白い混濁と淡い気持ち6
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/11/ 1)
あの犬を拾ってから、どうも奇妙だ。美神は考えをめぐらす。
シロに目覚めさせられることもないばかりか、散歩すら拒否する横島。
あろうことか職場に子犬を連れて来る横島。
なぜか戦闘に対する意識集中が高くなる横島。
そしてシロを庇い、傷を負う横島。
・・・ん?もしあの子犬が何らかの力でもって横島を怪我させようと・・・極端にいうなれば殺そうとするのであるのならば、なぜシロにその効果が及ばないのか・・・何らかの害を及ぼすことが目的ならシロを攻撃してもおかしくはない・・・そもそも簡単に傷を負うほど強力な能力であるのならば、なぜ横島は死んでいないのか・・・それにタマモは弱い霊力の放出があると入ったが、弱い出力で強力な効果を得られる力とは・・・・・・
美神の頬が、にっとつりあがる。
彼女はことの真相が見えてきたような気がした。
「あ、あたし横島さんの様子を見に行きますね」
どこか落ち着きのないような感じで、おキヌは横島の寝ているであろう室内へと足を運ばせる。
「あ、拙者も!!」
シロが当然のように声を上げる。むしろその扉の向こうの人物の笑顔を見なければ気がすまないように・・・
二人は並んでドアを開けた。
・・・だが、望むべき人の姿はそこにはなかった。
あるのは横島が横になっていたはずの空のソファー。
そして開いた窓・・・カーテンが風によってひらひらと虚しく揺れていた。
「横島さんが消えました!!!」
「あの犬もいないでござる!!!」
これらの情報が事務所内に響いたのはそのすぐ10秒後である。
・・・ちなみにタマモまで消えていたことに気がついたのは、さらにその2分後であった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
横島は激しく息を吐き出しながら、歩き続けた。
休んでは歩き、歩いては休み・・・先ほど事務所から飛び出してから、ずっとこの調子だ。
懐には小さな子犬を携え、後ろポケットには1538円が入った財布。今月はもうじき苦しくなるからあまり無駄使いはできない。
なぜ自分がこんな無茶な逃避行を行ったのか?わからない・・・なぜか・・・横島は不思議な気分で懐からこちらを見上げる子犬を見つめた。
白い毛はいまや赤く染まり始めていた。
「・・・くそ、傷が少し開いちまったか・・・」
横島の安いジージャンの腹部が赤く染まり始めていた。ちりちりとする痛みが横島の身を襲い始め、だからこそなおさらこの行動の無謀さを容易に知せてくれる。
「・・・なんでこんなことやってるんだろ?俺は・・・」
美神たちの話を鑑みれば、この犬は何か特別な力によって自分の行動を指定できうるらしい。今あるこの妙な気持ちはそこからくるものなのだろう・・・
なら・・・今のこの子犬を守りたいと思う気持ちは嘘っぱちか?
仮に作られたものでも、何の脈絡も何にもなくいきなり沸き起こった、この気持ちはなんなんだ?
「・・・意味がわかんねーよ・・・」
横島は手近にある塀に身を預けて、そのまま力が入らなくなったのだろう・・・ゆっくりと身を沈めていった。手近の壁が赤く染まる・・・
「くそ・・・なんか力がでねぇ。こんなんが俺の最後とは・・・我ながら最悪だ・・・」
ゆっくりと、本当にゆっくりと彼は天を仰ぎ見た。
「最後に・・・きれーなねーちゃんの胸の中で死を迎えたかった・・・」
彼はバカみたいにそうつぶやき・・・どこぞの気まぐれな神がその願いを叶えるためだろうか・・・不意に女性のような影が彼の瞳に写る。
それを見た横島は
「ああ神様ありがとうございます!!どこのどなたか知りませんがあなたの胸の中で死なせてくださいー!!」
というなり、いきなりバッとその影に向かって飛びついていき・・・
「わたしはシロじゃないんだから心の準備が❤なんて言うわけないでしょ!」
言いながら、その影は飛びついてきた横島を押しのけた。
ちょっとドッキリしたようにその影は体を強張らせると、はぁ、と嘆息してからまっすぐにこちらを見下ろした。
「結構元気じゃない?」
その陰はタマモであった・・・
「た・・・タマモ?」
どうして・・・といいかけた横島は、彼女が自分の行動をいち早く気がついた(というか見られた)人物であることにいまさらながら思い出す。見られたのなら尾行されていてもおかしくはないか?
横島は嘆息してから、まっすぐにタマモへと向き合った。
「ありがとう・・・誰にも告げなくて」
多少ぐったりとだが、こちらの気持ちは十分伝わるはずだろう。
「ど・・・どういたしまして」
タマモは顔を朱に染めながら、こちらを見つめて返す。
が、何かを思い出したように手をポン!と打つと、
「なら、お礼はあそこの店に行って・・・「はい、無理ッ!!」
横島はタマモの言葉をさえぎった。それもすごい勢いで。
なぜならばタマモの指の先にはすし屋の看板の存在が・・・
「俺にあのすし屋でなんたら産の高級油揚げでもおごれいうか!!そんな金どこにあると!!」
血の涙すら流しつつ、横島は泣き叫ぶ。
「ならいいわよ、美神さんにいうから・・・」
タマモはくるっと横島に背を向けて・・・横島は慌てて彼女の腕を掴む。
「しゅ・・・出世払いということで・・・」
「出世できるわけないでしょ」
タマモは半ば諦めのような瞳で横島を見て・・・まぁいいだろう、と妥協しておいた。
―ポツ―ポツ―ポツ―・・・
と、不意に世界は水に包まれた・・・
「やだ、天気予報じゃ今日降らないって言ってたのに―」
若い男女が迷惑そうに天を仰ぎ、小走りで去っていく・・・
「横島・・・大丈夫・・・?」
横島のすぐ傍らにいるタマモが横島の顔を心配そうに覗き込んだ。
この雨・・・水は傷を負ったものによく響く。水をたっぷりと含んだ服は、重さがまし体力を奪い、小さく背中を叩くその律動は、むしろ痛さすら残す。
そうでなくとも、まともに動けないでタマモに肩を借りている状態なのだ・・・
くそ・・・不甲斐ない・・・これじゃぁあの時と同じだ・・・
「横島、傘作ろうか?」
タマモはこちらに提案・・・ではなく確認のために訊ねる。すでにその小さい手には緑の葉っぱが握られていた。
「悪いな、ありがとう」
横島は彼女に向かって礼を言うと・・・
「300円」
と、笑いながら言ってきた。なんか気のせいか最近美神さんに影響されているような気がする・・・?
「あ、後で必ず払うから・・・今はとりあえず作ってくれ・・・」
横島は倒れそうになる気持ちを何とかこらえて(倒れないのもひとえに美神の愛の鞭に耐えてこれたおかげだ!!)、そう告げた。
「わかった」
タマモがそういうなり、手の中に納まっていた葉っぱは、あっという間に傘へと変化を遂げた。
2人はその傘によって雨から身を守りながら、終には一つの小さな公園のベンチまで辿り着いた。
そのベンチまで来ると、横島は力尽きたように腰を一気に下ろす。
その横島をタマモは心配そうに見つめていた。
「・・・で、何でお前はついてきたんだ?」
横島はそういいながら、タマモを見つめる。その懐から子犬がひょっこりと首を持ち上げる。
「別に理由なんかないわ。怪我してる奴が危なっかしいからきただけ。それだけよ」
タマモは不敵に振舞おうとして・・・それが無理であることに自分で気づく。
たぶん自分は怒っているのだろう・・・何に?人間に?どうして?
美神たち人間の対応にか?だがあれはあれでしょうがないのかもしれない・・・少なくとも横島は怪我を負った・・・それは事実であるのだから・・・だが、それでもそれと感情とは別物だ。
どういうわけか、タマモはこの犬と自分の境遇とを重ねている・・・
いや、同じ捨てられた身・・・同じく始末されそうな身・・・同じ人に助けられた身・・・
怒りは何のため?・・・どうして心配なんだ?
一つ一つ自問してゆき・・・
タマモはクスリと含み笑いをする。
一つ一つ自問してゆき・・・
だから自分は心配してついてきたのだ・・・・・・最後に心にそう刻み込んだ・・・
今までの
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