いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(1)
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/19)
コンコン
「はい、どうぞお入りください。」
ドアを開けて、1人の女性が部屋に入ってきた。
"部屋”といってもそこは床も壁も天井もなく、果てしなくクリーム色の光が広がっている中にぽつんと事務机や椅子が浮かんでいるだけという奇妙な空間であった。
彼女がドアを開けると、扉板もその隙間も消え、何もない空間にドアノブだけが浮かんでいた。
「えー・・っと、あなたは、ここへ来るのは初めて、でしたね?」
机に向かっている人物が彼女に問いかけた。彼女はうなずく。
「まあ、おかけ下さい。」
彼は―といっても男か女か、性別があるのかどうかさえわからないが―、彼女に机向かいのパイプ椅子を勧めた。
彼女は、そこに床があるかのように空間の上を歩いて、椅子に腰を下ろす。
「少ないんですよ。初めてここへ来るって方は。いたとしてもねえ、まともに会話もできない、騒いでばかりの方とかね。」
「・・・。」
この部屋も奇妙だが、彼の姿も事務机とその上に山積みのファイルとにはそぐわないものだった。
彼は身長が1メートルほどしかなく、手足が異様に短くて頭の大きさの比率が幼児並にある。頭髪はつるつるに剃り上げ、顔には柔和な笑みを"常に”浮かべていた。首の周りは赤い布で覆われ、その下に全身を包む白い衣。
椅子の上に立ったまま登り、手に持った杖でファイルの一冊を手前に引き寄せ、めくっていた。
その衣から僧侶の様にも見えるが、それ以前に人間ではないであろう。
「でも、この間なんか、ずいぶん有名で力のあった方が初めてで来られまして。その時はセンター中で大騒ぎになったんですよ。何せ、本来ここへは絶対来ないはずの方でしてね。あっち側のお偉いさんやら、こっちの上のもんやら顔を出して散々モメながら、何とか収めたんですよ。」
「・・・。」
「まだ、いらっしゃるんですよ、その方。まあ、あれだけの騒ぎ起こしちゃあねえ・・・。本来、完全独立で通してるセンターの運営にも少なからず影響を及ぼしかねない事件でしたから・・・当分は処理し切れないでしょうね。その方もその事件も有名なんですよ。知ってます?アs・・・あっ」
彼は顔を上げた。
この空間も彼も奇妙だが、彼の向かいに座る彼女の姿も充分に奇妙だった。
目鼻立ちに精緻な整いのある美人で、さらさらした感じの黒髪をショートボブにしている。激しい程の意志の強さと、どこまでも深く静かな優しさが同時に在るような印象的な目をしていた。問題はその服装だ。
白のボディースーツに黒のガーターベルト、赤と黒で彩られたストッキング、そしてこれもまた赤と黒の特殊な形状の―背中の裾が長く伸びて昆虫の羽根を思わせる―上着。頭部には何に使うのか良く判らないバイザーを装着している。
その黒髪の中から伸びている2本の触角。彼女もまた人間ではないのだろう。
その格好はスレンダーな彼女の体型に映える、と言えない事もないが、人間社会で日常的にこんな格好をしているのは「古本屋のコスプレ店員」とかぐらいだ、とも言える。
「・・・し、失礼しました。あなたが知らない筈、ありませんでしたね。・・いや、申し訳ない。本当に。」
「あ、良いんです。気にしないで下さい。」
柔和な笑みを浮かべたままで冷や汗をかき平身低頭する彼に、彼女は初めて声をかけた。
彼の姿から彼女は最初、自分のかつての上司の姿を連想していたが、別の場所でもっと似ているものを見た事があると気付いた。
「・・・まあ、大抵の方はねえ、何度もここへ来られているんですね。昔から、何度も何度も、繰り返し・・・」
「私も、これからは何度もここへ来るようになるんですね。」
「ええ、これからは、そうなりますかねえ。」
「そして、何度も、・・・・・何度でも・・」
彼女はその先を言う事なく目を伏せて、物思い始める。
だが、彼が再び顔を上げ、まるでその先を知っているかのように水を差した。
「分かっているとは思いますがね、あなたがこの後、自分が今思っている事を憶えていられる可能性は殆どありませんよ。」
「・・はい。」
「強く思っていれば、ひょっとしたらどこかに残るかもしれない・・・そのくらいの話なんです。」
「はい、分かっています。」
返事をしながらも彼女は再び物思いに入り、心の中で呟きを繰り返す。
決して消えたりはしないわ。どんな形ででも、残る。
お前と一緒に見た、あの一瞬の夕日のように。
彼もしばらく彼女を見つめていた。
これまで多くの魂がここで旅立つ前に何かを誓うのを見て来た。
今と同じ様に。
やがて視線をファイルに落とし、事務的な口調で彼女に語りかけ始めた。
「では、改めまして、胎蔵界輪廻庁 転生霊魂中央管制センターへようこそ。ルシオラさん。
この度、かねてより申請されていた希望先転生コースにおけるあなたの希望先―横島忠夫、種族:人間、平均霊力値105マイト、最大霊力値7520マイト、年齢:30歳―の娘として転生する条件が整い、かつ希望者適性における問題が見られなかった為、ここに申請を受理し、転生転移作業を実施するものとします。
必要確認事項を読み上げますので、間違いなどあれば速やかに訂正を行なって下さい。
生前名:ルシオラ―名字なし―、種族:魔族・下級、生誕状況:意図的な製造・非生殖・非自然、生誕年月日:人間界西暦にて・・」
(続く)
――――――――――――
始めまして。
初投稿ですがよろしくお願いします。
タイトルは映画の「いつかギラギラする日―ザ・トリプルクロス」から取りました。
最初「ダブルブッキング」という言葉を思いついて、そこから連想しただけなのでその映画とはまったく似ていません。
(1)(2)だけではどこがダブルブッキングなのか分からないと思いますが、それが見えるのは(3)以降になります。つまり、ここはまだ前振りで、本筋じゃないのです。(すいません)
OXOXには思い思いの言葉を当てはめてみてください。
ルシオラだけなら限られてきそうですが、主役がもう1人(3)以降から登場しますので幅は広がるかも・・。
今までの
コメント:
- スタートのプロローグとしては最高です。お話として独立してて、続きも楽しみ。
頑張って下さいね。 (MAGIふぁ)
- はじめまして。ふちこまと申します。
転生霊魂中央管制センターなるものの存在と、その世界が明確なイメージとして感じられ興味深かったです。
ところで原作ではルシオラの魂は十分な霊破片が回収できなかったため、人格を復元できるのには至らず、また転生しても一個の魂になるために十分な霊的質量が無ければ死産になると説明されています。
そこで私的に原作における転生の可能性とは、それを別の魂で補う際に横島くんの細胞に付随した魂である場合のみ、かつて『ルシオラ』という個体だった魂に復元されるという意味のものであると理解していたのですが…… (斑駒)
- このお話では転生センターで1個の人格を保ったルシオラが応対をしているので、「あれ?これなら転生とかでなく、ベスパのように復帰できたのでは?」などと思った次第です。
でも、人格を保てる霊的質量は地上と転生センターとでは違うのかもしれませんし、単に原作のIF展開であると考えても良いですし。今後の展開的には転生後には記憶がほとんど残らないのですから、別に転生前の状況をどーこー言ってもストーリーには影響が無いと思いますのであまりお気になさらないでください。
アs……も、同じ存在への強制復活から解放されて転生センターのお世話になったようで、今後の展開が気になります。
連載完結に向けてがんばってください。 (斑駒)
- 直上の第二話を読んで、自分の勇み足に気付きました(笑)
これから語られるべきことに言及して不快な思いをさせてしまいましたのであれば、ゴメンなさい。
でも私としてはむしろ、自分と同じように転生の可能性について悩んでなんとか矛盾しないように形を整えて物語にしようとする仲間が増えたことを、嬉しく思いました(駄目)
だって、二次創作の世界ではしばしば原作無視とも思われるような強引なルシオラ復活が為されるんですもの(涙)←それを全否定するわけでもないのですが
ということで、これからも影ながら応援させていただきますです(平伏) (斑駒)
- 胎蔵界輪廻庁 転生霊魂中央管制センター
この設定だけで既に賛成でした。(マテ)
いきなりですみません。
私、KAZ23という者です。よろしくお願いします。
ルシオラの復活へ向けて、展開を期待してまする。
上手く纏まった文章に只者でなさを感じております。
連載ですよね?長いですか?
完結に向けて頑張ってください。応援してます〜♪ (KAZ23)
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