ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜おキヌ・ざ・すたんぴぃど2


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/ 3)




 横島一家とアシュタロスのファーストコンタクトは、3年前までさかのぼる。


 ことの経緯を説明するには、三人娘の生い立ちから始めなければならない。
 彼女達の存在そのものは、前述したとおりアシュタロスがさびしさを紛らわせるために作ったという和やかな理由があるのだが、その製法は和やかさとはかけ離れた物騒なものだった。


 『計画』において、手足となる魔族を創造するための技術。純粋な戦闘用として、戦闘力を高めるために寿命を一年と設定した兵隊。
 それが、ルシオラたちのより正確な出自である。
 勿論、寿命一年だの自殺因子だのは除去済みだ。だが、本来一個の生命として完成していた『命』を、無理やり別の形に歪めた反動は避けられなかった。


 原因不明の発熱。
 発作的な激痛。
 意識の混濁。
 様々な形で三人を襲う『ゆがみ』に、横島夫婦、アシュタロス共になすすべが無かった。きちんとした施設さえあればアシュタロスの手で治療することも可能なのだが――逃亡生活を余儀なくされているその身では望めぬ話であった。


 明日にもルシオラたちが、自分の家族が死ぬかもしれない。
 初めて味わう喪失感に、泣き咽びながら町をさまよっていた時。


 そんな時。
 本当に偶然偶々。


『……どうしたんじゃ、小僧』
 来日していたドクターカオスが、泣きじゃくる横島に声をかけた。




「今考えても、変な縁だよなあ」
 空港のロビーで、待ち人との縁を思い返した横島のつぶやきである。
 あの後、家に上がりこんできたカオスがルシオラたちを治療するのに、さして時間はかからなかった。『ヨーロッパの魔王』の名はだてではないと、世間一般に知られることの無い場所で証明してのけたわけだ。


 ちなみにこのカオス。その後、マリアと一緒にしばらく横島家に居ついた。パピリオにおじいちゃんとなつかれだしたのもこの頃である。


「パピリオ、少し落ち着け」
 今にも飛び出していきそうなパピリオを抑えたのはアシュタロス。GS協会に存在が露見し、駆り出されるのを防ぐために、彼女達はめったに外出しなしアシュタロスも横島の中から出ない。その彼女達が、一同に会して外に出るのは非常に珍しいし、それ自体がカオスに対する評価の証明だ。


「ボケ進んでないといいがなー」
「あら。ボケてもドクターカオスは頭がいいわよ」
 横島のつぶやきに矛盾した言葉を放つルシオラだったが、紛れも無い事実だった。脳の容量いっぱいで頭の回転が悪い状態でもって三人娘を治療したことを考えれば、さもありなん。
 機械弄りが好きで、しょっちゅうカオスを質問攻めにしていたルシオラは特にその事を知悉していた。


「ルシオラも気合入ってるね」
「当たり前よ!」
 ベスパのお言葉にルシオラさん、ぐぐぐぅっと握りこぶしを作って、




「今度こそ! ドクターと一緒に悲願を! 胸が大きくなる薬を……ってなんでそこであさっての方向向くのよーーっ!!」




 乙女の切実なる願いは一同に綺麗にしかとされた。




「タダちゃん! タダちゃんは、胸があったほうがいいわよね!? そうすれば浮気なんかしないよね!?」
「そりゃあまあ……」
「無駄な足掻きでちゅね(ふっ)」
「な、なによその勝ち誇った顔はーーーーーーっ!!!!?」
「パピの胸には未来があるでちゅ。ルシオラちゃんのは終わってまちゅ!!」
「なぁんですってーーーーーーっ!!?」
「あ、いや、あの、二人とも――」
『タダちゃん(ポチ)は黙ってる(でちゅ)!!』
「はひ!」
 火花を散らし始める姉妹。はさまれる横島はおろおろとし、アシュタロスとベスパは遠くに避難していた。




「相変わらずわかりやすい連中じゃな(汗)」
「イエス・ドクターカオス」




 遠くからでもわかる喧騒を、到着したばかりのカオスはしばらく遠望していた。
 ――巻き込まれたくは無かったからだ。
「老体には堪えるからのお」
「イエス・ドクターカオス」
 こんな時だけ爺面するカオスに乾杯。


 この行動が後の大騒ぎを生み出すなど、誰が予想しただろうか。




「あ! ドクターカオス!?」
「ぬおっ!? みつかったぁっ!」


 離れた場所に首尾よく避難していたカオスだったが、すぐさま横島に補足される結果となった。
 きびすを返して逃げ出そうとするカオスに、走りよって飛び掛る横島。その後を追うルシオラとパピリオだったが、目的は横島ではなく、その先にいる爺さん。


「逃げるなぁぁぁぁっ!!」
「ドクター! 胸の大きくなる薬は!?」
「無駄でちゅ! それよりも、パピを大きくする薬を――!!」
「なっ!? お前ら……っ」
「道連れぢゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「ドクターなら、乙女の夢を理解してくれるわよね!」
「パピは大人になるでちー!!!!」
「だーーーーっ!! 少し静かにせんかーーーーーーっ!!」


 ズビームッ!!!!


 自分に抱きつき、それぞれ言いたいことを言いまくる三人に向かって、カオスはためらうことなく上着を脱ぎ、魔法陣による怪光線を放った。ルシオラやパピリオには拳骨された程度の痛みしか与えられないと踏んだ上での行為なのだが……横島は別だった。


「きゃっ」
「いたっ」
「ぶべらっ!!!!」


 かわいらしい悲鳴を上げる二人と対照的に、派手に吹っ飛ばされる横島。例によって例の如く、令子にどつかれた時の如く出血していた。






 気を失った横島を、そそくさと運びつつ現場を後にする一同。
 そこを、冥子が遠めに目撃していた。
 つまりは、そういう事である。










 どたどたどたどたっ


 ――恋は、人をここまで変貌させるものか。


 美神除霊事務所の良心と名高いおキヌの思わぬ姿に、その場にいた一同――令子、冥子、鬼道の三人は一斉に引いた。
 三人の顔を、あたりを漂う人魂が照らしている。爆発的に増えつつあるそれは、火事の原因にならないとわかっていても、精神衛生上直視したくない。
 万が一、人魂が発火能力をもっていたら――今三人がいる建造物は、土台から粉々に粉砕されるだろう。


 どたどたどたどたどたっ!!


「けんじゅーにらいふるにみさいるだんとーに……ないふにだいなまいとに……」


 人魂はその中央でパニック起こしているおキヌちゃんが、混乱の中で量産しているものである。
 令子の事務所にある倉庫から、ありったけの対人武装を持ち出し、リュックに突っ込んでいく。なんでんな物騒きわまるものが群れなして倉庫にあるのかは聞いてはいけない。


「さあ! 準備は万端です!」


 危険物満載火気厳禁のリュックサックを背負って、


「待っててください横島さん! あなた(強調)のおキヌが今助けに行きます!」


 なんか、さらりと聞き捨てなら無いような台詞が飛び出したような気がしないでもない。が、あえて三人は無視した。
 殺したって死ぬような奴じゃないから放っておけよ、と進めようとした一同だったが、怖いので誰も口に出さない。


「いざ忠臣蔵―――――――っ!!」
 叫んで窓から飛び出していくおキヌちゃん。両手に殺戮の武器を持った巫女服の少女は、良くも悪くも人目を引いた。
 大石蔵之助かい。


 しばらく衝撃の余韻で硬直していた一同だったが、さすがと言うか令子さんの復活は早かった。
 ――何も言わずにコーヒーの準備をしだす令子に、鬼道は引きつり笑いを浮かべ、
「追わんでいいんですか?」
「いいのいいの。どうせすぐ戻ってくるから」
「なんで〜?」
 いぶかしげに問う冥子。
 令子は涼しげにアイスコーヒーを飲み下すと、きっぱり言い切った。





























「だって。あの子ドクターカオスの人相知らないじゃない」
『あ』


「ふぇ〜〜〜……美神さ〜〜〜〜〜ん」
 おキヌが半泣きで帰宅したのは、鬼道と冥子が出されたアイスコーヒーを飲み干した直後であった。
 ……かなり間抜けな話である。


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