ザ・グレート・展開予測ショー

けして消えない思いと共に


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/18)


 彼には己を待ち望む女性がいたはずだ・・・

『いいから!!いって』

 叫びだけが己の耳朶を打つ・・・

 ・・・いや、打っていた・・・

 それも今となってしまってはすでに過去の話。

 それでも、ただ弱弱しく、しかし明確にその声は彼の心を揺さぶっていく。

『あなただけは・・・生きて・・・』

 救えなかった・・・

 答えはない。最善?最良?そんなのもが現実にどれほどの価値がある?

 価値があるものといえば・・・

 この目の前に並べられた酒だけだ・・・

 酒だけが全てを忘れ、全てを洗い流し・・・そして、全てからその身を逸らし目を伏せ・・・背中合わせになっていく・・・まるでこれでは死人と同じだ・・・

 誰のせいだ?俺か?俺が悪いというのか?

 わからない、あの時どうすればよかったのか・・・きっと答えなんかいくら考えても出やしなかったろう・・・

 いったはずだ、最善だか最良だか、どちらにせよ過ぎてしまった以上は現実には価値などはない・・・

 ただ、酒を飲まなければやっていけないだけだ・・・



 けして消えない思いと共に




 ジリリリリリリリリ―

 バン!

 けたたましく鳴り響くその音源を、彼は叩いて止める。ここ最近、彼の給料の突如の値上がりにより、彼は頑丈な目覚ましを購入することができた。
 今までの彼の生活では、目覚ましなどを購入するなど自殺行為にも等しい。だが、仕事量の増加、ちったぁまじめにやらないとやばいかも精神、さらには上司からの一言により、彼はその給料のうちから泣く泣く(というほどでもない程度に給料は増加した)目覚ましを購入するに至った。

 曰く・・・

「あぁ、横島君、こんどから休日にも早くから来てくれない?」

 だそうである。
 まぁ、これにはいつまでも丁稚でいさせる訳には行かないからという裏の思惑があるのだが、下のものはそんな思慮などお構いなしに貴重な睡眠時間が削られるという事実にただ恐怖するだけである。

「う〜ねみ〜」

 彼は防衛本能から、勝手に下がるまぶたを渾身の集中力によって開かせ、布団をはぐ。
 気のせいか、布団を剥いだと同時に黒い何かが走っていったような気もしたが、まぁ、気のせいだろう。
 あるいは、この汚い室内であるからこそ、見えて当然なのかもしれないが・・・

 時間は、7時。休日のこんな日ならば余裕で8時半まではねていられる。だがまぁ、うちの所長ときたら人使いが荒いわけちだわ我侭だわと、おそらく一分でも遅刻しようものであるのならば二、三回の殴りは覚悟しなければならないだろう。

 それに、今日という日くらいはたまにはまっとうに生活しなければ・・・な。

 彼はカレンダーをチラッと見る。今日は思い出の日。

 悲しい思い出・・・淡い思い出・・・過ぎ去った思い出・・・そして、あって欲しくなかった思い出・・・

 彼はため息を一つ吐くと、顔を洗うべく流しへとむかっていった。

 彼の名は横島忠夫・・・この日本で最高峰のGS である。
 ・・・が、同時に何の変哲もない普通の青年である。ただひとよりもスケベで短慮で、そしてやさしい・・・ただそれだけの・・・たったそれだけの青年である。




「おはようございます」
「あら、おはよう。どうしたの、今日は早いじゃない」
 横島の第一声を返してきたのは、所長の美神である。早くこいとのたまったくせに、すっぱりと忘れている辺りが、この女性の性格を象徴している。

 美神除霊事務所。それが今目の前にある建物の名である。
 レンガ造りを基本とし、三階建てからなるこの建築物は、この日本において怪現象から日夜人々の安全を守るため・・・とか何とか言うような大仰なものではなく、ただ単にお金ほしさからこの職をやっている、まぁそのための事務所であり、ただそれだけの建物である。
 
 その建物の前で二人は挨拶を交わした。
 一方はあいも変わらず貧困そうな服を着込んだ、だがしかし無闇にハッスルしていそうな顔立ちの青年・・・横島である。
 もう一方は、長い髪を後ろへ回した派手な服を着こなしている女性、この事務所の所長、美神であった。
 右手に握られた鍵から、今にも愛車のエンジンでもかけに行くところなのだろう。

 彼女はこの日本、いや、世界的にも有名なGSで、間違いなくその実力、実績、知名度、どれを合わせても世界で5本の指に入るであろう。
 ただ、その営業理念は他のGSの追随を許さぬほどにあこぎな商法からなり、いろいろな意味で高い知名度を誇ってはいるのが玉に瑕だ。

 横島は、かけられた挨拶をどこかはかなげに聞くと、答える。
「いや・・・今日はちょっと・・・まともに振舞ってやんないとですから」
 美神は、その一言で今日という日を思い出し、居心地がわるそうに言う。
「そっか、今日はあんたにとって大事な日だからね・・・」
 


 今日という日、一人の男が死んだ日。一人の女が死んだ日。一人の男が、掛け替えのないものを失った日。

 だが彼はそれでも自分らしく生きていこうと決意した。

 だがたまに悲しくなるときもある。

 でも。今日くらいは自分に素直になってもいいだろ?男はこの日が近づくたびに、そんなことを思う。

 この男は強くて、弱いから。いや、むしろ強さも弱さも、ただ単に目安に過ぎない、何かを測るだけの境界線に過ぎないことを知っていたから・・・そんなものは何の意味も成さない。

 必要なのは、憶えておいてやること。自分の中で生きてるなんて安直なことは言うつもりもない。

 でも、少なくとも、悲しむ自分を見て彼女は喜ばない。

 ・・・だから・・・



「ちょっと、横島君!なにぼぉっとしてんのよ」
 美神がクラクションを鳴らしつつ、怒鳴る。
 はっと横島はわれに帰り、彼女のほうへと近づいていく。
 いつの間にか彼女は愛車を取りに行き、さらには助手である少女をそれに乗せていた。
 どうやらかなりの間ぼぉっとしていたらしい。
「あぁ、すいません」
 横島は頭をへこへこと掻きながら車に近づいていくのだった。




「・・・で、早速今日の依頼なんだけど」
 と、田舎道を走行しながら、美神は語りだす。
「って早くないですか?もうちょっとゆっくりしていってからなぁ、何て・・・」
 横島はそれとなしに口を挟んだが、美神の強い眼差しによって、口を閉じる。
「今回はあんたのためを思ってこんなに早くから出かけるんだからね」
 どういうことかと意味がわからずに、横島は視線を美神へと向ける。その後ろでは彼女のアシスタントのうちの一人である少女―セーターを羽織っている―おキヌと呼ばれているが、彼女は意味がわかったように、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
「どういうことです?」
 横島の問いに対し、美神は少し怒ったように目をつぶり答えた。
「別にそんなにたいした意味なんかないわよ。仕事帰りにちょっと寄り道してあげようかなって思っただけ・・・一年に一回くらいはあんたもいろいろと考え込んじゃうときがあるでしょ?」
 と、なんとなくとげとげしく答えるが、その言葉のうちには躊躇いながらも、横島を気遣う節が見え隠れはしている。
 横島は彼女たちがそれとなしに気を使っていることを察し、それ以上追求しないように押し黙った。

 車はひたすらに無言のまま、田舎道をかけていった。




 そこはただひたすらに田舎という言葉が似合いそうな村であった。
 いまや都会では見ることも難しい田園風景。と、その隣に構える『和』を重点的に出した民家。山、木々、公衆電話、そしてこの場からはひたすらに浮いた存在を見事にかもし出している酒場。

「まぁるでこの部分だけ六本木かどっかから盗んできたみたいね・・・」
 とはまぁ、美神の弁であるが、それもあながち間違いといった印象ではない・・・
 だが、今回の仕事の依頼主は、この浮いた酒場にいるわけなので、どうしても入らなければいけないわけであるが・・・
 この中にはいるのは違和感ばりばりで、ちょっと恥ずかしい・・・

「・・・で、今回の依頼ってどういう内容なんですか?」 
 横島が、恐る恐るといったような感じで、声を上げる。ここ最近彼は実力の上昇から、よく最前線に立たされる回数が多くなってきた。
 一昔前であるのならば、ロープかなんかでぐるぐる巻きにされて悪霊のまん前に放り出された挙句、「ひぇー美神さんお助けをー」とか何とか叫びながらひたすらに逃げ回っていた彼が・・・である。
 たいした進歩を遂げたといえよう。今は自分の上司と共に悪霊を調伏できる仲にまで達していた。
 それをこの横島という男は、『あいつのおかげかな』と暗くなる気持ちをごまかすように、ポジティブな考え方で持って片付けるのであった。

「そんなにびびんなくったって、今回はあまり強いやつじゃないみたいよ?」
 上司は軽い口調で部下を安心させようと務める。
 この村のはずれにある小さな洞窟に、小さな悪魔が住み着いたらしいのだ。しかもなかなか性格が悪いらしく、夜になれば「ふしゅるるるるー」とか何とかいいながら、鎌を持って深夜を徘徊するとか何とか。まぁ、そこらの真偽はどうかはわからないが、とにもかくにも、人間に対し敵対心を持っていることには変わりない・・・
 今回の依頼は、その悪魔を駆除することを依頼された。

「まぁ、詳しいことは直接依頼人に聞くしかないでしょ?」
 だから、というわけで美神はこの酒場に足を踏み入れようとした。このちょっと浮いた酒場に・・・
「美神さん・・・この中に入るのはちょっと・・・」
「ってゆーかあんたらもはいらんかぁー!!」

 ガス・・・っと、横島『だけ』が、蹴りいれられるのであった・・・まぁ、いつものことである・・・





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