ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―14―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/26)

横島は怒っていた。
令子が言った言葉に。
同時に恐れていた。
自分の取っている行動に。
しかし、一向に止まらない。2つの感情は、より密度の高い方の感情に引かれてその行動を決定する。
今、横島の行動を支配しているのは………

「…………ガキ…ですって?」
「……そうだ。」

令子への怒りだった。

―― ア、アカン!もう止まらん!? ――

心の中では、その本能の部分では怖くて逃げ出したいと考えている横島。
だが口をついて出てくるのは、それとは全く正反対の怖いもの知らずなモノであった。
これ以降は、脳内葛藤はなりを潜め……半分くらい本能で、横島は言葉を続ける。

「なによ!?アンタだって私とたいして変わんないぐらいの歳でしょっ!?大体っ!私の何処がガキだって言うのよ!!?」
「全部だ!実力も!除霊を舐めてるところも!死ぬなんて簡単に言うところもだ!!全く分かっちゃいねぇっ!!」

横島は思いっきり怒鳴る。その顔は100パーセント真剣そのもの。
だが、令子もそんな程度で怯む人間じゃ無い。真正面から横島をにらみ返す。
交錯する2人の視線……

「死ぬだなんて言葉…簡単に使うな。その意味も分かってねーガキが!」
「なによ!?そのありきたりな説教は?!いいでしょう?そんなの私の勝手じゃない!!?」
「だからガキだって言ってんだ。」

―― バチバチバチ ――

身長差のせいもあり、横島は上から見下ろすように…そして令子は下から見上げての睨み合いが続く。

「………………」
「………………」

眼を逸らしたほうが負け。そんなルールでもあるかのようだ。2人はそのまましばしの硬直状態に陥る。

「………死ぬなんて…簡単に言うな…」

別に、眼光に負けたわけでは無いのだろうが…膠着を最初に解いたのは横島のほうだった。

「な………なんだって言うのよ!?」

先ほどまでは怒りの色が強かった横島の表情は、一転して深い悲しみを見せる。
その急変に、逆に令子は鼻白んでしまった。

「残されるってのは辛いんだ……お前にだって、大事な人大切な人はいるだろう?その人たちに………辛い思いはさせるなよ…」

令子が口にしたとおり、割とよく聞くタイプの意見。
これをその辺の人間が口にしても、説得力などあまり感じられないだろう。
だが、令子はこの台詞を口にした横島の…あまりに深い哀しみをたたえた瞳に魅せられた。

「………………」

ある意味、その表情に見とれたといっても良いかも知れない。令子は横島の瞳に吸い込まれてしまう。

「ほんとにさ………死んだら…………駄目さ…」

横島の瞳を見つめる令子。だが、横島の瞳が見つめていたのは令子ではない。
それは昔の……
自分の事を生まれてから1番、嫌いになってしまったあの時の……
あの時の自分の視界に有ったモノを……

「……絶対………駄目さ…」
「!!」

その搾り出された台詞は、令子の心を鷲づかみにする。
切なく辛い感情は、全く事情を知らない令子にもやすやすと伝播した。
だから…
令子にも分かる。
目の前の男は、かつて誰か……自分にとって大切な人を喪失しているのだと言う事。
それが、未だにその男の心を強く縛っているのだと言う事に。

―― ズキン ――

いたたまれない。令子の心は横島の心にシンクロしたかのように熱く痛む。
今更だが、自分の口にした言葉がなんの思いも篭ってない、軽いものだったと実感できた。
引き換え、横島の言葉のなんと重いことか……
令子は横島の言うとおり、簡単にそれを口にした自分になにか罪悪感を感じてしまう。
だから、その罪悪感を振り切るように勢いをつけて喋りだした。

「ふんっ!ほんっと、偉そうに説教くれちゃってさ!?アンタ、一体何様なわけ?」

自分の本心を悟られないように…

「私の事、未熟だって言ってくれたわね?!見てなさいよ!!直ぐにアンタなんかぶち抜いて、ブッちぎりの最強GSになってやるわっ!!」
「お、おい?待て、俺は……」

一気にまくし立てる令子。今度は横島のほうがポカンとする。

「とりあえずは、GS試験っ!楽勝でトップ合格してみせるわ!そしたら、さっきの未熟って言葉は取り消してもらうから!」

人差し指をピンと立てて令子は怒鳴った。
横島が伝えたかった部分から、意図的に話題を逸らす。

「ふん!あ〜気分悪いっ!じゃあね、バイバイ……あ、今日のこと内緒って約束は忘れないでよ?!」

本当は、令子にも横島が言いたいことは分かっていた。
だが、それを素直に受け入れるには……やはり彼女はまだまだ子供なようである。
怒鳴るという行為で本当の感情をなんとか隠しで、令子は横島に背を向けた。

「…………私も口約は守るわよ。本当にトップ合格してみせるから……よければ見に来るといいわ。」

背を向けたまま最後にその言葉を残し、令子はその場を後にする。
横島は最後まで呆けた面で、令子が消えた先の暗闇を見続けていた。

………………










―― カタカタカタカタカタカタカタカタ ――

すっかり暗くなったとあるオフィスでは、1人の女性が明かりも点けずに仕事に没頭している。
キーボードを叩く規則正しい音だけが部屋の中に響いていた。

「………ふう…」

と、不意にその音が止む。女性はかけていた眼鏡を外してデスクに置くと、大きく1つ伸びをして一人ごちる。

「とにかく、呪術アイテム他のオカルト製品ばかりを狙っているんだから、その辺から足取りが掴める筈なのよ………」

女性の名は美神美智恵。先日、オカルトGメン日本支部の全権を委任されたGS界きっての女傑だ。

「なのにまったくもって手がかりゼロってのは、逆に解せないわよね?」

彼女はとある事件の解決の為に日本に呼ばれている。彼女の任務は、ある怪盗を逮捕する事だった。
だが、本日は相手に出し抜かれている。はっきり言って完敗だった。
怪盗は、予告状を出す。余裕なのか?美学なのか?不合理極まりない。
何故ならそのおかげで、警備する側は徹底的に守りを固める事が出来るからだ。
今回もそう。蟻の子一匹通さない程の厳重警備、警察、金成木施設警備隊との連携もしっかりと取っていた。
今回は、本当に徹底的に警備強化をしたはずである。

「もしかしたら……」

だが、そんな美智恵をあざ笑うように盗みは実行された。
そしてなんとも驚く事に、その怪盗を目撃した者は居ないという。
それは今回だけではなく、今までに1度もその姿すら見せることなく盗み続けているらしい。
美智恵の常識では、それは不可能犯罪の領域だった。
ただし…

「犯人は人間じゃ無いのかもしれないわ……」

犯人が人間なら………だ。

「例えば魔族だったら?」

今までの捜査は、相手が人間であると思い込んでデータの絞込みを行っている。それでどうしても捕まらないとなれば……
ならば、対象を拡げれば良い。

―― カタカタカタカタカタカタカタカタ ――

美智恵は再び眼鏡をかけ、デスクトップPCに向かって新たなデータの洗い出しを開始する。
規則的な音が、再びオフィス内に響きだした。

………………










都内某所のとある寺にて…

「……以上が現在の到達状況です。」

黒い胴着を着た男が、レポート用紙を手にして、目の前に居る人物に内容を読み聞かせる。
報告を受けているのは豊かなプラチナブロンドをなびかせた、抜群のプロポーションの女性。
壁にもたれ掛かりながら軽く両目を閉じてうつむき、腕組みして報告に耳を傾けていた。
そして報告が終わると閉じていた眼をゆっくりとあけ、おもむろに口を開く。

「結局のところ習得できるレベルに達したのは3人だけか……まあ、もともと期待してたのはお前ともう1人だけだったし……紛いなりにでも、もう1人使えそうな奴が増えたんだ。そう考えれば儲けものって言ってもいいかねぇ………」

開かれた双眸は女性としては極端に鋭いもので、まるで爬虫類…あたかも蛇のようなという形容詞がぴったりと当てはまるものだった。
その視線を胴着の男に向け、続けて言葉を言い放つ。

「残りの2人も連れてきなさい。これから貴方達に奥の手を授けてあげる。」
「奥の手……ですか?」
「そう。今までさせて来た修行は、殆どがこの術を使いこなす為のものだったと言って良いわ。ふふふ、これを使いこなせれば……貴方達の願いどおり、格段に強くなれるわよ?」

ニィと唇を跳ね上げて笑う。一見して明らかに小さい瞳孔が、この笑みで更に小さく絞られた。
胴着の男も流石にそれにはそら寒さを感じ、ゴクリと1つ唾を飲み込む。

「ふふふふ……さっきも言ったけど、今までの修行をきちんとこなせてれば問題無いわ。GS試験まであと10日……それだけあればカンを掴むのは簡単よ。」
「その………いったいどんな術なんでしょうか?」
「…後で説明するわ。とにかくあいつらを呼んで来なさい。」

胴着の男は、この女性の言葉には逆らえない。一礼して後ろを向くと、言われたとおりに残りの2人を呼びに行った。

「ふふふふふ………とりあえずは順調に進んでいるわね。」

男が出て行ったことを確認すると、女は再び眼を細めて呟く。

「流石に当日までは、ここの事はばれないだろうけど……ボチボチ何かしらの動きをはじめる頃かしらね?」

女はクククと、いかにも可笑しいという風に笑いを漏らした。腕組みをしたまま、その方が細かく揺れる。

「一応警戒はするとして……まあ、出てくるのはアイツだろうから、思いっきりからかってやろうかねぇ?」

今度は先ほどよりも更に大きく速く体全体が震える。

「失礼します。2人を呼んできました。」
「お入り。」

そこで、先ほど出て行った胴着の男が、同じ服装の2人を連れて戻ってきた。

「そろったね?それじゃあこっちについて来な。これからアンタ達に『力』をあげるよ。」

そういうと、男達が入ってきた入り口に向かってスタスタと歩き出す。
自分達の横をすり抜けて行った女を眼で追うと、3人の男は急いでその後に続いた。
男達が着ている黒い胴着の胸の部分には、白字で漢字が刺繍されている。
それはこの寺の名前と同じ…

―― 白龍 ――

その2文字だった。



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