ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 22


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 9)


「そうか。ズルベニアスがシロに接触したか」

「ああ」

「・・・・・上手く演技してくれてるかな?」

「さあな」

「まあ、魔界からはるばる連れ出してきたんだ。いきなり失敗なんかしてもらっちゃ困るんだけどな」

ここは東京タワーの展望台の上。
そこに俺とワルキューレはいた。

(・・・・今日は風がないな)

いつも以上に風が凪いでいるそこで俺は、眼下に見渡す町並みを見渡す。
今は夕方で、町並みは綺麗な茜色で染まっている。


 『ちょっといいながめでしょ?』

 『へえー!ちょうど陽が沈むとこっすね!』

 『昼と夜の一瞬のすきま・・・!短時間しか見れないからよけい美しいのね。』


もはや失われた彼女の姿・・・・・・
だが、目を瞑ればすぐそこに彼女がいるような・・・・・
それ程に鮮明に彼女を思い出せる。

・・・・・お前は今の俺を見たらどう思う?

悲しむだろうか。
哀れむだろうか。
嫌うだろうか。

・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
そんな事ないよな。
お前はどんな俺も愛してくれる。
・・・・信じてくれるよな。

「・・こ・!!・・しま!!横島!!」

俺は初めてワルキューレに呼ばれていた事に気づいた。

「どうした、ワルキューレ?」

俺の様子にワルキューレは心配げな顔をしている。
どうも、長い間物思いに耽っていたようだ。
俺は「何でもない」という意味を込めて笑う。
ワルキューレはそれを見て溜息をつく。
でも、すぐに気を取り直す所はさすがワルキューレといった所か。

「どうしてズルベニアスを彼女と接触させたのだ?」

下手すればシロが殺されていたかもしれないのに、と言いたげなワルキューレに俺は内心少し苦笑してしまう。

ワルキューレはその可能性を俺が考えていなかったと思っているのだろうか。

・・・・
・・・・
・・・・
・・・・まあ、無理もないか。

・・・・ワルキューレはズルベニアスの悲惨な過去を知らないのだから・・・・

・・・・最も俺もナターシャから聞いてなかったら、ズルベニアスをシロに当てるはずないだろうしな・・・・

「どうして?・・・シロがズルベニアスと顔見知りになることが目的だからだ」

ワルキューレの求める答えとはちょっと見当違いな事を言う。
わざわざズルベニアスの過去を言う必要はないだろう。
俺はさらに何か言おうとするワルキューレを黙らせ、ワルキューレ自身に頼んだ件とあの「女性」の件を聞いた。

「私のほうは心配ない。あんな仕事など大したことではないからな。それで彼女のほうだが、まだ接触していないようだ。まあ、そろそろ頃合だろうよ」

「・・・・そうか」

ワルキューレのほうは上手く言ったか・・・・・
ならば、そろそろ取りに行かないといけないな。
・・・・・・「ウィニケト写本」を。


____________________________________________________________





タマモは今、こじんまりとした公園のジャングルジムの上で座っていた。
今の彼女の雰囲気はドンヨリと暗い。
もう少しいえば、その暗さに加え、どこか苛烈さが滲んでいるような感じもする。
つまりどういった状態か。
彼女は落ち込んでいるようでいて、実は怒りの余り一種の躁鬱状態に陥っているといったところだ。

(全く、あの人達は!!)

実はあの時、タマモがシロの目的を美神達に述べると、一瞬の沈黙の後、一笑に付されてしまったのだ。
美神は、

〜〜〜だったら、私の手伝いをすればいいじゃない〜〜〜

と言い、横島は、

〜〜〜俺が避けられる理由がそれでは解らない〜〜〜

と言う。
タマモはそれらに対し、

「シロの性格を知ってるでしょう。あの娘は一度自分で決めたら己の力で解決しようとするのよ」

「シロがそんな事をすると知ったら、あなた止めに入るでしょう。だいたい、勘違いしないで。いつもあなたに甘えているけど、それでも隠している気持ちの一つや二つあって当たり前なの。彼女は女の子なのよ・・・・」

と強く言ったのだが、結局受けいれられることはなかった。
タマモはその批判的態度に業を煮やし、事務所を飛び出したのだ。
そして行き着いた先はこの公園。
誰一人いないその公園は寂寥の念を人に与えるが、今のタマモにそんなことは関係ない。
寧ろ、好都合だ。
誰もいない事をいい事に、タマモはブランコに乗ってはがむしゃらに漕ぎ、鉄棒に近づいては怒りに任せて思いっきり蹴る。
そんな事を繰り返して、少々怒りが治まってくると、彼女は近くにあったジャングルジムによじ登った。


それから、どれ位の時間が過ぎただろうか。
もう辺りは夕焼けで赤く染まっている。
煮えたぎっていたあの激しい感情もおさまってきたし、そろそろ帰ろうかな・・・・・・
と考えていると、公園の入り口から一人の女性が現れた。
タマモは思わず、その女性に見とれてしまった。

腰まで届くかという艶やかな銀の長く細い髪。
底を見せない黒々とした瞳。
静々とした行動と外見の儚さが齎す脆さの中に内在する一つの神秘。
美しい。
前世では『傾国の美女』とも言われたタマモすらそう思ってしまった。
だが唯一つ、どうしても気になってしまうものがあった。

(どうして、革ジャンにジーンズ?)

彼女は何故か、そこらの街角でたむろってそうなイケイケ姉ちゃん(←死語)の服装をしていた。

(う〜ん、案外活発な女性なのかな?)

首を傾げながら、でも彼女の事を観察し続けているとふと、彼女と目が合った。
慌てて目を背けようとしたが、彼女がこちらに近づいてきてしまったので仕方なくジャングルジムから降りて自分から挨拶した。

「こんにちは。」

彼女はそのタマモに向けて可憐な薔薇を思わせる眩しい笑顔を向ける。
やはり清楚な女性なんだな・・・・・
タマモはそう思った。
彼女の淑やかで魅惑的な唇が開き、歌うような可憐な声が紡がれる。

















「あたしに何のようってかんじ〜」














・・・・・・その時、世界は確かに凍った。
なんだ、彼女は何と言ったんだ。
タマモは彼女が言った言葉をもう一度正確に心の中で反芻してみた。

あたしに何のようってかんじ〜

「・・・・・・」

駄目だ。
何が正確か・・・・
清楚を絵に描いたような女性がそんな事を言うわけ無いじゃないか。
全く、まだ幻聴を聞く歳じゃないってのに・・・・・






「あんな所でジ〜っと見つめちゃって、マジちょームカつくわけ〜」



「・・・・・・・」




更に追い討ちをかけるように彼女のコギャル言葉が連発する。



「それとも何?もしかして喧嘩とか売っちゃってんの〜」

「ふざけんなっつーの。何が理由で喧嘩なんかふっかけてくんのさ〜」

「もしかしてあたしの美貌への嫉妬〜。やめてよー。解るけどさ〜、かなりそれ、不愉快なんだよね〜。」





・・・・・痛かった。
これは心理的にきつかった。
今までにない精神への痛恨的右ストレート!!
タマモは何だか悲しくなってきた。

(・・・・・日本はもうここまで病んでいたのね)

こんな綺麗で気品のありそうな女性が、自分を貶めるような品位のない言葉を連発するのはマイナスの意味で胸に迫るものがある。
曰く、「これを泣かずして一体何を泣けと言うのか」って程に・・・・・




「・・・・・・・」

タマモは何もしゃべらない。
喋れるはずがなかった。
彼女は目の前の怪異に自分を見失ってしまっていたのだから・・・・・・

「・・・・・彼女、固まってしまったわ」

女性の声をどこか夢心地の中で聞く。

「・・・・どうしてかしら。あの雑誌に書いてあった通りに話してみたつもりだったのに」

「これって、今流行ってる流行語よね。何だったかしら・・・そう、コギャル?とかいう若い女性達が使うのよね」

タマモはそれを聞いていると、意識が明瞭になってきた。

「どうしましょ・・・・やっぱりこれって、接触失敗よね。」

・・・・接触?

「ああ、あなた。御免なさい。私、失敗してしまったわ。」

・・・・あなた?
・・・・っていうか、既婚者?

タマモは何とか喋れるようになるまで回復すると、女性を睨むように見据えてこういった。



「・・・・あんた、変。」

















【東京タワーの展望台の上で】


「ところでさ・・・・・・・」


「何だ?」


「彼女は何でこんな物を読んでたんだ?」


「・・・ああ。曰く、「私、人間界の事って良く知らなくて・・・」だそうだ」


「ふ〜ん。で、これを読んで研究したと・・・・・・」


「そうらしいが、何か問題でもあるのか?」


「・・・・ワルキューレ。これの内容、知らないだろ・・・・・」


「ああ」


「これ、読んでみ・・・・」


「どれどれ・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・何と言っていいか、解らないのだが」


「俺だって何て言ったらいいか解らないよ。でもな、ワルキューレ、少し想像してみろ。あいつ、これを読んでタマモに会いに行ったんだろ」


「・・・・・・」


「・・・・予定が狂うとかいうのも勿論あるんだけど、それよりも俺は今の彼女の姿を見てみたいよ」


「・・・同感だ」













ワルキューレが開いている雑誌のページにはでかでかと、

『これであなたも一人前のコギャル♪』

と記されていた。










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