ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『星降る中で』


投稿者名:BOM
投稿日時:(04/ 1/28)


「・・・いやぁ、ホント綺麗だよなぁ・・・」
「そうでござるな、先生・・・」

横島とシロは、星を見ていた。夜空に瞬く溢れんばかりの星空を。
理由なんて聞かれても困る。だって、それらしき理由が無いのだから。


強いて言うなら・・・ただ、星が綺麗だったから。それ以外に無かった。


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           #挿絵企画SS 星降る中で

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事務所でいつも通りにメシを食って、しばらくテレビを見ていた時のこと。
時間にすれば夜の9時ちょっと前ぐらいであろうか。窓から外を眺めていたシロが突然横島に言った。

「先生!見てみるでござるよ、満月でござる!」
「・・・んあ?どれだよ?」
「ホラ、アレでござるよ!」
「おお、すげえな・・・」

横島とシロの見つめる先には、真ん丸なお月様がポカン、と浮かんでいる。
雲なんかに隠れてなく、夜空を明るく照らす月が。
しばらくの間それを眺めていた二人だったが、唐突にシロがこう切り出した。

「先生!外に行って見てみるでござる!そっちの方がよく見えるでござる!」
「は?外って・・・どこだよ?」
「屋根の上でござる!屋根裏部屋から行けるでござるよ!」
「う〜ん・・・止めとくか?・・・外寒いし」
「そんなの関係ないでござるよ!早く行くでござる!」

そう言われて横島は躊躇うも、

「ったく、しゃあねえなあ・・・まあいいか」

と言って外に行くことに決めた。
これがこの男、横島の良いところでもあるのだ。とにかく優しいのだ。

二人が屋根裏部屋に着いたとき、ちょうどそこには誰もいなかった。
まあタマモが下で料理番組を見ているからいないのも当然。
窓に近づき、開けてみる。そこには先程見た満月が相変わらず神々しく光っていた。

窓から出て壁伝いに行き、二人は屋根の上に辿り着いた。そしてすぐさま二人の目に飛び込んできたのは、
見慣れた都会の夜景・・・ではなく、夜空に輝く満面の星空だった。
もちろん満月もそれ相応に美しく輝いていた。が、それ以上に星達は輝いていたのだ。

「自分たちが今夜の主役なんだ、お月さまは今日は脇役なんだ」と言わんばかりに。

二人はソレを見た瞬間、星空の虜になってしまったと言っても過言ではなかった。
思わず口をポカンと開けて魅入ったまま、しばらくの間そこに立ちつくしていた。
『冬は空が綺麗で星空がよく見える』と、どこかで誰かが言っていたことを横島は思い出していたが、
正にその通りだった。今まで自分が見てきた星空の中で、これほどまでに綺麗な星空があっただろうか?
いや、無い。

いつの間にか、シロがその場に座り込んでいた。ただ、じいっと星空を見つめたまま。
それを見て横島もその隣に座った。どれくらい時間が過ぎたのだろうか?
時なんてもうどうでも良いくらいに二人は星を見つめていた。
ふと、横島が言った。

「・・・いやぁ、ホント綺麗だよなぁ・・・」
「そうでござるな、先生・・・」

そのまま二人は星を見つめていたが、突然吹いてきた風に邪魔をされた。
冷え切った風が横島とシロの間を通り抜ける。

「「 ヒ・・・ヒ・・・ヒックシュッ!! 」」

思わずくしゃみをする二人。何故か綺麗にハモる。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

お互いの顔を見合わせ、不意に口から笑いが漏れた。苦笑しながらシロが聞く。

「先生?もしかして寒いんでござるか?」
「そりゃそうだが・・・それはお前も同じだろ?」
「う〜ん・・・そうだ!先生、ちょっと待っててほしいでござる!」
「ん?ああ、別に良いけど?」

その言葉を聞いて屋根裏部屋へと駆け戻るシロ。屋根の上に一人残された横島。
耳を澄ませば自分の身を切る風の音と、何故か下からかすかに聞こえるギシッ、ギシッという音。

(一体何なんだ?)

横島がそう思っていると、

「よいしょ、よいしょ・・・っと」

シロが戻ってきた。何やら両手でしっかりと抱えている。よく見ると・・・

「先生!毛布持ってきたでござるよ!これで寒くないでござる!」
「おぉそーか・・・ってお前、一つしか持ってきて無いじゃないか。それじゃ一人しか入れないだろ?」
「へ?何を言ってるんでござるか、先生?」

その台詞は俺の台詞だ、とばかりにシロを見つめる横島。たった一つしかない毛布、それを一人で使わずしてどーするというのだ?

「二人で一緒の毛布に入るんでござるよ?」
「・・・なにーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!??????????」

と言うことで・・・

「先生?星が綺麗でござるよ?」
「ああ・・・」
「先生?あの星なんて言うんでござるか?」
「ああ・・・」

もはや先程から「ああ・・・」しか言ってない――― いや、それしか言えない ―――横島。というのも、

『シロと二人きりで毛布にくるまってかなりの密接状態』にあるわけで。

少しでも動けばシロとピッタリくっつく、そんな距離にあるわけで。
まあ毛布に二人がくるまっていればそうなるのも当たり前のことなのだが。
とにかく横島は止まることなく溢れてくる煩悩を押さえるのに必死で、星空を見るだとかシロの質問に答える余裕など全く無かった。

そんな横島の心情は全然知らず、口元に指を当て、「くーん」と寂しそうに鳴くシロ。
折角の綺麗な夜空なのに、何故先生は見ないんだろう?もしかして、先生は具合が悪いんじゃ無かろうか?
だから自分の聞くことなんか上の空なんじゃ無かろうか?そんな事を考えたシロは迷わず横島に近寄った。

「おうっ!?シ、シロ!?」
「先生?大丈夫でござるか?これで暖かいでござろう?」

横島のことを心配して聞くシロ。明らかに心配の色が見えるその顔に、横島も安心させるように言う。

「え?ああ、大丈夫大丈夫!全然何ともないから!」
「そうでござるか?ならいいでござるが・・・」

その時、また強い風が吹いた。くるまっている毛布の隙間から風が入り込む。
無理もない。今年は暖冬だと言われているが、今は夜、風は一層冷たくなっている。
思わずぶるっ、と震えるシロ。その震えは横島にも伝わってきた。

(シロ・・・?・・・ったく、しょうがねえな)

そう思いつつも横島は文珠を作りだし、そこに『暖』の文字を込める。文字通り、この場が暖かくなるように。
とたんに、その場が先程の寒さなど忘れるように暖かくなる。

「え?先生、これは?」
「『暖』の文珠使ったんだよ、これで寒くないだろ?また星、見れるしな」
「そうでござるな!先生、あの星は何て言うんでござる?」
「ん?アレか?確かアレは・・・」

横島とシロが再び星空を眺め始めた。それからしばらくして、

「?・・・あっ!?先生、流れ星でござるよ!」
「何っ!?じ、じゃあ早く願い事しないと!えーと、給料あがりますように、美人のねーちゃんといっぱい知り合えますように、牛丼特盛り5杯一気に食えますように、それから・・・」
「・・・先生?もう消えちゃったでござるよ?」
「何だとっ!?って本当だ・・・」

そこには流れ星なんてなく、あるのは先程と全く変わらない綺麗な星空だった。思わず悔しがる横島。

「ちくしょーっ!何だかとってもチクショーっ!」
「そんなこと言っても何も始まらないでござるよ・・・」
「別にいいじゃねーか!・・・ところでシロは何をお願いしたんだ?」
「え?せ、拙者でござるか?それはその・・・」
「何だ?何をお願いしたんだ?」
「い、言えないでござるーっ!」

何かもう汗ダラダラで弁解するシロ。しかしその反応だけで何やら秘密の匂いがプンプンしてくる。

「何をお願いしたんだぁ、シロ?笑わんから言ってみ?」
「本当でござるか?」
「本当だ」
「ホントのホントでござるか?」
「ホントのホントだ」
「・・・う〜・・・せ、拙者はその・・・先生とずっとこうしていられますように、とお願いしたんでござる」

毛布にくるまりながら顔を少し赤くさせつつ答えるシロ。全くの予想外の答えに面食らう横島。
もっと凄い願い事が来ると思っていたからだ。『霜降り肉が食べたい』とか『散歩をもっとしたい』とか。

「へ?お前それが願い事か?」
「そ、そうでござるよ!何か悪いことでもあるんでござるか?」
「いや、悪くはないんだがな、何故俺なのかがよくわからん」

たら〜り。
シロの顔に一筋の汗が流れる。そういえば、こんな人だった。優しいけれども、どこか鈍感で。
でも、だからこそ、自分が大好きになれた人で。

「わ、悪くないならいいんでござるよ!先生、まだ星を見るでござる!」
「え?あ、ああ、わかったわかった」

シロがちょっとふくれっ面で促す。何でシロがそんな仕草をするのかわからないが取り敢えず星を見る横島。
そして二人でまた星空を見る。だけどシロはそっと、毛布の中で横島の手を握った。
一瞬驚いたものの、ふっと笑い、声は出さずにシロと手を繋いだままにする横島。



―――――光り輝く星空に祝福されながら、二人はその日、一晩中星空を眺めていた―――――



おしまい。

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