『妹』 〜ほたる〜 (07)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/10/25)
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『妹』 〜ほたる〜 第七話 −六道女学院 編入試験(1)−
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引越しを終えた次の日の午後、百合子と蛍は街に買い物にでかけた。
大きな商店街のある駅で下車して駅前の広場に出た時、百合子が蛍に話しかけた。
「蛍。ちょっとお手洗いに行ってくるから、待っててくれる?」
「うん」
「もう少ししたら、お父さんと忠夫も来るはずだから」
百合子は蛍にそう言うと、あわてて近くのデパートの中に駆け込んでいった。
ちなみに大樹と横島は、ヤボ用があって午前中にでかけており、あとで合流することになっている。
蛍はボーっとしながら、行き交う人の流れを見ていた。
「ねえねえ、君。どこから来たの? 可愛い顔をしてるね」
茶髪で派手な服装をした若い男が、駅前の広場でひとりで立っていた蛍に話しかけてきた。いわゆるナンパである。
「あ、あの、私に何か用ですか?」
「君ひとりなの? いま何歳? 名前は何ていうのかなー」
はっきりいって横島並みの下手なナンパであるが、こういうことに免疫のない蛍は、どう対応していいかわからず戸惑ってしまう。
「え、あの、困ります」
「この近くで、いい喫茶店を知っているんだ。一緒にお茶でも飲まない?」
そのとき殺気のこもった声が、男の背後から聞こえてきた。
「おい、そこの! 俺の妹にいったい何の用だ」
「フッ。可愛い娘を引っ掛けようなんて、貴様には百年早い!」
男が振り返るとそこには二人の鬼がいた。目が釣り上がり、背中から熱気が激しく立ち昇っている。
「ハハハ……、ご家族の方でしたか。失礼します」
その場から逃げようとするナンパ男の襟首を、横島がむんずと捕まえる。
「タダで逃げられると思うなよ」
「蛍、ちょっと後ろを向いていなさい」
「はーい、お父さん」
蛍はくるりと後ろを向く。
「忠夫、準備はいいか!」
「ああ。いいぜ、親父!」
「「せーの、ダブル横島パンチ!!」」
ドンッ!
ナンパ男が、空高く飛んでいった。
その日の夕方、横島一家は引越ししたばかりの部屋で、夕食をとっていた。
新しい部屋は居間も広く、親子四人でちゃぶ台を囲んでも十分余裕がある。
「わははは。たまには一家団欒しながらの食事もいいもんだろ、忠夫」
「うん、まあね」
最後に自分の家で家族揃って食事をしたのは、高校に入る前のことであった。
美神の事務所でも事務所のメンバーと和気あいあいとしながら食事をすることも多かったが、やはり家族が一緒だと雰囲気も自ずと違ってくる。
何より大きな違いは、新しい家族──蛍が加わっていたことであった。
横島が座っている席の向こう側に、蛍が座っていた。
メニューも自分たちと同じである。自分では甘いものが好きだと言っていたが、特に嫌いな食べ物はないらしい。
(こういう生活をしたかったのかな……)
ルシオラと一緒に食事をし、一緒に外に遊びにでかけ、仕事の時はペアを組んで除霊を行う。
そんな生活を自分は欲していたのかもしれない。
夕食を食べている蛍の顔を見ながら、横島はそう思った。
「そうそう、忠夫。明日の午後に何か予定が入っている?」
百合子が横島に話しかけてきた。
「明日って、明日は学校だけど」
「明日は蛍の編入試験があるのよ。午前中は筆記試験で午後から実技試験があるんだけど、実技の方は保護者の同伴が必要らしいのね。ただ明日は私も父さんも会社に用事があって行けないから、代わりに忠夫が行ってくれない?」
「俺はかまわないけど、俺で大丈夫かな?」
「それは大丈夫。編入の手続きで学校に行った時に理事長さんと面談したけれど、忠夫でもかまわないって」
「六道理事長がOKを出したのなら、問題はないな」
「そうそう。あの理事長さん、だいぶ忠夫のことを買っているみたいね。娘の冥子さんの婿に欲しいなんて言っていたわ。ほとんど冗談でしょうけど」
(冥子ちゃんと結婚かー。まぁ身分は一生安泰だろうけど、あのプッツンを年中食らっていたら、いくら俺でも体がもたんぞ)
ふと気がつくと、蛍が横島に厳しい視線を向けていた。
「お兄ちゃん、その冥子さんとも親しいんですか?」
「うーん。冥子ちゃんは美神さんの友達で、いちおう俺も知り合いだけど、親しいかって聞かれるとどうだろう?」
「本当ですか? こっそり隠れて、つきあっていたりしてないですよね」
蛍は小鳩の件があって以来、横島の女性関係について疑い深くなっていた。
「それは無いって。冥子ちゃんの傍にいると、いつもロクな目に会わないんだから」
横島は冥子の十二匹の式神と、プッツンについて説明した。
「えーっ! 十二の式神を一度に操るんですか! そんなにスゴイ人がいるんですね」
「まあ、見かけは全然すごくないんだけどね。それに六道家は平安時代から続く家柄で、ちょっと特別だし」
「ひょっとして六道女学院の霊能科には、そんな人たちばかりいるんですか?」
「まあ、GSを目指している人ばかり集まっているから、特殊な技能をもっている人は多いよ」
「私、大丈夫かな……。私の霊能力なんて、人に見えないものが見えるくらいしかないし……」
蛍は顔を少しうつむかせてしまう。
「大丈夫だって。霊能科は基礎からしっかり教えてくれるから、卒業する頃にはほとんどの人がGS試験で合格するほどの腕前になるんだ。それに蛍には、才能があると思うよ」
「うむ。忠夫も高校に入るまでは、ただのスケベで根性無しのガキだったからな。蛍の方が立派になると、お父さんは思うぞ」
「コラ! 父親なら、少しは息子の肩をもたんかい!」
「まあ、スケベで根性無しまでは当たっているから、仕方がないわね」
「お袋までそれかよ!」
両親からけなされてヘコんでしまう横島を見て、蛍は心の中で同情しつつも、クスクスと笑ってしまった。
翌日、午前中で学校を早退した横島は、六道女学院へと向かった。
応接室に案内されると、まもなくこの学校で教師をしている鬼道政樹がやってきた。
「おっ、久しぶりやな。横島」
「そっちこそ、鬼道」
二人は冥子を通じて知り合いとなった。冥子のプッツンで一緒に入院して以来、わりと仲良くつきあっている。
「おまえの妹が、ウチの学校に入るんやってな」
「ああ」
「筆記の試験はもう終わったけど、かなり成績優秀みたいだな。学科の先生が誉めておったで」
「俺と違って、蛍は頭がいいよ」
「それで今日は、実技の立会いに来たのか」
「そのつもりだけど」
「なんだか理事長が、横島が午後に臨時で実技指導をするって、はしゃいでいたぞ」
「えっ!? そんな話しは聞いてないぞ」
その時、六道理事長が応接室に入ってきた。
「ホホホホ。横島クン、久しぶりね〜〜」
「これから蛍が、こちらでお世話になります」
保護者代行ということもあって、横島は六道理事長に丁寧な挨拶をした。
「横島クンの妹の蛍ちゃんは〜〜、学科の成績がすごく優秀みたいね〜〜。おばさん、期待しちゃうわ〜〜」
「はぁ、どうも。でも霊能科の場合、実技の方が重要ではないんでしょうか」
「横島クンの妹だから〜〜、素質はあると思うのよ〜〜」
「まだ、素人とあまり違わないですけどね。それから鬼道……いや鬼道先生から聞いたんですけど、臨時の実技指導なんて、俺聞いてないですよ?」
「それはこれから話すから〜〜、聞いていないのは当たり前ね〜〜」
「はあっ!?」
「というわけで〜〜、横島クンよろしくね〜〜」
六道理事長は悪びれた様子も見せず、にっこりと微笑む。
「あ、あの、俺も高校生ですけど!?」
「心配しないで〜〜。鬼道先生の補助ということにしておくから〜〜」
「それに、何の準備もしてないですし」
「横島クンは道具なしでも戦えるから〜〜、問題はないはずよ〜〜。バイト代はきちんと払うから〜〜」
けっきょく横島は理事長に押し切られ、臨時で実技指導をすることとなってしまった。
横島は小体育館へと移動した。ここで午後の実技試験が行われる。
「お兄ちゃん!」
横島を見つけた蛍が、横島の方に駆け寄ってきた。
蛍は体を動かしやすいよう、体操着とスパッツに着替えている。
「午前中の試験はどうだった?」
「もう、バッチリ!」
「実技の方も頑張れよ。俺が見ているからな」
「うん!」
鬼道が体育館の蛍の前に立ち、実技試験の説明をはじめた。
「それでは、これから実技試験の説明をします。実技試験は、霊波の強さを確認します」
「霊波って何ですか?」
「霊能者が発する“気”のことです。精神集中して気を発し、その強さを審査します」
「ああ、GSの一次試験と同じ内容だな」
横島が口をはさんだ。
「普段は教師が見本を見せますが、今日は現役のGSが来ていますから、横島君にやってもらいます」
「俺? まぁ、いいけど」
横島は、体育館の中央に描かれた円の中に移動した。
「じゃあ、始めていいか」
鬼道がうなづくと、横島は気合をこめて一気に発した。
「ハッ!」
ゴオオオォォォーーッ!
横島の全身から気が発せられた。
「キャッ!」
「クッ、さすがやな」
蛍はもちろん鬼道までもが、横島の気に押されてしまう。
「ま、こんなもんかな。秘儀を使えば、この倍はいけるぜ」
「無茶苦茶なヤツやな。おまえ本当に人間か? それに秘儀って、いったい……」
「スマン、鬼道。蛍の前では言えないこともあるんだ」
ちなみに横島の秘儀とは、“煩悩全開”のことだ。
知り合いの女性の裸を想像することで、霊力を一気に増幅させるという横島ならではの技である。
「それでは横島蛍さん、始めてください」
「は、はい!」
(続く)
今までの
コメント:
- ユタさん、お待たせしました。約束どうり『〜ほたる〜』をアップしました。(^^)
文中で横島と鬼道が親しいと書いていますが、これは作者の追加設定です。
原作で横島と鬼道が親しくしている場面はありませんが、『原作と違う!』というクレームはご遠慮願います.(;^^) (湖畔のスナフキン)
- >男が振り返るとそこには二人の鬼がいた。目が釣り上がり、背中から熱気が激しく立ち昇っている。
こういう表現って大好きです。見習いたいですね。
>「そうそう。あの理事長さん、だいぶ忠夫のことを買っているみたいね。娘の冥子さんの婿に欲しいなんて言っていたわ。ほとんど冗談でしょうけど」
横島が如何にこの種の誘惑?から逃れ、蛍とくっつくのか楽しみではありますが、色々ありそうですね(個人的には鬼道×冥子派ですが)。
横島と鬼道の仲がいいというのはありそうですね。同じプッツンの被害者同士ですから。
続き楽しみにしています。 (テルヨシ)
- ども、BOMです。
横島親子がちょっち怖い・・・ぶるぶる
“秘技”ってやっぱりそれやったんか、横島ぁ!蛍の前でやったらアカンぞ!
あと、横島と鬼道が仲いいのはGSっぽくていいと思いました。
1から読んでましたが好きです、このお話は。次回楽しみです。ではっ! (BOM)
- こんにちは、ヨコシマンです。実は自分も1から読んでます。こーゆー話大好きなんですよねー。次も楽しみにしてますよー。それでは、ごきげんよう。 (ヨコシマン)
- う〜ん、横島家の男恐るべし(メモメモ)
最初から読ませていただいてますがおもしろいですね、
次回も期待しています、がんばってください。 (wata)
- 横島家の絆の強さを感じました。
あと、原作には確かにありませんが、横島クンと鬼道が親しいという設定はそれほど無理はないと思いますよ。お互い苦労人ですからねえ。 (U. Woodfield)
- あ〜ん♪
悶えるなぁ・・・
蛍タンはぁはぁ・・・
は!?いや、失礼。見苦しい所をお見せしてしまいました。
横島は優秀だし、大樹は横島とそれなりに仲良しだし・・・
凄く良いなぁ・・・
>「「せーの、ダブル横島パンチ!!」」
私にも殴らせて♪w (KAZ23)
- ほたるキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!
さて、いよいよ実技試験!
まぁ蛍なら楽勝だと思いますが、スナフキンさんのことですから何かアクシデントを入れてくれるのでしょうか?(笑)
>横島の秘儀・・・
蛍も兄の半裸を見ると恥ずかしさで霊力UP?(爆) (ユタ)
- コメント返し、遅くなりました!
・テルヨシさん
>横島が如何にこの種の誘惑?から逃れ、蛍とくっつくのか楽しみではありますが、色々ありそうですね
今後もいろいろと誘惑はあると思います。そのままくっつけるのでは、芸がなさすぎますし。(笑)
ラブコメばかりではないのですが、基本的には横島と蛍(ルシオラ)を軸にして、話を進めます。 (湖畔のスナフキン)
- ・BOMさん
>“秘技”ってやっぱりそれやったんか、横島ぁ!蛍の前でやったらアカンぞ!
やっぱ、できないですよね。こればっかりは。(笑)
>1から読んでましたが好きです、このお話は。
ありがとうございます! 自分で言うのもなんですが、この話は作者も書いていて楽しいです。
続きもよろしくお願いします。 (湖畔のスナフキン)
- ・ヨコシマンさん
>実は自分も1から読んでます。こーゆー話大好きなんですよねー。
ありがとうございますっ! 作者としては『君ともう一度〜』の方に力を入れたいのですが、
こちらもあまり間隔を空けずに更新できるよう頑張ります。
・U. Woodfieldさん
>原作には確かにありませんが、横島クンと鬼道が親しいという設定はそれほど無理はないと思いますよ。
ぶっちゃけ、横島と鬼道の仲がいいというのは、KAZ23さんの以前の作品(語ろう会)が
元ネタです。けっこう感じがよかったので、まねてみました。(;^^) (湖畔のスナフキン)
- ・KAZ23さん
>あ〜ん♪悶えるなぁ・・・蛍タンはぁはぁ・・・
キター━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!
蛍ちゃんはぁはぁが!
いや、KAZ23さんがやってくれるとは思いませんでした。(爆)
>横島は優秀だし、大樹は横島とそれなりに仲良しだし・・・凄く良いなぁ・・・
横島がヘンに出来がいいのは私のSSで共通している内容なのですが、大樹と百合子については、私も本当に当たったと思います。
もう少ししたら、大樹&百合子が海外に戻ってしまう予定なのですが、このままフェードアウトさえるのが、
もったいないような気がしてきました。
>>「「せーの、ダブル横島パンチ!!」」
>私にも殴らせて♪w (KAZ23)
トリプルパンチですね。(^^) (湖畔のスナフキン)
- ・ユタさん
>さて、いよいよ実技試験! まぁ蛍なら楽勝だと思いますが、
そんなに楽勝でもないのですが、まぁ誰かと戦うわけではないですから、たぶん合格できるでしょう。
>蛍も兄の半裸を見ると恥ずかしさで霊力UP?(爆)
あ、これいいネタですね。ユタさん、いただきです。
でもこの作品では使わないかもしれませんが(爆) (湖畔のスナフキン)
- ・wataさん
>う〜ん、横島家の男恐るべし(メモメモ)
>最初から読ませていただいてますがおもしろいですね、
>次回も期待しています、がんばってください。
wataさん、すみません。順番を間違えてしまいました。(;^^)
そうです。横島家の男たちは可愛い妹(娘)のためであれば、容赦なく鬼となれるのですよ。(笑)
続きも頑張ります! (湖畔のスナフキン)
- 次でおキヌちゃんの後輩、確定なのかな… おキヌちゃんも色々思う所が有って行動してくる……と言っても、黒でないならおキヌちゃんだしなぁ(^^;……だろうし、六女の学園生活が楽しみです。
…そう言えば、結局シロはどうなったんだろう(苦笑) (逢川 桐至)
- ・逢川 桐至さん
コメントを急かしたみたいで、すみません。(;^^)
蛍がおキヌちゃんの後輩になるのは、ほぼ確定ですね。
でも部活動とかで一緒になることはないですから、あまり顔を合わせることはないかと
思います。(今のところネタがないだけで、将来的にはわかりませんが)
それから、この話のおキヌちゃんは黒くないです。まぁ、いろいろ考えて行動するかとは思いますが。
シロについては、もう少ししたら登場させます。お楽しみに(^^) (湖畔のスナフキン)
- はじめまして、音無達也(おとなし たつや)と申します。
某所の「黒い手」というGS美神SSに嵌って、GS美神SS探し彷徨いココに来ました。
個人的に「黒い手」以来のキター━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!なSSです!!
ハーレムでもなし、横島の恋人が決定しているでもなし、いい感じです!!
蛍が主役のようでしっかりと横島も重要ポジション!
原作と同じような感じでイイです!!
蛍ちゃんの霊能は何なのかもちょっと楽しみです〜。 (音無達也)
- 音無達也さん、コメントありがとうございます。
>個人的に「黒い手」以来のキター━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!なSSです!!
ありがとうございます。『黒い手』は私も読んでいますが、あの面白い作品と並べていただきありがたいです。
(でも『黒い手』の更新が現在止まっていますので、少し寂しいですね。)
>蛍ちゃんの霊能は何なのかもちょっと楽しみです〜
すみません。まだ余り考えていないのです。(汗)
今、『君ともう一度〜』の方が忙しいのですが、『〜ほたる〜』の続きも頑張ります。 (湖畔のスナフキン)
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