ザ・グレート・展開予測ショー

白い混濁と淡い気持ち3


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/29)

「でもちょっと言い過ぎだったんじゃないですか?横島さん、結構気にしているみたいでしたよ?」
 一人淋しく車の荷台に除霊道具を詰め込んでいる横島を眺めながら、苦笑いを浮かべたおキヌは美神に話しかける。
「いいや、そんなことはないでござるよ。先生はどこかの性悪狐のような犬に騙されているのでござる。先生が拙者の散歩を拒否するだなんて考えられないでござる」
 よこからシロが首を振って即答した。
「性悪狐って誰のことよ?それにあんたの散歩はいつもいやいやに行ってやってるだけでしょ?もっとよくものを見てからいったらどうなの」
 さらにその脇からシロを半眼でにらみつつ、タマモが声を上げる。
「なんだと!」
「なによ」
 シロとタマモは互いに見詰め合ったまま次第に緊張の火花を散らしていった。別の意味で見詰め合ってくれたらとっても(本当にもう)うれしいのだが・・・
「だぁぁ、やめんかー!!話をややっこしくするなー!!」
 そこにいつものようにややブチ切れ気味の美神が2人を引き離す。
 
 ここは横島のいるガレージがちょうど下方に見下ろせる場所。部屋と部屋をつなぐ廊下に設けられたちょっとした遊びの空間とでもいったところ。とりあえず、ここには人が5人ほどいても余裕のあるスペースとなっている。
 ちょうどこの真下からは横島の姿を捉えることができる。これから除霊作業にあたるということで、美神の車の中に道具の一式を詰め込んでいるところであった。
 話題を切り出すために先に美神が口を開く。
「ケンカならあたしの目の届かないところでやってよね。それよりも今はあの犬のことのほうが肝心でしょ?」
「え、結局美神さんもあの犬のことが心配なんですか?」
 ちょっと驚いたような、だがやっぱりといった感じで手をぽんっと打ったおキヌは、笑顔で声を上げる。
 それにたいし美神は慌てて手をふり、声を荒げた。
「そ、そんなわけないじゃない!!そうじゃぁなくてあんたたち、あの犬から何かを感じなかった?」
 不意に真摯な瞳で美神はそう切り出すと、三人は仕事のとき、総じて除霊作業にあたったときのような表情へと一変する。
「なにか・・・ですか・・・」
 おキヌが深く考え込む。その表情はどこぞの探偵のようだ。
「拙者は・・・なにも・・・」
 というかシロは冷静な状況ではなかったので、期待するだけ無駄かもしれない。まぁ感じたといっても嫉妬とかなんとかみたいなものであろう。
「わたしは、ちょっとおかしいとは思っていたけどね」
 シロを横目で見て(あてつけ)、タマモはそう切り出した。まぁ、彼女にいたっては普段から冷静であるがゆえに、何かをより感じようとする余裕があったからこそできうるわけであるのだが。
 皆の視線がタマモへと移る。
「やっぱり。で、どんなものを感じた?」
 美神は不安に似たような声色で、タマモに言葉を繰り出した。
「わからないけど、すごく弱い霊波のようなものが常にあの子犬から流れていたわ。あのくらいの小さな子犬がそれをずっと出しっぱなしだと・・・いずれ死んじゃうでしょうね・・・」
 その子犬のことを思ってか、どこか辛そうにタマモは語る。
「そう・・・やっぱりね・・・」
 そのことを先見していたのか、美神はそういうと、ふぅっとため息を吐き出した。




「美神さん危ない!!」
 せまり来る亡者の行進を一陣の風がなぎ払った。
 風たちはものの見事に二体の命なき屍をほふると、さらにその軌道をたち変え三体目の屍をむさぼり喰らい尽くす。
 そして立ち去った風の後に現れたのは、一振りの霊波刀を携えた若者の姿がそこにあった。
「ナイス!横島君!!そのまま押してって!!」
 その若者に黄色く(?)乗りに乗った声援・・・
 実体のない亡者たちに囲まれ、それでも余裕たっぷりに一人の女性が檄を飛ばす。
 だがしかし、その両の腕にはいつも握られている神通棍の姿はなく、その代わりに一つの赤いメガホンの姿が・・・
「がんばって横島君!!」
 メガホンの効果によって反響する声・・・
「って言うかあんたプロでしょーが!!」
「師匠を楽させてこそ弟子でしょう!!」
 二人は同時に叫び、自分たちを囲む亡者たちを邪魔だといわんばかりに弾き飛ばす。

 ・・・う〜ん、いい連携だ・・・


「バカ犬邪魔!!」
 醜い師弟の口論とは無関係とでも言いたげな少女が、燃え盛る炎という名の顎(あぎと)を死霊の群れへと繰り出した。その顎は真直ぐただひたすらに並み居るありとあらゆるものを燃やし尽くし、世界を赤く染め上げ、派手に爆裂した。
 一人の少女を飲み込もうと・・・
「な、拙者をコロス気かぁぁぁ!!」
 霊の群れを爆裂四散させた炎から転げるようにして這い出してきた狼の少女は、霊気の塊を刃となして炎を放った少女へと切り込んでいった。
「別に殺す気はないわよ。ちゃんとよけれたでしょ?」
「それは拙者がお前よりも強いからでござる!!」
 とかまぁ、ここでも意味のわからない舌戦を繰り広げているわけであるが、それでもずばずばと霊たちを切り刻みながら除霊できるあたり、この娘たちの力量の凄まじさ(と、律儀さ)を賞賛すべきであろう。

 ピリリリリリィィィ――

 そうこうしているうちに、笛の音が辺り一面に鳴り響き、霊たちはその凶悪な面・・・いうなれば夜おしっこに起きた子供が廊下辺りで出会ったらそのまま漏らしてしまうような顔を、晴れやかな表情へと変え消えていった。
 
 これはどこぞで霊体撃滅波とかを放っている人と同じ作戦で、笛を吹き一瞬で霊を除去するための霊力のチャージ時間を、何とかして死守するとか言う作戦である。
 
 今回のこの美神除霊事務所へと依頼された内容は、とある病院にたまった悪霊たちを除霊して欲しいということであった。なんでも、ここの医師のうちの一人がかなりマッドな感じでキまっていたらしく、ことあるごとにオペを行おうとしていたらしい。結局この病院はつぶれてしまい、マッドな医師も恨みのたまった同僚にメスで刺されて息を引き取ることになるのであるが・・・
 だが、今回でいうなれば問題はそこにあった。
 何をトチ狂ったのかは知らないが、この医師はこの世に大きな恨み辛みを残しながら死んでしまった。まぁ、逆恨みって奴である。だから、つまり・・・


「つまりここの親玉(ッていうか医者)を倒さないと解決にはならないのよ」
 
 人差し指をぴんっと上げて、美神がそう切り出した。
「何がどおいうことになるとその親玉を倒す=解決になるんですか」
 もはや定番になりつつあるその公式に果敢にも異議を唱えたのは横島であった。命知らずである。
「今回の事件の発端はそのやぶ医者からきてんのよ?やぶ医者の(逆)恨みが強い限りはそれに引かれて霊がわらわらくるのは当然でしょ?」
 指をピンと立てたまま、どこぞのおねーさん(特に教育TV)風に美神はそう教える。
 実際霊たちはどういうことでそうなるのかは知らないが、強い霊体、総じて強い思いに乗じて数を増やそうとする傾向にある。いつぞやの列車然り、または霊の集合体もまた然り・・・
 まぁ、霊体が強ければより目立つ・・・という意味合いは強いのだが。

 そういうわけなので、はた迷惑にも今回の医者はこの世に対する恨みが大きく、霊たちを大量に呼び込むことになってしまった。
 ・・・で今に至るわけである。

「わかった?」
「へーい」
 美神の確認に、素直に横島はうなずいた。
 つまり、まぁここは廃病院で明かりもろくに通っていない、で、意味のわからない霊どもが一杯集まっている、ということである・

「だから、なるべく早くそのやぶを見つけるためにここからは分かれていくわよ」

 とかいう美神の言葉を聞いたときの横島の表情は、想像に難くはない。


 カラカラカラ・・・・・・―――

 薄暗い闇を引き裂くような異音・・・いや、引き裂く音というにはあまりにも場違いな・・・いうなれば・・・そう、それは乳母車の音であった。まるでその音は何かを求めるかのように、長い廊下を進んでいく。
 一つ一つの部屋の前で止まり、ドアが開かれる。乳母車は開かれたドアの中へと入っていき・・・求めるものがなかったのか、すぐに引き返してしまう・・・あまりに単純な作業。しかしそうすることでしか、その乳母車はその行動理念を他に求めることができないでいた。
 なぜならば・・・

「先生・・・その乳母車は何の意味があって・・・」
 苦笑いのような表情で、シロは前方を歩く横島に声をかける。
「いや、これといって意味はないんだけどな。事務所に一人ぼっちって言うのもかわいそうだろ?」
 といいながら、横島は手にもつ乳母車を覗き見た。中には小さな子犬がぽつんと転がっており、妙な可愛さをかもし出していた。
「こんな除霊現場につれてきて、どうなっても知らぬでござるよ」
 半眼でうめくシロは、それでもどこか・・・嫉妬とでも言おうか・・・そのような光をその瞳に宿らせてうめいた。
「・・・わかってるよ、いざとなったら何とかするよ」
 そうどこか決意にも似た光を宿らせ、横島はこぶしを握った。
「そうだ、シロ」
「何でござるか?」
 不意に、横島はシロへと向き、声を上げた。
「この乳母車、ちょっと持っててくれないか?」
「わかったでござる」
 そううなずいたシロはぐっと乳母車を握り締め・・・

「子連れ狼!!」
「何を言ってるでござるかぁ!!」

 二人の耳にある音が割り込んできたのはちょうどそのときであった。


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