ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(9)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/29)

ヴゥン・・・ッと唸るような音を立てて動く歩道のベルトが停止したのは、メドーサとJ-0392Cが有人ゲートを通過してすぐの事だった。

そこは直径150メートル、高さ7〜80メートルの半円球のドームで、中央に直径30メートルほどの円柱が伸びていた。恐らく、その円柱が転送器なのだろう。
ドームの底面は複数の入口・職員用出入り口がある広場となっていて、内壁に沿った螺旋状のスロープが中程で中央の転送器への連絡通路となっている。
スロープには転生者と案内役が列を作って並び、下の広場は転生者や案内役、他の職員などで少し混雑していた。

今まで転送器の表面にイルミネーションのように灯されていた光が一斉に消え、代わりに規則正しく並んだ赤いランプが点灯を始めた。

「こちらは長域霊波による非常放送です。ただいま、センター全域に於いて強い時空震が観測されました。転送器と召喚器、及び移動機器を一時停止いたします。時空の歪みに捕らわれる恐れがある為、皆様は現在の場所を動かず、次の放送を待って避難を行って下さい・・・・」

アナウンスが耳ではなく頭の中に直接響いてきた。メドーサとJ-0392Cは顔を見合わせる。

「時空震、だって・・・?」

風水盤を使って人間界と魔界とを直結させた事もあるメドーサは、時空震がどんなものかも分かっていた。
そう自然に起きる事ではなく、また、体感の容易なものであった筈だ。

「ここは魔界や神界と違って、後から新造された領域だからな。時空震は比較的起き易いのさ。
・・・でも、俺も何も感じなかったぞ。全域で観測される程のものだったら、ここにいる連中、半分以上空を飛んでいる筈だ。」

周囲はしばらくざわめいていたが、それを破るように職員の一人の怒鳴る声が響いた。

「おい!センター全域どころか、隣のブロックでもこんな警報出てないぞ!何も起こってねえってよ!!」

その職員に注意が集中した後、ざわめきは一層激しくなった。


「どうなってんだよ。」
「誤報だ、誤報。早く直せよな。」
「ちょっと待て、隣のブロックが故障しているのかも」
「そのまた隣もだぞ!」
「大体、時空震って何だよ?避難しちゃダメなの?」
「次の放送って、いつ来るんだよ?」


再び頭の中にアナウンス放送が届いた。さっきと全く同じ文面のものが。
さすがに職員達は全員、この警報そのものが「異常」であると悟った。

「・・・非常装置のシステムは一分以内に歪みの位置と安全な避難経路とを割り出して発表する筈だ。
故障か・・いや、こんな初動放送が繰り返される故障なんて・・ありえない・・あるとすれば・・・」

3度目の全く同じアナウンスが流れた。

「誰かが非常装置を不正操作してわざとループさせて動かしたか・・」

「ククク・・“誰か”そんな質の悪い手の込んだイタズラする奴もいるんだねえ。
あたしの知ってる中にもいたよ。そーゆーの得意な奴。
こんなセンターとか、転生システムなんて知らない、『死んだ』事さえ一度も無いうちから特定のターゲットの『転生して行った先』を検索するプログラムなんてものを設計してしまう様な奴とかね・・。」

「・・・誰か、についてはあんたの予想通りなんだろうなぁ・・」

「フフ、珍しく呑み込みが早いじゃないか。お前のそのリアクションは予想外だったよ。」

スロープ上の各地で小さいパニックが起きていた。
我先に前へ出ようとする者、押し合う者、倒れる者、ヒステリー状態になって叫ぶ者、スロープから落ちそうになる者。
騒ぎが起こる度にJナンバー職員が蓮の台座に乗って浮かび上がり、現場を鎮めに行く。


「何で応援とか来ないんだ・・セキュリティは何やってんだよ?」
「例の侵入者の件で、この辺りのは出払っちまってるってよ!」
「侵入者?・・・・何だよ?それ?」
「まだ知らないのかよ。通路や壁壊して作業エリアに入った奴がいるって、さっきからその警報やニュース出てたろ?」
「いや、気付かなかった・・・何でわざわざそんな事して入るんだよ?」
「そこまでは知らんよ・・あっ、来たぞ。セキュリティのa-u部隊。」


職員用出入口の一つから、常に二人一組で行動する事で知られたa-u部隊が何組も駆け付けて来た。だが、様子がおかしい。口々に悲鳴を(タイミングは合わせながら)発したり、後ろを振り返ったりしながら走って来る。
憤怒の形相の目元に涙を溢れさせている者もいた。どう見ても駆け付けて来たと言うより、逃げ込んで来た感じだった。

「あぎゃ――っ!!」  「うんぎゃ――っ!!」

最後の一組が左右に開いていたドアを叩きつけるように閉めた直後、激しい音がしてドア全体が凹んだ。
音は何度も響き、その度にドアは変形していく。ドア周囲の壁にまで亀裂が走り始めた。
8回目か9回目の音と同時にドアが弾け、壁が粉砕し、雪崩れる様にして4匹のキャメランと大魔球2号3号4号が広場へ踏み込んできた。


「ギョギョエー!!」 「ンギョギョギョー!!」 「ギョギョ――ッ!!」 「ンギョエ――ッ!!」

「ゴモモモー!!」 「モモモー!!」 「モゴゴー!!」


広場内は大混乱に陥った。転生者も職員も先を争うようにしてドームの端、あるいはスロープ、あるいは出入口へと殺到する。
スロープ上のパニックも拡大していた。上へ逃げようと押し合う者や騒ぎを見ようと身を乗り出す者で揺さぶられ、ギリギリと軋んでいる。

「ああっ!!トン吉!チン平!カン太!ピン子!」

キャメランの姿を見て、それが自分のカメだと悟ったJナンバー職員の一人が叫んだ。彼の叫び自体誰も気に留めてなかったので、最後の名前について気にする者もいなかった。

メドーサは、皆が逃げ惑う中一歩も動かずにキャメランが光線を吐きながら吼え、大魔球が浮遊する辺りを見据えている。
やがて魔獣たちの手前で光が揺らぎ、立ち姿で宙に浮かぶルシオラが現われた。やはり彼女もメドーサを見据えている。


クククク・・・・いいね、お前、本当にいい。何もかもがこっちの予想通り・・いや違う・・予想以上の・・
何と言うか・・・「期待通り」だったよ・・・。



+ + + + + +



申請部・・・会議部部長補佐・・・会議部長・・・倫理調査委員会副幹事・・・公正調査役検討第3書記・・
・・センター立法局12人委員会助役・・・センター立法局総括役員・・・執行議会寸評役・・
・・執行議会特事班・・・

「一体、どこまで上に行けば決めてくれるんだよ!?」

申請・審査エリア内の廊下を早足で浮揚しながらJ-2251Aは電話の画面を見た。
通話中のアクセスが2件。1件は上司のJ-1073G課長から。もう1件は不明。
まずは課長へリダイアルする。

「2251A君、キミねえ、何、こっちの頭の上飛び越して話してんのさ!?
各部署から君の事で僕に質問やら文句やら、もう、山の様に来てるんだよ。常識で考えてよ・・
彼女の事はもうセキュリティと違反監視局の領分だよ?そんな事、マニュアルの初歩だ、初歩。
何千年この仕事やってんだよ・・・」

「・・あんたと同じだろが(ピッ)」

まったく、勘違いするなよな。Jナンバー間では役職なんて分業の一種だし、どっちが偉いとか先輩後輩とかあるわけないだろが。
あんたこそ、マニュアル1ページ目の1番上の「基本理念」から読み直せよ。て言うか思い出せ。“自分”で決めた事だろ?
もう1件へりダイアルする。誰だ?一体・・・。

「・・・・結構、待たせたんじゃない?このボクを?」

いきなり横柄な、アクセントの強いオネエ言葉。鼻声で、所々くぐもった妙な音声が入る。
しかし、続けて彼が自己紹介した時、J-2251Aは凍り付いた。

そんな上まで来てしまったのか・・・・!

しかし、彼の驚愕は、そこで終わらなかった。

「・・・メドーサちゃんとルシオラちゃんの仕切り案立てるのは、ボクで大丈夫ね。
でもね、それを通しちゃうには・・センター長の許可が要るんじゃない?」

「セ、センター長を・・・・!?」

「・・・・・7秒、よね。段取れるだけ段取ってから7秒だけ呼んで来て、許可だけ取る。
それしかないんじゃない――?」

確かに7秒が限界だ。
センター長を呼ぶと言う事は、その間のセンター全域の完全な機能停止を意味する。
それに・・・・。
事態はさっきまで以上に彼に重く圧し掛かって来ていた。
だが、投げ出すつもりも毛頭無かった。


(続く)

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