ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 12-B


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/10/31)


どろりとした液体で僅かな熱を持った岩肌の床に、必死で爪を立てる。
じゃりっという微かな音が耳元に届いた。
それが、その時の最後の力だった。
もう、体の何処にも一滴の力も残されてはいない。

一人の男の顔が目に浮かぶ。
男は無邪気に笑っていた。
人は死の直前、その人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡るという。
彼もそうだったのだろうか・・・・・・

(いや・・・・それはないな)

彼は自分の死に気づくことなく眠るようにこの世から消滅したのだ。

(一体、どこで間違ったんだろうな)

目に浮かぶ男に語りかける。
男は答えない。
ただ、笑っている。
それを見ていると何かずっしりと重みのあるものが背に乗ってきた。
それは、「死」という名の罪。
幾度と無く「死」を積み重ねてきて、それに慣れすら覚えたと言うのに、今回のこの罪は・・・・・
一生かかっても償う事のできない重い罪。
それでも償っていこう、そう決めたのに・・・・・

(何をやっているのだ、私は・・・・)




「軍を辞めたい!?正気ですか、姉上!!」

思ったとおりの反応だ。
一字一句違わない。
ワルキューレは内心ちょっと笑ってしまう。

「正気だ。何、心配するな。この時のために一年間、身を粉にして働いてきたのだ。その功績で軍を抜ける事ができるだろう。」

ジークは「何を言ってるのですか」と呆れる。

「軍の規律をお忘れですか、姉上?一度、軍に身を置いた者は死ぬまで抜ける事はできない事を。これは即ち軍を抜けることは、その者の死しか有り得ないということですよ」

そんな事はジークに言われなくても分かっている。
しかし、それでも行かなければならなかった。
ワルキューレの目には決意の色が見え隠れしている。
長年、連れ添ってきたたった一人の姉だ。
ジークはこれ以上言っても無駄だと悟る。

(普通なら、無駄と知っても止めるべきなんだろうな)

でも、そんな事をして姉の信頼を裏切りたくは無い。
彼女はジークを信用して打ち明けにきたのだ。
ならば、それに報いるのが弟としての務め。
たとえ、それで姉と一生別れることになったとしても・・・・・

(恨みますよ、姉上・・・・・)

ジークは溜息をつく。

「・・・・分かりましたよ、姉上。俺は何をすれば良いのですか?」

・・・・・
・・・・・
・・・・・
ワルキューレの提案する作戦は至って単純だった。

ワルキューレは「遠い地の監察」という題目で基地を脱走。
その後、ジークにワルキューレの辞表を提出させる。
そうすれば、広い魔界だ。
そんな魔界でたった一人の女性を探しだすのはまず無理だ。
それにワルキューレに割く人員はそれほど多くないだろう。
ならば、探し出す事はもはや不可能。
脱走は成功となる。

Simple is best!!
ジークもこれは上手くいくのではないか、と思った。
しかし、二人はあることを考慮していなかった。
これが、他の者なら上手くいったのかもしれない。
しかし、脱走するのはワルキューレである。
軍の恥部を知り、かつ汚いことにも手を染めさせられたあのワルキューレだ。

脱走は上手くいった。
ただそれだけだった。
軍はワルキューレ捜索に一個大隊を二つも用いたのだ。
ワルキューレは必死に逃げたがとても逃げ切れず、脱走四日目にして御用となり「離れの間」と呼ばれる隔離された牢獄に投獄された。



あれから水も食事も出ず三日がたった。
もはや、ワルキューレは声も出ない。
ただ、倒れ伏せエネルギーの消費をなるたけ減らすのに務めるのみ。
最初は何とか逃げようと色々試みたのだが全て無駄におわった。
あれも今思えば、エネルギーの無駄遣いにほかならない。

「おうおう、惨めなこった。」

どこかから声がする。
ワルキューレは声のする方になんとか目を向ける。
でも、さっきと何も変わらない。
暗いだけだ。
彼女の目にはもう、何も映っていなかった。

「いいねえ〜、まだやることがあるってのにって言う未練たらたらのその面。好きだよ〜、俺っち。」

不快な声が耳につく。

(うるさい、黙れ!!)

声に出そうと口を開けるが声は出ない。
力の無い者を見下す下衆な奴にいいように見られている自分を思うと歯がゆくて仕方が無い。
ワルキューレはこの声を忘れないよう胸に刻む。
いつかこの屈辱のお礼をしなくては・・・・・

ガチャッ

何かが外れる音がする。
そして、それと共に良い匂いのする物が鼻についた。
それは、いま一番身体が欲しているものだった。
薄らいでいた意識が急速に覚醒する。
しかし、それを拒むようにガシッと頭を掴まれた。

「おおっと、今は大人しく寝て下さいな。」

(なっ!!)

ワルキューレは反射的にそれに抗おうとするが微かに身体を揺らすだけに終わった。
そんな様を笑うかのごとくギリギリと頭を掴む手に力がこもる。
覚醒しかけた意識が急速に沈む。

「良い娘だ。そのまま、お休み・・・・」

意識が霞む。
ワルキューレは霞む意識の中、ある声が脳に響く。
その声はとても穏やかでワルキューレは従順にその言葉を受け入れた。

「ここから出たら、「ラ・ヴァ・ラレア山」の麓にある村を訪ねなさい。そこで、あなたは運命の岐路にたつでしょう。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「あなたは受け入れる事ができるでしょうか」

「自分が犯した大罪を・・・・・」


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