ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その42)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/30)

ズキン・・・ズキン・・・

痛い・・・


精神的なものかそれとも目の前の敵の妖気のせいか、それとも幻痛なのか。
それは分からない、しかし確かにひのめは背中の傷に走る痛みを感じていた・・・そう・・・
12年前、・・・ケルベロスにつけられた傷が痛むのを。


(くそっ・・・動きなさいよ、このバカ手足!)

ガクガクと震えるひのめの体。
被捕食者のなるというのはこんな気分なのだろうか、
京華と闘うときに感じた高揚感とは違う、何か不気味な寒さを感じるこの感覚は。

「あ、あんた・・・死んだんじゃ・・・」

何とか口を動かしてみる。
しかし、言葉が通じるのか分からない、12年前はいるのは知性もない獣だったからだ・・・。
黒鹿毛の体毛、赤い舌と充血した眼、尖った耳に筋肉隆々とした太い腕、
発達した太もも、チロチロと舌を出し入れする蛇の尾・・・
両肩のあたりに目立つ切り株のような跡、おそらく12年前に横島夫妻が切断した首の名残。
そして、何より変わらない獲物を捕えるための鋭い牙と爪。
変わったのは少しばかり小さくなったのと、
四足ではなく二足歩行しているところだろう・・・・・・・・・・・だが・・・



『臭うな・・・お前・・・臭いは覚えがアルゾ・・・』

「!!?」

ひのめ目が丸くなる。
それはそうだろう、知性のカケラもないと思われていた獣が人語を喋ったのだ。

『そうか・・・お前昔・・・俺が食おうとしたガキか・・・ソウカソウカ・・・』

「頭の悪い獣かと思ったら、けっこう物覚えいいのね、ケルベロス」

『ケルベロス・・・おいおい、ちゃんとケルベロス族にも個々の名前があるんだぜ・・・
 ・・・俺の名は・・・・・・・・・・『ベロス』」


ケル『ベロス』だから、ベロス?・・・


「「「うわ、すんげー単純────っ!!」」」

『うるさいっ!』

容赦ない女子高生三人組はストレートな意見をぶつけてみる。
ケルベロスのベロスも結構気にしてたようだ。少し分かりにくいがコメカミのあたりがヒクヒクしている。

『で、何であんたが生きてるわさ?12年前にひのめの炎に焼かれて谷底に落ちたはずなのに』

『ほう、その小道具はシャベレルのか・・・面白い』

あんたが言うなあんたが。
と、ツッコミたい心眼だったがここは沈黙を突き通した。
そして、ゆっくりと語りだすベロス。

『ああ、あのときは死にかけた・・・痛くて熱くて・・・このベロス様がなぁっ!』

あからさまに憤怒の形相で睨みつけるベロス。
もし、ひのめ達が霊能力者じゃなければその場で気を失っていただろう。

『最初は虫ダッタ・・・』

「?」

『腹が減って・・・腹が減って・・・食べれるものは何でも食べたミミズ、ハエ、ハチ・・・」

ひのめは料理のラインナップを聞いて思わず吐きそうになる。

『それからだんだんと大きなものに・・・ヘビ、魚、ウザギ、イノシシ・・・そして・・・』

ベロスの頬がニヤリと歪んだ。
嗜虐の笑みとでもいうのだろうか、とてもいやらしく刺すような視線。

『・・・・・・・・最後は・・・・・・・・・・・・・人間だ・・・』

「「「!!!?」」」

『初めて喰った人間はGSだった・・・10年前・・・崖から落ちたんだろうな・・・
 ・・・・ケガして動けないところを頭から喰ってやったよ!
 そしたら今までとは格段に違うエネルギーが俺の中に溢れた!力だけじゃない、知恵、知識、知性・・・
 まるで生まれ変わった気分だったなぁ!!』

ここまで来てやっとN山の異常結界の理由が分かった。
全て・・・全て目の前のケルベロスのせいだったのだ・・・
おそらく10年前に喰らったGSは結界術師だったのだろう、しかも高名な。
喰らったことでその能力、知恵を得たベロスはいかにすれば自分が成長出来るか、餌を取れるかを学んだ。
つまりはそういうことだった。

『しかも、なぜか人間はこの山に入ってきやがる、俺に食われるためによぉ!』

『N山は自殺者のメッカ・・・・なるほど・・・まさにあんたに取っては幸運というわけね・・・』

淡々と冷静に物言う心眼だがその瞳にはわずかばかりの怒りが浮かんでいる。

『でもよぉ・・・ソイツらはあんまり旨くねーんだぁ、どいつもこいつも生命力っていうのが感じられねぇ・・・
 やっぱり喰いてーのは、生命力に溢れた人間・・・』

「そんな人達がこんなところに来るわけないじゃない」

『それがよぉ・・・極たまに来るんだよ・・・・今のお前達みたいに』

「!・・・そうか・・・空間の歪み!?」

ひのめの言葉に口元を歪めるベロス。
そう、ひのめ達が不意に転送されてしまったようにN山、M山の周囲にはいくつかの『空間の歪み』が発生しており、
運悪く引き込まれると今のひのめ達のように転送されてしまったのだろう。

『旨い・・・そういう奴らは旨いだ・・・でも、優しいんだぜ俺はぁ!
 まずは10分逃がしてやるんだ・・・逃げ切ったら見逃してやるってなぁ・・・・でも、無理さ・・・結界張ってあるからなぁ』

舌を出しながらケラケラと笑う獣にひのめ怒りで握り拳を作る。
必死に心眼が『抑えるわさ!』と言わなければ今にも飛び掛っていただろう・・・しかし・・・

『一年前に食べた人間が旨かったなぁ・・・自分のガキを庇う母親の目の前で娘から食べてやったぁ・・・
 うまかったぁ・・・また喰いてぇ・・・喰いてーなぁぁ!ブワーハッハッハッハッハッ!!』


プチッ。


音にはならない何が切れた。
その次の瞬間には幸恵と京華の隣からひのめの姿が消えているのだった。


「このおおおぉぉぉ────っっ!!!」

『ばっ────!!?』

心眼が制御するまでもなくひのめの右拳に霊力が集中している。
怒りという理性を失わせる感情がこれまでで最大の霊力を出す結果になるのは皮肉なことだが、
それでもこの一撃が入ればベロスにダメージを与えれるだろう・・・そう、当たれば・・・

『死ねよ!』

怒りは力を引き出すが同時に冷静な判断を鈍らせ隙を大きくする。
今のひのめも無造作に突っ込んだだけであきらかに振りかぶったベロスの両手に裂かれるのが目に見えていた。
しかし、

「くっ!江藤さん!」

その状況を一瞬で解析した京華が幸恵にアイコンタクトを送ると幸恵もそれにコクンを頷いて飛び出していく。


ドンドンドンドンドン!!!
パラララララ!!!


右手の神銃ラファエル、左手の霊銃ラビアンローズが同時に火を吹いた。
しかし悪霊を瞬時に昇天させる京華の二丁拳銃もベロスの左手一本で全て弾かれる。
だが、それでもいい。あくまで牽制なのだから・・・しかし、そのとき京華はあることに気付いた。

(・・・今弾くと同時に銃弾が当たった箇所が淡く光った・・・まさか・・・)

京華が思案してるわずかな間にひのめはさらにベロスとの間を詰める。
左手は京華の牽制で封じた、だが、残り一本・右腕がひのめに襲い掛かる!
その瞬間・・・


カチ────ンっ!!

『なにぃ!?』

甲高い音と共にベロスの右腕、いやその爪が何かに阻まれる・・・それは・・・。

「ひのめはやらせない」

幸恵と介錯丸だった。
力まかせにベロスがそれを振り払おうとした瞬間・・・・

「このクソ野郎ォォォオ────────ッッ!!!!!!!」

ドゴオオォォォ!!!!

『ぐほあああぁぁぁああっ!!』

ひのめの右ブローが炸裂し、2,3m吹っ飛ぶベロス!

「見たか!これがわた・・・」

決めゼリフを唱えるひのめ。
しかし、そのすぐ横を駆けて行ったのは・・・・三世院京華だった。
風のように疾駆する京華は倒れているベロスの右太ももに素早く霊力のこもった掌底を食らわすと。

ドンドンドンドンッ!!!

『グギャアアァァアアアっ!!』

その直後に2秒間で撃てるだけの銃弾を撃ち込んだ。
激痛に叫びをあげる獣はヘビの尾をその襲撃者にむかわせるが、
京華は間一髪それをよけると素早く後退する。

「美神さん!江藤さん逃げますわよ!」

「な、何言って・・・」

『ひのめ!京華が何のために奴の足を潰したと思ってるわさ!』

「え?」

「ひーちゃん!早く!」

戸惑うひのめは幸恵に強引に手を引かれ走り出す。
まだ納得いかないと言った表情のひのめを説得したのは心眼の説明だった。

『おそらく奴の体に結界が張ってあるんだわさ、最初の掌底はソレを破壊するものだったわさ
 倒れてる状態でも手が届く頭や胸を狙うのは難しい、だから足を潰して逃げやすくする。
 それが京華の策・・・・・・・・で、あってる?』

チラっと向けられる心眼の眼差しに少し笑みを浮かべる京華。
やはり美神さんにはもったいない道具ですわね・・と。
そのとき・・・


『待てエェェェェェェエエエェェ────────ッッ!!!』

「!!?」


天が震えるような怒号に一斉に振り返る三人。
そこには目を怒りで充血させ、器用に三本足で追ってくるベロスの姿があった。

「うっそ・・・あの状態で追ってきた!?」

「しかもわたくし達より早いですわね・・・」

「うぅ・・・ごめんなさい・・・私が足遅いばかりにぃ」

元々運動能力の高くない幸恵が腰に1kg弱の刀を差しているのだから遅れ気味になるのは仕方がない。
それでいていったん刀を抜けば霊力、身体能力が爆発的に上昇するのだから世の中は分からないものである。

「このまま走れば崖よ!どうすんのよ!」

「『・・・・・・・・・』」

「ま、まさか・・・」

『まぁ、川だから死ぬことはないわさ』

「うあぁぁん、やっぱりぃ」

取りあえずベロスを振り切るために崖(川)へのダイブが決定事項となり、
本日二度目のダイブかとうなだれるひのめ。
しかし、そんな三人に一歩一歩近づいてくるベロスはもうすぐ後ろまで迫っていた。

「今よ!飛び込みなさい!」

殿を務めた京華の号令のもとまずは幸恵が川に飛び込む、次にひのめ、
そして、京華が続こうとしたとき。

『貴様らァァァァァァ!!!』

とうとう追いついたベロスの凶刃が京華を捉えた。
避けきれない!京華が覚悟を決めたそのとき・・・

「やらせるかぁ!ひのめ火球っ!!」

ドガァぁん!
ザシュっ!!

ベロスの爪が京華の髪を切り裂いたのと同時にひのめ火球がその顔面を捉える。
灼熱の痛みを12年ぶりに感じたベロスの瞳が捉えたのは・・・

 

 ────中指をピッと立てながら川へ落ちていくひのめの姿だった。


                                 その43に続く

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