ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末(その4)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

「妙神山に行きましょう」

美神がそう言うと呼び出されたおキヌ、シロ、タマモは怪訝な表情をする。

「みんな判っていると思うけどこのままじゃ全員ダメになっちゃうわ。一度修行場で精神を鍛えてもらった方がいいと思うの」

疲れた表情の美神には強い危機感が感じられた。
おキヌもここ最近の人間関係には考えるものがあったのか美神の意見に賛同した。
シロも手掛かり一つ無い状況に心労が激しく同行を承知する。
タマモに関しては横島失踪の影響は薄いと思われたのだが現在の状況は耐えがたいらしく自ら行きたいと言い出した。

一度決まれば行動は早く、その日のうちに事務所に休業の札を掲げて出発する。
久しぶりに四人揃った行動はしばし間一行を昔の感覚に浸らせてくれた。
やはり各人とも元の関係に戻りたいという気持ちがあったのだろう。
今まで関係を壊してはいけない、と美神は強く決意した。

「あれが妙神山でござるか」

ヒマラヤのシェルパもかくやと思われる程の荷物を背負ったシロが口を開く。
登山道の途中までヘリを使い大幅に時間短縮した一行が目的地へとたどり着いた。
おキヌには本格的な登山の経験はもちろん無いが荷物は全てシロ任せの状態なので付いて行ける。

アシュタロス戦で一度更地になった後に復興された修行場は真新しい建材により木の香りも漂わせていた。
深い山中なので資材はあらかじめ加工された後ヘリで運ばれて組み立てられる。
建築技術の発達により今や以前よりも威容を誇る門と建物はすぐそこだった。

「おう、来たな美神令子とその一行」「小竜姫様がお待ちだ」

本来ならおキヌ、シロ、タマモは鬼門の試練を受けなければいけないのだが割愛。
美神の身の丈を遥かに超える門扉がゆっくり開くとともに修行場の管理者でもある小竜姫が姿を現した。

「美神さんお久しぶりです、横島さんの事は神族でも探しているのですが…」

そこまで言うと小竜姫は言葉を切った。
わかっていた事だが口で伝えられるとさらに落ち込んでしまう。
小竜姫にも横島失踪は堪えているのか、普段凛々しい表情に影が差しているのが見て取れた。

(横島クンの馬鹿!小竜姫様にまで心配掛けて…)

「今日は修行に来たのよ、私も含めて全員の精神的訓練をお願い」

小竜姫様も私達の状態について感付いたのだろう。
踵を返すと入るように促してくれる。

「わかりました、奥へどうぞ。パピリオも喜ぶと思います」

私は何度か世話になっているが、初めてこの場所を訪れたシロとタマモは
物珍しさも手伝ってかキョロキョロと周囲を見渡しながら入ってゆく。

「とにかく、今日はゆっくり休みましょう。鍛えてもらうのは明日からよ」

長時間の運転に山歩きの疲れで今は体を休ませたい。
真っ先に奥にあるはずの温泉に向かった。

温泉に浸かりながら美神は周囲を注意深く観察する。
こういう場面では必ず横島が覗きに来ていたのでわざと大胆な姿を晒してみる。
しかしおキヌちゃん達以外の気配は感じられなかった。
おキヌちゃん達も考えることは同じなのか時々周りを見渡していた。

(やっぱりいないか…)

事務所でも体がふやける程頻繁にシャワーを浴びてみたがやはり横島は現れなかった。
一度トラップに反応があったが掛かっていたのはただの覗き屋で半殺しにして放り出した事がある。

(はぁ…、私いつからこんなに弱い女になったのかしら)

事務所を開設した時からずっと一緒にやってきた男にいつの間にか心を盗まれていた。
彼の事をただの下僕と思い込んでいたが、依存していたのは自分の方だった事に今更ながら苦笑する。
見つけ出したら二度と自分から離れないように縛り付けてやるんだから。

結局のぼせる寸前で上がるとパピリオが獲物を見つけたとばかりに目を輝かせていた。

「シロ、タマモ!パピリオとゲームをするでちゅ!小竜姫との対戦はもう飽きたでちゅよ!」

そういって強引にシロとタマモを引きずってゆく。

「ちょっ、ちょっと待つでござる!拙者はゲームなどやった事無いでござるよ!」
「私は別に構わないわよ、ゲームにはちょっとは興味があるし」
「それなら手取り足取り教えてあげまちゅ!時間はたっぷりあるから安心するでちゅ!」

シロとタマモは妙神山に来るのは初めてだか事務所に遊びに来たパピリオとは何度か顔を合わせている。
正反対の反応を見せるシロとタマモを微笑ましく見送った後、美神とおキヌは外へ涼みに行くことにした。
険しい山地に存在するだけあって外の空気は麓より遥かに冷え冷えとする。
先程まで温まった体温も急激に奪われ、慌てて室内へと退避した。
美神とおキヌは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「久しぶりね、こんなの」
「ええ…、最近私達全然笑ってませんでしたよね」

手近な腰掛けに座ってくつろいでいると外から小竜姫が入ってきた。
おキヌが腰掛けの端に寄ると小竜姫は美神とおキヌの真中に腰を下ろす。

「シロちゃんとタマモちゃんでしたね。二人ともいい子ですね」

とんでもない、と美神が否定するが小竜姫はにっこり笑って話し出した。

「ここにはパピリオの遊び相手が居ませんから、修行の他はゲームばかりやっているんです」
「特に最近はのめり込みが激しくて、一緒に遊んでくれる相手が欲しかったんですよ」

その原因が横島を無くした寂しさとそれを秘密にしている罪悪感から逃れる為だという事を小竜姫は知らない。
ましてや美神とおキヌには察しようもなく、シロタマに新しい友達ができたと喜んだ。
不意に小竜姫の表情が固くなり、肝心の話題を切り出してくる。

「そろそろ横島さんの話をしましょうか」

一度は明るくなりかけた席の空気が途端に重くなる。
だが美神にもおキヌにもその話題は避けて通れないものだ。

「これだけ探して見つからないということは横島さんはこの世界に居ないのかもしれません」

小竜姫の語るその言葉の意味は2人にも解る。
予想できた答えなのかおキヌがここ最近考えていた事を言ってみた。

「私考えたんですが…、ルシオラさんを救う為に過去に行ったという可能性は無いのでしょうか?」

横島が彼女にかけた思いからすればやりかねない事だった。しかし小竜姫は静かに首を振る。

「それは私も思いつきました。しかし神界・魔界の観測機関ともに時空移動は確認できませんでした」
「じゃあ何処に行ったというのよ!」

美神が思わず声を荒げる。

「平行世界や異世界という可能性もあります、それ以外としては…」

小竜姫が口篭もる。
言い出したくないその可能性は2人にとっても考えたくない事だ。

(横島さんはもうこの世にいない)

3人の脳裏に一抹の不安が浮かぶがそんな訳ないと自分自身を奮い立たせる。

「殺しても死なないアイツの事よ!どんな世界だろうが生きているに決まっているわ!」

きっとそうだ、とおキヌは美神の言葉を自分にも言い聞かせた。

「そうですね、今は横島さんを信じましょう」

小竜姫も前向きな発言をするがそれで終わり。
場は再び沈黙した。
結局は成果無し、美神はだんまり、小竜姫は目を閉じて心配そうに祈ってる。
その表情はとても真剣で横島を本気で心配している事が見て取れた。

(小竜姫様、やっぱり…)

おキヌは最初に小竜姫の顔を見た時から気になっている事があった。
神様相手に聞くのもはばかられる質問だが意を決して口を開く。

「あの、ひょっとして小竜姫様も横島さんのことを…」

美神は何言っているのかと驚いていたが小竜姫は平然として肯定した。

「はい。この気持ちはお二人のものと同じものだと思います」

両手を胸に当て、目を伏せて頬を染めるその姿は恋する乙女に他ならなかった。
美神は肩を竦めてやれやれとジェスチャーするとため息を吐く。

「アイツも罪作りな奴ね、こんないい女達を放ったらかしにしてどこかに行っちゃうんだから」

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