ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―15前半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/28)

―― チュン、チュン、チチチチチ ――

「ん……ああ…………ふわぁああああぁぁっ…」

部屋の中に、温かい日差しと小鳥のさえずりが入り込む時間帯…

「…あああぁぁっ………っと、朝かぁ…」

大きなあくびを漏らし横島は布団から這いずり出した。
ここは六道家の数ある部屋の中の一室。横島にあてられた寝室兼私室である。
ざっと見渡して50畳はあるだろう部屋には、数々の高価そうな家具が配置されていた。

「さすがに慣れたが…起き抜けにこの部屋は心臓に悪いぞ……」

根っからの貧乏性男横島。この部屋を割り当てられた日は大喜びしたものの、2日目にして早速居心地の悪さを覚えていたりする。
とはいえ既に一ヶ月以上もここが自室であるので、落ち着かない割りに愛着も沸いて来ていた。
ま、それはどうでも良い話……

「今、何時よ?え…と…………6時半?こりゃあまた…」

随分と早起きしてしまったなぁと横島は苦笑する。
この屋敷に来てから、随分と規則正しい生活が板についてきた。
まずは朝の起床の時間…
1人暮らしの頃は誰が起こしに来るわけでもない………たまにはおキヌ、シロが来てたが……ある意味時間が自由だった事もあり、たいがいは遅くまで眠っていたものである。

―― コンコン ――

「はい、どうぞ。」
「失礼します。」

だが今はそう言う訳にも行かない。

「おはようございます、横島さん。」
「おはようございます、フミさん。」

ここは大邸宅六道家。当然だが数多くの使用人が働いており、毎朝毎朝横島はその人たちに起こされていた。

「どうですか…良くおやすみになれましたか?」
「もーバッチリっす!いやそれにして……」

横島は、一般人では残像すら追えない程の速度で布団から飛び出すと、今この部屋に入ってきた六道家の使用人、フミさんの両手をグイッと取って胸の前に持ってくる。

「今朝も朝起きて一番最初に会えたのがフミさんで、ぼかぁ本当に幸せです。」
「は……はぁ…」

横島の瞳は不自然なほどキラキラと輝いていた。

「貴女は本当に可憐だ。どうでしょう?朝はまだ早い……このまま2人でもう一度眠りませんか?あっ?!なんと、こんな所に丁度良い具合にベッドがありますよ!これはもう決まりですね?さあ、今寝ましょう。直ぐ寝ましょう。2人でっ!2人でーーーぇっ!!!」
「い、いけません横島さんっ!?」

ここは寝室なので、ベッド(布団)があって当たり前です。
横島はフミさんの手を引き、ベッドに引き込もうとするが、フミさんはなんとか引き倒されないように全力で抵抗していた。

「良いではないか〜♪良いではないか〜〜〜♪」
「駄目!駄目です!!そんなことしたら私…奥様とお嬢様に怒られてしまいます〜〜〜っ!!」

悪代官と町娘のようなやり取りをする横島とフミさん。
だが、横島はそこでフミの口にしたことが気に掛かる。

「え?なんでフミさんが怒られんの?怒られるのって俺じゃねーの?」
「だ、だって奥様は横島さんをお嬢……はっ!?い、いえっ!!な、なんでもないですっ!なんでもないですからっ!!」

ポロッと失言をしてしまいそうになったフミさんは、両手を目の前で思いっきり振り、必死で誤魔化そうとした。

「そ、そうでした!その奥様が横島さんの事を呼んでるんです!い、今すぐ応接室まで来て欲しいそうですっ!」
「え?理事長が?こんな朝早くに?いったい何の用?」

横島の思考は一気にそちら側に流れた。同時に先程までの疑問は綺麗サッパリと頭から無くなってしまう。

「さ、さあ?!わ、私は…はぁはぁ……それだけ言い預かってきただけですので…はぁ、はぁ………そ、それじゃあもう行きますね?応接室ですよ?キチンと行って下さいね〜〜〜………ぁいねぇぇぇぇ…」

その隙に息と襟元を整え、ニコヤカな笑顔で退出するフミさん。

「ああっ、そんなっ!?ドップラー効果を付けて逃げなくてもっ?!!」

逃げるほどだと思うよ?
残された横島はガックシと崩れ落ち、右手を差し上げて涙を流していた。

「しかし、こんな朝っぱらから何の用だろ?」

だが、2秒で復活。フミさんの言っていた理事長の用事の方を考える。
実に立ち直りの早い男だった。

「ま、考えても分かんねーし……さっさと行くか。」

横島はワードローブを開けると手近な所から適当に洋服を漁り身にまとう。最後に鏡の前で寝癖を確認し、それを手串でほぐすとドアに向かった。

―― バタン ――

これまた重厚で高そうな扉を開けて廊下に出る。

―― バタン ――

そのまま扉を閉め、横島は部屋をあとにした。

………………










―― パタパタパタパタ ――

「ん?」

俺は応接室に向かう途中、玄関ホールで階段を降りてくる冥子ちゃんと鉢合わせた。

「冥子ちゃんおはよう。」
「あ〜!横島さんおはよ〜〜〜♪」

俺が挨拶をすると、冥子ちゃんも元気に挨拶してくれる。

―― うむ ――

学生さんは元気なのが一番じゃのー♪
俺はそんな冥子ちゃんを微笑ましく思う。ちょっとだけ、自分が歳をとった事を感じてしまうが……まあ、人間こればかりはしょうがない。

―― トテトテトテトテトテトテトテトテ、ダキッ♪ ――

「どうしたの〜?こんなに朝早く〜?」
「いや、俺にしてみたら冥子ちゃんの方こそ『どうしたの、こんなに朝早く?』なんだけど?」

―― ブラ〜ン、ブラ〜ン ――

冥子ちゃんは早速俺の左腕に抱きつくと、そのままブランブランと身体を揺さぶる。
ほんとう、いったい何が楽しいんだか?
やれやれと苦笑しつつも、俺は多分優しい顔になっているはずだ。
娘を持つ父親ってのはこんな感じなんかな〜?

「私は〜今日は生徒会のお仕事なの〜〜♪」
「生徒会?」

冥子ちゃんは俺に早起きの事情を説明してくれた。

「私〜〜〜生徒会の〜〜〜会長だから〜〜〜」

―― はい? ――

「か、会長っ!?快調でもなく怪鳥でもなくて会長っ!!?つまり生徒会長っ?!!め、冥子ちゃんがっ?!」
「ん〜〜〜?良く分かんないけど〜〜〜そう〜〜♪私〜〜生徒会長〜〜〜♪」

なんとビックリ!!
良いのか?!
それで良いのか六道女学院!!?
俺はその情報に愕然とする。冥子ちゃんが生徒会長を務める学校というものを想像してしまった。

「………………」
「…?」

……とりあえず、合掌。

「南無〜…」
「どうかしたの、横島さん〜?」
「いや………なんでも無いから。そ、それよりも冥子ちゃん…せ、生徒会長だなんてす、凄いじゃないか?は、はははは♪」

言えない!!俺が何を想像したのかは、冥子ちゃんには絶対言えないっ!!!
俺は本心を笑顔で隠し、冥子ちゃんに話しかける。

「えへへ〜♪あ〜でも〜〜〜生徒会長って言っても〜〜〜特に何をしてる〜って訳じゃ無いんですよ〜〜?」

俺が褒めたからだろうか?冥子ちゃんは嬉しそうに笑った。そして笑顔のまま話し出す。

「なんだか〜〜〜生徒会長は〜〜〜ただデ〜〜ンってしてれば良いんだ〜って〜〜〜仕事とかは〜みんなが全部やってくれるんです〜〜♪だから〜〜〜そんなに褒められると照れちゃう〜〜〜♪」

冥子ちゃんは頬を赤く染めてイヤンイヤンって風にしていた。
だが、俺はそんな態度よりも物凄く気になった部分が……

「め、冥子ちゃん?も、もしかして………冥子ちゃんが仕事しようとしたりすると…誰か他の人が代わってくれたり………する?」
「え〜?どうして分かるの〜〜?うん〜〜そう〜〜〜私が仕事しようとすると〜〜みんなが〜〜代わりにやってくれるの〜〜〜」

そうか……つまりそう言う事でしたか………

「………………ううっ…」
「どうして泣いてるの横島さん〜?」
「なんでも無い。なんでも無いんだ………」

俺は、溢れてくるものを押さえる事が出来なかった。
そんな俺を冥子ちゃんは不思議そうに見つめている。
だが、これこそ決して知られてはいけない事……俺は涙で曇った瞳でそれを誓った。

「お嬢様。そろそろお時間です。」
「あ、爺や〜…」
「あ、おはよう御座います。」

ふと、黒と白を基調にしたフォーマル(?)な服装の老紳士が冥子ちゃんに声を掛けてくる。いかにも執事といった雰囲気をかもし出しているこちらの老紳士は、そのまま六道家の執事長、爺やさんだ。
ちなみに本名は知りません。前に聞いたら、ハハハと笑って一言『私の事は爺やとお呼び下さい』と言われたので、それ以来この人の呼び名は爺やだ。

「おはよう御座います、横島様。」

丁寧にお辞儀をして横島様なんて呼ばれると、こちらとしては非常にむず痒くなって仕方が無いのだが、この人は頑としてこのスタイルを貫いている。
ま、そのプロ意識の高さは尊敬してるし、俺はこの人を結構気に入っていた。

「それでお嬢様…そろそろお出でになりませんと……」
「う〜ん〜〜〜分かった〜〜それじゃあ横島さん〜行って来ます〜〜♪」
「あ、うん。行ってらっしゃい、冥子ちゃん。」

俺の腕を放してパタパタと手を振る冥子ちゃん。そのまま玄関に向かう。

「それではわたくしも失礼いたします。」

爺やさんも一礼して冥子ちゃんの後に続いて行った。
俺は暫しそれを眺めて、冥子ちゃんが外に出て行ったことを確認してから歩き出す。

「さて、俺は応接室に行かんとな…」

………………










―― コンコン ――

「横島っす。入って良いっすか?」

俺は六道家のダダっぴろい応接室に到着した。今日は途中で冥子ちゃんに遭ったから余計に時間が掛かったが、なんと真っ直ぐ来ても10分かかる。俺に割り当てられた部屋から。
土地と金ってのはある所にはあるモンなんだな〜
と、流石にここまで来ると妬みすら出ない。

「はい、どうぞ〜」
「失礼しゃーっす。」

理事長の返事を待って俺は扉を開ける。

「なんか用事が有るって聞いたんっすけど……」

と、そこまで言いかけて俺はあることに気が付いた。応接室にいたのは理事長1人だけじゃない。
しかも、見た顔ばかりである。

「まずはこっちに来て〜…横島クンに紹介したい人たちが居るの〜」




<後半に続く>

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