ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 10


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/10/29)

目を覚ますと俺は知らない部屋の中にいた。
知らない壁、暗い部屋、気味の悪い絵に奇妙な調度品。
もう怪しさ爆発といった感じだが、俺はその事に不気味さを感じはしなかった。
俺が寝ている間もずっと観察していただろう男にむかって声をかけた。

「おはよう。サタン」

今が朝かどうか甚だ疑問だが、気にしない。
目の前にいる男はじっと俺を見詰め、やがてニパッと笑う。

「サッちゃん、呼んだって〜な。横島ちゃん。」

実に朗らかに笑うこの男、全然そうは思えないが魔界の最高指導者である。
何故か関西弁のその口調、おどけた姿勢、そのどれもが人に「人懐っこいやつだな」と思わせるが・・・・・・
気をつけなくてはならない。
それに反目した内に潜む思考・それを現す視線の極微細な変化。
でも、俺にはお見通しだ。
その全てが・・・・・・・「情報」のとおりなのだ。
俺は苦笑しつつ、頷く。

「分かったよ、サッちゃん。その代わりサッちゃんも俺の事はタダオと呼べよな。」

「んっ?」

「横島忠夫は俺が人間の時の名さ。もう、そんなやつはいない。魔族になった俺の名はタダオさ。」

「けじめみたいなもんか?」

けじめか・・・・

「・・・・そんなもんかな」

「ふーん、まあええわ。じゃあ、これからあんさんはタッちゃんや!!」

ガタンッ!!
・・・・思わずずり落ちてしまった。
ちょっと待て・・・・
タッちゃん?
おいおい、小学生がつけるあだ名じゃないんだから・・・・・
俺は精一杯の非難の視線を向ける。
しかし、魔界の最高指導者にそんなものは何の意味も成さなかった。

「そんな、非難がましい目で見たって駄目やで!!あんさんはタッちゃん、タッちゃんなんやーーー!!」

指を突きつけ、断言する。
俺は「わかったよ」とばかりに手をあげ降参する。
もう少し討論していたかったが、これじゃ話が続かない。
・・・・・ったく、面白いやつだ。

「よっしゃよっしゃ、じゃあ、本題に入るな。・・・・・タッちゃん!!」

突然、真面目な顔をして俺を睨む。
なんだ、なんだ!?

「魔王就任おめっとさん」

「・・・・どうも」

ガクッと脱力してしまう俺。
これは、早いとサッちゃんとの会話に慣れないとこっちが疲れてしまうな。
俺は、魔界に来て早速試練にぶちあたった。


・・・・・ところで。
俺がこうして突然魔界で暮らす事になったのに焦りもしないで普通に振舞っていられるのは何故だろうか。
ちょっと種明かしをしよう。
なんと今の俺はアシュタロスの記憶を「情報」として受け継いでいるため、取り立てて困る事は何も無
いのだ。
その「情報」の一部を試しに引き出してみよう。

〜〜〜魔王〜〜〜

この魔界の中では魔王誕生というものは実にひっそりと執り行われる。
一応、天界にもこの事を形式的に伝えられるらしいがほとんど簡略化されているらしい。
つまり魔王誕生は天界・魔界の中ではそれ程ビッグニュースではないのだ。
ビッグニュースとされるのは、常に魔王の動向であり誕生やプライベートな部分は余り注目されない。
人間界に当てはめると政治家に近いかもしれない。
といえど、真面目に動いているのは意外と少ないのだ。
魔王は俺を含め現在8人いるが、真面目に動いているのが3人しかいない。
残りは酒池肉林の生活を送るものもいれば、ギャンブルに興じるものもいれば、ぶらぶらと当てもなく旅にでているものもいれば、ひたすら己を磨くことに集中するものもいる。(ちなみに残りは俺だが、まあこれからってことだな)

とこんな感じでパッとしかも分かりやすく「情報」を引き出せる。
これは魔界に疎い俺にとって、非常に有り難い。

「知ってるやろが、魔王は最初ゼロからスタートや。領土も無く、部下もいない。あっ、でもアシュタロスの城は使ってええで。タッちゃんはアシュタロスの跡を継いだ形やから。」

それは朗報だった。
さすがに寝床は欲しいと思っていたのだ。

「魔王には特別な制約は存在しない。自由やと思ってくれればええ。遊ぶのも良し。領地拡大に勤しむも良し。団体作って何か行動を起こすも良し。これを機に思いっきり羽伸ばすもよし。し放題や。これはええでぇ。あんさん、いいもんになれたなぁ〜。」

お前も似たようなものじゃないか、という突っ込みはぐっと抑える。
だが、それがいけなかった。
サッちゃんが俺を睨む。

「タッちゃん、そこはあんたも同じようなもんやないけ〜!と突っ込むところやろ。いっかんなー。同じ関西生まれやないか・・・」

何!?サッちゃんが関西人!!っていうか人間界出身!?

「ここもや!!ここは、お前は天界出身やろ〜と突っ込む場面やないかっ」

「・・・はははっ」

・・・・
・・・・
・・・・ちょっとついていけない
笑ってごまかすが・・・・
ううむ、俺を気後れさせるとはさすが魔界の最高指導者。
ただものじゃない。

「ふう、まあええわ。それに話も以上や。」

短っ!!

「タッちゃんには期待しとる。頑張っておくんなはれ。」

「あいよ。」

俺は立ち上がり、この場を去ろうとする。
でも・・・・

「ああっと、出口どっち?」





タダオが去る。
見えなくなるまで、それを見つめてからふうっと溜息をつく。

「どうやった・・・・キーやん」

サッちゃんは後方のちょっと離れたところに位置する柱の方へ呼びかけた。
するとそこから音も無く一人の男が現れた。
天界の最高指導者、キーやんその人だった。

「難しいですね。何か考えていることが有るようでしたが、それが何かわかるまで私としては行動の仕様が無い・・・・」

キーやんは肩をすくめる。
サッちゃんもうんうんと頷く。

「せやなー。所々できちんと反応してくれるのやが、それだけや。不自然な様子が一つも無い。」

「それが逆に不自然と言えなくもないですね。普通、魔王になったというだけで有頂天。頭の中では何をしようかという考えで一杯のはず。そのせいで不自然な仕草の一つ、二つしてしまうのが当たり前です。」

キーやんは考え込みながら話す。
それを珍しいなと思いながらポツリと先程から考えていた事を述べる。

「案外、あんさんに気づいてたっちゅー可能性も有るなー」

キーやんの顔がこわばる。
もしそうだとすれば、それは周囲に警戒できる程の心の余裕があることをさす。
つまりは・・・・横島は魔王になった事をごく当然のように受け止めている。
・・・・そして、これからどう動くかもう既に決めている。
・・・・迷いもない。

(やはり彼は・・・・)

「そうだとしたら、彼はやはり危険です。」

(やはり彼は『あれ』に見初められしものなのか・・・)





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