いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(15)上
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/10)
201X年、東京――
この時代になっても平日昼間の交通量が少ないお台場の通りを、一台の大型バイクが疾走していた。
フジテレビ前で速度を落とし、端に寄せて停車する。
乗っていた、フルフェイスにスーツ姿の男は、内ポケットから振動している携帯電話を取り出した。
「もしもし・・・今、どこにいる?」
「汐留街区を抜けた所でござる。あと数分で予定通り合流出来るでござるよ。」
「そうか。・・・一体残らずまとまっているな?」
「大丈夫でござるよ。・・・ただ少し、あいつがうるさいでござる。」
「・・何て、言っている?」
「・・・“お前の出る幕なんか無い。ここで充分だ。僕に仕留めさせろ。”・・・と」
「・・だめだ。そう言っとけ。今まで何人のGSがそうやって奴らを取り逃がしたり、奴らの仲間入りしたと思ってんだ。」
今回の敵は大規模で強力、かつ組織的で狡猾な悪霊集団だった。
特定の人間に憑依して殺し、霊団に取り込んで行く活動を、30年以上に渡って日本各地で行なって来た連中だ。
その出現も撤退も常に迅速であり、大部分をやっと除霊しても残った連中が勢力を伸ばして元通りになってしまう。
オカルトGメンは既にこの霊団の捜査本部を解散し、多額の賞金を懸け指名手配するに留めていた。
「まとめて追い込み、挟み撃ちにする必要があるんだ。実力があるGS同士でな。
・・それも、伝えてくれ。」
「分かったでござる。」
道が海上に設けられた曲がりくねったポイントに差し掛かると、向こう側から猛スピードで人狼の少女が駆けて来た。その少女、犬塚シロは遠吠えするかの様に男に呼びかける。
「横島先生ぇぇぇぇっ!!来たでござるよぉぉぉぉぉっ!!」
シロの背後から、直径10メートル程の巨大な影、或いは靄の様なものが接近してくる。それの周りを腕や触手の生えた異形のものが3体取り囲んでいた。異形はよく見ると霊的技術による人工物だ。影の至る所には呪符が貼られ、火花を散らしている。
男―横島忠夫はバイクを止めると、右手に霊力を集中した。文殊・・「剣」。
影は次第に歪んだ人面の形を取り始めた。それと同時に何かが数連射で横島に向けて放たれた。
人面は咆哮する。
「しーんぶぅーーーーん!!!恐怖ー新聞ー!!」
横島はその、受け取るごとに寿命が100日縮まる新聞を、空中で一挙に裁断した。
「過剰報道はプライバシーと人権の侵害だぜっ!!・・・・・へぶっっ!!」
一部だけ顔に貼り付いた。
「ペンはぁぁ剣より強しぃぃぃっ!!」
「このっ!!・・・・ん?・・ちょっと待った!!」
横島の視界の端に写った記事の中の一文。彼はその新聞を手に取り、読み返す。
記事の内容は「GS横島忠夫氏、恐怖新聞の除霊に失敗し、死亡。」、お得意のマッチポンプ記事だったが、彼の目はそこに添えられた一文に釘付けとなった。―――「嫡子生誕のその日に」
「・・・今日、なのか?・・・だったらもたもたしてられねえよな。行くぜっ!!」
「急ごうが急ぐまいが、お前はここで子供の顔も見れずに死ぬのさ!そう書いてあっただろ!?」
「誤報だな。明日、お詫びと訂正の記事出しとけよ・・・出せたらなあっ!!」
放たれる新聞の束を躱しながら霊波刀で何度も人面に斬り付ける。
だが、あまり効果はない。
「ペンは剣より強ーーーっし!!我が恐怖新聞のォォォ、セールス力はァァァ、あの世一ィィィィィィ!!」
「何か違うまんがが混ざってるぞ・・・。剣より強くても・・これならどうだ!?」
人面の周囲にシロの手で五個の文殊が貼り付けられていた。横島が剣を収め新たに出した文殊で計六個。
霊波刀での攻撃はカムフラージュだったのだ。文殊の一つ一つに文字が浮かぶ。
「発」!「行」!「停」!「止」!「処」!「分」!
横島は自分の手にした文殊を人面に叩き付けた。
「メディア三法ーークラッーーシュ!!!」
「グェッ、言論の自由はァ、死んだァーーーーーーっ!!」
ドガァァァァーーーーァァァン!!!!
大爆発と共に、人面は消滅した。
「先生ぇぇーーーっ!!」
シロが横島に駆け寄る。彼女の外見は十数年前から殆ど変わっていない。
しかし、数年前、横島が自分の事務所を開いた時にオカルトGメンを退職してアシスタントとなり、2年前にはGS免許を取得。ただのサポートではない、対等なパートナーになりつつあった。
・・・相変わらず横島の事を「先生」と呼び、散歩(50キロコース)をねだっているらしいが・・。
「大丈夫でござるか?あの新聞・・・。」
「ああ。奴らが全滅したのなら、呪いの効果も消えた筈だ。どっちみち一回なら大して縮まないが
・・・どうだ?あれで全部だろ?」
「当然だ。一匹たりと逃がしてないぞ。」
人面を囲んでいた三体の異号。その中央一体の裏から二十代半ば位の細身の青年が現われた。
長めの染めた髪、黒づくめの独特なセンスの服とアクセサリー、最近何度目かのリバイバルを迎えたヴィジュアル系の格好だ。
その格好が似合う程の美形と言うには目が三白眼過ぎて目の隈が濃過ぎる様な気がするが、違和感がある程でもない。
凄まじい変貌振りであるが、あの、「呪いが生きがい」な中学生の十数年後の姿であった。
「お前の寿命があと何ヶ月とかだったらあの一発で即死だったのにな・・・チッ」
「・・・何だ、その舌打ちは?(^''^;」
横島と彼とが時折、組んで仕事をする様になって一年になる。外見がめざましいほど変わっても性格はあまり変わってないようだ。
しかし、“あの日”以来、「打倒、横島忠夫」を目標に一流のGSになる為の修行を独学で続け、無免許で学校内や口コミの仕事を請け負ったりしながらも、式神と呪術の両方を磨き上げて来たのだ。
19歳の時、2度目のGS試験を優秀な成績で合格。その活躍が小笠原エミと六道冥子の目に止まり(「ツラはイマイチだけど磨けば何とか見れそうなワケね」 「式神のお友達〜〜いっぱい〜〜(はあと」)、また彼も自分の得意分野における二人の先達に関心を持ち、正式な弟子・アシスタントではないが、頻繁にこの二人のサポートを行なったり教えを受けるようになった。
彼は良く「エミさんや冥子さんと出会って、感情を抑え理性で式神を制御する事の大事さや、呪術は我欲の為でなく皆の為にこそ使うべきである事を学んだ。」と口にするが、彼女たちを知る者はその言葉に「『思い知った』、の間違いだろ?」と心の中でツッコミを入れていた。彼自身も本当はそう思っているであろうが。
「大した事無いザコ霊じゃないか。あれなら僕の式神達だけで、充分片付けられた。」
「まあ、そう言うなって。お前が奴らを分散させずにここまで追い込んでくれたおかげで仕事が成功したんだ。・・助かったよ。」
彼は少し顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「・・フンッ、バカで無能な悪徳GSだから、ザコ相手でも俺の様な一流GSの手助けが無いと何も出来ないのさ。」
「先生を侮辱するでござるか!?」
「まあまあ(^''^; ・・ところでシロ、ここの後始末とオカルトGメンへの連絡と、やっておいてくれないか?
俺は少し急ぐ用事が出来た。」
「??、どうしたでござるか?・・ハッ!また『チェルシーラブ』のリカどのやサラどのと店外の約束では・・?ダメでござるよ!!」
「違う違う。・・・白井総合病院だ。」
「え?・・・・!!と、言う事は、“いよいよ”でござるか!!分かったでござる。じゃあ、拙者も後から行くでござる。それと連絡ついでに日本に帰って来ている西条どのにも・・・。」
「ああ。・・・・奴には知らせなくてもいいと思うが・・(て言うか、知らせてほしくない)」
横島はバイクに跨ると、都心へ向かって再び海上の道を疾走していった。
(続く)
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