いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(10)
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/31)
キャメラン4匹がメドーサを囲むように広がり、徐々にその輪を縮めて行く。
大魔球はドーム内を思い思いの方向に飛び回り、周囲を牽制していた。
キャメランたちの中央にはルシオラが立っていた。
メドーサはその状況にそぐわない程の静かな声でルシオラに話し掛ける。
「・・・お前に、一つ聞いていいか?」
「・・・何よ?」
「何故、ここまでして、あたしの邪魔をするのさ?」
「!!・・・当たり前でしょ!?」
メドーサは一歩踏み出した。ルシオラの全身に緊張が走る。
「どう、“当たり前”なんだい?」
「どう、って・・決まってるじゃない?」
「いいや、決まってなんかないね。」
メドーサはそのままルシオラに向かってゆっくりと歩いてくる。
「横島の体内にある霊基構造を頼りに他の霊体と混ざらずに再生したい。奴を死なせたくない。
・・・全部、お前のワガママに過ぎないじゃないか。」
キャメランたちが首をメドーサに伸ばしながら、シューっ、と息を漏らすような唸り声を立てた。
ルシオラには分かっていた。ここで生成された魔獣は本体と魔力との結合がとても弱い事を。
甲羅の縁や足元が光を放ちながらその像をぶれさせ始めている。
「そんな理由でこのセンターの・・輪廻転生そのもののルールを、それに基づいたあたしの正当な権利を、
お前は侵害しようとするつもりなのかい?」
「ふざけないで!!」
ルシオラは構えを取り、右手を突き出して霊波を放出する。メドーサはそれを直で受けた。
「正当な権利!?・・・気に入らない、とか、プライドとかで誰かを殺そうとする事が!?」
ルシオラの攻撃を受けたまま後ろへ飛ばされて行くメド−サ。広場の壁際にいた人々が一斉に左右へ逃げる。
メドーサは壁に衝突した。壁にめり込んだままでも、顔はルシオラに向けられ、笑っていた。
「クックックッ・・・そうだよ。あたしだって再生したいし、奴の近くへ行き・・・・基本的に同じなのさ、お前と。
イチャつきたいのか、ブッ殺したいのかだけの差でね。」
「その違いが・・・大きいのよ!!」
ルシオラが放った第二の攻撃をメドーサは飛び上がって躱した。
そのまま上昇するメドーサをルシオラは追跡した。
20メートル・・・30メートル・・・40メートル・・・50メートル程の高さでメドーサの姿が消えた。
背後から声がした。
「お前に出来る事は、あたしにだって出来るんだよ。」
衝撃。
ルシオラは弾き飛ばされ、ドームの内壁に叩き付けられた。
壁から、使われていないスロープの上に落ちる。
顔を上げると、そこにメドーサが立っていた。顔を蹴り上げられる。バイザーが外れて飛んだ。
「ここまで来るのに何度もあのおO動さんのパチモンから説明されたんだろ?
向こうでの正も邪も、生も死も、ここでは等価なんだよ。
だから、お前の希望もあたしの希望もここでは等価なのさ。」
メドーサは這いつくばっているルシオラの背中を踏みつけた。
「希望が等価なら、よりシンプルなルール・・・“早い者勝ち”で決めるのは当然だねえ?
・・・もっとシンプルなルールもあるけどね・・・“強いもの勝ち”ってのが。」
ルシオラはメドーサの、床に置かれている方の足首を掴み、電撃を与える。
そのままメドーサを弾くように身体を起き上がらせる。
メドーサはスロープ横の鉄柵にぶつかりながら寄り掛かった。
そこへ光弾が続け様に命中する。メドーサは柵の破片ごと落下して行った。
ルシオラはやっと異変に気付いた。どんな状況判断を差し引いてもメドーサが弱すぎる。
弱くなったのではなく、本気を出していないのだろう。光弾が直撃して落ちて行く時も彼女は笑っていた。
下を見下ろすと、広場でも異変が起きていた。魔獣たちの全身に発光とぶれとが広がっている。
そして、新たなセキュリティが到着していた。
見た目は華奢だが、腕が何本も生えていて、その一本一本に威力の程がこちらからでも窺えるような霊刀を握っていた。
キャメランと対峙しても動揺の欠片さえ見せない。
その一人が頭上スロープのルシオラに顔を向け、霊刀をかざした。
刀の切っ先からレーザーの様な光が放たれる。ルシオラはそれを躱して飛び降りた。
他のセキュリティたちが次々と空中のルシオラに霊刀を向ける。
飛び交う光線の間を木の葉のように舞いながら、ルシオラは広場に着地した。
その近くにいたセキュリティ3人が一斉にルシオラに向かって来る。
ルシオラは跳躍し、彼らを飛び越えた。
彼女の背後で、彼らの腕の何本かと胴体の一部が炎を上げ、3人は声も立てずに倒れた。
「ギョギョ――――ッ!!」 「ゴモモ―――っ!!」
キャメランと大魔球がついに激しい光に包まれて爆発し、魔力の塊とカメや野球ボールとに分離した。
ルシオラは、床の上を焦りながら歩く4匹のカメを拾って水槽に戻し、先程叫んでいたセンター職員の所に持って行った。
「ごめんね。トン吉、チン平、カン太、ピン子・・・。」
彼女も最後の名前について特に何も言わなかった。
水槽を職員に渡してからルシオラは振り返った。その視線の先にはメドーサ。
「・・それでも、許さない・・・・。」
ルシオラは両手を広げた。掌の上に霊力の球が浮かび、放電し始める。
「それでも・・・たとえ等価でも・・・私は、お前が進む事は・・許さない・・。」
「フン、許さなければ、どうするんだい?・・・ここを壊すのか?あたしを倒すのか?
・・何も知らない、ここの連中を巻き添えにするのかい?」
ルシオラの足が止まった。
「そいつを撃つ前に周りをよーく見てみなよ。自分の周りと、あたしの周りを。」
穴だらけの壁と床。自分がキャメランを率いて入って来た入口―付近の壁ごと粉砕されている。
至る所で炎と煙が上がっている。スロープや連絡通路の一部は断ち切られ、炎上している所もある。
自分に倒されたセキュリティ職員。爆発や破片の散乱で負傷した者。逃げ場のないスロープでパニックに陥っている者。そして―
広場の縁に緊急避難し、遠巻きに彼女を見ている転生者たちの視線
――憎悪と、恐怖。
(続く)
今までの
コメント:
- 等価の思いという設定が、余すことなく使われていますね。
メドーサとルシオラの対決として、とても素晴らしいです。
メドーサの方が一枚上なのも、重ねた年月の長さから当然と納得できます。
では次へ進みます。 (KAZ23)
- メドーサのほうが1枚上手でしょうか?
彼女の動向からして、ここではそう見られても仕方ないですね。
憎悪に恐怖、負傷者まで出してしまっては、完全にルシオラが悪者ですかー‥‥ワクワクします(゚冖゚)
それにピン子‥‥何故最後の名前について何も言わないんだルシオラ! (ヴァージニア)
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