ザ・グレート・展開予測ショー

けして消えない思いと共に3


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/18)


 薄暗い洞穴・・・これはちょうどそんな言葉がよく似合う。
 人一人はいるにはちょうどよい幅を持つ、今回の獲物が大きめの子供といった大きさなのだから、この位の大きさのほうがむしろ住み心地はいいのかもしれない。
「いい、ぜぇぇったいに油断するんじゃないわよ」
 美神はぐぐぐっと拳を握りながら唸る。
「はい」
「へーい」
 おキヌは表情を引き締め、横島はいつものように声を上げる。
「ちょっと、私はあんたにいってるのよ」
 美神はこつっと横島の額を叩き、そのまま泣く子も黙らせんといった表情で唸る。
「あんたはただでさえ落ち着きがないんだからぁ、今回もミスったら減俸ものだからね」
「あうあう、何で僕なんですか〜」
「あんたが一番どうしようもないからでしょ!」
 と、軽く一括をくれてやる。
 まぁ、身も蓋もないようなやり取りであるが、これが士気の向上には用度いい。
 三人は、ゆっくりと洞穴の中へと入っていった。



「理沙ァ、俺はお前を見殺しにしてしまった・・・俺は何てことを・・・あの時・・・俺が死ぬべきだったんだ・・・」
 もうすでにこの女性が死んでから3年になる。
 あの後、典明が罠を解除してから彼女の遺体を拾ってきて、もともとアジトの一つを持っていたこの村へと流れ着いた。
 そして、彼は今は彼女を見下ろしている。
 物言わぬ女性。土へと帰っていく人。無事に彼女は帰ってくれただろうか?無事に帰ってくれればいい。生まれかえってくれればもっといい。次の生では自分に遭わなければなおいい。

 彼女は自分の為で死んでしまったのだから・・・

 彼は彼女を見下ろす・・・正確には彼女が埋まっている墓石を、であるが・・・

 この三年間、ずっとこの墓を見守ってきた。酒に浸りながらも・・・忘れることのできないもの。
 後悔と懺悔と・・・哀愁と・・・何かが自分の中で音を立てて崩れる・・・

 それこそ何かが・・・それ以上でもそれ以下でもない・・・

「今日で三年たつけど・・・君の笑顔は忘れることができなかったよ・・・」

 彼はそういいながら、物言わぬ女性の名残に酒をかけてあげた・・・




 薄暗い洞穴をほんの少し過ぎたところ、簡単にそれの場所を突き止めることができた。
 
 ほんの少し開けた場所に、蛍の妖光のように明るい世界・・・これは腐敗した獲物の骨やらなんやらが、自然発光しているだけだが(通称火の玉=骨とかに含まれるリンが化学反応して・・・まぁいいか)、これらのことから目標はすぐ近くにいることが割れる。
 つまり、獲物をここまでもってきて、食べる。野生の動物ならばよくあることだ。
 まぁ、つまりそんなところのものがこの先にあり、今彼らがいるのはちょうど視覚的にそれらの死角。明かりはここまでささずに、薄暗い空気を作っていた。

 美神は神通棍に霊力を込め、刃となした。
 横島も腕に霊力を込めて、普段の自分の腕より一回りほど大きい腕を作り出す。
 おキヌは彼らを習うように霊気を収縮させ、・・・武器ではないが、笛を取り出す。
「いい、この先に目標がいるはずだから、いち、にい、さんで一気に突っ込んでいくわよ」
 と、美神が小声で話す。
 いつも彼らは美神を先頭とし、次方の横島、サポートのおキヌ、といった連携で除霊作業を行っていた。今回もこの作戦を行うらしく・・・と言うか、ほとんどの敵に対してこの作戦は有効である上、彼らにこれ以外の使用条件を見出せないでいた。

「いち」

 美神が神通棍を突型に構え、目を鋭くする。
 おキヌも瞳に緊張を走らせ、いつの間にか取り出した笛を口元へ持っていく。

「にぃ」

 横島は手に取り付いた霊気の塊とでも言うそれを、鋭く凝縮させて何か刃のようなものへと変えた。

「さん!!」

 美神は洞窟の暗がりから、まっすぐに突っ込んでいき神通棍を振り上げる。

 獲物は・・・・・・いた!!今はちょうどお食事中らしく、腐肉をあさっていた。

 それはちょうど大きい小学生といったところ、全身緑がかっていて体に似合わないくらい筋骨隆々としていた。
 そして・・・
「くっさいじゃないのよ!!」
 とまぁ、全身から並々ならぬイカ臭さを発しており、それ(目標)はこちらに気づいて腐肉を投げつけてくる。
 美神はその肉を棍で叩き落し(しかも破片とかが自分にかからないように)、まばゆく光り輝くそれをすばやくふりおろす。
 がばっと地面のいくらかが跳ね上がり、その威力の凄まじさを物語る。
 が、そのときは目標はすでに美神の右脇へと位置を変え、その太い腕で持って獲物を喰らいつかんと振り上げる。
「横島ぁ!!ぼさっとするな!」
 美神はすぐさま声を振り上げる。
「わかってますよ!(ったく、そうすぐにあわせれますかって・・・)」
 そのときにはすでに、横島はさらに目標の側面へと移動していき、腕に携えた刃状の力を獲物へと叩き込めるべく振り上げる。
「おおぉうじょぉうせいやぁぁぁぁ!!」
 裂迫の気合と共に振り下ろされた刃は、全てを断ち切らんがごとく、空を裂き、獲物を両断するはずだった。
 だが、じぃぃぃぃん・・・と、伝わったのは乾いた音・・・痺れる感触。
 横島が振り下ろした刃は、ゴブリンの強固な筋肉の壁に阻まれ、それ以上の成果を許さなかった。
「んな、馬鹿な?」
 横島はその光景に仰天して、一歩下がる。
「馬鹿はあんたでしょ!もっと的確に攻撃しなさい!」
 美神も体勢を立て直すべく後退する。
 だが、そうはいっても美神は額に汗が流れるのをとめることはできなかった。
 先程の連携は自分で思うのもなんだが、完璧だ・・・やつの反射神経はそれに追いついたのだ。かなり厄介な相手だ・・・しかもことはそれだけではない。
 こと単純な霊力だけでなら、この美神令子ですら上回っているこの横島の刃を、まったく通さない頑強な体・・・
「うっほうっほうっほ♪」
「・・・・・・・・・・」
 と、目の前のゴブリンは己の強さを誇示するように、ドンと胸を叩くのであった。
「帰っていいっすか?」
「だめに決まってるでしょ、横島君。いくら馬鹿みたいに思えてもお金がかかってるんだから・・・」
 二人は萎えそうになる気持ちを奮い立たせるため、再び刃を構えた。
 それにたいして目標であるゴブリンも身をかがめて、突撃の姿勢を作る。

 そんなときのことである。

 ピリリリリリリリリリリィィィィ――――

 鼓膜を打つかのような異音。
 それは洞窟内を狭そうに反響しながらも、確実に指向性を持ってつき進む。
 そして、それは確実に獲物へ取り付く

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ」

 それに取り付かれたゴブリンは、半ば恐慌状態になって叫びだした。
 必死に身をもがいて抗おうとするが、絶対的な行使力とでも言うべきか、まるで押さえつけられたかのようにゴブリンは動けないでいた。
「やった、おキヌちゃん。お手柄ね!」
 美神は表情を緩め、いまだ死角に隠れているであろう少女に向かって叫ぶ。
「ありがとうございます。でもなるべく早くしてくださいね。いつまた動けるようになるか、抵抗が強くてわからないですから・・・」
 彼女もやや笑うような声で、でも少し疲れ気味に答える。
 美神はゆっくりとゴブリンに近づいていき、その間に棍に思いっきり霊力を込める。すると、棍は次第にその形状を変質させてゆき、ついには鞭のようなものへと変わる。
「さて、いくらあんたの体が硬くっても全身、ってわけじゃないわよね。関節はどうしても鍛えられないものね」
 と、どこか女王様を匂わせるような感じで鞭を振り上げた。
 
 ・・・と、ゴブリンは死を覚悟したのであろうか、最後の抵抗をする。

 動かないはずである顔を無理に上げ、思いっきり叫ぶ。
「アアアアアアアアアァァァアァア!!!!」
 その先には・・・


 それは放たれたと同時に凄まじい加速を見せた。
 まっすぐに突き進んでいき、あらゆるものをなぎ倒すべくして目標に迫る。
 それは弾丸、それは命。
 文字通り、体の自由の利かなくなったゴブリンは、己の命を糧として、反撃に出た。
 横島は不意に放たれたその霊気の弾丸とでも呼べる何かをとっさによけた。
 そのままそれは速度を落とさずに突き進んでゆき・・・
 その先にいたのは、いまだ笛を吹き続けているおキヌがいた。



「おキヌちゃん!!!」
 横島の声だけが、空しく暗がりに響くだけであった。




 彼は酒を飲んでいた。馬鹿みたいに、朝から晩まで・・・
 それ以外には何も求めない。
 傍らには愛すべき女性が『確かにここに存在した名残』だけが形をなし、自分はそこでまるで飽和状態のビールの泡のようにここにいればいい。
 彼がそれを目撃したのは、自分を皮肉げに笑ったその次の瞬間であった。




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