白い混濁と淡い気持ち4
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/30)
何かが、長い長い廊下をひたひたと歩いてくる。
手には光るものが一つ・・・二つ・・・三つ・・・数種にわたるその光り輝くものの名は・・・メス。
光を引き裂きしその切っ先は、今宵も獲物を求めてただひたすらに突き進む。
「きゃん!きゃん!」
子犬が激しく・・・ではなくか弱い泣き声をあげる。
まるで何かに脅えるように、あるいは何かを訴えるように。はたから聞いたらそんなところであったろう・・・
だがシロの耳にはこう聞こえていた。
『後ろから何かが来る!!』
その声を聞いたシロは、すぐさま刃を構えて振り向き・・・亡者の群れが接近していることを察した。そしてそのときにはすでに・・・横島が亡者の群れの数体を叩き斬っている光景が瞳に飛び込んできた。
「せ、先生!!」
腕から飛び出したその光る光刃を、純粋な破壊の権化へと転化させて振るう。
振るったその軌跡から圧力が死霊たちへと叩き込まれ、消え去り、あるいは吹き飛ばされ、横島の実力の高さが容易に伺える。
シロの瞳は横島へと釘付けになっていた。なぜ自分よりも先に横島が霊たちの存在を知覚出来たか?そんな疑問などはもとより、すべからく頭から吹き飛ばして・・・
横島はなぜか霊たちの接近を知覚していた。不意に、頭の中に強烈にわきあがるイメージとでも言おうか・・・たとえばL2ボタンを押すだけでマップが表示されるどこぞのゲームのように、不意に図面的な内容で脳裏に霊たちの接近が浮かび上がった。そしてその後ろにいる大きな霊魂の存在も・・・
だから彼は右手に霊力を収束させて一気に死霊の群れに突っ込んでいった。
「どけぇぇぇぇ!!」
感情がおかしかった。まるで戦闘意欲が操作されたかのように。
別に戦いたいとか言うような気持ちが高ぶっているわけではない。もしそうなら変態だろ?
いうなれば気持ちがシャープになったとでも言うべきか・・・戦闘に関して最新型のナヴィゲーションをどこぞかで購入したかのように・・・
目の前の亡者が鉄棒のようなものを大きく振りかざし、振り下ろす前に横島はそいつの腕を袈裟に叩き斬る。
さらに腰だめに構えた裂迫の突きによって、大きく吹き飛ばし、さらに後方で構えていた亡者どもを纏めてなぎ倒す。倒れふした亡者どもを踏みしめ、大きく弧を描く斬撃により、ありとあらゆるものを滅し、空間を開かせた。
さらに立て続けに指の間から小さな球を作り出し、それを天へと向けるようにかざす。
直後、凄まじい光量。
横島はその光り輝く球を投げつけて、とたんに起きる凄まじい熱波。
熱波はありとあらゆるものを飲み込んでゆき、亡者たちを屠りさる。
「さ、さすがでござる!!何のかんの言いながらやっぱり先生は強いでござる!!尊敬しなおしたでござるよ!!」
横島の後ろから声を荒げてシロが飛び出してきた。その内容はちょっと失礼なような気もしたが・・・
「あ・・・あぁ、まぁ・・・・・・な」(なんか今の俺ちょっとおかしいぞ)
横島はどうも納得行かないような顔で自分の腕を見つめる。
どうも強い、自分が。まるで全神経のうちの5割ほどを戦闘意欲へと昇華されたような気持ちだ。それに霊力の集中も調子よい。いつぞやのとき織姫に誘惑されかけたが、あの時と大体同じくらい霊力の集中を行うことができる。いや、まぁあのときのほうがまだちょっと霊力の出力は高いが。
たとえるならば、ロバの目の前に釣り糸でつるされた人参をちらつかせるとずっと走り続けるというが、ちょうどそんな感じである。横島ならばパンツをぶら下げると「パンツーパンツー!!」とか言いながら1,2日は走り続けるだろう。
いや、まぁそれはどうでもいい。ようは今の横島は変だということだ。元から変か?だがそれ以上に変だということである。
(そうだよ、なんか変だよなぁ。煩悩がたまっているのか?いやいや、まさかシロ相手に煩悩がたまるだなんて・・・まさかまさか、まだ子供だぞあれは・・・でも前修行してやったときは・・・)
とか思いながら、横島はシロが『霊力の出力向上』と勘違いしてパンツをはこうとしたときの情景を思い出す。
「横島先生?」
不意に上目遣いでシロが横島の顔を覗き込む。
「わぁ!!ち、違うぞ、俺はシロに欲情だなんて!!違う!!やめろ!!上目遣いで俺を見るなー!!」
横島は慌てて両の手を振り、飛びのく。が、続くシロの声はその横島の意味のわからない内容を否定するものであった。
「違うでござる!!先生、まだ敵が!!」
霊たちの塊が、二人を襲ったのはその直後のことであった。
強烈な、大きく抗しがたいほどの漠然的な圧力。純粋な力のありよう。それらはひたすらにまっすぐと突き進み、横島とシロと、その先にある乳母車を包み込んだ。
「くっそ!!」
横島はとっさに乳母車から子犬を引っつかみ、身を覆うようにして子犬を守ってやる。
そこに来る圧力と激痛。横島たちの体は激しくぶれた。
「先生!!」
それを見たシロはどこか悲しそうに、寂しそうに、物足りなさそうに、だが激情を持って叫ぶ。
「文殊!!何でもいいから守ってくれ!!」
横島は霊たちに体を引きちぎられるようなそんな感覚すら感じる中、横島は防御に必要な念をとっさに編み上げる。
――『浄』――!!!
瞬間、彼らの体にまとわりついていた霊魂、あるいは物理的な圧迫感すら与えていた亡者たちはあっという間に霧散し、あるいは消し飛んでいった。
「先生・・・?」
シロはとっさに横島を見る。確か一番手ひどいダメージをおっていたはずだ。
あの子犬のせいで・・・シロは拳を握り締めた。自分がいながら何てざまだ・・・師匠を助けるのが弟子の務めではないのか?
「ああ、何とか生きてるよ」
横島はふらふらと立ち上がると、腕に抱える子犬の無事を確かめた。
子犬は元気そうに尻尾を振っていた。まるでこちらの意図を汲み取っているかのように横島の顔を見上げる。
「よかった・・・何とか生きてるな」
横島はほっと息を吐き・・・きっと正面を見据えた。
そこにはメスを携えた一人の男が立っていた。白衣を着こなした若いとすら言える医師。だがその眼(まなこ)は凶気ともいえる色によって染め上げられている。
そしてその周りを不規則に回る、青白い霊魂の集団。強力な霊に服従することによって、そのおこぼれでも貰おうと考えている低級霊の類だろう。先程の攻撃もこいつらがやったに違いない。
・・・だが・・・
(見ためはこえーけど、シロ一人でも何とかなるよな。俺は体痛くて動きたくないし。それにしてもこえーなぁ。シロは俺よりも格闘戦になれば強いから勝つよな。勝ってくれ、これは自分のためだけに思っているわけではないぞ!!ウン)
そんな打算的な考えの下、よこしまはシロへと向き、
「シロ、お前はあいつの除霊を行うんだ!これは修行だ!負けるなよ!!」
と格好よく檄を飛ばす。ウン、我ながらナイスな激励だ。
「わかりました!!」
シロも目つきを鋭く尖らせ、正面にいる死霊をにらみつけた。
シロは全身の筋肉をたわめ、来たるべき攻撃の一瞬に備える。
攻撃を行うのは一瞬でいい。無駄に動き回る必要はない。大型の肉食獣は獲物を捕らえるとき、獲物が逃げるかどうか、そのぎりぎりまで間合いを縮めていき、そして一気に駆け抜ける。
シロの攻撃もそれに付随し、攻撃の一瞬前までは無駄な動きは一切しない。駆れるときに狩る。たったそれだけだ・・・そして、狩終わった後には何も残さない・・・霊魂も、悪意も・・・
距離を詰めるシロ・・・シロの実力に気がついたのかなかなか接近してこない医者の霊。
2人は半ば膠着状態に入っていた。
1分、2分と、必要以上に時だけが刻まれてゆく。
だが・・・先に膠着を破ったのは医者の霊だ。
獲物(マッドドクターとでも言えばいいのか?)はジレンマにかられたのか、両の手にメスを握り締め、こちらへと向かってきた。
シロはにっと笑う。
硬直状態ではなるべく動かないで、自分の攻撃できる最大間合いまでもって行くのが定石だ。それができないで攻撃のモーションに入ることは、即ち己の手の内を見せること、さらには相手の手の内を見ないでカウンターを喰らう可能性がある。しかもシロにしてみれば自分の攻撃レンジまで移動しないでためていた筋肉を十分に発揮できうるという好機でもある。
「動いたら負けるという言葉を知らぬのか」
シロは地を大きく蹴り上げ、薄暗い廊下を一気に駆け巡る。
黒い、薄暗い闇の中を白い風が駆け巡った。風は数メートルある死霊との間合いを一気に詰めていき、その距離をゼロにする。
シロの腕が掻き消え、気がつくとその腕は天へと向かっていた。振り上げられたその腕は、行き場を求めるように獲物へと向かう。
それに対応して、宿主を守るべく、シロの進行を阻もうと動く人魂。
「じゃまでござる!!」
シロは霞む切っ先を激しく人魂へと叩きつけ、霧散させ、あるいは昇天させていく。その剣筋は間違っても達人とはいえないであろう、が、よく場数を踏んできたと思われる一種の煌きを放っていた。
剣撃の間断を縫うようにして、霊魂たちはシロの体を押しつぶそうと取り付く。取り付いてきたその霊魂を、続けざまの剣によって斬り飛ばし、あるいは引っつかんで投げ飛ばし、確実にその数を減らしてゆく。
だが、いかに周りにいる人魂の数を減らそうとも、肝心の医者の霊にダメージを叩き込まなくば意味などない・・・
医者の霊は先程振り上げっぱなしだった腕を、今こそ振り下ろしていた。
今までの
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