ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(11.1)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/23)

 遠い世界の近い未来(11.1)

「横島様、起きてください。オーナーがお見えです。」
人工幽霊一号の声で、水元は目を覚ました。
寝不足とソファーという無理な姿勢、それにアルコールが入ったまま眠ったことで体が痛いし頭も重い。

 前の椅子で横島も同じようすで起きかけている。

 ああは言われたものの、さすがに気持ちが高ぶり寝付けなかった。
 その様子を見た横島が、酒を片手に、睡魔が力を持つまで付き合ってくれたのだ。
 そして、ようやく眠れたのが夜明け前、時間にして三時間ほどの睡眠だ。

「つきあってもらってうれしかったですが、大丈夫ですか?」

「綺麗なおねーちゃん相手なら徹夜でも平気なんだがなぁ。」
‘気にすることない。’と手を振る横島。

そこに、ドアが開き、一人の女性が入ってくる。

昨晩見せてもらった写真から、この人物が、横島の妻でありこの事務所の経営者の美神令子だとわかる。
中間色でまとめた薄手のブラウスにスラックスという地味な服装にもかかわらず、その容姿は「美神」という姓が相応しいことを実感する。

「今日はいいのか?」
 横島が、やや心配そうに尋ねる。
「夏風邪ぐらいで、病人扱いすんじゃないって言ってるでしょうが。」
胸ぐらを掴み引き寄せる横島を引き寄せる。
 しゃんと伸びた背筋、きびきびした動き、体調を悪くしてるとは聞いるが、とてもそうには見えない。
「それに、あんたがへんなもの拾ってくるからおちおち寝てられないでしょう。」
それだけいうと横島を離し、こちらを向く。

「あなたが水元さんね。おキヌちゃんからだいたいのところは聞いたわ。」

「あっ‥‥その‥‥ お世話になっています。」
我ながら、月並みのセリフだと思う。どうも、美しい女性の前だと自分の未熟さを意識してしまう。

「うっ、寝起きで、ひげもまだ。おまけに酒臭いし。レディと話をするにしては、準備ができていないわね。」
露骨に顔をしかめてみせるが、嫌な感じが微塵もない。

「おキヌちゃん。」
 キッチンの方に声をかける。
「このおにーさんに、シャワーでもあびさせて、さっぱりしてもらってちょうだい。」

エプロン姿のおキヌが来て、所長室を連れ出される。

「氷室さん、僕は、何か気にさわることでも‥‥ 」
挨拶もそこそこに外に出されたことについて、美神の機嫌を損ねたのかと不安になり、尋ねる。

「これから、二人で朝のセレモニーがあるんです。」
 おキヌがいたずらっぽく微笑む。
「初めての人には見せられないと思ったんでしょう。気にすることはないですよ。」

「モーニングキッスとか‥‥ をするんですか?」
 少し考え、遠慮気味に尋ねる。

「それくらいだったら良いんですけど‥‥ 」

「えっ?」
一瞬だが、想像力がおかしな方に向く。
 反射的に紫穂がいないことを確認し、ホッとする。
 今のは、目の前の人だけには絶対に知られたくない。

「まぁ、すぐに見られると思いますよ。」
 ど続けるおキヌ。
「初めての人はびっくりするんですけど、気にしないでくださいね。」


そのころ、所長室

「さっ、おキヌちゃんも行ったことだし。」
横島は、美神の方に向き直り
「朝の熱き口づけと抱擁をばっーーー!」
 美神の方へ飛びつこうとするが、カウンターがあごに決まる。

「あんただって、同じなの! 美しい妻にそんな薄汚れた格好で抱きつこうなんざ、五千年早い。」

「そんなぁ〜、昨夜から、霊団退治とか大変だったんだぞー。ちょっとぐらい、疲れた夫に気遣いがあってもいいだろう。」
はずれたアゴをはめながらも器用にしゃべる。

「何が”夫”よ、このおっとどっこい。おキヌちゃんから聞いてるわよ。」

「へっ」

「霊団の半分はむこうの子供たちが、残り半分はおキヌちゃんが片づけたんでしょう。あんたがしたのは、みんなをこの事務所まで転移させただけじゃない。」

「‥‥‥」

「働いてないんだから、除霊報酬の歩合はなしね。」

「げっ、それじゃ、今月の小遣いは?」
 即座に、支出の予定を計算する、完全な赤字だ。

「この前あげた分でおしまい。今月は、もう大きな仕事はないから、あてにしていた浮気の資金がパァってところかしら。」

「搾取じゃー 資本家の横暴だー 立て、万国の労働者諸君よーー」

「うっさい!何に、化石化したスローガン言ってんのよ。」
拳を振り上げ叫ぶ横島の顔に、美神の投げたクリスタル製の灰皿が食い込む。

「美神さん、いいですか?」外でおキヌの声。

「いいわよ。」何事もないようなに美神。

「俺の悲しみをおキヌちゃんの胸で癒させてくれ〜 」
 入ってきたおキヌを見た瞬間立ち直った横島は、おキヌにすがりつこうとする。

 予想の範囲とばかりに、抜き打ちの神通棍が横島を撃ち落とす。
「おキヌちゃんに甘えてどーすんの!!」

「だってー、最近、甘えさせてくれないだろうが!」
倒れながらもきっぱりと言い放つ横島。赤くなる美神。
「力を込めて言うセリフかぁぁぁ 病身の妻の血圧あげてどぉーーすんじゃ!!」
とどめとばかりの神通棍の一閃。断末魔のけいれんの後、動きが止まる。

‘これを見せたくなかったんでしょうけどね。’苦笑するおキヌ。
 もっとも、これに似たシーンを水元たちの前で演じるのは時間の問題であることを二人をよく知るおキヌにはわかっている。

「水元さんたちの朝ご飯の用意をするんですけど、美神さんはどうします?」

「蛍子と家ですませてきたからいいわ。それよか、コーヒーをお願い。食事がすんだら、ご対面といきましょうか。」

「わかりました。終わったら呼びますので、お願いします。」

 キッチンの方に出ていく。

「頑張ってるわね、おキヌちゃん。」
 昨夜から、応接室で子どもたちの様子を見ながら仮眠を取っただけで、早くから掃除や買い出し、美神への報告と席が温まる暇がなかったはずだ。
 しかし、疲れた様子をまったく見せない。。

「ヤドロク、おキヌちゃんに、無理させんじゃないわよ。」

「わかってるって。」
とうに復活している横島が真面目な表情でうなずく。

「じゃ、あんたもさっさとシャワーでも浴びて、おキヌちゃんを手伝いなさい。で、終わったら、ご飯持ってこっちに来なさい。会う前に、もう少し詳しいところを知っておきたいから。」
そう言うなり、外へ追いやる。

 出たのを見届け、所長用の豪華な椅子に腰を下ろす。
 あれだけのやりとりで動悸が上がっている。普段ならこの百倍のドタバタ劇を演じても平気なのに‥‥

  気配を感じドアを見ると、隙間があり横島が覗いている。

「ドス!!」
 反射的に閉められたドアにペーパーナイフが刺さる。
 戦車用の装甲から削りだしたそれは、本物のナイフ以上の代物である。

‘‥‥ったく、少し熱があるぐらいで心配されるようじゃ、私もヤキがまわったわね。’
 閉じられたドアを見ながら声を出さずにつぶやいた。

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