ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―17後半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/11/ 1)


<前半からの続き>




「そ、それよりも!横島さんはどうしたんですか?あ、六道冥子さんの応援ですか、もしかして?」

冷や汗を流していても、ピートはなんとか笑顔で話題を切り替える。

「ああ。それもあるんだけど……今回の試験のスタッフに呼ばれちまってな。まあ、ぶっちゃけ雑用係なんだけどさ。」

横島はあらかじめ決めてあった嘘の設定を、早速活用していた。

「へ〜……大変ですね。」
「いや、まあ……大変になるかもな…」

ポロっとこぼす横島。
ピートは当然スタッフの仕事が大変なのだと受け取ったが、横島が大変と言ったのはもっと別の……これから起こるであろう事件に対しての思いが漏れた言葉である。

―― ガヤガヤガヤガヤ ――

「ん?なんだかあっちの方が騒がしいな?」
「え?………ああ、広報課がめぼしい受験生にインタビューしてるんですよ。」

横島が人込みの方に眼を向けると、その群衆の中心に一際背の高い老人が見えた。

「受験者中、最年長として何かコメントを…」
「なんとしても合格して、貧乏暮らしから脱出しちゃる!!言いたい事はそれだけじゃ!」

GS協会広報課の向けるマイクに向かって意気込みを語る老人。握られた拳がその決意の程を表している。

「………ドクター=カオス…」
「え?あれがあの、有名なヨーロッパの魔王ですか?!」
「わ、わたし初めて見ました!」

ああ、アイツも出るのか……横島はこめかみに人差し指を当てて呟く。
その呟きに、ピートとアンは驚きの表情を見せる。なにしろ「ヨーロッパの魔王ドクター=カオス」と言えば、世界で最も有名な錬金術師だ。
不老不死の術を完成させ、既に1000年以上も生きているという空前絶後の大天才である。
ピートとアンの2人は戦慄と、ある種の感動すら覚えていた。
だが、一方で横島はなんだか非情に複雑な表情を見せている。

「ど、どうかしましたか、横島さん?」
「………いや、いい…なんでも無い。」

だが、横島は眉間にしわを寄せたまま軽く首を振るだけだった。

―― ドゴーン、ドガーン ――

「うわ?!」
「きゃっ!!」

と、その時。
突然大きな音が響き渡る。ピートとアンは軽い驚きの声を上げた。

「なんだか、地面揺れてません?」
「こ?この音っていったいなんでしょう?横島さ……」

―― ダダダダダダダダダダダダダダダダ ――

「……ん…アレ?よ、横島さん?」
「え?アレ、いない?」

いったい何事?という質問を口にしつつ横島の方を振り向いたピートだったが、既にその場に横島の姿は無い。
不思議に思ってキョロキョロと周囲を見渡すも、視界の何処にも横島の姿は無かった。
ピートとアンは顔をつき合せてから、同時に首をかしげる。
そう言えば先程、一陣の風が駆け抜けて言ったような気がした…

………………










「ふっ!ついにここからはじまるのね……」

試験会場である東都大学の正門前に1台の車が止まり、その中から1人の女性が降りる。
門に掛けられている立て看板…

―― 平成15年度ゴーストスイーパー資格取得試験一次試験会場 ――

彼女の名前は美神令子。
今年のGS試験をブッチギリの主席で合格して、さっさと見習い期間を終わらせた後にすかざす独立。翌年からはGS長者番付の連続1位記録を毎年更新し続ける者である。

………と、本人は思っていた。

「だいたい、ちょろいのよ。こんな試験なんて。そして……」

令子の顔に青筋が浮かぶ。

―― 君はやっぱりGSとしてはまだ未熟だ ――

「うきーーーーーーーーーーーっっ!!」

少し前にある人物に言われた台詞を思い出して、令子はムカムカしていた。
実は今日の試験までのあいだ、事有る毎にこの台詞が思い出されている。そのため、最近の令子はいまいち落ち着きが足りなくなっていた。

「ふふふふ……絶対あいつを見返してやる!」

だが、自分に向かって未熟と言い放った男……つまり横島に対する敵愾心から、最近の令子はかなり真面目に修行を行っていた。
それを見た唐巣神父や母の美智恵は、一体何事が有ったのかと訝しんだのだが、令子は頑として理由を話そうとはせず、ただ一心不乱に修行に明け暮れる毎日を過ごす。

「そうね……まずは土下座でごめんなさいは基本中の基本として…」

その甲斐有ってか、令子の力はこの短期間で明らかにワンランクレベルアップしていた。
それは令子自身も感じており、それが今のこの自信に繋がっていたりする。

「そうだ。時給250円でこき使ってやるってのはどうかしら?」

はっきり言って仮に令子が主席で合格したとしても、横島がそこまでする義理も義務も全く無い。
だが、妄想に溺れた令子にはそれを判断するだけの正常な思考が無くなっていた。

―― ドゴーン、ドガーン、ドガガーン ――

「ふふ、ふふふふふ………って?何、いったい何事?!」

令子の耳になにやら物凄い轟音が飛び込んでくる。
その音で妄想の世界から帰ってくると、正門の向こう側に盛大に巻き上がる粉塵が見えた。

「あ、あれってば何よ?!」

―― うぎゃー!いやー!ぐおぉぉぉーーーっ!くっ、来るなーーーーぁぁっ!! ――

しかも、なにやら阿鼻叫喚な悲鳴まで流れてくる。
令子の霊感が危険を伝えるシグナルを発していた。その感覚に身を任せ、令子は持ってきた道具の中から神通棍を取り出そうとする。

―― ヒュ〜〜ン ――

だが、その行動が良くなかった。

「危ない!」
「えっ?!」

近くにいた人の叫び声に、令子はカバンを漁っていた手を止め、瞬間的に前のほうを向く。

―― ガツン☆ ――

「ぁだっ?!!」

顔を上げた令子の眼に入ってきたのは、なにやら野球のボールくらいのかたまりだった。
それが何なのかを認識するよりも先に、っそのかたまりは綺麗に令子の額にヒットする。
どうやら、石かコンクリートのかたまりだったらしい。
それがまあ、思いっきり頭にぶつかったので、令子の意識はそこで黒い闇の中に消えた。

………………

「はっ?!い、いったい何事?!痛っ!?な、なに………あ、そうだ!何か飛んできて…」

ほんの少しの間、意識が飛んでいた令子だったが、直ぐに復活する。

「こ…これって………た、たんこぶ?!嘘……こんなデカイの…」

額に感じた痛みに、令子は急いで手を当てた。すると、そこにはちょっと尋常でない大きさのこぶが出来ている。
令子は急いでカバンを漁ると、中から大き目の手鏡を取り出して自分の顔を覗き込んだ。

「!!?☆」

あまりの事に固まる令子。

「……………さない……許さない…許さない許さない許さない許さない…」

フルフルと肩を震わせてブツブツと呟き…

「絶っ対っっ許さーーーーーーぁぁぁぁんっっ!!!」

―― ダダダダダダダダダダダダダダダダ ――

一気に爆発させて、そのまま大学の中に駆け出した。

………………










「も〜〜〜横島さん遅いんだもの〜〜私寂しかったの〜〜〜」
「はぁ…はぁ、はぁ……ご、ごほっごほっ!ご…ごめんね冥子ちゃん…はぁ、はぁ……な、なんとか………お、落ち着いてくれて、はぁ…よ、良かった……ごぼっ!」

まだ少し涙目で、横島の胸にしがみ付く冥子。
そして、激しく咳き込み息も絶え絶え、服はボロボロの横島。
2人の周囲に眼を向けると、奇跡的に全壊を免れている芝生広場とか大学の建物とか……
そして、死屍累々ってな感じの人人人。
横島が駆けつけるのがもう少し遅かったとしたら、被害はこの倍ではきかなかっただろうと推測される。

「ん………反省してる〜?」
「はい…も、もう遅れないから……ね?機嫌直して…ね?」

横島は、冥子に遅刻のことで怒られていた。
本来なら色々と言いたいことがあるのは横島のほうである。
だが、今の最優先事項は被害を最小限に食い止めるということだ。
だから横島は、とにかく平謝りして、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つ。
そして今、ようやく嵐が過ぎ去りつつあった。

「どう?落ち着いた?」
「くすん……うん…」

コクンと頷いて冥子は横島の胸に顔をうずめる。

―― なんとか台風は過ぎ去った ――

横島はそう結論付けてホッと一息つき、強張っていた体から力を抜いた。

「ちょっと横島さんっ!その娘誰なワケッ?!!」
「コラーーーァァッ!!一体全体何処のどいつよっ?!よくも私の額にタンコブなんて作ってくれたわねーーーぇぇっ!!?」

台風2号と3号が同時に到来した。
共に中心気圧が900ヘクトパスカルくらいだった。
横島はもはや『風前の灯火』ってやつだった。



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