ザ・グレート・展開予測ショー

知ってるようで知らない世界―6(後半)―


投稿者名:誠
投稿日時:(03/11/ 7)




令子が開けた扉の中からいくつもの声が聞こえてきた。






「恋人を犠牲にするのか?」

「うるせー後悔するのはテメーが死んでからだ!」





「俺には女の子を好きになる資格なんてなかったんだ!やりたいだのやりたくないだのばっかりで結局あいつのことを・・・見殺しにして!」



「一緒に何度でも夕日を見ようって約束したよな・・・。なのに・・・ごめん、ごめんな・・・。」



―――バタン―――


令子は扉を閉めた。横島が記憶を失っているからなのか画面はノイズがかかったようになっていて風景、人物などはわからなかった。

しかし、断片的に聞こえてきた横島の苦悩の声そして精神世界であるがゆえにもろに伝わってきた感情。

自分への怒り。
自分への殺意。
自分への憎しみ。

なぜそこまでと思えるほどの自分への圧倒的な負の感情。
そしてその中でもはっきりと分かる『彼女』への愛情。


令子は彼の心の闇に驚く。

おキヌは彼が味わったであろう悲恋に涙する。

冥子は普段明るい彼とはあまりに違う彼にショックを受ける。

神父は彼の幸せを神に祈る。

ピートは友が背負うものの重さに衝撃を隠し切れない。

「・・・いこうか。」

神父が小さくつぶやく。

「ええ。」

美神も答え五人は歩き出す。誰も一言も発さずに蛍の後を追う。
ゆっくりと進みながら考える。
自分達が見たものを、そして記憶を失う前に彼がみてきたものを。
彼らは何も語らずしかし全員が同じことを祈っていた。
彼の心の傷が癒えることを・・・。
彼の未来に幸せがあることを・・・。





深層意識。人の心のもっとも深い部分そこにそれはいた。
悪魔ナイトメア。人の意識の中にはいりこみ操ることのできる恐ろしい悪魔だ。国連からかなりの額の賞金がかかっている。

しかし、彼は今、はりつけにされて殴られていた。


―――バキッ!グシャッ!―――

「ブヒンッ、ブヒヒン!ごめんなさい!ボクが悪かったわ!いたい!許して!」

「うるさいわね!この、カマ馬!横島の心にあんたみたいなオカマを住み着かせるわけないでしょ!」

「ブヒンッ!」

こん身の一撃でナイトメアは動かなくなった。ぴくぴく動いているところをみるとまだ生きているようだ。

女性らしいシルエットをした影(少し胸が足りな『ボグッ』ガハッすんません)が横島の心象風景、美しい湖の真ん中から伸びているすべてを包み込むような枝葉をもつ木の金色に光る幹に向かって話し掛ける。

「あなたはやさしいから、自分を許せなかったのね。でも、私はアシュ様の手下のままでは手に入らないたくさんの大切なものをあなたからもらったわ。自由、愛情、希望、それから・・・夢。夢は私ではかなえられなかったけどこれからもかなうかも知れないわ。今の私の夢は、横島に、好きな人に幸せになってもらうこと・・・。じゃあそろそろ他の人がくるからいくわ。私の夢きっとかなえてね。」

女性の影は光りを発し・・・、消えた。




―――タッタッタッタ―――

「ナイトメア〜〜〜!!」

美神たちが横島の深層意識へ駆け込む。そこにはすでにぼろぼろになった馬、もといナイトメアが倒れていた。

「ちょっちょっと待って!ボクもうぼろぼろだしこの男の夢も乗っ取れなかったし今のボクなんて低級霊以下じゃない。そんなボクを・・・」

―――ボキッグシャッグチャッズバッべキッ―――

五人は問答無用で攻撃を仕掛けた。普段直接攻撃をしないおキヌ、冥子も霊波をこぶしにこめて殴った。

―――二十分後―――

ナイトメアは結局両手両足を縛られ吸引された。

「令子ちゃん〜、横島君が〜おきるから〜脱出するわ〜。」

再びハイラの能力で五人は目覚める。

世界を包みこむほどにやさしく、たくましい彼の心にある木をその目に焼き付けて・・・。







「ん・・・。」

「気がついたかい?横島くん。」

「あ、神父・・・。おはようございます。おれ、ナイトメアに・・・?」

俺が目を覚ますと唐巣神父が俺の顔を覗き込んでやさしく微笑んでいた。
後ろにはおキヌちゃん、冥子ちゃん、ピート、そして美神さんが立っていた。

「大丈夫かい?横島くん、どこか体に違和感はないかね?」

「いえ、大丈夫です。ナイトメアはみんなが倒してくれたんですね・・・。ありがとうございます。」

そのとき、おれは気がついた。
泣きそうな顔をしているおキヌちゃんと冥子ちゃんに。
何かに耐えるように下唇をかんでいる美神さんに。

「どうしたの?泣かないで冥子ちゃん、おキヌちゃん。」

おれは今の自分にできる精一杯の笑顔で二人の泣き顔を笑顔の変えようとする。

二人はおれに抱きついて泣き出した。

「横島くん〜大丈夫だからね〜。」

「横島さん、私たちずっと一緒にいますから。」

二人は泣きながらなぜかおれを慰める。
少し戸惑ったがおれには二人が真剣におれのことを心配してくれているのがわかった。だからおれは二人に言った。

「ありがとう・・・。」



こうしてナイトメア事件は終わった。
美神の心に、
おキヌの心に、
冥子の心に、
ピートの心に、
そして唐巣の心に、
それぞれの心に横島への様々な感情を残して・・・。

そして、横島は自分の心が少し軽くなった気がした。
懐かしい誰かに、寝ている間に会えたような気がしたから・・・。




ピートと神父は教会へと帰ってきていた。

「先生・・・。」

「なんだい?」

「あれは、なんだったんでしょうか。」

「彼の・・・記憶かね?わたしにはなにがあったのか・・・わからない。」

神父は弟子の質問に首を振って答えた。

「僕は・・・700年バンパイア・ハーフとして生きてきました。」

神父は黙って続きを待つ。

「あんな、感情はしりません!あんなに悲しく・・・あんなに痛々しい感情は・・・!」

ピートの激しい言葉に神父は少し考え・・・言った。

「ピート君、君も今まで700年生きてきていろんなつらいことがあったはずだ。同じように横島くんにもつらいことがあったんだよ・・・。」

「同じように・・・ですか。流れ込んできた彼の心には誰かへの強い想いと悲しみ、それから自分への様々な怒りの感情が詰まっていました。僕だったら、とても耐えられません・・・!」

「それが、彼に定められた運命なのだよ・・・。私たちには過去のことはどうにもできない・・・。しかし、祈ろう。彼のこれからの幸福を。彼の未来に安らぎを・・・。」

神父はそういうと十字をきり天に祈る。
ピートもそれにならい祈る。

二人は祈る、彼の幸せを。
二人は祈る、彼の安らぎを。
二人は祈る彼の心の傷が癒えることを・・・。





―ブロロロロロ―

美神は一言も発さずにコブラを運転し、おキヌとともに事務所へと帰る。

「美神さん、横島さんは・・・大丈夫なんでしょうか?」

おキヌが先に沈黙を破った。

「ナイトメアは除霊したし大丈夫よ。」

美神は本当はおキヌが何を言いたいのかわかっていた。
だから再びだまりこんだおキヌに続けて答える。

「あれは、記憶なのよ。だから彼が体験した・・・本当の事なんでしょうね。今は忘れてても心のどこかがあのとき流れこんできた闇に侵されているんだと思うわ。」

美神の言葉におキヌは黙ってうつむいている。

「でも、あいつはまだ幸せになることはできるわ。あの時みんなが思ったでしょ?こいつは幸せにならなければいけないって。」

「そう・・・ですよね。幸せに・・・絶対に横島さんは幸せにならないと・・・。」

おキヌと美神は再び黙り、考え込んでいた。







彼女達は知らない。
違う世界の自分達が近くで悲恋を見ていたことを。

彼女達は知らない。
彼の失った記憶に違う世界の自分達との思い出があることを・・・。


彼女達は知らない。
彼女達が望む彼の安らぎ・・・それは永久にこないであろうことを。




そして、気づかなかった。
彼の立ち入り禁止の扉のそばにあった真っ黒な扉の存在に・・・。
漆黒の鎖で封印された扉に・・・。

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