ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(11.3)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/ 2)

遠い世界の近い未来(11.3)

 おキヌに促されて、応接室にはいると、横島が待っていた。
 美神は、今日、事務所を閉めるので、その対応でちょっと遅れるそうだ。

すすめられるままに、水元、葵と薫は、それぞれ、椅子やソファーに座わる。
 紫穂は、葵と薫がすわるソファーの後ろでソファーによりかかる。
おキヌは、これからの対面の邪魔にならないよう壁ぎわに控える。

「さっき、水元から聞いたけど、奥さん、ものすごい美人だってな。」
座るや、薫が、横島に声をかけてくる。
「そやそや、美人に免疫のない水元が、ボケた顔して言ってたで。」
水元の方をちっらと見て、葵も付け加える。
「やさしくてよく気のつくおキヌちゃんを捨てて、奥さんを選んだんでしょ。よっほど、いい奥さんなんでしょう。会うのが楽しみ。」
そして、紫穂も。

 確かに美人で”いい”性格はしている妻だとは思うが、それよりも
「こら、『捨てた』なんて人聞きの悪い言い方はやめてくれ。」
横島は、ちらりとおキヌの方を見るが、気にしているようすはない。

「ほな、おキヌちゃんともまだ、一緒なんや。よー考えたら、横島はん、奥さんがいて、おキヌちゃんもいるなんて、両手に花やないか。」
「あたしんとこの”持てないクン”に爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだな。」
「横島のおにいちゃん、きれいな人が二人も相手にいるってどんな感じ?」

「どう聞けばそういう話になるんだ。」
 ‘何とかしてくれ’と水元の方を見るが、力なさそうに首を横に振る水元。

「そぉ〜 昨夜だって、奥さんがいるのに二人でデートしてたんでしょう。」

紫穂の言葉に、赤くなり下を向くおキヌ。

「あれは、仕事だと言ってるだろ!」

「でも、あんな仕事、二人だったら楽勝ーって、おキヌちゃんが言ってたよー 」
「終わった後は、二人っきりになるはずだったんだろ。幽霊屋敷を別にすれば、けっこうムードのある夜だったし。」
いやに大人(というかオヤジ)じみた顔つきをする薫。
「そうなると、うちらは、せっかくのお楽しみをだいなしにしたお邪魔虫ちゅうことか?」
さも、‘悪いことしたな’という感じの葵。

「だから、違うーって、言っとるだろーが!!」
‘しかし、やっぱり、他から見ればそうなんだろうな〜 仕事とはいえ、夜、寂しいところで二人だけだもんな〜 愛する妻が居る身で‥‥’
と、一方で思ってしまう横島。

「何に話してるの。」そこへ、連絡を終えた美神が入ってくる。

立ち上がって迎えようとする横島の背中から紫穂ののんびりとした声がする。
「きのぉ〜、私たち、おキヌちゃんとおにいちゃんのデートを邪魔しちゃったかなーって、話をしていたのー 」

 美神の表情がわずかに引きつる。
「そんなことないってわかってるだろ!」大仰に両手を振り否定する横島。
「昨夜は、おキヌちゃんには手を出してないぞ。」
 言い訳をしたつもりだが、あわてて、問題のある表現をしてしまう。

「『昨夜は』とはどういう意味だ! それに『手ぇを出す』ってどーいう意味!」
「ぐぇ!!」
顔面に美神のきついストレートが入り、そのまま倒れる横島。

水元は、美神の優美な動きと手加減のない一撃とのギャップに絶句する。
 おキヌの表情で、これが見せたくない日常の”セレモニー”だとわかる。

横島が、目を開けると、無邪気だが興味津々といった顔で近づく紫穂の姿が目にはいる。
 位置から言うと、前回のように水元が割り込んでくれる余地はまったくない。

 あわてて、サイコメトラーの手から逃れようとバネではじかれたように起き上がる。
「うっ!!」
 美神は、突然、こちらへ向かって跳ねた起きた横島を避けられずにぶつかる。

 反射的に横島は、よろめく妻の体を抱きとめることには成功する。
 妻を支えられて安心するが、今の一瞬で空気が固まったことに気づく。

「どぉ〜こぉ〜に抱きついてんの!」
 声と抱きしめた体が小刻みに震えている。本能が、その震えが怒りから来るものであることを教えている。

「どこって、‥‥」
初めて、自分の視界が遮られていることに気づき、顔を上げる。

 すぐ上に妻の怒りに引きつった顔がある。顔が上にあると言うことは‥‥ 今の自分の顔は、妻の顔の下、胸の‥‥
横島は、自分が低い位置から跳ね起きたため、ちょうど美神の胸の辺りで顔がぶつかり、胸に顔を埋めたまま、抱きとめていることに気づく。

「すごい‥‥」
抱きとめた時に、横島の顔の半ばが胸に埋もれたのを見て、水元は、思わずつぶやいてしまった。
おキヌの視線が、一瞬、冷たく感じたのは気のせいかどうか。

「やっぱり、横島のにーちゃんが、おキヌちゃんでなくて、奥さんを選んだのは、あれが大きかったからかなぁ。」
「う〜ん、あれは漢のロマンちゅうからな。」
「紫穂も、あんな風になーろぉっと。」
子どもたちの無責任な発言が飛び交うが、美神の耳にも横島の耳にも入っていない。

「朝っぱらから、恥ずかしいまねしてんじゃねぇーー!!」
上擦ったトーンで声を上げながらも、すぐに、手が出なかったのは、どうあの世に送るかを迷ったためである。
「夜なら、いつも‥‥ 」
その”間”に出た横島の一言が、火に油、いや、精油所火災にナパーム弾を打ち込んだ結果となる。

「小学生を前にして、それを言うんじゃなーーい!!」
いつの間にか手に収まっている神通棍が真っ向に振り下ろされる。
その勢いに打ち据えられた横島の体が、床にたたきつけられ、一回バウンドした上で横たわる。
美神は、動かなくなった横島をごく自然な威厳で踏みつけ、そのままソファーに座る。

「とりあえず、自己紹介からいきましょう。私が美神令子。この事務所の所長で世界最高のGS。そして、このヤドロクの雇用者にして師匠。」
踏みつけたまま、何事もないように切り出す美神。

「わがまま、身勝手、独裁者、唯我独尊、強突張り、守銭奴、」
紫穂が付け加えるように言葉を続ける。

 いきなりなことを言うお嬢様然とした子どもに美神のこめかみがひくつく。
 大人への礼儀を体に教えようかと思案する。

「この子は、!?」
子どもたちの説明は受けているが、まだ、どっさの区別は付かない。

「はっ、はい、紫穂ですが‥‥ 」
 美神の迫力に、水元の声が震える。一瞬迷うが、目の前の女性の本気度が100%であることを悟り、紫穂を守ることを優先する。
「この子はサイコメトラーなんです。だから今言ってるのは、彼女が思ってることじゃなくて‥‥ 」
 美神が、水元の視線を追うと、紫穂の手が倒れている横島に触れている。

「こ〜のぉ〜 誤解を招くようなこと考えるんじゃな〜い。」
 しなやかに足を持ち上げるや、床が抜けるほどの勢いで、靴のかかとが横島の後頭部を直撃する。
これ以上、誤解のしようがない美神に、水元は、この時ばかりは、一秒でも早く自分たちの世界に帰りたいと思った。

「あ〜ら、読めなくなっちゃったわ。」
 紫穂は、意識はおろか命すら危うそうな横島から離れる。

三十秒後、横島は、普通に美神の脇に立っている。
 この世界の住人の驚くべき回復力というか不死身さに恐れをいだく水元。
 困り顔のおキヌが、水元の想像を否定するように手を小さく振っている。それは、この世界でも横島は特別であることを示している。

「なんかなー、あの美神っていうねーちゃん、あたしらよりすごいんじゃない? 」
 薫が葵と紫穂にささやく。
「そーねぇ、何で、横島のおにいちゃん、そんな美神のおねえちゃんと結婚したのかなぁ?」
もっともな疑問に違いないが、まわりにそれを聞こえるように言ってしまうのところが紫穂である。

「きっと、横島のにーちゃん、殺人か何かやって、証拠を握られたにちがいない。」
かなりの確信を込めて薫が言う。
「そんな甲斐性(かいしょ)、横島はんにあるかいな。ぜーったい、借金か何かのかたで売り飛ばされたんや。」
‘まだまだ、考えが、浅いで!’と葵。
「きれいな女の人に虐待されるのが好きなんかもしれないわよー。」

「「!」」思わず葵と薫が顔を見合わす。
‘何でそんな想像がつくんだ。’
 そう無言でツッコミを入れた水元の背筋に氷がはしる。
水元は、公安の特殊部隊員1ダースの殺意を上回る視線を感じ、美神の方を見る。

「み・ず・も・と・くん! ”むこう”で子どもの教育がどうなっているかは知らないけど‥‥ ”こちら”には、こちらの教育があるんですからね。」
 先ほど、横島を沈めた神通棍が光を放ち、梵字が浮かび上がっている。

 さすがに、葵たちもおしゃべりをやめる。
 美神が、彼女たちが今までおちょくってきた大人と一線を画すことを、本能的に悟ったのだろう。

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