ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ危機一髪!(上)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/10/19)

 タンタンタンタン

 人影もほとんどない夜のビル街に、甲高い足音が響き渡る。
 ショートカットした黒髪をなびかせながら、一人の若い女性が路地裏を足早に駆けていた。

「振りきったかしら?」

 路地を幾つか駆けぬいたところで、その女性は後ろを振り返った。
 振り向いたその先には、人影は見えない。しかし──

「ハハハ! まだまだ甘い!」

 女性はすかさず右サイドに跳躍した。
 次の瞬間、大きな風切り音とともに巨大な剣がコンクリートの地面に突き刺さった。

「おぬしの命はワシがもらい受けるぞ、ルシオラ!」




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 ルシオラ危機一髪!         Presented by 湖畔のスナフキン

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 その日も特に変わった出来事はなかった。
 いつものように事務所に出勤し、夕方まで事務仕事をしたあと、予約してあった除霊の現場へと向かった。
 そして夜半近くまでかかったが無事に除霊を終えて帰宅する途中に、ルシオラはそいつと出会ったのである。

「おぬしがルシオラだな?」

 帰宅する途中のルシオラに、中国風の鎧兜を身につけた男が話しかけてきた。
 身長は二メートルほど。がっしりとした体格をしている。
 右手に大きな剣をもち、左手には金属製の円い盾をかまえていた。

「誰!? いったい神族が私に何の用なの?」

 目の前の男からは巨大な霊力が感じられた。また霊波の質からすると、人間とも魔族とも思えない。

「俺の名は、黒麒鉾(こくきほう)。目的は言うまでもない。そなたの命だ!」

 黒麒鉾と名乗った男は、手にした剣をかまえるとルシオラ目掛けて突き出した。
 ルシオラは体を捻って、その攻撃をかわす。

「いったい何なの! 私はあなたの怨みを買った覚えはないわ!」
「仕返しなどではない。もっと崇高な理由だ。人間界を侵食する魔族どもを根こそぎ退治するのが、俺の役目よ!」

 魔族の中に神族との共存をよしとしない武闘派がいるように、神族の中にも魔族の排除を主張する過激派がいる。
 黒麒鉾はそういう神族過激派の中でも、もっとも過激な行動をとるグループに属していた。

「ハッ!」

 黒麒鉾は離れた位置から、勢いよく剣を振り下ろした。
 振り下ろした剣から衝撃波が発生し、ルシオラめがけて襲いかかる。

「シールド!」

 ルシオラは左手を前に出すと、円形の力場を発生させて衝撃波を防いだ。

「やるな。だがまだ甘い!」

 黒麒鉾は巨体に似合わず敏捷な動きでルシオラとの距離を詰めると、シールドめがけて剣を突き刺した。

 パリン!

 音をたてて、シールドが砕けてしまう。

「とどめだ!」

 黒麒鉾は剣を振りかぶると、ルシオラめがけて振り下ろした。
 だがその一撃にはまったく手応えがなく、勢い余った剣が地面に突き刺さってしまう。
 そして切られたはずのルシオラは、黒麒鉾の目の前でかき消すように消えてしまった。

「ちっ、幻術か。だが俺の狩りからは、そうやすやすとは逃げられんぞ!」




 ルシオラはいったん逃げることにした。
 一度は幻術に騙されたようだが、そう何度も引っかかるとは思えない。
 相手を完全に巻いた後、デタント派の小竜姫に連絡して対策を検討しようとルシオラは考えた。

 相手に気配を察知されないよう、霊力を抑えながら夜更けのビル街を走りぬける。
 複雑な路地裏の通りを幾つも曲がりながら、相手を振りきろうとした。

 幾つかの通りを駆けぬけ、背後から相手の気配が感じられなくなった時、ルシオラはようやく安堵して足を止めた。

 しかし相手のしつこさは、ルシオラの予測を越えていた。
 先回りしていた黒麒鉾は、ルシオラめがけて剣を投げつけた。
 ギリギリのタイミングでその剣をかわしたが、ルシオラは自分が逃げ道を塞がれたことに気づく。

「俺の追跡から逃げ延びられたヤツは、そう多くはない。覚悟するんだな」

 生き延びるには、目の前の相手と闘うしかない。ルシオラは黒麒鉾めがけて、霊波砲を連射した。
 だがルシオラの攻撃は、黒麒鉾の盾でさえぎられてしまう。

「俺の盾は、神族の鍛冶師が何十年もかけて鍛え上げた代物。これしきの攻撃ではビクともせんわ!」

 黒麒鉾はルシオラの攻撃を防ぐと、今度は自分が攻撃すべく突進した。
 ルシオラは相手の攻撃に合わせて、幻術を使った。
 黒麒鉾が幻の自分に気を取られている隙に、素早く相手の背後に回りこんだ。
 右手から発する電撃で首筋を狙い、相手を麻痺させようとする。しかし……

「そこだ!」

 黒麒鉾は左手の盾で、背後から接近するルシオラを弾き飛ばした。

「幻術を使ったところで、気配を消すことはできん! まぁ俺ほどの武人でなければ、悟れんだろうが」

 ルシオラはじりじりと後ろに下がった。
 繰り出す攻撃がすべて相手によって封じられ、打つ手がないように見える。

「どうした。もうこれでお終いか? かつてのアシュタロス直属の部下が、惨めなものだ」

 黒麒鉾は意地の悪い笑みを浮かべながら、ルシオラににじり寄った。

「いいえ、まだ終わりではないわ!」
「ほう。まだ打つ手があるのか。見せてもらおうではないか」
「後悔しないでね。これであなたも終わりよ」

 ルシオラは右手にもった二つの小さな玉を地面に投げつけ、大きな声で叫んだ。

「助けてーー! ヨコシマーーン!」








































「ハーッハッハッハ! 我こそは正義の宇宙人、ヨコシマンだあああっ!」

 謎の笑い声が、黒麒鉾の背後から聞こえてきた。
 黒麒鉾が振りかえると、口元をスカーフで覆い隠した、ランニングシャツと短パン姿の男が路上に立っていた。


(続く)

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