『こころ』
投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:(03/10/30)
「あ〜あ、よく寝たわい。」
カオスはアパートの部屋の布団から上半身を起こし、大きく伸びをした。目覚ましはAM7:00を指す。いつもよりちょっと早起き。
季節は冬。カオスは窓を開け、朝のキーンとした冷気を取り込む
さてと、朝飯でも食うとするかい。
「お〜い、マリア。朝飯のしたく・・・」
はて?ゆっくりと辺りを見回すがマリアの姿が無い。部屋の中はもちろん、アパートの周りにも見当たらない。
「ど、どうなっとるんじゃ?」
『こころ』
「それで?なんであたしの所に?」
こめかみに青筋を浮かばせて、ソファーに座り足を組みながら美神が訊ねる。明らかに不愉快そうだ。
「い、いや、ウチのマリアが行方不明になってしまったもんじゃから、てっきりそこのコゾウがなんぞ悪さでもしよったかと思って・・・。」
ワハハ、と一笑。ばつの悪そうな笑顔だ。
「だからって、家のドア蹴破って入ってきて、いきなり横島クン壁にめり込ませるような事、やっていいと思ってんの?」
「そーだ!クソジジイ!『マリアを帰せ』とか訳分からん事言って人を蹴っ飛ばしやがって!!」
頭からしたたかに血を流して横島が叫ぶ。
あんた・・・、血ぃ止めないと死ぬわよ、興奮する横島をたしなめながら美神はカオスに向き直った。
「残念だけど、マリアはここには来てないわ。とりあえず・・・、訳を話しなさいよ。」
カオスは、朝起きたらマリアがいなくなってた事、心当たりをすべて探したが見つからず、最後にここに来た事を二人に告げた。
「ただ単に、買い物とか行ってるだけなんじゃねーの?」
鼻をほじりながら、いかにもつまらなそーに言い放たれた横島の言葉に、カオスは烈火のごとく反論を返す。
「そんな筈無いわい!確かにマリアは戦闘を効率よく進めるために、自己の判断で行動する委任モードがある!じゃが日常生活において普段と違う行動を起こす時には、必ずワシの許可を仰ぐようにプログラミングされとるんじゃ!!勝手に何処かに行くことなどせんわい!」
と、ここまで一気にまくしたてたところで、ふとカオスの脳裏に別の可能性が浮かびだす。
「は!も、もしかして何かトラブルでも起きたんじゃろか?いや、某国の陰謀に巻き込まれたかもしれん!それともどこぞの犯罪組織に誘拐された可能性も有り得る!!い、いったいどーすればいーんじゃよーーー!!!オンナスキー!!」
「いくらテンパッてるからって、不穏当な発言すんじゃねぇー!!!誰がオンナスキーじゃ!!!」
(知ってる人いるのかしら・・・?)
底知れぬ不安に襲われながら、美神は二人の会話を眺めていた。
「ただいまー。あ、あれ?ど、どうしたんですか?ドア、壊れちゃってますけど・・・?」
後ろを振り向くと立っていたのはおキヌ。壊れたドアを見て呆然としていた。
「聞いてくれよ、おキヌちゃん!このカオスのジジイがそのドア蹴破って、さらに俺の頭まで蹴っぱぐりやがったんだよ!」
横島の台詞の中の『カオス』という言葉におキヌは反応した。
「カオスさん、来てるんですか?探してたんですよ!」
そう言うとおキヌは後ろを振り返り、カオスさん事務所に来てますよ、と廊下に向かって話しかけた。
すると、ドアの無い入り口から申しわけなさそうな顔でマリアが入ってきた。
「マ、マリアか!?何処行っとったんじゃ!探しとったぞ!!何故連絡なり、報告なりせんのだ?!と、とにかく、すぐにアパートに戻ってチェックせんと!」
有無を言わせずマリアの手をとり、アパートに帰ろうとするカオス。不安でいても立ってもいられない様子だ。
「あ、あ、ちょっと待って下さい、カオスさん。ほ、ほら、マリアさん、早くあれを。」
おキヌは慌ててカオスの手を押さえて制止し、振り向いてマリアを見る。
「イエス・ミス・おキヌ。」
マリアはおキヌに促されて、紙袋からなにやら長い物を取り出し、それをカオスの首に巻きつけた。
カオスの首に巻かれたもの――――それは、ベージュ色の細めの毛糸で細かく編まれた手編みのマフラー。
「・・・?なんじゃ・・・これは・・・。マリア、お前が編んだのか?」
「イエス・ドクター・カオス。いつも・首の辺りを・縮めて・『寒い寒い』・と仰って・おられましたので・・・。」
「マリアさん、カオスさんに内緒でマフラー編んで、驚かしたかったんですって。すごいんですよ、一度パターン覚えたら物凄いスピードで編んでっちゃうんです。」
昨日のうちにおキヌに連絡を取り、なるべく朝早く、カオスが寝ているうちに編み方を教わって、朝ごはんの後に渡すつもりだった。
しかし、今日に限ってカオスが早起きしてしまったのだ。だからいなくなったカオスを探していた。そう、おキヌは説明した。
「マリアが・・・わしに『内緒』で・・・?わしを・・・『驚かせたかった』・・・?」
カオスは少し震えながら、ゆっくりとマリアに歩み寄り、そして優しく抱きしめた。暫くするとかすかに聞こえてくる嗚咽。やがて号泣。
マリアは驚いた。自分の犯した命令違反、それがカオスを悲しませた。そう判断した。
「申し訳・ありません・ドクター・カオス。命令違反の・罰は・お受けします。ですから・もう・泣くのは・お止めください。」
「違うわよ、マリア。それは『うれし泣き』って言うのよ。嬉しい時ににも人は涙を流すのよ。」
必死に謝るマリアに、ソファーに座って様子を見ていた美神が優しい声を掛ける。(ま、それだけじゃ無いんだけどね。)
「『うれし泣き』・・・・嬉しい時にも・人は・涙を・流す・・・。」
マリアは、ゆっくりと目を閉じて、自分を抱きしめて泣いている造物主の背中をそっと両手で抱きしめた。
「しっかし、年取ると涙もろくなるってのは本当なんすねー。マフラーもらって嬉しいのは分かるけど、あんな大泣きするほどのことじゃないっすよね?」
横島の苦笑い。しかし、美神はそんな横島を見て、分かって無いわねー、とこぼして目をあわす。
「マフラーもらって嬉しいのもそうだけど、カオスが泣いてる理由は、マリアが『究極のプログラム』を手に入れたからよ。」
「究極のプログラム?!なんすか、それ?」
やれやれ、と美神はやや呆れ顔で軽くこぶしを握り、横島の胸の真ん中をコツンと叩く。
「『こ・こ・ろ』よ。」
アパートへの帰り道、二人は並んで歩いていた。
時折強く吹きつけてくる北風にカオスは顔をしかめる。しかし以前のように首から下に風が入ってくることは無い。
ふむ、暖かい。
「マリア、お前のくれたマフラー、暖かいぞ。ありがとう。」
不意に掛けられたカオスの言葉にマリアは返事をすることが出来なかった。彼女の頭の中に不意にノイズか走ったから。
ザザ・・・―――――『暖かい』・・・――――――――『ありがとう』・・・―――――――――『うれし泣き』・・・ザザッ・・ピッ
突然視界が歪む。―視界不良― 手足が動かない。―動作異常― でも恐ろしくない。心地よいエラー。
「おーい!何やっとるんじゃ、マリア!早く来んと置いてっちまうぞい!」
すでに15mほど先に進んでいたカオスが、振り返り大声で呼んだ。
とたんに視界がクリアになる。体も動く。マリアは大きな声で返事を返した。
「イエス!!ドクター・カオス!!!」
〜FIN〜
今までの
コメント:
- いかがでしたか、ヨコシマン劇場。なんちゃって。
どーもすいません。ちょっといい話書こうとしたら、なんかうまくいかなかったっす。
マリアファンの方々から文句言われそうです。ゆ、許したってください。
あ、それとこの場を借りて報告させてください。
今書いている長編なんですけど次回から「椎名作品二次創作小説投稿広場」のほうへ引っ越します。
まあ、理由は「マリアのあんてな」で斑駒さんが書いていることと同じです。なるほどなぁ、っておもいました。
ちなみに「悪意」とか、今回のような短編はこちらに載せます。
以上です。勝手なこと書いてすいません。それでは。 (ヨコシマン)
- マリアのこころを描いた作品ですね。
この題材は割りとありますが、上手く出来ていたと思います。
他人にプログラムされたもの。
その中に生まれる自分でプログラムしたもの。
カオスの為に行動したいというこころを確かに感じました。
追記
引越しされるんですね〜☆
私も、今書いてるのが1段落したら(もしかしたら1段落しなくても?)引っ越す予定です。
投稿広場も盛り上がると良いですね。 (KAZ23)
- いい話です。マリアのこういう話ってホントにほのぼのとしてますよね。
ところで、マリアがいないと戦闘力ゼロ(怪光線以外)のカオスに横島を蹴飛ばす力はないと思いますが、
これもマリアへの愛ゆえですか。 (U. Woodfield)
- どうも〜ヒロです〜
いい話ですよ〜、ギャグもできてシリアスもかけるだなんて、すげー。
く、どーせどーせぼかぁ、ぼかぁ・・・(ややブルー)
引越しするんですかぁ〜、しかもKAZ23さんも!!いやいや、ぼくは投稿広場のほうへも足を運んでいますからそれでもいいんですけどね。むしろ長編を書くに当たってはまりあんのほうでも言われたように適していると思いますよ。
ではでは、引っ越しても頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- 機械が心を手に入れる・・・
よくあるネタではありますが、やはり胸に来るものが(TT)
ただ、マリアって元々『心』を持っていたような気がしますが、そういうツッコミは無粋ですよね(^^;
カオスのためにマフラーを編むマリアにおいちゃんから1票 (ノД`) (ユタ)
- 神○モテモ○王国か・・・・・(遠い目)
はじめましてです、ひさと申します。
読者のこころも温まるイイ話でした。
引越し予定者も増えてだんだんと「広場」のほうにも活気が出てきそうなカンジになってきましたね!
自分もいつかは・・・・、と思いつつ当分は皆さんの作品を見て勉強させてもらおうと思っております。 (ひさ)
- 皆さん、投票有難うございます。
KAZ23さん、フフ・・・、解って頂けましたか。(ニヤリ)
U. Woodfieldさん、横島君は血を出してナンボですよ。愛の力・・・?そんなもん・・・そんなもんっ・・・(号泣&ダッシュ)
ヒロさん、今回の話は自分の苦手なジャンルに敢えて挑戦してみたんです。正直、修行が足りない事を実感してます。ですから、あまり誉めないでやって下さい。調子に乗っちゃいますから(笑)。
ユタさん、ご指摘サンキューです。でもマリアって、最初の頃カオスをシカトして行っちゃたり、ボコボコにぶん殴ったりしてたような・・・。
ひささん、わー、はじめまして!新しい人が投票してくれたよー!僕も勉強中です。一緒に頑張りましょう。 (ヨコシマン)
- マリアがついに本物の心を!カオスを思う気持ちが奇跡をもたらしたのかもしれませんね〜♪首元から入り込む冷たい風がなくなって温かくなった、けどそれ以上に優しさで温かくなる気がしますね(^^) (えび団子)
- えび団子さん、有難う御座います。
これから寒くなっていきますねぇ・・・。少しでも暖かくなって頂けましたか?
そうそう、二次創作投稿広場に長編の第1話を投稿しました。GTYの時のを少し手直ししてあります。よかったら見に来てくださいね。 (ヨコシマン)
- 機械が心を手に入れるという
展開すごく好きですっ!!
お引越しされるようですが、これからどうなっていくのか
楽しみにしています。
続きも頑張ってくださいっ!!! (香夜月 蕗)
- おっと、もう投票して貰えないかなって思ってたけど・・・香夜月 蕗さん、ありがとーございます!!(涙)
ふふふ・・・、二次創作投稿広場にも来てくださいね。待ってますよ。 (ヨコシマン)
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