ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜甘えさせてほしくて(ルシオラ)


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/10/29)

「皆さん。これより重大なお話があります」


 ぢりぢりと、蝋燭の炎が燃えてゆく。
 これがルシオラと二人っきりなら暖かい光という表現も横島にはできたかもしれないが、今回はちと状況が違った。


 横島君、緊迫した空気の中でゲンドウスタイル(手でΛ作ってその上に鼻先乗っけるあれ)を保ち、一同を見回す。
 雷に打たれたかのように、姿勢を正す一同。事態は、魔王とその眷属をビビらせる程に切迫している。


 頭上の電灯が働いてくれれば、この緊迫感も少しは弱まるのだが、それは適わぬ願いというものだ。














「生活費が……尽きました」


 ぴしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!


 その一言に。
 一同は、存在しないはずの雷鳴を、横島の背後に垣間見たという――電気すら止められたぼろアパートの一室の出来事であった。




アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜甘えさせてほしくて(ルシオラ)




 一堂の時間が止まってから、再び動き出すのに要した時間は五分。
 薄々予想はしていたが、現実に突きつけられると来るものがあったのだ。いくら魔族とはいえ、長い間世俗にもまれていればお金というやつの重要性はわかる。


「タダオ――それはつまり」
 一番最初に物申す気力を取り戻し、至極冷静に口を開いたのはアシュさんであった。流石魔王。精神が立ち腐れても、ちょっとやそっとじゃ取り乱さない……


「仕送りを全部使い切ってしまった、という事か?」
「そうだ」
「……生活費の残りは??」


 タダちゃんがま口財布の口を開き、逆さまにして振る。
 ちゃりーんっ
 出てくる銀色のコイン一枚。


「いちえん」


 せめて百円という反応を期待していた三人娘の望みは、はかなくも崩れ去った。


 ナルニアと日本を隔てる物体をあげようと思ったら、軽く掲示板の書き込み要領をオーバーするだろう。それほどに長い距離が、横島と両親の間にはある。
 今すぐ生活費を無心するとしても、こちらに届くまで時間がかかってしまうのだ。


「生活費が次に届くのはいつだ?」
「一週間後」


 これがとどめになって。
 三人娘はその場に崩れ落ちてしまった。るるるーと目幅の涙を流し、無意識のうちにたそがれるルシオラ。先月も全く同じ事態に陥ったのを思い出したのだ。


 ――慢性的金欠の原因ともいえるだけに、彼女の受けたダメージは申告である。蛍が原型だけに、最高級の美味しい水やジュースでしか生きてゆけない。自然破壊が進んだ昨今、パピリオやべスパのように、一寸眷族に言って集めさせるという真似は出来ないのだ。
 上記の理由で、食費の半分は、彼女が消費しているのである。


 いつもなら、ここでグレートマザーやファザーに縋る所だが、10回目の無心を前に、やろう二人は思うところがあったようだ。二人して頭を付き合わせ、
「バイトを探すしかないか……」
「そうだろうな……」
 死ぬほど珍しいことに、完全にシリアスな雰囲気で決意表明したのだ!




 翌日。
 どさどさどさっ!
 朝から出かけていた横島とアシュタロスの両手から、大量の紙束がちゃぶ台の上におろされる。
 せめて食費くらいは稼ごうと、即金になる内職にいそしんでいた三姉妹は、意外さそのものの視線で二人を見た。


「あ、あのアシュ様――? それは、一体」


 横島から離れられないという不自由きわまる体のせいで、怠けているしかする事のないアシュタロスが、なぜにこんな物を持ってくるのか、理解できないべスパの質問。


「アルバイト先の候補だが?」


 ぴしぃっ!


 凍るべスパ。そのリアクションに、アシュタロスが額に汗したが、べスパは気づかなかった。
 そう、気づかずに、回答したとたん泣き咽びながら、情け容赦のない本音をぶちまけた。


「ああっ! やっと、やっとアシュ様が真剣に生きる道を選んでくれた! 今までつけられたヤドカリ野郎、ホモヒモやろう、邪魔者宿六、種馬魔族、変体大魔王、その他諸々の汚名を返上するんですね!? 私も協力――って、アシュ様? 畳に頭ぶつけるなんてどうしたのですか?」


 体を尺取虫のようにぴくりぴくりと蠕動させるアシュタロスであったが、復活は意外と早かった……起き上がると、壁に向かって猛烈な勢いをもって頭突きをはじめたのだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!! 私わっ! 私わ所詮そんなキャラなんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! たまに真面目になってみたら幻のツチノコ見るような目で見られて昔馴染みの魔族からは『あんた誰?』って言われる、そんな汚れ役なんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 いまさらながら、アシュタロスの横島化はかなり深刻だった。(笑)
「ああっ! アシュ様お気を確かに!(汗)」


 何故か高々木製の壁に頭突きして出血するアシュタロスに、何故かデジャヴュを感じるルシオラ。首を傾げてからすぐに思い当たることがあった。


(私がタダちゃんのキス跳ね除けたときに似てるんだ)
 ファーストキスのときに、原作と同じような展開があったといえばわかってもらえるだろう。横島とアシュタロス、魂の双子と化していた。


「難儀なやっちゃなー」
 五十歩百歩、目くそ鼻くそを笑うの見本的行動をしているとは露知らず、横島は_| ̄|○状態のアシュタロスを放置して資料に目を通し始める。


「一体なんの仕事探すつもりなの?」
「GS」
「えっ!?」


 ゴーストスイーパーと聞いて、ルシオラは絶句してしまった。無理もない。
 彼女達は魔族というだけで、なんどかエセGSに狙われた経験があるから、GSという職業にあまりい感情を持っていないのだ。その時、巻き込まれた横島が大怪我をしたのも、ルシオラの心配を増幅させる媒介として、一役買っていた。
 しかも、その原因となる金欠の理由は、ルシオラにある。


(私のせい!?)


 とたんに泣きそうになるルシオラを見て、横島は苦笑した。


「……の、助手。せっかくとりついてるアシュタロスを利用しない手はないだろう? 少々危険でも」
「け、けど……」
「それに、この職業なら実入りも多いしな。お前にも、もう苦労はさせられないし」


 苦笑の奥に見える真剣さに、ルシオラはうれしさをかみ締める。
 久しぶりに見る、天然記念物並みに珍しい恋人の凛々しい姿だったから。自分の清田なんだと相手に甘えないことは、横島の思いを馬鹿にすることだから。
 そうだ。以下に普段はフザケテいても――やはり、この人は自分を好きでいてくれるのだと。


 そっと、優しくその背中にしなだれかかる。
「る、ルシオラ?」
「だぁめ。少しだけ――甘えさせてくんなきゃ、GSになるなんて許してあげない」
 猫なで声でささやいて、細腕を横島の胸元で組む。
 背中に触れるささやかなふくらみに暴走しそうになる理性。それを抑えるのは、横島にとってはちょっとした苦労である。
 中々凄い顔で本能を押さえつける横島を見て、ルシオラは幸せを笑みであらわし、その顔を横島の肩の上において、頬と頬を摺り寄せた。


 もしも肝心の資料の内容を見ていたら、うれしいどころか、笑顔を変えぬままに大魔神と化していただろうが。




「なあ、アシュ。ここなんかどうだ?」
「ん? ああ、駄目だ駄目だ。同じ職場に男が三人もいて、うち一人はホモの可能性が高い」
「ああ、成る程」


 狭いぼろアパート――その墨に布団を敷いて眠っていたルシオラは、魔逆の隅から聞こえる会話に目を覚ました。
 寝ぼけ眼をこすってみると、片隅に移動したちゃぶ台に向かって、アシュタロスと横島が真剣な顔で話し合っている。


 (何も、こんな真夜中まで話し合わなくてもいいのに)


 ちらりと真横を見ると、べスパと目が合った。
 考えることは同じらしく、二人とも苦笑して台所に視線を転ずる。出がらしのお茶くらいはあるはずだから、二人に夜食代わりに……
 そう考えて、起き上がろうとした二人だったのだが。





















「おおっ!? タダオ! この女性を見ろ! なんともおしとやかそうなお嬢様じゃないか!」





















 二人の動きが、止まった。


「なんとぉっ!? スタイルもいいぞ! 着やせするタイプなんかっ!?」
「ぬおおおおっ!? こっちはボディコン!!」
 彼らが手にしている資料には、その職場にいる人間の顔写真と詳しい経歴が、『女性限定』で事細かに記されていた。


 ぴくぴくぴくぴくっ
 うごめく女性二人の青筋。


「このGSなら知ってるぞ。確か、神界の小竜姫とつながっているはずだ!」
「ほほう? あの、かわいくて美人な!」
「その通り! しかも着やせするタイプでスタイルも中々……」
 ぐふふ、とよだれ笑いのアシュタロス。


 気付け元魔王! 気付け横島!
 君たちの後ろで、超高温の嫉妬のマグマが精製されているぞ!


「ああっ……ええ! ええぞごーすとすいーぱーわっ! 美人が一杯やぁ!」
「ふふふふふふふ……ふははははははははははっ! 極楽やっ! 私達は美人だらけの極楽浄土にこぎだしてぇ……」
『はぁれむやぁっ!! うははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!』


『…………』


 ルシオラとべスパ、戦闘準備完了。


『はっ!?』


 いまさら気付いても、最早後の祭りである。











 只今、お子様が聞いたら精神がゆがむような、そんな種類の悲鳴が響いておりますので、一部割愛させていただきます。
























 ぱぴりおの日記。
 ○月×日
 きょう、またちのあめがふってしまいまちた。たたみのおそうじがたいへんでちゅ。


 その後、横島とアシュが雇用主のスタイルにだまされた挙句、労働基準法に触れるような低賃金のアルバイト先を選んでしまい……
 その後、二人が恋人からどんな扱いを受けたかは言うまでもないだろう。

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