ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(7)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/27)

さっきまでいつもと変わらぬ静けさを見せていたセンター内全域パネルは今や、夥しい量の異常を示す表示―赤・黄色の光、文字列、警告表示―に至る所を食い荒らされていた。
断続的に流れるサイレンの電子音。モニターのある部屋はどこもそうなのだろう。

白い衣を着た男が忌々しげにその画面を眺めていた。
男は人間で言えば40代後半から50代くらい、ずんぐりとしたやや筋肉質の体型だが、Jナンバー職員と比べるまでもなくセンター内の職員の中では最も人間に近い外見だと言えるだろう。
・・・バーコード頭の上に浮かぶ蛍光灯のような輪と、窮屈そうに折り畳まれた背中の白い羽根を除けば。
男が手元のキーを叩くとパネル画面に重なるようにしてルシオラとメドーサの顔写真・プロフィールデータが表示された。
加えて「現・所在地確認不能、連絡不能」との表示。

「ちっ・・・若い娘の姿をしてても所詮は悪魔どもだ。だから、こんな奴等は『消えない炎』で永遠に焼却してやるべきだというんだ。
・・・・何が輪廻庁だ。何がデタントだ。ここも結局、わが父の栄光及ばぬ邪法の地・・・。」

センター内では数少ない神族からの出向組である彼は吐き捨てるように呟いた。
彼は元々、最高指導者(通称「キーやん」)直属で最終戦争に備えて編成された「神の軍勢」の出身だった。
神界と魔界とのデタント化により「神の軍勢」の大幅な縮小・人員整理が行なわれ、彼はセンターへの出向を命じられたのだ。

「ラミエル課長、J−0392Cさんから2番でお電話です。」

後ろで書類の山を片付けていたJナンバー職員に声をかけられ、彼―ラミエルは自分の机の電話を取り、部下との回線を繋いだ。



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「間一髪でダッシュして伏せましたからね。あちこち擦り傷作ったけど、どうって事ありませんよ。」

J−0393Cは、てっきり自分が重傷を負ったか死んだかで運ばれて行ったと思い込んでいた上司に、無事を告げた。

「うちらJナンバーは、丈夫さだけが取り柄ですからね。ハハハ。
ところで、メドーサさんですがね、あの作業エリアの穴から見て、恐らくEブロックの結界で足止めされてますよ。所定のゲートを私同伴でないと通過出来ませんからね。これからちょっと拾ってきます。
え?・・・まぁた課長、そういう差別発言をするー。この間も皆と約束したじゃないですか。『これからは人間や妖怪を見下したり魔族を敵視したりしないようにする。』って。
そりゃあ暴れてもの壊してるっていうのもありますけどね、この件自体、誰が一番悪い・責任があるかって言われれば、確実にうちらなんですよ?その次で、あの・・もう一人の・・そう、ルシオラさんで、メドーサさんは正式な手続き取って、優先権もあり、何もしていない所をいきなり襲われただけで何も悪くないんです。
ここは私がセンター職員としてその責任を果たし、彼女を送ってやることで職責を全うするべきだと思います。
で、今回ルシオラさんには涙を呑んでもらう。これで筋が通るんですよ。」

さすが軍人上がり、「責任を果たす」とか「筋を通す」とかの言葉に弱いぜ。・・・「俺が片付ける」って熱血っぽい態度も効いたかな。
はっきり言って考えが合わない、どちらかと言えば嫌いだ―J−0392Cはこの比較的新顔の融通利かない上司にそんな感想を抱いていた。
しかし、気に入らないやつとでもうまくやる。それが彼のやり方だ。
ラミエルのような体育会系には下手に揉み手で取り入るよりも、彼好みの部下、多少反抗的でもいい、前向きでへこたれない、何事にもアグレッシヴ、そんなキャラクターを演じる方が効果的だ。

「大体“ここへ左遷された”って言う被害者意識が強いんだよな。・・・マジであいつ過激派のスリーパーじゃねえのか?」

電話を切るなりJ−0392Cはそう毒づいた。「神の軍勢」をリストラされ、他の場所でデタントへの同調を余儀なくされた者の中には、それに反発して過激派組織に身を投じる者が少なくない・・と言う噂を聞いた事がある。

「まあ、もしそうならそうで・・・面白いけどな。」

まずは目先の刺激に飛び付こう。メドーサについて行き作業エリア奥まで進めば、もっと面白いものが見られる。
彼はそう期待していた。
通路外移動装置―蓮の花の台座の形をしていた―に乗って現場に来ていたJナンバー職員の一人を呼び止める。

「ちょっと、それ貸してくれ!作業エリアへ急行したいんだ!」



+ + + + + +



コール半分でJ−2251Aは電話を取った。申請部による書類ミスの可能性があるとして調査を請求してから10分程経っていた。

「・・・・申し訳ありませんでした。あなたの言う通り、第4次希望先申請者リストを会議へ提出する際、お二人の書類に希望先重複を特記するのを忘れたのがそもそもの始まりであるようです。以降、第5次、第6次と突起しないまま提出が行なわれ、会議部の判断もそれに基いて・・・」

「分かりました。・・・それで、収拾案についてはどうなっていますか?」

「え?」

「新しい手配案ですよ。作業エリア内にだって二重三重に結界が張ってあるんだから間もなく二人ともセキュリティに拘束されますよ。
その後、従来通りの処置って訳には行かないでしょう。・・・あの二人で「話し合い」なんて出来ませんよ?
前代未聞ですよ。愛情が動機の方と殺意が動機の方とでダブルブッキングするなんて・・・。」

J−2251Aは救出された後、ダメージケアもそこそこに壊れていない通路を辿って申請・審査エリアへの直通通路に乗っていた。
申請・審査エリアは作業エリアの真下、人間の距離感覚で10キロメートル程の所にある。縦にどこまでも伸びた通路を高速で下りながら彼は、焦燥を隠せない声で通話していた。

「・・だから、分かってますよ!申請部だけで決められないなんて事は。でもね、通常の会議では数ヶ月かかっちゃうでしょう?
そんなのんびりしてられないんですよ。拘束してから決めればいいと思ってるんでしょうけどね・・収拾案なしで騒ぎだけ収めようとすれば、大変な事になりかねないんです。
会議部部長に今すぐ、そちらからこの件を連絡して下さい。その上で私に電話するように・・・」

『だから、どう、大変なんですか!?』

彼は中空を見上げた。頭上に浮かぶ作業エリアの円筒。そこに開いた二つの穴に向かって憤怒の表情を浮かべた甲冑姿の群れが接近しているのが見えた。

「畜生・・・セキュリティの連中、早過ぎる・・。急がないと・・・。」

激情に駆られ、あるいは追い詰められたルシオラが転送用機器を破壊したり巻き添えで誰かを死なせたりしてしまう。
彼はそのことを恐れていた。何よりも、それは彼女にとっての悲劇だ。

「ハハッ、善悪は等価だ。・・愛と憎悪も等価だ・・。それがセンターのルールだし、私もそれに賛成している・・・。
だが、何の為にJナンバーが、“私”がここの業務についてると思ってるんだ・・!?」

誰一人絶望させない。皆「救う」。一人残さず・・ルシオラも、騒ぎに巻き込まれたほかの転生者たちも、そしてメドーサも。
彼は、分離してから数千年の間に忘れ去られる事の多かったJナンバー職員の本分―“本能”と言い換えてもいい程のコアな意識―に極めて忠実な個体だった。



+ + + + + +



「・・・・ぐうっ!?・・・やっぱりダメか・・・。」

そこは2〜3人がすれ違える程の狭い廊下で、ドアがどこにもなく果てしなく伸びている点を除けば、大きなビルや施設にあるような白い、小奇麗な場所だった。
各所に埋め込まれた赤ランプが点滅し、断続的な電子音が鳴り響いている。
メドーサはその廊下のある地点から前へ進めずにいた。
超加速を使っての体当たり・二股槍での突き。黄緑色の光の膜が現れ、彼女を遮る。

<転生者NO.422510835957 メドーサ 案内担当者不在 当ゲート通過予定なし 認証不可>

跳ね返されるメドーサ。

(落ち着け・・・かなり強力な結界だ。さっきぶつかったのと同じくらい、いや、それ以上かもね。
・・・奴と離れたのは失敗だった。今から戻って奴を探し合流するか
・・あたしはここでのルール違反は何もしていないんだから捕まったりもしない
・・いや、あの小娘とカチ合う危険がある・・小娘・・ルシオラはどう片付けるべきか・・・)

「やあ、いたいた。意外と分かりやすい所にいるね、あんたも。」

背後から声を掛けられ、メドーサは振り返らないままJ−0392Cに問いかけた。

「お前は、転生者を案内しに来たのかい?・・それとも、暴徒を鎮圧しに来たのかい?」

「もちろん前者だ。あんたは被害者って事になってるからな。そのゲートは俺同伴でも開かないし、第一、予定の転送ルームへの道じゃない。一緒に来な。所定のゲートから入るぞ。」

「被害者・・ねえ・・・。」

メドーサの口元が少し歪んだ。前世で、様々な悪を行なってきた、常に「加害者」であり続けた彼女が、ここでは「被害者」なのだ。


そう言えば、人間どものように、「被害者」や「正義の第三者」ぶって誰かを苦しめる悪事ってのだけは、
まだやったことがなかったねえ・・・見えてきたよ、無駄な危険を犯さずあいつを始末する方法が・・・。


口元の歪みは顔中に広がり、笑みとなって行く。
Jナンバー職員が常に浮かべているのとは正反対の種類の笑みである事は言うまでもない。
振り返った彼女の顔を見たJ−0392Cは一瞬背筋を凍らせながらも、更に期待感を昂らせていた。


(続く)

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何だかJ−2251Aの言ってる事がアッパーズの短編と対になってるような・・狙ってはいないんですが。

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