悲劇に血塗られし魔王 19-B
投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 6)
雨が徐々に酷くなる。
このまま、酷くなる一方だったら、その内視界さえ奪いかねない。
(天気予報は、雨のち曇りだって言ってたのに・・・・)
この辺が潮時だった。
できれば、もう少しこの楽しさと嬉しさの混じった言い知れぬ幸福感に浸りたいおキヌだったが、どう
やらお天気様は許してくれそうに無い。
おキヌは嘆息して、横島と共に帰路に着く。
その道中のことだった。
雨の中、仲良く雑談を交わしていたおキヌの目に、一つ奥の大通りの真ん中で震える子猫が映った。
ずっと雨に当たり続けていたのだろう。
子猫は遠めにもそれとわかる程ずぶ濡れで、行き交う車の間で立ち往生していた。
良く見れば、こちらと反対側の歩道にその親らしき猫の姿があるが、車の流れが止まりそうに無い。
子猫が我慢できずに飛び出して吹き飛ばされるのも時間の問題だ。
(助けなきゃっ!!)
そう思って駆け出そうとするのを横島が引き止めた。
そして「俺に任せて」と言って、傘と買ったアクセサリー類の入った袋をおキヌに預けると車の行き交う通りに飛び出した。
盛大なクラクションのオンパレード。
彼はそれを全く気にとめず、子猫の元に駆け寄り抱き寄せると、親猫の元に無事送り届けた。
おキヌはちょうど青になった近くの横断歩道を渡って、横島の元に急ぐと、そこでは子猫に頬をペロペ
ロと舐められくすぐったそうにしている彼の姿があった。
(横島さん、素敵過ぎます・・・・・)
この時、おキヌの心の中に初めて告白する勇気が生まれた。
と同時に彼女の内に様々な感情が渦巻く。
断られたときの事を思うと・・・・・苦しみと悲しみが・・・・・・
受け入れてくれたらと思うと・・・・・・・喜びと幸福が・・・・・・
引き伸ばされたらと思うと・・・・・・不安と焦燥が・・・・・・
感情と感情が鬩ぎ合い、ぶつかり合い思わず、
______逃げたい______
そんな事が頭をよぎってしまう。
しかし、それではせっかく生まれた勇気が台無しになってしまう。
・・・・・ならば折り合いを付けようではないか・・・・・
この苦しい葛藤から逃れ、かつ生まれた勇気が台無しにならない方法。
「・・・・横島さん」
・・・・・・それは、自分に渦巻く感情に区切りをつけられるし、なにより多大な勇気を使う行動。
・・・・・・つまり当初の予定通りの行動。
「何だい、おキヌちゃん」
親猫と共に去っていく子猫を見送った横島がおキヌに振り返る。
おキヌは顔が真っ赤になっているのを自覚しつつ、でも横島の顔を真剣に見つめた。
おキヌ、一世一代の大勝負!!
「好きです。横島さん・・・・・・」
「・・・・・・」
おキヌの告白を受けたその時、彼の優しい笑顔に一瞬、違うものが浮かんだ。
それを敏感に察知したおキヌは思わず後ずさる。
さっきまであった嬉し恥ずかしの感情が恐怖と困惑に入れ替わっていた。
その彼女の様に彼は朗らかに笑って尋ねた。
「あれ、どうしたの」
「・・・・あなた、誰・・・です・・か・・?」
内から溢れる恐怖が。
彼から受ける違和感が。
彼女の不安を最高潮に持ち上げ、途切れ途切れの口調はおろか、膝などガクガクと震え始めている。
「おキヌちゃん、何を言ってるの。俺は横島だよ」
あからさまに解る彼女の様子を見ても、心配もせず彼はただ「横島」を演じる。
その時、彼女は気づいた。
彼はどこか・・・・・・・・・「機械的」な事に・・・・・・・・・・・・
その事に気づいた彼女は静かにだが断言する。
「・・・・・あなたは、横島さんじゃない」
___________________________________________________________
つらい。
覚悟していたなんて、とてもおこがましくて言えない。
例え無理だとしても、こんな事なら止めた方が良かったかも知れない・・・・・・
ここは、人間界のとある大通りの歩道。
そこには、一人の少女が座っていた。
ついさっきまで、幸せそうな顔をしていた彼女が今は降り注ぐ雨の中、惜しげもなくその身を晒していた。
地面にはアクセサリーがたくさん散らばっている。
「・・・・・おキヌちゃん」
思わず叫びたくなる。
なぜ、彼女がこんな事にならなくてはならないのだ・・・・・・
俺の大切な人たちの一人だからって何で・・・・・・
「うふふ・・・・・・・横島さん、もう離れてあげませんからね・・・・・・・・・」
「・・・・・」
涙が溢れる。
だが、泣いてはいけない。
泣いたところで、「やつ」を喜ばせるだけだ。
そう思っても・・・・・・・涙は勝手に流れてしまう。
身体が、心が、脳が、理性が、本能が、泣き叫んでいるのだ・・・・・・・・
「横島・・・・・・」
隣に立つワルキューレもまた、涙を流している。
初めてその姿を見たが、俺は別に驚かない。
それどころか、俺は泣きながらどこかほっとしている自分を自覚した。
この凄絶とまでに悲しい光景を目にしてワルキューレがいつもの態度をとっていたなら、いくらそれが軍人出身といえど、俺はもう仲間だ
と思わなかったに違いない。
俺はワルキューレの肩に手を置いた。
「ワルキューレ、泣くのは後にしよう。俺達にはやる事があるはずだ・・・・・・」
ワルキューレは何度も何度も頷くが涙が止まらない様子だ。
でも、それでも毅然と前を見据える。
その様子は頼もしい事この上ない。
小竜姫様がここにいたらきっと暴れ狂って全てがパーになりかねない。
俺の人選に間違いは無かった。
そう確信した。
俺もまた前を見据えた。
そこには、俺を模した「やつ」
そして、
白い兎のお人形を抱いて地面に倒れふせ、何事かを人形にブツブツと語りかけるおキヌちゃんの姿があった。
「ちゃんと見守っていましたか。偉い偉い。「あの方々」も大層お喜びになりますよ」
俺を模したそのままの姿で口調とそして声色をガラリと変えて話しかけてきた。
俺は眼光をより鋭くする。
・・・・好きでやってるわけじゃない・・・・・・・
・・・・見守るしかなかったんだ・・・・・・・
「・・・・・・「あの方」だろ」
だが、思っていることとは全く別の事を口に出す。
「同じ事ですよ。そんな事は・・・・・ね」
「やつ」はくくくっと笑う。
そして、ゲシッと倒れているおキヌちゃんを踏みつけた。
「「・・・・!!」」
俺とワルキューレの顔が怒りに染まる。
それを愉快そうに笑いながら、
「そうそう、「あの方々」の伝言です。」
そう言って、さらにおキヌちゃんをグリグリと踏み躙る。
おキヌちゃんは苦しげな様子を見せるが、それでも胸に抱くお人形を手放そうとしない。
「『もはや、大局的な悲劇は見飽きた。これからは個人に絞った悲劇を楽しませてもらう。』との事です」
「おめでとう御座います、魔王タダオ。あなたは数多いる人たちの中で唯一の幸せも・・・・・」
そう言って拍手をする「やつ」を俺は気づくと殴り飛ばしていた。
心の底から湧き水の様に次から次へと怒りとも殺意とも取れる感情が湧き出してくる。
・・・・・・・・許せない・・・・・・・・・
「やつ」は吹っ飛ばされても平然とした顔で再び嘲け笑った。
口調と声色をまた変えて・・・・・
「ひゃーはっはー。怒るな、怒るな。これからもっと、そういうの起こるんだからさ。こんな事で怒ってたらきり無いよ」
そして「実行するのは俺っちだけど」と付け加え、また下卑た笑いを発する。
俺がもう一度殴ろうとするよりも先に反応したのはワルキューレだった。
「貴様のその舐めた口の利き方・・・・・」
うわ言のように呟くワルキューレに、「やつ」は笑いを止めた。
「あの牢獄ではどうも。気絶させちゃって御免ね〜」
どうやら以前ワルキューレに聞いた、自分を牢獄から救ったという人は「やつ」だったようだ。
ワルキューレは、思わぬ再会に少々面食らった様子だったが、それでも尋ねるべき質問は忘れない。
「あの時、なぜ私を助けた」
「やつ」はその質問に対し、少々嫌な顔をしながらポツリと一言こぼした。
「慈悲ってやつだよ。」
それからは大した話も無く、その場を離れる事となった。
「やつ」は俺が何もできずに離れるのが楽しくてたまらないと言ったように笑い声をあげながら最後にこう付け加えた。。
「彼女の事よろしく〜」
その言葉を最後まで聞かず、俺はおキヌを大切に胸に抱え、暗い街道をワルキューレと共に全力で疾走した。
雨が小降りとなり、やがて止んだ。
もうあれから結構な距離を離れた。
おキヌちゃんの様子は相も変わらず静かなものだ。
俺はスピードを緩め、ぎゅっとおキヌちゃんを抱きしめる。
「小竜姫は、上手くやっただろうか・・・・・」
ずっと無言だったワルキューレが俺に話しかけてきた。
俺は暗い夜空を仰ぎ見る。
「それは、大丈夫だろう」
「・・・・・・・」
ふっと、暗かった夜空が少し明るくなる。
月が雲間から顔を出したのだ。
俺はそれを目を細めて見、次に胸の中にいるおキヌちゃんを見る。
(・・・・・御免な)
「ワルキューレ、予定を繰り上げるぞ」
それを聞いたワルキューレの顔がわずかに輝く。
「・・・・そう言ってくれてホッとしたよ」
今までの
コメント:
- 横島が帰ってきたと誤解してくれて結構嬉しい今日この頃・・・・
おキヌちゃん、狂っちゃった(テヘッ)うおっ、石が、槍が、トマホークが俺に向けて一直線に飛んでくる〜。
ぜぇぜぇ、どうも。おキヌちゃんファンの暴動が起こりかねない文章を書いてしまったDIVINITYです。まじ皆さんの反応が怖いです。でも、解ってください。これ、とことんダークですし、おキヌに狂って貰わないとそもそも話が次に進みません。何とか、最後には救ってやりたいとは思っていますので、大目に見てはいただけませんか?(無理かな)
次は、このダークな波紋が広がります(おいおい)。
次回「おキヌの行方」 (DIVINITY)
- やばい!おキヌちゃんが・・・。ショックです。
このままではシロも?タマモも・・・?
タマモは、タマモは許してやってください!!
ということで次回っていうか最後にみんなが救われるのを期待しております。 (誠)
- く・・・なら僕はベアリングでクレイモアーかましてスプラッターに・・・
この気持ちをどう表せと!!
どうも〜ヒロです〜
おキヌちゃんが壊れてもーた。ちゃんと修理、もとい、アフターケアはしてくださいよ・・・結構繊細な子なんで。
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- ども、BOMです〜。
ああ!おキヌちゃん壊れたぁ!めっちゃダークフルやないですか!めっちゃ暗いやないですか!
ってか横島モドキがすっげームカツクやつに見えたのは気のせい?
横島、自分もお前の計画に入れてくれ!・・・なんて思ってしまいました(笑)
いやいや、とってもダークってて良かったですよ。次回のダークも期待!ではっ! (BOM)
- うわ〜、一番手はおキヌちゃんか〜。横島モドキの正体といいダーク街道一直線やないすかー!
大局的な悲劇よりも個人的悲劇の方がキツイですわ〜。いつ横島とモドキが入れ替わっていたのでしょうか?全然気付きませんでした
あと、何人? (TF)
- 痛い話です。
ダークならどんな酷い目に遭わせてもよいわけではないと思いますが、
このレベルであれば物語展開に必要なものとして受け入れられます。
中には拒否反応を起こす方もいらっしゃるかとは思いますが、
あまり過敏に反応しないで自分の目指すものをお書きになってください。
独りよがりの読むに耐えない展開にならない限りは読ませていただきます。
今の内容でも締めつけられるような辛さは感じますが、そうでなければダークを書く意味はないとも思いますので。
次回を楽しみに……と言うとちょっと違いますが期待してお待ちしています。 (U. Woodfield)
- はい、拒否反応一号です。
いやあ、痛くなってきました。
こういう作品だと分かって読んでいるのですが、遂にきましたねぇ・・・
流石に今回は(個人的に)賛成入れられないかな。
では。 (KAZ23)
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