ザ・グレート・展開予測ショー

けして消えない思いと共に5


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/19)


 ガチャッ 

 不意に扉が開かれ、室内は二人の人物を飲み込んだ。
「横島君!」
「お待たせしました、美神さん。これでおキヌちゃんは・・・」
「目がアシュタロス戦のときに戻ってる!!」
「そこはどーでもいーでしょーが!」

 とまぁいみのわからないやり取りを尻目に、横島の連れてきた男、瀬戸はさっさと室内に入っていった。まぁこの二人なんだから、おキヌは助かるかもという安心感があったのかもしれないが・・・
 さて・・・
「・・・で、おキヌという少女はどこにいるんだ?」
 背とは部屋の中をうろうろしながらそう語り、そのときちょうど真下が出てきて瀬戸を案内する。

 おキヌの顔はやや青がかり、その吐き出される吐息も荒いものへと変わっている。
「ひどいな、これは・・・」
 瀬戸が見るのもつらそうに診断する。
「なおせるの?」
 美神はそれにつられるようにそう訊ねる。
「まぁな、このくらい、トリカブト食った奴に比べりゃ、問題はない」
 そういうなり、おキヌの胸のちょうど上に手をかざす。
「おい!ドサクサでおキヌちゃんの胸をさわろーとか考えるなよ」
「どうでもいいが、おまえさっきと目つき違わくないか?」
 自分に押し当てられた霊波刀をちらりと見つつ、瀬戸は横島を見た。


 瀬戸は内在する霊気の波動を両手に集め、それを己のみに使えるある特殊の霊気の波動へと変換する。

 ―あなたには特殊な力があるんでしょ?それを役立てて見せて―

 彼女が言った。

 ああ、役立てて見せるさ・・・見ていろよ?少しでも目を放したらわかんなくなるようなことかもしれないけどな・・・

 ―もう自分に負けたなんて、言わないでください―
 
 青年の瞳がまっすぐにこちらを射すくめる。

 悪かったな、お前が俺の願いをかなえるようじゃ、俺だってお前の願いをかなえないといけないだろ・・・



 あの墓の前で、瀬戸は一つの丸い玉をもらった。うっすらと光る、だかとてつもない霊力を内在させる丸い玉・・・
「それは文殊って言う玉です。あなたの願いを一文字の漢字にして解き放つことのできる道具です」

「あなたの願いはなんですか?」

「この俺を買収するきか?」

 横島はうなだれるように続ける。

「俺も・・・大切な人をなくしました・・・」

「・・・・・・」

「あんたの願いは、そんなちっぽけなもので叶うようなものなのかよ!?」

 俺の願いは・・・

「俺の願いは・・・叶わなかった・・・」

 俺は彼女と一目でも・・・たった一目でも会いたかった・・・ただそれだけなのに・・・



 そして・・・文殊は光り輝いた・・・




 毒性の高いゴブリンの体液。それが喉を介しておキヌの体内へと侵入していた。あるいは、一種の呪いとすら言える。
 これら人体に対して悪影響を及ぼす効果、これらを全てマイナスとして考えると逆にこの瀬戸というものが持つ能力は、プラスを精製するとも言える。ここらへんが、ただのヒーリングとは異なる点であった。
 そのプラスのエネルギーは、確実に人体を回り、ゆっくりとだが、確実にマイナスの力を除去、中和していった。 
 瀬戸がそのエネルギーを精製するごとに、光り輝く両腕・・・
 少女の小柄な体はその光に包まれるように淡く輝く・・・
 おキヌの顔に徐々にだが、安らぎが見え始める。



 そして・・・



「ふ〜、終わったぞ・・・」
 という瀬戸の額には、玉のような汗が浮かんでいた。
「これで・・・おキヌちゃんは無事に済むんでしょうね・・・」
 美神はその顔に安堵をこめてはいたが、ちょっとまだ心配が残るのだろう、瀬戸の顔をじっと見つめる。
「ああ、心配はない、自分で言うのもなんだが・・・完璧だ」
「ほんと、自分で言ってたら世話はないわね」
 美神は両手を挙げて、皮肉げにクスリと笑った。
「普段の美神さんと同じじゃないっすか」
 そういった弟子を、彼女は即座に叩き潰す。
「まぁ、まだ少しくらくらするかもしれんがな・・・彼女の目が覚めたら、お大事にしてろとでも伝えておけ」
 瀬戸はそういってドアのほうへと向かっていった。
「あ、あの・・・ありがとう」
 横島はそういいながら、頭を垂れた。
「ああ、気にするな。俺だってもらえるもんもらったわけだしな・・・」
 どこかはかない微笑を浮かべながら、瀬戸は答えた。


 あの時・・・




 光に包まれながら、一人の女性が現れた。

「理沙・・・・・・」
 彼女はほんの少し怒ったような顔を浮かべながら、それでもすぐにうれしそうな顔になる。
「典明・・・」 
 二人は何も言わずに、ただ無言で抱き合った。
 言葉なんて・・・2人の気持ちを語るべきに相応しいものではない・・・ではない・・・が・・・
 ふいに・・・
「この馬鹿典明いいぃぃ」
「いぃでででで」
 と、理沙は瀬戸のほほを思いっきりつねり上げる。
「なんなのよ!あのだめだめっぷりは!あんなのでこのわたしが喜ぶとでも思っているの!?」
「だ、だって・・・」
「だってじゃなぁぁい!!」
 怒った顔で一気に理沙はそこまでまくし立てると、今度は悲ししそうに表情をゆがめる。
「これじゃぁ、何のためにあなたを助けたかわからないじゃない・・・」
「・・・すまん・・・これじゃぁ、俺がお前を見殺しにしたような・・・でででででで」
 と、再び瀬戸は彼女にほほを引っ張られた。
「だ・か・らぁ、それをやめろっていってんのよ」
 りさはふぅと一息つくと、瀬戸の頭を軽く抱きしめる。
「わたしはあなたが好きだからやっただけ、わたしが死んだのもしょうがなかったのよ。あなたが気に病むことはないわ・・・」
 そっと、何度でも恋人の頭をなでる手。優しく、そっと言い聞かせるように、まるで全ての苦しみを癒してくれるかのように。
「いろいろあなたなりに苦しんでいたんでしょ?もういいじゃぁない。わたしは、少なくともあなたを攻める気にはならないわよ。そんな涙でくちゃくちゃのあなたなんか攻めたってこっちが嫌な気になるだけよ」
 彼女はそういって気さくに笑った。
 そして・・・
「元気でた?」
 と、こちらの顔を覗き込んだ・・・
「ああ、ちょっとはな・・・」
 まぁ、ほっぺひねられたりめちゃくちゃ言われたりすればなぁ・・・
「よかった」
 ああ、俺もな。
「じゃぁ、もうそろそろ逝くから・・・」
 瀬戸はどこか遠い目で彼女を見る。
「そっか、もうそんな時間か・・・」
 彼女は最後まで俺の心配をしてたっけ?そんなことをいまさら瀬戸は感じる。

 ありがとう・・・そして・・・さようなら・・・

「じゃぁね、元気だしなよ?瀬戸典明」

「またな」




 どこか遠い目をして瀬戸はそれを眺めていた。
 小高い岡上に並べられた白い墓たち・・・そのうちの一つ、彼の恋人のものである墓。
 そこは周りのものと比べて非常にきれいであった。雑草は抜かれ、墓はよく磨かれ、それを行ったものの愛情がよく伺える。
 瀬戸はじっくりとそれを見た後、瞳を閉じてこう言った・・・

「ありがとう・・・お前のことは忘れることなんてできないけど・・・お前を忘れないで生きることならできるから・・・今は・・・さよならだ」

 瀬戸は目的を果たし、空になった文殊を思いっきり空へと向かって投げた・・・
 光り輝く玉はゆっくりと弧を描いて・・・消えていった。

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