ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(3)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/20)



「―そろそろ、見えてきましたね。」

血管のような薄紫色の通路を流れていく二人。
転生センターの職員が体を右に向ける。ルシオラは彼の向いた方向に視線を走らせた。

そこでは、クリーム色の空間の中に張り巡らされた通路が大きな円を描きながら密集していて、その奥に青白い光を放つ巨大な円筒が縦に浮かんでいた。

「あれが、転生転移作業エリアです。ほら、あそこから転生する魂が各界へ送り出されて行くんですよ。」

職員が杖で指したのは円筒の頂で、その縁の至る所から、無数の色とりどりの小さな光が昇っていくのが見える。
それらの光は円筒の全長と同じ位の高さまで昇ると中空に消えてしまっていた。

「蛍、みたいね・・・。」

飛び交う光の群れを見ながらルシオラが呟いた。


蛍は飛んで行く。お前の許へ。


突然、通路の流れが止まり、壁に赤く光った文字の列が浮かび上がる。
魔界や神界の文字ではない。かと言って人間界のどの文化圏の文字でもない。

<輪廻長職員NO.212078 J−2251A 認証完了、
 転生者NO.422510835975 ルシオラ 認証完了、
 Bエリア7ブロック32ルームへ、お進み下さい。>

「J−2251Aっていうのがあなたの名前なの?」

再び流れ始めた通路の中で職員から今の現象―入場チェックだったらしい―について説明されたルシオラは尋ねた。

「いや、ただの番号です。ここに出向する前は我々は一人だったんですがね、業務を行うにあたって数万人に分離したんです。それから何千年も経ってますから一人一人能力も性格も違ってしまっていますが、我々全員が融合して元の“私”に戻る事はいつでも出来るんですよ。私に付いているのはその分身の番号なんです。」

通路の流れが速くなっている。壁の外に見える円筒は大きさをまし、眺めの半分以上を占めるほどになっていた。目を凝らすと密集していた通路が交差と合流を繰り返し億のほうで大きなジャンクションを形成するのが見て取れた。

「さて、ここからは結果以内ですから中との通信が可能になります。・・ちょっと失礼。」

彼―J−2251Aは衣のすそから携帯電話(のようなもの)を取り出し、しばらく操作してから耳に当てる。

「ちょっと私たちの行く転移ルームに連絡しますからね・・あ、もしもし、お疲れ様です。J−2251Aです。ただいま転生者NO.422510835975 ルシオラさんを連れて結果以内に入りました。準備段階アルファを始めちゃって下さい。ええ、下4ケタ5975・・・え?そんな筈ありませんよ?順番間違ってるんじゃないですかねえ?もう一度、予定表調べてみて下さい。ええ、また掛け直しますから。(ピッ)」

彼は電話を耳から離し、画面を眺めた。

「すいませんね、何か向こうの担当、ボーっとした人みたいで、何かを間違って覚えて・・・・」

再び電話を耳に近付ける。

「もしもし、J−2251Aです。・・・ええ?間違ってない?5975ではなくて5957?それ、おかしいでしょ。私が間違っていたらルシオラさんが結界内に入れてないでしょ?その部屋に誘導されないでしょ?そっちが間ち・・」

電話の向こうからの「なんじゃこりゃあ!!」という叫び声はルシオラにも聞き取れた。

「もしもし、どうしたんですか、急にそんな大声・・・え?あった?でしょ?・・え?同じって何が?・・使う順番がごっちゃになってるんだったら適当に並べちゃいなさいよ。それに合わせて順番設定組み直せば良いんですよ。ちょっとぐらい皆待っててくれるんだからさ。え?違う?だから何・・え・・・転生先が同じ?だからランダムと希望者とでは希望者優先・・はあ?そっちも希望者?同時に受理されてる、だって?じゃあ、調整部のミスかもな・・あんたもね、言われる前に気付きなさいよ。書類に目、通してないのバレバレだよ!」

J−2251Aは電話の画面を操作して再びどこかへ掛ける。

「もしもし、J−2251Aです。ちょっと転生者NO.422510835975とNO.422510835957のデータ出してみてください・・・『あれぇ、転生先・転生作業予定、同じですねぇ』じゃなくてさあ、これ、どういう事なんですか?・・分からない、ってあんた・・・じゃあ分かる人呼んで来なさいよ!・・・・・もしもし、え?調整部ではそのまま通す、だって?決定や判断は申請部と適正審査会議部が行う?・・そりゃあ、それだけ処理件数あったら一つ一つ調べるのキツいって、分かるけどさあ・・何の為の調整部だよ?ああ、しゃあない、じゃあちょっと職員ナビゲーションルームへ繋いで下さい。」

「あー、もしもし、J−2251Aです。ちょっとお尋ねしたいんですが、の案内担当が誰だか教えてもらえますか・・・J−0392Cですね。彼の通話番号と現在地を教えてください。・・・・はあ、やっぱり向かってますか・・ありがとうございます。」

彼はもう一度画面操作を行い、しばらく電話を耳に当てていたが、『ちっ、やっぱ通じねえよ』と呟くと電話を衣の裾に放り込んだ。電話を掛けている間、彼はルシオラに一度も顔を向ける事はなく、今も背中を見せたままであった。ルシオラにも彼が激しく苛立っているのが分かる。例の如く微笑みを浮かべながら。
そして、会話の端から「何が起こっているのか」も少しだけ察する事が出来た。

彼らの様々な手違いで希望先予約の重複が発生した。同じ所への転生を望んだ者同士を一緒に手配してしまった。
同じ所―ヨコシマのところ。


モテるからね、お前は・・・・それに、気も多いし・・。
優し過ぎるんだよね・・・。


ルシオラは苦笑いを浮かべた。彼女にとって彼のそういう部分は短所でもあり、長所でもあった。
もっとも人間界での彼の世間的イメージは「モテる」とも「優し過ぎる」ともかけ離れたものだったが。
「毛虫のように嫌われてもめげないセクハラ野郎」とか、「煩悩の為にはプライドも常識も、生存本能さえも忘れる煩悩の塊」と言った所だろう。
それでも、彼の周りには、彼を愛する者達がいつの間にか集って来る。


生まれ変わってもう一度お前に逢う・・・「彼女」も私もそれを祈った。
他にもう一人くらい、そんな女がいたっておかしくないわよね・・。

・・・・・でも、一体、誰が?


「ルシオラさん・・・・誠に申し訳、ありません。・・・トラブルが、発生しました。」

やっと、J−2251Aが背中を向けたまま言葉を発した。

「大体、分かったわ・・・ダブル・ブッキングですね?」

「その通りです。ヨコシマさんの子供に転生されることを、あなたと同時期に申請された方がいらっしゃいまして、通常なら2〜3年ずらして兄弟姉妹として生まれるよう調整するのですが、我々のほうで手違いがありまして・・・つきましてはあなたとその方とで話し合った上で再調整が行われる事になると思いますが、幾分、その方の申請が先だったのです。だから・・少し、難しくなるのではと・・・
・・・本当に、申し訳ございません。」

「どっちみち2・3年なんでしょ?後回しになったとしても。」

「ええ、速やかに実行させて頂きます。」


・・・ごめんね、ヨコシマ。お前に会えるの、また少し先になっちゃうかもしれない。
でも、その代わり、お前に会いたがってる誰かがそっちに行くからね。その子の事も大事にしてあげてね。
私も後から行く、私は大丈夫よ。千年待った人がいるのに、2・3年が待てないなんて言わない。
その時はよろしくね・・パパ、ママ、そして(多分)お姉ちゃん・・・。


「ところで、どんな方なんですか?その、もう一人の希望者って。」

「ええ、その方のデータも先ほどメールで調整部に請求しましたから、間もなく来るかと・・・おっ。」

木魚と金の「ポク・ポク・ポク・チーン」音がJ−2251Aの衣の中で鳴り響いた。メール着信音らしい。
彼は電話を取り出し、画面を覗き込んだ。

[ええと・・転生者NO.422510835957・・案内担当J−0392C、生前名:メドーサ、種族:魔族・上級(元・竜族)・・・希望理由が霊力の復元と・・え・・転生先・横島忠夫の、抹殺・・!?」



通路内に火花が散った。制御されない霊力の衝撃波が壁を擦って行ったのだ。
同時に、周囲に普通の人間なら耐え切れない程の霊圧がかかり、通路に充ちている液体は泡立ち始めた。

「・・・何、ですって・・!?」

それらの現象を起こした張本人が震える声で聞き返した。


(続く)

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