不思議の国の横島 ―12前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/22)
話も終わり、飯も食い終わり、横島とエミはファミレスを出て駅の前まで戻ってきた。
横島の隣を歩くエミは終始無言のままうつむいている。
その顔は傍目にも明らかに分かる程真っ赤に染まっていたのだが、夜だったと言う事とエミがうつむいていた事で、横島はその事実に気づかなかった。
当然、何エミが故顔を赤くしていたのかなど、完全に思惑の外であろう。
―― あ〜なんで何も話さんかな?俺なんか変な事したか? ――
横島の考える事なんて精々この程度だ。
エミが何も話さないのは自分が変な事したからじゃないか?っていう方向に思考が向かう。
―― 良い娘だなんて子供扱いしたのがいかんかったか?! ――
とか
―― 同情とか言っちまったのがまずかったか? ――
なんて、見当違いのことを歩きながらずっと考えていた。
一方、エミのほうはエミのほうで…色々と考え事をしながら横島の隣を歩いている。
エミは……
横島の事を、初対面の時からそこそこ好感を持てる人物だと思っていた。
一見平凡な男だが、実は信じられないほどの実力を持っていて、だがそれを鼻にかけることが無い。
鼻にかけないどころか、むしろ自分で自分の力がどれだけ凄いのかを分かっていないようにも見えた。
―― ふふ、変な男♪ ――
そのとぼけた所が多分、嫌味と紙一重で心地よい。絶妙な雰囲気を持った男だと感じていた。
今日もそう。横島はエミをきちんとエミとして見てくれた。呪い屋でも、子供でも無く、唯1人の人間として見てくれた。
―― それが、こんなに嬉しい ――
エミは、急速に横島に惹かれている自分を自覚する。
こんなにコロっと転んでしまって、自分はこんなにも惚れっぽい女だったのか?
今までずっと、そんな機会なんか無かったから……耐性が無かったのかもしれない。
エミは……
ある決意をしてさっきから硬く閉じて開かなくなっていた自分の口を、一生懸命に開く。
「………ね、ねえ!」
「お?ど、どうかしたか?」
もうこれから後は分かれて帰るだけだ。そう思っていた横島は、さっきまで全く話そうとしなかったエミが突然語りかけてきた事に少し驚く。
今までうつむいていたので分からなかったが、エミの顔が上気し赤く染まっている事と、なにやら思いつめたように真剣な表情……むしろ怖いくらいの表情に横島も気が付いた。
「あ〜……えと………」
語りかけ、それでも次の言葉がなかなか出てこない。目まぐるしく、そして複雑に変化するエミの表情。
しかし、エミは思いの丈を込め………言いたかった言葉を発する。
「その………ありがと、横島さん…」
「え?…………」
それは何に対しての礼だったのだろう?
保護者として後見人になってくれた事?自分をきちんと自分と言う人間として見てくれた事?
それとも……
「ありがとうって……ああ、後見人の話?良いよ良いよ、特にたいしたことじゃ無いって!」
とりあえず、横島はそう受け取ったようだ。
エミの顔が真っ赤な意味なんて、ろくに考えもせずに。
「ううん。アタシ……本当に嬉しかったんだ。その……色々とさ…だから……」
エミはもう1度その言葉を口にする。
「……ありがと…」
「ん……ああ、分かった。」
流石に横島にも、エミが真剣だということ位は分かった。この言葉がエミにとって大事な言葉だという事も。
だから、とりあえず素直にエミの言葉を受け取ることにする。
「………それでさ、良かったらこれから…」
「…っと?ヤバ!もうこんな時間っ?!」
現在の時刻、PM9:26…
横島は時計塔を見上げてそれを目にすると、急にあわてだした。
「ご、ごめん!俺、これから仕事あるんだよっ!!」
「えっ?!」
なので、エミの最後の台詞には気が付かない。
「今日は、この辺で!また、何かあったらいつでも連絡くれな?」
「ちょ、ちょっと待っ…」
横島は右手を上げてそう言うと、そのままクルッと反転して駆け出す。
「…っと、そうだ!」
駆け出したが、直ぐに急ブレーキ。もう一度エミの方を振り返った。
「GS試験、頑張れよ!いらんお世話かもしれんが、応援してる!」
最後にそう言い残して、今度こそ横島は走り去る。
後に残されたエミは、ポカンとした表情でしばし動きを止め、横島の消えていった方向を眺めていた。
少しの間だけそうしていて、それからエミは無意識に前方へ上げていた右手を下ろすと一言漏らす。
「………………ちぇっ、残念…」
それでも、その表情はそれ程ガッカリって程でも無さそうだった。
「ま…………次の機会で良いワケ♪」
そして、今度ははっきりと嬉しそうに呟く。
エミはニコニコと緩む頬もそのままに、ゆっくりと歩き出した。
………………
―― ズビュッ! ――
「次っ!吸引っ!!って、こっちもっ?!でええいっ!?鬱陶しいっ!!」
古いビルが立ち並ぶ一角は、夜になると人気も殆ど無くなる闇の世界。暗くじめじめとしたその場所には廃ビルも目立つ。
「このっ!このっ!!はぁ、はぁ…こっ……」
本来は月明かり程度しか届かない暗所が、今は強烈な閃光を放ち激しい音を立てていた。
その原因は1人の少女、赤茶色の綺麗なロングヘアを闇夜に躍らせ、複数の霊…既に悪霊と化したモノを次々と祓っていく。
「こんなに居るなんて聞いてなかったわよーーーーーーぉぉっ!!?」
どれくらいの悪霊と戦ってきたのか、彼女の息遣いはかなり荒くなっており、比例して動きのほうも霊力満タン時に比べて荒く鈍くなってきているようだ。
それでも彼女は戦う事を止める訳にはいかない。言わずもがな、そのときは彼女の最後の時になるのだから。
「しくったーーーぁっ!これで500万は安すぎるっ!!お札とか、下手すると赤字っ?!いやーーーーぁぁっ!!?赤字はいやーーーーぁあっ!!!」」
―― ザシュッ ――
傍でこの台詞を聞いてれば、意外にまだ余裕ありそうにも見えるけど…
とりあえず、彼女はボチボチ限界に近づいていた。
「この、いい加減に…はぁ、さ、さっさと成仏っ……」
―― ドゴーーーン! ――
この少女の名前は令子。
ゴーストスイーパー研修生、美神令子という。
「こいつで………上がりっ!」
「ぎゅるああああぁぁっ!!?」
令子は残った力を振り絞り、霊力を集中して強力な一撃を目の前の悪霊に向け放った。
振り下ろされた神通棍に切り裂かれ、廃ビルの悪霊は断末魔の叫び声を上げて消滅する。
令子はそれに一瞥をくれて呟いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう、居ないわよね?」
―― シーーーン ――
息を整えながら注意深く辺りを見回す。
「………………よし、はぁ…はぁ、い、一丁上がりっ…」
周囲から悪霊の気配が消えたことで、令子はホッと息を吐きそのまま地面にへたり込んだ。
「だーーーーーーぁぁああっっ!!!ほんと、信じらんないっ!!自縛霊1匹って話だったんじゃ無いのっ!?20匹以上はいたわよっ!!それぞれは大した悪霊じゃなくったって、何十匹もいたらそらキツイわーーーーーぁぁっ!!!」
安心した事で一気に不満が噴出してくる。それらの思いがストレートに口をついて出てきていた。
「気ぃ抜くな馬鹿っ!まだいるぞっ!!!」
「?!!!」
―― ぶるっ! ――
どこからか聞こえてきた突然の怒声!だが、その声について考えるよりも先に激しい悪寒が令子を襲う。
「し、ししし、死ね死ね、死ねーーーーーーーぇぇぇっ!!」
「うそっ?!ヤバ…」
全て倒したと思っていた悪霊が、突然令子の頭上に現れた。
悪霊はそのまま体当たりでもするような勢いで令子目掛けて突進してくる。
危険を察知し、それをかわそうとする令子だったが…
「駄目、間に合わ…」
体力も霊力も共に空っぽに近い状態。なおかつ弛緩して緩みきった体勢では、この一撃はかわせない!
―― やられるっ! ――
令子は無意識に両目を閉じて身を硬くする。
この攻撃はかわせない。防御も間に合わない。無防備のまま喰らってしまう。
やばい!大怪我?!いや…
―― 死? ――
刹那に浮かび消えていく思考の数々。
そして次の瞬間…
―― ズシャーーーァッ ――
「!!」
―― ガシャアン!! ――
「?!!!」
―― シーン ――
「………………」
―― シーン ――
「…………あれ?」
強烈な衝撃を想像した令子だったが、一向にそれはやって来ない。訝しく思い、そろりと目を開けてみると……
「悪霊してるんだし、色々と事情はあったんだろうけど……」
頭上から襲ってきたはずの悪霊は、令子から7〜8m程はなれた場所に漂っていた。
いや、そうではない。悪霊は、霊波の塊…刀のような細長いそれに胴体を貫かれて動けなくなっている。
そして……
―― 誰?! ――
悪霊と令子の間にはGジャンとジーンズを身にまとった人物がいた。
<後半に続く>
今までの
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- 後半に続く。
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