ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第14話 後編 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/10/25)



―――――・・。


「暗ぇし、恐いっつーの・・。絶対ここらで引き返した方がいいって!そもそも・・オレってこういうジメジメした所、苦手でさ〜」

「・・・・。」

暗く細い通路の途中。ピチャピチャと垂れる水滴の音と、そこらかしこから聞こえる魔物たちのうなり声。
タマモを盾にし、服にしがみつきながら・・ビクビクと、横島忠夫は震えていた。
煌々と燈った薄い明かりが、牢獄の壁に深い陰影を映し出す。
格子越しに伝わる、妖気と殺気を考慮に入れれば・・彼のこの反応も無理からぬものと言えなくはないが・・・

(普通、しがみつくのは私の方だと思うんだけど・・)

・・もっともな意見だった。

「別に・・嫌なら無理について来なくてもいい・・。スズノが居た部屋を覗いて帰ってくるだけなんだから、私1人でも・・」
「お前、分かってねえなぁ・・。ここでオレが1人だけ引き返してみろ、明らかにビビって逃げてるみたいに思われるだろーがよ。」
「『みたいに思われる』じゃなくて、明らかに逃げてるだけじゃない。」

互いに半眼で、不毛な会話を繰り返す。
服をズルズル引きずられ、歩きにくそうにするタマモとは対照的に、横島は急にいぶかしんだ顔で・・

「・・ん?おお!ガキだ、ガキだと思ってたけど・・もしかしてちょっと発育良くなってきたか?お前。」

「え・・?あ!な・・ちょ・・ちょっと待っ・・あ!っ・・変なところさわらないでよ!」

「変なところ・・?感触から判断するに上腕二頭筋あたりじゃないのか?」

「・・・・。私の胸はそこまで骨ばってないっ!」

刹那、骨がメキメキと粉砕する音とともに、横島の上身が壁の向こうに突き刺さる。
毎度毎度、思うのだが・・・・彼はこのような行動を、きちんと結果を予測した上で実行に移しているのだろうか?
作者もそこのところを是非知っておきたいところだ。

「あ・・あんたは・・・!一体、どういうつもりで平然と私にそういう犯罪まがいのことを・・」
「おいおい・・子の成長を心配する親心が分かってねえな〜。犯罪とは何事だよ。」
「何事はこっちの台詞よ!こ・・恋人でもない相手にどうしてこんなことされなくちゃ・・」

ぼそぼそとタマモがそう言って・・・
・・けなげにも『恋人』の部分を強調するあたりが、そこはかとなく彼女らしいが・・・当然、横島が気付くはずもなく・・
さっきの震えなどそっちのけで、彼はヘラヘラと、事あるごとにタマモをからかっては遊んでいる。
ムキになり、つっかかってくる少女の顔を・・・ひどく楽しげに見つめながら・・・

・・。

「もういい・・。本当に私一人で行くから・・!」

言うが早いか、タマモは奥へ向かって、一直線に足を踏み出し始めた。
金色の髪を揺らしながら、一人でスタスタと歩いていってしまう少女の背中。

「お・・おい!オレを置き去りにしてズンズン進むな・・・って聞いてないな、ありゃ・・」
叫んでいるものの、その声には全く反省の色が浮かんでおらず・・。
頭をかきつつ、ため息をついて・・横島がノロノロと上体を起こす。

・・急ぐ必要は・・実はなかった。

通路のずっと先に見える、分かれ道の角。そこからわずかに飛び出し、自分を待つように静止するポニーテールを見て・・・・
・・横島は、小さく苦笑する。

「なんか・・時々、可愛いよな・・あいつ。」

バレていないと思っているのだろう。
わざと牛歩で進んで、困らせるのもアリかと思ったが・・それはさすがに、いじめすぎかもしれない。

・・。

(・・・・・。)

小走りでタマモのもとに駆け寄りながら、横島は不意に自らの影へと目を移す。その四方にひっそりと横たわる、無形の闇へと・・。
2日後、自分たちの身に何が起きるのか・・。それは、正直、見当もつかない。
ただ、廃屋で出会ったあの少女の笑い声が・・何故か耳元を掠めた気がした・・。


・・・誰も守れない・・。


いや、それよりも・・


―――――・・タマモちゃんも、こうなるかもしれないよ・・?


無邪気な・・しかし、自分をせせら笑うかのような、あの声。

・・。

「・・・・させるかよ・・。」

鋭く瞳を細めた後、横島は闇に対して・・そう、低く呟いた。


 
                         ◇



         
  『 悪魔は悪魔の還るべき場所へ・・・・ 』

                       〜無題〜




                         ◇


西条がその場所を訪れたのは、ただの偶然だった。

霧が立ち込めた街を歩き、煙草に火を灯そうと立ち止まった・・・ほんの一瞬。
ふと気が付いて顔を上げた先に、それはあった。
狭く、そして薄暗い・・・路地裏まで続く小さな入り口。商店の間にはさまれた、コンクリート壁のわずかな隙間。

(・・そういえば・・このあたりだったな・・)

ライターを取り出し、そんなことを考えた矢先・・・西条の顔が自嘲に歪む。

偶然だと?

白々しい・・。自分は、端からここに来るつもりで街を彷徨っていたのではなかったのか?
この・・仲間が命を奪われかけた・・瓦礫の路地へと・・・――――――

―――――――・・。

「昨日の今日だからな・・血痕が残っていて当然か・・」
路傍に転がる木片を足でどけ、誰も居ない廃墟を独り歩く。カラン、コロンと・・空き缶が所在投げな音とともに闇へ消え・・・・

(まったく・・これだけ人気が無ければ・・・少しは怪しんでもいいだろうに・・)

悲しげに唇をかみながら、西条は大きく息を吐き出した。目を向ければ・・すぐ傍には赤い斑点が散らばった電柱が・・・・・

・・。

「本当に・・お前は人が好すぎるよ・・・。こんな時でなければ、僕なんかよりよっぽどGメンに向いてるんだろうな・・」
弱りきった笑みでつぶやくと、西条はそのコンクリートの柱に手を触れる。
謝罪と、そして敬意が入り混じった・・消え入りかけた口調。

髪で覆い隠された黒い瞳が・・一瞬、憎悪にも似た殺気を帯びて・・・・
気付けば、彼の背後には・・薄い陽光に照らされた、長い影が一つ伸びていた。

「・・・・・知人でも・・ここで亡くされたのかな・・?」

影の主が口を開く。皺がれた老人の声。

「かろうじて、生きていますよ・・。物好きなやつでね・・はじめての部下だったんです・・。」
独白のように言いながら、折っていたヒザを引き戻す。立ち上がった西条は・・・しかし、振り向こうとはしなかった。

「そうか・・それは気の毒に・・・」

同情を見せる男の声を・・乾いた風が巻き上げる。舞い吹く土煙と、白い霧・・・ひどく奇妙な風景が、そこには在って・・

「気の毒に・・か。あまり言い慣れないことを口にするのは止めたほうがいい・・。」

壁に映るシルエットは・・堅固な鎧を思わせる、およそ人とはかけ離れたもの。
膨れ上がる妖気の中心に、西条は静かに目を向ける。

「随分としつこく僕を追ってきたな・・。誰に頼まれた・・?」

西条の問いに、しゃがれ声の妖魔は喉を震わす。甲殻類の装甲と、ところどころに角が突き出た、鋭角的なフォルム。
長身の西条が見上げる程の巨躯からは・・吐き気を催す死臭が漂い・・・

「紫目ノ男ト・・取リ引キシタ・・。オ前ノ首一ツデ・・・人間ノ肉ガ、タラフク食エル。」

ガチガチと鳴る歯形を伝い、歪んだ地面に唾液が落ちる。
裂帛の殺気が西条と・・・周囲の物質を打ち叩き・・、狂った咆哮が、ビリビリと辺りに木霊した。

「・・・・・。」

激流のような霊気の渦。その中で唯一人・・・西条の顔からは、完全に表情が抜け落ちていた。
つまらなそうに、妖魔の姿を一瞥すると、そのまま・・

「・・・・ッ!?」

渇き切った瞳で・・・まるで、そこに敵など存在しないかのように・・ただ一歩、足を踏み出す。


一歩。


また一歩。


自分を全く意に介さない人間の姿に、妖魔は目を血走らせ、激昂した。


「虫ケラァッ!!モット気ノ利イタ反応をシロヨ。俺ノ前デ泣キ叫ベヨォ!!ジャナイト、全然面白ク・・・」

「・・・どけ。」

酷薄な声が、怪物の叫びを押し止める。
殺気も、怒気すらも消えた・・無音の時間。西条を刺し潰そうと振り上げられた腕が、何の前触れもなく、宙を跳ね・・・

「・・・・エ?」

それが、妖魔の上げた最期の言葉だった。
剣閃の見えない、音速の斬撃が・・・・息もつかぬ間に、巨大な体躯を両断する。
背後で響いた・・ドサリ、と何かが崩れる音。それに続き、何か・・液体が噴出す音。それを聞いても、やはり西条は振り向かない。

・・刃を振るった掌を見つめ、ただ一言。

「・・少し手元が狂ったか。本調子には程遠いな・・。」

その一言さえ、吹き抜ける砂塵に掠め取られ・・・そして、消えた。


                           ◇


そのころ・・。


「はい、リンゴが剥けたよ。スズノちゃん、あ〜ん♪」

「あ・・あ〜・・ん・・」

・・なんていう、ちょっぴり平和な病院の朝。慣れない状況を恥ずかしがりながら、リンゴを頬張るスズノを見つめ・・
『あぁ・・今日もスズノちゃんはかわいいなぁ・・』と、おキヌはすっかりご満悦だったりする。
少し前に病室を離れた美神たちは、今ごろ、魔鈴の店で食事をとっていることだろうか?
何かと賑やかなメンバーなだけに、揉め事が起きないか心配だった。

「?スズノちゃん?外に・・何かあるの?」

その時、神妙な顔でスズノが覗き込んでいたのは・・・霧で隠され、景色など何も見えないカーテンの向こう。
不思議そうにおキヌが尋ねると、彼女はコクン、と首を縦に振り・・・

「うん・・なんとなく・・・ゾワゾワした感じがする・・。」

「・・ゾワゾワした・・感じ?」

変わらず真剣な表情を続けるスズノ。
風邪でも引いてしまったのだろうか?そう思い・・おキヌがわきのハンガーに、衣服を取ろうと手を伸ばして・・・

「・・・・?」

だが、ウールのセーターに触れたはずのその感触は、およそ通常では考えられないものだった。
ドロリとした、ゲル状の何かが付着したような、ひどく不快な手ざわり。弾かれたように振り向くと、その先に見えたのは・・


・・・・天井の上から滴り落ちる、得体の知れない黒い液体で・・・

「・・!」

スズノが注視していた窓のすき間から、あるいは部屋の隅にある洗面台の蛇口から・・・その液体は、大量に音もなく流れ出し・・
まるで生きてでもいるかのように、室内の中央へと収束していく。
ドクドクと、脈打つように固着した漆黒色の液溜り。
スズノとおキヌの姿を確認し、それは突然、醜悪なクネリを見せ始める。
ベークライトが一瞬で凝固した・・・そのような比喩がまさに当てはまる・・。
わずか・・数秒・・。数秒で、彼女たちの眼前には、人型を象った奇妙なオブジェが形成されていた。

「・・え?・・な・・」

呆然とするおキヌに近づく、面の無い・・のっぺらぼうのマリオネット。異常に細い指先が、カギ爪のように彼女の袖に突き立てられ・・
反応するヒマも与えられぬまま、鋭利な凶器が彼女の肌を・・――――――――


「・・・ギ・・・ッ・」

瞬間、銀の光が視界を横切る。
それがこの人形の悲鳴だったのか・・それとも否だったのかは分からない。しかし、ブレた声を上げ、黒い細工が大きくよじれた。
おキヌの服を掴んでいたその腕は、ガラスのように打ち砕かれ、炎を纏った肘打ちが・・爆発を伴い、異形のオブジェを吹き飛ばす。

「あ・・あれ・・?」

「・・大丈夫か?おキヌ。」

跡形も無く消滅している、人形の姿をキョロキョロと探すと・・すぐ横には、何故かスズノが佇んでいて・・
彼女が自分を助けたのだと・・そう理解することにも難儀するほどの・・一瞬の出来事。
この少女と、あの黒い人型では・・潜在的に秘めた破壊力の桁がまるで違う・・。改めて、スズノの強さを認識させられる思いがした。



「何だったんだろうね・・?今の・・・」

「ん・・・」


震えるようにかすれたおキヌの声に、スズノは無言のままで首をかしげて・・・
わずかにに疼いた、脇腹の傷。それを片手で押さえると、彼女は強く、再びカーテンの外をにらみつけた。

―――――――・・。


「俺の木偶が瞬殺か・・。覚悟はしていたが、これ程とはな・・。」

間下部 紅廊は・・・
上空から病室を見上げ、呆れたように唇を歪めていた。
全身を伝播する、かすかな痛み。これは、細胞の一部から作り出した、自らの分体が破壊されたことを示すものだ・・それも粉々に。

「つくづく、スズノを始末できなかったのは失敗だった。遠めに見るだけで震えがくるぜ・・。」

純粋な脚力だけで、超加速をはるかに凌ぐ異常なスピード。
魔神たちより一段高い位置に置かれる怪力に加え、霊波に依存せずとも数万度の炎を意図的に操る・・。
まるで、あつらえたような・・自分にとっては最悪の相手・・。

「アレでは、ユミールには荷が重過ぎるな・・。と、なれば・・2日後の闘いの構図は、自ずと決まったようなもの・・」

スズノの相手が務まるのは、魔神に匹敵する霊力を持ち、なおかつ野性の血をその身に宿す存在。
西条、ドゥルジを押さえるのは当然、自分。タマモに関しては言うまでもなく・・他は『雑兵』に任せるとして・・・・

「・・・?・・横島忠夫は・・一体、誰とぶつけるつもりだ・・?」

・・・おかしい・・。

ユミールがタマモを手に入れる過程で、最大の障害になるのはあの男の筈だが・・・・・

・・。

「・・まぁ、いい。何にしろ、胸が躍ることには間違いない。全くもって楽しませてくれるぜ、混沌の奴らは・・」

地に降り立つと、《喰らう者》はゆったりと街頭に向かって歩き出した。
朝陽が昇り、一日が始まる。
活気づく街の情景を嘲笑い、彼は影のように・・人ごみの中へと飲まれていった・・。



『あとがき』

す・・すいません!容量の関係で『風呂の話』が入れられませんでした。次回こそは必ず!!(爆
と、いうわけで皆さん、ここまで読んで下さってありがとうございます〜

アドバイザーが今回の話を読んだ瞬間、
「これってほんとに西条かよっ!?」とつっこみを入れるほどのスーパー西条ぶりを発揮した輝彦さんですが(笑
もうあの道楽公務員ぶりがすっかりナリを潜めてますね〜我ながらビビってます。

さてさて、次回はもしかすると、前・後編になるかもしれません。
前編はかなり真面目なインターミッションで、後編は風呂という・・(爆)
タマモもドゥルジさまもサービスショットが入る予定ですのでご期待ください〜

今までの コメント:
[ 前の展開予想へ ] [ 次の展開予想へ ] [ 戻る ]

管理運営:GTY有志
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa