ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(11.2)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/ 2)

遠い世界の近い未来(11.2)

「実は、大切な話があるんだ。」
朝食が終わり、おキヌが片づけにキッチンの方へ行ったのを見はからい、水元は、これまでにない真剣な表情で切り出そうとした。

 子どもたちには、自分の口から真相を話しておきたい。
 また、知った後の子どもたちの驚きやとまどい、不安を、この世界にいる唯一の大人としてしっかりと受け止めたいとも思う。

「プロポーズなら却下。」言下に薫。
「お金を借りたいんやったらお門違いやで。」これは、葵。
「お返事は、少し考えから、させていただきま〜す。」と紫穂。

「何で、そうなるんだぁーー! 」
 こちらのシリアスな表情を裏切る反応に思わずトーンが上がる。

「軽いジョーク、わからんか。」
「これやから、シャレのわからんもんは、いやなんや。」
「私は、本気なんだけど。」

「「えっ」」
紫穂の顔を見る薫と葵。あいかわらず、どこまで本気かがさっぱりわからない。

「もともと、趣味、悪いと思ってたけど、お父さんは悲しいぞ〜。」
「紫穂、若気の至りで、道、誤ったらあかんで。」
「そ〜ぉ、でも、葵や薫がいらないんだったら、私がもらうわよ。」

「‥‥、頼むから、話を聞いてくれ。」
 いつの間にかお願い口調になっている自分が、少し情けない。

「ここが、あたしらがいた世界と違うと言いたいんだろ。」

「えっ!」
 さらっと出た、薫の言葉に拍子抜けする水元。

「なぜ知ってるんだ。」

「夜に、あたいらが寝ている部屋に忍び込んできたやろ。」
 誤解を生みそうな言い方だが、明け方、子どもらの様子が気になり応接室を覗いたのは、確かである。

ソファー端から落ちかけていた薫を元にもどし、足下に落ちていたタオルケットを紫穂に掛けたところ、彼の手を握りしめにきた。

 寝ぼけたらしいのだが、握る力が少しずつ強まり体が細かく震え始めた時、自分の心にある焦燥感、不安感が伝わったのがわかった。
すぐにそうした感情を心から追い出し、できるだけ気持ちを静め安心感が伝わるようにしていると、震えは収まり、静かな寝息とともに握る力が抜け、手が離れた。

 その後、三人の安らかな寝顔を見て、戻ったのだが‥‥

「たぶん、その後少ししてからかな、私の目が覚めたのは。」
結局、どこかに、水元の意識が残ったのだろう。
「”平行世界”とか”帰れない”とかの言葉と不安感が頭の中で踊って眠れなくなったの。」

 眠れないままいたところを、様子を見に来たおキヌが気づき、紫穂の真剣な問いに、誤魔化さず真相を話したのだ。

おキヌが話したからこそ子どもたちも素直に話を聞き、受け入れたのだと思う。

「それにしては、さっきの食欲は何だ。自分たちの世界に帰れないかもしれないんだぞ。よく平気であれだけも食べられたもんだ。」
 彼自身は、昨日よりましとはいえ(寝不足と二日酔いもあるが)、いつもの半分ほどしかのどが通らなかったのに対して、子どもたちは、昨夜、遅く食べた食事はどこへ行ったのかと思うほどの食欲で用意された朝食を平らげた。

「水元はんだけやったら、心配で食欲をなくしたかもな。でも、おキヌちゃんや文殊のにーちゃんが手伝ってくれるってんだから、くよくよしても始まらんわ。」
「横島のおにいちゃん、あれでも、この世界を何度も救ったことあるんだって。」
「それよりは、腹一杯食べて、『力』をつけた方が、よっぽど、前向きだろ。そんな簡単なことも思いつかんで、あたしらの荷物持ちが務まるって思ってんのか。」

‘たしかに、こちらに来てまだ、半日。帰れないと決まったわけじゃない。何より、横島さんや氷室さん、それにあの美神という人も‥‥ 助けになりそうな人たちと出会えている。’
そう考え、逆に子どもたちに励まされている自分に苦笑する。

「それに〜 戻れかったら、戻れなくても良いかなって思うし〜。」
意外のことを言う紫穂。
「あたいらの超能力は、GSでも通用するって、おキヌちゃんも言ってたんだ。昨夜の幽霊退治だって、あれだけのことできるGSは、そうはいないんだって。」
薫が、大してあるわけではない力こぶを出す。
「GSはものすごくもうかるそうや。ウチらがGSになったら、水元はんも、あらためて荷物運に雇ったるで。」
葵が、すました表情で付け足す。

「戻れなくてもいいなんて言っちゃいけませんよ、家族の人が心配してるんですから。」
 おキヌが食後の果物を持って戻ってきた。

「家族なぁ〜、心配してると思う?」
「どーなんやろ?」
「さ〜ぁねぇ〜?」

三人の気のない反応に戸惑うおキヌ。

最強クラスのエスパーということで、葵たちは、普通の人だけでなく自分たちの家族からも距離を置かれてきたという事情がある。
 ある意味、子どもたちにとっての”家族”は、いつもいる三人だけと言える。常に、三人一組で行動するのも、お互い、他の二人を”家族”と思っているからだ。

「家族‥‥ですか。」
 水元の声にも、苦さと冷たさが混じっている。

 彼にとっても”家族”という単語にあまり良い響きはない。

 天才と云われた少年〜青年時代。それぞれの時期のエリート校に通うため親元を離れ、家族との思い出は少ない。勉強の邪魔にならないようにか何につけ遠慮する家族に反発も感じていた。

おキヌは、それぞれの表情から触れられたくない点に触れてしまったことに気づいた。

「知り合ったばかりなのに、余計なことを言ってしまったみたいですね、ごめんなさい。」
 本当にすまなさそうに頭を下げるおキヌ、顔を上げると眼も少しうるんでいる。

「わぁー、水元がおキヌちゃんを泣かしたぁー 」
薫がはやす。

「ちょっと、待てー!」
‘お前たちも同じだろう‥‥ ’という言葉を飲み込む。

 薫が、ジロリと見る。余計なことを言うな視線が語っている。
「おキヌちゃんを泣かしたら、ウチが許さんで!」
葵もやたら力を込めて言い切る。
「おキヌちゃんみたいないい人を泣かせるなんて、紫穂、水元、大嫌い〜 」

‘何でー、俺だけが、悪者なんだ〜 ’と思うが、やはり声にできない。

「すいません。」
 とにかく思いっきり頭を下げる。
 ゴン! 
「痛っ!」
 かなりな勢いで、額がテーブルにぶつかり、反射的に額を押さえる。

おキヌは、その様子に表情を崩し、
「ちょっと、大丈夫ですか。」

「大丈夫です。」
水元も、頭を押さえながら、照れ笑いを浮かべる。
「氷室さんが、本気で心配してくれているのはわかってますが‥‥ 僕も子どもたちも”家族”って言葉にちょっと‥‥ あって‥‥」

「こっちこそ、いろんな”家族”があることはわかっているつもりなんですが、勝手に思いこんじゃって‥‥ 気にしないでください。」
 おキヌも柔らかい微笑で応え、空気がなごむ。

「なんか、話がついたみたいやが、ちょっと、感じ悪ないか‥‥ 」
葵の言葉に、薫と紫穂もうなずく。

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