ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―11中半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/19)


<前半からの続き>




だが、何も思い浮かばなかった。本当に何もだ。

「何かあったか?戸籍が必要だってのも……一般的には言われなきゃ気が付かないような、普通は誰でも持っているモンだし?それ以外?ん〜〜〜」
「それもね…普通の人間なら問題なく持っているモノなのよ。でも、アタシは持ってないワケ……」

エミは水を1口だけ含み、言葉を続ける。

「アタシってば未成年じゃない?保護者ってのが必要になってくるのよね……」
「あ?!あ、ああ……なるほど、そう言う事か…」

言われて横島はハッとした。
エミの言うとおり、保護者と言うのも大体は気にする事も無く誰もが持っているもの。
基本的には親だろうが、そうでなければ身近にいる大人の誰かがその役目を負ってくれるモノだ。
少なくても、日本ではそれが普通である。
だが、エミには保護者がいないと言う。

「でも!その公安の知り合いとか……じゃ無きゃ、呪いの技術を習った師匠とか…誰かいねーのかよ?13歳で家出したんだろ?それからずっと保護者無しってこたぁ無いと思うんだが?」
「ま、確かにね。アタシの師匠が暫く保護者って奴をしてくれてたんだけどさ…」

エミはその表情から色を消し、努めて冷静に感情を出さないように口を開いた。

「………逝ってしまってね。それからアタシは1人で生きてきたワケよ。まあ、オマケはいたけどね…」
「オマケ?」
「ベリアル。この間横島さんが退治したアレよ。」

悪魔ベリアル。決して心を許せる存在では無かったが、それでもエミの孤独を埋めてくれた存在である。

「アレは、死んだ師匠から受け継いだ悪魔でね。師匠はアイツに殺されたわ。」
「!?」

かなりショッキングな内容に、横島は言葉を失う。

「悪魔族であるベリアルは、冥約に従って人間の使役者に仕えるの。本来は上級魔族のベリアルだけど、普段は力の殆どを押さえ込まれて低級魔族程の力しか出せないようになっているわ。」
「………………」

横島は、フォークとナイフを置いた。エミの説明に真面目に耳を傾ける。

「冥約にはいくつかの条項があってね、その中に『13秒の自由』ってのがあるワケ。」
「13秒の自由?」

聞き慣れない単語に、横島はただそのまま聞き返すだけ。

「普段は呪縛封印されているベリアルの封印を、13秒間だけ開封するの。その13秒で、ベリアルは敵を討ってくれるわ。その代わり……」

悪魔と契約すると言う事は、常に命がけの対価を支払わなければならないものと決まっている。得るものが大きければ大きいほどに、支払うものも大きい。

「敵を討った後の残りの時間、ベリアルは使役者の命を奪う権利を得るの。」
「!?あっ!もしかして、この間の…」

そこまで説明されて、横島はエミと出会った時の状況をようやく理解できた。

「そう言う事。使役者が13秒間逃げ切れれば勝ち。逃げ切れなければ……」

悪魔と契約し、その結果で死んだものの末路は常に1つ。

「魂を根っこから掴まれて、成仏も出来ないままベリアルが飽きるまで何千年でもしゃぶられる事になるワケ……永遠に等しい苦痛らしいわ………ま、アタシが経験したワケじゃ無いから、正確なところは分かんないけどね。」
「じゃ、じゃあ!この間のってかなりヤバかったんとちゃうかーーーぁぁっ!?」

横島は、まるで自分の事の様に冷や汗を流し怯える。

「まあね、ま、その辺はどうでも良いわ…」
「どうでもって!お前なっ?!」
「今は、話のほうが続きだからさ……」

これだけの事を、いくら済んでしまった事だとは言え、あまりにもアッサリと話すエミに、逆に横島のほうが怒ったが、それでもエミは本当に何てことも無かったかのように自分の話を続けた。

「師匠も同じように『13秒の自由』を使ったわ。ま、私の時と違う所は……」
「それって……」

話の流れから、その後に続く言葉は容易に想像できる。

「そ…師匠は13秒間逃げ切る事が出来なかったワケ……その後は推して知るべしってやつね。」
「………………」

横島は、エミから視線を逸らした。そして何も言わずにただうつむき、顔も名前も何も知らないその人物の死を悼む。

「詳しくは省くわ……その時、師匠が死ぬ前に私は師匠からベリアルを受け継いだの。ま、つまりそう言う事よ………ってアレ話が随分逸れちゃったわね?何を話そうと………ああ、そうそう。保護者の話よね。」

今まで、誰にもした事の無い部分まで触れて話した自分に少し驚きを覚えつつ、エミは本題のほうに話を修正していく。

「ぶっちゃけた話、横島さんが私の保護者になってくれない?」
「は?」

横島は、本当に「ぶっちゃけられた!」って言う間の抜けた表情を見せた。

「は?じゃなくてさ……さっき説明したでしょう?アタシは未成年だから、GS免許取るのに保護者ってのが必要なのよ。」
「え〜と……」

横島はエミの台詞をいまいち理解できていないようである。いや、エミが何を言ったのかはきちんと聞こえていたのだが、思いがけない言葉であった為に理解が追いついていなかった。

「アタシの周りには、もう保護者になってくれそうな奴が1人もいないのよ。公安とは表向き無関係ってのが決まりなんで、奥村もこればっかりは自分でなんとかしろって……」
「はぁ……」
「だからさ、横島さんがアタシの保護者になってくれない?あ、もちろん建前上だけで良いのよ?名義だけあれば迷惑はかけないからさ……ね♪」

名義貸しは犯罪です。
こういう場合、大体は「こんなはずじゃ無かったんだけど…」なんてお決まりの台詞と共に、厄介ごとが起こるってのが相場だね。

「ちょ…ちょっと待った………確認させてくれ。つまり、俺にエミの保護者になって欲しいと言っているんだよな?」

それ以外の何物でもないよね。

「あ〜……それってどうなの?俺、詳しくないんだけど………そんなに簡単に決めちゃっても良いもの?」
「あ、うん♪何てこと無いから♪ほら、面倒な書類は全部準備してあるから、あとは横島さんがチョチョンてサイン入れてくれれば万事オーケー♪さ、ここよ。はい、ペン♪」

エミはカバンから数種の書類を取り出すと、横島の前に並べた。ついでにボールペンを取り出して横島に持たせると、空白になっている氏名欄を指差して強調する。

「まて!?なんでこんなに準備が良い?!ってか、さっきまでの言い難そうな雰囲気はなんだったんだ?!
「え?さ、さあ〜〜〜?何の事かわかんないんだけど?」

横島は思った。

―― ま、まさかここまで全てが計算ずく!? ――

初めのしんみりした話は、全てこれの為の複線だったのだろうか?

―― あ、有り得そうで怖い ――

横島はタラタラと冷や汗を流してしまう。
自分が知っているエミなら、これぐらいの芸当は朝飯前にやってしまいそうだ…
だが同時に思う。
そうだとしても、エミに保護者が必要ってのは真面目な話しとして重要な話じゃなかろうか?
15歳の少女がいつまでもこんな裏世界だけにいて良いモンじゃ無い。じゃあ、俺がこのまま保護者になっても良いのでは?
横島はそう考える。
エミの生い立ちの話が嘘とは思えない。横島は、いままであんな眼で嘘を付いた人間を知らなかった。
だから思惑はどうあれ、話の内容自体に嘘は無いのだろう。もしかしたら、隠し事くらいはあるかも知れないけどね。




<後半に続く>

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