ザ・グレート・展開予測ショー

白い混濁と淡い気持ち


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/11/ 1)


「・・・で、これからどうする気なの?」
 タマモは横島の横に腰掛けながら、そう切り出す。
「わからん!自慢じゃないけど俺の知識は美神さんに頼りっきりだったからなぁ」
「ほんとに自慢にならないわね」
 横島の泣き言に半眼でうめくタマモ。
 だがしかしこの事実は本当に痛いわけで、どういうわけかはわからないが、不意に横島は美神のそばにいてはこの犬が危ないという感情にかられて行動したわけであり、したがって美神に接近することができない・・・この考えは一連の行動によって裏付けられている。
 ・・・つまり今の彼にはどうしようもないのである。この事態を打開する方法はない。

「あぁ、くそ。俺にも美神さんのような知識や実力があれば・・・」
 横島は悔しさに歯噛みをする。
 現在この横島という人物は上司の美神を継ぐ実力を持ち合わせている。だが、それはあくまでもこと戦闘面においては。GSの実力は何も戦闘面に関してだけではない。
 必要なときに必要なスキルを発揮すること・・・それがあるいは戦闘能力であり、あるいは判断能力でもあり、そしてあるいは知識でもある・・・
 それを発揮することができない・・・それが実績、即ち実力のない横島の限界であった。
「・・・・・・・・・」
 タマモはそんな彼を悲しそうな瞳で見つめた。
 普段彼はこんな顔を見せないから・・・まるで見知らぬ人のようで・・・
 だから慰めにもならないだろうが、タマモはそっと横島の方に腕を置いて何か言葉の一つでもかけてやろうとして・・・・・・



 だが・・・・・・



 いきなり何かを感じ取ったようにタマモは顔を上げると、
「横島・・・わたしちょっと用があるから―――じゃぁ」
 不意に目つきを鋭くしたタマモは、そういうなり駆け出して行った。傘を置いて・・・
「え?ちょっと、どうしたんだよ!!」
 残ったのはただ子犬をさびしく抱えた横島のみ・・・・・・彼は悲しそうな瞳でタマモの走っていく後姿を見ていることしかできなかった。

「とうとう俺だけになっちゃったなぁ・・・」
 横島は取り残された傘をさしもしないで、さびしそうに天を仰いだ。
 降り注ぐ雨が体に当たって、痛さとともに虚ろな心地よさを伝えてくれる。
「何があっても俺はお前の味方だからな・・・」
 そう呟くと横島は子犬を見下ろした。
 確証のない気持ち・・・なぜこんな気持ちが湧き上がってくるのかわからない・・・不意に、いきなり何の脈絡もなく・・・ご都合的なまでに唐突に沸き起こる不自然さ・・・
 だが、それでも彼はかまわないと思っていた・・・

 しかし、彼の見下ろした視線の先には、妖しく光る目を持った子犬がそこにいるだけであった。

(またか・・・もうちょっと待って欲しかったけど・・・)

 そう考えながら、横島は再び意識を失った。



 
 彼女がそれに気がついたのはいつのころからだろうか・・・

 気がつくと周りは彼女の思うとおりに動いていた。

 最初はそれでよかったのかもしれない・・・だが、それをそれでよしと通すには彼女はあまりにも無欲であり、幼すぎた。

 最初のニンゲンは彼女の力に気がつき・・・恐怖した。彼女にではない。そうなってしまった自分自身に・・・

 彼女は捨てられた。捨てられることを自覚できた。なぜなら彼女自身、この力があまりにも不自然であったから・・・

 次に彼女を拾ったのは、彼女と同じ様な力を持つ青年であった。

 彼の周りにはいろんな仲間たちがいて、いろんな騒ぎを行っていた。

 彼女は独占欲が自分にもあるということを始めて自覚できた・・・そして、そうなりうる手段を用いてきたつもりであった。

 だがそれだけでは彼を救えなかったようだ・・・この力は彼を・・・自分を不幸にする・・・

 いつも、ひたすらに繰り返される異端。それはあるいは恐怖に似ている・・・そうなることによって生まれる不安、とでも言おうか。彼女はそれが耐えられなかった・・・

 だからこれが最後の力の行使になるであろう・・・

 彼女は力を溜め・・・青年にそれを送りつけた。




「精神感応力?」
 美神の言葉に対し、二人は疑問で返す。
「ええ、それもタイガーとは比べ物にもならないくらいの・・・」
 美神は走りながら続ける。その手の中には一枚の札が握られていた。
「い、いくらなんでもタイガーさんとは比べ物にならないって言うのは・・・」
 おキヌが当然のようなことを言う。まぁそう考えるのも無理はない・・・タイガーはあれでも人間の持つ精神感応力の中ではトップクラスだ。
 だが美神はそんなおキヌの疑問を一蹴する。
「前に動物の霊力ってのは人間以上にあるって言ったでしょ」
「マーロウ殿でござるな!!」
 シロが唸るような声でその名を口にする。
「ええ、そうよ。多分あの子犬は生まれながらに能力を持っていたんだと思うの・・・でも教えることのできる人がいないから、その霊力を無駄に垂れ流していたんだと思うのよ」
 美神は走りながら、しかし一向に速度を落とさずに後ろの二人に向かって叫ぶ。
「・・・で、横島さんが妙に自分に愛着を持つよう仕向けたんですか?」
 おキヌが息を切らせながら叫ぶ。
「ちょっと待つでござる。それでは先生が負傷する理由になりませぬ!!」
 シロは目を尖らせてそういう。どうも横島をとられた感があるらしく、しかも彼が怪我を負ったという事実ばかりが目に行くようだ。
「どうってことはないわよ!あの子犬はあんたも怪我するのが嫌だったんじゃないの?」
「!?」
「ようは自分には霊をどうにかするほどの力はない。かといってあんたを操ってもどうこうならない。となれば横島君を盾にするしかないでしょ?しかも殺さないように急所をはずして」
 そう美神はいいきる。その表情はどこかやられた、とでも言うような気配すら漂わせている。
 もし横島を殺すきであるのならば、頭なりのどなりを切らせればいいのである・・・腹部は体の重要な機関が含まれている、場合によっては重大なことにもなりかねない。が、それと同時に防御箇所さえ間違えなければ柔軟な防御壁にもなりうる・・・
 しかもあの子犬は横島の体力の消耗を避けるために気を失わせた・・・
 あの子犬の能力は非常に強力すぎる。タイガーの能力はせいぜい何かを見せる・感じさせる・伝える程度。
 だがあの子犬の能力は『記憶させる』ことにある。いきなり部屋へと入ってきた弟子よりも可愛い子犬といたいということを記憶させる。動きたくない体を押して弟子を助けることを記憶させる。愛情を、何よりも慈しむ心を記憶させる。人の存在を、ありようを根底から覆してしまうほどの能力・・・

「あの子犬はきっと誰かと一緒にいるってことに飢えていたんだと思います・・・」
 おキヌがその目瞳に涙を溜めてそういった。
「く!!」
 シロは俯いて、そして美神の手に握られている札を見る。

 ・・・・・・そして・・・・・・・



「ウワオオオオオォォォォォン!!!!!」



 思いっきり叫んだ―――!!

 届いてくれるかはわからない・・・が、届いてくれることを願って。





「聞こえてるわよ・・・バカ犬・・・」
 タマモは虚空を仰ぎ見ながら、急いで民家の屋根の上を駆け抜けていった。



 そうして・・・・・・・・・・・・





 ついには彼女は一つの球を作り出すことに成功していた。

 ――『消』―――

 何を思ってこの文字を作らせたのかはわからない。

 ただ彼女は己の存在をただただ嘆いていたのかもしれない・・・

 悲しい一生を送るよりは・・・いっそこのまま消えてしまおうか・・・そうすれば周りが変に巻き込まれるよりは断然いい。

 あるいは自分がもっと大人であればよかったのかもしれない・・・でもそれをかなえるのは無理だろう。

 それなら自分は消えるしかないのかもしれない・・・

 そんなことを思いながら、彼女は横島の腕の中で最後の『生』を謳歌しようとしていた。
 べつに誰でもよかった。ただ今自分がいるのは横島の腕の中であるというだけで・・・
 たまたま優しかった彼に能力が発現していただけで・・・

 ただ・・・・・・

 暖かかった・・・・・・それだけのことだ・・・・・・

 ゆっくりと横島の手が動き出し、生成された文殊が彼女の体へと近付いていった。


 しかし・・・





「まだ・・・あんたは死なせないわよ」
 声が狭い公園に響き渡った・・・


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