと、ワルキューレを見る。

「・・・・・」

「・・・・・」

「もう横島さんに会えないんですね」

「ああ」

「・・・・・美神さん達からどんな酷いこと言われるのでしょうか」

「どんなに酷くても、それに耐えるのもまた我々の仕事であり、義務だ」

「そうですね。・・・そういえば、私の階位が上がるんですよ」

「それはおめでとう」

「あなたもでしょ」

「ん、そうだったか。ああ、そういえば、これが成功したら階級が上がるんだったな」

「嬉しいですか?」

「・・・・・・」

「愚問・・・ですね。どうして横島さんを殺して、階位が上がるのでしょうか。いっそ、自分の階位を
剥奪して欲しい」

「・・・同感だな」

ワルキューレは泣いていた。

拭いもせず、涙を流しながら静かに眠る横島をみている。

小竜姫は、涙が枯れるのではないかというほどに涙を流し続ける。

まるで、涙を流すことが自分に課せられた義務であるかのように・・・・

涙は止まらない。

死を見慣れた二人でも、これはやはり悲しい出来事であった。

そしてこの出来事は二人に大きな傷跡を残し、その傷跡は二人の信じていた物に疑念を抱かせた。

それが原因で二人が、それぞれに所属していたものから抜けるのはもう少し先の話。






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 小竜姫達が横島の部屋を後にして数分が経つと、横島の遺体の側に突然、異変が生じた。

何もなかった空間に等身大の黒い歪みが現れ、そこから一人の男が現れた。

「あっちゃー。何もここまで寸断しなくてもええのになぁー」

男はぼやきながら、手に持つ球体を横島の上に放った。

すると寝ている横島の上で球体は止まり、やがて明滅を始める。

不可視ではあるが、球体の周囲に極薄の何色か判別し難いものが漂い、それが球体へと吸い込まれていく。

「こりゃー、思ったより時間がかかるのー」

明滅する球体を見て、それから辺りをみまわす。

「随分貧相な部屋やな。噂には聞いておったがなんとも不憫なこっちゃ」

ぐるりと一通り見る。

「・・・・それでも、一生懸命生きておったことが分かる部屋やな」

そして視線を横島に戻す。

依然変わらず、球体は明滅している。

「にしても、自分が悲しゅうなるなあ。こんな小僧に自分が恐怖してたんかと思うとなぁ。一体、こいつのどこが悲劇っぽいねん。喜劇っぽいちゅーねん。ん、もしそんなだったら、こいつの異名は「喜劇に血塗られし魔王」・・・・あほかっ、その名前事体が喜劇やないかー!!」

一人、のりつっこみをする男。

この男がかのお偉い人だと思うと、ああ涙・・・

「にしても、ほんま粉々になってもうたなー。だれやったっけ。この仕事に就いた奴等は・・・・・」

男は手を頬にのせひとしきりうーんうーんと唸り、そして思い出したとポンと手を打つ。

この男、いちいち動作をつけないと気が済まないらしい

「ああ、ワルキューレと小竜姫やったな。ほなら、この見事なまでの有様は小竜姫やな。斉天大聖の愛弟子やゆうとったし。それとこいつと親しかったゆーことやったか。んなら、この粉々にまでしたっていうのも分かるかなー」

男は声に出さず笑う。

「こいつへの想いの深さっちゅーやっちゃ。哀れやなー。」

それから数十分たち球体が明滅を止めると、まるで今重力というものに気づいたというように横島のお腹へと落下した。

男は球体を拾い、横島を抱えると黒い歪みの中へと消えていった。

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