ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―12後半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/22)


<前半からの続き>




暗闇である事と、後姿だった事もあり顔や年齢などはいまいち分かりづらいが、そのシルエットからおそらくは男だと思われる。

「生きてる奴に迷惑掛けちゃ駄目だって。それに……言っても分からんと思うが、さっさと成仏したほうがお前の為なんだぜ?」
「ぎゅるるる…俺は、俺は……ぎゃあぁ…」

霊波の塊は男の右手から伸びているようだ。
男は、もう殆ど自我も残っていなさそうな悪霊を相手になにやら語りかけている。

「だから……さ?ちょっと痛いけど…………悪いな、優しい除霊ってのはいまいち苦手なんだ…我慢してくれよ?我慢してちょっとだけ……」

男はゆっくりと右手を、そこから伸びる霊波の刃を……

「……極楽に逝って来い。」

―― ブゥンッ ――

横に凪いだ。

「ぎゅるあああぁぁぁっっ!!!!」

一文字に煌く霊波の輝きの中、悪霊は大きく一声啼いて霧散する。
その様子を眺めてから、男はゆっくりと令子の方を振り向いた。

―― 若い! ――

だいたい20歳前後だろうか?暗闇ではあったが、それくらいは何とか分かる。
令子は自分よりもほんの少しだけ年上であろう男が、先ほど見せた力の大きさ驚きの色を隠せない。
確かに相手はただの悪霊だった。霊力、体力が整っていれば自分にだって楽に倒せる相手であろう。
だが、それでも目の前の男の発する霊力が自分とは桁違いだという事ぐらい分かる。
下手をすると、ママよりも強い?
未だに自分の母以上のGSを知らない令子は、その想像に戦慄して、唾を飲み込む。

「おい、大丈夫かそっちのひ………と?」

未だにへたり込んでいる令子に向かって、男は声を掛けてきたのだが……

―― なに? ――

男は言葉を詰まらせる。令子の顔を見てなにやら驚いているようだった。

「あ、ありがとう。助かったわ。まさかあと1匹いたなんて……油断しちゃったわね。それより、貴方って何者?あ、私の名前は美神令子。良かったら貴方の名前を教えてもらえるかしら?」
「み………美神さん…」

だが、男は驚きのほうが先に立ち令子の言葉には反応できずにいる。

「……どうかしたの?」

令子はいぶかしむ。小首をかしげて問いかけた。
男は再度掛けられた声にハッとして、どうやら我に返ったようである。
ゴホンと1つ咳払いをして口を開いた。

「あ〜……俺は横島、横島忠夫…」
「よこしまただお………ね?」

最小限の必要な事項だけをなんとか言う横島。
遂に彼は、令子と出会う。
横島と令子は月明かりの元で、お互いがお互いの顔を見つめ見つめられていた。

………………










時間は少し前後する…

………………

「おかしいと思ったらこう言う事だったか。」

俺は、錆びてボロボロに壊れたフェンス越しに、ここから少し離れた場所で戦うモノ達を眺めていた。

「どうやら女か?髪長いし……さすがにこの暗さじゃあ輪郭しか分からんな。」

今日の除霊は廃ビルの悪霊集団を退治すること。
依頼書によると、おおよそ20から30体程度の悪霊がビルの中に住み込んでしまったらしい。たいした数でも無いみたいだし、ようやく俺の望む「そこそこの仕事」が回って来たと思ったんだが……
結局現場には霊なんて全然いなかったし。
一応、痕跡だけは残っていたんでそれを追跡してきたら……

「こんな所で他のヤツと戦ってたわけね。」

どうやらあそこにいる……多分GSだろう人物の霊力を嗅ぎ付けてフラフラやって来たんだろうな。
さっきこれを見つけたときは直ぐに加勢しようとも思ったんだが、見る限り加勢の必要なんて無さそうである。

「結構良いGSじゃねえか?」

ピート……って免許取得前の奴と比べたら失礼か…ピートよりも多分腕が立つ。
時々風に乗って声が流れてくるけど、えらい気合入ってんな。何て言ってるかまでは聞こえないけど。

「ん、後1匹………ちょっとだけ霊格が上かな?ここらのボスって所か?」

若干だが動きが鈍ってきたように見えたので、ボチボチ加勢が必要かと思ってたが、どうやらこのまま最後の1匹まで倒してしまいそうだ。

「……って、え?!」

俺の目の前で信じられない事が起こる。まだ悪霊が残っているのに、GSは戦闘態勢を崩して脱力したのだ。
ちょっと待て!?なんでそこでへたり込む?どっかやられたか?いや、そうじゃ無い!あれは…もしかして最後の1匹に気づいて無い?!
悪霊は上空から急降下して迫って来ているのに、彼女はそれに気が付いていないようだ。
くそっ!
疲れで霊感が鈍ってるな?!

「気ぃ抜くな馬鹿っ!まだいるぞっ!!!」
「?!!!」

俺はおもいっきり大声で怒鳴る。
駄目だ!気が付いたみたいだけど、もう間に合わんっ!!
ええいっ!

―― ガシャンッ! ――

俺はフェンスに手をかけて一気に飛び越えると、そのまま右足をフェンスの支柱部分に押し当て…

『加』『速』

これでなんとか!!

―― ギュンッ ――

俺は右足を思いっきり蹴りだし、同時に両手に霊力を集中して文珠をつくり出す。
超加速には少し及ばないが、この距離ならこれで大丈夫。発動時間を考えればこっちの方が速い!
俺だって伊達に3年もGSしてる訳じゃない。ちゃんと修行して複数文字の文珠も段々と使いこなせるようになってきた。
だが、実際に戦闘中に使うなら右手1個左手1個の2個が1番発動時間が短くて実用的なのである。
この程度の距離なら、結果的にこっちの方が速く到達できると俺は判断した。
そして、その判断は間違いじゃなかったようで…
おし、捕まえた!
再度右手に霊力を込め、霊波刀を伸ばす。加速した勢いに任せ、今まさに襲い掛かる直前の悪霊の胴体に突き刺した。

―― ズシャーーーァッ ――

手ごたえを感じ、俺は左足で地面を噛みブレーキング。加速の勢いを殺しながら、3mくらい流される。

―― ガシャアン!! ――

そこまでがほんの一瞬の出来事。
そして、フェンスが軋み倒れる音が俺の後ろから聞こえてきた。
少しだけ周囲に感覚を向ける。

―― ん、もう本当にいないな? ――

それだけ確認してから、俺は目の前の奴に話しかけた。
どうやらもう、言葉が理解できるような状態でもないか?
ま、それでもな……

「悪霊してるんだし、色々と事情はあったんだろうけど……」

俺も…流石に3年もGSやってれば、いろんな悪霊の事情に首を突っ込む機会だってあった。
だから、悪霊にだって悪霊になるだけの理由が有るって事も知っている。
一時期は除霊するのに戸惑いを感じて……はは、美神さんに説教されたっけな。

―― そういう想いも全部!受け止めて逝かせてあげるのがGSの仕事よ! ――

分かってますよ美神さん……

「生きてる奴に迷惑掛けちゃ駄目だって。それに……言っても分からんと思うが、さっさと成仏したほうがお前の為なんだぜ?」
「ぎゅるるる…俺は、俺は……ぎゃあぁ…」

あえて成仏しないって奴と違って、想いに縛られて成仏出来ないってのは存在するだけで苦しみ続けるんだそうな。
だから、ますます人を恨み……ますます苦しみが増していくってか?
このままじゃ救えねぇよ。
だから…

「だから……さ?ちょっと痛いけど…………悪いな、優しい除霊ってのはいまいち苦手なんだ…我慢してくれよ?我慢してちょっとだけ……」

きちんと魂洗って生まれ変わって来いよ。
その方がさ……幸せだって。
な?だから…

「……極楽に逝って来い。」

―― ブゥンッ ――

俺は霊波等をゆっくりと横に凪いだ。

「ぎゅるあああぁぁぁっっ!!!!」

逝ったか……・・
と、あっちの方は大丈夫だろうな?
俺は後ろを振り返りながら声を掛ける。

「おい、大丈夫かそっちのひ………と?」

―― !!!? ――

うそ?!
信じられない。なんて偶然だろう!?もしかして偶然なんかじゃないんだろうか?!これが縁ってやつなんだろうか?!
俺は言葉に詰まる。
当然だ。
だって……

「あ、ありがとう。助かったわ。まさかあと1匹いたなんて……油断しちゃったわね。それより、貴方って何者?あ、私の名前は美神令子。良かったら貴方の名前を教えてもらえるかしら?」

まさかこんな所でこんな風に…

「み………美神さん…」

美神さんと出会ってしまうなんて!!
瞬間、何も考えられなくなった。俺の目の前にいるのは美神さんだ。俺が知っているよりも少し若い。まあ、コレに関してはやはりそうか…と言った思いもあるが。

―― 高校生くらいかな? ――

前に見た事のある高校生時代の美神さんと同じくらいの年齢だろうか。
若い!可愛い!美神さんだけど、美神さんじゃ無いみたいだ!新鮮だ!ああ、でもやっぱりあの抜群のプロポーションはボリュームダウンしとるなぁ…

「……どうかしたの?」

はっ?!いかん、いかん!
このままボーっと眺めていたら、俺は変態親父のレッテルを張られてしまうかもっ!?
俺はもう20歳だ!事件になったらもう、少年Aじゃ済まされないーーーーーっ!!
落ち着け!俺はこの美神さんとは初対面だ。初対面らしく余所余所しい会話で無難に切り抜けろ!!
ん!まずは咳払いを1つ。それから自己紹介だったな…

―― ゴホン ――

「あ〜……俺は横島、横島忠夫…」
「よこしまただお………ね?」

GSって世界が狭いんだろうか?
こんなに短期間でこれだけの知り合いと再び知り合う事になるなんて。
人の縁ってのは、世界が違っても切れないものなのかな?
それとも……

―― これが運命って奴なのかな? ――

俺は目の前の美神さんを眺めながら、そんな事を考えていた。



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