ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/10/28)



 これは、ちょっとしたIFの物語。



 彼が先日まで見ていた夜空漆黒のじゅうたんに宝石をちりばめたようだと表現するなら、人里の星空はコールタールの上に一握りの金箔を塗した様。


 早い話が、その位落差のある貧相な星空だった。


 南極の気温の低さは空気を限界まで澄みあがらせ、星空の合唱を手助けしていた――それを差し引いたとしても、なんとにごった空気か。


 悪魔にとって人の放つ瘴気は心地よいもののはずであったが、この町に渦巻く瘴気は、品質が低すぎて気持ちが悪くなってくる。塩を入れすぎた料理のような感覚がある。


 別段、大阪の町の瘴気が悪いのではない。今の世の中、人間の町の瘴気はどこへ行っても、こんな感じでだ。不況が悪魔の精神衛生にすら悪影響を与えていると考えると、おかしくなってくる。
 おかしくなってくるが、笑える気分でなかった。


(くっ……私としたことが)


 南極の前線基地を襲撃され、跡形も無くは解された挙句手傷を負わされたのは三日前のこと。その時彼は、斉天大聖――天に斉しいと呼ばれる、あの猿神の力が、決して看板倒れでない事をその身で味わった。


 斉天大聖の方も深手を負っていたから、5、6年は稽古をつけることすらままならないだろう。それが不幸中の幸いではあるが、何の慰めにもならない。


(なんとかして、身を隠さなくては――)


 手ごまとして使う魔族の創造すら始まらないうちに、天界がこちらの動きに感づいたのは予想外であった。その企みの全てが暴かれた今、彼は天界魔界双方から追われる身だ。


 味方といえば、今抱きかかえているドグラマグラただ一人(一体?)。身を隠す場所にすら事欠く有様である。


 とても、一億マイトを超える霊力を持つ魔王アシュタロスがおかれるとは考えられない状況。
 その窮地を脱するために彼が取ろうとする緊急処置とは――


「人の体に――進入するぞ!」


 人の体に隠れし、時を稼ぐ。
 それが、大阪に来るまでに二人が話し合った答えだった。
 霊力の回復を考えなければ、人の体というのはかなり上質な隠れ蓑と化す。というのも、人の纏う『霊気』の質はさまざまで、邪悪な人間ともなれば悪魔顔負けの気配を放つ場合があるのだ。アシュタロス程の魔族が取り付いても、突出して異常な気配としか認知されないだろう。
 神魔界の上層部も気付かなかった盲点がそこにあった。


 ばかばかしくて誰も思いつかない種類の盲点である。アシュタロスも追い詰められていなければ絶対やら無い方法である。第一、キャパティシイが低い肉体に乗り移ると、最悪肉体が爆発してしまう。両世界で禁忌とすらされる方法。


 アシュタロスは空中で静止すると、人は比べるべくも無い良質な視力で持って、足下の町並を見回し――


 見つけた。


 それは、人間の子供だった。下手に邪悪な人間や善良な人間に進入し、気配を激変させるより、子供をじわじわのっとった方が都合がいい。


 潜在能力もなかなかのもの。アシュタロスが進入してもいきなり肉体がはじける事態は免れるであろう。


 しかも、そこそこ邪な気配を漂わせている。最良の隠れ場所だった。


 目標が嫌な予感を感じてあたりを見回す隙すら与えず。
 アシュタロスは超スピードでもって少年……横島忠夫(12)に接近し、その肉体に進入した。


 ほんの僅かな白い絵の具の中に黒い絵の具を大量に混入すれば、黒になる。
 この瞬間、アシュタロスは悪魔が人間の肉体に進入するとどうなるかという、生きた見本への道を歩み始める事になる。





 五年後





 だだだだだだだだだだっ!!!!


 その女性は、人目も憚らず全力疾走していた。
 入社したときにしつらえたミニスカートがめくりあがりそうになるのもかまわず。それ程に、背後から迫る存在は恐ろしかった。


 なんなのだ。あれは。


 背後の存在が放つ声が耳朶を打つたび、女性の心は恐怖という名の劇薬に満たされる。もはやどれほど走ったか忘れ去るほど長い間、逃げ回っている。


 ――捕まれば、やられる。


 そんな思考を動力源にしたからこそ、女性の限界を超えた速度と距離を疾走出来るのだ。追う側の恐ろしさが追われる側を加速させるという、皮肉な矛盾である。


 胸に浮かぶは原始の恐怖。背後に迫るはその具現。


 女性は、恐る恐る背後を振り返り、彼我の距離を算出しようとした。
 その目に映ったのはかなり接近した――目を血走らせ、鼻息も荒い、


「おっ嬢さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 横島忠夫と、



























「私と一緒にひと夏のアバンチュールをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 アシュタロスの二人であった。
 横島と同じように、下心丸出しのツラをして、女性を追いかけているのである。



























 何故、あの色情とは無縁のアシュさまが、横島コピーと化してしまったのか。
 その原因は、人と神魔族の寿命に在った。


 神魔族は、その寿命ゆえに欲望という奴が非常に希薄なのだ。人間独特のあのがっつくような欲望は、神魔界の最高指導者すらぶっちぎることがある。
 事、横島忠夫(ってか、横島家の漢)の女性に関する欲望はただ事ではなかった。
 そこに、浴場など一度もしたことの無いアシュタロスが進入したからさあ大変。


 かくして、アシュタロスは横島をのっとる暇すら与えられず、かれの欲望に汚染され、横島化してしまったのである。この人格汚染が、人間への侵入が禁忌とされる一番の理由だった。ちなみに、世界で最初に人格汚染引き起こしたのは、生粋の浪花人に面白半分で侵入した、魔界の最高指導者である。


 朱に交われば赤くなるどころか、血みどろのクリムゾン。
 神魔界から身を隠すという本懐を大気圏の彼方に産業廃棄し、横島と和解。いい女を見つけるたびに横島の体内から飛び出し、二人で共闘して追っかけまわす毎日。
 言うまでも無く、多くの部下はとっくの昔にこのおっさんを見限った。(爆)


『おっ嬢さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!! おっ待ちなっさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 変態二人とうら若き乙女の追いかけっこは、変態`sが車にはねられるまで続いたのだった。






あとがき
 ども! 初投稿の記号大名行列野郎にしてルシオラーなりたての♪♪♪です!
 皆さん……騙されてくれましたかな?(ニヤソ)
 騙されてくれれば作者冥利に尽きますですはい。
 余裕があれば本編に沿った続編を書きますので、お楽しみに。

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