ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 20-B


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 7)




「「「「「・・・・・・」」」」」

目の前にいる人は誰だろう?
これはこの場にいる誰もが思ったこと。
あの純真でいつも笑顔を絶やさない心優しいおキヌはそこにはいなかった。

『虚ろ』

あえて表現すればこれが相応しい。
そこは普通の病室。
TVがあり、寝台があり、小さな棚があり・・・・・
何一つ変わらない極一般の病室。

・・・・・・・・ある一つの空間を除いて・・・・・・・・・

寝台の上。
兎の人形を横にかき抱いて、うわ言のように何か呟いているおキヌがそこにいた。

「仮面の魔族が我々に渡した時から、ずっとその状態だ」

唐巣神父はやりきれない様子で、でも目は背けず一度だけ十字をきった。
他の皆は状況に感情が追いついていないのだろう。
固まっている。

「おキヌちゃん!!」

ただ一人、横島だけはこの状況に切迫したように反応していた。
目に涙を浮かべ、何度も何度も彼女の名前を呼びかける。
だが彼女は見向きもしない。

「無駄よ、彼女の目は何も見ていないわ。それに・・・・・」

美智恵は言いよどむ。
横島はそれを急かすように囃したてると美智恵はおキヌの側に寄るようにいった。
静かに横島はおキヌに歩み寄る。
側に近づくにつれ、彼女の独り言が耳に入ってきた。

「横島さん、明日はどこに行きましょうか?遊園地もいいし、景色の良い公園も素敵ですね・・・・・」

横島はそれを聞くと何も言わず美智恵を見る。

「彼女は横島君、あなたといるつもりなのよ」

美智恵はそう言って彼女の寝台に近づくと彼女の隣にある人形を取り上げた。
すると彼女の虚ろな表情が激変する。
悲鳴とも奇声ともつかぬ雄叫びをあげながら、人形を奪い返そうと必死にもがき始めた。
美智恵はすぐに人形を彼女に手渡す。
するとさっきの形相はどこへやら、また元の虚ろな表情に戻る。

「解るかしら?彼女は人形を横島君だと思ってるみたいなのよ」

美智恵はエミに視線を向ける。

「これは呪いなのかしら?」

呪いなら解呪すれば治る。
僅かな希望が皆の胸に一瞬湧くが、それもすぐ否定された。

「確かに人を発狂させる類の呪いはあるワケ。でも、残念だけどこれは違うワケ。」

呪いというものは大抵の場合、何かにとり憑かれることを指す。
つまり、呪われたものは周囲の霊的磁場等に何らかの影響を極微細にでも引き起こすのだが、おキヌにはそれが全く感じられない。
普通に狂ってしまっているのだ。
ある権威ある学者が精神についてこう表現している。

「精神とは一本の細い琴線のようなものだ」

つまり一度切れたら、一度狂ったら二度と戻らないということだ。
だが、だからと諦めてはいけない。
狂ってもその後、治ったという例は幾つかあるのだから。

皆は、せめてこちらに対し何らかの反応を示して欲しいと彼女を呼びかけたり、肩を揺さぶったりした。
しかし、彼女は振り向きも、それを嫌がったりもしない。
・・・・・・・・唯一反応するとしたら、それは人形を彼女から引き離したときくらい。
何度も試みて、それぞれが現実を受け入れたくなくてもやがては受け入れてしまい、そうした人達から沈黙していって再び静寂が訪れる。
それをしかと確認してから、美智恵は、

「もう面会時間が終わってるところを無理言ってお見舞いさせてもらってるんだから、今日はもうこれで帰る事にしましょう」

と言った。
・・・・・・・それに反対する人は誰一人としていなかった。




男三人組とエミが帰り、しばらくして美神が呟くように美智恵に聞いた。

「その魔族がおキヌちゃんをあんなにしたの?」

男三人組とエミが帰り、しばらくして美神が呟くように美智恵に聞いた。
しかし、美智恵は「わからない」と首をふるが、美神はそれで満足などしなかった。

「それでも、何か知ってることは間違いないわ!!」

そう言って、病院を駆けるように出て行った。
それを追うように横島とシロも出て行く。
タマモもそれを追おうとしたが、美智恵に引き止められた。

「・・・・・・・話があるの」






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皆がいなくなり、彼女一人残された病室の中・・・・・・
シンと静まり返るその中で彼女の独り言は止むことが無い。
彼女の目は何も映していないが、どこか幸せにそうなその表情は人を限りなく残酷に人を傷つける。

「・・・・おキヌちゃん」

つい先程まで誰もいなかった空間から一人の魔族が現れた。
魔族とは、もちろん俺の事。
でも・・・・
俺はつけていた仮面を外す。

「今は人間としての俺『横島忠夫』としてお見舞いに来たよ」

仮面を外したところで俺が魔族であることは変わらない。
そんな事は百も承知だが、これは気分の問題。
せめて今だけは人間に戻って彼女に接したかった自己への欺瞞ともいう名の自己満足・・・・・

「今日は時間がたっぷりある。いままで会えなかったぶん、今日は語り合おう」

おキヌちゃんに変化はない。
ただ隣にある人形に話しかけるだけ・・・・・
その人形は「やつ」に買ってもらったものだと思うと心が痛い。
でも今の俺にその事でとやかく言える権利はないのだ。



俺はおキヌちゃんと他愛ない話をした。
魔界の事や争いごとに関しては一切触れず、昔したおキヌちゃんとの買い物の話やおキヌちゃんが退院した後の話を中心に色々と一人で盛り上げる。
中にはありもしない空想の話もした。
時には笑い、おどけてもみた。

・・・・・おキヌちゃんの反応はもちろんなかったが・・・・・

やがてワルキューレと約束した時間が迫ってきた。
もう少し一緒にいたかったが、仕方が無い。
俺は立ち上がる。

トサッ・・・・

俺の懐から何かが落ちた。
俺はそれを見て重大な事を忘れていた事に気づく。

「ああ、俺とした事が。大切な事を忘れてたよ」

俺は落ちたそれにつく埃を払い、人形とは反対側のおキヌちゃんの横に置く。


・・・・・それは白いセーター。
あの時、おキヌちゃんと共に選び買った思い出の品。


「マフラーも持ってこようかと思ったけど、止めたよ。・・・・あれは、俺が勝手に選んだやつだから」

これでも、おキヌに反応が無い。
できれば、ここで一つ、「私の部屋に無断で入りこんだって後で怒らないでね」とおどけてみたかったがそれも憚れる。

「・・・・もうこうやってお見舞いには来れないと思う。でも、これもおキヌちゃんを元に戻す為だから。・・・・おキヌちゃんは強いもんな。俺が必ず治してあげるからそれまで我慢して待っててね」

帰る間際、もう一度おキヌちゃんを見る。
そして己に活を入れた。

「まだだ。まだ、おキヌちゃんの精神は壊れちゃいない!!」





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