いつかする日―ザ・ダブルブッキング(2)
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/10/19)
「ヒシャクをくれー!!ヒシャクぅー!!」
「舟幽霊さん!落ちついて下さい!・・チッ、もういいや、必要確認事項読みますよ!いいですね!?
えっと、生前名が・・・」
「ケケケケ、ヒーシャークぅぅぅー!!」
「・・(ぷちっ)、うるせえ!!ヒシャクなんていう転生先はねえんだよ!!」
「もしもし・・・何ぃ?またコンプレックスの野郎が来やがっただと?一昨日送ったばかりだぞ!?人間界のGS、最近動き早すぎなんだよ!・・畜生、もうあいつの名古屋弁、聞きたくねえよ・・・・・よし分かった。上に掛け合って、今度こそ奴の転生先を『近畿剛一の息子』に変えてやる!
生まれながらのイケメンになって、ストーカーに追い回されたり、本当の意味ではモテなかったり・・って思いして来りゃ、奴の曲がりきった根性もちっとは叩き直せるだろうよ!」
「自分、何でこんなトコロにいるっスか?山が自分を呼んでるっス!!そこに山があるからっスよ!」
「あのねえ、ワンダーフォーゲルさん。あなたこれで四度目ですよ、『山の神準三級試験』落ちたの。ただでさえ長い修行が必要だというのにこんなに呑み込みの悪い奴は初めてだって、山の神連盟からクレームが来てるんです。やる気がない様だったら通常の霊魂に戻して転生させてしまってくれって言われてるんですよ。」
「何言ってんスか!エベレストも一歩からっスよ!!自分、街には生きられないっス!死んでも山っス!生まれ変わっても山男っス!!」
「だったら、もうちょっとねえ・・・」
薄紫色に光るチューブ上の通路を彼―転生センター職員―と彼女―ルシオラ―は浮かびながら移動していた。通路内に抵抗の少ない液体が充満していて、その中を泳いだり流されたりしている様な感じだ。
通路の壁から外の様子が見える。クリーム色の空間の中を紫色の通路が張り巡らされ、その合間に机や椅子が無数に浮かんでいる。その多くにてさっきまでの彼女達同様のやり取りが行なわれている。センター職員と、これからどこかへ生まれていく魂たちとで。
職員たちは皆一様に、背が低く坊主頭で、白い衣と赤いよだれかけを着け、柔和な笑みを浮かべていた。隣接する通路や部屋での話し声は中に響いて来るが、会話の通じない妖怪にブチ切れる職員も、携帯電話(らしきもの)片手にまくし立てる職員も、柔和な笑みを浮かべながらであった・・・・・はっきり言って、不気味だ。
そのシュールな光景に呆然としながらも、ルシオラはあることに気付いた。
「変ね・・・」
「どうしましたか?」
「私、この通路を通ってあの部屋に入った事は憶えてる。だけど、そのときはこんなにいろんなものが見えなかったし、いろんな音や声も聞こえなかったし、意識もはっきりしなくて、ただ薄紫の光の中を流れてきた・・って感じだったはず。通路に入る前の事なんかは全然憶えてない、どうやってここへ来たのか、とか。」
「ええ。」
「それに、こうやって、あなたと話したりここを移動したりしている私は何なの?霊体ではないでしょ?」
「ええ。違いますね。」
「私は霊基構造の不足から自分の形を保てなくなって四散し、消滅したはず・・・大体、いつ私は希望転生先の申請なんてしたの?いつ、その説明を受けたの?あいつの・・ヨコシマの娘に転生するってアイデアはいつ、どこから出てきたの?私は何も覚えてないわよ!」
「・・・・・あなたは、今回の転生先を、本当は希望していなかったのですか?」
「え?なっ・・そうは言ってないでしょ!!」
職員の思いがけない問い返しに、ルシオラは思わず声を張り上げた。
「霊力や霊体は散っても、その意思を司る霊魂は不滅なんですよ、特にあなたのような魔族や神族はね。基本的に我々は霊魂さえあれば希望先の確認と呼び出しは可能なんですよ。
それにあなたの場合、一ヶ所にあなたの霊力が集中して存在していますからね。それを媒介にしてこちらで実体化することも可能な訳です。もっとも、センター内限定で、今の様な本当に転生直前の短期間のみですがね。」
「一ヶ所に集中・・それはつまり・・」
「我々は霊魂とその霊体片や世界全体のあなたの残留思念の総意から直接確認・説明を行い、それを以って申請手続きとしています。あなたがそれを記憶している事は殆どないでしょう。だが、間違いなかったはずです。あなたもおぼろげながら我々の説明以前に知っていると思いますが、あなたがそのままの霊体で転生出来る場所はたった一つ、その横島さんの子供としてのみです。そして、あなた自身が一番それを望んでいた。」
「ヨコシマ・・・・」
そう。微かに憶えていた。時折、夢うつつの中でヨコシマと語り合った事。
また会える。親子としてだけど、恋人にはなれないけど、何百回でもあの夕焼けを一緒に見ることができる。
「あなたの件については深海・魔界両方からセンターのほうへ含みというか、さまざまな情報提供がありましたし。だから審査や適正調査も驚くほどスムースに片付きまして、後は条件が揃うのを待つだけでしたよ。
あと、ここへ呼び出すときはあなたの意識や実体は部屋へ呼び寄せる途中で再構築されていき、到着と同時に完成しています。だからそれまでの知覚が曖昧なのです。
あなたはずっと眠っていたのですよ。彼の中でね。」
そうだ。私たちは何もなくしていない。私がそう言ったではないか。
死が二人を分かとうと、私は決して1人きりではなかった。
私はいつもヨコシマと共にいた。文字通り、お前の心の中に生きていた。
遠くで想うのではなく庭でただ身を焦がして光を放つ蛍のように。
「でも、夢はいつかは覚めます。」
職員が体ごと振り返って(首だけを曲げられないらしい)声をかけた。
ルシオラは物思いを中断して顔を上げる。
「人の子として産まれ、その生を積み重ねていく中で、あなたはこれまでの様に彼を想う事すら出来なくなるでしょう。
逆に彼を疎み、嫌い、蔑む事さえあるかもしれません。」
「・・・。」
「でも、人として生きるという事はそういうものです。間違ったり、傷つけ合ったりしながらも少しずつ何かを得て、与えて、前に進めるのです。あなたの生前は魔族の中でも特殊なものでしたが、始めからあらゆる物を持って生まれ数百年・数千年の時を生きる魔族や神族とは違う、濃密でダイナミックなものなのです。人間は。」
それでも残る。
もう一度繰り返したが、自分がそれだけ不安なのだという事も分かっていた。
「ヨコシマを愛していた事を忘れてしまう。」
何回説明を受けてもその忠告にリアリティを感じられない。逆に言えば、それだけその恐れを払拭する事も出来ない。
ルシオラは「彼女」の事を思った。
「彼女」―自分と同じくかつてアシュ様に人為的に造られた魔族。ヨコシマの前世と出会い、愛し合い、千年の時を経て人間に転生し、「また会おうな」という"約束”を果たした。確かめるのを忘れたが、「彼女」が私の母になるのだろうか?
・・・私は「彼女」の様に"約束”を果たせるだろうか?
「そして、あなたがその生を全うした時は、またこちらへお呼びしますよ。」
職員は柔和な笑みをルシオラに向けた。心なしか、今は本当に微笑んでいるようにも見えた。
しばらくルシオラは彼に視線を向けていたが、やがて口を開いた。
「人間界で、あなたの像を見た事がある・・・」
「は?・・ああ、確かに人間界には多く見られますよね、私のは。まあ、このセンターは元々仏界の管轄で、メンバーもそこからの出向組が多いんですよ。後で色々話し合って完全独立になった訳なんですが。私らなんかもその頃からの者でして・・あまり、人間界での呼び名で呼ばれるのは苦手なんですがねえ・・へへっ。」
「どこだったかしら・・東京タワーで夕日を見た帰り道・・ヨコシマが『今月の食費がどうしても間に合わなくなった』とか呟きながら考え込んで、急に私を置いて駆け出し入って行った建物の入口に、あなたが立ってたわ。しばらくすると泣きながら出て来て、『ちくしょー!せっかく文殊で偽免許証作ったのに、何で正直に時給255円ですなんて言っちまうんやー!?審査通らなかったじゃねーか、俺のアホー!』って騒いでた・・赤い看板があって確か『アイフ・・」
「誰が『お自Oさん』じゃいっ!!!!!!」
彼は柔和な笑みのままで青筋を浮かべながら怒鳴っていた。
(続く)
―――――――――――――
今日はここまでです。
落とし方が変だったかもしれません・・・。
今までの
コメント:
- ッてかうまい!!
どうも、はじめましてヒロっていうものです〜
ルシオラ復活話?いやいや、もうちょっと複雑になりそうですね〜。
生粋の雪之丞好きな僕としては、彼が出てくれればもういいんですけど。
ではでは、頑張ってくださいませ。期待しております〜。
でわ〜 (ヒロ)
- ふむ。
ルシオラ様の復活を・・・
なんだかスムーズに行く?
さてさて・・・
今回のは1話の構成として「山」が無かったように見受けられ、最後のオチが浮いてしまった気がします。
偉そうに言ってますが、私見ですのであまり気になさらないほうが良いです。(アレ?)
そんな訳で、今回の評価は保留です。
ではでは、次回に期待〜♪ (KAZ23)
- はじめましてフル・サークルさん。ヴァージニアと言います。
船幽霊 コンプレックス ワンダーフォーゲル・・・なんでしょう? この懐かしいキャラたちの出演は。(笑)
いろんなキャラがいろんな理由でここに来ていたのですね。
チョイ役でも嬉しい出演でした。
お話本編のルシオラの転生のお話も、この先とても気になります。 (ヴァージニア)
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