好きだから(前)
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/11/ 8)
俺は横島忠夫、今年の春に高校を卒業した19歳。
現在は美神除霊事務所のGS助手をしつつ何とか生計を立ててる最中。
ったく!あんだけ稼いでるくせに『一年は仮採用ね!使えるようだったら雇ってあげる♪』って・・・
こらぁ!労働基準法とかどうしたぁ!仮採用は確かにバイト扱いだけど自給500円ってなんじゃぁーー!
と、叫んでも仕方がない。
つーか諦めてるけどなぁ・・・・まぁそりゃ俺も高校3年生になったときは迷ったよ。
選ばなきゃ大学は行ける時代だし、普通の会社に就職してもそこそこやれる自信はあったし・・・
まぁ結局は特にやりたいこともないし、せっかくGS資格もあるしって感じで現在に至る。
いや・・・本当はそれだけじゃない・・・
温かい仲間、愉快な友人、充実した仕事、自分の特殊な才能を活かせる職場、女の子ばっかりの事務所・・・
確かにそれもある・・・けどここに残った本当の理由は。
「ほら!横島クン!さっさと出かけるわよ!?」
「あ、は、はい!え〜と、今日は郊外の廃ホテルの除霊でしたよね?
でも予定じゃPM10時・・・、今はまだ午後6時半っすよ?」
ふと疑問に思ったことを口に出してみると・・・途端に美神さんの眼つきがキツくなった。
あ、あれ!?何か間違えたかな!?
少しパニくっていると美神さんが俺のジージャンの襟をグィっと引っ張っり耳元で囁く。
「バカね、少しでも早く片付ければ美味しい店行けるでしょ?・・・・・・あんたと」
「あ、・・・はい!そうっすね!早く片付けましょう!ね!ね!さぁ出発!よし出発だぁ!」
いつも通りひょうきんな言葉で背を押す俺に美神さんは少しだけ苦笑いを浮かべていた。
俺が今ここにいる理由────
それは────
────────美神さんと付き合っているから。
■
2週間前・・・6月26日(俺の19歳誕生日の二日後)
奇跡、運命の女神のイタズラ、僥倖、1000年に1度の事件。
こんな言葉ですむのだろうか。
あの日・・・
美神さんが何と改めて卒業祝いと誕生日を兼ねて食事に連れて行ってくれた。
おキヌちゃん、シロ、タマモはそれぞれ用事があったみたいで不参加、
実質二人っきりのデートというこのシチューエション・・・
(別に美神さんと二人っきりっていうのは初めてではないが緊張するなぁ。
ふふ・・・このチャンスは活かさねば!美神さんが・・・理由はどうあれ俺を食事に誘ってくれたんだ!
これはもう愛の告白と受け取るし・・・がぁ!」
「あんたは何でそうやっていつも思ってることが口から出んのよ!」
ズガンという効果音と共に後頭部に響く痛みを感じながら振り返ると・・・そこには赤色をベースにドレスアップした美神さんが。
そして、ジロジロと俺の体を見渡す・・・ま、まさか俺の体に興味が!?
「あんたねぇ・・・もう少しまともな格好できないの?」
まぁ、予想は出来ましたけどね。
しかし酷い言い草や〜、これでも俺の部屋にある一番高い服なのにぃ!
「しゃ、しゃーないじゃないですかぁ!俺の時給知ってるでしょー!」
「ほら泣かないの・・・。じゃあ食事に行く前に横島クンの服買いに行きましょう?
いくらなんでもスーツくらい着ないと店にすら入れないわよ」
「ううぅ、しかしながら俺には持ち合わせがぁ・・・」
「あんたのサイフ事情くらい知ってるわよ、
今日は横島クンの卒業と誕生日祝いなんだからそんくらい出してあげる」
「み、美神さんが!!?」
(あ、あの金に汚くて、俺に対していつも虫ケラ以下の扱いしかしてくれない美神さんがぁ!?
どうしたんだ!厄珍に変な薬でも飲まされたのか!?
それともイタリア系マフィアのように殺意を隠すために・・・おごぉ!」
「だから声に出てるっつてんでしょ・・・」
美神さんのアッパーの感触を味わいながら俺の意識は飛んでいくのだった。
・
・
・
・
「うぅ〜、美゛神゛ざ〜ん゛・・・きぼぢ悪いでうぅ〜〜〜」
フワフワとする痛みと嘔吐感を必死に耐える俺。
そんな俺を美神さんはしょうがないわねぇと肩を貸してくれながら近くの公園のベンチまで運んでくれた。
「バカねぇ、初めて酒飲んだくせに悪飲みするから」
「うぅ〜、未成年をショットバーに連れて行ったのは美神さんじゃないですかぁ・・・
最初は炭酸のオレンジジュースみたいなものかと思って・・・うえ゛ぇ」
取りあえず容姿を整えた俺は美神さんに引かれながらとても俺の給料じゃ行けそうにない高級レストランへ向かった。
そして、その帰りに美神さん行きつけのバーに連れて行ってもらったが・・・このザマだ。
つーか、美神さんは俺の20倍は飲んでたような・・・どんな体の構造してんだ。
ベンチで寝そべりながら俺はそう思うのだった。
「ふふ、あんたにはまだ早かったかしら?今度は居酒屋にでもする?」
「居酒屋って・・・結局酒じゃないですかぁ!美神さん以外事務所のメンバー未成年ですよぉ」
「事務所のメンバー・・・あ、ああそうね」
電灯の光が弱いせいか夜の帳のせいか美神さんの表情は見えない。
少しだけ動揺した声が聞こえたのは気のせいだろうか・・・
ひゅぅぅ・・・
6月の涼しい風がほてった頬に気持ちよく当たる。
酔っ払いが道端で寝たたりするのはこのせいなんだろうか・・・
そんなことを思い俺がふと笑ったときだった。
「ねぇ、横島クン・・・」
「え、あ、はい!何ですか」
名を呼ばれただけで飛び起きて正座してしまうのはもう条件反射やなぁ〜。
そんな関係も悪くないと思ってる自分がかわいい・・・
「あなた・・・本当に私の事務所にいたい・・・?」
「へ?」
「そ、その・・・給料も安いし、仕事もキツいし、残業多いし、危ないし」
「分かってるんじゃないですかぁ!?」
ならもっと待遇良くしてくれぇ!
そう言いかけて俺は言葉を飲み込んだ、今まで幾度のその言葉を吐いて切って捨てられたことか。
だけど・・・今日の美神さんは少しだけ違った。
「うん・・・分かってるのよ・・・」
「え?」
美神さんは苦笑いを浮かべながらさらに続ける。
「分かってるのよホントは・・・・でもさ、
何か・・・給料とか、待遇とか良くしたらあんたと私らしくないっていうか・・・」
「?」
「いや、ほら!何ていうか・・・主従の関係というか、女王様と奴隷の関係というか、
あーー!なんていうか自然な関係ってあるじゃない!?」
「何気に酷いこと言ってませんかぁ────っ!?」
でも否定できん!
走馬灯のように思い出す美神さんとの思い出・・・うぅ確かに美神さんが言ってる関係が言葉にすると一番しっくり来るなぁ。
って何で納得しとるんやぁ、俺ぇ!
「ううぅうう、美神さんの言うとおりやけどぉ」
「ち、違うのよ!そうじゃなくて・・・あ〜〜もう!・・・ま、いいわ。
はぁ・・・・そろそろ帰りましょうか。給料に関しては考えておくわ」
少しだけ困った表情の美神さんにつられて俺も立ち上がる・・・しかし。
酒が入ってるところに急に立ち上がったせいか俺の視界がグッルグル回る、
そしてついに俺の嘔吐感は限界を超えてしまった。
「う!ううぅぅウ゛ウウええエエ゛エェェェ!!」
何とか近くの草むらまで歩いて胃の内容物を口からブチまける。
ああ、俺の給料1か月分より多かった料理がぁ・・・
息苦しさと涙を浮かべながらそんなことを思っているとき。
「ちょっと!大丈夫!?」
「・・・えうっ、は、はい・・・なんと、か」
俺が少し振り向いたときに見えたのは心配そうな美神さんの表情。
そして・・・背中にあたる美神さんの温かい手のひらの感触・・・
背中をさすってもらうのって・・・どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
「悪かったわね・・・無理にお酒なんて飲ましちゃって・・・。
あとさ・・・事務所だけど無理して続ける必要ないからね?あんたにはあんたの人生があるんだから」
『必要ないからね』・・・・・・か。
何だろう少し胸に引っかかる・・・別に普通の言葉なのに・・・なのに!
何で俺はこんなに・・・・・・・。
そっか・・・
俺・・・
やっぱ・・・
「俺!」
「ん?」
少し強めの口調に美神さんはちょっとだけ目を大きくして相槌を打つ。
そんな美神さんに今から言う言葉・・・その言葉を思い浮かべて美神さんの両肩をつかんだ。
ドクンと一回だけ心臓が高鳴り・・・そして言った、いや叫んだ!
「俺!美神さんのことが好きなんです!」
「え!?」
美神さん口が半開きのまま動かない。
・・・・・・・・・・・・そりゃそうだぁ!何か俺はとんでもないこと言ってないかぁ!?
いや、そりゃ本心だけどシチュエーションを考えろよぉ!ゲロ吐いた直後に告白って・・・
殺せぇ!もういっそ誰か俺を殺してくれぇ!
「・・・・・・・・・・」
沈黙を保ったままの美神さん・・・
1、「ごめんなさい・・・無理だわ」
2、「あんたが私と釣り合うと思っとんのかぁ────っ!」とパンチ
3、「10年早いわね」とそっぽを向いて帰ってしまう。
ダメだ!気の早い俺の脳がこの後の絶望的シチュエーン既に予想しとる!
つーか、頼む!ダメならダメでいいから(良くないけど)何か言ってくれぇ美神さぁん!
「それって・・・私と付き合いたいってこと?」
うっ!これまたストレートでごもっともな質問!
「は、はい・・・出来ればそうして頂けると嬉しいかなぁ〜〜・・・なんて」
うぅ我ながらなんて弱腰。
俺はツンツンと両手の人差し指を合わせながらさらに美神さんの言葉を待つ。
そして・・・・・
「いいわよ」
「え!?」
(中)に続く
今までの
コメント:
- (誤)シチュエーン→(正)シュチュエーション
すいません_| ̄|○ (ユタ)
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