ザ・グレート・展開予測ショー

けして消えない思いと共に4


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/18)


「い、医者はいないんですか!!」
 おキヌを抱えたまま、横島は焦るように一見の家へと飛び込む。
 そこは都合のいいように、依頼主の家であり、清潔そうな内装になっている。
「よ、横島さん?」
 真下は驚いたように横島を見て、その後ろから来た焦ったような表情の美神を見る。
「ゴブリンはしとめたわ。でも最後に抵抗があって、この村には医者はいないの?」
「い、いえ。このむらでは怪我することなんてあんまりないから、医者たちはこのむらに病院を造ってもすぐに手を引いてしまうのですよ」
 こちらを見てなんとなく自体を飲み込めた彼はそういうと、こちらへといいながら、ベッドを一つ提供する。真っ白いそのベッドは、清潔そうだと一目でわかる。
「わかれた・・・かないのなんです・・・」
 少し悲しそうに彼はそういった。
 まぁ、いまの美神たちにはそんなことはどうでもいいらしく、まったく聞こえていないようだが。
 横島はさっさとおキヌをそのベッドに寝かしつける。
「ところで全然傷がないようですが?」
 真下は不思議そうに首をかしげた。
 事実、おキヌの体にはまったく傷がない。だが、その表情は苦しそうに引きゆがんでいた。
「くっ・・・うぁ・・・」
 時折耳に入るその苦痛の声は、その痛々しさをいっそうかもし出す。
「横島君の文殊・・・えーと・・・でまぁ傷だけは治せるんだけど・・・」
 と、美神は少しでも協力が欲しいのか、なるたけ簡潔に状況の説明を図る。
「でも、あのゴブリンには特殊な毒素があるみたいなのよ」
「というと?」
「傷だけを治しても体の中の毒素が『消えない』限り、治らないの・・・」
 美神はわかりやすいようにそうまとめるが、常にその瞳はおキヌのほうへと向いて焦っているようだ。
 そして、横島は・・・

 ごん!!と思いっきり壁を叩いていた。

「くそ!何か、どうにかすればおキヌちゃんを治せるものが在ったはずだ。『消』とか、『解』とか」
 横島は表情をきつくさせて唸る。
「だめよ、『消』じゃおキヌちゃんも一緒に消えるし、『解』じゃおキヌちゃんが分解されるだけよ」
 美神はそれでも冷静に気を落ち着かせようと試みる。
 自分はヒーリングは苦手だし、そもそもヒーリングは霊波によって局部代謝能力に働きをかけ、治療を施す。言い換えれば治るものしか治せない。毒のような体内に侵入したものではどうしようもない。
 だが霊的に体内に働きをかけるものであるのならば・・・
 たとえば、今ある毒素を中和する効果を持つもの・・・

「くそ!!」
 美神は突然の叫びにより、思考を中断された。


 くそ!!ちくしょう!!
 俺のせいだ。また・・・俺のせいで一人の少女が死ぬかもしれないなんて!!
 横島はひたすらに己を攻め立てた。

 何であの時に敵の攻撃をよけてしまったのだろう。いっそのこと自分が喰らえばよかったのかもしれない・・・
 
 何でこんなに自分は力がないのだろう。ひょっとしたらおキヌを治せる効果を持つ文字だってあるのかもしれない・・・

 何で自分は自分に好きといってくれる女性を不幸にしかあわせられないのだろう・・・自分は女性を幸せにすることなんてできないのか?

 何で・・・何で・・・何で・・・

「なんでなんだよ!!」

「よこしまくん・・・・・・」
 美神はそんな横島をただ悲しそうに見つめることしかできなかった。


「よくはわかりませんが、どうすればこの子は助かるのでしょうか?」
 そんな状態を打ち破るべく口を開いたのは、依頼主である中年の男であった。
 美神は彼を多少うっとうしく感じ、睨むように見つめる。
「だから体内の毒素を取り除くような能力を持つやつか、どこかいい病院で血を取り替えるような手術でもしない限りわ――」
「毒素を取り除けば治るんですか?」
 真下はこちらの台詞を遮るようにして、声を上げる。
「え、ええ。そうよ、誰か心当たりでも――」
「ええ、先程あなたたちともめた瀬戸・・・彼ならば・・・」
 と、彼は目を細めた。

「その瀬戸なら・・・おキヌちゃんを治せるんですか・・・」
 横島は真摯な瞳で、男を見つめる。
 その瞳の中には、いままでの心理的な余裕や、自堕落な気持ちなど一切うかがえず・・・そう、まるで・・・一昔前にあった大戦時に見せた、あのときの瞳と同じ色をしていた。
「あぁ、彼はどういうわけか不思議な力を持っていてね、こう手をかざすだけで傷を治してしまうんだよ」
 と、真下はその翳(かざ)している所のまねをして見せる。
 ・・・だが・・・
「だめなんだよ、ヒーリングの力じゃ治らないんだよ・・・」
 横島はぐっとうなだれると、悲しそうな瞳でベッドに寝ている少女を見つめる。
 真下はさらに言葉を続けながら、しかしその声色は何かを提示するかのように落ち着いていた。。
「いえ、この間はうちの向かいの鈴木さんが笑い茸を食ったところを治してくれたんですよ」
 彼はそれでも食い下がるようにそういった。
「!!!!」

「横島君、あんたが瀬戸さんを連れてきて・・・」
 美神はそう伏せ目がちにいうと、くると横島から背を向けておキヌのほうへといく。
「・・・?・・・わかりました・・・」
 横島はそれに何らかの意図を感じたのか、黙って従い外へと向かった。
 

 彼は瀬戸のことをよく知らない。
 いや、多少は知っている。彼が自分と同じ様な経験をしていること。
 ただ自分と違うのは彼は自分が自分であることを貫くことができない点であった。
 



「横島君、頼んだわよ・・・」
 美神は祈るような気持ちで、おキヌを見つめた。
「力になれたようで、幸いです」
 横から真下がにこりと微笑む。
「ええ、ありがとう」
 素直に美神も礼を言う。
「後はあの青年を信じるしかありませんね」
「そうね・・・」
 美神はどこか引っかかるような気持ちで答える。
「横島さん、頑張ってくれるといいんですが・・・」
「何がいいたいの?」
 真下は一拍おいて・・・
「横島さんが荒れていたときのあなたの目といったら・・・」
 美神もまた一拍おいてから・・・
「ぶんなぐるわよ?」
 にっこりと微笑むのであった。



 横島は一人の男のちょうど後ろに立った。
 彼を見つけるのは存外簡単だった。村のやや小高い場所に位置する、小さな墓地。
 彼はその中の一つに酒をかけていた。
 その墓は長年大事にされていたのであろう、よく磨かれ、雑草の類すらない。
 そんな中、男から先に口を開いた。
「何のようだ?」
 ゆるりと男はこちらへと振り向く。
「あなたにお願いがあってきました」
 そういう横島の瞳は、まっすぐに、ただひたすらまっすぐに男を見詰める。
 男は・・・瀬戸はそれをまぶしそうに受け止め・・・そして悲しそうに目をそむけた。
「そんな目・・・しばらく忘れていたな・・・」
「え?」
 瀬戸のボソッと言うような小声に、横島は聞き返す。
「いや、仮にお前の願いとやらをかなえたとして、俺に見返りはないんだろ?なら俺はお前の願いをかなえてやる必要はないな・・・帰んな・・・」
 男はしっしと横島を追い払うようにすると、再び後ろを振り向こうとする。
 だが、横島の叫びは、それを許さない。
「それなら、あなたに何をやればおキヌちゃんを治してくれるんですか!あなたは!何が欲しいんですか!!」
 横島は叫んだ。それこそ力の限り。

 もうあんな思いはしたくはない。この男がおキヌの治療が可能とでも言うのであるのならば、なんとしても治療させる。それしか彼の頭にはなかった。

 だが男は・・・
 横島の襟首を不意に掴むと、そのまま地面へと押し倒した。

「ふざけるな!!何が欲しいだと!そんな台詞、軽々しく使うんじゃねぇ!テメェの女の命すら守れねぇ奴が、他人の面倒なんか見ることができるわきゃねーだろ!!」
 果たしてそれは打ち倒された横島に叫んだのか、それとも己自身に叫んだのか・・・
「あなたがそうすればやるっていったんじゃないか!!」
 横島もいつになく熱くなる。
「もう終わったんだよ!俺は。もう誰も助けられない、俺は・・・・・・もう・・・救えなかった・・・」
 男は横島を締め付けていた力を徐々に落とし・・・ついにはうなだれる。
 その声は弱弱しく、ただひたすらに弱弱しく、まるで泣いているかのようであった。

「助けられるじゃないですか・・・聞きました・・・村の人が笑い茸食べたのを助けじゃないですか」
 横島はなだめるようにそういうと、彼の背にある墓を見る。


 親愛なる人へ・・・・・・


 その墓の持ち主の名の下にはそう刻まれており、雑草が刈り取られ、よく磨かれ、丁寧に墓を手入れしてきたことがわかる。

 横島は、自分と違う生き方をしてきたこの男を、なんともいえない目で見つめた。

 彼は・・・俺だ。もし俺がルシオラが死んだとき、ずっと伏せたままであったなら・・・
 もしそうなったら今頃どうなっていただろう?酒でも飲んで彼女を忘れるか?
 いや、無理だろう・・・彼女の存在はかけがえのないものだ・・・その点はこの男と同じ・・・
 俺がこうならなかったのは、ひとえに彼を支える周りの人たちの気の配りがあったからだ。
 なるべく思い出させないように、なるべく元気付けるように、なるべく・・・・・・

「あなたは本当は変わりたいんじゃないんですか?このままじゃいけないって思って・・・」
「やめてくれ・・・俺は・・・そんなんじゃない・・・」
 瀬戸はそれでも首を弱弱しく振るだけしかできない・・・

 だから・・・横島はある提案をする。
 この男を自分と移し変えて・・・悲しい提案かもしれない、でも、いつか乗り越えてくれることを願って・・・

「わかりました・・・なら俺が貴方の願いをかなえます・・・」
 横島の右手がゆっくりと輝きだした。

「そのかわり・・・もう自分に負けたなんて・・・言わないでください・・・」

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