ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 21


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/ 8)



人の精神はとらえどころの無いものである。
特に乙女心なるものはその際たるものであろう。
静寂の中に激情があり、渇望の中に憂いがある。
何をもってそうなるか皆目見当もつかないが、強いて言うなら過去と現在の入り混じった複雑な錯綜がそれを形成するということか。
とにかく、その乙女心から来る行動とは厄介であり不可解なものが多い事は動かし難い事実だ。
だから女性が意味深な行動をとり始めたら最低限、これだけは常に意識していなくてはならない。
その行動は己が心から望む欲求の現れなのだと。








シロの様子が変だった。
おキヌの変わり果てた様子を見た次の日のことだ。
あれ程横島に懐いていたというのに、今はそんなことはない。
逆に忌避さえしているようにも見えた。
そして暇さえ見つければ、疾風の如く外へと出かける。
皆は変だなとは思っても最初は特にそれを気にはしなかった。
特に美神においては仮面のつけた魔族を探す事に夢中でそれに気を掛ける余裕などなかった。
それから数日が経つ。
でも、シロの行動に変化は無かった。
むしろ活発化したと言ってよい。
彼女は睡眠もそこそこに、早朝から外へと出かけ始めたのだ。
ついに美神と横島とタマモはこの事について相談をしだした。

「シロの行動がおかしいのは皆知ってるわね」

「勿論すよ。なんか俺、避けられてるっぽくて少し寂しいっすね」

「そう、あのシロが横島君を避けている・・・・・これだけでも、かなり怪しいわ」

「加えて、暇さえできれば行き先も告げず、外へ出て行くあの行動・・・・・・謎ね」

タマモの言に皆がうんうんと頷く。
シロと比較的仲の良い悪友であるタマモさえ知らないとなると、結局推測するしかなく、皆はあれこれと状況から様々な推理を試みた。
いわく、

「修行」

「おキヌちゃんのお見舞い」

「実は何も考えていず、ただあちこちをほっつき歩いている」

等など・・・・・
どれが誰の考えかは推して知るべしだが、どれも有力となるものではなかったというのは言うまでも無い。
皆は思わず唸る。

なぜ横島を避けるのか?

これが目下、一番の謎。
つい最近までのシロはあんなに横島に懐いていたというのに・・・・・・

「ねえ、シロが変になったのっておキヌちゃんの入院騒ぎ以降よね」

タマモがもう一度原点に戻って考えを整理してみる。

「あの時、何かシロに変わった様子でもあった?」

皆はそれに首を振る。
「なかった」という意味ではなく「わからない」と言う意味で・・・・・
あの時、一体誰が他人の心配をする余裕がもてただろうか。
誰ももちやしない。
もちろん、タマモだってそれくらい理解している。
観点を変えてみた。

「じゃあ、あの場でおキヌちゃん以外に変わったことあった?」

この質問にも皆、首を傾げる。
これも、おキヌにのみ注目がいっていて異変など知る由も無い。
タマモは更に観点を変える。

「じゃあ、誰かの話の中に・・・・・・」

自分で問いかけて自分でその時、気づく。

(まさか・・・・・)

しかし、それだと全てが一本に繋がる。
暇を見つければ、颯爽とどこかへ出かけるシロの謎の行動。
横島を避けた理由。
そしてその不信な行動がなぜおキヌの異変を目にした次の日なのか・・・・・

「・・・・・・解ったわ」

タマモは呟くように話す。

「おキヌちゃんの仇討ちよ」










その頃、シロは街道を駆け抜け、雑居ビルのたち並ぶ薄暗い細道にいた。
シロは慎重にでも素早く道を進み、やがて一つのぼろいビルの前に立った。
このビルの入り口とは別の、地下へと通じる階段を降りた先にあるもはや閉鎖されたバーが彼女の目的地だ。


ここ数日、彼女は仮面の魔族を探す事に躍起になっていた。
理由を挙げるなら、やはりおキヌが挙げられる。
横島がいなくなってから、おキヌはシロの面倒を率先してみてくれた。
武士としての気構えを第一にしているシロとしては、そんな彼女には多大な恩義を感じていたし、何かして礼をしようとも思っていた。
だが、礼をする間もなく彼女が狂ってしまい、シロはそんな事をしでかした仮面の魔族に怒りを感じずにいられなかったのだ。
それともう一つ、彼女には隠れた理由があった。
横島である。
おキヌがさらわれる前、横島はその魔族と戦闘したらしい。
それに敗れてしまい、そのせいで彼女があんなふうになってしまったのだ。
横島は人一倍優しい性格の持ち主だ。
きっと己を酷く攻め立てているに違いない。
そのせいで自ら防ぎこんでしまうかもしれない。
シロはそう考え、こう結論した。
彼にはずっと笑っていてもらいたい。
だから、その魔族を自分が捕まえて、おキヌを元に戻そうではないか。
後、本人にはその事は言わないでおこう。
止められるだろうし、何よりそんな事をいって自分の気持ちを知られたらと思うと恥ずかしすぎる。
その時のシロの頭の中には、「横島が勝てなかった魔族に自分が果たして勝てるのか?」とか、「例え勝てても、おキヌは本当に治るのか?」といった疑問は浮かんでこなかった。
そしてシロの捜索が始まった。
最初の数日は適当に町を探索しあたりをつけ、それから本格的に探し始めた。
でも、あたりをつけた場所の悉くははずれでシロは徐々に焦り始める。
もう、その魔族はここにいないのではないか。
そう思いつつも彼女にはやめる事はできなかった。
そして、今日はそのあたりをつけた最後の場所の捜索だった。





ギイイ

幸い、鍵はついておらず、錆付いたドアをなるたけ静かに開ける。
中はもちろん暗く、なんとか見える程度。
シロは目を細め気配を探る。

(・・・・この中に誰かいるでござる)

独特な匂いの充満するその店内の奥まったところになにかポッと小さく光が燈っているのが見えた。
シロは気配を殺し、側による。
光は大きくなり、やがてカウンターに座る大柄な男を写しだした。
男は座っている為、正確な身長は解らないがかなりのでかさだ。
そして傍目から見てそれとわかる極限まで鍛えた筋肉。
加えて見事に禿げた頭。
シロは思った。

(・・・・・・・これが仮面の魔族なら、爆笑者でござるな)

しかし、世の中には「万が一」というものがあるし、この男から魔の気配がするのも確か・・・・・・
シロは気配を殺しながらさらに男に近づいた。

「・・・・」

シロの接近に気づいたのだろう。
男は振り向き、シロと対峙する。
その時、初めてシロはこの男が、血のように赤いワインを飲んでいた事に気づいた。

「・・・・犬か」

男が初めて吐いた言葉はよりによって『シロに言ってはいけない禁句』ベスト1に位置するだろうものだった。
シロは当然のように切れる。

「拙者は狼でご・・・・ざ・・・・」

だが、それも最初だけで、彼の凶悪とまでいえる視線に睨まれると徐々に語尾が弱まり最後はもはや音になっていなかった。
男が立ち上がる。
シロは思わずしり込みしてしまった。
ズーンとまるで山のような大男がそこに現れたからだ。

(大きいだろうと思っていたでござるが、これは大きすぎるでござる!!)

実際にはシロが思っているほど大きいわけではない。
身の丈2メートル届くか届かないかである。
だが、そう感じさせてしまうのは全身の鋼と称せる筋肉だ。
飾り物の筋肉ではない。
死闘を想定した角ばったそれでいて、しなやかな筋肉。
こんな筋肉をシロは見た事無かった。

「こんな所に何のようだ。野良犬・・・・」

もう、シロに自分が狼である事を主張できなかった。
男が立ち上がる時、手に持つ物が見えてしまったのだ。
それは、斧。
しかも、木を伐採するのに使うような斧ではなく、戦闘に使うような必要以上に大きな斧だった。
装飾が派手で煌びやかだが、良く使い込まれているようで所々磨り減っている。
斧の切っ先など、鈍くギラリと光り、触れただけで裂けてしまうのはもう一目瞭然だ。
シロは死を覚悟した。

「・・・・答えぬか」

しかし、人狼の誇りにかけてせめて一太刀は浴びせてみせよう。
シロは構えを取る。

「・・・・ならば、死ね」

その言葉と共に猛烈な殺気がシロに襲い掛かる。
シロは震え上がる己に活をいれ、敵がいるだろう前方に霊波刀を突き出す。
しかし、手応えはない。
それに自分が切られたと言う事も無い。

「・・・ククク、ガーハッハッハッハ!!」

豪快な笑い声が響く。

「?」

男はいつの間にか先程座っていた所に戻り、そこでワインを片手に笑っている。
その時にシロは気づいた。

(・・・・・・拙者は遊ばれていたのでござるか)

言い様の無い屈辱が溢れ、怒りが身を染めるが、だからと相手を攻める気にはならなかった。
完敗とはこの事を指すのか、そうシロは半ば呆然としながらそう思った。
思うと同時にこの男に畏怖の念が生じる。

「拙者は犬塚シロと申すもの。どうか名前を聞かせてはくださらぬか」

男は笑うのをやめ、シロを見る。
シロの目はこれ以上ないほど真剣だった。
男はその目にふと既視感を覚える。

(・・・似てるな)

もはや戻らぬ日々。
あの日々は彼にとって最も充実した日々だった。
自分の治める村は今より賑やかで・・・・
妻がいて・・・・・・
そして・・・・・


「我輩か?我輩の名はズルベニアス。『覇虐の牙』などと魔界ではいわれておったわ」






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