白い混濁と淡い気持ち9
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/11/ 6)
「はい、はい、よろしくお願いします・・・はい、じゃぁ・・・」
ガチャン―――
電話を切る音が響いて、それによってタマモと横島は目を開いた。
「お・・・おはよう」
横島がとこかたどたどしくそういう。
「何言ってるの、今はこんにちはでしょ」
そう言いながら二人は外を見て・・・
「こんばんは」
同時にそういった。
ここは応接間だ。いつもの如く、いつもの様に・・・
出入り口にはおキヌが立っていて、起きた2人に気がついて笑いながら駆け寄ってくる。
「やっとおきたんですか、もうあたし心配で心配で・・・・・・」
訊く処によると、2人はずっと気を失ったまますでに夜の8時を回っていたらしい。
特に横島にいたっては、怪我してろくに治りきっていないところに動いたもんだから、開いた傷口を治すために再びヒーリングやらなんやらで忙しかったらしい。
「だったら病院連れて行ってくれよなぁ」
ぼりぼりと頭をかきながら、横島はそう呟いた。
それを言うのであるのならば、怪我したところにあんな無茶な行動をさせた子犬もそうなのだが、これはむしろ子供なのだから仕方あるまい・・・なかなか賢い子だったが・・・・・・
・・・ん?子犬?
と、横島は重大なことに気がついたかのようにおキヌを見上げた。
「そういえばあの子犬はどうなったの!!」
「それは・・・」
おキヌはどうしようかといったような顔で、横島の顔を見つめる。
横島の記憶が確かであるのならば、文殊は子犬へと吸い込まれるように進んでいき・・・
横島はタマモへと顔を向けた。しかしタマモはわからないとでも言うかのように肩をすくめただけであった。
「・・・・・・くそ。結局、何もできなかったって言うのか?」
ごん!と強くこぶしを壁へと叩きつけて横島は唸った。結局、自分は何もできなかった。あの時と同じだ・・・
なにがGSだ!!なにが霊能力なんだ?うわべだけの気持ちに踊らされて、結局は何もできないで・・・
・・・・・・ほんの小さな命ですら守れねぇんじゃねーかよ・・・
「なにをやってんのよ!バカ横島!!」
不意にそう聞こえたかと思うと、パン!と横島の頭は叩かれ、彼は床に転がった。
「〜〜〜〜〜〜!!」
シリアスで悩んでいたところで叩かれたもんで、なんともいえない痛さに頭を抑えて呻くしかできない。
「だ〜れが死んだっていったの?この後の処置が難しいから答えることができなかっただけじゃない」
そう笑いながら言ってきたのは、当然美神である。彼女は先ほどまでオフィスで電話をしていた。が、横島が心配になったのであろう、すぐにこちらへと駆けつけてきたのだ。
それに気づけないのが横島の横島である所以とでも言えよう。
「子犬は生きているんですか!!」
横島はがばっと立ち上がり・・・だがいぶかしげな視線で美神を見つめる。
「処置・・・?」
「ええ・・・ちょっとあの力は制御できるようなものじゃぁないからね」
美神はちょっと薄い笑みを浮かべた。大人の笑みとでも言うべきか・・・
「だから教会(唐巣)に引き取ってもらうことにしたの」
あそこには経験豊かな優しい神父様がいるわけだから、きっと何とかしてくれるであろう。そんな打算が見える。けして自分ぢゃどーしよーもないからめんどーごとは他人に任せちまおーとか言うわけではない。
「・・・よかったぁ・・・」
横島は安堵のような表情を浮かべ・・・ようとしてできない自分に気づいた。
その顔は見る見るうちに歪んでゆき、終いには泣き顔になる。
「よかったぁ・・・あぁ・・・ぅあああぁぁ」
それを見たおキヌはかける言葉を失い、美神はしょうがないなぁとでもいいたげな顔になる。
「今は泣きなさい。でもそのうちあんたには泣けなくなるときがきっと来る・・・だから、そのときまでは泣いておきなさい・・・」
いつに泣く優しい調子で、美神はそっと横島の肩をさするのであった。
それをタマモは遠くからじっと見つめて、己から流れるしずくにいまさらに気づくのであった。
「・・・ちょっと、今回は私らしくなかったかな・・・?」
感情的になる自分を不思議に思いつつ、どこか心地よさように彼女は3人を見つめ続けるのであった。
(そりゃ、どうしようもないときもあるけど・・・結構悪い気もしないものよ)
何に対してもなく、また誰にたいしてもなく、彼女はそう思いながら、虚空を眺めていた・・・
眩いばかりの日の光があたりを照らし、レンガを基調としたこの事務所にも希望という名の光が差し込んでいた・・・
「ふむ・・・霊力の流出は抑えてあるみたいだけど・・・いずれ破られるだろうね・・・」
籠に入った子犬を見詰めながら、眼鏡をかけた伊達男、唐巣はそう推理した。やや薄くなりつつある頭が心配の種の一つである。
彼の見詰めている子犬には一枚の札がまかれており、この札の効果によって子犬の能力はかろうじて防がれていた。
・・・あくまで辛うじてだが・・・
「霊魂の侵入を防ぐ『結界符』を応用して使うだなんて大したアイディアだよ」
唐巣は笑いながら美神を振り向いた。美神はにっこりと笑いながら「まぁね」と鼻を上げる。
唐巣はそのまま視線をずらしてゆき、美神の隣に突っ立っている横島で止まる。
彼はどこか儚げにその口を開いた・・・
「今回は辛かったろうね・・・こんなことがないようにきちんとこの子犬の力は封印する」
唐巣は力づける・・・にはやや遠い声色で、拳を握り締めた。
そんな唐巣を横島はただ黙って見詰めていたが、だがどこかしら思いつめたように、彼は顔を上げた。
「いえ、ただこの子犬に前みたいな気持ちが起こらないのが・・・悲しくて・・・」
横島はそうつぶやいた・・・
それは精神感応を受けていたからだ。己を大事にしてもらいたい・・・たったそれだけの我侭から起きた気持ち・・・ひょっとしたら、この子犬は死に場所をよりも生き場所を求めていたのだろう・・・
だが・・・いまさら横島にそんなことはどうでもいいのかもしれない。彼は何か大事なことをやろうとし、行動を起こした。例えそれが植えつけられたものであったのだとしても・・・
彼にとってこれが全て・・・
「俺は・・・俺は・・・」
横島はそういいながら、下をうつろに見詰めた。
そんな横島の頭を、唐巣はポンと軽く叩いた。
「君がこの子犬を愛しいと思えないことに気を病んでいるのならば、それはこの子犬のことを十分に意識しているからじゃないのかな・・・だったらこれからは愛しく思えるように努力することができる。故意に与えられたものではなくね・・・これは神に与えられたチャンスだと思えばいいんじゃないかな?」
唐巣はうつろな横島を諭すでなく、言い聞かすでもなく、どうかといわれればまるで一つの詩を歌うかのようにそういった。一種の落ち着きとでも言おうか・・・
唐巣は『大人』なのかもしれない・・・過去いろいろな経験をしたからこそ言える言葉・・・
「俺に・・・俺なんかにそんなことが・・・」
それでも横島はなお弱弱しく、うつろな台詞を紡ぎ・・・
「ちがう!!」
横島の頼りなげな台詞を、不意に脇からタマモは遮った。皆が一様にタマモの方へと振り返る。当のタマモは自分でも信じられないような表情をしていた。
・・・だが、驚きの表情はすぐに確信の表情へと色を変え、タマモはその瞳に強い輝きを放った。
「『横島だから』よ・・・きっとこの子犬も横島だから一緒にいたいんじゃない?」
タマモは籠に入っていた子犬を抱き上げ、横島に見せ付けるようにする。それはあたかも聖母の様であった。
その脇からシロがタマモに同意する。
「そうでござる!!先生だから拙者はついていくと決心したのでござる!!」
彼女は強く拳を握っていた。シロにいたってはどちらかと言えば、(推しかけ)弟子であり、(無理やり)ついて行く、というだけだが・・・
彼女たちをまとめるように、再び唐巣が口を開いた。
「これから君がどうこの子犬に接していくのかはわからない。それは君しだいなのだからね。でも君は今回の件に関してなんら病む必要はない。もしどうしょうもなく後悔している様ならば、これからその分この子犬に愛をそそいでやればいい。それがこの子の為でもあるし、君の・・・みんなの為でもあるんじゃないかい」
そうなのだろう・・・結局、これからどうなるかは自分次第・・・この子犬の命が失われたわけではない。それならこれからこの子犬を本当の意味で救ってやる事だって出来る筈だ。もし横島が己の不甲斐無さを気にしているのであるのならば、その分この子犬を救ってやればいいだけだ・・・
「みんな、横島さんのことを応援しているんですよ。もちろん私もですけど」
おキヌが横島の正面で笑った。
きっとそうだろう・・・だからみんなして横島を元気付けようと振舞ってくれる。みんながいなければきっとこの事件も最悪の結果で解決を迎えることになるし、今こうして慰めてくれることもない。
みんながみんな言うことを聞いても、肝心なのは己自身なのだ。いかにして皆との繋がりを感じとれるのか・・・人は一人では生きては行けない、みんなが言うとおりに動いてれば結局は一人でいるのとそう変わりはない・・・
横島はウン、と一つ頷き、にっこりと笑顔を作る。
「ありがとう・・・なんか慰められたみたいで。そっすね、俺がこの子犬を救えなかったって言うのなら、これから救ってやれればいいんですから・・・まだまだ時間はいっぱいありますし。これをチャンスだと思うことにしておきます」
そういいながら、横島は虚空を見上げた。
今までの
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