いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(13)
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/ 5)
「こういう話、知ってるか?・・魔界正規軍の警察部での事なんだけど・・・。」
J−3419Kが急に話し始めた。
「魔界全域にある一大キャンペーンを組んだ事があったのさ。キャッチコピーは、こうだ・・・
『偽善やめますか?それとも魔族やめますか?偽善の快楽は確実に、あなたの魔体を蝕みます。』」
「ああ?なんだ、それ?」
2〜3人の警護を受けながら演説を続けるメドーサの所へ行こうとしていたJ−0392Cは、振り返って同僚の顔を見た。
「人間界の薬物・・・シoOみたいじゃねーか?」
「シoOそのものさ・・・。一時期、魔族の間で大流行したんだよ。人間を誘惑したり扇動したりするのに、純粋な欲望や悪意ではなく、ああ言う権威とか法律とか、多数派である事とかを後ろ盾にした中身のない「正義」を持ち出すのが。・・・その流行の結果、人間界は異端審問・魔女狩り・絶対王政下の圧政に代表される『中世の暗黒時代』に突入したのさ。」
「なるほど・・でも、どうしてそれが、魔族にとって都合が悪いんだよ?」
「“売人がジャンキーになっちまう”って事だ。」
「??」
「多数派や制度側に回る事で意味もなく正義ヅラしていられるってのは人間にとっても気持ちのイイ、依存性のあるものだったんだが、魔族にとってもそれは同じ事、否、それ以上だったのさ。それを人間への誘惑に使っていた魔族が、次々と自ら使う様になり、その快楽に溺れていった。そういう魔族が最後にどうなったかって言うと、多くが魔力と本能の殆どを失い、魔族じゃなくなってしまった。・・・ただの“根性がヒン曲がった妖怪”になっちまったのさ。」
「・・・だから何だ?彼女がそうなるとでも?
あまり関係ないんじゃねえか?どっちみち人間に転生するんだ。
今、奴さんが持ってる体も力も全部、生前の情報を元にここの素材で転写・再構築した一時的なものだ。
何にハマってたって、転送されちまえば、それまでだ。」
J−0392Cはそう片付けたが、彼自身、実は気になっていた。
メドーサのここまでの敵への執念・企みは確かに背筋がゾクゾクする程に狡猾で執念深く、邪悪なものだった。
しかし、この罠はあまりにも悪魔的でない・・むしろ、人間的すぎる。
得意気な顔のメドーサ。J−3419Kの指摘通り、周囲の同調で成り立つ偽善の快楽に酔い痴れている様だ。
本来、彼らを酔わせ、欺き、操る為だけのものであった筈の偽善に。
「おい!貴様!何をするつもりだ!?」
突如、ルシオラを立たせていたセキュリティの一人が大声を上げた。
ルシオラの全身が最初微かに、そして徐々に強く、発光し始めていた。
攻撃を仕掛けるようなそぶりはなく、そんな力が残っている筈もなかった。彼女はただ、無造作にエネルギーを光に換えて放出していたのだ。
勿論、それを続ければ、彼女はここでも「散る」事になるだろう。
「おい!!止めろ!!今の貴様の身で、そんな事をすれば・・!!」
「このままでは、私の転生はもうずっと先になっちゃうみたいね・・・メドーサ、あんたを止めるどころじゃないわ・・・。
但し、それは、元の霊体で、希望先へ転生したがるならばの話。
混ざり合ってランダムに廻る・・希望先がない、申請が受理される程には望んでいない、或いはそれを希望する者のコース・・には、適用されない。・・・さっき調べたのよ。思い出したわ。」
光を放ち続けるルシオラ。笑顔を浮かべていた。
「行くのなら、もう止めない。メド−サ、行けばいい。
・・・でもね、私はあいつの事が好き。だから、“あいつの住む世界”を守りたいの。
あんたがあいつに殺意を向ける事を、手を下す事を、世界中のあらゆるものに散らばって、
・・世界そのものになって、止めてみせる。
・・私は信じているわ。この想いは、絶対に消えない。」
+ + + + + +
私、お前が好きよ。だから、お前の住む世界を守りたいの。
「夕焼け、好きだって言ったろ。・・・あれで最後じゃ、悲しいよ。」
人間の少年がそう言った。
世界を滅ぼそうとする魔物達に囚われていた時、
そこから逃げ延びられる千載一遇のチャンスを自ら放棄してそう言った。
愚かな人間。 愚かな男。 愚かな少年。
どうしようもなく愚かで・・・・・・泣きたくなる程、優しかった。
転送ルーム内、全ての者が言葉もなく、光を放つルシオラを注視していた。
ルシオラの周りを、蛍の様な光の粒が舞っている。霊体の分解が始まったのだ。
それに伴い、人々の頭の中に彼女の持っていた記憶や感情の欠片が飛び込んで来た。
―例えば、今回の騒ぎの正確な事実関係なども―。転生者達の中で局地的なざわめきが起こり、それは全体に拡大して行った。
「何だよ、じゃあ、あっちの奴が変な事考えてたのが元々悪いんじゃないか!」
「人を殺したいなんて希望を通してんじゃねえよ。何なんだよここは。」
「どんな希望だって大事だろ?ここは彼岸だぞ、向こうの善悪は向こうで裁けよ。」
「そうじゃ!我輩とて憎き我が一族の仇を奴等めの子々孫々にと念じてここまで来たのだぞ!!」
「問題は、ここで割り込みや妨害を目的としたテロが行われた事だろ?」
ざわめきはやがて、メドーサ・あるいはルシオラに対する賛否両論の衝突と化した。
「そ・・そうだよ!!どんな内容だって願いは願いさ。そうじゃないかい!?
・・・あいつだ!!あいつの暴力をこそ憎むべきなんだよ!!」
全員、自分の周りの議論に熱中していて、メドーサの呼びかけに応じる者は少ない。
少ない中でもその半分は
「うるせえ!てめえこそ向こうでやる事は暴力じゃねえか!」
「神話の時代から、あんたの悪行は有名だぞ!」
などの反発だった。
・・・・・変わっちまったな・・生前、否、ここの面会室でさっき最終確認していた時までの彼女だったら、こんな状況では一も二もなく、向こうが分解して消えちまうのすら待たず、自分の手でとどめを刺しに行ってただろうに。今じゃ、二又槍出す前にギャラリーの同意を求めてやがる。
J−0392Cは同僚が何を感じていたのかをやっと理解した。
ルシオラは光に包まれて微笑んでいた。誰からの共感も同意も必要とせず、自分の愛と欲望とに忠実に。
今新たに、誰も傷付けず自らを犠牲とする道を選んで。
メドーサは、試合に勝って、勝負に負けたのだ。
あいつがいなくなる事・死ぬ事を想像すると胸が痛んだ。
それまでの様に、「何も感じない」事は出来なかった。
あいつの事は、そしてその後出会った「彼ら」の事は
それまでの様に「ゴミ」とは思えなくなった。
しかし
人間全体を・人間界を守る・・宇宙の秩序を守る・・正義を・・平和を守る・・
私はそんな事には最初から最後まで関心が持てなかった。
たった一人の愚かで優しい人間。“そいつの生きる世界”を守る為に戦い、死ねたのだ。
お前は何度も葛藤していたね。
私と、“その世界”との間で。取捨選択を迫られて。
私には分かっていた。“その世界”のない所にお前も存在しないし、お前を愛する私も存在しない。
答えは決まっていると。
それでもお前は何度も迷い、決断し、苦しんだ。
今度はもう、その二つを選ぶ必要はない。
私はあらゆるものへと散らばり、お前の世界そのものになり、そして
また、ずっと一緒にいられるよ。
お前の中にいた時のように。
今度はお前の外側全てに。
放出される光に断続的な強弱が生じ、ルシオラの姿がぼやけ始めている。限界が近いのだろう。
いつの間にかルシオラの目の前に先程の少女が立っていた。彼女は泣きそうな顔でルシオラを見つめ、何かを喋ろうとしている。
言葉が見つからず、ルシオラを見つめたまま、何度も首を横に振る。
「君!危ないから下がりなさい!!」
ルシオラを押さえながら自分達と少女とにシールドを張っているセキュリティが怒鳴った。
ルシオラは、少女に片手を差し出す。少女は両手でその手を祈るように握った。
握られたその手は小さくて、柔らかかった。
「あなたの願いもかないますように」
「・・・お前を潰すのに、こんなゴミどもの声なんか使おうとしたのは間違いだった様だねぇ・・・」
ルシオラは少女を逃がすと声の主―我に返り、怒りに満ちた目で一歩一歩近付いて来るメドーサ―へ顔を向けた。
「でも覚えておけ!!結局はあたしの勝ちなんだよ!!
横島はこのあたしを自分の子供だと思い込んで油断した所でハラワタぶち撒けられてくたばるのさ!!
お前はそこらのフナムシやダンゴムシにでもバラで転生する。それが現実的結末だ!!」
「メドーサ・・・あんたの生まれて行く世界・・・あいつの生きる世界のあらゆる所に私がいるわ。
・・・私の想いはあいつの世界と一つになる。
・・・そう、今思い出したけど、あんたに一つだけ言っておきたい事があったわね。」
ルシオラは、白い光の中、子供の様な満面の笑顔をメドーサに向けて、言った。
「・・『あんたなんかに殺らせるもんですか!』って」
「・・・こ、小娘・・貴様・・・・っ!!」
怒りで震えるメドーサの背後に影が差した。セキュリティや職員が一斉にその影へ視線を向ける。
メドーサが背後の気配に気付いたのはその数秒後だったが、顔を歪ませて振り返り、その者の姿を見ると、少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「何だ・・・あんたもこっちにいたのかい・・ニュースを見て駆け付けて来た風だねぇ・・・。
ホラ、ご覧の通り、アシュ様を向こうで裏切ってきたバカ女をイジめてやってたのさ・・・
放っといても消えちまうけどさ、折角だからこいつのクソ甘ったるい夢も凍らせちまっておくれよ、
・・夢魔ナイトメア!!」
「ブヒヒン・・・!」
その、首から上が馬の姿をしている長身の男は短く嘶くとメドーサをそのまま羽交い締めにした。
「なっ・・・何をするんだい!?ナイトメア!自分の悪夢で寝ボケてんのかい!?」
「ヒヒン・・・ボクはナイトメアなんかじゃないわよー?」
センター職員の一人が、慌てた声で彼を呼んだ。
「ば・・馬頭副センター長補佐!」
「な、何だってぇーーーっ!?」
「“他人の空似”なんじゃない?ブヒヒン!」
(続く)
―――――――
・・伏せ字の所はいわゆる「赤ザクの人」ではありません。
今までの
コメント:
- 馬頭観音ですか………うわ〜〜〜ほんとにナイトメアと区別がつかねぇ(笑) (MAGIふぁ)
- メインを地蔵にしようと考えた直後に出てきました。
「メドーサにナイトメアと間違えられる馬頭観音」は。
何か、こんな事ばかり書いてて本当にバチが当たりそうな気がしてくる
今日この頃の自分です。 (フル・サークル)
- >『偽善やめますか?それとも魔族やめますか?偽善の快楽は確実に、あなたの魔体を蝕みます。』
ここ最近のメドーサの言動・行動が、うまく当てはまってますね。
『中世の暗黒時代』を例にとりあげているのも、理解しやすかったです。
いつのまにか変わっていたメドーサ、想いを込めた光を飛ばすルシオラ。
想いが届いたのか、少女と握手できたのはうまくフォローされててよかったです。
そして最後に‥‥そうきたか!Σ(゚ロ゚) →(馬頭観音@ナイトメア) (ヴァージニア)
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