ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(20)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/11/15)

『君ともう一度出会えたら』 −20−



 翌日、俺は久しぶりに学校にいった。

「聞いたぞ、横島! 事件解決はおまえの活躍が大きかったんだってな」
「敵の仲間になったなんて、俺はちっとも信じてなかったぜ」

 クラスメートたちが集まってきて、俺に声をかけてきた。しかし……

「あのなー。それじゃあ、なぜ俺の机に落書きがあるんだ!?」

 『バカ』『アホ』『死ね』など小学生のような悪口が、油性のマジックでいたるところに書かれていた。

「な、なぜかしらね?」

 愛子をはじめ俺の周りにいた連中が、くるりと背を向ける。

「そりゃーゼータクってもんですノー、横島サン」

 タイガーが背後から声をかけてきた。

「ワシなんか……。あの場で一緒に戦ったのに、出番もセリフもちょびっとしかなかったんジャー!」

 そんなこと、俺に言われてもなぁ。
 仕方ないじゃん。メインで戦ったのは、俺と美神さんなんだし。

「ど、どうせ、どうせワシなんか、ただの脇役なんジャーー!」

 タイガーが窓から空に向かって思いきり叫んでいたが、ふいに黙り込んだ。

「横島サン、ちょっと……」
「どうした、タイガー?」

 俺はタイガーの横に駆け寄ると、タイガーが指差す先を見た。

「ル、ルシオラ!」
「あっ、美人。ひょっとして、横島クンの彼女?」

 いつのまにか愛子が俺の隣に来ていた。タイガーと一緒になって、ルシオラを眺めている。

「横島さんに会いに来たんじゃないんですか?」
「そうかもなあ、ピート」

 前回は、てっきり美神さんたちのイジメに会ったのではないかと思い込んでしまったが、たぶん寂しさに耐えかねたんだろう。

「ごめん。今日は早退するわ」

 教室を出ていく俺の背後から、「女のいるヤツは敵じゃ〜〜」と叫ぶクラスメートたちの声が聞こえてきた。
 ふっ、なんとでも言え。悔しかったらお前らも、美人の彼女をつくってみろってんだ。




「ヨコシマ!」

 ルシオラは、寂しそうな顔をして校門の柱に寄りかかっていたが、俺が来たのに気がつくと、嬉しそうな表情を浮かべた。

「いいの? 終わるまで待っているつもりだったんだけど……」
「そんなことより、どうしたのさ?」
「なんか、まだ居場所がなくて……ね」

 ルシオラが、どこか寂しげな顔つきをしている。

「とりあえず、どこか行こうか?」

 俺はルシオラの手を取ると、学校をあとにした。




「イジメじゃないよね?」
「まさか。美神さんもおキヌちゃんも、そんなことはしてないわ」

 街を少しぶらついたあと、「夕陽が見たい」というルシオラの言葉を聞いた俺は、東京タワーの展望台へと移動した。
 そういえば二人で東京タワーに来たのは、これが始めてだったな。

「じゃあ、なんで?」
「私たち、こないだまで人間なんか、なんとも思ってはいなかったのよ。今だって、表面は愛想よくしているけど、まだすぐにはなじまないわ」

 ルシオラは展望台の上で、膝をかかえて座っている。

「そんなの平気だって。美神さんだって、他人のことは屁とも思ってないし」
「でも、もし私がその気になったら、人間の何百人くらいすぐに殺せるし。怖くない?」
「美神さんも怒らせると怖いから、あんまり気にならない」
「美神さんか……」

 顔をうつむかせて考え込んでしまうルシオラの姿を見て、俺は自分の過ちに気がついた。
 こんな時に美神さんの話をするなんて、本当に俺ってデリカシーがないよな。

「なあ、ルシオラ。ルシオラは俺を殺そうと思ったことはある?」
「いくらなんでも、それはないわ」
「じゃあ、俺の周りの人たち……たとえば美神さんやおキヌちゃんは?」
「それもないわよ」
「それなら大丈夫さ。俺はルシオラを信じているよ。それでいいじゃないか」

 俺は寂しそうに丸めているルシオラの背中を、ポンと叩いた。

「ヨコシマ……」

 背後を振り返ったルシオラの目じりには、半分涙が溜まっていた。
 俺はルシオラの背後から首筋に手をまわし、背中からルシオラをぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫だって。まだ今の生活に慣れてないだけさ。それに俺がついているよ」

 俺は胸にルシオラの体温を感じながら、沈みゆく夕陽をルシオラと一緒に眺めて続けた。



──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ────



「ただいまー」
「いったいどうゆうこと!」

 その次の日、学校から帰ってきて事務所のドアを開いた時、俺の耳に美神さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

「すみません、私が責任を……」
「保護観察中の魔族に、責任が取れるわけないでしょ! あんな事件の後で何かあったら、GS本部はすぐに処分を命じてくるわよ」

 そういえば、そろそろだったな。
 一応、美神さんに聞いてみるか。

「処分って、いったい何があったんですか。美神さん」
「あのね、パピリオが脱走したのよ!」
「私がいけなかったの。強引に連れ出しておいて、あのコの気持ちを考えずに、自分のことだけにかまけていたから……」

 ルシオラは普段着ではなく、バイザーをかぶり、戦闘用のコスチュームを身につけていた。

「パピリオには、人間はまだ敵なのよ。早く捕まえないと」
「しかし、あいつどこに行ったんでしょうね?」
「どこに行ったかまではわからないけど、何をするかは検討がつくわ」
「え!?」
「パピリオにしてみれば、騙されて敵に加勢した上に、捕虜にされたのよ。そう考えると、やりたいことは、まず復讐じゃないかしら」

 前回もそうだったが、この時の美神さんの推論は実に鋭い。
 ……ひょっとして、自分にあてはめて考えているだけかもしれんが。

「まっさきにここを襲いに来ればいいんだけど、他の人間を狙ったら、脱走が世間に知られてしまうわ。そうなれば、間違いなく処分の対象となるわね」
「大丈夫よ、ヨコシマ。もしもの時は私がパピリオを始末して、自分のことは自分で……」
「バ、バカなことを言うな!」
「ま、もう少し様子をみましょう。パピリオがまっすぐここに来ればよし。そうでないときは、速攻で現場に行って被害をもみ消す。今のところ、これは私たちだけの秘密に──」

 美神さんが俺たちに念押しをしたその時に、建物の外から男性の悲鳴が聞こえてきた。

「うわああああっ!」
「この声は……西条さん!?」

 慌てて窓際にいくと、建物のすぐ外で、パピリオの眷族に取り囲まれている西条の姿があった。

「ちょうどいいとこに来たでちゅね。おまえも一緒に殺してやるでちゅ」
「その声……パピリオか!? いったい、なんのマネだ!」
「いかん! ウチに来たけど、いきなり外部に漏れた」
「パピリオのやつ眷族を呼んだんだわ。まずい!」
「も、文珠!」

 俺は『護』の文珠で、事務所の結界を強化させた。
 前回は、パピリオの眷族にあっさり侵入されて、大苦戦したからな。今回は大丈夫だろう。

「美神さんとおキヌちゃんは、事務所の中で待っててください。俺とルシオラで何とかします!」

 俺とルシオラは、急いで事務所の外に飛び出した。




「結界で守りを固めてもムダでちゅ。眷族でゆっくり殺してやりまちゅ。汚らわしい人間め!」
「そんなこと許さないわよ、パピリオ! みんなおまえを助けたいと思っているのがわからないの!?」
「ジャマするなら、容赦しないでちゅよ。鱗粉の結界の中じゃ、ルシオラちゃんの幻術も役に立たないでちゅ」

 鱗粉の結界でルシオラの幻術を封じたパピリオは、逆に鱗粉の結界の中に自らの姿を隠した。

「どこへ消えたの! これじゃ、何も──」

 俺はパピリオの姿を見失って立ち往生しているルシオラを援護するため、『炎』の文珠を投げた。

 ゴオッ!

 文珠の炎が、ルシオラの周囲にいたパピリオの眷族をなぎ払う。

「ルシオラ、ここは俺にまかせろ! 何発か文珠をぶち込んで、蝶の数を減らす!」
「ちっ! 目障りでちゅ、ポチ!」

 新しい文珠を手にした俺に向かって、パピリオが眷族の集団を差し向けてきた。
 鱗粉を吸ってしまわないよう、俺は口元をハンカチで覆う。だが、その時──

「横島クン、援護するわ!」

 事務所の中にいた美神さんが、外に飛び出してきた。

「危ないです、美神さん! 中に戻ってください」
「甘いでちゅ、ポチ!」

 俺が美神さんに気を取られた一瞬を、パピリオは逃さなかった。
 前回と同様、俺はパピリオの眷族に一斉に襲われてしまい、鱗粉を吸って気を失ってしまった。


(続く)

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