不思議の国の横島 ―16前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/30)
今夜は又、やけに暗い夜だ。
月の明かりが全く見えない。
―― 闇夜 ――
なんだか、今の俺の心を表しているようで皮肉な気がするな。
「………………」
明日はいよいよGS試験の1日目。
少し早いが、冥子ちゃんは明日に備えておやすみなさい。
俺も明日は、多分色々とやる事があるだろうからそれ程遅くまで起きてないで寝ようと思っていた。
準備を整えたらさっさと寝ようと……
―― そして ――
………………今、俺は1人……部屋で頭を抱えていた。
「………………」
―― コンコン ――
「横島クン〜ちょっと良い〜〜?」
ドアをノックする音が響き、六道理事長が声を掛けてくる。
「………………」
だが、俺は返事をする気もしない。相変わらず頭を抱えてベッドに腰をおろしたまま。
「入るわよ〜?」
―― ガチャッ ――
理事長は、俺の返事を待つことなく部屋の中に入ってくる。
そして、頭を抱える俺が眼に入ったはずだ。
「どうしたの〜横島クン〜?頭痛いの〜?」
「…………そりゃあもう、物凄く頭痛いです。」
俺としては、精一杯の皮肉を込めて言ったのだが、理事長には届くわけも無い。
「まあ〜それは大変だわ〜〜〜頭痛薬持ってくる〜?」
ああ、もう……理事長…………本当に貴女は…
「…いったい、俺が何で頭痛くなっているか分かりますか?」
「ううん〜〜〜どうしてかしら〜?」
はあ……
俺は大きく1つため息を吐く。
「コレですよコレッ!!いったい何なんですかコレはっ!!?」
俺は目の前に置いてあったボストンバッグを持ち上げると、理事長に向かって突きつけた。
「ああ〜〜…GS試験用の変身セットね〜〜〜♪………これがどうかしたの〜?」
「どうしたじゃねぇーっすよ!?何なんですかこのセンスは?!こんなん変装じゃ無くてコスプレじゃねーっすか?!!」
俺は、さっき一度この中身を出してみた。そして…
一目見てカバンに押し込んだ。
「え〜なんでかしら〜?ちゃんと霊衣じゃないの〜?」
「問題はそこじゃねーっすよ!!」
俺はGS試験に潜入する事になっている。勿論、既にGS免許を持っている俺が素のままで受験できるわけはない。
だから、変装という手段を取るわけだ。
そして、六道理事長が俺の為に変装セットを準備してくれたのである。
理事長が準備してくれモノ、それは………
―― 袈裟 ――
坊さんが着てるアレだね。
理事長はそれを準備してくれたんだけどさぁ………
「袈裟はいいっすよ。坊さんに化けるんですよね?確かにGS試験受ける坊主ってのは定番だし、変装としちゃあいいんじゃ無いっすかね?」
「でしょう〜?オバサン頑張って考えたのよ〜〜?いったい何が気に入らないの〜〜?」
俺は袈裟以外のモノを掴む。
「コレッすよコレ!!何で坊さんに変装するのに真っ赤なロン毛のヅラなんすか!?不自然極まりないっすよ!!しかもコレ、このグラサンも坊主がつけるモンじゃ無いでしょう!?あーもー!!本当に何考えてるんすか理事長はっ!!」
こんな格好でもし街中歩いたら、一発でオマワリ呼ばれるっての!
「でもでも〜顔を隠すのには長いカツラとサングラスが定番だって〜…何処かの名探偵さんも言っているわ〜」
「だったらせめて普通の黒髪のヅラでいいじゃないっすか?!それなら、まだ何ぼかマシな格好っす。」
大体、赤にする意味なんて無いじゃないですか?
俺は理事長を問い詰める。なんて言われても、赤いカツラにする理由なんて無いはずだ。十分理論で切り返せるはず……
「いったい、どうして赤なんですか?」
「オバサン〜赤が好きなの〜♪」
―― ガンッ! ――
俺は理事長の言葉を聞きこける。
…………終わった。
俺にはもう切り返せるネタが無い。
こんな風に言ってくる理事長を、俺がどうにか出来るわけが無いのだ。
「一応〜〜明日に備えて〜〜横島クンの様子を見に来たんだけど〜〜絶好調みたいね〜?良かったわ〜♪」
理事長はパンと手を叩いて微笑み、そんなふざけた台詞をお吐きになる。
「今の俺の何処をどう見てその台詞出てくるんすかっ?!」
「それじゃあ明日は頑張ってね〜〜〜」
―― ガチャッ、バタン ――
「聞けよオイッ!?」
俺の言葉を完全に無視して、理事長は扉の向こうに消えた。
「………もー、どーでもいーや…」
俺は、投げやりな気分に浸りながらベッドに倒れこむ。
「もう…………寝よ…」
凄く疲れた。精神的に。
俺はそのまま目をつぶり……やがてゆっくりと眠りにつく。
明日、明後日はきっと大変な事が起こるだろう。
俺はそれを、ほぼ確信していた。
………………
「どうやら問題なくいったみたいね……」
今夜は又…不自然なほどに月明かりの届かぬ闇夜。
その闇に紛れる影が1つ。
暗闇にも関わらず、それを全く苦にすることなく夜の空を飛び跳ねる。
そこは、廃れて久しい廃ビルが立ち並ぶ場所のその屋上だ。闇夜に同化した影はその屋上から屋上へと軽快に跳ね回る。
「ふふふ……今夜もこれでおしまい……っと。ちょろいちょろい♪」
「それはどうかしらね?」
「!?」
廃ビルの屋上には、誰も居ないはずだった。
だが、居ない筈のそこに人が居る。
影をこの場に留めるように立ちはだかるのは……
カッチリとしたスーツを身に付け鋭い眼光で見据えてくる女性。赤みがかった亜麻色の髪がビル風になびく。
「ICPO超常犯罪課日本支部長官……………美神美智恵…さんだったかしら?」
意外な人物の登場に少々驚きを見せたが、影はそれほど慌てる風でもなく、目の前に居る女性に穏やかに語りかけた。
「あら?名前を覚えてくれているなんて光栄ね。しかも魔族のお嬢さんに♪」
負けず劣らず、美智恵もニコやかに言葉を返す。
「へ〜?魔族だって事まで分かるなんて………私の姿、見えてるんだ?幻惑にジャミングとステルスまで付けてるのに……いったいどうやって?」
「ふふ、それは企業秘密よ♪まあ、貴女がこのままおとなしく捕まってくれるなら教えてあげても良いけれど?」
「まあ?ふふふ……面白い人♪」
2人は向かい合ったまま、「ふふふ」「ほほほ」と微笑を重ねた。
とはいえ、当然ながらそのまま笑っている訳は無く……
「さあ、痛い目にあいたくなければおとなしく捕まる事ね、怪盗ムーンレスナイト!」
―― キンッ! ――
美智恵は腰のベルトに挟んでいた神通棍を取り出すと、霊力を込めて握りしめる。
霊力は握り手から棍に伝わり、伸縮ギミックはそれにつぶさに反応。棍の内部に圧縮された霊力は内側から眩い輝きを放ちつつ、一気に神通棍は1.4メートル程まで伸びた。
「あらあら、怖いわね♪でもでも、痛い目にあうのも、おとなしく捕まるのもどっちも嫌かな?」
「ふ〜ん………それじゃあどうするのかしら?」
影……怪盗ムーンレスナイト。その正体は魔族の女性のようである。
幻影破りの呪符をメインに、数種の強力アイテムを用いてこの場に臨んだ美智恵だが、それでも最後の部分…顔や姿は闇と同化して眼にすることが出来ない。
声と、シルエットで辛うじて女だと判断出来た程度である。
美智恵は…視線は全く動かさずに、その女魔族の動きを注意深く観察していく。
とりあえずおとなしく捕まるつもりが無いとすれば、あとは反撃してくるか…それとも………
「……逃げる♪」
「むざむざ逃がすと思ってっ?!」
隣のビルへ飛び移る女魔族を追って、美智恵も宙に飛び出した。
「うそ、本気?落ちたら死ぬわよアナタ?」
「心配してくれて有難う。でも大丈夫なのよ?私は落ちないから。」
ビルの高さは大体20メートル程だろうか?
まあ、絶対じゃあ無いだろうけど……人が落ちたら死ぬ高さといっても良いだろう。
しかし、美智恵はそんな事など気にも留めずにビルからビルへと飛び移る。
「追いついたわよっ!」
―― ブゥンッ! ――
「…っと!」
美智恵は女魔族の背中に向けて神通棍を振るった。十分に力と速度を乗せた一撃だったが、女魔族はなんなくそれをかわす。
「ちょっと〜!危ないじゃないのよ!も〜…」
「だったらさっさと止まりなさいっ!」
―― ブゥウンッ! ――
「たっ!?ととと……」
「ちっ?!ちょこまかと…」
美智恵は一線級からは若干遠ざかっていたとはいえ、まだまだ現役最強との呼び声も高い超一流のGSだ。しかし、女魔族はその美智恵の振るう神通棍をことごとくかわす。
「でも………今よ、西条君っ!!」
「結界展開っ!!」
「えっ?!」
美智恵が合図を出すと、今2人がいるビルの両隣からオカルトGメンのメンバーが一斉に飛び出した。
<後半に続く>
今までの
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