好きだから(中)
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/11/ 8)
「いいわよ」
「え!?」
美神さん・・・今なんと言いました?
そ、それはつまりOKなわけで、俺と美神さんは彼氏彼女になっちゃうわけで!
物理的にありえないわけで、俺は物理苦手なわけで、ついでに数学も苦手なわけで
基本に戻ると1コのかたまりが10コに集まるとぉぉ!
「ちょっとぉ、何フリーズしてんの?」
「み、美神さん!マジっすか!本当にOKなんですか!?俺なんかでいいでんすか!?
恋人ってことですよ!よく考えたんですか!?クリーングオフ効かないんですよぉ!」
「あ、あんたどっちなのよ」
「い、いや、そりゃもちろん付き合ってくれるというなら喜ぶしかないですよぉ!
で、でも・・・ほら、ダメ元で言ってみただけでぇ!」
「言ってみただけぇ?ふ〜ん、じゃああんまり本気じゃなかったんだぁ」
「ち、違いますって!本気本気!本気と書いてマジと読むくらい!」
「どうだかぁ〜、あ〜あ、やっぱどうしようかなぁ〜」
「うわぁぁああぁぁ────ん!美神さぁぁん!」
その日は結局そのまま帰っただけだけど・・・
これが・・・
俺と美神さんが恋人同士になった日だった────
■
「どうしたのよ?ボーっとして」
「え、あ、いや何でもないっすよ」
2週間前の出来事を思い出して美神さんの話を聞き逃していた俺はそれを誤魔化すように料理を口に運んだ。
この間の高級レストランも上手いけど、こういう小洒落たお店もいいなぁ。
つーかさすが美神さん、いいセンスの店知ってるなぁ・・・・・・・・それに比べて俺は・・・・
「またボーっとしてる、どうしたの?除霊作業で疲れた?」
「あ、いや!全然!それより・・・・・美神さんのその傷大丈夫ですか?」
俺の視線の行く先、それは美神さんの右腕に張られたバンソーコー。
さっきの廃ホテルでの除霊作業のさいについた傷、しかも俺のミスで・・・
「すんません・・・俺が破魔札を使うタイミングが遅かったせいで」
「もう〜〜、気にしなくていいわよ。ちょっと切っただけだし文珠で傷はもうほぼ完治してるし。
ま、次からは気をつけてよね」
ウインクしながら笑顔で言ってくれる美神さん。
そんな美神さんを見ながらやっぱり俺は後ろめたい気持ちを拭い切れなかった。
・
・
・
・
ブロロロロロロ・・・・
深夜のハイウェイに刻み込まれていくコブラのエンジン音。
その運転手の美神さんはお腹もふくれたせいか上機嫌に鼻歌をならしながらハンドルを動かしている。
付き合いだして2週間・・・
このたった2週間で随分と美神さんの新しい一面を見てきた・・・そしてこれからも知りたい、見たい。
「これって当然の気持ちだよな・・・」
美神さんに気付かれないようにそっと呟いてみる。
別に独占欲が強いわけじゃないぞ、と自分に言い聞かせるように・・・。
でも、ふと思う・・・
いや・・・もしかしたら毎日、半日、2時間に一回は思ってるのかも・・・
────俺が美神さんに釣り合うのか────
付き合いはじめてから今日も含めて何回かデートをした。
全て美神さんのおごり、引率で・・・別に俺の意見を却下されたとかそういうわけではない。
そこで知ったのは美神さんの『世界』。・・・まるで違った、思い知らされた。
自分の『世界』はどうしよもなくガキで石コロのような存在なんじゃないかと・・・。
「おキヌちゃん達もう帰ってるかしら」
「え?・・・あ、ああもう午後11時っすからね、でも別の除霊作業頼んでるからもう少しかかるかも」
「そっか、あんたこれからどうする?事務所に忘れモンないならアパートまで送るけど?」
「あ、はい!お願いします。・・・美神さんは?」
「う〜ん、ちょっと用事があるのよ」
「え、こんな時間から!?」
「まぁね。あ、そうだ!明日は午後からの出勤でいいから今日はゆっくり休むのよ」
「は、はい」
うっ・・・いかん。
こういう何気ない言葉で涙が出そうになる。
俺は美神さんにバレばれないように涙を拭うのだった。
・
・
・
帰宅して10分。
俺は布団も出さずに畳みにゴロっと横になったままずっと天井を見上げていた。
「こんな時間にどこ行くんだよ・・・美神さん」
そして自分の胸にある言葉を吐いてみる。
別に携帯メール使って聞けばいいじゃないか、どうせ除霊か何かだろう・・・そう言い聞かせて自分を納得させる。
気にするな・・・
気にするな・・・
気にするな・・・
・・・・・・・
・・・・
無理だ!
「あかん!何か知らんが気にってしかたがない!」
取りあえず俺は買ったばかりの携帯電話を取り出しメモリ検索で美神さんの携帯へかけてみる。
出てくれぇ!頼むぅ!!
しかし俺の願いはむなしく届かず留守番電話サービスにつながる。
「だったら!」
今度は事務所だ!
2、3秒のコール音がバカに長く感じる。
そして・・・
ガチャ
「あ!美神さんっすか!?俺です!横島です!」
『こちらは美神除霊事務所です・・・ってあれ?横島さんですか?』
「じ、人工幽霊壱号か?み、美神さんいるか!?」
『オーナーはただ今外出中ですが・・・』
そうだ・・・用事があるって言ってたじゃないか。
バカか俺は・・・なのに
「ど、どこ行ったか分かるか?」
『え〜と、別に秘密項目ではないですね。・・・私の予定データには西条さんと極楽ホテルで会うと・・・』
俺はそこで電話を切った。
それ以上は・・・・・・・・・聞きたくなかったからだ。
西条?こんな時間に?
「くそっ!」
ハンガーにかけてあった薄い上着を羽織ると俺は再び夜の暗闇の中に足を踏み入れた。
■
「ハァ・・・ハァ・・・」
く、苦しい。
そりゃそうか、自転車も使わず全力疾走でこんなところまで走って来たんだからな。
俺の目の前に映る極楽ホテルラウンジ行きのエレベーター。
こんな時間までやってるなんてさすが大手のホテルやなぁ。
俺は『開』のボタンを押して中に入ると30階のボタンを押して壁にもたれかかった。
「何やってんだか・・・俺」
美神さんが西条に会う?
別に今までだって、これからだっていくらでもあることじゃないか。
そりゃ時間は時間だけど二人は大人なわけだし・・・
「大人か・・・」
ずっと感じてた。
美神さんとの差・・・年齢以上に感じる美神さんの『大人の自立』。
俺が今19歳、来年になれば20歳で成人・・・それが大人なのか?
「ちげーだろ」
そんなことで美神さんと並べるなら苦労も苦悩もしねーつーの。
人生経験っていうか・・・言葉じゃ上手く言えねーけど。
美神さんに敵わない(っていう表現もおかしいけど)そんな感じが・・・劣等感が常に俺にまとわりついてた。
チン・・・
到着の合図と共に俺はエレベーターからラウンジに出る。
夜景の見える展望ラウンジにはそろそろ日付が変わろうかというのに中々の賑わいを見せている。
途中ウェイターが声をかけて来たがそこは『中にもう待ち人いるから』と誤魔化しておいた。
「会ったら会ったで何言やぁいいんだ?」
俺が自嘲気味に呟いたときだった・・・
「そうか・・・それは別れたくて当然だね」
西条の声!?俺は柱の影に丁度隠れた席にとっさに座るとそぉと確認してみる。
間違いない、向こうは気付いてないがこちらからは西条のツラがしかと見える。
そして、その対面に座るのは・・・
「ごめんなさいね、こんな話して」
美神さんだ!俺が声を聞き間違えるはずない!
そして、今度は振り向かずに二人の会話に集中する。
「しかし・・・彼とは長い付き合いんじゃないのかい?」
「そうね、仕事では結構長いかもでもプライベートまで入り込まれるのはね」
長い付き合い?仕事?プライベート?一体何の話を・・・
「で、彼からの告白というのは?」
「それが2週間前・・・前からそんな感じはしてたんだけど、はぁ・・・まいっちゃうわよ。
ちょっと仕事上の付き合いでいい顔したら勘違いしちゃって・・・
それに最近じゃぁ輪にかけてしつこいし・・・」
「じゃあ僕ならどうだい?」
「ふふ、あのねぇ・・・彼と西条さんなら私は当然西条さんと付き合うわよ」
美神さんは笑顔でそう言い放った・・・
(後)に続く
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