ザ・グレート・展開予測ショー

知ってるようで知らない世界―2―


投稿者名:誠
投稿日時:(03/11/ 3)


「朝か・・・。」

横島は教会のベッドの上でつぶやくと大きく伸びをした。やはり精神的にも肉体的にもかなり疲れていたらしい。
昨日、気がつくとなぜか自分の記憶がなかった。なぜなのかはまったく分からないがやはり不安なのは確かだ。

自分が何者なのかなどほとんどの人が考えなくてもいいようなものではないか。自分が小さいころから積み重ねてきた記憶があって人はそれで自分で自分という存在を自覚している。しかし今の横島には過去がないのだ。不安になるのも当然だろう。しかも風呂で自分の体にあるたくさんの古傷を見て、自分が普通の人間ではないのではないかというの過去への恐ろしさまで感じた。

しかし、気づいたときには知らないはずなのになぜか懐かしい感じがする人たちが周りにいた、それだけで自分の感じていた不安が少し癒されるような気がした。今日には自分の素性がわかるかもしれないと美智恵さんはいっていたし、どのような過去なのかわからないが思い出したい。自分が何者なのかを・・・。

−ガチャ−

「おはようございます」

「やあおはよう。よく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございます。」

横島が部屋から出ると朝の礼拝を行っていた神父がいた。ピートは学校にいったらしい。二人は雑談をはじめたがそこで横島は信じられないことを耳にした。

「えっ!じゃあ、あの二人も神父の弟子なんですか?」

横島は昨日の食事中の会話などを思い出して愕然とする。何やら傲慢な感じだがどこか子供っぽい娘の令子、そして脱税をネタに娘を脅す母。とてもこの見るからに人格者といえる神父の教えを守っているとは思えない。

「美智恵君の方は研修の最後に少し預かったんだよ。でも、そうだね、私では・・・二人とも改心させられなかったのだよ・・・。」

なにやら空に向かって祈り始めた神父の髪の毛が数本抜けていったような気がしたのは気のせいではないだろう・・・。かなりの罪悪感を感じているようだ。





ICPO、オカルトGメンのオフィス。そこで美智恵は部下の西条に作らせた調査報告書を見つめて大きなため息をはいた。
「これはどういうこと?」
彼女は考える。しかし、考えても無駄だと思い職場と隣あっている娘の事務所へとむかう。その手には『横島忠夫調査報告書』とかかれた封筒があった。





美神除霊事務所では、令子が夕方からの除霊の準備をしていた。

―ピンポーン―

「人工幽霊一号、誰かきたの?」

令子が誰もいないのに話し掛ける。しかし、

「はい、オーナー。美智恵さん、唐巣神父、そして昨日の横島さんがいらっしゃいました。」

この家を管理している人工霊が機械的な声で答える。

「ありがとう、通して頂戴。」

まもなくして部屋に三人が入ってきて令子も加わり四人でソファーに座り話しはじめる。

「で、ママ横島君のこと何かわかったの?」

「それが、戸籍には彼と一致するものが見つからなかったわ。」

「戸籍がない?」

「しかし、あれだけたくさんの霊障があるのなら何かの事件の被害者か何かじゃないのかい?」

「いえ、そういうものも調べての結果ですし・・・。意図的に隠されているのならわかりませんが・・・。」

室内にどんどん暗い空気が満ちていく。しかしそれを嫌った令子が明るい声で提案する。

「じゃあ横島君、あなた記憶が戻るまでここで助手をしなさい。」

「れ、令子。素人にそんな危険なことさせられないでしょ!」

「なによ、いいじゃないちょうど荷物持ち探してたとこでしょ。それに荷物もちなら別に危険はないわよ。横島君どう?住むところと、とりあえず必要なものを用意してあげるわ。それから時給も払ってあげるわよ。」

「令子君、君がそんなやさしいことをいうなんて・・・。主よ今日この日の喜びを私は忘れません!」

なにやら涙を流しながら神父はまた祈りはじめた。

「本当ですか!美神さん!こちらからお願いしたいぐらいです。よろしくおねがいします!」

横島も喜ぶ。しかし、美智恵は少しいぶかしげな顔をしていった。

「令子、本人が喜んでいるからいいけど・・・あんた時給200円なんていっちゃあだめよ?」

母の一言にビクッとした令子を見て神父は今度は違う涙を流し、横島は自分の生活に不安を覚え、美智恵はもう一人の娘、ひのめの教育方針を練り直し始めたのだった。







本日の除霊現場は郊外にある森。自殺の名所として有名な場所らしく夕方なのに森の中は闇に包まれている。たくさんの自殺者の霊がいるらしいがネクロマンサーという特殊能力を持つおキヌがいれば簡単に終わる仕事だ。三人は森の入り口まで来ると決めていた作戦通りに展開する。

「おキヌちゃん、ネクロマンサーの笛を!横島君!あんたはおキヌちゃんの後ろにいなさい!」

令子自身は神通棍を出しおキヌをガードする位置に立つと身構えて、森をにらみつける。

―ピュリリリリリリリー―

おキヌが笛を吹き始めるとたくさんいた霊がどんどん穏やかな顔をして成仏していく。この世に感じていた未練、苦しみ。それらを理解し癒してくれる笛の音が響いている。おキヌの顔はやさしさに満ちていてその姿は可憐だった。
一方美神は笛がきかなかった霊を神通棍で切り裂いていく。その顔は凛々しく美しかった。横島は二人の対称的な美しさを持つ除霊に見入っていた。

しかしその時、森の奥から巨大な熊のような霊があらわれた。一見熊に見えるが手が四本あり、そして目が六つもある。
その異様な姿に三人は気を引き締める。美神は熊霊に切りかかっていった。しかしさっきまでの除霊で疲労がたまっていた令子の攻撃は片手で受け止められ、弾き飛ばされてしまった。自殺者の霊達はほぼ成仏らしく残る霊はこの熊霊だけ。しかし、神通棍もネクロマンサーの笛もきかなかった。

熊霊は巨体に似合わぬスピード距離を詰めると耳障りな笛を吹きつづけるおキヌにその太い腕で殴りかかった!

「おキヌちゃん!」

令子は叫ぶが今いる位置からでは到底間に合わない。おキヌは霊力をすべて防御に回しガードする。しかし物理的な威力もともなう熊霊の攻撃の前ではその程度のガードは簡単につらぬかれてしまうだろう。
しかし、次の瞬間おキヌは自分の目を疑った。
自分が今までいたところに横島がいた。
そして横島は左手に光る盾のようなもので熊霊の爪を受け止めていた。
熊霊は少し驚いたようだが残り三つの腕をいっせいに振り下ろして横島を攻撃する。
横島は残った右手に今度は手の甲に玉のようなものがはめ込んである霊波でできた手甲のようなものを出して熊霊の手を一本受け止める。
しかし熊霊は残り二つの手で横島の胸を十字に切り裂く。赤い血が吹き上がり横島はその場から切り飛ばされた。

「横島さん!」

おキヌの悲痛な叫びが響いた瞬間なぜか熊霊がいたあたりが爆発し、熊霊は跡形もなく吹き飛んだ。なぜ?そんな思いがおキヌの頭によぎるが今はそんなことは今は関係ない。
早くヒーリングを・・・。おキヌは横島のそばに駆け寄りヒーリングをはじめる。
横島がまるで条件反射のように攻撃からかばってくれたのをみて、横島の体にあった数々の傷を思い出しなぜあれほどまでの傷ができたのか分かった気がした・・・。

美神は横島の傷をみてそこまで深いものではないことに安堵し、横島を病院へと運ぶために車をまわす。
美神は何が起こったのかは一応把握していた。
横島が出した盾、あれはサイキックソーサーと呼ばれるものだろう。右手に現れた手甲は霊波刀の一種だろうか?ここまでは分かった。しかし最後吹っ飛ばされる瞬間に手のひらから出した碧色の玉。まばゆい光とすさまじい霊力をはなち爆発をして熊霊を倒したあれはなんだったのだろうか。令子の横島への疑問は尽きることはなかった。
しかしあれほどのことをした横島に対して不思議と恐怖は感じなかった。何のためらいもなくおキヌを助けたときの彼の顔は決意に満ちていた。
あの能力、そしてたいして意識せずにやったと思われる自己犠牲的な行動は彼が失った記憶に関係あるに違いない。
彼の過去に何があったのか?令子はここまで人の事を知りたいと思ったのは初めてだった。

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