ザ・グレート・展開予測ショー

僕は君だけを傷つけない!/(7)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(04/ 4/25)


 互いに申し合わせた訳ではなかったが、こぼれた溜息は同時に、しかも5人全員分だった。
 全員が同じ方向を向き、同じ対象物に視線のベクトルを向けている。
 各々の感情の色は様々で、だが容易には読み取れない雰囲気を浮かべていた女性陣である。

 ドアの外から、部屋の中を覗いていた美神達は、横島とタマモが眠りについたのを遠目から確かめていたのだ。
 が、次の瞬間、ある意味女性陣の代表とも言える美神令子が、ゆっくりと足を部屋の中へと伸ばした。
 やけにゆっくりとした動作で、加えて息も殺しつつ、部屋中に敷き詰められた絨毯を一歩一歩踏みしめていく。

 まるで地雷原を歩いているかのごとき緊張感を全身から滲ませながら、美神令子、おキヌ、シロ、パピリオ、美智恵は入室した。
 泥棒でもないのに抜き足差し足を、全員がそろえて行なっている様子は、第三者から見ればなんとも滑稽であったかもしれない。
 だが、当の本人達にしてみれば一大苦行であった。
 相手の動向に気を配りつつ、尚且つ悟られぬように動かねばならないのだから。


 「ほ、ホントに寝てるのでござろうか・・・?」

 「しっ! 確認するまで話すんじゃないでちゅよっ」


 背中側から聞こえるシロ、パピリオの年少2人組の漫才を無視しつつ、美神令子は歩を進める。
 ソファーからかすかに聞こえる寝息が、ようやく闖入者たちの耳にはっきりと届く距離まで達した。
 後ろからソファーを取り巻くようにして、接近を試みていた美神一同であったが、数十秒を経た後に二人の眠りが確認出来たようだ。
 互いに顔を見合わせ、溜め込んでいた肺の空気を、ようやく一同は漏らしたのだった。


 「よ、良く寝てますね・・・・・・横島さんとタマモちゃん」

 「ったく・・・・・・似合わない真似しちゃってさっ」

 「あらあら。こうして見ると、2人とも可愛い寝顔ねぇ♪」


 一番の年長である故か、美智恵だけがゆとりに満ちた微笑みを見せていた。
 腕の中で眠るひのめと寝顔がどことなく重なって、ついつい笑みが零れてしまう。
 また、安堵の色濃いおキヌと対照に、憮然とした表情で憎まれ口を利く美神令子だったが、本心からというわけではなかった。
 その証拠に、声音には憤りというより呆れの色が濃かったし、感情には羞恥もやや混ざっているようで、頬の血色が良い。

 テーブルに目をやると、ウィスキーの大瓶とグラスが2つ、空になった姿を晒している。
 なんとも呆気ない別れであった。やけにしみじみとした風情で溜息を吐き出す美神令子である。
 まだ一度しか味わっていないと言うのに。
 隠し切れない名残惜しさが漏らした吐息の中に見えていた。


 「あーあ、秘蔵のスコッチが・・・・・・」


 惜しむ気持ちが溢れる水のように、美神令子の口調と表情から漏れ落ちた。



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           僕は君だけを傷つけない!/その7

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 情けなさそうに表情を歪める美神令子である。
 高い酒だからと少々遠慮していたのが間違いだった、とでも言いたげに、瓶の底に薄く残った液体を見やる。
 もっとも、このような事態など想像出来ようはずもない。
 横島、タマモの未成年2人組に、飲み干されてしまうなどとは。


 「ったく・・・・・・横島クンもタマモもいい度胸してるわよねぇ。このお酒、いくらすると思ってんのかしら」

 「はいはい、そんなに目くじら立てないの、令子」


 ソファーの2人に恨めしげな視線を投げる令子を、美智恵は微笑みを隠さぬままに優しくたしなめた。
 美神令子本人は気付いていないようだが、美智恵だけは見て取っていた。
 令子の視線にほんの少しだけ見え隠れする、嫉視にも似た眼光の強さを。
 母親ゆえの直観力と言うべきだろうか、Gメンという公職に培われた観察力も手伝ってか、鋭敏な頭脳が高速で情報を整理している。
 まったく、令子ったらホントに素直じゃないんだから。と、少々の呆れがとりあえずの結論であった。


 「なによっ。ママってば、娘の貴重な財産よりも丁稚風情の方に肩入れするのっ!?」

 「何を大げさな事を言ってるの。この世からお酒がなくなったわけじゃあるまいし」

 「そ、そういう問題じゃ・・・・・・」

 「そんなコトよりも、まずは二人を何とかしなくちゃね」

 「むぅ〜、ママったらっ!」


 一部の人間の間では、傍若無人の代名詞とも言われる美神令子も、母親にかかってはあっさりと往なされてしまっている。
 母は強し、という格言はやはり真実である事を実感しつつ、おキヌは美神親子を見つめていた。
 が、次の瞬間にはソファーで寝息を立てる二人へと意識が戻っていた。
 少し冷え込む時期でもあるし、このままでは身体に悪かろうことへの懸念が、おキヌに行動をとらせた。


 「あ、わたし、毛布を取って来ますね」

 「いーのよ、おキヌちゃん。こんなヤツほっとけば」

 「あ、ちょっと待って、おキヌちゃん。タマモちゃんはシロちゃんとパピリオちゃんに、お部屋まで運んでもらおうと思うんだけど」


 美智恵の発案に、思わず足を止めるおキヌ。
 言われてみればその方が良いかもしれない。おキヌはソファーに目をやった。
 先程から目には入っていたのだが、真正面から改めて見直せば、彼女としても実に信じがたい光景である。
 タマモが横島に抱きつくような形で、寝息の二重唱を奏でながら舟を漕いでいるという光景は。

 見つめる側のおキヌはといえば、本人も知らぬ間に気が抜けていたのか、程好く色付いた両頬が風船の様に膨らみ始めていた。
 魔鈴の店で飲んだ食後のカクテルが酒精の弱さとは裏腹に、彼女の体内をジェット・コースターのように駆け巡っている。
 加えて視線は、少しずつではあったが彼女の心理を目の色に表していく。
 地平線にかかる入道雲の如く、だが綿菓子のように薄桃色に染まった局地的高気圧が、心中のほぼ全域に広がっていった。


 隊長さんの言う通りかも。
 横島さんとタマモちゃんを二人一緒に、このまま寝かせておく事は、非常に無上によろしくありません。
 うん、よろしくないったらよろしくないんです。ダメです、いけません、って言うか・・・・・・ふ、不潔ですっ!
 ・・・・・・・・・だ、だいたい横島さんったら、あんなにたくさんお酒まで飲んじゃってっ。ほ、ホントはいけないコトなんですよっ?

 か、かっこつけてたけど・・・・・・・・・その、なんていうか、なんとはなしに、ほんのちょっとは、まぁ、かっこ良かったわけだし・・・・・・♪
 でも、タマモちゃんまでも付き合っちゃうのは・・・・・・・・・私としてはちょっとばかりどうかと思うのでして!
 だって・・・・・・で、できれば、その・・・・・・わたしも誘って欲しかったなぁ、なんて・・・・・・・・・・・・って、あ、あ、あれぇ!?


 どうにも酒の勢いは侮るべからず、であった。
 カクテルとはいえ、やはり酒は酒、アルコールはアルコールである。
 料理に使用の際は平気でも、体内に残った食後酒は別種のものであったらしい。
 むしろ、さすがは現代の魔女にして料理長・魔鈴めぐみと言うべきであろうか。
 おキヌのテンション模様は、平時よりもやや高度に在った。


 「おキヌちゃん、顔が赤いわよ?」

 「あうっ!」


 何を考えていたかは一目瞭然、と言わんばかりに眉の角度が笑っている美神美智恵である。
 美神令子はと言えば独り仏頂面で、額とこめかみに震えを走らせていたが。
 当事者のおキヌは後退ってしまった。怯みと驚愕の顔色が、大汗と赤面によって可愛らしく彩られている。
 やかん一杯の水も、今のおキヌの頭に載せれば一瞬で沸騰してしまいそうだ。


 「お〜キ〜ヌ〜ちゃ〜〜〜ん??」

 「ああああっ! み、美神さん、違います違いますっ。う、羨ましいなんて思ってませんからぁ!・・・・・・って、きゃーっ!!」

 「バレバレねぇ。ほーっほほほほ♪ まー、青春だこと♪」


 会話の流れが脇道に逸れていくこと甚だしい。
 美智恵、令子、おキヌの3人とも失念しているのだが、ソファーで寝息を立てる二人が目覚める懸念すら忘れているようだった。
 口をへの字に曲げ、駄々をこねる幼女にも似た美神令子の拗ね具合。
 大汗をかいて慌てふためくおキヌの、でもトマトやリンゴにも似た赤い色が、そしてほんの少しの微笑みが見え隠れする笑顔。

 美智恵は腕の中で眠るひのめを起こさぬ様に気をつけながら、二人の漫才を楽しげに観賞していた。
 やはり若い者達の色恋沙汰は面白い。というか最高である。
 青春真っ盛りの美神除霊事務所・所員一同が引き起こす日常模様を、美智恵はその一言に集約しているのであった。
 何が飛び出すかわからないびっくり箱のような、こんな日々が過ごせることがなんとも嬉しい。

 目の前で披露される令子とおキヌのコントを見ながら。
 自分の後ろで、じっとソファーの二人を見つめ、先ほどから妙に静かな年少組の存在をそれとなく感じ取りながら。
 そして腕の中のひのめを起こさぬように、優しく支え直しながら、美智恵は愛娘とその友達の騒動を見守っていた。



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 背もたれに深々と体を預け、大口を空けたまま鼾をかいているという、今やだらしない寝姿をさらす横島である。
 一方、彼にしがみついたまま、妙に嬉しそうな表情を浮かべて眠るタマモ。
 横島の胸部に頭を預け、すやすやと寝息を立てるその姿に、普段のクールさや勝気さは欠片も見出せない。
 皺が目立つシャツに九房の頭髪を擦りつける様は、どう見てもネコの匂い付けである。
 ましてや時折嬉しそうに、甘えるようなか細い鳴き声を漏らすとあっては、これは年少組としては見過ごせない出来事であった。


 「むむ〜、タマモめ。ゆ、許せぬ女狐でござるが、寝込みを襲うのは武士として恥ずべき事。こ、ここは涙を飲むでござるっ!」

 「これは目が覚めたらお仕置きモノでちゅねー。わたちを怒らせた罪はとっても重いのでちゅ」

 「しくしく・・・・・・せ、拙者も先生と一緒に寝てみたいでござるよぉ。なんでタマモばっかり・・・・・・えぅぅぅ・・・・・・」

 「えーい、泣くんじゃないでちゅよ、シロ。目が覚めればこっちのモンでちゅから、今は耐えるしかないでちゅ」


 パピリオとしても大いに不満であった。
 寝る前に横島に絵本を読んでもらうのが、人界でのホームステイ中において、何よりの楽しみの一つだというのに、である。
 一昨日は『シンデレラ』、昨日は『親指姫』を読んでもらい、そして今夜は『ヘンゼルとグレーテル』の予定であった。
 もっともタマモやシロまでベッドの横に寝そべってきて、興味深げに絵本を覗きこんでくるのは、かなり腹立たしい事なのだが。


 「忍耐でござるか。やむをえんでござるな。うーむ・・・・・・」

 「なにを考え込んでいるんでちゅか、シロ?」


 今泣いていたカラス、もとい人狼があっさりと平常に戻っている。
 腕組みまでして眉をしかめ、何事かを考え込むシロの仕草に、パピリオは少々呆れつつも返事を促した。


 「いや、この際、うわさに聞く『きせーじじつ』とか言うヤツを作っておくべきではないか、と」

 「確か・・・・・・オンナのコの命令にオトコのコは絶対に逆らえなくなる、っていうあれでちゅか?」

 「たぶん、そうでござる」

 「わ〜お、シロも意外にワルでちゅね♪」

 「悪巧みではござらん! へ、へ、兵法と言うのでござるっ!」


 シロが赤面しているのは別に恥ずかしがっての事ではなかった。ワル呼ばわりされたのが、ほんのちょっとばかりイヤなだけである。
 彼女としては自称・武士である。付け加えて言えば自称・狼。だが最近の生活風景には野性味が極めて乏しいのだが、この際は不問。
 つまり勝負事には正々堂々と臨む事こそを信条としている以上、策略・知略・謀略と、知性に略のつくものには余り縁を持たずに来た。
 良く言えば勇猛果敢。悪く言えば猪突猛進。正面突破こそが彼女の好みのスタイルである。

 だが、敬愛する先生とタマモの酒盛りを覗き見ていたシロは、事ここに至り、策謀の重要性をそれとは知らず悟っていた。
 戦いにおいて、力に謀を持って策を練ることこそが「兵法」なのだが、未熟と断言するにはシロの意気込みは一途であり過ぎた。
 シロとしては『横島先生』にどうしたら構って貰えるか、が至上命題にして最重要課題である。
 ゆえに一番弟子である自分を差し置いて、『らぶらぶ』な空気を生み出したタマモは許されざる怨敵であった。
 もはや恥も外聞もない。拙者の『わるぢえ』でお仕置きしてやろう。シロの心は定まった。

 心の準備も身体の成長もまだまだだが、普段から修行はしておかねば、とシロは心がけていた。
 そう、いつの日にか訪れよう幸せのために。
 散歩が大好き。お肉が大好き。剣の修行が大好きで、そして、横島先生と一緒にいるのが何より大好き♪
 と来れば、先ほどまでのタマモの姿は、シロにとって打ち首・獄門・磔モノである。
 お白州で遠山の金さんか大岡越前に裁きを受けさせたいくらいだ。介錯はもちろん自分の手で。


 「・・・・・・それで、ど、どうでござろうか、パピリオ?」

 「ぐっど・あいでぃあ♪ 悪くないでちゅな」


 パピリオの返事に深く頷き、爽やかなまでに気を良くするシロである。
 互いに見せ合う笑みから白く健康そうな歯の輝きがこぼれ、サムズアップは同志的結束感に満ち満ちていた。
 パピリオとしてもシロからの提案は、まさしく渡りに船であった。
 ぶんぶん、と握手を勢い良く上下に振りながら、年少2人組は悦に浸っている。

 体は小さくとも、乙女心は天下を覆わんばかり。
 誇り高きお子様魔族。今は亡き魔神アシュタロスの娘として、そして1人の女の子としてパピリオは、一歩も辞さぬ覚悟だった。
 シロはシロで何か考えているようだが、最後には自分が勝つのだ。というか、絶対負けてやんない。
 ぴこぴこ、と頭部の触角を震わせながら、パピリオもまたシロに負けじと心の炎を燃やしていたのだった。


 (にゅっふっふ♪ わたちの目の前でぐーすか眠るとは甘いでちゅね。これからは『わたちだけ』の時間なのでちゅよ〜♪)

 (ふっふっふっ♪ 拙者の目の前でぐーすか眠るとは甘いでござる。これからは『拙者だけ』の時間なのでござるよ〜♪)


 『いぢめっ子』特有の含み笑いを浮かべながら、年少組は野望を抱いていた。
 さらに一秒でもはやく、相手へのアプローチを試みるべく脳内で策を練り始める2人である。
 見事なまでの素早さで『先手は必勝に通ず』の境地へと達しつつあった。


 「でも『きせーじじつ』なるものを作るには、まず何から取り掛かればよいのでござろうか? 材料もいるでござろうし」

 「おキヌちゃんのお部屋にあったマンガに、んなコトが描いてあったはずでちゅが・・・・・・・・・・・・何、描いてあったんだっけ?」


 やはりというべきか、肝心なところで無知であった。
 年相応の知識とはいえ、双方の保護者的立場の者からすれば、あまり心穏やかではいられぬ会話であろう。
 耳年間は乙女の通過儀礼、と言えるかは不明だが、シロ、パピリオの2人が好奇心旺盛なのは確かな事実であった。


 「あ、拙者、あのマンガはまだ読んでないでござるよ」

 「新刊でちゅか? 『バレット・オブ・ラヴ』なら、わたちもまだ読んでまちぇん」

 「いや、『らぶらぶ☆あ・ら・もーど!』の方でござるよ。どこまで読んだでござったかな?」

 「えーと・・・・・・4巻だから、お兄ちゃん大好きの妹が一線を超えよーと決意して、ライヴでロックを歌うところで終わりでちゅ」

 「あ、そーでござった。まさしく愛の力でござるな♪」

 「意味はほとんどわかんないけど、おもしろかったでちゅよね♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、何を話してたんだっけか?」

 「何を言ってるでござるか。『きせーじじつ』とやらの作り方でござるよ」

 「あー、そーでちたそーでちた。うっかりしてたでちゅ。てへ♪」


 ちょっと舌を出して軽く上目使い、跳ねる水滴にも似た勢いのウインクで詫びるパピリオである。
 悪びれている様子は全く無い。この魔族少女にかかれば、怒りや疑念の矛先も行き場を失ってしまいそうだ。
 無邪気さのオブラートに包まれた中身は、外見と異なってなかなかに侮れないレベルではあったが。


 「しっかりするでござるよ、パピリオ。で、結論はどうなのでござるか?」

 「作り方というからには、料理とおんなじでレシピがなきゃダメでちゅね。おキヌちゃんの部屋からマンガ取ってくるでちゅ」

 「うむ、迂遠なようだが致し方ないでござる。兵法は大事でござるからな」

 「じゃ、わたちがヨコシマとタマモを運ぶでちゅから、シロはおキヌちゃんのお部屋からマンガを持ってきてぷりーず♪ おっけい?」

 「おっけいでござるっ♪」


 男女を問わず幼い時には、悪戯好きの血が時間と場所を選ばず騒ぎだすものらしい。
 加えて今のシロとパピリオには、積もりに積もったちょっぴりおませな動機が、動悸と共に胸いっぱいに膨らんでいる。
 魔鈴のレストランで飲んだ食後酒。店内のライトを反射して、青空を薄めて溶かし込んだようなカクテルの輝き。
 シロとパピリオは不意に思い起こしていた。

 あの時からかもしれない。
 なんとなく頬のあたりが、微かではあったがほんのりと熱を持ち始めたこと。
 紙のように薄く鋭い心の張りようと、それでいて暖かな感覚とが芽生え、胸の奥がほんのちょっとだけの早鐘を打ち出したこと。
 レストランからの帰り道にタマモと横島が腕を組んだのを見て、二人揃ってフグみたいに膨れっ面になってしまったこと。

 本当に小さなトゲのようなものだったが、不快は不快。
 『見せ付けてくれるじゃないのよ、あ〜ん!?』の世界である。
 心なしか、頭もふわふわと浮雲のように軽くなっているような感覚に、2人は身を任せ始めていた。
 魔女特製のアルコールは、ほんのちょっぴりと言えども効果覿面であるようだ。


 「よしっ、作戦開始で攻撃開始でちゅ。行くでちゅよ、シロ! れっつ・ろっくん・ろーる!・・・・・・・・・けぷっ」

 「委細承知でござるっ!・・・・・・・・・ひっく」


 横島とタマモ主演のロマンスに圧されていた年少組であったが、ここへ来てようやく酒精が活発化してきたようである。
 おくび交じりとは言え、気合の入ったガッツ・ポーズには星々もかなわない輝きが宿っていた。
 無論、呆気に取られて眺める面々も存在していたが。


 「意味はわかってないようね。でも、まー、二人とも大変積極的でよろしくてよ♪」

 「じょ、冗談じゃないわよ、ママっ! だ、だいたい、なにバカなこと言ってんの、アンタたちはっ!」

 「ふ、ふ、2人とも・・・・・・い、いつの間にっ!?」


 美智恵は変わらず泰然としたもので、大汗を浮かべているのは令子とおキヌだけである。
 おキヌにとって状況は予断を許さないものだった。というか、友人たちに借りたマンガを読まれていたのは大いにまずい。
 もっともおキヌ自身も、『うわー』とか『きゃー』などと奇声を上げながら読んでいたのだから、責めようも無いのだが。

 幸せそうなまどろみに浸る横島とタマモには、美神たちの会話など聞こえよう筈もない。
 鼾の二重唱だけが空間の静寂を切り払っていた。このような騒動の中で寝ていられる神経も大したものである。


 「きゃー、頑張れー♪」

 「ママぁっ!! ・・・・・・って、ちょっと待ちなさいっ、アンタらっ!」

 「きゃーっ! シロちゃんもパピリオちゃんも、ち、ちょっと待ってってばぁ!」


 パピリオがそれぞれの手で、いともあっさりと横島とタマモを担ぎ上げたのは、それこそあっという間であった。
 えいほっえいほっ♪ と掛け声も可愛らしく、シロとパピリオの年少組はそれぞれの目的を果たすべく、行動を開始している。
 慌てふためいて後を追いかける美神令子とおキヌを気にも留めないままに。


 「ほほほほ、今夜は最高♪」

 「くー・・・・・・すぅー・・・・・・」


 今夜を一番楽しんでいたのは、美智恵だけであった。
 ひのめの寝息をBGMにして。










             「こんにちは、ピートです。えーと・・・・・・・・・その8に続きます。って、終わりじゃないんですか?」

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