ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 16


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 3)


彼女達は大罪を犯した。
犯したが故に自分が所属していた所を去り、罪を償う道を捜し求めた。
・・・・さながらそれは敬虔な信者のように。
ただ盲目に探そうとした。
どこかでは解っていたと思う。
罪を償うなど愚かしい事だと・・・・
罪とは一生背負い続ける重荷なのだと・・・・
それでも彼女達は罪を償う道を探そうとした。
・・・・耐えられなかったから。
そんな彼女達に一つの光明が射した。
それは「残虐」という名の光明かもしれない。
それでも縋りつける唯一の光明だった。








・・・・目の前に己の犯した罪がいた。





「・・・・横島さん」

「・・・・横島」

時が凍る。
名前を口にしても目の前にいるのがその人だと信じられなかった。
無理もない。
「彼」はそれこそ、この世で最も存在してはならない人だったのだから。
どんなに心の底から望んでも・・・・・
・・・・それが叶うはずが無いのに。

「いったいな〜、も〜」

なんで気づかなかったんだろう。

・・・・「彼」の声は昔と変わっていなかった。

・・・・・思わず涙が出そうになる。




でも・・・・・・





本当に「彼」は横島なのだろうか?





「彼」から溢れ出る力強い魔力。
昔は端々に人を気遣う彼特有の思いを秘めた口調も今はない。
なにより・・・・・
なにより彼はあんな・・・・・
・・・・あんな危険を感じさせる無邪気な笑顔をしない。


でも・・・・・
それらがどれだけ「彼」が彼じゃないと否定しても・・・・・
彼女達は縋ってしまう。

顔が同じなのだから・・・・・


故に動けない。
反目した感情のせめぎあいが彼女達の動きを束縛する。



だが悲しいかな。
彼女達の時は凍れど、周りの時が凍るなど有りはしない。

「貴様、生きておったか・・・」

倒れていたズルベニアスが起き上がる。
槍で串刺しにされつつも、それを微塵も感じさせない豪胆な態度は見事だ。

「僕が死ぬ?きゃははははは!!天と地が引っくり返ってもそれはないねっ」

まただ。
横島はそんな子供みたいな笑い方をしない。
横島は「僕」なんて言わない。
「彼」自身が自分が横島であることを否定する。
それが解っても、それでも彼女達は動けない。


・・・・・・・今の彼女達はただ縋るしかない愚かな信者。



「さあ、そろそろ終わりにしよう。なかなか楽しかったから、お礼に一瞬で殺してあげるよ」



槍を無造作にズボッと引き抜く。
ズルベニアスはうぐっと呻くが眼光に衰えはない。
この魔王と一人で戦っていた時は何度もの突然の変容に驚き、しまいには恐怖すら覚えてしまったが、今はそんな事はない。

(我輩は華々しく散ってやろう。・・・・・だがっ!!)

落としていた戦斧を拾う。
ズルベニアスは思い出す。

・・・・・・こんな厳つい身体を持つ自分に添い遂げてくれた一人の女性を・・・・・・

(・・・・さらばだ)

「うがああああああああっ!!」

大振りに鋭く縦に一閃。
しかし、そこにいるべき敵がいなかった。
拍子抜けをするズルベニアス。
慌てて周囲を見渡す。
「彼」はいつの間にか家の玄関の前にいた。
ドアの影に隠れていた女性を引っ張り出す。
その女性は・・・・・

「ナッ、ナターシャーーーー!!」

ズルベニアスの妻だった。
魔界は一夫多妻が当たり前。
そんな中、ズルベニアスは一人の女性に精一杯の愛を注ぐ愛妻家としても有名だった。
女性は同じ「コレイル」の出身だったが、力強さはまるでなく、儚さをその身に内在していた。
ほっそりとした面に淡く澄んだ紫の瞳。
艶やかな銀の髪。
触れたら崩れてしまいそうな白い手。
まさに夕闇に咲く一輪の銀の薔薇、と評す事のできる美女だった。

「きゃはははっ!!あんたが愛妻家だってことは知ってたよ。だからね、死ぬ前に連れてきてあげたんだ。感謝してよね」

細やかなサラサラとした銀の髪を引っ張りながらそんな事を「彼」はのたまう。
ナターシャと呼ばれる女性は痛みを耐えつつ、己の夫に見つめる。

「あなた、御免なさい・・・」

愛しき妻の悲しみに満ちた発言は、己をこれでもかと責め立てる。
気にするな、その一言さえでない。

「ねえ、思い出しちゃったよ。ズルベニアス・・・だったっけ。あんたさー、本気だしてないんでしょ。だしてよ。でないとさ・・・・」

髪から顔へ、「彼」の手が移動する。
そして、顔を鷲掴みした。

「この綺麗な顔、握りつぶしちゃうよ・・・・」

「ぐっ、ううう・・・・」

余りの痛みに声が出てしまうが、それでも最小限に抑えているのは夫の前のためか、はたまた外見とは裏腹の気丈さ故か・・・・

「やめてくれ、やめてくれ・・・・」

呪詛のようにズルベニアスは呟く。
小竜姫とワルキューレはこの時になってようやく事の深刻さに気づいた。
二人は慌てて止めに動くがそれを視線で牽制される。

「あああっ!!」

ぐぐぐっとナターシャの身体が持ち上がる。
自重が増えて、普通なら取り落としてしまうものを「彼」の掴む力が増すだけで状況は悪くなるだけだ。
ギシギシギシッとズルベニアスは歯軋りする。
・・・・・切れてはいけない。
・・・・・あの時にそう誓ったではないか!!
・・・・・だがしかし、このままでは・・・・・

「ううう、ああああ・・・・・」

彼女の苦痛が響き渡る。

誰もどうする事も出来ない。

このまま、彼女は死んでしまうのか。

ゆらりとズルベニアスが動いたのはそんな時だった。

「魔王よ、彼女から手を放すのだ。」

「切れたらね・・・」

ズルベニアスの言葉に「彼」はにべも無く言い放つ。
しかし、ズルベニアスの表情は動かない。

「ならば、心配無用だ。我輩は既に切れかかっている。戦闘になれば、お前の望む戦いが出来よう」

「ふ〜ん・・・」

「彼」の手が離れる。
ドサッとナターシャが床に倒れ、朦朧とする意識の中それでも夫に言わなければならない事があった。




「駄目よ、あなた・・・・・・・」




「あの時の誓いを忘れたの・・・・・」





それを聞いた「彼」の表情が劇的に変わった。









「・・・・・ルシオラ」












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