ザ・グレート・展開予測ショー

白い混濁と淡い気持ち


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/29)

 それが一声上げると、人々の視線はたちどころに移り変わり、それが地を一足踏むと、地を這うものどもを捻りつぶさんが如し・・・それが大地を跳躍すると、どこまでも高く高く上り詰めていく・・・

 人、それを犬という・・・

(訳:ワンて鳴けば女子高生辺りがカワイ−とか言ってよってくるし、当然一歩でも歩けば細かい微生物はぷちゅッと潰されるし、犬なんだからなるていの跳躍力はあるでしょ。という意味です)

 というわけで、ここに早速それをみてしまったものが一人・・・安っぽいジーンズにバンダナ・・・
 ・・・もはや言うまでもない。
 われらが横島!・・・その人である。

 彼の視線の先には段ボール箱に入っている小さな白い子犬がいた。ちょうど手のひらサイズといったところであろうか・・・だが、白い中にも所々茶色いまだらが入っている辺り、まさに血統証つきの雑種とでも言おうか。
 ダンボールにはなにやらマジックで文字がつづられており、こう書いてあった。

『この子はかわいそうな子です。良心のある方はどうぞ育ててやってください』

「ッてか、かわいそーとか言うなら捨ててやるなよなぁ」
 横島はそうため息を吐きつつ、ダンボールの前にかがみこんだ。
 犬は尻尾を激しく振りまくり、ダンボールの箱から今にも飛び出していこうとしていた。尻尾に当ったダンボールはべしべしと激しい音を立てていたが、まぁご愛嬌といったところ。
 まぁ、小さな子犬なんだから、当然横島は抱き上げてなでてあげたくもなる。これが大きくなった犬ならそんなにそばに行って抱き上げるなんてあまりしないだろうが・・・
 というわけで、彼はよしよしとか何とか言いながら、その子犬を抱き上げてなでてやった。
 ・・・が、抱き上げたときにちらりと目に入った光景・・・それは規定ぎりぎりの線を刻み込もうとする針の姿・・・
 即ち・・・
「やべぇ、バイトに遅刻してしまう!!」
 とか何とか叫び、猛ダッシュで走る横島の後姿・・・彼の腕の中にはいまだ子犬が納まっていた。

 ・・・なぜか・・・このときはまだ彼は知る由もなかった・・・

 この話はその翌日に語られることになる・・・




 白い混濁と淡い気持ち




「先生―。散歩にいくでござる」
 例によって例になく、むちゃくちゃに体から元気だぜ!!を取り出したような声が響いてきた。いつも横島はこの愛弟子の第一声により覚醒をするのだが、今日に限ってそれは裏切られることになる。
「シロ・・・か、今日はまぁ、早いほうかな・・・まぁいいけど」
 横島は汚い部屋に、無造作に置かれた目覚まし時計を目で確認しながら、愛弟子の姿を思い浮かべた。
 どうせ今日も無駄に元気で無性に元気で無闇に元気なのだろう・・・いつものことである。
 ・・・で、すぐにドアがノック・・・はされることもなく、勝手に開く。
「お早うでござる!先生、散歩に行きましょう!!」
 まぁ、予想通り出てきたのはシロという名の少女である。
「あぁ、悪い。もう行ってきた」
 横島は軽い調子でそういうと、狭い部屋をさらに狭くしている要因であるものの中に、水入れを入れた。
「・・・申し訳ございませぬ、先生・・・拙者少し耳が悪くなったようで・・・」
 シロは集中したような顔で、そう聞き返してきた。
「だから、もう行ってきたんだって。お前が来るちょっと前に」
「なっ!!」
 シロは世界がまるで変転でもしたかのような瞳で横島を見つめ、驚愕を極めたかのような表情を作る。
「そ・・・そんな。先生が拙者が来る前に起きているだなんて・・・」
「そこまで驚くほどぢゃあねーだろ!!」
 横島は後頭部をぽりぽりとかくと、居心地の悪そうにシロを見つめる。
「まぁ、ちょっと理由があってだな、朝早くに起きんといけなくなったのだ」
「そ、それは修行の一環でござるか!
 先程とは一変、感動したような表情を作ったシロは、目をきらきらさせながら声を上げた。
「ま・・・まぁな」
 横島がなんとなくどもってそう言ったときに、先ほど彼がどこぞかに入れた水入れがかちゃかちゃと音を立て始めた。
 2人の視線がある一点に集中する。
 
 狭い部屋をさらに狭くしている要因・・・それは四角い紙にも似ている素材で、大きさはまぁ50センチほどの立方体。茶色い素材からなり世間一般ではダンボールという呼称がされていた。というかそうとしか言わない。
 音はそこからなり、カチャカチャという音と共にピチャピチャという音も一緒に聞こえる。
「え〜と・・・なんだ」
 横島は鼻の頭をぽりぽりとかきながら、後ろめたさのような気持ちでつぶやいた。
「最近雨漏りが激しくって・・・」
 そういいながら、横島は窓の外を眺め見る・・・いい天気だぁ。お日様が自然光を無駄に撒き散らしているぞ。
「先生・・・?そういえばさっきのカチャカチャって音は・・・?」
「ああ〜・・・ぁぁ」
 横島はもーどーしたらいいのかわからないような気持ちで頭をかきむしり、しょうがなしに答えた。やけくそって奴である。
「昨日な、捨てられていた子犬がいたんだよ。でもそういうのってなんか人間の不都合で捨てられてるわけだろ?だからまぁ・・・拾ってきて・・・」
 言いながら横島はその段ボール箱から小さな子犬を取り出してシロに見せた。

 ・・・とたん・・・

「先生は、先生は拙者というものがありながら他の女子(おなご)へといってしまうのですかぁ!!」
「なんのはなしをしとる!!」
 悲しそうに瞳を潤ませたシロを一括すると、横島はまぁやっぱり後悔に似たような気持ちにかられた。
 といっても怒鳴ったことにたいしてではないが・・・
(やっぱりこうなっちまうんだよなぁ、だからあんまり見せたくはないんだよな。ッていうかなんでシロの奴一目で雌って・・・まぁいいか)
 ふぅ、と横島は一息ついてからまっすぐにシロを見つめた。
(そういえばシロってどこかしら焼きもち焼きなんだよなぁ・・・タマモが来た時だって結構修羅の世界へ行ってたのになぁ、これで子犬なんて見せちまったもんだからひどいことになりかねないかもな・・・)
「まぁ、そういうわけで散歩にはいけそうもないってことで・・・」
(いや違うだろ俺!ここは穏便に済ますために散歩に付き合ってやれって!!)
「というわけだから、じゃぁな――」
(だからなんなんだこれは?違うっつうに!!)
 
 バタン・・・

 ヒュ〜〜ゥゥゥ――

 とかまぁ、どこぞの音楽隊が歌ってでもいそうな(ドナドナ?)雰囲気をかもし出している愛弟子を、半ば強制的に部屋から閉め出した横島は、頭を掻き毟った。
「ああぁ!!なんだなんだなんださっきの俺は!!別に浮気現場を恋人に見られた訳でねーんだぞ!(ッていうかそういう目にもあうことはねーし)大家に内緒で持ってきた子犬を勤め先が同じっつうだけの弟子に見られただけだろ。いや、まぁ女であることにゃ変わりはないけど、きれーなネーちゃんを部屋に連れてきたわけでもないし!!いつから俺はこんな風になったんだ!」
 まぁ、狼であるシロの前に子犬(しかも女の子よ、これ)を見せてしまったのは確かに背徳感にも似たような感覚はあったことはあった・・・が、こんな意味の判らない突飛な行動に走る意味がまったくわからない。われながらある意味すごい奴だ。
「・・・まぁ、なんにしても、美神さんのところへ行ったら謝っといてやらねーとな・・・」
 ばつの悪そうに頭を抱えると、横島はそうつぶやいた。




「あれは絶対に怪しいでござる!!」
 憤懣といった表情で激しく声を荒げるのは当然シロである。
「でも、横島さんだって見られたくないこともあるんじゃ・・・」
 苦笑いのような表情で横島の弁解をするのは、当然おキヌ。
「だからといって無下に追い出したのはちょっとおかしいんじゃないの?」
 半眼になって突っ込むのはタマモである。

 ここはレンガ造りを基本とし・・・まぁ、要するに美神の事務所内である。
 所長である美神は朝に弱いらしいので、彼女が起きてくるまではこの三人は世間話好きな近所のおばさんよろしくに談話(?)を行っているのが日課だ。とはいっても、タマモも朝が弱いらしく、いつもこの時間に談話に参加しているかどうかは具合にもよる。
 この朝日がさんさんとしている時にやることがそうそうない、悲しいかな、特にこのシロという名の少女はベッドで横になって目をつぶり深く瞳を閉じることのありがたさを、まだよく知ることのできない年齢なのであろう・・・
 まぁ、それはどうでもいいが。

「そうでござる!絶対におかしい。きっと先生はあの犬に騙されているに違いないに決まっておるでござるよ」
「それはいくらなんでも・・・」
「ッていうか、普通の犬が人間の言葉をしゃべれるわけないでしょ。バカ犬」
「なんだと!!」
 何時もの如く、何時もの如し。シロとタマモはきつい目をして牙を光らせあう。
 そこに慌てたような感じでおキヌがまーまーとか言いながらなだめすかす。これがこの三人、というか事務所の定型になっていた。
 
 そんな中のことである。

 話題の中心人物が「おはよーございますー」とかのんきな声を上げて入ってきたのは。


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