ザ・グレート・展開予測ショー

いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(8)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/29)

ルシオラが手を当てると黄緑色の光の膜が現われた。そこにケーブル端子を貼り付ける。端子は赤い光を放ちながら結界面に固定された。ケーブルのもう一方はモバイルマシンに接続されている。彼女が最初に排煙口から入った部屋に置いてあったものだった。
当ても無く天井裏をさ迷い、その部屋から廊下に出て、方向感覚を頼りに奥目指して進んでいた所をこの結界で遮られた。しばらく考えてから最初の部屋へ引き返し、マシンを取って再びここへ来た。
随分、時間を使った気がする。これから行う作業もきっと時間がかかる事だろう。

霊的テクノロジーによるコンピューターでの結界の制御、解除、及びシステム侵入などについてルシオラは一通りの知識を持っていた。神界のそれも魔界のそれも基本的に同じ物だった。ならばセンター内はどうか。

画面上に数字や見た事のない記号が並びスクロールして行く。数字の配列も今まで見たのとは異なる部分があるようだった。だが所詮は同じ機械言語の暗号、解けないものではないはず。ルシオラは画面を睨みながらキーボードを猛スピードで叩き始めた。

10数分後、画面に「解除」の文字表示。ルシオラはその文字を解読する事は出来なかったが、結界面が一瞬白く光って消えたのを見、手を伸ばし遮られないのを確かめ、自分の勝利を悟った。

「まだもう少し、やっておく事があるわね・・・。」

ルシオラは再びキー操作を開始した。
何度か画面が切り替わった後、転送作業エリア内パネルと現在地の表示、そしてメドーサの所在地。
メドーサは担当職員と共に転送ルームへ接近している。
ここから転送ルームへは最短通路でもあと二回、結界を通過しなければならない。

もう一度、キーを叩く。ルシオラとメドーサの顔写真・データが表示される。
何となく、ルシオラだけがエリア内進入者としてセキュリティの捜索を受けているらしい事や、今のアクセスで自分の居場所が向こうにバレたらしい事などが分かった。
非常装置を操作して一時的にでもメドーサ達を足止めする事を考えたが、その時間はなさそうだ。セキュリティらしきものを示す光点が複数、ここへ接近している。
ルシオラは端子を結界から外すと、モバイルマシンを抱えて走り出した。



+ + + + + +



パネルの記憶通りに、白い殺風景な廊下を何度も曲がりながら走るルシオラ。

途中でもう一度、結界を同じ手段で通過した。その際にセキュリティとの距離はかなり詰まって来た様だった。
メドーサ達と転送ルームとの距離も気になる。
ルシオラは立ち止まって手をかざす。黄緑色の光。最後の結界だ。
転送ルームまでも後2・300メートル程だろう。
廊下の幅も10メートル前後くらいにまで広がり、案内職員を同伴した転生者の姿もちらほらと見られる。彼らは外の騒ぎを知らないか、知っていてもあまり関心はないのかもしれない。モバイルマシンを脇に抱えて走るルシオラの姿を見咎める者はいなかった。

結界が解除された。続けて作業エリア内パネルを見る。
メドーサ達は転送ルームの前まで辿り着いていた。

「しまった・・・!」

非常装置システムにアクセスして、転送ルームの入場経路、ルーム内の作業そのものを一時的にストップさせよう。
ルシオラがそう考えたとき、自分のいる所へもセキュリティがすぐそこまで迫っているのを発見した。

「!!」

前と後ろから挟み撃ちにするように接近している。逃げても戦っても致命的なタイムロスとなるのは確実だ。
彼女の耳にも複数の足音が聞こえてきた。
かなりの巨体である事がうかがえる、ずしん・・ずしん・・という重い響き。その合間に聞こえる気を込めた掛け声の応酬。

「阿!」「吽!」  「阿!」「吽!」

ルシオラは周囲を見まわした。何か方法はないか。何か・・使えるものは・・ないか。
彼女は結界部分向こう側にドアがあるのを見て、そこへ駆け寄り、室内へ入っていった。

その部屋は職員達の休憩室・遊具置場となっている所らしく、大き目のソファーとガラステーブル、壁際にテレビやビデオデッキ・ゲーム機、その他食器棚や本棚、遊具入れなどがあった。ルシオラはそれらに視線を走らせる。

「あっ、本棚・・『GS美神 極楽大作戦!!』全巻揃ってるわ・・ちょっと何よ!30巻から33巻までが無いじゃない!?そこ以外全部よりも大事な所なのに!!・・・そうじゃなくて・・・え?・・あった!」

彼女は「あるもの」に視線を留めると、それを両手に取った。



+ + + + + +



ずしん・・・ ずしん・・・
「阿!」「吽!」  「阿!」「吽!」

センター内セキュリティは二人一組でルシオラの居場所を探していた。
身長が3メートル近くある巨体に憤怒の表情、片腕を突き出しながら踏み込む様にして歩く。
一歩進むごとに上げる掛け声は、そのペアのタイミングを合わせていた。

「次の角を曲がった所に目標あり。阿!」

「注意を払って行動し、速やかに取り押さえる。吽!」

「足音がぶれているぞ、歩調を合わせろ。阿!」

「そんな事はない・・・・他の足音があるぞ。吽!」


ずぅぅぅん・・・・ずぅぅぅん・・・・ずぅぅぅん・・・


二人は歩みを止めた。
反対側からの仲間の足音か・・・違う。もっと、大きくて、重いものが歩く音だ。

ずずぅぅぅぅん・・・ずどぉぉぅん・・・・・

複数聞こえる。角の向こう側から影が差した。形ははっきりしないが、山のような・・・。

「あ・・・・?」  「うん・・・・?」

それは姿を現わした。
長く伸びた首、その先にあるレンズの一つ目と深く裂けた顎、首の付け根には棘だらけの岩山の様な甲羅、床を踏みしめる石柱のような四肢。
甲羅の頂は5メートル程の高さがあり、その全身から濃密な霊気を放っている。

それ―「魔獣キャメラン」は、咆哮した。


「ンギョギョギョギョエ―――ッ!!!」


「あぎゃぁぁぁっ!!」  「うんぎゃぁぁぁっ!!」

口から光線を吐きながら突進して来るキャメランに、セキュリティの二人は悲鳴を上げながら逆方向へと逃げ出した。いつの間にか2匹に増えていたキャメランは、そのまま二人を追いかける。

「ンギョギョエー!!」  「ゴガァァアー!!」
「あぎゃぁぁぁ!!」  「うんぎゃぁぁぁ!!」

反対側でも同じ様な事態となっていた。
ドアの前で左右を見渡すルシオラは、両手に4匹の亀が入っていた水槽を持ち、「予備」として野球のボールを3個、脇に抱えていた。何に使うつもりだったのかは言うまでもない。
一度にキャメランを4匹も作ったので、ルシオラは目眩を伴う疲れを感じたが、休んでいる暇はない。
結界と接続したモバイルマシンの所へ戻った。


(続く)
――――――――
キャメランの二三匹で逃げてしまうような連中が、どうやってルシオラを取り押さえる
つもりだったのかは書いてる自分にも分かりませんが・・・。

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