ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(終)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(04/10/27)



「横島さん、こんにちわ〜」
「横島〜、今日もびんびんかぁ〜?」
「横島はん、また来たで〜」

 声変わり前の少女達の挨拶が、美神事務所の瀟洒な建物にこだまする。
 仕事前の応接間に集っている美神達が、今日もあからさまに引き攣った笑顔で、少女達がやって来るのを迎入れる。
 少女達の幼い心身を包むのは、薄い色の制服(ブレザー)。
 薄紅のリボンは乱さない様に、赤いベレー帽は飛ばさない様に、テレポートして来るのが彼女達のたしなみ。 勿論、持てるチカラを揮るわないなどと言った、周りに気を配る様な少女など存在していよう筈もない。





 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──えぴろ〜ぐ──





 横島が血の海に沈んでから……もとい、合流した美神達と共に地上へと戻り、あの一件が完了してから、5日後。
 その日から始まったこの1週間に渡って、美神達は……と言うより横島は、連日3人娘の来訪を受ける様になっていた。

「ほら、来たわよ」

 廊下のロビーでした音に気付いて、どこか疲れた様な声で美神が横島へ視線を向ける。
 最初の日から彼女達は、直接部屋の中へはテレポートしていないのだ。 最低限の礼儀のつもりなのかも知れない。

「こんにちは、横島さん、それと皆さん」
「また遊びに来たで〜」

「よ。 飽きないなぁ、3人とも」

 対象範囲外とは言え、懐かれれば彼にしてもけして嫌な気はしない。 それも、幼いけれど見栄えの良い少女なのだ。
 苦笑混じりだが、どこか嬉しそうに見えるのも不思議ではない。

「また来たのでござるか?」

 対して、嫌そうな顔をしたのはシロだ。
 どう見ても少女達の目的が横島なのだから、彼女にしてみれば面白い筈もない。 しかも、明らかに横島も気を許していて、時として自身より近くに見えたりするのだから。

「大人げないわよ、シロ」
「そうだそうだ〜」

 咎めるタマモに、薫が同調した。
 タマモは、どちらかと言えば、歓迎している方に属する。 紫穂の事は、あの一件以降、完全に身内扱いだし。
 紫穂もまた、横島同様タマモには気を許している。 やはりあの心を繋げた体験は、それぞれにとっても大きな出来事だったと言う事なのだろう。

「何にしても、今日は後2時間もしたら仕事だから、それまでに帰りなさいよ」

「あたしらも手伝おうか?」

 薫の言葉に、僅かに考え込んだものの、美神はすぐに首を横に振った。

「遠慮しとくわ、色々言われちゃってるし」

「入り用やったら言うてや。 ウチらも鬼やなし、金次第ではいつでも相談に乗るで」

「そんな余計な金、使う気なんか無いわよ」

 美神は、ひらひらと手を振って葵に答えた。

 そんな彼女と、今キッチンに居る筈のおキヌとは、どちらかと言うと歓迎しない方の部類になる。 美神に至っては、そもそも子供嫌いなのだ。 ひのめ程度の年齢なら已む無く慣れてしまったが、幼児から小学生に掛けて辺りの子供は、彼女にとって鬼門に近い。

 にも関らず、美神が3人を追い立てようとしないのには、当然の様に理由が有った。

 一つに報酬。
 BABELから、彼女の感覚では僅かになるが、日当が出ているのだ。

 そして、もう一つ。
 その交渉に美神との間を仲介したのが、美智恵だったのである。 結局は、まぁそう言う事な訳だ。
 美神にしてみれば気に食わない成り行きではあるのだが、母親と対決しなきゃならない様な事態は出来るだけ避けたいのもまた事実。

 美智恵を通したその上で、金も入るのだしと無理に納得出来る理由まで与えられていた。
 或る意味、美神令子と言う人間を良く判った交渉がなされていた訳だ。

 ちらりと、横手でおしゃべりをしている横島とタマモ、紫穂の3人へ、美神は視線を向けた。

「…で、その犯人ったら……で……だったんですよ」

「ふぅーん、結構面白そうね」

「けど、あんまり危ないトコには行かない方がいいぞ。 紫穂ちゃんは強い訳じゃないんだから」

「ちょっと難しいですけど、気を付けます」

 くしゃっと頭を撫ぜられて喜ぶ紫穂の姿に、一瞬ムカっとしたモノが湧き上がる。
 が、それを飲み込むと、美神は改めて書類へと向かう。

 そんな彼女の様子を見て、薫と葵は胸の内でニヤリと笑った。

 ・

 ・

 ・

 長野某所より戻った翌々日。

 話を持ちかけられて、水元は戸惑った。

「だからよぉ、ちょっと話を通してくれりゃいいんだよ」

「話が見えないんだが…
 って言うかお前ら、他所様に迷惑掛ける様な事は慎んでくれ、頼むから」

 その言葉に、彼女達は反駁した。

「誰が、誰に迷惑かけてるってぇ?!」

「ぐはぁっ!!
 …や、やめっ…」

 勿論、口だけでなく手も出ている。

「ダメよ、薫ちゃん。 私達がお願いする側なんだから」

「そやで、先に脅したら纏まるもんも纏まらんやん。 まずは話を通して、それからやで。
 でなぁ水元はん、ちょっとだけ口添えしてくれたらええんや。 かわいいウチらん為やし、ウン言うてくれん?」

 そう、にこやかに続ける二人。
 どうでもいいが、当の相手の水元は、今も壁に張り付いている。

「がっ…
 とに…かく、離せっ…」

 壁が軋む音が止まり、けして小さくない彼の体がぺたりと落ちる。

「…はぁ…はぁ…」

「なんかヤラしいぞ、水元」

「お前が言うなっ!」

 ツッコミを入れた瞬間、再び壁に張り付いた彼が、次に話が出来る様になるまで更に数分を要した。

「…つまり、BABELにデートの手引きをさせようと?」

「とりあえず、普通に毎日会える様にして貰えたら、私としては充分なんですけど」

 水元の言葉に、紫穂は肯定の言葉を返す。 両脇で、薫と葵も揃って頷いている。

 思わず彼は、頭を抱えた。

「大体、彼は高校生だろう? お前達くらいを相手にするのは、問題有るだろうに…」

 紫穂が横島の対象範囲に入らない事を、水元は知っていたのだ。
 一件落着の後、紫穂からの報告を受けて彼は、独自に横島の事を調べていた。 そう言った事には、興信所に毛の生えた程度のクラスでしかないBABELの調査部だが、それでもある程度の為人(ひととなり)くらいは掴める。

 その結果から、紫穂に対するなんらかの性的意図は無いと見て、担当官としても個人としても安心して居たのだが…
 まさか少女達の方から、そんなリアクションを要求してくるとは、水元には思いも寄らない事だった。

「なんだよ、娘を嫁に出す親父みたいな焼き餅か?」

「そ、そう言う事は……ま、まぁ、全く無いとは言わないけれど、やはり年の差がだな」

「紫穂の事、解ってて何とも思わん人なんて、これから先どれくらい居てるか…
 そやったら、たかだか8つかそこらの年の差、気ぃする事あらへんやん」

 葵の言葉は真剣だった。
 彼女達の中でおそらく一番そう言う幸せの遠そうな紫穂が、それでもハッピーエンドを迎えられるなら、自分達だってと思う部分も有るからだ。 それは薫にしてもそうなのだが、彼女は目の前の男にターゲットを絞っていた分、興味本位の感が強い。

「いや、だからと言って、キミらはまだ子供なんだし…」
「駄目ですか…?」

 縋る様な見上げる視線に、水元は言葉を濁した。
 その横で、紫穂の手練手管をこれからの参考にと、目を光らせて心にメモってる少女に気付かずに。

 彼が陥落したのは、それからすぐの事だった。

 ・

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 ・

 紫穂達が美神事務所に入り浸っている同刻、ここはBABEL局長室。

 仕事の合間の休憩時間に、コーヒーを淹れながらの朧が、かねてより思っていた疑問を桐壷へとぶつけていた。

「ですが、わざわざ日当を支払ってまで彼女達の好きにさせているのは、いささか行き過ぎな気もしますが」

 朧の問い掛けに、受け取ったコーヒーを一口すすると、桐壷はゆっくりと口を開いた。

「あのコ達のわがままにしては、珍しい事だからネ。
 自分達以外の… それも、BABELの職員ですらない誰かと会える様にしてくれだなんて、そんな事を言い出すのは」

 とかく仲間以外との接触を避けたがる少女達だった。
 それを思えば、これは良い傾向だと言えよう。 たとい相手が霊能者と言う、これまた一般人とは毛色の違う存在だったとしても。

 迫害の憂き目にあっている者達を救おうと、率先してこの組織の立ち上げに奔走した男なのだ。 特にLv7と言う事で、より強い隔絶の感を味わっていただろう彼女達を、娘や孫の様に心配していた桐壷には、どうあれ断れる筈なぞ無かったのだが。

「私はネ、思うのだヨ。
 そうやってあのコ達が、違う世界をも認められる様になればいいと」

「そう… ですわね」

 朧とて、薫達と接する機会は多い。
 桐壷の言わんとする事は、彼女にも良く判った。

 人は、結局の所、人間社会で生きる様に出来ている。
 薫達ほどのチカラが有れば、ソレすらも拒絶する事は可能だ。 だが、それでは人として、あまりに歪に過ぎる。 その無理は、結局いつか彼女達に跳ね返るだろう。

 受け入れられなくても、擦り合わせくらいは出来ないと。 ソレは最低限の事だ。
 それくらいは踏み越えないと、紫穂に言ったという件の少年の『幸せになれる』と言う言葉も、ただの絵空事で終わってしまいかねない。
 彼女達の為にも、意識の改善は絶対に必要だった。

 一瞬の沈黙。
 香り立つ湯気に、再びカップへと桐壷は口を付けると、窓の外へと視線を向けて言葉を続けた。

「まだ、たといトバクチに立っただけなのだとしても、だヨ。
 あの娘達は違う場所へと通じる交差点に、自ら足を踏み入れた。 それだけは、確かな事なのだからネ」

「私達では、そこへ仕向けられませんでしたものね」

 彼女も感慨深げに頷いた。
 少女達との付き合いは、年の単位になるのだ。 なのに、これまで手も出せずにいたのである、その事に心痛めていたにも拘らず。
 だから、些細な我が儘に対する組織を上げてのバックアップにも、積極的な反対には出られずにいたのだ。

「但し、だヨ」

「はい?」

 こころなしか、桐壷の表情が固くなる。
 その様子に、彼女は不審を感じた。

 それに気付かぬ様に息を深く吸い込むと、彼はやおら大声を上げる。

「あのコ達は、まだ10歳。
 この私の目が黒い内は、嫁にはやらん!! 断じて嫁かせはせんぞ〜っ!!!」

 こんな人間がトップで、大丈夫かBABEL?
 桐壷の絶叫に、局長付きと言う自身の職を、投げ出したくなる朧だった。





 【終わり】



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……ぽすとすくりぷつ……

 今回の桐壷のセリフに至っては、その3を書いた頃に準備されていたって辺り、あたしゃとっても業が深い(爆) タイトルに繋がる様に纏めさせようと、彼を出した訳だったりしますし(苦笑)

 とまれ、これでこの話は取り敢えずお終い。
 先の展開の余地はいくらでも……と言うか、続き物くさい構成で終わってます故、さらに続けた妄想を垂れ流すやも知れません。 その時は宜しく(^^; それではまた。

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