不思議の国の横島 ―18前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/11/ 5)
いったい、何がいけなかったんだろう?
俺は自問を繰り返す。
そして、今の状況を何度も整理してみた。
まず……
何故かエミが怒っている。カッと見開かれた両目は血管が浮き上がり、わずかにウルウルとした物を滲ませながら俺を睨んでいた。
だが、いったい何に怒っているのか?
肝心なその部分が全然わからない。俺は何かエミに怒られるような事をしたか?
「ねえ!よ・こ・し・ま・さんっ?!いったいどーゆー事なのかしら!?この娘っていったい全体横島さんの何なワケ?!」
「いや、待て!何故登場するなり何をそんなに怒っているん…」
―― バコンッ! ――
「ダッ?!!」
「この浮気者ーーーーーぉぉっ!!!!」
―― ズシャーーーァッ! ――
エミのコークスクリューブローが的確に俺のテンプルを捕らえる。
世界を狙える良い右だ。
俺はキリモミしながら地面を転がる。転がる俺の後ろに、盛大な砂埃が舞い上がった。
しかし、浮気者って何だ?!浮気者って!!?
俺にはエミの言葉の意味が理解できない。いったい俺がいつ浮気をした!?
こっちの世界では『浮気』はおろか『本気』すらないんだぞ?!
地面を滑りながら、俺はそんな事を考える。そしてようやく止まった時、人の足が俺の視界に入ってきた。
ツーッとそこから視線を上に上げていくと、そこには…
あ……白。
ではなくて、見知った顔。
「あれ、令子ちゃん?………やあ、久しぶり。」
この間知り合ったばかりの、俺に向かってGS試験を主席合格すると言い放った令子ちゃんが俺を見下ろしている。
でも、何故かこれまた物凄く怒っている風に見えた。
だが、俺の顔を見て驚きの表情が変化する。
「あ、アンタは!?横島忠夫っ!!?」
どうやら、俺と同じでいきなりの再会だったから驚いたって所かな?
と…俺はある事に気が付いた。令子ちゃんの額…左目の上にプックリと大きなタンコブが出来ていたのである。
「ん、あれ?ど、どうしたのそのタンコ…」
―― ドゲシッ! ――
「ブッ?!!」
「アンタの仕業かーーーーーぁぁっ?!!!」
何の事ですかーーーーーーーぁぁっ?!!!
令子ちゃんの突き上げるようなガゼルパンチが、俺のジョーを最高のタイミングで打ち抜いた。
こ、ココにも世界を狙える器が…
2軸回転しながら宙を舞う俺。
今日は厄日だ……
「ちょっとアンタ!横島さんに何するのよ?!」
「アン?誰よアンタ!?」
まだ左の拳を天に突き上げたままの令子ちゃんに向かって、エミが猛然と食いかかる。
俺が殴られた事を怒ってくれているみたいだけど、さっき自分が何をしたのか分かってるかエミ?
「アタシは小笠原エミ!横島さんの……えっと、その…あ〜………」
俺との関係を説明しようとしたエミだったが、そこでなんと言っていいのか困ったようだ。
エミはもじもじとして言葉に詰まる。何故か顔が赤くなっていた事だけは良く分からなかったが…
「ア、アンタこそ誰よ?!横島さんの知り合い!?」
「フン!私は美神令子。今年のGS試験を主席で合格する予定だから、名前を覚えておいても損は無いわよ?横島とは…………まあ、ちょっとした知り合いって所よ。」
ごにょごにょと最後の部分をうやむやにしたまま、エミは逆に令子ちゃんに向かって切り返した。
令子ちゃんはまるで挑発するような台詞を吐く。俺の背中を冷たい物が駆け抜けた。
これはヤバイ!何故かは分からないが、とにかくヤバイ!
言葉には出来ない思いが俺の中に生まれてくる。
「主席?……いや、それは置いておいて………アンタ、横島さんを呼び捨てにしないでくれる?」
「はあ?何それ?そんなの私の勝手でしょう?頭悪い娘ねぇ……」
意外にも、主席云々よりも呼び捨てのほうに反応するエミ。
それはまあ良いとして、令子ちゃんは更に挑発するような台詞を口にした。
これで、俺の中の危険信号も注意報から警報にレベルアップ。もう、この後の出来事を思うと……
「あぁん!?何アンタ、喧嘩売ってるワケ?!!」
「あら?別にそんな気は無いわよ。ただ見たままの感想を素直に言っただけ。だって、頭悪く見えるわよ…そんなに真っ黒に焼いちゃって?」
令子ちゃんはエミの全身を軽く眺めてから言う。
当然エミも黙っている訳は無い。
「これは地よ!健康美ってやつよ!それが分からないなんて目玉腐ってんじゃないの?!って、アンタこそ馬鹿みたいに髪の毛染めてんじゃないのさ?日本人なら黒髪でしょ?!この茶髪馬鹿っ!!」
「なっ?!私だって地でこの色なのよっ!!ママ譲りの綺麗な亜麻色髪って評判なのよ?!バカ黒女っ!!!」
もう、売り言葉に買い言葉。
「バ、バカ黒女っ!!?ムカつくわね、この茶クソ女はっ!!」
「ちゃ…茶クソ女っ!?」
―― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ――
一触即発……初対面でこれほどまでに罵り合う2人を俺は知らない。
どうやら、徹底的に波長が合わないようだ。いや、むしろ合い過ぎるが故の反発だろうか?
いや!今はそれはどうでもよくて!
俺は、なんとかこの事態の収拾をしようと試みる。
「ふ、ふたりともストップ!ちょっと落ち着いて…」
「アンタは引っ込んでろーーーーーぉぉっ!!!」
「横島さんは黙っててっ!!!」
―― ドゴッ!ドガンッ! ――
「世界を…ね、狙おうぜ……本気で……………ガクッ…」
これだけいがみ合っていても、何故か息もぴったりなダブルパンチが俺の左右の頬にめり込んだ。
俺は何処かの劇画のようにスローモーションで崩れ落ちる。
「横島さ〜〜ん…しっかりして〜〜…」
「あ、ああ…冥子ちゃん。あ、ありがと。な、なんとか大丈夫だから……」
速すぎる展開に今までまったくついて来れなかった冥子ちゃんだったが、ここで崩れ落ちる俺に駆け寄って心配してくれた。
ああ、さっきまではアレだった冥子ちゃんが、今は天使に見えるよ……
「ショウトラ〜〜お願い〜〜」
「ばう。」
冥子ちゃんの影からショウトラが出てきて、俺のボロボロの身体をヒーリングしてくれる。
俺は冥子ちゃんの優しさが染みて涙が出てきた。
「あっ!?そうだったわ!こんな茶クソ女の相手してる場合じゃ無かったワケ!!」
冥子ちゃんは地面に寝転がる俺に寄り添って、俺の頭を抱きかかえてくれる。
その様子を見たエミが、ハッとした顔を見せて俺達のほうを振り向いた。
「ちょっと、アンタ!!」
「え〜〜と〜〜…私〜〜〜ですか〜?」
令子ちゃんに向けていたものと同じかそれ以上の視線を、今度は冥子ちゃんに向ける。
「アンタ!いったい横島さんの何なワケ?!どうしてそんなに親しげにしてるのよっ!?」
「え〜と〜〜ん〜と〜〜わ〜た〜し〜〜〜」
冥子ちゃんは必死に喋ろうとしていた。俺にはそれが分かった。
だが、エミの剣幕にビビリ入ってるのと、あとは元々のスローペースもあり、エミにはその必死さが伝わらなかったらしい。
まあ、仮にそれが伝わったとしてもエミにはこのペースは辛そうだが。
「イライラするわね!とりあえず、横島さんから離れるワケ!」
―― あっ?! ――
エミがスッと手を伸ばして、冥子ちゃんを軽く押しのけようとする。
……それはまずい。
折角ようやくなんとか収まってくれたというのに、そんな事をしたらまた冥子ちゃんがプッツンしてしまうですよ!
―― ガシッ ――
「あっ!?」
「あ〜〜〜」
俺は冥子ちゃんを庇う様に動き、すんでの所でエミの腕を掴んだ。
―― ホロッ ――
「えええっ?!!」
何故かエミの眼から涙がこぼれる。
待って!
なんで?!
何がいけなかったの!?
「横島さんは………その娘の味方なの?」
「はっ?」
<中半に続く>
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