ザ・グレート・展開予測ショー

白い混濁と淡い気持ち5


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/30)



「何であの二人を組ませたの?」
 タマモはなんという気もなく先を進む美神に訪ねた。
 確かに何かを探すのに部隊を分ける、これは戦術としては間違ってはいない。
 美神と横島を分けて隊を作るのにも問題はない。この二人はいまやGSの中でもトップを誇っている。戦力を集中させないためにはむしろ当然のことであろう・・・
 だからこの編成にはまったく問題はない。だが無駄にこのような編成を組むわけではないだろう。
「そうです、美神さん。何でシロちゃんと横島さんが(何で横島さんが、横島さんが・・・)」
 おキヌもややジェラシーのようなものを浮かべた表情で、美神を見つめた。
 薄暗い廊下を、美神、おキヌ、タマモの順で進んでいるわけだが、後ろに続く少女たちの疑問を答えもしないで美神は歩き続いてゆく。
「ちょっと、美神さん?」
 おキヌは声を上げない美神に眉をひそめながら、さらに声を上げた。
「別に意味なんてないわよ。ただちょっと気になることがあるだけで・・・」
 美神はそう愛想笑いしながら、横島の懐に収まっていたものを思い出した。
 ここに来る前に密かに入れておいたのであろう、小さな子犬の姿を。小さい年齢であるがゆえに、常に己の身から流れる霊波によって命を蝕まれる子犬。だが・・・何のために霊波は流れ、どういった作用があるのか・・・
 美神はそれを知るためにあえて直情的な二人を組ませることにしていたのだが・・・
  

 さてさて、この思惑はどうなることか、この結果を美神が知るのはさらに時間がたつことになる。




 医者の霊の振り上げた刃は、その煌きを朱へと変えて鈍い音を廊下へと響かせた。
 ――ぶしゅ!!
 と、気持ちが悪くなる異音。シロは驚愕で目が見開く・・・
「あれ?・・・」
 と、素っ頓狂を上げたのは横島だった。
「どうしたんだ・・・?」
 シロは目に映る光景を信じられないといったような面持ちで見続け・・・
「ちくしょぉぉぉぉ!!!」
 思いっきり叫び、右腕の霊気の刃をこれ以上はないというほど収束、展開させた。
 解き放たれし白刃は、ギャリギャリという不快な音を上げつつ壁を、手すりを、ありとあらゆるものを砕け散らせて突き進み、求めるべき獲物を探して激しく進んだ。
「ぎゃぎゃ!!?」
 シロの異変に気づいた霊はすぐさま飛び離れるが、すでにもう遅い!!
 狼の神速に人間の霊が勝てるわけもない。
「斬り裂けぇぇぇぇ!!」
 シロは涙を流しつつ、思いっきり両腕を振り下ろすのであった。
 何も残らないように・・・




「先生!!」
 シロはすぐに後ろを振り向き、横島のほうへと駆け出す。
「大丈夫でござるか?」
 そこには腹部を刺された横島がたたずんでいた。
 彼はなぜ自分が指されたのかわからないかのような表情で・・・いや、実際なぜ刺されたのかわからないでいた。
「な・・・んで、俺傷負ってるんだ?いつ刺されたっけ?」
 足から力がぬけ、ドサッと尻餅をつく横島・・・その瞳は力がなく、声にはただ狼狽と驚愕しか刻まれない。
「なぜ・・・なぜ拙者を庇ったりしたんですか!!」
 シロは泣きながら傷口をなめ始めた。
「死なないで下され!!先生、死なないで下され!!」
 そう叫びながら、シロはひたすらに傷口をなめる。
 横島はこの発言により、自分がシロを庇って刺されたことを始めて知った。
(なんか・・・刺されてもあんまり痛くはないんだなぁ・・・そういえばちょっと前にも刺されたことあったけどそんなに痛くはなかったなぁ。今みたいな妙な脱力感はあったけど・・・)
 横島はどこかボーっとする意識の中、イロイロと考えを・・・人生の走馬灯縮小版とでも言えばいいのか、とにかくイロイロと考えをめぐらせていた。
(最後くらいきれーなねーちゃんに抱かれて死にたかった・・・シロもあと何年か経てばいい感じになってたのかもしれんが・・・そういえば前もこんな感じで俺倒れてた様な・・・・)
 そこまで考えてから横島は違和感を感じる・・・
(あれ・・・?前は確か『せめて女の胸に顔をうずめて死にたいー!!』とかいっても結局生きていたような・・・ン?そういえば俺さっき思ったよな?今みたいな脱力感って・・・あれ?・・・)
 奇妙な違和感、そして脱力感のもと、横島はだるく、なかなか照準の定まらない瞳を、腕の中の子犬へと向けた・・・そして、見てしまった。

 腕の中の子犬の瞳は、怪しく光り輝いていることに。
(こういうことか・・・よ。やばい・・・意識が・・・)

「先生、死なないでくだされよ!!」
 そういう弟子の声がどこか遠くから聞こえるような気がして・・・横島は気を失った・・・




「せ・・・ゃは・・・たでご・・・の・・・犬の目が・・・しく・・・ことを」
 次に横島が覚醒を遂げたとき、そこは薄暗い病院ではなかった。
 いや、むしろ見慣れている・・・自分のもう一つの我が家とも形容できる場所。
 その応接間・・・彼が今見上げているのはその天井であった。
「俺・・・死んでなかったんか・・・」
 儚くそういうと、彼は目を深くつぶり・・・
「おっしゃ!!儲けた。これも日ごろの行いだよな!!うん」
 凄まじいほどの満面の笑顔でそういいきった。

 こら、普段お前の餌食になっている奴の顔を見てからそういってみろ。

「でもだからといってそうって決まったわけじゃないでしょ」
 横島はどこか荒れた声がきこえて、耳を立てた。そういえば彼が覚醒したのも、どこか荒れた声が聞こえていたからだ・・・
「でも拙者は見たんでござるよ!!先生が抱きかかえていたこの犬の目が光っているところを!!」
 ・・・まぁ確認するまでもないだろう・・・これは明らかにシロの声だ。
 しかも内容はあの子犬についてのことらしい・・・
「まぁ、先生は拙者とおキヌ殿のヒーリングで何とか無事で済んだでござるが、きっとあの犬が先生を操って怪我を負わすように仕向けたに違いないでござるよ」
 彼女は激しく声を荒げ、今にも飛び掛らんといった具合で叫ぶ。
「でもたしかさ、あんた『横島君は自分を庇って怪我した』とか何とか言ってなかったっけ?」
 これは美神の声。どこか冷静な・・・いや、むしろ己の中で事件の整理をつけるために全ての憶測を排他しようとする姿勢なのか・・・とにかくシロの激昂を一蹴する。
「な、ならばきっとあの亡者たちに力を与えるような術で・・・」
 というシロの第二の意見を、続くタマモは一蹴する。
「いくら散歩できなかったからって、逆恨みを引きずることはないんじゃない?」
「違うといっておろーが!!」
 まぁ、要するに子犬の何らかの力によって横島は傷を受けた・・・という説が今のところ有力なようだ。
 いや、状況証拠から鑑みればむしろそれが正解であろう。
 横島は恐る恐る声が聞こえる方向を見る。

 そこには一つの木のドアがずんと構えていた。
 その木のドアは薄く開いており、そこから声は進入してきたらしい。
 ゆっくりと横島はそのドアへと向かい、薄く開いたそこから壁越しの向こうを様子見る。

 そこには4人の女性がいた。もはやいうまでもない。美神、おキヌ、シロ、タマモである。
 美神は何か考え込むような、そんな表情をしていた。おキヌはどうしたらいいのかわからないような、おどおどとしたような感じだ。シロは憤懣やるかたなし、そんな気配を漂わせている。タマモは・・・わからない。ただひたすら冷静を装っている。
 壁越しに見える部屋は広い室内で、4人はそれぞれにそれぞれの表情を浮かべて対峙していた。そしてその室内の隅っこのほうには、小さな子犬が入った籠がポツンとおかれていた。
「とにかく、拙者はもう散歩してもらえなかったからって逆恨みしているわけではないんでござるよ」
 シロはぐっと拳を握って力説した。
「もう?」
 3人が半眼でシロを見つめる。
「はっ!!いや、さ、最初から拙者はあの犬は怪しいと言っておったではござらんか!」
 両手をぶんぶんと振って、すぐさまシロは返す。じゃぁ、逆恨みは否定しないんだな?みたいな視線をそれぞれが放つが、それを口にするものはいなかった。
「・・・で、仮にあの子犬が何らかの力によって横島を傷つけたとして・・・あの子犬はどうなるの?」
 タマモは美神に視線を飛ばす。
 美神はやはり考え込んだまま、口を開く。
「・・・最悪の場合は吸引するしかないのよね。横島クンが怪我したけど・・・状況証拠をみるのならあの子犬がなんかしたってことになるんだけど・・・」
 そういいながら美神は首に手を当てる。どうも何かが引っかかる・・・
「じゃぁ・・・あの犬を・・・殺すの?」
 タマモはそんな美神に、恐る恐るという感じで声をかける。何事かを考える美神を気遣うといった意味もあるが、例の子犬と自分とをどこか照らし合わせているのかもしれない。
「わからないわよ・・・あの子犬の真意なんか誰もわからないし。ただ場合によっては吸引のあと破いて燃やすかもしれない・・・」
「!!!!」
 そこまで美神が言った後、タマモは驚愕でその瞳を大きく見開いた。
 とはいっても彼女の発言に・・・だけではない。

 美神の後ろに写るもの・・・
 タマモはちょうど美神たちからそれが写らないように、自分の体を目立たせるように後退するのであった。
(何考えているのか知らないけど・・・後で油揚げ20個くらいおごってもらうわよ)
 そう考えながらゆっくりと出口へと向かっていくのであった。


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