ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―11前半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/19)

駅前は人で溢れている。
まあ、夕刻から夜に変わる程度の時間帯であれば、それも当然の事。
家路へと向かう人々、これから街へ繰り出す人々。
多種多様な人種が今この場所に存在していた。
駅前には待ち合わせポイントがある。
中央に大きな時計塔を持つ噴水。
夜になるとライトアップされるその周辺は、カップルその他の絶好の待ち合わせ場所として存在していた。

「ん……あと5分か……」

その時計塔の下には何人か、明らかに人待ち顔で佇む女性もしくは男性の姿があり、その中の1人が時計塔をちらりと見上げて呟く。
黒く緩やかにウェーブの掛かった長い髪と、健康的な褐色に焼けた肌。そしてバランスの取れたプロポーションと、世の男性がほおって置かないに違いない美女……もとい、美少女だ。
事実、彼女がこの場所に到着してからの約10分間で、既に3人の男性から声を掛けられていたりする。
それら全てを彼女は軽くあしらっていたが。
そうでなくても、彼女が視界に入った者は皆、1度はその目を留めていった。

「お、いたいた。お待たせ。」
「別に待ってないわ。アタシもさっき来た所なワケ。」

そこに、1人の男が到着する。
そこそこに高い身長。それなりに引き締まった体。まずまず整った顔。
総評すれば若干良い男。もしくは何処にでもいそうな平凡な男
彼の第一印象は、その2つの間で微妙に行ったり来たりしていると言ったところか?
その男が、この美少女の待ち人だったらしいと分かるや否や、周囲からは嫉妬やら敵意やらの感情が一気に膨れ上がった。

「そっか?じゃあ、どうする?」
「どっかその辺の店にでも入りましょう。話はそっちでするわ。」

2人はそんな視線や雰囲気には微塵も反応せず言葉を交わす。
そんな視線に全く気が付いてない男の方の名前は横島忠夫といい…

「ん…じゃあまあ、妥当な所でファミレスでも……」
「キングダムガーデンなら良いわよ。ほかのファミレスは却下。」

それらの視線に気づきつつも全て無視している少女の方の名前は小笠原エミといった。

「けっ!このブルジョワがっ!」
「な、なによ?!別にそこまで言われるほど高い店じゃないでしょうが?たかだかファミレスよ?1食2000円くらいでしょ?」

キングダムガーデンはチェーンのファミレスの中でも、料金設定が1段高めに設定されている店である。
良質の材料を使用している分味は確か。その辺の普通のレストランよりも上手いと評判だ。で、その分が値段に反映される……大体相場の1.5倍くらいの値段だろうか?

「俺が15歳のときはファミレスに行く金すらなかったぞ!」
「別に、昔の話でしょう?今はGSやってるんだから、その位のお金無い訳じゃないわよね?」

この、小娘がーっ!
と横島は怒る。何でも無い風に高級ファミレスの名前が出てくる近頃の若いものに、説教をかましてやりたい気分になった。
だが、エミの答えももっとも。今の横島には、確かにキングダムガーデンでの食事くらい何でも無い事だったりする。

「う……まあ、確かに今はそれ位何てことねぇけどさ……」
「なら良いじゃない?さっさと行くワケ。」

エミはさっさと話を切り上げると横島を置いて歩き出した。

「あ、ちょっと待って……」

すかさず追いかける横島。この2人の間では今の所、主導権は完全にエミの方が握っているようだ。
横島は直ぐにエミに追いつくが、結局何も言えずにエミの隣を歩いて付いて行くだけである。
時計塔広場に残ったのは、複数の男達の怨嗟とため息、2人の去った方を眺める視線であった・

………………










「で、今日の話ってのは?」

ファミリーレストランチェーン「キングダムガーデン」で、横島とエミが向かい合っている。テーブルには横島の頼んだAセット(肉コース)とエミの頼んだパスタコースが並び、なかなかに良い匂いをさせていた。
横島はフォークとナイフで不器用に肉を切り分けつつ、エミに問いかける。

「ん…まあ、ちょっと相談事って言うか、お願いが有るワケ……」

今日、横島はエミに呼ばれて待ち合わせていた。何か相談事が有るらしいのだが、口振りから少々言いにくそうだということは感じている。
今も、エミの口は言いたそうに、でも言いにくそうな微妙な動きを見せていた。

「あ〜……何か言いにくそうだけど、それでも電話してきたって事は言わなきゃいけない事なんだろう?」
「ん、まあ……そうね。今言うわ……え〜とね…」

言いにくそうにしていたエミだが、横島に促されなんとか決意し話し出す。

「あ〜……アタシとの約束は覚えてるわよね?」
「ん?ああ、GS免許取ったら俺がエミを雇うって話だろ。勿論覚えてるって、流石に俺でもさ。」

横島は、エミととある約束を交わしていた。
エミがGS免許を取得したら、横島が彼女の雇い主になるという事。そのために、GS試験までに横島が除霊事務所を起こすというものである。

「結構無茶な要求だって思ったけどさ、いやあ……世の中って何処でどう転ぶか分かんないもんでさ……上手い事事務所起こせる事になったんだよね。運が良かったっちゅうか何ちゅうか……ほんと、俺自身が一番ビックリしてんだけどね、ハハハ。」

横島は笑いながらそう言った。それは果たして運なのか?それとももしかして、それは運命だったのか…

「ふ〜ん。本当に守ってくれワケね、約束……」

エミは横島の返事を聞き、柔らかな笑みを浮かべた。
ここ何年も感じた事の無い、心地良い安堵感を覚え、自然とこぼれた笑みである。

「ああ…まあな……」

横島はそう答えて、窓の外に視線を向けた。
ほんの少しだけ遠くを見つめてもう一度呟く。

「約束は…守らんと………な…」
「……?」

エミはいぶかしむ。横島の返事は、どこか自分に向けられたものだけでは無いように感じた。

「しかし、美味いなこの肉……ん、コラ美味い!コラ美味い!」

だが、それも一瞬の事。横島は目の前のサイコロステーキにフォークを突き立てると、行儀悪くパクつく。美味い美味いと飲み込むようにかっこむ様は、大人の男としてはかなり格好悪い行動である。
一瞬前の姿とのギャップに、エミは自分が感じた疑問を口にすることは出来なかった。

「ん……ありがとう。礼…言っとくわ……」

だからエミは、もう1度微笑んで1言だけ横島に礼を述べる。
そして気分が軽くなったのか、ようやく今日の本題を口にしだした。

「前に、私には戸籍が無いって話をしたわよね?」
「え?あ、ああ…そんな話してたな。13歳で親戚の家を飛び出した…だっけか?」

横島は前にエミから聞いた話を思い出す。

「で、知り合いに頼んで戸籍を作って貰ったワケよ。GS試験受ける為に。」
「そんな事言ってたっけな。なに?そのへんで問題でもあったのか?」

戸籍を作るっていうのは、勿論簡単に出来る事ではない。とは言え、それはあくまで一般人の話。少し裏の事情に詳しければ、実は新しい戸籍など簡単に手に入るものである。

「戸籍のほうは何てこと無かったわ。公安に知り合いがいてね。そいつが用意してくれたワケ。あ、勿論違法だからオフレコでね?」

エミも、戸籍自体は特に問題無く手に入れることが出来た。

「問題は、別口でね……まいったワケ…GS免許取る為に必要なモノがもう1個あったワケよ。」
「GS試験を取る為に必要なもの?」

横島は少し考える。自分がGS免許を取るときには何か必要だっただろうか?




<中半に続く>

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