ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(12)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/ 5)


雨が降っている――ルシオラはそう思った。


嫌だな。・・・こんな天気の日は、夕陽が沈む所が見れないのよね。


それは元から好きな眺めではあったけど、大して意味のあるものではなかった。
一緒に見てくれる、そうする事を大事にしてくれる人がいるようになって、彼女の中で初めて意味を持つようになったものだった。

雨ではなかった。遅れながらも正常化した非常装置の作動により、消火用液体が広場やスロープへと降り注いでいた。
対上級魔族戦フォーメーション―南極で人間のGS(一部、吸血鬼やアンドロイドを含むが)だけの力でパビリオを取り押さえた時の戦法に似て、且つ戦術として洗練されているもの―を組んだセキュリティの攻撃の前に力尽きて倒れた所を、二人がかり―10本以上の腕―で両横から押え込まれたルシオラは、顔も上げられないまま、床で弾ける水滴を見つめていた。

あちこちから張り上げられた複数の声が聞こえる。歓声だった。
危険を持ち込み、自分たちの権利と望みとを脅かすテロリストが倒された事を喜ぶ声。


夕焼けを隣で見ていてくれた人は、ここにはいない。


「・・相手がどんなに強くたって、理不尽な暴力にいつまでも脅えている訳にはいかない!!」

周囲に向かってそう叫んでいるのはメドーサ。・・・メドーサが?何の冗談だろう?
どんな冗談でもなかった。彼らにとって「理不尽な暴力」とはルシオラの事であり、メドーサの演説に応じる雄叫びやコールが続けてドーム内に響いてきた。

「自分の都合でルールを乱し、他人を傷付けようとする奴には、今、皆がそうしたように、一人一人が屈しない意思を示す事が大事なのさ!!
そうする事で正義や秩序を貫く力が生まれ、勝利を掴めるんだ!!」

「そうだ!!」「おれたちは悪魔の言いなりになんかならない!!」「魂の正義を守れ!!」「戦うぞ!!」

「戦うぞ」・・・?あなた、メドーサに煽られて怒鳴ってるだけじゃない。それが、戦いなの・・・?

ルシオラは苦笑いを浮かべそうになったが、そんな気力も出ない。
また、実際に自分が先程の光景に大きな精神的ダメージを受けていたのも事実だった。


生まれてすぐ―あるいはその前の「造られて」いる途中から、こう教え込まれていた。

「人間どもは、ゴミだ。」と。

理由の説明などなく、それを真理として与えられた。
今にして思えば、「彼」の目には、人間に限らず神も魔族も・・・自分自身以外の全てのものがゴミに見えていたのかもしれないが。


掴み上げる形でルシオラが立たされると、その際の抵抗を防ぐ為、更に数名のセキュリティがすぐ側まで詰め寄って来た。
彼らの肩ごしにメドーサや職員、転生者たちの姿が見える。


―断末魔砲の照準に写った世界各地の霊的拠点。
スイッチを押す。耳をつんざく悲鳴の発射音。照準内のものは全て巨大な光球に包まれ、
轟音と共に消え失せる。
その中に神族や精霊・妖怪、そして人間も多数いただろう事を知ってはいたが、何も感じなかった。


また別の光景。
南極での戦いの後、世界GS本部、そしてICPOへとパビリオと共に移送された。
数百人の武装警官に常に包囲され、様々な人間達の前で取り調べを受けた。
彼らの表情から一様に垣間見える嫌悪と、怯え。彼女は、彼らが今まで戦ってきた人間の死霊や妖怪、下級魔族とは全く桁の違う存在だった。
その気になれば5秒以内で包囲網の中の人間を皆殺しに出来る。そんな力関係。
それでも、互いの感情の齟齬が表面化する事はなかった。


彼女はその短い生涯の中で一度も、自分の力や人間観、それに基づいた所業に相応する悪意を直接に向けられた事がなかったのだった。
また、アシュタロスに背く前と後とで、自分の人間達全体に対する意識はあまり変わっていなかった事も自覚せずにいた。
それらのツケを彼女は、この場においてメドーサの罠に過度にダメージを受けるという形で支払わされている。

歓声と野次の中、先程の少女はまだルシオラを睨み付けていた。


ごめんなさい・・ごめんね・・あなたにも、強い願いが、あるのにね・・・。
ヨコシマ、お前だって許しはしないよね、こんなの。
・・・私、まだ、子供のままだったよ。これじゃ、お前の事も守れやしない・・・!!



+ + + + + +



分厚い書類の束。それら全てが発注機材のリストだった。

「副センター長補佐権限による特務だ!」
「副センター長補佐権限による特務だ!」
「副センター長補佐権限による特務だ!」

最早、使用目的や内容を説明している時間もない。有無を言わせず、その一言で指定機材の転送ルームへの搬入を指示していく。
J−2251Aは数分前のニュースで、ルシオラが魔獣を率いて転送ルームに乗り込んだ事、違反監視局所属の特殊部隊が対上級魔族戦を想定しての出発準備に取り掛かった事を知った。
その直後、副センター長補佐からの電話で、決定案が通達された。

「なっ・・・!?確かに、方向性は間違っていませんが・・・それはちょっと、安易過ぎでは・・・?」

「何よ、ボクのアイデアにケチ付ける気?・・・安易だって言うけどねぇ、これ以上素晴らしいまとめ方なんて、他にないんじゃない?・・・」

所々、笑っているとも鼻を鳴らしているともつかない・・「嘶いて」いるような奇妙な音声を挟んで喋る副センター長補佐。

「そのままで行って・・もし、僅かな可能性ですが・・転生前の記憶が戻ったりしたら・・?」

「そんなのは、向こうの、生きてる側で片付ける問題なんじゃない?それに、もしそうなら、尚更こうするのが最高なんじゃない?」

「しかしですね・・・。」

「大体、あの子達、こっちで考えた事向こうで実行できると思い過ぎ!!・・キミ、ちゃんと説明しているのかい?」

「ええ・・・少なくとも私は・・・。」


J−2251Aは電話を切った跡も少しの間考え込んでいた。

確かにこれ以上センターの筋を通した方法は他に考えられない。システム無視でこそ出来る最良案だ。
でも多分、当の彼女たちが納得しないだろう。でも、彼女たちの願いも全て叶えている。
渦中の横島氏の今後を考えると目眩がして来る・・いやしかし、それも彼女たちの記憶がどれだけどう残るか次第だ。
自分、うまく言いくるめられただけなんじゃないのか?副センター長補佐、あるいは作者の手ぬ・・ぶ・べ・・!!


(しばらくお待ち下さい)


・・・いつまでも迷っている訳にも行かない。手持ちのカードはもう切られているのだ。
それに、自分が意識をしっかりさせてないと、センター長の呼び出し・承認取りも失敗する。

新たなニュースが飛び込んできた。転送ルームの職員にまで負傷者が出ている。
転生者の肉体や霊物質はこちらで転写した借り物であり、致命傷でない限り、大事にはならない。しかし、職員はそうは行かない。何より「センター長の判断」も左右しかねない。
機材の発注はまだ半分も終わってはいない。J−2251Aは再び電話のキーを押した。


(続く)
―――――――
えーと、収拾案の内容は安易ではあっても手抜きではありません(念)。
最初から決まってました。
具体的にその内容はエピローグで明かされます。
でも想像付くかもしれませんね。結構シンプルなので。
そんなわけでJ−2251Aには黙ってもらいました。秘孔で。
あと・・伏せ字の所はいわゆる「赤ザクの人」ではありません。

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